以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
[第1実施形態]
(化合物半導体太陽電池の構成)
第1実施形態の化合物半導体太陽電池について説明する。図1は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池の概略断面図である。なお、図1において、光の入射方向は、図中の上から下に向かう方向(GaInPセル190からGaInAsPセル120に向かう方向)である。
図1に示すように、化合物半導体太陽電池100は、第1電極10、InP基板110、GaInAsPセル120、接合層130、接合層140、トンネル接合層150、GaAsセル160、トンネル接合層170、挿入層180、GaInPセル190、コンタクト層20及び第2電極30を含む。
化合物半導体太陽電池100は、化合物半導体材料で作製されるバンドギャップの異なる3つの光電変換セル(GaInAsPセル120、GaAsセル160及びGaInPセル190)を光学的及び電気的に直列接続した3接合型太陽電池である。GaInAsPセル120、GaAsセル160及びGaInPセル190のバンドギャップは、各々、1.00eV、1.42eV及び1.90eVである。
化合物半導体太陽電池100に含まれる光電変換セルについては、InP(インジウムリン)系の光電変換セルと、GaAs(ガリウムヒ素)系の光電変換セルとがある。
InP系の光電変換セルとは、InPにほぼ格子整合し、InP基板110の上に結晶成長可能な材料系で形成される光電変換セルのことである。以下、InPにほぼ格子整合し、InP基板110の上に結晶成長可能な材料をInP格子整合系材料と称し、InP格子整合系材料で構成されるセルをInP格子整合系材料セルと称す。
GaAs系の光電変換セルとは、GaAs又はGaAsと格子定数の近いGeにほぼ格子整合し、GaAs基板又はGe基板上に結晶成長可能な材料系で形成される光電変換セルのことである。以下、GaAs又はGeにほぼ格子整合し、GaAs基板又はGe基板上に結晶成長可能な材料をGaAs格子整合系材料と称し、GaAs格子整合系材料で構成されるセルをGaAs格子整合系材料セルと称す。
第1実施形態の化合物半導体太陽電池100では、GaInAsPセル120は、InP系の光電変換セルであり、GaAsセル160とGaInPセル190は、GaAs系の光電変換セルである。
第1電極10は、光の入射方向において奥側(図1中の下側)に位置する下部電極になる電極である。第1電極10としては、例えばTi/Au、Cr/AuZn/Au等の複数の金属膜を積層した電極を用いることができる。
InP基板110は、例えばドーパントとしてZn(亜鉛)が添加されたp型の単結晶インジウムリンのウエハである。なお、ドーパントとしては、Znに限定されず、他のp型のドーパントを用いることもできる。
GaInAsPセル120は、InP基板110上に形成された光電変換セルである。具体的には、GaInAsPセル120は、InP基板110上に、p型のInP層121、p型のGaInAsP層122、n型のGaInAsP層123及びn型のInP層124がこの順に積層された光電変換セルである。
InP層121は、光の入射方向において奥側に配設されるBSF(Back Surface Field)層である。GaInAsPセル120のpn接合は、p型のGaInAsP層122とn型のGaInAsP層123とによって構築される。InP層124は、光の入射方向において手前側(図1中の上側)に配設される窓層である。
InP層121は、BSF層として用いられるため、p型のGaInAsP層122及びn型のGaInAsP層123のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する。InP層121のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばZnを用いることができる。
GaInAsP層122は、バンドギャップが1.00eVになるように、GaとINの比率及びAsとPの比率が調整されている。GaInAsP層122のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばZnを用いることができる。
GaInAsP層123は、バンドギャップが1.00eVになるように、GaとINの比率及びAsとPの比率が調整されている。GaInAsP層123のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばSe(セレン)を用いることができる。
InP層124は、窓層として用いられるため、GaInAsP層122及びGaInAsP層123のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する。第1実施形態では、InP層124のバンドギャップは、一例として1.35eVに設定される。InP層124のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばSeを用いることができる。
接合層130は、GaInAsPセル120上に形成される。接合層130は、化合物半導体太陽電池100を作製する過程で、表面清浄化処理と表面活性化処理によって接合層140と接合される。接合層130としては、例えばn型のInP層が用いられる。接合層130のドーパント濃度は、InP層124のドーパント濃度よりも高く設定される。接合層130のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばSeを用いることができる。接合層130として用いるInP層のバンドギャップは、1.35eVである。
