CHF患者の頻繁な監視、及び心不全(HF:heart failure)の代償不全状態を示す現象の適時の検出は、CHF患者におけるHFの悪化を防止し、従って、HF入院に関連した費用を低減するのに役立つことがある。更に、HFの悪化など、今後HF発症に発展する危険性が高い患者を識別することは、適時の治療を確実にし、それによって予後及び患者の転帰を改善するのに役立つことがある。今後HF発症の危険性がある患者を識別し、安全に管理することにより、不必要な医療介入を回避し、医療費を低減することができる。
HF患者を監視し、HF代償不全現象を検出するために、携帯型の医療装置を使用することができる。そのような携帯型医療装置の例としては、埋め込み型医療装置(IMD:implantable medical device)、皮下医療装置、装着型医療装置、又は他の外部医療装置が挙げられる。携帯型又は埋め込み型の医療装置は、心臓の電気的活動及び機械的機能、又はHFの悪化の徴候及び症状に関連した物理的な若しくは生理学的な変数を感知するように構成することができる生理学的センサを含むことができる。医療装置は、心機能又は神経機能を回復又は改善するなどのために、標的領域に電気的な刺激パルスなどの治療を送達することが任意選択的に可能である。これらの装置によっては、経胸腔的インピーダンス又は他のセンサ信号などを使用して、診断機能を提供することができる。例えば、肺の中では空気よりも液体の抵抗率の方が低いために、肺の中の液体貯留は経胸腔的インピーダンスを低下させる。また、肺の中の液体貯留は、肺系統を刺激することがあり、一回呼吸量の低下及び呼吸数の増加につながる。
幾つかの携帯型医療装置は、心音を検出するための生理学的センサを含むことがある。そのような生理学的センサのうちの1つのタイプとしては、心音を感知するためのセンサがある。心音は、患者の心臓の活動及び心臓を通る血液の流れによる機械的な振動に関連している。心音は、心臓周期毎に繰り返し、また、振動に関連した活動に従って分離され分類される。第1の心音(S1)は、僧帽弁が緊張している間に心臓によって生成される振動音に関連している。第2の心音(S2)は、弛緩期の開始を示す。第3の心音(S3)は、弛緩期中の左心室の充満圧に関連することがある。第4の心音(S4)は、異常に硬直した心室に打ち勝つためなどの心房収縮に関連している。心音は、患者の心臓の正常な機能又は不適当な機能を表す有用な指標である。HF患者の肺の中の液体貯留は、心室の充満圧の上昇につながり、S3の心音がより大きくなることがある。
HF状態の悪化は、心臓の弛緩機能を低下させることがある。S3心音を監視し傾向を把握することは、心臓の弛緩機能及びHF状態の進行具合を評価するのに有用であることがある。HF代償不全現象などのHFの悪化についての正確で適時の検出、又は、患者が今後HF代償不全にかかる危険性の信頼度の高い予測には、S3心音の信頼度の高い感知と、時間の関数としてのS3強度の傾向の決定とが必要であることがある。しかしながら、S3は一般的に、S1又はS2心音と比較すると弱い信号である。S3は、ノイズ又は他の干渉により汚染されたり、又は、様々な生理学的若しくは環境上の状態によって影響されたりすることがある。従って、検出されたS3強度又はS3の傾向の信頼性は損なわれている可能性があり、S3心音に基づくHF代償不全検出アルゴリズムは、偽陽性又は偽陰性の検出結果をもたらすことがあり、S3心音に基づくHFリスク層別化アルゴリズムは、あまり望ましくない予測性能をもたらすことがある。従って、HFの悪化の検出、又は今後HFの悪化を発症する危険性の高いCHF患者の識別に使用するために、S3心音を高い信頼度で正確に検出し傾向を把握することができるシステム及び方法について、多大な必要性が存在する。
本発明者らは、異なる心音成分、S1及びS3心音などが、共変動の特定の時間的パターンを表すことができることを、認識している。ある心音成分の傾向、又は2つ以上の心音成分間の共変動の傾向が、HF現象の悪化を予測することができる。本発明者らは、一部のCHF患者が、時間の経過と共にS1振幅とS3振幅の同時成長傾向を示すことがあることを認識している。しかしながら、他のCHF患者は、S1振幅の減衰傾向と同時に起こるS3振幅の成長傾向などの、HS成分同士の逆の傾向などの、異なる共変動パターンを示すことがある。HS成分の異なる共変動パターンを有する患者は、異なる管理計画又は治療計画を必要とすることがある。
本明細書で説明する様々な実施形態は、HFの悪化を示す現象の検出を改善するのに役立つことがあり、又は、今後HFを発症する危険性の高い患者を識別する工程を改善するのに役立つことがある。本明細書は、とりわけ、悪化するHFを示す現象を検出するためのシステム及び方法について考察する。システムは、心音(HS:heart sound)信号を感知するための信号感知回路を含むことがある。システムは、HS信号を使用して少なくとも第1の及び第1とは異なる第2のHS成分を検出し、それぞれの第1及び第2のHS指標を生成することができる。システムは、第1又は第2のHS指標に対する傾向インジケータを決定することができ、また、成長傾向又は減衰傾向を示す傾向インジケータに従って、第1及び第2のHS指標を使用して1つ又は複数の複合HS指標を選択的に生成することができる。システムは、心不全(HF)現象検出器を含んで、複合HS指標を使用してHF状態を検出することができ、かつ、HF状態の指摘を出力するか、又は、HF状態に従って治療を送達することができる。
例1では、システムは、患者の心音(HS)信号を感知することができる信号感知回路と、メモリ回路と、HS成分検出回路と、HS指標生成回路と、混合回路と、心不全(HF)現象検出回路と、出力回路とを含むことができる。HS成分検出回路は、信号感知回路及びメモリ回路に結合されて、受信したHS信号から少なくとも第1及び第1とは異なる第2のHS成分を検出することができる。HS指標生成回路は、HS成分検出回路に結合されて、検出された第1及び第2のHS成分を使用して、メモリ回路に保存される第1及び第2のHS指標をそれぞれ生成することができる。混合回路は、メモリ回路か又はHS指標生成回路に結合されて、第1及び第2のHS指標を使用して1つ又は複数の複合HS指標を生成することができる。不全(HF)現象検出回路は、混合回路に結合される比較回路を含んで、1つ又は複数の複合HS指標が少なくとも1つの基準を満たした場合にHF状態を検出することができる。出力回路は、HF状態の指摘を出力することができる。
例2は、例1の主題を含んで、又は例1の主題と任意選択的に組み合わせて、HS指標生成回路に結合される傾向把握回路を任意選択的に含むことができる。傾向把握回路は、メモリ回路に保存することができる傾向インジケータを決定することができる。傾向インジケータは、第1又は第2のHS指標のうちの少なくとも1つの時間的パターンを示す。傾向インジケータに従って、混合回路は、1つ又は複数の複合HS指標を選択的に生成することができる。
例3は、例2の主題を含んで、又は例2の主題と任意選択的に組み合わせて、混合回路を含むことができ、この混合回路は、傾向インジケータが第1の傾向を示す場合には、第1の複合HS指標を含み、又は、傾向インジケータが第1とは異なる第2の傾向を示す場合には、第1とは異なる第2の複合HS指標を含む、1つ又は複数の複合HS指標を選択的に生成することができる。
例4は、例3の主題を含んで、又は例3の主題と任意選択的に組み合わせて、HS成分検出回路及びHS指標生成回路を含むことができ、このHS成分検出回路は、S1又はS2心音を含む第1のHS成分、及びS3又はS4心音を含む第2のHS成分を検出することができ、またHS指標生成回路は、検出されたS1又はS2心音の強度を示す第1のHS指標と、検出されたS3又はS4心音の強度を示す第2のHS指標とを生成することができる。
例5は、例4の主題を含んで、又は例4の主題と任意選択的に組み合わせて、HS指標生成回路を含むことができ、このHS指標生成回路は、S1心音の振幅を含む第1のHS指標と、S3又はS4心音の振幅を含む第2のHS指標とを生成することができる。
例6は、例4又は例5のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題を含んで、又は、例4又は例5のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題と任意選択的に組み合わせて、傾向把握回路及び混合回路を含むことができ、この傾向把握回路は、特定の期間にわたるS1強度の減衰傾向又は成長傾向を示すS1強度傾向を含む傾向インジケータを決定することができ、混合回路は、傾向インジケータがS1心音の強度の減衰傾向を示す場合には、S3又はS4心音の強度とS1心音の強度との比率に比例する第1の複合HS指標を、或いは、傾向インジケータがS1心音の強度の成長傾向を示す場合には、S3又はS4心音の強度とS1心音の強度との積に比例する第2の複合HS指標を、選択的に生成することができる。
例7は、例4又は例5のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題を含んで、又は、例4又は例5のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題と任意選択的に組み合わせて、傾向把握回路及び混合回路を含むことができ、この傾向把握回路は、特定の期間にわたるS1心音の強度とS3又はS4心音の強度との間の共変動の時間的パターンを含む傾向インジケータを決定することができ、混合回路は、傾向インジケータがS1強度の減衰傾向と同時にS3又はS4強度の成長傾向を示す場合には、S3又はS4心音の強度とS1心音の強度との比率に比例する第1の複合HS指標を、或いは、傾向インジケータがS1強度の成長傾向と同時にS3又はS4強度の成長傾向を示す場合には、S3又はS4心音の強度とS1心音の強度との積に比例する第2の複合HS指標を、選択的に生成することができる。
例8は、例1〜例7のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題を含んで、又は、例1〜例7のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題と任意選択的に組み合わせて、分類回路を含むことができ、この分類回路は、検出されたHF状態を、心筋収縮力代償(CCC:cardiac contractility compensation)を伴う第1のHFのカテゴリと、CCCを伴わない第2のHFのカテゴリのうちの1つに分類するように構成される。
例9は、例8の主題を含んで、又は例8の主題と任意選択的に組み合わせて、HS指標生成回路及び分類回路を含むことができ、HS指標生成回路は、S1強度を含む第1のHS指標を生成することができ、また、分類回路は、S1強度が第1の基準を満たす場合には、検出されたHF状態をCCCを伴う第1のHFのカテゴリに分類し、又は、S1強度が第2の基準を満たす場合には、検出されたHF状態をCCCを伴わない第2のHFのカテゴリに分類することができる。
例10は、例9の主題を含んで、又は例9の主題と任意選択的に組み合わせて、分類回路を任意選択的に含むことができ、分類回路は、S1強度が時間の経過と共に成長傾向を有する場合には、検出されたHF状態をCCCを伴う第1のHFのカテゴリに分類し、又は、S1強度が時間の経過と共に減衰傾向を有する場合には、検出されたHF状態をCCCを伴わない第2のHFのカテゴリに分類することができる。
