しかしながら、特許文献1記載の気象予測システムを含む従来のシステムは、気象モデルに基づくシミュレーションに風速の観測データを同化してデータ同化を行う際に、水平風速成分に対応する観測データのみを同化しており、鉛直風速成分に対応する観測データを同化していない。何故なら、観測地点に設けられた観測機器は、一般的に、水平方向の風速のみを観測し、通常は、鉛直方向の風速を観測したデータを提供しないからである。そのため、従来のシステムにおいて、気象モデルに基づくシミュレーションに対して水平方向の風速観測データを2次元的に同化すると、たとえ特許文献1に記載されるナッジング係数の適切な調整を行ったとしても、鉛直方向の風速に関して不自然なシミュレーション結果が得られてしまう場合がある。
具体的には、従来のシステムにおいて、気象モデルに基づくシミュレーションに対して鉛直風速成分の観測値を考慮しないでデータ同化を行うと、気象モデルによって想定されるはずのない以下のような不自然な鉛直風速成分が現れたりする。例えば、雨雲形成のための上昇気流が発生しない低い高度の地表付近において通常は想定されない強い上昇風や下降風の発生がデータ同化によって推定される場合がある。また、例えば、気象モデルに基づくシミュレーションに対してデータ同化を行った場合に推定される鉛直風速成分が、データ同化を行わない場合に推定される鉛直風速成分と極端に乖離してしまう場合が生じ得る。
上記問題点に鑑み、本発明に係る少なくとも一実施形態は、気象シミュレーションに対してデータ同化を行う際の風速観測値として水平風速成分のみが取得可能であったとしても、鉛直風速成分に関して現実の気象現象との間の矛盾が少ない同化計算結果を出力可能な気象データ同化方法を得ることを目的とする。
(1)本発明の幾つかの実施形態に係る気象データ同化方法は、
気象モデルに基づいて、第1期間における各時刻について、少なくとも一つの観測地点を含む対象エリアにおける3次元の風速推定データを算出する事前計算ステップと、
前記観測地点で観測された水平方向成分の風速観測データと、前記観測地点における3次元の前記風速推定データに含まれる鉛直風速成分を組み合わせて、前記観測地点における3次元の同化用風速データを生成する同化用データ生成ステップと、
前記観測地点における前記同化用風速データに基づいて、前記対象エリアにおける3次元の前記風速推定データを同化して同化済みの3次元風速データを取得する同化ステップと、
を備えることを特徴とする。
上記(1)の方法によれば、上記事前計算により推定された鉛直方向の風速推定データと実際に観測された水平方向の風速観測データとを組み合わせて生成した3次元の同化用風速データにより3次元的なデータ同化を行う。例えば、対象エリア内の3次元空間格子を構成する複数の格子点に3次元的に配置された一群の風速推定データに対して、上記のように生成した3次元の同化用風速データを適用し、3次元的なデータ同化を行う。従って、上記(1)の方法によれば、気象シミュレーションに対してデータ同化を行う際の風速観測値として水平風速成分のみが取得可能であったとしても、鉛直風速成分に関して現実の気象現象との間の矛盾が少ない計算結果を出力可能な気象データ同化方法を得ることができる。その結果、気象シミュレーションに対して水平風速成分に関する観測値のみを同化させることにより、水平風速成分に関して現実の観測値を反映した計算結果が得られる一方で、鉛直風速成分に関する同化計算結果が現実の気象現象と整合しなくなるという問題点を解決することができる。
(2)本発明の幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、前記対象エリア内の評価地点における水平方向成分の前記風速観測データと、前記同化済みの3次元風速データのうち前記評価地点における水平方向成分の前記風速推定データと、の比較結果に基づいて、前記同化済みの3次元風速データと前記風速観測データとの一致精度を評価する評価ステップをさらに備えることを特徴とする。
上記(2)の方法においては、少なくとも一つの観測地点を含む対象エリア内において、評価地点が設定され、当該評価地点においては、上記(1)の方法により得られた同化済みの3次元風速データが風速観測データとどの程度一致するかが評価される。従って、上記(2)の方法によれば、気象モデルに基づく風速推定データに対して上記(1)の方法に従って風速に関するデータ同化を行って同化済み風速データが得られた場合に、当該同化済み風速データが実際に観測される風速データとどの程度近いかを評価することができる。その結果、上記(2)の方法によれば、データ同化により得られた当該同化済み風速データの精度を表す指標を得ることができる。
(3)本発明の幾つかの実施形態では、上記(2)の方法が備える前記同化ステップにおいて、前記観測地点における前記同化用風速データを用いて、ナッジング係数に従ってナッジング法により3次元の前記風速推定データを同化するとともに、
前記一致精度が所期の第1条件を満たさない場合、前記ナッジング係数を補正する係数補正ステップをさらに備え、
補正された前記ナッジング係数を用いて、前記同化ステップにおける同化計算を繰り返すことを特徴とする。
ナッジング法により3次元の風速推定データを同化する場合、上述したように、ナッジング係数が大きすぎれば、風速観測データのデータ同化を行うことによって、同化計算結果と現実の気象現象との間の整合性が損なわれる。逆に、ナッジング係数が小さすぎれば、データ同化による気象シミュレーション精度の改善が不充分となる。そこで、上記(3)の方法によれば、ナッジング法に基づく同化計算により得られた同化済み風速データと実際に観測される風速データとの間の一致精度が良好ではないならば、ナッジング係数をより適正な値となるように補正することができる。
(4)本発明の幾つかの実施形態では、上記(1)〜(3)の方法において、前記観測地点で観測された水平方向成分の前記風速観測データと、前記同化済みの3次元風速データのうち前記観測地点における鉛直方向成分の前記風速推定データと、を組み合わせたデータにより、前記同化用風速データを更新する同化用データ更新ステップと、
前記観測地点における更新後の前記同化用風速データを用いて、3次元の前記風速推定データの同化計算を再び行って、前記同化済みの3次元風速データを更新する再同化ステップと、をさらに備えることを特徴とする。
上記(4)の方法によれば、上記(1)に規定する同化ステップに続いて、再同化ステップを行うことで、鉛直風速成分に関して、気象シミュレーション結果と現実の気象現象との間における整合性が一層向上することが期待される。その理由は以下のとおりである。
上記(1)に規定する同化ステップにおいて同化用風速データの鉛直風速成分として使用されるデータは、データ同化を全く行わない事前計算ステップにより得られたものである。これに対し、上記(4)に規定する再同化ステップにおいて同化用風速データの鉛直風速成分として使用されるデータは、上記(1)に規定する同化ステップによって一旦同化された後の同化済みの3次元風速データから抽出されるものである。つまり、上記(1)に規定する同化ステップにおいてデータ同化に先立って用いられる同化用風速データの鉛直風速成分は、水平風速成分の観測値とは無関係に計算された推定値である。これに対して、上記(1)に規定する同化ステップの実行後に上記(4)に規定する再同化ステップにおいて用いられる同化用風速データの鉛直風速成分は、同化ステップの実行を介して水平風速成分の観測値が既に反映された鉛直風速成分である。従って、上記(4)に規定する再同化ステップにおいて同化用風速データとして用いられる鉛直風速成分を同化計算に使用する方が、上記(1)に規定する同化ステップにおいて同化用風速データとして用いられる鉛直風速成分を同化計算に使用するよりも、現実に観測された風速値との整合性が得られやすい。
(5)本発明の幾つかの実施形態では、上記(4)の方法において、前記同化済みの3次元風速データが所期の第2条件を満たさない場合、前記同化用データ更新ステップ及び前記再同化ステップを繰り返すことを特徴とする。
