JP6566656B2 - 微生物農薬、並びに植物の虫害抵抗性付与及び品質低下抑制方法 - Google Patents

微生物農薬、並びに植物の虫害抵抗性付与及び品質低下抑制方法 Download PDF

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Description

本発明は、植物内生菌を有効成分とする微生物農薬、並びにそれを用いて目的の植物に虫害抵抗性を付与し、かつその植物の品質低下を抑制する方法に関する。
農作物の栽培において、農業害虫による加害は、生産量の低下、微生物やウイルスの媒介による植物病害の蔓延、及び外観及び食味等の農産物の品質低下等の深刻な問題をもたらす。それ故、農業害虫の防除は、農業上重要な課題である。
多くの植物は、植食性昆虫等に対して忌避作用による自己防除能を有している。例えば、植物は、虫害等の傷害による外的ストレスを引き金に、エチレンを産生することで植食性昆虫等からのさらなる加害を防除している(非特許文献1)。つまり、エチレンは、二次代謝産物である植食者誘導性揮発性成分(以下「HIPV」と称する。)の生成を誘導することにより、植食性昆虫等に対する忌避効果や食害阻害効果、天敵誘因作用を通じて抵抗性を一層強化することが知られている(非特許文献2)。
しかし、エチレンは、植物に虫害抵抗性をもたらす一方で、植物の生育を抑制するため収量が低下してしまうという問題がある。さらに、エチレンは、植物体を硬化し、及び/又は病害微生物に対して抵抗性を示す抗菌物質であるファイトアレキシンの蓄積をもたらし、臭いや苦みを発生させる等の食味の低下をひき起こす。それ故、農産物としての品質を多面的に低下させてしまうという問題もある。したがって、植物に虫害抵抗性を付与しつつ農産物としての収量と品質を保持するためには、生育期間を通じてエチレンの植物体内レベルを適度に制御する必要がある。しかし、エチレンは、植物細胞で一旦生成されると自己触媒的に増加して過剰誘導されてしまうため、植物自身のフィードバックによる代謝制御は困難となる。つまり、エチレンに基づく虫害抵抗性の獲得と、農産物の収量及び品質保持は、相反する関係にあり、人為的な防除方法によらず虫害防除と農産物の収量及び品質保持を両立することはできない。
農業害虫の防除方法には、従来、主に化学農薬の散布等の化学的防除方法が用いられてきた。化学農薬を用いれば、虫害防除と農産物の収量及び品質保持の両立が可能となる。しかし、化学的防除方法による虫害防除は、薬剤抵抗性個体の出現(非特許文献3)、環境汚染、及び農作物への残留等が大きな問題となる。また、有機農業においては、原則として化学農薬を使用することができない。さらに近年では環境に配慮する関心の高まりから環境と調和した持続的な防除技術への移行が求められており、安全性が高く、環境への影響が少ない新たな防除方法が注目を集めている。例えば、生物農薬による生物学的防除方法は、その好例である。生物学的防除方法とは、自然生態系における捕食・被食関係や宿主・寄生体関係に基づき、農業害虫の天敵を生物農薬(天敵製剤)に利用して農業害虫等を防除する方法である。しかし、生物農薬の多くは、化学農薬よりもコスト高となる上に、化学農薬のように虫害を完全に防除するほどの効果は得られない。また結局、傷害時にエチレンが発生してしまうため、農産物の品質を保持するには不十分であった。
現在までに、農業害虫に対して忌避性を付与する農薬や農業害虫に対する抵抗性誘導剤は、数多く知られている。例えば、非特許文献4及び5は、PGPR(植物生育促進根圏細菌:Plant Growth Promoting Rhizobacteria)をキュウリ及びトマトに接種することで、ナミハダニ密度を抑制したことを開示している。しかし、エチレン発生の抑制やそれに基づく品質保持に関しては言及されていない。エチレンの発生を制御し、虫害抵抗性を付与すると共に、エチレンに基づく農産物の品質低下を抑制する技術については、これまでに知られていない。
Arimura G. et al., 2009, Plant Cell Physiol., 50(5):911-923 塩尻かおりら, 2009, 応動昆, 46:117-133 刑部正博・上杉龍士, 2009, 日本農薬学会誌, 34(3):207-214 Tomczyk A.,2002,IOBC/WPRS Bull., 25(6):67-70 Tomczyk A. & Kielkiewicz M., 2000, J Plant protection research, 40(1)22-25
相反関係にある虫害抵抗性の付与と農産物の品質低下の抑制を両立させるために外的ストレスによる植物のエチレン生成を抑制する非化学的防除方法を開発する。
従来、外部刺激によるエチレン及びファイトアレキシンの生成、及びそれに基づく虫害抵抗性に関する研究は主に生物学的防除分野で、また植物の二次代謝産物、香気成分及び食味等の食品としての品質に関する研究は主に食品化学や植物化学分野で行われていた。そのため虫害防除と品質保持を関連付けて、各課題解決を両立させる研究は注目されていなかった。
そこで、本発明者らは、虫害による外的ストレス、それによるエチレンの生成、エチレンによって誘導される二次代謝物HIPVやファイトアレキシンの生成と蓄積、そしてエチレンやHIPV等による虫害抵抗性の増強、並びに収量及び品質の低下という一連の事象を1システムとして捉えることで、たとえ農業害虫による加害があっても、エチレンの自己触媒的生成を抑制することによって、虫害抵抗性付与と農産物の品質低下の抑制を両立させることができると考え、研究を進めた。
多くの植物の体内には植物内生菌が生息することが知られており、農業分野においても植物内生菌を利用した技術が多数開発されている(池田成志ら, 2013, 化学と生物, 51(7):462-470;Shrivastava G., et al., 2010, Critical reviews in plant science, 29:123-133)。また、植物内生菌の中で1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸デアミネース(ACCd)遺伝子を有する菌が植物の成長を促進させることも知られている(Glick B.R., et al., 2007, Eur J Plant Physiol, 119:329-339)。
そこで、本発明者らは、ACCd遺伝子を有し、高いエチレン生成阻害能をもつ植物内生菌を有効成分として利用する微生物農薬を開発し、それを目的の植物に施用したところ、従来困難と言われていた虫害抵抗性の獲得と品質保持を両立することに成功した。本発明は、上記知見に基づくものであり、以下を提供する。
(1)1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸デアミネース(ACCd)遺伝子を発現可能な状態で有するシュードモナス属(Pseudomonas)細菌を有効成分とする植物の虫害抵抗性付与及び品質低下抑制のための微生物農薬。
(2)前記シュードモナス属細菌が受託番号NITE P-01743の細菌である、(1)に記載の微生物農薬。
(3)前記シュードモナス属細菌が受託番号NITE P-01985の細菌である、(1)に記載の微生物農薬。
(4)前記シュードモナス属細菌がACCd遺伝子を発現可能な状態で包含する発現ベクターを有する、(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物農薬。
(5)前記品質低下が外観の毀損、香気成分の変化、及び/又は食味の低下である、(1)〜(4)のいずれかに記載の微生物農薬。
(6)ACCd遺伝子を発現可能なシュードモナス属細菌を植物内生微生物として有する植物。
(7)前記シュードモナス属細菌が受託番号NITE P-01743の細菌である、(6)に記載の植物。
(8)前記シュードモナス属細菌が受託番号NITE P-01985の細菌である、(6)に記載の植物。
(9)前記シュードモナス属細菌がACCd遺伝子を発現可能な状態で含む発現ベクターを有する、(6)〜(8)のいずれかに記載の植物。
(10)(1)〜(5)のいずれかに記載の微生物農薬を目的の植物に施用する工程を含む、植物に虫害抵抗性を付与し、かつ品質低下を抑制する方法。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2014-027854号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