例11は、例8の主題を含んで、又は例8の主題と任意選択的に組み合わせて、HS指標生成回路及び分類回路を任意選択的に含むことができ、HS指標生成回路は、S3若しくはS4心音の強度とS1心音の強度との比率に比例するか、又はS3若しくはS4心音の強度とS1心音の強度との積に比例する複合HS指標を生成することができ、また、分類回路は、複合HS指標が第1の基準を満たす場合には、検出されたHF状態をCCCを伴う第1のHFのカテゴリに分類し、又は、複合HS指標が第2の基準を満たす場合には、検出されたHF状態をCCCを伴わない第2のHFのカテゴリに分類することができる。
例12は、例1〜例11のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題を含んで、又は、例1〜例11のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題と任意選択的に組み合わせて、HS信号の一部の強度尺度を含む第1又は第2のHS指標のうちの少なくとも1つを含むことができ、HS信号のこの一部は、特定のHS成分の少なくとも一部を含む。
例13は、例1〜例12のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題を含んで、又は、例1〜例12のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題と任意選択的に組み合わせて、信号感知回路を含むことができ、この信号感知回路は、患者から感知された、HS信号とは異なる、心筋収縮力を示す生理学的信号を受信することができる。
例14は、例1〜例13のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題を含んで、又は、例1〜例13のうちの1つ又は任意の組み合わせにおける主題と任意選択的に組み合わせて、治療回路を含むことができ、この治療回路は、HF状態が少なくとも1つの条件を満たすのに応答して、患者に治療を送達するように構成される。
例15は、例14の主題を含んで、又は例14の主題と任意選択的に組み合わせて、治療回路を任意選択的に含むことができ、この治療回路は、心筋収縮力代償(CCC)を伴うHFの検出に応答して第1の治療を送達し、又は、CCCを伴わないHFの検出に応答して第2の治療を送達することができ、第2の治療は、第1の治療よりも積極的な治療である。
例16では、方法は、HSセンサを使用して患者の心音(HS)信号を感知する工程と、感知されたHS信号から少なくとも第1及び第1とは異なる第2のHS成分を検出する工程と、検出された第1及び第2のHS成分からそれぞれ第1及び第2のHS指標を生成する工程と、第1及び第2のHS指標を使用して1つ又は複数の複合HS指標を生成する工程と、1つ又は複数の複合HS指標が少なくとも1つの基準を満たす場合にHF状態を検出する工程と、HF状態の指摘を出力する工程とを含むことができる。
例17は、例16の主題を含んで、又は例16の主題と任意選択的に組み合わせて、第1又は第2のHS指標のうちの少なくとも1つの時間的パターンを示す傾向インジケータを決定する工程を任意選択的に含むことができる。1つ又は複数の複合HS指標を生成することは、傾向インジケータが第1の傾向を示す場合には第1の複合HS指標を生成すること、又は、傾向インジケータが第1とは異なる第2の傾向を示す場合には第1とは異なる第2の複合HS指標を生成することを含むことができる。
例18は、例17の主題を含んで、又は例17の主題と任意選択的に組み合わせて、S1心音を含む第1のHS成分を検出する工程と、S3又はS4心音を含む第2のHS成分を検出する工程とを任意選択的に含むことができる。第1のHS指標は、検出されたS1心音の強度指標を含むことができ、第2のHS指標は、検出されたS3又はS4心音の強度指標を含むことができる。
例19は、例18の主題を含んで、又は例18の主題と任意選択的に組み合わせて、特定の期間にわたる、S1心音の強度の時間的パターンを示すS1強度傾向を含む傾向インジケータを決定する工程を任意選択的に含むことができる。1つ又は複数の複合HS指標を生成することは、傾向インジケータがS1心音の強度の減衰傾向を示す場合に、S3又はS4心音の強度とS1心音の強度との比率に比例する第1の複合HS指標を生成する工程か、或いは、傾向インジケータがS1心音の強度の成長傾向を示す場合に、S3又はS4心音の強度とS1心音の強度との積に比例する第2の複合HS指標を生成する工程を含むことができる。
例20は、例18の主題を含んで、又は例18の主題と任意選択的に組み合わせて、特定の期間にわたる、S1心音の強度とS3又はS4心音の強度との間の共変動の時間的パターンを含む傾向インジケータを決定する工程を任意選択的に含むことができる。1つ又は複数の複合HS指標を生成することは、傾向インジケータがS3又はS4強度の成長傾向と同時にS1強度の減衰傾向を示す場合に、S3又はS4心音の強度とS1心音の強度との比率に比例する第1の複合HS指標を生成する工程か、或いは、傾向インジケータがS3又はS4強度の成長傾向と同時にS1強度の成長傾向を示す場合に、S3又はS4心音の強度とS1心音の強度との積に比例する第2の複合HS指標を生成する工程を含むことができる。
例21は、例16の主題を含んで、又は例16の主題と任意選択的に組み合わせて、HS指標が第1の基準を満たす場合に、検出されたHF状態を心筋収縮力代償(CCC)を伴う第1のHFのカテゴリに分類する工程か、又は、HS指標が第2の基準を満たす場合に、検出されたHF状態をCCCを伴わない第2のHFのカテゴリに分類する工程を、任意選択的に含むことができる。
例22は、例21の主題を含んで、又は例21の主題と任意選択的に組み合わせて、HF状態の検出された進行を分類する工程を任意選択的に含むことができ、この分類する工程は、S1強度が時間の経過と共に成長傾向を有する場合に、検出されたHF状態をCCCを伴う第1のHFのカテゴリに分類する工程か、又は、S1強度が時間の経過と共に減衰傾向を有する場合に、検出されたHF状態をCCCを伴わない第2のHFのカテゴリに分類する工程を含むことができる。
この発明の概要は、本出願の教示の一部の概要であり、本発明の対象の排他的又は網羅的な論じ方を意図したものではない。本発明の対象についての更なる詳細が、発明を実施するための形態及び添付の特許請求の範囲に記載されている。当業者であれば、本発明の他の態様が、以降の発明を実施するための形態を読み理解することで、また、発明を実施するための形態の一部を形成する図面を見ることで、明らかになるであろう。図面のそれぞれは、限定的な意味に解釈されるべきではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びそれらの法的な均等物によって規定される。
様々な実施形態が、添付の図面中の図において例として示される。そのような実施形態は、例証的であり、本発明の対象の網羅的な又は排他的な実施形態であることを意図してはいない。
心音を使用して悪化を示す現象を検出するためのシステム、装置、及び方法が開示される。この明細書で考察される心音は、心臓活動によって引き起こされる可聴の又は非可聴の機械的振動を含むことがある。そのような機械的振動は、音響エネルギーを提供することとして概念化することができる。本明細書によると、少なくとも第1及び第1とは異なる第2のHS成分を検出することができ、それぞれの第1及び第2の指標を生成することができる。システムは、第1及び第2のHS指標を使用して、1つ又は複数の複合HS指標を生成することができる。システムは、心不全(HF)現象検出器を含んで、複合HS指標を使用してHF状態を検出することができる。
図1は、心調律管理(CRM)システム100の一例、及びCRMシステム100が動作することができる環境の一部を、一般的に示す。CRMシステム100は、1つ又は複数のリード線108A〜Cを介してなどにより心臓105と電気的に結合することができる埋め込み型医療装置(IMD)110などの携帯型医療装置、及び、通信リンク103などを介してIMD110と通信することができる外部システム120を含むことができる。IMD110は、ペースメーカ、埋め込み型除細動器(ICD:implantable cardioverter−defibrillator)、皮下埋め込み型除細動器(S−ICD:subcutaneously implantable cardioverter−defibrillator)、又は心臓再同期療法除細動器(CRT−D:cardiac resynchronization therapy defibrillator)などの埋め込み型心臓装置を含むことがある。他の例では、IMD110は、皮下に埋め込まれた装置、神経刺激装置、薬物送達装置、生物学的療法装置、診断装置、又は1つ若しくは複数の他の携帯型医療装置などの、1つ又は複数の監視装置又は治療装置を含むことができることが、企図されている。IMD110は、ベッド脇の又は他の外部のモニターなどの監視医療装置に結合されていることがあり、又は、監視医療装置によって代用されることがある。この装置は、埋め込み型装置ではなく、代わりに外部装置であってもよいことが、更に企図されている。例えば、携帯型医療装置は、例えば、装着型監視装置又は装着型除細動器などの外部の監視装置又は治療装置を含むことができる。
図1に示すように、IMD110は、心臓105における生理学的信号を感知することができ、かつ1つ又は複数のリード線108A〜Cなどを介して心臓内などの標的領域に1つ又は複数の治療用の電気パルスを送達することができる電子回路を収容することができる密封缶112を含むことができる。CRMシステム100は、108Bなどの1本のリード線のみを含むことがあり、又は、108A及び108Bなどの2本のリード線を含むことがある。
