以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
[HILシミュレーションシステムの構成]
図1は、実施の形態1に係るHILシミュレーションシステムの構成を示す模式図である。
本実施の形態に係るHILシミュレーションシステム(以下、「HILSシステム」という)は、油圧回路と電動機とを動力とした電動油圧駆動型作業機械に用いられる電動機の特性を評価するためのものである。図1に示すように、HILSシステム1は、供試体電動機2と、負荷生成電動機3と、回転速度検出部4と、制御部である制御用計算機5と、シミュレーション実行部であるシミュレーション用計算機6とを備えている。
供試体電動機2は、同期電動機である。供試体電動機2は、電動油圧駆動型作業機械に搭載される電動機と同型のものであり、本HILSシステム1では、供試体電動機2の特性が評価対象となる。供試体電動機2には、第1インバータ21が接続されている。第1インバータ21は、図示しない電源に接続されており、電源から供給される電力を変換して供試体電動機2へと供給し、供試体電動機2を駆動する。
供試体電動機2には、回転軸22を共有するように、負荷生成電動機3が接続されている。つまり、供試体電動機2が回転動作すると、負荷生成電動機3の回転軸も同一の回転数により回転することとなる。また、回転軸22には、回転速度検出部4が接続されている。回転速度検出部4は、レゾルバであり、回転軸22の回転速度を検出する。
負荷生成電動機3は、電動発電機であり、供試体電動機2に与える負荷を生成するためのものである。つまり、負荷生成電動機3が回転力を生じるように制御されると、その出力トルクが回転軸22に負荷として作用する。かかる負荷生成電動機3には、第2インバータ31が接続されている。第2インバータ31は、図示しない電源に接続されており、電源から供給される電力を変換して負荷生成電動機3へと供給し、負荷生成電動機3を駆動する。
図2は、制御用計算機5の構成を示すブロック図である。制御用計算機5は、コンピュータ50によって実現される。図2に示すように、コンピュータ50は、本体51と、入力部52と、表示部53とを備えている。本体51は、CPU511、ROM512、RAM513、ハードディスク514、入出力インタフェース515、画像出力インタフェース516、及び通信インタフェース517を備えており、CPU511、ROM512、RAM513、ハードディスク514、入出力インタフェース515、画像出力インタフェース516、及び通信インタフェース517は、バスによって接続されている。
CPU(Central Processing Unit)511は、RAM513にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。供試体電動機2及び負荷生成電動機3の制御用のコンピュータプログラムである電動機制御プログラム510を当該CPU511が実行することにより、コンピュータ50が制御用計算機5として機能する。
電動機制御プログラム510は、通信インタフェース517を使用してシミュレーション用計算機6とデータの送受信を行い、第1インバータ21及び第2インバータ31に指令を与えるためのものである。
ROM(Read Only Memory)512には、CPU511に実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータ等が記録されている。
RAM(Random Access Memory)513は、ハードディスク514に記録されている電動機制御プログラム510の読み出しに用いられる。また、CPU511がコンピュータプログラムを実行するときに、CPU511の作業領域として利用される。
ハードディスク514は、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU511に実行させるための種々のコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いられるデータがインストールされている。電動機制御プログラム510も、このハードディスク514にインストールされている。
ハードディスク514には、例えば米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施の形態に係る電動機制御プログラム510は当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
入出力インタフェース515は、例えばUSB,IEEE1394,又はRS-232C等のシリアルインタフェース、SCSI,IDE,又は IEEE1284等のパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インタフェース515には、キーボード及びマウスからなる入力部52が接続されており、ユーザが当該入力部52を使用することにより、コンピュータ50にデータを入力することが可能である。また、入出力インタフェース515には、回転速度検出部4、第1インバータ21及び第2インバータ31が接続されている。
画像出力インタフェース516は、LCD(Liquid Crystal Display)またはCRT(Cathode Ray Tube)等で構成された表示部53に接続されており、CPU511から与えられた画像データに応じた映像信号を表示部53に出力するようになっている。表示部53は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
通信インタフェース517は、計算機間の通信を行うためのインタフェースである。通信インタフェース517は、シミュレーション用計算機6と通信可能に接続されている。
