以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る誘導加熱装置1は、図1に示すように、ウェハWを載置可能なサセプタ2と、多段状に配置される複数のサセプタ2を支持するボート3と、サセプタ2及びボート3を内部空間4Sに収容可能な耐熱性に優れた真空容器4と、真空容器4の周囲に巻回された誘導加熱コイル5と、誘導加熱コイル5に任意の周波数の交流電力を出力可能な誘導加熱電源6とを備えたものである。
サセプタ2は、誘導加熱処理時の最高温度よりも融点が高い高融点金属材料である黒鉛から形成されたカーボンサセプタである。このサセプタ2が本発明における被加熱物である。本実施形態では、所定厚みに設定された円盤状のサセプタ2を水平姿勢で配置している。本実施形態では、面方向に大きな熱伝導率(例えば、面方向の熱伝導率が200W/m・K以上、面方向の導電率が1000S/cm以上)を有する異方性黒鉛シートによってサセプタ2を形成している。なお、本実施形態では、厚み方向の熱伝導率が50W/m・K以下であり、厚み方向の導電率が50S/cm以下のサセプタ2を適用している。本実施形態のサセプタ2は、このような面方向に大きな熱伝導率を有する異方性黒鉛シートを複数枚重ねて形成されたものである。これにより、サセプタ2の面内をより一層均一に加熱することが可能である。なお、図1及び後述の図2では複数枚の黒鉛シートを積層状に形成したサセプタ2全体を示し、各黒鉛シートについては省略している。
本実施形態で適用する円盤状のサセプタ2は、図2に示すように、その半径を、当該サセプタ2に載置する円盤状のウェハWの半径よりも図2に示す所定寸法L分だけ大きく設定している。本実施形態では、Lの値を、誘導加熱コイル5によりサセプタ2に発生する浸透深さ(以下、「浸透深さδ」とする)よりも大きな値(例えば浸透深さδの1.5倍から2.0倍)に設定している。
ここで、浸透深さについて、表面からxの部分の導体(加熱体)内部を流れる電流と浸透深さの関係は、
Ix=Io exp(−x/δ)
但し、Ix:表面から深さxにおける電流、Io:導体の表面を流れる渦電流、δ:浸透深さ、であらわすことができる。したがって、浸透深さδのところに流れる電流は、1/e=0.37となり、表面を流れる電流の0.37倍に減衰した電流が流れることになる。この関係は、磁場でも同じ関係である。
また、周波数fと浸透深さδの関係は、以下の式1で表すことができる。
本実施形態のサセプタ2は、上述のように、面方向の導電率が1000S/cm以上であり、抵抗率は1000μ.Ω・cmであるため、式1より、周波数が20kHzであれば、浸透深さδは1.12cmとなる。このことは、周波数が20kHzである場合に、サセプタ2の外縁2Eから中心2Sに向かって1.12cmまでの領域に多くの磁束が入り、その部分が誘導加熱されることを意味する。したがって、誘導加熱コイル5から発生する磁束は、サセプタ2のエッジ2Eから中心2Sに向かった所定領域であって且つ浸透深さδに相当する領域(図2における領域2A)に渦電流を発生させてジュール損によりサセプタ2を加熱する。以上より、サセプタ2のうち、加熱電力が入る(通る)のはエッジ2Eを含むエッジ近傍領域2Aであることが把握できる。
本実施形態の誘導加熱装置1は、このようなサセプタ2を、その中心2Sを真空容器4の中心、より具体的には、真空容器4の内部空間4Saの軸中心に一致させた状態で配置している。
また、サセプタ2の半径をウェハWの半径よりも、浸透深さδ(電流の浸透深さδ)の1.5倍から2倍に設定することで、中心WSをサセプタ2の中心2Sに一致させた姿勢でサセプタ2に載置したウェハWに、誘導加熱コイル5からサセプタ2への磁束が極めて通りにくい状況を確保することができ、誘導加熱コイル5から発生する磁界の影響によってウェハWにダメージが与えられる不具合を防止することが可能である。一方で、面方向に大きな熱伝導率を持つ異方性黒鉛材を用いて構成したサセプタ2を適用していることで、ジュール損により加熱したサセプタ2のエッジ近傍領域2Aから当該サセプタ2の面方向中央部分に向けて(図2でサセプタ2の中央2Sに向かう矢印の方向に)熱が伝わり、サセプタ2全体を均熱化することができる。したがって、サセプタ2に載置したウェハW全体を均熱化することができ、ウェハW内の温度分布も均一にすることが可能である。
ボート3は、多段状に配置される複数枚のサセプタ2を所定ピッチで支持するものである。このようなボート3によって、真空容器4の内部空間4Sに、ウェハWを載置したサセプタ2を多段状に積み込むことができる。図1では模式的に10枚のサセプタ2を支持可能なボート3を例示しているが、数十枚以上のサセプタ2を支持可能なボートを適用することも可能である。なお、ボート3や真空容器4は、1800℃の処理温度に耐える耐熱性に優れて絶縁性を有する材質、例えばSiC等で構成することができる。また、処理温度が1200℃以下である場合には、石英を材質とするボートや真空容器4を適用しても構わない。本実施形態では、このようなボート3によって支持される複数のサセプタ2を、真空容器4の内部空間4Sのうち中空の部分球状をなす天井壁44近傍の内部空間(後述の半球状空間4Sb)を除く空間(後述の円筒状空間4Sa)に配置している。
