JP6582434B2 - 組紐 - Google Patents

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Description

本発明は、寸法安定性及び耐摩耗性に優れた組紐に関する。
マルチフィラメント又はモノフィラメントからなる組紐は、釣糸、ネット、ブラインドコード、ロープ等多くの用途に用いられている。これら組紐の用途の多様化が進むにつれ、製品の要求特性に即した組紐の機能性が求められており、例えば、釣糸には、釣る魚の種類や釣る方法によって種々の特性が要求されている。しかし、従来用いられてきた超高分子量ポリエチレン繊維からなる釣糸は、高強度・高弾性率の点では優れた釣糸であるが、繊維内部の微細構造が均一でなく、寸法や物性が変化しやすいという問題があった。このため釣糸にした場合、寸法安定性が悪いばかりでなく、釣糸として重要な要素のひとつである、耐摩耗性が悪いという問題点があった。
また、超高分子量ポリエチレン繊維からなる釣糸を長期間使用すると時間の経過に伴い、組んでいるフィラメント同士が次第に締まり、釣糸として重要な要素であるしなやかさを損ない、徐々に釣糸が硬くなる。そして、釣糸が硬くなることにより、寸法変化が生じ、これに伴い物性が変化するという問題があった。
このような問題を解決する手段として、特許文献1には、組紐への加工後に組紐に熱処理が加えられたコードが開示されている。このコードは、熱処理を加えることによって力学物性の変動を抑制することができる。しかし、釣糸として使用すると、組紐を構成している繊維糸同士の拘束性が弱いため、経時に伴い、組んでいる繊維糸同士が徐々に締まり寸法が変わってしまうのみならず、繊維糸の断面形状が扁平になってしまい、繊維糸と釣竿ガイドとの摩擦が大きくなるため、組紐が摩耗しやすくなったり、釣竿の投げ特性が低下するという問題もあった。
一方、ブラインドの昇降に用いられるブラインドコードは、従来は各種の合成繊維、天然繊維などの撚糸を芯糸とし、該芯糸を各種繊維の組糸で被覆してなる組紐が使用されてきた。ブラインドコードは、ブラインドを昇降させるために使用されるので、繰返し使用してもブラインドコードの寸法の変化が少なく、組紐の撚り戻りが少ないことが重要である。また、ブラインドコードは長期にわたって用いられるため、温度や湿度などの環境変化に対して伸縮などの物性変化が少ないことも重要な要素である。
しかし、近年用いられるようになった大型ブラインドは、昇降によりブラインドコードの摩耗が従来より激しくなる。そのため、従来のブラインドコードでは大型ブラインド用のブラインドコードとして用いた場合に耐摩耗性が低く、物性変化が大きくなりやすいため、十分な機能を発揮することが難しい。このため、より性能の優れた、特に耐摩耗性の優れたブラインドコードの出現が強く要望されている。
特開平10−317289号公報
本発明は、幅広い温度領域において製品への加工が可能であり、かつ、寸法安定性及び耐摩耗性に優れた組紐の提供を課題として掲げた。
本発明者等は、単糸(モノフィラメント)内部の内外層の結晶構造をできるだけ均一に近づけ、磨耗を受ける際に繊維内部に均一に荷重がかかる構造にすることによって、耐摩耗性に優れ、かつ高強度・高弾性率であるマルチフィラメントとすることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明に係る組紐は、5本以上の単糸からなるマルチフィラメントを含む組紐であって、上記マルチフィラメントは、極限粘度[η]が5.0dL/g以上40.0dL/g以下であり、繰り返し単位が実質的にエチレンであるポリエチレンを含んでおり、上記組紐を解いた状態のマルチフィラメントでは、破断荷重の10%の荷重をかけたときの応力ラマンシフト量が5 . 0 c m - 1 以下であることを特徴とする。
上記組紐を解いた状態のマルチフィラメントは破断荷重の20%の荷重をかけたときの応力ラマンシフト量が10. 0 c m - 1 以下であることが好ましい。
上記単糸の断面における(110)面の回折ピーク強度に対する(200)面の回折ピーク強度の比は、最大値と最小値の差が0.18以下であることを特徴とする。
上記ピーク強度比の下記式(1)にて定義される変動係数CVが40%以下であることが好ましい。
変動係数CV(%)=(上記単糸の上記ピーク強度比の標準偏差)/(上記単糸の上記ピーク強度比の平均値)×100・・・(1)
上記単糸の断面において、結晶配向度の最大値と最小値の差が0.012以下であることが好ましい。
上記組紐は、JIS L 1095に準拠し、荷重を5cN/dtexとして測定された摩耗強さ試験における破断時の往復摩耗回数が1000回以上であることが好ましい。また、荷重を5cN/dtexとして測定された上記摩耗強さ試験において、上記組紐の往復摩耗回数と、上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントの往復摩耗回数との差が320回以下であることが好ましい。加えて、上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントは、JIS L 1095に準拠し、荷重を10cN/dtexとして測定された摩耗強さ試験における破断時の往復摩耗回数が100回以上であることが好ましい。
上記組紐の120℃における熱収縮率が3.0%以下であることが好ましく、また、上記組紐の引張強度が18cN/dtex以上であり、上記組紐の初期弾性率が300cN/dtex以上であることが好ましく、また、上記組紐の引張強度と、上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントの引張強度との差が5cN/dtex以下であることが好ましい。
上記組紐を解いた状態において、上記単糸の繊度が2dtex以上40dtex以下であることが好ましい。また、上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントは、70℃における熱収縮率が0.11%以下で、120℃における熱収縮率が2.15%以下であることが好ましく、上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントは、120℃における熱応力が0.15cN/dtex以上であることが好ましい。
上記組紐の製造方法は、上記マルチフィラメントを製紐し、熱処理する工程を備えており、上記熱処理は70℃以上で行われ、上記熱処理の時間は0.1秒以上30分以下であり、上記熱処理中は上記組紐に0.02cN/dtex以上15cN/dtex以下の張力がかけられていることを特徴とする。
上記組紐の製造方法は、上記張力により、上記熱処理後の組紐の長さは上記熱処理前の組紐の長さの1.05倍以上15倍以下となることが好ましい。
また、本発明には、組紐のみならず、組紐から得られる釣糸、組紐から得られるネット、組紐から得られるロープをも包含される。
本発明に係る組紐は、幅広い温度領域において製品への加工が可能であり、製品を使用する際、広い温度範囲に亘って、熱応力、熱収縮率、初期弾性率等の力学物性の変化が小さく、寸法安定性にも優れたものである。
また、過負荷条件においても擦れに強く耐摩耗性に優れている。これにより、製品寿命が著しく向上する。そして、使用時の擦れに伴い発生する毛羽の量が大幅に減少するのみならず、製品への加工時に発生する毛羽の量も減少するため、作業環境も向上する。
よって、本発明に係る組紐は、耐切創性を活かした防護用織編物や、テープ、ロープ、ネット、釣糸、資材防護カバー、シート、カイト用糸、洋弓弦、セールクロス、幕材、防護材、防弾材、医療用縫合糸、人工腱、人工筋肉、繊維強化樹脂補強材、セメント補強材、繊維強化ゴム補強材、工作機械部品、電池セパレーター、化学フィルター等の産業用資材としても優れた性能及び意匠性を発揮し、幅広く応用できるものである。
本発明に係る組紐は寸法安定性及び耐摩耗性に優れたマルチフィラメント(以下、高機能マルチフィラメントという)を含む。以下、高機能マルチフィラメントの製造に用いられるポリエチレン、高機能マルチフィラメントの物性や製造方法、高機能マルチフィラメントを用いた本発明に係る組紐の製法及び組紐の物性、及び本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの物性について説明する。
〔ポリエチレン〕
高機能マルチフィラメントは、繰り返し単位が実質的にエチレンであるポリエチレンが含まれていることが好ましく、エチレンの単独重合体からなる超高分子量ポリエチレンであることがより好ましい。また、本発明で用いられるポリエチレンは、本発明の効果が得られる範囲で、エチレンの単独重合体ばかりでなく、エチレンと少量の他のモノマーとの共重合体を使用することができる。他のモノマーとしては、例えば、α−オレフィン、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、ビニルシラン及びその誘導体等が挙げられる。本発明で用いられる高分子量ポリエチレンとしては、エチレンの単独重合体からなる超高分子量ポリエチレン、共重合体同士(エチレンと他のモノマー(例えば、α―オレフィン)との共重合体)、あるいはホモポリエチレンとエチレン系共重合体とのブレンド物、更にはホモポリエチレンと他のα−オレフィン等のホモポリマーとのブレンド物であってもよく、部分的な架橋、又は部分的なメチル分岐、エチル分岐、ブチル分岐等を有していてもよい。特にプロピレン、1−ブテンなどのα−オレフィンとの共重合体であって、短鎖あるいは長鎖の分岐が炭素原子1000個あたり20個未満の割合で含まれた超高分子量ポリエチレンであってもよい。ある程度の分岐を含有させることは高機能マルチフィラメントを製造する上で、特に紡糸・延伸において安定性を与えることができるが、炭素原子1000個あたり20個以上含むようになると、逆に分岐部分が多すぎることが紡糸・延伸時の阻害要因となるため好ましくない。しかし、エチレン以外の他のモノマーの含有量が多すぎると、却って延伸の阻害要因となる。そのため、エチレン以外の他のモノマーは、モノマー単位で5.0mol%以下であることが好ましく、より好ましくは1.0mol%以下、更に好ましくは0.2mol%以下であり、最も好ましいのは0.0mol%、すなわちエチレンのホモポリマーである。なお、本明細書では「ポリエチレン」は、特段の記載がない限り、エチレンのホモポリマーのみならず、エチレンと少量の他のモノマーとの共重合体等も含めるものとする。また、高機能マルチフィラメントの製造には、ポリエチレンに必要に応じて後述する各種添加剤を配合したポリエチレン組成物を用いることもでき、本明細書の「ポリエチレン」にはこのようなポリエチレン組成物も含めるものとする。