接合層140は、化合物半導体太陽電池100を作製する過程で、表面清浄化処理と表面活性化処理によって、InP基板110側の接合層130と接合される。接合層140としては、例えばn型のGaAs層を用いることができる。接合層140のドーパント濃度は、接合層130のドーパント濃度と同等に設定される。GaAs層のバンドギャップは、1.42eVである。接合層140のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばSeを用いることができる。
ところで、図1に示す化合物半導体太陽電池100の接合層130と接合層140との境界よりも上側は、例えば、天地を逆にした状態で順次積層することによって作製されるため、接合層140は、トンネル接合層150上に積層される。
トンネル接合層150は、接合層140とGaAsセル160との間に形成される。図1に示す化合物半導体太陽電池100の接合層130と接合層140との境界よりも上側は、例えば、天地を逆にした状態で順次積層することによって作製されるため、トンネル接合層150は、GaAsセル160上に積層される。
トンネル接合層150は、GaInAsPセル120とGaAsセル160との間にトンネル接合を形成する層である。具体的には、トンネル接合層150は、GaInAsPセル120のn型のGaInAsP層123とGaAsセル160のp型のGaAs層162との間を、トンネル効果を利用して電流が流れるようにするために形成される層である。
トンネル接合層150は、n+型のGaAs層151とp+型のAlGaAs層152とを含み、n+型のGaAs層151及びp+型のAlGaAs層152は、高濃度にドーピングされた薄いpn接合を構成する。
GaAs層151は、GaAsセル160よりも高濃度にドーピングされている。GaAs層151のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばTe(テルル)を用いることができる。
AlGaAs層152は、GaAsセル160よりも高濃度にドーピングされている。AlGaAs層152のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばC(炭素)を用いることができる。
GaAsセル160は、トンネル接合層150とトンネル接合層170との間に形成される第2光電変換セルの一例である。具体的には、GaAsセル160は、トンネル接合層150上に、p型のGaInP層161、p型のGaAs層162、n型のGaAs層163及びn型のGaInP層164がこの順に積層された光電変換セルである。
なお、GaAsセル160は、実際の製造工程では、例えば天地を逆にした状態で、トンネル接合層170上に積層される。このため、実際の製造工程では、トンネル接合層170上に、GaInP層164、GaAs層163、GaAs層162及びGaInP層161の順に積層される。
GaInP層161は、光の入射方向において奥側に配設されるBSF層である。GaAsセル160のpn接合は、GaAs層162とGaAs層163によって構築される。GaInP層164は、光の入射方向において手前側に配設される窓層である。
GaInP層161は、BSF層として用いられるため、p型のGaAs層162及びn型のGaAs層163のバンドギャップ以上のバンドギャップを有していればよい。GaInP層161のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばZnを用いることができる。
GaAs層162は、バンドギャップが1.42eVである。GaAs層162のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばZnを用いることができる。
GaAs層163は、バンドギャップが1.42eVである。GaAs層163のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばSeを用いることができる。
GaInP層164は、窓層として用いられるため、p型のGaAs層162及びn型のGaAs層163のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する。GaInP層164のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばSeを用いることができる。
トンネル接合層170は、GaAsセル160と挿入層180との間に形成される高ドープ層の一例である。図1に示す化合物半導体太陽電池100の接合層130と接合層140との境界よりも上側は、例えば天地を逆にした状態で順次積層することによって作製されるため、トンネル接合層170は、挿入層180上に積層される。
トンネル接合層170は、GaAsセル160とGaInPセル190との間にトンネル接合を形成する層である。具体的には、トンネル接合層170は、GaAsセル160のn型のGaAs層163とGaInPセル190のp型のGaInP層192との間を、トンネル効果を利用して電流が流れるようにするために形成される接合層である。
トンネル接合層170は、n+型のGaInP層171とp+型のAlGaAs層172とを含み、GaInP層171及びAlGaAs層172は、高濃度にドーピングされた薄いpn接合を構成する。