真空容器4は、筒状の形態を有することからチューブとも称されるものであり、給気口41から真空容器内4Sに供給され上方に流れるガスG(キャリアガス、ケイ素原料ガス、炭素原料ガス等)を排気口42から排出可能に構成されている。この真空容器4は、所定の軸方向H(本実施形態では鉛直方向または略鉛直方向)に延伸する内部空間4Sを他の空間と仕切る円筒状の側壁43(本発明の「隔壁」に相当)と、側壁43の上端に連続する半球状の天井壁44とを一体に有し、内部空間4Sを下方にのみ開放させたものである。本実施形態では、給気口41及び排気口42を真空容器4の下端部近傍に形成している。
真空容器4の内部空間4Sは、天井壁44に囲まれた中空半球状の内部空間(半球状空間4Sb)と、側壁43に囲まれた中空円筒状の内部空間(円筒状空間4Sa)とに大別することができる。本実施形態の真空容器4は、さらに円筒状空間4Saを、サセプタ2及びボート3を収容している内周側空間と、真空容器4の周壁に沿って高さ方向に延びる外周側空間とに区分けし、これら内周側空間及び外周側空間を半球状空間4Sbを介して相互に連通させている。
本実施形態では、給気口41を内周側空間に直通する位置に形成し、排気口42を外周側空間に直通する位置に形成している。したがって、給気口41から円筒状空間4Saのうち内周側空間に供給されたガスGは、図1において矢印で示すように、円筒状空間4Saのうちサセプタ2及びウェハWが配置される内周側空間を通過した後に、円筒状空間4Saのうち外周側空間を通じて排気口42から排気される。すなわち、内周側空間は、ガスGが供給されるガス供給対象空間として機能し、外周側空間は、排気口42を通じて真空引きされる排気経路として機能する。また、給気口41には、真空容器内4SへのガスGの供給量を調整して、サセプタ2及びウェハWが配置される空間(円筒状空間4Sa、加熱室)を通過するガス流量を調整可能なガス供給制御弁(図示省略)を接続し、排気口42には真空容器内4Sの圧力を調整可能な圧力調整弁(図示省略)を接続し、これら各弁に接続した図示しない圧力調整装置により、各弁を制御して真空容器内4Sの圧力を所定値に調整するように構成している。真空容器4については、水冷2重構造のものを適用することも可能である。
誘導加熱コイル5は、図1に示すように、真空容器4の側壁43の外側において、側壁43から所定距離離れた位置において真空容器4を取り巻くように巻回したものである。本実施形態では、側壁43の外側における誘導加熱コイル5の配置エリアAを軸方向Hに沿って第1コイル配置エリアA1と第2コイル配置エリアA2に区分けし、誘導加熱コイル5を、第1コイル配置エリアA1に配置した第1誘導加熱コイル51と、第2コイル配置エリアA2に配置した第2誘導加熱コイル52とに分割した構成を採用している。具体的には、円筒状空間4Saの長手方向上端部及び下端部を包囲する位置に設定した第1コイル配置エリアA1に第1誘導加熱コイル51を配置し、円筒状空間4Saの長手方向中央部を包囲する位置に設定した第2コイル配置エリアA2に第2誘導加熱コイル52を配置している。図1では、第1コイル配置エリアA1及び第2コイル配置エリアA2を、相互に異なるパターンを付して示すとともに、第1誘導加熱コイル51のうち巻回状態ではない部分、及び第2誘導加熱コイル52のうち巻回状態ではない部分をそれぞれ直線(相対的に太い線が第1誘導加熱コイル51を示す線であり、相対的に細い線が第2誘導加熱コイル52を示す線である)で模式的に示している。図1から把握できるように、第1コイル配置エリアA1及び第2コイル配置エリアA2は、共通の交流電源6から交流電力が供給される。
なお、図1では、真空容器4の軸方向Hに延伸する誘導加熱コイル5の配置エリアAを、真空容器4の長手方向に複数(図示例は8つ)の配置エリア単位Aaに区分けしたものと捉えた場合に、円筒状空間4Saの長手方向中央部及びその近傍に該当する複数の配置エリア単位Aa(図示例では4つの配置エリア単位Aa)を第2コイル配置エリアA2に設定し、円筒状空間4Saの長手方向上端側に該当する複数の配置エリア単位Aa(図示例では2つの配置エリア単位Aa)と、円筒状空間4Saの長手方向下端側に該当する複数の配置エリア単位Aa(図示例では2つの配置エリア単位Aa)を第1コイル配置エリアA1に設定したケースを模式的に示している。
また、第1誘導加熱コイル51及び第2誘導加熱コイル52は、それぞれ所定回数巻回して所定の筒状に形成した複数のコイル単位の集合体として捉えることができる。この場合、1つの配置エリア単位Aaに1つのコイル単位を配置するレイアウトを採用すれば、各コイル単位の配置箇所を容易に特定することができる。
また、本実施形態に係る誘導加熱装置1では、各誘導加熱コイル51,52同士の磁気的な結合が弱くなるような適宜の処理を要する。