リード線108Aは、IMD110に接続されるように構成することができる基端部と、心臓105の右心房(RA:right atrium)131内などの標的位置に配置されるように構成することができる先端部とを含むことができる。リード線108Aは、先端部に又は先端部の近傍に配置することができる第1のペーシング感知電極141と、電極141に又は電極141の近傍に配置することができる第2のペーシング感知電極142とを有することができる。電極141及び142は、右心房の活動の感知、及び場合によっては心房のペーシングパルスの送達を可能にするなどのために、リード線108A内の別個の導体などを介して、IMD110に電気的に接続されることができる。リード線108Bは、IMD110に接続することができる基端部と、心臓105の右心室(RV:right ventricle)132内などの標的位置に配置することができる先端部とを含むことができる除細動リード線とすることができる。リード線108Bは、先端部に配置することができる第1のペーシング感知電極152と、電極152の近傍に配置することができる第2のペーシング感知電極153と、電極153の近傍に配置することができる第1の除細動コイル電極154と、上大静脈(SVC:superior vena cava)配置のためなどに先端部から少し離れて配置することができる第2の除細動コイル電極155とを有することができる。電極152〜155は、リード線108B内の別個の導体などを介して、IMD110に電気的に接続されることができる。電極152及び153は、心室電位図を感知することを可能にし、かつ任意選択的に1つ又は複数の心室ペーシングパルスを送達することを可能にし、電極154及び155は、1つ又は複数の心室のカルジオバージョン/除細動パルスを送達することを可能にする。一例では、リード線108Bは、3つの電極152、154、及び155のみを含むことがある。電極152及び154は、1つ又は複数の心室ペーシングパルスを感知又は送達するために使用することができ、電極154及び155は、1つ又は複数の心室のカルジオバージョン又は除細動パルスを送達するために使用することができる。リード線108Cは、IMD110に接続することができる基端部と、心臓105の左心室(LV:left ventricle)134内などの標的位置に配置されるように構成することができる先端部とを含むことができる。リード線108Cは、冠静脈洞133を通して埋め込まれることがあり、LVへの1つ又は複数のペーシングパルスの送達を可能にするなどのために、LV上の冠静脈内に配置されることがある。リード線108Cは、リード線108Cの先端部に配置することができる電極161と、電極161の近傍に配置することができる別の電極162とを含むことができる。電極161及び162は、LVの電位図の感知、及び任意選択的にLVからの1つ又は複数の再同期ペーシングパルスの送達を可能にするなどのために、リード線108C内の別個の導体などを介して、IMD110に電気的に接続されることができる。リード線108C内に、又はリード線108Cに沿って、追加の電極を含めることができる。一例では、図1に示すように、第3の電極163及び第4の電極164が、リード線108に含まれることがある。例によっては(図1には示さず)、リード線108A〜Cのうちの少なくとも1つ、又はリード線108A〜C以外の追加のリード線が、少なくとも1つの心腔の内部に、又は心臓組織に若しくは心臓組織の近傍に配置されることなく、皮膚表面の下に埋め込まれることがある。
IMD110は、生理学的信号を感知することができる電子回路を含むことができる。生理学的信号は、電位図又は心臓105の機械的機能を表す信号を含むことがある。密封缶112は、感知又はパルス送達などのための電極として機能することができる。例えば、電位図の単極性感知、又は1つ若しくは複数のペーシングパルスの送達などのために、リード線108A〜Cのうちの1つ又は複数からの電極を、缶112と一緒に使用することができる。リード線108Bからの除細動電極は、1つ又は複数のカルジオバージョン/除細動パルスを送達するなどのために、缶112と一緒に使用することができる。一例では、IMD110は、リード線108A〜C又は缶112のうちの1つ若しくは複数上に配置された電極間などのインピーダンスを感知することができる。IMD110は、電極の対の間に電流を注入し、電極の同じ対又は異なる対の間で結果として生じる電圧を感知し、オームの法則を使用してインピーダンスを決定するように構成することができる。インピーダンスは、電流の注入及び電圧の感知のために同じ電極の対を使用することができる二極構成、又は、電流の注入のための電極の対及び電圧の感知のための電極の対が共通の1つの電極を共有することができる三極構成、又は、電流を注入するために使用される電極が電圧を感知するために使用される電極とは異なっていることができる四極構成で、感知することができる。一例では、IMD110はRVリード線108B上の電極と缶筐体112との間に電流を注入するように、かつ、RVリード線108B上の同じ電極又は異なる電極と缶筐体112との間で結果として生じる電圧を感知するように、構成することができる。生理学的信号は、IMD110内に統合することができる1つ又は複数の生理学的センサから感知することができる。IMD110は、IMD110に結合することができる1つ若しくは複数の外部の生理学的センサ又は1つ若しくは複数の外部電極から生理学的信号を感知するように構成することもできる。生理学的信号の例としては、心電図、心内電位図、不整脈、心拍数、心拍変動、胸腔内インピーダンス、心臓内インピーダンス、動脈圧、肺動脈圧、左心房圧、RV圧、LV冠状動脈圧、冠血温度、血液酸素飽和度、1つ若しくは複数の心音、身体活動性若しくは労作の程度、活動に対する生理学的反応、姿勢、呼吸、体重、又は体温、のうちの1つ又は複数が挙げられる。
これらのリード線及び電極の配置及び機能は、例として上記で説明したのであり、限定するものではない。患者にとっての必要性及び埋め込み型装置の能力に応じて、これらのリード線及び電極の他の配置及び使用法が可能である。
図示するように、CRMシステム100は、心音(HS)ベースのHF現象検出回路113を含むことができる。HSベースのHF現象検出回路113は、信号感知回路を含んでHS信号を感知することができる。HSベースのHF現象検出回路113は、HS信号を使用して第1の及び第1とは異なる第2のHS成分を検出し、それぞれの第1及び第2のHS指標を生成することができる。HSベースのHF現象検出回路113は、第1及び第2のHS指標を使用して1つ又は複数の複合HS指標を選択的に生成するための混合回路を含むことができる。HSベースのHF現象検出回路113は、この1つ又は複数の複合HS指標を使用してHF状態を検出することができる。HF状態は、HF代償不全発症の1つ又は複数の早期前兆、又はHF状態の回復若しくは悪化などの時間の経過に伴うHFの進行を示す現象を示すことができる。図2〜図4を参照するなどして、HSベースのHF現象検出回路113の例を以下で説明する。
外部システム120は、IMD110のプログラミングを可能にすることができ、また、通信リンク103を介して受信することができる、IMD110によって取得された1つ又は複数の信号についての情報を受信することができる。外部システム120は、ローカルな外部IMDプログラム作製装置を含むことができる。外部システム120は、患者の状態を監視したり又は遠隔地などから1つ又は複数の治療を調節したりすることができる遠隔患者管理システムを含むことができる。
通信リンク103は、誘導的テレメトリリンク、無線周波数テレメトリリンク、又はインターネット接続などの電気通信リンクのうちの1つ又は複数を含むことができる。通信リンク103は、IMD110と外部システム120との間のデータ伝送を提供することができる。送信データは、例えば、IMD110によって取得されるリアルタイムの生理学的データ、IMD110によって取得されIMD110内に保存された生理学的データ、IMD110内に保存された治療履歴データ若しくはIMDの動作状態を示すデータ、或いは、IMD110に対する1つ又は複数のプログラミング命令を含むことができ、このプログラミング命令は、プログラム的に指定可能な感知電極及び構成などを使用した生理学的データの取得、装置の自己診断試験、又は1つ若しくは複数の治療の送達を含むことがある1つ又は複数の動作を実施するようにIMD110を構成するなどのためのものである。
HSベースのHF現象検出回路113は外部システム120に実装されてもよく、これは、IMD110から抽出されたデータ又は外部システム120内部のメモリに保存されたデータを使用するなどして、HFリスク層別化又はHF現象検出を行うように構成することができる。HSベースのHF現象検出回路113の一部は、IMD110と外部システム120との間に分散していてもよい。
IMD110又は外部システム120の一部は、ハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアの任意の組み合わせを使用して実装することができる。IMD110又は外部システム120の一部は、1つ又は複数の特定の機能を実施するように構築又は構成することができるアプリケーション特有の回路を使用して実装することができ、又は、1つ又は複数の特定の機能を実施するようにプログラムされた又は別の態様で構成された汎用回路を使用して実装することができる。そのような汎用回路としては、マイクロプロセッサ又はその一部、マイクロコントローラ又はその一部、プログラマブル論理回路又はその一部を含むことができる。例えば、「比較器」は、とりわけ、2つの信号間の比較という特定の機能を実施するように構成することができる電子回路比較器を含むことがあり、又は、比較器は、汎用回路の一部として実装することができ、この汎用回路は、2つの信号間の比較を実施するように汎用回路の一部に指示するコードによって駆動することができる。IMD110に関して説明したが、CRMシステム100は、皮下医療装置(例えば、皮下ICD、皮下診断装置)、装着型医療装置(例えば、パッチベースの感知装置)、又は他の外部医療装置を含むことがある。
図2は、HSベースの生理学的現象検出回路200の一例を一般的に示しており、この回路200はHSベースのHF現象検出回路113の一実施形態であり得る。HSベースの生理学的現象検出回路200は、患者の診断情報をエンドユーザに提供するように構成される患者モニターなどの外部システム内に実装することもできる。HSベースの生理学的現象検出回路200は、信号感知回路210、心音(HS)処理回路220、心不全(HF)現象検出回路230、制御回路240、及びユーザインターフェース部250のうちの1つ又は複数を含むことができる。
信号感知回路210は、心臓の音響的又は機械的活動を示す情報などの、HS情報を感知することができる。一例では、HS情報は、HS信号の一部又は全体などの、HS波形を含むことがある。HS情報は、S1、S2、S3、又はS4心音などの、少なくとも1つのHS成分の情報を含むことがある。一例では、HS波形は、複数の心臓周期などの複数の生理学的周期に渡る、又は、1分間、10分間、1時間、1日間等の特定の期間に渡るHS信号の少なくとも1つのアンサンブル平均を含むことがある。
信号感知回路210は、被験者からHS情報を感知、検出、或いは他の態様で取得するように構成することができる1つ又は複数の生理学的センサと結合することができる。以下では「HSセンサ」と呼ぶそのような生理学的センサは、心臓の音響的又は機械的振動を示す情報を含む電気的な又は光学的なHS信号を感知するように構成することができる。HSセンサは、埋め込み型、装着型、或いは他の携帯型センサであることがあり、患者の体外に配置されたり、又は体内に埋め込まれたりすることがある。一例では、HSセンサは、埋め込み型医療装置などの埋め込み型システムの少なくとも一部に、又は埋め込み型医療装置に結合されたリード線に、含まれることがある。一例では、信号感知回路210は、HS情報を収集又は保存することができる装置からHS情報を受信するように構成することができる。そのような装置の例としては、外部プログラム作製装置、電子診療記録システム、メモリ部、又は他のデータ記憶装置が挙げられる。
様々な生理学的センサを使用してHS信号を感知することができる。一例では、HSセンサは、被験者の心音を示す加速度信号を感知するように構成することができる加速度計を含むことができる。別の例では、HSセンサは、被験者の心音を示す音響エネルギーを感知するように構成することができる音響センサを含むことができる。マイクロホン、圧力ベースのセンサ、又は他の振動式の若しくは音響的なセンサなどの他のセンサを使用してHS信号を感知することもできる。