GaInP層171は、GaInPセル190よりも高濃度にドーピングされている。GaInP層171のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばTeを用いることができる。
AlGaAs層172は、GaInPセル190よりも高濃度にドーピングされており、そのドーパント濃度は、例えば1×1019atoms/cm3以上である。AlGaAs層172のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばCを用いることができる。
挿入層180は、トンネル接合層170のAlGaAs層172とGaInPセル190のAlGaInP層191との間に形成される。図1に示す化合物半導体太陽電池100の接合層130と接合層140との境界よりも上側は、例えば天地を逆にした状態で順次積層することによって作製されるため、挿入層180は、GaInPセル190上に積層される。
挿入層180は、Al(アルミニウム)を含有していない、又は、Al成分の組成比がAlGaInP層191よりも小さい化合物半導体層であり、例えば(AlbGa1−b)yIn1−yP(0≦b<1、0<y<1)層である。具体的には、Alを含有していないp型のGaInP層、Al成分の組成比がAlGaInP層191よりも小さいp型のAlGaInP層を用いることができる。なお、以下の説明では、(AlbGa1−b)yIn1−yP(0≦b<1、0<y<1)層を省略して(Al)GaInP層と記載する場合がある。また、AlGaInPは、(AlaGa1−a)xIn1−xP(0<a<1、0<x<1)を省略した記載である。
挿入層180として、Alを含有していない、又は、Al成分の組成比がAlGaInP層191よりも小さい化合物半導体層を用いることで、トンネル接合層170とGaInPセル190との界面に酸素が取り込まれることを抑制することができる。その理由については後述する。
また、挿入層180のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばZnを用いることができる。
より具体的には、挿入層180を組成式により(AlbGa1−b)yIn1−yPと表記し、AlGaInP層191を組成式により(AlaGa1−a)xIn1−xPと表記した場合、a=0.350、x=0.520、b=0、y=0.516となるようにした。すなわち、AlGaInP層191として(Al0.350Ga0.650)0.520In0.480Pを用い、挿入層180としてGa0.516In0.484Pを用いた。
このとき、挿入層180のバンドギャップはp型のGaInP層192とn型のGaInP層193のバンドギャップと等しい1.90eVであり、AlGaInP層191のバンドギャップは2.112eVである。
GaInPセル190は、挿入層180とコンタクト層20との間に形成される第1光電変換セルの一例である。具体的には、GaInPセル190は、挿入層180上に、p型のAlGaInP層191、p型のGaInP層192、n型のGaInP層193及びn型のAlInP層194がこの順に積層された光電変換セルである。
なお、GaInPセル190は、実際の製造工程では、例えば天地を逆にした状態で、図示しないGaAs基板の上のコンタクト層20上に積層される。このため、実際の製造工程では、コンタクト層20上に、AlInP層194、GaInP層193、GaInP層192及びAlGaInP層191の順に積層される。
AlGaInP層191は、光の入射方向において奥側に配設されるBSF層である。GaInPセル190のpn接合は、GaInP層192とGaInP層193によって構築される。AlInP層194は、光の入射方向において手前側に配設される窓層である。
AlGaInP層191は、BSF層として用いられるため、p型のGaInP層192及びn型のGaInP層193のバンドギャップ以上のバンドギャップを有していればよい。AlGaInP層191のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばZnを用いることができる。なお、AlGaInP層191は、Al含有層の一例である。
GaInP層192は、バンドギャップが1.90eVである。GaInP層192のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばZnを用いることができる。
GaInP層193は、バンドギャップが1.90eVである。GaInP層193のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばSeを用いることができる。
AlInP層194は、窓層として用いられるため、p型のGaInP層192及びn型のGaInP層193のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する。AlInP層194のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばSeを用いることができる。
コンタクト層20は、GaInPセル190に積層される層であり、第2電極30との間にオーミック接合を形成する。コンタクト層20は、例えばドーパントとしてSeが高濃度に添加されたn+型のGaAs層である。ドーパントが高濃度に添加されることによりコンタクト層20と第2電極30との間のコンタクト抵抗を低減することができる。なお、コンタクト層20のドーパントとしては、Seに限定されず、他のn型のドーパントを用いることもできる。
