JP6514381B2 - 蒸着装置、蒸着方法及び有機el表示装置の製造方法 - Google Patents

蒸着装置、蒸着方法及び有機el表示装置の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、例えば有機EL表示装置の有機層を蒸着する蒸着装置、蒸着方法及び有機EL表示装置の製造方法に関する。
例えば、有機EL表示装置が製造される場合、支持基板上にTFT等の駆動素子が形成され、その電極の上に有機層が画素ごとに対応して積層される。この有機層は水分に弱くエッチングをすることができない。そのため、有機層の積層は、支持基板(被蒸着基板)と蒸着マスクとを重ねて配置し、その蒸着マスクの開口を通して有機材料の蒸着を行うことによりなされる。そして、必要な画素の電極の上のみに必要な有機材料が積層される。この被蒸着基板と蒸着マスクとは、できるだけ近接していないと画素の正確な領域のみに有機層が形成されない。正確な画素の領域のみに有機材料が堆積していないと表示画像が不鮮明になりやすい。そのため、蒸着マスクに磁性体を使用し、永久磁石又は電磁石と蒸着マスクとの間に被蒸着基板を介在させることで、被蒸着基板と蒸着マスクとを接近させる磁気チャックが用いられている(例えば特許文献1参照)。
特開2008−024956号公報
蒸着マスクとして、従来メタルマスクが用いられていたが、近年では、より精細な開口を形成するため、樹脂フィルムで形成され、その樹脂フィルムの開口の周縁を除いた部分を金属支持層で支持するハイブリッド型の蒸着マスクが用いられる傾向にある。ハイブリッドマスクのように、磁性体が少ない蒸着マスクは、より強い磁場(磁界)でないと充分な吸着を行えない。
前述のように、吸着が充分でないと、被蒸着基板と蒸着マスクとの接近性が低下する。蒸着マスクを充分に被蒸着基板に引き付けるには、強い磁場が必要となる。磁気チャックの磁石として、永久磁石が用いられると、その磁場が強い場合、被蒸着基板と蒸着マスクとの位置合せが困難になる。一方、電磁石が用いられると、電磁石のコイルへの電流の印加をオフにすることによって、磁界を殆ど0にし、電流を印加することによって、磁界を発生させ吸着させ得る。そのため、位置合せの際には磁場を印加しないで、位置合せ後に磁場を印加することができるので、被蒸着基板と蒸着マスクとの位置合せが容易になる。
しかしながら、電磁石を用いて、大きい磁場を発生させるには、電流を大きくする必要がある。電磁石の磁界の強さは電磁石のコイルの巻数とそのコイルに流れる電流との積に比例する。そのため、磁界を大きくしようとすると、電流を大きくするか、巻数を多くする必要がある。いずれの方法によっても、発熱量が大きくなる。元々電磁石のコイルには、大電流が流されているので、電磁石のコイルには抵抗の小さい電線が用いられるが、電流の抵抗損によって電磁石は発熱する。さらに、電磁石にコア(鉄心)が用いられると発生する磁界を大きくすることができるが、渦電流による発熱が生じる。従って、発生する磁界を大きくするため、さらに電流が大きくなると、より一層発熱が問題になる。
一方、発熱が生じると、被蒸着基板及び蒸着マスクにその熱が伝搬して温度が上昇する。被蒸着基板と蒸着マスクとは、材料が異なるため、その線膨張率も異なる。例えば被蒸着基板と蒸着マスクの線膨張率の差が3ppm/℃あると1mの長さのパネルでは、端と端で1℃当たり3μmのずれが生じる。例えば1画素の大きさの一辺が60μmとすると、5.6kの解像度では、15%程度のずれまでしか許容されないと考えられている。そうすると、ずれは9μmが限界である。前述の例では、1℃の温度上昇で3μmのずれが生じるので、3℃の温度上昇が限界になる。すなわち、電磁石の温度上昇による被蒸着基板及び蒸着マスクの温度上昇が3℃以下に抑えられることが必要になる。一方で、電磁石は真空チャンバー内に配置されているため、送風や対流による放熱は難しい。金属パイプを巻き付け、その中に冷却水を流して水冷することも考えられるが、冷却水を介しての放熱では時間がかかり、短時間で発生する大量の熱を充分に放熱することができないと共に、継手部が破裂すると大量の水が真空チャンバー内に溢れ、真空チャンバーが破損するという危険性がある。
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、電磁石で発生する熱を即座に、しかも確実に冷却し、又は発生する熱を抑制しながら被蒸着基板の脱着及び蒸着マスクとの位置合せを簡単に行える蒸着装置及び蒸着方法を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、上記蒸着方法を用いて、表示品位の優れた有機EL表示装置の製造方法を提供することにある。
本発明の第一の実施形態の蒸着装置は、真空チャンバーと、前記真空チャンバーの内部に配置される蒸着マスクを保持するマスクホルダーと、前記マスクホルダーに保持される蒸着マスクと接するように被蒸着基板を保持する基板ホルダーと、前記基板ホルダーに保持される被蒸着基板の前記蒸着マスクと反対面の上方に配置される電磁石と、前記蒸着マスクと対向させて設けられ、蒸着材料を気化又は昇華させる蒸着源と、少なくとも第一端部である吸熱部が前記電磁石に接触して設けられ、前記吸熱部と反対の第二端部である放熱部が前記真空チャンバーの外部に導出されるヒートパイプと、を有し、前記ヒートパイプと前記電磁石との接触部が、前記電磁石のコイルの内周の断面積以上の面積で密着して接合されている。
本発明の第二の実施形態の蒸着方法は、電磁石と、被蒸着基板と、磁性体を有する蒸着マスクとを重ね合せ、かつ、前記電磁石への通電によって前記被蒸着基板に前記蒸着マスクを吸着させる工程、及び前記蒸着マスクと離間して配置される蒸着源からの蒸着材料の飛散によって前記被蒸着基板に前記蒸着材料を堆積する工程、を含み、前記電磁石のコイルの内周の断面積よりも広い面積で前記電磁石に密着させたヒートパイプによって前記電磁石を冷却しながら前記蒸着材料の堆積を行う。
本発明の第三の実施形態の有機EL表示装置の製造方法は、支持基板上にTFT及び第一電極を少なくとも形成し、前記支持基板上に前述の蒸着方法を用いて有機材料を蒸着することによって有機層の積層膜を形成し、前記積層膜上に第二電極を形成することを含んでいる。
本発明の第一及び第二の実施形態の蒸着装置及び蒸着方法によれば、電磁石の発熱による被蒸着基板及び蒸着マスクの温度上昇が抑制される。そして、熱膨張による蒸着マスクと被蒸着基板との位置ずれが抑制される。その結果、有機層の蒸着精度が向上し、正確なパターンで蒸着される。有機EL表示装置の製造に使用すれば、精細な画素によって、高精細な表示パネルが得られる。
本発明の一実施形態の蒸着装置の概略図を示す図である。 図1のヒートパイプの構成例を説明する図である。 図1のヒートパイプの変形例を説明する図である。 電磁石とヒートパイプとの接合の他の実施態様を示す図である。 電磁石とヒートパイプとの接合のさらに他の実施態様を示す図である。 電磁石とヒートパイプとの接合のさらに他の実施態様を示す図である。 図5AのVB−VB断面図である。 電磁石とヒートパイプとの接合のさらに他の実施態様を示すヒートパイプの平面図である。 図6AのVIB−VIB断面図である。 図6Aのヒートパイプを丸めた斜視図である。 図6Cのヒートパイプをコアの内部に埋め込む状態を示す図である。 電磁石とヒートパイプとの接合のさらに他の実施態様を説明するためのヒートパイプの説明図である。 図7Aの吸熱部の平面図である。 図7Bのウィック構造体の説明図である。 図7Aのヒートパイプを蒸着装置に組み込んだ状態を示す模式図である。 ヒートパイプを真空チャンバーに接続する構造例を示す図である。 蒸着マスクの一例の拡大図である。 本発明の有機EL表示装置の製造方法による蒸着工程を示す図である。 本発明の有機EL表示装置の製造方法で有機層が積層された状態を示す図である。
次に、図面を参照しながら本発明の第一及び第二の実施形態の蒸着装置及び蒸着方法が説明される。図1に示されるように、本実施形態の蒸着装置は、真空チャンバー8と、真空チャンバー8の内部に配置される蒸着マスク1を保持するマスクホルダー15と、マスクホルダー15に保持される蒸着マスク1と接するように被蒸着基板2を保持する基板ホルダー29と、基板ホルダー29に保持される被蒸着基板2の蒸着マスク1と反対面の上方に配置される電磁石3と、蒸着マスク1と対向させて設けられ、蒸着材料51を気化又は昇華させる蒸着源5と、少なくとも第一端部である吸熱部71が電磁石3に接触して設けられ、吸熱部71と反対の第二端部である放熱部72が真空チャンバー8の外部に導出されるヒートパイプ7とを有し、ヒートパイプ7と電磁石3との接触部が、電磁石3のコイル32の内周の断面積以上の面積で密着して接合されている。なお、図1で4は被蒸着基板2を冷却すると共に被蒸着基板2の変形を防止するタッチプレートである。
