OAM波は、複数モードを使用して多重化できる。この多重化したOAM波を生成するために、アンテナは複数のアレイアンテナを有する。各アレイアンテナにおいては、円周上にアンテナ素子が配置される。従来技術では、モード別に複数の円周上にアンテナ素子を配置したり、送受信で別の円周上にアンテナ素子を配置したりしていた。本実施形態では、同一円周上(多重する全モードのアレイアンテナの最大の円周上)に複数モードのアンテナ素子、又は、送受信のアンテナ素子を配置する。これによりOAM波の広がりを抑制し、送信から見た受信素子方向もOAM波の広がりから外れる量を可能な限り少なくしたOAM波の多重送受信を実現する。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
[第1の実施形態]
図1〜図4に示すOAM(Orbital Angular Momentum)波の特性を、各モードの放射ピークや位相についての具体例を挙げて詳細に説明する。以下では、図1に示す通常の電波(モードL0)と、図2、図3、図4に示すモードL1,L2,L3の3種類のOAM波とを合せて、4種類の電波を挙げて説明する。
まず、各種類の電波の電界強度分布(強度のレベル分布)について述べると、図1に示すように、通常の電波では中心が強い円形であり、図2〜図4に示すように、OAM波では中心が弱い円環形である。これらの各モードのOAM波の円環形のレベル分布において強度レベルがピークとなる円環の直径を比較すると、モードL1,L2,L3の順にそれらピークが中心から広がっていることが確認できる。また、位相変化に関しては、通常の電波では一様であるが、OAM波においてはモードL1〜L3に応じて、中心角に対し0〜360°で1周〜3周の変化がある。
図5及び図6は、2種類の異なるパラメータに対するOAM波の放射の広がり角度の表を示す図である。この2種類のパラメータは、OAM波の送信モードと、OAM波を生成し放射するアンテナ素子を円周上に配置した送信側アレイアンテナの直径、すなわち、送信側アレイアンテナの開口径の長さである。図5は、OAMモードL±1の同一送信モードで送信側アレイアンテナの開口径が異なる場合のOAM波の広がり角度の違いを示す。図6は、送信側アレイアンテナの開口径が同一の4λでOAM波の送信モードが異なる場合の広がり角度の違いを示す。この開口径を4λとした、この“λ”は波長を示す。また一方で、広がり角度は、放射された電波の強度レベルのピークが円錐状に広がった角度である。
図5から分かるように、条件をOAMモードL±1の同一送信モードとした場合、送信側アレイアンテナのアンテナ素子を円周上に配置した直径である開口径が短いλから2λ,…,4λと長くなるに従い、広がり角度は34°,17°,…,8°と逆順に小さくなる。一方、図6に示したとおり、条件を開口径が同一直径4λ(λは波長)とした場合、低いOAMモードL±1からL±2,…,L±4と高くなるに従い、OAM波の広がり角度も8°,14°,…,25°と順に大きくなる。
これら図5及び図6に示す数値は、後述する図8と図9に挙げるシミュレーション結果から得ている。また、図5及び図6において挙げた2つのパラメータがOAM波の広がり角度に影響があるとき、後述する図10では次の検討を行う。すなわち、比較的簡単な2種類のモードL±1と±2を多重し、かつ送信側アレイアンテナのサイズ(開口径)を最大4λに制限する。この制約条件で少し図10での検討に触れておくと、図34に示す従来例となるケースAでは、モードL±1を扱う送信側アレイアンテナのサイズは2λであり、モードL±2を扱う送信側アレイアンテナのサイズは4λである。一方、後述する図10に示す本実施形態では、モードL±1を扱う送信側アレイアンテナのサイズ及びモードL±2を扱う送信側アレイアンテナのサイズは、両方とも4λである。
図7は、送信モードと開口径を変えた時のピーク方向の一覧表を示す図である。同図に示す一覧表では、モードL±1,L±2,…,L±4,L±5をカバーする。さらに、同図に示す一覧表では、OAM波を放射する送信側アレイアンテナにおいて円周上にアンテナ素子を配置する場合に、これらアンテナ素子が配置される円周の直径である開口径Dがλ,2λ,…,4λ,…,6λと異なる条件もカバーする。つまり、図7に示す一覧表では、これら異なるOAMモードと開口径の組合せにより変化するピーク方向として、OAM波の放射ピークの広がり角度の数値が示されている。同図に示す一覧表全体から総じて、低次のOAMモードに比べ高次のOAMモードになるとピーク方向の広がり角度が拡大する傾向がある。また、同じOAMモードの時には、開口径が大きくなるとピークの広がり角度が小さくなる傾向がある。先に図5、図6に挙げた条件(モードL1で開口径λ〜4λ,開口径4λでモードL1〜L4)におけるOAM波の広がり角度はそれぞれ、一覧表において符号A1、符号A2に囲まれた範囲に含まれている。
図8は、同一送信モードで送信側アレイアンテナの開口径が異なる場合のOAM波の放射パターンを示す図であり、図9は、送信側アレイアンテナの開口径が同一で送信モードが異なる場合のOAM波の放射パターンを示している。図8及び図9に示す放射パターンは、円周上に、長さλ/20の微小ダイポールであるアンテナ素子が16個配置されることを条件として、放射パターンをシミュレーションした結果である。このシミュレーションでは、使用周波数f=5.2GHz(波長λ=5.8cm)である。
まず図8は、送信モードがモードL1であるときに、λ,2λ,3λ,4λと異なる直径(開口径)の円周上にアンテナ素子を配置した送信側アレイアンテナの放射パターンを示す。これらのケースでは、開口径が大きくなるに従って、矢印で示したピーク方向が絞られていくことが分かる。続いて図9は、同じ4λの直径の円周上にアンテナ素子を配置し(同一開口径)、送信モードをモードL1,L2,L3,L4と変えたときの放射パターンを示す。モードが高次になるに従い、矢印で示したピーク方向が拡大することが見てとれる。これら図8や図9のようにシミュレーションにより様々なモードと送信側アレイアンテナの開口径を組み合わせた条件での広がり角度の結果をまとめたものが先の図7の一覧表である。
図10は、本実施形態における多重送受を行うアンテナにおける素子配置を示す図である。同図に示す送信側のアンテナ100及び受信側のアンテナ200はそれぞれ、複数のアレイアンテナを有する。送信側のアンテナ100は、OAMモードが異なる送信側アレイアンテナを2つ有し、受信側のアンテナはOAMモードが異なる受信側アレイアンテナを2つ有する。なお、1つのアンテナが、OAMモードが同一又は異なる送信側アレイアンテナと受信側アレイアンテナを備えてもよい。アンテナ100において、アンテナ素子101とアンテナ素子102はそれぞれ、種類が異なるアレイアンテナを構成する。アンテナ素子101が配置される円周と、アンテナ素子102が配置される円周は同心で同径の円周C5である。同様に、アンテナ200において、アンテナ素子201とアンテナ素子202はそれぞれ、種類が異なるアレイアンテナを構成する。アンテナ素子201が配置される円周と、アンテナ素子202が配置される円周は、同心で同径の円の円周C5である。