上述したとおり、上記(4)に規定する再同化ステップを実行することで、鉛直風速成分に関して現実の気象現象との整合性が一層向上することが期待できる。そこで、上記(5)の方法によれば、上記(4)に規定する再同化ステップを初期の第2条件を満たすようになるまで繰り返し実行する。これにより、上記(5)の方法によれば、鉛直風速成分に関して同化計算の結果と現実の気象現象との整合性の度合いが所定の目標基準を達成するまで上記(4)に規定する再同化ステップを繰り返し実行させることが可能となる。
(6)本発明の幾つかの実施形態では、上記(5)の方法において、前記第2条件は、前記同化済みの3次元風速データと3次元の前記風速推定データとの乖離が規定範囲内であること、または、前記同化済みの3次元風速データにおける鉛直方向成分が規定範囲内であること、の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
上記(6)の方法においては、上記(4)に規定する再同化ステップの繰り返し実行を打ち切るための条件として、データ同化によって求めた同化済みの3次元風速データとデータ同化を伴わない3次元の風速推定データとの間の乖離が規定範囲内である場合、または、同化済みの3次元風速データにおける鉛直方向成分が規定範囲内であることの少なくとも一方を規定している。何故ならば、同化済みの3次元風速データとデータ同化を伴わない3次元の風速推定データとの間の乖離が規定範囲内であるならば、鉛直風速成分に関して同化計算の結果と現実の気象現象との整合性の度合いが充分であるからである。また、同化済みの3次元風速データにおける鉛直方向成分が規定範囲内であるならば、同化用風速データの鉛直風速成分が気象シミュレーションに対して充分に同化されたことにより不自然な鉛直風速成分が現れていないことを意味する。
以上より、上記(6)の方法によれば、鉛直風速成分に関して同化計算の結果と現実の気象現象との整合性の度合いが充分となるまで、上記(4)に規定する再同化ステップの繰り返し実行することができる。また、上記(6)の方法によれば、同化用風速データの鉛直風速成分が気象シミュレーションに対して充分に同化されたことにより不自然な鉛直風速成分が現れなくなるまで、上記(4)に規定する再同化ステップの繰り返し実行することができる。その結果、上記(6)の方法によれば、実際に観測された風速観測値に即して3次元風速に関する同化計算結果を得るという目的と、不要な再同化ステップの反復実行を抑制して計算コストを低減するという目的とを両立させることができる。
(7)本発明の幾つかの実施形態では、上記(1)〜(6)の方法において、前記気象モデルは、前記対象エリア内における風速を記述する3次元流体運動方程式を含み、
前記事前計算ステップは、前記第1期間における各時刻について前記3次元流体運動方程式を時系列的に解くことにより、3次元の前記風速推定データを数値解析的に算出するステップを含む、
ことを特徴とする。
その結果、水平風速成分のみを含む2次元的な風速観測値しか得られなかったとしても、当該風速観測値の同化計算のために3次元の風速方向成分を推定する計算を高速な計算アルゴリズムを使用して少ない計算量で効率的に実行することが可能となる。
(8)本発明の幾つかの実施形態に係る気象予測方法は、上記(1)乃至(7)の何れかに記載の方法により取得された、前記第1期間における前記同化済みの3次元風速データに基づいて、前記第1期間よりも後の第2期間の開始時点における初期条件を生成する初期条件生成ステップと、
前記初期条件生成ステップにおいて生成された前記初期条件に基づいて、前記第2期間内の各時刻において、前記気象モデルに基づいて前記対象エリアにおける3次元の風速予測データを時系列的に算出する風速予測ステップと、
を備えることを特徴とする。
上記(8)の方法によれば、まず最初に、第1期間にわたって3次元の同化用風速データを使用して3次元の風速推定データに対して同化計算を行う処理を実行することで、第1期間にわたる気象シミュレーションの精度を向上させる。続いて、当該精度を向上させたシミュレーション結果を初期条件として設定した上で、第1期間よりも後の第2期間にわたって、3次元の風速推定データを推定する気象シミュレーションを実行する。以上より、上記(8)の方法によれば、第2期間における気象シミュレーションを行うために設定される初期条件の精度が、第2期間に先立つ第1期間における同化計算により改善されているので、第2期間におけるシミュレーション精度も改善されることが期待される。
例えば、上記(8)の方法では、第1期間を過去の特定の時点から現在時刻までの期間とし、第2期間を現在時刻から未来の時点までの期間とすると、過去から現在までの期間内に同化用風速データを使用して3次元の風速推定データに対して同化計算を行う。従って、上記(8)の方法によれば、現在時刻における3次元風速データの推定精度を改善することができる。その上で、上記(8)の方法では、当該推定精度が改善された現在時刻における3次元風速データに基づいて現時点以降の風速予測データをシミュレーションにより算出するための初期条件として設定し、当該初期条件に基づいて、現時点以降の風速予測データをシミュレーションにより算出する。
以上より、上記(8)の方法によれば、3次元風速データに関して過去から現在まで実行される気象シミュレーションにデータ同化を行ってシミュレーション結果の精度を改善し、当該シミュレーション結果を初期条件に設定して未来の気象シミュレーションを行うことができる。その結果、上記(8)の方法によれば、3次元風速データに関して気象予測の予測精度を向上させることができる。
(9)本発明の幾つかの実施形態に従い、データ同化により気象予測データを生成するための気象予測システムは、
気象モデルを記憶した記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記気象モデルを参照して、少なくとも一つの観測地点を含む対象エリアにおける3次元の風速予測データを算出するための演算部と、
を備え、
前記演算部は、
前記気象モデルに基づいて、第1期間における各時刻について、前記対象エリアにおける3次元の風速推定データを算出する事前計算モジュールと、
前記観測地点で観測された水平方向成分の風速観測データと、前記観測地点における3次元の前記風速推定データに含まれる鉛直風速成分を組み合わせて、前記観測地点における3次元の同化用風速データを生成する同化用データ生成モジュールと、
前記観測地点における前記同化用風速データに基づいて、前記対象エリアにおける3次元の前記風速推定データを同化して同化済みの3次元風速データを取得する同化モジュールと、
前記第1期間における前記同化済みの3次元風速データに基づいて、前記第1期間よりも後の第2期間の開始時点における初期条件を生成する初期条件生成モジュールと、
前記初期条件生成モジュールにおいて生成された前記初期条件に基づいて、前記第2期間内の各時刻において、前記気象モデルに基づいて前記対象エリアにおける3次元の風速予測データを時系列的に算出する風速予測モジュールと、
を実行することを特徴とする。
上記(9)の構成によれば、上記事前計算により推定された鉛直方向の風速推定データと実際に観測された水平方向の風速観測データとを組み合わせて生成した3次元の同化用風速データにより3次元的なデータ同化を行う。例えば、対象エリア内の3次元空間格子を構成する複数の格子点に3次元的に配置された一群の風速推定データに対して、上記のように生成した3次元の同化用風速データを同化する形で、3次元的なデータ同化を行う。従って、上記(9)の構成によれば、気象シミュレーションに対してデータ同化を行う際の風速観測値として水平風速成分のみが取得可能であったとしても、鉛直風速成分に関して現実の気象現象との間の矛盾が少ない計算結果を出力可能な気象データ同化方法を得ることができる。その結果、気象シミュレーションに対して水平風速成分に関する観測値のみを同化させることにより、水平風速成分に関して現実の観測値を反映した計算結果が得られる一方で、鉛直風速成分に関する同化計算結果が現実の気象現象と整合しなくなるという問題点を解決することができる。
