<時間相関カメラの基本構成>
本実施形態の検査システムについて説明する。第1の実施形態の検査システム1は、被検査体を検査するために様々な構成を備えている。図1は、本実施形態の検査システムの構成例を示した図である。図1に示されるように、本実施形態の検査システム1は、PC100と、時間相関カメラ110と、照明装置120と、スクリーン130と、移動機構140と、を備えている。時間相関カメラ110は、撮像部の一例である。
移動機構140は、被検査体150を固定するために用いられ、PC100からの制御に応じて、時間相関カメラ110が撮影可能な被検査体150の表面の位置と向きを変化させる。
照明装置120は、被検査体150に光を照射する装置であって、PC100からの縞パターンに従って、照射する光の強度を領域単位で制御できる。さらに、照明装置120は、周期的な時間の遷移に従って当該領域単位の光の強度を制御できる。換言すれば、照明装置120は、光の強度の周期的な時間変化および空間変化を与えることができる。なお、具体的な光の強度の制御手法については後述する。
スクリーン130は、照明装置120から出力された光を拡散させた上で、被検査体150に対して面的に光を照射する。本実施形態のスクリーン130は、照明装置120から入力された周期的な時間変化および空間変化が与えられた光を、面的に被検査体150に照射する。なお、照明装置120とスクリーン130との間には、集光用のフレネルレンズ等の光学系部品(図示されず)が設けられてもよい。
なお、本実施形態は、照明装置120とスクリーン130とを組み合わせて、光強度の周期的な時間変化および空間変化を与える面的な照射部を構成する例について説明するが、このような組み合わせに制限するものではなく、例えば、LEDを面的に配置して照明部を構成してもよい。
時間相関カメラ110は、光学系210と、イメージセンサ220と、データバッファ230と、制御部240と、参照信号出力部250と、を備えている。図2は、本実施形態の時間相関カメラ110の構成を示したブロック図である。
光学系210は、撮影レンズ等を含み、時間相関カメラ110の外部の被写体(被検査体を含む)からの光束を透過し、その光束により形成される被写体の光学像を結像させる。
イメージセンサ220は、光学系210を介して入射された光の強弱を光強度信号として画素毎に高速に出力可能なセンサとする。
本実施形態の光強度信号は、検査システムの照明装置120が被写体(被検査体を含む)に対して光を照射し、当該被写体からの反射光を、イメージセンサ220が受け取ったものである。
イメージセンサ220は、例えば従来のものと比べて高速に読み出し可能なセンサであり、行方向(x方向)、列方向(y方向)の2種類の方向に画素が配列された2次元平面状に構成されたものとする。そして、イメージセンサ220の各画素を、画素P(1,1),……,P(i,j),……,P(X,Y)とする(なお、本実施形態の画像サイズをX×Yとする。)。なお、イメージセンサ220の読み出し速度を制限するものではなく、従来と同様であってもよい。
イメージセンサ220は、光学系210によって透過された、被写体(被検査体を含む)からの光束を受光して光電変換することで、被写体から反射された光の強弱を示した光強度信号(撮影信号)で構成される、2次元平面状のフレームを生成し、制御部240に出力する。本実施形態のイメージセンサ220は、読み出し可能な単位時間毎に、当該フレームを出力する。
本実施形態の制御部240は、例えばCPU、ROM、およびRAM等で構成され、ROMに格納された検査プログラムを実行することで、転送部241と、読出部242と、強度画像用重畳部243と、第1の乗算器244と、第1の相関画像用重畳部245と、第2の乗算器246と、第2の相関画像用重畳部247と、画像出力部248と、を実現する。なお、CPU等で実現することに制限するものではなく、FPGA、またはASICで実現してもよい。
転送部241は、イメージセンサ220から出力された、光強度信号で構成されたフレームを、データバッファ230に、時系列順に蓄積する。
データバッファ230は、イメージセンサ220から出力された、光強度信号で構成されたフレームを、時系列順に蓄積する。
図3は、本実施形態の時間相関カメラ110で時系列順に蓄積されたフレームを表した概念図である。図3に示されるように、本実施形態のデータバッファ230には、時刻t(t=t0,t1,t2,……,tn)毎の複数の光強度信号G(1,1,t),……,G(i,j,t),……,G(X,Y,t)の組み合わせで構成された複数のフレームFk(k=1,2,……,n)が、時系列順に蓄積される。なお、時刻tで作成される一枚のフレームは、光強度信号G(1,1,t),……,G(i,j,t),……,G(X,Y,t)で構成される。
本実施形態の光強度信号(撮像信号)G(1,1,t),……,G(i,j,t),……,G(X,Y,t)には、フレーム画像Fk(k=1,2,……,n)を構成する各画素P(1,1),……,P(i,j),……,P(X,Y)が対応づけられている。
イメージセンサ220から出力されるフレームは、光強度信号のみで構成されており、換言すればモノクロの画像データとも考えることができる。なお、本実施形態は、解像度、感度、およびコスト等を考慮して、イメージセンサ220がモノクロの画像データを生成する例について説明するが、イメージセンサ220としてモノクロ用のイメージセンサに制限するものではなく、カラー用のイメージセンサを用いてもよい。
図2に戻り、本実施形態の読出部242は、データバッファ230から、光強度信号G(1,1,t),……,G(i,j,t),……,G(X,Y,t)をフレーム単位で、時系列順に読み出して、第1の乗算器244と、第2の乗算器246と、強度画像用重畳部243と、に出力する。
本実施形態の時間相関カメラ110は、読出部242の出力先毎に画像データを生成する。換言すれば、時間相間カメラ110は、3種類の画像データを作成する。
本実施形態の時間相関カメラ110は、3種類の画像データとして、強度画像データと、2種類の時間相関画像データと、を生成する。なお、本実施形態は、3種類の画像データを生成することに制限するものではなく、強度画像データを生成しない場合や、1種類又は3種類以上の時間相関画像データを生成する場合も考えられる。時間相関カメラ110は、時間相関画像生成部の一例である。
本実施形態のイメージセンサ220は、上述したように単位時間毎に、光強度信号で構成されたフレームを出力している。しかしながら、通常の画像データを生成するためには、撮影に必要な露光時間分の光強度信号が必要になる。そこで、本実施形態では、強度画像用重畳部243が、撮影に必要な露光時間分の複数のフレームを重畳して、強度画像データを生成する。なお、強度画像データの各画素値(光の強度を表す値)G(x,y)は、以下に示す式(1)から導き出すことができる。なお、露光時間は、t0とtnの時間差とする。
これにより、従来のカメラの撮影と同様に、被写体(被検査体を含む)が撮影された強度画像データが生成される。そして、強度画像用重畳部243は、生成した強度画像データを、画像出力部248に出力する。
時間相関画像データは、時間遷移に応じた光の強弱の変化を示す画像データである。つまり、本実施形態では、時系列順のフレーム毎に、当該フレームに含まれる光強度信号に対して、時間遷移を示した参照信号を乗算し、参照信号と光強度信号と乗算結果である時間相関値で構成された、時間相関値フレームを生成し、複数の時間相関値フレームを重畳することで、時間相関画像データを生成する。