第2電極30は、光の入射方向において手前側に位置する上部電極になる電極である。第2電極30としては、例えばTi/Pt/Au、AuGe/Ni/Au等の複数の金属膜を積層した電極を用いることができる。第2電極30は、コンタクト層20の上に形成されている。
(化合物半導体太陽電池の製造方法)
第1実施形態の化合物半導体太陽電池の製造方法について説明する。図2から図4は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池の製造方法を示す概略断面図である。
まず、図2(A)に示すように、GaAs基板40を用いて積層体100Aを作製すると共に、図2(B)に示すように、InP基板110を用いて積層体100Bを作製する。
具体的には、積層体100Aは、GaAs基板40上に、エピタキシャル成長で、GaAsバッファ層41、GaInPエッチングストップ層50、コンタクト層20、GaInPセル190、挿入層180、トンネル接合層170、GaAsセル160、トンネル接合層150及び接合層140を積層することによって作製される。エピタキシャル成長させる方法としては、例えば有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いることができる。
GaInPセル190は、GaAsと格子整合するAlGaInP層191、GaInP層192、GaInP層193及びAlInP層194を含む。AlGaInP層191はBSF層であり、AlInP層194は窓層である。
挿入層180は、Alを含有していない、又は、Al成分の組成比がAlGaInP層191よりも小さい化合物半導体層であり、例えばAlを含有していないp型のGaInP層、Al成分の組成比がAlGaInP層191よりも小さいp型のAlGaInP層である。挿入層180は、例えばAlの原料としてTMA(トリメチルアルミニウム)を用いて形成される場合、AlGaInP層191を形成するときよりもTMAの流量を小さくする、又は、ゼロにすることにより形成される。
トンネル接合層170は、GaInP層171及びAlGaAs層172を含む。トンネル接合層170は、AlGaInP層191を形成するときの第1の温度よりも低い温度である第2の温度で成長させる。これにより、1×1019atoms/cm3以上の高いドーパント濃度のトンネル接合層170を形成することができる。
ところで、AlGaInP層191(Al含有層の一例)を形成した後、AlGaAs層172(高ドープ層の一例)を成長させる場合、AlGaAs層172を形成する前にV族ガスの切り替えが行われる。このV族ガスの切り替えの際、AlGaInP層191とその上部に積層されるAlGaAs層172との界面に酸素が混入しやすい。
これは、AlGaInP層191を成長させるときの第1の温度よりも低い第2の温度でAlGaAs層172を成長させるため、V族ガスの切り替えの際、AlGaInP層191に含まれるAlに起因して酸素が混入するためと考えられる。
そして、AlGaAs層172とAlGaInP層191との接合界面に酸素が混入すると、酸素に起因する不純物準位が形成され、不純物準位を介したキャリア再結合の割合が増加する。また、酸素に起因したヒロック(格子欠陥)の発生や積層した化合物半導体層の最表面が荒れたりすることもある。この表面荒れは、デバイス製造工程での異常や直接接合方式で作製する場合には接合強度不足を引き起こす。
このため、化合物半導体太陽電池の変換効率が低下し、また、化合物半導体太陽電池を生産するときの歩留まりが低下する。また、生産コストが上昇する。
しかしながら、化合物半導体太陽電池100は、酸素が混入しやすいAlGaAs層172とAlGaInP層191との間に、Alを含有していない、又は、Al成分の組成比がAlGaAs層172のAl成分の組成比よりも小さい挿入層180を有する。このため、AlGaInP層191は、AlGaAs層172上に直接積層されるのではなく、Alを含有していない、又は、Al成分の組成比がAlGaAs層172のAl成分の組成比よりも小さい挿入層180上に積層されることになる。
これにより、AlGaAs層172とAlGaInP層191との接合界面に酸素が取り込まれることを抑制することができる。結果として、化合物半導体太陽電池の結晶品質が向上し、変換効率の高い化合物半導体太陽電池を提供することができる。
GaAsセル160は、GaInP層161、GaAs層162、GaAs層163及びGaInP層164を含む。GaInP層161はBSF層であり、GaInP層164は窓層である。
トンネル接合層150は、GaAs層151とAlGaAs層152とを含む。
積層体100Aの積層(成長)時は、GaAs基板40がある下側が光の入射方向における入射側となり、後に積層体100Bと接合する際に、積層体100Aを天地逆にするので、図1に示す上下関係とは逆方向から成長する。すなわち、ワイドバンドギャップのセル(GaInPセル190)からナローバンドギャップセル(GaAsセル160)へと順次成長する。また、最終的にp側が下部(光の入射方向における奥側)となる。
積層体100Bは、InP基板110上に、エピタキシャル成長で、GaInAsPセル120及び接合層130を積層することによって作製される。エピタキシャル成長させる方法としては、例えばMOCVD法を用いることができる。積層体100Bは、InP基板110とは反対側の接合層130側が光の入射方向における入射側となる。