また、上記(9)の構成によれば、まず最初に、第1期間にわたって3次元の同化用風速データを使用して3次元の風速推定データに対して同化計算を行う処理を実行することで、第1期間にわたる気象シミュレーションの精度を向上させる。続いて、当該精度を向上させたシミュレーション結果を初期条件として設定した上で、第1期間よりも後の第2期間にわたって、3次元の風速推定データを推定する気象シミュレーションを時刻する。以上より、上記(9)の構成によれば、第2期間における気象シミュレーションを行うために設定される初期条件の精度が、第2期間に先立つ第1期間における同化計算により改善されているので、第2期間におけるシミュレーション精度も改善されることが期待される。
例えば、上記(9)の構成によれば、第1期間を過去の特定の時点から現在時刻までの期間とし、第2期間を現在時刻から未来の時点までの期間とすると、過去から現在までの期間内に同化用風速データを使用して3次元の風速推定データに対して同化を行う。従って、上記(9)の構成によれば、現在時刻における3次元風速データの推定精度を改善することができる。その上で、上記(9)の構成では、当該推定精度が改善された現在時刻における3次元風速データに基づいて現時点以降の風速予測データをシミュレーションにより算出するための初期条件として設定し、当該初期条件に基づいて、現時点以降の風速予測データをシミュレーションにより算出する。
以上より、上記(9)の構成によれば、3次元風速データに関して過去から現在まで実行される気象シミュレーションにデータ同化を行ってシミュレーション結果の精度を改善し、当該シミュレーション結果を初期条件に設定して未来の気象シミュレーションを行うことができる。その結果、上記(9)の構成によれば、3次元風速データに関して気象予測の予測精度を向上させることができる。
以上より、本発明に係る少なくとも一実施形態は、気象シミュレーションに対してデータ同化を行う際の風速観測値として水平風速成分のみが取得可能であったとしても、鉛直風速成分に関して現実の気象現象との間の矛盾が少ない同化計算結果を出力可能な気象データ同化方法を得ることができる。
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
以下、まず最初に、幾つかの実施形態に係る気象データ同化方法および気象予測方法を説明するのに先立って、当該気象データ同化方法および当該気象予測方法の適用対象である気象予測システムの一例について図1を参照して説明する。続いて、当該気象データ同化方法および当該気象予測方法の動作手順および処理内容について図2乃至図6を参照して説明する。
図1は、本発明の幾つかの実施形態に係る気象データ同化方法および気象予測方法の適用対象である気象予測システム1の構成を示す図である。気象予測システム1は、通信ネットワーク5を介して、GPV配信サーバ2からGPV(Grid Point Value)データを受信し、観測機器3(3A〜3C)から風速、風向、気温および湿度などの気象データを受信する。一例においては、GPV配信サーバは、例えば、気象庁内の気象コンピュータにより計算されたGPVを配信するために気象庁内に設置された配信サーバであっても良い。図1には、複数の観測機器3として観測機器3A〜3Cの3台しか図示されていないが、任意の台数(例えば、4台以上)の観測機器3が設置されていても良く、複数の観測機器3(3A〜3C)は、気象シミュレーションの対象となる地理的エリアに含まれる複数の異なる地点にそれぞれ設置されている。GPV配信サーバおよび観測機器3(3A〜3C)から受信したGPVデータおよび観測データを気象予測システム1がどのように使用するかについては、以下において後述する。
図1に示すように、気象予測システム1は、データ同化により気象予測データを生成するための気象予測システムであって、気象モデル21を記憶した記憶部20と、記憶部20に記憶された気象モデル21を参照して、少なくとも一つの観測地点を含む対象エリアにおける3次元の風速予測データを算出するための演算部10Aと、を備えている。図1において、演算部10Aは、後述する気象シミュレーションや同化計算を行い、記憶部20は、演算部10が行う演算に必要な各種パラメータや各種情報を記憶する。また、図1において、気象予測システム1は、気象予測システム1が外部と通信するために使用する通信部30と、演算部10Aによる演算結果を外部に出力するための出力部40と、をさらに備える。
気象予測システム1内において、演算部10Aは、本発明の幾つかの実施形態に係る気象データ同化方法および気象予測方法を実施するために使用される事前計算モジュール11、同化用風速データ生成モジュール12、同化モジュール13、初期条件生成モジュール14および風速予測モジュール15を備えている。上述した機能モジュール11〜15は、演算部10Aによって対応するプログラム・コードが記憶部20から読み出され、OS(Operating System)上で別々の並行プロセスまたは並列スレッドとして実行される機能モジュールであっても良い。また、図1において記憶部20に記憶されている気象モデル21は、気象現象の要因となる各種諸元の時系列的な変化をモデル化した数式の集合を含んでいる。また、気象予測システム1内において、記憶部20は、上述した気象モデル21に加えて、初期条件/境界条件22およびシミュレーション・パラメータ23を格納している。
シミュレーション・パラメータ23は、気象シミュレーションの計算内容や使用目的に応じて演算部10A内の機能モジュール11〜15に設定すべき各種係数や各種パラメータの値を記憶している。演算部10Aが本実施の形態に係る気象データ同化方法および気象予測方法を実行することによって生成した計算結果は、演算部10Aから出力部40を介して出力され、表示装置4に表示される。記憶部20上に格納された初期条件/境界条件22が、演算部10Aにより実行される気象シミュレーションにおいて果たす役割については、以下において後述する。
続いて、本発明の幾つかの実施形態に係る気象データ同化方法及び気象予測方法について説明する。当該気象データ同化方法は、図1に示す演算部10Aが備える事前計算モジュール11、同化用データ生成モジュール12および同化モジュール13により、以下において後述する事前計算ステップ、同化用データ生成ステップ及び同化ステップが実行されることにより実施される。当該気象予測方法は、当該気象データ同化方法の実行結果として得られる同化計算結果を使用して、演算部10Aが備える初期条件生成モジュール14および風速予測モジュール15により、以下において後述する初期条件生成ステップおよび風速予測ステップが実行されることにより実施される。
以下、図1乃至図4を参照しながら、本発明の幾つかの実施形態に係る気象データ同化方法を構成する各処理ステップについて順に説明する。ここで、図2は、気象シミュレーションによって推定された風速推定データ50に対して同化用風速データ51のデータ同化が行われる様子を示す図である。図3は、気象シミュレーションを行う対象となる地理的エリアである対象エリア67内において、3台の観測機器3A〜3Cによって、データ同化のための風速観測値がそれぞれ観測される3箇所の観測地点60A〜60Cと同化計算結果の精度評価が行われる評価地点61を示す図である。図4は、各観測地点60について後述する3次元の同化用風速データ51を生成する処理を説明する図である。なお、説明を簡単にするため、図2においては、風速推定データ50に対して同化用風速データ51のデータ同化が行われる様子は、2次元的な表現で模式的に示されているが、実際には、3次元の風速推定データ50に対して3次元の同化用風速データ51が同化される。
まず、演算部10Aが備える事前計算モジュール11により事前計算ステップが実行される。事前計算ステップでは、気象モデル21に基づいて、第1期間における各時刻について、少なくとも一つの観測地点60(60A〜60C)(図3)を含む対象エリア67(図3)における3次元の風速推定データ50(Ue,Ve,We)を算出する。より具体的には、事前計算ステップでは、事前計算モジュール11が、初期条件/境界条件22およびシミュレーション・パラメータ23を使用して、気象モデル21に基づく風速の気象シミュレーションを実行する。当該気象シミュレーションの結果として、事前計算モジュール11は、図2に示す段階P1において対象エリア67内の風速と風向の推定値をベクトルで表す風速データ50を算出する。
