本発明において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の少なくとも一方を意味する。また「(共)重合体」とは、「重合体」及び「共重合体」の少なくとも一方を意味する。
以下、本発明を詳細に説明するが、材料、製造条件等に関する記載の全ては、特記しない限り、第1の発明群及び第2の発明群に共通する説明である。
<ゴム含有グラフト共重合体>
本発明のゴム含有グラフト共重合体(以下、「グラフト共重合体」と略す場合がある。)は、ポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムに1種以上のビニル単量体をグラフト重合した共重合体である。
〔ポリオルガノシロキサンを含むゴム〕
ポリオルガノシロキサンを含むゴムとしては、ポリオルガノシロキサンゴム、又はポリオルガノシロキサン及びポリアルキル(メタ)アクリレートを含有する複合ゴムであることが好ましい。
[ポリオルガノシロキサン]
ポリオルガノシロキサンは、オルガノシロキサン単位を構成単位として含有する重合体である。ポリオルガノシロキサンゴムは、「オルガノシロキサン」及び「ビニル系重合性基含有シラン化合物」、または、必要に応じて使用される成分を含むオルガノシロキサン混合物を重合することにより得ることができる。必要に応じて使用される成分としては、シロキサン系架橋剤、及び末端封鎖基を有するシロキサンオリゴマー等が挙げられる。
オルガノシロキサンとしては、鎖状オルガノシロキサン、環状オルガノシロキサンのいずれも用いることができる。環状オルガノシロキサンは、重合安定性が高く、重合速度が大きいので好ましい。環状オルガノシロキサンとしては、3〜7員環のものが好ましく、例えば、以下のものが挙げられる。ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリオルガノシロキサンを含むゴムの粒子径分布を制御しやすいことから、60質量%以上がオクタメチルシクロテトラシロキサンであることが好ましい。
[ビニル系重合性基含有シラン化合物]
ビニル系重合性基含有シラン化合物はシロキサン系グラフト交叉剤として用いられる。ビニル系重合性基含有シラン化合物は、シロキシ基を有すると共にビニル単量体と共重合可能な官能基を有するものである。ビニル系重合性基含有シラン化合物を用いることによって、ビニル単量体と共重合可能な官能基を有するポリオルガノシロキサンを得ることができる。このようなグラフト交叉剤を用いることにより、ポリオルガノシロキサンに対して、後述する複合ゴム用アルキル(メタ)アクリレート成分、又はビニル単量体をラジカル重合によってグラフトさせることができる。
ビニル系重合性基含有シラン化合物としては、式(1)で表されるシロキサンを挙げることができる。
式(1)中、R1は、メチル基、エチル基、プロピル基、又はフェニル基を示す。R2は、アルコキシル基における有機基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、又はフェニル基を挙げることができる。nは、0、1又は2を示す。Rは、式(2)〜(5)で表されるいずれかの基を示す。
これらの式中、R3及びR4は、それぞれ、水素又はメチル基を示し、pは、1〜6の整数を示す。
式(2)で表される官能基としては、メタクリロイルオキシアルキル基を挙げることができる。この基を有するシロキサンとしては、例えば以下のものが挙げられる。β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、δ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等。
式(3)で表される官能基としては、例えばビニルフェニル基等を挙げることができる。この基を有するシロキサンとしては、例えば、ビニルフェニルエチルジメトキシシランを挙げることができる。
式(4)で表される官能基を有するシロキサンとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランを挙げることができる。
式(5)で表される官能基としては、メルカプトアルキル基を挙げることができる。この基を有するシロキサンとして、例えば以下のものが挙げられる。γ−メルカプトプロピルジメトキメチルシラン、γ−メルカプトプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルエトキシジメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等。
これらの中でも、式(2)、式(4)、及び式(5)で表される官能基を有するビニル系重合性基含有シラン化合物が経済性の点から好ましく用いられ、その中でも式(2)で表される官能基を有するビニル系重合性基含有シラン化合物がより好ましい。
これらビニル系重合性基含有シラン化合物は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。ビニル系重合性基含有シラン化合物の含有量は、オルガノシロキサン混合物100質量%中、1〜10質量%であり、1〜5質量%であることが好ましい。ビニル系重合性基含有シラン化合物の量が1質量%より少ないと、得られる成形体の外観の悪化及び耐衝撃性、難燃性が低位となる。ビニル系重合性基含有シラン化合物の量が10質量%を超えても、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性が低位となる。
シロキサン系架橋剤としては、シロキシ基を有するものが好ましい。シロキサン系架橋剤を用いることによって、架橋構造を有するポリオルガノシロキサンを得ることができる。シロキサン系架橋剤としては、例えば、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン等の3官能性又は4官能性の架橋剤を挙げることができる。中でも、4官能性の架橋剤が好ましく、テトラエトキシシランがより好ましい。シロキサン系架橋剤の含有量は、オルガノシロキサン混合物100質量%中、0〜30質量%であることが好ましく、0.1〜30質量%であることがより好ましく、0.1〜10質量であることがさらに好ましく、0.1〜1.8質量%であることが特に好ましく、0.1〜1.6質量%であることが最も好ましい。
末端封鎖基を有するシロキサンオリゴマーとは、オルガノシロキサンオリゴマーの末端にアルキル基等を有し、ポリオルガノシロキサンの重合を停止させるシロキサンオリゴマーをいう。末端封鎖基を有するシロキサンオリゴマーとしては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、メトキシトリメチルシランを挙げることができる。
[ポリオルガノシロキサンゴムの製造方法]
ポリオルガノシロキサンゴムの製造方法としては特に制限はなく、例えば、以下の製造方法を採用できる。
まず、オルガノシロキサン及びビニル系重合性基含有シラン化合物、または更に、必要に応じて使用される成分、を含むオルガノシロキサン混合物を、乳化剤と水によって乳化させてエマルションを調製した後、酸触媒を用いて高温下で重合させる。次いでアルカリ性物質により酸を中和してポリオルガノシロキサンゴムのラテックスを得る。
この製造方法において、エマルションの調製方法としては、高速回転による剪断力で微粒子化するホモミキサーを用いる方法、高圧発生機による噴出力で微粒子化するホモジナイザー等を使用して高速攪拌により混合する方法などが挙げられる。これらの中でも、ホモジナイザーを使用する方法は、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックスの粒子径の分布が狭くなるので好ましい方法である。
重合の際の酸触媒の混合方法としては、(1)オルガノシロキサン混合物、乳化剤及び水とともに酸触媒を一括して添加し、混合する方法、(2)オルガノシロキサン混合物のエマルション中に酸触媒水溶液を連続的に、又は一括して添加する方法、(3)オルガノシロキサン混合物のエマルションを高温の酸触媒水溶液中に一定速度で滴下して混合する方法等が挙げられる。ポリオルガノシロキサンの粒子径を制御しやすいことから、オルガノシロキサン混合物のエマルションを70〜85℃で保持し、次いで酸触媒水溶液を連続的に、又は一括して添加する方法が好ましい。
第1の発明群の場合、重合温度は、50℃以上が好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。また、重合時間は、前記エマルション中に酸触媒水溶液を一括して添加して重合する場合には、通常2時間以上、好ましくは5時間以上である。
第2の発明群の場合、重合温度は、50℃〜95℃が好ましく、さらには70℃〜95℃がより好ましい。また、重合時間は、酸触媒をオルガノシロキサン混合物、乳化剤及び水とともに混合し、微粒子化を行った後に重合する場合、2〜15時間が好ましく、より好ましくは5〜10時間である。
更に、30℃以下の温度においては、シラノール間の架橋反応が進行することから、ポリオルガノシロキサンの架橋密度を上げるために、50℃以上の高温で重合させた後、30℃以下の温度で5時間から100時間程度保持することもできる。
オルガノシロキサン混合物の重合反応は、ラテックスを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液等のアルカリ性物質でpH6〜8に中和して、終了させることができる。
上記製造方法で使用される乳化剤としてはオルガノシロキサン混合物を乳化できれば特に制限されないが、アニオン系乳化剤又はノニオン系乳化剤が好ましい。アニオン系乳化剤としては、例えば以下のものが挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等。
ノニオン系乳化剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等。
これらの乳化剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
乳化剤の使用量は、オルガノシロキサン混合物100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましい。乳化剤の使用量によって、所望の粒子径に調整することが可能である。乳化剤の使用量を0.05質量部以上とすることで、オルガノシロキサン混合物のエマルションの乳化安定性が十分となり、乳化剤の使用量を10質量部以下とすることで、乳化剤に起因するグラフト共重合体の着色や、樹脂組成物の耐熱分解性の低下を抑制できる。
オルガノシロキサン混合物の重合に用いられる酸触媒としては、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類及び硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類が挙げられる。これらの酸触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸を使用すると、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックスの粒子径分布を狭くすることができ、さらに、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス中の乳化剤成分に起因する成形体の外観不良を低減させることができる。酸触媒の使用量は、所望の粒子径に調整することが可能である点で、例えば、オルガノシロキサン混合物100質量部に対し、濃度95%の硫酸を0.1〜0.5質量部使用することが好ましい。
ポリオルガノシロキサンゴムのラテックスの質量平均粒子径Dwは、250nm〜1000nmであることが好ましい。ポリオルガノシロキサンゴムのラテックスの質量平均粒子径を250nm〜1000nmとすることによって、グラフト共重合体の体積平均粒子径またはグラフト共重合体のラテックスの質量平均粒子径を、300〜2000nmに調整することが可能である。
ポリオルガノシロキサンを含むゴムのラテックスの粒子径分布(質量平均粒子径Dw/数平均粒子径Dn)は、1.0〜1.7であることが好ましい。Dw/Dnを1.0〜1.7とすることによって、発色性の高いグラフト共重合体を得ることができる。
尚、ポリオルガノシロキサンを含むゴムのラテックスの質量平均粒子径Dw及び数平均粒子径Dn、並びに、グラフト共重合体のラテックスの質量平均粒子径Dw、数平均粒子径Dn及びグラフト共重合体の体積平均粒子径の測定方法は後述する。
上記方法により得られるポリオルガノシロキサンを含むゴムのラテックスには、機械的安定性を向上させる目的で、必要に応じて、乳化剤を添加してもよい。乳化剤としては、上記例示したものと同様のアニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤が好ましい。