GaInAsPセル120は、InP基板110側からInP層121、GaInAsP層122、GaInAsP層123及びInP層124を含む。InP層121はBSF層であり、InP層124は窓層である。
次に、図3に示すように、エピタキシャル成長によって作製した積層体100A及び積層体100Bを直接的に接合することにより、積層体100Cを作製する。
具体的には、積層体100Aの接合層140及び積層体100Bの接合層130に表面清浄化処理及び表面活性化処理を行い、接合層130及び140を直接的に接合する。表面清浄化処理には有機溶剤を用いることができる。表面活性化処理としては、Arイオンビーム又はAr原子を常温高真空下で衝突させる方法を用いることができる。
積層体100Cは、積層体100Bの接合層130の上に、積層体100Aを天地逆にして積層体100Bが下側にある状態で、接合層130と接合層140を接合して作製したものである。
すなわち、積層体100Cは、InP基板110の上に、GaInAsPセル120、接合層130、接合層140、トンネル接合層150、GaAsセル160、トンネル接合層170、挿入層180、GaInPセル190、コンタクト層20、GaInPエッチングストップ層50、GaAsバッファ層41及びGaAs基板40をこの順に積層した構成を有する。
次に、図4に示すように、積層体100CからGaAs基板40、GaAsバッファ層41及びGaInPエッチングストップ層50を、各々、ウェットエッチングで除去することにより、積層体100Dを作製する。
具体的には、例えば水(H2O)と過酸化水素水(H2O2)と硫酸(H2SO4)の混合溶液をウェットエッチング溶液として用いることにより、GaAs基板40とGaAsバッファ層41のエッチングを行うことができる。このとき、水と過酸化水素水と硫酸の混合溶液は、GaInPエッチングストップ層50のGaInP層を溶解しないため、GaInPエッチングストップ層50でウェットエッチングをストップさせることができる。
続いて、例えば塩酸(HCl)と水(H2O)の混合溶液をウェットエッチング溶液として用いることにより、GaInPエッチングストップ層50のエッチングを行うことができる。このとき、塩酸と水の混合溶液は、コンタクト層20のGaAs層を溶解しないため、コンタクト層20のみのエッチングを行うことができる。
次に、図1に示すように、第1電極10及び第2電極30を形成する。
具体的には、フォトリソグラフィ工程によりコンタクト層20上に、フォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、レジストパターンを形成する。続いて、真空蒸着法等の方法を用いて、電極材料を蒸着し、金属膜を成膜する。レジストパターン上の金属膜をリフトオフすることで、コンタクト層20上に第2電極30を形成する。金属膜としては、例えばAuGe/Ni/Auを用いることができる。
続いて、第2電極30をマスクとして、ウェットエッチングを用いて、第2電極30と重ならないコンタクト層20の一部を除去し、コンタクト層20を形成する。ウェットエッチングに用いるエッチング溶液としては、例えば硫酸、過酸化水素水、水の混合溶液等が挙げられる。このとき、GaInPセル190に含まれるAlInPを溶解しないため、n型のAlInP層194の手前で、エッチング処理をストップさせ、コンタクト層20のみをエッチングすることができる。
続いて、InP基板110の裏面を研磨した後に、電極材料を蒸着し、金属膜を成膜した後、アニール処理を行うことによって第1電極10を形成する。金属膜としては、例えばCr/AuZn/Auを用いることができる。
以上の工程により、図1に示す化合物半導体太陽電池100が完成する。
なお、化合物半導体太陽電池100には、光がワイドバンドギャップのセル側(GaInPセル190側)から入射する構造となる。そこで、光が入射するAlInP層の表面に、反射防止膜を設けることが好ましい。これにより、AlInP層の表面における光の反射損失(反射ロス)を低減することができる。
以上に説明したように、第1実施形態に係る化合物半導体太陽電池100は、Al含有層の一例であるAlGaInP層191と高ドープ層の一例であるp+型のAlGaAs層172との間に形成された挿入層180を有する。また、挿入層180は、Alを含有していない、又は、Al成分の組成比がAlGaInP層191のAl成分の組成比よりも小さい化合物半導体層である。このため、変換効率の高い化合物半導体太陽電池を提供することができる。
[第2実施形態]
第2実施形態の化合物半導体太陽電池について説明する。図5は、第2実施形態の化合物半導体太陽電池の概略断面図である。なお、図5において、光の入射方向は、図中の上から下に向かう方向(GaInPセル190からGaInAsセル210に向かう方向)である。
第2実施形態の化合物半導体太陽電池200は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100のInP基板110とGaInAsPセル120との間に、GaInAsセル210とトンネル接合層220を挿入することにより、4接合型太陽電池にしたものである。なお、その他の構成については、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と同様の構成を有するため、以下では、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と異なる点を中心に説明する。