先に従来技術のアンテナを図34で説明したが、同図に示すアンテナ100、200それぞれが備える2つのアレイアンテナの円周C5は、図34に示すアンテナ990の外側のアレイアンテナの円周C3と同じ直径である。すなわち、図34に示すアンテナ990の外側のアレイアンテナの開口径と、図10に示すアンテナ100、200のそれぞれが有するアレイアンテナの開口径を同じとして検討する。この条件の場合では、図34に示す従来技術に対して、図10に示すアンテナ100、200では、最も大きな直径の円周上に、OAM波のモードと送受信種別とのうち少なくとも一方が異なるアレイアンテナのアンテナ素子を配置するため、OAM波による放射ピークの広がりを抑制できる。つまり、送信側アレイアンテナでは、最も大きな直径の円周上にアンテナ素子を配置することで、従来技術における課題であった放射ピークの広がりを抑制する。さらには、受信側アレイアンテナにおいても最も大きな直径の円周上にアンテナ素子を配置することで、OAMモードと送信側の開口径で決まる放射ピークに可能な限り近い角度で受信することを狙う。
図11は、本実施形態のアンテナを用いたときの放射ピークに対する受信素子方向の外れ量の削除効果を示す図である。同図に示すように、送信側のアンテナ及び受信側のアンテナともに、同じ円周上に、モードL1のアレイアンテナのアンテナ素子とモードL2のアレイアンテナのアンテナ素子とを配置する。アンテナ素子101は、図10に示すアンテナ100において送信モードL1の送信側アレイアンテナを構成するアンテナ素子であり、アンテナ素子102は、図10に示すアンテナ100において送信モードL2の送信側アレイアンテナを構成するアンテナ素子である。アンテナ素子201は、図10に示すアンテナ200において受信モードL1の受信側アレイアンテナを構成するアンテナ素子であり、アンテナ素子202は、図10に示すアンテナ200において受信モードL2の受信側アレイアンテナを構成するアンテナ素子である。
これら送信モードL1、L2それぞれの送信側アレイアンテナにより生成されるOAM波の放射ピークに対して、送信モードL1、L2それぞれの受信側アレイアンテナの方向が外れる量は少なくなる。特にモードL1の放射ピークについては、そのピーク方向が受信側のアンテナ素子201への方向から外れる量は、符号B1、B2の範囲に示すように僅かである。この点に関して、後述する図12及び図13で、具体的な数値を伴う例を挙げて補足する。その後には、送受信装置の構成(後述する図14、図15)、OAM波を用いた多重化のシミュレーションの結果(後述する図18)、OAM波を用いた多重化の検証実験に基づく追加検討(後述する図17、図19、図20)について説明する。
図12は、本実施形態の素子配置の効果であるピーク外れ量の改善を説明するための図である。同図では、具体的な数値の例として、次のようなケースを想定する。まず、無線通信に使用する周波数fは5.2GHz(波長λ=5.76cm)である。送信側のアンテナには、直径4λと直径6λのそれぞれの送信側アレイアンテナの円周上にアンテナ素子を配置して、各送信側アレイアンテナからモードL1、モードL2のOAM波を放射する。そして、受信側のアンテナにおいても、送信と同じ大きさの円周(半径2λ=11.53cmと3λ=17.29cm)上に受信素子を配置し、半径2λの受信側アレイアンテナでモードL1のOAM波を受信し、半径3λの受信側アレイアンテナでモードL2のOAM波を受信する。また、送信側アレイアンテナと受信側アレイアンテナ間の距離dは1.8mである。
このケースについて、まず直径6λの送信側アレイアンテナから、モードL2のOAM波を放射する場合について考える。開口径6λでモードL2のOAM波は、放射の広がり角度9°である(図7の一覧表における符号A3)。このピーク方向9°での受信側の半径はd・tan(9°)=28.50cm、受信素子の方向はtan−1(3λ/d)=tan−1(0.096)=5.5°と計算できる。従って、直径6λの送信側アレイアンテナ、モードL2のピーク外れ量は9−5.5=3.5°となる。
次に、他方の直径4λの送信側アレイアンテナからモードL1のOAM波を放射する場合について考える。開口径4λでモードL1のOAM波は、放射の広がり角度8°である(図7の一覧表における符号A4)。このピーク方向8°で受信側の半径はd・tan(8°)=25.29cm、受信素子の方向はtan−1(2λ/d)=tan−1(0.064)=3.7°と計算できる。従って、直径4λの送信側アレイアンテナ、モードL1のピーク外れ量は8−3.7=4.3°となる。
ここで、上記のモードL1のOAM波を受信する受信素子の配置を、直径4λの円周上から、上述したモードL2を受信する受信素子と同じ直径6λの円周上とすれば、モードL1のピーク外れ量が8−5.5=2.5°と減少する(外れ量の改善1)。
さらに、モードL1のOAM波を送信する送信側アレイアンテナのアンテナ素子の配置も、受信側アレイアンテナと同様に、直径4λの円周上から直径6λの円周上へ変更すると、広がり角度は6°(図7の一覧表の符号A5)へと変わる。このピーク方向6°で受信側の半径はd・tan(6°)=18.91cmであり、受信素子の方向は上述のようにtan−1(3λ/d)=5.5°である。この広がり角度の変化により、受信素子の方向との外れ量を、6−5.5=0.5°とさらに減らすことができる(外れ量の改善2)。
図13は、放射パターンの正対方向を拡大したグラフを示す図である。同図に示すグラフの横軸は送信側アレイアンテナが配置される平面が向いている方向に対する角度である方位角[°]であり、縦軸は信号強度レベルの利得[dB]である。このグラフのパラメータは、円周上にアンテナ素子を配置する送信側アレイアンテナの直径(開口径)と、OAM波の送信モードとの組み合わせである。同図では、送信側アレイアンテナの直径(開口径)4λ及び6λと、OAM波の送信モードL1及びL2とを組合せた、(4λ,L1)、(6λ,L1)、(6λ,L2)を条件として用いたときの放射パターンを示す。それぞれのグラフにおいて、ピーク方向とそのピークの強度レベルは、(8°,14.7dB)、(6°,14.4dB)、(9°,13dB)である。ここで、先の図12で説明したモードL1でのOAM波のピーク方向に対する受信素子の方向の外れ量について検討する。
まず送受信のアレイアンテナが開口径4λである時は、受信素子の方向は3.7°であった。この時の信号強度レベルは相当低いことが図13のグラフから分かる。ここで、受信側アレイアンテナの直径を、4λから6λ(モードL2の受信側アレイアンテナと同じ開口径)へ変えることにより受信素子の方向が5.5°になるので、同じパラメータ(4λ,L1)のグラフでも強度レベルが上昇し、利得が改善される(外れ量の改善1)。さらに送信側アレイアンテナも6λ(モードL2の受信側アレイアンテナと同じ開口径)とすると、図13ではパラメータ(4λ,L1)のグラフから(6λ,L1)のグラフへと移り、同じ方位角5.5°でもそれらの利得がさらに上昇する(外れ量の改善2)。
図14及び図15を用いて、本実施形態における多重送受を行うアンテナを用いた通信装置の構成について説明する。
図14は、送信側の通信装置300の構成を示す図である。送信側の通信装置300は、M個の送信信号生成装置301と、Nポートを有するM個の分波器302と、M×N個の位相器303と、アンテナ310とを有する。位相器303は、設定により、位相調整量が可変である。アンテナ310は、M×N個のアンテナ素子311を有する。通信装置300の構成要素は、送信信号生成装置301、分波器302、位相器303、アンテナ素子311の順に接続される。ここで、MはOAM波を多重するモード数であり、Nは1つのモードのOAM波を送信するために用いられる素子数、すなわち、1つの送信側アレイアンテナを構成する素子数である。
