上述したように、被校正ループアンテナを校正するに際しては、基準となる標準磁界の精度が重要であり、30MHz以下の標準磁界発生器による放射磁界の精度を高めるべく、非特許文献1においては、標準磁界発生器側に生ずる種々の誤差要因について詳細な考察がなされているものの、標準磁界発生用の送信ループアンテナが発生する電界が受信アンテナに作用して出力値に誤差を生じさせている点については記載されていない。
すなわち、ループアンテナは磁界を受信して動作するアンテナと考えられがちであるが、実際には電界も受信する性質を持っており、この受信ループアンテナに作用する電界が校正精度を低下させる要因であることについて、従来は全く認識されていなかったのである。同様に、標準磁界発生用の送信ループアンテナは、アンテナの近傍においては磁界のみを送信しているアンテナと考えられがちであるが、実際には電界も送信する性質を持っていることも、従来は全く認識されていなかったのである。以下に、送信ループアンテナ110でどのように電界が生じ、受信ループアンテナ210に作用するかを、図11〜図13に基づいて詳述する。
まず、ループアンテナを導電率が高い地面の上に配置して電波を受信する場合、到来する電波の電界のうち、地面と水平な成分(水平成分Eh)は境界条件により、ほぼゼロになるので、垂直成分Evしか持たない。この垂直成分Evの影響を受けないようにするには、ループアンテナの給電部を頂部または底部に配置すればよいのである。その原理を以下に説明する。
図11および図12において受信ループアンテナ210は、芯線となる内部導体211aの周囲を(誘電体を介して)金属管状の外部導体211bで覆ってなるセミリジッドケーブル211を半円弧状に形成し、同じく半円弧状の導体棒212と接合することでアンテナエレメントを構成したもので、セミリジッドケーブル211の一方端(例えば、上端)において外部導体211bと導体棒212とが非接触となるギャップGを設け、外部導体211bの上部開放端よりも延出させた内部導体211aが導体棒212の上部端面に導通される給電部213が形成される。
受信ループアンテナ210における給電部213では、到来電波における電界の垂直成分Evが外部導体211b及び導体棒212に作用するものの、図12(a)に示すように、給電部213に対しては、常に同じ電荷を移動させるため、給電部213の電位差はゼロとみなせる。すなわち、受信ループアンテナ210において、その給電部213をループ中心の垂直方向(頂部または底部)に位置させれば、到来電波における電界の垂直成分Evに起因する出力電圧が給電部213に生ずることはないので、受信ループアンテナに到来する電波の電界(水平成分Ehおよび垂直成分Ev)の影響を受けることはない。
以上のような理由から、市販のほぼすべてのループアンテナは、頂部または底部に給電部が設けられているのである。そして、これら市販のループアンテナを校正するために使用する標準ループアンテナもまた、頂部または底部に給電部を有している。
図11において、強度が既知の標準磁界Hを放射する標準ループアンテナとして用いる送信ループアンテナ110は、上記受信ループアンテナ210と同様に、セミリジッドケーブル111を半円弧状に形成し、半円弧状の導体棒112と接合することでアンテナエレメントを構成したもので、セミリジッドケーブル111の一方端(例えば、上端)に給電部113を形成したものである。この給電部113において、セミリジッドケーブル111の内部導体は、導体棒112と導通されている。
そして、頂部に給電部213を有する受信ループアンテナ210の校正のために、送信ループアンテナ110を対向させて配置(両アンテナのループ中心を結ぶ仮想線が双方のループ面に直交する状態に配置)すると、磁界成分による結合(ノイマンの法則)の他に、標準ループアンテナ(送信ループアンテナ110)を流れる電流の大きさの不均衡に起因した電界水平成分Eh′が校正用ループアンテナ(受信ループアンテナ210)に作用し、不要な結合が生じてしまう。