続いて、演算部10Aが備える同化用データ生成モジュール12により同化用データ生成ステップが実行される。図4に示すように、同化用データ生成ステップでは、観測地点60A〜60Cで観測された水平方向成分(Um,Vm)の風速観測データ54A〜54Cと、観測地点60A〜60Cにおける3次元の風速推定データ50A〜50Cに含まれる鉛直風速成分Weを組み合わせて、観測地点60A〜60Cにおける3次元の同化用風速データ51A〜51Cを生成する。以下、図4を参照しながら、同化用風速データ生成ステップについて具体的に説明する。
同化用データ生成ステップでは、観測地点60(60A〜60C)で観測機器3(3A〜3C)により観測された水平方向成分(Um,Vm)の風速観測データ54(54A〜54C)を同化用風速データ生成モジュール12が観測機器3(3A〜3C)から受信する。このとき、同化用風速データ生成モジュール12が受信する観測地点60(60A〜60C)で観測された風速観測データ54(54A〜54C)は、水平方向の風速成分(Um,Vm)のみを含む2次元的な風速観測データである。続いて、事前計算モジュール11により算出された観測地点60(60A〜60C)における3次元の風速推定データ50(50A〜50C)にそれぞれ含まれる鉛直風速成分Weを同化用風速データ生成モジュール12が事前計算モジュール11から受信する。続いて、同化用風速データ生成モジュール12は、観測地点60(60A〜60C)における水平方向成分(Um,Vm)の風速観測データ54(54A〜54C)を、観測地点60(60A〜60C)における3次元の風速推定データ50(50A〜50C)にそれぞれ含まれる鉛直風速成分Weと組み合わせることにより、観測地点60(60A〜60C)における3次元(Um,Vm,We)の同化用風速データ51(51A〜51C)を生成する。
例えば、図4を参照すると、観測地点60Aに対応する3次元の同化用風速データ51Aは、風速観測データ54Aを表す水平方向ベクトル(Um,Vm)と3次元の風速推定データ50Aに含まれる鉛直方向ベクトルWeとを合成して成る3次元の合成ベクトル(Um,Vm,We)として生成される。同様に、観測地点60Bに対応する3次元の同化用風速データ51Bは、風速観測データ54Bを表す水平方向ベクトル(Um,Vm)と3次元の風速推定データ50Bに含まれる鉛直方向ベクトルWeとを合成して成る3次元の合成ベクトル(Um,Vm,We)として生成される。同様に、観測地点60Cに対応する3次元の同化用風速データ51Cは、風速観測データ54Cを表す水平方向ベクトル(Um,Vm)と3次元の風速推定データ50Cに含まれる鉛直方向ベクトルWeとを合成して成る3次元の合成ベクトル(Um,Vm,We)として生成される。
同化用データ生成ステップで実行される上記処理は図2に示す段階P2に相当し、段階P1で示す事前計算ステップにより観測地点60(60A〜60C)での3次元の風速推定データ50が算出された後に、観測地点60(60A〜60C)での同化用風速データ51が生成される。なお、図2の段階P2において、同化用風速データ51を表す風速ベクトルを取り囲む円ERは、事前計算ステップ(段階P1)によって算出された3次元の風速推定データに対して同化用風速データ51を同化した場合に、同化用風速データ51による当該同化の影響が及ぶ範囲を示している。すなわち、同化用風速データ51による当該同化の影響度合いは、円ERの中心からの距離に応じて減少する距離の関数として表され、円ERの外側では、当該同化の影響度合いは顕著に小さくなることを表している。ここで、円ERの中心は、同化用風速データ51(51A〜51C)に対応する対象エリア67内の観測地点60(60A〜60C)の位置を表す。
続いて、演算部10Aが備える同化モジュール13により同化ステップが実行される。同化ステップでは、観測地点60A〜60Cにおける同化用風速データ51(図4の51A〜51C)に基づいて、対象エリア67における3次元の風速推定データ50(図4の50A〜50C)を同化して図2に示す同化済みの3次元風速データ52(52in,52out)を取得する。例えば、図2に示す段階P3では、観測地点60(60A〜60C)について、同化用データ生成ステップ(段階P2)により生成された同化用風速データ51(51A〜51C)が、事前計算ステップ(段階P1)により算出された3次元の風速推定データ50(50A〜50C)に対して同化される。図2に示す段階P3で実行されるこの同化計算により、円ERの内側に属していた3次元の風速推定データ50は、同化用風速データ51による強い影響を受けて同化済みの3次元風速データ52inに変化する。また、図2に示す段階P3で実行されるこの同化計算により、円ERの外側に属していた3次元の風速推定データ50は、同化用風速データ51による微小な影響を受けて同化済みの3次元風速データ52outに変化する。
以下、図2を参照して上述した同化用風速データについて詳細に説明する。同化用風速データとは、気象シミュレーションにより3次元の風速推定データを推定した計算結果に対してデータ同化を行うために使用されるデータである。従来においては、気象シミュレーションにより3次元の風速推定データを推定した計算結果に対してデータ同化を行う際には、一つ以上の観測地点において観測された風速観測データを使用していた。そこで、まず最初に、3次元の風速推定データを推定した計算結果に対して、実際に観測された風速観測データを使用してデータ同化を行う場合を例として、同化用風速データ51の使用目的と果たす役割について説明する。
風速や風向に関する一般的な意味でのデータ同化とは、観測された風速観測データを風速や風向の変化に関する気象シミュレーションに埋め込み、馴染ませてゆく技法である。一般的なデータ同化によれば、風速観測値と風速データ予測値との間の整合をとることによって、風速データの推定計算の精度を向上させることが可能である。その結果、データ同化によれば、気象モデル21に基づく気象シミュレーションを行った際に、データ同化を行わない場合と比べて、風速や風向に関して実際に観測される気象現象をうまく説明する風速シミュレーション結果が得られる。
ところで、一般的には、観測地点に設けられた観測機器は、水平方向の風速のみを観測し、通常は、鉛直方向の風速を観測したデータを提供しない。従って、風速シミュレーション結果に対してデータ同化を行う従来のシステムでは、気象モデルに基づいて計算された風速シミュレーション結果に対して水平風速成分に対応する2次元の観測データのみを同化しており、鉛直風速成分に対応する観測データを同化していない。そのため、従来のシステムにおいて、気象モデルに基づくシミュレーションに対して水平方向の風速観測データを2次元的に同化すると、鉛直方向の風速成分に関して不自然なシミュレーション結果が得られてしまう場合がある。具体的には、気象モデルに基づく風速シミュレーション結果に対して鉛直風速成分の観測値を考慮しないでデータ同化を行うと、気象モデルによって想定されるはずのない以下のような不自然な鉛直風速成分が現れたりする。例えば、雨雲形成のための上昇気流が発生しない低い高度の地表付近において通常は想定されない強い上昇風や下降風の発生がデータ同化によって推定される場合がある。また、例えば、鉛直風速成分の観測値を考慮しないデータ同化を行った場合に推定される鉛直方向の風速推定値が、データ同化を行わない場合に推定される鉛直風速成分と極端に乖離してしまう場合が生じ得る。
そこで、上述した同化用風速データ生成ステップにおいては、以下のようにして鉛直方向の風速成分を含んだ3次元の同化用風速データを生成する。つまり、同化用風速データ生成モジュール12は、観測地点60(60A〜60C)で実際に観測された水平方向成分の風速観測データ54(54A〜54C)と、観測地点60(60A〜60C)における3次元の風速推定データ50(50A〜50C)に含まれる鉛直風速成分Wを組み合わせて、観測地点60A〜60Cにおける3次元の同化用風速データ51(51A〜51C)を生成する。
