(発明が解決しようとする課題)
特許文献1に記載の超電導モータによれば、収容空間内にステータが収容されているので、冷凍機からの冷熱は、超電導体により構成される部材のみならず超電導体ではないステータをも冷却する。このため、ステータを冷却するための冷熱の分だけ超電導体により構成される部材を冷却するための冷熱が減少する。その結果、超電導体により構成される部材(コイル、ロータ)が超電導遷移温度以下の温度に低下するまでの時間が長期化する。つまり、特許文献1に記載の超電導モータは、超電導体により構成される部材の冷却時間が長いという問題を有する。また、特許文献1に記載の超電導モータによれば、ステータを介して収容空間内の冷媒及び部材が冷却されるように構成されているので、ステータが十分に冷却された後にコイルやロータが冷却される。このような構成である場合、コイル及びロータを速やかに所定の温度にまで低下させることができない。つまり、特許文献1に記載の超電導モータは、超電導体により構成される部材の熱応答性が悪いという問題を有する。熱応答性が悪い場合、コイルの発熱に対して速やかにコイルを冷却することができず、ひいてはコイルに所望の電流を流せなくなるといった不具合を招く虞がある。
本発明は、超電導体により構成される部材、具体的には、コイル及びロータを、短時間で冷却でき、且つ、これらの熱応答性が良好であるように構成された超電導回転電機を提供することを、目的とする。
(課題を解決するための手段)
本発明は、内部に空間が形成されたハウジング(2)と、超電導体により構成され、ハウジング内に配設されるとともに回転可能にハウジングに支持されたロータ(3)と、磁性体により構成され、ハウジング内に固定配置されるとともに、ロータの回転軸に垂直な面内にてロータの表面に対面するようにロータの回転方向に沿って配列する複数のティース(5b)を有するステータ(5)と、超電導体により構成され、隣接するティース間に形成されるスロット(5c)を通過するように、ハウジング内にてティースの周囲に配設されるコイル(6)と、ハウジング内に配設され、ハウジング内の空間を、ステータが配設される第一空間(21)と、ロータとコイルが配設される第二空間(22)とに気密的に区画する区画部材(7)と、を備える、超電導回転電機を提供する。
この場合において、区画部材は、ティースとコイルとの間に配置する隔壁部(7c)を備え、コイルが、隣接するティース間に形成されるスロットを通過するように、第二空間内にて隔壁部に巻回されるとよい。また、隔壁部は、複数のティースの先端面に対面配置する底部(7d)と、隣接するティース間に形成されるスロットに突出するように底部からロータの径方向に沿って延設された突出部(7e)とを備え、コイルが、隣接するティース間に形成されるスロットを通過するように、第二空間内にて突出部に巻回されるとよい。
本発明によれば、超電導モータのハウジング内の空間が、区画部材によって、第一空間と第二空間とに気密的に区画される。第一空間内には磁性体により構成されるステータが配設され、第二空間内には超電導体により構成されたロータ(例えばロータのロータバー、エンドリング)及びコイルが配設される。従って、第二空間内の空間を冷却することにより、超電導体により構成されるロータ及びコイルを冷却することができる。ここで、第二空間内にはステータが配設されていないので、第二空間内に配設されている部材を冷却するにあたり、ステータを冷却しなくてもよい。よって、特許文献1と比較して、ステータを冷却しなくてもよい分だけ、超電導体により構成されたロータ(例えばロータのロータバー、エンドリング)及びコイルを速やかに冷却することができる。また、本発明によれば、第二空間内にステータが配設されていないので、第二空間内の冷媒をステータを介することなく冷却することができる。そして、ステータを介することなく冷却された冷媒によってロータ及びコイルを冷却することができる。つまり、ロータ及びコイルへの冷熱伝達経路にステータが介入されない。よって、ロータ及びコイルの熱応答性は、これらがステータを介して冷却される場合における熱応答性に比較して、高い。このように、本発明によれば、コイル及びロータを短時間で冷却でき、且つ、これらの熱応答性が良好であるように構成された超電導回転電機を提供することができる。