すなわち、頂部または底部に設けた給電部とループ中心を通る仮想線に対してアンテナエレメントが対称であるループアンテナの特性として、図11に示すように、給電部113のある頂部から約90゜毎に、電流Ia→Ic→Ib→Idが流れている場合、ループの側方部を流れる電流IcとIdは向きが逆であるが、振幅は同じであるから電界垂直成分Evは打ち消し合うために、給電部213に対し起電力を生じないのに対して、ループの頂部と底部を流れる電流IaとIbは振幅が異なる(Ia<Ib)ために、電流Iaによる電界水平成分と電流Ibによる電界水平成分とで打ち消し合うことができず、その差として生じた電界水平成分Eh′による不要な結合が受信ループアンテナ210に生じてしまうのである(図12(b)を参照)。
なお、目的とする電波の周波数(波長)に対してループアンテナの大きさが無視できる程度に小さい場合(例えば、30MHzに対してループアンテナの直径が10cm程度の場合)は、ループ上の各部を流れる電流値をほぼ同じと見なすことができるので、送信ループアンテナを流れる電流に生じる不均衡は無視することができ、受信ループアンテナに作用する電界水平成分Eh′の影響は、無視できるほどに小さくなる。しかしながら、ループ径が小さなアンテナは、ループ径が大きなアンテナほど強い磁界を発生させることができないので、ループ径が小さなアンテナの磁界強度を上げるためには大電流が必要となる。また、磁界強度の小さな標準磁界でループアンテナの校正を行う場合には、ダイナミックレンジが大きな受信機が必要になる上に、計測誤差が混入しやすいという問題も生ずる。
これに対して、受信ループアンテナ210と同程度の直径(例えば、60cm程度)の送信ループアンテナ110を標準磁界発生用ループアンテナとして使うことができれば、極端な大電流を流すことなく大きな磁界強度の標準磁界を校正に使うことができるし、ダイナミックレンジが大きな受信機を使う必要が無いという利点があるものの、目的とする電波の周波数(波長)に対して、ループエレメントの長さが無視できない大きさになることで、ループアンテナの各部を流れる電流の不均衡が生じてしまい、受信ループアンテナ210に不要な結合を生じさせる電界水平成分Eh′を発生させることになる。
ここで、送信ループアンテナ110に流れる電流の不均衡から電界水平成分Eh′が生じる原理を図13に示す。例えば、図13(a)に示すように、給電部113におけるギャップの一方端a′点から給電部113におけるギャップの他方端a点に向けて電圧+Vを印加し、電流がループ上の点a→c→c′→b→b′→d→d′→a′の順で流れる場合を考える。このとき、送信ループアンテナ110におけるループ上の各部の電圧と電流の分布を図13(b)に示す。上述したように、送信ループアンテナ110の一側方部であるc点(もしくはc′点)を流れる電流Icと、他側方部であるd点(もしくはd′点)を流れる電流Idは大きさが等しいのに対して、送信ループアンテナ110の頂部であるa点(もしくはa′点)を流れる電流Iaは、底部であるb点(もしくはb′点)を流れる電流Ibよりも小さく、不均衡が生じている。
図13(c)は、送信ループアンテナ110を分布定数回路で表現される伝送線路とみなし、点dとd′をショートさせた垂直方向の折り返しダイポールに見立てたときの電流分布および電圧分布をアンテナ線路に沿って示したものである。点b−b′はショートしているので、電圧は最小(ゼロ)となるが、電流は最大となる。しかしながら、点a−b間(点cc′を含む範囲)と点b′−a′間(点dd′を含む範囲)では常に同振幅・逆向きの電流が流れるため、垂直方向に電界成分は打ち消し合うことができ、発生しない。
図13(d)は、送信ループアンテナ110を水平方向に折り曲げたときの電流分布をアンテナ線路に沿って示したものである。なお、各部の電流値は、アンテナ線路か遠ざかるほど値が大きくなるように示してある。本図よりわかるように、点c′−d間(点b′bを含む範囲)を流れる電流αは、点d′−c間(点aa′を含む範囲)を流れる電流β1+β2よりも大きいため、その差に相当する水平方向の電流{α−(β1+β2)}が流れる折り返しダイポールアンテナのように作動し、水平方向の電界(電界水平成分Eh′)が発生するのである。また、アンテナの可逆性から、受信アンテナとしてループアンテナを使用した場合は、垂直方向の電界は受信しないが、水平方向の電界を受信すると言える。
