以下、図面及び表を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
本明細書において、圧力室内のインクを加圧する圧力発生素子として、圧電素子を用いる場合について説明する。
〈第1の実施の形態〉
<インクジェット記録装置>
図1は、本実施の形態に係るオンデマンド方式におけるライン走査型のインクジェット記録装置の一例を示す概略構成図である。
図1に示すように、インクジェット記録装置100は、記録媒体供給部111と記録媒体回収部112との間に配置され、記録手段101、記録手段101に対向して設けられるプラテン102、乾燥手段103、維持・回復手段114、記録媒体搬送装置、等を含む。
連続する記録媒体(ロール紙、連続紙、等とも称される)113は、記録媒体供給部111から高速で繰り出され、記録媒体回収部112により巻き取り回収される。
記録手段101は、ノズル(印字ノズル)が印刷幅全域に配置されるライン状のインクジェット記録ヘッドを有する。カラー印刷は、クロ、シアン、マゼンダ、イエローの各色のインクジェット記録ヘッドにより行われる。各インクジェット記録ヘッドのノズル面は、プラテン102上に、所定の隙間を保って支持されている。記録手段101は、記録媒体搬送装置の搬送速度に同期してインク液滴の吐出を行うことで、記録媒体113の印刷面に、カラー画像を形成する。乾燥手段103は、記録媒体113に印刷されたインクが、他の部分へ付着することを防止するために、インクの乾燥・定着を行う。乾燥手段103としては、非接触式の乾燥装置を用いても良いし、接触式の乾燥装置を用いても良い。
維持・回復手段114は、インクジェット記録装置100に搭載されるインクジェット記録ヘッドモジュールに、適切な維持・回復動作を施し、インクジェット記録ヘッドの吐出性能を回復させる。
記録媒体搬送装置は、記録媒体供給部111から供給される記録媒体113の幅方向の位置決めを行う規制ガイド104、従動ローラ及び駆動ローラで構成され、記録媒体113の張力を一定に保つインフィード部105、記録媒体113の張力に応じて上下し、位置信号を出力するダンサローラ106、記録媒体113の蛇行を制御するEPC(Edge Position Control)107、蛇行量のフィードバックに使用される蛇行量検出器108、従動ローラ及び駆動ローラで構成され、記録媒体113を設定速度で搬送するために一定速度で回転するアウトフィード部109、従動ローラ及び駆動ローラで構成され、記録媒体113を装置外に排紙するプラー110、等を含む。記録媒体搬送装置は、ダンサローラ106の位置検出を行い、インフィード部105の回転を制御することで、搬送中の記録媒体113の張力を一定に保つ、張力制御型の搬送装置である。
ライン走査型のインクジェット記録装置100は、スターフラッシング動作、ラインフラッシング動作(例えば、A4用紙境界での空吐出動作)を行うことで、増粘インクを排出する。スターフラッシング動作は、低湿環境、印字デューティの小さい画像では、捨て打ち効果が十分に得られ難いというデメリットがある一方、損紙が発生しないというメリットがある。ラインフラッシング動作は、インク液滴を吐出させた領域を、後に切断する必要があるため、損紙が発生するというデメリットがある一方、強力な捨て打ちができるというメリットがある。
<インクジェット記録ヘッドモジュール>
図2は、インクジェット記録装置100に搭載されるインクジェット記録ヘッドモジュールの一例を示す概略側面図である。
図2に示すように、インクジェット記録ヘッドモジュール(液滴吐出装置)200は、駆動制御基板210、インクジェット記録ヘッド220、ケーブル230、等を含む。
駆動制御基板210には、制御部211、駆動波形生成部212、記憶手段213、等が搭載される。駆動制御基板210(例えば、駆動波形生成部212を構成する何れかの素子)は、故障時、メンテナンス時、等に、適宜交換される。インクジェット記録ヘッド220は、ヘッド基板221、残留振動検知基板222、ヘッド駆動IC基板223、インクタンク224、剛性プレート225、等を含む。ケーブル230は、駆動制御基板側コネクタ231及びヘッド側コネクタ232と接続され、駆動制御基板210とヘッド基板221との間のアナログ信号通信、デジタル信号通信を担う。
ライン走査型のインクジェット記録装置100において、1又は複数のインクジェット記録ヘッド220は、記録媒体113の搬送方向に対して垂直な方向に配置される。ライン走査型のインクジェット記録ヘッド220から記録媒体113へとインク液滴を吐出させることで、高速な画像形成が可能となる。なお、本実施の形態に係る液滴吐出装置は、1又は複数のインクジェット記録ヘッドを、記録媒体113の搬送方向に対して垂直な方向へ移動させて画像を形成するシリアル走査型のインクジェット記録装置、等にも適用可能である。