本発明の微生物農薬によれば、植物に虫害抵抗性を付与し、それによって農産物の収量を保持することができる。また、農業害虫の加害等の外的ストレスによって発生するエチレンに基づく農産物としての品質低下を抑制することができる。
本発明の植物に虫害抵抗性を付与し、かつ品質低下を抑制する方法によれば、本発明の微生物農薬を施用することで、その植物に虫害抵抗性を付与し、また農産物としての品質低下を抑制することができる。
エチレン前駆物質ACC存在下における本発明の微生物農薬によるリョクトウ胚軸の伸長比率を示す図である。試験区(OFT2)は、シュードモナス属細菌OFT2株を有効成分とする微生物農薬を施用したリョクトウを、また対照区(Cont)は、該微生物農薬を施用していないリョクトウを示す。 シュードモナス属細菌OFT2株を有効成分とする本発明の微生物農薬を施用したシソ株(接種)と非施用のシソ株(非接種)の葉上におけるハダニ個体数を示す図である。 図2におけるシソの葉の外観を示す図である。aはシュードモナス属細菌OFT2株を有効成分とする本発明の微生物農薬を非施用のシソ葉、またbは施用したシソ葉である。円内は、ハダニに加害され、葉色が抜けた部分を示す。 本発明の微生物農薬の施用方法による虫害抵抗性効果の獲得の差異を示す図である。 本発明の微生物農薬における有効成分であるシュードモナス属細菌OFT2株を接種した試験区の植物と対照区の植物におけるHIPVの一種である青臭い臭気成分の濃度比を示す図である。 本発明の微生物農薬における有効成分であるシュードモナス属細菌OFT2株を接種した試験区の植物と対照区の植物におけるシソ特有の芳香成分の濃度比を示す図である。 ハグラウリの葉上におけるナミハダニとカンザワハダニの産卵数を示す図である。シュードモナス属細菌OFT2株を有効成分とする本発明の微生物農薬を施用した株(OFT2)と非施用の株(非接種)をそれぞれ示している。 ナスの葉上におけるナミハダニとカンザワハダニの産卵数を示す図である。シュードモナス属細菌OFT2株を有効成分とする本発明の微生物農薬を施用した株(OFT2)と非施用の株(非接種)をそれぞれ示している。 シュードモナス属細菌RH7株を有効成分とする本発明の微生物農薬によるACC存在下でのリョクトウの胚軸長を示す図である。試験区(RH7)はRH7株を接種したリョクトウを、また対照区(非接種)はRH7株を接種していないリョクトウを示す。 シソの葉上におけるナミハダニとカンザワハダニの産卵数を示す図である。シュードモナス属細菌RH7株を有効成分とする本発明の微生物農薬を施用した株(RH7)と非施用の株(非接種)をそれぞれ示している。
1.微生物農薬
1−1.概要及び定義
本発明の第1の態様は、植物内生細菌を有効成分として有する微生物農薬である。本発明の微生物農薬によれば、目的の植物に施用することで、その植物に虫害抵抗性を付与し、かつ農産物としての品質の低下を抑制することができる。
本明細書において「植物内生菌(エンドファイト;endophyte)」とは、植物体内(例えば、細胞間隙や細胞内)で共生して生活している真菌や細菌をいう。
本明細書において本発明の微生物農薬を施用する「植物」は、植物内生菌であるシュードモナス属細菌を接種可能な植物である。例えば、コケ類、シダ類、被子植物及び裸子植物が該当する。被子植物は、双子葉植物又は単子葉植物のいずれも包含する。また草本及び木本のいずれも含む。本発明において、特に好適な植物は、農林業上重要な植物、例えば、花卉、果物、穀類、野菜(根菜類を含む)の農産物植物が挙げられる。具体的には、単子葉植物では、イネ科(Poaceae)植物(イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、カラスムギ、ハトムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、モロコシ、コウリャン、ソルガム、サトウキビ、タケ、ササを含む)、ショウガ科(Zingiberaceae)植物(クルクマ、ショウガ、ミョウガ、ウコンを含む)等の植物が挙げられる。また双子葉植物では、ナス科(Solanaceae)植物(ペチュニア、タバコ、トマト、ナス、キュウリ、ピーマン、ジャガイモ、トウガラシを含む)、ヒルガオ科(Convolvulaceae)植物(サツマイモを含む)、バラ科(Rosaceae)植物(ウメ、サクラ、イチゴ、リンゴ、ナシ、モモ、ビワ、アーモンド、スモモ、ボケ、ヤマブキを含む)、サトイモ科(Araceae)植物(サトイモ、コンニャクを含む)、ユリ科(Liliaceae)植物(ユリ、チューリップ、ヒアシンス、スズラン、アスパラガス、ネギ、タマネギを含む)、セリ科(Apiaceae)植物(ニンジン、パセリ、クミン、フェンネルを含む)、スミレ科(Violaceae)植物(ビオラ、パンジーを含む)、キンポウゲ科(Ranunculaceae)植物(ラナンキュラス、クリスマスローズ、アネモネ、クレマチスを含む)、シソ科(Lamiaceae)植物(シソ、ラベンダー、サルビア、バジル、ミント、ローズマリー、セージ、レモンバーム、オレガノ、タイムを含む)、マメ科(Fabaceae)植物(ダイズ、ピーナッツ、アズキ、グリーンピース、インゲンマメ、ヒラマメ、エンドウ、ソラマメ、クズ、スイートピー、タマリンドを含む)、ウリ科(Cucurbitaceae)植物(キュウリ、ツルレイシ、ウリ、カボチャ、メロン、スイカ、ヘチマ、ヒョウタンを含む)、アブラナ科(Brassicaceae)植物(レタス、キャベツ、ダイコン、ハクサイ、カブ、アブラナを含む)、キク科(Asteraceae)植物(キク、ガーベラ、ダリア、キンセンカ、マリーゴールド、ヒマワリ、コスモス、マーガレットを含む)、ナデシコ科(Caryophyllaceae)植物(ナデシコ、カーネーションを含む)、リンドウ科(Gentianaceae)植物(トルコギキョウ、リンドウを含む)、アオイ科(Malvaceae)植物(ワタ、オクラ、アオイ、ムクゲを含む)、サクラソウ科(Primulaceae)植物(サクラソウ、プリムラ、シクラメンを含む)等の植物が挙げられる。
本明細書において「虫害抵抗性」とは、農業害虫による植物の加害を防止又は抑制する作用をいう。
本明細書において「農業害虫」とは、前記農林業上重要な植物に損害を与える害虫が該当する。農業害虫には、植食性昆虫、ハダニ科(Tetranychidae)に属する種、フシダニ科(Eriophydae)に属する種、及び線形動物門(Nematomorpha)に属する種(いわゆる線虫)が含まれる。
本発明の微生物農薬の対象となる植食性昆虫は、特に限定はしないが、体長8mm以下の微小昆虫、例えば、アザミウマ目(Thysanoptera)に属する種、カメムシ亜目(Heterpptera)に属する種、アブラムシ上科(Aphidoidea)に属する種、コナジラミ上科(Aleyrodidae)に属する種、カイガラムシ上科(Coccoidea)に属する種、又はハゴロモ上科(Fulgoroidea)に属する種等が好ましい。アザミウマ目に属する種であれば、例えば、ミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)、ヒラズハナアザミウマ(Frankliniella intonsa)、クロトンアザミウマ(Heliothrips haemorrhoidalis)、ミナミキイロアザミウマ(Thrips palmi)、ネギアザミウマ(Thrips tabaci)、クロゲアザミウマ(Thrips nigroplosus)、チャノキイロアザミウマ(Scirtothrips dorsalis)及びアカメガシワクダアザミウマ(Haplothrips brevitubus)が挙げられる。カメムシ亜目に属する種であれば、例えば、ツツジグンバイ(Stephanitis pyrioides)、ナシグンバイ(Stephanitis nashi)、ゲットウグンバイ(Stephanitis typica)、及びキクグンバイ(Galeatus spinifrons)が挙げられる。