同化用風速データ生成ステップにおいて以上のようにして生成された3次元の同化用風速データ51(51A〜51C)は、同化モジュール13に渡され、同化モジュール13が実行する同化ステップでは、3次元の同化用風速データ51(51A〜51C)を使用して以下のような同化計算を実行する。すなわち、同化モジュール13は、観測地点60A〜60Cにおける同化用風速データ51(51A〜51C)に基づいて、対象エリア67における3次元の風速推定データ50(50A〜50C)を同化して図2に示す同化済みの3次元風速データ52(52in,52out)を取得する。すなわち、上記同化計算においては、事前計算ステップにより推定された風速推定データ50(50A〜50C)の鉛直風速成分Wと実際に観測された水平方向の風速観測データ54(54A〜54C)とを組み合わせて生成した3次元の同化用風速データ51(51A〜51C)により3次元的なデータ同化を行う。より具体的には、対象エリア67内の3次元空間格子を構成する複数の格子点に3次元的に配置された一群の風速推定データ50(50A〜50C)に対して、上記のように生成した3次元の同化用風速データ51(51A〜51C)を観測地点60(60A〜60C)に相当する位置に同化する形で、3次元的なデータ同化を行う。
従って、図1乃至図4を参照しながら上述した実施形態によれば、気象シミュレーションに対してデータ同化を行う際の風速観測値として水平風速成分のみが取得可能であったとしても、鉛直風速成分に関して現実の気象現象との間の矛盾が少ない計算結果を出力可能な気象データ同化方法を得ることができる。その結果、気象シミュレーションに対して水平風速成分に関する観測値のみを同化させることにより、水平風速成分に関して現実の観測値を反映した計算結果が得られる一方で、鉛直風速成分に関する同化計算結果が現実の気象現象と整合しなくなるという問題点を解決することができる。
例示的な一実施形態では、対象エリア67(図3)内における3次元の風速推定データ50を算出するために、事前計算モジュール11は、事前計算ステップにおいて以下のように初期条件/境界条件22を使用しても良い。事前計算モジュール11が気象モデル21を参照することによって、気象シミュレーションを実行し、所定の時間範囲にわたる気象現象の推移を模擬的に実行する際、気象モデル21は、大気に関する物理法則を記述する微分方程式を含む。例えば、気象モデル21は、上述した微分方程式として、対象エリア67内における風速を記述する3次元流体運動方程式を含む。そのため、事前計算モジュール11は、上述した3次元流体運動方程式などの微分方程式を解く際に必要となる初期条件として記憶部20上に記憶された初期条件/境界条件22を参照する。
一例においては、演算部10Aは、以下のようにして、GPV配信サーバ2から受信したGPVデータを初期条件/境界条件22として使用して気象シミュレーションを実行してもよい。例えば、GPV配信サーバ2から通信部30を介してGPVデータを受信すると、演算部10Aは、GPVデータによって与えられる風速データを記憶部20上の初期条件/境界条件22に設定する。その上で、演算部10は、気象モデル21に基づいてGPVデータのデータ粒度よりも時間的/空間的により細かい数値シミュレーションを行う。その際、演算部10Aは、初期条件/境界条件22に設定されたGPVデータを初期条件として使用して、気象モデル21に含まれる上記微分方程式を解き、上記微分方程式の解から風速や風向の変化を含む大気の物理的挙動(熱力学的挙動を含む)を推定する。
なお、演算部10Aが初期条件/境界条件22としてGPV配信サーバ2から受信したGPVデータを使用する場合においては、気象予測システム1は以下のような利点を提供ことができる。すなわち、GPVデータは、特定の地理的エリア内において2次元格子状に分布した複数地点における気象データを含むが、GPVデータが配信される時間間隔は数時間程度であり、上記2次元格子の格子間隔は数km程度であるので、狭い地域の詳細な気象予測を行うにはデータが粗すぎる。そこで、気象予測システム1において、演算部10Aが上記のような数値シミュレーションを実行することにより、GPVデータのデータ粒度よりも時間的/空間的に細かい気象データが推定されるので、GPVデータのデータ粒度の粗さを補間することが可能となる。
例示的な一実施形態において、図1乃至図4を使用して上述した気象データ同化方法は、図5に示すフローチャートに従って実行されても良い。図5に示すフローチャートは、図1に示す演算部10A内の事前計算モジュール11、同化用風速データ生成モジュール12および同化モジュール13によって実行される例示的な気象データ同化方法の詳細な実行手順を示している。図5のフローチャートは、まず、ステップS11から開始し、ステップS11では、事前計算モジュール11により事前計算ステップが実行される。具体的には、事前計算ステップでは、気象モデル21に基づいて、第1期間における各時刻について、少なくとも一つの観測地点60(60A〜60C)を含む対象エリア67(図3)における3次元の風速推定データ50(Ue,Ve,We)を算出する。
続いて、図5に示すフローチャートの処理は、ステップS12に進み、事前計算モジュール11は、少なくとも一つの観測地点60(60A〜60C)について算出した3次元の風速推定データ50(Ue,Ve,We)から鉛直風速成分の計算結果Weを抽出する。他方、図5に示すフローチャートでは、ステップS11およびステップS12の実行と並行して、ステップS13において、同化用風速データ生成モジュール12は、観測機器3(3A〜3C)から水平方向成分の2次元の風速観測データ(Um,Vm)を取得する。
続いて、図5に示すフローチャートの処理は、ステップS14に進み、事前計算モジュール11から3次元の風速推定データ50を受け取った同化用風速データ生成モジュール12は、同化用風速データ生成ステップを実行する。具体的には、同化用データ生成ステップでは、観測地点60で観測された水平方向成分(Um,Vm)の風速観測データ54と、観測地点60における3次元の風速推定データ50に含まれる鉛直風速成分Weを組み合わせて、観測地点60における3次元の同化用風速データ51を生成する。続いて、図5に示すフローチャートの処理は、ステップS15に進み、同化用風速データ生成モジュール12から同化用風速データ51を受け取った同化モジュール13は、同化ステップを実行する。具体的には、同化ステップでは、観測地点60A〜60Cにおける同化用風速データ51に基づいて、対象エリア67における3次元の風速推定データ50を同化して図2に示す同化済みの3次元風速データ52を取得する。
続いて、図5に示す気象データ同化方法では、対象エリア67内の評価地点61において、同化モジュール13が同化ステップを実行することにより算出した同化済みの3次元風速データ52と実際の3次元風速値とを比較し、両者がどの程度一致しているかを表す一致精度を評価してもよい。具体的には、ステップS15の実行に続いて、図5に示すフローチャートの処理は、ステップS16に進み、同化モジュール13は、以下の評価ステップを実行する。すなわち、評価ステップでは、対象エリア67内の評価地点61において、同化モジュール13が同化ステップを実行することにより算出した同化済みの3次元風速データ52と実際の3次元風速値とを比較し、両者がどの程度一致しているかを表す一致精度を評価する。
つまり、当該評価ステップにおいては、まず、対象エリア67内の評価地点61における水平方向成分の前記風速観測データ(Um,Vm)と、同化済みの3次元風速データ52のうち評価地点における水平方向成分の前記風速推定データと比較する。続いて、当該比較の結果に基づいて、同化済みの3次元風速データ52と風速観測データ54との一致精度を評価する。
最後に、図5に示すフローチャートの処理は、ステップS17に進み、同化モジュール13は、ステップ15の同化ステップにおいて算出された同化済みの3次元風速データ52を初期条件生成モジュール14に出力する。ステップ15の同化ステップにおいて算出された同化済みの3次元風速データ52を使用して、初期条件生成モジュール14および風速予測モジュール15によって実行される後続の処理については図6を参照しながら後述する。