また、ロータは円筒状の外周面(3b)を備え、ティースは、ロータの外周面に対面するように、ロータの外周側に配設されるとよい。また、区画部材は、ロータの一方の端面側からコイル及びロータを覆うように構成された第一キャップ部(7a)と、ロータの他方の端面側からコイル及びロータを覆うように構成された第二キャップ部(7b)とを備え、隔壁部は、ロータの外周側からコイル及びロータを覆うように円筒状に構成されるとよい。そして、隔壁部の一方の端部に第一キャップ部が気密的に接続され、隔壁部の他方の端部に第二キャップ部が気密的に接続されることにより、第一キャップ部、第二キャップ部、及び隔壁部により囲まれた第二空間が形成されるとよい。
これによれば、ステータの内周側にロータが配置している場合において、第一キャップ部、第二キャップ部、及び隔壁部により構成される第二空間内に、超電導体により構成されるロータ及びコイルを配設することができる。
また、第二空間に、ロータ及びコイルを構成する超電導体の超電導遷移温度以下の温度の冷媒が充填されているとよい。これによれば、第二空間内の冷媒によりロータ及びコイルが冷却されることにより、ロータ及びコイルを超電導状態にさせることができる。
また、第二空間の外方側に第一空間が形成されており、第一空間が真空状態にされているとよい。すなわち、第二空間が第一空間に囲まれており、且つ、第二空間を囲っている第一空間が真空状態にされているとよい。これによれば、第二空間が第一空間により真空断熱状態にされるため、第二空間内の温度を超電導遷移温度以下の温度に維持することができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る超電導モータ1(超電導回転電機)の回転軸であるシャフト4の軸方向(回転軸P1方向)を含む一平面で切断した超電導モータ1の断面図である。また、図2は、図1のII−II断面図、図3は図1のIII−III断面図である。また、図4は、図2のIV部拡大図であり、図5は、図1のV部拡大図である。この超電導モータ1は誘導モータである。図1に示すように、超電導モータ1は、ハウジング2と、ロータ3(回転子)と、シャフト4(回転軸)と、ステータ5(固定子鉄心)と、コイル6(固定子コイル)と、内部容器7とを備える。内部容器7が本発明の区画部材に相当する。
ハウジング2は、モータを作動させるための主要部品が内部に収容される筐体であり、金属(例えばステンレス、アルミニウム)、FRP(繊維強化樹脂)またはセラミックスで形成される。ハウジング2は、中央に円孔2dが形成された円板状の蓋部2aと、中央に円孔2eが形成された円板状の底部2bと、側周部2cとを有する。蓋部2aと底部2bは対面配置しており、側周部2cは、蓋部2aの周縁と底部2bの周縁とを接続するように円筒形状に形成される。ハウジング2の内部には空間が形成される。ハウジング2の内部に、ロータ3、シャフト4、ステータ5、コイル6、及び内部容器7が配設される。
ロータ3は、誘導モータに通常用いられるような籠形円筒形状を呈しており、周知のように、一対の対向配置するエンドリングと、一対のエンドリングを接続する複数のロータバーとを備える。複数のロータバーは、エンドリングの周方向に沿って等間隔に配設される。このロータ3のロータバー、エンドリングは超電導体により構成される。