ソレノイド状に巻回された第1誘導加熱コイル51及び第2誘導加熱コイル52には、任意の周波数(駆動周波数)の交流電力を出力可能な共通の誘導加熱電源6(高周波電源)が接続され、誘導加熱電源6から第1誘導加熱コイル51,第2誘導加熱コイル52に対して交流電力を供給することで、第1誘導加熱コイル51,第2誘導加熱コイル52の周囲に交番磁場を発生させ、この交番磁場を浸透対象物であるサセプタ2に浸透させて誘導加熱する。なお、本実施形態の誘導加熱装置1では、誘導加熱コイル5で加熱されたサセプタ2から放出される熱が真空容器4の外部へ漏れないように遮断する機能を発揮し得る断熱材(図示省略)を適宜の箇所に配置することもできる。断熱材としては、導電性及び耐熱性を有し且つ発熱体であるサセプタ2よりも十分に大きい体積固有抵抗率を有する素材から形成されたものを挙げることができる。なお、断熱材とサセプタ2は適宜の手段によって電気的に絶縁状態に設定すればよい。
誘導加熱電源6は、第1誘導加熱コイル51及び第2誘導加熱コイル52に供給する交流電力の周波数(駆動周波数)を適宜変更することが可能である。本実施形態に係る誘導加熱装置1は、図3に示すように、電流型インバータ61と、後述する並列共振直列接続回路62とを用いて誘導加熱電源6を構成している。
電流型インバータ61は、交流電源から出力される三相交流電力を直流電力に変換する順変換回路63と、順変換回路63からの出力電圧を交流電力に変換する逆変換回路64とを用いて構成したものである。
本実施形態では、順変換回路63を、複数の整流素子631(例えばサイリスタ等)と、コイル632(インダクタンス)とを用いて構成し、整流素子631で交流電力から変換した直流電力をコイル632(インダクタンス)でフィルタリングすることによって一定の直流にするように設定している。なお、順変換回路63のコイル632は、単なるコイルで構成されるものであってもよいし、電気回路のインダクタンス素子となる静止巻線機器、すなわちリアクトルと称されるものであってもよい。
逆変換回路64は、スイッチング素子であるトランジスタ641を複数用いて構成し、これらトランジスタ641により順変換回路63から出力される直流電力を交流電力に変換するものであり、インバータ回路とも称されるものである。本実施形態の逆変換回路64には、複数のトランジスタ641(スイッチング素子)を直列に接続した直列接続回路部を複数並列に接続した回路を採用している。なお、スイッチング素子として用いるトランジスタは、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ(FET)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の自己消弧型、または、自己消弧型でないサイリスタ等の何れのスイッチング素子であってもよい。
逆変換回路64の出力側に、並列共振直列接続回路62を接続している。並列共振直列接続回路62は、図3に示すように、第1共振コンデンサC1及び第1誘導加熱コイル51を並列に接続した第1並列共振回路65と、第2共振コンデンサC2及び第2誘導加熱コイル52を並列に接続した第2並列共振回路66を相互に直列接続した回路である。
本実施形態では、このように、負荷である第1誘導加熱コイル51(図3に示すインダクタンスL1,抵抗R1が第1誘導加熱コイル51に相当する)と、第1誘導加熱コイル51に並列接続した第1共振コンデンサC1とによって第1並列共振回路65を構成するとともに、負荷である第2誘導加熱コイル52(同図に示すインダクタンスL2,抵抗R2が第2誘導加熱コイル52に相当する)と、第2誘導加熱コイル52に並列接続した第2共振コンデンサC2とによって第2並列共振回路66を構成している。各共振コンデンサ(第1共振コンデンサC1,第2共振コンデンサC2)は、インピーダンスを整合させる整合部としての機能を担うものである。
本実施形態の誘導加熱電源6は、図3に示すように、各並列共振回路(第1並列共振回路65,第2並列共振回路66)を互いに直列接続した並列共振直列接続回路62に、逆変換回路64の出力側を接続し、逆変換回路64で直流電力から生成した交流電力を並列共振直列接続回路62に供給している。すなわち、本実施形態の誘導加熱電源6における各並列共振回路(第1並列共振回路65,第2並列共振回路66)は、合成した上で、電流型インバータ61の負荷となり、電流型並列共振回路を構成する。
そして、本実施形態の誘導加熱装置1では、相互に直列接続した第1並列共振回路65及び第2並列共振回路66の共振周波数を相互に異ならせた値(例えば1kHz程度の差)に設定し、各並列共振回路(第1並列共振回路65,第2並列共振回路66)のインピーダンスがある程度重なるように電流型並列共振方式の誘導加熱電源6で調整することにより、駆動周波数(動作周波数)を変数として、第1誘導加熱コイル51と第2誘導加熱コイル52の電流比(図3に示す「I1」と「I2」の相対比)を制御可能に構成している。ここで、図4に、周波数の変化による各誘導加熱コイル51,52の電流比の変化を模式的に示す。同図より、駆動周波数を変更することによって、誘導加熱コイル51,52同士の電流比が変化することが理解できる。本実施形態では、例えば、力率を所定の範囲内で変化させて、第1誘導加熱コイル51の電流が、第2誘導加熱コイル52の電流よりも大きくなる条件を満たすように、第1誘導加熱コイル51及び第2誘導加熱コイル52の電流比を制御するように構成している。