図5を参照して上述した実施形態においては、少なくとも一つの観測地点60を含む対象エリア67内において、評価地点61が設定され、評価地点61においては、図5に示すフローチャートのステップS11〜S15により得られた同化済みの3次元風速データ52が風速観測データ54とどの程度一致するかが評価される。従って、この実施形態によれば、気象モデル21に基づく風速推定データ50に対して図5のステップS11〜S15に従って風速に関するデータ同化を行って同化済みの3次元風速データ52が得られた場合に、同化済み風速データ52が実際に観測される風速観測データ54とどの程度近いかを評価することができる。その結果、この実施形態によれば、データ同化により得られた同化済みの3次元風速データ52の精度を表す指標を得ることができる。
次に、本発明の幾つかの実施形態に係る気象予測方法は、図1乃至図5を参照しながら上述した気象データ同化方法において実行された同化計算の結果を使用して以下のとおりに実行される。すなわち、当該気象データ同化方法において同化モジュール13が同化ステップを実行することにより算出した同化計算結果を使用して演算部10A内の初期条件生成モジュール14と風速予測モジュール15が以下の処理を実行する。まず、初期条件生成モジュール14は、初期条件生成ステップを実行する。初期条件生成ステップでは、上記同化ステップにより取得された、第1期間における同化済みの3次元風速データ52(52in,52out)に基づいて、第1期間よりも後の第2期間の開始時点における初期条件が生成される。続いて、初期条件生成モジュール14は、上記生成した初期条件を風速予測モジュール15に渡し、風速予測モジュール15は、風速予測ステップを実行する。風速予測ステップでは、初期条件生成ステップにおいて生成された初期条件に基づいて、第2期間内の各時刻において、気象モデル21に基づいて対象エリア67における3次元の風速予測データを時系列的に算出する処理が実行される。
上述した気象予測方法の実行開始前においては、同化モジュール13が実行する同化ステップにおいて、第1期間にわたって3次元の同化用風速データ51を使用して3次元の風速推定データ50に対して同化計算が既に実行されている。従って、上述した気象予測方法の実行開始前において、第1期間にわたる気象シミュレーションの精度が向上させられている。続いて、上述した気象予測方法においては、当該精度を向上させたシミュレーション結果を初期条件として設定した上で、第1期間よりも後の第2期間にわたって、3次元の風速推定データを推定する気象シミュレーションを実行する。以上より、上述した気象予測方法によれば、第2期間における気象シミュレーションを行うために設定される初期条件の精度が、第2期間に先立つ第1期間における同化計算により改善されているので、第2期間におけるシミュレーション精度も改善されることが期待される。
次に、上述した気象予測方法のうち、実用性が高いと考えられる例示的な具体例について、図6を使用して説明する。図6に示す例示的な一実施形態では、上述した気象予測方法において、第1期間71を過去の特定の時点T1から現在時刻までの期間とし、第2期間72を現在時刻から未来の時点T2までの期間とすると、以下のような気象予測計算が実行される。ここで、図6は、過去の気象に関する気象シミュレーション結果に基づく初期条件を使用して将来の気象予測を行う処理を時間軸に沿って説明するタイミング図である。
図6に示すように、まず、事前計算モジュール11は、GPV配信サーバ2から通信部30を介して受信したGPVデータ81に基づいて第1期間71にわたって実行される事前計算ステップを開始するのに必要な初期条件82を生成する。続いて、事前計算モジュール11は、第1期間71にわたって初期条件82に基づいて事前計算ステップを実行し、3次元の風速推定データ50を算出する。続いて、同化用風速データ生成モジュール12および同化モジュール13が、過去から現在までの第1期間71内に同化用風速データ51を使用して3次元の風速推定データ50に対して同化計算(図6に示す気象シミュレーション73)を行う。その結果、第1期間71が終了する時刻である現在時刻において、同化済みの3次元風速データ52(52in,52out)を含む同化済みの気象シミュレーション結果83が取得されることとなる。続いて、初期条件生成モジュール14は、初期条件生成ステップを実行することにより、同化済みの3次元風速データ52(52in,52out)を含む同化済みの気象シミュレーション結果83から初期条件84を生成し、記憶部20内の初期条件/境界条件22に格納する。続いて、初期条件生成モジュール14は、上記生成した初期条件84を、第2期間72にわたって実行される気象シミュレーションを開始するための初期条件として設定する。
続いて、初期条件生成モジュール14は、上記生成した初期条件を風速予測モジュール15に渡し、風速予測モジュール15は、風速予測ステップを実行する。風速予測ステップでは、上記生成された初期条件84に基づいて、第2期間72内の各時刻において、気象モデル21に基づいて対象エリア67における3次元の風速予測データを時系列的に算出する気象シミュレーション(図6に示す気象シミュレーション74)が実行される。最後に、風速予測モジュール15は、初期条件84に基づいて第2期間72にわたって実行した気象シミュレーションにより得られたシミュレーション結果85から気象予測86を生成し、出力部40を介して気象予測86を表示装置4に出力し、画面表示する。
以上より、図6を参照して上述したこの実施形態によれば、現在時刻における3次元風速データの推定精度を改善することができる。その上で、この実施形態では、当該推定精度が改善された現在時刻における3次元風速データに基づいて現時点以降の風速予測データをシミュレーションにより算出するための初期条件として設定し、当該初期条件に基づいて、現時点以降の風速予測データをシミュレーションにより算出する。以上より、この実施形態によれば、3次元風速データに関して過去から現在まで実行される気象シミュレーションにデータ同化を行ってシミュレーション結果の精度を改善し、当該シミュレーション結果を初期条件に設定して未来の気象シミュレーションを行うことができる。その結果、この実施形態によれば、3次元風速データに関して気象予測の予測精度を向上させることができる。
例示的な一実施形態では、気象モデル21において、大気に関する物理法則に従って風速及び風向が時間変化を、対象エリア67内の場所に応じて記述する3次元流体運動方程式は、以下のように定式化されても良い。すなわち、事前計算ステップにおいて、事前計算モジュール11は、第1期間における各時刻について以下の式(1−1)乃至(1−3)で表される3次元流体運動方程式を時系列的に解くことにより、3次元の風速推定データ50(図2)を数値解析的に算出してもよい。
ここで、UおよびVは、それぞれX軸方向に沿った風速とY軸方向に沿った風速を表し、水平方向の風速成分に相当する。また、Wは、Z軸方向に沿った風速を表し、鉛直方向の風速成分を表す。従って、上記式(1−1)〜(1−3)の解として算出される3次元ベクトル(Ue,Ve,We)の値は、事前計算ステップにおいて事前計算モジュール11が算出した3次元の風速推定データの風速ベクトル表現に相当する。また、∂xおよび∂yは、それぞれX軸方向に沿った変位量およびY軸方向に沿った変位量を表し、水平方向の変位量に相当する。また、∂zは、Z軸方向に沿った変位量を表し、鉛直方向の変位量に相当する。また、上記式(1−1)〜(1−3)において、gは重力加速度を表し、θは温位(単位K)、θvは仮温位(単位K)を表し、fはコリオリ・パラメータ(無位数)、π’は標準状態におけるエクスナー関数(無次元化された気圧)の値の変動量を表し、KmhおよびKmvは、水平方向および鉛直方向にそれぞれ対応する渦粘性係数(無位数)を表す。以上より、対象エリア67内における風速と風向の時間変化を記述する3次元流体運動方程式(1−1)〜(1−3)は、空間変位量(∂x,∂y,∂z)を使用して、3次元の風速推定データを表す3次元ベクトル(U,V,W)の時間変化を記述する3元連立偏微分方程式として定式化されている。
上記式(1−1)〜(1−3)で定義される3元連立偏微分方程式を解くためには、以下の制約条件式を考慮しても良い。
上記式(2)は、大気に関する物理法則として、質量保存則を規定するものであり、Rは気体定数(単位J/K/mol)、π