[複合ゴム]
本発明において、ポリオルガノシロキサンを含むゴムとして、ポリオルガノシロキサン(B1)及びポリアルキル(メタ)アクリレート(B2)を含有する複合ゴム(以下、「複合ゴム」と略す場合がある。)を用いることができる。複合ゴムは、前記ポリオルガノシロキサンと、以下のFOXの式で表されるガラス転移温度(Tg)が0℃以下のポリアルキル(メタ)アクリレートを含有するゴムである。
1/(273+Tg)=Σ(wi/(273+Tgi))。
上記式中、Tgは、共重合体のガラス転移温度(℃)、wiは、単量体iの質量分率、Tgiは、単量体iを重合して得られる単独重合体のガラス転移温度(℃)である。単独重合体のTgの値は、POLYMER HANDBOOK Volume 1(WILEY−INTERSCIENCE)に記載の値である。
複合ゴムは、ポリオルガノシロキサンゴムの存在下にアルキル(メタ)アクリレートを重合して得られるゴムであることが好ましい。
複合ゴムを構成するポリアルキル(メタ)アクリレート(B2)は、アルキル(メタ)アクリレート成分(以下、「複合ゴム用(メタ)アクリレート成分」と略す場合がある。)を重合して得ることができる。複合ゴム用(メタ)アクリレート成分は、「単独重合体のTgが0℃以下のアルキル(メタ)アクリレート」と「架橋性単量体」を含有することが好ましい。
単独重合体のTgが0℃以下のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性および成形体の光沢を考慮すると、特にn−ブチルアクリレートが好ましい。
「架橋性単量体」としては、例えば以下の「多官能性ビニル単量体」が挙げられる。アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート等。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
[複合ゴムの製造方法]
複合ゴムの製造方法としては、特に制限はなく、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、微細懸濁重合法により製造することができるが、乳化重合法を用いることが好ましい。中でも、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス中に複合ゴム用(メタ)アクリレート成分を添加して、ゴム粒子に複合ゴム用(メタ)アクリレート成分を含浸させた後に、複合ゴム用(メタ)アクリレート成分を乳化重合して、複合ゴムのラテックスを得る方法が特に好ましい。
ポリオルガノシロキサンゴムのラテックスと複合ゴム用(メタ)アクリレート成分の混合物を調製する方法としては、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス中に、上記アルキル(メタ)アクリレートおよび多官能性ビニル単量体を添加する方法が挙げられる。これによって複合ゴム用(メタ)アクリレート成分をポリオルガノシロキサンゴムの粒子中に含浸させた後、昇温して公知のラジカル重合開始剤を作用させて重合する。この製造方法において、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス中に、複合ゴム用(メタ)アクリレート成分を添加する方法としては、その全量を、一括して添加する方法、一定速度で滴下して添加する方法が挙げられる。
複合ゴムのラテックスを製造する際には、ラテックスを安定化させ、複合ゴムのラテックスの質量平均粒子径を制御するために、乳化剤を添加することができる。乳化剤は、特に制限されず、アニオン系乳化剤及びノニオン系乳化剤が好ましい。
アニオン系乳化剤としては、例えば以下のものが挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸、ポリオキシエチレンアルキル燐酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル燐酸カルシウム等。
ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルが挙げられる。これらの乳化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
複合ゴム用(メタ)アクリレート成分の重合に用いるラジカル重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物、及び過酸化物と還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの中では、樹脂組成物のアウトガスを抑制する観点から、アゾ系開始剤、レドックス系開始剤が好ましい。
アゾ系開始剤としては、例えば以下のものが挙げられる。2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等の油溶性アゾ系開始剤;4,4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシメチル)−2−メチルプロピオナミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス−(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩等の水溶性アゾ系開始剤。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
過酸化物としては、例えば以下のものが挙げられる。過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、サクシニックアシッドパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物等。これらの過酸化物は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
過酸化物を還元剤と組み合わせてレドックス系開始剤とする場合、上記の過酸化物と、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、L−アスコルビン酸、フルクトース、デキストロース、ソルボース、イノシトール等の還元剤と、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩を組み合わせて用いることが好ましい。
これらの還元剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なお、還元剤としてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートを用いる場合には、樹脂組成物のアウトガスを抑制する観点から出来る限り使用量を抑えることが好ましい。
アゾ系開始剤を用いる場合、その使用量は、複合ゴム100質量部に対して0.01〜1質量部であることが好ましい。
レドックス系開始剤を用いる場合、過酸化物の使用量は、複合ゴム用(メタ)アクリレート成分100質量部に対して0.01〜10質量部であることが好ましい。還元剤の使用量は、複合ゴム100質量部に対して0.01〜1質量部であることが好ましい。
複合ゴム中の、ポリオルガノシロキサン(B1)及びポリアルキル(メタ)アクリレート(B2)の比「B1/B2」としては、「74/26〜99/1」質量%であることが好ましく、「80/20〜95/5」質量%であることがより好ましい。「B1/B2」の比を「74/26〜99/1」質量%とすることで、成形して得られる成形体の耐衝撃強度が良好となり、好ましい。
〔グラフト共重合体〕
本発明のゴム含有グラフト共重合体は、ポリオルガノシロキサンを含むゴムの存在下で1種以上のビニル単量体をグラフト重合することによって、得ることができる。従って、本発明のグラフト共重合体において、グラフト部は1種以上のビニル単量体の重合体によって形成されている。ビニル単量体については後に説明するが、ビニル単量体として「多官能性ビニル単量体」を用いることができる。
以下の説明において、第1の発明群の「第1の態様」、「第2の態様」及び「第3の態様」の各グラフト共重合体(GF1)、(GF2)及び(GF3)を、グラフト共重合体(GF)と総称する場合がある。また、第2の発明群のグラフト共重合体を、グラフト共重合体(GS)と称する。
第1の発明群において、グラフト共重合体(GF)の体積平均粒子径は、300〜2000nmである。体積平均粒子径は、400〜1000nmであることが好ましく、さらには400〜800nmであることがより好ましく、410〜550nmであることが特に好ましい。グラフト共重合体(GF)の体積平均粒子径が300nm以上であると、グラフト共重合体(GF)を熱可塑性樹脂に配合して得られる成形体は、耐衝撃性(特に低温耐衝撃性)が良好となる。またグラフト共重合体(GF)の体積平均粒子径が2000nm以下であると、グラフト共重合体(GF)を熱可塑性樹脂に配合して得られる成形体は、発色性と耐衝撃性(特に低温耐衝撃性)が良好となるとともに表面外観が良好となる。
第1の発明群において、グラフト共重合体(GF)100質量%中における「ポリオルガノシロキサン」の含有量は、70〜98質量%である。この含有量は、70〜90質量%であることが好ましく、75〜85質量%であることがより好ましい。ポリオルガノシロキサンの含有量が70質量%以上の場合、成形体の難燃性ならびに摺動性、低温における衝撃強度が良好となり、また98質量%以下の場合、成形体の表面外観が良好となり好ましい。
第1の発明群において、グラフト共重合体(GF)100質量%中の「ポリオルガノシロキサンを含むゴム」の含有量は、71〜99質量%が好ましく、85〜99質量%がより好ましい。ポリオルガノシロキサンを含むゴムの含有量が71質量%以上であれば、低温における成形体の衝撃強度が十分となり、また99質量%以下であれば、成形体の表面外観が良好となり好ましい。
[グラフト率]
第1の発明群の「第1の態様」のグラフト共重合体(GF1)のグラフト率は10質量%以下である。グラフト率が10質量%以下であれば、成形体の摺動性及び難燃性を向上させることができる。グラフト率は−20質量%以上であることが好ましい。グラフト率は、−20〜8質量%がより好ましく、−20〜5質量%がさらに好ましく、−5〜5質量%が特に好ましい。グラフト率がこの範囲内であることで、得られる成形体は高い耐衝撃性、摺動性、及び難燃性を示す。
wa:試料のアセトン不溶分の質量(g)、
wo:試料総量(g)、
R:グラフト共重合体製造時の仕込み原料中のポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムの分率(質量%)。
なお、本発明におけるグラフト率は、上述の様に、実験的に求められるアセトン不溶分waと仕込み原料中のゴムの分率Rに基づいて算出される値である。理論的には、アセトン不溶分の質量waはポリオルガノシロキサンを含むゴムの質量wrとそれにグラフト重合したビニル単量体に由来する成分の質量wvの合計に相当し、「wo×R/100」は採取したポリオルガノシロキサンを含むゴムの質量に相当する。
しかしながら、実際には試料総量wo中には、グラフト共重合体の他、重合反応の副生成物や未反応原料も含まれるため、「wo×R/100」の値が「試料のアセトン不溶分の質量wa」を上回る場合も考えられ、実験的に求められるグラフト率がマイナスの値となる場合もあり得る。
グラフト率の値を上記の範囲内にするためには、以下の(1)〜(4)の方法が挙げられる。
(1)グラフト共重合体(GF)100質量%中のポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムの含有量の目標値が85〜99質量%である場合に、ポリオルガノシロキサン(B1)用の単量体原料100質量%中において、シロキサン系架橋剤の使用量を0〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%とし、グラフト共重合体(GF)用の単量体原料100質量%中において、ビニル系重合性基含有シラン化合物の使用量を0.7〜9.8質量%とし、多官能性ビニル単量体の使用量を0質量%を超え5質量%未満、好ましくは0.1質量%以上3質量%以下とする方法。
(2)グラフト共重合体(GF)100質量%中のポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムの含有量の目標値が85質量%未満であり、グラフト用ビニル単量体が多官能性ビニル単量体を含む場合に、グラフト共重合体(GF)用の単量体原料100質量%中において、多官能性ビニル単量体の使用量を0質量%を超えて4質量%以下、好ましくは0.1〜3質量%、より好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%とする方法。