図3は、シミュレーション用計算機6の構成を示すブロック図である。シミュレーション用計算機6は、コンピュータ60によって実現される。図3に示すように、コンピュータ60は、本体61と、入力部62と、表示部63とを備えている。本体61は、CPU611、ROM612、RAM613、ハードディスク614、入出力インタフェース615、画像出力インタフェース616、及び通信インタフェース617を備えており、CPU611、ROM612、RAM613、ハードディスク614、入出力インタフェース615、画像出力インタフェース616、及び通信インタフェース617は、バスによって接続されている。
CPU611は、RAM613にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。電動油圧駆動型作業機械の油圧回路及びリンク機構の運動シミュレーション用のコンピュータプログラムであるシミュレーション制御プログラム610a及びシミュレーション計算プログラム610bを当該CPU611が実行することにより、コンピュータ60がシミュレーション用計算機6として機能する。
シミュレーション制御プログラム610aは、シミュレーション計算プログラム610bとの間でデータの授受を行い、負荷生成電動機3への入力補正と、油圧回路及びリンク機構の姿勢シミュレーションとを行うためのものである。シミュレーション計算プログラム610bは、シミュレーション制御プログラム610aから与えられたデータを用いて、後述する運動方程式を解くためのものである。
ROM612には、CPU611に実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータ等が記録されている。
RAM613は、ハードディスク614に記録されているシミュレーション制御プログラム610a及びシミュレーション計算プログラム610bの読み出しに用いられる。また、CPU611がコンピュータプログラムを実行するときに、CPU611の作業領域として利用される。
また、RAM613の一部の領域は、共有メモリ613aとして使用される(図1参照)。共有メモリ613aは、シミュレーション制御プログラム610aとシミュレーション計算プログラム610bとのデータの授受に利用される。
ハードディスク614は、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU611に実行させるための種々のコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いられるデータがインストールされている。シミュレーション制御プログラム610a及びシミュレーション計算プログラム610bも、このハードディスク614にインストールされている。
ハードディスク614には、例えば米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施の形態に係るシミュレーション制御プログラム610a及びシミュレーション計算プログラム610bは当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
入出力インタフェース615は、例えばUSB,IEEE1394,又はRS-232C等のシリアルインタフェース、SCSI,IDE,又は IEEE1284等のパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インタフェース615には、キーボード及びマウスからなる入力部62が接続されており、ユーザが当該入力部62を使用することにより、コンピュータ60にデータを入力することが可能である。
画像出力インタフェース616は、LCDまたはCRT等で構成された表示部63に接続されており、CPU611から与えられた画像データに応じた映像信号を表示部63に出力するようになっている。表示部63は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
通信インタフェース617は、計算機間の通信を行うためのインタフェースである。通信インタフェース617は、制御用計算機5と通信可能に接続されている。
<電動油圧駆動型作業機械の運動シミュレーション>
次に、シミュレーション制御プログラム610a及びシミュレーション計算プログラム610bによる電動油圧駆動型作業機械の運動シミュレーションの内容について説明する。
図4は、シミュレーション対象の電動油圧駆動型作業機械の構成を示す右側面図である。本実施の形態では、電動油圧駆動型ショベルをシミュレーション対象としている。なお、以下の説明では、図中において左方を「前方」、右方を「後方」、上方を「上方」、下方を「下方」といい、電動油圧駆動型ショベルの正面(前面)に向かって右方を「右方」、同正面に向かって左方を「左方」という。
電動油圧駆動型ショベル100は、クローラ式の下部走行体101と、キャビン102を具備する上部旋回体103と、リンク機構である作業アタッチメント104とを備える。上部旋回体103は、下部走行体101の上に、鉛直方向の軸まわりに回動可能に取り付けられる。かかる下部走行体101と上部旋回体103とによって、車体が構成される。
作業アタッチメント104は、ブーム105と、アーム106と、バケット107とを具備する。ブーム105は、上部旋回体103の前部であってキャビン102の側方に、水平軸まわりに回動可能に取り付けられ、これによって起伏自在となっている。また、アーム106は、ブーム105の先端に水平軸まわりに回動可能に取り付けられ、バケット107は、アーム106の先端に水平軸まわりに回動可能に取り付けられる。
ブーム105には、油圧シリンダであるブームシリンダ181のピストンロッド先端が取り付けられ、ブームシリンダ181のシリンダチューブは上部旋回体103に取り付けられる。ブームシリンダ181は、ブーム105を駆動する。油圧シリンダは直動要素である。
また、ブーム105には、油圧シリンダであるアームシリンダ182のシリンダチューブが取り付けられ、アームシリンダ182のピストンロッド先端はアーム106に取り付けられる。アームシリンダ182は、アーム106を駆動する。