このように、目的とする電波の周波数(波長)に対してループの大きさが無視できない送信ループアンテナを標準磁界発生用ループアンテナとして用いる場合、送信ループアンテナを流れる電流の不均衡に起因した電界成分を被校正ループアンテナが受信することにより、信号受信機で計測される電圧値が不正確になってしまう結果、前述の式(1)で定義された磁界アンテナ係数Fmを正しく求めることができないのである。
そこで、本発明は、被校正ループアンテナに不要な結合を生じさせる電界成分を標準磁界発生用ループアンテナに発生させることなく被校正ループアンテナを校正できるループアンテナの校正方法の提供を目的とする。
前記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、周波数30MHz以下の磁界を測定するために用いる磁界型のループアンテナを被校正ループアンテナとし、強度が既知の標準磁界を標準磁界発生用ループアンテナにより発生させて前記被校正ループアンテナに鎖交させ、被校正ループアンテナの出力値に基づいて磁界アンテナ係数を決定するループアンテナの校正方法において、前記被校正ループアンテナおよび標準磁界発生用ループアンテナは、単一の給電部とループ中心を通る仮想線に対してアンテナエレメントが対称で、目的とする電波の周波数に対応するループ径を備えた構造とし、前記被校正ループアンテナと前記標準磁界発生用ループアンテナのループ面を対向させ、両アンテナのループ中心を結ぶ仮想線が双方のループ面に直交する状態で、且つ、前記被校正ループアンテナは、給電部とループ中心を通る仮想線が縦方向となるように配置され、前記標準磁界発生用ループアンテナは、前記被校正ループアンテナの給電部に対して90゜ずらして給電部を保持できるアンテナ保持構造を備えることによって、前記標準磁界発生用ループアンテナの給電部とループ中心を通る仮想線を、前記被校正ループアンテナの給電部とループ中心を通る仮想線に直交させた状態で配置し、前記標準磁界発生用ループアンテナの給電部と該標準磁界発生用ループアンテナの給電部から180゜離れたループ側方部の2点を流れる電流の向きと振幅が異なることで生じる電界成分の向きが、前記被校正ループアンテナの給電部とループ中心を通る仮想線と平行になるため、標準磁界発生用ループアンテナの電界成分を受信した被校正ループアンテナの給電部に対しては、常に同じ電荷が移動して、給電部の電位差はゼロとみなせることから、標準磁界発生用ループアンテナに生じた電界成分による不要な結合が被校正ループアンテナに生じることを防ぎ、前記標準磁界発生用ループアンテナにより発生させた標準磁界のみを前記被校正ループアンテナに鎖交させたときの出力値を得られるようにしたことを特徴とする。
本発明に係るループアンテナの校正方法によれば、標準磁界発生用ループアンテナに生ずる電界成分が被校正ループアンテナに作用して誤差要因となることを防げるので、より正確な磁界アンテナ係数を求めることが可能となる。
次に、添付図面に基づいて、本発明に係るループアンテナの校正方法の実施形態につき詳細に説明する。
図1に示すのは、標準磁界発生用ループアンテナとして用いる送信ループアンテナ10であり、芯線となる内部導体11aの周囲を金属管状の外部導体11bで覆ってなるセミリジッドケーブル11を半円弧状に形成することで下側の半ループと成し、上側の半ループとなる半円弧状の導体棒12と接合することでアンテナエレメントを構成する。なお、セミリジッドケーブル11は、外部導体11bの内部にフッ素樹脂等の絶縁体が充填された同軸線で、曲げ半径が5〜30cm程度以上なら簡単に曲げることができ、曲げた後もその形を維持できるケーブルである。
セミリジッドケーブル11の一方端(図1においては、紙面に向って左側端)において外部導体11bと導体棒12とが非接触となるギャップを設け、外部導体11bの左側部開放端よりも延出させた内部導体11aが導体棒12の左側端面に導通される給電部13が形成される。
セミリジッドケーブル11の他方端(図1においては、紙面に向って右側端)には、アンテナエレメントのループ面を垂直方向に保持して支えられる金属製の側方支持部14を設け、直角アダプタ15を介して垂直方向のアンテナホルダ16と接続される。これにより、送信ループアンテナ10は、給電部13とループ中心を通る仮想線が水平方向となるように配置できる。また、セミリジッドケーブル11の外部導体11bと導体棒12は、金属製の側方支持部14を介してショートさせておく。