アブラムシ上科に属する種であれば、例えば、ワタアブラムシ(Aphis gossypii)、ダイズアブラムシ(Aphis glycines)、マメアブラムシ(Aphis craccivora)、エンドウヒゲナガアブラムシ(Acyrthosiphon pisum)、イチゴネアブラムシ(Aphis forbesi)、ユキヤナギアブラムシ(Aphis spiraecola)、モモアカアブラムシ(Myzus persicae)、バラミドリアブラムシ(Rhodobium porosum)、オカボノアブラムシ(Rhopalosiphum rufiabdominalis)、ダイコンアブラムシ(Brevicoryne brassicae)、ニセダイコンアブラムシ(Lipaphis erysimi)、ネギアブラムシ(Neotoxoptera formosana)、タイワンヒゲナガアブラムシ(Uroleucon formosanum)、イチゴケナガアブラムシ(Chaetosiphon fragaefolii)、チューリップヒゲナガアブラムシ(Macrosiphum euphorbiae)、トウモロコシアブラムシ(Rhopalosiphum maidis)、ムギクビレアブラムシ(Sitobion akebiae)、ムギヒゲナガアブラムシ(Sitobion akebiae)、ジャガイモヒゲナガアブラムシ(Aulacorthum solani)、ミカンクロアブラムシ(Toxoptera citricida)、リンゴコブアブラムシ(Ovatus malisuctus)及びモモコフキアブラムシ(Hyalopterus pruni)が挙げられる。コナジラミ上科に属する種であれば、例えば、タバココナジラミ(Bemisia tabaci)、シルバーリーフコナジラミ(Bemisia argentifolii)、オンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)又はミカントゲコナジラミ(Aleurocanthus spiniferus)が挙げられる。カイガラムシ上科に属する種であれば、例えば、ワタフキカイガラムシ(Icerya purchasi Maskell)、ルビーロウカイガラムシ(Ceroplastes rubens)又はタマカイガラムシ(Eulecanium kunoense)が挙げられる。ハゴロモ上科に属する種であれば、ウンカ科(Delphacidae)に属する種、ハゴロモ科(Ricaniidae)に属する種が挙げられる。
本発明の微生物農薬の対象となるハダニ科に属する種は、特に限定はしないが、例えば、ナミハダニ(Tetranychus urticae)、カンザワハダニ(Tetranychus kanzawai)、オウトウハダニ(Amphitetranychus viennensis)、ミカンハダニ(Panonychus citri)、リンゴハダニ(Panonychus ulmi)及びクローバービラハダニ(Bryobia praetiosa)が挙げられる。また、フシダニ科に属する種は、特に限定はしないが、例えば、ミカンサビダニ(Aculops pelekassi)、リュウキュウミカンサビダニ(Phyllocoptruta citri)、トマトサビダニ(Aculops lycopersici)、シソサビダニ(Shevtchenkella sp.)が挙げられる。
また、本発明の微生物農薬の対象となる線虫に属する種は、植物寄生性であれば特に限定はしないが、例えば、ネグサレセンチュウ(Pratylenchus)に属する種、ネコブセンチュウ(Meloidogyne)に属する種、シストセンチュウ(Heterodera、Globodera)に属する種、ハセンチュウ(Aphelenchoides)に属する種、又はクキセンチュウ(Ditylenchus)に属する種等が好ましい。ネグサレセンチュウに属する種であれば、例えば、キタネグサレセンチュウ(Pratylenchus penetrans)、ミナミネグサレセンチュウ(Pratylenchus coffeae)、ムギネグサレセンチュウ(Pratylenchus neglectus)、ノコギリネグサレセンチュウ(Pratylenchus crenatus)、クルミネグサレセンチュウ(Pratylenchus vulnus)、及びチャネグサレセンチュウ(Pratylenchus loosi)が挙げられる。ネコブセンチュウに属する種であれば、例えば、サツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)、アレナリアネコブセンチュウ(Meloidogyne arenaria)、リンゴネコブセンチュウ(Meloidogyne mali)及びキタネコブセンチュウ(Meloidogyne hapla)が挙げられる。シストセンチュウに属する種であれば、例えば、ジャガイモシストセンチュウ(Globodera rostochiensis)、ダイズシストセンチュウ(Heterodera glycines)、及びクローバーシストセンチュウ(Heterodera trifolii)が挙げられる。ハセンチュウに属する種であれば、例えば、ハガレセンチュウ(Aphelenchoides ritzemabosi)、イチゴセンチュウ(Aphelenchoides fragariae)、及びイネシンガレセンチュウ(Aphelenchoides besseyi)が挙げられる。クキセンチュウに属する種であれば、例えば、イモグサレセンチュウ(Dithlenchus destructor)、及びナミクキセンチュウ(Ditylenchus dipsaci)が挙げられる。
本明細書において「品質(の)低下」とは、農業害虫の虫害によって発生する農産物の外観の毀損や、香気成分の変化、及び/又は食味の低下をいう。外観の毀損とは、例えば、食害痕による美観の低下や農業害虫の付着による生理的嫌悪感の付与が挙げられる。また香気成分の変化とは、例えば、ヒトに対して好ましい匂いを与える芳香成分の減少及び/又はヒトに対して不快感を与える臭気成分の増加が挙げられる。さらに、食味の低下とは、例えば、苦味成分やえぐみ成分の増加、及び/又は植物の硬化等による食感の低下が挙げられる。また、本明細書において「品質(の)低下の抑制」とは、農産物の外観の毀損や、香気成分の変化、及び/又は食味の低下が生じないようにすること、すなわち、品質の保持を意味する。これは、農業害虫の加害により発生するエチレンの過剰な生成を抑制し、エチレンによって誘導されるHIPV等により農業害虫からの加害を防止又は抑制すると共に、HIPV等の生成を適度に抑えることで達成される。
1−2.構成
(1)有効成分
本発明の微生物農薬において有効成分として機能する植物内生菌は、1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸デアミネース(本明細書ではしばしば「ACCd」と略称する。)遺伝子を発現可能な状態で有するシュードモナス属(Pseudomonas)細菌である。
ACCdは、エチレンの前駆物質である1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(本明細書ではしばしば「ACC」と略称する。)をアンモニア(NH3)とα-ケト酪酸に分解する酵素である。植物細胞内のACCは、植物が外的ストレス等の外部刺激を受けることによってACC酸化酵素により酸化され、エチレンが生成される。ACCdは、ACCを分解することで、植物が外的ストレスを受けた後も過剰のエチレン発生を抑制し、傷害に対する植物の過剰反応を抑制することができる。
本明細書において「ACCd遺伝子」とは、acdS遺伝子とも呼ばれ、ACCdの活性ペプチドをコードする広義のACCd遺伝子をいう。具体的には、野生型ACCd遺伝子、野生型ACCdの活性を有する変異型ACCdをコードする変異型ACCd遺伝子、及び野生型ACCdの活性を有するペプチドをコードするその断片を包含するヌクレオチドが該当する。
「野生型ACCd遺伝子」は、ACCd本来の機能を有するペプチドをコードする遺伝子であって、自然界に存在する対立遺伝子群において、通常、最も多く存在する遺伝子である。例えば、配列番号5で示すアミノ酸配列からなるPseudomonas fluorescens F113のACCdをコードする遺伝子や配列番号6で示すアミノ酸配列からなるシュードモナス属細菌(Pseudomonas sp.)のACCdをコードする遺伝子が挙げられる。
