以下、図面を参照しつつ本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
図1は、一実施形態に係る歩行計測システムの構成を示すブロック図である。図2は、図1の歩行計測システムが適用されたTUG試験を説明する概略図である。図3(a)及び図3(b)は、従来の歩行計測システムによる解析結果の例を示す各図である。なお、図3中では、ラインは脚部の移動軌跡を示す。ライン上において、小さな印は遊脚を示し、大きな印は着床位置を示す。
図1及び図2に示すように、歩行計測システム100は、椅子2と、マーカ3と、レーザレンジセンサ(Laser Range Sensor,距離情報取得部)10と、圧力センサ15と、電子制御装置20と、モニタ30と、ポール40と、を備えている。歩行計測システム100は、例えば歩行能力や動的バランス、敏捷性等を総合した機能的移動能力を評価する歩行試験の一つであるTUG試験に好適に適用することができる。歩行計測システム100は、定量的な歩行計測や歩行能力評価することができる。
TUG試験において、被験者1は、椅子2に座った状態から立ち上がり、所定距離(例えば3m)前方のコーン等のマーカ3に向かって歩行し、当該マーカ3をターンし、その後、椅子2まで戻って再び椅子2に着席する。TUG試験は、厚生労働省の体力測定マニュアルの一つである。TUG試験では、走らない最大歩行速度での歩行が求められる。マーカ3としては、ターン位置の目印となるものであれば、種々のマーカを用いることができる。TUG試験では、マーカ3とレーザレンジセンサ10との位置合わせを行うために、1又は複数(ここでは2本)の基準部材としてのポール40が使用される。ポール40は、所定高さの円柱状外形を有する。所定高さは、レーザレンジセンサ10から出射されるレーザ光の高さ位置(レーザレンジセンサ10の光窓部の高さ)よりもポール40の上端が上方に位置する高さである。ポール40としては、その形状等は特に限定されず、種々のポールが使用される。歩行計測システム100は、このようなTUG試験における歩行パラメータを計測して評価する。
歩行計測システム100は、2本のポール40をレーザレンジセンサ10で検出することで、2本のポール40の中心同士を結ぶ直線を一軸に持つ平面座標系を定義することができ、マーカ3が設置される床面をこの平面座標系とすることができる。この場合、2本のポール40とマーカ3との位置関係を厳密に調整すれば(具体的には、2本のポール40を結ぶ線分の中点から、この線分の垂直線上の3mの位置にマーカ3を設置すれば)、レーザレンジセンサ10の設置位置及び/又は向きをラフに位置合わせをしたとしても、レーザレンジセンサ10とマーカ3との相対位置関係を厳密に把握することが可能となる。
本実施形態の歩行計測システム100は、レーザレンジセンサ10で被験者1の両脚部をスキャンした際にみられる特徴的なパターンによって脚部の観測位置である脚部観測位置(以下、単に「観測位置」ともいう)を取得し、カルマンフィルタを用いた追跡を行い、取得した両脚部の移動軌跡に基づき歩行パラメータを算出する。
具体的には、歩行計測システム100では、被験者1の両脚部が接近する状況や一時的に脚部がレーザレンジセンサ10から観測できない状況に対して、脚部の見失いや誤識別を低減するために、5種類の観測パターンに基づき脚部観測位置を取得する。また、脚部の状態(遊脚・支持脚、速さ、隠れ)を考慮した有効領域(ゲート)の設定により、脚部観測位置と追跡中の両脚部との一対一の対応付け(相関処理)を行う。以下において、「脚部」を単に「脚」とも称し、「支持脚部」を単に「支持脚」とも称し、「遊脚部」を単に「遊脚」とも称する。「左脚部」を単に「左脚」とも称し、「右脚部」を単に「右脚」とも称する。「片脚部」を単に「片脚」とも称し、「両脚部」を単に「両脚」とも称する。
実際の人の歩行(両脚の速度)は周期的に変化する。特に、TUG試験では、被験者1に走らない最大歩行速度で行うように指示を与えるため、両脚の速度変化が大きい。そこで、歩行計測システム100では、歩行位相を考慮した加減速モデルを歩行モデルとして適用する。人は、歩行する際に、片足を軸足(支持脚)としてもう一方の脚(遊脚)を振るといった周期的な運動を行う。「歩行位相」とは、人の歩行中の両脚の周期的な運動を支持脚と遊脚との振りの状態に基づいて分類したものである(例えば図9参照)。
また、TUG試験にはターン動作が含まれるため、必ず片脚がレーザレンジセンサ10から隠れる状況(以下、単に「隠れ」ともいう)が生じる。当該ターン動作の際にレーザレンジセンサ10の距離データが乱れ、観測パターンを利用しても脚部観測位置を正しく検出できない場合もある。また、両脚は、ターン動作前のフォーワードフェーズ(Forward phase)での直線的な動きから、ターン動作時のターニングフェーズ(Turningphase)において旋回運動を行う。そのため、進行方向が急激に変化する。そのため、図3(a)に示すように、隠れや動きの変化から脚部の見失いや誤識別が生じやすい。そこで、歩行計測システム100では、人の歩行位相の周期性を考慮した相関処理を実施する。
片脚がレーザレンジセンサ10から観測できない場合、カルマンフィルタの予測位置を観測位置として取得する。ターン動作時には遊脚は円運動に近い運動を行うことから、時々刻々とその移動方向が変化する。遊脚が支持脚で隠れている間においては、隠れる直前に観測された遊脚の移動方向から当該遊脚の位置を予測するため、図3(b)に示すように、取得した脚部位置の計測精度が劣化し、誤識別や見失いが生じやすい。よって、脚部が隠れている間の脚部位置を補間・修正する手法が必要である。
そこで、歩行計測システム100では、TUG試験のような高速且つ片脚が必ずレーザレンジセンサ10から隠れる状況が存在する歩行試験において、見失いや誤識別のない両脚の追跡及び計測精度の向上のために、
・歩行位相を考慮した歩行モデルの適用、
・歩行位相の周期性を考慮した相関処理、
・スプライン曲線を用いた、脚部が隠れている間におけるデータの補間及び/又は修正
・レーザレンジセンサ10からの脚部の相対距離、及び/又は、観測状態(観測パターン)に基づく観測雑音の設定、
を実施する。そして、取得した両脚部の移動軌跡から、機能的移動能力を定量的に評価するための歩行パラメータを算出する。
図4は、図1の歩行計測システム100のレーザレンジセンサ10を説明する平面図である。レーザレンジセンサ10は、両脚部の移動軌跡を取得するためのセンサである。レーザレンジセンサ10は、ある高さの二次元平面におけるセンサ周辺の物体までの距離である二次元平面距離情報(以下、単に「距離情報」ともいう)を取得する。図1,図2及び図4に示すように、レーザレンジセンサ10は、水平方向に沿って走査するようにレーザ光(検出波)Lを出射すると共に、このレーザ光Lの反射状態に基づいて、レーザ光Lを反射した被験者1の脚部F(右脚部FR及び左脚部FL)との距離に関する二次元平面距離情報を経時的に取得する。
具体的には、レーザレンジセンサ10では、レーザ光Lを出射すると共に、このレーザ光Lを回転ミラーで反射させることにより、測定領域においてレーザ光Lを扇状に水平方向に走査する。より具体的には、レーザレンジセンサ10は、被験者1と、被験者1の両側に設置されたポール40が測定領域に含まれるように、レーザ光Lを扇状に水平方向に走査する。そして、例えば被験者1の脚部Fで反射されたレーザ光Lの反射光を受光し、反射光の検出角度(走査角度)、及びレーザ光Lの出射から受光までの時間(伝播時間)を計測し、該脚部Fとの角度及び距離に係る情報を含む距離情報を検出する。
レーザレンジセンサ10は、例えば試験試行前もしくは試験試行後に被験者1にレーザ光Lをスキャンし、被験者1の脚部Fの幅(脛部の直径に対応する長さ)に関する脚部情報を検出する。レーザレンジセンサ10は、検出した距離情報及び脚部情報を電子制御装置20へ出力する。
レーザレンジセンサ10は、レーザ光Lを出射する光窓部の高さが調整可能に構成されている。レーザレンジセンサ10は、被験者1の脛部の高さ(つまり、足首から膝下までの高さ)に対応する高さ位置でレーザ光Lが出射されるように設置されている。レーザレンジセンサ10の光窓部の高さは、マーカ3でレーザ光Lが反射しないように、マーカ3の高さよりも高い位置とされている。レーザレンジセンサ10の光窓部の高さは、遊脚期に被験者1の脚部Fが離床した場合にも当該脚部Fを観測可能であること、及び、脚部Fの幅が最大となる平均高さを考慮して、例えば床面(地面)から0.15m〜0.27m(ここでは、0.27m)とされている。