多重するM種類の送信モードのうち、m種類目(mは1以上M以下の整数)の送信モードで送信する信号を生成する送信信号生成装置301を送信信号生成装置301−mと記載し、送信信号生成装置301−mと接続される分波器302を分波器302−mと記載する。分波器302−mのn番目(nは1以上N以下の整数)のポートと接続される位相器303を位相器303−m−nと記載し、位相器303−m−nと接続されるアンテナ素子311をアンテナ素子311−m−nと記載する。アンテナ素子311−m−1〜311−m−Nは、m種類目の送信モードのOAM波を送信するアレイアンテナを構成する。全てのアンテナ素子311−1−1〜311−M−Nは、先の図11までに説明したように、最大サイズの送信側アレイアンテナと同じ直径の円周上に配置される。
上記構成において、送信信号生成装置301−mは、生成した信号を分波器302−mに出力する。分波器302−mは、送信信号生成装置301−mから入力した信号をN個のポートに分波し、位相器303−m−1〜303−m−Nに出力する。位相器303−m−nは、分波器302−mのn番目のポートから入力した信号の位相を送信モードに基づいて調整し、アンテナ素子311−m−nに出力する。アンテナ素子311−m−nは、位相器303−m−nから入力した信号を放射する。
図15は、受信側の通信装置400の構成を示す図である。受信側の通信装置400は、アンテナ410と、M×N個の位相器421と、Nポートを有するM個の合波器422と、M個の受信信号復調装置423とを有する。アンテナ410は、M×N個のアンテナ素子411を有する。位相器421は、設定により、位相調整量が可変である。通信装置400の構成要素は、アンテナ素子411、位相器421、合波器422、受信信号復調装置423の順に接続される。MはOAM波を多重するモード数であり、Nは1つのモードのOAM波を受信するために用いられる素子数、すなわち、受信側アレイアンテナを構成する素子数である。
m種類目(mは1以上M以下の整数)のモードのOAM波を受信するn個目(nは1以上N以下の整数)のアンテナ素子411をアンテナ素子411−m−nと記載し、アンテナ素子411−m−nと接続される位相器421を位相器421−m−nと記載する。Nポートのそれぞれが、位相器421−m−1〜421−m−Nと接続される合波器422を合波器422−mと記載し、合波器422−mと接続される受信信号復調装置423を受信信号復調装置423−mと記載する。
アンテナ素子411−m−nは、受信した信号を位相器421−m−nに出力する。位相器421−m−nは、アンテナ素子411−m−nから入力した信号の位相を受信モードに基づいて調整し、合波器422−mのn番目のポートに出力する。合波器422−mは、位相器421−m−1〜421−m−Nから入力した信号を合波し、受信信号復調装置423−mに出力する。受信信号復調装置423−mは、合波器422−mから入力した信号を復調する。
ここまでで、図15に示す受信側の構成を図14の送信側と合せるように構成要素数に同じ符号M、Nを用いた。しかし必ずしも送受信は対応する構成要素を同じ数にしなくてもよい。
上記のように、図14に示す送信側の装置構成に対し、図15に示す受信側の装置構成においては、分波器に代えて合波器を、送信信号生成装置に代えて受信信号復調装置を備えた構成である。図14に示すアンテナ310が有するアンテナ素子311の配置を、図10に示すアンテナ100のアンテナ素子101、102の配置や、図11に示す送信側のアレイアンテナのアンテナ素子101、102の配置とする。つまり、異なる種類のアレイアンテナのアンテナ素子311を全て同一円上に配置する。同様に、図15に示すアンテナ410 が有するアンテナ素子411の配置を、図10に示す本実施形態のアンテナ200のアンテナ素子201、202の配置や、図11に示す受信側のアレイアンテナのアンテナ素子201、202の配置とする。つまり、異なる種類のアレイアンテナのアンテナ素子411を全て同一円上に配置する。これにより、以下のように、複数モードや送受信に対応して異なる円周上にアンテナ素子を配置した従来技術において課題となる点を解消したり、本実施形態のメリットを引き出したりしている。
(1)送信側アレイアンテナの開口径がどのモードも可能な限り大きく、OAM波の広がり角度が小さい。つまり指向性が高い。
(2)アンテナ素子の位置決定(配置)が単純である。
(3)素子数を削減し、アンテナの製作コストを軽減可能である。
なお、後述する第2の実施形態では、ハイブリッドを用い、送信側のアンテナ素子への入力信号を合波したり、受信側のアンテナ素子による受信信号を分波したりすることにより、1つのアンテナ素子で複数のモードを共用する。また、後述する第3の実施形態では、アンテナが双方向通信する場合に、サーキュレータにより通信信号を入出力して1つのアンテナ素子で送受信を共用する。
図16は、本実施形態の通信装置を用いて複数モードのOAM波の送信を直接受信するケースの具体的な数値例を示す図である。同図に示す数値例では、OAM波に複数のモードを使用した送受信の条件として、送受信間の距離dを1.8m、周波数を5.2GHz、開口径Dを4λ(=23cm)、多重モードをモードL1,L2(,L3)とする。送信側アレイアンテナと受信側アレイアンテナは、同じ開口径(同径)D(=4λ)であり、送信側においては、同心の円周上に各モードのアンテナ素子311が配置される。同図においては、モードL1,L2(,L3)それぞれのアンテナ素子311を、アンテナ素子311−1、311−2、311−3と記載している。送信モードL1,L2(,L3)でのピーク方向は、送信側からの広がり角度8°,14°(,20°)であるため、受信側アレイアンテナの位置では半径0.25m,0.45m,0.65mの円状へ広がる。これら各送信モードでのピーク広がりに対し、受信側アレイアンテナの開口径が23cmであるので、送信側から見ると、受信側のアンテナ素子は3.9°(≒4°)の方向になる。従って、送信側からの受信素子の方向と、各モードL1,L2(,L3)のピーク方向との差は、4°,10°(,16°)となる。
図17は、本実施形態によるOAM波の多重送受信系を示す図である。同図において送信側は、図14に示す通信装置300と同様の構成を有しており、受信側は図15に示す通信装置400と同様の構成を有している。なお、M=2、N=4である。ただし、受信側はネットワークアナライザ501をさらに備え、送信側は、ネットワークアナライザ502を備える。また、受信側は受信信号復調装置423として、スペクトラムアナライザ503を用いる。
同図に示す多重送受信系を用いた検証実験では、使用した周波数は5.2GHz(波長:5.765cm)、OAM波のモードはL1とL−1である。送信側アンテナ及び受信側アンテナの素子はそれぞれ、モードL1が4素子、モードL2が4素子の計8素子であり、送受信のアレイアンテナの開口径は4λ(23.06cm)である。