信号感知回路210は、信号感知回路210から受信されたなどのHS信号を前処理することができるセンス増幅回路を含むことができる。この前処理は、増幅、デジタル化、フィルタリング、又は他の信号調整動作を含むことがある。一例では、信号感知回路210は、受信したHS信号を約5〜90Hzの間の周波数範囲にフィルタリングするように適合された帯域通過フィルターを含むことがある。別の例では、信号調整回路が、受信したHS信号を約9〜90Hzの間の周波数範囲にフィルタリングするように適合された帯域通過フィルターを含むことがある。一例では、信号感知回路210は、受信したHS信号の2次の又はより高次の微分を計算するように構成された、2次の又はより高次の微分器を含むことがある。
信号感知回路210に結合されたHS処理回路220は、信号感知回路210から受信されたなどのHS信号を処理し、心不全(HF)状態の進行を示す現象などの標的生理学的現象を検出するのに使用するための1つ又は複数の複合HS指標を生成するように構成することができる。HS処理回路220は、CRMシステム100内のマイクロプロセッサ回路の一部として実装することができる。マイクロプロセッサ回路は、デジタル信号プロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC:application specific integrated circuit)、マイクロプロセッサ、又は心音を含む情報を処理するための他のタイプのプロセッサなどの、専用のプロセッサとすることができる。或いは、マイクロプロセッサ回路は、本明細書に記載する機能、方法、又は技術を実施する命令の集合を受信し実行することができる汎用プロセッサとすることができる。
図2に示すような例では、HS処理回路220は、本明細書に記載する機能、方法、又は技術を単独で又は組み合わせで実施することができる、1つ又は複数の他の回路又は下位回路を含む回路集合を含むことがある。一例では、回路集合のハードウェアは、特定の動作を実行するように不変に設計されていることがある(例えば、物理的に組み込まれていてプログラムで変更できない)。一例では、回路集合のハードウェアは、特定の動作の命令を符号化するように物理的に改変された(例えば、磁気的改変、電気的改変、不変の集合粒子の移動可能な配置等)コンピュータ可読媒体を含む、可変に接続された物理的構成要素(例えば、実行部、トランジスタ、単純な回路等)を含むことがある。物理的構成要素を接続する際に、ハードウェア構成物の基礎をなす電気的特性は、例えば、絶縁体から導体に、又はその逆に、変更される。命令は、動作時に特定の動作の部分を実行するために、組み込み型ハードウェア(例えば、実行部又はローディング機構)が可変の接続を介してハードウェアの回路集合のメンバーを生成することを可能にする。従って、コンピュータ可読媒体は、装置が動作しているとき、回路集合のメンバーの他の構成要素と通信可能に結合される。一例では、物理的構成要素のうちの任意のものを、2つ以上の回路集合のうちの2つ以上のメンバー中で使用することができる。例えば、動作中、実行部は、ある時点で第1の回路集合の第1の回路で使用され、かつ、異なる時点で第1の回路集合内の第2の回路によって、又は第2の回路内集合内の第3の回路によって、再使用されることができる。
図2に示すように、HS処理回路220は、HS成分検出回路221、HS指標生成回路222、混合回路224、及びメモリ回路225のうちの1つ又は複数を含むことができる。HS処理回路220は、オプションの傾向把握回路223を追加的に含むことができる。HS成分検出回路221は、信号感知回路及びメモリ回路225に結合され、処理済のHS信号を使用して、S1、S2、S3、又はS4心音などから少なくとも2つの心音成分を検出するように構成されることができる。HS成分検出回路221は、それぞれのHS検出ウィンドウを使用して、1つ又は複数のHS成分を検出することができる。HS検出ウィンドウは、HS信号と同期的に感知された心電図又は心内電位図信号から得られるR波、Q波、又はQRS群などの生理学的現象を参照して決定することができる。一例では、HS成分検出回路221は、対応するHS検出ウィンドウ内でのHS信号エネルギーを計算し、算出されたHS信号エネルギーが特定の閾値を超過するのに応答してHS成分を検出することができる。別の例では、HS成分検出回路221は、以前に検出されたHS成分の時間的位置を追跡することにより、適応的にHS成分を検出することができる。図3を参照するなどして、HS成分の検出例を以下で説明する。
HS指標生成回路222は、HS成分検出回路に結合されて、HS成分を使用して1つ又は複数のHS信号指標を生成することができる。HS指標は、1つ又は複数のHS成分の時間的、統計的、又は形態学的特徴を含むことがある。S1強度(||S1||)、S2強度(||S2||)、S3強度(||S3||)、又はS4強度(||S4||)などの、HS成分の強度測定において。HS成分の強度の例としては、時間領域のHS信号、積分されたHSエネルギー信号などの変換されたHS信号、又は周波数領域のHS信号における検出されたHS成分の振幅、例えば、パワー・スペクトル密度のピーク値、又は、HS検出ウィンドウ内のHS信号の一部のピーク包絡線信号若しくは二乗平均平方根値などの、それぞれのHS検出ウィンドウ内の一般的な測定値のピーク値などが挙げられる。HS成分の強度は、信号振幅又はピークエネルギーの変化の傾き又は変化率も含むことがある。一例では、HS指標は、同一の心臓周期内の、R波とこれに続くS1心音との間の、又はR波とこれに続くS2心音との間のHS信号部分の二乗平均平方根値などの、特定のHS成分の少なくとも一部を含むHS信号の一部の強度尺度を含むことができる。
HS指標生成回路222は、心臓の電気信号から検出されるような心臓の電気的現象と、HS信号から検出されるような機械的現象との間で測定される心臓タイミング間隔(CTI:cardiac timing interval)などの、心臓の電気機械結合を示す信号指標を、代替的に又は追加的に計算することができる。CTIは、とりわけ、前駆出期間(PEP:pre−ejection period)、収縮期タイミング間隔(STI:systolic timing interval)、又は弛緩期タイミング間隔(DTI:diastolic timing interval)を含むことがある。PEPは、駆出に先立つ電気的かつ機械的現象の総持続時間を表し、QRSの開始からS1心音までの持続時間として測定することができる、即ち、PEP≒Q−S1間隔である。或いは、PEPは、心室ペーシング(Vp:ventricular pacing)信号から、S1心音の開始によって表わされるような心室駆出の開始まで測定されることができる、即ち、PEP≒Vp−S1間隔である。STIは、総電気機械的収縮期の持続時間を表し、2つの主な成分、即ちPEP及びLVETを含む。STIは、ECG上のQRS群の開始又は心臓内EGMにおける心房興奮現象の開始からS2心音までの間隔として測定することができる、即ち、STI≒Q−S2間隔である。心室がペーシングされている(Vp)場合では、STIは、心室ペーシング(Vp)信号から、S2心音の開始によって表わされるような心室駆出の終了まで測定されることができる、即ち、STI≒Vp−S2間隔である。DTIは、総電気機械的弛緩期の持続時間を表す。DTIは、大動脈弁の閉鎖から次の心臓周期における心房性脱分極の開始まで及ぶ。一例では、DTIは、S2心音から、ECG上のQRS群の開始又は次の心臓周期の心臓内EGMにおける心房興奮現象の開始までの間隔として測定することができる、即ち、DTI≒S2−Q間隔である。例によっては、HS指標生成回路222は、STI、DTI、PEP、心臓周期(CL:cardiac cycle)、又はLVETのうちの2つ以上を使用して、複合尺度を生成することができる。複合尺度の例としては、とりわけ、PEP/LVET比率、STI/DTI比率、STI/心臓周期(CL)比率、又はDTI/CL比率が挙げられる。
オプションの傾向把握回路223は、設けられる場合には、HS指標生成回路に結合されて、複数の心臓周期に渡る、又は特定の期間の間などの、HS指標の複数の測定値を使用して、傾向インジケータを決定することができる。一例では、傾向インジケータは、特定のHS指標の時間的パターンを示すことができる。傾向インジケータの例としては、対応するHS指標の時間の経過に伴う増加を示す成長傾向、又は、対応するHS指標の時間の経過に伴う減少を示す減衰傾向が挙げられる。時間的パターンは、対応するHS指標の変化の傾きとして計算することができ、正の傾きは成長傾向を示し、負の傾きは減衰傾向を示す。別の例では、傾向インジケータは、2つ以上のHS指標間の共変動の時間的パターンを示すことができる。共変動の時間的パターンは、同じ期間中の2つ以上のHS指標の時間的パターンの組み合わせとして表わすことができる。共変動の時間的パターンは、代替的に、2つ以上のHS指標間の相関として表わすことができ、正の相関は2つ以上のHS指標の間の同一の傾向(例えば、両方のHS指標が成長傾向を表す)を示し、負の相関は2つ以上のHS指標の間の反対の傾向(例えば、一方のHS指標は成長傾向を表し、他方のHS指標は減衰傾向を表す)を示す。図3を参照するなどして、傾向インジケータを決定する例について、以下で説明する。
HS指標生成回路222は、メモリ回路225に結合することができ、メモリ回路225は第1及び第2のHS指標を保存することができる。オプションの傾向把握回路223も、設けられる場合には、傾向インジケータを保存するメモリ回路225に結合することができる。混合回路224は、メモリ回路225に結合することができ、又は、HS指標生成回路222及びオプションの傾向把握回路223に結合することができる。混合回路224は、HS指標生成回路222によって生成されるなどの2つ以上のHS指標を使用して、1つ又は複数の複合HS指標を生成することができる。Yによって示される複合HS指標は、2つ以上のHS指標X1、X2、…、XNの関数として決定することができ、即ち、Y=f(X1、X2、…、XN)であり、関数fは線形又は非線形の関数であり得る。線形関数の例としては、HS指標の加重和が挙げられ、即ち、Y=ΣaiXiであり、aiはHS指標Xiに対する重み係数を表す。非線形関数の例としては、とりわけ、2つのHS指標Xi及びXjの間の比率Xi/Xj又は積Xi*Xjなどの、少なくとも1つの非線形項が挙げられる。一例では、複合HS指標Yは、2つのHS指標間の比率に比例していることがあり、即ち、Y=k*Xi/Xjであり、又は、2つのHS指標間の積に比例していることがあり、即ち、Y=k*Xi*Xjであり、ここでkは縮尺係数である。
一例では、混合回路224は、オプションの傾向把握回路223によって生成されたなどの傾向インジケータを使用して、1つ又は複数の複合HS指標を生成することができる。混合回路224は、HS指標の時間的パターン、又は、オプションの傾向把握回路223によって生成される2つ以上のHS指標間の共変動の時間的パターンに応答して、異なる複合HS指標を生成することができる。一例では、混合回路224は、オプションの傾向把握回路223が、第1の傾向を示すHS傾向インジケータを生成する場合には、第1の複合HS指標を生成し、又は、傾向インジケータが第1とは異なる第2の傾向を示す場合には、第1とは異なる第2の複合HS指標を生成することができる。図3を参照するなどして、HS傾向インジケータに基づく複合HS指標の例を、以下で説明する。