ここに電磁石3とは、コイル32に通電することによって磁界を発生させ、通電を止めると磁界を失うものを意味し、コイル32の内部にコア(磁心、鉄心)31を有する場合はそのコア31、コア31にさらにヨーク33が取り付けられる場合はそのヨーク33、及びコイル32とコア31などを樹脂などの被覆物34(図3参照)で一体化する場合は、その被覆物34なども含む意味である。また、ヒートパイプ7の吸熱部71とは、ヒートパイプ7と電磁石3との接触部分を指す。
蒸着装置の概略構造については後述されるが、図1に示されるように、蒸着マスク1と被蒸着基板2とは上下に並置して配置されているので、蒸着マスク1と被蒸着基板2との密着性(良好な接近性)を得るため、被蒸着基板2の蒸着マスク1と反対面の上方に磁石3が配置され、磁石の磁界による蒸着マスク1の吸引を行う磁気チャックの方法が採用されている。この場合、強い磁界によれば、強く吸着される。しかし、この磁石に永久磁石が用いられると、蒸着マスク1と被蒸着基板2との位置合せの際にも強い磁界が働いているため、被蒸着基板2と蒸着マスク1とは、近接している場合常に強く吸着される。そのため、被蒸着基板2と蒸着マスク1との正確な位置合せを行い難いという問題がある。
一方、磁石として、電磁石3が用いられると、位置合せの際には電磁石3の電流をオフにすることによって磁界の発生しない状態で位置合せを行える。その結果、簡単に位置合せを行い得る。しかし、位置合せ後に電磁石3に電流を流し磁界を発生させると、電磁石3が発熱するという問題が生じる。すなわち、電磁石3による磁界は、電磁石3のコイル32の巻数nとコイル32に流れる電流Iとの積n・Iに比例する。そのため、充分な磁界によって蒸着マスク1を吸着しようとすると、電流Iを大きくするか、コイル32の巻数nを多くする必要がある。コイル32の巻数nを多くすると、電線が長くなり、電気抵抗Rが増大する。すなわち、電流I又はコイル32の巻数nのいずれを大きくしてもジュール熱I2・Rが大きくなる。そのため、磁界を強くすればするほど発熱の問題は大きくなる。
例えば1m四方(1m×1m)の蒸着マスク1を用いて蒸着する場合、充分に吸着するためには、図1に示されるような小さい電磁石3(以下、単位の電磁石3という)を並べた構造にすることが、磁力分布の均一化、及び放熱の容易さから好ましい。この場合、前述の蒸着マスク1をカバーするのに、例えば20cm角のコア31を有する単位の電磁石3が25個ほど配置される。1個の単位電磁石3は、コア31の周囲に100m程度の長さの電線が巻回される。この電線として直径1mm程度の銅線(抵抗率1.72×10-8Ω・m)を使用すると(比較的安価なアルミニウム線を用いると抵抗率は2.78×10-8Ω・m)、長さ100mで、抵抗Rは約2.2Ωとなる。
この単位電磁石3一つ当たりの電流を2Aとすると、発生する熱量はI2・R=8.8Wになる。被蒸着基板2の1個当たりの蒸着時間は(通電時間)は、120秒程度であるが、例えば単位の電磁石3を2分間連続で動作せると、8.8W×120s=1056J(ジュール)の熱量を発生する。これは、252calに相当し、15℃程度の温度上昇を招くことになる。この単位の電磁石3が25個あるため、発生する熱量は6300calとなるが、体積(面積)も大きくなり、全体の電磁石3の温度が25倍になる訳ではない。しかし、隣接する単位の電磁石3間の相互の熱作用もあり、また、被覆物34の有無など、周囲の熱容量などによっても変り得る。しかも、実際には、被蒸着基板2を取り換えて、連続的に蒸着は行われるので、電磁石3が冷め切らないうちに、さらに加熱されることになり、熱量が蓄積されてさらに温度が上昇する。これらを考慮すると、全体の電磁石3で、最高20℃程度は上昇すると考えられる。この電磁石3の温度上昇による蒸着マスク1などの温度上昇も、諸々の条件によって変わり得るが、電磁石3の温度上昇が20℃程度とすると、被蒸着基板2及び蒸着マスク1の温度が12℃程度上昇すると考えられる。
一方、被蒸着基板2や蒸着マスク1の温度が上昇すると熱膨張が生じる。しかし、被蒸着基板2と蒸着マスク1とは材料が異なるため、熱膨張に差が出る。例えば被蒸着基板2がガラスで、蒸着マスク1の金属支持層12(図9参照)に膨張の小さいインバーを用いても、被蒸着基板2と蒸着マスク1との間で線膨張率差が3ppm/℃程度生じる。熱膨張率が3ppm/℃異なると、1mの表示パネルの一端と他端では3μmのずれが生じる。表示装置の大型化、かつ、4kや8kなどの高精細化に伴い、例えば5.6kの解像度で、画素のずれは15%程度が限度と考えられる。前述の一辺が1m程度の大型画面では、各画素の大きさは、一辺が60μm程度であり、15%のずれは、9μmとなる。すなわち、3℃の温度上昇があると、精細な画像を得るための限度となる。蒸着源5からの熱輻射による温度上昇も考えられることから、電磁石3による温度上昇は極力避けられなければならない。要するに、電磁石3による蒸着マスク1の温度上昇は、最悪でも(解像度が低い場合でも)10℃以下、好ましくは5℃以下、さらに好ましくは3℃以下に抑えられなければならないことを本発明者らは見出した。
前述の例では、表示パネルの一辺の大きさが、1mのときの例であるが、一般的に表示パネルの一辺と1画素の一辺とは、解像度が同じであれば、ほぼ比例的に変るので、例えば一辺が50cmの表示パネルで同じ解像度(前述の例は5.6kの解像度)にしようとすると、1画素の一辺の長さは30μmになる。従って、4.5μm(15%)のずれが、50cmの長さに許容される。すなわち、4.5μm/50cm=9ppmとなり、線膨張率差が3ppm/℃の場合、3℃まで許容される。要するに、どの大きさの表示装置に対しても、解像度が同じで、画素ずれの許容割合が同じであればこの関係は成り立つ。しかし、解像度をそれ程高く要求されなければ、例えば現状のテレビジョンの解像度程度であれば、ずれの程度は40%程度まで容認することができると考えられる。従って、1mの長さのパネルで25μm程度のずれまで許容され得る。すなわち電磁石3からの熱伝導による蒸着マスク1の温度上昇は、表示パネルの精細度によるが、8k程度の精細度が求められる場合には、2℃以下に、4k程度の精細度では、5℃以下、通常のテレビジョン程度の精細度でも10℃程度以下になるように電磁石3の放熱がなされる必要があることを本発明者らは見出した。
その観点から、本発明者らは、水冷による電磁石3の冷却では不充分で、また、真空チャンバー8の内部であるため、送風や対流による熱放出も行えず、ヒートパイプ7の採用に想到した。この場合、ヒートパイプ7であれば、雰囲気温度でその環境を充分に冷却させることができるが、真空蒸着装置では、図1に示されるように、電磁石3と被蒸着基板2及び蒸着マスク1とが非常に近接して配置されている。そのため、電磁石3の被蒸着基板2と対向する面の近傍にヒートパイプ7を設けることが好ましいが、通常の棒状のヒートパイプ7では、配置するスペースが無い。一方で、ヒートパイプ7によれば、その放熱部72(図1参照)を真空チャンバー8の外部に配置することによって、電磁石3で発生する熱を真空チャンバー8の外部に排出することができる。そのため、真空チャンバー8の内部の温度上昇が効率よく抑制されるので、ヒートパイプ7の使用が好ましい。
もし、棒状のヒートパイプ7を挿入するためスペースを設けることを考えると、電磁石3と蒸着マスク1との距離が大きくなる。その結果、蒸着マスク1での磁界が弱くなり、吸着力が低下する。その吸着力を確保するためには、電磁石3の磁界をさらに上昇させるために電流を大きくする必要があり、その結果、さらに発熱させることになる。従って、電磁石3の被蒸着基板2と対向する面と離れたところにヒートパイプ7を配置する場合には、電磁石3から発生する熱は殆ど全て吸収される必要があり、ヒートパイプ7を設ける場合に、どのように配置するかが非常に大きな問題になることを本発明者らは見出した。
本発明者らは、このような問題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、電磁石3の蒸着マスク1に向く面と反対面であっても、ヒートパイプ7を電磁石3と広い面積で接触させることによって、電磁石3の蒸着マスク1に対向する端面の温度を下げ得ることを見出した。具体的には、少なくとも電磁石3のコイル32の内周の断面積よりも大きい面積でヒートパイプ7の吸熱部71と電磁石3とを接触(密着)させることで、電磁石3自身の温度を低下させることができ、蒸着マスク1の温度上昇を抑制し得ることを本発明者らは見出した。