(3)グラフト共重合体(GF)100質量%中のポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムの含有量の目標値が85質量%未満であり、グラフト用ビニル単量体が多官能性ビニル単量体を含まず、ポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムがポリオルガノシロキサン(B1)及びポリアルキル(メタ)アクリレート(B2)を含む複合ゴムである場合に、グラフト共重合体(GF)用の単量体原料100質量%中において、複合ゴム用(メタ)アクリレート成分及びグラフト用ビニル単量体に含まれる多官能性ビニル単量体の合計使用量を0質量%を超えて4質量%以下、好ましくは0.1〜3質量%、より好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%とする方法。
(4)グラフト共重合体(GF)100質量%中のポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムの含有量の目標値が85質量%未満であり、グラフト用ビニル単量体が多官能性ビニル単量体を含まず、ポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムがポリアルキル(メタ)アクリレート(B2)を含有しないゴムである場合に、ポリオルガノシロキサン(B1)用の単量体原料100質量%中において、シロキサン系架橋剤の使用量を0〜1.8質量%、好ましくは0.1〜1.6質量%とし、グラフト共重合体(GF)用の単量体原料100質量%中において、ビニル系重合性基含有シラン化合物の使用量を0.7〜5質量%、好ましくは0.7〜1.5質量%とする方法。
[アセトン可溶分]
第1の発明群の「第2の態様」のグラフト共重合体(GF2)は、アセトン可溶分が5.0質量%以上30.0質量%以下である。アセトン可溶分は、5.0質量%以上20.0質量%以下であることがより好ましい。アセトン可溶分が5.0質量%以上30.0質量%以下であることで、グラフト共重合体(GF2)を熱可塑性樹脂に配合して得られる成形体は、摺動性、耐衝撃強度、及び難燃性が良好となる。このようなグラフト共重合体(GF2)を得るにはビニル系重合性基含有シラン化合物と多官能性ビニル単量体の量と種類を適切に選択する必要がある。具体的には、グラフト共重合体(GF)用の単量体原料100質量%中において、ビニル系重合性基含有シラン化合物の使用量を0.7〜9.8質量%とし、ポリオルガノシロキサン(B1)用の単量体原料100質量%中において、シロキサン系架橋剤の使用量を0〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%とし、及びグラフト共重合体(GF)用の単量体原料100質量%中において、多官能性ビニル単量体の使用量を0質量%を超え5質量%未満、好ましくは0.1質量%以上3質量%以下とすることで、アセトン可溶分が5.0質量%以上30.0質量%以下のグラフト共重合体を得ることができる。グラフト共重合体のアセトン可溶分の測定方法は、後述する。
第1の発明群において、グラフト共重合体(GF)100質量%中の多官能性ビニル単量体に由来する成分の含有量は、特に制限はないが、0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0質量%を超えて5質量%未満であることがより好ましく、0質量%を超えて3質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下であることが特に好ましく、0.1質量以上1.0質量%以下であることが最も好ましい。多官能性ビニル単量体に由来する成分の含有量が0質量%以上10質量%以下であることで、得られる成形体は高い耐衝撃性と摺動性を示す。
第1の発明群の「第3の態様」のグラフト共重合体(GF3)100質量%中における、多官能性ビニル単量体に由来する成分の含有量は0質量%を超え、5質量%未満であり、0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましい。多官能性ビニル単量体に由来する成分の含有量がこの範囲内であることで、得られる成形体は高い耐衝撃性、摺動性、及び難燃性を示す。
第1の発明群において、グラフト共重合体(GF)100質量%中のビニル系重合性基含有シラン化合物に由来する成分の含有量は、特に制限はないが、0.7〜9.8質量%であることが好ましく、0.7〜5質量%であることがより好ましく、0.7〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
第2の発明群において、グラフト共重合体(GS)のラテックスの質量平均粒子径は、300〜2000nmである。ラテックスの質量平均粒子径が300nm以上であれば、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の発色性が良好であり、ラテックスの質量平均粒子径が2000nm以下であれば、成形体の低温時の耐衝撃性が良好である。ラテックスの質量平均粒子径は、400〜2000nmであることが好ましく、400〜1000nmであることがより好ましく、410〜650nmであることがさらに好ましく、420〜550nmであることが特に好ましい。
第2の発明群において、グラフト共重合体(GS)のラテックスの粒子径分布(質量平均粒子径Dw/数平均粒子径Dn)は、1.0〜2.0であり、1.0〜1.5であることが好ましい。ラテックスの粒子径分布(Dw/Dn)が2.0以下であれば、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の発色性(顔料着色性)が良好である。尚、質量平均粒子径Dw及び数平均粒子径Dnの測定方法は後述する。
第2の発明群において、グラフト共重合体(GS)中の「ポリオルガノシロキサン」の含有量は、40〜95質量%である。この含有量が40質量%以上であれば成形体の摺動性が充分に発現し、低温時の耐衝撃性も良好である。またこの含有量が95質量%以下であれば、成形体の発色性(顔料着色性)が良好である。この含有量は41〜74質量%であることが好ましく、50〜70質量%であることがより好ましい。
第2の発明群において、グラフト共重合体(GS)100質量%中の「ポリオルガノシロキサンを含むゴム」の含有量は、65〜99質量%が好ましく、80〜95質量%がより好ましい。ポリオルガノシロキサンを含むゴムの含有量が65質量%以上であれば、低温における成形体の衝撃強度が十分となり、また99質量%以下であれば、成形体の表面外観が良好となり好ましい。
本発明において、ポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムは、ポリオルガノシロキサン(B1)及びポリアルキル(メタ)アクリレート(B2)を含む複合ゴムであることが好ましい。また、ポリオルガノシロキサンとポリアルキルアクリレートを含む複合ゴムであることがより好ましく、ポリオルガノシロキサンとポリブチルアクリレートを含む複合ゴムであることがさらに好ましい。ポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムが複合ゴムであれば、成形体の耐衝撃性が良好となる。また、ポリオルガノシロキサン(B1)を含むゴムが複合ゴムであれば、成形体の難燃性が良好となる。
本発明のグラフト共重合体においてグラフト部は、1種以上のビニル単量体の重合物によって形成され、該重合物の上述のFOXの式で表されるガラス転移温度は0℃を超え、好ましくは50℃以上である。グラフト重合に用いられるビニル単量体としては、特に限定されないが、例えば以下のものが挙げられる。スチレン、α−メチルスチレン、p―メチルスチレン、p一t―ブチルスチレン、p―メトキシスチレン、o―メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等の芳香族ビニル単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、4−t−ブチルフェニル(メタ)アクリレート、モノブロモフェニル(メタ)アクリレート、ジブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,4,6−トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、モノクロロフェニル(メタ)アクリレート、ジクロロフェニル(メタ)アクリレート、トリクロロフェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル単量体;安息香酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基を有するビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン類。これらビニル系単量体は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
2種以上を使用する場合、ビニル単量体混合物は、必要に応じて「多官能性ビニル単量体」を含んでも良い。多官能性ビニル単量体としては、例えば以下のものが挙げられる。アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、1種以上のビニル単量体がメチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルを含む場合に、得られるグラフト共重合体はポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂(A)中での相溶性、分散性に優れる。また、1種以上のビニル単量体がスチレン等の芳香族ビニル単量体を含む場合、熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体は難燃性に優れる。よって、これらのビニル単量体を単独で使用することまたは併用することが好ましい。
グラフト重合において用いられる原料中には、グラフトポリマーの分子量及びグラフト率を調製するための各種連鎖移動剤及びグラフト交叉剤を添加することができる。
[グラフト共重合体の製造方法]
グラフト部の重合方法としては、例えば、ポリオルガノシロキサンを含むゴムのラテックス中にグラフト重合用の1種以上のビニル単量体を添加し、1段又は多段で重合する方法が挙げられる。多段で重合する場合は、ポリオルガノシロキサンゴム系ゴムのラテックス中に、グラフト重合用の1種以上のビニル単量体を分割して逐次添加し又は連続的に添加して、重合することが好ましい。このような重合方法は重合安定性が良好であり、且つ所望の粒子径及び粒子径分布を有するグラフト共重合体のラテックスを安定に得ることができる。
グラフト部の重合の際には、必要に応じて原料中に乳化剤を追加することができる。乳化剤としては、複合ゴムを製造する際に用いた前述の乳化剤と同様のものが挙げられ、アニオン系乳化剤及びノニオン系乳化剤が好ましい。乳化剤の使用量としては、グラフト重合用のビニル単量体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜5質量部がより好ましい。
グラフト部の重合に用いられる重合開始剤としては、複合ゴムを製造する際に用いた重合開始剤と同様のものが挙げられ、アゾ系開始剤、レドックス系開始剤が好ましい。
グラフト共重合体のラテックスから、グラフト共重合体の粉体を回収する場合には、噴霧乾燥法、凝固法のいずれかの方法を用いることができる。
噴霧乾燥法は、グラフト共重合体のラテックスを乾燥機中に微小液滴状に噴霧し、これに乾燥用の加熱ガスを当てて乾燥する方法である。微小液滴を発生する方法としては、例えば、回転円盤型式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、加圧二流体ノズル式が挙げられる。乾燥機の容量は、実験室で使用するような小規模な容量から、工業的に使用するような大規模な容量のいずれであってもよい。乾燥用の加熱ガスの温度は200℃以下が好ましく、120〜180℃がより好ましい。
別々に製造された2種以上のグラフト共重合体のラテックスを、一緒に噴霧乾燥することもできる。更には、噴霧乾燥時のブロッキングを防止し、嵩比重等の粉末特性を向上させるために、グラフト共重合体のラテックス中に、シリカ等の任意成分を添加して噴霧乾燥することもできる。
凝固法は、グラフト共重合体のラテックスを凝析して、グラフト共重合体を分離し、回収し、乾燥する方法である。先ず、凝固剤を溶解した熱水中にグラフト共重合体のラテックスを投入し、塩析し、凝固することによりグラフト共重合体を分離する。次いで、分離した湿潤状のグラフト共重合体を脱水等して、水分量が低下したグラフト共重合体を回収する。回収されたグラフト共重合体は圧搾脱水機や熱風乾燥機を用いて乾燥される。
