JP6472320B2 - 人工衛星 - Google Patents

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本発明は、人工衛星のホールスラスタ(電気推進スラスタともいう)に関する。
従来のオール電化衛星では、非特許文献1に示すとおり、静止軌道に到達するためのオービットレイジングと静止軌道到達後の制御(南北・東西軌道制御、リアクションホイールのアンローディング)の全てを同じ電気推進スラスタで実施するために、推力(電力)を可変できる電気推進スラスタ(2〜5kW級)を搭載していた。
1種類のホールスラスタでは推力(電力)の可変範囲が限られているため、(1)オービットレイジング時のスラスタ推力が小さくなって、静止軌道到達の時間が長くなる、もしくは、(2)静止軌道到達後に多くのスラスタ電力が必要になる、という課題がある。
つまり、従来の全電化衛星では、(1)静止軌道到達後に使用する電力に合わせたホールスラスタをオービットレイジングに用いると、推力が小さく、静止軌道への到達時間が長くなる。
一方、(2)静止軌道到達時間を短くするために、ホールスラスタを大型化(大電力化)すると、静止軌道到達後の南北軌道制御、東西軌道制御、アンローディング時に使用する電力が多くなってしまう課題がある。
また、1種類のホールスラスタでオービットレイジング時と静止軌道での軌道制御時の双方で最大効率を満足することは困難であるという課題がある。
つまり、1種類のホールスラスタで広い電力範囲をカバーする必要があり、オービットレイジング時もしくは静止軌道での軌道制御時いずれかでしか最大効率を得られないという課題がある。
この発明は、上記のような課題を解決することを主な目的の一つとしており、短時間で人工衛星を静止軌道に到達させるとともに、静止軌道到達後の人工衛星の軌道制御を少ない電力で行うことを可能とし、更に、オービットレイジング時と静止軌道での軌道制御時の双方で最大効率を満足することを主な目的とする。
本発明に係る人工衛星は、
静止軌道への軌道遷移時に使用するオービットレイジング用ホールスラスタと、前記静止軌道到達後に使用する静止軌道用ホールスラスタとを個別に備える。
本発明によれば、静止軌道への軌道遷移時に使用するオービットレイジング用ホールスラスタと、静止軌道到達後に使用する静止軌道用ホールスラスタとを個別に備えるため、オービットレイジング時に高い推進効率で大推力を発生させることができ、短い時間で人工衛星を静止軌道に到達させることができ、また、静止軌道到達後に少ない電力で軌道制御ができる。
更に、オービットレイジング時と静止軌道での軌道制御時の双方で最大効率を満足することができる。
実施の形態1に係る人工衛星の構成例を示す図。 一般的なホールスラスタ、流量調整器及び電源装置を示す図。 実施の形態1に係る電源装置と、静止軌道用流量調整器及びオービットレイジング用流量調整器を示す図。 実施の形態1に係るキセノンタンク、圧力調整器、静止軌道用流量調整器、静止軌道用ホールスラスタ、オービットレイジング用流量調整器及びオービットレイジング用ホールスラスタを示す図。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る人工衛星1の構成例を示す。
人工衛星1は、反地球面である−Z軸面に、オービットレイジング時(静止軌道への軌道遷移時)に用いられるオービットレイジング用ホールスラスタ2を一台もしくは複数台備える。
反地球面は、人工衛星1の面のうち、地球と対向する地球面の反対の面である。
オービットレイジング用ホールスラスタ2は、電源装置から4〜20kWの電力供給と、推進剤の供給を受けて、0.2〜1.6Nの推力を発生する。
オービットレイジング時には、人工衛星1は、オービットレイジング用ホールスラスタ2を一台もしくは複数台同時に噴射することで、+Z軸方向に大きな推力を発生させる。
また、衛星デオービット時にも同様にオービットレイジング用ホールスラスタ2を用いて軌道離脱を行う。
また、人工衛星1は、静止軌道に到達した後の軌道制御時に用いられる静止軌道用ホールスラスタ3を複数台備える。
人工衛星1は、静止軌道に到達した後は、複数台の静止軌道用ホールスラスタ3を用いて、南北軌道制御、東西軌道制御、および、リアクションホイールのアンローディングを行う。
この静止軌道用ホールスラスタ3は、電源装置から1〜3kWの電力供給と、推進剤の供給を受けて、0.05〜0.15Nの推力を発生する。