ここで、ヘッドの吐出特性について説明する。故障時、メンテナンス時、等において、駆動制御基板を交換する際、基板内部品の特性ばらつき、パターン幅のばらつき、基板の製造メーカ変更、等に伴って、圧電素子に印加する駆動電圧がばらつくことがある。この結果、インクの吐出速度がノズル毎に変動し、各ノズルから吐出するインク液滴の吐出特性が、基板交換後に悪化する問題がある。従って、液滴吐出装置において、インクの消費を極力少なくしつつ、駆動制御基板の交換前後(例えば、駆動波形生成部交換前と駆動波形生成部交換後)に生じる吐出特性の変動を、できるだけ抑えることが望まれる。
詳細は後述するが、本実施の形態に係る液滴吐出装置は、圧電素子に、ノズルからインクを吐出させない程度の駆動電圧を印加し、該圧電素子に発生する残留振動を検知する。そして、該装置は、基板交換前における残留振動検知部の出力(基準出力)と、基板交換後における残留振動検知部の出力との差分に基づいて、基板交換後の駆動波形信号(駆動波形データ)を補正する。これにより、該装置は、インクを消費すること無く、駆動制御基板の交換前後に生じる吐出特性の変動を抑え、高画質な画像を得ることができる。
図3は、インクジェット記録装置100に搭載される記録手段101におけるヘッド部の一例を示す拡大平面図である。
記録手段101は、クロ用ヘッドアレー101K、シアン用ヘッドアレー101C、マゼンダ用ヘッドアレー101M、イエロー用ヘッドアレー101Yを含み、各色のヘッドアレーは、複数のインクジェット記録ヘッド220を含む。クロ用ヘッドアレー101Kは、クロのインク液滴を吐出し、シアン用ヘッドアレー101Cは、シアンのインク液滴を吐出し、マゼンダ用ヘッドアレー101Mは、マゼンダのインク液滴を吐出し、イエロー用ヘッドアレー101Yは、イエローのインク液滴を吐出する。
各色のヘッドアレー(101K、101C、101M、101Y)は、記録媒体113の搬送方向に対して平行な方向に配置される。複数のインクジェット記録ヘッド220は、記録媒体113の搬送方向に対して垂直な方向に配置される。複数のインクジェット記録ヘッドをアレー化することにより、印刷領域の幅を広域化できる。
図4は、ヘッド部におけるインクジェット記録ヘッド220の拡大底面図である。
インクジェット記録ヘッド220は、複数のノズル20を含み、複数のノズル20は、記録媒体113の搬送方向に対して垂直な方向に、千鳥状に配置される。複数のノズルを千鳥状に配置することにより、印刷領域を高解像度化できる。
なお、本実施の形態では、インクジェット記録ヘッド220を、1列につき4個配置し、ノズル20を、1列につき32個、且つ2列の千鳥状に配置する構成を一例として示すが、列の数、各列に配置される個数は、特に限定されるものではない。
<インクジェット記録ヘッド>
図5は、インクジェット記録装置100に搭載されるインクジェット記録ヘッド220の一例を示す斜視図である。
図5に示すように、インクジェット記録ヘッド220は、ノズルプレート21、圧力室プレート22、リストリクタプレート23、ダイアフラムプレート24、剛性プレート225、圧電素子群26、等を含む。圧電素子群26は、支持部材34、複数の圧電素子35、圧電素子接続基板36、圧電素子駆動IC37、等を含む。
ノズルプレート21には、複数のノズル20が形成され、圧力室プレート22には、各ノズル20に対応する圧力室27が形成される。リストリクタプレート23には、圧力室27と共通インク流路28とを連通し、圧力室27へのインク流量を制御するリストリクタ29が形成され、ダイアフラムプレート24には、振動板(弾性壁)30及びフィルタ31が形成される。これらのプレートが、順次重ねられ、位置決めされて接合されることにより流路板が形成される。流路板は、剛性プレート225と接合され、フィルタ31と共通インク流路28の開口部32とが対向し、圧電素子群26は、開口部32に挿入される。インク導入パイプ33の上側開口端は、共通インク流路28に接続され、インク導入パイプ33の下側開口端は、インクを充填したヘッドタンクに接続される。
支持部材34の表面には、複数の圧電素子35が形成され、圧電素子35の自由端は、振動板30に接着固定される。圧電素子接続基板36の表面には、圧電素子駆動IC37が形成され、圧電素子35と圧電素子接続基板36とは電気的に接続される。圧電素子35は、駆動波形生成部により生成される駆動波形(例えば、駆動電圧波形)に基づいて、圧電素子駆動IC37により制御される。圧電素子駆動IC37は、上位コントローラから伝送される画像データ、制御部211から出力されるタイミング信号、等に基づいて、制御される。