本実施形態では、電磁気的に互いに結合しない2つの誘導加熱コイル5(第1誘導加熱コイル51,第2誘導加熱コイル52)に対して、例えば20kHz程度の共振周波数で動作させるため、容量が1μF程度の第1共振コンデンサC1と、容量が4μF程度である第2共振コンデンサC2をそれぞれ第1誘導加熱コイル51,第2誘導加熱コイル52に並列に接続して、定電流型インバータ61で動作させる。
次に、このような構成をなす誘導加熱電源6により誘導加熱コイル5(第1誘導加熱コイル51,第2誘導加熱コイル52)に交流電力を供給する手順及び作用について説明する。
本実施形態に係る誘導加熱電源6は、交流電源から順変換回路63に交流電力が出力されると、順変換回路63において、複数の整流素子631で交流電力を直流電力に変換し、続いてコイル632(インダクタンス)でフィルタリングすることによって一定の直流とする。次いで、本実施形態の誘導加熱電源6は、順変換回路63から平滑された直流電力を逆変換回路64に出力し、逆変換回路64においてトランジスタ641(スイッチング素子641)をオン・オフ制御することにより直流電力を交流電力に変換する。具体的に、このような直流/交流変換は、整合部を構成する共振コンデンサ(第1共振コンデンサC1,第2共振コンデンサC2)の電圧がゼロとなる直前に、その時点で導通中以外のスイッチング素子641をON(点弧)することにより、全導通状態となり、共振コンデンサ(第1共振コンデンサC1,第2共振コンデンサC2)の電圧を短絡する経路が生じて、点弧時刻以前に導通していたスイッチング素子641は、電流がゼロに向かい、点弧したスイッチング素子641は、一定電流値まで増大して、電流経路が変化することになる。この電流反転作用(転流)は、共振コンデンサ(第1共振コンデンサC1,第2共振コンデンサC2)の電圧、つまりインバータ出力電圧を検出することによって、各並列共振回路(第1並列共振回路65,第2並列共振回路66)の共振周波数で動作することになる。この特性により、自己消弧型でないサイリスタでもインバータ動作が可能になり、大電流電源として用いることができる。
このようにして、本実施形態の誘導加熱電源6は、電流型インバータ61において、逆変換回路64のトランジスタ641(スイッチング素子641)をオン・オフ制御することにより直流電流を矩形状(矩形波)の交流電流に変換する。なお、電流型インバータ61の出力電圧は、正弦波状の波形であり、電流型インバータ61の出力電流と同位相程度で動作している。
引き続いて、本実施形態の誘導加熱電源6では、逆変換回路64で生成した交流電流(図3に示す「I」)が、第1並列共振回路65及び第2並列共振回路66を相互に直列接続した並列共振直列接続回路62に入力され、共振することにより、各並列共振回路(第1並列共振回路65,第2並列共振回路66)内ではほぼ正弦波状の交流電流となる。
以上の手順を経て、誘導加熱電源6から各誘導加熱コイル51,52に交流電力を供給すると、真空容器4内に配置されているサセプタ2を各誘導加熱コイル51,52によって誘導加熱することができる。
また、図示しないが、本実施形態の誘導加熱装置1は、真空容器4の内部温度を計測する1又は複数の温度計で計測した温度等に基づいて、第1誘導加熱コイル51及び第2誘導加熱コイル52の出力及び電流比を制御するように構成することもできる。
以上の構成を有する本実施形態の誘導加熱装置1は、真空容器4の内部空間4Sを反応室として機能させ、反応室全体を加熱するホットウォール型のCVD(Chemical Vapor Deposition・化学気相成長)、エピタキシャル装置、アニール等の熱処理装置である。
本実施形態に係る誘導加熱装置1は、ウェハWを載置したサセプタ2をボート3によって多段状に支持している状態で、誘導加熱電源6から各誘導加熱コイル51,52に交流電力を供給することによって、誘導加熱コイル5の周囲に交番磁場が生成され、この交番磁場は、黒鉛からなるサセプタ2に浸透し、サセプタ2を誘導加熱する。なお、真空容器内4Sであって且つサセプタ2よりも真空容器4の周壁側に近い位置に断熱材を配置した構成であれば、誘導加熱コイル5(第1誘導加熱コイル51,第2誘導加熱コイル52)の周囲に生成される交番磁場は、断熱材を通ってサセプタ2に浸透することになる。
このような本実施形態に係る誘導加熱装置1は、誘導加熱以外の加熱方式を採用した構成と比較して、誘導加熱方式のメリットである所定の処理温度まで昇温させる処理の短時間化及び高温化を図ることが可能であり、処理工程時間全体の短縮化にも貢献する。特に、複数のサセプタ2を多段状に真空容器内4Sに配置している構成を採用した本実施形態に係る誘導加熱装置1によれば、複数のウェハWに対する加工処理を同時に実施するバッチ処理が可能になり、処理効率をより一層向上させることができる。
