JP6574924B2 - リップ溝形鋼 - Google Patents

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本発明は、鋼構造の建築物や機械構造物の柱材・梁材・補強材などに使用される溝形鋼において、断面曲げ性能の優れたリップ溝形鋼に関している。
鋼構造の大きな建築物には重量のH形鋼がよく使用される。通常のH形鋼では曲げ耐力に関わる断面係数Z及び曲げ剛性に関わる断面2次モーメントIは強軸(両フランジと平行な中立軸)回りZx,Ixと弱軸(ウェブと平行な中立軸)回りZx,Iyとではそれぞれ大きく異なり、等辺の場合ではZyはZxの約1/3である。
柱材として使用する場合、しばしば耐力の大きい強軸方向(フランジ面)をラーメン構造、弱軸方向を筋交いで補強するブレース構造とされる。ブレース構造では窓の取付が大きく制限される。窓を優先する場合、柱材にはH形鋼ではなく角形鋼管や円形鋼管を使用して全面ラーメン構造とされる。
他方H形鋼を梁材として使用する場合にはフランジ面が水平になるように組み立てられ大きな荷重に耐えられる。
溝形鋼ではH形鋼よりも異方性がさらに大きくなり通常柱材には使用されない。柱材用には2条の溝形鋼を対面溶接して角形鋼管として使用されることがある。
柱材用の角形又は円形の鋼管にも問題がある。
1) 鋼管は熱延厚板を管状に冷間曲げ加工し、溶接によって閉じるやり方で製造されるので熱延大量生産のH形鋼よりもコストがかなり割高になる。
2) H形鋼では通常のボルトを使用する『当て板ボルト接合』により軸延長や組立が容易であるが、鋼管では管内に手が入らないので価格割高のワンサイドボルトを多数必要とする。
3) H形鋼では両フランジ間の空間は配管・配線などへの利用価値があるが鋼管では別にスペースを設けなければならない。
他方住宅や軽量倉庫などには鋼材量が節減される軽量H形鋼・軽量溝形鋼が使用される。該形鋼は数mm厚の熱延又は冷延の薄鋼帯を曲げ加工と溶接によってH形・溝形に組み立てられる。
なかでも非特許文献1にあるように、フランジ部を事前に冷間加工によって溝形に成形した軽量リップH形鋼(文献中図3)は他のH形鋼規格では見られない特徴を持つ。この場合寸法を適切に設定することよにより角鋼管と同様両軸同等の曲げ性能にすることは可能と推測される。さらに難解な挫屈問題に対して、H形よりもリップ付きH形は明らかに有利になり、実際一部で使用されている。
軽量リップ溝形鋼はより一般的に使用されている。その理由は断面性能の異方性が小さいこと、耐挫屈性に良いこと、製造が容易でコスト優位であることあること、リップが他の構造物の懸架や取付に便利であるからである。使い勝手が良いにつきる。
軽量リップ溝形鋼の上記特徴を通常の(重量の)熱延溝形鋼に展開できれば後者の性能向上とコスト有利(冷間加工を要しない)により適用範囲の拡大と需要の増加が期待されるが製造上の問題により未だ見られない。
1) 既存の熱間圧延溝形鋼の圧延ラインにおいてリップを形成することはパス数・孔型の増加やロールとロール駆動軸の配置スペースの関係で極めて困難である。性能向上(Zyの向上)のためリップ厚をウェブ厚・フランジ厚よりも大きくすることはなおさら困難になる。新たにユニバーサルミルを付設して工夫すれば不可能ではないかもしれないが設備費用が大変になる。
2) 熱延直後のフランジ部の上端を曲げ加工するような加工機や曲げ工程を附加した熱延ラインは見当たらない。
3) 溶接組立H形鋼のように溝形鋼に溶接によってリップを形成することは容易であるが当然コスト問題が生ずる。
4) 新鋼材とその適用には多くの規制・障害・実証への対応があり意欲がそがれることが多いが、その負担に耐える大きなコスト効果が期待されるが不確実である。
5) さらに性能上の優位性が期待されるがその内容・応用・必要性と需要量がもひとつ不明確である。
上記問題に関して関連しそうな先行技術を検討する。
特許文献1には2条の軽量リップ溝形鋼をリップ部で対面溶接してリブを持った角管を形成し、柱材用角鋼管とすることが開示されている。リップの特徴・応用を示している。