上記のように構成した送信ループアンテナ10を用いて受信ループアンテナ210の校正を行う場合の概略構成を図2(a)に示す。送信ループアンテナ10と受信ループアンテナ210のループ面を対向させ、両アンテナのループ中心を通る仮想線が双方のループ面に直交するように配置し、伝送路20を介して信号発生器30から信号を送信ループアンテナ10へ供給することで、送信ループアンテナ10から放射された、強度が既知の磁界Hが受信ループアンテナ210のループ面を鎖交し、このときに生じた受信信号を伝送路220を介して受信機230で受信し、受信機230で測定した出力電圧に基づいて、磁界アンテナ係数Fm〔S/m〕を決定する。
このとき、送信ループアンテナ10から照射される電波の電界(水平成分Ehおよび垂直成分Ev)が受信ループアンテナ210に作用して出力電圧を生じることはなく、誤差とならないことは、前述した通りである。
更に、図2(a)に示すように、給電部13のある側方部から約90゜毎に、電流Ia→Ic→Ib→Idが流れている場合、ループの上下部を流れる電流IcとIdは向きが逆であるが、振幅は同じであるから電界水平成分は相殺され、受信ループアンテナ210における給電部213とループ中心を結ぶ仮想線に直交する向きの電界成分(受信ループアンテナ210に不要な結合を生じさせる電界水平成分)が受信ループアンテナ210に不要な結合を生じさせることはなく、受信ループアンテナ210に電界水平成分が作用して出力電圧を生じることはない。
これに対して、送信ループアンテナ10におけるループの側方部を流れる電流IaとIbは向きと振幅が異なる(Ia<Ib)ために電界垂直成分Ev′が生じ、受信ループアンテナ201はこの電界垂直成分Ev′を受信してしまうが、給電部213に対しては、常に同じ電荷を移動させるため、給電部213の電位差はゼロとみなせるので、この電界垂直成分Ev′による不要な結合が受信ループアンテナ210に生じることはない(図2(b)を参照)。
ここで、送信ループアンテナ10に流れる電流によって生ずる電界水平成分は相殺されて電界垂直成分Ev′が生じる原理を図3に示す。例えば、図3(a)に示すように、給電部13におけるギャップの一方端a′点から給電部113におけるギャップの他方端a点に向けて電圧+Vを印加し、電流がループ上の点a→c→c′→b→b′→d→d′→a′の順で流れる場合を考える。このとき、送信ループアンテナ10におけるループ上の各部の電圧と電流の分布を図3(b)に示す。上述したように、送信ループアンテナ10の底部であるc点(もしくはc′点)を流れる電流Icと、頂部であるd点(もしくはd′点)を流れる電流Idは大きさが等しいのに対して、送信ループアンテナ10の一側方部であるa点(もしくはa′点)を流れる電流Iaは、他側方部であるb点(もしくはb′点)を流れる電流Ibよりも小さく、不均衡が生じている。
図3(c)は、送信ループアンテナ10を分布定数回路で表現される伝送線路とみなし、点bとb′をショートさせた水平方向の折り返しダイポールに見立てたときの電流分布および電圧分布をアンテナ線路に沿って示したものである。点b−b′はショートしているので、電圧は最小値(ゼロ)となるが、電流は最大値となる。しかしながら、点a−b間(点cc′を含む範囲)と点b′−a′間(点dd′を含む範囲)では常に同振幅・逆向きの電流が流れるため、水平方向に電界成分は発生しない。
図3(d)は、送信ループアンテナ10を垂直方向に折り曲げたときの電流分布をアンテナ線路に沿って示したものである。なお、各部の電流値は、アンテナ線路か遠ざかるほど値が大きくなるように示してある。本図よりわかるように、点c′−d間(点b′bを含む範囲)を流れる電流αは、点d′−c間(点aa′を含む範囲)を流れる電流β1+β2よりも大きいため、その差に相当する垂直方向の電流{α−(β1+β2)}が流れるダイポールアンテナのように作動し、垂直方向の電界(電界垂直成分Ev′)が発生するのである。