また、アーム106には、油圧シリンダであるバケットシリンダ183のシリンダチューブが取り付けられ、バケットシリンダ183のピストンロッドの先端はバケット107に取り付けられる。バケットシリンダ183は、バケット107を駆動する。
上部旋回体103は、下部走行体101に設けられた電動機(図示せず)によって旋回駆動される。上部旋回体103の旋回用電動機は、供試体電動機2と同型のものである。
図5は、シミュレーション対象の電動油圧駆動型作業機械の油圧回路の構成を示す回路図である。電動油圧駆動型ショベル100にはエンジンによって駆動される2つの油圧ポンプ111が油圧供給源として設けられる。油圧ポンプ111は、可変ポンプであり、負荷の状況によって吐出流量が制御される。
油圧ポンプ111からは、作動油が通流する管路が延設され、制御弁112を介して、上述したブームシリンダ181、アームシリンダ182、及びバケットシリンダ183が接続される。制御弁112は、ブームシリンダ181駆動用の電磁弁113と、アームシリンダ182駆動用の電磁弁114と、バケットシリンダ183駆動用の電磁弁115とを備えている。かかる制御弁112は、オペレータの操作レバー入力に応じて動作し、ブームシリンダ181、アームシリンダ182、バケットシリンダ183への作動油の流量を制御する。これにより、ブームシリンダ181、アームシリンダ182、バケットシリンダ183が動作制御される。
本実施の形態における油圧回路の解析モデルは、実際の設計解析にも用いられる72自由度のモデルである。72自由度は、油圧ポンプ、制御弁、電磁比例弁、リリーフ弁、チェック弁等の個々のポイントの流量積である。
シミュレーション計算プログラム610bでは、剛体システムであるリンク機構と、油圧回路との連成解析が行われる。ここで連成解析とは、相異なる運動方程式で表現され、互いに関連する2以上の物理現象を、それぞれの運動方程式を関連づけて解くことにより解析することをいう。本実施の形態におけるシミュレーション計算プログラム610bでは、リンク機構及び油圧回路のそれぞれに対してMCK型の運動方程式を導出し、次式の非線形運動方程式に重ね合わせることによって連成解析を行う。
ここで、qn+1は剛体システムでは時刻tn+1における変位及び回転角、油圧回路では流量積などの状態量を表すベクトルである。M,C,Kはそれぞれ時刻tnで線形化された質量、減衰、剛性マトリックスであり、fn+1は時刻tn+1における外力である。本実施の形態では、時間積分法にNewmarkβ法(β=1/4)を用いた。
剛体システムであるリンク機構の定式化を行う。図6は、リンク機構の解析モデルを示す模式図である。図6に示す解析モデルでは、上部旋回体103をボディ0とし、ブーム105をボディ1とし、アーム106をボディ2とし、バケット107をボディ3としている。基準枠として、O−XYZからなる慣性基準枠と、ボディ0の点Bに取り付けられた物体基準枠B−xyzを考える。このモデルは、4つの剛体(ボディ)からなり、ボディ0は並進運動を行わず、y軸回りの回転運動のみ行う。ボディ1はボディ0にピンジョイントで結合されており、ボディ0とボディ1との間の直動要素(ブームシリンダ181)によって駆動され、z軸回りに回転運動を行う。ボディ2はボディ1にピンジョイントで結合されており、ボディ1とボディ2との間の直動要素(アームシリンダ182)によって駆動され、z軸回りに回転運動を行う。ボディ3はボディ2にピンジョイントで結合されており、ボディ2とボディ3との間の直動要素(バケットシリンダ183)によって駆動され、z軸回りに回転運動を行う。ボディ1乃至3は、ボディ0のy軸回りの回転運動によって一体的に回転する。
ボディ1乃至3の重心点をPi(i=1〜3)としたとき、点Piの点Oからの位置は次式により表される。
慣性枠Oから見た点Piの絶対速度は次式により表される。
点Piの加速度は、式(3)を慣性枠Oに対して時間で微分すると次式のようになる。
図6のモデルでは、物体枠Bの原点は回転中心に固定されているため、次のようになる。
ボディ1乃至3は、ボディ0と一体的に回転運動を行うため、点Piの加速度を物体枠Bの成分を用いて表すと、次式のようになる。
ボディ0の角速度は物体枠Bのy軸回りの角速度のみであるため、次のようになる。
ボディ1乃至3の物体枠Bのz軸回りの角度をθi(i=1〜3)とすると、点Piの加速度及び旋回角加速度は次式で与えられる。
次に、角度θi(i=1〜3)の代わりに各シリンダ変位ξi(i=1〜3)を用いて表すと次式の関係を得る。
式(9)を微分すると、次式の関係が得られる。
点Pi及び旋回軸の運動方程式は、次式で与えられる。
式(11)に式(8)、(9)、(10)を代入し、次式の関係
及び式(9)の関係を用い、ボディ1乃至3の重心回りの慣性モーメント行列Ieを考慮すると、次式の運動方程式が得られる。
図5に示した油圧回路をモデル化するために、配管要素、バルブ要素などについて考える。まず、配管内の作動油の圧縮性を表現するために、配管要素を考える。分岐を有する3ポート要素を考えると、各節点圧力pp[p1,p2,p3]Tと流量積qp[q1,q2,q3]Tとの関係式は次式のようになり、この係数マトリックスが要素剛性マトリックスKeとなる。
質量は各節点にmi=pli/Ai(i=1〜3)を与える。各節点圧力ppと流量積の2階微分upとの関係式は次式のようになり、この係数マトリックスが要素質量マトリックスMeとなる。
次に、配管圧損については次式で定義する。
上式の右辺第1項は直管の圧力損失特性を示し、管摩擦係数にBrasiusの式を用いて、乱流域での流量特性を近似したものである(日本流体力学会編、「流体力学ハンドブック」、第2版、丸善株式会社、1998年5月発行を参照)。また、同第2項は急拡大・縮小、ベント、エルボ等の圧力損失特性を示し、流量二乗特性を持つ等価絞りとした。c1は直管の長さ、管径等の諸元から決まる係数であり、c2は急拡大・縮小、ベント、エルボ等の諸元によって決まる係数である。式(17)を時刻tnにおいて線形化し、補正外力を用いて式(1)の運動方程式に組み込む。