ところで、時間相関画像データを用いて、被検査体の異常を検出するためには、イメージセンサ220に入力される光強度信号を、参照信号に同期させて変化させる必要がある。このために、照明装置120が、上述したように、スクリーン130を介して周期的に時間変化および縞の空間的な移動を与えるような、面的な光の照射を行うこととした。
本実施形態では、2種類の時間相関画像データを生成する。参照信号は、時間遷移を表した信号であればよいが、本実施形態では、複素正弦波e-jωtを用いる。なお、角周波数ω、時刻tとする。参照信号を表す複素正弦波e-jωtが、上述した露光時間(換言すれば強度画像データ、時間相関画像を生成するために必要な時間)の一周期と相関をとるように、角周波数ωが設定されるものとする。換言すれば、照明装置120およびスクリーン130等の照明部によって形成された面的かつ動的な光は、被検査体150の表面(反射面)の各位置で第一の周期(時間周期)での時間的な照射強度の変化を与えるとともに、表面に沿った少なくとも一方向に沿った第二の周期(空間周期)での空間的な照射強度の増減分布を与える。この面的な光は、表面で反射される際に、当該表面のスペック(法線ベクトルの分布等)に応じて複素変調される。時間相関カメラ110は、表面で複素変調された光を受光し、第一の周期の参照信号を用いて直交検波(直交復調)することにより、複素信号としての時間相関画像データを得る。このような複素時間相関画像データに基づく変復調により、表面の法線ベクトルの分布に対応した特徴を検出することができる。
複素正弦波e-jωtは、e-jωt=cos(ωt)−j・sin(ωt)と表すこともできる。従って、時間相関画像データの各画素値C(x,y)は、以下に示す式(2)から導き出すことができる。
本実施形態では、式(2)において、実数部を表す画素値C1(x,y)と、虚数部を表す画素値C2(x,y)と、に分けて2種類の時間相関画像データを生成する。
このため、参照信号出力部250は、第1の乗算器244と、第2の乗算器246と、に対してそれぞれ異なる参照信号を生成し、出力する。本実施形態の参照信号出力部250は、複素正弦波e-jωtの実数部に対応する第1の参照信号cosωtを第1の乗算器244に出力し、複素正弦波e-jωtの虚数部に対応する第2の参照信号sinωtを第2の乗算器246に出力する。このように本実施形態の参照信号出力部250は、互いにヒルベルト変換対をなす正弦波および余弦波の時間関数として表される2種類の参照信号を出力する例について説明するが、参照信号は時間関数のような時間遷移に応じて変化する参照信号であればよい。
そして、第1の乗算器244は、読出部242から入力されたフレーム単位で、当該フレームの光強度信号毎に、参照信号出力部250から入力された複素正弦波e-jωtの実数部cosωtを乗算する。
第1の相関画像用重畳部245は、撮影に必要な露光時間分の複数のフレームについて、第1の乗算器244の乗算結果を画素毎に重畳する処理を行う。これにより、第1の時間相関画像データの各画素値C1(x,y)が、以下の式(3)から導出される。
そして、第2の乗算器246は、読出部242から入力されたフレームの光強度信号に対して、参照信号出力部250から入力された複素正弦波e-jωtの虚数部sinωtを乗算する。
第2の相関画像用重畳部247は、撮影に必要な露光時間分の複数のフレームについて、第2の乗算器246の乗算結果を画素毎に重畳する処理を行う。これにより、第2の時間相関画像データの各画素値C2(x,y)が、以下の式(4)から導出される。
上述した処理を行うことで、2種類の時間相関画像データ、換言すれば2自由度を有する時間相関画像データを生成できる。
また、本実施形態は、参照信号の種類を制限するものではない。例えば、本実施形態では、複素正弦波e-jωtの実部と虚部の2種類の時間相関画像データを作成するが、光の振幅と、光の位相と、による2種類の画像データを生成してもよい。
なお、本実施形態の時間相関カメラ110は、時間相関画像データとして、複数系統分作成可能とする。これにより、例えば複数種類の幅の縞が組み合わされた光が照射された際に、上述した実部と虚部とによる2種類の時間相関画像データを、縞の幅毎に作成可能とする。このために、時間相関カメラ110は、2個の乗算器と2個の相関画像用重畳部とからなる組み合わせを、複数系統分備えるとともに、参照信号出力部250は、系統毎に適した角周波数ωによる参照信号を出力可能とする。
そして、画像出力部248が、2種類の時間相関画像データと、強度画像データと、をPC100に出力する。これにより、PC100が、2種類の時間相関画像データと、強度画像データと、を用いて、被検査体の異常を検出する。そのためには、被写体に対して光を照射する必要がある。
本実施形態の照明装置120は、高速に移動する縞パターンを照射する。図4は、本実施形態の照明装置120が照射する縞パターンの一例を示した図である。図4に示す例では、縞パターンをx方向にスクロール(移動)させている例とする。白い領域が縞に対応した明領域、黒い領域が縞と縞との間に対応した間隔領域(暗領域)である。
本実施形態では、時間相関カメラ110が強度画像データおよび時間相関画像データを撮影する露光時間で、照明装置120が照射する縞パターンを一周期分移動させる。これにより、照明装置120は、光の強度の縞パターンの空間的な移動により光の強度の周期的な時間変化を与える。本実施形態では、図4の縞パターンが一周期分移動する時間を、露光時間と対応させることで、時間相関画像データの各画素には、少なくとも、縞パターン一周期分の光の強度信号に関する情報が埋め込まれる。
図4に示されるように、本実施形態では、照明装置120が矩形波に基づく縞パターンを照射する例について説明するが、矩形波以外を用いてもよい。なお、照明光を拡散する拡散部材を用いることにより、矩形波の明暗の境界領域をぼかすことができる。スクリーン130は、拡散部材の一例である。
本実施形態では、照明装置120が照射する縞パターンをA(1+cos(ωt+kx)と表す。すなわち、縞パターンには、複数の縞が反復的に(周期的に)含まれる。なお、被検査体に照射される光の強度は0〜2Aの間で調整可能とし、光の位相をkxとする。kは、縞の波数である。xは、位相が変化する方向である。
そして、フレームの各画素の光強度信号f(x,y,t)の基本周波数成分は、以下の式(5)として表すことができる。式(5)で示されるように、x方向で縞の明暗が変化する。
f(x,y,t)=A(1+cos(ωt+kx))
=A+A/2{ej(ωt+kx)+e-j(ωt+kx)}……(5)
式(5)で示されるように、照明装置120が照射する縞パターンの強度信号は、複素数として考えることができる。
そして、イメージセンサ220には、当該照明装置120からの光が被写体(被検査体を含む)から反射して入力される。
したがって、イメージセンサ220に入力される光強度信号G(x,y,t)を、照明装置120が照射された際のフレームの各画素の光強度信号f(x,y,t)とできる。そこで、強度画像データを導出するための式(1)に式(5)を代入すると、式(6)を導出できる。なお、位相をkxとする。