換言すると、特に発熱するコイル32及びコア31の部分を冷却することが重要であり、その部分にヒートパイプ7の吸熱部71を接触させることが効果的であった。すなわち、前述のように、被蒸着基板2及び蒸着マスク1の温度が上昇しないようにすることを目的としているので、電磁石3の蒸着マスク1に向く端面の温度を低下させることが好ましい。しかし、その適当な冷却手段が無い場合、電磁石3そのものの温度を低下させる必要がある。この場合、コイル32及びコア31の温度が最も上昇するので、この部分の温度を低下させることが重要になる。そのため、ヒートパイプ7の吸熱部71を電磁石3のコア31又はコイル32とできるだけ広い面積で接触させることが必要となる。すなわち、最低限コア31の端面の全面、さらにその外周にコイル32が巻回されていることを考慮すると、コイル32の外周の断面積以上と接触させることが好ましい。
このコイル32の内周の断面積、又はそれよりも大きい面積で接触させる理由は、電磁石3は、通常、強い磁界を得るためコア(磁心)31が設けられ、コイル32はその周囲に巻回される。従って、コイル32の内周の断面積は、コア31の断面積とほぼ等しい。一方、電磁石3の発熱は、コイル32の抵抗損によるコイル32の発熱と、コア31が設けられる場合には、そのコア31に発生する渦電流による抵抗損である。コイル32に発生する熱は、コイル32が一般的にはコア31に巻き付けられるため、コイル32とコア31は密着しており、コイル32の熱はコア31に容易に伝達する。そのため、このコア31を冷却すべく、少なくともコア31の端面の全面にヒートパイプ7を接触させることで、発生する熱を効率的に発散させ得ることを本発明者らは見出した。さらに、発熱するコイル32との接触も考慮すると、コイル32の外周の断面積又はそれより大きいことが好ましい。接触面積を大きくするため、コア31の内部にヒートパイプ7の吸熱部71の一部が埋め込まれることが好ましいが、コア31があまり削られると、磁界を弱くさせる。
しかし、電磁石3には、前述のように、コイル32とコア31のみならず、例えば図1に示されるように、ヨーク33が接続される場合は、そのヨーク33も含まれる。また、図3に示されるように、コア31、コイル32、ヨーク33などが樹脂などの被覆物34によって、一体にされる場合には、その被覆物34なども電磁石3の一部と見做され得る。従って、図1に示されるように、ヨーク33が接続される場合には、そのヨーク33の幅をコア31の径よりも大きい幅で形成することによって、図1に示されるようにヨーク33の内部に一部を埋め込まなくても、接触面積を大きくすることができる。
また、コイル32やコア31などを樹脂などの被覆物34によって一体化し(図3参照)、その被覆物34の内部にヒートパイプ7の吸熱部71が埋め込まれてもよい。さらに、コア31又はヨーク33の内部にヒートパイプ7の吸熱部71の一部が埋め込まれ(図1、図4参照)てもよい。又は、ヒートパイプ7の吸熱部71を細長く形成して、磁界の形成にあまり影響しないように、コア31の内部に深く挿入する(図5A〜5B)こともできる。さらに、ヒートパイプ7の吸熱部71を平板状(扁平状)にしてリング状にし、そのリング状のヒートパイプ7の吸熱部71をコア31の内部に埋め込んでもよい(図6D)。さらに、Thermal Science & Engineering Vol. 2 No. 3(2015)の41〜56頁に示されているような、ループ型のヒートパイプ7の平面状の吸熱部71が電磁石3全体の蒸着マスク1と対向する端面に設けられ(図7A〜7D)てもよい。この場合、タッチプレート4(図1参照)の代りに平板状の吸熱部71だけにすることも可能である。すなわち、ループ型のヒートパイプ7の平板状の吸熱部71によって、冷却のみならず、被蒸着基板2の反りを抑制することも可能である。
また、コア31は鉄などで形成されており、熱伝導はそれ程よくない。そのため、銅などの熱伝導率の大きい材料による被膜31bがコア31の表面、少なくともヒートパイプ7との接触部近傍に形成されていることが好ましい。ヒートパイプ7をできるだけ広い面積で電磁石3に密着させることによって、効率的に電磁石3で発生した熱を真空チャンバー8の外に排出することができる。この電磁石3とヒートパイプ7との接触面積を大きくする方法は、後述される。
(ヒートパイプの構造)
ヒートパイプ7は、典型的な例としては、図2Aに示されるような構造になっている。すなわち、例えば銅などからなり、真空密閉されたパイプ(ケース;容器)75の内壁に、毛細管現象で液体を移動させるウィック76が形成され、パイプ75の内部に水などからなる作動液(図示せず)が少量封入された真空(低圧)構造になっている。この構造で、一端部である吸熱部71で周囲の熱によって加熱されると、作動液が蒸発して蒸気が発生し、パイプ75の内部圧力が高くなる。その蒸気が空間部73を通って、他端部である放熱部(冷却部)72で、凝縮して液化する。液化した液体は、パイプ75の内壁に形成されたウィック76内を毛細管現象によって吸熱部71に向かって進む。このような蒸発と凝縮に伴う潜熱移動によって、小さな温度差でも吸熱部71から放熱部72に大量の熱が輸送され、ヒートパイプ7は、銅の丸棒の熱伝導に比べて100倍にも達すると言われている。ウィック76は、毛細管現象で液体が進行する構造であればよく、金網や多孔質体やスポンジのような構造などでもよい。
前述のように、ヒートパイプ7が横向きに配置されると、凝縮した液体はウィック76を通って吸熱部71に運ばれる。しかし、例えばこのヒートパイプ7が縦向きに配置され、下側が吸熱部71にされる(すなわち温度の高い部分がヒートパイプ7の下側になるように配置される)と、下側で液体が蒸発し、その蒸気が上に昇って放熱部72で凝縮する。この場合、ウィック76が無くても、液化した液体は、自重で落下し、吸熱部71に戻る。これはサーモサイホン式と言われている。本実施形態では、いずれの方式のヒートパイプ7でも使用され得る。例えばヒートパイプ7が縦向きに配置される場合でも、ウィック76が存在していてもよい。
図2Bは、他の構造例であるヒートパイプ7を示す図である。ヒートパイプ7は内部に水などの作動液体が封入されている。一方、このヒートパイプ7は、前述のように、その吸熱部71が電磁石3と接触するように設けられている。そのため、真空チャンバー8の内部に設けられる。もしこのヒートパイプ7が破損すると、内部に封入されている液体が真空チャンバー8の内部に漏れることになる。真空チャンバー8の内部に液体が漏出すると、その信頼性及びメンテナンスが大変になる。
図2Bに示される構造は、そのような問題を解決するためのものであり、二重構造に形成されている。すなわち、前述のヒートパイプ7のパイプ75の、例えば吸熱部71の端部を閉塞板77と鍔部75aとで構成し、その鍔部75aに保護パイプ78が溶接又はロウ付けなどによって設けられ、この保護パイプ78とパイプ(容器)75との間に空間79を形成されている。この空間79は真空にされてもよい。このような構造にされることによって、パイプ(容器)75が破損しても作用液は真空チャンバー8の内部に漏出しない。
また、ヒートパイプ7は、図2Aに示されるような棒状の形状に限らず、後述される図6A〜6Bに示されるような扁平な形状(平板状)にも形成され得る。この場合、パイプ(容器)75も空間部73が保持できる程度の剛性を有しながら、曲げ加工が可能な薄い金属板又は合成樹脂などによって形成され得る。さらに、例えば後述する図7A〜7Cに示されるようなループ型のヒートパイプ7を用いることもできる。このようなループ型のヒートパイプ7は、例えば10mm程度の非常に薄い扁平状(平板状)の吸熱部71に形成されるため、電磁石3の前面、すなわち蒸着マスク1を向く端面に配置することができる。この場合、図1に示されるタッチプレート4を省略して、このヒートパイプ7の吸熱部71で代用することもできる。その結果、電磁石3の吸引力に殆ど影響を与えることなく、ヒートパイプ7が配置され得る。
次に、このヒートパイプ7と電磁石3とをコイル32の内周の断面積よりも大きい面積で接触させる実施態様について説明される。
(実施態様1)
この実施態様1は、図1に示されるように、電磁石3が、コア31と、そのコア31に電線が巻回されて形成されるコイル32と、コア31の端部に接続される断面がC型形状のヨーク33(コア31と共にE型ヨーク)とで形成されている。そして、例えば図1に示されるようなヒートパイプ7がヨーク33の背面(蒸着マスク1を向く面と反対面)に接続して設けられている。このようなヨーク33にヒートパイプ7を接触させる構造にすることによって、ヒートパイプ7の径を大きくすることで、接触面積をコイル32の内周の断面積よりも大きくし得る。