「変異型ACCd遺伝子」とは、宿主植物に病害虫抵抗性や環境ストレスに対する耐性を付与する活性が野生型ACCdと同等以上の変異型ACCdをコードするACCd遺伝子であって、野生型ACCd遺伝子の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換又は付加された遺伝子をいう。変異型ACCd遺伝子には、例えば、野生型ACCd遺伝子の塩基配列において1個又は数個のヌクレオチドが欠失、置換又は付加されたもの、前記塩基配列と60%以上、好ましくは70%、75%、80%又は85%、より好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するもの、又は野生型遺伝子の部分塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸断片と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものが含まれる。ここで前記「同一性」とは、二つの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの野生型ACCd遺伝子の塩基配列の全塩基数に対する変異型ACCd遺伝子の塩基配列中の同一塩基数の割合(%)をいう。「数個のヌクレオチド」とは、2〜30個、2〜14個、2〜10個、2〜8個、2〜6個、2〜5個、2〜4個、又は2〜3個のヌクレオチドをいう。また、「高ストリンジェントな条件」とは、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。高ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、高温かつ低塩濃度な条件をいう。例えば、65℃、0.1×SSC及び0.1% SDSで洗浄する条件である。このような変異型ACCd遺伝子としては、限定はしないが、例えば、SNP(一塩基多型)等の多型に基づく変異体、スプライス変異体、遺伝暗号の縮重に基づく変異体等が挙げられる。
「その断片」とは、野生型ACCd遺伝子又は変異型ACCd遺伝子の断片で、宿主植物に病害虫抵抗性や環境ストレスに対する耐性を付与する活性を有するペプチドをコードするヌクレオチドをいう。
上記のように本明細書では、特に断りのない限り「ACCd遺伝子」は、野生型ACCd遺伝子、変異型ACCd遺伝子及びその断片を包括するヌクレオチドをいう。
ACCd遺伝子は、内因性遺伝子、外因性遺伝子又はその組み合わせのいずれであってもよい。植物内生菌が、内因性のACCd遺伝子をゲノム上に有する場合には、その細菌を有効成分として用いればよい。すなわち、内因性のACCd遺伝子を有するシュードモナス属細菌は、特段の改変を要さずに、そのまま本発明の微生物農薬の有効成分として用いることができる。一方、後述するようにACCd遺伝子が人為的操作を介して外部から導入された外因性遺伝子の場合であれば、その遺伝子の由来生物種は問わない。例えば、有効成分として用いるシュードモナス属細菌以外の他生物種由来のACCd遺伝子等を用いることもできる。また、内因性のACCd遺伝子を有するシュードモナス属細菌が、外因性のACCd遺伝子を有する場合、その外因性のACCd遺伝子は、内因性のACCd遺伝子を有するシュードモナス属細菌に由来するACCd遺伝子であってもよいし、それ以外の他生物種由来のACCd遺伝子でもよい。
本発明の微生物農薬において有効成分として使用されるシュードモナス属細菌は、グラム陰性好気性桿菌に属する真正細菌である。本発明の有効成分として使用されるシュードモナス属細菌は、感染によって植物体内に侵入し、内生可能な植物感染性シュードモナス属細菌である。さらに、ACCd遺伝子を発現可能な状態で有していれば、その種類は問わない。例えば、内因性のACCd遺伝子を有するP. oleovorans、P. oryzihabitans、P.fluorescence又はP.putidaが挙げられる。本発明の微生物農薬において有効成分として好適なシュードモナス属細菌は、OFT2株及びRH7株である。これらの菌株は、有機栽培された野菜から本発明者らによって分離された新規のシュードモナス属細菌で、高いエチレン生成阻害能を有する。OFT2株は、16S rRNAの塩基配列から、P. oryzihabitansに近似の新規菌株であることが判明し、2013年10月31日付で、受託番号NITE P-01743として、独立行政法人製品評価技術基盤機構(292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に寄託されている。また、RH7株は、16S rRNAの塩基配列に基づく解析によれば相同性の高い近似種が存在せず、新種のシュードモナス菌株であると推測されている。RH7株は、2014年12月19日付で、受託番号NITE P-01985として、同様に独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託されている。
ACCd遺伝子が外因性遺伝子の場合、有効成分であるシュードモナス属細菌はACCd遺伝子を発現可能な状態で包含する発現ベクター(ACCd遺伝子発現ベクター)を有していてもよい。本明細書で「発現ベクター」とは、目的の遺伝子を発現可能な状態で包含し、それを発現することができる遺伝子発現システムをいう。したがって、「ACCd遺伝子発現ベクター」とは、人為的操作を介して外部から導入された外来性のACCd遺伝子を発現発現ベクターである。「発現可能な状態で包含する」とは、シュードモナス属細菌内で目的のACCd遺伝子を発現可能なように発現ベクター内のプロモーターの制御下に配置することをいう。発現ベクターは、プロモーター以外にもACCd遺伝子の発現調節領域として、必要に応じてターミネーター、エンハンサーを含むことができる。さらにマルチクローニングサイト、シグナルペプチドDNA、標識遺伝子を選択要素として適宜含むことができる。
本発明の微生物農薬の所定量あたりにおける有効成分の含有量は、シュードモナス属細菌の種類、施用植物の種類、剤形、及び施用(接触)方法等の諸条件によって異なる。通常は、本発明の微生物農薬を施用する際に有効成分のシュードモナス属細菌が施用植物体内に侵入する上で十分な量を含んでいることが好ましい。この量は、当該分野の技術常識の範囲において本発明の微生物農薬に含有されるシュードモナス属細菌が施用後に対象植物に対して所望の量となるように各条件を勘案して決定すればよい。例えば、シュードモナス属細菌OFT2株又はRH7株で、本発明の微生物農薬の剤形が液剤の場合であれば、溶液中に108〜1010cfu/mLの範囲にあればよい。必要に応じて施用時には、水、食塩水(0.4%以下、ただし、食塩水の濃度は施用植物の耐塩性によって決定され、施用植物に耐性があれば0.4%よりも高めが好ましい)、5%以下のマンニトール水、バッファー等でさらに10〜1000倍に希釈してもよい。
(2)農薬製剤上許容可能な担体
本発明の微生物農薬は、有効成分のシュードモナス属細菌のみから構成されていてもよいが、必要に応じて、シュードモナス属細菌がACCd遺伝子を発現可能な範囲において農薬製剤上許容可能な担体を含むことができる。
本明細書において「農薬製剤上許容可能な担体」とは、微生物農薬の施用を容易にし、有効成分であるシュードモナス属細菌の生存性及び植物感染性を維持又は/及び微生物農薬の作用速度を制御する物質であって、植物の栽培に施用しても土壌及び水質等の環境に対する有害な影響がないか又は小さい、又は動物、特にヒトに対する有害性がないか又は低い物質をいう。例えば、溶媒及び補助剤が挙げられる。
溶媒としては、水(滅菌水、脱イオン水、超純水を含む)、バッファー(リン酸緩衝液、炭酸緩衝液を含む)、生理的食塩水、シュードモナス属細菌の培地又はそれらの混合溶媒が挙げられる。
賦形剤としては、粉砕天然鉱物、粉砕合成鉱物、乳化剤、分散剤及び界面活性剤等が挙げられる。
粉砕天然鉱物には、例えば、カオリン、クレイ、タルク及びチョークが挙げられる。
粉砕合成鉱物には、例えば、高分散シリカ及びシリケートが挙げられる。乳化剤としては、非イオン性乳化剤やアニオン性乳化剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、アルキルスルホネート及びアリールスルホネート)が挙げられる。
分散剤としては、例えば、リグノ亜硫酸廃液及びメチルセルロースが挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、リグノスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩、アルキルアリールスルホネート、アルキルスルフェート、アルキルスルホネート、脂肪アルコールスルフェート、脂肪酸及び硫酸化脂肪アルコールグリコールエーテル、さらに、スルホン化ナフタレン及びナフタレン誘導体とホルムアルデヒドの縮合物、ナフタレン又はナフタレンスルホン酸とフェノール及びホルムアルデヒドの縮合物、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、エトキシル化イソオクチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、アルキルフェニルポリグリコールエーテル、トリブチルフェニルポリグリコールエーテル、トリステアリルフェニルポリグリコールエーテル、アルキルアリールポリエーテルアルコール、アルコール及び脂肪アルコール/エチレンオキシドの縮合物、エトキシル化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、エトキシル化ポリオキシプロピレン、ラウリルアルコールポリグリコールエーテルアセタール、ソルビトールエステル、リグノ亜硫酸廃液、及びメチルセルロースが挙げられる。