心不全(HF)現象検出回路230は、1つ若しくは複数のHS指標、又は、混合回路224によって生成されたなどの1つ若しくは複数の複合HS指標、又は、少なくとも1つのHS指標と少なくとも1つの複合HS指標との組み合わせを使用して、HF状態を検出するように構成することができる。一例では、HF現象検出回路230は、複数の特定の期間中に得られた複合HS指標の複数の値を使用して、少なくとも1つの複合HS指標の傾向を生成することができる。HF現象検出回路230は、1つ若しくは複数のHS指標又は1つ若しくは複数の複合HS指標を、閾値などの基準と比較することができる比較回路231を含んで、HF代償不全現象又はHFの悪化を示す他の現象が発生したかどうかを決定することができる。一例では、HF現象検出回路230は、同一出願人による、「悪化する心不全の予測(PREDICTIONS OF WORSENING HEART FAILURE)」と題された米国特許出願第62/236,416号明細書に開示されているなどの、HS指標又は複合HS指標の1つ又は複数の短期値と、HS指標又は複合HS指標の1つ又は複数の長期ベースライン値との間の相対的な差の、指数関数的に重み付けされた組み合わせなどの、重み付けされた組み合わせを計算することができ、この米国特許出願はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。一例では、HF現象検出回路230は、短期値と長期値との相対的な差を計算する前に、HS指標又は複合HS指標の短期値又は長期ベースライン値のうちの一方又は両方を、それらの振幅を正規化するなどにより、変換することができる。
HF現象の検出に加えて、又はその代わりに、HSベースの生理学的現象検出回路200は、とりわけ、肺水腫、心筋梗塞を含む病状の発症、終結、又は進行(悪化又は回復など)を示すなどの、他のタイプの生理学的現象又は状態を検出するように構成される検出器を含むことができる。一例では、HSベースの生理学的現象検出回路200は、HF現象検出回路230に結合された治療回路を任意選択的に含むことができる。治療回路は、HF状態の検出に応答して、患者に治療を送達するように構成することができる。治療の例としては、心臓電気刺激療法、カルジオバージョン療法、除細動療法、神経調節療法、又は、特定のエネルギー源を使用した他の刺激療法が挙げられる。治療回路は、リード線108A〜C又は缶筐体112のうちの1つ又は複数上の電極など、患者の身体の内部又は上の1つ又は複数の標的部位に配置された1つ又は複数の電極に結合されることができる。治療は、HF代償不全現象などのHF現象の検出に応答してなど、自動的に送達されることがあり、又は、治療は、治療を承認するユーザ指示を受信した際に送達されることがある。例によっては、治療回路は、1つ又は複数の治療パラメータのプログラミング及びプログラムされた治療の患者の標的部位への送達についての、ユーザインターフェース部250からなどのユーザ指示を受信するように構成することができる。治療パラメータの例としては、パルス振幅、パルス波形、パルス周波数、パルス幅、デューティサイクル、持続時間、又は電気刺激に関連した任意の他のパラメータが挙げられる。治療パラメータのプログラミングは、HS指標、HS傾向インジケータ、又は複合HS指標のうちの1つ又は複数を含む情報に基づくことがある。HSベースの生理学的現象検出回路200は、人間が知覚可能な警告又は通知を更に生成して、臨床医などのシステムユーザに、患者の治療を開始又は変更するように知らせることができる。
制御回路240は、信号感知回路210、HS処理回路220、HF現象検出回路230の動作、並びにこれらの構成要素間のデータフロー及び命令を制御することができる。制御回路240は、ユーザインターフェース部250から外部プログラミング入力を受信して、HS信号の受信、又は、信号指標、HS傾向インジケータ、及び複合HS指標を生成するためのHS信号の処理、又はHF現象の検出のうちの1つ又は複数を制御することができる。ユーザインターフェース部250は、プログラミング選択肢をユーザに提示し、ユーザのプログラミング入力を受け取るように構成することができる。ユーザインターフェース部250は、キーボード、画面上のキーボード、マウス、トラックボール、タッチパッド、タッチスクリーン、又は他のポインティングデバイス若しくはナビゲーティングデバイスなどの入力装置を含むことができる。入力装置は、システムユーザが、生理学的信号を感知するのに使用されるパラメータをプログラミングできるようにすることができる。ユーザインターフェース部250は、検出されたHF状態を含む情報を、システムユーザに対して表示するために、テキスト形式、表形式、又は図形式などの表現形式で生成することができる出力部を含むことができる。出力情報の提示は、システムユーザに検出されたHF状態を警告するために、オーディオ又は他の人間が知覚可能なメディア形式を含むことがある。一例では、ユーザインターフェース部250の少なくとも一部、例えばユーザインターフェースなどは、外部システム120内に実装することができる。
図3は、HS処理回路320の一例を一般的に示しており、HS処理回路320は、HS処理回路220の一実施形態であり得る。HS処理回路320は、HS成分検出回路321、HS指標生成回路322、及び混合回路324のうちの1つ又は複数を含むことができる。HS処理回路320は、オプションの傾向把握回路323を含むことができる。
HS成分検出回路221の一実施形態であり得るHS成分検出回路321は、それぞれのS1検出ウィンドウ及びS3検出ウィンドウを使用するなどにより、S1心音を検出するように構成されたS1検出器と、S3心音に構成されたS3検出器とを含むことができる。一例では、S1検出ウィンドウは、ECG信号のR波の検出に続いて50ミリ秒(msec)で開始し、300msecの持続時間を有することができる。S2検出ウィンドウは、R波の検出か又はS1心音に続いて特定のオフセットで開始することができる。S3検出ウィンドウは、R波タイミング又はS2心音のタイミングなどの、少なくとも1つの心臓信号特徴を使用して決定することができる。S3検出ウィンドウは、特定の持続時間を有することができ、S2の検出に続いて特定のオフセットで開始することができる。一例では、オフセットは125msecとすることができ、S3ウィンドウ持続時間は125msecとすることができる。オフセット又はS3ウィンドウ持続時間は、心拍数などの生理学的変数の関数とすることができる。例えば、オフセットは心拍数に反比例することがあり、その結果、S3検出ウィンドウは、心拍数がより高いとS2に続いてより小さなオフセットで開始することがある。それぞれのHS検出ウィンドウ内の信号エネルギーを計算し、それぞれの閾値と比較して、S1及びS3心音を検出することができる。或いは、HS成分検出回路321は、履歴的に検出されたS3心音のタイミングを適応的に追跡することによって、S3心音を検出することができる。同一出願人による、パタンガイ(Patangay)ら著、「心音追跡システム及び方法(HEART SOUND TRACKING SYSTEM AND METHOD)」と題された米国特許出願第7,853,327号明細書に開示されているような、動的計画法アルゴリズムを使用して、S3検出ウィンドウ内でS3心音を検出し追跡することができ、この米国特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
HS指標生成回路222の一実施形態であり得るHS指標生成回路322は、S1検出ウィンドウ内のピーク振幅又はピーク信号エネルギーを示すS1強度(||S1||)と、S3検出ウィンドウ内のピーク振幅又はピーク信号エネルギーを示すS3強度(||S3||)とを含むHS指標を生成することができる。HS指標生成回路222の一実施形態であり得るHS指標生成回路322は、M個の心臓周期に渡る、又はM個の心臓周期以上の長さの特定の期間中などの、i=1、2、…、Mに対する複数のS1強度測定値{||S1||i}を受信することができる。同じ特定の期間又は同じM個の心臓周期の間、オプションの傾向把握回路323は、設けられる場合には、i=1、2、…、Mに対する複数のS3強度測定値{||S3||i}を受信することができる。オプションの傾向把握回路323は、受信した複数の測定値{||S1||i}又は{||S3||i}を使用して、||S1||傾向インジケータ、||S3||傾向インジケータ、又は、S1強度||S1||とS3強度||S3||との間の共変動の時間的パターンを示す共同S1−S3傾向インジケータを生成することができる。例えば、悪化するHF又は差し迫ったHF代償不全現象を経験する患者においては、オプションの傾向把握回路323は、特定の期間中のS3強度の増加によって表わされる、「||S3||+」で表わされる、||S3||の成長傾向を検出することができる。別の例では、オプションの傾向把握回路323は、時間の経過に伴うS1強度の減少によって表わされる、「||S1||−」で表わされる、||S1||の減衰傾向を検出することができる。HF患者によっては、||S3||の成長傾向が||S1||の同時の減衰傾向を伴うことがあり、これに応じて、HS傾向インジケータは、特定の期間に渡り同時の||S3||の増加と||S1||の減少を示す、(||S3||+、||S1||−)によって表わされる共同S1−S3傾向インジケータを生成することができる。
混合回路224の一実施形態であり得る混合回路324は、第1の複合HS指標326(「Y1」によって表わされる)、又は第2の複合HS指標327(「Y2」によって表わされる)を選択的に生成することができる。第1の複合HS指標326は、||S3||と||S1||との比率に比例することがある、即ち、Y1=a*||S3||/||S1||である。第2の複合HS指標327は、||S3||と||S1||との積に比例することがある、即ち、Y2=b*||S3||*||S1||であり、ここで「a」及び「b」は既知の縮尺係数である。比率||S3||/||S1||、又は積||S3||*||S1||は、同じ心臓周期内で検出されたS1成分及びS3成分のそれぞれについて計算することができる。或いは、||S3||及び||S1||のいずれか又は両方は、複数の心臓周期に渡るなどの対応するHS成分の複数の測定値を使用して、決定することができる。
混合回路324は、オプションの傾向把握回路323に結合された複合指標セレクタ325を含むことができる。複合指標セレクタ325は、第1の複合HS指標326又は第2の複合HS指標327のうちの1つを選択することができる。この選択は、オプションの傾向把握回路323によって提供される傾向インジケータに基づくことができる。一例では、複合指標セレクタ325は、||S1||傾向インジケータに基づいて、Y1とY2との間で複合HS指標を選択することができる。例えば、||S1||傾向インジケータが、時間の経過に伴い||S1||の減衰傾向又は||S1||の変化の負の傾きを示す場合、第1の複合HS指標Y1が選択され得る。||S1||傾向インジケータが、時間の経過に伴い||S1||の成長傾向又は||S1||の変化の正の傾きを示す場合、第2の複合HS指標Y2が選択され得る。即ち、複合指標セレクタ325は、複合HS指標(Y)を、以下のように選択する。