回転軸P1に垂直な面内におけるロータ3の断面形状は、図2に示すようにリング形状である。また、籠形円筒形状のロータ3の内周面3aの一部に、軸方向に延びるキー溝が形成される。また、ロータ3の内周側にシャフト4がロータ3と同軸的に配設されており、このシャフト4の外周壁の一部にも、軸方向に延びるキー溝が形成されている。そして、ロータ3のキー溝とシャフト4のキー溝が対面配置するようにロータ3とシャフト4が同軸的に配置される。これにより、ロータ3のキー溝とシャフト4のキー溝とにより囲まれた断面矩形状の空間が両部材3,4の軸方向に延びるように形成される。この断面矩形状の空間内にキーKが嵌め込まれることによって、ロータ3とシャフト4が一体的に同軸回転可能に結合される。
図1に示すように、シャフト4の内部は、軽量化のため部分的に中空状にされている。また、シャフト4の一方の端部4aは、ハウジング2の底部2bの円孔2eを形成する内周壁面に嵌め込まれた第一ボールベアリング8を介して、ハウジング2の底部2bに回転可能に支持される。なお、底部2bの円孔2eには、キャップ部材2fが外方から被せられる。このキャップ部材2fによって、円孔2eが気密的に封止される。
また、シャフト4の他方の端部4b側の部分は、ハウジング2の蓋部2aに設けられている円孔2dを経由してハウジング2の外方に突出する。ハウジング2の蓋部2aの円孔2dを形成する内周壁面には、第二ボールベアリング9及び磁性流体ベアリング10が並んで取り付けられている。磁性流体ベアリング10は、第二ボールベアリング9よりも、図1において左方、すなわちハウジング2から突出したシャフト4の他方の端部4bに近い側に配設されている。第二ボールベアリング9によって、シャフト4がハウジング2の蓋部2aに回転可能に支持される。従って、第一ボールベアリング8及び第二ボールベアリング9を介して、シャフト4及びこのシャフト4に結合されたロータ3が、回転可能にハウジング2に支持されることになる。このようにしてハウジング2に支持されたシャフト4及びロータ3の回転軸が、図1において回転軸P1として表される。また、磁性流体ベアリング10は、シャフト4を回転可能に支持するとともに、ハウジング2の蓋部2aの円孔2dとシャフト4の外周面との間の隙間を封止する。磁性流体ベアリング10の構成は公知であるので、その具体的説明は省略する。
ステータ5は、ロータ3の外周面3bを覆うようにハウジング2内に配設される。図1に示すように、ステータ5は、ハウジング2の側周部2cの内壁面のうち、回転軸P1の軸方向におけるほぼ中央部分に固定されるように、ハウジング2内に設けられる。ステータ5は、図2に良く示すように、透磁率が高い透磁材料(例えば鉄)で形成された円筒形状をなす本体コア5aと、本体コア5aの内周壁から求心方向に向かって延設した複数のティース5bとを有する。ステータ5は、その本体コア5aの外周面がハウジング2の側周部2cの内壁面に対面接触した状態でハウジング2内の所定位置に固定される。
図2に示すように、ステータ5の複数のティース5bは、本体コア5aの周方向に沿って等間隔に配列している。隣接するティース5b間にスロット5cが形成される。また、複数のティース5bの先端面に囲まれた円柱状の空間が、ステータ5の内周側に形成され、この円柱状の空間にロータ3が同軸状に配置している。従って、ロータ3の外周面3bに、複数のティース5bの先端面が対面する。つまり、複数のティース5bは、ロータ3の回転軸(回転軸P1)に垂直な面内にて、ロータ3の外周面3b(表面)に対面するように、ロータ3の回転方向に沿って配列することになる。
ステータ5は、円板状の積層板を積層することにより形成しても良い。或いは、ステータ5は、絶縁被膜で被覆した多数の鉄粉粒子からなる集合体を固結させたものでも良い。本実施形態においては、ステータ5は、回転軸P1の軸方向に垂直な面内にて複数に分割された分割コアが組み合わされることによって、形成される。
コイル6は、超電導線材(超電導テープ線材)がレーストラック状に巻回されることにより構成される。コイル6は、図2及び図4に示すように、2つの異なるスロット5cを回転軸P1方向に沿って通過するように、ハウジング2内にてティース5bの周囲に配設される。本実施形態においては、ステータ5の周方向に沿って隣り合う2つのティース5bに跨るように、つまり、ある一つのスロットの両隣に配置した2つのスロットを通過するように、コイル6が複数のティース5bの周囲に配設される。