信号源(SG)である2個の送信信号生成装置301−1、301−2はそれぞれ、送信信号を生成し、分波器302−1、302−2に出力する。この2つの送信信号は送信に用いられるモードがL1、L−1と異なる。送信信号生成装置301−1、301−2から出力された送信信号は、2個の分波器302−1、302−2によってそれぞれ4ポートに分配される。2×4個の位相器303−1−1〜303−1−4、303−2−1〜303−2−4は、送信信号の位相を調整し、アンテナ310が有する2組4素子の送信側アレイアンテナへ出力する。モードL1の送信側アレイアンテナのアンテナ素子311−1−1〜311−1−4と、モードL−1の送信側アレイアンテナのアンテナ素子311−2−1〜311−2−4とは、同じ直径4λの円周上に配置される。
各アンテナ素子311の直前に挿入された位相器303には、5.2GHzで位相が設定される。位相器303に設定される位相は、位相器303が接続されるアンテナ素子311の円周上の位置とモードにより決められる。つまり、位相器421にはそれぞれ、モードL1に対する0[°]、45[°]、90[°]、…、−45(315)[°]とモードL−1に対する0[°]、−45[°]、−90[°]、…、45(−315)[°]がネットワークアナライザ501により設定される。また、多重化するOAM波を信号分離できるかの評価のため、垂直軸(Z軸)を中心に送信側のアンテナ310を回転させる。この回転角度をα[°]とする。
対向するアンテナ410の受信側アレイアンテナは、送信側アレイアンテナと対称である。受信側アレイアンテナの各アンテナ素子411−1−1〜411−1−4、411−2−1〜411−2−4が受信したOAM信号は、位相器421−1−1〜421−1−4、421−2−1〜421−2−4を通過し、合波器422−1、422−2でモード毎に集約される。モード毎に集約された2つの信号は、受信信号復調装置としてのスペクトラムアナライザ503へ出力される。なお、位相器421には、ネットワークアナライザ502により、接続されるアンテナ素子411毎に、5.2GHzで位相が設定される。位相器421の位相設定を変えることにより、受信に用いられるモードが選択される。
図18は、放射ピークを外れたときの受信電力レベルの低下を示す図である。同図は、送信側アレイアンテナの前方±180°の強度レベルをシミュレーションしたパターン結果である。この解析条件は、使用周波数5.2GHz、8素子を送信側アレイアンテナとして円周上に等間隔に配置し、この送信側アレイアンテナの直径である開口径は4λ(λは波長)、送受信距離は1.8mである。また、各アンテナ素子の位相設定は、OAM波モードL1を送信するように、隣り合う素子で円周上の配置順に45°(=360÷8)ずつ増加させた位相を設定する。
同図に示すシミュレーション結果から、8°方向のピークでの受信電力レベル(8.27dB)から、受信素子の位置に当る4°方向(受信電力レベル:4.98dB)への違いによるレベル低下は、3.29dBと僅かである。このレベル低下を考慮して、同じ直径の送受信側アレイアンテナを対向させてOAM波を送受することができると分かる。
図19及び図20は、図17に示す多重送受信系における多重されたOAM波の受信レベル変化を示す図である。この系では、送信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子にモードL1を、別の送信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子にモードL−1を設定し、受信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子にモードL1を、別の受信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子にモードL−1を設定する。
図19は、送信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子にモードL1を、別の送信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子にモードL−1を設定して送信したOAM波を、モードL1を設定した受信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子により受信して得た受信ピーク強度の結果を示す。一方、図20は、送信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子にモードL1を、別の送信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子にモードL−1を設定して送信したOAM波を、モードL−1を設定した受信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子により受信して得た受信ピーク強度の結果を示す。
図19の符号B1のグラフ(送信、受信ともモードL1)や、図20の符号B3のグラフ(送信、受信ともモードL−1)に示すように、送受信のアンテナ素子が同じモードの場合には、送受信が対向する方向(送信回転角度α=0[°])では、受信ピーク強度が約−40dBである。これに対して、図19の符号B2のグラフ(送信がモードL−1かつ受信がモードL1)や、図20の符号B4のグラフ(送信がモードLかつ受信がモードL−1)に示すように、送受信のアンテナ素子が異なるモードの場合、同じ対向方向では受信ピーク強度が−60dB未満と強度が低い。つまり、図19のグラフに示すように、送受信が同じモードL1の場合と、異なるモードL−1(送信)対L1(受信)の場合とでは、送受信のアレイアンテナが対向している時、受信レベル差は>20dBとなる。また、図20のグラフに示すように、送受信のアンテナ素子が同じモードL−1である場合と、異なるモードL1(送信)対L−1(受信)である場合とでは、送受信のアレイアンテナが対向している時、受信レベル差は>30dBとなる。これら図19、図20に示すように、送信側と同一モードで受信した信号強度と送信側と異なるモードで受信した信号強度とでは20dBを超えるレベル差がある。このことから、受信側のアンテナにおいて、OAM波のモードにより送信側のアンテナからの受信信号を識別できるため、OAM波による多重通信が可能である。
(第1の実施形態の変形例)
図21は、受信側のアンテナが複数モードのOAM波の送信を反射させて受信するケースを示す図である。同図に示すように、送信側のアレイアンテナの前方に、複数の反射板450をリング状に配置する。同図では、3つの反射板450として、反射板450−1、450−2、450−3をリング状に、各リングの中心が一致するように配置している。リング状の反射板450の直径は、各モードでの広がり角度と送信側アレイアンテナまでの距離により決まる。ここで、送信側アレイアンテナから反射板450まではOAM波が生成されるために必要な距離を確保する。さらに、1つ1つのリング状の反射板450の傾斜は、上述した広がり角度の半分とする。このように複数枚のリング状の反射板450を同心円状に重ねて設置することで、OAM波がそれぞれの広がりから平行になって伝搬される。受信側にも対向して、送信側の反射板450と対称となる同じ複数のリング状の反射板と受信側アレイアンテナを設ける。こうして、送信側アレイアンテナから広がりをもって放射されたOAM波が送信側のリング状の反射板で平行に伝搬するようになり、平行伝搬したOAM波が受信側の反射板により受信側アレイアンテナにて受信する最適な角度に曲げられる。