なお、図5では、図面の簡略化のため、ノズル20、圧力室27、リストリクタ29、圧電素子35、等を実際より少ない個数で図示している。
<残留振動の検知>
図6乃至図15を用いて、本実施の形態に係る液滴吐出装置における残留振動検知の一例について説明する。
図6は、インクジェット記録ヘッド220における圧力室内のインクに発生する残留振動を示す動作概念図である。図6(A)はインク液滴吐出中、図6(B)はインク液滴吐出後であり、両図により圧力室内に発生する圧力変化が模式的に示されている。
図7は、駆動波形印加期間及び残留振動波形発生期間の一例を示す概略図である。横軸は時間[s]、縦軸は電圧[V]を示す。駆動波形印加期間は、図6(A)に対応し、残留振動波形発生期間は、図6(B)に対応する。
図6(A)に示すように、圧電素子35(具体的には、圧電素子接続基板36の電極)に、駆動波形生成部212より生成される駆動波形が印加されると、圧電素子35は、伸縮する。圧電素子35から、振動板30を介して、圧力室27内のインクへと伸縮力が働き、圧力室27内に圧力変化が生じることで、ノズル20からインク液滴が吐出する。例えば、駆動波形の立ち下げ動作により、圧力室27内の圧力は低くなり、駆動波形の立ち上げ動作により、圧力室27内の圧力は高くなる(図7に示す駆動波形印加期間参照)。
図6(B)に示すように、圧電素子35に、駆動波形が印加された後(インク液滴吐出後)、圧力室27内のインクには、残留圧力振動が発生し、圧力室27内のインクから、振動板30を介して、圧電素子35へと残留圧力波が伝播する。残留圧力波の残留振動波形は、減衰振動波形となる(図7に示す残留振動波形発生期間参照)。この結果、圧電素子35(具体的には、圧電素子接続基板36の電極)に、残留振動電圧が誘起される。残留振動検知部は、残留振動電圧を検知し、検知結果(例えば、ピーク値で固定された残留振動波形の振幅値をAD変換したデジタル信号)を残留振動検知部の出力として、制御部211へと出力する。
このように、本実施の形態に係る液滴吐出装置において、残留振動検知部は、圧電素子の伸縮に基づいて残留振動を検知し、制御部は、駆動制御基板交換前後における残留振動検知部の出力差分に基づいて、駆動波形データを補正する。これにより、本実施の形態に係る液滴吐出装置は、基板交換前後に生じる駆動波形(例えば、駆動電圧波形)のばらつきを抑制し、各ノズルの吐出特性を適正に保つことができる。
次に、図8及び図11を用いて、残留振動波形の振幅値から減衰振動の減衰比を算出する過程と、吐出異常の有無を判定するための残留振動波形の振幅値について、説明する。
減衰振動の理論式は、xを時刻に対する減衰振動変位、x0を初期変位、ζを減衰比、ω0を固有振動周波数、ωdを減衰系の固有振動周波数、v0を初期変化量、tを時刻として、数1で表せる。
対数減衰率δは、a
nをn番目の振幅値、a
n+mをn+m番目の振幅値として、数3で表せる。対数減衰率δは、減衰比ζを算出する為に必要なパラメータである。
図8において、Tは1周期、mTはm周期、a
nはn番目の振幅値、a
n+1はn+1番目の振幅値、a
n+2はn+2番目の振幅値、a
n+mはn+m番目の振幅値である(但し、n、mは自然数)。
対数減衰率δは、振幅変化の割合を対数化し、mで除することにより、1周期分あたりで平均化した値であるため、減衰比ζは、対数減衰率δを用いて、数4で表せる。
減衰比ζは、複数周期分の振幅値の減衰率を、1周期分で平均化した情報を有する。
従って、数1〜数4より、減衰振動の減衰比ζを算出する為には、対数減衰率δを求めれば良く、対数減衰率δを求める為には、少なくとも2箇所の残留振動波形の振幅値を認識すれば足りることがわかる。
ここで、図9を用いて、駆動制御基板210の交換前後における残留振動波形について説明する。図9は、駆動波形印加期間及び残留振動波形発生期間の一例を示す概略図である。横軸は時間[s]、縦軸は電圧[V]を示す。駆動波形印加期間は、図6(A)に対応し、残留振動波形発生期間は、図6(B)に対応する。
図9に示す実線は、基準となる基板(交換前の基板)を用いた場合の残留振動波形であり、図9に示す点線は、部品ばらつきのある基板(交換後の基板)を用いた場合の残留振動波形である。