また、例えば1つの誘導加熱コイル5を真空容器4の外側全域に巻回して配置した構成(例えば図7参照)であれば、誘導加熱コイル5に交流電力を供給した加熱状態において、誘導加熱コイル5の電力分布が、円筒状空間4Saの長手方向上端部及び下端部よりも円筒状空間4Saの長手方向中心部の方が高くなる傾向に着目し、上述の通り、本実施形態に係る誘導加熱装置1では、第1誘導加熱コイル51の配置エリアを、真空容器4の外側において円筒状空間4Saの長手方向上端部及び下端部を包囲する第1コイル配置エリアA1に設定し、第2誘導加熱コイル52の配置エリアを、真空容器4の外側において円筒状空間4Saの長手方向中央部を包囲する第2コイル配置エリアA2に設定している。
そして、本実施形態に係る誘導加熱装置1では、第1誘導加熱コイル51に流れるコイル電流が、第2誘導加熱コイル52に流れるコイル電流よりも大きくなるように、誘導加熱電源6から出力する交流電力の駆動周波数を変数として各誘導加熱コイル51,52の電流比を制御することにより、誘導加熱コイル5全体の電力分布を均一または略均一にすることが可能である。このように、複数の誘導加熱コイル51,52の電流比を高周波電源である1つの誘導加熱電源6によって制御することによって、真空容器4の長手方向に並ぶ複数の誘導加熱コイル51,52毎(さらにいえば上述のコイル単位毎)に電力分布がばらつく事態を防止・抑制することができ、内部空間4Sにおいて多段状に配置された各サセプタ2を均一に誘導加熱することができる。その結果、本実施形態に係る誘導加熱装置1は、各サセプタ2に載置したウェハWをそれぞれ所定の目標温度(エピタキシャル成長温度、例えば1800℃)まで均一に加熱することができる。なお、所定の処理に到達した時点で、その温度を保持するように各誘導加熱コイル51,52の出力(駆動周波数によって調整可能な各誘導加熱コイル51,52の電流比に応じた各誘導加熱コイル51,52の出力)を制御し、高温の平衡状態を維持する。また、圧力調整装置により、真空容器内4Sの圧力値が所定の値となるように、ガス供給制御弁及び圧力調整弁を制御する。
本実施形態に係る誘導加熱装置1は、以上の処理を経て、高温(1800℃程度)の平衡状態を維持し、各サセプタ2に載置しているウェハWの表面に均一な膜厚の薄膜、本実施形態では単結晶SiC薄膜(SiCエピ膜とも称されるものであり、以下では、「SiC薄膜」と称す)を形成することができる。そして、給気口41から真空容器内4S(ガス供給対象空間、内周側空間)に供給する原料ガスGの供給量に比例してSiC薄膜の成長速度は増加することから、ガスGを効率良く加熱して十分なガスGの分解と供給を行うことでSiC薄膜の高速成長を得ることができる。つまり、本実施形態に係る誘導加熱装置1は、ウェハW上にSiC薄膜を形成するエピタキシャル成長を実現するCVDエピタキシャル装置として機能し、ウェハW上にエピタキシャル成長によってSiC薄膜を堆積させたエピタキシャルウェハWを生産することができる。
以上に述べたように、本実施形態に係る誘導加熱装置1は、2つの誘導加熱コイル51,52を、真空容器4の外側において真空容器4の軸方向H(長手方向)に沿って区分けした第1コイル配置エリアA1,第2コイル配置エリアA2に個別に配置するとともに、誘導加熱電源6として、各コイル配置エリアA1,A2に配置した誘導加熱コイル51,52毎にそれぞれ共振コンデンサC1,C2を並列に接続した2つの並列共振回路(第1並列共振回路65,第2並列共振回路66)を相互に直列接続した並列共振直列接続回路62に対して、共通の電流型インバータ61から電力を供給する高周波電源を適用するとともに、各並列共振回路65,66の共振周波数を互いに異なる値に設定し、駆動周波数を変化させることによって並列共振直列接続回路62における各誘導加熱コイル51,52の電流比を変更可能に構成しているため、電流型並列共振方式を採用した1つの電源6だけで複数の誘導加熱コイル51,52を誘導加熱することが可能であり、さらに、真空容器4の軸方向Hに沿って配置されて電力分布の均一化を図った誘導加熱コイル5全体によって、被加熱物が配置される空間4Sの温度分布の平準化も図ることができ、真空容器4の内部空間4Sに軸方向Hに沿って配置されている被加熱物である複数のサセプタ2を均一加熱することができる。
このような構成を適用した本実施形態に係る誘導加熱装置1は、複数の誘導加熱コイル毎に専用の電源を設け、各電源を個別に制御してコイル電力分布の均一化及び真空容器内の温度分布の平準化を図る構成と比較して、電源単位の煩雑な制御が要求されず、高コスト化を回避できるメリットがある。