また、後述する極限粘度の測定において、その極限粘度が後述の所定の範囲に入るのであれば、数平均分子量や重量平均分子量の異なるポリエチレンをブレンドしてもよいし、分子量分布(Mw/Mn)の異なるポリエチレンをブレンドしてもよい。また、分岐ポリマーと分岐のないポリマーとのブレンド物であってもよい。
<重量平均分子量>
上述のとおり、本発明で用いられるポリエチレンは超高分子量ポリエチレンであることが好ましく、超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は、490,000〜6,200,000であることが好ましく、より好ましくは550,000〜5,000,000、更に好ましくは800,000〜4,000,000である。重量平均分子量が490,000未満であると、後述する延伸工程を行ってもマルチフィラメントが、高強度、高弾性率にならないおそれがある。これは、重量平均分子量が小さいために、マルチフィラメントの断面積あたりの分子末端数が多くなり、これが構造欠陥として作用したことによると推定される。また、重量平均分子量が6,200,000を超えると、延伸工程時の張力が非常に大きくなることにより破断が発生し、生産することが非常に困難となる。
重量平均分子量は、一般的にGPC測定法で求められるが、本発明で用いられるポリエチレンのように重量平均分子量が高い場合は、測定時にカラムの目詰まりが発生するなどの理由によりGPC測定法では容易に求めることができないおそれがある。そこで本発明で用いられるポリエチレンについては、GPC測定法に代わって、「POLYMER HANDBOOK,Fourth Edition,J.Brandrup and E.H.Immergut,E.A.Grulke Ed.,A JOHN WILEY &
SONS,Inc Publication 1999」に記載されている以下の式を用いることによって、後述する極限粘度の値から重量平均分子量を算出している。
重量平均分子量=5.365×104×(極限粘度)1.37
<極限粘度>
本発明で用いられるポリエチレンの極限粘度は、5.0dL/g以上、好ましくは8.0dL/g以上であり、40.0dL/g以下、好ましくは30.0dL/g以下、より好ましくは25.0dL/g以下である。極限粘度が5.0dL/g未満であると、高強
度なマルチフィラメントが得られないことがある。一方、極限粘度の上限については、高強度なマルチフィラメントが得られる限り特に問題にならないが、ポリエチレンの極限粘度が高過ぎると、加工性が低下してマルチフィラメントを作製するのが困難になるため上述の範囲であることが好ましい。
〔単糸繊度〕
高機能マルチフィラメントは、単糸繊度が3dtex以上、40dtex以下であることが好ましく、より好ましくは5dtex以上、30dtex以下、さらに好ましくは6dtex以上、20dtex以下である。単糸繊度が3dtex以上となることで高度な耐摩耗性が発現する。一方で単糸繊度が40dtexを超えるとマルチフィラメントの強度が低下してしまうため好ましくない。
〔高機能マルチフィラメントの総繊度〕
高機能マルチフィラメントは、総繊度が15dtex以上、7000dtex以下であることが好ましく、より好ましくは30dtex以上、5000dtex以下、さらに好ましくは40dtex以上、3000dtex以下である。総繊度が15dtex以上となることで高度な耐摩耗性が発現する。一方で総繊度が7000dtexを超えるとマルチフィラメントの強度が低下してしまうため好ましくない。
〔単糸の本数〕
高機能マルチフィラメントは、5本以上の単糸で構成されており、好ましくは10本以上の単糸で、より好ましくは15本以上である。
〔単糸内部構造の均一性〕
構造中で生じる応力分布は例えばY o u n g らが示したようにラマン散乱法を用いて測定することが出来る( J o u r n a l o f M a t e r i a l s S c i e n c e , 29, 5 1 0 ( 1 9 9 4 ) ) 。ラマンバンド即ち基準振動位置は繊維を構成する分子鎖の力の定数と分子の形( 内部座標) から構成される方程式を解くことにより決定されるが( E . B . W i l s o n , J . C . D e c i u s , P . C . C r o s s
著M o l e c u l a r V i b r a t i o n s , D o v e r P u b l i c a t i o ns ( 1 9 8 0 ) ) 、この現象の理論的な説明として例えばW o o l らが説明を与えたように繊維が歪むにつれて該分子も歪み結果として基準振動位置が変化するのである( M ac r o m o l e c u l e s , , 1 9 0 7 ( 1 9 8 3 ) ) 。欠陥凝集などの構造不均一が存在すると、外部歪みを与えたときに繊維中の部位により誘因される応力が異なることになる。この変化はバンドプロファイルの変化として検出できるため、逆に繊維に応力を与えたとき、その強度とラマンバンドプロファイルの変化の関係を調べることから繊維内部に誘引された応力分布を定量出来るということになる。即ち、構造不均一が小さい繊維は後述するように、繊維の同じ荷重をかけた場合でもラマンシフト量が小さくなるのである。上記に加えてこれまで開示されている“ ゲル紡糸法” による高強度ポリエチレン繊維その高度に配向した構造故に、引っ張り強度は非常に強いものの繊維の側面方向からの磨耗に対しては、比較的低い応力で容易に単糸切れを生じ毛羽が発生してしまう欠点があった。発明者ら鋭意検討し、構造不均一の小さい繊維は、高強度・高弾性率になるだけではなく、耐摩耗性に優れ、寸法安定性に優れることを発見した。
破断荷重の10%の荷重をかけたときの応力ラマンシフト量が5 .0 c m - 1 以下であることが望ましく、さらに望ましくは4 .0 c m - 1 以下であり、特に望ましくは3 .0 c m - 1 以下である。応力ラマンシフトファクターが5 .0 c m - 1 よりも大きくなると、応力集中に起因する応力分布の存在を示唆するものであり、耐磨耗性や寸法安定性が悪くなるため望ましくない。
破断荷重の20%の荷重をかけたときの応力ラマンシフト量が10.0 c m - 1 以下であることが望ましく、さらに望ましくは8.0 c m - 1 以下であり、特に望ましくは7. 0 c m - 1 以下である。応力ラマンシフトファクターが10.0 c m - 1 よりも大きくなると、応力集中に起因する応力分布の存在を示唆するものであり、耐磨耗性や寸法安定性が悪くなるため望ましくない
〔単糸の結晶構造〕
本発明に用いられる単糸は、単糸内部の結晶構造が断面(長手方向垂直面)全体で均一に近い構造であることが好ましい。すなわち、本発明に用いられる単糸は、後述のX線ビームを用いた測定において、(110)面の回折ピーク強度に対する(200)面の回折ピーク強度の比(以下、ピーク強度比という)を単糸断面全体にわたって測定したとき、最大値と最小値の差が0.22以下であることが好ましく、より好ましくは0.20以下、更に好ましくは0.18以下である。ピーク強度比の最大値と最小値の差が0.22を超えると、断面全体の結晶構造の均一性が不十分となっていることを示し、不均一な結晶構造である単糸からなるマルチフィラメントは耐摩耗性が低くなりやすいため好ましくない。ピーク強度比の最大値と最小値の差の下限は特に限定されないが、0.01程度で十分である。以下、単糸内部におけるピーク強度比の測定方法及びピーク強度比の最大値と最小値の差の求め方について説明する。
単糸内部の結晶構造については、X線解析装置により、単糸の直径よりも細い半値幅のX線ビームを用いて確認することが可能である。単糸の直径は、光学顕微鏡等により求めることができる。なお、単糸断面が楕円などの形状である場合は、当該単糸の外周上に存在する最も離れた2点を結ぶ距離を直径とし、上記2点の中点を単糸の中心とした。単糸の直径の30%以下の半値幅のX線ビームを用いることが好ましく、単糸の直径の10%以下の半値幅のX線ビームを用いることがより好ましい。
ピーク強度比の最大値と最小値の差は以下の方法で求める。単糸の中心から単糸の外周近傍の位置(以下、最外点という)まで等間隔でピーク強度比を測定して、ピーク強度比の最大値と最小値を決定し、その差を求める。上記最外点は、単糸の中心から直径の30%以上離れた点であることが好ましく、直径の35%以上離れていることがより好ましい。単糸の中心から最外点までのピーク強度比の測定点数は好ましくは3箇所以上であり、5箇所以上であることがより好ましい。また、上記間隔はX線ビームの半値幅より小さいことが好ましく、上記間隔はX線ビームの半値幅の90%以下であることがより好ましい。
ピーク強度比は単糸内部のいずれの測定点でも0.01以上0.48以下であることが好ましく、より好ましくは0.08以上0.40以下、更に好ましくは0.15以上0.35以下である。上記ピーク強度比が0.48を超える測定点が存在すると、単糸内部の結晶が、斜方晶の単位格子のa軸方向に極端に成長していることになり、断面全体の結晶構造の均一性が不十分となっていることを示し、不均一な結晶構造である単糸からなるマルチフィラメントは耐摩耗性が低くなるおそれがあるため好ましくない。
また、ピーク強度比については、下記式(1)にて定義される変動係数CVが50%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下である。変動係数CVが50%を超えると断面全体の結晶構造の均一性が不十分である。なお、変動係数CVの下限は特に限定されないが、1%以上であることが好ましい。
変動係数CV(%)=(マルチフィラメントを構成する単糸のピーク強度比の標準偏差)/(マルチフィラメントを構成する単糸のピーク強度比の平均値)×100・・・(1)
単糸の軸方向(長手方向)の結晶配向度(以下、結晶配向度という)についても、ピーク強度比と同様に上記X線ビームを用いて単糸の中心から最外点まで等間隔で測定を行う。結晶配向度は単糸内部のいずれの測定点でも0.950以上であることが好ましく、0.960以上であることがより好ましい。上記結晶配向度が0.950未満である測定点が存在すると、このような単糸からなるマルチフィラメントの耐摩耗性が低くなるおそれがあるため好ましくない。なお、結晶配向度の上限は特に限定されないが、0.995を超える単糸を得ることは実質的に困難である。
また、結晶配向度の最大値と最小値の差についてもピーク強度比の最大値と最小値の差と同様に求めることができる。結晶配向度の最大値と最小値の差が0.010以下であることが好ましく、0.007以下であることがより好ましい。結晶配向度の最大値と最小値の差が0.010を超えるような単糸は、結晶構造が不均一であるので、このような単糸からなるマルチフィラメントの耐摩耗性は低くなるおそれがあるため好ましくない。なお、結晶配向度の最大値と最小値の差の下限は特に限定されないが、0.001程度で十分である。