部品ばらつきのある基板を用いた場合の残留振動波形(点線)は、基準となる基板を用いた場合の残留振動波形(実線)と比較して、第1半波の振幅値が大きく、第2半波の振幅値、第3半波の振幅値が小さい。即ち、点線の減衰比は、実線の減衰比と比較して、大きい。又、点線と実線とでは、位相がずれる。
制御部211は、駆動制御基板210の交換前後において、残留振動波形(例えば、減衰振動の減衰比)が変動すれば、吐出特性に変動が生じていると判断することができる。従って、制御部211は、基板交換前に記憶手段213に予め記憶される残留振動検知部の基準出力と、基板交換後の残留振動検知部の出力との差分に基づいて、駆動波形データを補正することで、駆動制御基板の交換前後に生じる吐出特性の変動を抑えることができる。
図10は、パルス幅とインク液滴の吐出速度との関係を示す概略図である。即ち、駆動波形生成部212により生成される駆動波形(例えば、駆動電圧波形)のパルス幅(=Pw)のみを変えた場合における、インク液滴の吐出速度(=Vj)を示す概略図である。横軸はパルス幅Pw[μs]、縦軸は吐出速度Vj[m/s]を示す。
パルス幅が、Pw1(=第1ピーク)となると、インク液滴の吐出速度は、最も速くなる。パルス幅が、Pw1より長くなり、Pwxとなると、インク液滴の吐出速度は、ゼロ(インク液滴が吐出しない)、又は略ゼロ(インク液滴の吐出が極端に遅い)となる。パルス幅が、Pwxより長くなり、Pw2(=第2ピーク)となると、インク液滴の吐出速度は、再び速くなる。但し、パルス幅が第2ピークとなる瞬間のインク液滴の吐出速度は、パルス幅が第1ピークとなる瞬間となる瞬間のインク液滴の吐出速度と比較して、遅くなる。
インクジェット記録ヘッド220には、固有周期(=Tc)と呼ばれる共振周期が存在し、例えば、パルス幅が第1ピークとなる瞬間からパルス幅が第2ピークとなる瞬間までの期間を指す。固有周期には、インク液滴がノズルから略吐出しない期間が存在し、該期間において、パルス幅は、所定のパルス幅(=Pwx)を有する。所定のパルス幅は、例えば、共振周期の所定倍のパルス幅となる。
従って、制御部211は、基板交換前後における吐出特性を調べるために、駆動波形データを適切に制御し、駆動波形のパルス幅を所定のパルス幅とすることで、各ノズルからインク液滴を吐出させずに、各圧電素子に残留振動を発生させることができる。これにより、制御部211は、インクを消費せずに、基板交換後における吐出特性を、正確に把握することが可能になる。
図11は、駆動波形生成部212が出力する駆動電圧波形の一例を示す概略図である。横軸は時間[s]、縦軸は電圧[V]を示す。
図11に示す実線は、ノズルからインク液滴が吐出する場合(例えば、パルス幅Pw=Pw1、Pw2)における駆動波形であり、図11に示す点線は、ノズルからインク液滴が吐出しない場合(例えば、パルス幅Pw=Pwx)における駆動波形である。
駆動波形生成部212が、圧電素子に、実線の駆動波形を印加する場合、各ノズルからインク液滴が吐出するため、インクの消費が多くなる。一方、駆動波形生成部212が、圧電素子に、点線の駆動波形を印加する場合、各ノズルからインク液滴が吐出しないため、インクの消費が少なくなる。つまり、制御部211が、駆動波形生成部212に、適切な駆動波形データを出力することで、駆動波形生成部212は、各ノズルからインク液滴が吐出しない程度の駆動電圧を、各圧電素子に印加することが可能になる。
図12は、本実施の形態に係るインクジェット記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッドモジュールの一例を示すブロック図である。
インクジェット記録ヘッドモジュール200は、駆動制御基板210、インクジェット記録ヘッド220、等を含む。駆動制御基板210には、制御部211、駆動波形生成部212、記憶手段213、等が搭載される。インクジェット記録ヘッド220は、制御部226が搭載されるヘッド基板221、残留振動検知部240が搭載される残留振動検知基板222、圧電素子駆動IC37が搭載される圧電素子接続基板36、圧電素子35(圧電素子35a〜35x)、等を含む。残留振動検知基板222には、波形処理回路250、切替手段241、A/D変換器242、等が搭載される。波形処理回路250は、フィルタ回路251、増幅回路252、ピークホールド回路253、等を含む。
なお、駆動制御基板210に搭載される制御部211とヘッド基板221に搭載される制御部226とは、一部の機能、若しくは全ての機能を、いずれか一方に統一しても良い。又、残留振動検知基板222に搭載される一部の機能、若しくは全ての機能を、駆動制御基板210、又は、ヘッド基板221に統一しても良い。