この図1に示される例では、ヨーク33にヒートパイプ7の吸熱部71が埋め込まれるように配置されている。このヒートパイプ7の吸熱部71の一部がヨーク33の内部に埋め込まれることは必須ではない。ヒートパイプ7の端面の面積がコイル32の内周の断面積より大きければ充分に放熱される。しかし、前述のように、両者の接触面積は大きければ大きいほど好ましい。すなわち、ヒートパイプ7の端面の面積のみならず、埋め込まれた部分の周面の面積でも接触することになる。これによって、電磁石3の放熱効果が向上する。一方、ヨーク33は磁力線の通路となるので、あまり深く埋め込むと、磁力線を妨害する。しかし、予めヨーク33の厚さを厚く形成しておくことによって、その影響を抑制することができる。
図示されていないが、コア31の表面やヨーク33の表面に銅メッキなどによる熱伝導率の大きい被膜31bが形成されることによって、より一層放熱効果が高まる。ヒートパイプ7は、銅よりも100倍ほど高い熱伝導を有するが、前述のように、電磁石3にヒートパイプ7を効果的に接触させるスペースが限られている。そこで、限られた位置に配置されるヒートパイプ7までの電磁石3内での熱伝導を良好にすることが好ましい。
ヨーク33が設けられることによって、蒸着マスク1に作用する磁界が強くなる。電磁石3の蒸着マスク1に向く面と反対面の磁極が、ヨーク33を介して蒸着マスク1に向く端面の近くに来ているので、空中を介するよりも磁気抵抗が小さく、強い磁界が得られる。その結果、所望の吸着力を得るための電流又は電磁石3の数を減らすことができ、より一層発熱が防止され、蒸着マスク1などの温度上昇が抑制される。
(実施態様2)
実施態様2の構成は、図3に示されるように、コイル32と、コア31と、ヨーク33とが、例えばエポキシ樹脂などの耐熱性樹脂などの被覆物34によって一体に被覆されている。被覆物34の材料としては、この例に限らないが、真空チャンバー8の内部に配置されるので、ガスを発生し難い材料であることが好ましい。例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などを用いることもできる。特に熱伝導の良好なものが好ましい。必要に応じて、金属粉などのフィラーが混入されてもよい。
図3に示される例では、ヒートパイプ7の吸熱部71がヨーク33の表面に接する状態で取り付けられている。このような構造でも、ヒートパイプ7の吸熱部71が被覆物34の内部に埋め込まれているので、ヒートパイプ7の側面でも電磁石3(被覆物34及びヨーク33)と接触している。従って、ヒートパイプ7と電磁石3との接合面積が充分に確保される。また、図3に示される例では、ヨーク33を介してヒートパイプ7が取り付けられているが、ヨーク33は無くてもよい。ヨーク33が無くても、ヒートパイプ7の吸熱部71の側面で被覆物34と接するので、熱伝導に必要な接触面積が確保され得る。
図3に示されるように、被覆物34で電磁石3のコア31及びコイル32の部分が被覆されることによって、ヒートパイプ7との接触面積を増やしやすいのみならず、コイル32で発生する熱を直接被覆物34によって伝導することが可能になる。すなわち、コイル32の外表面は、断面が円形の電線の巻回により形成されているので、山状の表面が連続した形状になっており、ヒートパイプ7を直接接触させようとしても、充分な接触面積が得られない。しかし、樹脂などの被覆物34によって被覆されると、コイル32の隙間まで被覆物34は充填されるので、コイル32との接触は完全に得られる。その結果、コイル32で発生した熱を、コア31を介することなく、直接被覆物34を介してヒートパイプ7に伝達することができる。そのため、非常に放熱効果が向上する。この場合、コイル32などで発生した熱が被覆物34によって覆われることによって、直接輻射されないで、熱がこもりやすいと考えられる。しかし、元々電磁石3は真空チャンバー8の内部に配置されるので、対流による放熱は期待し難く、それより被覆物34の伝導による放熱効果の方が大きいと考えられる。
(実施態様3)
図4は実施態様3を示す図である。この実施態様3の構成は、コア31の一端部にヒートパイプ7の太さ、及び形状に合せた凹部31aが形成され、その凹部31aの内部にヒートパイプ7の吸熱部71が埋設されている。この構造にすれば、ヒートパイプ7の端部の面積は、コア31の外周、すなわちコイル32の内径よりも小さくなる。しかし、ヒートパイプ7の吸熱部71がコア31の内部に埋め込まれている。そのため、ヒートパイプ7の側面にも接触面積があり、コア31の断面積よりも接触面積を大きくすることができる。
この凹部31aの深さdは、接触面積を大きくするという観点からは、大きいほど好ましい。しかし、あまり深いとその内部を通る磁力線の磁気抵抗が大きくなる。そのため、前述のように、電磁石3とヒートパイプ7との接触面積がコア31の断面積より大きくなる程度の深さdに形成される。具体的には、ヒートパイプ7の吸熱部71の端面の半径をr、コア31の断面積の半径をRとすると、両者の接触面積S1は、S1=πr2+2πrdになり、コア31の断面積、すなわちコイル32の内径の断面積は、S2=πR2になる。従って、S1≧S2になるには、(πr2+2πrd)≧πR2となる。すなわち、d≧(R2−r2)/2rということになる。
図1に示される例でも同様であるが、この場合も、特にヒートパイプ7と電磁石3(コア31)との接触が良好であることが好ましい。そのため、凹部31a内で熱伝導性の良好な接着剤又はハンダ付け、ロウ付けなどによる接着が好ましい。また、コア31などの熱がヒートパイプ7に伝導することが重要である。そのため、熱伝導の良好な銅めっきなどの被膜31bが形成されることが好ましい。このような熱伝導率がコア31よりも大きい被膜31bの形成は、図4に示される例に限定されるものではなく、他の実施形態においても同様である。また、コア31などの全面に被膜31bが形成されていなくても、少なくともヒートパイプ7と接合される部分の近傍に形成されていれば効果がある。
(実施態様4)
図5A〜5Bは、実施態様4を説明する図である。すなわち、図5Aは側面図で、図5BはそのVB−VB断面図である。この例は、ヒートパイプ7を細くして、コア31の内部に埋め込んだものである。すなわち、その断面積を小さくすれば、磁力線に対する悪影響は抑制される。そして、ヒートパイプ7の吸熱部71を長くしてコア31の内部に深く埋め込まれることによって、ヒートパイプ7とコア31、すなわち電磁石3との接触面積を充分に大きくし得る。そのため、細いヒートパイプ7にして、コア31の内部に埋め込まれることによって、磁力線への影響を抑制しながら、コア31の温度を効率的に低下させ得る。
このコア31の内部にヒートパイプ7を埋め込む方法としては、コア31にヒートパイプ7の太さの孔をあけて、ヒートパイプ7の吸熱部71を挿入し、熱伝導率の大きい接着剤で接着するか、前述のように、ハンダ付け、ロウ付けなどで接着されてもよい。また、ヒートパイプ7がコア31に形成された孔に挿入されて、隙間にカーボンナノチュープなどの熱伝導率の大きい微粉末を含む樹脂で両者間の隙間をなくしてもよい。そうすることによって、コア31からヒートパイプ7への熱伝導が向上する。また、別の方法として、所望のコア31の形状の凹部を有する成形用金型に焼結用鉄粉を入れて、その中にヒートパイプ7を埋め込んで粉末を押しつけて焼結する、いわゆる圧粉磁心の形成法を用いることによっても、コア31の内部にヒートパイプ7を埋め込むことができる。
このような構造にすることによって、磁力線に余り影響を与えることなく、コア31の内部にヒートパイプ7を充分な深さまで埋め込むことができる。すなわち、コア31の断面積を余り減らすことなく、ヒートパイプ7とコア31との接触面積は大きくされ得る。さらに、コア31の奥深くまでヒートパイプ7が挿入されることで、電磁石3の蒸着マスク1に向く面の温度が低下されやすい。すなわち、前述のように、電磁石3と蒸着マスク1との間は、その距離を小さくする必要から通常の棒状のヒートパイプ7を挿入するスペースはない。そのため、ヒートパイプ7は、電磁石3の蒸着マスク1に向く面と反対面からコア31に挿入、又は接触される。その結果、コア31の冷却も電磁石3の蒸着マスク1に向く面と反対面から行われる。しかし、本実施形態によれば、コア31の蒸着マスク1に向く面に限りなく接近させ得る。ヒートパイプ7がコア31を貫通して電磁石3の前面(蒸着マスク1に向く面)に露出することも可能である。要するに、電磁石3の一番冷却されるべき蒸着マスク1に向く面が効率的に冷却され得る。
(実施態様5)
図6A〜6Dは、第5の実施態様を説明する図である。すなわち、この実施態様5は、ヒートパイプ7を扁平状に形成して、丸めてコア31内に埋め込むものである。図6Aにヒートパイプ7の平面図が、図6BにそのVIB−VIB断面図がそれぞれ示されるように、本実施態様5では、ヒートパイプ7が扁平状(平板状)の筒型の直方体形状に形成されている。この直方体形状でも、一端部が吸熱部71になっており、他端部が放熱部72になっている。このヒートパイプ7は、図2Aに示されるような丸棒形状ではなく、扁平形状である点で異なっているが、容器(パイプ)75の内面にウィック76が形成される点は同じであり、機能も同じである。このウィック76は、前述のように、吸熱部71が鉛直下方で、放熱部72が鉛直上方に形成されていればなくてもよい。この容器75は、内部が低気圧にされても変形せず、かつ、可撓性のある材料で形成されている。例えば0.1〜0.5mm厚程度の薄い銅板、ステンレス鋼板などが用いられ得る。