次に、バルブの圧力損失を考慮するためにバルブ要素を考える。各バルブの開口特性はポート毎に可変絞り弁と考え、絞り弁における圧力損失を次式で定義する。
上式において、各ポートのバルブ開度はバルブストロークに対する関数として予め設定したものを用いる。
方向制御用のチェック弁、圧力制御用のリリーフ弁については、圧力差と流量の管径が断片線形特性を持つ減衰要素として定義する。これらについても上記と同様に時刻tnにおいて線形化し、補正外力を導入して式(1)の運動方程式に組み込む。
[HILSシステムの動作]
以下、本実施の形態に係るHILSシステム1の動作について説明する。
HILSシステム1は、制御用計算機5が電動機制御プログラム510に基づく電動機制御処理を実行し、シミュレーション用計算機6がシミュレーション制御プログラム610aに基づくシミュレーション制御処理及びシミュレーション計算プログラム610bに基づくシミュレーョン計算処理を実行することにより動作する。
図7は、電動機制御処理の手順を示すフローチャートである。制御用計算機5のCPU511は、回転速度検出部4から供試体電動機2の現在の回転速度を取得する(ステップS101)。かかる回転速度の取得は、所定周期で繰り返し行われる。CPU511は、取得した回転速度をシミュレーション用計算機6へと送信する(ステップS102)。
シミュレーション用計算機6は、与えられた供試体電動機2の回転速度を用いて電動油圧駆動型作業機械の運動シミュレーションを実行し、負荷生成電動機3の目標トルクを算出する。また、シミュレーション用計算機6は、算出された負荷生成電動機3の目標トルクと、予め設定された供試体電動機の目標回転速度を制御用計算機5へと送信する。制御用計算機5は、供試体電動機2の目標回転速度と、負荷生成電動機3の目標トルクとをシミュレーション用計算機6から受信する(ステップS103)。CPU511は、供試体電動機2の目標回転速度から、供試体電動機2の指令値を生成し、この指令値を第1インバータ21へと出力し、負荷生成電動機3の目標トルクから、負荷生成電動機3の指令値を生成し、この指令値を第2インバータ31へと出力する(ステップS104)。第1インバータ21及び第2インバータ31への指令値の出力は、所定の制御周期毎に実行される。
第1インバータ21は、受け付けた指令値にしたがい、目標回転速度を発生するように供試体電動機2へと電力を供給する。第2インバータ31は、受け付けた指令値にしたがい、目標トルクを発生するように負荷生成電動機3へと電力を供給する。
CPU511は、電動機制御処理の終了条件に合致するか否かを判定する(ステップS105)。終了条件は、例えば、ユーザからの終了指示を受け付けること、与えられた操作量のシミュレーションが完了すること等である。終了条件に合致しない場合には(ステップS105においてNO)、CPU511はステップS101へと処理を戻す。この繰り返し周期は、所定時間(例えば、5msec)である。終了条件に合致する場合には(ステップS105においてYES)、CPU511は、電動機制御処理を終了する。
図8は、シミュレーション制御処理の手順を示すフローチャートである。シミュレーション用計算機6のCPU611は、ステップS102において制御用計算機5から送信された回転速度を受信する(ステップS201)。CPU611は、最近取得した所定数(例えば、6つ)の回転速度を平均し(ステップS202)、回転速度の平均値を共有メモリ613aに書き込む(ステップS203)。平均化処理により、回転速度からノイズが除去される。
後述するように、シミュレーション計算処理によって、供試体電動機2に負荷として印加する負荷トルク(即ち、負荷生成電動機3によって生成すべきトルク)の数値が算出され、共有メモリ613aに書き込まれる。CPU611は、共有メモリ613aからパイロット圧、供試体電動機2の目標回転速度を読み出す(ステップS204)。油圧回路のパイロット圧及び供試体電動機2の目標回転速度は、予めハードディスク614に記憶されたものであり、シミュレーション計算処理によってハードディスク614から読み出され、共有メモリ613aに書き込まれるようになっている。
CPU611は、読み出したパイロット圧及び回転速度の平均値を用いて、リンク機構及び油圧回路の姿勢の計算(ステップS205)と、負荷生成電動機3の入力補正(ステップS206)とを実行する。これらの処理によって、負荷生成電動機3の目標トルクが算出される。
CPU611は、供試体電動機2の目標回転速度及び負荷生成電動機3の目標トルクを制御用計算機5へと送信する(ステップS207)。
CPU611は、シミュレーション制御処理の終了条件に合致するか否かを判定する(ステップS208)。終了条件は、例えば、ユーザからの終了指示を受け付けること、与えられた操作量のシミュレーションが完了すること等である。終了条件に合致しない場合には(ステップS208においてNO)、CPU611はステップS201へと処理を戻す。この繰り返し周期は、所定時間(例えば、5msec)である。終了条件に合致する場合には(ステップS208においてYES)、CPU611は、シミュレーション制御処理を終了する。
図9は、シミュレーション計算処理の手順を示すフローチャートである。シミュレーション用計算機6のCPU611は、共有メモリ613aから供試体電動機2の回転速度の平均値を読み出す(ステップS301)。
次にCPU611は、読み出されたパイロット圧及び回転速度の平均値と、与えられた操作量とに基づいて、上述した運動方程式の連成解析処理を行い、供試体電動機2に負荷として印加する負荷トルクを算出し(ステップS302)、得られた負荷トルクを共有メモリ613aに書き込む(ステップS303)。
CPU611は、シミュレーション計算処理の終了条件に合致するか否かを判定する(ステップS304)。終了条件は、例えば、ユーザからの終了指示を受け付けること、与えられた操作量のシミュレーションが完了すること等である。終了条件に合致しない場合には(ステップS304においてNO)、CPU611はステップS301へと処理を戻す。この繰り返し周期は、所定時間(例えば、5msec)である。終了条件に合致する場合には(ステップS304においてYES)、CPU611は、シミュレーション計算処理を終了する。