南北軌道制御および東西軌道制御時は、静止軌道用ホールスラスタ3の推力軸が人工衛星1の重心を通るように推力軸調整用ジンバル4を用いて噴射方向を調整する。
また、アンローディング時には、推力軸調整用ジンバル4を用いて静止軌道用ホールスラスタ3の推力軸を人工衛星1の重心から外すように調整して静止軌道用ホールスラスタ3を噴射する。
従来のオービットレイジングを電気推進スラスタで行う全電化衛星では、静止軌道用ホールスラスタ3に相当するホールスラスタをオービットレイジング時にも使用していた。
このため、静止軌道到達時間を短くするために、ホールスラスタを大型化(大電力化)すると、静止軌道到達後の南北軌道制御、東西軌道制御、アンローディング時に使用する電力が多くなってしまう課題があった。
もしくは、静止軌道到達後に使用する電力に合わせたホールスラスタを採用した場合、推力が小さく、静止軌道への到達時間が長くなる課題があった。
また、1種類のホールスラスタで広い電力範囲をカバーする必要があり、オービットレイジング時もしくは静止軌道到達時いずれかでしか最大効率を得られなかった。
本実施の形態では、オービットレイジングに最適な電力に対応したオービットレイジング用ホールスラスタ2と、静止軌道での軌道制御に最適な電力に対応した静止軌道用ホールスラスタ3とを個別に備えることで、従来の課題を解決できる。
図2は、一般的なホールスラスタと流量調整器および電源装置の関係を示した図である。
ホールスラスタ用の電源装置は、一般的に、アノード電源21、電磁石(コイル)電源22、カソード用ヒータ電源23、キーパ電源24、流量調整器用電源25からなる。
アノード電源21は、アノード11とカソード16間で、流量調整器15を通ってガス配管18から供給されるキセノンガスをプラズマ放電するための電源であり、ホールスラスタ10が必要とする電力のほとんどを消費する。
電磁石(コイル)電源22は、ホールスラスタ10の半径方向の磁場を発生させる電磁石(コイル)12に電力を供給させるための電源である。
ホールスラスタの種類によっては、電磁石(コイル)12はアノード11もしくはカソード16と直列に電気接続されており、電磁石(コイル)電源22が必要のないものもある。
ヒータ電源23は、カソード16が電子放出を開始できるようにヒータ13を加熱するための電源であり、キーパ電源24は電子放出開始後にキーパ14とカソード16間に放電を発生させるための電源である。
流量調整器用電源25は、ホールスラスタ10に必要な推進剤キセノンガスの供給開始/停止のために流量調整器15の弁を開閉したり、弁の開度を調整することで推進剤流量を変更するための電源である。
図1の構成の場合、オービットレイジング用ホールスラスタ2と静止軌道用ホールスラスタ3で電力範囲が異なるが、電力が大きく異なるのは電源装置内のアノード電源21だけであり、他の電源の電力はほとんど変わらない。
このため、アノード電源21を除き、他の電源はオービットレイジング用ホールスラスタ2と静止軌道用ホールスラスタ3で共通のものが使用できる。
図3は、本実施の形態に係る人工衛星1において、1台の電源装置30から静止軌道用ホールスラスタ及び静止軌道用流量調整器と、オービットレイジング用ホールスラスタ及びオービットレイジング用流量調整器に、電力供給するための構成を示す図である。
図3では、静止軌道用ホールスラスタと静止軌道用流量調整器を、まとめて静止軌道用ホールスラスタ/流量調整器37と表記している。
また、オービットレイジング用ホールスラスタ及びオービットレイジング用流量調整器を、まとめてオービットレイジング用ホールスラスタ/流量調整器38と表記している。
静止軌道用流量調整器は、静止軌道用ホールスラスタへのキセノンガスの流量を調整する。
オービットレイジング用流量調整器は、オービットレイジング用ホールスラスタへのキセノンガスの流量を調整する。
電源装置30は、複数のアノード電源31、電磁石(コイル)電源32、カソード用ヒータ電源33、キーパ電源34、流量調整器用電源35、切替スイッチ36を持つ。
複数のアノード電源31をアノード電源モジュールという。
切替スイッチ36は、複数の静止軌道用ホールスラスタ/流量調整器37と1式のオービットレイジング用ホールスラスタ/流量調整器38の中から、いずれか1式を選択する。
より具体的には、切替スイッチ36は、アノード電源モジュールの接続先を静止軌道用ホールスラスタ/流量調整器37とオービットレイジング用ホールスラスタ/流量調整器38との間で切り替える。