可撓性を有する理由は、図6Cに斜視図で示されるように丸めるためである。図6Cに示されるように丸めることにより、図6Dに模式的に示されるように、コア31の内部に埋め込んでも、コア31の断面積の減少を最小限にし得る。すなわち、磁界への影響を最小限にし得る。図6Dでは、模式的に示されているので、ヒートパイプ7がコア31の上部のみに挿入されている。しかし、ヒートパイプ7は、コア31の下端部(電磁石3の前面)又はその近傍まで挿入され得る。なお、図6Cで、丸めた形状がきれいな円筒状になる必要はなく、四角形でも、不定形でも構わない。また、丸めた端部同士は、接合されてもよいが、接合される必要はなく、隙間があってもよい。符号74は銅などからなる密閉栓である。放熱部72が真空チャンバー8の外部に導出されるので、真空チャンバー8の内部の真空を維持できるように気密に封止される。
このようなヒートパイプ7をコア31の内部に埋め込むには、前述の実施態様4と同様に、コア31に溝を形成して、その中に丸めたヒートパイプ7を挿入して隙間をなくすることもできる。しかし、丸められたヒートパイプ7の形状を一定にできない場合には、前述の磁性体粉末を圧縮成形する圧粉磁心の形成法によってコア31を形成することで容易に実施態様5の構成が得られる。
前述の例では、扁平状の直方体形状のヒートパイプ7を丸めてリング状に形成したが、リング状に形成される必要はない。例えば、例えば図6Aに示されるヒートパイプ7を吸熱部71と放熱部72を含むように短冊状に切断した形状のヒートパイプ7を複数個形成して、それを個々にコア31の内部に埋め込む構造でもよい。そうすることによって、ヒートパイプ7を丸めることなく、コア31の形状に合せてコア31の内部に小さい断面積で埋め込むことができる。この場合、放熱部72を真空チャンバー8の外部に導出する必要があるので、真空チャンバー8への固定において、後述されるベローズの使用が必要になる。しかし、後述されるように被蒸着基板2(図1参照)や蒸着マスク1(図1参照)が交換される場合でも、電磁石3(図1参照)を固定した状態で行うようにすることによって、ヒートパイプ7(例えば放熱部72の近傍の部分)を直接真空チャンバー8に固着することができる。
この方法によれば、ヒートパイプ7が薄い扁平形状に形成されるため、コア31の内部に埋め込まれても、コア31の中での断面積が小さく、磁力線への影響は非常に小さい。しかも、埋め込む深さによっても磁力線の影響は殆ど変らない。従って、コア31の高さの殆ど全体に埋め込むことができる。その結果、電磁石3の蒸着マスク1と対向する面の温度を有効に下げることができる。すなわち、ヒートパイプ7が電磁石3の冷却に非常に有効に働く。
(実施態様6)
図7A〜7Dは、実施態様6の説明図である。この実施態様6は、前述のThermal Science & Engineering Vol. 2 No. 3(2015)の41〜56頁に示されているループ型のヒートパイプ7と同様の構造にしたものである。図7Aにはこのループ型のヒートパイプ7の側面図が、図7Bには吸熱部71の平面説明図が、図7Cにはウィック構造体80の構造例が、それぞれ示されている。すなわち、図7Bに示されるように、銅などからなるケース(容器)81の内部に、ウィック構造体80が複数個(図7Bに示される例では6個)埋め込まれている。各ウィック構造体80は、図7Cにその断面構造が示されているように、中心部にウィックコア83を有し、その周囲にウィック82が歯車状に形成され、その歯の部分の各ウィック82の間に溝84が形成され、蒸気の通り道になっている。
このウィック82は、例えば8mm×9mm(高さを潰してオーバル形にすることによって吸熱部71の厚さを薄くすることができる)程度に形成され得る。この場合、溝84の深さは1mm、幅は0.5mm程度に形成され得る。このウィック82及びウィックコア83は、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの多孔質体からなっている。この多孔質体の細孔は、平均半径が5μm程度で、空孔率が35%程度に形成され得る。このようなウィック82は、例えば粉末状のPTFEを成形により形成することによって、溝84も一体的に形成される。
図7A〜7Bで、86は蒸気集合部、87は蒸気管、88は液管、89は液溜めタンク、90は接続管、85は液分配部である。基本的な動作は、前述の図2Aに示されるヒートパイプ7と同じであるが、この装置で、液分配部85で各ウィックコア83の毛細管現象によって液体が吸引され、ウィックコア83からウィック82の毛細管に進み、ケース81からの熱によって蒸発する。蒸発した蒸気は溝84による空間内を通って、蒸気集合部86に進む。なお、溝84は、図7Aに示されるように、液分配部85との間を、ウィック82によって封鎖され、一方、蒸気集合部86には貫通している。そのため、液体の蒸発によって溝84内の圧力が高くなると、その蒸気は蒸気集合部86の方に進む。そして、蒸気管87を通って放熱部72で冷却されることによって、蒸気が液化し液管88を通って、液溜めタンク89に液が溜まる。液溜めタンク89に溜った液体は、重力によって接続管90を介して液分配部85に戻る。放熱部72での蒸気が液化することによって、ケース81内の圧力は下がり、吸熱部(蒸発部)71でさらに蒸発をし、上述の過程が繰り返される。吸熱部(蒸発部)71がこのような構造に形成されることによって、広い面積に亘って冷却することができる。
このようなループ型のヒートパイプ7が用いられることによって、例えば図7Dに示されるように、電磁石3の前面(蒸着マスク1に向く面)にそのまま設けることができる。図7Dに示される例では、図1に示される蒸着装置のタッチプレート4に代えてヒートパイプ7の吸熱部71が設けられているが、従来のタッチプレート4はそのままにして、そのタッチプレート4と電磁石3との間に挿入されてもよい。このような構造であれば、電磁石3の蒸着マスク1に対向する面が冷却されることになるので、蒸着マスク1の温度上昇を抑制するのに最も適している。なお、図7Dにおいて、図1と同じ部分には同じ符号を付して、その説明は、次の図1の説明で代用される。また、91は放熱板である。すなわち、放熱部72は、空冷などによって冷却され得る。
また、このループ型のヒートパイプ7は、吸熱部71は水平に配置されているので、内部にウィック82が必要になる。しかし、液溜めタンク89から液分配部85に至る接続管90は、鉛直配置になるので、ウィックは無くても自重で落下する。その結果、蒸発部(吸熱部71)と放熱部72との間において、液体と蒸気の循環によって、熱移動が行われる。そして、被蒸着基板2及び蒸着マスク1の温度上昇が効率的に抑制される。
(蒸着装置の概略構成)
本発明の一実施形態の蒸着装置は、図1に示され、前述のように、真空チャンバー8の内部に蒸着マスク1と被蒸着基板2とが近接して配置されるように、マスクホルダー15と基板ホルダー29とが上下に移動し得るように設けられている。この基板ホルダー29は、複数のフック状のアームで被蒸着基板2の周縁部を保持し、上下に昇降できるように、図示しない駆動装置に接続されている。被蒸着基板2などの交換の場合には、ロボットアームにより真空チャンバー8内に搬入された被蒸着基板2をフック状のアームで受け取り、被蒸着基板2が蒸着マスク1に近接するまで基板ホルダー29が下降する。そして位置合せを行えるように図示しない撮像装置も設けられている。タッチプレート4は支持フレーム41により支持され、タッチプレート4を被蒸着基板2と接するまで降下させる駆動装置に支持フレーム41を介して接続されている。タッチプレート4が降下されることにより、被蒸着基板2が平坦にされる。
蒸着装置は、本実施形態の蒸着マスク1と被蒸着基板2との位置合せの際に、蒸着マスク1と被蒸着基板2のそれぞれに形成されたアライメントマークを撮像しながら、被蒸着基板2を蒸着マスク1に対して相対的に移動させる微動装置も備えている。位置合せは、電磁石3により蒸着マスク1を不必要に吸着させないように、電磁石3への通電を止めた状態で行われる。その後にタッチプレート4や、図示しない同様のホルダーによって保持された電磁石3が降ろされて電流が流されることで、蒸着マスク1が被蒸着基板2に向かって吸引される。