[評価試験]
上述したHILSシステムを実際に作成し、その性能を評価した。
本評価試験では、比較対象として、供試体電動機2(上部旋回体の旋回用電動機)の動作シミュレーションと、上記の油圧回路及びリンク機構の動作シミュレーションとを合わせて行う比較用シミュレーション装置を作成した。
まず、比較用シミュレーション装置が十分に正確なシミュレーションを行えることを説明する。発明者は、比較用シミュレーション装置によって1サイクルの掘削作業における電動油圧駆動型ショベルの動作シミュレーションを行った。図10は、1サイクルの掘削作業におけるリンク機構の挙動を示す側面図である。
発明者らは、実際の電動油圧駆動型ショベルを使用して、1サイクルの掘削作業における実測結果を得、実測結果と比較用シミュレーション装置のシミュレーション結果とを比較した。図11A乃至図11Dに、比較結果を示す。図11Aは、ブームシリンダの変動量の比較結果を、図11Bは、アームシリンダの変動量の比較結果を、図11Cは、バケットシリンダの変動量の比較結果を、図11Dは、上部旋回体の旋回角速度の比較結果をそれぞれ示している。図11A乃至図11Dに示されるように、各アクチュエータ(ブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダ、旋回用電動機)のシミュレーション結果が実測結果とよく一致している。
本評価試験において、発明者らは、HILSシステム1によって1サイクルの掘削作業における電動油圧駆動型ショベルのHILシミュレーションを行い、上部旋回体の旋回角速度と、供試体電動機2に作用するトルクとを計測した。上部旋回体の旋回角速度は、供試体電動機2の回転速度に所定の減速比を掛けることによって得た。
図12A及び図12Bに、HILSシステム1の計測結果と、比較用シミュレーション装置のシミュレーション結果との比較を示す。図12Aは、上部旋回体の旋回角速度の比較結果であり、図12Bは、供試体電動機2(旋回用電動機)の正規化トルクの比較結果である。これらの図に示されるように、上部旋回体の旋回角度、供試体電動機2の正規化トルク共に、計測結果とシミュレーション結果とがよく一致しており、HILSシステム1によって、掘削作業の状況を精度よく再現できていることが分かる。
(実施の形態2)
図13は、実施の形態2に係るHILSシステムの構成を示す模式図である。
図13に示すように、HILSシステム200は、供試体電動機2と、負荷生成電動機3と、回転速度検出部4と、制御部である制御用計算機5と、シミュレーション実行部であるシミュレーション用計算機6とに加え、操作用計算機7と、操作レバー71とを備えている。供試体電動機2、負荷生成電動機3、回転速度検出部4、制御用計算機5、及びシミュレーション用計算機6の構成については、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
操作用計算機7は、コンピュータによって構成されており、制御用計算機5及びシミュレーション用計算機6と同様に、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、入出力インタフェース、画像出力インタフェース、及び通信インタフェースを備える。操作用計算機7は、シミュレーション用計算機6と通信可能に接続されている。また、操作用計算機7は、表示部72を備えており、表示部72は画像出力インタフェースに接続されている。
操作レバー71は、シミュレーション用計算機6へ操作量を与えるためのものである。操作レバー71による操作値は、リンク機構の変位方向及び変位量、並びに上部旋回体の旋回方向及び旋回角度を示している。つまり、操作レバー71に与えられた操作値にしたがって、油圧回路及び供試体電動機が駆動されるよう、HILシミュレーションが実行される。
操作レバー71は、制御用計算機5の入出力インタフェース515に接続されている。操作レバー71はユーザが操作可能であり、操作レバー71から与えられた操作値は、シミュレーション用計算機6に送信される。
シミュレーション用計算機6は、与えられた操作値に基づいて、電動油圧駆動型ショベルの運動シミュレーションを実行し、そのシミュレーション結果のデータを操作用計算機7へと送信する。操作用計算機7は、受信したデータにしたがい、シミュレーションされた電動油圧駆動型ショベルの姿勢を表示部72に表示する。これにより、電動油圧駆動型ショベルの運転シミュレーションを行うことができる。
(実施の形態3)
図14は、実施の形態3に係るHILSシステムの構成を示す模式図である。
図14に示すように、HILSシステム300は、供試体電動機2と、負荷生成電動機3と、回転速度検出部4と、制御部である制御用計算機5と、シミュレーション実行部であるシミュレーション用計算機600と、電力供給装置900とを備える。供試体電動機2、負荷生成電動機3、回転速度検出部4、及び制御用計算機5の構成については、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
シミュレーション用計算機600は、上述したリンク機構及び油圧回路の運動シミュレーションを行う他、供試体電動機2(旋回用電動機)へ供給すべき電力量を算出するようになっている。シミュレーション用計算機600には、旋回用電動機のモデルが組み込まれており、シミュレーション用計算機600は、このモデルを使用して旋回用電動機の動作シミュレーションを実行し、各時刻における旋回用電動機への供給電力量をリアルタイムに算出する。