切替スイッチ36は、電源装置30の内部に搭載せずに、外部に搭載してもよい。
アノード電源モジュール内の最小単位のアノード電源である個々のアノード電源31は、静止軌道用ホールスラスタ3に必要な電力を供給できるものとする。
切替スイッチ36は、静止軌道用ホールスラスタ3が使用される場合は、アノード電源モジュールに含まれる複数個のアノード電源31のうちの一部のアノード電源31(最小単位のアノード電源31)と、静止軌道用ホールスラスタ/流量調整器37とを接続する。
切替スイッチ36は、オービットレイジング用ホールスラスタ2が使用される場合は、アノード電源モジュールに含まれる複数個のアノード電源31と、オービットレイジング用ホールスラスタ/流量調整器38とを接続し、複数個のアノード電源31を並列運転させる。
その他の電磁石(コイル)電源32、ヒータ電源33、キーパ電源34、流量調整器用電源35は、オービットレイジング用と静止軌道用で共通の電源とし、切替スイッチ36が、各電源と静止軌道用ホールスラスタ/流量調整器37との接続又は各電源とオービットレイジング用ホールスラスタ/流量調整器38との接続を切り替える。
このような構成により、2種類のホールスラスタに対して、1台の電源装置から電力供給が可能となり、電源装置30の衛星搭載台数を削減できる。
このため、人工衛星1全体で重量削減、搭載面積縮小、ホールスラスタと電源装置間の電源ケーブル数削減、コスト削減効果が得られる。
また、アノード電源を1台で広い電力範囲をカバーする場合、最大効率を得られる動作点を、オービットレイジング時か静止軌道時のいずれかにする必要があるが、アノード電源をモジュール化した場合、アノード電源の最小電源単位で見ると、オービットレイジング時と静止軌道時で同じ動作点であり、両方で最大効率が得られる。
図4は、オービットレイジング用ホールスラスタ2及びオービットレイジング用流量調整器43と、静止軌道用ホールスラスタ3及び静止軌道用流量調整器42に、推進剤であるキセノンガスを供給するための構成を示す。
簡単のために、ガスを供給/停止するための弁などは図4から省略している。
一台もしくは複数台のキセノンタンク40に高圧で貯蔵されたキセノンガスは、圧力調整器41で減圧され、静止軌道用流量調整器42やオービットレイジング用流量調整器43に供給される。
静止軌道用ホールスラスタ3とオービットレイジング用ホールスラスタ2では、必要とするキセノンガス流量が異なるが、図2のオリフィス17の面積をそれぞれのスラスタで最適化することで、オービットレイジング時と静止軌道時で流量調整器15に必要な電流/電圧範囲を共通化することができる。
つまり、オービットレイジング用ホールスラスタ2のオリフィス17の面積を、静止軌道用ホールスラスタ3のオリフィス17よりも大きくする。
これにより、2種類の流量調整器に対して、1種類の電源装置から電力供給が可能となる。
以上のように、本実施の形態では、軌道遷移(オービットレイジング)用に大推力(大電力、例えば4〜20kW級)の電気推進スラスタ(ホールスラスタ)を、衛星反地球面に1台もしくは複数台搭載し、静止軌道到達後に使用するホールスラスタはオービットレイジング用よりも小型で小電力(例えば1〜3kW級)のものを搭載している。
このため、それぞれの用途で最適なホールスラスタを採用することができるようになり、以下の効果を得ることができる。
(1)オービットレイジング時に高い推進効率で大推力を発生させることができるようになり、少ない推進剤消費量で、かつ、短い期間で人工衛星を静止軌道に到達させることができる。
(2)静止軌道到達後に少ない電力で軌道制御ができるようになり、衛星ペイロードの使用可能電力を増やすことができる、もしくは、人工衛星の発生電力が少なくて済むため太陽電池パネルやバッテリを小さくすることができ、人工衛星の打上質量を軽くできる。
また、本実施の形態では、ホールスラスタ用電源装置は切替スイッチを具備し、2種類のホールスラスタ/流量調整器に1台の電源装置から電力を供給できるようにしている。
このとき、オービットレイジング用ホールスラスタには、複数のアノード電源モジュールを並列で動作させることで大電力に対応し、静止軌道用ホールスラスタにはその内の1つのアノード電源モジュールで動作させている。
その他の電源モジュールは2種類のスラスタで共通化している。
このため、2種類のスラスタに対して、1種類の電源装置で電力供給可能となることで電源装置の数を減らすことができ、以下の効果を得ることができる。