上述したように、ロータ3のロータバー、エンドリング及びコイル6が超電導体により構成される。これらを構成する超電導体として、例えば、イットリウム系、ビスマス系の酸化物超電導体が用いられるが、超電導特性を発揮し得る超電導体であれば、この限りでない。また、ロータ3のロータバー、エンドリング及びコイル6の全てが超電導体により構成されていてもよいし、部分的に超電導体により構成されていてもよい。この場合にも、ロータ3のロータバー、エンドリング及びコイル6が超電導体により構成されているものとする。
また、図1に示すように、ハウジング2内に内部容器7が配設される。内部容器7は、回転軸P1方向に沿って対向配置する第一キャップ部7a及び第二キャップ部7bと、第一キャップ部7aと第二キャップ部7bとの間に配設される隔壁部7cとを備える。
第一キャップ部7aは、ステータ5の配設位置よりも図1において左側(ハウジング2の蓋部2aに近い側)に配設される。この第一キャップ部7aは、中央に円孔が形成されたリング形状を呈しており、その中心軸が回転軸P1に同軸状であるように、ハウジング2内に配置される。第一キャップ部7aの円孔内にはシャフト4が挿通される。そして、第一キャップ部7aは、その円孔内にシャフト4を挿通させた状態で、図1において左側から、すなわちロータ3の一方の端部側からロータ3及びコイル6を覆うように、ハウジング2内に配設される。また、第一キャップ部7aの外周側の部分は、ステータ5に近づく方向に折れ曲がることによって円筒状にされる。円筒状にされた第一キャップ部7aの外周端縁には、その外周端縁から径外方に放射状に延びた第一フランジ11が取り付けられる。
第二キャップ部7bは、ステータ5の配設位置よりも図1において右側(ハウジング2の底部2bに近い側)に配設される。この第二キャップ部7bは、中央に円孔が形成されたリング形状を呈しており、その中心軸が回転軸P1に同軸状であるように、ハウジング2内に配置される。第二キャップ部7bの円孔内にはシャフト4が挿通される。そして、第二キャップ部7bは、その円孔内にシャフト4を挿通させた状態で、図1において右側から、すなわちロータ3の他方の端部側からロータ3及びコイル6を覆うように、ハウジング2内に配設される。また、第二キャップ部7bの外周側の部分は、ステータ5に近づく方向に折れ曲がることによって円筒状にされる。円筒状にされた第二キャップ部7bの外周端縁には、その外周端縁から径外方に放射状に延びた第二フランジ12が取り付けられる。
隔壁部7cは、円筒形状に形成されており、その中心軸が回転軸P1に同軸状であるようにハウジング2内に配置している。また、円筒形状の隔壁部7cの一方の端部には、径外方に放射状に延びた一方側フランジ13が取り付けられており、隔壁部7cの他方の端部には、径外方に放射状に延びた他方側フランジ14が取り付けられている。
そして、図1に示すように、第一キャップ部7aに取り付けられた第一フランジ11と、隔壁部7cの一方の端部に取り付けられた一方側フランジ13とが対面配置され、ボルト等の締結部材、或いは溶接、により、両フランジ11,13が結合される。これによって、第一キャップ部7aと隔壁部7cが気密的に結合される。また、第二キャップ部7bに取り付けられた第二フランジ12と、隔壁部7cの他方の端部に取り付けられた他方側フランジ14とが対面配置され、ボルト等の締結部材、或いは溶接、により、両フランジ12,14が結合される。これによって、第二キャップ部7bと隔壁部7cが気密的に結合される。