すなわち、受信ループアンテナ210における給電部213とループ中心を結ぶ仮想線に直交する向きの電界成分を発生させる不均衡な電流が流れないように、受信ループアンテナ210の給電部213がある頂部とその逆側の底部に対応させて、送信ループアンテナ10の頂部を流れる電流Idと底部を流れる電流Icを等しくすれば、送信ループアンテナ10を流れる電流によって電界の水平成分は相殺され、受信ループアンテナ210において受信電圧を生ずることはなく、送信ループアンテナ10の側方部を流れる電流IaとIbの不均衡によって生ずる電界の垂直成分Ev′は受信ループアンテナ210に不要な結合を生じさせないので、磁界アンテナ係数Fm〔S/m〕の誤差要因を排除できる。
直径60cmのループアンテナを標準磁界発生用ループアンテナとして用いて、20cmの離隔距離で配置した直径60cmのループアンテナを被校正ループアンテナとして校正する場合について、フリーソフトウェアの電磁界シミュレーションソフト(NEC2:Numerical Electromagnetic Code)によりシミュレーションした結果を図4に示す。図4中、実線で示すのは、給電部13を側方に配置した送信ループアンテナ10を用いた場合の特性であり、破線で示すのは、図11で示した受信ループアンテナ210と同じ頂部に給電部113を設けた送信ループアンテナ110を用いた場合の特性であり、点線で示すのは、全く誤差要因のない理論値である。
図4の結果から、頂部に給電部113を設けた送信ループアンテナ110を用いた従来の校正方法では、周波数30MHz辺りで電界成分による不要な結合が起きているために、+0.7dBもの差が生じてしまい、正しい校正が行えていないことが分かる。一方、側方(頂部から90゜ずらした位置)に給電部13を設けた送信ループアンテナ10を用いた本発明の校正方法では、電界成分による結合を受けることなく校正が行えるため、−0.2dB以下の差で、従来よりも遙かに正確な校正ができていることが分かる。
なお、目的とする電波の周波数(波長)に対してループアンテナの大きさが無視できる程度に小さい(ループアンテナの直径が10cm程度の)アンテナを標準磁界発生用ループアンテナとして用いる場合には、アンテナの各部を流れる電流がほぼ均等と見なせるので、ループにおける給電部の位置が校正に対する誤差要因になることを回避できるものの、30MHzで+24.7dBも受信レベルを上げるためには、磁界強度を+24.7dBだけ強くする必要がある。そして、微小ループアンテナでこれほどの磁界強度を得ようとすると、約17倍もの大きな電流を流す必要があるために、大きな増幅器(例えば、0.1Aを1.7Aに増幅する機能)が必要になる等、到底現実的ではない。
以上のように、給電部とループ中心を通る仮想線に対してアンテナエレメントが対称で、被校正ループアンテナの給電部に対して90゜ずらして給電部を保持できるアンテナ保持構造を備えるループアンテナを、標準磁界発生用ループアンテナとして用いるループアンテナ校正方法によれば、ループアンテナを流れる電流の不均衡から生じてしまう電界成分が被校正ループアンテナに不要な結合を生じることを防止できる。
また、本発明のループアンテナ校正方法に用いる送信ループアンテナとしては、上述したセミリジッドケーブル11と導体棒12で対称構造をつくるものに限らない。例えば、図5に示すのは、送信ループアンテナ10の第1改変例10′であり、1本のセミリジッドケーブル11を円環状に形成し、ループ中心を通る水平方向に位置する部位の外部導体11bを除去して給電部13を設け、上下対称構造としたものである。なお、セミリジッドケーブル11の先端部では、中心導体11aと外部導体11bを金属製の側方支持部14に接続導通させ、中心導体11aと外部導体11bをショートさせる。
この送信ループアンテナ10′においても、ループの上下部を流れる電流は各々向きが逆で同振幅であるから電界水平成分は相殺され、受信ループアンテナ210において出力電圧を生じないのに対して、ループの側方部を流れる電流は向きと振幅が異なるために電界垂直成分Ev′が生じる。しかし、このように生じた電界垂直成分Ev′を受信ループが受信しても、給電部213に対しては、常に同じ電荷を移動させるため、給電部213の電位差はゼロとみなせるので、この電界垂直成分Ev′による不要な結合が受信ループアンテナ210に生じることはない。