(1)人工衛星の打上質量を軽くできる。
(2)人工衛星への搭載面積を小さくできる。
(3)電源ケーブルの数を減らすことができる。
(4)全体コストを下げることができる。
(5)オービットレイジング時、静止軌道時いずれも最大効率で運転可能となる。
また、本実施の形態では、推進系は、上流側のタンク、圧力調整器までを2種類のホールスラスタに対して共有化し、圧力調整器の下流から分岐して、それぞれのスラスタに推進剤を供給している。
更に、圧力調整器の下流で、それぞれのスラスタの上流側に位置する流量調整器は、使用するオリフィスの面積を2種類のスラスタでそれぞれ最適化することで、流量調整器に必要な電流/電圧範囲を共通化している。
これにより、2種類の流量調整器に対して、1種類の電源装置から電力供給が可能となる。
1 人工衛星、2 オービットレイジング用ホールスラスタ、3 静止軌道用ホールスラスタ、4 推力軸調整用ジンバル、6 太陽電池パドル、10 ホールスラスタ、11 アノード、12 電磁石、13 ヒータ、14 キーパ、15 流量調整器、16 カソード、17 オリフィス、18 ガス配管、21 アノード電源、22 電磁石電源、23 ヒータ電源、24 キーパ電源、25 流量調整器用電源、30 電源装置、31 アノード電源、32 電磁石電源、33 ヒータ電源、34 キーパ電源、35 流量調整器用電源、36 切替スイッチ、37 静止軌道用ホールスラスタ/流量調整器、38 オービットレイジング用ホールスラスタ/流量調整器、40 キセノンタンク、41 圧力調整器、42 静止軌道用流量調整器、43 オービットレイジング用流量調整器。

Claims (3)

  1. 地球と対向する地球面の反対の面である反地球面に設けられ、0.2ニュートンから1.6ニュートンの範囲のいずれかの推力を発生し、静止軌道への軌道遷移時に使用するオービットレイジング用ホールスラスタと、
    前記オービットレイジング用ホールスラスタの周囲に複数個設けられ、それぞれ推力軸調整用ジンバルを用いて推力軸が重心を通る方向と推力軸が重心から外れる方向の何れかに噴射方向が調整され、0.05ニュートンから0.15ニュートンの範囲のいずれかの推力を発生し、前記静止軌道到達後に使用する静止軌道用ホールスラスタと、
    前記オービットレイジング用ホールスラスタへのキセノンガスの流量を調整するオービットレイジング用流量調整器と、
    前記静止軌道用ホールスラスタへのキセノンガスの流量を調整する静止軌道用流量調整器と、
    複数個のアノード電源が含まれるアノード電源モジュールと、
    前記オービットレイジング用ホールスラスタが使用される場合は、前記アノード電源モジュールに含まれる並列動作する前記複数個のアノード電源と、前記オービットレイジング用流量調整器とを接続し、前記静止軌道用ホールスラスタが使用される場合は、前記アノード電源モジュールに含まれる前記複数個のアノード電源のうちの一部のアノード電源と、前記静止軌道用流量調整器とを接続する切替スイッチと、
    流量調整器用電源とを備え、
    前記アノード電源モジュールと、前記流量調整器用電源と、切替スイッチとが、前記オービットレイジング用ホールスラスタと前記静止軌道用ホールスラスタとにより共用される人工衛星。
  2. 前記人工衛星は、
    前記静止軌道への軌道遷移時に、前記切替スイッチを前記オービットレイジング用ホールスラスタ側に接続し、
    前記静止軌道到達後は、前記切替スイッチを静止軌道用ホールスラスタ側に接続する請求項1に記載の人工衛星。
  3. 前記人工衛星は、更に、
    キセノンガスを貯蔵するキセノンタンクと、キセノンガスの減圧を行う圧力調整器とを
    備え、
    前記キセノンタンクと前記圧力調整器とが、前記オービットレイジング用ホールスラス
    タと前記静止軌道用ホールスラスタとにより共用され、
    前記オービットレイジング用流量調整器のオリフィスの面積が、前記オービットレイジ
    ング用ホールスラスタへのキセノンガスの流量に対応させた面積であり、
    前記静止軌道用流量調整器のオリフィスの面積が、前記静止軌道用ホールスラスタへの
    キセノンガスの流量に対応させた面積である請求項1または請求項2に記載の人工衛星。
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