内部容器7が上記したようにハウジング2内に配設されている場合、ハウジング2内の空間が、内部容器7に囲われていない第一空間21と、内部容器7によって囲われた第二空間22とに、気密的に区画される。本実施形態においては、内部容器7に囲われていない第一空間21に、ステータ5が配設される。一方、内部容器7に囲われた第二空間22に、ロータ3及びコイル6配設される。すなわち、内部容器7によって、超電導体ではないステータ5が配設される第一空間21と、超電導体により構成されるロータ3及びコイル6が配設される第二空間22が、気密的に区画される。また、図1からわかるように、第二空間22は、第一空間21の内方に位置している。つまり、第二空間22が、第一空間21に内包されている。
図4に良く示すように、隔壁部7cは、ステータ5の内周側に設けられている。隔壁部7cは、互いに対面配置しているロータ3と複数のティース5bとを仕切るように、両者間に配置している。隔壁部7cは、複数のティース5bの先端面に対面配置する底部7dと、隣接するティース5b間に形成されるスロット5cに突出するように底部7dからロータ3の径外方向に向かって延設された突出部7eとを備える。突出部7eは、隣接するティース5b間に形成される全てのスロット5cに突出するように、ロータ3の外周面3bに沿って形成される。
隔壁部7cの突出部7eがスロット5cに突出するように形成されているため、スロット5cを形成するティース5bの表面が、ステータ5の内周側から、一定の隙間を隔てて突出部7eに覆われる。つまり、突出部7eは、ステータ5の内周側からティース5bの表面形状を一定の隙間を隔ててトレースするように形成される。このように入り組んだ形状の突出部7eに、第二空間22内に配設されたコイル6が巻回される。すなわち、本実施形態によれば、コイル6は、突出部7e(隔壁部7c)を介して、スロット5cを通過するように、ティース5bの周囲に配設される。換言すれば、ティース5bとコイル6との間に、突出部7e(隔壁部7c)が配置しており、この突出部7eを介してティース5bに対してコイル6が巻回される。
内部容器7によって囲われた第二空間22内には、冷媒が充填される。この冷媒として、ロータ3及びコイル6を構成する超電導体の超電導遷移温度では液化しない気体が好ましい。特に、ヘリウムガスが、冷媒として好ましく用いられる。
また、図1に示すように、ハウジング2内において、シャフト4の外周の周りに円筒状の第一スリーブ15及び第二スリーブ16が配設される。第一スリーブ15は、シャフト4のうちロータ3が取り付けられている部分と蓋部2aに支持されている部分との間の部分の外周面に対面するように、ハウジング2内に設けられる。また、第二スリーブ16は、シャフト4のうちロータ3が取り付けられている部分と底部2bに支持されている部分との間の部分の外周面に対面するように、ハウジング2内に設けられる。
第一スリーブ15の一方の端部(図1において左側の端部)は、ハウジング2の蓋部2aに埋め込まれることにより、気密的に固定される。第一スリーブ15の他方の端部(図1において右側の端部)は、第一キャップ部7aの内周縁に気密的に固定される。このように固定された状態で、第一スリーブ15がシャフト4の外周を覆う。このとき、図5に示すように、第一スリーブ15とそれに対面するシャフト4の外周との間には、円筒形状の微小の隙間が形成される。円筒形状の微小の隙間の一方の端部(第一スリーブ15が蓋部2aに固定されている側の端部)は、第一スリーブ15と蓋部2aとで囲まれることにより封止される。円筒形状の微小の隙間の他方の端部(第一スリーブ15が第一キャップ部7aに固定されている側の端部)は、第二空間22に連通する。
第二スリーブ16の一方の端部(図1において右側の端部)は、ハウジング2の底部2bに埋め込まれることにより、気密的に固定される。第二スリーブ16の他方の端部(図1において左側の端部)は、第二キャップ部7bの内周縁に気密的に固定される。このように固定された状態で、第二スリーブ16がシャフト4の外周を覆う。このとき、第二スリーブ16とそれに対面するシャフト4の外周との間には、円筒形状の微小の隙間が形成される。円筒形状の微小の隙間の一方の端部(第二スリーブ16が底部2bに固定されている側の端部)は、第二スリーブ16と底部2bとで囲まれることにより封止される。円筒形状の微小の隙間の他方の端部(第二スリーブ16が第二キャップ部7bに固定されている側の端部)は、第二空間22に連通する。