0およびπ’は標準状態におけるエクスナー関数(無次元化された気圧)の値およびエクスナー関数の値の変動量を表し、c
vは定積比熱(単位J/K/kg)、ρ
0は、標準状態における空気密度(単位kg/m
3)を表し、θ
0は、標準状態における温位(単位K)を表す。
例示的な一実施形態では、事前計算モジュール11が上記式(1−1)〜(1−3)に基づいて算出した3次元の風速推定データ50に対して、同化モジュール13が同化ステップにおいて同化用風速データ51を同化する処理は、以下のように実行されても良い。すなわち、同化モジュール13が実行する同化ステップにおいて、観測地点60(60A〜60C)における同化用風速データ51を用いて、ナッジング係数Gに従ってナッジング法により3次元の風速推定データ50を同化する。
具体的には、事前計算モジュール11が上記式(1−1)〜(1−3)に基づいて算出した3次元の風速推定データ50をu=(U
e,V
e,W
e)とし、同化用風速データ生成モジュール12が生成した3次元の同化用風速データ51をu
obs=(U
m,V
m,W
e)とし、ナッジング係数をGとすると、同化計算によって同化された同化済みの3次元風速データ52であるu
assの時間変化量は以下のように求められる。
ここで、F(u)は、3次元の風速推定データ50をu=(Ue,Ve,We)を上記式(1−1)〜(1−3)に基づいて算出するための関数である。以上より、上記式(3)に基づいて、3次元の風速推定データ50であるu=(Ue,Ve,We)と同化用風速データ生成モジュール12であるuobs=(Um,Vm,We)から、同化済みの3次元風速データ52であるuassの時間変化量が得られる。従って、当該時間変化量を、同化ステップによって実行される同化計算の開始時刻から、それよりも後の時刻である時刻tまで時間積分することにより、時刻tにおける3次元風速データ52であるuassの値を算出することができる。
ナッジング係数Gは、気象モデル21に基づいて対象エリア67内の3次元空間格子を構成する各格子点についてそれぞれ算出された一群の風速推定データ50に対して同化用風速データ51を同化する際の重み付け係数に相当する。なお、ナッジング係数Gは、対象エリア67内において、同化用風速データ51に対応する観測地点60’からの距離dが大きくなるに従って減少する距離の関数として定義されても良い。例えば、同化用風速データ51に対応する観測地点60’を図2に示す円ERの中心とした場合、ナッジング係数Gは、以下のように定義されても良い。すなわち、風速推定データ50に対する同化用風速データ51の同化の強さが、図2に示す円ERの中心からの距離dに応じて減少するようにナッジング係数Gを定義しても良い。さらに、図2に示す円ERの外側では、当該同化の強さが顕著が小さくなるようにナッジング係数Gを定義しても良い。
ナッジング係数Gが大きすぎれば、同化用風速データ51のデータ同化によって観測地点60において不自然な鉛直風速成分が現れる。すなわち、ナッジング法により3次元の風速推定データ50を同化する場合、ナッジング係数Gが大きすぎれば、風速観測データ54とのデータ同化を行うことによって、同化計算結果と現実の気象現象との間の整合性が損なわれる。逆に、ナッジング係数Gが小さすぎれば、事前計算モジュール11による風速推定データ50の推定精度の改善が不充分となる。すなわち、ナッジング係数Gが小さすぎれば、データ同化による気象シミュレーション精度の改善が不充分となる。従って、ナッジング係数Gを用いたナッジング法に基づいて、3次元の風速推定データ50に対する同化用風速データ51の同化を行って同化済みの3次元風速データ52を得る際には、ナッジング係数Gが適切な値となるように調整することが有益である。
そこで、例示的な一実施形態では、同化済みの3次元風速データ52が実際の3次元風速値とどの程度一致しているかを表す一致精度を評価し、当該一致精度が所定の条件を満たすか否かに応じてナッジング係数Gを適応的に補正する。具体的には、まず、図6に示すステップS16と同様にして、評価地点61において、同化モジュール13が同化ステップを実行することにより算出された同化済みの3次元風速データ52が実際の3次元風速値とどの程度一致しているかを表す一致精度を評価する。もしも、上述した一致精度が所期の第1条件を満たさない場合、同化モジュール13は、ナッジング係数Gを補正する係数補正ステップをさらに実行し、当該補正されたナッジング係数G’を用いて、同化ステップにおける同化計算を繰り返す。例えば、上述した一致精度が所定の閾値(下限値)を下回る場合、同化モジュール13は、ナッジング係数Gを補正する係数補正ステップをさらに実行し、当該補正されたナッジング係数G’を用いて、同化ステップにおける同化計算を繰り返す。なお、係数補正ステップにおいて補正された補正後のナッジング係数G’を用いて、同化ステップにおける同化計算を繰り返す処理を気象予測システム1が実行する気象データ同化方法に組み込んだ場合の全体的な処理フローについては、図7および図8を使用して後述する。以上より、この実施形態によれば、ナッジング法に基づく同化計算により得られた同化済み風速データ52と実際に観測される風速観測データ54との間の一致精度が良好ではないならば、ナッジング係数Gをより適正な値となるように補正することができる。
ところで、図1乃至図5を使用して上述した実施形態では、同化ステップにおいて同化用風速データ51の鉛直風速成分Weとして使用されるデータは、データ同化を全く行わない事前計算ステップにより得られたものである。つまり、図1乃至図5を使用して上述した実施形態では、同化ステップにおいてデータ同化に先立って用いられる同化用風速データ51の鉛直風速成分Weは、水平風速成分について実際に観測された風速観測データ54とは無関係に計算された推定値である。従って、同化用風速データ51の鉛直方向成分が現実の風速観測結果を充分忠実に反映しているとは言えない。
そこで、図1乃至図5を使用して上述した気象データ同化方法において、以下のような追加的な処理をさらに実行することにより、上記問題に対処することが考えられる。まず、同化ステップによって一旦同化された後の同化済みの3次元風速データ52から鉛直風速成分を抽出する。続いて、当該抽出した鉛直風速成分を同化用風速データ51に含めるべき鉛直風速成分として使用してその後の同化計算を再度行う再同化ステップを実行する。上述した同化ステップに加えて上記のような再同化ステップを実施する方が、再同化ステップを行わない場合と比べて、同化用風速データ51の鉛直方向成分が現実の風速観測結果をより忠実に反映していると言える。
上記のように、同化ステップに加えて上述した再同化ステップをさらに実施するために、本発明に係るさらに別の実施形態に係る気象同化方法は、図7に示す気象予測システム1上の演算部10Bによって図8に示すフローチャートに従って実行されても良い。図7に示す演算部10Bは、再同化モジュール16を追加的に備えている。再同化モジュール16は、同化モジュール13による同化ステップの実行に続く追加的な処理として、以下のとおり後述する同化用データ更新ステップおよび再同化ステップを実行するための機能モジュールである。上述した再同化モジュール16を除いて、図7に示す演算部10Bのその他の構成は、図1に示す演算部10Aの構成とほぼ同様であるため、説明を省略する。
この実施形態に係る気象データ同化方法は、事前計算ステップ、同化用風速データ生成ステップおよび同化ステップに加えて、以下において後述する同化用データ更新ステップと再同化ステップとをさらに備える。同化用データ更新ステップでは、観測地点60で観測された水平方向成分の風速観測データ54と、同化済みの3次元風速データ52のうち観測地点60における鉛直方向成分の風速推定データ50と、を組み合わせたデータにより、同化用風速データ51が更新され、更新後の同化用風速データ55が得られる。再同化ステップでは、観測地点60における更新後の同化用風速データ55を用いて、3次元の前記風速推定データ50の同化計算を再び行って、同化済みの3次元風速データ52が更新されて更新後の同化済みの3次元風速データ52’が得られる。