〔高機能マルチフィラメントの摩耗〕
高機能マルチフィラメントについて、室温でヘキサンおよびエタノールを用いてマルチフィラメントの表面を洗浄し、マルチフィラメントの表面を乾燥した後にJIS L 1095に基づく摩耗試験を行い、その結果、荷重を5cN/dtexとしたときの破断までの回数が1000回以上であることが好ましく、より好ましくは1500回以上、さらに好ましくは3000回以上である。なお、上限は特に限定されないが、300000回以下であることが好ましい。また、荷重を10cN/dtexとしたときの破断までの回数が100回以上であり、好ましくは150回以上、より好ましくは200回以上であり、特に好ましくは300回以上である。なお、上限は特に限定されないが、100000回以下であることが好ましい。
〔高機能マルチフィラメントの熱応力〕
高機能マルチフィラメントは、TMA(機械熱分析)測定における熱応力最大値が、0.20cN/dtex以上、5.0cN/dtex以下であることが好ましく、より好ましくは、0.25cN/dtex以上、3.0cN/dtex以下である。熱応力最大値が0.20cN/dtex未満の場合、マルチフィラメントの弾性率が低くなるおそれがあり、好ましくない。また、熱応力最大値が5.0cN/dtexを超えると寸法変化が大きくなるため、好ましくない。
また、高機能マルチフィラメントは、TMA(機械熱分析)測定における熱応力最大値となる温度が120℃以上であることが好ましく、より好ましくは130℃以上である。120℃未満の場合、高温での保管時、高温で組紐に染色を行う場合、お湯で製品洗浄する場合などに寸法変化が大きくなり好ましくない。
高機能マルチフィラメントは、TMA(機械熱分析)測定における120℃での熱応力が、0.15cN/dtex以上、0.5cN/dtex以下であることが好ましく、より好ましくは、0.17cN/dtex以上、0.4cN/dtex以下である。120℃での熱応力が、0.15cN/dtex未満の場合、マルチフィラメントの弾性率が低くなるおそれがあり、好ましくない。
〔高機能マルチフィラメントの熱収縮率〕
高機能マルチフィラメントは、70℃における熱収縮率が0.20%以下であることが好ましく、より好ましくは0.18%以下、さらに好ましくは0.15%以下である。70℃における熱収縮率が0.20%を超えると、高温で組紐に染色を行う場合、お湯で製品洗浄する場合などに組紐を構成するマルチフィラメントの寸法変化が大きくなり好ましくない。下限は特に限定されないが0.01%以上であることが好ましい。また、高機能マルチフィラメントは、120℃における熱収縮率が3.0%以下であることが好ましく、より好ましくは2.9%以下、さらに好ましくは2.8%以下である。120℃における熱収縮率が3.0%を超えると、製品洗浄後に製品に付着した水を短時間で乾燥させるために120℃といった高温で組紐を乾燥させると組紐を構成するマルチフィラメントの寸法変化が大きくなり好ましくない。また、高温で組紐に染色を行う場合、お湯で製品洗浄する場合などに組紐を構成するマルチフィラメントの寸法変化が大きくなり好ましくない。下限は特に限定されないが0.01%以上であることが好ましい。なお、マルチフィラメントの70℃又は120℃における熱収縮率は、マルチフィラメントの70℃又は120℃における長手方向の熱収縮率を指す。
〔高機能マルチフィラメントの引張強度〕
高機能マルチフィラメントは、引張強度が18cN/dtex以上、好ましくは20cN/dtex以上、更に好ましくは21cN/dtex以上である。高機能マルチフィラメントは、単糸繊度を大きくしても上記の引張強度を有し、従来のマルチフィラメントからなる組紐では展開できなかった耐摩耗性及び寸法安定性が求められる用途にまで展開することができる。引張強度は高い方が好ましく上限は特に限定されないが、例えば、引張強度が85cN/dtexを超えるマルチフィラメントは、技術的、工業的に生産が困難である。なお、引張強度の測定方法については後述する。
〔高機能マルチフィラメントの破断伸度〕
高機能マルチフィラメントは、破断伸度が3.0%以上が好ましく、3.4%以上がより好ましく、3.7%以上がさらに好ましく、7.0%以下が好ましく、6.0%以下がより好ましく、5.0%以下がさらに好ましい。破断伸度が3.0%未満になると、製品使用時もしくは製品への加工時にわずかな歪みで単糸切れや毛羽の発生が生じやすくなるため好ましくない。一方、破断伸度が7.0%を超えると、寸法安定性が損なわれ好ましくない。なお、破断伸度の測定方法については後述する。
〔高機能マルチフィラメントの初期弾性率〕
高機能マルチフィラメントは、初期弾性率が600cN/dtex以上、1500cN/dtex以下であることが好ましい。マルチフィラメントが、かかる初期弾性率を有していれば、製品使用時や製品への加工工程で受ける外力に対して物性や形状変化が生じ難くなる。初期弾性率は650cN/dtex以上がより好ましく、更に好ましくは680cN/dtex以上であり、1400cN/dtex以下がより好ましく、更に好ましくは1300cN/dtex以下、特に好ましくは1200cN/dtex以下である。初期弾性率が1500cN/dtexを超えると、高弾性率により糸のしなやかさが損なわれるため好ましくない。なお、初期弾性率の測定方法については後述する。
〔高機能マルチフィラメントを構成する単糸の初期弾性率の変動係数〕
高機能マルチフィラメントを構成する単糸の初期弾性率については、下記式(2)にて定義される変動係数CV’が30%以下であることが好ましく、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。単糸の初期弾性率のばらつきを表す変動係数CV’が30%を超えると、単糸から構成されるマルチフィラメントの強度が低下するばかりでなく耐摩耗性が悪化する為好ましくない。なお、下限は特に限定されないが、0.5%以上であることが好ましい。
変動係数CV’(%)=(高機能マルチフィラメントを構成する単糸の初期弾性率の標準偏差)/(高機能マルチフィラメントを構成する単糸の初期弾性率の平均値)×100・・・(2)
〔高機能マルチフィラメントの製造方法〕
高機能マルチフィラメントの製造方法については、ゲル紡糸法によることが好ましい。具体的には、高機能マルチフィラメントの製造方法は、ポリエチレンを溶媒に溶解してポリエチレン溶液とする溶解工程と、上記ポリエチレン溶液を上記ポリエチレンの融点以上の温度でノズルから吐出し、吐出した糸条を10℃以上60℃以下の冷媒で冷却する紡糸工程と、吐出された未延伸糸から溶媒を除去しながら延伸する延伸工程と、50℃以下で5cN/dtex以下の張力で巻き取る巻き取り工程とを備えることが好ましい。
<溶解工程>
溶剤に高分子量のポリエチレンを溶解してポリエチレン溶液を作製する。溶剤は、デカリン・テトラリン等の揮発性の有機溶剤や常温固体または非揮発性の溶剤であることが好ましい。上記ポリエチレン溶液におけるポリエチレンの濃度は30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。原料のポリエチレンの極限粘度[η]に応じて最適な濃度を選択する必要性がある。
上記ポリエチレン溶液の作製方法として、種々の方法を用いることができるが、例えば、2軸スクリュー押出し機を用いたり、固体ポリエチレンを溶媒中に懸濁させて高温にて撹拌したりすることによりポリエチレン溶液を作製できる。このとき、混合条件は、150℃以上200℃以下の温度範囲で1分以上80分以内とすることが好ましい。1分未満の場合は、混合が不完全となるおそれがあり好ましくない。一方、150℃以上200℃以下の温度範囲の時間が80分を超えると、紡糸可能な範囲を超えるほどにポリエチレン分子の破断や架橋が非常に多く発生するため、単糸繊度3dtex以上の単糸が少なくとも5本以上で構成されたマルチフィラメントを製造しても、高強度・高弾性率と寸法安定性とを共に備えたマルチフィラメントにするのは困難である。またポリマーの分子量や濃度によっては、200℃を超える温度での混合が必要になるが、200℃を超える温度域での混合時間は30分以下であることが好ましい。30分を超えると、紡糸可能な範囲を超えるほどにポリエチレン分子の破断や架橋が非常に多く発生するため、単糸繊度3dtex以上の単糸が少なくとも5本以上で構成されたマルチフィラメントを製造しても、高強度・高弾性率と寸法安定性とを共に備えたマルチフィラメントにするのは困難である。なお、上記の紡糸可能な範囲とは、10m/分以上での紡糸が可能であり、そのときの紡糸張力が単糸1本あたり0.01cN以上、300cN以下であることをいう。
<紡糸工程>
高温撹拌や2軸スクリュー押出機によって作製されたポリエチレン溶液は、押出機などを用いてポリエチレンの融点よりも好ましくは10℃以上高い温度で、より好ましくはポリエチレンの融点よりも20℃以上高い温度で、さらに好ましくはポリエチレンの融点よりも30℃以上高い温度で押出しを行い、その後、定量供給装置を用いて紡糸口金(紡糸ノズル)に供給される。紡糸口金のオリフィス内を通過する時間は1秒以上、8分以下であることが好ましい。1秒未満の場合、オリフィス内でのポリエチレン溶液の流れが乱れるため、ポリエチレン溶液を安定して吐出できず好ましくない。また、ポリエチレン溶液の流れの乱れの影響をうけ、単糸全体の構造が不均一となるため好ましくない。他方、8分を超えるとポリエチレン分子がほとんど配向することなく吐出され、単糸あたりの紡糸張力範囲が上記の範囲外となりやすく好ましくない。また、得られる単糸の結晶構造が不均一となってしまうため、結果として耐摩耗性を発現することができず好ましくない。
ポリエチレン溶液を複数のオリフィスが配列してなる紡糸口金を通すことで糸条が形成される。ポリエチレン溶液を紡糸して糸条を製造する際、紡糸口金の温度は、ポリエチレンの溶解温度以上である必要があり、140℃以上であることが好ましく、より好ましくは150℃以上である。ポリエチレンの溶解温度は、選択した溶媒、ポリエチレン溶液の濃度、及びポリエチレンの質量濃度に依存しており、もちろん、紡糸口金の温度はポリエチレンの熱分解温度未満とする。
次に、ポリエチレン溶液を好ましくは直径0.2〜3.5mm(より好ましくは直径0.5〜2.5mm)を有する紡糸口金より0.1g/分以上の吐出量で吐出する。その際、紡糸口金温度をポリエチレンの融点より10℃以上高く、かつ用いた溶媒の沸点未満の温度にすることが好ましい。ポリエチレンの融点近傍の温度領域では、ポリマーの粘度が高すぎ、素速い速度で引き取ることが出来ない。また、用いる溶媒の沸点以上の温度では、紡糸口金を出た直後に溶媒が沸騰するため、紡糸口金直下で糸切れが頻繁に発生するので好ましくない。なお、高機能マルチフィラメントが5本以上の単糸から構成されるようにするため、紡糸口金にはオリフィスが5個以上設けられている。好ましくはオリフィスは7個以上である。