レーザレンジセンサ10は、椅子2の座部下方に形成された空間内にて、レーザ光Lの出射方向がマーカ3側に向くように配置されている。レーザレンジセンサ10は、マーカ3に近づく(椅子2から遠ざかる)被験者1の後方側から、つまり、マーカ3から遠ざかる(椅子2に近づく)被験者1の前方側から、当該被験者1にレーザ光Lを照射する。レーザレンジセンサ10は、レーザ光Lの出射方向が床面に対して水平になるように設置されている。
レーザレンジセンサ10としては、測距範囲が0.1〜30m、測域角度が270deg、測距精度が±30mm、角度分解能が0.25deg、及びサンプリング周期が25ms/scanのセンサが用いられている。ちなみに、レーザレンジセンサ10は、そのタイプや仕様(スペック)について限定されるものではなく、例えば測定環境に応じて種々のものを用いることができる。なお、レーザレンジセンサ10は、例えばEMI(電磁ノイズ)の悪影響を抑制するために、筐体により囲まれていてもよい。
圧力センサ15は、被験者1が椅子2から立ち上がる立上がり時刻と、椅子2に着席する着席時刻とを検出するセンサである。圧力センサ15は、椅子2の座面上に敷かれるように設けられている。圧力センサ15は、印加された圧力に関する圧力情報を検出し、当該圧力情報を電子制御装置20へ出力する。ここでの圧力センサ15の圧力情報は電圧値であり、当該電圧値は、マイコン基板を介してA/D変換されて電子制御装置20へ入力される。
電子制御装置20は、レーザレンジセンサ10で取得した距離情報に基づく演算を行って被験者1の脚部Fの位置である脚部位置を経時的に特定し、被験者1の歩行特性を取得する。電子制御装置20は、音(音声)及び表示の少なくとも何れかのスタート合図(後述)を、被験者1に対して出力する。スタート合図は、計測者の操作に応じて電子制御装置20から出力される。電子制御装置20は、スタート合図の時刻を記憶する。なお、スタート合図は、電子制御装置20とは別の機器又は計測者により実行してもよい。この場合、スタート合図の時刻は、電子制御装置20とは別の機器又は計測者により、電子制御装置20へ入力される。
電子制御装置20としては、例えば、パーソナルコンピュータや専用制御用コンピュータが用いられ、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read OnlyMemory)、RAM(Random Access Memory)等を含んで構成されている。電子制御装置20は、機能的要素として、センサデータ取得部21と、記憶部22と、着席判定部23、データ解析部24と、を有している。
センサデータ取得部21は、レーザレンジセンサ10で検出した距離情報と圧力センサ15で検出した圧力情報とを、同期して取得する。また、センサデータ取得部21は、電子制御装置20に記憶されたスタート合図の時刻に同期して距離情報を取得してもよい。センサデータ取得部21は、レーザレンジセンサ10で検出した脚部情報を取得する。センサデータ取得部21は、取得した距離情報、脚部情報及び圧力情報を記憶部22へ出力する。センサデータ取得部21は、取得した圧力情報を着席判定部23へ出力する。
記憶部22は、センサデータ取得部21で取得した距離情報及び圧力情報を、処理時刻(サンプリング時刻)に関連付けて格納する。記憶部22は、センサデータ取得部21で取得した被験者1の脚部情報を格納する。着席判定部23は、センサデータ取得部21で取得した圧力センサ15の圧力情報に基づいて、被験者1が着席したか否かを判定する。例えば着席判定部23は、圧力センサ15からの電圧値が閾値よりも大きく立ち上がっている場合に、着席していると判定する。着席判定部23は、圧力センサ15からの電圧値が閾値以下の場合に、着席していないと判定する。着席判定部23は、判定結果を記憶部22に出力し、記憶部22は、当該判定結果を記憶する。
データ解析部24は、レーザレンジセンサ10で取得された距離情報に少なくとも基づいて、被験者1の脚部Fの位置及び速度を、時間に関連付けて演算して取得する。データ解析部24は、試験試行後において記憶部22に保存された保存データを解析することにより、両脚部の移動軌跡及び歩行パラメータを取得する。データ解析部24は、脚検出部26、脚追跡部27、及び歩行パラメータ算出部28を有している。歩行パラメータとしては、一般的歩行パラメータ及びTUG試験に関する歩行パラメータを有する。
一般的歩行パラメータは、一般的な歩行試験において転倒リスクを評価するための歩行パラメータであって、着床位置、歩行速度[m/秒]、歩数[歩]、歩行率[歩/秒]、歩幅[m]、ストライド長[m]、歩隔[m]、及び、支持脚時間(片足支持脚時間[s]及び両脚支持脚時間[s]の少なくとも何れか)を含む。
TUG試験に関する歩行パラメータは、TUG試験において転倒リスクを評価するためのパラメータであって、反応時間(立上がり時間)[秒]、TUG遂行時間[秒]、ターン方向、一歩目時間(一歩目の離床時間)[秒]、及び、マーカ3との最短距離[m]を含む。
歩行パラメータは、動作を開始してからマーカ3を回る前のフォーワードフェーズ(Forwardphase)、マーカ3を回っている間のターニングフェーズ(Turning phase)、及び、マーカ3を回ってから着席するまでのリターンフェーズ(Return phase)に分類されて算出される。換言すると、歩行パラメータは、これらのフェーズ毎に算出される。このとき、歩幅、ストライド長、歩隔、片脚支持脚時間、両脚支持脚時間については、その平均、標準偏差及び変動係数がフェーズ毎に算出される。
着床位置は、脚部Fが床面に着床した位置である。歩行率は、単位時間当たりの歩数である。片足支持脚時間は、同じ脚の着床(接床)から離床までの時間である。両脚支持脚時間は、一方の脚の着床から他方の脚の離床までの時間である。歩幅は、一方の脚の着床位置(例えば踵位置)から他方の脚の着床位置までの距離である。ストライド長は、同じ脚についての隣接する着床位置間の距離である。歩隔は、前額面における(被験者1を正面から見た場合における)両脚の踵の間隔である。
反応時間は、歩行試験の開始時刻(スタート合図の時刻)から被験者1が立ち上がる(臀部が椅子2の座面から離れる)までの時間である。TUG遂行時間は、TUG試験の遂行時間であり、歩行試験の開始時刻から終了まで(椅子2に着席した被験者1が動き出してから再び着席するまで)の時間である。一歩目時間は、歩行試験の開始時刻から被験者1が一歩目の脚部Fを上げる(離床する)までの時間である。マーカ3との最短距離は、マーカ3中心と脚部Fの移動軌跡との最短距離である。
[脚検出]
図5〜図8は、脚部観測位置の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。図5(a)及び図7(a)は、SL(Single Leg)パターンの例を説明する図である。図5(b)及び図7(b)は、LT(twoLegs Together)パターンの例を説明する図である。図5(c)及び図8(a)は、FS_O(Forward Straddle Observable)パターンの例を説明する図である。図6(a)及び図8(b)は、FS_U(Forward Straddle Unobservable)パターンの例を説明する図である。図6(b)は、UO(Unobservable)パターンの例を説明する図である。
脚検出部26は、被験者1の脚部Fの観測位置である脚部観測位置を検出する。具体的には、脚部Fの二次元平面距離情報が特徴的な形状となることに鑑み、二次元平面距離情報にエッジ検出処理を施して脚部FのエッジEの位置を検出する。複数の観測パターンを用いたパターン認識によって、当該エッジEの位置から脚部Fの候補点として脚部観測位置を検出する。このとき、被験者1の脚部Fの幅wlに関する脚部情報を用い、脚部Fの幅wlを既知とする。脚検出部26による脚検出について、以下に具体的に説明する。
被験者1がレーザレンジセンサ10の計測範囲内に存在し、レーザレンジセンサ10と被験者1の間に障害物がない場合には、レーザレンジセンサ10が取得する二次元平面距離情報は、図5及び図6に示すような特徴的な形となる。脚検出部26は、5種類の観測パターンを考慮した脚検出手法により、脚部観測位置(観測値)yf k(下記数式8の左辺のベクトルに対応)を算出する。