図21に挙げた具体的な数値例としては、使用する周波数75GHz、アレイアンテナの開口径D=4λ(=16mm)、送信側アレイアンテナと反射板450までの距離d=12cmである。多重する送信モードがモードL1,L2(,L3)の時は、それぞれのモードでの広がり角度が8°,14°(,20°)なので、反射板450−1、450−2(、450−3)のリング半径は17mm,30mm(,44mm)であり、それぞれ反射板の傾きは4°,7°(,10°)となる。この反射板450−1、450−2(、450−3)の傾きの数値を、先の広がり角度の半分とすることで、OAM波を平行伝搬させることができる。受信側でも、送信側と同じアレイアンテナと送信側のアンテナの前に置かれた反射板450−1、450−2(、450−3)と対称となる複数枚のリング状の反射板を備えることで、受信側の受信モードL1,L2(,L3)の各アレイアンテナは、送信側の反射板450−1、450−2(、450−3)で反射して平行伝搬された複数モードのOAM波を受信できる。この図21に示すリング状の複数の反射板を送受信側も受信側にも持つことでピークレベルを平行に伝搬させれば、理論的には多重するOAM波の全モードでピークレベルを受信する位置に関係なく確保でき、送受信距離をさらに伸ばすことができる。
[第2の実施形態]
本実施形態では、異なるOAMモードのアレイアンテナでアンテナ素子を共有する。
図22は、複数モードのOAM波の送信を直接受信するケースを示す図である。先の第1の実施形態における図16に対して、この図22では、アレイアンテナにおいて多重する複数モードに対するアンテナ素子の配置を詳細に検討する。
先の図16では、OAM波のモードL1,L2,L3それぞれに6素子を割当て、合計18素子を同じ円周上に配置して送信側のアンテナを構成した。この送信側のアンテナを構成する条件は、送信のみの各モードのアレイアンテナを有することと、モードに応じたOAM波を生成するために必要な素子数があることである。モードL1,L2,L3,…,Li,…である場合にモード数L=1,L=2,L=3,…,L=i,…とすると、送信側アレイアンテナがモード数LのOAM波を生成する時に必要な最小の素子数は2|L|+1であり、高次モードでは相応の素子数が必要となる。ここで、モードL3には最低でも7素子が必要なので、図16に示す6素子ではモードL3は実現できないことになる。加えて、送信側アレイアンテナの円周を素子数で割った長さよりもアンテナ素子単体の対角の長さが短いこと、つまり図16では1つ1つのアンテナ素子のサイズが小さいことも条件である。また、条件として、複数モードのアンテナ素子を同じ円周上に並べた時に、各モードにおいてアンテナ素子が等間隔に配置される点もある。例えば、図22では、モードL1用のアンテナ素子351が2素子飛び毎に等間隔に配置されているが、モードL2用のアンテナ素子352は1素子飛びと隣の素子が混在しており等間隔ではない。これらの条件を端的に言い換えれば、目的とするアレイアンテナの範囲内に全てのアンテナ素子を円周上に配置できることが求められる。これらの条件を満たさないケースが図22であり、第1の実施形態に対する課題として、次の2項目が挙げられる。
(a)モード毎にアンテナ素子が等間隔の配置とならない。つまり、同一円周上に配置されるアンテナ素子がモード毎に不等間隔である。
(b)複数モードのアンテナ素子が配置できない。例えば、図22ではモードL1のアンテナ素子351とL2のアンテナ素子352は配置できているが、モードL3のアンテナ素子は配置できていない。高次モードでは相応の素子数が必要である。
図23及び図24に、この第1の実施形態に対する課題を解決する対策となるアンテナ素子の配置を示す。この対策では、複数のアレイアンテナにおいてアンテナ素子を共有し、素子数を削減する。素子数の削減により、図22で挙げた課題((a)同一円周上に配置される素子がモード毎に不等間隔、(b)多重のモード数でアンテナ素子が配置できない)を解決する。
図23に示す対策(a)では、送受信別に同じアンテナ素子を異なるモード間で共用することにより、アンテナに円周上に配置されるアンテナ素子を削減する。図23では、OAM波としてモードL1,L2,L3の3種類のモードがある。これらのモードそれぞれには、送信側のみで4素子、8素子、8素子が用いられる。このため、アンテナ素子を共用しないと、合計20素子が必要になる。そこで、これらの3種類のモード全てを共用するアンテナ素子601を4素子、モードL2とモードL3を共用するアンテナ素子603を4素子とすると合せて8素子となり、さらに送受別々にアンテナ素子があるので、合計16素子になる。従って、アンテナ素子を共用しない場合に比べて4素子が削減される。同図に示す4つのアンテナ素子602は、モードL1,L2,L3の3種類のモードを共有する受信アンテナ素子であり、4つのアンテナ素子604は、モードL1,L2の2種類のモードを共有する受信アンテナ素子である。このように種類の異なるアンテナ素子601、602、603、604を、図23ではそれぞれに等間隔に配置できている。例えば、モードL1は3素子飛ばしで配置され、モードL2とモードL3は1素子飛ばしで配置される。
図24に示す対策(b)は、異なるモード間において送受信で同じアンテナ素子を共用して、図23に示す対策(a)よりもさらに素子数を削減することを狙う。上述した図23では送信側と受信側を合わせて2×8素子、総計16素子となる。これに対して、図24では送受信を同じアンテナ素子で共用するため、図23の半分の8素子で対応できる。同図においてアンテナ素子611は、モードL1,L2,L3の3種類のモードの送受信を共用するアンテナ素子であり、アンテナ素子612は、モードL1,L2の2種類のモードの送受信を共用するアンテナ素子である。同図に示すように、モードL1用のアンテナ素子は1素子飛ばしの等間隔に配置され、モードL2用とモードL3用のアンテナ素子はアレイアンテナを構成する全8素子で等間隔になっている。
なお、図23に示す異なるモード間でアンテナ素子を共用する対策(a)については、この直後の図25に構成を示し、図29と図30に検証実験とその結果を示す。また、図24に示すアンテナ素子を送受信でも共用する対策(b)については、次の第3の実施形態において図32を示して構成を述べる。
図25及び図26を用いて、本実施形態における多重送受での素子配置(変形例)とアンテナ素子の設定位相を説明する。図25及び図26では、全てのアンテナ素子を、多重される全てのモードのアレイアンテナで共用する。
図25は、送受信を異にするアンテナ素子を有する通信装置650における接続構成図である。同図では、通信装置650の送信側の構成のみを示している。通信装置650は、M個の送信信号生成装置651と、Nポートを有するM個の分波器652と、M×N個の位相器653と、N個のハイブリッド合波器654と、アンテナ660とを有する。位相器653は、位相調整量が可変である。アンテナ660は、N個の送信用のアンテナ素子661を有する。