式(6)から、強度画像データの各画素には、露光時間Tに、照明装置120が出力している光の強度の中間値Aを乗じた値が入力されていることが確認できる。さらに、時間相関画像データを導出するための式(2)に式(5)を代入すると、式(7)を導出できる。なお、AT/2を振幅とし、kxを位相とする。
これにより、式(7)で示された複素数で示された時間相関画像データは、上述した2種類の時間相関画像データと置き換えることができる。つまり、上述した実部と虚部とで構成される時間相関画像データには、被検査体に照射された光強度変化における位相変化と振幅変化とが含まれている。換言すれば、本実施形態のPC100は、2種類の時間相関画像データに基づいて、照明装置120から照射された光の位相変化と、光の振幅変化と、を検出できる。そこで、本実施形態のPC100が、時間相関画像データおよび強度画像データに基づいて、画素毎に入る光の振幅を表した振幅画像データと、画素毎に入る光の位相変化を表した位相画像データと、を生成する。
さらに、PC100は、生成した振幅画像データと位相画像データとに基づいて、被検査体の異常を検出する。
ところで、被検査体の表面形状に凹凸に基づく異常が生じている場合、被検査体の表面の法線ベクトルの分布には異常に対応した変化が生じている。また、被検査体の表面に光を吸収するような異常が生じている場合、反射した光の強度に変化が生じる。法線ベクトルの分布の変化は、光の位相変化および振幅変化のうち少なくともいずれか一つとして検出される。そこで、本実施形態では、時間相関画像データおよび強度画像データを用いて、法線ベクトルの分布の変化に対応した、光の位相変化および振幅変化のうち少なくともいずれか一つを検出する。これにより、表面形状の異常を検出可能となる。次に、被検査体の異常、法線ベクトル、および光の位相変化又は振幅変化の関係について説明する。
図5は、第1の実施形態の時間相関カメラ110による、被検査体の異常の第1の検出例を示した図である。図5に示される例では、被検査体500に突形状の異常501がある状況とする。当該状況においては、異常501の点502の近傍領域においては、法線ベクトル521、522、523が異なる方向を向いていることを確認できる。そして、当該法線ベクトル521、522、523が異なる方向を向いていることで、異常501から反射した光に拡散(例えば、光511、512、513)が生じ、時間相関カメラ110のイメージセンサ220の任意の画素531に入る縞パターンの幅503が広くなる。
図6は、図5に示される異常501が被検査体500にある場合に、当該異常に応じて変化する、光の振幅の例を表した図である。図6に示される例では、光の振幅を実部(Re)と、虚部(Im)に分けて2次元平面上に表している。図6では、図5の光511、512、513に対応する光の振幅611、612、613として示している。そして、光の振幅611、612、613は互いに打ち消し合い、イメージセンサ220の当該任意の画素531には、振幅621の光が入射する。
したがって、図6に示される状況で、検査体500の異常501が撮像された領域で振幅が小さいことが確認できる。換言すれば、振幅変化を示した振幅画像データで、周囲と比べて暗くなっている領域がある場合に、当該領域で光同士の振幅の打ち消し合いが生じていると推測できるため、当該領域に対応する被検査体500の位置で異常501が生じていると判断できる。
本実施形態の検査システム1は、図5の異常501のように傾きが急峻に変化しているものに限らず、緩やかに変化する異常も検出できる。図7は、第1の実施形態の時間相関カメラ110による、被検査体の異常の第2の検出例を示した図である。図7に示される例では、正常な場合は被検査体の表面が平面(換言すれば法線が平行)となるが、被検査体700に緩やかな勾配701が生じた状況とする。このような状況においては、勾配701上の法線ベクトル721、722、723も同様に緩やかに変化する。したがって、イメージセンサ220に入力する光711、712、713も少しずつずれていく。図7に示される例では、緩やかな勾配701のために光の振幅の打ち消し合いは生じないため、図5、図6で表したような光の振幅はほとんど変化しない。しかしながら、本来照明装置120およびスクリーン130から投影された光が、そのままイメージセンサに平行に入るはずが、緩やかな勾配701のために、照明装置120およびスクリーン130から投影された光が平行の状態でイメージセンサに入らないために、光に位相変化が生じる。従って、光の位相変化について、周囲等との違いを検出することで、図7に示したような緩やかな勾配701による異常を検出できる。
また、被検査体の表面形状(換言すれば、被検査体の法線ベクトルの分布)以外にも異常が生じる場合がある。図8は、第1の実施形態の時間相関カメラ110による、被検査体の異常の第3の検出例を示した図である。図8に示される例では、被検査体800に汚れ801が付着しているため、照明装置120から照射された光が吸収あるいは拡散反射し、時間相関カメラ110の、汚れ801を撮影している任意の画素領域では光がほとんど強度変化しない例を表している。換言すれば、汚れ801を撮影している任意の画素領域では、光強度は位相打ち消しを起こし振動成分がキャンセルされ、ほとんど直流的な明るさになる例を示している。
このような場合、汚れ801を撮影している画素領域においては、光の振幅がほとんどないため、振幅画像データを表示した際に、周囲と比べて暗くなる領域が生じる。したがって、当該領域に対応する被検査体800の位置に、汚れ等の異常801があることを推定できる。
このように、本実施形態では、時間相関画像データに基づいて、光の振幅の変化と、光の位相の変化と、を検出することで、被検査体に異常があることを推定できる。
図1に戻り、PC100について説明する。PC100は、検出システム全体の制御を行う。PC100は、移動機構制御部101と、発光制御部102と、制御部103と、記憶部109と、を備える。記憶部109は、演算処理に用いられるデータや、演算処理結果等を記憶する。
移動機構制御部101は、被検査体150の時間相関カメラ110による撮像対象となる表面を変更するために、移動機構140を制御する。移動機構140は、例えば、ロボットアームである。本実施形態では、PC100において、被検査体150の撮影対象となる表面を複数設定しておく。そして、時間相関カメラ110が被検査体150の撮影が終了する毎に、移動機構制御部101が、当該設定に従って、時間相関カメラ110が設定された表面を撮影できるように、移動機構140が被検査体150を移動させる。なお、本実施形態は撮影が終了する毎に移動機構140を移動させ、撮影が開始する前に停止させることを繰り返すことに制限するものではなく、継続的に移動機構140を駆動させてもよい。なお、移動機構140は、搬送部、移動部、把持部、位置変更部、姿勢変更部等とも称されうる。
発光制御部102は、被検査体150を検査するために照明装置120が照射する縞パターンを出力する。本実施形態の発光制御部102は、少なくとも3枚以上の縞パターンを、照明装置120に受け渡し、当該縞パターンを露光時間中に切り替えて表示するように照明装置120に指示する。発光制御部102は、照明制御部とも称されうる。
図9は、発光制御部102が照明装置120に出力する縞パターンの例を示した図である。図9(B)に示す矩形波に従って、図9(A)に示す黒領域と白領域とが設定された縞パターンが出力されるように、発光制御部102が制御を行う。