本発明の微生物農薬は、前記農薬製剤上許容可能な担体を1以上包含することが可能である。また、この他に、シュードモナス属細菌の生存性、植物感染性及びACCd遺伝子の発現に影響しない範囲において、他の薬理作用を有する有効成分、すなわち、殺虫剤、除草剤、肥料(例えば、尿素、硝酸アンモニウム、過リン酸塩)を包含することもできる。
本発明の微生物農薬の剤形は、シュードモナス属細菌が施用植物体内に侵入し得る状態であれば、いかなる状態であってもよく、例えば、液体状態の液剤、固体状態の固形剤とすることができる。液剤の場合、有効成分であるシュードモナス属細菌を適当な溶液に懸濁した溶液剤、油性分散液剤、エマルション剤、懸濁剤が挙げられる。固形剤の場合、有効成分であるシュードモナス属細菌が、施用植物に作用し得る状態であれば、特に制限はしない。例えば、粉剤、散剤、ペースト剤、ゲル剤が挙げられる。
1−3.効果
本発明の微生物農薬によれば、虫害抵抗性を植物に付与し、それによって農産物の収量を保持することができる。また、農業害虫の加害等の外的ストレスによって発生するエチレンの生成を抑制し、エチレンによって引き起こされる農産物の品質低下を抑制することができる。このエチレンによる品質低下の抑制効果は、従来の化学農薬や生物農薬では知られていない薬効である。
本発明の微生物農薬は、有効成分のシュードモナス属細菌を目的の植物に感染させるだけで上記効果を奏し得る。シュードモナス属細菌は、生育速度が速く、植物に対する感染性や定着性が高いことから、本発明の微生物農薬は、取り扱いや目的の植物への施用、特に苗へ施用が簡便であり、かつ比較的安価で提供することができる。
ACCd遺伝子を発現可能な状態で有するシュードモナス属細菌は、圃場等の土壌にも生息し得ることから、本発明の微生物農薬の有効成分は、化学農薬等の人工成分ではなく、天然成分を利用することができる。そのため、本発明の微生物農薬は、担体の選択によっては、環境への影響が極めて低いことから、有機農業においても抵抗なく使用できる。
2.植物品質低下抑制及び虫害抵抗性付与方法
2−1.概要
本発明の第2の態様は、植物の品質低下抑制及び虫害抵抗性付与方法である。本発明の方法は、第1態様に記載の微生物農薬を目的の植物に施用して、微生物農薬の有効成分であるシュードモナス属細菌を植物に感染させることで達成し得る。この方法によって、目的の植物に虫害抵抗性を付与するとともに、植物が生成するエチレンにより生じる品質の低下を抑制することができる。
2−2.方法
本発明の方法は、必須の工程として施用工程を含む。
本明細書において「施用工程」とは、第1態様の微生物農薬を目的の植物に施用する工程をいう。本工程において微生物農薬中の有効成分であるシュードモナス属細菌を植物に感染させ、植物体内で植物内生菌として定着することによって微生物農薬の効果を発揮し得る。微生物農薬を植物に施用する方法は、微生物農薬中の有効成分であるシュードモナス属細菌を目的の植物に接種することができる方法であれば特に制限はしない。シュードモナス属細菌は、植物に対する感染・定着性が高く、また生育速度が速いことから接種が容易である。したがって、例えば、本発明の微生物農薬を、目的の植物の土壌や培地に混入する方法や、目的の植物に散布(噴霧散布を含む)、塗布、浸漬又は潅注等により施用する方法が挙げられる。ここでいう「土壌」は、植物の生育が可能な土壌であれば特に制限はしない。通常は、適当な養分(窒素、リン、カリウム等)を含み、適切なpH値を有する栽植用土壌が利用される。また、「培地」は、人工的に調製した目的の植物の栽植用培地をいう。寒天培地のような固体培地であってもよいし、液体培地であってもよい。培地の例として、培地の組成は、当該分野で公知の培地組成でよい。適用作物の種類等によって適宜選択することができる。
本発明の方法において、第1態様の微生物農薬の施用量は、剤形、施用方法、施用植物の種類等によって異なることから、条件によって適宜調整すればよい。一例として、微生物農薬が液剤の場合には、土壌1m2あたり、10L〜100L、好ましくは40L〜60Lで使用すればよい。
微生物農薬の施用回数は、制限はしない。通常は、1回で足りるが、必要に応じて複数回施用してもよい。
施用工程後の植物は、通常の方法で栽培すればよい。有効成分であるシュードモナス属細菌の植物体内での定着と共に、その植物に虫害抵抗性と品質低下の抑制効果を付与することができる。
2−3.効果
本発明の方法によれば、目的の植物に第1態様の微生物農薬を施用することで、その植物に虫害抵抗性を付与し、また農産物の品質低下を抑制することができる。
<実施例1:微生物農薬における有効成分としてのACCdを有する植物内生菌の分離(1)>
(目的)
本発明の有効成分として使用する、エチレン生成阻害能、すなわちACCdを有する植物内生細菌を宿主植物から分離する。
(方法及び結果)
JAS認証有機圃場(オーガニックファームつくばの風、つくば市手子生)で生産したニンジン根部1本を70%エタノールに1分間、次に1%次亜塩素酸(和光純薬)に2分間、浸漬して表面殺菌を行った。続いて、乾熱滅菌したステンレスナイフでニンジンの表皮を除去し、このナイフを新たに火炎滅菌後、ニンジンを輪切りにした。輪切りにしたニンジンの切断面を選択寒天培地に30分載置した後、該ニンジンを取り除き、28℃にて暗所で培養した。前記選択寒天培地には、DF培地をベースとして、NH4 +の代わりに唯一のN源としてACCを添加した培地を用いた(Penrose D.M., et al., 2003, Physiologia Plantarum 118:10-15)。選択培地の具体的な組成は、1L(pH7.2)あたり、KH2PO4 4.0g(和光純薬)、Na2HPO4 6.0g(和光純薬)、MgSO4・7H2O 0.2g(和光純薬)、Glucose 2.0g(関東化学)、Gluconic acid 2.0g(和光純薬)、Citric acid 2.0g(関東化学)、FeSO4・7H2O 1mg(和光純薬)、H3BO3 10μg(和光純薬)、MnSO4・H2O 11.19μg(関東化学)、ZnSO4・7H2O 124.6μg(和光純薬)、CuSO4・5H2O 78.22μg(和光純薬)、MoO3 10μg(和光純薬)、及びACC 300mg(東京化成)とした。選択寒天培地用として、選択培地に終濃度1.5%となるよう寒天(和光純薬)を添加した。
培養後の選択寒天培地において、輪切りのニンジンを載置した際に、表皮よりも内側、つまり断面部分に相当する部位に発生したコロニーを植物内生菌として採取し、新たな選択寒天培地上に植え継ぎ、植物内生菌の純化を3回行った。純化後に得られた菌株について、ACCd遺伝子として報告されているプライマーセット(F1936:配列番号1;F1938:配列番号2)(Didier Blaha et al., 2006, FEMS Micrbiol Ecol 56: 455-470)を用いてコロニーPCRを実施し、acdS遺伝子(ACCd遺伝子)の有無を確認した。具体的には、滅菌した爪楊枝を用いてコロニーから菌体を採取し、PCR反応液25μL(GoTaq Green master mix x2 (Promega) 12.5μL;25μM Upstream primer (F1936) 1.25μL;25μM Downstream primer (F1938) 1.25μL;滅菌水10μL)に懸濁した。PCR条件は、95℃で2分間熱処理後、95℃で0.5分間、続いて53℃で0.5分間、72℃で0.5分間を35サイクル、その後72℃で5分間の処理とした。PCR後、1%アガロースゲルを用いて増幅産物を電気泳動した。
その結果、ACCd遺伝子で予想されるサイズのバンドが得られ、ニンジンから得られた植物内生菌がACCd遺伝子を持つことが示唆された。