図6(a)に示すのは、送信ループアンテナ10の第2改変例10″Aであり、導体棒17で形成したループの両端部から位相が180゜異なる信号を供給できる給電部13となるように、180度ハイブリッド回路やバラン回路等の二分配位相変換手段18を用いたものである。この送信ループアンテナ10″Aも上下対称構造であるから、ループの上下部を流れる電流は各々向きが逆で同振幅であるから電界水平成分は相殺され、ループの側方部を流れる電流は向きと振幅が異なるために生じる電界垂直成分Ev′は受信ループアンテナ210に不要な結合を生じさせることはない。
図6(b)に示すのは、送信ループアンテナ10の第3改変例10″Bであり、上述した第2改変例10″Aの導体棒17と二分配位相変換手段18を金属製の外装シールド19にて覆ったもので、導体棒17を覆うように配されるリング導体部19aにはループ中心を通る水平方向に位置する部位にギャップを形成することで、導体棒17が露出する給電部13を形成したものである。なお、二分配位相変換手段18は外装シールド19の二分配位相変換手段シールド部19bにて覆われる。この送信ループアンテナ10″Bも上下対称構造であるから、ループの上下部を流れる電流は各々向きが逆で同振幅であるから電界水平成分は相殺され、ループの側方部を流れる電流は向きと振幅が異なるために生じる電界垂直成分Ev′は受信ループアンテナ210に不要な結合を生じさせることはない。
上述した標準磁界発生用ループアンテナとして用いる送信ループアンテナの構成例においては、標準磁界発生用ループアンテナに流れる電流の不均衡で生ずる電界の向きを変えることで、被校正用ループアンテナに電界成分による結合が起きないようにするものであったが、これに限定されるものではなく、ループを流れる電流の不均衡が生じないアンテナ、すなわち、電界水平成分も電界垂直成分も相殺される送信ループアンテナを標準磁界発生用ループアンテナとして用いても良い。
ループを流れる電流の不均衡が生じないアンテナとして、複数給電ループアンテナがある。この複数給電ループアンテナは、ループ中心に対して対称位置に設けた2つの給電部の組み合わせである給電部対を1組以上有し、各給電部対における各給電部へ、同振幅・逆位相の信号を供給するものである。
図7に示すのは、標準磁界発生用ループアンテナの第2構成例であるダブルギャップシールデッドループアンテナ50であり、1組の給電部対を備える複数給電ループアンテナに該当する。
ダブルギャップシールデッドループアンテナ50は、特性および長さが等しい第1セミリジッドケーブル51と第2セミリジッドケーブル52で半円弧を形成(第1セミリジッドケーブルにおける外部導体51bの一方端と第2セミリジッドケーブル52における外部導体52bの一方端とを接合)し、半円弧状の導体棒53の各端部に第1セミリジッドケーブル51における非接合側端部より露出させた内部導体51aと第2セミリジッドケーブル52における非接合側端部より露出させた内部導体52aをそれぞれ導通させて、第1給電部54aと第2給電部54bを設けたものである。
そして、180度ハイブリッド回路やバラン回路等の二分配位相変換手段55によって、図示を省略した信号発生器から供給される信号を同振幅で逆位相の信号に変換し、上記ダブルギャップシールデッドループアンテナ50の第1給電部54aと第2給電部54bに、それぞれ供給する。すなわち、第1給電部54aと第2給電部54bへの給電信号を制御して、電流Ia=Ibが保持されるようにして動作させると、第1,第2給電部54a,54bから90゜離れた頂部および底部における電流Ic=Idも保持され、ダブルギャップシールデッドループアンテナ50を流れる電流の不均衡によって、受信ループアンテナ210に不要な結合を生ずる電界成分が発生することがない。