本実施形態で照射する縞パターン毎の縞の間隔は、検出対象となる異常(欠陥)の大きさに応じて設定されるものとしてここでは詳しい説明を省略する。
また、縞パターンを出力するための矩形波の角周波数ωは、参照信号の角周波数ωと同じ値とする。
図9に示されるように、発光制御部102が出力する縞パターンは、矩形波として示すことができるが、スクリーン130(拡散部材)を介することで、縞パターンの境界領域をぼかす、すなわち、縞パターンにおける明領域(縞の領域)と暗領域(間隔の領域)との境界での光の強度変化を緩やかにする(鈍らせる)ことで、正弦波に近似させることができる。図10は、スクリーン130を介した後の縞パターンを表した波の形状の例を示した図である。図10に示されるように波の形状が、正弦波に近づくことで、計測精度を向上させることができる。また、縞に明度が多段階に変化するグレー領域を追加したり、グラデーションを与えたりしてもよい。また、カラーの縞を含む縞パターンを用いてもよい。
図1に戻り、制御部103は、振幅−位相画像生成部104と、異常検出処理部105と、を備え、時間相関カメラ110から入力された強度画像データと、時間相関画像データと、により、被検査体150の検査面の法線ベクトルの分布と対応した特徴であって、周囲との違いによって異常を検出する特徴を算出するための処理を行う。なお、本実施形態は、検査を行うために、複素数で示した時間相関画像データ(複素時間相関画像データと称す)の代わりに、複素数相関画像データの実部と虚部とで分けた2種類の時間相関画像データを、時間相関カメラ110から受け取る。振幅−位相画像生成部104(制御部103)は、演算処理部の一例である。異常検出処理部105は、異常判別部の一例である。
振幅−位相画像生成部104は、時間相関カメラ110から入力された強度画像データと、時間相関画像データと、に基づいて、振幅画像データと、位相画像データと、を生成する。
振幅画像データは、画素毎に入る光の振幅を表した画像データとする。位相画像データは、画素毎に入る光の位相を表した画像データとする。
本実施形態は振幅画像データの算出手法を制限するものではないが、例えば、振幅−位相画像生成部104は、2種類の時間相関画像データの画素値C1(x,y)およびC2(x,y)から、式(8)を用いて、振幅画像データの各画素値F(x,y)を導き出せる。
そして、本実施形態では、振幅画像データの画素値(振幅)と、強度画像データの画素値と、に基づいて、異常が生じている領域があるか否かを判定できる。例えば、強度画像データの画素値(AT)を2で除算した値と、振幅画像データの振幅(打ち消し合いが生じない場合にはAT/2となる)と、がある程度一致する領域は異常が生じていないと推測できる。一方、一致していない領域については、振幅の打ち消し合いが生じていると推測できる。なお、具体的な手法については後述する。
同様に、振幅−位相画像生成部104は、画素値C1(x,y)およびC2(x,y)から、式(9)を用いて、位相画像データの各画素値P(x,y)を導き出せる。
異常検出処理部105は、振幅−位相画像生成部104により生成された振幅画像データ、および位相画像データにより、検査対称面の法線ベクトルの分布と対応した特徴であって、周囲との違いによって、被検査体150の異常に関連する特徴を検出する。本実施形態では、法線ベクトルの分布に対応した特徴として、複素時間相関画像の振幅の分布を用いた例について説明する。なお、複素時間相関画像の振幅の分布とは、複素時間相関画像の各画素の振幅の分布を示したデータであり、振幅画像データに相当する。
次に、本実施形態の異常検出処理部105における振幅に基づく異常検出処理について説明する。図11は、本実施形態の異常検出処理部105における当該処理の手順を示すフローチャートである。
まず、異常検出処理部105は、振幅画像データの各画素に格納された、光の振幅値(を表した画素値)から、当該画素を基準(例えば中心)として、N×N領域の平均振幅値を減算し(ステップS1101)、振幅の平均差分画像データを生成する。振幅の平均差分画像データは、振幅の勾配に対応する。なお、整数Nは実施の態様に応じて適切な値が設定されるものとする。
次に、異常検出処理部105は、減算により生成された振幅の平均差分画像データに対して、予め定められた振幅の閾値を用いたマスク処理を行う(ステップS1102)。
さらに、異常検出処理部105は、平均差分画像データのマスク領域内について画素毎に標準偏差を算出する(ステップS1103)。なお、本実施形態では、標準偏差に基づいた手法について説明するが、標準偏差を用いた場合に制限するものではなく、例えば平均値等を用いてもよい。
そして、異常検出処理部105は、平均を引いた振幅画素値が−4.5σ(σ:標準偏差)より小さい値の画素を、異常(欠陥)がある領域として検出する(ステップS1104)。
上述した処理手順により、各画素の振幅値(換言すれば、振幅の分布)から、被検査体の異常を検出できる。しかしながら、本実施形態は、複素時間相関画像の振幅の分布から異常を検出することに制限するものではない。検査対称面の法線ベクトルの分布と対応した特徴として、位相の分布の勾配を用いてもよい。そこで、次に位相の分布の勾配を用いた例について説明する。
次に、本実施形態の異常検出処理部105における位相に基づく異常検出処理について説明する。図12は、本実施形態の異常検出処理部105における当該処理の手順を示すフローチャートである。
まず、異常検出処理部105は、位相画像データの画素毎の光の位相値(を表した画素値)から、当該画素を基準(例えば中心)として、N×N領域の平均位相値を減算し(ステップS1201)、位相の平均差分画像データを生成する。位相の平均差分画像データは、位相の勾配に対応する。
次に、異常検出処理部105は、減算により生成された位相の平均差分画像データの大きさ(絶対値)と、閾値とを比較し、平均差分画像データの大きさが閾値以上となる画素を、異常(欠陥)のある画素として検出する(ステップS1202)。
このS1202の検出結果により、異常検出処理部105は、平均差分画像データの正負、すなわち、画素の位相値と平均位相値との大小関係によって、凹凸を判別することができる(ステップS1203)。画素の位相値と平均位相値とのどちらが大きい場合に凸となるかは、各部の設定によって変化するが、大小関係が異なると、凹凸が異なる。
なお、他の手法によって得られた位相の分布の勾配から、異常を検出することができる。例えば、異常検出処理部105は、別の手法として、正規化された時間相関画像データのN×Nの領域の平均ベクトルと、正規化された各画素のベクトルとの差の大きさが、閾値よりも大きい場合に、異常(欠陥)がある画素として検出することができる。また、位相の分布の勾配に限られず、位相の分布に対応する情報に基づいて被検査体の異常を検出すればよい。
次に、本実施形態の異常検出処理部105における振幅および強度に基づく異常検出処理について説明する。図13は、本実施形態の異常検出処理部105における当該処理の手順を示すフローチャートである。
まず、異常検出処理部105は、時間相関画像データと強度画像データとから、各画素について、次の式(100)を用いて、振幅(を表す画素値)C(x,y)(式(7)参照)と強度(を表す画素値)G(x,y)(式(6)参照)との比R(x,y)を算出する(ステップS1301)。
R(x,y)=C(x,y)/G(x,y)……(100)