電力供給装置900は、蓄電シミュレーション用計算機901と、可変電源902とを備えている。蓄電シミュレーション用計算機901には、供試体電動機2の駆動用の蓄電池のモデルが組み込まれており、蓄電シミュレーション用計算機901は、このモデルを使用して蓄電池の動作シミュレーションを実行し、各時刻における蓄電量をリアルタイムに算出する。蓄電シミュレーション用計算機901は、シミュレーション用計算機600と通信可能に接続されている。シミュレーション用計算機600は、算出した旋回用電動機への供給電力量を蓄電シミュレーション用計算機901に送信するようになっており、蓄電シミュレーション用計算機901は受信した供給電力量にしたがい、蓄電池の動作シミュレーションを実行し、蓄電量を算出するようになっている。
可変電源902は、第1インバータ21に接続されており、第1インバータ21を介して供試体電動機2へ電力を供給する。蓄電シミュレーション用計算機901は、可変電源902と通信可能に接続されており、可変電源902を制御することができる。蓄電シミュレーション用計算機901は、シミュレーション用計算機600から受信した旋回用電動機への供給電力量にしたがい可変電源902を制御し、可変電源902に前記供給電力量の電力を第1インバータ21へと出力させる。
上記のようにHILSシステム300を構成することによって、実際の蓄電池を備える電力供給システムの特性を考慮して、電力を供試体電動機2へ供給することができ、電動油圧駆動型作業機械のシミュレーションの精度をより一層向上させることができる。
(実施の形態4)
[HILシミュレーションシステムの構成]
図15は、実施の形態4に係るHILSシステムの構成を示す模式図である。
本実施の形態に係るHILSシステムは、供試体電動機及び第1インバータにおける損失に関する情報を出力し、これらの損失を評価することを可能とするものである。図15に示すように、HILSシステム400は、電源装置701と、計測装置702と、損失評価用計算機703とを備えている。また、供試体電動機2と負荷生成電動機3との間の回転軸22には、トルク及び回転数(回転速度)を検出する検出装置704が設けられている。なお、本実施の形態に係るHILSシステム400のその他の構成は、実施の形態1に係るHILSシステム1の構成と同様であるので、同一構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
電源装置701は、第1インバータ21に接続されており、第1インバータ21に電力を供給する。
なお、電源装置701を、実施の形態3における電力供給装置900とすることも可能である。
計測装置702は、電源装置701から第1インバータ21に与えられる電流及び電圧を計測し、第1インバータ21から供試体電動機2に与えられる電流及び電圧を計測する。また、計測装置702は、検出装置704に接続されており、検出装置704からトルク及び回転数を示す信号を受信する。
損失評価用計算機703は、計測装置702と接続されており、計測装置702から、電源装置701及び第1インバータ21の間の電流及び電圧、第1インバータ21及び供試体電動機2の間の電流及び電圧、並びに検出装置704によって検出されたトルク及び回転数を示すデータを受信する。損失評価用計算機703は、受信したデータに基づいて、供試体電動機2及び第1インバータ21における損失を計算する。
図16は、損失評価用計算機703の構成を示すブロック図である。損失評価用計算機703は、コンピュータ70によって実現される。図16に示すように、コンピュータ70は、本体710と、入力部720と、表示部730とを備えている。本体710は、CPU711、ROM712、RAM713、ハードディスク714、入出力インタフェース715、画像出力インタフェース716、及び通信インタフェース717を備えており、CPU711、ROM712、RAM713、ハードディスク714、入出力インタフェース715、画像出力インタフェース716、及び通信インタフェース717は、バスによって接続されている。
CPU711は、RAM713にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。供試体電動機2及び第1インバータ21における損失を計算するためのコンピュータプログラムである損失評価プログラム710aを当該CPU711が実行することにより、コンピュータ70が損失評価用計算機703として機能する。
ハードディスク714は、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU711に実行させるための種々のコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いられるデータがインストールされている。損失評価プログラム710aも、このハードディスク714にインストールされている。
通信インタフェース717は、計測装置702と通信可能に接続されている。
[HILSシステムの動作]
以下、本実施の形態に係るHILSシステム400の動作について説明する。なお、供試体電動機2、負荷生成電動機3、制御用計算機5、及びシミュレーション用計算機6の動作については、実施の形態1に係るHILSシステム1の動作と同様であるので、その説明を省略し、ここでは、損失評価用計算機703による供試体電動機2及び第1インバータ21における損失の算出動作(以下、「損失情報生成処理」という)について説明する。
図17は、損失情報生成処理の手順を示すフローチャートである。計測装置702は、電源装置701及び第1インバータ21の間の電流及び電圧、第1インバータ21及び供試体電動機2の間の電流及び電圧をリアルタイムに計測する。また、検出装置704が回転軸22に発生するトルク及び回転数を検出し、計測装置702が検出装置704からトルク及び回転数を示す信号を受信する。損失評価用計算機703のCPU711は、電源装置701及び第1インバータ21の間の電流及び電圧、第1インバータ21及び供試体電動機2の間の電流及び電圧、並びに検出装置704によって検出されたトルク及び回転数を示すデータを計測装置702から受信する(ステップS401)。