紡糸口金表面側(ポリエチレン溶液吐出側)には、ポリエチレン溶液を吐出するための細孔(オリフィスの一端部)がオリフィスの数と同数形成されているが、各細孔からのポリエチレン溶液の吐出量ができるだけ均一な量となることが好ましく、そのためには各細孔間の温度差は小さい方が好ましい。具体的には、各細孔における吐出量の変動係数CV”((紡糸口金に設けられた全細孔における吐出量の標準偏差)/(紡糸口金に設けられた全細孔における吐出量の平均値)×100)が20%以下であることが好ましく、より好ましくは18%以下である。上記の変動係数CV”とするためには、細孔の最高温度と最低温度との差が10℃以下であることが好ましく、より好ましくは8℃以下である。細孔の最高温度と最低温度との差を小さくする方法は特に限定されないが、紡糸口金が直接外気と接することのないように遮蔽されていることが好ましく、例えば紡糸口金を断熱ガラス製の遮蔽板によって外気から遮蔽する方法が挙げられる。そして、遮蔽板と遮蔽板に最も近い細孔との距離と遮蔽板と遮蔽板から最も遠い細孔との距離の差を出来る限り小さくすることにより、細孔の最高温度と最低温度との差を小さくすることができる。
細孔から吐出された糸条が、細孔からの吐出後、冷媒により冷却するに至るまでの間の雰囲気は特に限定されないが、窒素、ヘリウム等の不活性ガスで満たされていることが好ましい。
次に、吐出された糸条を冷却媒体で冷却しながら800m/分以下の速度で引き取ることが好ましく、200m/分以下であることがより好ましい。このとき、冷却媒体の温度は10〜60℃であることが好ましく、より好ましくは12℃以上、35℃以下である。冷媒温度がこの範囲を外れると単糸繊度が太くなるにつれてマルチフィラメントの引張強度が大幅に低下してしまい好ましくない。この原因は以下のように考えられる。単糸繊度を太くした場合にも高強度・高弾性率を維持するためには単糸全体の結晶構造をできる限り均一にすることが好ましい。しかし、冷却媒体の温度が低すぎると単糸の断面中心部近傍の冷却が単糸の外表面近傍の冷却に追いつけず、単糸全体の結晶構造が不均一となってしまう。また、冷却媒体の温度が高すぎると、単糸の断面中心部近傍の冷却速度と単糸の外表面近傍の冷却速度の差は小さくなるが、冷却するために必要となる時間が長くなるため、紡糸された未延伸糸において構造変化が生じ、単糸の断面中心部近傍と単糸の外表面近傍とで結晶構造が異なりやすい。そのため、単糸の強度が低下し、ひいてはマルチフィラメントの強度も低下する。なお、冷却媒体は、ポリエチレン溶液の溶媒と混和する混和性の液体でもポリエチレン溶液の溶媒と混和しない水などの不混和性の液体でもどちらでもよい。
冷却終了から糸中に存在する溶媒を除去するまでの時間は短い方が好ましい、すなわち、冷却後は速やかに溶媒を除去するのが好ましい。溶媒の除去についての詳細は後述する。溶媒の除去に要する時間は、マルチフィラメント中に残存する溶媒の量が10%以下になるまでの時間が10時間以内であることが好ましく、より好ましくは2時間以内、さらに好ましくは30分以内である。溶媒の除去に要する時間が10時間を超えると、単糸の断面中心部近傍で形成される結晶構造と単糸の外表面近傍で形成される結晶構造との差が大きくなり、単糸全体の結晶構造が不均一となるため好ましくない。
<延伸工程>
紡糸工程で引き取った未延伸糸を連続的に又は一旦巻き取った後、延伸工程を行う。延伸工程では冷却して得られた未延伸糸を加熱した状態で数倍に延伸する。延伸は1回のみでも複数回に分けて行ってもよいが、1回以上3回以下であることが好ましい。また、未延伸糸を加熱乾燥した後に1段以上の延伸をしてもよい。延伸工程は、熱媒体雰囲気中で行ってもよいし、加熱ローラーを用いて行ってもよい。媒体としては、空気、窒素等の不活性ガス、水蒸気、液体媒体等が挙げられる。
また、未延伸糸から溶媒を除去する必要があるが、脱溶媒しながら延伸してもよいし、脱溶媒は延伸工程と別に行ってもよい。溶媒の除去手段としては、揮発性溶媒の場合には上述の加熱方法を用いてもよいが、不揮発性溶媒を用いた場合は、抽出剤等を用いて抽出する方法が挙げられる。抽出剤としては例えば、クロロホルム、ベンゼン、トリクロロトリフルオロエタン(TCTFE)、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、エタノール、高級アルコール等を用いることができる。
該未延伸糸の延伸倍率は、延伸工程が1段の場合でも多段の場合でも合計の延伸倍率で7.0倍以上60倍以下であることが好ましく、より好ましくは8.0倍以上、55倍以下、さらに好ましくは9.0倍以上、50倍以下である。また、ポリエチレンの融点以下の温度で延伸を行うことが好ましい。複数回延伸する場合、後段に進むほど、延伸時の温度を高くするのが好ましく、延伸の最後段の延伸温度は、80℃以上、160℃以下が好ましく、より好ましくは90℃以上、158℃以下である。延伸時に糸が上記延伸温度の範囲内となるよう、加熱装置の条件を設定すればよい。このとき糸の温度は例えば赤外線カメラ(FLIR Systems社製FLIR SC640)を用いて測定することができる。
該未延伸糸の延伸時間、すなわちマルチフィラメントの変形に要する時間は0.5分間以上20分間以下であることが好ましく、より好ましくは15分間以下、さらに好ましくは10分間以下である。マルチフィラメントの変形時間が20分間を超えると、延伸時間以外の製造条件を好適な範囲内としても分子鎖が延伸中に緩和してしまうため、単糸の強度が低下し好ましくない。
延伸時の変形速度は好ましくは、0.001s-1以上0.8s-1以下が好ましい。さらに好ましくは、0.01s-1以上、0.1s-1以下である。変形速度は、マルチフィラメントの延伸倍率、延伸速度、及び延伸区間の長さより計算可能である。つまり変形速度(s-1)=延伸速度/{延伸区間・(延伸倍率−1)}である。変形速度があまりにも速いと十分な延伸倍率に達する前にマルチフィラメントの破断が生じてしまい好ましくない。また、マルチフィラメントの変形速度があまりにも遅いと、分子鎖が延伸中に緩和してしまうため、高強度・高弾性率のマルチフィラメントが得られず、製紐して組紐にしたときの引張強度や初期弾性率も低くなり好ましくない。
<巻き取り工程>
延伸された糸を好ましくは延伸終了から10分以内に巻き取ることが好ましく、より好ましくは8分以内、さらに好ましくは5分以内である。また、延伸された糸を好ましくは0.001cN/dtex以上、5cN/dtex以下の張力で巻き取ることが好ましく、より好ましくは0.05cN/dtex以上、3cN/dtex以下である。上記範囲内の時間や張力で巻き取ることで、マルチフィラメント中の断面方向における残留歪みを維持した状態で巻き取ることが可能となる。巻き取り時の張力が0.001N/dtex未満の場合、残留歪みが小さくなり、断面方向の応力分布が不安定となってしまうため、結果としてマルチフィラメントを構成する各単糸において内層と外層との間で残留歪みの差が発現してしまう。また巻取り張力を5.0cN/dtexよりも大きくするとマルチフィラメントを構成する単糸が切れやすくなるため好ましくない。
また、巻取り時の温度は50℃以下であることが好ましく、より好ましくは5℃以上、45℃以下である。巻取り時の温度が50℃を超えると、上述の冷却工程で固定した残留歪みが緩和されるおそれがあるため好ましくない。
なお、高機能マルチフィラメントから本発明に係る組紐を製造する方法については後述する。
本発明に係る組紐の物性について以下に記載する。
〔組紐の引張強度〕
本発明に係る組紐は、引張強度が18cN/dtex以上、好ましくは20cN/dtex以上、更に好ましくは21cN/dtex以上である。組紐は、単糸繊度を大きくしても上記の引張強度を有し、従来のマルチフィラメントからなる組紐では展開できなかった耐摩耗性及び寸法安定性が求められる用途にまで展開することができる。引張強度は高い方が好ましく上限は特に限定されないが、例えば、引張強度が85cN/dtex以上の組紐は、技術的、工業的に生産が困難である。なお、引張強度の測定方法については後述する。
〔組紐の摩耗〕
本発明に係る組紐について、有機溶剤で組紐の表面を洗浄・乾燥後にJIS L 1095に基づく摩耗試験を行い、その結果、荷重を5cN/dtexとしたときの破断までの回数が1000回以上であることが好ましく、より好ましくは1500回以上、さらに好ましくは3000回以上である。なお、上限は特に限定されないが、300000回以下であることが好ましい。
〔組紐の熱収縮率〕
本発明に係る組紐は、120℃における熱収縮率が3.0%以下であることが好ましく、より好ましくは2.9%以下、さらに好ましくは2.8%以下である。120℃における熱収縮率が3.0%を超えると、製品洗浄後に製品に付着した水を短時間で乾燥させるために120℃といった高温で組紐を乾燥させると組紐の寸法変化が大きくなり好ましくない。また、高温で組紐に染色を行う場合、お湯で製品洗浄する場合などに組紐の寸法変化が大きくなり好ましくない。下限は特に限定されないが0.01%以上であることが好ましい。なお、組紐の120℃における熱収縮率は、組紐の120℃における長手方向の熱収縮率を指す。
〔組紐の破断伸度〕
本発明に係る組紐は、破断伸度が3.0%以上が好ましく、3.4%以上がより好ましく、3.7%以上がさらに好ましく、7.0%以下が好ましく、6.0%以下がより好ましく、5.0%以下がさらに好ましい。破断伸度が3.0%未満になると、製品使用時もしくは製品への加工時にわずかな歪みで単糸切れや毛羽の発生が生じやすくなるため好ましくない。一方、破断伸度が7.0%を超えると、寸法安定性が損なわれ好ましくない。なお、破断伸度の測定方法については後述する。
〔組紐の初期弾性率〕
本発明に係る組紐は、初期弾性率が300cN/dtex以上、1500cN/dtex以下であることが好ましい。組紐が、かかる初期弾性率を有していれば、製品使用時や製品への加工工程で受ける外力に対して物性や形状変化が生じ難くなる。初期弾性率は350cN/dtex以上がより好ましく、更に好ましくは400cN/dtex以上であり、1400cN/dtex以下がより好ましく、更に好ましくは1300cN/dtex以下、特に好ましくは1200cN/dtex以下である。初期弾性率が1500cN/dtexを超えると、高弾性率により糸のしなやかさが損なわれるため好ましくない。なお、初期弾性率の測定方法については後述する。