次に、異常検出処理部105は、比R(x,y)と閾値とを比較し、比R(x,y)の値が対応する閾値以下となる画素を、異常(欠陥)のある画素として検出する(ステップS1302)。また、異常検出処理部105は、比R(x,y)と閾値とを比較し、比R(x,y)の値が対応する別の閾値以上となる画素を、ムラ(汚れ等)のある画素として検出する(ステップS1303)。法線ベクトルの分布の異常により、振幅の打ち消し合い(減殺)が顕著となった場合には、強度に比べて振幅がより大きく下がる。一方、法線ベクトルの分布にはそれほどの異常は無いものの被検査体150の表面の汚れ等によって光の吸収が顕著となった場合には、振幅に比べて強度がより大きく下がる。よって、異常検出処理部105は、ステップS1302およびステップS1303による異常種別の検出が可能となる。
次に、本実施形態の検査システムにおける被検査体の検査処理について説明する。図14は、本実施形態の検査システムにおける上述した処理の手順を示すフローチャートである。なお、被検査体150は、すでに移動機構140に固定された状態で、検査の初期位置に配置されているものとする。
本実施形態のPC100が、照明装置120に対して、被検査体を検査するための縞パターンを出力する(ステップS1401)。
照明装置120は、PC100から入力された縞パターンを格納する(ステップS1421)。そして、照明装置120は、格納された縞パターンを、時間遷移に従って変化するように表示する(ステップS1422)。なお、照明装置120が表示を開始する条件は、縞パターンが格納された際に制限するものではなく、例えば検査者が照明装置120に対して開始操作を行った際でもよい。
そして、PC100の制御部103が、時間相関カメラ110に対して、撮影の開始指示を送信する(ステップS1402)。
次に、時間相関カメラ110が、送信されてきた撮影指示に従って、被検査体150を含む領域について撮像を開始する(ステップS1411)。次に、時間相関カメラ110の制御部240が、強度画像データと、時間相関画像データと、を生成する(ステップS1412)。そして、時間相関カメラ110の制御部240が、強度画像データと、時間相関画像データと、を、PC100に出力する(ステップS1413)。
PC100の制御部103は、強度画像データと、時間相関画像データと、を受け取る(ステップS1403)。そして、振幅−位相画像生成部104は、受け取った強度画像データと時間相関画像データとから、振幅画像データと、位相画像データとを生成する(ステップS1404)。
そして、異常検出処理部105が、振幅画像データと、位相画像データとに基づいて、被検査体の異常検出制御を行う(ステップS1405)。そして、異常検出処理部105は、異常検出結果を、PC100が備える(図示しない)表示装置に出力する(ステップS1406)。
異常検出結果の出力例としては、強度画像データを表示するとともに、振幅画像データと位相画像データとに基づいて異常が検出された領域に対応する、強度画像データの領域を、検査者が異常を認識できるように装飾表示するなどが考えられる。また、視覚に基づく出力に制限するものではなく、音声等で異常が検出されたことを出力してもよい。
制御部103は、当該被検査体の検査が終了したか否かを判定する(ステップS1407)。検査が終了していないと判定した場合(ステップS1407:No)、移動機構制御部101が、予め定められた設定に従って、次の検査対象となる被検査体の表面が、時間相関カメラ110で撮影できるように、アームの移動制御を行う(ステップS1408)。アームの移動制御が終了した後、制御部103が、再び時間相関カメラ110に対して、撮影の開始指示を送信する(ステップS1402)。
一方、制御部103は、当該被検査体の検査が終了したと判定した場合(ステップS1407:Yes)、終了指示を時間相関カメラ110に対して出力し(ステップS1409)、処理を終了する。
そして、時間相関カメラ110は、終了指示を受け付けたか否かを判定する(ステップS1414)。終了指示を受け付けていない場合(ステップS1414:No)、再びステップS1411から処理を行う。一方、終了指示を受け付けた場合(ステップS1414:Yes)、処理を終了する。
なお、照明装置120の終了処理は、検査者が行ってもよいし、他の構成からの指示に従って終了してもよい。
また、本実施形態では、時間相関カメラ110を用いて生成された強度画像データと、時間相関画像データと、を生成する例について説明した。しかしながら、強度画像データと、時間相関画像データと、を生成するために時間相関カメラ110を用いることに制限するものではなく、アナログ的な処理で実現可能な時間相関カメラや、それと等価な動作をする撮像システムを用いてもよい。例えば、通常のデジタルスチルカメラが生成した画像データを出力し、情報処理装置が、デジタルスチルカメラが生成した画像データを、フレーム画像データとして用いて参照信号を重畳することで、時間相関画像データを生成してもよいし、イメージセンサ内で光強度信号に参照信号を重畳するようなデジタルカメラを用いて、時間相関画像データを生成してもよい。
(変形例1)
本実施形態では、周囲との違いに基づいて、異常に関連する特徴を検出する例について説明したが、周囲との違いに基づいて当該特徴を検出することに制限するものではなく、参照形状のデータ(参照データ、例えば、時間相関データや、振幅画像データ、位相画像データ等)との差異に基づいて当該特徴を検出してもよい。この場合、参照データの場合とで、空間位相変調照明(縞パターン)の位置合わせおよび同期が必要となる。
本変形例では、異常検出処理部105が、予め記憶部109に記憶された、参照表面から得られた振幅画像データおよび位相画像データと、被検査体150の振幅画像データおよび位相画像データと、を比較し、被検査体150の表面と参照表面との間で、光の振幅および光の位相とのうちいずれか一つ以上について所定の基準以上の違いがあるか否かを判定する。
本変形例は、第1の実施形態と同じ構成の検査システムを用い、参照表面として正常な被検査体の表面を用いる例とする。
照明装置120がスクリーン130を介してパターンを照射している間に、時間相関カメラ110が、正常な被検査体の表面を撮像し、時間相関画像データを生成する。そして、PC100が、時間相関カメラ110で生成された時間相関画像データを入力し、振幅画像データおよび位相画像データを生成し、PC100の記憶部109に振幅画像データおよび位相画像データを記憶させておく。そして、時間相関カメラ110が、異常が生じているか否かを判定したい被検査体を撮像し、時間相関画像データを生成する。そして、PC100が、時間相関画像データから、振幅画像データおよび位相画像データを生成した後、記憶部109に記憶されていた、正常な被検査体の振幅画像データおよび位相画像データと比較する。その際に、正常な被検査体の振幅画像データおよび位相画像データと、検査対象の被検査体の振幅画像データおよび位相画像データと、の比較結果を、異常を検出する特徴を示したデータとして出力する。そして、異常を検出する特徴が、当該所定の基準以上の場合に、被検査体150に対して異常があると推測できる。
これにより、本変形例では、正常な被検査体の表面と差異が生じているか否かを、換言すれば、被検査体の表面に異常が生じているか否かを判定できる。なお、振幅画像データおよび位相画像データの比較手法は、どのような手法を用いてもよいので、説明を省略する。