本実施形態では、この電磁石3のヨーク33にヒートパイプ7が密着して設けられている。前述のように、ヒートパイプ7の吸熱部71が電磁石3に、コイル32の内径の断面積、好ましくはそれより大きい面積で密着しており、他端の放熱部72は真空チャンバー8の外部に導出されている。この放熱部72は、例えば排熱槽95の中に入れられて、空冷、水冷などの冷却が行えるようになっている。このように、ヒートパイプ7は、一端部の吸熱部71は真空チャンバー8の内部に存在し、他端部の放熱部72は真空チャンバー8の外部に存在する。前述のように、被蒸着基板2や蒸着マスク1の取り換えの際には、この電磁石3などは上方に持ち上げられ、交換後に再度下げられる必要がある。そのため、このヒートパイプ7を直接真空チャンバー8の壁面に固着することができない。このような場合には、図8に示されるように、ベローズ96を介して真空チャンバー8に固定されることが好ましい。被蒸着基板2などの交換の際に電磁石3などが持ち上げられる距離は、100mm程度以下であり、その程度に伸縮できるベローズ96であればよい。
しかし、電磁石3やタッチプレート4は固定構造とし、蒸着マスク1や被蒸着基板2を下方に下げて被蒸着基板2などの取り換えを行い、その後に、持ち上げて所定の位置に配置することもできる。そのような構造にすれば、ベローズ96を用いることなく、ヒートパイプ7を直接真空チャンバー8に接着して封止し得る。また、前述のベローズ96が用いられる場合、ベローズ96が破損した場合、真空チャンバー8の内部が大気に晒されて内壁が汚れる。真空チャンバー8の内壁が汚れると、ガス源となるため、洗浄が必要となるので、二重構造にすることが好ましい。例えば図1に示される構造で、ベローズ96の部分を含むように排熱槽95の外壁と真空チャンバー8の外壁との間で図示しない被覆カバーによって被覆する構造にすることが好ましい。この場合、ヒートパイプ7と排熱槽95との間、及び被覆カバーの排熱槽95及び真空チャンバー8との間の接続部は気密に封止され、被覆カバーは可撓性又は蛇腹部を有するものが好ましい。電磁石3の移動によって、排熱槽95も移動し得るからである。真空チャンバー8の内部は真空にされるため、図示しない排気装置が接続される。
電磁石3は、前述のように、コア31を有するものや、ヨーク33を有するものや、被覆物34を有するものなど、種々のものが使用され得る。また、コア31の形状は四角形でも円形でもよい。例えば蒸着マスク1の大きさが、1.5m×1.8m程度の大きさの場合、図1に示される単位電磁石の断面が5cm角程度の大きさのコア31を有する電磁石3が、図1に示されるように、蒸着マスク1の大きさに合せて複数個(個々の電磁石を単位電磁石という)並べて配置され得る(図1では、横方向が縮尺され、単位電磁石の数が少なく描かれている)。図1に示される例ではコイル32の接続は図示されていないが、各コア31に巻回されるコイル32が直列に接続されている。しかし、それぞれの単位電磁石のコイル32が並列に接続されてもよい。また、数個単位が直列に接続されてもよい。単位電磁石の一部に独立して電流が印加されてもよい。この電磁石3の冷却は、前述の各実施態様の方法によって冷却される。
蒸着マスク1は、図9に示されるように、樹脂フィルム11と金属支持層12と、その周囲に形成されるフレーム(枠体)14を備えており、蒸着マスク1は、図1に示されるように、フレーム14が、マスクホルダー15上に載置される。金属支持層12に磁性材料が用いられる。その結果、電磁石3のコア31との間で吸引力が働き、被蒸着基板2を挟んで吸着される。なお、金属支持層12は強磁性体で形成されてもよい。この場合、金属支持層12は、電磁石3の強い磁界によって、着磁(外部磁界が除去されても強い磁化が残留する状態)される。このような強磁性体が用いられていると、電磁石3と蒸着マスク1とを分離する際に、電磁石3に逆方向の電流を流した方が分離しやすい。このような着磁のための強い磁界を生成する場合でも、本実施形態によって、電磁石3の加熱が抑制される。
金属支持層12としては、例えばFe、Co、Ni、Mn又はこれらの合金が用いられ得る。その中でも、被蒸着基板2との線膨張率の差が小さいこと、熱による膨張が殆どないことから、インバー(FeとNiの合金)が特に好ましい。金属支持層12の厚さは、5μm〜30μm程度に形成される。
なお、図9では、樹脂フィルム11の開口11aと金属支持層12の開口12aが被蒸着基板2(図1参照)に向かって先細りするようなテーパ形状になっている。その理由は、蒸着材料51(図1参照)が蒸着される場合に、飛散する蒸着材料51のシャドウにならないようにするためである。なお、蒸着源5は、点状、線状、面状など、種々の蒸着源5が用いられ得る。例えばるつぼが線状に並べて形成されたライン型の蒸着源5(図1の紙面と垂直方向に延びている)が、例えば紙面の左端から右端まで走査されることにより、被蒸着基板2の全面に蒸着が行われる。従って、蒸着材料51は種々の方向から飛散することになり、斜めから来た蒸着材料51でも遮断されることなく被蒸着基板2に届くようにするため、前述のテーパが形成されている。
(蒸着方法)
次に、本発明の第二の実施形態による蒸着方法が説明される。本発明の第二の実施形態の蒸着方法は、前述の図1に示されるように、電磁石3と、被蒸着基板2と、磁性体を有する蒸着マスク1とを重ね合せ、かつ、電磁石3への通電によって被蒸着基板2に蒸着マスク1を吸着させる工程、及び蒸着マスク1と離間して配置される蒸着源5からの蒸着材料51の飛散によって被蒸着基板2に蒸着材料51を堆積する工程、を含み、電磁石3のコイル32の内周の断面積よりも広い面積で電磁石3に密着させたヒートパイプ7によって電磁石3を冷却しながら蒸着材料51の堆積を行う。
前述のように、蒸着マスク1の上に被蒸着基板2が重ねられる。この被蒸着基板2と蒸着マスク1との位置合せが次のように行われる。被蒸着基板2と蒸着マスク1のそれぞれに形成された位置合せ用のアライメントマークを撮像装置で観察しながら、被蒸着基板2を蒸着マスク1に対して相対的に移動させることにより行われる。この際、前述のように、電磁石3を動作させない状態であれば、被蒸着基板2と蒸着マスク1とを接近させて行える。この方法により、蒸着マスク1の開口11aと被蒸着基板2の蒸着場所(例えば後述される有機EL表示装置の場合、支持基板21の第一電極22のパターン)とを一致させることができる。位置合せされた後に、電磁石3を動作させる。その結果、電磁石3と蒸着マスク1との間で強い吸引力が働き、被蒸着基板2と蒸着マスク1とがしっかりと接近する。この際、電磁石3のコイル32に電流が流されることによって、発熱するが、前述のように、この電磁石3にヒートパイプ7が接続されているので、発生した熱が効率よく放熱され、蒸着マスク1への熱伝導は殆ど無く、蒸着マスク1の温度上昇は抑制される。
その後、図1に示されるように、蒸着マスク1と離間して配置される蒸着源5からの蒸着材料51の飛散(気化又は昇華)によって被蒸着基板2に蒸着材料51が堆積される。具体的には、前述のように、るつぼなどか線状に並べて形成されたラインソースが用いられるが、これには限定されない。例えば有機EL表示装置を作製する場合、開口11aが一部の画素に形成された蒸着マスク1が複数種類用意され、その蒸着マスク1が取り換えられて複数回の蒸着作業で有機層が形成される。
この蒸着方法によれば、電磁石3がヒートパイプ7によって冷却されながら蒸着が行われる。その結果、蒸着マスク1と被蒸着基板2との相対的な位置ずれが抑制され、精度の優れた蒸着が行われる。なお、電磁石3への電流の投入時及び電流の切断時には、電流の立上り及び立下りが緩やかになるようにすることが電磁誘導の発生を抑制する観点から好ましい。例えば電磁石3と並列にキャパシタが接続されたり、コイル32の途中に端子を設け、コイル32において通電される部分を徐々に増やしたり、コイル32に逆巻部分を形成して、電流の投入又は切断時には発生磁界を相殺しながら、電流の投入後又は切断後に徐々に逆巻きのコイルに流す電流をオフにすることが好ましい。
(有機EL表示装置の製造方法)
次に、上記実施形態の蒸着方法を用いて有機EL表示装置を製造する方法が説明される。蒸着方法以外の製造方法は、周知の方法で行えるため、主として、本発明の蒸着方法により有機層を積層する方法が、図10〜11を参照しながら説明される。
本発明の第三の実施形態の有機EL表示装置の製造方法は、支持基板21の上に図示しないTFT、平坦化膜及び第一電極(例えば陽極)22を形成し、その一面に蒸着マスク1を位置合せして重ね合せ、蒸着材料51を蒸着するに当たり、前述の蒸着方法を用いて有機層の積層膜25を形成することを含んでいる。積層膜25上に第二電極26(図11参照;陰極)が形成される。