ここで、ダブルギャップシールデッドループアンテナ50に流れる電流の不均衡が生じない原理を図8に示す。例えば、図8(a)に示すように、第1給電部54aにおけるギャップの一方端a′点から第1給電部54aにおけるギャップの他方端a点に向けて電圧+Vを印加し、第2給電部54bにおけるギャップの一方端b′点から第2給電部54aにおけるギャップの他方端b点に向けて電圧−Vを印加し、電流がループ上の点a→c→c′→b→b′→d→d′→a′の順で流れる場合を考える。このとき、ダブルギャップシールデッドループアンテナ50におけるループ上の各部の電圧と電流の分布を図8(b)に示す。上述したように、ダブルギャップシールデッドループアンテナ50の第1,第2給電部54a,54bである両側方部を流れる電流Ia=Ibであり、また、頂部であるc点(もしくはc′点)を流れる電流Icと、底部であるd点(もしくはd′点)を流れる電流Idも大きさが等しい。それだけでなく、ダブルギャップシールデッドループアンテナ50において、180゜離れた2点における電流は必ず等しくなっており、第1,第2給電部54a,54bが垂直方向もしくは水平方向から外れたときでも、必ず、ループ中心を通る水平線上の2点と垂直線上の2点で電流の大きさは等しく向きは逆になるのである。
図8(c)は、ダブルギャップシールデッドループアンテナ50を分布定数回路で表現される伝送線路とみなし、水平方向に平行配置した2本のダイポールに見立てたときの電流分布および電圧分布をアンテナ線路に沿って示したものである。点a−b間(点cc′を含む範囲)および点b′−a′間(点dd′を含む範囲)では、常に同振幅・逆向きの電流が流れるため、水平方向の電界成分は相殺され、受信アンテナに不要な出力電圧を発生させない。なお、本図中の電圧分布は、アンテナ素子の外側をプラス、内側をマイナスとして描いており、ちょうど点cc′および点dd′をゼロとして、その左右で電圧変化が対称である。
図8(d)は、ダブルギャップシールデッドループアンテナ50を垂直方向に折り曲げたときの電流分布をアンテナ線路に沿って示したものである。なお、各部の電流値は、アンテナ線路か遠ざかるほど値が大きくなるように示してある。本図よりわかるように、点c′−d間(点b′bを含む範囲)を流れる電流α1+α2は、点d′−c間(点aa′を含む範囲)を流れる電流β1+β2と等しいため、垂直方向の電界も相殺され、受信アンテナに不要な出力電圧が発生することもない。
このように、ダブルギャップシールデッドループアンテナ50への給電制御をうまく行えば、アンテナエレメントを流れる電流の不均衡が起こらず、Ia=IbはもちろんIc=Idも保持されるので、受信ループアンテナ210における給電部213とループ中心を結ぶ仮想線に直交する向きの電界成分を発生さる不均衡な電流は流れない。よって、ダブルギャップシールデッドループアンテナ50を標準磁界発生用ループアンテナとして用いてループアンテナの校正を行えば、受信ループアンテナ210が電界成分による結合を受けることはなく、磁界アンテナ係数Fm〔S/m〕の誤差要因を排除できる。しかも、ループ中心に対して対象となる2点には、必ず同振幅・逆向きの電流が流れるように供給信号を制御したダブルギャップシールデッドループアンテナ50を用いる場合、第1,第2給電部54a,54bの位置と受信ループアンテナ210の給電部213の位置とにシビアな制限条件はないので、前述した第1構成例の送信ループアンテナ10を用いる場合に比べて、両アンテナの相対配置を簡易に行えるという利点もある。
上述した第2構成例のダブルギャップシールデッドループアンテナ50は、複数給電ループアンテナの一例で、ループ中心に対して対称な部位を流れる電流の均衡を保持できれば良い。
図9に示すのは、上述した第2構成例のダブルギャップシールデッドループアンテナ50の第1改変例で、シールドの無いダブルギャップ・ループアンテナ50′である。このダブルギャップ・ループアンテナ50′は、上側の半円弧を構成する第1導体棒53−1と、下側の半円弧を構成する第2導体棒53−2とでループを形成し、第1導体棒53−1と第2導体棒53−1の一側端(図9の紙面に向って左側)には、第1バラン55−1より180゜位相の異なる信号が各々供給される第1給電部54aが、第1導体棒53−1と第2導体棒53−1の他側端(図9の紙面に向って右側)には、第2バラン55−2により180゜位相の異なる信号が各々供給される第2給電部54bがそれぞれ形成される。