以下、図8のフローチャートに従って、この実施形態に係る気象同化方法の詳細な実行手順を説明する。図8のフローチャートは、まず、ステップS21から開始し、事前計算モジュール11は、ステップS21で事前計算ステップを実行した後に、ステップS22において、観測地点60(60A〜60C)について算出した3次元の風速推定データ50(Ue,Ve,We)から鉛直風速成分の計算結果Weを抽出する。他方、ステップS21およびS22の実行と並行して、ステップS23において、同化用風速データ生成モジュール12は、観測機器3(3A〜3C)から水平方向成分の2次元の風速観測データ(Um,Vm)を取得する。図6に示すフローチャートとは異なり、図8に示すフローチャートにおいては、ステップS23で取得された水平方向成分の2次元の風速観測データ(Um,Vm)は、ステップS23の直後に続いて実行されるステップS24に対してだけでなく、そのさらに後に実行されるステップS26に対しても出力される。
続いて、図8に示すフローチャートの処理は、ステップS24に進み、事前計算モジュール11から3次元の風速推定データ50を受け取った同化用風速データ生成モジュール12は、同化用風速データ生成ステップを実行する。具体的には、同化用データ生成ステップでは、観測地点60で観測された水平方向成分(Um,Vm)の風速観測データ54と、観測地点60における3次元の風速推定データ50に含まれる鉛直風速成分Weを組み合わせて、観測地点60における3次元の同化用風速データ51を生成する。続いて、図8に示すフローチャートの処理は、ステップS25に進み、同化用風速データ生成モジュール12から同化用風速データ51を受け取った同化モジュール13は、同化ステップを実行する。具体的には、同化ステップでは、観測地点60A〜60Cにおける同化用風速データ51に基づいて、対象エリア67における3次元の風速推定データ50を同化して同化済みの3次元風速データ52を取得する。
続いて、図8に示すフローチャートの処理は、ステップS26に進む。ステップS26では、再同化モジュール16は、同化モジュール13から同化済みの3次元風速データ52を受け取ると共に、同化用風速データ生成モジュール12からステップS23において取得された水平風速成分の風速観測データ(Um,Vm)を受け取る。その上で、再同化モジュール16は、以下の同化用データ更新ステップを実行する。同化用データ更新ステップでは、観測地点60で観測された水平方向成分の風速観測データ54と、同化済みの3次元風速データ52のうち観測地点60における鉛直方向成分の風速推定データ50と、を組み合わせたデータにより、同化用風速データ51が更新され、更新後の同化用風速データ55が得られる。続いて、図8に示すフローチャートの処理は、ステップS27に進み、再同化モジュール16は、以下の再同化ステップを実行する。再同化ステップでは、観測地点60における更新後の同化用風速データ55を用いて、3次元の前記風速推定データ50の同化計算を再び行って、同化済みの3次元風速データ52が更新されて更新後の同化済みの3次元風速データ52’が得られる。
続いて、図8に示すフローチャートの処理は、ステップS28に進み、再同化モジュール16は、再同化ステップ(図8のステップS27)における再同化計算によって上記のように更新された同化済みの3次元風速データ52’が所期の第2条件を満すか否かを判定する。当該再同化計算によって更新された同化済みの3次元風速データ52’が所期の第2条件を満たさない場合、フローチャートの処理はステップS26に戻り、同化用データ更新ステップ(図8のステップS26)及び再同化ステップ(図8のステップS27)が繰り返し実行される。なお、ステップS28において、第2条件は、再同化計算によって更新された同化済みの3次元風速データ52’と3次元の前記風速推定データ50との乖離が規定範囲内であること、または、再同化計算によって更新された同化済みの3次元風速データ52’における鉛直方向成分が規定範囲内であること、の少なくとも一方を含む。
上述したとおり、再同化モジュール16が再同化ステップを実行することで、鉛直風速成分に関して現実の気象現象との整合性が一層向上することが期待できる。そこで、当該再同化ステップを所期の第2条件を満たすようになるまで繰り返し実行することにより、鉛直風速成分に関して同化計算の結果と現実の気象現象との整合性の度合いが所定の目標基準を達成するまで再同化ステップを繰り返し実行させることが可能となる。
続いて、図8に示すフローチャートの処理は、ステップS29に進み、再同化モジュール16は、対象エリア67内の評価地点61において、再同化ステップを実行することにより更新された同化済みの3次元風速データ52’と実際に観測された3次元の風速観測データ54とを比較し、両者がどの程度一致しているかを表す一致精度を評価する。続いて、再同化モジュール16は、上述した一致精度が所期の第1条件を満たすか否かを判定する。
もしも、上述した一致精度が所期の第1条件を満たす場合には、フローチャートの処理は、ステップS31に進み、再同化ステップにより更新された同化済みの3次元風速データ52’を初期条件生成モジュール14に出力し、図8のフローチャートの実行を終える。なお、上記更新された同化済みの3次元風速データ52’が初期条件生成モジュール14に出力されると、初期条件生成モジュール14と風速予測モジュール15は、例えば、図5に例示した気象予測方法などを実施するために、上記更新された同化済みの3次元風速データ52’を使用する。
逆に、上述した一致精度が所期の第1条件を満たさない場合、フローチャートの処理は、ステップS30に進み、再同化モジュール16は、ナッジング係数Gを補正する係数補正ステップをさらに実行する。続いて、フローチャートの処理は、ステップS24に戻り、当該補正されたナッジング係数G’を用いて、同化ステップ(図8のステップS25)における同化計算が繰り返される。例えば、上述した一致精度が所定の閾値(下限値)を下回る場合、再同化モジュール16は、ナッジング係数Gを補正し(図8のステップS30)、当該補正されたナッジング係数G’を用いて、同化ステップ(図8のステップS25)における同化計算を繰り返す。
以上より、図7および図8を使用して上述した実施形態によれば、同化モジュール13が実行する同化ステップに続いて、再同化モジュール16が再同化ステップを行う。従って、図7および図8を使用して上述した実施形態によれば、鉛直風速成分に関して、気象シミュレーション結果と現実の気象現象との間における整合性が一層向上することが期待される。その理由は以下のとおりである。
同化ステップにおいて同化用風速データ51の鉛直風速成分Weとして使用されるデータは、データ同化を全く行わない事前計算ステップにより得られたものである。これに対し、再同化ステップにおいて同化用風速データ55の鉛直風速成分として使用されるデータは、同化ステップによって一旦同化された後の同化済みの3次元風速データ52から抽出されるものである。つまり、同化ステップにおいてデータ同化に先立って用いられる同化用風速データ51の鉛直風速成分は、水平風速成分の観測データ54とは無関係に計算された推定値である。これに対して、同化ステップの実行後に再同化ステップにおいて用いられる更新後の同化用風速データ55の鉛直風速成分は、同化ステップの実行を介して水平風速成分の風速観測データ54が既に反映された鉛直風速成分である。
従って、再同化ステップにおいて更新後の同化用風速データ55として用いられる鉛直風速成分を同化計算に使用する方が、同化ステップにおいて同化用風速データ51として用いられる鉛直風速成分を同化計算に使用するよりも、現実に観測された風速値との整合性が得られやすい。
図1乃至図8を使用して上述した実施形態において、機能モジュール11〜16は、演算部10Aおよび10Bが実行する並行プロセスや並列スレッドではなく、相互に接続された複数の電子回路として実現することも可能である。また、気象モデル21は、風速や風向に関する物理法則を規定する流体運動モデルのみならず、放射収支をモデル化する熱力学の式、水の相変化、降水過程に関する水蒸気保存則、質量保存則、地球の自転により生じるコリオリ力に関する運動方程式、その他のモデル式を含んでいても良い。