信号を放射するN個のアンテナ素子661はそれぞれ、N個のハイブリッド合波器654と接続される。このN個のハイブリッド合波器654はそれぞれ、モード数M個の位相器653と繋がっている。つまり、合計M×N個の位相器653がある。各位相器653は、Nポートの出力を持つM個の分波器652を通じて、M個の送信信号生成装置651に繋がっている。なお、ハイブリッド合波器654は入力と出力間で信号を通過させ、複数の入力間では信号を遮断する。
以下では、m個目の送信信号生成装置651を送信信号生成装置651−m(mは1以上M以下の整数)と記載し、送信信号生成装置651−mと接続される分波器652を分波器652−mと記載する。分波器652−mのn番目(nは1以上N以下の整数)のポートと接続される位相器653を位相器653−m−nと記載し、位相器653−1−n〜653−M−mと接続されるハイブリッド合波器654をハイブリッド合波器654−nと記載する。ハイブリッド合波器654−nと接続されるアンテナ素子661をアンテナ素子661−nと記載する。
送信信号生成装置651−mは、生成した送信信号を分波器652−mに出力する。分波器652−mは、送信信号生成装置651−mから入力した送信信号をN個のポートに分波し、位相器653−m−1〜653−m−Nに出力する。位相器653−m−nは、分波器652−mから入力した送信信号の位相を送信モードに基づいて調整し、ハイブリッド合波器654−nに入力する。ハイブリッド合波器654−nは、位相器653−1−n、653−2−n、…、653−M−nのそれぞれが位相を調整した送信信号を合波してアンテナ素子661−nに出力する。アンテナ素子661−nは、ハイブリッド合波器654−nから入力した信号を放射する。
受信側の通信装置は、この図25に示す接続構成のうち3つの要素を代えることにより構成される。つまり、受信側の通信装置は、ハイブリッド合波器に代えてハイブリッド分波器を備え、分波器に代えて合波器を備え、送信信号生成装置にかえて受信信号復調装置を備える。これは、先に説明した図14の送信側の通信装置に対して図15の受信側の通信装置を説明したものに類似する。ただし、図15でも述べたが、送信側に合せるように受信側の構成要素の数を同じにする必要はない。送受信は異なる構成要素数として実現してもよい。
図26は、図25に示す各アンテナ素子661に設定される位相値を示す図である。同図に示すアンテナ素子#1,#2,#3,…,#j,…,#Nは、図25に示す送信側の通信装置650の接続構成においてアンテナ660が備えるアンテナ素子661−1〜661−Nであり、同一の円周上に配置される。アンテナ660に求められる素子数Nは、最も高次のモードLmaxを基に計算される。図22の説明で述べたように、特に(LmaxをOAMモードの具体的な次数と見なして考えたとき)OAM波のモードLmaxを生成する送信側アレイアンテナの条件として、アンテナ素子の数NはN≧2Lmax+1が必要である。そして、同一の円周上に配置された各アンテナ素子#1〜#Nに出力される信号には、多重する複数のモードに対応する位相が設定される。
多重するモード数M(M≦2Lmax+1)の時に、OAM波のモードLは、L0,L±1,L±2,…,L±i,…,L±maxとなる。このような場合、アンテナ素子♯1にOAM波モードに対応する位相として、モードL1では360/N[°]、モードL2では720/N[°]、…、モードLmaxでは360・Lmax/N[°]が設定される。また、アンテナ素子#2に対応する位相として、モードL1では720/N[°]、モードL2では1440/N[°]、…、モードLmaxでは720・Lmax/N[°]が設定される。また、アンテナ素子♯jに対応する位相として、モードL1では360j/N[°]、モードL2では720j/N[°]、…、モードLmaxでは360j・Lmax/N[°]が設定される。そして、アンテナ素子♯Nに対応する位相として、モードL1では360(N−1)/N[°]、モードL2では720(N−1)/N[°]、…、モードLmaxでは360(N−1)・Lmax/N[°]が設定される。
図27及び図28を用いて、各モードに用いられる素子数の違いによる装置構成の要素削減について、削減対応をしていない構成例と削減対応をした例を対比して示す。
図27は、余裕のある素子数と機能要素により構成された通信装置650における接続構成図である。通信装置650は、要素削減に対応をしていない構成の例である。一方、図28は、素子数を適切に設定して構成要素を削減した通信装置680における接続構成図である。
図27に示す通信装置650の送信側の構成は、図25に示す通信装置650の構成と同様であり、送信側の構成のみを示している。通信装置650は、M個の送信信号生成装置651−1〜651−Mと、Nポートを有するM個の分波器652−1〜652−Mと、M×N個の位相器653−1−1〜653−M−Nと、N個のハイブリッド合波器654−1〜654−Nと、アンテナ660とを有する。アンテナ660は、N個の送信用のアンテナ素子661−1〜661−Nを有する。
一方、図28に示す通信装置680は、図27に示す通信装置650と同じ要素より構成されており、特に素子数Nも通信装置650と同じである。また、M個の送信信号生成装置651を備える点も通信装置650と同様である。通信装置680を構成する要素は、信号の流れの順に、送信信号を発生する送信信号生成装置651、送信信号生成装置651が生成した送信信号を分岐する分波器682、分配された送信信号にOAM波のモードに応じた位相を調整設定する位相器683、位相調整された複数モードのOAM波の送信信号を合波するハイブリッド合波器684、そして、N個のアンテナ素子691を有するアンテナ690である。N個のアンテナ素子691をそれぞれ、アンテナ素子691−1〜691−Nとする。
同図では、通信装置680の送信側の構成のみを示している。受信側の構成では、送信側アレイアンテナを受信側アレイアンテナとしてそのまま使用し、ハイブリッド合波器に代えてハイブリッド分波器を備え、位相器はそのまま使用し、分波器に代えて合波器を備え、送信信号生成装置に代えて受信信号復調装置を備える。これも、先の図14に示す送信側の通信装置300と図15に示す受信側の通信装置400の関係や、図25の通信装置650における送信側の構成のみ示した時の受信側の構成に関する説明と同様である。
ここで図28に示す通信装置680が図27に示す通信装置650と異なる点はアンテナ素子691を共有するモードの割り当て方が違う点である。図27に示す通信装置650では全アンテナ素子661−1〜661−Nを複数のモードが共有する。これに対して、図28に示す通信装置680ではN個のアンテナ素子691のうち一部のアンテナ素子を複数のモードで共有する。つまり、一部のアンテナ素子691を高次モードと低次モードで共有し、残りの他のアンテナ素子691を、高次モードのみが使用する。図22と図25の説明で述べたように、モードL1,L2,L3,…,Li,…である場合にモード数L=1,L=2,L=3,…,L=i,…とすると、モードLのOAM波を生成するために必要な素子の最低数は、上述したように、2|L|+1とされるので、これに対し多少は余裕のある適切な素子数を確保して構成要素に割り当てる。このように、多重化する複数モードに応じて、それぞれ共有する素子数をより適切に設定する。この図27から図28へと変えたように送受信装置を構成する要素を削減し、この削減で送受信装置の製造費を低減できる。