次に、分離した菌を同定するために、DNeasy Blood&Tissue kit(QIAGEN)を用いて菌体よりDNAを抽出した。抽出したDNAを鋳型として、プライマーセット(10F:配列番号3;1540R:配列番号4)を用いてPCRにより16S rRNA遺伝子を増幅した。PCR条件は、95℃で3分間熱処理後、95℃で0.5分間、続いて55℃で0.5分間、72℃で1.5分間を35サイクル、その後72℃で5分間の処理とした。増幅産物は、1%アガロースゲルで電気泳動を行った後、約1.5k bpの増幅断片を確認した。High Pure PCT Product Purification Kit (Roche)を用いて増幅産物を精製し、サイクルシーケンス反応により1515bpのDNA塩基配列を決定した。得られた塩基配列は、BLASTプログラムにより既存の塩基配列との相同性を検索し同定した。
その結果、P. oryzihabitansと99%の相同性を示す新規のシュードモナス属細菌(NITE P-01743)であることが明らかとなった。この菌体をシュードモナス属細菌OFT2株と称し、本発明の微生物農薬の有効成分とした。
<実施例2:シュードモナス属細菌OFT2株におけるACCd活性の検証>
(目的)
実施例1で本発明の微生物農薬の有効成分として分離されたシュードモナス属細菌OFT2株におけるACCd活性を検証した。
(方法)
ACCdによるACC分解時に生じるα-ケト酪酸を比色定量することによりACCd活性を測定した。3% TSB培地40mLにOFT2株を接種し、暗所28℃で培養した。3% TSB培地の組成は1Lあたりtryptic soy broth(BDTM)とした。続いて、4℃にて10000gで10分間の遠心分離によりOFT2株を集菌し、10mLのDF-NH4+フリー培地で2回洗浄後、再度遠心して菌体を7.5mLのDF培地(NH4+フリー)に再懸濁した。DF-NH4 +フリー培地は、Penrose D.M.ら(2003, 前述)の方法に従った。具体的な組成は、1L(pH7.2)あたり、KH2PO4 4.0g(和光純薬)、Na2HPO4 6.0g(和光純薬)、MgSO4・7H2O 0.2g(和光純薬)、Glucose 2.0g(関東化学)、Gluconic acid 2.0g(和光純薬)、Citric acid 2.0g(関東化学)、FeSO4・7H2O 1mg(和光純薬)、H3BO3 10μg(和光純薬)、MnSO4・H2O 11.19μg(関東化学)、ZnSO4・7H2O 124.6μg(和光純薬)、CuSO4・5H2O 78.22g(和光純薬)、及びMoO3 10g(和光純薬)とした。0.5M ACCを最終濃度3mMになるよう懸濁液に添加し、25℃にて200rpmで24時間振とう培養した後、4℃にて10000gで10分間の遠心分離によりOFT2株を集菌した。集菌した菌体を5mLの0.1M Tris-HCl緩衝液(pH7.6)に懸濁し、さらに遠心分離で集菌する洗浄操作を2回行った。
次に、OFT2の菌体を1mLの0.1M Tris-HCl緩衝液(pH7.6)に懸濁し、1.5mLのミニチューブに移して16000gで5分間遠心し、上清を除去した。次いで0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.5) 600μLに懸濁し、30μLのトルエンを添加後、vortexを用いて30秒間激しく振とうした。
トルエン処理した菌体液200μLを新しい1.5mLのチューブに移し、20μLの0.5M ACCを添加して振とう後、30℃で15分間保温静置した。その後、1mLの0.56M HClを添加し、再度激しく振り混ぜ、16000gで5分間遠心した。上清1mLをとり、800μLの0.56M HClを添加、300μLの0.2% 2,4-ジニトロフェニルヒドラジン/2M HClを添加して、振とうした。その後30℃で30分間保温静置し、2mLの2M NaOHを添加した後、540nmの吸光度を測定して、α-ケト酪酸を定量した。α-ケト酪酸の定量は、10mM α-ケト酪酸/0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.5)既知量を用いて、予め作成した検量線により行った。なお、ACC溶液を添加しないものを対照として差し引いた。また,トルエン処理した菌体液100μLを用いてタンパク質量を測定し,タンパク質あたりの酵素活性を算出した。
(結果)
DF-NH4+フリー培地を用いたときのα-ケト酪酸量は、241nmol/mg proteinであった。これにより、実施例1で本発明の微生物農薬の有効成分として分離されたシュードモナス属細菌OFT2株は、ACCd活性を有していることが立証された。
<実施例3:微生物農薬施用植物におけるエチレンによる生育抑制の回避効果の検証(1)>
(目的)
本発明の微生物農薬における有効成分であるシュードモナス属細菌OFT2株を接種した植物が、エチレンによる生育抑制作用を回避し得ることを検証する。
(方法)
微生物農薬を施用する植物としてリョクトウ(緑豆)を用いた。リョクトウの胚軸は、エチレン存在下では伸長が抑制されることが知られている。そこで、シュードモナス属細菌OFT2株のACCd活性によって、施用植物のACCからエチレンへの生成量を減少し、胚軸の伸長阻害が軽減されるか否かを検証した。
リョクトウ種子を70%エタノールに1分間、次に1%次亜塩素酸(和光純薬)に2分間、浸漬して表面殺菌した後、1%寒天培地に播種し30℃にて24時間、暗所で培養し、発芽させた。発芽のそろった個体を選択して、菌接種用苗とした。
シュードモナス属細菌OFT2株を3% TSB(BD)液体培地で28℃にて36時間培養した。遠心分離後、5%マンニトール(和光純薬)液で洗浄した。得られた菌体を5%マンニトールで再懸濁してO.D.600=0.4に調整し、その懸濁液を本発明の微生物農薬とした。この懸濁液を上記の菌接種用苗に10分間接種した後、ACC寒天培地に移植し、これを試験区とした。500mL密閉容器内の0、2、10、及び25μMのACC(東京化成)を含む0.7%寒天培地に菌接種後のリョクトウ芽生え4個を移植し、暗所で28℃にて72時間栽培した。対照区は、微生物非接種とし、各区についてトリプリケート(3重)実験を行った。栽培後、リョクトウの胚軸長を測定した。
(結果)
図1に結果を示す。いずれのACC濃度の場合にも、シュードモナス属細菌OFT2株を接種した試験区のリョクトウでは、対照区と比較して胚軸の伸長比率が高かった。この結果は、試験区では、エチレンの前駆物質であるACCが、リョクトウに感染したシュードモナス属細菌OFT2株によるACCd活性により分解され、エチレン生成量が減少した結果、リョクトウの胚軸長の抑制が回避されたことを示唆している。
<実施例4:微生物農薬を施用した植物の虫害抵抗性獲得の検証(1)>
(目的)
本発明の微生物農薬における有効成分であるシュードモナス属細菌OFT2株を接種した植物が、虫害抵抗性を獲得することについて検証する。
(方法)
微生物農薬を施用する植物としてシソを用いた。青ちりめんシソ(サカタのタネ)の種子を1%次亜塩素酸(和光純薬)に2分間、浸漬して表面殺菌した後、園芸培土(ナプラ養土Sタイプ[ヤンマー]:げんきくん果菜200[コープケミカル]=2:1)に播種した。発芽後4葉時(播種より約30日後、根鉢を形成した時期)にセルトレー(口径4cm、深さ5cm)に移植した。移植後の培土には、げんきくん果菜200を用いた。
微生物農薬の有効成分であるシュードモナス属細菌OFT2株は、3% TSB液体培地に接種後、暗所にて28℃で36時間培養した。培養後に遠心分離して集菌し、滅菌生理的食塩水に懸濁した後、再度遠心分離した。0.1%の食塩水に再懸濁した。このときの懸濁液のO.D.600=0.530であった。この懸濁液を本発明の微生物農薬として用いた。バットに前記懸濁液を3cmの深さまで入れ、シソセル苗を18時間浸漬し、この苗を試験区とした。シュードモナス属細菌OFT2株非接種の対照区として、懸濁液に替えて0.1%の食塩水に同時間浸漬した苗を用いた。浸漬の翌朝、9号ビニールポットに一株ずつ定植して、ガラス室施設内で栽培した。栽培期間中の施設内の温度条件設定は、最低室温20℃、高温は30℃で、天窓・側窓は自動開閉とした。この施設内で化学農薬を散布しない場合には、ハダニは毎年側窓から侵入する等して自然発生し、宿主植物に寄生して増殖することが知られている。定植53日後に、各ポットのシソ株から上位葉、中位葉、及び下位葉の各2枚をランダムに選び、ハダニの個体数をルーペでカウントした。また、定植60日後の出荷好適サイズに達した上位の完全展開葉の外観を撮影した。
(結果)
図2にハダニ個体数の結果を、また図3に定植60日後の葉の外観を示す。シュードモナス属細菌OFT2株を接種した試験区は、非接種の対照区と比較してハダニの個体数が約1/10に減少していた。