図5に示すように、化合物半導体太陽電池200は、第1電極10、InP基板110、GaInAsセル210、トンネル接合層220、GaInAsPセル120、接合層130、接合層140、トンネル接合層150、GaAsセル160、トンネル接合層170、挿入層180、GaInPセル190、コンタクト層20及び第2電極30を含む。
化合物半導体太陽電池200は、化合物半導体材料で作製されるバンドギャップの異なる4つの光電変換セル(GaInAsセル210、GaInAsPセル120、GaAsセル160及びGaInPセル190)を光学的及び電気的に直列接続した4接合型太陽電池である。GaInAsセル210、GaInAsPセル120、GaAsセル160及びGaInPセル190のバンドギャップは、各々、0.75eV、1.00eV、1.42eV及び1.90eVである。
GaInAsセル210は、InP基板110上に形成される。具体的には、GaInAsセル210は、InP基板110上に、p型のInP層211、p型のGaInAs層212、n型のGaInAs層213及びn型のInP層214がこの順に積層された光電変換セルである。
InP層211は、光の入射方向において奥側に配設されるBSF層である。GaInAsセル210のpn接合は、GaInAs層212とGaInAs層213によって構築される。InP層214は、光の入射方向において手前側に配設される窓層である。
InP層211は、BSF層として用いられるため、p型のGaInAs層212及びn型のGaInAs層213のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する。InP層211のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばZnを用いることができる。
GaInAs層212は、バンドギャップが0.75eVになるように、GaとInの比率及びAsとPの比率が調整されている。GaInAs層212のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばZnを用いることができる。
GaInAs層213は、バンドギャップが0.75eVになるように、GaとInの比率及びAsとPの比率が調整されている。GaInAs層213のドーパントとしては、Seを用いることができる。
InP層214は、窓層として用いられるため、GaInAs層212及びGaInAs層213のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する。InP層214のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばSeを用いることができる。
トンネル接合層220は、GaInAsセル210とGaInAsPセル120との間に形成される。
トンネル接合層220は、GaInAsセル210とGaInAsPセル120との間にトンネル接合を形成する層である。具体的には、トンネル接合層220は、GaInAsPセル120のp型のGaInAsP層122とGaInAsセル210のn型のGaInAs層213との間を、トンネル効果を利用して電流が流れるようにするために形成される接合層である。トンネル接合層220は、n+型のAlGaInAs層221とp+型のGaInAsP層222とを有する。AlGaInAs層221とGaInAsP層222とは、高濃度にドーピングされた薄いpn接合を構成する。
AlGaInAs層221は、GaInAsPセル120よりも高濃度にドーピングされている。AlGaInAs層221のドーパントとしては、n型のドーパントであればよく、例えばTeを用いることができる。
GaInAsP層222は、GaInAsPセル120よりも高濃度にドーピングされている。GaInAsP層222のドーパントとしては、p型のドーパントであればよく、例えばCを用いることができる。
以上に説明したように、第2実施形態では、GaInAsセル210、GaInAsPセル120、GaAsセル160及びGaInPセル190を光学的及び電気的に直列接続した4接合型太陽電池である。このため、3接合型太陽電池と比べて、バンドギャップバランスに優れ、太陽光のエネルギー変換効率を特に高めることができる。
なお、第2実施形態の化合物半導体太陽電池200は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と同様の方法により製造される。
[第3実施形態]
第3実施形態の化合物半導体太陽電池300について説明する。
第3実施形態の化合物半導体太陽電池300は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100(図1参照)において、挿入層180として、p型のGaInP層192及びn型のGaInP層193のバンドギャップよりも大きい(Al)GaInP層を用いている。なお、その他の構成については、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と同様の構成を有するため、以下では、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と異なる点を中心に説明する。
挿入層180としての(Al)GaInP層は、組成式(AlbGa1−b)yIn1−yPにおいて、b=0.150、y=0.518となるようにしたものである。このときの挿入層180のバンドギャップは、p型のGaInP層192及びn型のGaInP層193のバンドギャップ(1.90eV)よりも大きい1.986eVである。