制御部211は、上位コントローラ(図示せず)から受信した画像データに基づいて、駆動波形データを生成し、駆動波形生成部212へと出力する。制御部211は、シリアル通信により、タイミング制御信号(デジタル信号)を圧電素子駆動IC37及び切替手段241へと送信し、タイミング制御信号と同期させた切替信号を切替手段241へと送信する。制御部211は、タイミング制御信号と切替信号とを同期させることで、圧電素子接続基板36の電極に誘起される残留振動電圧を、残留振動検知基板222へ取り込むタイミングを、制御することができる。
又、制御部211は、残留振動検知部240の出力(例えば、ピーク値で固定された残留振動波形の振幅値をAD変換したデジタル信号)から、少なくとも2つ以上のデジタル信号を選択し、式1〜式4を用いて減衰振動の減衰比を算出する。選択される振幅値の数が多い程、減衰比の算出精度は高まる。
更に、制御部211は、算出した減衰比(基板交換後の残留振動検知部240の出力)と、記憶手段213に記憶される減衰比(基板交換前の残留振動検知部240の基準出力)と、を比較することで、駆動波形データの補正が必要であるか否かを判定する。
例えば、制御部211は、算出した減衰比が所定範囲({ζ(x−1)+ζx}/2<算出した減衰比ζdet<{ζx+ζ(x+1)}/2)を満たさない場合、駆動波形データの補正が必要であると判定する。又、例えば、制御部211は、算出した減衰比が所定範囲({ζ(x−1)+ζx}/2<算出した減衰比ζdet<{ζx+ζ(x+1)}/2)を満たす場合、駆動波形データの補正が必要でないと判定する。
そして制御部211は、駆動波形データの補正が必要であると判定した場合、基板交換前の残留振動検知部240の基準出力と、基板交換後の残留振動検知部240の出力と、の差分に基づいて、駆動波形データを補正する。なお、制御部211は、駆動波形データの補正が必要であるか否かを判定する際、条件式を使用する場合、算出した減衰比が、条件式に示す所定範囲を満たすまで、駆動波形データの補正を繰り返す。
なお、基板交換が行われたか否かは、制御部211が判定しても良い。駆動制御基板210のID情報を記憶手段213に予め記憶させ、基板交換が行われた場合に、制御部211が、記憶手段213に書き込まれる新しい駆動制御基板210のID情報を、認識することにより判定することが可能である。
駆動波形生成部212は、駆動波形データをD/A変換し、電圧増幅、電流増幅を行って、駆動波形を生成し、圧電素子駆動IC37へと出力する。
記憶手段213は、減衰比データを予め記憶する。
制御部226は、タイミング制御信号をデシリアライズし、圧電素子駆動IC37へと送信する。
圧電素子駆動IC37は、タイミング制御信号に基づいて、ON/OFF制御され、例えば、ON(OFF)の場合、駆動波形生成部212により生成される駆動波形を圧電素子35へ印加(非印加)する(図7に示す駆動波形印加期間参照)。駆動波形の立ち下げ動作、立ち上げ動作に基づいて、圧電素子35は伸縮し、圧電素子35の駆動に応じて各ノズルからインク液滴が吐出する。
波形処理回路250は、フィルタ回路251及び増幅回路252により、残留振動波形にフィルタ処理を施して増幅し、ピークホールド回路253により、残留振動波形の振幅値のピーク値(例えば、最大値)を認識・抽出してピーク値で固定する。
切替手段241は、圧電素子35と波形処理回路250との接続/非接続を切り替える。例えば、圧電素子35と波形処理回路250とが、切替手段241により接続されると、圧電素子接続基板36の電極に誘起される残留振動電圧は、波形処理回路250に取り込まれる。
A/D変換器242は、波形処理回路250により固定された振幅値(アナログ信号)を、デジタル信号に変換し、制御部211へと出力する(フィードバック)。制御部211(又は、制御部226でも良い)は、フィードバックされた残留振動検知部240の出力に基づいて、減衰振動の減衰比を算出することができる。
なお、図12では、圧電素子35a〜35xの残留振動電圧を、1組の残留振動検知部(切替手段241、波形処理回路250、A/D変換器242)を用いて順次切り替えて検知する構成としているが、残留振動検知部の構成は、特に限定されるものではない。例えば、全ての圧電素子に対応して、それぞれ、残留振動検知部を形成し、減衰振動の減衰比を、同時に検知する構成としても良い。又、例えば、圧電素子を、いくつかのグループに分け、グループ毎に残留振動検知部を形成し、グループ毎に順次切り替えて、減衰振動の減衰比を、検知する構成としても良い。グループ化することにより、回路規模の増大を抑えつつ、同時に検知できるノズルの個数を増やすことができる。