凝固剤としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウムなどの無機塩や、酢酸カルシウムなどの有機塩や、硫酸などの酸が挙げられ、酢酸カルシウムが特に好ましい。これらの凝固剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。凝固剤を併用する場合は水に不溶性の塩を形成しない組み合わせを選択することが必要である。例えば、酢酸カルシウムと、硫酸、もしくはそのナトリウム塩とを併用すると、水に不溶性のカルシウム塩を形成するので好ましくない。
上記の凝固剤は、通常、水溶液として用いられる。凝固剤水溶液の濃度は、グラフト共重合体を安定的に凝固し、回収する観点から、0.1質量%以上、特に1質量%以上であることが好ましい。また、回収されたグラフト共重合体中に残存する凝固剤の量が多いと成形体の耐熱分解性が悪化するため、凝固剤水溶液の濃度は、20質量%以下、特に15質量%以下であることが好ましい。ラテックスに対する凝固剤水溶液の量は特に限定されないが、ラテックス100質量部に対して10質量部以上、500質量部以下であることが好ましい。
ラテックスを凝固剤水溶液に接触させる方法は特に限定されないが、通常、下記の方法が挙げられる。(1)凝固剤水溶液を攪拌しながら、そこにラテックスを連続的に添加して一定時間保持する方法、(2)凝固剤水溶液とラテックスとを、一定の比率で攪拌機付きの容器内に連続的に注入しながら接触させ、凝析された重合体と水とを含む混合物を容器から連続的に抜き出す方法。ラテックスを凝固剤水溶液に接触させるときの温度は特に限定されないが、30℃以上、100℃以下であることが好ましい。接触時間は特に限定されない。
凝析したグラフト共重合体は、1〜100質量倍程度の水で洗浄され、濾別された湿潤状のグラフト共重合体は流動乾燥機や圧搾脱水機等を用いて乾燥される。乾燥温度、乾燥時間は得られるグラフト共重合体のTgによって適宜決めればよい。なお、圧搾脱水機や押出機から排出されたグラフト共重合体を回収せず、直接、樹脂組成物を製造する押出機や成形機に送り、熱可塑性樹脂と混合して成形体を得ることも可能である。
本発明において、グラフト共重合体は、熱可塑性樹脂と混合して得られる樹脂組成物の耐熱分解性の観点から、凝固法を用いて回収することが好ましい。
このようにして回収されたグラフト共重合体の粉体中には、ビニル単量体をグラフト重合させた際に、ポリオルガノシロキサンを含むゴムにグラフト結合せずに重合した(共)重合体が含まれている場合がある。
<熱可塑性樹脂組成物>
第1の発明群のグラフト共重合体は、熱可塑性樹脂(A)と混合して熱可塑性樹脂組成物として使用することができる。熱可塑性樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂(A)、グラフト共重合体(GF)、フッ素系樹脂(C)及び難燃剤(D)を含有する熱可塑性樹脂組成物が好ましい。
〔熱可塑性樹脂(A)〕
熱可塑性樹脂(A)としては、例えば、以下のものが挙げられる。ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、(メタ)アクリレート・スチレン共重合体(MS)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、アクリル酸エステル・スチレン・アクリロニトリル共重合体(ASA)、アクリロニトリル・エチレン・プロピレンゴム・スチレン共重合体(AES)等のスチレン(St)系樹脂;ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル(Ac)系樹脂;ポリカーボネート系樹脂(PC系樹脂);ポリアミド(PA)樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸(PLA)等のPEs樹脂;(変性)ポリフェニレンエーテル((m−)PPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリスルフォン(PSO)樹脂、ポリアリレート(PAr)樹脂、ポリフェニレン(PPS)樹脂、熱可塑性ポリウレタン(PU)樹脂等のエンジニアリングプラスチックス;スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエン、トランス1,4−ポリイソプレン等の熱可塑性エラストマー(TPE);PC/ABS等のPC樹脂とSt系樹脂とのアロイ、PVC/ABS等のPVC系樹脂とSt系樹脂とのアロイ、PA/ABS等のPA樹脂とSt系樹脂とのアロイ、PA樹脂とTPEとのアロイ、PA/PP等のPA樹脂とポリオレフィン系樹脂とのアロイ、PC/PBT等のPC樹脂とPEs樹脂とのアロイ、ポリオレフィン系樹脂/TPEとPP/PE等とのオレフィン系樹脂同士のアロイ、PPE/HIPSとPPE/PBTとPPE/PA等とのPPE系樹脂同士のアロイ、PVC/PMMA等のPVC系樹脂とAc系樹脂とのアロイ等のポリマーアロイ;硬質塩化ビニル樹脂、半硬質塩化ビニル樹脂、軟質塩化ビニル樹脂等のPVC系樹脂。
熱可塑性樹脂(A)としては、これらの中でも、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性の向上の観点から、カーボネート結合、エステル結合、及びアミド結合から選ばれる少なくとも一つの結合を有する熱可塑性樹脂が好ましい。カーボネート結合、エステル結合、及びアミド結合から選ばれる少なくとも一つの結合を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、PC系樹脂、PBT、PET、PA樹脂、PLAが挙げられる。なお、これらの樹脂を含むアロイ・ブレンドと呼ばれる樹脂を使用してもよい。さらに、芳香族ポリカーボネート単位を50質量%以上含むPC系樹脂が特に好ましい。
PC系樹脂は、芳香族ヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物をホスゲンまたは炭酸のジエステルと反応させることによって得られる、分岐鎖を有していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されず、公知の方法、すなわち、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等が採用される。PC系樹脂は、その末端OH基量が熱安定性、加水分解安定性等に影響を及ぼす傾向にあるため、本発明では、溶融法で製造され、かつ、反応時の減圧度などを調整することにより、末端のOH基量が調整された芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することもできる。
PC系樹脂としては、例えば以下のものが挙げられる。三菱エンジニアリングプラスチック(株)製の商品名ユーピロンS−1000、ユーピロンS−2000、ユーピロンS−3000、ユーピロンH−3000もしくはユーピロンH−4000;または帝人化成(株)製の商品名パンライトL1250、パンライトL1225もしくはパンライトK1300など。
熱可塑性樹脂(A)に対するグラフト共重合体(GF)の使用量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、グラフト共重合体(GF)0.1〜12質量部を添加することが好ましく、0.5〜10質量部がより好ましく、1〜8質量部がさらに好ましい。グラフト共重合体(GF)の使用量が0.1〜12質量部であれば、耐衝撃性と表面外観が優れた成形体を提供可能な樹脂組成物を得ることができる。
〔フッ素系樹脂(C)〕
フッ素系樹脂(C)は、燃焼時の滴下防止を目的として用いることができる。フッ素系樹脂(C)としては公知のものを用いることができ、適宜合成したものを使用してもよく、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば以下のものが挙げられる。「ポリフロンFA−500」(商品名、ダイキン工業(株)製)等のポリテトラフルオロエチレン;「BLENDEX B449」(商品名、ガラタケミカルズ社製)等のSAN変性ポリテトラフルオロエチレン;「メタブレンA−3000」、「メタブレンA−3750」、「メタブレンA−3800」(商品名、三菱レイヨン(株)製)等のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン。これらのフッ素系樹脂(C)は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらのフッ素系樹脂(C)の中でも、得られる成形体中の分散性に優れ、成形体が機械特性、耐熱性、難燃性に優れることから、SAN変性ポリテトラフルオロエチレン、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンが好ましく、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンがより好ましい。
SAN変性ポリテトラフルオロエチレン中、またはアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン中のポリテトラフルオロエチレンの含有量としては、フッ素系樹脂(C)100質量%中、10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましい。この含有量が10質量%以上であると、得られる成形体は難燃性に優れる。また、この含有量が80質量%以下であると、得られる成形体は外観が優れる。
フッ素系樹脂(C)の配合量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましく、0.3〜2質量部であることが更に好ましい。この配合量が0.01質量部以上であると、得られる成形体は難燃性に優れる。また、この配合量が5質量部以下であると、熱可塑性樹脂(A)の本来の性質を損なわない。
〔難燃剤(D)〕
難燃剤(D)としては、公知の難燃剤を用いることができ、例えば以下のものが挙げられる。ハロゲン化ビスフェノールA、ハロゲン化ポリカーボネートオリゴマー、臭素化エポキシ化合物等のハロゲン系化合物と酸化アンチモン等の難燃助剤の組合せからなるハロゲン系難燃剤;有機塩系難燃剤;リン酸エステル系難燃剤、ハロゲン化リン酸エステル型難燃剤等のリン系難燃剤;芳香族スルホン酸の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩等のスルホン酸系難燃剤;分岐型のフェニルシリコーン化合物、フェニルシリコーン系樹脂等のオルガノポリシロキサン等のシリコーン系難燃剤。
これらの難燃剤(D)の中でも、非ハロゲン系という点や得られる成形体が難燃性に優れることから、リン酸エステル系難燃剤等のリン系難燃剤;芳香族スルホン酸の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩等の有機金属塩系難燃剤が好ましく、さらには非リン系という点で有機金属塩系難燃剤がより好ましい。
難燃剤(D)の配合量としては、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。この配合量が0.01質量部以上であると、得られる成形体は難燃性に優れる。また、この配合量が10質量部以下であると、熱可塑性樹脂(A)の本来の性質を損なわない。この配合量が過度に少ないと、得られる成形体の難燃効果が低下する。また、この配合量が過度に多いと、樹脂成形体の機械的強度が低下する。
リン系難燃剤としては、赤燐、被覆された赤燐、ポリリン酸塩系化合物、リン酸エステル系化合物、ホスホン酸エステル系化合物、亜リン酸エステル系化合物、ホスフィン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、リン酸エステル系化合物が好ましい。リン酸エステル系化合物の例としては、例えば以下のものが挙げられる。トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、イソプロピルフェニルジホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、トリスイソブチルホスフェート、ビス−(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート、トリス−(イソプロピルフェニル)ホスフェート、1,3フェニレンビス(ジフェニルフォスフェート)、1,3フェニレンビス(ジ2,6キシレニルフォスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルフォスフェート)、レゾルシノールビスジフェニルフォスフェート、オクチルジフェニルフォスフェート、ジエチレンエチルエステルフォスフェート、ジヒドロキシプロピレンブチルエステルフォスフェート、エチレンジナトリウムエステルフォスフェート、t−ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ビス−(t−ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス−(t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロロプロピルホスフェート等。これらは1種を単独で用いても良く2種以上を併用しても良い。