特許文献2には同様に2条の軽量リップ溝形鋼をウェブとフランジの接合部で背面溶接して軽量リップH形に形成し柱材用とすることが示されている。リップ溝形鋼の新規応用例とされる。
いずれも新たに溶接加工が加わるのでコストが問題となる。
特許文献3には炭素鋼よりも延展性が劣るため疵が発生し易いステンレス鋼の山形鋼・溝形鋼の熱間圧延方法として、圧延機間に複数の多段曲げローラーを設けて孔型圧延における材料の無理な塑性流れを軽減し、当該問題を解決している。
当然仕上げは正確な寸法を得るため孔型圧延によってなされるが仕上げ圧延前に曲げ成形工程を加えることによって圧延を円滑に行うと言う着想と結果は大いに参考になる。
ふぇらむVol.20(2015)No.11,p19『H形鋼の日本工業規格およびその構造性能』
特開平11−036448 特開平11−036445 特開平05−237503
軽量溝形鋼ではリップを形成することにより曲げ・挫屈等に対する性能が向上し、多種多様に多用されているが大荷重の部材には軽量であるが故に適応困難である。熱延で厚肉の溝形鋼では荷重問題に対処容易でありコストも有利であるが、既存の熱間圧延ラインでリップを形成することが設備的に困難なこと、リップ形成による製品の魅力的な新規応用が明かでないことの故に未だ製造されていない。
本願発明は既存の形鋼熱間圧延ラインにおいて熱延リップ溝形鋼を製造することを可能とし、その際比較的低設備費・低コストで実施可能とし、且つ特徴あるリップの形成によって溝形鋼の断面性能の飛躍的向上(弱軸方向と強軸方向とで同等とする)を図ることを解決すべき課題とする。
第1発明は、溝形鋼の熱間圧延において、圧延終了後の溝形又はU字形の素形材を1対のロールと挫屈拘束ガイドとから成る曲げ加工機に導入し、該挫屈拘束ガイドは、フランジの根幹部の内外面を平行接近し間隙を持って挟むがフランジの外縁部ははみ出させ、前記ロールにより該フランジをフランジと平行方向に圧下して挫屈変形を拘束しつつ該外縁部を内側に連続的に90°曲げ加工してリップを形成したことを特徴とする熱延リップ溝形鋼である。
第2発明は、一対のロールがボックスカリバーを持つ2重圧延機であり、挫屈拘束ガイドがフランジ外面拘束部は前記カリバー側壁によって代用し、内面拘束部は該圧延機スタンドに固定され該圧延機入り側から片持ち保持されたものであることを特徴とする第1発明に記載した熱延リップ溝形鋼である。
第3発明は、熱間圧延終了後のフランジ幅/ウェブ幅の値が1/6以下である溝形又はU字形の素形材を1対のロールと挫屈拘束ガイドとから成る曲げ加工機に導入し、該挫屈拘束ガイドはウェブ中央部の内外面を平行接近し間隙を持って挟み、前記ロールにより該ウェブをウェブと平行方向に圧下し挫屈変形を拘束しつつウェブ両側部を90°曲げ加工して該ウェブを縮小し、新たに新フランジを形成するとともに元のフランジをリップに移行させ、リップ部を開口又は閉口としたことを特徴とする熱延リップ溝形鋼である。
第4発明は、溝形又はU字形の素形材のフランジ厚をウェブ厚よりも大きく、両フランジの断面積を該素形材全体の断面積の1/4とし、圧下に際して新ウェブ幅と新フランジ幅を同等として全体を正方形状とすることによりウェブ方向とフランジ方向の断面係数Zx,Zyと断面2次モーメントIx、IyをZx=Zy,Ix=Iyとしたことを特徴とする第3発明に記載した熱延リップ溝形鋼である。
1) 熱延直後の溝形鋼に対して、挫屈拘束ガイドを保有するロール圧下曲げ加工機によってフランジをフランジ面方向に圧下するのでフランジ外縁部が内側に屈曲しリップを形成する。熱延リップ溝形鋼が容易に製造される。
2) 上記曲げ加工機は簡単な機構であり、且つ曲げ荷重は圧延より小さいので設備費・操業費は圧延機よりも小さい。既存圧延機のパス数に余裕がある場合は、製品外形を包摂するボックスカリバーを設け、且つフランジ内面の挫屈拘束ガイドを設けることにより曲げ加工機とすることができより有利になる。
3) 第3発明による相対的に溝底の浅い素形材のウェブをウェブ方向に圧下してウェブ両側部を90°曲げてリップ溝形鋼とする方法では孔型が浅いのでロール径の制約が小さく、従って寸法の大きいリップ溝形鋼が造り易い。