図3では、対照区(a)の葉上にはハダニによる食害痕(円内)が認められるのに対して、試験区(b)の葉上には食害痕がほとんど認められなかった。
以上の結果から、シュードモナス属細菌OFT2株を接種した植物が虫害抵抗性を獲得しており、また食害回避により外観の品質を保持できることが立証された。
<実施例5:微生物農薬の施用方法による虫害抵抗性付与効果の検証>
(目的)
本発明の微生物農薬の施用方法による植物の虫害抵抗性効果獲得の差異について検証する。
(方法)
基本的な方法は実施例3に準じた。青ちりめんシソ(サカタのタネ)の種子を表面殺菌した後、園芸培土(げんきくん果菜200:ナプラ=2:1)に播種した。発芽後4葉時(播種より約30日後、根鉢を形成した時期)にセルトレー(口径4cm、深さ5cm)に移植した。移植後の培土には、げんきくん果菜200を用いた。
微生物農薬の有効成分であるシュードモナス属細菌OFT2株は、3% TSB液体培地に接種後、暗所にて28℃で36時間培養した。培養後に遠心分離して集菌し、滅菌生理的食塩水に懸濁した後、再度遠心分離した。0.1%の食塩水に再懸濁した。このときの懸濁液のO.D.600=0.530であった。
この懸濁液を本発明の微生物農薬として、浸漬法と噴霧法の2通りの方法で青ちりめんシソに施用した。浸漬法では、実施例3と同様にバットに前記懸濁液を3cmの深さまで入れ、各シソセル苗を18時間浸漬した(浸漬区)。一方、噴霧法では、前記懸濁液を、ハンドスプレーを用いて3mL/株の液量で葉面に噴霧散布した(噴霧区)。また,浸漬法では無菌食塩水の噴霧を,噴霧法では無菌食塩水への浸漬を行った。対照区として、菌体を含まない0.1%食塩水に18時間浸漬し、さらに3mL/株の液量で葉面に噴霧した。施用の翌日に、シソセル苗を9号ビニールポットに一株ずつ定植して、各株の下位葉に、カンザワハダニの雌成虫10頭を置いた1.5cm×1.5cmのインゲン初生葉断片を、ダブルクリップで固定し、外部からのカンザワハダニの侵入のない25℃の人工気象器(コイトトロン)で栽培した。各ポットは水を張ったトレイに入れ、株間のハダニ移動を防止した。定植21日後に、各ポットのシソ株の中位葉上のカンザワハダニの個体数をルーペでカウントした。
(結果)
図4に結果を示す。対照区と比較して、本発明の微生物農薬を施用した浸漬区及び噴霧区ではいずれもハダニの個体数増加が抑制された。この結果は、本発明の微生物農薬は、有効成分であるシュードモナス属細菌を目的の植物に感染させるため接種することができれば、その施用方法にかかわらず虫害抵抗性を植物に付与できることが立証された。
<実施例6:微生物農薬を施用した植物における品質低下の抑制効果の検証>
(目的)
本発明の微生物農薬における有効成分であるシュードモナス属細菌OFT2株を接種した植物が品質低下の抑制効果を有することを検証する。
(方法)
微生物農薬を施用する植物には、実施例4及び5と同様にシソを用いた。シソの品質としては、外観と香気成分が挙げられる。香気成分は、虫害等の外的ストレスにより発生するエチレンの作用で変化し、その結果、シソの品質が低下することが知られている。実施例4の結果から、本発明の微生物農薬を施用したシソは、虫害抵抗性を獲得し、商品対象である葉の食害痕を低減させ、外観を保持できることが判明した。そこで、本実施例では、本発明の微生物農薬を施用したシソ葉の香気成分が虫害により変化することなく、品質が保持されることを検証した。
基本的な方法は、実施例4に記載の方法に準じた。青ちりめんシソ(サカタのタネ)の種子表面を殺菌した後、園芸培土(げんきくん果菜200:ナプラ=2:1)に播種し、発芽後4葉時にセルトレー(口径4cm、深さ5cm)に移植した。移植後の培土には、げんきくん果菜200を用いた。
シュードモナス属細菌OFT2株は、3% TSB液体培地に接種後、暗所にて28℃で36時間培養した。培養後に遠心分離して集菌し、滅菌生理的食塩水に懸濁した後、再度遠心分離した。0.3%の食塩水に再懸濁した。このときの懸濁液のO.D.600=0.782であった。この懸濁液を本発明の微生物農薬として用いた。試験区として、バットに前記懸濁液を3cmの深さまで入れ、移植後26日のセル苗を40時間浸漬した。対照区には、微生物農薬を施用しない苗を0.3%の食塩水に同時間浸漬したものとした。各区についてクワドルプリケート(4重)実験を行った。
処理翌日に園芸培土(げんきくん果菜200)3kgの入った径21cmのポットに一株ずつ定植して、実施例4と同じハダニが外部から侵入し、自然発生するガラス室施設内で栽培した。
定植47日目に、各株にハダニが発生していることを確認後、シソ株における可食部(各側枝の上位完全展開葉)の対生する2枚の葉のうち一方を、5枚/ポット以上となるように採取した。ポット毎に1サンプルとして、採取した可食部の葉を洗浄し、2〜3mm片に刻んだ後、新鮮時重量2gに対して20mLの10%食塩水を添加して、室温で60分間振とうした。これを40メッシュのステンレスざるで濾し、得られた溶液を香気成分分析用試料液とした。SPME用20mLガラスバイアル(スペルコ)に試料液の1mLと、内部標準として0.04%ベンジルアルコール(ring-13C、ケンブリッジアイソトープラボラトリー)10μLを添加した。続いて、SPMEファイバー(DVB/CAR/PDMS,2cm;スペルコ)に試料液から発生する揮発性成分を35℃で10分間吸着させた。次に、GC/MSインジェクションポート内で吸着した揮発性成分を250℃で加熱脱着させ、分析カラム内にスプリットレスで5分間導入し、多成分の一斉分析を行った。
分析条件は、カラムにDB-Wax 60m, id.0.25mm, df 0.25μm(アジレント・テクノロジー)を用いて、昇温条件40℃(1分間)、rate 8℃/min、240℃(10分間)とした。分析装置には、多目的試料導入装置(MPS2;ゲステル)、及びガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)(Agilent 6890/5973 GC/MSD;アジレント・テクノロジー)を用いた。取得したデータの解析は、Chemstation (アジレント・テクノロジー)とAroma office (西川計測)を用いて行った。香気成分の同定は、ライブラリデータベース(NIST Mass Spectral Database, 米国国立標準技術研究所、及びAroma office)の一致、及び入手可能なものについては市販の試薬を用いたコクロマトグラフィによって行った。サンプル間の成分量の比較はChemstationにより成分毎に特異的な質量数と保持時間(RI)を設定し、条件に一致するピークについて面積を積分し、内部標準13C標識ベンジルアルコールのピーク面積値(RI、m/z=114)で除した数値を用いた。
(結果)
図5A及びBに結果を示す。Aは青臭い臭気成分の濃度比を、Bはシソ特有の芳香成分の濃度比を示す。青臭い臭気成分は、ヒトが嫌悪感又は不快感を感じる臭いであり、一般に虫害等の外的ストレスを受けた植物から発生するエチレン等の作用で増加する。この成分が増加すると、通常、商品としての品質は低下する。一方、Bに挙げた芳香成分は、健康なシソ葉が有する香気成分であり、この成分が保持されているほど品質は高いとされる。
図5Aに挙げた青臭い臭気成分である、1-ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、3-オクタノール、(E)-2-ヘキセン-1-オールは、いずれも対照区よりも試験区で濃度比が低く、本発明の微生物農薬を施用した植物は、ハダニが定着しても青臭い臭気成分の発生を抑制できることが明らかとなった。
一方、図5Bに挙げた芳香成分であるリナロール、ペリルアルデヒド、ゲラニオール、ネロールは、逆に対照区よりも試験区で濃度比が高かった。これは、対照区ではハダニによる虫害の外的ストレスやそれに基づくエチレンの発生で芳香成分が減少したのに対して、本発明の微生物農薬を施用した植物は、ハダニが定着しても芳香成分が保持され、シソの品質が保持できることを示唆している。
以上の結果は、本発明の微生物農薬を施用した植物が、対照区と比較してハダニによる加害後も青臭い臭気成分が増加することなく、シソ葉の特有の芳香成分を保持できることが明らかになった。
<実施例7:微生物農薬を施用した植物の虫害抵抗性獲得の検証(2)>
(目的)
実施例4〜6は、シソ科のシソを用いた実験結果であった。そこで、本発明の微生物農薬がシソ科以外の植物にも虫害抵抗性を付与できることを検証する。