本発明の組紐は3本以上のマルチフィラメントを製紐したものが好ましく、より好ましくは3本以上16本以下のマルチフィラメントを製紐したものである。マルチフィラメントが2本以下の場合、組紐形状にならず、たとえ組紐になったとしてもマルチフィラメントと製紐機のガイド部との接触面積が大きくなり、結果として組紐の耐摩耗性が低下したり、組紐を動かすときの滑らかさが損なわれるおそれがある。
本発明に係る組紐を構成するマルチフィラメントのうち、少なくとも1本は高機能マルチフィラメントであることが好ましく、3本以上は高機能マルチフィラメントであることがより好ましく、全てのマルチフィラメントが高機能マルチフィラメントであることがより好ましい。組紐を構成するマルチフィラメントとして高機能マルチフィラメントを用いることにより、得られる組紐が高強度・高弾性率となり、且つ、寸法安定性、経時に伴う力学物性の変動を小さくすることが可能となる。
マルチフィラメントの1本以上が高機能マルチフィラメントであれば、残りのマルチフィラメントは、他素材の繊維、例えばポリエステル繊維、ポリアミド繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、金属繊維、無機繊維、天然繊維、再生繊維であってもよく、これらが複合された繊維であってもよい。また、1本の高強度ポリエチレン繊維以外も全てマルチフィラメントである方が好ましいが、モノフィラメントが含まれていてもよい。高強度ポリエチレン繊維以外のフィラメントとしては、短繊維と長繊維との複合であってもよく、またフィラメント自体がテープやリボン状の成形体をスプリットして作製されたスプリットヤーンであってもよい。各々のマルチフィラメント又はモノフィラメントの単糸の断面形状は円形でも楕円形などの円形以外の形状でもよく、中空状のフィラメントや扁平状のフィラメント等を用いてもよい。また、各々のマルチフィラメント又はモノフィラメントの一部もしくは全部が着色、または融着されていてもよい。
本発明の組紐は組角度が6〜35°が好ましく、より好ましくは15〜30°、さらに好ましくは18〜25°である。組角度が6°未満であると、組紐の形態が不安定となり、また、組紐の断面が偏平になり易くなる。さらに、組紐のコシも低く、組紐が容易に折れ曲がり易く、取り扱い性が悪くなる。また、組角度が35°を超えると、組紐の形態は安定するものの、一方で原糸の引張強度より組紐の引張強度の方が低くなってしまうが、本発明において組紐の組角度は6〜35°の範囲に限定されるものではない。
〔組紐の製造方法〕
組紐は公知の組紐機(製紐機)を用いて編み上げられる。製紐方法としては、特に限定されないが、平打ち、丸打ち、角打ちなどが挙げられる。そして、マルチフィラメントを製紐し、熱処理する工程を行うのが好ましい。
<熱処理>
上記熱処理は、70℃以上で行うのが好ましく、より好ましくは90℃、更に好ましくは100℃であり、160℃以下で行うのが好ましい。熱処理の温度が70℃未満の場合、構成する高機能マルチフィラメントを構成するポリエチレンの結晶分散温度と同程度の温度又はそれ以下の温度であるため、マルチフィラメント中の断面方向における残留歪みが緩和されてしまうため、好ましくない。一方、熱処理温度が160℃を超えると、組紐の破断が生じやすくなるばかりでなく、所望の組紐の力学物性を得ることができないため、好ましくない。
また、熱処理は、0.1秒以上、30分以下行うことが好ましく、より好ましくは0.5秒以上、25分以下、更に好ましくは1.0秒以上、20分以下である。処理時間が0.1秒未満の場合、マルチフィラメント中の断面方向における残留歪みが緩和されてしまい好ましくない。一方、熱処理時間が30分を超えると、組紐の破断が生じやすくなるばかりでなく、所望の組紐の力学物性を得ることができないため、好ましくない。
上記熱処理中に組紐にかかる張力は0.02cN/dtex以上、15cN/dtex以下であることが好ましく、より好ましくは0.03cN/dtex以上、12cN/dtex以下、更に好ましくは0.05cN/dtex以上、8cN/dtex以下である。上記熱処理時に組紐にかかる張力が15cN/dtexよりも大きい場合は、熱処理中に組紐が破断するおそれや破断しない場合であっても得られる組紐の物性が低下したり、経時に伴う物性の変動(往復摩耗回数の低下)が起こるおそれがあるため好ましくない。
また、高機能マルチフィラメントの製造時に延伸工程を行っているが、熱処理中にも延伸(以下、熱処理中の延伸を再延伸という)を行ってもよい。再延伸倍率(熱処理前の組紐の長さに対する熱処理後の組紐の長さの比率)は、1.05倍以上、15倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.5倍以上、10倍以下である。再延伸の倍率が1.05倍未満の場合、熱処理で組紐が弛むため、均一な熱処理をおこなうことができず、長手方向の物性斑が大きくなり好ましくない。また再延伸の倍率が15倍を超えると組紐を構成している高機能マルチフィラメントが破断するため好ましくない。
熱処理を行う際の加熱は公知の方法で行うことができ、例えば、樹脂を水中に分散もしくは溶解させた温浴、オイルバス、ホットローラー、輻射パネル、スチームジェット、ホットピンなどを用いて加熱する方法を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。組紐加工後もしくは組紐加工中に、所望により加撚、樹脂の付与、もしくは、着色を行ってもよい。
〔組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの物性〕
本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの物性について以下に記載する。
〔組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントにおける単糸の結晶構造〕
組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントにおける単糸は、単糸内部の結晶構造が断面(長手方向垂直面)全体で均一に近い構造であることが好ましい。すなわち、組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントにおける単糸は、後述のX線ビームを用いた測定において、(110)面の回折ピーク強度に対する(200)面の回折ピーク強度の比(以下、ピーク強度比という)を単糸断面全体にわたって測定したとき、最大値と最小値の差が0.18以下であり、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.12以下である。ピーク強度比の最大値と最小値の差が0.18を超えると、断面全体の結晶構造の均一性が不十分であることを示すため好ましくない。ピーク強度比の最大値と最小値の差の下限は特に限定されないが、0.01程度で十分である。単糸内部におけるピーク強度比の測定方法及びピーク強度比の最大値と最小値の差の求め方は上述のとおりである。
ピーク強度比は単糸内部のいずれの測定点でも0.01以上0.48以下であることが好ましく、より好ましくは0.08以上0.40以下、更に好ましくは0.15以上0.35以下である。上記ピーク強度比が0.48を超える測定点が存在すると、単糸内部の結晶が、斜方晶の単位格子のa軸方向に極端に成長していることになり、断面全体の結晶構造の均一性が不十分となっていることを示すため好ましくない。
また、ピーク強度比については、上記式(1)にて定義される変動係数CVが40%以下であることが好ましく、より好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下である。変動係数CVが40%を超えると断面全体の結晶構造の均一性が不十分である。なお、変動係数CVの下限は特に限定されないが、1%以上であることが好ましい。
組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントにおける単糸の軸方向(長手方向)の結晶配向度(以下、結晶配向度という)についても、ピーク強度比と同様に上記X線ビームを用いて単糸の中心から最外点まで等間隔で測定を行う。結晶配向度は単糸内部のいずれの測定点でも0.950以上であることが好ましく、0.960以上であることがより好ましい。なお、結晶配向度の上限は特に限定されないが、0.995を超える単糸を得ることは実質的に困難である。
また、結晶配向度の最大値と最小値の差についてもピーク強度比の最大値と最小値の差と同様に求めることができる。ピーク強度比の最大値と最小値の差が0.012以下であることが好ましく、0.010以下であることがより好ましい。結晶配向度の最大値と最小値の差が0.012を超えるような単糸は、結晶構造が不均一であるため好ましくない。なお、結晶配向度の最大値と最小値の差の下限は特に限定されないが、0.001程度で十分である。
〔組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントを構成する単糸の繊度〕
本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントは、単糸繊度が2dtex以上、40dtex以下であることが好ましく、より好ましくは5dtex以上、30dtex以下、さらに好ましくは6dtex以上、20dtex以下である。単糸繊度が2dtex以上となることで高度な耐摩耗性が発現する。一方で単糸繊度が40dtexを超えるとマルチフィラメントの強度が低下してしまうため好ましくない。
〔組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの総繊度〕
本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントは、総繊度が15dtex以上、7000dtex以下であることが好ましく、より好ましくは30dtex以上、5000dtex以下、さらに好ましくは40dtex以上、3000dtex以下である。総繊度が15dtex以上となることで高度な耐摩耗性が発現する。一方で総繊度が7000dtexを超えるとマルチフィラメントの強度が低下してしまうため好ましくない。
〔組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの摩耗〕