CPU711は、第1インバータ21及び供試体電動機2の間の電流及び電圧、並びに、供試体電動機2の発生トルク及び回転数に基づいて、供試体電動機2における全損失を算出する(ステップS402)。供試体電動機2の全損失Wmot_lossは、次式のように、供試体電動機2に供給される電力Winvと、供試体電動機2が出力する動力Wmotとの差として表される。
次にCPU711は、電源装置701及び第1インバータ21の間の電流及び電圧、並びに、第1インバータ21及び供試体電動機2の間の電流及び電圧に基づいて、第1インバータ21における損失を算出する(ステップS403)。第1インバータ21における損失Winv_lossは、次式のように、電源電力Wpowと、第1インバータ21が出力する電力Winvとの差として表される。
電動機における損失特性は、銅損、鉄損、及び軸受損に分類される。ここで、銅損は銅線の抵抗により発生するジュール熱損失であり、鉄損は鋼板に発生する磁気的な損失であり、軸受損は軸受で発生する摩擦損失である。
CPU711は、供試体電動機2における銅損、鉄損、軸受損を算出する(ステップS404)。
銅損WCについては、次式のように、巻線の抵抗Rと、銅線に流れる電流Iの2乗の積として表される。電流Iには、供試体電動機2と第1インバータ21との間で計測される電流値が用いられる。
なお、ここでは銅損、鉄損、軸受損のそれぞれをリアルタイムに算出する構成について述べたが、銅損、鉄損、軸受損のうちの1つ若しくは2つ、又は全てを後処理で算出してもよい。また、銅損の算出に用いられる抵抗値は温度依存性を有するため、複数の温度での抵抗値を予め計測しておき、別途計測した巻線の実温度に適合する抵抗値を用いることが、精度の観点からは好ましい。
また、鉄損、軸受損については、計測装置702及び検出装置704で計測された電流、電圧、トルク、回転数等の情報を用いて、例えば公知の理論式によって推定することが可能である。
例えば鉄損Wiは、次式のように表現することができる。
ここで、Voは誘起電圧、Rcは鉄損等価抵抗である。
誘起電圧Voは電動機の回転により誘起される電圧であるが、一般に実運転時における誘起電圧の計測は困難である。また、鉄損等価抵抗Rcは、電動機の等価回路表現において概念的に使用される値であり、実現象においては存在しないため、それを直接計測することはできない。一方で、誘起電圧Vo、鉄損等価抵抗Rcについてはその原理から、回転数および電流値の関数として近似できることが知られている。
そこで式(22)を用いた鉄損の推定については、事前に供試体電動機の電磁界解析を行って、各運転条件における回転数及び電流値と誘起電圧との関係、並びに、回転数及び電流値と鉄損等価抵抗との関係を把握しておく。この関係と、実測の回転数及び電流値とによって、実運転時の電動機鉄損をリアルタイムに推定することができる。
また、例えば軸受損Wbは、次式のように表現することができる。
ここで、Cbは軸受損失係数、θmは電動機の回転角速度である。
軸受損失係数Cbには、例えば軸受メーカの提示する仕様値(所謂カタログ値)を使用してもよく、実際に使用する軸受の特性を事前に計測して得られた計測値を使用してもよい。ただし、個々の製品の特性のバラつきを考慮すれば、計測値を使用することが精度の観点からは好ましい。
次にCPU711は、供試体電動機2における全損失、第1インバータ21における損失、及び供試体電動機2における銅損、鉄損、軸受損を表示部730に表示させる(ステップS405)。
CPU711は、損失情報生成処理の終了条件に合致するか否かを判定する(ステップS406)。終了条件は、例えば、ユーザからの終了指示を受け付けることである。終了条件に合致しない場合には(ステップS406においてNO)、CPU711はステップS401へと処理を戻す。終了条件に合致する場合には(ステップS406においてYES)、CPU711は、損失情報生成処理を終了する。
上記のような構成とすることにより、ユーザは、供試体電動機2の全損失、銅損、鉄損、軸受損、及び第1インバータ21における損失を評価することができる。このため、電動油圧駆動型ショベルの実機を用いて損失の評価試験を行う必要がなく、開発期間及びコストを低減することができる。
また、供試体電動機2の開発のために、電動油圧駆動型作業機械における電動機、油圧回路、及びリンク機構(剛体システム)の全ての動作を計算によって模擬する作業機械シミュレーション装置が用いられる。本実施の形態に係るHILSシステム400によって、かかる作業機械シミュレーション装置の性能を評価することができる。
<作業機械シミュレーション装置>
以下、作業機械シミュレーション装置の構成について説明する。
図18は、作業機械シミュレーション装置800の構成を示すブロック図である。作業機械シミュレーション装置800は、コンピュータ80によって実現される。図18に示すように、コンピュータ80は、本体810と、入力部820と、表示部830とを備えている。本体810は、CPU811、ROM812、RAM813、ハードディスク814、入出力インタフェース815、画像出力インタフェース816、及び通信インタフェース817を備えており、CPU811、ROM812、RAM813、ハードディスク814、入出力インタフェース815、画像出力インタフェース816、及び通信インタフェース817は、バスによって接続されている。
CPU811は、RAM813にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。作業機械シミュレーションプログラム810aを当該CPU811が実行することにより、コンピュータ80が作業機械シミュレーション装置800として機能する。
ハードディスク814は、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU811に実行させるための種々のコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いられるデータがインストールされている。作業機械シミュレーションプログラム810aも、このハードディスク814にインストールされている。
<作業機械シミュレーション>