図13は、本実施の形態に係る残留振動検知部の一例を示す回路図である。
圧電素子駆動IC37は、複数のスイッチング素子を含み、圧電素子駆動IC37のON/OFFは、各圧電素子に対応して形成されるスイッチング素子のON/OFFにより制御される。インク液滴吐出後(圧電素子駆動IC37がOFF)、切替手段241を介して、圧電素子35と波形処理回路250とが接続されることで、残留振動検知部240は、圧電素子35に誘起される残留振動電圧を検知し、残留振動波形の振幅値を認識できる。
波形処理回路250は、微小な残留振動波形を、高インピーダンスのバッファ部で受けることにより、検知回路が残留振動波形に及ぼす悪影響を抑制する。波形処理回路250に搭載される抵抗R1〜R5、コンデンサC1〜C3、等の受動素子定数は、インクジェット記録ヘッド220の特性に起因する固有振動周波数の違いに応じて、制御部211により可変制御されることが好ましい。これにより、選択的な状態検知が可能になる。又、波形処理回路250は、汎用オペアンプ、受動素子、及びスイッチという簡易な回路構成で、残留振動を検知できる。これにより、液滴吐出装置における回路規模の増大を抑制し、コストを抑えることができる。
フィルタ回路251は、残留振動波形にフィルタ処理を施す。フィルタ回路251は、固有振動周波数を中心周波数として、所定の通過帯域幅を有し、例えば、通過帯域幅の両端から、それぞれ−3dBとなる帯域幅が、通過帯域幅の3倍程度に設定されることが好ましい。これにより、インクジェット記録ヘッド220の製造バラツキが原因で生じる固有振動周波数のバラツキを吸収できると共に、高周波ノイズと低周波のノイズとを、効率良く除去することが可能になる。
増幅回路252は、フィルタ処理が施された残留振動波形を増幅する(図14に示す点線参照)。増幅回路252において、増幅率は、A/D変換器242の入力可能範囲内で波形が増幅されるように、設定されることが好ましい。
なお、フィルタ回路251及び増幅回路252は、バンドパスフィルタ増幅型(サレンキ型)で構成されることにより、効率的なノイズ成分の除去及び信号成分の抽出が可能になるが、該構成は、特に限定されるものではない。少なくとも、ハイパス特性及びローパス特性を有するフィルタと、非反転増幅部又は反転増幅部とを組み合わせた回路で構成されていれば良い。
ピークホールド回路253は、残留振動波形の振幅値のピーク値を認識・抽出し、該ピーク値で固定する(図14に示す実線参照)。ピークホールド回路253において、抵抗R6及びコンデンサC3の放電時間は、残留振動周期の1/2以下となるように、設定されることが好ましい。ピークホールド回路253のリセットは、減衰振動波形の立ち上がりが基準電圧Vrefとクロスするタイミングで、制御部211がリセット信号を、スイッチング素子SW1へと出力することにより行われる。リセットタイミングは、ピークホールド回路253が、減衰振動波形の振幅値を認識できるタイミングであれば良く、リセットタイミングを、比較部(図示せず)により検出することも可能である。なお、ピークホールド回路253の構成は、図13に示す構成に限定されるものではなく、少なくとも、残留振動波形の振幅値のピーク値を固定可能な回路で構成されていれば良い。
図14に、図13に示す回路を用いて、フィルタ処理が施され、増幅された波形(点線で示す)と、振幅値のピーク値で固定された波形(実線で示す)の一例を示す。
振幅値は、5箇所のピーク値で固定され、それぞれ、第1半波の振幅値を振幅値1、第2半波の振幅値を振幅値2、第3半波の振幅値を振幅値3、第4半波の振幅値を振幅値4、第5半波の振幅値を振幅値5とする。基準電圧Vrefより下側に見られる急峻な波形は、コンデンサC3を瞬時に放電したことによるアンダーシュートである。
減衰比ζは、振幅値1〜5の中で、少なくとも2つの振幅値を制御部211により選択し、数3及び数4を用いて、算出することができる。図14では、上下振幅の上側の振幅値1から振幅値5までを検知した場合の波形を示しているため、4周期分を平均化した減衰比ζを算出することができるが、上下振幅の下側を振幅値を検知して、減衰比ζを算出することも可能である。減衰比ζの算出に、上下振幅の上側の振幅値を利用する場合、波形処理回路250には、増幅回路を適用すれば良く、減衰比ζの算出に、上下振幅の上側の振幅値を利用する場合、波形処理回路250には、反転増幅回路を適用すれば良い。