本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントについて、有機溶剤でマルチフィラメントの表面を洗浄・乾燥後にJIS L 1095に基づく摩耗試験を行い、その結果、荷重を5cN/dtexとしたときの破断までの回数が1000回以上であることが好ましく、より好ましくは1500回以上、さらに好ましくは3000回以上である。なお、上限は特に限定されないが、300000回以下であることが好ましい。また、荷重を10cN/dtexとしたときの破断までの回数が100回以上であることが好ましく、より好ましくは150回以上、さらに好ましくは200回以上であり、特に好ましくは300回以上である。なお、上限は特に限定されないが、100000回以下であることが好ましい。
荷重を5cN/dtexとして測定された上記摩耗強さ試験において、上記組紐の往復摩耗回数と、上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントの往復摩耗回数との差が320回以下であることが好ましく、より好ましくは300回以下であり、さらに好ましくは250回以下である。
〔組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの熱応力〕
本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントは、TMA(機械熱分析)測定における120℃での熱応力が、0.15cN/dtex以上、0.5cN/dtex以下であることが好ましく、より好ましくは、0.17cN/dtex以上、0.4cN/dtex以下である。120℃での熱応力が、0.15cN/dtex未満の場合、マルチフィラメントの弾性率が低くなるおそれがあり、好ましくない。
〔組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの熱収縮率〕
本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントは、70℃における熱収縮率が0.11%以下であることが好ましく、より好ましくは0.10%以下である。70℃における熱収縮率が0.11%を超えると、高温で組紐に染色を行う場合、お湯で製品洗浄する場合などに組紐を構成するマルチフィラメントの寸法変化が大きくなり好ましくない。下限は特に限定されないが0.01%以上であることが好ましい。また、本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントは、120℃における熱収縮率が2.15%以下であることが好ましく、より好ましくは2.10%以下である。120℃における熱収縮率が2.15%を超えると、製品洗浄後に製品に付着した水を短時間で乾燥させるために120℃といった高温で組紐を乾燥させると組紐を構成するマルチフィラメントの寸法変化が大きくなり好ましくない。また、高温で組紐に染色を行う場合、お湯で製品洗浄する場合などに組紐を構成するマルチフィラメントの寸法変化が大きくなり好ましくない。下限は特に限定されないが0.01%以上であることが好ましい。なお、組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの70℃又は120℃における熱収縮率は、マルチフィラメントの70℃又は120℃における長手方向の熱収縮率を指す。
〔組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの引張強度〕
本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントは、引張強度が18cN/dtex以上、好ましくは20cN/dtex以上、更に好ましくは21cN/dtex以上である。高機能マルチフィラメントは、単糸繊度を大きくしても上記の引張強度を有し、従来のマルチフィラメントからなる組紐では展開できなかった耐摩耗性及び寸法安定性が求められる用途にまで展開することができる。引張強度は高い方が好ましく上限は特に限定されないが、例えば、引張強度が85cN/dtex以上のマルチフィラメントは、技術的、工業的に生産が困難である。なお、引張強度の測定方法については後述する。
上記組紐の引張強度と、上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントの引張強度との差が5cN/dtex以下であることが好ましく、より好ましくは4cN/dtex以下である。
〔組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの破断伸度〕
本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントは、破断伸度が3.0%以上が好ましく、3.4%以上がより好ましく、3.7%以上がさらに好ましく、7.0%以下が好ましく、6.0%以下がより好ましく、5.0%以下がさらに好ましい。破断伸度が3.0%未満になると、製品使用時もしくは製品への加工時にわずかな歪みで単糸切れや毛羽の発生が生じやすくなるため好ましくない。一方、破断伸度が7.0%を超えると、寸法安定性が損なわれ好ましくない。なお、破断伸度の測定方法については後述する。
〔組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントの初期弾性率〕
本発明に係る組紐を解いた状態の高機能マルチフィラメントは、初期弾性率が600cN/dtex以上、1500cN/dtex以下であることが好ましい。マルチフィラメントが、かかる初期弾性率を有していれば、製品使用時や製品への加工工程で受ける外力に対して物性や形状変化が生じ難くなる。初期弾性率は650cN/dtex以上がより好ましく、更に好ましくは680cN/dtex以上であり、1400cN/dtex以下がより好ましく、更に好ましくは1300cN/dtex以下、特に好ましくは1200cN/dtex以下である。初期弾性率が1500cN/dtexを超えると、高弾性率により糸のしなやかさが損なわれるため好ましくない。なお、初期弾性率の測定方法については後述する。
〔その他〕
他の機能を付与するために、本発明に係る組紐や本発明に用いる高機能マルチフィラメントを製造する際に、酸化防止剤、還元防止剤等の添加剤、pH調整剤、表面張力低下剤、増粘剤、保湿剤、濃染化剤、防腐剤、防黴剤、帯電防止剤、顔料、鉱物繊維、他の有機繊維、金属繊維、金属イオン封鎖剤等を添加してもよい。
本発明に係る組紐は、耐切創性を活かした防護用織編物や、テープ、ロープ、ネット、釣糸、資材防護カバー、シート、カイト用糸、洋弓弦、セールクロス、幕材、防護材、防弾材、医療用縫合糸、人工腱、人工筋肉、繊維強化樹脂補強材、セメント補強材、繊維強化ゴム補強材、工作機械部品、電池セパレーター、化学フィルター等の産業用資材に用いることができる。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記各実施例・比較例におけるマルチフィラメント、組紐を解いた状態のマルチフィラメントの特性値の測定は下記のように行った。また、下記各実施例・比較例における組紐についても、引張強度、破断伸度、初期弾性率、120℃の熱収縮率、荷重を5cN/dtexとした場合の摩耗試験についてはマルチフィラメント等と同様に後述の測定法で測定を行った。
(1)極限粘度
溶媒を温度135℃のデカリンとし、ウベローデ型毛細粘度管を用いて、種々の希薄溶液の比粘度を測定した。希薄溶液粘度の濃度に対するプロットから最小2乗近似で得られる直線の原点への外挿点より極限粘度を決定した。測定に際し、サンプルを約5mm長の長さに分割又は切断し、サンプルに対して1質量%の酸化防止剤(エーピーアイコーポレーション社製、「ヨシノックス(登録商標) BHT」)を添加し、135℃で4時間攪拌溶解して測定溶液を調製した。
(2)重量平均分子量
上記(1)の方法で測定された極限粘度の値から以下の式を用いて重量平均分子量を算出した。
重量平均分子量=5.365×104×(極限粘度)1.37
(3)単糸内部のピーク強度比
結晶サイズおよび配向評価はX線回折法を用いて測定した。X線ソースとしては大型放射光施設SPring−8をX線原とし、BL03ハッチを使用した。使用するX線の波長はλ=1.0Åである。X線のサイズはX線の断面の外周上に存在する最も離れた2点を結ぶ距離が7μm以下になるように調整した。サンプルはXYZステージに単糸軸が垂直になるようにのせて、X線がサンプルの軸方向に対し、垂直にあたるようにした。該ステージを微動せしめ、ステージの中心にX線の断面の外周上に存在する最も離れた2点を結ぶ距離の中点が位置するようにした。X線強度は非常に強いため、サンプルの露光時間が長すぎるとサンプルにダメージが入る。そこでX線回折測定時の露光時間は30秒以内とした。この測定条件にて、単糸の中心部から単糸の外周近傍にかけて実質的に等間隔にビームを当て、それぞれの場所についてのX線回折図形を測定した。具体的には、単糸の中心、中心から2.5μm離れた点、5.0μm離れた点、7.5μm離れた点、・・・というように単糸の直径の中心から単糸の外周近傍まで2.5μm間隔でX線回折図形を測定した。例えば、直径32μm(半径16μm)の単糸の場合、中心、中心から2.5μm離れた点、5.0μm離れた点、7.5μm離れた点、10.0μm離れた点、12.5μm離れた点、15.0μm離れた点の合計7点でX線回折図形を測定した。X線回折図形はサンプルから67mm離れた位置に設置したフラットパネルを用いて記録した。記録された画像データより、赤道方向の回折プロファイルより斜方晶(110)および斜方晶(200)由来のピーク強度値よりピーク強度比を求めた。
(4)単糸内部の結晶配向度
上述(3)と同様にX線ソースとしては大型放射光施設SPring−8にて測定を行った。結晶配向度は、方位角方向の回折プロファイルより斜方晶(110)の配向分布関数の半値幅より、以下の式を用いて結晶配向度を求めた。
結晶配向度 = (180−((110)面の半値幅))/180
結晶配向度については、単糸の中心、中心から2.5μm離れた点、5.0μm離れた点、7.5μm離れた点、・・・というように単糸の直径の中心から単糸の外周近傍まで2.5μm間隔で測定を行った。例えば、直径32μm(半径16μm)の単糸の場合、中心、中心から2.5μm離れた点、5.0μm離れた点、7.5μm離れた点、10.0μm離れた点、12.5μm離れた点、15.0μm離れた点の合計7点の測定を行った。
(5)引張強度、破断伸度、及び初期弾性率
JIS L 1013 8.5.1に準拠して測定しており、万能試験機(株式会社オリエンテック製、「テンシロン万能材料試験機 RTF−1310」)を用い、サンプル長200mm(チャック間長さ)、伸長速度100mm/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定した。破断点での応力と伸びから引張強度と破断伸度を、曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から初期弾性率を計算して求めた。この時、測定時にサンプルに印加する初荷重をサンプル10000m当りの質量(g)の1/10とした。なお、引張強度、破断伸度、及び初期弾性率は10回の測定値の平均値を使用した。