また、電流型並列共振方式の誘導加熱電源6を1つだけ用いて複数の誘導加熱コイル51,52の電力制御を行う本実施形態に係る誘導加熱装置1は、並列に配置された複数の電圧型直列共振回路を同一の電圧型インバータに接続した構成と比較して、インバータ回路を構成するスイッチング素子641が自己消弧型の素子に制限されず、自己消弧型でない素子を用いることが可能であり、スイッチング損失も低減することができ、複雑な回路構成の設計を強いられることなく1000kWを越える大容量にも対応することができるメリットがある。
このようなメリットを有する本実施形態の誘導加熱装置1は、一回の誘導加熱処理によって、複数のサセプタ2にそれぞれ載置しているウェハW上に厚み及び不純物濃度を精密に制御したSiC薄膜を堆積させた高品質なエピタキシャルウェハを安定して供給することができ、SiC半導体デバイスの実用化に多いに貢献する。
また、本実施形態に係る誘導加熱装置1では、面方向に異方性を有するカーボン(黒鉛材)で形成したサセプタ2を適用しているため、高周波を用いた誘導加熱処理によってサセプタ2の外周部(エッジ近傍領域2A)を加熱すると、面方向に熱伝導率及び電気伝導率が高いサセプタ2の特性に基づいて、中心部分を含むサセプタ2全体を均一に加熱することができ、サセプタ2に載置したウェハW内の温度分布の均一化も図ることが可能である。
特に、本実施形態の誘導加熱装置1は、サセプタ2の直径をウェハWの直径よりも所定寸法大きく設定し(具体的にはサセプタ2の直径をウェハWの直径よりも浸透深さδの1.5倍乃至2.0倍の寸法に設定し)、サセプタ2のうち、交流磁場が多く浸透する領域であるエッジ近傍領域2AにウェハWを載置する構成ではなく、交流磁場による渦電流によってサセプタ2上のウェハWが影響を受けない領域又は受け難い領域、また交流磁場による渦電流が極小となる領域にウェハWを載置する構成を採用しているため、ウェハWに多くの磁束を通す事態を回避して、渦電流によるウェハWへの影響が出ない、または出にくい状況下でサセプタ2全体を均一に加熱することができる。その結果、ウェハWの破壊や不良品化を回避することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、円筒状空間4Saの長手方向上端部及び下端部を包囲する位置に設定した第1コイル配置エリアA1に第1誘導加熱コイル51を配置し、円筒状空間4Saの長手方向中央部を包囲する位置に設定した第2コイル配置エリアA2に第2誘導加熱コイル52を配置した構成を例示したが、各誘導加熱コイルの配置エリアはこれに限定されず、諸条件を考慮して、各誘導加熱コイルの配置エリアを設定することができる。
一例として、真空容器内4Sにおける抜熱に着目すると、給気口41及び排気口42に近い部分、つまり、給気口41及び排気口42が形成される真空容器4の下端部及びその近傍では、真空容器内4Sに供給して排出されるガスGによる冷却作用のために、相対的に温度が低くなる傾向がある。そこで、図5に示すように、円筒状空間4Saを包囲し得るコイル配置エリアAを軸方向Hに2つのエリアA1,A2に区分けして、相対的に下側のエリアを第1コイル配置エリアA1に設定し、この第1コイル配置エリアA1に第1誘導加熱コイル51を配置するとともに、相対的に上側のエリアを第2コイル配置エリアA2に設定し、この第2コイル配置エリアA2に第2誘導加熱コイル52を配置し、第1誘導加熱コイル51に流れるコイル電流が、第2誘導加熱コイル52に流れるコイル電流よりも大きくなるように、誘導加熱電源6から出力する交流電力の駆動周波数を変数として各誘導加熱コイル51,52の電流比を制御する態様を適用することも可能である。なお、図5における各符号やパターンは、図1に示す各符号等に準じたものである。
また、図1や図5等に示す実施形態において、誘導加熱コイルの電力が相対的に低いエリアや、内部空間の温度が相対的に低いエリアに対応する配置エリアに配置した誘導加熱コイルに流れる電流を、誘導加熱コイルの電力が相対的に高いエリアや、内部空間の温度が相対的に高いエリアに対応する配置エリアに配置した誘導加熱コイルに流れる電流よりも小さくなるように駆動周波数を変化させることによって、誘導加熱コイル全体の電力分布や被加熱物(サセプタ2)が配置される空間の温度分布に敢えてバラツキ(高低差)が生じるようにすることも可能である。さらにはまた、誘導加熱コイルの電力が相対的に低いエリアや、内部空間の温度が相対的に低いエリアに対応する配置エリアに配置した誘導加熱コイルに流れる電流を、誘導加熱コイルの電力が相対的に高いエリアや、内部空間の温度が相対的に高いエリアに対応する配置エリアに配置した誘導加熱コイルに流れる電流よりも大きくなるように駆動周波数を変化させる時間帯と、誘導加熱コイルの電力が相対的に低いエリアや、内部空間の温度が相対的に低いエリアに対応する配置エリアに配置した誘導加熱コイルに流れる電流を、誘導加熱コイルの電力が相対的に高いエリアや、内部空間の温度が相対的に高いエリアに対応する配置エリアに配置した誘導加熱コイルに流れる電流よりも小さくなるように駆動周波数を変化させる時間帯とを意図的に区別してコントロールすることによって、誘導加熱コイル全体の電力分布の均一化や被加熱物が配置される空間の温度分布の平準化を図る時間帯と、誘導加熱コイル全体の電力分布や被加熱物が配置される空間の温度分布に敢えてバラツキ(高低差)を生じさせる時間帯とを確保するように構成することも可能である。