例えばガラス板などの支持基板21は、完全には図示されていないが、各画素のRGBサブ画素ごとにTFTなどの駆動素子が形成され、その駆動素子に接続された第一電極22が、平坦化膜上に、AgあるいはAPCなどの金属膜と、ITO膜との組み合せにより形成されている。サブ画素間には、図10〜11に示されるように、サブ画素間を区分するSiO2又はアクリル樹脂、ポリイミド樹脂などからなる絶縁バンク23が形成されている。このような支持基板21の絶縁バンク23上に、前述の蒸着マスク1が位置合せして固定される。この固定は、前述の図1に示されるように、例えば支持基板21(被蒸着基板2)の蒸着面と反対面の上にタッチプレート4を介して設けられる電磁石3を用いて、吸着することにより行われる。前述のように、蒸着マスク1の金属支持層12(図9参照)に磁性体が用いられているので、電磁石3により磁界が与えられると、蒸着マスク1の金属支持層12が磁化してコア31との間で吸引力が生成する。電磁石3がコア31を有しない場合でも、コイル32に流れる電流により発生する磁界によって吸着される。この際、前述のように、電流が流れることによって発生する熱は、ヒートパイプ7によって、速やかに放熱部72に伝導して放散される。その結果、蒸着マスク1と支持基板21との間に熱膨張率の差があっても、相互の位置ずれは大幅に抑制される。そして、高精細な有機EL表示装置が得られる。
この状態で、図10に示されるように、蒸着装置内で蒸着源(るつぼ)5から蒸着材料51が飛散され、支持基板21において蒸着マスク1の開口11aに露出する部分のみに蒸着材料51が蒸着され、所望のサブ画素の第一電極22上に有機層の積層膜25が形成される。この蒸着工程は、順次蒸着マスク1が交換され、各サブ画素に対して行われてもよい。複数のサブ画素に同時に同じ材料が蒸着される蒸着マスク1が用いられてもよい。蒸着マスク1が交換される場合には、図10には図示されていない電磁石3(図1参照)により蒸着マスク1の金属支持層12(図9参照)への磁界を除去するように図示しない電源回路がオフにされる。この際にも、ヒートパイプ7は働いており、電磁石3に残留する熱は全て放熱部72に伝導される。
図10〜11では、有機層の積層膜25が単純に1層で示されているが、有機層の積層膜25は、異なる材料からなる複数層の積層膜25で形成されてもよい。例えば陽極22に接する層として、正孔の注入性を向上させるイオン化エネルギーの整合性の良い材料からなる正孔注入層が設けられる場合がある。この正孔注入層上に、正孔の安定な輸送を向上させると共に、発光層への電子の閉じ込め(エネルギー障壁)が可能な正孔輸送層が、例えばアミン系材料により形成される。さらに、その上に発光波長に応じて選択される発光層が、例えば赤色、緑色に対してはAlq3に赤色又は緑色の有機物蛍光材料がドーピングされて形成される。また、青色系の材料としては、DSA系の有機材料が用いられる。発光層の上には、さらに電子の注入性を向上させると共に、電子を安定に輸送する電子輸送層が、Alq3などにより形成される。これらの各層がそれぞれ数十nm程度ずつ積層されることにより有機層の積層膜25が形成されている。なお、この有機層と金属電極との間にLiFやLiqなどの電子の注入性を向上させる電子注入層が設けられることもある。本実施形態では、これらも含めて有機層の積層膜25に含めている。
有機層の積層膜25のうち、発光層は、RGBの各色に応じた材料の有機層が堆積される。また、正孔輸送層、電子輸送層などは、発光性能を重視すれば、発光層に適した材料で別々に堆積されることが好ましい。しかし、材料コストの面を勘案して、RGBの2色又は3色に共通して同じ材料で積層される場合もある。2色以上のサブ画素で共通する材料が積層される場合には、共通するサブ画素に開口11aが形成された蒸着マスク1が形成される。個々のサブ画素で蒸着層が異なる場合には、例えばRのサブ画素で1つの蒸着マスク1を用いて、各有機層を連続して蒸着することができる。また、RGBで共通の有機層が堆積される場合には、その共通層の下側まで、各サブ画素の有機層の蒸着がなされ、共通の有機層のところで、RGBに開口11aが形成された蒸着マスク1を用いて一度に全画素の有機層の蒸着がなされる。なお、大量生産する場合には、蒸着装置の真空チャンバー8が何台も並べられ、それぞれに異なる蒸着マスク1が装着されていて、支持基板21(被蒸着基板2)が各蒸着装置を移動して連続的に蒸着が行われてもよい。
LiF層などの電子注入層などを含む全ての有機層の積層膜25の形成が終了したら、前述のように、電磁石3をオフにし蒸着マスク1から電磁石3が分離される。その後、第二電極(例えば陰極)26が全面に形成される。図11に示される例は、トップエミッション型で、図中支持基板21と反対面から光を出す方式になっているので、第二電極26は透光性の材料、例えば、薄膜のMg-Ag共晶膜により形成される。その他にAlなどが用いられ得る。なお、支持基板21を介して光が放射されるボトムエミッション型の場合には、第一電極22にITO、In34などが用いられ、第二電極26としては、仕事関数の小さい金属、例えばMg、K、Li、Alなどが用いられ得る。この第二電極26の表面には、例えばSi34などからなる保護膜27が形成される。なお、この全体は、図示しないガラス、耐湿性の樹脂フィルムなどからなるシール層により封止され、有機層の積層膜25が水分を吸収しないように構成される。また、有機層はできるだけ共通化し、その表面の上にカラーフィルタを設ける構造にすることもできる。
(まとめ)
(1)本発明の第一の実施形態に係る蒸着装置は、真空チャンバーと、前記真空チャンバーの内部に配置される蒸着マスクを保持するマスクホルダーと、前記マスクホルダーに保持される蒸着マスクと接するように被蒸着基板を保持する基板ホルダーと、前記基板ホルダーに保持される被蒸着基板の前記蒸着マスクと反対面の上方に配置される電磁石と、前記蒸着マスクと対向させて設けられ、蒸着材料を気化又は昇華させる蒸着源と、少なくとも第一端部である吸熱部が前記電磁石に接触して設けられ、前記第一端部と反対の第二端部である放熱部が前記真空チャンバーの外部に導出されるヒートパイプと、を有し、前記ヒートパイプと前記電磁石との接触部が、前記電磁石のコイルの内周の断面積よりも大きい面積で密着して接合されている。
本発明の一実施形態の蒸着装置によれば、ヒートパイプの吸熱部が蒸着装置の電磁石と、電磁石のコイルの内周の断面積以上の面積で接触するように設けられている。その結果、電磁石で発生する熱が速やかに放熱され得る。すなわち、電磁石の蒸着マスクと対向する面と反対面にヒートパイプの吸熱部が接触されても、ヒートパイプの吸熱部の広い範囲で電磁石と接触することによって、電磁石全体の放熱が達成される。その結果、電磁石からの熱が被蒸着基板や蒸着マスクに伝達して被蒸着基板や蒸着マスクの温度を上昇させることが抑制される。そして、被蒸着基板と蒸着マスクの温度上昇による位置ずれが抑制されるので、被蒸着基板の正確な場所に正確なパターンで蒸着材料が蒸着される。よって精細な表示パネルが得られる。
(2)前記電磁石による前記蒸着マスクの温度上昇が、10℃以下になるべく前記電磁石と前記ヒートパイプとの接触がなされていることが好ましい。すなわち、ヒートパイプの吸熱部と電磁石との接触面積が大きいほど電磁石の温度上昇が抑制され、被蒸着基板や蒸着マスクの温度上昇が抑制される。
(3)前記電磁石が柱状のコアを有し、前記コアの一端部に、ヨークが取り付けられることによって、前記コアを含めた断面形状がE型のヨークに形成され、前記E型ヨークに前記ヒートパイプが密着していることが好ましい。ヨークが設けられることによって、蒸着マスク近傍での磁界が強くなると共に、ヒートパイプの吸熱部の電磁石(ヨーク)に対する接触面積を大きくし得る。
(4)前記電磁石が、柱状のコアと前記コアの周囲に電線を巻回して形成されたコイルとを一体化する被覆物とを有し、前記ヒートパイプの前記吸熱部が前記被覆物と密着するべく形成されていることが好ましい。被覆物によって被覆されると輻射による放熱が制限されるが、元々真空雰囲気に配置されるので、輻射による放熱の効果は少ない。一方、被覆物によって被覆されることによって、伝導による熱移動が得られ、その被覆物にヒートパイプの吸熱部が埋め込まれることによって、非常に効率的に熱放出の効果が得られやすい。この場合、被覆物は、熱伝導率の大きい材料であることが好ましい。また、このような被覆物で被覆されることによって、最も発熱しやすい電線(コイル)の周囲と充分に接触するため、熱伝導による放熱効果が特に大きい。
(5)前記電磁石が柱状のコアを有し、前記ヒートパイプの前記吸熱部が前記コアの長さの1/2以上の深さまで前記コアの内部に埋め込まれていることが好ましい。電磁石のうち、特に被蒸着基板に向く面(前面)の温度上昇が抑制されることが一番好ましい。しかし、スペースの関係で、電磁石の前面とは反対面である背面に接触させざるを得ない場合が多い。その場合でも、コアの半分以上の深さまでヒートパイプが埋め込まれることによって、電磁石の前面の温度を下げることができる。この埋め込み深さは、深いほど好ましく、2/3以上、又はコアの前面に露出する程度であることがさらに好ましい。