例えば、通信装置680がM種類の送信モードのアレイアンテナを有し、m番目(mは1以上M以下の整数)の種類の送信モードのアレイアンテナは、アンテナ690のN個のアンテナ素子691のうちNm個(Nm≦N)のアンテナ素子691を用いるとする。N個のアンテナ素子691のうち、Z個(Z<N、Zは整数)は複数のモードのアレイアンテナにより共用され、残りの(N−Z)個のアンテナ素子691は1つのモードのアレイアンテナにより使用される。複数のモードのアレイアンテナにより共用されるアンテナ素子691はそれぞれ、ハイブリッド合波器684と接続される。従って、通信装置680では、通信装置650と比較して、(N−Z)個の合波器が削減できる。
また、上述のように通信装置680は、図27に示す通信装置650と同じM個の送信信号生成装置651−1〜651−Mを備える。m種類目のモードで送信する信号を生成する送信信号生成装置651−mと接続される分波器682を分波器682−mとする。分波器682−mは、Nm個のポートを有する。分波器682−mのn番目(nは1以上Nm以下の整数)のポートと接続される位相器683を、位相器683−m−nと記載する。このような構成により、通信装置680では、通信装置650と比較して、Σ(N−Nm)個の位相器が削減できる。アンテナ素子691を共用する送信モードの位相器683−m−nは、m種類目の送信モードで使用するアンテナ素子691と接続されるハイブリッド合波器684に位相を調整した信号を出力する。アンテナ素子を共用しない送信モードの位相器683−m−nは、その送信モードで使用するアンテナ素子691に位相を調整した信号を出力する。
図29は、本実施形態によるOAM波の多重送受信系を示す図である。同図において送信側は、図25、図27に示す通信装置650と同様の構成を有しており、M=2、N=4である。受信側は、アンテナ660に代えてアンテナ750を、通信装置650のハイブリッド合波器654−1〜654−4に代えてハイブリッド分波器761−1〜761−4を、位相が可変の位相器653−1−1〜653−1−4、653−2−1〜653−2−4に代えて位相が可変の位相器762−1−1〜762−1−4、762−2−1〜762−2−4を、4ポートを有する分波器652−1、652−2に代えて4ポートを有する合波器763−1、763−2を、送信信号生成装置651−1、651−2に代えて受信信号復調装置としてのスペクトラムアナライザ764を備えた構成である。位相器762−1−1〜762−1−4、762−2−1〜762−2−4の位相設定を変えることにより、受信に用いられるモードが選択される。アンテナ750は、複数モードを多重して受信する4つのアンテナ素子751−1〜751−4を有し、送信側のアンテナ660と同様の構成である。
送信側では、ハイブリッド合波器654により複数のモードの送信信号を合波し、同じアンテナ素子661を通じて異なるモードのOAM波を放射する。使用する周波数は5.2GHz(波長:5.765cm)、アンテナ660及びアンテナ750が備える素子数は4素子、アンテナ660のアレイアンテナ及びアンテナ750のアレイアンテナの開口径は4λ(23.06cm)、OAM波のモードはL1及びL−1である。また、送受信間距離は1.8m、広がり角度は8°である。位相器653−1−1〜653−1−4及び位相器762−1−1〜762−1−4にはモードL1に対する0[°]、90[°]、180[°]、−90[°]が、位相器653−2−1〜653−2−4及び位相器762−2−1〜762−2−4にはモードL−1に対する0[°]、−90[°]、180[°]、90[°]が設定される。また、多重化されたOAM波を信号分離できるかの評価のため、垂直軸(Z軸)を中心に送信側のアンテナ660を回転させる。この回転角度をα[°]とする。
そして受信側では、同じアンテナ素子751−1〜751−4により受信される多重化されたOAM波の受信信号を、ハイブリッド分波器761−1〜761−4を介してそれぞれのモードに対応した位相器762−1−1〜762−1−4、762−2−1〜762−2−4へ分けて渡す。このように送信側は、同じアンテナ素子を用いて多重化したOAM波を送信し、受信側は、多重化されたOAM波を同じアンテナ素子を用いて受信することで、素子数の削減に繋げることができる。
図30及び図31は、図29に示す多重送受信系における多重されたOAM波の受信レベル変化を示す図である。
図30は、送信側のアンテナの4つのアンテナ素子にモードL1及びモードL−1を設定し、合波して放射されたOAM波を、受信側のアンテナのモードL1及びモードL1が設定された4つのアンテナ素子により受信した後に、分波によりモードL1について得た受信ピーク強度の結果を示す。一方、図31は、送信側アレイアンテナの4つのアンテナ素子毎にモードL1及びモードL−1を設定し、合波して放射されたOAM波を、受信側アレイアンテナのモードL−1及びモードL−1が設定された4つのアンテナ素子により受信した後、分波によりモードL−1について得た受信ピーク強度の結果を示す。
図30の符号D1、D2のグラフに示すように、送信側のOAM波のモードがL1の信号を、受信側も同じモードL1で受信した場合と、送信側のOAM波のモードがL−1の信号を、受信側が異なるモードL1で受信した場合との受信レベル差は>20dBである。同様に、図31の符号D3、D4のグラフに示すように、送信側のOAM波のモードがL−1の信号を、受信側も同じモードL−1で受信した場合と、送信側のOAM波のモードがLの信号を、受信側が異なるモードL−1で受信した場合との受信レベル差は>20dBである。従って、先に図19、図20で示したハイブリッド分波器・ハイブリッド合波器を使わずアレイアンテナを構成する素子数(8個)が多いケースと比較すると、この図30及び図31ではその半分の素子数(4個)でもOAM波のモードL±1による多重化での信号分離が実現できることが実証された。分離レベルの低下は同じ素子数のアンテナ素子を円周上に並べれば改善できると考えられるので、アレイアンテナサイズに制約があり、同じ素子数のアンテナ素子を円周上に配置する条件では、ハイブリッド分波器及びハイブリッド合波器を用いてアンテナ素子を共有することが有効である。
[第3の実施形態]
本実施形態では、先に第2の実施形態の図24で示した第1の実施形態に対する課題を解決する対策(アンテナ素子を共有し素子数を削減)を示す。この図24で挙げた送受信でも同じアンテナ素子を共用する対策(b)について、この第3の実施形態ではアレイアンテナに接続される送受信構成を説明する。図24から分かるように、先の第2の実施形態で異なるモードのアレイアンテナ間で同一の円周上に配置されるアンテナ素子を共用することで素子数を削減することに加え、送受信が共用されることでさらに一層素子数が削減でき、より多くOAM波のモードを使用する多重化に繋げられる。
図32及び図33を用いて、本実施形態による多重送受での素子配置を説明する。
図32は、本実施形態による多重送受におけるアンテナ素子の配置を示す図である。同図に示すように、アンテナ810は、同心・同径円周上のアンテナ素子811を使用して送受信のアンテナ素子も共有する。同図においては、本来、同じ円周上に配置した8個のアンテナ素子811である所、共用する4つのアンテナ素子811を1つ飛びに配置した様子を示す。また、同図においては、円周上にアンテナ素子811を配置したアンテナ810は送受信とも同じであるが、必ずしも同じでなくてもよい。