このため、挿入層180のAl成分の組成比を低減した状態において、光の入射方向において手前側に配設されるGaInPセル190で吸収されなかった光が挿入層180によって吸収されることを抑制することができる。すなわち、挿入層180による太陽光の吸収損失(吸収ロス)を低減することができる。
以上に説明したように、第3実施形態では、前述した第1実施形態による効果に加えて、挿入層180による太陽光の吸収損失を低減することができる。
なお、第3実施形態の化合物半導体太陽電池300は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と同様の方法により製造される。
[第4実施形態]
第4実施形態の化合物半導体太陽電池400について説明する。
第4実施形態の化合物半導体太陽電池400は、第2実施形態の化合物半導体太陽電池100(図5参照)において、挿入層180として、p型のGaInP層192及びn型のGaInP層193のバンドギャップよりも大きい(Al)GaInP層を用いている。なお、その他の構成については、第2実施形態の化合物半導体太陽電池200と同様の構成を有するため、以下では、第2実施形態の化合物半導体太陽電池200と異なる点を中心に説明する。
挿入層180としての(Al)GaInP層は、組成式(AlbGa1−b)yIn1−yPにおいて、b=0.150、y=0.518となるようにしたものである。このときの挿入層180のバンドギャップは、p型のGaInP層192及びn型のGaInP層193のバンドギャップ(1.90eV)よりも大きい1.986eVである。
このため、挿入層180のAl成分の組成比を低減した状態において、光の入射方向において手前側に配設されるGaInPセル190で吸収されなかった光が挿入層180によって吸収されることを抑制することができる。すなわち、挿入層180による太陽光の吸収損失を低減することができる。
以上に説明したように、第4実施形態では、前述した第2実施形態による効果に加えて、挿入層180による太陽光の吸収損失を低減することができる。
なお、第4実施形態の化合物半導体太陽電池400は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と同様の方法により製造される。
[第5実施形態]
第5実施形態の化合物半導体太陽電池500について説明する。
第5実施形態の化合物半導体太陽電池500は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100(図1参照)において、挿入層180として、引っ張り歪を有する(Al)GaInP層を用いている。本実施形態では、積層体100Aの各層がGaAs基板にほぼ格子整合するよう構成されているため、引っ張り歪を有するとは、GaAs基板の格子定数よりも格子定数が小さいということである。なお、その他の構成については、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と同様の構成を有するため、以下では、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と異なる点を中心に説明する。
挿入層180としての(Al)GaInP層は、組成式(AlbGa1−b)yIn1−yPにおいて、b=0.150、y=0.650となるようにしたものであり、引っ張り歪は−0.974%である。
また、挿入層180のバンドギャップは、p型のGaInP層192とn型のGaInP層193のバンドギャップ(1.90eV)よりも大きい2.206eVである。このため、挿入層180のAl成分の組成比を低減した状態において、光の入射方向において挿入層180よりも手前側に配設されるGaInPセル190で吸収されなかった光が挿入層180によって吸収されることを抑制することができる。結果として、光の入射方向において挿入層180よりも奥側に配設されるセル(GaAsセル160、GaInAsPセル120)に入射する光の量を増加させることができる。
以上に説明したように、第5実施形態では、前述した第1実施形態による効果に加えて、挿入層180による太陽光の吸収損失を大幅に低減することができる。
なお、第5実施形態の化合物半導体太陽電池500は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と同様の方法により製造される。
[第6実施形態]
第6実施形態の化合物半導体太陽電池600について説明する。
第6実施形態の化合物半導体太陽電池600は、第2実施形態の化合物半導体太陽電池200(図5参照)において、挿入層180として、引っ張り歪を有する(Al)GaInP層を用いている。本実施形態においても、第5実施形態と同様、引っ張り歪を有する(Al)GaInPの格子定数は、GaAs基板の格子定数よりも小さい。なお、その他の構成については、第2実施形態の化合物半導体太陽電池200と同様の構成を有するため、以下では、第2実施形態の化合物半導体太陽電池200と異なる点を中心に説明する。
挿入層180としての(Al)GaInP層は、組成式(AlbGa1−b)yIn1−yPにおいて、b=0.150、y=0.650となるようにしたものであり、引っ張り歪は−0.974%である。