脚検出部26は、まず、レーザレンジセンサ10で取得した右からi番目の距離情報をliとし、隣接するレーザレンジセンサ10の二次元平面距離情報が被験者1の脚部Fの幅wlに対して、下記数式1を満たす場合、エッジeh m(h=B,F)を検出する。このとき、li>li+1の場合は、エッジeB m=i及びエッジeF m+1=i+1とする。li<li+1の場合は、エッジeF m=i及びエッジeB m+1=i+1とする。上添え字Bは、レーザレンジセンサ10に対して奥側のエッジEであることを示し、上添え字Fは、手前側のエッジEであることを示す。下添え字m(m=1,・・・,Mk)はm番目に検出したエッジEであることを示す。Mkは、時刻kにおいて検出したエッジEの総数である。
そして、連続した4つのエッジeh n,eh n+1,eh n+2,eh n+3の位置関係及びエッジeh n+1,eh n+2間の幅weに基づいて、5種類の観測パターンに分類し、観測値である脚部観測位置ykを算出する。ただし、n=1,・・・,Mk−3で、下添え字kは時刻kにおける観測位置であることを示す。
図5(a)及び図7(a)に示すように、SLパターンとしての観測パターンO1は、脚部Fが単独でレーザレンジセンサ10から完全に観測できている場合の観測パターンである。観測パターンO1は、エッジEの組み合わせが(eB n,eF n+1,eF n+2,eB n+3)を満たすと共に、エッジE間の幅が0.5wl<we≦1.5wlを満たす。このとき、脚部観測位置ykは、被験者1の脚部Fの幅wlを考慮して、図5(a)に示すように求められる。例えば脚部観測位置yk jは、図示するように、(eF n+1+eF n+2)/2を通るラインと脚部Fの幅wlの1/2とから求められる。
図5(b)及び図7(b)に示すように、LTパターンとしての観測パターンO2は、脚部Fがそろってレーザレンジセンサ10から完全に観測できている場合の観測パターンである。観測パターンO2は、エッジEの組み合わせが(eB n,eF n+1,eF n+2,eB n+3),(eF n,eB n+1,eF n+2,eB n+3)又は(eB n,eF n+1,eB n+2,eF n+3)を満たすと共に、エッジE間の幅が1.5wl<we<3.0wlを満たす。このとき、脚部観測位置ykは、被験者1の両脚が揃っていることを考慮して、図5(b)に示すように求められる。例えば脚部観測位置yk j+1は、図示するように、(eF n+1+3eF n+2)/4を通るラインと脚部Fの幅wlの1/2とから求められる。例えば脚部観測位置yk jは、図示するように、(3eF n+1+eF n+2)/4を通るラインと脚部Fの幅wlの1/2とから求められる。
図5(c)及び図8(a)に示すように、FS_Oパターンとしての観測パターンO3は、片方の脚部Fや杖等の影響によってパターンが段状になり、エッジEの位置間の幅が被験者1の脚部Fの幅wlの1/2以上あり、且つ、脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10から観測できている場合の観測パターンである。観測パターンO3は、エッジEの組み合わせが(eF n,eB n+1,eF n+2,eB n+3)又は(eB n,eF n+1,eB n+2,eF n+3)を満たすと共に、エッジE間の幅が0.5wl≦we<1.5wlを満たす。このとき、脚部観測位置ykは、被験者1の脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10から観測できることを考慮して、図5(c)に示すように求められる。例えば脚部観測位置yk jは、図示するように、(eB n+1+eF n+2)/2を通るラインと脚部Fの幅wlの1/2とから求められる。
図6(a)及び図8(b)に示すように、FS_Uパターンとしての観測パターンO4は、FS_Oパターンである観測パターンO3に対して、エッジE間の幅が被験者1の脚部Fの幅wlの1/2より小さく、且つ、脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10から直接観測できない場合の観測パターンである。観測パターンO3は、エッジEの組み合わせが(eF n,eB n+1,eF n+2,eB n+3)又は(eB n,eF n+1,eB n+2,eF n+3)を満たすと共に、エッジE間の幅が0.3wl<we<0.5wlを満たす。このとき、観測パターンO1〜O3とは異なり脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10で直接観測できないため、脚部観測位置ykは、図6(a)に示すように仮想的に算出される。例えば脚部観測位置yk jは、図示するように、eB n+1を通るライン及びeF n+2を通るラインと、脚部Fの幅wlの1/2と、から求められる。図8(b)中の中抜きの正方形は、仮想のエッジを示す。
図6(b)に示すように、UOパターンとしての観測パターンO5は、一方の脚部Fが他方の脚部Fに隠れる際やレーザレンジセンサ10よりも高く脚部Fを上げた際等における、観測できない場合の観測パターンである。
なお、脚部Fがレーザレンジセンサ10から直接観測できない状況においても、FS_Uパターンである観測パターンO4を定義して仮想的に脚部観測位置ykを求めることで、脚部Fの位置の計測精度の向上が期待される。脚部観測位置ykの検出では、観測パターンO1〜O4を満たさないエッジEの位置は脚部Fではないと判定することができる。また、不要な相関処理を避けるために、歩行路の領域に対して所定長広い領域を測定領域とし、測定領域外の脚部観測位置ykとそれに対応するエッジEの位置とを除外する。
脚部観測位置ykの検出では、エッジEの位置間の中央ではなく、例えばエッジEの位置から脚部Fの幅wlの1/2だけ内側に入った位置が、脚部観測位置ykとして検出される。以上のように複数の観測パターンO1〜O5に応じて脚部Fの脚部観測位置ykを検出することにより、レーザレンジセンサ10から見て一方の脚部Fが重なって隠れた場合にも、脚部Fを好適に検出することが可能となる。
[脚追跡]
脚追跡部27は、カルマンフィルタの予測処理により脚部Fの位置及び速度を予測し、脚検出部26で取得した脚部観測位置ykとの相関処理を行い、両脚を追跡する。脚追跡部27は、追跡対象や脚部観測位置ykが複数存在する場合、追跡対象に相関し得る脚部観測位置ykを限定するために、予測位置を中心とした有効領域(ゲート)を設定し、ゲート内に存在する脚部観測位置ykとの対応付けを行う。
脚追跡部27では、歩行位相を考慮した歩行モデル(加速モデル)の適用と、人の歩行位相が周期的に変化することを考慮した相関処理と、ターニングフェーズ等で脚部が隠れている間の脚部観測位置ykのCatmull-Romスプライン曲線を用いたデータ補間及び修正と、脚部Fの相対距離及び観測状態(観測パターンO1〜O4)に基づく観測雑音の設定と、が実施される。これにより、高速且つ片脚が必ずレーザレンジセンサ10から隠れる状況が存在する歩行試験において、見失いや誤識別のない両脚の追跡及び計測精度の向上を実現する。脚追跡部27による脚追跡について、以下に具体的に説明する。
脚追跡部27は、脚部推定部27a、支持脚遊脚判定部27b、歩行位相判定部27c、加速度入力推定部27d、予測位置算出部27e、相関処理部27f、隠れ時データ補間部27g、及び、観測雑音設定部27hを有している。
脚部推定部27aは、歩行位相を考慮した歩行モデルを用いた予測処理を行い、脚部Fの位置及び速度を推定する。予測処理では、カルマンフィルタを用いている。
図9は、歩行モデルを説明する図である。人は、歩行する際、一方の脚を軸足(支持脚)としながら他方の脚(遊脚)を振って歩行を進める。両脚は、着床によって遊脚と支持脚とを変えながら周期的に運動する。図9に示すように、脚部Fの移動速度v及び加速度aの変化に着目して、人の歩行を単純化した歩行モデルを生成することができる。
歩行モデルでは、静止時も含めた以下の6つの歩行位相が定義されている。また、歩行位相は周期的に変化する(例えば、位相1後は必ず位相2に移行し、位相3及び位相4に移行することはない)。そこで、後述するように、歩行位相が周期的に変化することを考慮し、相関処理における誤識別を低減する。
・位相0: 静止時で両脚が支持脚
・位相1:左脚が遊脚(加速,振上げ動作),右脚が支持脚
・位相2:左脚が遊脚(減速,着床に向けた動作),右脚が支持脚
・位相3:左脚が支持脚,右脚が遊脚(加速,振上げ動作)
・位相4: 左脚が支持脚,右脚が遊脚(減速,着床に向けた動作)
・位相5:両脚が遊脚(歩行時には見られない)
TUG試験では被験者1に走らない最大歩行速度で行うように指示を与えることから、両脚の速度変化が大きい。そのため、加減速を行うモデルが歩行モデルとして適用されている。