図33は、通信装置800における接続構成を示す図である。送受信を行う通信装置800は、上述のように、送受信でアンテナ素子811を共用する。多重数をM、素子数をNとすると、通信装置800は、M個の送信信号生成装置801と、M個の受信信号復調装置802と、M個のサーキュレータ803と、M個の分波/合波器804と、M×N個の位相器805と、N個のハイブリッド分波/合波器806と、アンテナ810とを備える。アンテナ810は、N個のアンテナ素子811を備える。N個のアンテナ素子811をそれぞれ、アンテナ素子811−1〜811−Nと記載する。このように、通信装置800には、多重数M個の送信信号生成装置801と受信信号復調装置802、これら送信信号生成装置801と受信信号復調装置802に繋がるサーキュレータ803がある。サーキュレータ803の先はM個の分波/合波器804を介して、M×N個の可変の位相器805が接続される。位相器805では、OAM波の多重するモードに合わせて信号の位相が調整・設定される。位相器805は、先のN個のハイブリッド分波/合波器806を介してN個のアンテナ素子811と接続される。なお、サーキュレータ803では、信号の入力と出力の方向が順番に決まっており、この順番を逆にした入力から出力の方向の信号は通過させない。
なお、この図33に示す通信装置800の送信側の構成に対する受信側の構成については、先の図14の送信側の通信装置300に対する図15の受信側の通信装置400の構成や、図25の通信装置650、図28の通信装置680の送信側の構成に対する受信側の構成についての説明と類似する。
以下では、m種類目(mは1以上M以下の整数)のモードで送信する信号を生成する送信信号生成装置801を送信信号生成装置801−mと記載し、m種類目のモードで受信した信号を復調する受信信号復調装置802を受信信号復調装置802−mと記載する。送信信号生成装置801−m及び受信信号復調装置802−mと接続されるサーキュレータ803をサーキュレータ803−mと記載し、サーキュレータ803−mと接続される分波/合波器804を分波/合波器804−mと記載する。分波/合波器804−mのn番目(nは1以上N以下の整数)のポートと接続される位相器805を位相器805−m−nと記載する。位相器805−1−n〜805−M−n及びアンテナ素子811−nと接続されるハイブリッド分波/合波器806をハイブリッド分波/合波器806−nと記載する。
送信信号生成装置801−mは、生成した送信信号をサーキュレータ803−mに出力する。サーキュレータ803−mは、送信信号生成装置801−mから入力した送信信号を分波/合波器804−mに出力する。分波/合波器804−mは、サーキュレータ803−mから入力した送信信号をN個のポートに分波し、位相器805−m−1〜805−m−Nに出力する。位相器805−m−1〜805−m−Nは、分波/合波器804−mのn番目のポートから入力した送信信号の位相をm種類目のモードに基づいて調整し、ハイブリッド分波/合波器806−nに出力する。ハイブリッド分波/合波器806−nは、位相器805−1−n〜805−M−nから入力した送信信号を合波してアンテナ素子811−nに出力する。アンテナ素子811−nは、ハイブリッド分波/合波器806−nから入力した送信信号を放射する。
一方、アンテナ素子811−nは、受信した信号をハイブリッド分波/合波器806−nに出力する。ハイブリッド分波/合波器806−nは、アンテナ素子811−nから入力した受信信号を、位相器805−1−n〜805−M−nに分配する。位相器805−m−nは、ハイブリッド分波/合波器806−nから入力した受信信号の位相をm種類目のモードに基づいて調整し、分波/合波器804−mのn番目のポートに出力する。分波/合波器804−mは、位相器805−m−1〜805−m−Nから入力した受信信号を合波してサーキュレータ803−mに出力する。サーキュレータ803−mは、分波/合波器804−mから入力した受信信号を受信信号復調装置802−mに出力する。受信信号復調装置802−mは、サーキュレータ803−mから入力した受信信号を復調する。
この図33に示す通信装置800の構成とする利点は、アンテナ素子を多重するOAM波のモードで共有し、かつ又は、送受信でアンテナ素子を共有するため、アンテナが備える素子数を削減できる点である。これにより、同じ円周上にアンテナ素子を配置する際に、素子数の制約を解消することができる。
以上説明した実施形態によれば、OAM波を用いて無線多重通信を行うアンテナは、異なる複数種類のアレイアンテナを有する。アレイアンテナの種類は、OAM波のモードと、送信か受信かの送受信種別とにより表される。アンテナが有する複数のアレイアンテナそれぞれを構成するアンテナ素子は、同一の円周上に配置される。つまり、異なるOAM波のモードのアンテナ素子や、OAM波を送信するアンテナ素子とOAM波を受信するアンテナ素子とが、同一の円周上に配置される。
また、上述したOAM波の多重通信を行うアンテナにおいて同一円周上に配置されるアンテナ素子は、OAM波の送信と受信の一方又は両方を行う。つまり、アンテナは、OAM波を送信(放射)する送信側のアレイアンテナと、OAM波を受信する受信側のアレイアンテナを有しており、送信側のアレイアンテナのアンテナ素子と、受信側のアレイアンテナのアンテナ素子の少なくとも一部を共用して使用する。それぞれのアレイアンテナにおいて、アンテナ素子は等間隔に配置される。
また、上述したOAM波の多重通信を行うアンテナにおいて同一円周上に配置されるアンテナ素子は、OAM波の送信と受信の一方又は両方を行う。アンテナは、異なるOAMモードのOAM波を送信する送信側のアレイアンテナを複数有し、それら複数の送信側のアレイアンテナで少なくとも一部のアンテナ素子を共有する。あるいは、アンテナは、異なるOAMモードのOAM波を受信する受信側のアレイアンテナを複数有し、それら複数の受信側のアレイアンテナで少なくとも一部のアンテナ素子を共有する。アンテナは、少なくとも一部のアンテナ素子を共有する複数の送信側アレイアンテナと、少なくとも一部のアンテナ素子を共有する複数の受信側アレイアンテナの両方を有してもよい。それぞれの送信側アレイアンテナ、受信側アレイアンテナにおいて、アンテナ素子は等間隔に配置される。
以上説明した実施形態によれば、それぞれ異なる種類のアレイアンテナを複数有し、OAM波を用いて無線多重通信するアンテナは、送信側のアレイアンテナからのOAM波の放射ピークの方向と、受信側のアレイアンテナのアンテナ素子の方向との外れ量を僅かにすることにより、受信レベルの低下を抑制する。この受信レベルの低下の抑制により、OAM波を用いた多重送受信をより確実にできる。
また送受信のアンテナ素子、又は、異なるモードのアンテナ素子を共用することにより、アレイアンテナの素子数を削減できる。そのため、従来の素子数のままでは同じ円上に異なる種別の(OAMのモードと送受信種別の少なくとも一方が異なる)アンテナ素子を等間隔で配置することが物理的にできなかった課題も解消される。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。