次に、作業機械シミュレーションプログラム810aによる作業機械シミュレーションの内容について説明する。この作業機械シミュレーションでは、磁気飽和を考慮して永久磁石同期電動機の動作シミュレーション(以下、「電動機シミュレーション」という)を行う。
電動機シミュレーションの内容を説明する。図19は、永久磁石同期電動機の鉄損及びインバータの損失を考慮した永久磁石同期電動機のd軸の等価回路を示す図であり、図20は同じくq軸の等価回路を示す図である。
d軸等価回路の電圧方程式は次のように与えられる。
同様に、q軸等価回路の電圧方程式は次のように与えられる。
フレーリッヒの式を拡張し、d,q軸の時速を8つの変数で表現する磁束の数式モデルが提案されている(中津川潤之介他、「磁気飽和およびdq軸間干渉を考慮した永久磁石同期モータの数式モデルの提案」、電気学会論文誌D、Vol.130、No.11(2010)、pp.1212−1220を参照)。この数式モデルは、次式で与えられる。
式(30)、(31)において、
とおき、Ld,Lqが数値積分の区間時間内では一定値と仮定し、式(30)、(31)を時間で微分して式(25)、(28)に代入し、式(26)、(29)を式(24)、(25)、(27)、(28)に代入して整理すると次式のようになる。
式(35)〜(38)をマトリックス形式で表すと次式となる。
鉄損を考慮したトルクは次式で与えられる。
一方、電動機の運動方程式は次式で与えられる。
式(39)と式(41)を合わせてマトリックス形式で表すと次式となる。
上記のような電動機シミュレーションと、実施の形態1において述べた電動油圧駆動型作業機械の運動シミュレーションとを組み合わせる。具体的には、式(42)の関係を式(1)に組み込むことで、電動機、油圧回路、及びリンク機構の連成解析を行う。
なお、電動機の損失のうち、銅損WCは巻線抵抗Raを用いて次式で与えられる。
上記のような作業機械シミュレーション装置800は、磁気飽和を考慮することで、電動機の損失を含めた電動機の動作シミュレーションを行うことができる。また、上記のようにHILSシステム400によって供試体電動機2の損失を計算することができる。このため、HILSシステム400によって計算された供試体電動機2の損失と、作業機械シミュレーション装置800における電動機の損失のシミュレーション結果とを比較することで、作業機械シミュレーション装置800における電動機の損失のシミュレーション性能を評価することができる。
(その他の実施の形態)
なお、上述した実施の形態1乃至3においては、予め設定された目標回転速度にしたがって、供試体電動機2を制御する構成について述べたが、これに限定されるものではない。シミュレーション用計算機によって供試体電動機の目標トルクを制御量として算出し、この目標トルクを発生するように制御用計算機5が供試体電動機2を制御する構成としてもよい。また、シミュレーション用計算機によって電動油圧駆動型作業機械の運動シミュレーションを実行し、供試体電動機の目標回転速度を制御量として算出し、この目標回転速度で回転するように制御用計算機が供試体電動機を制御する構成とすることもできる。
また、上述した実施の形態においては、制御用計算機5と、シミュレーション用計算機6、600とを別々に設け、制御用計算機5によって供試体電動機2及び負荷生成電動機3の制御を行い、シミュレーション用計算機6、600によってリンク機構及び油圧回路の運動シミュレーションを行う構成について述べたが、これに限定されるものではない。1つの計算機によって、供試体電動機2及び負荷生成電動機3の制御処理と、リンク機構及び油圧回路の運動シミュレーション処理とを実行する構成とすることも可能である。しかし、HILSでは、供試体電動機のようなハードウェアのリアルタイム制御が必要なことから、リアルタイムの運動シミュレーションが必要であり、また、自動車、電車等と比べてリンク機構及び油圧回路の自由度が高いことから、運動シミュレーションに高い計算能力が要求される。このため、制御用計算機5とシミュレーション用計算機6、600とを別々に設けることが好ましい。
また、上述した実施の形態3においては、電力供給装置900が蓄電シミュレーション用計算機901と可変電源902とを備える構成について述べたが、これに限定されるものではない。蓄電装置として、蓄電池ではなく、キャパシタの動作シミュレーションを行う構成とすることも可能である。蓄電シミュレーション用計算機901に代えて、実際の蓄電池、キャパシタ等の蓄電装置を電力供給装置に設ける構成とすることも可能である。また、蓄電池の動作シミュレーションだけでなく、発電機のモデルを計算機に組み込み、発電機の動作シミュレーションを行うことも可能である。また、可変電源902に代えて、実際の電動油圧駆動型作業機械に搭載されるエンジンと発電機とを電力供給装置に設ける構成とすることも可能である。
また、上述した実施の形態においては、作業機械として電動油圧駆動型ショベルの動作シミュレーションを行うHILSシステムについて述べたが、これに限定されるものではない。油圧回路と電動機との電動油圧駆動型のホイールローダ、フォークリフト等、油圧回路によって駆動されるリンク機構を車体に搭載する電動油圧駆動型作業機械であれば、電動油圧駆動型ショベル以外のものをシミュレーション対象とすることも可能である。
また、上述した実施の形態においては、供試体電動機2を、電動油圧駆動型作業機械に搭載される電動機と同型のものとしたが、電動油圧駆動型作業機械に搭載される電動機に対応するものであれば、これに限定されるものではない。例えば、電動油圧駆動型作業機械に搭載される電動機そのものを供試体電動機として使用することも可能である。また、その時点で存在する電動油圧駆動型作業機械に搭載されていなくても、将来電動油圧駆動型作業機械に搭載される予定の電動機と同型のものを供試体電動機として使用することも可能である。電動油圧駆動型作業機械に搭載される電動機と厳密に同型のものでなくても、後継機種等、仕様が同等のものを供試体電動機として使用することもできる。