別の例では、複合指標セレクタ325は、共同S1−S3傾向インジケータに基づいて、複合HS指標を選択することができる。例えば、共同S1−S3傾向インジケータが||S1||の減衰傾向と同時に||S3||の成長傾向を示した場合、Y1が選択され得る。共同S1−S3傾向インジケータが||S1||の成長傾向と同時に||S3||の成長傾向を示した場合、Y2が選択され得る。即ち、複合指標セレクタ325は、複合HS指標(Y)を、以下のように選択する。
一例では、複合指標セレクタ325は、HS指標(||S1||及び||S3||など)並びに第1及び第2の複合HS指標の中から選択することができる。この選択は、前述したように、||S1||傾向インジケータ又は共同S1−S3傾向インジケータなどの、オプションの傾向把握回路323によって提供される傾向インジケータに基づくことができる。例えば、複合指標セレクタ325は、以下のようにHS指標(Y)を選択することができる。
本発明者らは、S1強度が減衰傾向を経験する(即ち、時間と共に強度が減少する)場合、Y1などの、||S3||/||S1||に比例した複合HS指標は、少なくともHF状態に対するS1及びS3を組み合わせた応答のおかげで、S3強度単独などのHS指標よりも、差し迫った悪化するHF現象のより高感度で堅牢な検出手段になり得ることを、認識している。同様に、S1強度が成長傾向を経験する(即ち、時間と共に強度が増加する)場合、Y2などの、||S3||*||S1||に比例した複合HS指標は、S3強度単独よりも、差し迫った悪化するHF現象のより高感度で堅牢な検出手段になり得る。選択された複合指標Yは、HFの時間の経過に伴う進行などのHF状態を検出するために、HF現象検出回路230によって使用することができる。一例では、Yが特定のHF検出閾値YTHを超過する場合、悪化するHF現象が検出されたとみなされる。
例によっては、第1又は第2の複合HS指標のうちの少なくとも1つは、2つのHS指標の変化又は変化率を使用して計算することができる。例えば、第1の複合HS指標Y1は、比率Δ||S3||/Δ||S1||に比例していることがあり、また第2の複合HS指標Y2は、積Δ||S3||*Δ||S1||に比例していることがあり、ここで「Δ」は、特定の時間間隔内の対応するHS指標の変化を示す。
例によっては、HS成分検出回路321は、S1又はS4心音などの他のHS成分を代替的に又は追加的に検出することができる。HS指標生成回路322は、検出されたS1又はS4心音を使用して、強度尺度又は心臓タイミング間隔などのHS指標を決定するように構成することができる。混合回路は、第1の複合HS指標(Y1)を、とりわけ、強度比率||S3||/||S2||、||S4||/||S1||、又は||S4||/||S2||のうちの1つと比例するように計算することができる。同様に、混合回路は、第2の複合HS指標(Y2)を、とりわけ、強度積||S3||*||S2||、||S4||*||S1||、又は||S4||*||S2||のうちの1つと比例するように計算することができる。
図4は、検出されたHF現象を分類するためのHF現象分類システム400の一例を一般的に示す。HF現象分類システム400は、HSベースの生理学的現象検出回路200の一部として、又は回路200とは別個のシステムとして、実装することができる。
HF現象分類システム400は、HF現象検出回路430を含んで、HF代償不全現象又は悪化するHFを示す任意の現象などの、心不全(HF)状態の進行を示すHF現象を検出することができる。一例では、HF現象検出回路430は、HF現象検出回路230の一実施形態であり得る。HF現象分類システム400は、HS指標生成回路222及びオプションの傾向把握回路223のうちの一方又は両方に通信可能に結合される、又は代替的に、第1及び第2のHS指標並びに傾向インジケータが保存されるメモリ回路225に結合される、HF現象分類回路440を含むことができる。図4に示すように、HF現象分類回路440は、1つ又は複数のHS指標を使用することにより、心筋収縮力代償(CCC)を伴う第1のHFのカテゴリ442、又はCCCを伴わない第2のHFのカテゴリ444のうちの1つに、検出されたHF現象を分類することができる。本発明者らは、一部のHF患者はHF状態が悪化するにつれて心筋収縮力が低下することがあるが、他の一部のHF患者はHF状態が進行するにつれて代償性の収縮力を有することがあることを、認識している。例えば、HF状態が悪化すると、身体への十分な心拍出量を維持するために、心臓に対する代償機構を通じて、より多くの心筋が補充されることがある。これは、HFが悪化する間に、心筋収縮力の代償的な増加をもたらすことがあり、時間の経過に伴うS1強度の増加として現れることがある。心筋収縮力代償(CCC)を伴うHFを有する患者、及びCCCを伴わないHFを有する患者におけるHS指標の例について、図5A及び図5Bを参照するなどして、以下で考察する。
一例では、HF分類回路440は、HS指標生成回路222若しくは322によって生成されたなどのS1強度||S1||、又はオプションの傾向把握回路223若しくは323によって生成されたなどの||S1||傾向インジケータを使用して、検出されたHF現象を分類することができる。検出されたHF現象は、||S1||が第1の基準を満たす場合、例えば||S1||が成長傾向を示す場合などは、CCCを伴う第1のHFのカテゴリに分類されることがある。検出されたHF現象は、||S1||が第2の基準を満たす場合、例えば||S1||が減衰傾向を示す場合などは、CCCを伴わない第2のHFのカテゴリに分類されることがある。別の例では、HF現象分類システム400は、HS指標生成回路222若しくは322によって生成されたなどのS1強度||S1||及びS3強度||S3||の両方、又はオプションの傾向把握回路223若しくは323によって生成されたなどの共同S1−S3傾向インジケータ、などの2つ以上のHS指標を使用して、検出されたHF現象を分類することができる。検出されたHF現象は、共同S1−S3傾向が第1の基準を満たす場合、例えば、||S1||が成長傾向を示し、同時に||S3||が成長傾向を示す、即ち共同S1−S3傾向(||S3||+、||S1||+)である場合などには、CCCを伴うHFとして分類されることがある。検出されたHF現象は、共同S1−S3傾向が第2の基準を満たす場合、例えば、||S1||が減衰傾向を示し、同時に||S3||が成長傾向を示す、即ち共同S1−S3傾向(||S3||+、||S1||−)である場合などには、CCCを伴わないHFとして分類されることがある。
一例では、HF分類回路440は、混合回路324に結合されることがあり、||S3||と||S1||との比率に比例した複合HS指標、又は||S3||と||S1||との強度の積に比例した複合HS指標などの、複合HS指標を使用して、検出されたHF現象を分類することができる。HF分類回路440は、複合HS指標が第1の基準を満たす場合、例えば、複合指標||S3||*||S1||が特定の閾値を超過する場合などに、検出されたHF現象をCCCを伴う第1のHFのカテゴリに分類することができる。HF分類回路440は、複合HS指標が第2の基準を満たす場合、例えば、複合指標||S3||/||S1||が特定の閾値を超過する場合などに、検出されたHF現象をCCCを伴わない第2のHFのカテゴリに分類することができる。
CCCを伴わないHFと比較すると、CCCを伴うHFは、異なる病因を有することがあり、又はHFの悪化の異なる段階を示すことがあり、従って、異なる治療措置を必要とすることがある。HF分類回路440に結合された治療回路450は、HF現象の異なるクラスに対してそれぞれの治療を送達するように構成することができる。治療の例としては、電気ペーシング療法、カルジオバージョン療法、除細動療法、神経調節療法、又は、特定のエネルギー源を使用した他の刺激療法、又は、薬物若しくは他の特定の治療薬を使用した薬理学的療法が挙げられる。一例では、検出されたHF現象がCCCを伴わないHFとして分類されるのに応答して、CCCを伴うHFと比較してより積極的な治療が、システムユーザ(例えば、臨床医)に推奨されることがあり、又は、患者に自動的に送達されることがある。より積極的な治療には、より高いエネルギー、より高い強度、若しくはより長い持続時間での電気刺激療法、又は、異なる投薬量での変力薬などの薬理学的療法が含まれることがある。例によっては、HF現象の分類結果は、システムユーザに提示されることがあり、又は、ユーザインターフェース部250に含まれるなどの出力部において、視覚的な若しくはオーディオの警告信号が生成されることがある。
図5A及び図5Bは、悪化するHF現象につながる期間中のHS指標の傾向の例を一般的に示す。HS傾向は、HS処理回路220又はHS処理回路320を使用するなどによって決定することができ、図5A及び図5Bに示すような傾向のうちの1つ又は複数が、ユーザインターフェース部250に表示されることがあり、ユーザインターフェース部250は、システムユーザが傾向を確認、注釈付け、さもなければ操作できるようにする。
図5Aは、S3強度||S3||の第1の傾向510と、S1強度||S1||の第2の傾向520と、||S3||と||S1||との比率(即ち、||S3||/||S1||)の第3の傾向530とを、特定の期間に渡って同期して表示させて、示したものである。傾向510、520、又は530における各データ点は、同一の心臓周期におけるそれぞれのHS指標の値を表す。例えば、ある心臓周期内の(「時間」を表すx軸上の)時刻t1において又は時刻t1付近で、S1及びS3心音を検出することができ、また、HS処理回路220又はHS処理回路320を使用するなどにより、それぞれの強度指標||S1||t1(||S1||傾向520上の522)、及び強度指標||S3||t1(||S3||傾向520上の512)、並びに複合指標||S3||t1/||S1||t1(||S3||/||S1||傾向530上の532)を決定することができる。図示した例では、t1からt2までの期間の内に、512における||S3||t1から514における||S3||t2への増加によって表わされるような||S3||の成長傾向と、これに伴う、522における||S1||t1から524における||S1||t2への減少によって表わされるような||S1||の同時の減衰傾向とが存在する。||S1||は心筋収縮力と相互に関係付けることができ、従って心筋収縮力を示すことができるので、t1からt2までの||S1||の増加は、心筋収縮力が代償なしで低下していることを示唆する。||S3||と||S1||との逆の傾向のおかげで、複合指標||S3||/||S1||は、||S3||t1/||S1||t1から||S3||t2/||S1||t2へのより顕著で急な増加を示す。複合指標セレクタ325は、||S1||の減衰傾向、又は減衰する||S1||と同時に成長する||S3||の共同S1−S3傾向に応答して、差し迫った悪化するHF現象を検出するために、積||S3||*||S1||の複合指標とは対照的に、比率||S3||/||S1||の複合指標を選択することができる。||S3||単独と比較すると、複合指標||S3||/||S1||は、時間の経過と共に増加率がより高くなり、図5Aに示すようなシナリオにおける悪化するHF現象のより高感度で堅牢な検出手段となる。||S3||/||S1||が検出閾値を超過すると、HF現象が検出されたとみなされる。HF分類回路440は、||S1||の減衰傾向などに基づいて、検出されたHF現象をCCCを伴わないHFとして分類することができる。