なお、制御部211は、振幅値の選択を適切に行うことで、減衰比ζの算出精度を高めることが可能である。例えば、制御部211は、切替手段のバラつきの影響を受けやすい振幅値1を除いて、振幅値2、振幅値3、振幅値4、振幅値5の中から算出に用いる振幅値を選択しても良い。又、例えば、制御部211は、検知誤差が大きくなり易い最も小さな振幅値(例えば、振幅値5)を除いて、振幅値1、振幅値2、振幅値3、振幅値4の中から算出に用いる振幅値を選択しても良い。又、例えば、制御部211は、振幅値1及び振幅値5の両方を除いて、振幅値2、振幅値3、振幅値4の中から算出に用いる振幅値を選択しても良い。又、外乱影響やノイズが大きい半波を除いた周期分を平均化した減衰比ζを算出しても良い。
図15は、減衰比ζと温度Tとの関係を示す図である。横軸は温度T、縦軸は減衰比ζを示す。周囲温度(サーミスタ温度)をTx(但し、xは自然数)とする。周囲温度Txは、例えば、サーミスタ等の温度センサ(図示せず)により検知される。
制御部211が、周囲温度Tx毎に駆動波形データを設定し、駆動波形印加後の残留振動検知部の出力に基づいて算出した実測値を、減衰比ζdetとする。
駆動制御基板210の交換時に、基板内部品のばらつき等が生じなければ、理想的には、減衰比ζdet=ζxとなる。しかし、実際には、駆動制御基板210の交換時に、基板内部品のばらつき等が生じるため、減衰比ζdetは、変化してしまう。
例えば、温度Txから温度T(x+1)までの間、制御部211により算出される減衰比ζdetは、図15に示す相関図上に存在する減衰比{ζx+ζ(x+1)}/2となる。又、例えば、温度T(x−1)から温度Txまでの間、制御部211により算出される減衰比ζdetは、図15に示す相関図上に存在する減衰比{ζ(x−1)+ζx}/2となる。なお、減衰比ζdet={ζx+ζ(x+1)}/2での温度、減衰比ζdet={ζ(x−1)+ζx}/2での温度は、固定温度ではなく、各状況に応じて、適宜設定される。
つまり、制御部211は、算出した減衰比ζdetが、例えば、{ζ(x−1)+ζx}/2<ζdet<{ζx+ζ(x+1)}/2を満たすか否かを判定することにより、基板交換後の駆動波形データに補正が必要であるか否かを判定することができる。
本実施の形態に係る液滴吐出装置によれば、制御部211が、駆動波形データを適切に制御することで、インクを消費することなく、駆動制御基板の交換前後に生じる吐出特性の変動を検知できる。更に、制御部211が、駆動波形データを適切に補正することで、該変動を抑制できる。これにより、本実施の形態に係る液滴吐出装置が搭載されるインクジェット記録装置の信頼性を高め、低コスト化を図ることができる。
<制御フローチャート>
図16は、本実施の形態に係るオンデマンド方式におけるライン走査型のインクジェット記録装置における、制御フローチャートの一例を示す図である。図16に示す制御フローチャートは、制御プログラムに従って、例えば、制御部211によって実行される。
ステップS1において、制御部211は、周囲温度Tx(サーミスタ温度)に応じて、インクを吐出させない駆動波形データを設定する。
ステップS2において、制御部211は、設定した駆動波形データを、インクジェット記録ヘッド220に印加する。
ステップS3において、制御部211は、圧電素子駆動IC37を監視し、圧電素子駆動IC37がOFFしたか否かを判定する。圧電素子駆動IC37がOFFしたと判定される場合(YES)、制御部211は、ステップS4の処理を行う。圧電素子駆動IC37がOFFしていないと判定される場合(NO)、制御部211は、圧電素子駆動IC37の監視を継続する(再びステップS3の処理を行う)。
ステップS4において、制御部211は、切替手段241を用いて、検出する圧電素子35と波形処理回路250とを接続する。
ステップS5において、制御部211は、残留振動検知による検知結果(振幅値)から減衰比ζdetを算出する(演算処理)。
ステップS6において、制御部211は、算出した減衰比(基板交換後の残留振動検知部240の出力)と、記憶手段213に予め記憶される減衰比(基板交換前の残留振動検知部240の基準出力)と、を比較することで、温度毎に設定される駆動波形データの補正が必要であるか否かを判定する。駆動波形データの補正が必要であると判定される場合(YES)、制御部211は、ステップS7の処理を行う。駆動波形データの補正が必要でないと判定される場合(NO)、制御部211は、処理を終了する。なお、残留振動検知部240の出力として、減衰比を利用することで、駆動波形データの補正精度を高めることが可能である。
ステップS7において、制御部211は、算出した減衰比と、記憶手段213に予め記憶される減衰比との差分を算出し、該差分に基づいて、駆動制御基板210交換後の駆動波形データを補正する。駆動波形データの補正としては、例えば、駆動波形データの電位に対して所定倍の乗算、等が挙げられる。