また、挿入層180のバンドギャップは、p型のGaInP層192とn型のGaInP層193のバンドギャップ(1.90eV)よりも大きい2.206eVである。このため、挿入層180のAl成分の組成比を低減した状態において、光の入射方向において挿入層180よりも手前側に配設されるGaInPセル190で吸収されなかった光が挿入層180によって吸収されることを抑制することができる。結果として、光の入射方向において挿入層180よりも奥側に配設されるセル(GaAsセル160、GaInAsPセル120、GaInAsセル210)に入射する光の量を増加させることができる。
以上に説明したように、第6実施形態では、前述した第2実施形態による効果に加えて、挿入層180による太陽光の吸収損失を大幅に低減することができる。
なお、第6実施形態の化合物半導体太陽電池600は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と同様の方法により製造される。
[第7実施形態]
第7実施形態の化合物半導体太陽電池700について説明する。
第7実施形態の化合物半導体太陽電池700は、第5実施形態の化合物半導体太陽電池500(図1参照)において、p型のAlGaInP層191として圧縮歪を有するAlGaInP層を用いている。本実施形態では、積層体100Aの各層がGaAs基板にほぼ格子整合するよう構成されているため、圧縮歪を有するとは、GaAs基板の格子定数よりも格子定数が大きいということである。なお、その他の構成については、第5実施形態の化合物半導体太陽電池500と同様の構成を有するため、以下では、第5実施形態の化合物半導体太陽電池500と異なる点を中心に説明する。
挿入層180としての(Al)GaInP層は、組成式(AlbGa1−b)yIn1−yPにおいて、b=0.150、y=0.650となるようにしたものであり、引っ張り歪は−0.6%である。
AlGaInP層191は、組成式(AlaGa1−a)xIn1−xPにおいて、a=0.350、x=0.506となるようにしたものであり、圧縮歪は+0.1%である。
また、挿入層180とAlGaInP層191の膜厚については、臨界膜厚を超えない範囲で挿入層180をAlGaInP層191の1/6の膜厚にしても歪を補償した。これは(歪量)=(歪%)×(膜厚)の関係に基づく。AlGaInP層191の歪量と挿入層180の歪量を合算して0になるように補償することで積層体中への歪の導入に伴う結晶品質の悪化を防ぐことができる。本実施形態では、挿入層180の膜厚を10nm、AlGaInP層191の膜厚を60nmとした。
以上に説明したように、第7実施形態では、前述した第5実施形態による効果に加えて、歪の導入に伴う結晶品質の悪化を防ぐことができる。
なお、第7実施形態の化合物半導体太陽電池700は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と同様の方法により製造される。
[第8実施形態]
第8実施形態に係る化合物半導体太陽電池800について説明する。
第8実施形態の化合物半導体太陽電池800は、第6実施形態の化合物半導体太陽電池600(図1参照)において、p型のAlGaInP層191として圧縮歪を有するAlGaInP層を用いている。本実施形態においても、第5実施形態と同様、圧縮歪を有するAlGaInPの格子定数は、GaAs基板の格子定数よりも大きい。なお、その他の構成については、第6実施形態の化合物半導体太陽電池600と同様の構成を有するため、以下では、第6実施形態の化合物半導体太陽電池600と異なる点を中心に説明する。
挿入層180としての(Al)GaInP層は、組成式(AlbGa1−b)yIn1−yPにおいて、b=0.150、y=0.650となるようにしたものであり、引っ張り歪は−0.6%である。
AlGaInP層191は、組成式(AlaGa1−a)xIn1−xPにおいて、a=0.350、x=0.506となるようにしたものであり、圧縮歪は+0.1%である。
また、挿入層180とAlGaInP層191の膜厚については、臨界膜厚を超えない範囲で挿入層180をAlGaInP層191の1/6の膜厚にしても歪を補償した。これは(歪量)=(歪%)×(膜厚)の関係に基づく。AlGaInP層191の歪量と挿入層180の歪量を合算して0になるように補償することで積層体中への歪の導入に伴う結晶品質の悪化を防ぐことができる。本実施形態では、挿入層180の膜厚を10nm、AlGaInP層191の膜厚を60nmとした。
以上に説明したように、第8実施形態では、前述した第6実施形態による効果に加えて、歪の導入に伴う結晶品質の悪化を防ぐことができる。
なお、第8実施形態の化合物半導体太陽電池800は、第1実施形態の化合物半導体太陽電池100と同様の方法により製造される。
以上、化合物半導体太陽電池及びその製造方法を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。
前述の実施形態では、化合物半導体太陽電池が、3つの光電変換セルが積層された3接合型太陽電池及び4つの光電変換セルが積層された4接合型太陽電池である場合について説明したが、本発明はこの点において限定されない。本発明の化合物半導体太陽電池としては、2つ以上の光電変換セルが積層された多接合型太陽電池であればよく、例えば2接合型太陽電池、5接合型太陽電池であってもよい。
前述の実施形態では、化合物半導体太陽電池が、エピタキシャル成長によって作製した2つの積層体100A、100Bを直接的に接合することにより作製される、所謂、逆積み型の太陽電池である場合について説明したが、本発明はこの点において限定されない。本発明の化合物半導体太陽電池は、エピタキシャル成長によって1つの基板上に2つ以上の光電変換セルを順に積層する、所謂、順積み型の太陽電池であってもよい。