図5Aと同様に、図5Bは、特定の期間に渡って同期して記録され表示される、S3強度傾向540、S1強度傾向550、及び||S3||*||S1||の複合HS指標傾向530を示す。t3からt4までの期間の内に、542における||S3||t3から544における||S3||t4まで、||S3||の成長傾向が存在する。しかしながら、図5Aの||S1||傾向520とは対照的に、同時の||S1||傾向550は、552における||S1||t3から554における||S1||t4まで増加する成長傾向である。これは、心筋収縮力の代償性の回復の結果であることがある。複合指標セレクタ325は、||S1||の成長傾向、又は||S1||及び||S3||の同時の成長傾向に応答して、差し迫った悪化するHF現象を検出するために、積||S3||/||S1||の複合指標とは対照的に、積||S3||*||S1||の複合指標を選択することができる。||S3||及び||S1||における同じ傾向のおかげで、複合指標||S3||*||S1||は、t3からt4までの期間の間により顕著で急な増加を有することができ、このことは、指標||S3||*||S1||を、図5Bに示すようなシナリオにおける悪化するHF現象のより高感度で堅牢な検出手段にしている。||S3||*||S1||が検出閾値を超過すると、HF現象が検出されたとみなされる。次いで、HF分類回路440は、||S1||の成長傾向などに基づいて、HF現象をCCCを伴うHFとして分類することができる。
図6は、心音(HS)信号を使用して、患者のHF状態の進行を示す標的現象を検出するための方法600の一例を一般的に示す。標的現象には、HF代償不全現象又は他の悪化するHF現象を含むことがある。方法600は、埋め込み型若しくは装着型の医療装置などの携帯型医療装置、又は遠隔患者管理システムに実装されて動作することができる。一例では、方法600は、IMD110、又はIMD110と通信している外部システム120などに実装されるHSベースのHF現象検出器113によって、実行されることができる。
方法600は、患者からのHS信号を感知することにより、610で開始する。HS信号は、心臓の音響的又は機械的活動を感知するように構成することができる、埋め込み型、装着型、或いは他の携帯型のセンサを使用して、感知することができる。感知されたHS信号は、信号対雑音比を改善してHS成分の検出を容易にするなどのために、増幅、デジタル化、フィルタリング、又は他の信号調整動作を含む前処理にかけられることがある。
620で、感知されたHS信号から、少なくとも第1及び第1とは異なる第2のHS成分を検出することができる。HS成分には、S1、S2、S3、又はS4心音を含むことができる。一例では、HS成分は、S1ウィンドウ、S2ウィンドウ、S3ウィンドウ、又はS4ウィンドウなどのそれぞれに規定されたHS検出ウィンドウ内で検出することができる。それぞれのHS検出ウィンドウを使用して計算されたHS信号エネルギーが特定の閾値を超過した場合に、HS成分が検出される。別の例では、HS成分は、以前に検出されたHS成分の時間的位置を追跡することにより、適応的に検出することができる。
630で、それぞれの第1及び第2のHS成分を使用して、少なくとも第1及び第2のHS指標を生成することができる。HS指標は、1つ又は複数のHS成分の時間的、統計的、又は形態学的特徴を含むことがある。一例では、HS指標は、S1強度(||S1||)、S2強度(||S2||)、S3強度(||S3||)、又はS4強度(||S4||)を含むことができる。強度は、周波数領域でのピークスペクトル密度に対する時間領域での振幅として測定することができる。別の例では、HS指標は、心臓電気信号から検出されるなどの心臓電気現象と、HS信号から検出されるなどの機械的現象との間で測定される心臓タイミング間隔(CTI)などの心臓タイミングを含むことができる。CTIは、とりわけ、前駆出期間(PEP)、収縮期タイミング間隔(STI)、又は弛緩期タイミング間隔(DTI)を含むことがある。
方法600は、640でオプションの工程を含むことがあり、この工程では、複数の心臓周期に渡るか又は特定の期間の間などの、第1又は第2のHS指標の複数の測定値を使用して、HS傾向インジケータを生成することができる。一例では、傾向インジケータは、S1強度又はS3傾向などの1つのHS指標から得られることがある。傾向インジケータには、時間の経過に伴うHS指標の増加を示す成長傾向、又は、時間の経過に伴うHS指標の減少を示す減衰傾向を含むことができる。別の例では、傾向インジケータは、S1強度及びS3強度の両方などの、2つ以上のHS指標から得られることがある。このようにして生成された傾向インジケータは、2つ以上のHS指標間の共変動の時間的パターンを示すことができる。
650で、1つ又は複数の複合HS指標を生成することができる。2つ以上のHS指標を使用して、各複合HS指標を生成することができる。複合HS指標は、2つ以上のHS指標の線形関数又は非線形関数とすることができる。一例では、複合HS指標の生成は、640で生成されたHS傾向インジケータに基づくことがある。一例では、傾向インジケータが第1の傾向を示す場合には第1の複合HS指標を生成することができ、又は、傾向インジケータが第1とは異なる第2の傾向を示す場合には第1とは異なる第2の複合HS指標を生成することができる。
660で、悪化するHFなどの標的HF状態を検出することができる。一例では、HF状態の検出は、選択された複合HS指標の時間の経過に伴う傾向把握を含むことがある。選択された複合HS指標の傾向と閾値又は値範囲などの特定の基準とを比較して、標的HF状態を検出することができる。標的HF状態が検出されたとみなされた場合、670で、ユーザインターフェース部250などの出力装置に標的HF状態の検出を含む情報を提示することができる。一例では、出力情報は、表、グラフ、図、又は、他のタイプのテキスト形式、表形式、若しくは図の表現形式で提示されることがある。一例では、悪化するHFが検出された場合に警告が生成されることがある。警告は、オーディオの、又は人間が知覚可能な他のメディア形式とすることができる。追加的に又は代替的に、方法600は、HF状態が特定の条件を満たすのに応答して、心臓又は神経の標的に送達される電気刺激療法などの治療を送達することを含むことがある。
図7は、S1及びS3心音を使用して、HF状態の進行を示す標的現象を検出するための方法700の一例を一般的に示す。方法700は、方法600の一実施形態であり得る。一例では、方法700は、図2に示すような生理学的標的現象検出器200内に実装され、この検出器200により実行されることができる。
方法700は、患者からのHS信号を感知することにより、710で開始する。720で、それぞれのS1検出ウィンドウ及びS3検出ウィンドウを使用するなどして、HS信号からS1及びS3心音成分を検出することができる。一例では、S1検出ウィンドウは、ECG信号のR波の検出に続いて50ミリ秒(msec)で開始し、300msecの持続時間を有することができる。S2検出ウィンドウは、R波の検出か又はS1心音に続いて特定のオフセットで開始することができる。S3検出ウィンドウは、R波タイミング又はS2心音のタイミングなどの、少なくとも1つの心臓信号特徴を使用して決定することができる。S3検出ウィンドウは、特定の持続時間を有することができ、S2の検出に続いて特定のオフセットで開始することができる。一例では、オフセットは125msecとすることができ、S3ウィンドウ持続時間は125msecとすることができる。或いは、履歴的に検出されたS3心音のタイミングを適応的に追跡することによって、S3心音を検出することができる。730で、ピーク振幅などの、検出されたS1及びS3心音の強度を決定することができる。
740で、オプションの傾向把握回路223又はオプションの傾向把握回路323を使用するなどにより、||S1||傾向を生成することができる。M個の心臓周期に渡る、又はM個の心臓周期以上の長さの特定の期間中などの、i=1、2、…、Mに対する複数のS1強度測定値{||S1||i}を使用して、||S1||傾向を生成することができる。時間の経過に伴う||S1||の増加又は||S1||の変化の正の傾きによって、成長する||S1||傾向を示すことができ、また、時間の経過に伴う||S1||の減少又は||S1||の変化の負の傾きによって、減衰する||S1||傾向を示すことができる。
750で、複合HS指標生成器224又は複合HS指標生成器324を使用するなどにより、第1の又は第1とは異なる第2の複合HS指標のいずれかを生成することができる。工程750は、方法600の工程650の一実施形態として、740で生成された||S1||の傾向に基づいて、第1及び第2の複合HS指標から選択するための工程751を含むことができる。||S1||が成長傾向を示す場合、次いで752で、||S3||と||S1||との積に比例する複合HS指標Yを生成することができ、即ち、Y=b*||S3||*||S1||である。或いは、複合HS指標b*||S3||*||S1||を使用する代わりに、HS指標||S3||を使用することができ、即ち、Y=b*||S3||である。しかしながら、||S1||が減衰傾向を示す場合、次いで753で、||S3||と||S1||との比率に比例する複合HS指標を生成することができ、即ち、Y=a*||S3||/||S1||である。次いで760で、選択された複合指標Yを使用してHF状態を検出することができる。一例では、Yが特定のHF検出閾値YTHを超過する場合、悪化するHF現象が検出されたとみなされる。例によっては、選択された複合指標Yと1つ若しくは複数の他のHS指標又は他の生理学的信号指標とを組み合わせて、760でHF状態を検出することができる。一例では、a*||S3||/||S1||と||S3||との平均、即ち、(a*||S3||/||S1||+||S3||)/2を使用して、HF状態を検出することができる。
図8は、S1及びS3心音を使用して、HF状態の進行を示す標的現象を検出するための方法800の別の例を一般的に示す。方法800は、方法600の一実施形態であり得る。一例では、方法800は、図2に示すような生理学的標的現象検出器200内に実装され、この検出器200により実行されることができる。
方法700の工程710〜730と同様に、方法800は、患者からのHS信号を感知し、感知されたHS信号からS1及びS3心音成分を検出し、ピーク振幅などの、検出されたS1及びS3心音の強度を生成するための工程810〜830を含むことができる。840で、||S1||と||S3||との間の共変動の時間的パターンを決定することができる。共変動の時間的パターンは、同じ特定の期間中の2つ以上のHS指標の時間的パターンの組み合わせとして表わすことができる。一例では、共変動の時間的パターンは、||S1||の減衰傾向(||S1||−で表わされる)と同時の||S3||の成長傾向(||S3||+で表わされる)などの、共同S1−S3傾向インジケータを含むことができる。740での||S1||傾向の決定と同様に、時間の経過に伴う||S3||の増加又は||S3||の変化の正の傾きによって、成長する||S3||傾向を示すことができ、また、時間の経過に伴う||S3||の減少又は||S3||の変化の負の傾きによって、減衰する||S3||傾向を示すことができる。別の例では、共変動の時間的パターンは2つ以上のHS指標間の相関として表わすことができ、正の相関は2つ以上のHS指標間の同じ傾向を示し、負の相関は2つ以上のHS指標間の反対の傾向を示す。