(6)変動係数CV’
サンプルを構成する各単糸の初期弾性率を上記の測定法により測定し、(マルチフィラメントを構成する単糸の初期弾性率の標準偏差)/(マルチフィラメントを構成する単糸の初期弾性率の平均値)×100の値を算出し、変動係数CV’(%)とした。
(7)熱収縮率
サンプルを70cmにカットし、両端より各々10cmの位置に、即ちサンプル長さ50cmがわかるように印をつけた。次に、サンプルに荷重が印加されないようにジグにぶら下げた状態で、熱風循環型の加熱炉を用いて、温度70℃で30分間加熱した。その後、加熱炉よりサンプルを取り出し、室温まで十分に徐冷した後に、最初にサンプルに印をつけた位置の長さを計測した。熱収縮率は以下の式より求めた。なお、熱収縮率は2回の測定値の平均値を使用した。
熱収縮率(%)=100×(加熱前におけるサンプルの長さ−加熱後におけるサンプルの長さ)/(加熱前におけるサンプルの長さ)
また、30分加熱する温度を70℃から120℃に変更して、上記と同様に120℃における熱収縮率も測定した。
(8)熱応力
測定には、熱応力歪測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、「TMA/SS120C」)を用いた。長さ20mmとなるようにサンプルを準備し、初荷重0.01764cN/dtexとし、室温(20℃)から融点まで昇温速度20℃/分で昇温して、120℃における熱応力を測定し、熱収縮が最大となる熱応力とその温度を測定した。
(9)繊度
サンプルを位置の異なる5箇所で各々20cmの単糸になるようにカットし、その質量を測定しその平均値を10000mに換算して繊度(dtex)とした。
(10)摩耗試験
耐摩耗性は、一般紡績糸試験方法(JIS L 1095)のうち摩耗強さを測定するB法に準拠した摩耗試験により評価した。測定は浅野機械製作株式会社製糸抱合力試験機を用いた。表面の算術平均粗さ(Ra)が0.15μm以下、最大高さ粗さ(Rz)が2.0μm以下で、2.0mmφの硬質鋼を摩擦子として用い、荷重5cN/dtex又は10cN/dtex、雰囲気温度20℃、摩擦速度115回/分、往復距離2.5cm、摩擦角度110度で試験し、サンプルが破断するまでの摩擦回数を測定した。荷重を5cN/dtexとした場合及び荷重を10cN/dtexとした場合にサンプルが摩耗によって切断するまでの往復摩擦回数をそれぞれ測定した。試験回数は7回とし、最多回数と最小回数のデータを除外し、残りの5回分の測定値の平均値で表した。尚、摩擦子の表面粗さRaおよびRzの測定には、キーエンス社製のレーザー顕微鏡(VK-9710)を用い、解析ソフトとして「VK Analyzer ver 2.4 解析アプリケーション VK-H1A1」を用いた。
(11)ラマン散乱測定
ラマン散乱スペクトルは、下記の方法で室温で測定を行った。ラマン測定装置( 分光器) はナノフォトン社のRaman-11 を用いて測定した。解析ソフトはRaman Viewerを用いた。 波長532 nm) を用い、また2400gr/mmの回折格子を用いており分光分解能は1.6cm-1である。ヤーンから単糸( モノフィラメント) を分繊し、所定の荷重を繊維に印加し、該ラマン散乱装置の顕微鏡ステージにのせ、ラマンスペクトルを測定した。ラマンの測定はS ta t i c M o d e にて測定範囲980 c m - 1 から1400 c m - 1 について1 ピクセルあたりの分解能を1 c m - 1 以下にしてデータを収集した。解析に用いたピークはC − C 骨格結合の対称伸縮モードに帰属され、荷重をかけない条件で、1128 c m - 1 のバンドを採用した。バンド重心位置と線幅( バンド重心を中心としたプロファイルの標準偏差、2 次モーメントの平方根) を正確に求めるために、該プロファイルを2つのガウス関数の合成として近似することで、うまくカーブフィットできることが分かった。歪みをかけると2つのガウス関数のピーク位置が一致せずそれらの距離が遠ざかることが判明した。この様なとき本発明に於いてはバンド位置をピークプロファイルの頂点とは考えず、2つのガウスピークの重心位置でもってバンドピーク位置と定義した。定義を式1 ( 重心位置, <x> ) にしめす。破断荷重の10%および破断荷重の20%の荷重のときの応力ラマンシフト量は以下の式を用いてもとめた。
破断荷重の10%の荷重のときの応力ラマンシフト量[c m - 1] = 1129[c m - 1]−(破断荷重の10%の荷重のときの重心位置<x>[c m - 1])

破断荷重の20%の荷重のときの応力ラマンシフト量[c m - 1] = 1129[c m - 1]−(破断荷重の20%の荷重のときの重心位置<x>[c m - 1])

<x> = ∫ x f ( x ) d x / ∫ f ( x ) d x
f ( x ) = f 1 ( x − a ) + f 2 ( x − b )
ここで f i はガウス関数を表す。
(実施例1−1)
極限粘度18.0dL/g、重量平均分子量2,900,000、融点ピークが134℃である超高分子量ポリエチレンとデカリンとの分散液をポリエチレン濃度11.0質量%となるように調製した。この分散液を押出し機にて205℃の温度域における滞留時間を8分間として溶液にし、ポリエチレン溶液を紡糸口金から紡糸口金表面温度180℃で単孔吐出量4.5g/分で吐出した。紡糸口金に形成されたオリフィスの数は15個であり、オリフィス径はφ1.0mmであった。紡糸口金表面に形成された糸吐出用の細孔(オリフィスの一端部)は直接外気と接することのないように遮蔽されており、具体的には紡糸口金は厚み10mmの断熱ガラス製の遮蔽板によって外気から遮蔽されていた。遮蔽板と遮蔽板に最も近い細孔との距離を40mmとし、遮蔽板と遮蔽板から最も遠い細孔との距離を60mmとした。また、細孔の最高温度と最低温度との差は3℃で、各細孔における吐出量の変動係数CV”((15個の細孔における吐出量の標準偏差)/(15個の細孔における吐出量の平均値)×100)は8%であった。吐出された糸条を引き取りつつ、20℃の水冷バスで冷却し、その後、速度70m/分の速度で引き取り、15本の単糸からなる未延伸マルチフィラメントを得た。次に、上記未延伸マルチフィラメントを120℃の熱風で加熱乾燥しながら4.0倍に延伸した。続いて、150℃の熱風で2.7倍に延伸し、延伸した状態で直ちに延伸マルチフィラメントを巻き取った。合計延伸倍率を10.8倍、合計延伸時間を4分間、延伸時の変形速度を0.0300sec-1とした。延伸したマルチフィラメントの巻き取り時の温度を30℃、巻き取り時の張力を0.100cN/dtexとした。150℃での延伸終了から巻き取りまでの時間は2分間であった。マルチフィラメントの製造条件及び得られたマルチフィラメントの物性・評価結果を表1に示す。
(実施例1−2)
実施例1−1において、この分散液を押出し機にて205℃の温度域における滞留時間を8分間として溶液にし、ポリエチレン溶液の単孔吐出量を5.0g/分、遮蔽板から最も遠い細孔との距離を80mm、細孔の最高温度と最低温度との差を4℃、各細孔における吐出量の変動係数CV”を11%、紡糸速度を60m/分、150℃の熱風における延伸倍率を2.5倍(合計延伸倍率を10.0倍)、合計延伸時間を6分間、延伸時の変形速度を0.0200sec-1とした以外は実施例1−1と同様にしてマルチフィラメントを得た。マルチフィラメントの製造条件及び得られたマルチフィラメントの物性・評価結果を表1に示す。
(比較例1−1)
実施例1−1において、205℃の温度域における滞留時間を32分間、単孔吐出量を1.0g/分、厚み10mmの断熱ガラス製の遮蔽板を設けず、細孔の最高温度と最低温度との差を12℃、各細孔における吐出量の変動係数CV”を23%、120℃の熱風における延伸倍率を3.0倍、150℃の熱風における延伸倍率を2.3倍(合計延伸倍率を6.9倍)とした以外は実施例1−1と同様にしてマルチフィラメントを得た。マルチフィラメントの製造条件及び得られたマルチフィラメントの物性・評価結果を表1に示す。
(比較例1−2)
特許第4141686号公報(特許文献3)に記載の製法と同様に、極限粘度21.0dL/g、重量平均分子量3,500,000、融点ピークが135℃である超高分子量ポリエチレン10質量%とデカリン90質量%とのスラリー状混合物をスクリュー型混練機に供給し、230℃の温度域における滞留時間を11分間として溶液にし、ポリエチレン溶液を紡糸口金から紡糸口金表面温度170℃で単孔吐出量1.4g/分で吐出した。紡糸口金に形成されたオリフィスの数は96個であり、オリフィス径はφ0.7mmであった。細孔の最高温度と最低温度との差は12℃で、各細孔における吐出量の変動係数CV”((96個の細孔における吐出量の標準偏差)/(96個の細孔における吐出量の平均値)×100)は24%であった。吐出された糸条に、100℃の窒素ガスを、紡糸口金の直下に設置したガス供給用のスリット状オリフィスから平均風速1.2m/秒で、できるだけ均等に吹き付けて、繊維表面のデカリンを積極的に蒸発させた。その直後、吐出された糸条を引き取りつつ、30℃に設定した空気流で冷却した。その後、紡糸口金の下流に設置したネルソン状ローラーにより速度75m/分の速度で引き取り、96本の単糸からなる未延伸マルチフィラメントを得た。この時点で、糸条に含まれる溶剤の質量は、紡糸口金から吐出された時点における糸条に含まれる溶剤の質量の約半分に減少していた。次に、上記未延伸マルチフィラメントを加熱オーブン中で100℃の熱風で加熱乾燥しながら4.0倍に延伸した。続いて、加熱オーブン中で149℃の熱風で4.0倍に延伸し、延伸した状態で直ちに延伸マルチフィラメントを巻き取った。合計延伸倍率を16.0倍、合計延伸時間を8分間、延伸時の変形速度を0.0200sec-1とした。延伸したマルチフィラメントの巻き取り時の温度を30℃、巻き取り時の張力を0.100cN/dtexとした。149℃での延伸終了から巻き取りまでの時間は2分間であった。マルチフィラメントの製造条件及び得られたマルチフィラメントの物性・評価結果を表1に示す。
(比較例1−3)