制御部211が、駆動波形データを補正する補正タイミングは、駆動波形生成部を構成する素子の何れかが交換された直後、又は液滴吐出装置の電源がオンされた直後であることが好ましい。駆動制御基板210の交換時に、液滴吐出装置の電源はオフされ、交換後に、液滴吐出装置の電源はオンされる。従って、これらのタイミングで、制御部211が、駆動波形データを補正することで、基板交換によるメンテナンス時間を削減することができる。
又、制御部211が、駆動波形データを補正する補正タイミングは、任意にユーザが選択できることが好ましい。ユーザが、任意に補正タイミングを選択できることで、使用用途に応じた制御が可能になる。
なお、制御部211が、駆動波形データを補正する補正タイミングは、液滴吐出装置が初期(例えば、印字開始時)の維持・供給動作を行う間、記憶手段213に記憶させる駆動制御基板210のID情報が、新しく書き換わったタイミング、等であっても良い。
上述の制御により、駆動波形データの補正の有無を正確に判定し、適切な補正を行うことで、駆動制御基板交換後に生じる吐出速度及び吐出量のばらつきを一定に保つことができる。又、インクを吐出させない駆動波形データを設定することで、インクの消費を抑えることができる。又、補正の有無の判定に、予め記憶手段213に記憶される残留振動検知部の基準出力を利用することで、補正時の演算処理時間を短縮することができる。
〈第2の実施の形態〉
本実施の形態では、第1の実施の形態とは異なる制御フローチャートについて、説明する。本実施の形態に係る制御フローチャートが、第1の実施の形態に係る制御フローチャートと異なる点は、制御部211が、駆動波形データの補正の必要の有無を判定する際、条件式を使用する点である。図17に示す制御フローチャートは、制御プログラムに従って、例えば、制御部211によって実行される。
ステップS91において、制御部211は、周囲温度Tx(サーミスタ温度)に応じて、インクを吐出させない駆動波形データを設定する。
ステップS92において、制御部211は、設定した駆動波形データを、インクジェット記録ヘッド220に印加する。
ステップS93において、制御部211は、圧電素子駆動IC37を監視し、圧電素子駆動IC37がOFFしたか否かを判定する。圧電素子駆動IC37がOFFしたと判定される場合(YES)、制御部211は、ステップS94の処理を行う。圧電素子駆動IC37がOFFしていないと判定される場合(NO)、制御部211は、圧電素子駆動IC37の監視を継続する(再びステップS93の処理を行う)。
ステップS94において、制御部211は、切替手段241を用いて、検出する圧電素子35と波形処理回路250とを接続する。
ステップS95において、制御部211は、残留振動検知による検知結果(振幅値)から減衰比ζdetを算出する(演算処理)。
ステップS96において、制御部211は、算出した減衰比(基板交換後の残留振動検知部240の出力)と、記憶手段213に予め記憶される減衰比(基板交換前の残留振動検知部240の基準出力)と、を条件式に基づいて比較することで、温度毎に設定される駆動波形データの補正が必要であるか否かを判定する。
算出した減衰比ζdetが、ζdet≦{ζ(x−1)+ζx}/2、又は、{ζx+ζ(x+1)}/2≦ζdetを満たす場合、制御部211は、駆動波形データの補正が必要であると判定し(YES)、ステップS97の処理を行う。
算出した減衰比ζdetが、{ζ(x−1)+ζx}/2<ζdet<{ζx+ζ(x+1)}/2を満たす場合、制御部211は、駆動波形データの補正が必要でないと判定し(NO)、処理を終了する。
ステップS97において、制御部211は、算出した減衰比と、記憶手段213に予め記憶される減衰比(基準の減衰比)との差分を算出し、該差分に基づいて、駆動制御基板210交換後の駆動波形データを補正する。
制御部211は、算出した減衰比が、所定範囲を満たすまで、駆動波形データの補正を繰り返す。駆動波形データの補正を繰り返すことで、補正精度を高めることができる。
上述の制御により、駆動波形データの補正を、複数回に渡って繰り返すことで、圧電素子に急激な電圧変化を与えることなく、駆動制御基板交換後に生じる吐出速度及び吐出量のばらつきを一定に保つことができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の実施形態の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。