人の重心を追跡する場合には,状態変数に角度,角速度を含んだ非線形モデルが用いられることが多い。一方、TUG試験においては、ターン動作時に両脚の移動方向が急激に変化することから、移動方向に対する指向性を持たない線形の移動モデルを適用することが望ましい。そこで、歩行モデルとしては、移動方向に対する指向性を持たない線形の移動モデルを適用する。
加減速を伴う歩行モデルを考慮した場合の各脚部Fの離散時間状態方程式は、下記数式2で与えられる。下記数式2において、上付き添え字fは、f=L,Rでそれぞれ左脚及び右脚を示す。状態変数は、下記数式3に示す値を有する。下記数式4は、それぞれ時刻kにおける被験者1の各脚部Fの位置及び速度である。
uf kは、歩行位相に応じた加速度入力であり、下記数式5に示す。つまり、フィルタリング処理では、歩行位相に応じた加速度に基づいている。下記数式6のシステム雑音Δxf kを平均0、共分散Qf kの正規性白色雑音で与えるものとする。このとき,状態方程式の行列A,Bu,Bは、下記数式7となる。
また、レーザレンジセンサ10を用いて取得した各脚部Fの観測位置である脚部観測位置yf kを下記数式8とすると、観測方程式は、下記数式9で与えられる。ここで,wf kは平均0,共分散Rf kの正規性白色雑音であるとする。このとき,行列Cは、下記数式10となる。
支持脚遊脚判定部27bは、脚部Fの速度に基づいて、脚部Fが支持脚及び遊脚の何れであるかを判定する支持脚遊脚判定を行う。支持脚遊脚判定部27bは、右脚において、下記数式11を満たす場合に支持脚と判定する一方、下記数式12を満たす場合に遊脚と判定する。vst_thは支持脚の速度閾値を示し、vsw_thは遊脚の速度閾値を示す。支持脚遊脚判定部27bは、左脚においても同様に、つまり、右脚と左脚とを入れ替えた下記数式11及び下記数式12により、支持脚遊脚判定を行う。
歩行位相判定部27cは、両脚部の相対的な位置関係及び速度に基づいて歩行位相を判定し、歩行位相が位相0〜5の何れであるかを特定する。具体的には、まず、両脚部とも支持脚の場合、位相0と特定する。次に、左脚部が遊脚で右脚部が支持脚の場合、左脚部の右脚部に対する位置ベクトルと左脚部の速度ベクトルの内積(下記数式13参照)が正の値をとるときには位相1と特定し、負の値をとるときには位相2と特定する。また、左脚部が支持脚で右脚部が遊脚の場合、同様に、右脚部の左脚部に対する位置ベクトルと右脚部の速度ベクトルの内積が正の値をとるときには位相3と特定し、負の値をとるときには位相4と特定する。最後に、両脚部が遊脚の場合、位相5と特定する。歩行位相判定部27cで歩行位相が位相5と特定した場合、データ解析部24は、被験者1が走行していると判定し、例えばモニタ30を介して、被験者1が走行している旨の注意喚起を出力する。
加速度入力推定部27dは、人の歩行モデルにおける加速度入力を、歩行位相と過去のデータとに基づき推定する。加速度入力推定部27dは、歩行位相が位相0の場合、uL k=0,uR k=0とする。加速度入力推定部27dは、歩行位相が位相1の場合、加速度入力uL kを下記数式14のとおり推定する。加速度入力推定部27dは、歩行位相が位相2の場合、加速度入力uL kを下記数式15のとおり推定する。gf kは、加速度関数であり、過去Nacステップ分の遊脚中の加速度ベクトルのノルムの平均値として算出される。右脚が遊脚の位相3,4においても同様の処理を行う。
予測位置算出部27eは、上記数式2で示した状態方程式により、時刻kにおける脚部Fの予測位置である脚部予測位置(以下、単に「予測位置」ともいう)y^f k/k−1を、下記数式16から求める。ここで、x^f k/k−1は時刻kにおける事前状態推定値、x^f k−1/k−1は時刻k−1における事後状態推定値である。
図10は、ゲートGを用いた脚部予測位置y^f k/k−1の検出を説明する図である。図中の丸印は、遊脚の脚部位置を示し、図中の二重丸印は、支持脚の脚部位置を示す。図中においては、時刻kにおける脚部Fの脚部予測位置y^f k/k−1を「×」で示している。
相関処理部27fは、歩行フェーズの周期性を考慮した脚部観測位置yj k及び脚部予測位置y^f k/k−1の相関処理を行い、これらの相対的な位置関係から脚部位置を特定する。相関処理部27fは、図10に示すように、追跡対象に対応し得る脚部観測位置yj kを限定するために、脚部予測位置y^f k/k−1を中心とした有効領域であるゲートGを設定し、ゲートG内の脚部観測位置yj kに対する対応付けを行う。相関処理部27fは、脚部観測位置yj kがゲートG内に存在するときに、このゲートG内の脚部観測位置yj kのみを対応付けし、例えば脚部観測位置yj kを脚部位置として特定する。また、脚部観測位置yj kがゲートG内に存在しないとき、脚部予測位置y^f k/k−1を対応付けし、例えば脚部予測位置y^f k/k−1を脚部位置として特定する。
相関処理部27fにおいて、複数の追跡対象に対するゲートGを用いた相関処理を行うための観測位置と追跡する両脚部との対応付けに関するコスト関数を、下記数式17に示す。df,jはj番目の観測位置yj kと各脚部(f=L,Rでそれぞれ左脚,右脚を示す)の脚部予測位置y^f k/k−1との対応付けに関するコストを示し,下記数式18で与えるものとする。
j=0はゲートG内に含まれる観測位置が誤検出であることを示す。λf,jは、マハラノビス距離であり、下記数式19で与えられる。Sf kは観測予測誤差(yj k−y^f k/k−1)の共分散行列である。dmaxは、下記数式20に示すゲートGより大きな値を設定する。下記数式20を満たす場合に、脚部観測位置yj kが脚部予測位置y^f k/k−1のゲート内に含まれると判定する。Gはゲートで、脚部観測位置yj kが二次元ベクトルでカルマンフィルタを用いる本実施形態の場合、自由度2のカイ二乗(χ2)分布に基づいて決定する。例えば,含有確率PG=0.95とした場合、G=5.99である。
ここで、TUG試験では、ターニングフェーズにおいて、片脚がレーザレンジセンサ10から隠れる状況が生じ、その際に進行方向が急激に変化することが想定される。また、ターニングフェーズにおいて、レーザレンジセンサ10の距離情報が乱れ、脚パターンを利用した際に観測位置(脚部観測位置yj k)を誤検出する場合が想定される。そのため,図3(a)に示すように,隠れや移動方向の変化から両脚部の誤識別が生じやすい。そこで、相関処理部27fにあっては、以下のとおり、人の歩行位相の周期性を考慮した相関処理を実行し、当該観測位置の確からしさを判断し、人の歩行位相の周期性から逸脱した観測位置を誤検出とする。
すなわち、観測位置の誤検出に対して誤った対応付けを防ぐために、人の歩行位相が周期的に変化することを考慮して、コストdf,jを設計する。まず、予測位置算出部27eで予測された予測位置に対応付けられた全ての観測位置に対して、一度カルマンフィルタのフィルタリング処理を行う。これにより、当該観測位置に係る脚部Fの位置及び速度を推定する。推定した脚部Fの位置及び速度に基づいて、歩行位相判定部27cにおける判定と同様に、歩行位相(位相0〜5)を判定して特定する。特定した歩行位相が、人の歩行位相の周期的な変化から逸脱した変化をしている場合には,当該観測位置を誤検出と判断して、コストdf,j=dmaxとする。そして、ca,b<2dmaxを満たす中でca,bが最小となる対応付けを選択する。
人の歩行位相の周期性から逸脱した位相変化は、下記のとおり定義される。
・位相0⇒位相5
・位相1⇒位相0,位相3,位相4,位相5
・位相2⇒位相1,位相4,位相5
・位相3⇒位相0,位相1,位相2,位相5
・位相4⇒位相2,位相3,位相5
図11(a)は、従来手法により取得された両脚部の移動軌跡を示す図である。図11(b)及び図11(c)は、Catmull-Romスプライン曲線を用いた観測位置の仮想的算出を説明する図である。図11(a)では、移動軌跡60Rが右脚の移動軌跡を示し、移動軌跡60Lが左脚の移動軌跡を示す。各移動軌跡60R,60L上において、大きな点は支持脚を示し、小さな点は遊脚を示す。
一般的に、脚部Fがレーザレンジセンサ10から観測できない場合、カルマンフィルタによる予測位置を脚部位置として特定する。しかし、TUG試験のターン動作時には、遊脚が円運動に近い運動を行うことから、時々刻々と方向が変化する。そのため、遊脚が支持脚で隠れてしまう間、隠れる直前の方向に基づき予測を行うと、実際の運動と大きく異なる予測を行ってしまう可能性がある(図11(a)の丸枠内を参照)。この結果,誤識別や見失いが生じやすくなる。そのため、隠れ時(つまり、片脚がレーザレンジセンサ10から観測できない間)の位置を補間・修正する手法が必要である。