極限粘度11.0dL/g、重量平均分子量1,400,000、融点ピークが131℃であるである超高分子量ポリエチレンと流動パラフィンとの分散液をポリエチレン濃度14.0質量%となるように調製した。この分散液を押出し機にて220℃の温度域における滞留時間を39分間として溶液にし、ポリエチレン溶液を紡糸口金から紡糸口金表面温度170℃で単孔吐出量2.0g/分で吐出した。紡糸口金に形成されたオリフィスの数は48個であり、オリフィス径はφ1.0mmであった。細孔の最高温度と最低温度との差は13℃で、各細孔における吐出量の変動係数CV”((48個の細孔における吐出量の標準偏差)/(48個の細孔における吐出量の平均値)×100)は22%であった。吐出された糸条を引き取りつつ20℃の水冷バスで冷却し、その後、速度35m/分の速度で引き取り、48本の単糸からなる未延伸マルチフィラメントを得た。次に、上記未延伸マルチフィラメントを80℃のn−デカン中に通して流動パラフィンを除去した。次に、上記未延伸マルチフィラメントを120℃の熱風で加熱乾燥しながら6.0倍に延伸した。続いて、150℃の熱風で3.0倍に延伸し、延伸した状態で直ちに延伸マルチフィラメントを巻き取った。合計延伸倍率を18.0倍、合計延伸時間を9分間、延伸時の変形速度を0.0400sec-1とした。延伸したマルチフィラメントの巻き取り時の温度を30℃、巻き取り時の張力を0.100cN/dtexとした。150℃での延伸終了から巻き取りまでの時間は2分間であった。マルチフィラメントの製造条件及び得られたマルチフィラメントの物性・評価結果を表1に示す。
(実施例2−1)
実施例1−1のマルチフィラメント4本を組角度が20°になるように組紐を製紐した。これを151℃に設定した熱風加熱炉で加熱して熱処理を行った。熱処理の時間を1.5分、熱処理中に組紐にかける張力を1.6cN/dtex、再延伸倍率を2.00倍とした。組紐の製造条件、得られた組紐の物性・評価結果、及び組紐を解いた状態のマルチフィラメントの物性を表2に示す。
(実施例2−2)
実施例2−1において、熱処理中の張力を2.4cN/dtex、再延伸倍率を3.00倍とした以外は実施例2−1と同様にしてマルチフィラメントを得た。組紐の製造条件、得られた組紐の物性・評価結果、及び組紐を解いた状態のマルチフィラメントの物性を表2に示す。
(実施例2−3)
実施例2−1において、熱処理温度を152℃、熱処理の時間を2.0分、熱処理中の張力を3.8cN/dtex、再延伸倍率を4.00倍とした以外は実施例2−1と同様にしてマルチフィラメントを得た。組紐の製造条件、得られた組紐の物性・評価結果、及び組紐を解いた状態のマルチフィラメントの物性を表2に示す。
(実施例2−4)
実施例1−2のマルチフィラメント4本を組角度が20°になるように組紐を製紐した。これを151℃に設定した熱風加熱炉で加熱して熱処理を行った。熱処理の時間を1.0分、熱処理中に組紐にかける張力を1.4cN/dtex、再延伸倍率を1.80倍とした。組紐の製造条件、得られた組紐の物性・評価結果、及び組紐を解いた状態のマルチフィラメントの物性を表2に示す。
(実施例2−5)
実施例2−4において、熱処理の時間を2.0分、熱処理中の張力を2.7cN/dtex、再延伸倍率を3.50倍とした以外は実施例2−4と同様にしてマルチフィラメントを得た。組紐の製造条件、得られた組紐の物性・評価結果、及び組紐を解いた状態のマルチフィラメントの物性を表2に示す。
(比較例2−1)
比較例1−1のマルチフィラメント4本を組角度が20°になるように組紐を製紐した。これを142℃に設定した熱風加熱炉で加熱して熱処理を行った。熱処理の時間を0.08秒、熱処理中に組紐にかける張力を4.3cN/dtex、再延伸倍率を1.04倍とした。組紐の製造条件、得られた組紐の物性・評価結果、及び組紐を解いた状態のマルチフィラメントの物性を表2に示す。
(比較例2−2)
比較例2−1において、熱処理温度を135℃、熱処理の時間を35分、熱処理中の張力を0.005cN/dtex、再延伸倍率を1.01倍とした以外は比較例2−1と同様にしてマルチフィラメントを得た。組紐の製造条件、得られた組紐の物性・評価結果、及び組紐を解いた状態のマルチフィラメントの物性を表2に示す。
(比較例2−3)
実施例2−1において、熱処理温度を145℃、熱処理の時間を35分、熱処理中の張力を0.01cN/dtex、再延伸倍率を1.02倍となった以外は実施例2−1と同様にしてマルチフィラメントを得た。組紐の製造条件、得られた組紐の物性・評価結果、及び組紐を解いた状態のマルチフィラメントの物性を表2に示す。
(比較例2−4)
実施例1−1のマルチフィラメント4本を組角度が20°になるように組紐を製紐した。これを65℃に設定した熱風加熱炉で加熱し、再延伸倍率が1.50倍となるように熱処理を行ったところ、再延伸途中でマルチフィラメントが切れてしまい、組紐を得ることができなかった。
(比較例2−5)
比較例1−2のマルチフィラメント4本を組角度が20°になるように組紐を製紐した。これを139℃に設定した熱風加熱炉で加熱して熱処理を行った。熱処理の時間を35分、熱処理中に組紐にかける張力を0.05cN/dtex、再延伸倍率を1.05倍とした。組紐の製造条件、得られた組紐の物性・評価結果、及び組紐を解いた状態のマルチフィラメントの物性を表2に示す。
(比較例2−6)
比較例1−3のマルチフィラメント4本を組角度が20°になるように組紐を製紐した。これを139℃に設定した熱風加熱炉で加熱して熱処理を行った。熱処理の時間を35分、熱処理中に組紐にかける張力を0.03cN/dtex、再延伸倍率を1.05倍とした。組紐の製造条件、得られた組紐の物性・評価結果、及び組紐を解いた状態のマルチフィラメントの物性を表2に示す。
本発明により、幅広い温度領域において製品への加工が可能であり、かつ、寸法安定性及び耐摩耗性に優れた組紐を提供することができる。本発明に係る組紐は、耐切創性を活かした防護用織編物や、テープ、ロープ、ネット、釣糸、資材防護カバー、シート、カイト用糸、洋弓弦、セールクロス、幕材、防護材、防弾材、医療用縫合糸、人工腱、人工筋肉、繊維強化樹脂補強材、セメント補強材、繊維強化ゴム補強材、工作機械部品、電池セパレーター、化学フィルター等の産業用資材に適用可能である。

Claims (17)

  1. 5本以上の単糸からなるマルチフィラメントを含む組紐であって、
    上記マルチフィラメントは、極限粘度[η]が5.0dL/g以上40.0dL/g以下であり、繰り返し単位が実質的にエチレンであるポリエチレンを含んでおり、
    上記組紐を解いた状態のマルチフィラメントでは、単糸繊度が3dtex以上40dtex以下であり、70℃における熱収縮率が0.20%以下で、120℃における熱収縮率が3.0%以下であり、上記単糸に破断荷重の10%の荷重をかけたときの応力ラマンシフト量が5 . 0 c m - 1 以下であることを特徴とするマルチフィラメントを含む組紐。
  2. 上記組紐を解いた状態のマルチフィラメントにおいて、上記単糸に破断荷重の20%の荷重をかけたときの応力ラマンシフト量が10. 0 c m - 1 以下であることを特徴とする請求項1に記載の組紐。
  3. 上記単糸の断面における(110)面の回折ピーク強度に対する(200)面の回折ピーク強度の比は、最大値と最小値の差が0.18以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組紐。
  4. 上記回折ピーク強度比の下記式(1)にて定義される変動係数CVが40%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組紐。
    変動係数CV(%)=(上記単糸の上記回折ピーク強度比の標準偏差)/(上記単糸の上記回折ピーク強度比の平均値)×100・・・(1)
  5. 上記単糸の断面において、結晶配向度の最大値と最小値の差が0.012以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の組紐。
  6. 上記組紐は、JIS L 1095に準拠し、荷重を5cN/dtexとして測定された摩耗強さ試験における破断時の往復摩耗回数が1000回以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の組紐。
  7. 荷重を5cN/dtexとして測定された上記摩耗強さ試験において、上記組紐の往復摩耗回数と、上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントの往復摩耗回数との差が320回以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の組紐。
  8. 上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントは、JIS L 1095に準拠し、荷重を10cN/dtexとして測定された摩耗強さ試験における破断時の往復摩耗回数が100回以上である請求項1〜7のいずれか1項に記載の組紐。
  9. 上記組紐の引張強度と、上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントの引張強度との差が5cN/dtex以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の組紐。
  10. 上記組紐の引張強度が18cN/dtex以上であり、上記組紐の初期弾性率が300cN/dtex以上である請求項1〜9のいずれか1項に記載の組紐。
  11. 上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントは、70℃における熱収縮率が0.11%以下で、120℃における熱収縮率が2.15%以下である請求項1〜10のいずれか1項に記載の組紐。
  12. 上記組紐を解いた状態における上記マルチフィラメントは、120℃における熱応力が0.15cN/dtex以上である請求項1〜11のいずれか1項に記載の組紐。
  13. 請求項1〜12のいずれか1項に記載の組紐の製造方法であって、
    上記マルチフィラメントを製紐し、熱処理する工程を備えており、
    上記熱処理は70℃以上で行われ、上記熱処理の時間は0.1秒以上30分以下であり、上記熱処理中は上記組紐に0.02cN/dtex以上15cN/dtex以下の張力がかけられている
    ことを特徴とする組紐の製造方法。
  14. 上記張力により、上記熱処理後の組紐の長さは上記熱処理前の組紐の長さの1.05倍以上15倍以下となる請求項13に記載の組紐の製造方法。
  15. 請求項1〜12のいずれか1項に記載の組紐から得られることを特徴とする釣糸。
  16. 請求項1〜12のいずれか1項に記載の組紐から得られることを特徴とするネット。
  17. 請求項1〜12のいずれか1項に記載の組紐から得られることを特徴とするロープ。
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