従って、本実施形態においては、厳密に言えば、第二空間22は、内部容器7に囲まれた空間と、第一スリーブ15とシャフト4との間の円筒状の隙間内の空間と、第二スリーブ16とシャフト4との間の円筒状の隙間内の空間とによって、構成される。
また、図1に示すように、超電導モータ1に冷凍機17が取り付けられる。冷凍機17としては、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、ギホードマクマホン(GM)冷凍機、ソルベイ冷凍機、ヴィルマイヤー冷凍機などの公知の冷凍機が例示される。
冷凍機17は、本体部17aとコールドヘッド17bとを備える。本体部17aにて冷熱が発生される。発生された冷熱がコールドヘッド17bから取り出される。また、コールドヘッド17bには冷熱伝達部材17cが取り付けられており、この冷熱伝達部材17cの先端に熱交換部材17dが取り付けられている。コールドヘッド17b、冷熱伝達部材17c、及び熱交換部材17dは、いずれも、熱伝導度の良好な材質、例えば銅により形成される。
図1に示すように、冷凍機17のコールドヘッド17bが、ハウジング2内の第一空間21内に進入するように、冷凍機17が超電導モータ1に組み付けられる。また、コールドヘッド17bが、冷熱伝達部材17cを介して熱交換部材17dに熱的に接続される。熱交換部材17dは、内部容器7の第一キャップ部7aに取り付けられる。従って、コールドヘッド17bの冷熱が、冷熱伝達部材17c及び熱交換部材17dを介して、内部容器7内の第二空間22に充填された冷媒(ヘリウムガス)に供給される。
また、図1に示す超電導モータ1は、3つのハーメチック(電流導入端子)Hを有する(図1においては1つのハーメチックHのみを示す)。ハーメチックHは、内部容器7内に収容されている複数のコイル6のうちの所定のコイルのコイルエンドに接続される。なお、本実施形態においては、超電導モータ1が三相誘導モータとして使用されるように、コイル6が、第二空間22内にて、ティース5bの周りに設けられる内部容器7の隔壁部7c(突出部7e)に巻回されている。従って、超電導モータ1が三相誘導モータとして作動するように、ハーメチックHがコイル6に電気的に接続される。このハーメチックHは、図示しないインバータの出力側に接続される。
上記構成の超電導モータ1を作動させる場合、まず、ハウジング2内の第一空間21を排気する。これにより第一空間21が高真空状態にされる。上記したように、第二空間22は第一空間21の内方に形成されている。従って、第一空間21が真空状態にされることにより、第二空間22が真空断熱され、超電導モータ1の外部の雰囲気の熱が第二空間22に伝達されることが効果的に抑止される。
次いで、冷凍機17を作動させて、冷熱を発生させる。発生した冷熱は、コールドヘッド17b、冷熱伝達部材17c、及び熱交換部材17dを経由して、内部容器7内の第二空間22内の冷媒に伝達される。これにより第二空間22内の冷媒が冷却される。さらに、第二空間22内の冷媒によって、第二空間22内のロータ3及びコイル6が冷却される。そして、ロータ3及びコイル6の温度が、それらを構成する超電導体の超電導遷移温度(例えば90K)以下の温度にまで低下したときに、超電導モータ1を作動させる。
すると、インバータにより調整された交番電流がコイル6に伝達される。これにより、ロータ3に外部磁界が印加される。ロータ3は、外部磁界により電磁誘導されて、自身の内部にて磁界を発生する。そして、外部磁界とロータ3内の磁界の合成磁界により作り出された回転磁界によって、ロータ3が回転する。ロータ3が回転すると、ロータ3に結合したシャフト4が回転する。このようにして、超電導モータ1が作動する。