また、誘導加熱コイルの配置エリアを軸方向に沿って区分けした複数のコイル配置エリアにそれぞれ個別に配置する各誘導加熱コイルは、巻回状態に粗密の差がないものであってもよいし、巻回状態に粗密の差があるものであってもよい。例えば、図1及び図5に示すように、各誘導加熱コイル51,52が配置されるコイル配置エリアA1,A2を、さらに軸方向Hに複数の配置エリア単位Aaに区分けしたものと捉えた場合、配置エリア単位Aa毎に各誘導加熱コイル51,52の巻回状態に粗密の差を設定することが可能である。
上述の実施形態では、化学的気相成長(CVD)によってウェハ上にエピタキシャル成長膜を作成する装置として機能する誘導加熱装置を例示したが、本発明の誘導加熱装置は、化学的気相成長(CVD)によってウェハ上に、エピタキシャル成長膜以外の有用な膜を作成する装置として機能させることもできる。
また、誘導加熱装置は、加熱対象物であるウェハに対して化学反応を利用して適宜の処置を施すものであってもよいし、加熱対象物に対して焼結又は溶解を利用して適宜の処理を施すものであってもよい。
また、サセプタは、面方向に異方性を有するものが好ましいが、面方向に異方性のないものであっても構わない。なお、面方向に異方性を有するサセプタを適用する場合、面方向の熱伝導率や面方向の電気伝導率の値は特に制限されない。さらにまた、本発明では、サセプタにウェハの中心位置を合わせて載置した状態において、ウェハのエッジからサセプタのエッジまでの距離を、ウェハへの影響が出ない範囲であれば、コイルによりサセプタに発生する磁束の浸透深さの2.0倍よりも大きな値に設定したり、あるいは、コイルによりサセプタに発生する磁束の浸透深さの1.5倍よりも小さな値に設定することも可能である。
上述の実施形態では、真空容器内に複数のサセプタを多段状に配置し、複数枚のウェハを同時に加熱処理可能な誘導加熱装置を例示したが、真空容器内に1つのサセプタを配置し、このサセプタに載置した1枚のウェハに対して加熱処理可能な誘導加熱装置であっても構わない。
サセプタが、シート状の黒鉛材を重ねて形成されたものではなく、単一のブロック状またはシート状の黒鉛材を用いて形成されたものであっても構わない。
さらにはまた、サセプタが、面方向に異方性を有する黒鉛材の表面をSiCコーティングしたものであってもよい。この場合、黒鉛材とウェハとが直接接触する事態を回避し、ウェハへの汚染、無用なパーティクルの発生を抑制することができるとともに、プロセスガスとの意図しない反応を低減することが期待できる。
また、本発明に係る誘導加熱装置は、誘導加熱コイルを備えたビレットヒータ(鍛造前誘導加熱装置)であってもよい。一例として、図6に、誘導加熱コイルX5(第1誘導加熱コイルX51,第2誘導加熱コイルX52)に任意の周波数の交流電力を出力可能な1つの誘導加熱電源X6と、被加熱物であるビレット材X2が軸方向Hに沿って直線移動可能に配置される内部空間X4Sを他の空間と仕切る筒状の隔壁(ケーシングX4の周壁X43)と、周壁X43の外側に巻回状態で配置される誘導加熱コイルX5(第1誘導加熱コイルX51,第2誘導加熱コイルX52)に高周波電流を印加することでビレット材X2を誘導加熱により加熱可能なビレットヒータX1を示す。なお、ケーシングX4の周壁X43は、絶縁性を有する例えばコイルセメントによって構成したものである。誘導加熱電源X6は、上述の実施形態における電源6と同様に、電流型インバータと、2つの並列共振回路を相互に直列接続し、且つ電流型インバータから電力が供給される並列共振直列接続回路とを備えたものである(図示省略)。
そして、本発明に係るビレットヒータX1は、各並列共振回路の共振周波数を異なる値に設定し、電源6の駆動周波数を変化させることによって各誘導加熱コイルX51,X52の電流比を変更可能に構成している。
このビレットヒータX1について詳述すると、筒状をなすケーシングX4の周壁X43によって仕切られる内部空間X4Sは、軸方向Hに延伸し、軸方向Hの両端が開放されている。そして、ケーシングX4の周壁X43の外側における誘導加熱コイルX5の配置エリアXAを軸方向Hに沿って2つのエリアXA1,XA2に区分けし、2つの誘導加熱コイルX51,X52を相互に異なる配置エリアXA1,XA2に個別に配置する。図示例では、区分けした2つのコイル配置エリアXA1,XA2のうち、ダミーXDに回転可能に保持されたビレットX2の進行方向P下流側のエリアを第1コイル配置エリアXA1に設定し、この第1コイル配置エリアXA1に第1誘導加熱コイルX51を配置するとともに、ビレットX2の進行方向P上流側のエリアを第2コイル配置エリアXA2に設定し、この第2コイル配置エリアXA2に第2誘導加熱コイルX52を配置している。そして、誘導加熱電源X6から出力する交流電力の駆動周波数を変数として各誘導加熱コイルX51,X52の電流比を制御することによって、誘導加熱コイルX5全体のコイル電力分布や、及びビレットX2の配置空間X4Sの温度分布が所望の分布となるように調整することができる。なお、図6では、第1コイル配置エリアXA1及び第2コイル配置エリアXA2を、相互に異なるパターンを付して示すとともに、第1誘導加熱コイルX51のうち巻回状態ではない部分、及び第2誘導加熱コイルX52のうち巻回状態ではない部分をそれぞれ直線(相対的に太い線が第1誘導加熱コイルX51を示す線であり、相対的に細い線が第2誘導加熱コイルX52を示す線である)で模式的に示している。