そこで、隠れ時データ補間部27gは、一度観測できなくなってから再度観測されるまでの(一時的に検出不能の)観測位置を、曲線を用いて仮想的に算出する。曲線は、観測できなる前の観測位置と、再度観測された後の観測位置と、に基づき求められる曲線である。曲線としては特に限定されないが、例えばスプライン曲線、Catmull-Romスプライン曲線が挙げられる。そして、隠れ時データ補間部27gは、歩行モデルを考慮し、カルマンフィルタの共分散行列等の状態量も更新するために、仮想的に算出した観測位置を用いて再度、カルマンフィルタを用いた予測処理及びフィルタリング処理を行う。これにより、隠れている間の観測位置を補間及び修正する。
図11(b)及び図11(c)に示すように、隠れ時データ補間部27gは、通過した4点から滑らかな曲線を定義することが可能なCatmull-Romスプライン曲線を用いて、観測位置を仮想的に算出する。時刻kから時刻(k+Nuo+1)間のNuo個の観測位置が得られなかった場合、隠れる前の2点の観測位置yk−Nbo,ykと、隠れた後の2点の観測位置yk+Nuo+1,yk+Nuo+Nao+1とを用いて、観測できなかった間の仮想の観測位置y´k+iを下記数式21に示すように算出する。ダッシュ記号は、仮想的に算出した観測位置であることを示す。図11(b)に示す例は、Nbo=1,Nao=1の場合を示し、図11(c)に示す例は、Nbo>1,Nao>1の場合(ここでは、Nbo=2,Nao=2の場合)を示す。図11(b)に示す例では、観測位置yk-1,yk,yk+3,yk+4を用いて観測位置y´k+1,y´k+2を仮想的に算出する。図11(c)に示す例では、観測位置yk-2,yk,yk+3,yk+5を用いて観測位置y´k+1,y´k+2を仮想的に算出する。
隠れ時データ補間部27gは、仮想的に算出した観測位置を計測値にするのではなく、歩行モデルを考慮し、カルマンフィルタの共分散行列等の状態量も更新するために、時刻kから再度カルマンフィルタの予測処理及びフィルタリング処理を行う。具体的には、隠れ時データ補間部27gは、脚部Fがレーザレンジセンサ10から観測(距離情報から検出)できなくなってから観測可能となるまでの間、暫定的に、予測位置を観測位置とする。そして、観測位置が観測可能となった後に、観測できなくなった時点に戻り、算出した仮想の観測位置y´k+iに基づいて、予測処理及びフィルタリング処理を再度行う。隠れ時データ補間部27gでは、隠れている間の観測位置を修正することで、計測値の精度向上だけでなく、誤識別等の低減も期待される。
図12に示す各グラフは、x方向及びy方向それぞれにおける脚部観測位置ykの計測誤差のRMS(二乗平均平方根:Root Mean Square)と、それらの平均値と、該平均値の近似直線と、を、各観測パターンそれぞれにおいて示す。観測位置の精度は、レーザレンジセンサ10からの距離及び観測状態(観測パターン)に応じて変化することが考えられる。
そこで、観測雑音設定部27hは、レーザレンジセンサ10からの相対距離lと観測状態(観測パターン)に基づき、観測雑音Rf kの値(標準偏差)を変更する。このとき、x方向及びy方向における観測位置の標準偏差σp x,yを、下記数式22に示すように線形で近似する。上付き添え字p=SL,LT,FS_O,FS_Uは、各観測パターン(図5及び図6参照)を示す。静止時における計測精度を三次元動作解析装置との比較により求め、係数apを設定する。
図12に示すように、各観測パターンにおいてレーザレンジセンサ10からの相対距離を変化させて5秒程度静止し、x方向及びy方向それぞれにおける脚部観測位置ykの計測誤差のRMSを求め、その平均値の近似直線を得る。得られた線形近似の係数を係数apとして設定する。レーザレンジセンサ10からの距離及び観測状態(観測パターン)に応じて観測雑音を変化させることにより、フィルタリング処理の推定精度の向上が期待される。
[歩行パラメータの算出]
歩行パラメータ算出部28は、取得した両脚部の移動軌跡から、歩行パラメータを算出する。歩行パラメータ算出部28は、支持脚時間算出部28aと、着床位置算出部28bと、歩幅、歩隔及びストライド長算出部28cと、一歩目時間算出部28dと、反応時間算出部28eと、TUG遂行時間算出部28fと、を有している。
支持脚時間算出部28aは、片脚支持脚時間及び両脚支持脚時間を求める。本実施形態では、片脚支持脚時間及び両脚支持脚時間を求めるために、両脚の踵と中足骨部とに圧力センサを取り付けて行った被験者実験の解析結果に基づいて、接床時刻及び離床時刻を移動軌跡の取得後に厳密に算出する。まず、脚部Fの状態が支持脚から遊脚に変化した時刻を、離床時刻tstep FOとして算出する。次に、図13に示すように、離床後の遊脚中の速さが最大値vsw maxをとった後で当該速さがav IC・vsw max以下になった時刻を、接床時刻tstep ICとして算出する。圧力センサ15を用いた計測実験から、本実施形態では、av IC=0.5と設定している。そして、離床時刻と接床時刻との差分を、片脚支持脚時間として求める。また、離床時刻と反対側の脚部Fの一処理時刻前の着床時刻との差分を、両脚支持脚時間として求める。
着床位置算出部28bは、歩幅,ストライド長,歩隔を算出するために、まず着床位置を求める。着床位置算出部28bは、レーザレンジセンサ10が脛の高さの脚部Fの移動軌跡を取得することから、直接、脚部Fの位置を計測することは困難である。そこで、着床位置算出部28bは、支持脚中に脚部Fの速さが最小となった時刻に脚部Fが床面に対して垂直になることを考慮し、その時刻の脚部Fの位置を着床位置として算出する。
図14は、歩幅、歩隔及びストライド長を説明する図である。歩幅、歩隔及びストライド長算出部28cは、図14に示すように、算出した着床位置70に基づいて、歩幅71と歩隔w3とストライド長72とを算出する。歩幅71と歩隔w3とストライド長72とは、例えば着床位置70aを基準とした例では、次のように算出できる。歩幅71は、着床位置70aに対する、該着床位置71aよりも一処理時刻前の反対側の脚部Fの着床位置70bからの距離として算出される。歩隔w3は、一処理時刻前及び一処理時刻後の反対側の脚部Fの着床位置70b,70cを結ぶ直線に対する、着床位置70aからの垂線の距離として算出される。ストライド長72は、着床位置70aに対する、一処理時刻前の同じ脚部Fの着床位置70dからの距離として算出される。
一歩目時間算出部28dは、スタート合図の時刻から一歩目の脚部Fが離床した時刻までの時間差を、一歩目時間として算出する。反応時間算出部28eは、椅子2の上に設置した圧力センサ15からの電圧値が、座っている状態から変動した時刻(閾値以下へ下がった時刻)を、反応時刻として算出する。つまり、圧力センサ15で検出した圧力情報に基づいて、被験者1の椅子2からの立上がりを検出する。そして反応時間算出部28eは、スタート合図の時刻から反応時刻までの時間差を、反応時間として算出する。
TUG遂行時間算出部28fは、被験者1が再び椅子2に着席すると圧力センサ15の電圧値が変動することを利用し、当該電圧値の立上がり時刻を終了時刻とする。つまり、圧力センサ15で検出した圧力情報に基づいて、被験者1の椅子2への着席を検出する。そしてTUG遂行時間算出部28fは、スタート合図から終了時刻までの時間差を、TUG試験の試験遂行時間として算出する。
また、歩行パラメータ算出部28は、両脚部の移動軌跡とマーカ3の中心位置とに基づいて、マーカ3との最短距離を算出する。歩行パラメータ算出部28は、取得した両脚部の移動軌跡から、その他の一般的歩行パラメータを算出する。
図1に戻り、モニタ30は、データ解析部24で解析した解析結果を出力する出力部である。モニタ30は、データ解析部24で解析した解析結果を表示し、被験者1にフィードバックする。モニタ30は、センサデータ取得部21で取得された、又は、記憶部22に記憶された距離情報、脚部情報及び圧力情報を出力することもできる。なお、モニタ30は、表示に代えて又は加えて音声等を出力する構成としてもよい。また、モニタ30に代えて若しくは加えて、演算結果等を紙媒体にプリント出力するプリンタを備えていてもよい。モニタ30は、電子制御装置20と一体的に設けられていてもよく、例えばパーソナルコンピュータや専用制御用コンピュータ等の表示部であってもよい。
次に、本実施形態の歩行計測システム100を用いてTUG試験における歩行特性を計測する場合について、図15及び図16に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