さらに、本変形例では参照表面との違いに基づいて、異常を検出する特徴を示したデータを出力する例について説明したが、参照表面との違いと、第1の実施形態で示した周囲との違いと、を組み合わせて、異常を検出する特徴を算出してもよい。組み合わせる手法は、どのような手法を用いてもよいので、説明を省略する。
(変形例2)
第1の実施形態では、x方向に縞パターンを動かして、被検査体の異常(欠陥)を検出する例について説明した。しかしながら、x方向に垂直なy方向で急峻に法線の分布が変化する異常(欠陥)が被検査体に生じている場合、x方向に縞パターンを動かすよりも、y方向に縞パターンを動かす方が欠陥の検出が容易になる場合がある。そこで、変形例では、x方向に移動する縞パターンと、y方向に移動する縞パターンとを、交互に切り替える例について説明する。
本変形例の発光制御部102は、所定の時間間隔毎に、照明装置120に出力する縞パターンを切り替える。これにより、照明装置120は、一つの検査面に対して、異なる方向に延びた複数の縞パターンを出力する。
図15は、本変形例の発光制御部102が出力する縞パターンの切り替え例を示した図である。図15の(A)では、発光制御部102は、照明装置120が表示する縞パターンをx方向に遷移させる。その後、(B)に示されるように、発光制御部102は、照明装置120が表示する縞パターンをy方向に遷移させる。
そして、PC100の制御部103は、図15の(A)の縞パターン照射から得られた時間相関画像データに基づいて、異常検出を行い、図15の(B)の縞パターン照射から得られた時間相関画像データに基づいて、異常検出を行う。
図16は、本変形例の発光制御部102が、異常(欠陥)1601を含めた表面に縞パターンを照射した例を示した図である。図16に示す例では、異常(欠陥)1601が、x方向に延びている。この場合、発光制御部102は、x方向に交差するy方向、換言すれば異常(欠陥)1601の長手方向に交差する方向に縞パターンが移動するように設定する。当該設定により、検出精度を向上させることができる。
図17は、y方向、換言すれば欠陥1701の長手方向に直交する方向に縞パターンを変化させた場合における、異常(欠陥)1701と照明装置120上の縞パターンの関係を示した図である。図17に示されるように、y方向に幅が狭く、且つ当該y方向に交差するx方向を長手方向とする異常(欠陥)1701が生じている場合、照明装置120から照射された光は、x方向に交差するy方向で光の振幅の打ち消しが大きくなる。このため、PC100では、y方向に移動させた縞パターンに対応する振幅画像データから、当該異常(欠陥)を検出できる。
本変形例の検査システムにおいて、被検査体に生じる欠陥の長手方向がランダムな場合には、複数方向(例えば、x方向、および当該x方向に交差するy方向等)で縞パターンを表示することで、欠陥の形状を問わずに当該欠陥の検出が可能となり、異常(欠陥)の検出精度を向上させることができる。また、異常の形状に合わせた縞パターンを投影することで、異常の検出精度を向上させることができる。
(変形例3)
また、上述した変形例2は、x方向の異常検出と、y方向の異常検出と、を行う際に、縞パターンを切り替える手法に制限するものでない。そこで、変形例3では、発光制御部102が照明装置120に出力する縞パターンをx方向およびy方向に同時に動かす例について説明する。
図18は、本変形例の発光制御部102が照明装置120に出力する縞パターンの例を示した図である。図18に示される例では、発光制御部102が縞パターンを、方向1801に移動させる。
図18に示される縞パターンは、x方向では1周期1802の縞パターンを含み、y方向では一周期1803の縞パターンを含んでいる。つまり、図18に示される縞パターンは、幅が異なる交差する方向に延びた複数の縞を有している。なお、x方向の縞パターンの幅と、y方向の縞パターンの幅と、を異ならせる必要がある。これにより、x方向に対応する時間相関画像データと、y方向に対応する時間相関画像データと、を生成する際に、対応する参照信号を異ならせることができる。なお、縞パターンによる光の強度の変化の周期(周波数)が変化すればよいので、縞の幅を変化させるのに代えて、縞パターン(縞)の移動速度を変化させてもよい。
そして、時間相関カメラ110が、x方向の縞パターンに対応する参照信号に基づいて、x方向の縞パターンに対応する時間相関画像データを生成し、y方向の縞パターンに対応する参照信号に基づいて、y方向の縞パターンに対応する時間相関画像データを生成する。その後、PC100の制御部103は、x方向の縞パターンに対応する時間相関画像データに基づいて、異常検出を行った後、y方向の縞パターンに対応する時間相関画像データに基づいて、異常検出を行う。これにより、本変形例では、欠陥の生じた方向を問わずに検出が可能となり、異常(欠陥)の検出精度を向上させることができる。
<サイズに基づく異常判定>
図1に示すように、制御部103は、異常サイズ検出部106を有する。異常サイズ検出部106は、異常検出処理部105で検出された異常領域の、少なくとも縞パターンの移動方向におけるサイズを検出あるいは算出する。
また、図1に示すように、PC100には、記憶部109が含まれている。記憶部109には、異常検出処理部105や異常サイズ検出部106等での演算処理に必要なパラメータの値等が記憶されている。パラメータは、例えば、数値や、テーブル、マップ、関数(関数の係数)等である。
図19には、被検査体150(検査対象物)の検査面150a(検査面)が平面である場合における、時間相関カメラ110で撮像される縞パターンSpの一例が示されている。図19から、時間相関カメラ110で撮像される縞パターンSp上での位置は、検査面150a上での位置と対応している(相関関係がある)ことが理解できよう。また、時間相関カメラ110で撮影される正常領域の位相と縞パターンSpとの間には相関関係がある。したがって、異常サイズ検出部106は、位相画像データから、画像処理によって、異常領域の検査面150a上での位置や大きさを取得することができる。
また、図20には、被検査体150(検査対象物)の検査面150a(検査面)が曲面(凸面)である場合における、時間相関カメラ110で撮像される縞パターンSpの一例が示されている。図20から、検査面150aが曲面(凸面)である場合には、スクリーン130のより広い領域からの光が検査面150aで反射して時間相関カメラ110に入射する。よって、図19と比較すれば、検査面150aが曲面(凸面)である場合における、時間相関カメラ110で撮像される縞パターンSpの縞の幅は、検査面150aが平面である場合に比べて狭いことが理解できよう。このような状況で、異常サイズ検出部106が、図19に示される平面状の検査面150aと同じ演算処理で異常領域の検査面150a上での位置や大きさを取得すると、当該異常領域のサイズがより大きく誤検出されてしまうことが理解できよう。
そこで、本実施形態では、異常サイズ検出部106は、比較的簡単な演算処理の一例としては、検査面150aの場所、例えば撮像領域(検査領域、検査範囲、検査位置)に応じて、位相画像データの画像処理によって異常領域の検査面150aでの位置や大きさを取得する際の倍率(比率、スケール)を、変更する。これにより、異常サイズ検出部106は、位相画像データから、より精度良く、異常領域の位置や大きさを取得することができる。倍率のデータは、例えば、記憶部109に記憶される。異常サイズ検出部106は、記憶部109から、検査面150aの位置に対応した倍率を取得し、当該倍率を乗算したより精度の高い異常領域のサイズを算出することができる。