リン系難燃剤の配合量としては、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜8質量部、さらに好ましくは3〜6質量部の範囲内である。
有機金属塩系難燃剤は、極少量の添加により難燃効果を示すことから、成形体の耐熱性を低下させにくいと共に成形体に少なからず帯電防止性を付与できる点で有利である。本発明において最も有利に使用される有機金属塩系難燃剤は、含フッ素有機金属塩化合物である。含フッ素有機金属塩化合物とは、フッ素置換された炭化水素基を有する有機酸からなるアニオン成分と金属イオンからなるカチオン成分とからなる金属塩化合物をいう。その中でも、フッ素置換有機スルホン酸の金属塩、フッ素置換有機硫酸エステルの金属塩、およびフッ素置換有機リン酸エステルの金属塩が好ましい。含フッ素有機金属塩化合物は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。その中でも好ましいのはフッ素置換有機スルホン酸の金属塩であり、特に好ましいのはパーフルオロアルキル基を有するスルホン酸の金属塩である。
その他、上記含フッ素有機金属塩化合物以外の有機金属塩系難燃剤としては、フッ素原子を含有しない有機スルホン酸の金属塩が好適である。該金属塩としては、例えば脂肪族スルホン酸の金属塩、芳香族スルホン酸の金属塩が挙げられる。その中でも好ましいのは芳香族スルホン酸の金属塩である。
有機金属塩系難燃剤の金属イオンを構成する金属種としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。有機金属塩系難燃剤として、具体的には、以下のものが挙げられる。4−メチル−N−(4−メチルフェニル)スルホニル−ベンゼンスルホンアミドのカリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩、パーフルオロメチルブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸のテトラエチルアンモニウム塩等。これらの中でも、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。これらは1種を単独で用いても良く2種以上を併用しても良い。
有機金属塩系難燃剤の配合量としては、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜2質量部であることが好ましく、より好ましくは0.03〜1質量部、さらに好ましくは0.05〜0.5質量部の範囲内である。
〔酸化防止剤(E)〕
第1の発明群の熱可塑性樹脂組成物中には必要に応じて、酸化防止剤(E)を含有させることができる。酸化防止剤(E)は、成形体の製造時の樹脂の酸化分解を抑制することを目的とするだけでなく、成形体の難燃性を向上させることも目的とする成分である。酸化防止剤(E)は、通常の成形時に使用されるものであれば、特に限定されない。具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。トリス[N−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)]イソシアヌレート((株)ADEKA製、アデカスタブAO−20など)、テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン(BASF社製、イルガノックス1010など)、ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)(BASF社製、イルガノックス245など)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゼンプロピオン酸オクタデシル(BASF社製、イルガノックス1076など)、ブチリデン−1,1−ビス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチル−フェニル((株)ADEKA製、アデカスタブAO−40など)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン(吉冨ファインケミカル(株)製、ヨシノックス930など)などのフェノール系酸化防止剤;ビス(2,6,ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト((株)ADEKA製、アデカスタブPEP−36など)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト((株)ADEKA製、アデカスタブ2112など)、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト((株)ADEKA製、アデカスタブHP−10など)などのリン系酸化防止剤;ジラウリル3,3’−チオ−ジプロピオネート(吉冨ファインケミカル(株)製、ヨシノックスDLTP)、ジミリスチル3,3’−チオ−ジプロピオネート(吉冨ファインケミカル(株)製、ヨシノックスDMTP)などの硫黄系酸化防止剤等。
酸化防止剤(E)の配合量としては、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0〜2質量部であることが好ましく、0.01〜1質量部であることがより好ましく、0.05〜0.8質量部であることがさらに好ましい。配合量を2質量部以下とすることで、成形体の耐衝撃性の低下を抑えられる。
〔その他の添加剤〕
第1の発明群の熱可塑性樹脂組成物中には、更に必要に応じて、以下の成分を配合することができる。可塑剤、滑剤;離型剤(例えば、ペンタエリトリトールテトラステアレート等);成核剤、帯電防止剤、安定剤、充填材;強化材(例えば、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、カオリン、タルク、CaCO3およびガラスフレーク);色素および顔料。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
〔樹脂組成物の調製方法〕
第1の発明群の熱可塑性樹脂組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂(A)、グラフト共重合体(GF)と、必要に応じてフッ素系樹脂(C)、難燃剤(D)、酸化防止剤(E)、各種添加剤とを、V型ブレンダーやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、この混合物を押出機またはバンバリーミキサー、加圧ニーダー、ロール等の混練機等を用いて溶融混練することにより調製できる。これらの各成分の混合はバッチ的又は連続的に実施することができ、各成分の混合順序は特に限定されない。溶融混練物はペレットにして、各種の成形に用いることができる。
<成形体>
第1の発明群の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる成形法、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法等が挙げられる。
第1の発明群の成形体は、優れた耐衝撃性、難燃性、発色性を有するので、自動車分野、OA機器分野、家電、電気・電子分野等の種々の材料として、工業的に広く利用することができる。より具体的には電子機器部品、自動車構造部材、自動車内装部品、及び光反射板として使用することができる。更に具体的には、パソコン筐体、携帯電話筐体、携帯情報端末筐体、携帯ゲーム機筐体、プリンター、複写機等の内装・外装部材として使用することができる。
<摺動性改良剤>
第2の発明群の「摺動性改良剤(H)」は、前記グラフト共重合体(GS)の粉体からなる。このグラフト共重合体(GS)は、ポリオルガノシロキサン含有量が特定範囲内に限定されており、さらにグラフト共重合体(GS)のラテックスの質量平均粒子径が特定の範囲内に限定されているため、摺動性改良剤として最適化されている。そのため、摺動性を向上させる効果が大きく、発色性(顔料着色性)および成形外観、耐衝撃強度のバランスに優れる。グラフト共重合体(GS)の製造に使用されるポリオルガノシロキサンを含むゴムは、ポリオルガノシロキサンとポリアルキルアクリレートを含む複合ゴムであることが好ましい。
<摺動部材用熱可塑性樹脂組成物>
第2の発明群の摺動性改良剤(H)は、熱可塑性樹脂(K)と混合して摺動部材用熱可塑性樹脂組成物として用いることができる。
〔熱可塑性樹脂(K)〕
熱可塑性樹脂(K)としては、熱可塑性樹脂(A)と同様のものが挙げられる。
これらの中でも、以下の樹脂またはアロイが好ましい。St系樹脂、PC系樹脂、PA樹脂、PET樹脂、PBT樹脂、(m−)PPE樹脂、POM樹脂、PU樹脂;PC/ABS等のPC系樹脂とSt系樹脂とのアロイ、PA/ABS等のPA樹脂とSt系樹脂とのアロイ、PA樹脂とTPEとのアロイ、PA/PP等のPA樹脂とポリオレフィン系樹脂とのアロイ、PC/PBT等のPC樹脂とPEs樹脂とのアロイ、PPE/PBT、PPE/PA等のPPE系樹脂同士のアロイ等。その中でも、熱可塑性樹脂(K)がPC系樹脂であることが、本発明の効果をとりわけ発揮するため、より好ましい。これらの樹脂は、1種を単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
PC系樹脂としては、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる重合体が挙げられる。PC系樹脂は直鎖状又は分岐状のいずれでもよい。また、ポリカーボネート系樹脂は単独重合体又は共重合体のいずれでもよい。
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール及び4,4−ジヒドロキシジフェニルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、芳香族ジヒドロキシ化合物としてスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
PC系樹脂として分岐したPC系樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を分岐剤で置換すればよい。分岐剤としては、例えば以下のものが挙げられる。フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物;3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(即ち、イサチンビスフェノール)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン及び5−ブロムイサチン。分岐剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
PC系樹脂としては、耐熱性や柔軟性の点で、ビスフェノールAを含む芳香族ジヒドロキシ化合物から得られるPC系樹脂が好ましい。また、PC系樹脂として、ポリカーボネートとシロキサン構造を有する重合体もしくはオリゴマーとの共重合体等のPC系樹脂を主体とする共重合体を使用することができる。PC系樹脂は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
PC系樹脂の粘度平均分子量は、16,000〜30,000が好ましく、18,000〜28,000がより好ましい。PC系樹脂の粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した値である。粘度平均分子量が30,000以下であることにより、摺動性改良剤を含む樹脂組成物の溶融流動性が良好になる傾向にあり、16,000以上であることにより、本発明の成形体の耐衝撃性が良好になる傾向にある。
PC系樹脂の分子量を調節するには、例えば、前述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部をm−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等の一価の芳香族ヒドロキシ化合物で置換すればよい。