図15に示すように、TUG試験における計測の処理は、試行前のキャリブレーションと、TUG試験の試行中の計測と、試行後のデータ解析と、の3つのフェーズに分けられる。キャリブレーションフェーズでは、2本のポール40を用いてレーザレンジセンサ10の位置合わせ、及び、被験者1の脚部Fの幅wlの計測が行われる。キャリブレーション終了後、例えば電子制御装置20から音で被験者1にスタート合図(TUG試験開始の指示)が通知され、計測フェーズに移行する。計測フェーズでは、レーザレンジセンサ10の距離情報と圧力センサ15の圧力情報とが同期されて取得・保存される。そして、圧力情報から被験者1の着席が検出された後、解析フェーズに移行する。解析フェーズでは、データ解析部24において、保存したデータを基に両脚部の追跡が行われて移動軌跡が取得され、取得された移動軌跡に基づいて歩行パラメータが算出される。以下に具体的に説明する。
まず、被験者1に動作を開始させる前に、キャリブレーションが実行される。キャリブレーションでは、レーザレンジセンサ10によるスキャンが実行される。すなわち、レーザレンジセンサ10から、水平方向に沿って走査するようにレーザ光Lが出射され、レーザ光Lの反射状態に基づいて距離情報が取得される(S1)。これにより、図4に示すような被験者1の脚部F及び2つのポール40の位置が観測される。
観測された脚部Fのエッジ位置間の幅から、被験者1の脚部Fの幅(脚部情報)wlが検出される(S2)。検出された脚部情報は記憶部22に保存される。レーザレンジセンサ10で2つのポール40の位置関係を求めることで、レーザレンジセンサ10がマーカ3に対して適切な位置及び方向で設置されているか否かが計測者等によって確認され、必要に応じてレーザレンジセンサ10の位置合わせが実施される(S3)。なお、前述したように2本のポール40とマーカ3との相対位置関係を厳密にさえすれば、レーザレンジセンサ10の設置精度は粗くても構わない。
TUG試験の開始のカウントダウンが終了するまで、上記S1〜S3における一連の処理が繰り返し実施される(S4)。TUG試験の開始のカウントダウンが終了したとき、スタート合図が被験者1に通知され、TUG試験が開始される(S5)。
TUG試験の試行中においては、レーザレンジセンサ10によるスキャンが実行され、センサデータ取得部21により、被験者1の脚部Fの距離に関する距離情報が経時的に取得される(S6)。センサデータ取得部21により、圧力センサ15から圧力情報が取得される(S7)。そして、着席判定部23により、当該圧力情報に基づいて被験者1が着席したか否かが判定される(S8)。被験者1が着席していないと判定された場合、未だTUG試験の途中であり、上記S6の処理へ再び移行される。被験者1が着席したと判定された場合、TUG試験が終了したとして、以下のデータ解析が実行される。
データ解析部24において、保存された距離情報について、脚検出部26による脚検出、及び、脚追跡部27による脚追跡が実行される(S9及びS10)。すなわち、各構成の上記説明で詳説したように、脚検出部26により、脚部Fの観測位置が検出される。脚部推定部27aにより、歩行位相を考慮した歩行モデル(図9参照)を用いたフィルタリング処理が行われ、脚部の位置及び速度が推定されて取得される。このとき、支持脚遊脚判定部27bにより支持脚遊脚判定が行われ、歩行位相判定部27cにより歩行位相が判定され、加速度入力推定部27dにより加速度入力が推定される。
相関処理部27fにより、予測位置を中心としたゲートG内の観測位置に対応付けが行われ、脚部Fの位置が取得される。このとき、対応付けられた全ての観測位置について一度フィルタリング処理が行われ、脚部Fの位置及び速度が推定されて歩行位相が特定され、その歩行位相の変化が異常である(前の処理時刻の歩行位相に対して、人の歩行位相の周期性から逸脱して変化している)場合、当該観測位置が誤検出とされる。脚追跡に際して歩行位相が位相5と特定された場合、被験者1が走行していると判定する。被験者1が走行していると判定した場合、例えばモニタ30により、注意を喚起し、再度計測を行うように促す等を行ってもよい。
続いて、記憶部22に記憶された保存データ(時刻に関連付けられて保存された距離情報)の全てについて、データ解析に係る各処理が終了したかを判定するデータ終了判定が行われる(S11)。上記S11でNoの場合、上記S9の処理に戻る。一方、上記S11でYesの場合、データ解析が終了したと判断される。以上により、TUG試験における両脚部の移動軌跡が取得される。そして、歩行パラメータ算出部28により、取得した両脚部の移動軌跡から歩行パラメータが算出される(S12)。その後、保存データ解析の解析結果がモニタ30に出力される(S13)。
またデータ解析部24では、隠れ時データ補間部27gにより、次の処理が行われ、片脚がレーザレンジセンサ10から一時的に隠れている場合に、その間の観測位置が補間される。すなわち、まず、例えばレーザレンジセンサ10からの観測状態(上記観測パターンの結果等)に基づいて、レーザ光Lの出射方向から見て一方の脚部Fが隠れた状態でないか否かが判定される(S21)。上記S21でNoの場合、すなわち、現在の処理時刻にて脚部Fが隠れている状態の場合(例えば図11(b)では処理時刻k+1,k+2の場合)、予測した予測位置が観測位置として取得される(S22)。上記S21でYesの場合、一定処理時刻前に隠れがあったか否かが判定される(S23)。
上記S23でYesの場合(例えば図11(b)では処理時刻k+3,k+4の場合)、隠れている間の脚部位置が補間される(S24)。つまり、Catmull-Romスプライン曲線を用いて、隠れ時の観測位置y´ kが仮想的に算出される。そして、カルマンフィルタの共分散行列等の状態量も更新するために、仮想的に算出した観測位置y´k+iを用いて、カルマンフィルタの予測処理及びフィルタリング処理を再実施する(S25)。上記S21の後、上記S23でNoの場合、及び、上記S25の後、保存データの全てについて処理が終わるまで、上記S21の処理へ再び移行する。
以上、歩行計測システム100では、TUG試験において、被験者1の脚部Fの位置及び速度が、計測者等の第三者の観察により取得されるのではなく、二次元平面距離情報に少なくとも基づき時間に関連付けて演算されて取得される。よって、TUG試験において被験者1の歩行特性を定量化して把握することが可能となる。
歩行計測システム100は、マーカ3に対してレーザレンジセンサ10の位置合わせを行うためのポール40を更に備えている。これにより、レーザレンジセンサ10を、マーカ3に対して適切な位置及び方向で設置されるように調整することができる。また、レーザレンジセンサ10の設置位置及び/又は向きをラフに位置合わせをしたとしても、レーザレンジセンサ10とマーカ3との相対位置関係を厳密に把握することもできる。
歩行計測システム100は、椅子2に設けられた圧力センサ15を更に備える。データ解析部24は、圧力センサ15で検出した圧力情報に基づいて、被験者1の椅子2からの立上がり及び椅子2への着席を検出する。これにより、被験者1の椅子2からの立上がり及び椅子2への着席を、精度よく且つ簡易に検出することができる。
歩行計測システム100は、データ解析部24による解析結果を出力するモニタ30を備える。モニタ30によって、例えば解析結果を被験者1にフィードバックすることができる。
歩行計測システム100では、歩行試験の開始時刻から被験者1の一歩目の脚部Fが離床するまでの時間である一歩目時間を算出する。これにより、例えば被験者1の筋力を把握するのに有効な、TUG試験ならではの一歩目時間を、定量化して把握することができる。
歩行計測システム100では、ターニングフェーズにおける脚部Fの移動軌跡を取得する。これにより、TUG試験に特有のターニングフェーズにおいて、歩行特性を定量化して把握することができる。
歩行計測システム100では、歩行試験の開始時刻から被験者1の臀部が椅子2の座面から離れるまでの時間である反応時間を算出する。これにより、TUG試験に特有の反応時間を、定量化して把握することができる。
歩行計測システム100では、歩行試験の開始時刻から被験者が再び椅子に着席するまでの時間であるTUG遂行時間を算出する。通常、TUG験遂行時間はストップウォッチ等の計器を用いて試験計測者により実測される。これに対し、歩行計測システム100では、TUG遂行時間を精度よく計測することが可能となる。
歩行計測システム100では、被験者1の歩幅71、ストライド長72、及び、歩隔w3の少なくとも何れかを算出する。よって、TUG試験等の歩行試験において、より詳細な歩行パラメータの計測及びその評価が可能となる。