なお、検査面150aが凹面である場合には、時間相関カメラ110で撮像される縞パターンSpの幅は、検査面150aが平面である場合よりも広い。また、時間相関カメラ110で撮像される縞パターンSpの幅は、検査面150aが平面であるか否かによらず、時間相関カメラ110、スクリーン130、および検査面150aの位置や、距離、姿勢、角度等によっても変化する。本実施形態における倍率を用いた異常領域のサイズの算出は、このような、時間相関カメラ110で撮像される縞パターンSpの幅が互いに異なる種々の状況に適用することができ、同様の効果を得ることができる。すなわち、本実施形態によれば、倍率(比率、スケール)の設定により、時間相関カメラ110で撮像された画像において、時間相関カメラ110、スクリーン130、および検査面150aの位置や、距離、姿勢、角度、曲率等によって生じる、位相(周期)のスケールと、縞パターンが移動する方向の検査面150aのスケールとの差を考慮して、正常領域の位相分布から、より容易にかつより精度良く、異常領域のサイズを取得することができる。
また、図20に例示されるように、縞パターンの移動方向(図20の左右方向)に沿った検査面150a上の各位置での法線ベクトルnの変化率、すなわち、検査面150aの曲率あるいは曲率半径の変化率が、一定の場合にあっては、時間相関カメラ110で撮像される縞パターンSpの縞の幅は一定となる。しかしながら、縞パターンの移動方向に沿った検査面150a上の各位置での法線ベクトルnの変化率、すなわち、検査面150aの曲率あるいは曲率半径の変化率が、縞パターンの移動方向に沿って変化するような場合にあっては、時間相関カメラ110で撮像される縞パターンSpの縞の幅は、当該変化率に応じて、変化する。すなわち、時間相関カメラ110に撮像される縞パターンSpの幅は、場所によって異なる。本実施形態では、このような場合にもより精度良く異常領域のサイズを取得するため、例えば、記憶部109は、位相の変化率に対応した係数を、数値や、マップ、テーブル、あるいは関数(の係数)等として記憶し、異常サイズ検出部106は、異常領域の両端の画素のそれぞれに対応した位相の変化率を取得する。ここに、位相の変化率は、異常領域の両端の画素のそれぞれの位相の変化率ではなく、当該異常領域の両端の画素のそれぞれに対応した正常領域の画素の、縞パターンの移動方向における位相の変化率である。そして、異常サイズ検出部106は、それら二つの位相の変化率の平均値、すなわち、位相の平均変化率を算出して、当該平均値(位相の平均変化率)に対応した倍率を算出する。ここで、異常領域の一端の画素の位相変化率は、当該一端の画素に対して縞パターンの移動方向との直交方向に隣接した正常領域の画素の位相変化率である。また、異常領域の他端の画素の位相変化率は、当該他端の画素に対して縞パターンの移動方向との直交方向に隣接した正常領域の画素の位相変化率である。あるいは、この位相変化率に替えて、異常領域に縞パターンの移動方向との直交方向に隣接した正常領域の区間における位相の平均変化率が用いられてもよい。なお、このような演算は一例であって、他のアルゴリズムで倍率を算出してもよい。
図21には、検査システム1による、検査面150aの検査の手順の一例が示されている。まず、移動機構制御部101は、移動機構140を制御して、被検査体150を所定の位置に移動させる。これにより、検査面150aにおける撮像領域が移動する。換言すれば、S11により、撮像領域が切り替わる(S11)。図23には、一つの被検査体150の検査面150aに設定された複数の撮像領域P1〜P14が例示されている。このように、一つの検査面150aには、複数の撮像領域P1〜P14が設定されうる。検査システム1により、撮像領域P1〜P14がそれぞれ検査される。S11では、移動機構140は、被検査体150を、複数の撮像領域P1〜P14のうちのいずれか一つの検査を行うための位置および姿勢に移動する。撮像領域は、検査領域や、検査範囲、検査位置等とも称されうる。
次に、異常サイズ検出部106は、記憶部109を参照し、検査を行う撮像領域に対応した倍率を取得する(S12)。記憶部109には、複数の撮像領域P1〜P14のそれぞれに対応した倍率が予め取得され、記憶されている。
次に、時間相関カメラ110は、撮像領域を撮像し、複素時間相関画像データを取得する(S13)。振幅−位相画像生成部104は、複素時間相関画像データから、位相画像データを算出する。
次に、異常検出処理部105は、位相画像データ、すなわち検査面150aの撮像領域における位相分布から、周囲との位相差が所定値より大きい画素(領域)を異常領域として検出する。これにより、検査面150aの撮像領域における正常領域と異常領域とが判別される(S14)。なお、S14で、異常検出処理部105は、位相のリファレンスデータとの比較により、正常領域と異常領域とを判別してもよい。この場合、位相のリファレンスデータとの差異が所定の閾値よりも大きい画素(領域)が異常領域と判別される。
次に、異常サイズ検出部106は、正常領域の位相分布に基づいて、異常領域のサイズを算出する(S15)。図22には、位相画像データの一例が示されている。位相画像データImには、正常領域の位相画像データImnと、異常領域の位相画像データImeとが含まれている。図22の例では、正常領域における位相は、縞パターンの移動方向(図22の左右方向)に沿ってθ1(−π)からθ2(+π)に変化し、θ2(−π)からθ3(+π)に変化し、θ3(−π)からθ4(+π)に変化し、またθ4(−π)からθ5(+π)に変化している。図22の例では、−πが黒で示され、+πが白で示され、−πと+πとの間の位相がグラデーションで示されている。図22の例では、便宜上、正常領域Imn中では、上下方向(縦方向)には位相は変化せず(同じであり)、左右方向に一定の変化率で位相が変化している。なお、異常領域Imeは、便宜上、黒で示されているが、実際には、各画素の位置での位相に応じた濃さ(輝度)になる。異常領域Imeは、S14において、その周辺部位との位相差が所定値よりも大きい領域である。この場合、S15において、異常サイズ検出部106は、異常領域(Ime)の縞パターンの移動方向での両端部における、正常領域(Imn)中での位相θ21,θ22を検出し、記憶部109を参照して、これら位相の差分の絶対値|θ22−θ21|に対応したサイズを取得する。なお、このアルゴリズムは、図22以外の例にも同様に適用できる。
次に、異常サイズ検出部106は、S15で算出された異常領域のサイズに、S12で取得された倍率を乗算して、異常領域のサイズを補正する(S16)。そして、異常検出処理部105は、異常領域のサイズに基づいた不良判定(良否判定)を行う(S17)。具体的に、S17では、補正された異常領域のサイズが、所定の閾値よりも大きかった場合には、当該異常領域を不良と判定し、補正された異常領域のサイズが、所定の閾値よりも小さかった場合には、当該異常領域を正常と判定する。S17まで終了すると、S11に戻り、次の検査領域について、図21の手順で同様の処理が実行される。