特に、図6に示す実施形態において、ビレットX2の進行方向P下流側に図示しないダイスを配置し、ダイスにビレットX2のうち進行方向P下流側の端部(ビレットX2の先端部)を接触させることで、接触部分を細い径の線材に加工可能に構成したビレットヒータX1であれば、ビレットX2の先端部(ダイスに接触する部分)は抜熱が多い。つまり、加熱されているビレットX2の先端部が、加熱されていないダイスに接触して熱を奪われることにより、ビレットX2の先端部が冷却されて加工温度以下になってしまう事象が生じる。
そこで、本実施形態に係るビレットヒータX1では、ビレットX2の先端部が冷却されて加工温度以下になってしまう事態を避けるために、先端部付近を他の部分よりも高い温度にすべく、ダミーXDに回転可能に保持されたビレットX2の進行方向P下流側のエリアである第1コイル配置エリアXA1に配置した第1誘導加熱コイルX51に流れるコイル電流が、ビレットX2の進行方向P上流側のエリアである第2コイル配置エリアXA2に配置した第2誘導加熱コイルX52に流れる電流よりも大きくなるように駆動周波数を変化させることによって、誘導加熱コイル全体の電力分布や被加熱物が配置される空間X4Sの温度分布に敢えてバラツキ(高低差)が生じるように設定することが可能である。
なお、ダイスの有無にかかわらず、図6に示すようなビレットヒータX1において、誘導加熱コイルの電力が相対的に低いエリアや、内部空間X4Sの温度が相対的に低いエリアに対応する配置エリアに配置した誘導加熱コイルに流れる電流を、誘導加熱コイルの電力が相対的に高いエリアや、内部空間X4Sの温度が相対的に高いエリアに対応する配置エリアに配置した誘導加熱コイルに流れる電流よりも大きくなるように駆動周波数を変化させて誘導加熱コイル全体の電力分布の均一化や内部空間X4Sの温度分布の平準化を図るように設定することも可能である。さらにはまた、各配置エリアに配置した誘導加熱コイルの駆動周波数を変化させて、誘導加熱コイル全体の電力分布の均一化や内部空間X4Sの温度分布の平準化を図る時間帯と、誘導加熱コイル全体の電力分布や内部空間X4Sの温度分布に高低差を生じさせる時間帯とを意図的に区別してコントロールするように設定することも可能である。
本発明に係る誘導加熱装置をビレットヒータとして実現する場合、ケーシング内におけるビレットの直線移動は、一方向のみの直線移動であってもよいし、往復移動であってもよい。ビレットの進行方向と、ケーシングの軸方向(長手方向)は一致または略一致する。ケーシングの内部空間内においてビレットを往復移動させる構成であれば、「行き」の進行方向上流側と下流側とでコイル配置エリアを進行方向に沿って区分けすればよい。
また、ビレットヒータにおいても、軸方向に区分けする各誘導加熱コイルの配置エリアは図6に示すエリアに限定されず、諸条件を考慮して、各誘導加熱コイルの配置エリアを設定することができる。
本発明に係る誘導加熱装置では、3つ以上の誘導加熱コイルをそれぞれ異なるコイル配置エリアに個別に配置する構成を採用することもできる。この場合、誘導加熱電源の並列共振直列接続回路は、3つ以上の誘導加熱コイルに共振コンデンサを個別に並列に接続した3つ以上の並列共振回路を相互に直列接続したものになり、各並列共振回路の共振周波数を異なる値に設定し、駆動周波数を変化させることによって3つ以上の各誘導加熱コイルの電流比を変更可能に構成すればよい。
さらにまた、誘導加熱電源の駆動周波数を変化させる範囲(駆動周波数の変化幅)は、軸方向に沿って区分けした各コイル配置エリアに個別に配置した誘導加熱コイルの電流比の大小関係(比率ではなく、相対的なコイル電流値の大小関係)が維持される範囲内(例えば、第1コイル配置エリアに配置した第1誘導加熱コイルに流れる電流が、第2コイル配置エリアに配置した第2誘導加熱コイルに流れる電流よりも常に大きくなる範囲内)であってもよいし、各誘導加熱コイルの電流比の大小関係が逆転する値の駆動周波数を含む範囲に設定することも可能である。すなわち、本発明では、分割して配置した各誘導加熱コイルの電力分布の調整を図るために、一時的に、または所定時間だけ、各誘導加熱コイルの電流比の大小関係を逆転させる駆動周波数の交流電力を誘導加熱電源から各誘導加熱コイルに出力する構成を採用することができる。
また、本発明に誘導加熱装置において加熱処理時に用いる高周波は、1kHz以上であることが好ましいが、特に制限されない。
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。