4) 軽量リップ溝形鋼と比較して厚肉断面が容易に得られ従来対処することができなかった大荷重にも容易に適用することができる。
5) リップ厚を他の部分よりも大きくし、リップ部断面積をウェブ及びフランジと同一とし、全体外径を正方形にすると正方形角鋼管と同様にウェブ方向・フランジ方向の断面係数と断面2次モーメントを同一にすることができ、柱用鋼材に応用することができる。
6) 素形材の寸法を適宜設定すると閉口のリップ溝形鋼が得られる。リップ突き合わせ部を溶接することにより容易に従来の溶接閉鎖角形鋼管とすることができる。
7) 熱延鋼材であるから軽量形鋼や溶接鋼管のような2次加工製品と比較してコスト有利である。
本発明のリップ溝形鋼をフランジの曲げによって形成する概念図である。 本発明のフランジ曲げ加工機の概略構造図である。 本発明のリップ溝形鋼をフランジの圧延によって形成する概念図である。 本発明のフランジ曲げ圧延機における挫屈拘束ガイドの取付説明図である。 本発明のリップ溝形鋼をウェブの曲げによって形成する概念図である。 本発明のX方向断面性能がY方向と同一の開口リップ溝形鋼の形成方法。 本発明の柱用角形鋼管素材となる閉口リップ溝形鋼の形成方法を示す。
図1は熱間圧延において得られた溝形鋼にリップを形成する方法を示す。溝形鋼1の断面形状はフランジ2の幅(図面では高さ)を通常よりも大きく設定しておく。熱延直後の該溝形鋼1を軸方向に走行させ、挫屈拘束ガイド3と一対のロール6,6’から成る曲げ加工機(図2)に送給し、両フランジ2,2’を挫屈拘束ガイド3の間隙4,4’に挿入する。
該挫屈拘束ガイド3は、フランジ2,2’の根幹部内外面には平行接近して間隙を持って挟むが外縁部5,5’ははみ出すよう該ガイド高さを設定しておく。
次いで一対のロール6,6’により該フランジ2,2’をフランジ面と平行方向に圧下する。上記挫屈拘束ガイド3によって根幹部の挫屈変形は防止され、該外縁部5,5’は挫屈して内側に連続的に曲げられリップ7,7’を形成する。その際確実に内側に挫屈するよう該挫屈拘束ガイド3の高さはフランジ内面では外面よりも低くしておく。
図2は上記加工に使用するフランジの曲げ加工機の概略構造を示す。
圧延機のようなロール圧下機21の前後に挫屈拘束ガイドを保持する固定のガイド枠22を設け、挫屈拘束外面ガイド23,23’,内面ガイド24を強固に連結する。フランジ内面を拘束する内面ガイド24は溝形鋼20の開口部を通してガイド枠22と連結する。
本加工機は曲げ加工であるから圧延に比較して荷重は低く、また熱間加工であるから弾性戻りも少なく成形及びその加工精度の確保は当業者にとって特に困難ではない。
図3は溝形鋼30のフランジ31を圧延によって曲げ加工してリップ33を形成する方法を示す。圧延機のロール34,34’に製品寸法の外形を包摂するボックスカリバー35,35’を設け、カリバー底でフランジ31,31’を圧下する。その際フランジはボックスカリバー側壁により外側には倒れないが内側には倒れるので内面挫屈拘束ガイド36を設ける。
図4は上記圧延機において内面挫屈拘束ガイド36の取付方法を示す。圧延機スタンド41の入り側面に該挫屈拘束内面ガイド36の取付部42を強固に固定し、2段の片持ち梁の構造で該ガイドをボックスカリバーの中央に保持する。
通常の溝形鋼(寸法形状はJISに規定)にリップを付設する(規定外)には前記の方法でなされるが、新しい特徴を持った新形状のリップ溝形鋼の製造方法を示す。
図5に示すように広幅のウェブ51と小幅のフランジ52,52’を持つ溝形素形材50を曲げ加工機のロール53,53’によってウェブ方向に圧下する。その際ウェブ中央部54の内外面に挫屈拘束ガイド55,56を設けておく。ウェブ両側部57,57’は90°曲げられ新フランジ58,58’となり元のフランジ52、52’はリップ59,59’へ移行する。
角部の形状は通常の溝形鋼のように外面が角にならず円弧であり、全体は軽量リップ溝形鋼と同様になる。