また、信号発生器30から伝送路20を介して供給される信号は、位相を変えずに二分配する分配器56によって二分配され、一方は第1給電線21によって第1バラン55−1へ、他方は第2給電線22によって第2バラン55−2へそれぞれ供給される。このとき、第1給電線21と第2給電線22の線路長は等しくしておくことが望ましい。
このダブルギャップ・ループアンテナ50′においても、上述したダブルギャップシールデッドループアンテナ50と同様に、ループ中心に対して対称な2点における電流は逆向きで同振幅となることから、電界成分が相殺され、受信ループアンテナ210に不要な結合を生じさせることはない。よって、ダブルギャップ・ループアンテナ50′を標準磁界発生用ループアンテナとして用いれば、高精度にループアンテナの校正を行うことができる。
図10に示すのは、上述した第2構成例のダブルギャップシールデッドループアンテナ50の第1改変例で、2組の給電部対で4カ所から給電を行うクワドラプルギャップ・ループアンテナ50″である。このクワドラプルギャップ・ループアンテナ50″は、1/4円弧状に形成した4つの導体棒(第1導体棒53−1、第2導体棒53−2、第3導体棒53−3、第4導体棒53−4)でループを形成し、第1導体棒53−1と第4導体棒53−4の一側端(図9の紙面に向って左側)には、第1バラン55−1より180゜位相の異なる信号が各々供給される第1給電部54aが、第2導体棒53−2と第3導体棒53−4の一方端(図9の紙面に向って右側)には、第2バラン55−2により180゜位相の異なる信号が各々供給される第2給電部54bが、第1導体棒53−1と第2導体棒53−2の他方端(ループの頂部)には、第3バラン55−3により180゜位相の異なる信号が各々供給される第3給電部54cが、第3導体棒53−3と第4導体棒53−4の他方端(ループの底部)には、第4バラン55−4により180゜位相の異なる信号が各々供給される第4給電部54dがそれぞれ形成される。すなわち、このクワドラプルギャップ・ループアンテナ50″においては、ループ中心に対して対称に位置する第1給電部55−1と第2給電部55−2が1組の給電部対となり、同じくループ中心に対して対称に位置する第3給電部55−3と第4給電部55−4が1組の給電部対となる。
また、信号発生器30から伝送路20を介して供給される信号は、位相を変えずに四分配する4分配器57によって4分配され、第1給電線21によって第1バラン55−1へ、第2給電線22によって第2バラン55−2へ、第3給電線23によって第3バラン55−3へ、第4給電線24によって第4バラン55−4へそれぞれ供給される。このとき、少なくとも各給電部対に接続する線路長(第1給電線21と第2給電線22の線路長、第3給電線23と第4給電線24の線路長)は等しくしておくことが望ましい。
なお、4分配器57の構成は特に限定されるものではないが、例えば、伝送路20からの入力信号を同位相で二分配する第1バラン54aによって2分配し、第1バラン54aの2出力を各々第2バラン54bおよび第3バラン54cによって同位相で二分配し、第2バラン54bの2出力を第1給電線21と第2給電線22に接続し、第3バラン54cの2出力を第3給電線23と第4給電線24に接続する構成とすれば、第2バラン54bおよび第3バラン54cの器差に起因した分配ロスなどの誤差要因を各給電部対内に止めることができる。
このクワドラプルギャップ・ループアンテナ50″においても、上述したダブルギャップシールデッドループアンテナ50と同様に、ループ中心に対して対称な2点における電流は逆向きで同振幅となることから、電界成分が相殺され、受信ループアンテナ210に不要な結合を生じさせることはない。よって、クワドラプルギャップ・ループアンテナ50″を標準磁界発生用ループアンテナとして用いれば、高精度にループアンテナの校正を行うことができる。また、給電部対を3組以上として、6カ所給電や8カ所給電等のループアンテナを構成し、全ての対となる給電部にそれぞれ180゜位相が異なる信号を供給すれば、同様の効果がある。
以上、本発明に係るループアンテナの校正方法を実施形態に基づき説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りにおいて実現可能な全てのループアンテナの校正方法を権利範囲として包摂するものである。