(6)前記ヒートパイプが扁平状に形成され、かつ、前記ヒートパイプをリング状に丸めて筒状体に形成され、前記筒状体の吸熱部が前記コアの内部に埋め込まれていることが好ましい。電磁石は、空心よりもコアを有する方が強い磁界が得られる。従って、コアに孔を開けることは磁界の面から好ましくない。しかし、軸方向に沿った孔であれば、浅くても深くてもあまり磁界への影響は変らない。従って、小さい断面積で深い穴にヒートパイプの吸熱部が挿入されることは、磁界を余り弱めることなく、熱放出を大きくし得るので好ましい。
(7)前記電磁石が柱状のコアを有し、前記電磁石の少なくとも前記ヒートパイプとの接触部の近傍に、前記コアよりも熱伝導率の大きい被膜が形成されていることが好ましい。前述のように、電磁石の前面にヒートパイプを設けることはスペースの関係で難しい面があり、背面に接触される場合が多い。しかし、コアを形成する鉄の熱伝導はそれ程優れていない。そのため、コアの熱伝導を向上させるために、銅メッキなどの熱伝導に優れた被膜の形成が好ましい。この被膜の形成は、コア(ヨークを有する場合はヨークも含めて)の凹部を含む全面に形成されることが好ましい。少なくともヒートパイプの吸熱部との接触部に被膜が形成されることによって、コアからのヒートパイプへの熱伝導が向上すると考えられる。
(8)前記ヒートパイプの前記吸熱部が平面型に形成され、前記電磁石の前記蒸着マスクと対向する面に前記ヒートパイプの前記吸熱部が密着して配置されることが好ましい。この構造によれば、ヒートパイプを特殊な構造にしているため、電磁石の前面にヒートパイプの吸熱部だけが接触され得る。その結果、電磁石の蒸着マスクと対向する面を冷却することができるので、大変好ましい。
(9)前記ヒートパイプが、前記真空チャンバーとベローズを介して接続されている。そうすることによって、電磁石を基板ホルダーなどと共に昇降させ得る。
(10)前記真空チャンバーの外周に前記真空チャンバーを覆う第二のチャンバーが形成され、前記真空チャンバーと前記第二のチャンバーとの間の空間は、前記真空チャンバーの内部の真空度よりも低い真空度にされていることが好ましい。ベローズが破損しても、真空チャンバーの内部が大気で汚染されるのを抑制し得る。
(11)前記ヒートパイプの外周に、前記ヒートパイプの破損による内部の液体の漏出を防止する保護パイプが形成されることが好ましい。ヒートパイプが破損しても、真空チャンバーの内部をヒートパイプに封入された液体で汚染するのを抑制できる。
(12)また、本発明の第二の実施形態の蒸着方法は、電磁石と、被蒸着基板と、磁性体を有する蒸着マスクとを重ね合せ、かつ、前記電磁石への通電によって前記被蒸着基板に前記蒸着マスクを吸着させる工程、及び前記蒸着マスクと離間して配置される蒸着源からの蒸着材料の飛散によって前記被蒸着基板に前記蒸着材料を堆積する工程、を含み、前記電磁石のコイルの内周の断面積よりも広い面積で前記電磁石に密着させたヒートパイプによって前記電磁石を冷却しながら前記蒸着材料の堆積を行う。
本発明の第二の実施形態の蒸着方法によれば、ヒートパイプを、電磁石のコイルの内周の断面積よりも広い面積で電磁石に密着させているので、蒸着中に電磁石で蒸着マスクを吸引していても、電磁石の温度上昇が抑制される。ひいては、被蒸着基板及び蒸着マスクの温度上昇も抑制される。その結果、熱膨張による被蒸着基板と蒸着マスクとの位置ずれが抑制され、精度の良い蒸着を行い得る。
(13)前記電磁石による前記蒸着マスクの温度上昇を、10℃以下にすべく前記電磁石の冷却をすることが好ましい。電磁石の温度上昇を抑制し、その結果、蒸着マスクの温度上昇が10℃以下に抑制されることによって、画素に対する蒸着材料の積層膜のずれが許容範囲に抑制され、高精度蒸着膜が得られる。
(14)さらに、本発明の第三の実施形態の有機EL表示装置の製造方法は、支持基板上にTFT及び第一電極を少なくとも形成し、前記支持基板上に前記(12)〜(13)のいずれかの蒸着方法を用いて有機材料を蒸着することによって有機層の積層膜を形成し、前記積層膜上に第二電極を形成することを含んでいる。
本発明の第三の実施形態の有機EL表示装置の製造方法によれば、有機EL表示装置が製造される際に、電磁石からの熱の放射が抑制されるので、被蒸着基板と蒸着マスクとの位置ずれが抑制され、高繊細なパターンの表示パネルが得られる。
1 蒸着マスク
2 被蒸着基板
3 電磁石
4 タッチプレート
5 蒸着源
7 ヒートパイプ
8 真空チャンバー
12 金属支持層
15 マスクホルダー
21 支持基板
22 第一電極
23 絶縁バンク
25 積層膜
26 第二電極
29 基板ホルダー
31 コア(磁心)
31b 被膜
32 コイル
33 ヨーク
34 被覆物
41 支持フレーム
51 蒸着材料
71 吸熱部
72 放熱部
73 空間部
78 保護パイプ
80 ウィック構造体
81 ケース(容器)
82 ウィック
83 ウィックコア
84 溝
96 ベローズ

Claims (16)

  1. 真空チャンバーと、
    前記真空チャンバーの内部に配置される蒸着マスクを保持するマスクホルダーと、
    前記マスクホルダーに保持される蒸着マスクと接するように被蒸着基板を保持する基板ホルダーと、
    前記基板ホルダーに保持される被蒸着基板の前記蒸着マスクと反対面の上方に配置される電磁石と、
    前記蒸着マスクと対向させて設けられ、蒸着材料を気化又は昇華させる蒸着源と、
    少なくとも第一端部である吸熱部が前記電磁石に接触して設けられ、前記第一端部と反対の第二端部である放熱部が前記真空チャンバーの外部に導出されるヒートパイプと、
    を具備する、蒸着装置。
  2. 前記ヒートパイプが、前記吸熱部と、前記放熱部のそれぞれの一端部を接続する蒸気管と、前記吸熱部及び前記放熱部のそれぞれの他端部を接続する接続間を有するループ型のヒートパイプである、請求項1に記載の蒸着装置。
  3. 前記ループ型ヒートパイプの前記吸熱部は、ウィック構造体が複数個並置された平板状に形成されている、請求項2に記載の蒸着装置。
  4. 前記ウィック構造体の各々は、中心部にウィックコアを有し、その周囲にウィックが歯車状に形成され、前記歯車状の歯の部分の各ウィックの間に形成された溝が蒸気の通り道になっている、請求項3に記載の蒸着装置。
  5. 前記ヒートパイプの前記吸熱部が、前記電磁石の前記蒸着マスクと対向する面、及び前記基板ホルダーによって保持される前記被蒸着基板に、それぞれ直接対面する位置に配置される、請求項3又は4に記載の蒸着装置
  6. 前記電磁石がコアと、電磁コイルと、ヨークとを含んでおり、前記コア、前記電磁コイル、及び前記ヨークが被覆物によって一体にされており、前記ヒートパイプの前記吸熱部が前記被覆物内に埋め込まれている、請求項1に記載の蒸着装置。
  7. 前記被覆物が、耐熱性樹脂によって形成されている、請求項6に記載の蒸着装置。
  8. 前記被覆物に、金属粉を含むフィラーが混入されている、請求項6または7に記載の蒸着装置。
  9. 前記電磁石が、コアを含んでおり、前記コアの一端部に形成された凹部の内部に前記ヒートパイプの前記吸熱部が埋め込まれている、請求項1に記載の蒸着装置。
  10. 前記ヒートパイプ及び前記コアの断面形状がそれぞれ円形であり、前記吸熱部の端面の半径をr、前記コアの断面の半径をR、前記凹部の深さをdとすると、d≧(R2−r2)/2rになるように前記凹部が形成されている、請求項9に記載蒸着装置。
  11. 前記コアの表面及び前記凹部の内面の少なくとも一部に、前記コアよりも熱伝導率の大きい材料による被膜が形成されており、かつ、前記吸熱部が前記コアよりも熱伝導率の大きい接合材によって、前記凹部内に前記吸熱部が接合されている、請求項9又は10に記載の蒸着装置。
  12. 前記電磁石がコアを含んでおり、前記ヒートパイプの断面積を前記コアの断面積よりも小さくすることによって、前記コアの内部に前記吸熱部が複数個埋め込まれている、請求項1に記載の蒸着装置。
  13. 前記ヒートパイプと前記コアとの隙間に熱伝導率の大きい微粉末を含む樹脂が充填されている、請求項9または10に記載の蒸着装置。
  14. 前記コアが、焼結用鉄粉の焼成によって得られる圧粉磁心である、請求項9、10又は12に記載の蒸着装置。
  15. 前記ヒートパイプが可撓性のある材料によって形成されている、請求項1に記載の蒸着装置。
  16. 支持基板上にTFT及び第一電極を少なくとも形成し、
    前記支持基板上に請求項1〜15のいずれか1項に記載の蒸着装置を用いて有機材料を蒸着することによって有機層の積層膜を形成し、
    前記積層膜上に第二電極を形成する
    ことを含む、有機EL表示装置の製造方法。
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