歩行計測システム100では、歩行パラメータをフェーズ(フォーワードフェーズ、ターニングフェーズ及びリターンフェーズ)毎に算出することができる。これにより、TUG試験に特有のフェーズ毎に、歩行特性を定量化して把握することができる。
歩行計測システム100では、小型で二次元平面の距離情報が取得可能なレーザレンジセンサ10と圧力センサ15と用いて、TUG試験の計測における見失いや誤識別の少ない両脚部の追跡及び計測精度の向上を実現できる。
歩行計測システム100では、歩行試験の試行中にリアルタイムで解析するのではなく、歩行試験が終了した後にデータ解析部24により解析(後解析)する。これにより、厳密な移動軌跡及び歩行パラメータの算出が可能となる。なお、歩行計測システム100では、歩行試験を試行しながらデータ解析部24で歩行特性を解析することも勿論可能である。
ここで、複数人(7名)の健常者を対象としたTUG試験において、歩行計測システム100により計測を行うと同時に、三次元動作解析装置(モーションキャプチャシステム)により計測を行った。そして、歩行計測システム100及び三次元動作解析装置それぞれの解析結果を比較した。その結果、歩行計測システム100による両脚部の追跡性能及び移動軌跡精度の向上を確認することができた。また、歩行計測システム100で算出した歩行パラメータの妥当性を確認することができた。
図17は、隠れ時における脚部位置の補間の有効性を説明する図である。図17(a)は従来手法により取得された両脚部の移動軌跡を示す図であり、図17(b)は歩行計測システム100より取得された両脚部の移動軌跡を示す図である。図17(a)では、移動軌跡60Rが右脚の移動軌跡を示し、移動軌跡60Lが左脚の移動軌跡を示す。図17(b)では、移動軌跡61Rが右脚の移動軌跡を示し、移動軌跡61Lが左脚の移動軌跡を示す。各移動軌跡60R,60L,61R,61L上において、大きな点は支持脚を示し、小さな点は遊脚を示す。
図17に示すように、Catmull-Romスプライン曲線を用いて片脚が隠れている間の脚部位置を補間する歩行計測システム100では、ターン動作時など動きが変化しやすい遊脚の状態で隠れた場合に、脚部位置及び移動軌跡を修正可能であることを確認できる。歩行計測システム100では、実際の運動と大きく異なる移動軌跡(図17(a)中の丸枠内参照)が取得されるのを抑制することができる。
図18は、歩行計測システム100による解析結果(両脚部の移動軌跡及び着床位置)の一例を示す図である。図18では、移動軌跡61Rが右脚の移動軌跡を示し、移動軌跡61Lが左脚の移動軌跡を示す。各移動軌跡61R,61L上において、大きな点は支持脚を示し、小さな点は遊脚を示し、大きな丸印は着床位置を示し、この着床位置付近の数字は歩数を示す。
歩行計測システム100では、試験計測後に即座に、歩行パラメータだけでなく、図18に示すような両脚部の移動軌跡61R,61Lを出力することが可能である。歩行計測システム100では、数値だけでなく、視覚的にも被験者1に結果を提示することが可能である。そのため、特に、地域保健活動における高齢者転倒リスク評価のためのTUG試験計測において有用である。
なお、歩行計測システム100では、以下の課題解決のための作用効果を奏する。
従来の歩行解析に関する技術において、歩行パラメータを計測する場合に多く用いられる歩行計測システムは、床反力計や三次元動作計測装置が一般的である。しかし、数メートルの歩行計測を行う際には、システム規模が大きく、導入コストも高くなる。そのため、実際に高齢者を対象とした通所介護施設において行われている歩行訓練の評価は第三者が観察を主とした定性的なものが多く、定量的な評価が困難であった。この点、歩行計測システム100によれば、歩行訓練の定量的な評価を低コストで実現できる。すなわち、歩行訓練の定量的な評価を低コストで実現できる歩行計測システムを提供するという課題を解決する。
通常、歩行試験においては、試験開始から終了までの試験遂行時間(例えばTUG試験では、椅子2に着席した被験者1が動き出してから再び着席するまでの時間)が、ストップウォッチ等の計器を用いて試験計測者により実測される。そのため、試験測定者の操作次第で、試験遂行時間に誤差が生じる可能性がある。この点、歩行計測システム100によれば、試験開始から終了までの試験遂行時間を精度よく計測することができる。すなわち、試験開始から終了までの試験遂行時間を精度よく計測できる歩行計測システムを提供するという課題を解決する。
通常、歩行試験においては、試験計測者が介添えを行いながら被験者1の歩数をカウントする。この場合、歩幅71、ストライド長72、歩隔w3等の詳細な歩行パラメータを計測することは困難である。歩行計測システム100によれば、詳細な歩行パラメータを計測することができる。すなわち、詳細な歩行パラメータを計測できる歩行計測システムを提供するという課題を解決する。
例えばTUG試験では、MTST(Multi-Target Stepping Task)試験等に比べて歩行速度が速く、また、当該歩行が実際の歩行に近いリズミックな動きを有している。従来の歩行計測システムでは、このような動きに対応するのが困難となる場合がある。歩行計測システム100によれば、歩行速度が速く且つリズミックな動きを有する歩行にも対応することができる。すなわち、歩行速度が速く且つリズミックな動きを有する歩行にも対応できる歩行計測システムを提供するという課題を解決する。
例えばTUG試験では、被験者1がマーカ3をターンする際に、レーザレンジセンサ10に対して片脚が隠れる状況が生じ易い。当該ターンの際には、脚部Fの動きの変化が顕著となることから、従来技術では、予測することが困難となる可能性がある。歩行計測システム100によれば、被験者1がターンする際に隠れる脚部Fを精度よく予測することができる。すなわち、被験者1がマーカ3をターンする際に隠れる脚部Fを精度よく予測できる歩行計測システムを提供するという課題を解決する。
例えばTUG試験は、被験者1が直進するフェーズだけでなく、被験者1がマーカ3をターンする(進行方向が180°変更するようにマーカ3を中心にマーカ3外側を回る)フェーズを含む。従来の歩行計測システムでは、被験者1がターンすることについて十分に考慮されておらず、計測精度が低下してしまう可能性がある。歩行計測システム100によれば、被験者1がターンするフェーズを含む歩行試験において、計測精度を高めることが可能となる。すなわち、被験者1がターンするフェーズを含む歩行試験において計測精度を高めることが可能な歩行計測システムを提供するという課題を解決する。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
上記実施形態では、歩行計測システム100をTUG試験おける歩行特性の計測に適応したが、これに限定されず、例えばMTST、Rhythmic Stepping Exercise(RSE)、及び、その他の種々の歩行訓練等における歩行特性の計測に歩行計測システム100を適応することができる。
上記実施形態では、距離情報取得部としてレーザレンジセンサ10を用いたが、床面から所定高さの位置における距離情報を取得可能なものであれば、種々のセンサや装置を用いることができる。例えば、上述の二次元平面距離情報を取得可能とされた赤外線センサ等を、距離情報取得部として用いてもよい。上記実施形態は、レーザレンジセンサ10を1つ備えるが、複数備えていてもよい。上記実施形態では、基準部材としてポール40を用いたが、これに限定されない。基準部材としては、マーカ3に対するレーザレンジセンサ10の位置合わせを行い得る部材であれば、種々の部材を用いてもよい。
上記実施形態では、マーカ3に近づく(椅子2から遠ざかる)被験者1の後方側からレーザ光Lが照射されるようにレーザレンジセンサ10を配置したが、マーカ3に近づく被験者1の前方側からレーザ光Lが照射されるようにレーザレンジセンサ10を配置してもよい。場合によっては、マーカ3に近づく被験者1の側方側からレーザ光Lが照射されるようにレーザレンジセンサ10を配置してもよい。上記実施形態では、椅子2の下部にレーザレンジセンサ10を配置したが、レーザレンジセンサ10の配置位置は限定されず、被験者1に対するレーザ光Lの照射態様に応じてレーザレンジセンサ10を配置すればよい。