PC系樹脂の製造方法としては、特に限定されず、公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造することができる。また、溶融法で製造され、かつ、反応時の減圧度などを調整することにより、末端のOH基量が調整された芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することもできる。
〔熱可塑性樹脂組成物〕
第2の発明群の摺動性改良剤を含む熱可塑性樹脂組成物は、上述した摺動性改良剤(H)と熱可塑性樹脂(K)を含有するものである。この熱可塑性樹脂組成物は、摺動性改良剤(H)の含有量が4〜16質量%であり、熱可塑性樹脂(K)の含有量が96〜84質量%であることが好ましい。摺動性改良剤(H)の含有量が4質量%以上であれば、摺動部材の摺動性向上効果が十分であり、16質量%以下であれば、摺動部材の発色性(顔料着色性)、成形外観が良好である。
この熱可塑性樹脂組成物は、摺動性改良剤(H)の含有量が5.1〜16質量%であり、熱可塑性樹脂(K)の含有量が94.9〜84質量%であることがより好ましい。この熱可塑性樹脂組成物は、摺動性改良剤(H)の含有量が7〜15質量%であり、熱可塑性樹脂(K)の含有量が93〜85質量%であることが特に好ましい。
前記樹脂組成物中には、本来の目的を損なわない範囲で、例えば以下の成分を含有させることができる。ガラス繊維、金属繊維、金属フレーク、炭素繊維などの補強剤や充填剤;2,6−ジ−ブチル−4−メチルフェノール、4,4´−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤;トリス(ミックスド、モノおよびジニルフェニル)ホスファイト、ジフェニル・イソデシルホスファイトなどのホスファイト系酸化防止剤;ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネートジアステリアルチオジプロピオネートなどの硫黄系酸化防止剤;2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;ビス(2,2,6,6)−テトラメチル−4−ピペリジニル)などの光安定剤;ヒドロキシルアルキルアミン、スルホン酸塩などの帯電防止剤;エチレンビスステアリルアミド、金属石鹸などの滑剤;およびテトラブロムフェノールA、デカブロモフェノールオキサイド、TBAエポキシオリゴマー、TBAポリカーボネートオリゴマー、三酸化アンチモン、TPP、リン酸エステルなどの難燃剤;ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と略す場合がある)、ビニル単量体を重合して得られた硬質重合体とフッ素樹脂を混合してなる変性フッ素樹脂(例えば、ビニル重合体等で変性されたPTFE)などのアンチドリップ剤など。
〔樹脂組成物の調製方法〕
第2の発明群の熱可塑性樹脂組成物を製造する方法は特に限定されないが、溶融混合法を用いることが好ましい。また、必要に応じて少量の溶剤を使用してもよい。
具体的には、必須成分である摺動性改良剤(H)及び熱可塑性樹脂(K)、並びに所望により任意成分を所定量配合し、先ず、例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラー等で混合する。次いで、得られた混合物をロール、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機等の通常の混練機で混練することにより調製することができる。これらはバッチ的又は連続的に運転することができ、各成分の混合順序は特に限定されない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ペレット状にすることが好ましい。
<成形体>
第2の発明群の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる成形法、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法等が挙げられる。
第2の発明群の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(GS)を含有しているため、摺動性、発色性(顔料着色性)、耐衝撃性、成形外観のバランスが優れる。この熱可塑性樹脂組成物の用途としては特に制限はなく、例えば、自動車分野、OA機器分野、家電、電気・電子分野、建材、玩具、文房具等の雑貨等の種々の材料に利用できる。特に、摺動性や発色性、耐衝撃強度のバランスに優れることより、たとえば以下の製品の摺動部材として利用できる。自動車、OA機器、電気・電子機器製品などの部品、特に事務機・動力機器の軸受け、歯車、スイッチ部品、カメラモジュール部品、すべりねじ、ギヤ、カム、プーリー、リール、ブッシュ、スペーサー、ローラー、ベアリング、ベアリングリテーナー、オーディオテープレコーダー用テープガイドメカニカルシールの端面材、バルブの弁座、Vリング、ロッドパッキン、ピストンリング、圧縮機の回転軸・回転スリーブ、ピストン、インペラー、ベーン、ローター、ガイドレール等。
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。実施例1〜14及び比較例1〜17は、第1の発明群に関する。実施例21〜29及び比較例21〜27は、第2の発明群に関する。実施例29は参考例である。
実施例に先立って、各種評価方法、並びに、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックスの製造例1〜3、5及び6、並びに、ポリテトラフルオロエチレン含有粉体の製造例4を説明する。以下の説明において「部」および「%」は、特に断らない限り「質量部」および「質量%」を意味する。
第1の発明群に関する各評価用の試験片は、樹脂組成物(またはそのペレット)を100t射出成形機(住友重機(株)製SE−100DU)にて、シリンダー温度310℃、金型温度90℃の条件で成形した。
第2の発明群に関する各評価用の試験片は、樹脂組成物(またはそのペレット)を100t射出成形機(住友重機(株)製SE−100DU)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で成形した。
<1.評価方法>
(1)グラフト率
実験的に求められるアセトン不溶分waと仕込み原料中のゴムの分率Rに基づいて、前記の式(1)によりグラフト率[%]を算出した。
(2)固形分
質量w1のポリオルガノシロキサンゴムのラテックスを180℃の熱風乾燥機で30分間乾燥し、乾燥後の残渣の質量w2を測定し、下記式により固形分[%]を算出した。
固形分[%]=w2/w1×100 ・・・(2)。
(3)質量平均粒子径及び粒子径分布(Dw/Dn)
「ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス」または「グラフト共重合体のラテックス」を脱イオン水で濃度約3%に希釈したものを試料として、米国MATEC社製CHDF2000型粒度分布計を用いてラテックスの質量平均粒子径Dw及び粒子径分布(Dw/Dn)を測定した。
測定はMATEC社が推奨する下記の標準条件で行った。
カートリッジ:粒子分離用キャピラリー式カートリッジ(商品名;C−202)、
キャリア液:専用キャリア液(商品名;2XGR500)、
キャリア液の液性:ほぼ中性、
キャリア液の流速:1.4ml/分、
キャリア液の圧力:約4,000psi(2,600kPa)、
測定温度 :35℃、
試料使用量:0.1ml。
また、標準粒子径物質としては、米国DUKE社製の粒子径既知の単分散ポリスチレンで、粒子径が40〜800nmの粒子径の範囲内の12種類の粒子を用いた。
(4)アセトン可溶分
グラフト共重合体の粉体1gをアセトン50gに溶解させ、70℃で6時間還流及び抽出操作を行なって得られた分散液を、遠心分離装置((株)日立製作所製CRG SERIES(商品名))を用いて、4℃にて14,000rpmで30分間遠心分離させた。分離されたアセトン可溶分をデカンテーションにより取り除き、アセトン不溶分を得た。
得られたアセトン不溶分を真空乾燥機にて50℃で24時間乾燥させてアセトン不溶分の質量w3を測定し、グラフト共重合体の粉体中のアセトン可溶分[%]を以下の式にて算出した。
アセトン可溶分[%]=(1−w3)×100 ・・・(3)。
(5)体積平均粒子径
以下の方法により、グラフト共重合体の体積平均粒子径を測定した。
グラフト共重合体のラテックスを脱イオン水で希釈し、レーザー回折散乱式粒度分布計(島津製 SALD−7100)を用い、体積平均におけるメジアン径を求めた。ラテックスの試料濃度は、装置に付属の散乱光強度モニターにおいて適正範囲となるよう適宜調整した。標準粒子径物質としては、粒子径既知の単分散ポリスチレンであって、粒子径が20〜800nmの範囲内の12種類の粒子を用いた。
(6)シャルピー衝撃強度
JIS K 7111に準拠して、温度23℃、及び−30℃にて、試験片(長さ80.0mm、幅10.0mm、厚み4mm、Vノッチ付き)のシャルピー衝撃強度を測定した。
(7)全光線透過率
JIS K 7375に準拠して、日本電色工業(株)製HAZE Meter NDH4000を用いて、試験片(長さ100mm、幅50mm、厚み2mm)について、D65光源における全光線透過率を測定した。
(8)発色性(顔料着色性)
JIS Z 8729(L*a*b* 表色系による物体色の表示方法)に準じて試験片(長さ100mm、幅50mm、厚み2mm)のL*を測定した。日本電色工業(株)製分光式色差計SE−2000を用いて、JISZ8722に準じた下記の測定条件にて三刺激値(XYZ)を測定した。次いでCIE色差式を用いてL*値を算出した。
装置:分光式色差計SE−2000(日本電色工業株式会社製、0−45°後分光方式)、
測定範囲:380〜780nm、
測定光源:C光(2°視野)。
(9)難燃性
1/16インチの試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚み1.6mm)について、UL−94V試験を行った。
(10)外観(目視評価)
試験片(長さ100.0mm、幅50.0mm、厚み2mm)の平板を成形し、ゲート付近のフローマーク(成形体のゲート付近に縞状に見られる模様)や表面荒れの外観評価を目視観察し、以下の基準で評価した。
++:フローマークや表面荒れが見られない。
+ :フローマークや表面荒れがやや見られるが目立たない。
− :フローマークや表面荒れがやや目立つ。
−−:フローマークや表面荒れが目立つ。
(11)外観(成形体の表面の算術平均粗さRa)
試験片(長さ100.0mm、幅50.0mm、厚み2mm)の平板を成形し、図1に示す様に、A点(ゲート付近)とB点(中心部)の位置において、接触式表面粗さ計(東京精密工業(株)製サーフコム1400D)にて、1μmR、55°の円錐ダイヤモンド針(010−2528)を用いて、駆動速度0.3mm/秒で、平板の表面粗さを測定した。測定長は4mm、カットオフ波長は0.8mm、カットオフ種別はガウシアンとした。最小二乗直線により、抽出曲線の平均線の傾斜補正を行った後、JIS B0601−2001に準拠した方法で、算術平均粗さ(Ra)を測定し、成形体の表面の平滑性の指標とした。
(12)摺動性
試験片(長さ100mm、幅50mm、厚み2mm)の平板を成形し、ピンプレート型摩擦試験機(東洋精機製作所(株)製)を用いて、取り付け荷重W[N]:30N、移動距離:20mm、移動速度:2mm/s、測定温度:23℃において摩擦力F[N]を測定し、以下の式にて「動摩擦係数」を測定した。
動摩擦係数[−] = F[N]/W[N] ・・・(4)。
(13)耐薬品性
試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚み1.5mm)を成形し、1/4楕円法により23℃で評価用薬品を試験片に塗布して、48時間静置し、試験片上の割れやヒビの位置から「臨界歪み(%)」を次式により求めた。評価用薬品として、弱アルカリ洗剤である花王(株)製マイペットを用いた。
「臨界歪み(%)」とは、成形品が一定の歪みの下で薬品と接触した場合に、その薬品に影響を受ける最低の歪みのことである。「臨界歪み(%)」の数字が高いほど耐薬品性は良好と言える。
A:治具の長軸(12cm)、
B:治具の短軸(4cm)、
t:試験片の厚み(0.15cm)、
X:クラックの端点と楕円中心までの長軸方向の距離[cm]。
(14)黒味感
試験片(長さ100mm、幅50mm、厚み2mm)を目視で観察し、以下の基準にて判定を行った。
○:黒色、
×:灰色。
<製造例>
[製造例1]ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S−1)の製造:
テトラエトキシシラン(TEOS)2部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン(DSMA)2部及び、オクタメチルシクロテトラシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(株)製、製品名:TSF404)96部を混合してオルガノシロキサン混合物100部を得た。脱イオン水150部中にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBSNa)1部を溶解した水溶液を、前記混合物中に添加し、ホモミキサーにて10,000rpmで5分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合エマルションを得た。
次いで、冷却コンデンサーを備えた容量5リットルのセパラブルフラスコ内に、上記エマルションを入れた後、該エマルションを温度80℃に加熱し、次いで硫酸0.20部と脱イオン水49.8部との混合物を3分間にわたり連続的に投入した。温度80℃に加熱した状態を6時間維持して重合反応させた後、室温(25℃)に冷却し、得られた反応液を室温で6時間保持した。その後、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応液をpH7.0に中和して、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S−1)を得た。このラテックスの評価結果を表1に示す。
[製造例2]ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S−2)の製造:
TEOSを2部、DSMAを0.5部及び、環状オルガノシロキサン混合物(信越シリコーン(株)製、製品名:DMC、3〜6員環の環状オルガノシロキサンの混合物)を97.5部混合してオルガノシロキサン混合物100部を得た。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBSNa)及びドデシルベンゼンスルホン酸(DBSH)それぞれ0.68部を脱イオン水200部中に溶解した水溶液を、前記混合物中に添加し、ホモミキサーにて10,000rpmで2分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合エマルションを得た。
次いで、冷却コンデンサーを備えた容量5リットルのセパラブルフラスコ内に、上記エマルションを入れた後、該エマルションを温度85℃に加熱し、この温度を6時間維持して重合反応させた後、室温(25℃)に冷却し、得られた反応物を室温で12時間保持した。その後、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応液をpH7.0に中和して、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S−2)を得た。このラテックスの評価結果を表1に示す。
[製造例3]ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S−3)の製造:
TEOSを2部、DSMAを0.5部及び、TSF404を97.5部、混合してオルガノシロキサン混合物100部を得た。脱イオン水170部中にDBSNaを1部溶解した水溶液を、前記混合物中に添加し、ホモミキサーにて10,000rpmで5分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合エマルションを得た。
次いで、冷却コンデンサーを備えた容量5リットルのセパラブルフラスコ内に、上記エマルションを入れた後、該エマルションを温度80℃に加熱し、次いで硫酸0.20部と脱イオン水14.7部との混合物を3分間にわたり連続的に投入した。温度80℃に加熱した状態を6時間維持して重合反応させた後、室温(25℃)に冷却し、得られた反応液を室温で6時間保持した。その後、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応液をpH7.0に中和して、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S−3)を得た。このラテックスの評価結果を表1に示す。
[製造例4]ポリテトラフルオロエチレン含有粉体(J−1)の製造:
乳化剤としてのアルケニルコハク酸ジカリウム6.0部、及び脱イオン水230部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えた容量2リットルのセパラブルフラスコ内に仕込み、窒素気流下に室温で30分間攪拌した。尚、前記アルケニルコハク酸ジカリウムは、予め、前記脱イオン水の一部に溶解させた状態で使用した。
次いで、該フラスコ内の液体の温度を70℃まで昇温し、過硫酸カリウム0.2部を脱イオン水3部に溶解した水溶液をフラスコ内に添加した。さらに、メチルメタクリレート(MMA)50部、スチレン(St)30部、n−ブチルアクリレート(n−BA)20部、n−オクチルメルカプタン0.1部からなる混合物を4時間かけて該フラスコ内に滴下し、ラジカル重合を行った。滴下終了後、該フラスコ内の液体の温度を70℃に保ちながら1時間攪拌し、ビニル重合体(p2)を含有するラテックス(p2−1)を得た。このラテックス中のビニル重合体(p2)の含有量は30%であった。
攪拌装置を備えた容量5リットルの反応器内に、前記ラテックス(p2−1)166.7部、及び、PTFE系重合体(p1)を含有するラテックスである「フルオンAD939E」(旭硝子(株)製、PTFEの濃度60%、PTFEの質量平均分子量約1500万、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの濃度3%)83.3部を仕込み、5分間攪拌して、ラテックス(j−1)を得た。このラテックス中にはPTFEが50部、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが2.5部、前記ビニル重合体(p2)が50部、含まれていた。
次いで、凝析剤としての酢酸カルシウム5.0部を含有する酢酸カルシウム水溶液325部を容量10リットルのフラスコ内に仕込んだ。この水溶液を、温度80℃に加熱して、攪拌しながら、この水溶液中に前記ラテックス(j−1)を徐々に滴下して、ポリマーを凝析させてスラリーを得た。その後、このスラリーの温度を90℃まで上昇させた後、5分間攪拌を続けた。次いで、得られた析出物をスラリーから分離して、濾過し、水洗し、乾燥して、ポリテトラフルオロエチレン含有粉体(J−1)100部を得た。
[製造例5]ポリオルガノシロキサンのラテックス(S−4)の製造:
テトラエトキシシラン(TEOS)2部、γ−メタクリロイロキシプロピルジメトキシメチルシラン(DSMA)0.5部及びオクタメチルシクロテトラシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、製品名:TSF−404)97.5部を混合して、シロキサン系混合物100部を得た。これにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBSNa)1.0部を溶解した脱イオン水150部を添加し、ホモミキサーにて10000rpm で5分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合オルガノシロキサンエマルションを得た。
冷却コンデンサーを備えた容量5リットルのセパラブルフラスコ内に、上記エマルションを入れ、硫酸0.20部と脱イオン水49.8部との混合物を3分間にわたり投入した。この水溶液を80℃に加熱した状態で、7時間維持し、室温(25℃)に冷却した。次いでこの反応物を室温で6時間保持した後、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.0に中和して、ポリオルガノシロキサンのラテックス(S−4)を得た。このラテックスの評価結果を表1に示す。
[製造例6]ポリオルガノシロキサンのラテックス(S−5)の製造:
TEOSを2部、DSMAを0.5部及び環状オルガノシロキサン混合物(信越化学工業(株)製、製品名:DMC)を97.5部、混合してオルガノシロキサン混合物100部を得た。これにDBSNaを0.68部溶解した脱イオン水300部を添加し、ホモミキサーにて10,000rpmで2分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合エマルションを得た。一方、冷却コンデンサーを備えた容量5リットルのセパラブルフラスコ内に、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSH)10部と脱イオン水90部とを注入し、水溶液を調製した。
90℃に加熱したこの水溶液中に、上記予備混合エマルションを4時間かけて滴下し、滴下終了後2時間その温度を維持し、室温(25℃)に冷却した。次いでこの反応物を室温に12時間維持した後、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.0に中和して、ポリオルガノシロキサンのラテックス(S−5)を得た。このラテックスの評価結果を表1に示す。
[実施例1]
製造例1において得たポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S−1)をポリマー換算で79.7部、容量5リットルのセパラブルフラスコ内に採取し、脱イオン水46部を添加し混合した。次いでこのセパラブルフラスコ内に、n−ブチルアクリレート(n−BA)10.0部、アリルメタクリレート(AMA)0.3部、クメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.04部の混合物を添加した。
このセパラブルフラスコ内に窒素気流を通じることによりフラスコ内雰囲気の窒素置換を行い、液温を50℃まで昇温した。液温が50℃となった時点で硫酸第一鉄(Fe)0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(EDTA)0.003部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.18部を脱イオン水4.2部に溶解させた水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。アクリレート成分の重合を完結させるため、液温70℃の状態を1時間維持し、ポリオルガノシロキサンとポリn−ブチルアクリレートとの複合ゴムのラテックスを得た。
上記複合ゴムのラテックスの温度を70℃に維持した状態で、MMAを9.5部、n−BAを0.5部、tert−ブチルハイドロパーオキサイド(t−BH)を0.03部の混合液を1.0時間にわたって、このラテックス中に滴下して重合した。滴下終了後、液温を70℃に1時間維持したのち25℃に冷却して、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(G−1)のラテックスを得た。グラフト共重合体(G−1)の体積平均粒子径を表2に示す。
次いで、酢酸カルシウムの濃度が1質量%の水溶液500部を、温度40℃に維持して、攪拌しながら、この中にグラフト共重合体(G−1)のラテックス300部を徐々に滴下し凝固した。得られたグラフト共重合体を濾過、脱水した。更に、グラフト共重合体100部に対して10倍量の水を加えた後、攪拌機の付いたフラスコ内にて10分間洗浄を行い、濾過、脱水した。この操作を2回繰り返した後、乾燥させてグラフト共重合体(G−1)の粉体を得た。グラフト共重合体(G−1)のグラフト率及び体積平均粒子径を表2に示す。
[実施例2及び3、比較例1〜3及び5]
実施例1において用いた各原料の種類及び量を表2に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(G−2、G−3、G’−1、G’−2,G’−3、及びG’−5)を製造し、更にその粉体を得た。得られた各グラフト共重合体のグラフト率及び体積平均粒子径を表2に示す。
[実施例4]
製造例1において得たポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(S−1)をポリマー換算で90部、容量5リットルのセパラブルフラスコ内に採取し、脱イオン水46部を添加混合した。次いでこのセパラブルフラスコ内に、AMAを0.5部、CHPを0.07部の混合物を添加した。このセパラブルフラスコ内に窒素気流を通じることによりフラスコ内雰囲気の窒素置換を行い、液温を50℃まで昇温した。液温が50℃となった時点で、硫酸第一鉄(Fe)を0.001部、EDTAを0.003部、SFSを0.18部、脱イオン水4.2部に溶解させた水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。アリルメタクリレート成分の重合を完結させるため、液温70℃の状態を1時間維持した。このようにして、第1段目のグラフト重合を行った。その後、MMAを9部、n−BAを0.5部、CHPを0.1部の混合液を1.0時間にわたって滴下し重合した。このようにして、第2段目のグラフト重合を行った。次いで、液温70℃の状態を1時間維持した後、25℃に冷却し、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(G−4)のラテックスを得た。グラフト共重合体(G−4)のグラフト率及び体積平均粒子径を表2に示す。その後は、実施例1と同様にして、グラフト共重合体(G−4)の粉体を得た。