図6Aに示すように溝形素形材60においてフランジ61の厚さをウェブ62の厚さの2倍、幅をウェブ幅の1/6とし、ウェブを3等分に曲げると図6Bに示すように断面形状は角の丸い開口正方形となり新リップの断面積は新ウェブ、新フランジと同等となって断面係数、断面2次モーメントはX方向とY方向は同等となる。柱材として適することとなる。正方形なら開口の有無にかかわらず4面同一断面積であればよい。
図7に示すように溝形素形材70においてフランジ厚をウェブ厚と等しくし、幅をウェブ幅の1/3にすると閉口正方形になる。両リップの突き当たり部を溶接すれば通常の柱用の溶接角形鋼管と同様になる。追加工程は溶接だけであるから従来品よりもコスト有利になる。
以上の種々の加工を実施するに当たっては当然種々の製品寸法に対応するようロール及び挫屈拘束ガイドの寸法調整機構を組み込むことや製品寸法精度に対応するよう該ガイドの寸法・形状の最適化、溝形素形材の寸法・形状の最適化等が問題となるが当業者にとって特に困難ではない。
柱用角鋼管代替用のリップ溝形鋼(正確にはリップ平底U形鋼)を製造する条件を示す。
図6Aに示したフランジ厚肉の素形材(ウェブ;幅600mm×厚さ12mm、フランジ;幅50mm×厚さ24mm)を曲げ加工機によりウェブを200mm幅の平底U形に成形する。元のフランジがリップを形成するとともに開口した幅50mmのリップ付き200mm角となる。
表1に寸法と断面性能を角形鋼管と比較して示す。同等の性能が得られる。
Figure 0006574924
1;溝形鋼 2,2’;フランジ 3;挫屈拘束ガイド 4,4’;間隙 5,5’;フランジ外縁部 6,6’;ロール 7,7’;リップ 20;溝形鋼 21;ロール圧下機 22ガイド枠 23,23’;外面挫屈拘束ガイド 24;内面挫屈拘束ガイド 30;溝形鋼 31;フランジ 32;フランジ外縁部 33;リップ 34,34’;ロール 35,35’;ボックスカリバー 36;内面挫屈拘束ガイド 41;圧延機スタンド 42;取付部 50;溝形素形材 51;ウェブ 52,52,;フランジ 53,53’;ロール 54;ウェブ中央部 55,56;挫屈拘束ガイド 57,57’;ウェブ両側部 58,58’;新フランジ 59,59’;リップ 60;溝形素形材 61;フランジ 62;ウェブ 70;溝形素形材

Claims (3)

  1. 溝形鋼の熱間圧延において、圧延終了後の溝形又はU字形の素形材を1対のロールと挫屈拘束ガイドとから成る曲げ加工機に導入し、該挫屈拘束ガイドは、フランジの根幹部の内外面を平行接近し間隙を持って挟むがフランジの外縁部ははみ出させ、前記ロールにより該フランジをフランジと平行方向に圧下して挫屈変形を拘束しつつ該外縁部を内側に連続的に90°曲げ加工してリップを形成したことを特徴とする熱延リップ溝形鋼の製造方
  2. 一対のロールがボックスカリバーを持つ2重圧延機であり、挫屈拘束ガイドがフランジ外面拘束部は前記カリバー側壁によって代用し、内面拘束部は該圧延機スタンドに固定され該圧延機入り側から片持ち保持されたものであることを特徴とする請求項1に記載した熱延リップ溝形鋼の製造方法
  3. 熱間圧延終了後のフランジ幅/ウェブ幅の値が1/6未満である溝形又はU字形の素形材を1対のロールと挫屈拘束ガイドとから成る曲げ加工機に導入し、該挫屈拘束ガイドはウェブ中央部の内外面を平行接近し間隙を持って挟み、前記ロールにより該ウェブをウェブと平行方向に圧下し挫屈変形を拘束しつつウェブ両側部を90°曲げ加工してウェブを縮小し新たに新フランジを形成するとともに元のフランジをリップに移行させ、リップ部を開口とした熱延リップ溝形鋼の製造方法において、
    溝形又はU字形の素形材のフランジ厚をウェブ厚よりも大きく、両フランジの断面積を該素形材全体の断面積の1/4とし、圧下に際して新ウェブ幅と新フランジ幅を同等として全体を正方形状とすることによりウェブ方向とフランジ方向の断面係数Zx,Zyと断面2次モーメントIx、IyをZx=Zy,Ix=Iyとしたことを特徴とする熱延リップ溝形鋼の製造方法。
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