上記実施形態では、被験者1の椅子2からの立上がり(動出し)及び椅子2への着席を圧力センサ15の圧力情報により判別したが、圧力センサ15による判別に加えて又は圧力センサ15を省略し、レーザレンジセンサ10の検出結果に基づいて当該立上がり及び当該着席を判別してもよい。上記実施形態では、圧力情報に基づいて被験者1の立上がり及び着席を検出したが、圧力情報に基づいて立上がりのみを検出してもよいし、圧力情報に基づいて着席のみを検出してもよい。
なお、本発明は、上記歩行計測システム100により実施される歩行計測方法として捉えることができる。本発明は、当該歩行計測方法(上記歩行計測システム100の各処理)をコンピュータに実行させる歩行計測プログラムとして捉えることができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(対象及び方法)
実施例では、7名の健常者を被験者としたTUG試験において、歩行計測システム100による計測結果を検証した。具体的には、被験者がマーカ3を左回りにターンする場合のTUG試験と、右回りにターンする場合のTUG試験とを、それぞれ2回ずつ(つまり、合計28回のTUG試験を)実施した。TUG試験の実施と同時に、三次元動作解析装置による計測を行った。歩行計測システム100の解析結果と三次元動作解析装置の解析結果と比較することにより、歩行計測システム100による追跡性能、及び歩行計測システム100が取得した歩行パラメータの計測精度を検証した。
使用するレーザレンジセンサ10の仕様は、以下のとおりである。
[形式名]UTM-30LX(Hokuyo Automatic Co, Ltd., 2015)
[測距範囲]0.1〜30m,最大検出距離60m,角度270°
[測距精度]0.1〜10m:±30mm,10〜30m:±50mm
[角度分解能]0.25°(360°/1440分割)
システムパラメータは、以下のとおりである。
サンプリンタイムΔt(ms):25(40Hz)
共分散Q:diag(15.02,15.02)
共分散R:diag(0.042,0.042)
支持脚の速度閾値(m/s):0.47
遊脚の速度閾値(m/s):0.93
ゲートG(含有確率PG=0.999):13.82
加速関数のステップ数Nac:40
実施例では、2本のポール40を用いて歩行計測システム100と三次元動作解析装置の位置合わせを行った。三次元動作解析装置では7台のカメラを使用し、サンプリング周期は5.0ms(200Hz)とした。三次元動作解析装置の解析においては、Plug-In Gaitモデルを用いて被験者の下肢の関節位置を算出し、膝と足関節の中心位置との座標からレーザレンジセンサ10の計測高さにおけるx方向及びy方向の位置を算出した。算出した計測高さにおける計測結果を比較し、歩行計測システム100の脚部Fの位置計測精度を検証した。また、歩行計測システム100で計測した着床位置に関しては、着床中の足関節の中心位置と比較し、精度の検証を行った。着床(接床及び離床)の判定は、被験者1の両脚部の踵及び第二中足骨に取り付けた圧力センサを用いて行った。
(歩行位相の周期性を考慮した相関処理についての有効性検証)
人の歩行位相の周期性を考慮した相関処理の有効性を検証するために、GNN法による相関処理を用いた手法(以下、「Method1」という)と、歩行位相の周期性を考慮した手法(以下、「Method2」という)と、による両脚追跡性能の比較を行った。GNN(Global Nearest Neighbor)法は、複数の観測位置と追跡対象との対応付けのコスト関数が最小となる組み合わせを選択する手法である。GNN法では、追跡対象のゲートGが重複する観測位置が存在した場合においても、尤もらしい対応付けを行うことが可能である。
図19は、左脚が一時的にレーザレンジセンサ10から隠れ、レーザレンジセンサ10の距離情報が乱れた際の両脚追跡結果を示す図である。図19中では、ラインは脚部Fの移動軌跡を示し、ライン上において小さな印は遊脚を示し、大きな印は着床位置を示す。図19(a)〜図19(c)は、Method1による両脚追跡結果を示し、図19(d)〜図19(f)は、Method2による両脚追跡結果を示す。図19(a)及び図19(d)は同じ時刻の結果であり、図19(b)及び図19(e)は同じ時刻の結果であり、図19(c)及び図19(f)は同じ時刻の結果である。図19(a)〜図19(c)の順、及び、図19(d)〜図19(f)順は、時間順に対応する。
図19(a)に示す例では、左脚が右脚で隠され、対応する左脚の観測位置が存在しないためフィルタリング処理が行われず、左脚のゲートGが拡大している。その後、図19(b)に示すように、2つの観測位置y1 k,y2 kが検出されているが,観測位置y1 kはレーザレンジセンサ10の距離情報が乱れたことによる誤検出である。このとき、Method1のGNN法では観測位置がゲートG内に含まれる場合に必ず対応付けを行うため、誤検出した観測位置に対しても対応付けを行ってしまう。この場合、図19(c)に示すように、両脚部の誤識別(入れ替わり)が生じてしまうことが確認できる。
これに対して、歩行位相の周期性を考慮するMethod2の場合、図19(e)に示すように、観測位置y1 kを誤検出として左脚との対応付けは行わず、左脚の観測位置が存在しないとする。これは、観測位置y1 kと左脚との対応付け、及び、観測位置y2 kと右脚との対応付けについては、歩行位相が位相3から位相2に変化する逸脱変化(すなわち、人の歩行位相の周期性から逸脱した変化)を行う対応付けであるためである。そして、図19(f)に示すように、歩行位相の変化を満たす観測位置(すなわち、人の歩行位相の周期性に従って変化した観測位置)と適切な対応付けを行う。これにより、誤識別なく両脚を追跡できていることが確認できる。
図20は、追跡成功率の結果を示すグラフである。ここでの追跡の成功は、誤識別が無く且つ全ての着床を誤検出無く検出できた場合であると定義する。図20に示すように、比較例に係るMethod1では、追跡成功率は50%(14回/28回)であった。これに対して、歩行位相の周期性を考慮したMethod2の追跡成功率は、89.3%(25回/28回)であった。これにより、人の歩行位相の周期性を考慮することで誤識別を低減できることが確認できる。
(隠れている間の観測位置の補間についての有効性検証)
脚部Fがレーザレンジセンサ10から隠れている間の観測位置の補間手法の有効性を検証するために、観測位置の補間を行わないMethod2と、観測位置の補間を行う手法(以下、「Method3」という)による両脚追跡性能の比較を行った。
図21は、ターニングフェーズにおいて左脚がレーザレンジセンサ10から隠れた場合の追跡結果の一例を示す図である。図21(a)はMethod2に係る追跡結果を示し、図21(b)はMethod3に係る追跡結果を示す。図21では、ラインは脚部Fの移動軌跡を示し、ライン上において小さな印は遊脚を示し、大きな印は着床位置を示す。大きな丸印は着床位置を示し、この着床位置付近の数字は歩数を示す。
Method2では、脚部Fが観測できない場合、脚部Fの移動モデルに基づく予測位置を観測位置として取得する。つまり、Method2では、ターニングフェーズにおいて、遊脚が支持脚で隠れてしまう間は、隠れる直前に観測された移動方向に基づいて予測位置が予測され、この予測位置が遊脚の観測位置とされる。ターニングフェーズでは脚部Fの移動方向が急激に変化する。そのため、このようなMethod2においては、図21(a)の丸枠内に示すように、脚部Fの位置の計測精度が劣化し、誤識別が生じやすくなる可能性がある。これに対して,Method3では、脚部Fが隠れている間、隠れている脚部Fの観測位置をスプライン曲線を用いて補間する。これにより、図21(b)に示すように、両脚追跡性能と計測精度とが一層向上することが確認できる。図20に示すように、Method3の追跡成功率は、96.4%(27回/28回)であった。
図22は、三次元動作解析装置の解析結果を真値とした場合の、レーザレンジセンサ10の光窓部の高さ(設置高さ)における両脚部の移動軌跡及び着床位置に関するRMSE(root mean squared error)を示すグラフである。図21(a)の破線丸枠内は、着床位置の誤検出を示している。図20〜図22に示すように、本実施例によれば、両脚部の移動軌跡及び着床位置を高い精度で計測可能であることを確認できる。
図23は、両脚部の移動軌跡及び着床位置の解析結果の一例を示す。歩行計測システム100は、TUG計測後即座に、歩行パラメータ及び図23に例示する移動軌跡を出力することが可能である。歩行計測システム100は、数値だけでなく、視覚的にも被験者1に結果を提示することが可能である。そのため,地域保健活動における高齢者転倒リスク評価のためのTUG計測において、特に有用であることがわかる。