850で、複合HS指標生成器224又は複合HS指標生成器324を使用するなどにより、第1の又は第1とは異なる第2の複合HS指標のいずれかを生成することができる。図8に示すように、工程850は、共変動の時間的パターン(P)に基づいて第1及び第2の複合HS指標から選択するための決定プロセスを851で含むことができる。一例では、共変動の時間的パターンが、||S1||の成長傾向と同時の||S3||の成長傾向である第1の共同S1−S3傾向インジケータを示す場合、次いで852で、||S3||と||S1||との積に比例する第1の複合HS指標を選択することができる。或いは、複合HS指標を使用する代わりに、HS指標||S3||を選択することができる。しかしながら、共変動の時間的パターンが、||S1||の減衰傾向と同時の||S3||の成長傾向である第1とは異なる第2の共同S1−S3傾向インジケータを示す場合、次いで853で、||S3||と||S1||との比率に比例する第2の複合HS指標を選択することができる。次いで860で、選択された複合指標(Y)を使用してHF状態を検出することができる。一例では、Yが特定のHF検出閾値YTHを超過する場合、悪化するHF現象が検出されたとみなされる。選択された複合指標Yと1つ若しくは複数の他のHS指標又は他の生理学的信号指標とを組み合わせて、例えば、a*||S3||/||S1||と||S3||との平均、即ち、(a*||S3||/||S1||+||S3||)/2などにより、760でHF状態を検出することができる。
図9は、HS信号を使用して、HF現象を分類するための方法900の一例を一般的に示す。HF現象分類システム400によって、方法900を使用することができる。方法900は、埋め込み型若しくは装着型の医療装置などの携帯型医療装置、又は遠隔患者管理システム内に実装されて、それによって動作させることができる。一例では、方法900は、IMD110、又はIMD110と通信している外部システム120などに実装されるHSベースのHF現象検出器113によって、実行されることができる。
方法700の工程710〜730、又は方法800の工程810〜830と同様に、方法900は、患者からのHS信号を感知し、感知されたHS信号からS1及びS3心音成分を検出し、ピーク振幅などの、検出されたS1及びS3心音の強度を生成するための工程910〜930を含むことができる。940で、||S1||及び||S3||のうちの一方又は両方を使用して、HS傾向インジケータを生成することができる。一例では、HS傾向インジケータは、方法700の工程740で生成されたなどの||S1||傾向を含むことがある。別の例では、HS傾向インジケータは、||S1||と||S3||との間の共変動の時間的パターン、例えば方法800の工程840で生成された共同S1−S3傾向インジケータなどを含むことができる。
950で、HF代償不全現象又は悪化するHFを示す任意の現象などの、HF現象を検出することができる。HF現象の検出は、本明細書で開示される方法600、700、又は800のうちの1つに基づくことができる。或いは、HF現象は、胸腔インピーダンス信号、呼吸信号、身体活動信号、又は任意の他の生理学的信号などに基づく、心音信号以外の少なくとも1つの生理学的信号に基づく他の方法を使用して、検出することができる。或いは、HF現象を検出する代わりに、工程950は、HF現象(悪化するHFなど)が検出され、標的HF現象の兆候を有する心音信号が910で患者から感知された、とのユーザからの指摘などの情報を受け取ることを含むことができる。
960で、940で提供されたなどの1つ又は複数のHS指標を使用して、HF状態の2つ以上のクラスのうちの1つに、950で検出されたHF現象を分類することができる。一例では、このクラスは、心筋収縮力代償(CCC)を伴う第1のHFのカテゴリ、又はCCCを伴わない第2のHFのカテゴリを含むことができる。970で、HS傾向インジケータを特定の基準と比較して、検出されたHF状態がどのクラスに属するべきかを決定することができる。一例では、検出されたHF現象は、||S1||が第1の基準を満たす場合、例えば、||S1||が成長傾向を示す場合、又は、時間の経過に伴う||S1||の傾きとして測定されるなどの||S1||の変化率が特定の閾値を超過する場合、CCCを伴う第1のHFのカテゴリに分類することができる。検出されたHF現象は、||S1||が第2の基準を満たす場合、例えば、||S1||が減衰傾向を示す場合、又は、||S1||の変化率が特定の閾値を超過しない場合、CCCを伴わない第2のHFのカテゴリに分類することができる。別の例では、検出されたHF現象は、共同S1−S3傾向インジケータが第1の基準を満たす場合、例えば、||S1||が成長傾向を示し||S3||が同時に成長傾向を示す場合、又は、||S1||傾向と||S3||傾向との間の相関が特定の閾値を超過する場合、CCCを伴う第1のHFのカテゴリに分類することができる。検出されたHF現象は、共同S1−S3傾向が第2の基準を満たす場合、例えば、||S1||が減衰傾向を示し||S3||が同時に成長傾向を示す場合、又は、||S1||傾向と||S3||傾向との間の相関が特定の閾値を超過しない場合、CCCを伴わないHFとして分類することができる。
検出されたHF現象がCCCを伴うHFとして分類された場合、次いで980で、分類結果を含むレポートを生成し、表示部又はユーザインターフェース部などを介して、システムユーザに提示することができる。同様に、検出されたHF現象がCCCを伴わないHFとして分類された場合、次いで990で、その分類結果を含む対応するレポートを生成し、システムユーザに提示することができる。システムユーザに分類について警告するために、他の視覚的な又はオーディオの信号を代替的に又は追加的に生成することができる。例によっては、方法900は、HF現象の分類の際にそれぞれの治療を送達することを含むことがある。一例では、HF現象がCCCを伴わないHFとして分類された場合、より積極的な治療を患者に送達することがある。より積極的な治療には、より高いエネルギー、より高い強度、若しくはより長い持続時間での電気刺激療法、又は、異なる医薬品及び/若しくは異なる投薬量での薬理学的療法が含まれることがある。
上記の詳細な説明は、発明を実施するための形態の一部を形成する添付の図面への参照を含む。図面は、本発明を実施することができる特定の実施形態を、例として示す。これらの実施形態は、本明細書では「例」とも呼ばれる。そのような例は、図示された又は説明された要素に加えて、別の要素を含むことがある。しかしながら、本発明者らは、図示され又は説明された要素のみが設けられる例も企図している。更に、本発明者らは、特定の例(又は1つ若しくは複数のその態様)に関して、或いは本明細書に図示し説明した他の例(又は1つ若しくは複数のその態様)に関して、図示し説明した要素(又は1つ若しくは複数のその態様)の任意の組み合わせ又は置き換えを使用する例も企図している。
本明細書と参照により組み込まれる任意の明細書との間に相反する使用法が発生する場合には、本明細書の使用法が優先される。
本明細書では、特許文書において一般的であるように、用語「1つ(a)」又は「1つ(an)」は、1つ若しくは1つより多く、任意の他のインスタンスから独立した、又は、「少なくとも1つ」若しくは「1つ又は複数」の用法を含むように使用される。本明細書では、用語「又は(or)」は、非排他性を指すために使用され、又は、「A又はB(A or B)」は、特に断りの無い限り、「BではなくA(A but not B)」、「AではなくB(B but not A)」、及び「A及びB(A and B)」を含むものとして使用される。本明細書では、用語「含む(including)」及び「そこにおいて(in which)」は、それぞれ用語「含む(comprising)」及び「ここにおいて、(wherein)」の平易な英語の均等物として使用される。また、以降の特許請求の範囲では、用語「含む(including)」及び「含む(comprising)」はオープンエンドであり、即ち、請求項内でそのような用語の後に列挙された要素に加えて別の要素を含むシステム、装置、物品、組成、配合、又は処理は、依然としてその請求項の範囲内に該当するものとみなされる。更に、以降の特許請求の範囲では、用語「第1の(first)」、「第2の(second)」、及び「第3の(third)」等は、ラベルとして使用されるに過ぎず、それらの対象物に数的な要件を課すことを意図したものではない。
本明細書に記載する方法例は、少なくとも部分的に、機械又はコンピュータで実施することができる。幾つかの例は、上記の例で説明した方法を実施するように電子装置を構成するように動作可能な命令で符号化された、コンピュータ可読媒体又は機械可読媒体を含むことがある。そのような方法の実装は、マイクロコード、アセンブリ言語コード、高水準言語コードなどのコードを含むことがある。そのようなコードは、様々な方法を実施するためのコンピュータ可読命令を含むことがある。コードは、コンピュータプログラム製品の一部を形成することがある。更に、一例では、コードは、実行中又は他の時分などに、1つ又は複数の揮発性の、非一過性の、又は不揮発性の具体的なコンピュータ可読媒体上に具体的に記憶することができる。これらの具体的なコンピュータ可読媒体の例としては、ハードディスク、取り外し可能磁気ディスク、取り外し可能光ディスク(例えば、コンパクトディスク及びデジタルビデオディスク)、磁気カセット、メモリカード若しくはスティック、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
上記の説明は、例示的であることを意図しており、限定することを意図してはいない。例えば、上述した例(又は、1つ若しくは複数のその態様)を互いに組み合わせて使用することができる。上記の説明を検討することで、当業者などであれば、他の実施形態を使用することができる。米国特許法施行規則第1.72条第(b)項(37 C.F.R.§1.72(b))に準拠して要約が設けられて、読者が技術的開示の本質を素早く把握することを可能にしている。要約は、請求項の範囲又は意味を解釈又は限定するようには使用されないという理解の下に、提出される。また、上記の発明を実施するための形態では、開示を円滑化するために、様々な特徴をまとめてグループ化していることがある。これは、クレームされていない開示された特徴が、任意の請求項にとって不可欠であることを意図しているとして解釈されるべきではない。むしろ、本発明の主題は、特定の開示された実施形態の全ての特徴よりも少ない特徴中に見出されることがある。従って、これによって、以降の特許請求の範囲は、例又は実施形態として、発明を実施するための形態の中に組み込まれ、各請求項は別個の実施形態としてそれ自体に基づいている。また、そのような実施形態は、様々な組み合わせ又は置き換えで互いに組み合わせることができることが、企図されている。本発明の範囲は、添付の請求項を、そのような請求項が権利を与えられる均等物の範囲全体と共に参照して、決定されるべきである。