以上、説明したように、本実施形態では、異常サイズ検出部106は、異常領域に隣接した正常領域における、異常領域と対応する区間の位相の分布に基づいて、異常領域のサイズを検出あるいは算出する。縞パターンの移動方向における異常領域のサイズは、正常領域における当該異常領域の両端に対応する区間の位相差が大きいほど大きい。すなわち、異常領域の縞パターンの移動方向のサイズは、正常領域の位相の分布から、検出されうる。よって、本実施形態によれば、位相画像データに基づく比較的簡単な演算処理によって、異常領域のサイズを取得することができる。
また、本実施形態では、異常サイズ検出部106は、検査面150aの位置に応じて、サイズを補正する倍率(比率、スケール)を変更する。よって、本実施形態によれば、より精度良く、異常領域のサイズを取得することができる。
また、本実施形態では、異常サイズ検出部106は、正常領域の位相の変化率に応じて、サイズを補正する倍率を変更する。よって、本実施形態によれば、より精度良く、異常領域のサイズを取得することができる。
<サイズ補正の変形例>
図24,25に示されるサイズ補正の変形例では、発光制御部102は、検査面150aに応じて、縞パターンを変更する。具体的には、図20に示されたのと同様の曲面(凸面)状の検査面150aを検査する場合にあっては、図24に示すように、発光制御部102は、縞パターンの幅を広げる。図19,20,24を比較すれば明らかとなるように、図24のように縞パターンの幅を広げることにより、時間相関カメラ110によって、検査面150aが平面の場合と同様の幅の縞パターンが撮影される。すなわち、図19の場合と図24の場合とで、撮像された画像における、位相(周期)のスケールと、検査面150aの縞パターンの移動方向の長さのスケールとの比を、同一あるいは同等に設定できる。よって、本変形例によっても、正常領域の位相分布から、より精度良く、異常領域のサイズを取得することができる。また、上述したように、縞パターンSpの幅は、検査面150aが平面であるか否かによらず、時間相関カメラ110、スクリーン130、および検査面150aの位置や、距離、姿勢、角度等によっても変化する。よって、縞パターンの幅を種々に設定することにより、仕様が異なる種々の状況にも適用することができ、同様の効果を得ることができる。この変形例の場合も、縞パターンの幅は、図23のように、複数の撮像領域(検査領域)のそれぞれに対応して、設定することができるし、一つの撮像領域において、局所的に縞パターンの幅を変化させてもよい。いずれの場合も、検査面150aの位置に応じて、縞パターンの移動する方向の幅を設定することにより、正常領域の位相分布から、より容易にかつより精度良く、異常領域のサイズを取得することができる。
図25には、縞パターンの縞の幅を変更する場合における、検査システム1による、検査面150a(撮像領域)についての検査の手順の一例が示されている。本変形例では、S21は、図21のS11と同様であり、S23は、S13と同様であり、S24は、S14と同様であり、S25は、S15と同様であり、S26は、S17と同様である。ただし、本変形例では、異常サイズ検出部106は、記憶部109を参照し、検査を行う撮像領域に対応した縞パターンを取得する(S22)。記憶部109には、複数の撮像領域P1〜P14のそれぞれに対応した縞パターンが予め取得され、記憶されている。また、本変形例によれば、異常領域のサイズの補正(図21のS16)を省略することができる。
このように、サイズ補正の変形例によれば、時間相関カメラ110、スクリーン130、および検査面150aの位置や、距離、姿勢、角度、曲率等によらず、時間相関カメラ110で撮像された画像において、位相(周期)のスケールと、縞パターンの移動方向の検査面150aのスケールとの比を、略一定にすることができる。よって、正常領域の位相分布から、より容易にかつより精度良く、異常領域のサイズを取得することができる。
<検査面上に投影された静止した縞パターンを利用する変形例>
また、上述した実施形態は、いずれも時間相関カメラまたはそれと等価なカメラおよび演算処理装置を用いた画像検査システムへの適用例であった。しかしながら、異常のサイズの測定は、時間相関カメラまたはそれと等価なカメラおよび演算処理装置を用いた画像検査システム以外の画像処理検査システムにおいても適用可能であることは言うまでもない。すなわち、図19,20を参照すれば、時間相関カメラ110と同じ位置に配置された撮像装置が検査面150a上に投影された静止した縞パターンを撮像することによって得られる縞パターンSpの幅は、撮像装置に近付く側(図19,20では上方)への凸の曲率が小さいほど狭くなり、凹の曲率が小さいほど広くなることが、明らかである。
この場合、例えば、予め、照明装置120やスクリーン130等は、検査面150a上に既知の幅を有した縞パターン、例えば等間隔の縞パターンを出射する。次に、撮像装置は、当該縞パターンを撮像する。次に、制御部103は、縞パターンの画像から、画像処理により、検査面150aの各位置における縞パターンの幅を算出する。具体的に、制御部103は、検査面150a上の複数の位置、例えば、縞の幅の中央位置での縞パターンの幅を取得する。次に、制御部103は、記憶部109を参照し、当該位置について、縞パターンの幅に対応した倍率を取得し、記憶部109に記憶する。記憶部109には、縞パターンの幅と倍率との相関関係を示すデータが、例えば、数値や、テーブル、マップ、関数(関数の係数)等として記憶されている。以上の手順は、被検査体150の検査を行う前に、予め、被検査体150の基準物(標準サンプル)を用いて実行されうる。
被検査体150の画像検査は、上記実施形態に開示された時間相関カメラ110またはそれと等価なカメラおよび演算処理装置を用いた画像検査システムによって行ってもよいし、例えば光切断法等の別の画像検査システムによって行ってもよい。異常検出処理部105は、撮像装置によって取得された画像の画像処理により、異常を検出する。異常サイズ検出部106は、例えば、記憶部109に記憶された検査面150aの位置に対応した倍率のデータから、検出された異常の領域の中央位置に対応した倍率を取得する。具体的には、記憶部109に、複数の位置での倍率の数値の群(テーブル)が記憶されている場合にあっては、複数の位置での倍率の数値から、補間(内挿)の演算処理によって、検出された異常の領域の中央位置での倍率を算出する。異常サイズ検出部106は、検出された異常領域のサイズに、取得された倍率を乗算して、異常領域のサイズを補正する。そして、異常検出処理部105は、異常領域のサイズに基づいた不良判定(良否判定)を行う。
上述した実施形態のPC100で実行される検査プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD−R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
また、上述した実施形態のPC100で実行される検査プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、上述した実施形態のPC100で実行される検査プログラムおよび較正プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
本発明のいくつかの実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。