(方法)
微生物農薬の有効成分であるシュードモナス属細菌にはOFT2株を、微生物農薬を施用する植物には、ウリ科のハグラウリ(トーホク:青はぐら)及びナス科のナス(サカタのタネ:中長なす)を用いた。また、虫害抵抗性は、ハダニの産卵数で計測した。
基本的な方法は、実施例4に記載の方法に準じた。以下、実施例4と異なる点を中心に説明する。各種子を表面殺菌した後、園芸培土(げんきくん果菜200)を入れたセルトレー(口径4cm、深さ5cm)に播種した。ガラス室施設内で栽培し、12日後にシソと同様に調製したOFT2株を接種した。この時のO.D.600=0.442であった。接種翌日に園芸培土300g(げんきくん果菜200)の入った径10.5cmのポットに一株ずつ定植して、ガラス室施設内で栽培し、4週間後にサイズの揃った上位葉を採取した。
産卵数の計測には、リーフディスク法を用いた。採取した葉を1辺約1.5cmの正方形に切断し、その葉片を蒸留水で満たしたシャーレ内の脱脂綿上に設置した。この1枚の葉片上にナミハダニ又はカンザワハダニの雌成虫を1個体置き、翌日にそれぞれの産卵数を計数した。
(結果)
図6にハグラウリにおける各ハダニの産卵数の結果を、また図7にナスにおける各ハダニの産卵数の結果を、それぞれ示す。ハグラウリ及びナスのいずれにおいても、シュードモナス属細菌OFT2株を接種した試験区(OFT2)では対照区(非接種)と比較して両ハダニ共に産卵数が減少した。産卵数の抑制は、後代のハダニの発生を抑制し、それによって虫害を防止して、植物の外観の品質を保持できる。
以上の結果から、微生物農薬の有効成分であるシュードモナス属細菌OFT2株は、シソ科植物以外の植物にも虫害抵抗性を付与でき、また農業害虫の種類も問わないことが立証された。
<実施例8:微生物農薬における有効成分としてのACCdを有する植物内生菌の分離(2)>
(目的)
OFT2株以外のACCdを有する新たな植物内生細菌を植物から分離する。
(方法及び結果)
JAS認証有機圃場(三重県津市)で生産したシシトウ可食部1本からACCdを有する新たな植物内生菌を分離した。基本的な分離方法は実施例1と同じであることから、重複する説明は省略し、ここでは実施例1とは異なる点についてのみ説明する。
前記シシトウから得られたACCd遺伝子を持つ植物内生菌を同定するために、中川及び川崎(中川恭好 & 川崎浩子, 2001, 日本放線菌学会編, 放線菌の分類と同定, 日本学会事務センター, 遺伝子解析法16S rRNA遺伝子の塩基配列決定法, pp88-117)に記載の方法に基づいて16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定した。BigDye terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (Life technoligies)でサイクルシーケンス反応を行い、ABIPRISM3130x1 Genetic Analyzer System及びChromas Pro1.7を用いてDNA塩基配列を決定した。得られた塩基配列情報に基づいて、アポロン3.0(データベース アポロンCB-BA10.0)及び国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)により既存の塩基配列との相同性を検索し同定した。
その結果、既知シュードモナス属細菌には相同性の高い菌が見いだせず、新種のシュードモナス属細菌であると考えられた。この菌体をシュードモナス属細菌RH7株(NITE P-01985)と称し、OFT2株と共に本発明の微生物農薬の有効成分とした。
<実施例9:シュードモナス属細菌RH7株におけるACCd活性の検証>
(目的)
実施例1で本発明の微生物農薬の有効成分として分離されたシュードモナス属細菌RH7株におけるACCd活性を検証した。
(方法)
方法は、実施例2に記載の方法に準じた。
(結果)
1時間あたりのα-ケト酪酸量は、11.2±0.1μmol/mgであった。これにより、実施例8で分離されたシュードモナス属細菌RH7株も、OFT2株と同様ACCd活性を有していることが立証された。
<実施例10:微生物農薬施用植物におけるエチレンによる生育抑制の回避効果の検証(2)>
(目的)
RH7株を接種した植物が、エチレンによる生育抑制作用を回避し得ることを検証する。
(方法)
基本的な方法は、実施例3に記載の方法に準じた。寒天培地におけるACCの濃度は、0、2、及び10μMとした。
(結果)
図8に結果を示す。いずれのACC濃度の場合にも、シュードモナス属細菌RH7株を接種した試験区のリョクトウでは、対照区(非接種)と比較して胚軸長が大きかった。この結果は、試験区では、OFT2株と同様に、エチレンの前駆物質であるACCが、RH7株によるACCd活性により分解され、エチレン生成量が減少した結果、リョクトウの胚軸長の抑制が回避されたことを示唆している。
<実施例11:微生物農薬を施用した植物の虫害抵抗性獲得の検証(3)>
(目的)
シュードモナス属細菌RH7株を接種した植物が、虫害抵抗性を獲得することについてリーフディスク法を用いて検証する。
(方法)
基本的な方法は、実施例4に記載の方法に準じた。また、リーフディスク法については、実施例7に記載の方法に準じた。以下、実施例4と異なる点を中心に説明する。
微生物農薬を施用する植物としてシソを用いた。青ちりめんシソ(サカタのタネ)の種子を1%次亜塩素酸(和光純薬)に2分間、浸漬して表面殺菌した後、園芸培土(げんきくんN100)に播種した。発芽後10日目にセルトレー(口径19cm、深さ43cm)に移植した。移植後の培土には、げんきくんN100を用いた。
シュードモナス属細菌RH7株は、3% TSB液体培地に接種後、暗所にて28℃で3日間培養した。培養後に遠心分離して集菌し、滅菌生理的食塩水に懸濁した後、再度遠心分離した。0.2%の食塩水に再懸濁した。このときの懸濁液のO.D.600=0.40であった。この懸濁液を本発明の微生物農薬として用いた。バットに前記懸濁液を2cmの深さまで入れ、移植後26日のセル苗を18時間浸漬し、この苗を試験区とした。RH7株非接種の対照区として、懸濁液に替えて0.2%の食塩水に同時間浸漬した苗を用いた。
浸漬の翌日に園芸培土300g(げんきくん果菜200,N100を重量各150g)の入った径10.5cmのポットに一株ずつ定植して、ガラス室施設内で栽培した。定植4週間後に、上記と同様に調製した微生物農薬を3mLずつ各株の根元に滴下し、追加接種とした。追加接種の4週間後にサイズの揃った上位葉を採取して、リーフディスク法を用いてナミハダニ及びカンザワハダニの産卵数を計数した。
(結果)
図9に各ハダニの産卵数の結果を示す。シュードモナス属細菌RH7株を接種した試験区(RH7)では、対照区(非接種)と比較して、ナミハダニで1/10以下に、またカンザワハダニで約1/3に減少した。この結果から、シュードモナス属細菌RH7株も植物に虫害抵抗性を付与できることが立証された。実施例10及び11の結果は、ACCd遺伝子を発現可能な状態で有するシュードモナス属(Pseudomonas)細菌であれば、いかなる菌種であっても同様の虫害抵抗性及び品質低下抑制を植物に付与できることを示唆している。
受託番号:NITE P-01743
受託番号:NITE P-01985

Claims (5)

  1. 外来性の1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸デアミネース(ACCd)遺伝子を発現可能な状態で有するシュードモナス属(Pseudomonas)細菌を有効成分とする農産物植物の虫害抵抗性付与及び香気成分の変化、及び/又は食味の低下抑制するための微生物農薬。
  2. 前記シュードモナス属細菌が受託番号NITE P-01743の細菌である、請求項1に記載の微生物農薬。
  3. 前記シュードモナス属細菌が受託番号NITE P-01985の細菌である、請求項1に記載の微生物農薬。
  4. 前記シュードモナス属細菌がACCd遺伝子を発現可能な状態で包含する発現ベクターを有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物農薬。
  5. 請求項1〜のいずれか一項に記載の微生物農薬を目的の植物に施用する工程を含む、農産物植物に虫害抵抗性を付与し、かつ香気成分の変化、及び/又は食味の低下を抑制する方法。
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