[実施例5]
実施例4において用いた各原料の種類及び量を表2に示す条件に変更したこと以外は実施例4と同様にして、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(G−5)を製造し、更にその粉体を得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率及び体積平均粒子径を表2に示す。
[比較例4]
実施例1において用いた各原料の種類及び量を表2に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリオルガノシロキサンとn−ブチルアクリレートとの複合ゴムのラテックスを得た。
上記複合ゴムのラテックスの温度を65℃に維持した状態で、AMAを5.0部、CHPを0.3部の混合液を投入し、重合した。このようにして、第1段目のグラフト重合を行った。投入後、液温を65℃に1時間維持した後、フェニルメタクリレート(PhMA)を15.0部、CHPを0.2部の混合液を10分間にわたって滴下し重合した。このようにして、第2段目のグラフト重合を行った。次いで液温65℃の状態を1時間維持した後、25℃に冷却し、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(G’−4)のラテックスを得た。グラフト共重合体(G’−4)のグラフト率及び体積平均粒子径を表2に示す。
その後は、実施例1と同様にして、グラフト共重合体(G’−4)の粉体を得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率及び体積平均粒子径を表2に示す。
[実施例6〜12、比較例6〜15]
実施例1、実施例3、実施例4、実施例5または比較例1〜5で得たグラフト共重合体(G−1、G−3、G−4、G−5、G’−1〜G’−5)の粉体、有機スルホン酸金属塩(DIC(株)製、商品名:メガファックF−114)、滴下防止剤として製造例3で得たポリテトラフルオロエチレン含有粉体J−1、及びポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名;ユーピロンS−2000F、粘度平均分子量22,000)さらにフェノール系酸化防止剤(チバ・ジャパン(株)製、商品名:イルガノックス245)、リン系酸化防止剤((株)ADEKA製、商品名:アデカスタブPEP36)を、表3または表4に記載の量で配合した。該配合物を、シリンダー内径30mmの二軸押出機(L/D=30)を用いてシリンダー温度280℃及びスクリュー回転数150rpmで溶融混合してポリカーボネート系樹脂組成物を得た。次いで、このポリカーボネート系樹脂組成物をペレットに賦形した。
得られたペレットを80℃で12時間乾燥した後、100t射出成形機(住友重機(株)製、商品名;SE−100DU)に供給し、シリンダー温度280℃及び金型温度90℃で射出成形し、各試験片を得た。次いで、各試験片を用いて、シャルピー衝撃強度の測定、全光線透過率の測定、及びUL−94V試験を行い、表3または表4に示す評価結果を得た。
[実施例13、14、比較例16、17]
実施例1、実施例2または比較例1で得たグラフト共重合体(G−1、G−2、G’−1)の粉体、芳香族リン酸エステル系難燃剤(大八化学工業(株)製、商品名:PX−200)、滴下防止剤としてポリテトラフルオロエチレン含有粉体J−2(三菱レイヨン(株)製、商品名:メタブレンA−3800)、及びポリカーボネート樹脂(ユーピロンS−2000F)を表5に記載の量で配合した。これら以外は実施例6と同様にしてポリカーボネート系樹脂組成物及び各試験片を得た。評価結果を表5に示す。
〔第1の発明群の樹脂組成物の性能比較〕
グラフト共重合体(G−1)を1.0部配合した実施例6の樹脂組成物は、比較例6の樹脂組成物に比べ、難燃性、耐衝撃性及び全光線透過率に優れることが分かった。また、グラフト共重合体(G−1)を3.1部配合した実施例7の樹脂組成物は、比較例7の樹脂組成物に比べ、難燃性、耐衝撃性及び全光線透過率に優れることが分かった。グラフト共重合体(G−1)、(G−3)、(G−4)、または(G−5)を5.3部配合した実施例8〜11の樹脂組成物は、比較例8〜11の樹脂組成物に比べ、難燃性、耐衝撃性、全光線透過率及び外観のバランスに優れることが分かった。比較例8の樹脂組成物は、グラフト共重合体(G’−1)の体積平均粒子径が300nmより小さく、ポリオルガノシロキサン(B1)中のビニル系重合性基含有シラン化合物に由来する成分の含有量が1質量%より少ないため、難燃性、全光線透過率、及びゲート付近の外観が低位であった。
比較例9の樹脂組成物は、グラフト共重合体(G’−2)のポリオルガノシロキサンの含有量が70質量%より少ないため、難燃性が低位であった。比較例10の樹脂組成物は、グラフト共重合体(G’−3)のグラフト率が10質量%超であり、かつ多官能性ビニル単量体の使用量が0質量%であり、かつポリアルキルアクリレート(B2)を含んでいないため、難燃性、低温耐衝撃強度及びゲート付近の外観が低位であった。比較例11の樹脂組成物は、グラフト共重合体(G’−5)のポリオルガノシロキサン(B1)中のビニル系重合性基含有シラン化合物に由来する成分の含有量が1質量%より少ないため、難燃性、低温耐衝撃強度、全光線透過率、ゲート付近の外観が低位であった。比較例12の樹脂組成物は、グラフト共重合体を含んでいないため、耐衝撃強度が低位であった。
グラフト共重合体(G−1)を10.0部配合した実施例12の樹脂組成物は、比較例13〜15の樹脂組成物に比べ、難燃性、耐衝撃強度、全光線透過率、摺動性及び耐薬品性のバランスに優れることが分かった。比較例13の樹脂組成物は、グラフト共重合体(G’−2)中のポリオルガノシロキサンの含有量が70質量%より少ないため、難燃性及び摺動性が低位であった。比較例14の樹脂組成物は、グラフト共重合体(G’−4)のアセトン可溶分が5質量%未満であり、グラフト率が10質量%超のため、難燃性、摺動性、及び耐薬品性が低位であった。比較例15の樹脂組成物は、グラフト共重合体を含んでいないため、低温耐衝撃強度、摺動性、及び耐薬品性が低位であった。
難燃剤にリン系を用いた場合でも、実施例13及び14の樹脂組成物は、比較例16の樹脂組成物に比べ、難燃性及び低温耐衝撃性に優れることが分かった。比較例16の樹脂組成物は、グラフト共重合体(G’−1)の体積平均粒子径が300nmより小さく、ポリオルガノシロキサン(B1)中のビニル系重合性基含有シラン化合物に由来する成分の含有量が1質量%より少ないため、難燃性及び低温耐衝撃強度が低位であった。また、比較例17の樹脂組成物は、グラフト共重合体を含んでいないため、難燃性及び低温耐衝撃強度が低位であった。
以下は、第2の発明群の実施例である。
[実施例21]
冷却管、窒素導入管、温度計及び攪拌装置を備えた容量5リットルのセパラブルフラスコ内に、製造例5で得られたポリオルガノシロキサンのラテックス(S−4)272.1部(ポリオルガノシロキサンとして80部)を投入した。更に、脱イオン水50部を添加混合した後、ブチルアクリレート(n−BA)10.0部、アリルメタクリレート(AMA)0.18部、クメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.04部の混合物を添加した。
セパラブルフラスコに窒素気流を通じることによって、フラスコ内の窒素置換を行ない、60℃まで昇温した。液温を60℃とし、硫酸第一鉄(Fe)0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(EDTA)0.003部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.3部、脱イオン水2.5部からなる水溶液を添加し、その後、液温70℃の状態を1時間保持し、複合ゴムのラテックスを得た。
上記複合ゴムのラテックスの温度を70℃に維持した状態で、メチルメタクリレート(MMA)9.5部、ブチルアクリレート(n−BA)0.5部、t−ブチルハイドロパーオキサイド(t−BH)0.05部の混合物を60分間かけて、滴下して重合した。
滴下終了後、液温70℃の状態を1時間維持した後に25℃に冷却し、グラフト共重合体(G−21)のラテックスを得た。このラテックス中のグラフト共重合体の質量平均粒子径Dw、及び粒子径分布Dw/Dnの測定結果を表6に示す。
次いで塩化カルシウムの濃度が5.0質量%の水溶液500部を、温度60℃に加熱し攪拌した。この中へ前記ラテックス340部を徐々に滴下し凝固した。得られたグラフト共重合体を濾過、脱水した。更に、グラフト共重合体100部に対して10倍量の水を加えた後、攪拌機の付いたフラスコ内にて10分間洗浄を行い、濾過、脱水した。この操作を2回繰り返した後、乾燥させてグラフト共重合体(G−21)の粉体を得た。グラフト共重合体(G−21)の粉体は摺動性改良剤として用いることができる。
[実施例22]
実施例21で得られたグラフト共重合体(G−21)3部、PC樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、ユーピロンS−2000F)97部、カーボンブラック(三菱化学(株)製、#960B)をハンドブレンドした。得られた樹脂組成物を、30mmφ二軸押出機(L/D=30)を用いてシリンダー温度280℃及びスクリュー回転数150rpmで溶融混合してペレットに賦形した。
得られたペレットを80℃で12時間乾燥した後、100t射出成形機(住友重機械工業(株)製、製品名;SE−100DU)に供給し、シリンダー温度280℃及び金型温度80℃で射出成形を行なった。JIS K7152に準じてファミリー金型を用い、シャルピー衝撃強度(長さ80.0mm、幅10.0mm、厚み4mm、Vノッチ付き)、摺動性、発色性(縦100mm、横50mm、厚み2mm)の評価用の各試験片を得た。ペレット及び各試験片を用いた各種評価結果を表7に示す。
[実施例23及び24]
グラフト共重合体(G−21)及び、PC樹脂の使用量を変更したこと以外は実施例22と同様にして熱可塑性樹脂組成物、ペレット及び試験片を得た。各種評価結果を表7に示す。
[実施例25]
表6に示す組成に変更したこと以外は実施例21と同様にして重合を行い、グラフト共重合体(G−25)を得た。このグラフト共重合体の評価結果を表6に示す。
[実施例26〜29]
グラフト共重合体(G−25)及びPC樹脂の使用量を表7に示す値にしたこと以外は実施例21と同様にして熱可塑性樹脂組成物、ペレット及び試験片を得た。各種評価結果を表7に示す。
[比較例21]
グラフト重合を行う際の原料を、表6に示す組成にしたこと以外は実施例21と同様にしてグラフト重合を行い、グラフト共重合体(G’−21)を得た。このグラフト共重合体の評価結果を表6に示す。
[比較例22及び23]
グラフト共重合体(G’−21)及び、PC樹脂の使用量を表7に示す値にしたこと以外は実施例21と同様にして熱可塑性樹脂組成物、ペレット及び試験片を得た。各種評価結果を表7に示す。
[比較例24]
グラフト重合を行う際の原料を、表6に示す組成にしたこと以外は実施例21と同様に重合を行い、グラフト共重合体(G’−24)を得た。このグラフト共重合体の評価結果を表6に示す。
[比較例25〜27]
グラフト共重合体(G’−24)及び、PC樹脂の使用量を表7に示す値にしたこと以外は実施例21と同様にして熱可塑性樹脂組成物、ペレット及び試験片を得た。各種評価結果を表7に示す。
〔第2の発明群の樹脂組成物の性能比較〕
実施例22〜24及び26〜29から明らかなように、本発明の摺動性改良剤を用いた熱可塑性樹脂組成物は、摺動性に優れており、さらに発色性、およびシャルピー衝撃強度、成形外観も良好な結果が得られた。
一方、比較例22及び23の熱可塑性樹脂組成物は、用いた摺動性改良剤中のポリオルガノシロキサン含有量が少ないため、摺動性および低温下におけるシャルピー衝撃強度が低かった。比較例25及び26の熱可塑性樹脂組成物では、用いた摺動性改良剤の質量平均粒子径が小さいため、発色性が低位であり、さらに成形の際にゲート付近にフローマークが出やすく成形外観が悪かった。比較例27の熱可塑性樹脂では、摺動性改良剤を用いていないため、摺動性が低位であり、さらに低温下でのシャルピー衝撃強度も著しく悪かった。