本実施形態によれば、超電導モータ1を構成する部材のうち、電流が流されるコイル6、及び、誘導電流が流れるロータ3のロータバー、エンドリングが、超電導体により構成されている。超電導体は、周知のように、超電導状態にて電気抵抗が非常に小さい(ただし、インダクタンスは0ではない)。よって、通常のモータよりも大きなトルクを発生させることができる。
また、本実施形態においては、内部容器7内の第二空間22内に、超電導体により構成されているロータ3のロータバー、エンドリング及びコイル6が配設されている。一方、超電導体ではないステータ5は、内部容器7によって第二空間22とは気密的に区画された第一空間21内に配設されている。よって、冷凍機17により供給される冷熱によって、冷却する必要のある超電導体により構成される部材(ロータ3のロータバー、エンドリング及びコイル6)を主に冷却することができ、冷却する必要の無い部材(ステータ5)は冷却されない。このため、超電導体により構成される部材が、冷凍機17により供給される冷熱により速やかに冷却される。よって、超電導体により構成される部材(ロータ3のロータバー、エンドリング及びコイル6)の冷却時間を短縮することができる。
また、例えば、コイル6が発熱した場合には、コイル6に所望の電流を流せなくなるため、コイル6を急速に冷却する必要がある。この場合において、上記特許文献1のようにステータを介してコイルが冷却される場合には、ステータを介する分だけコイルの冷却が遅れるため、コイル6に所望の電流を流せなくなる可能性が高まってしまう。これに対し、本実施形態によれば、冷凍機17によりステータを介することなく内部容器7内の冷媒が冷却されるため、内部容器7内のコイル6も速やかに冷却される。つまり、本実施形態においては、ロータ3及びコイル6の熱応答性が高くなるように、超電導モータ1が構成されている。よって、コイル6の発熱に起因して、コイル6に所望の電流が流せなくなるといった不具合を未然に防止することができる。
以上、本発明の実施形態について説明した。本実施形態に係る超電導モータ1は、ハウジング2内の空間を、ステータ5が配設される第一空間21と、ロータ3とコイル6が配設される第二空間22とに気密的に区画する区画部材としての内部容器7を備える。また、内部容器7は、ステータ5のティース5bとコイル6との間に配置する隔壁部7cを備え、コイル6が、隣接するティース5b間に形成されるスロット5cを通過するように、第二空間22内にて隔壁部7cに巻回される。また、隔壁部7cは、複数のティース5bの先端面に対面配置する底部7dと、隣接するティース5b間に形成されるスロット5cに突出するように底部7dからロータ3の径方向に沿って延設された突出部7eとを備える。つまり、隔壁部7cは、ステータ5の内周側から、一定の隙間を隔ててティース5bを覆うように、ティース5bの形状をトレースしたような形状にされる。そして、コイル6は、隣接するティース5b間に形成されるスロット5cを通過するように、第二空間22内にて突出部7eに巻回される。
本実施形態によれば、ステータ5の配設空間と超電導体により構成される部材(ロータ3のロータバー、エンドリング及びコイル6)の配設空間が気密的に区画されているため、ステータ5を冷却することなしに、ロータ3及びコイル6を速やかに冷却することができるとともに、これらの部材の熱応答性を高めることができる。
また、本実施形態においては、図1に示すように、第二空間22は、第一空間21の内方に位置している。そして、超電導モータ1の作動時には、第一空間21が真空状態にされる。このため第二空間22が第一空間21によって真空断熱される。斯かる真空断熱効果により、第二空間22内の温度を、長時間、超電導遷移温度以下の温度に維持することができる。
また、本実施形態においては、図2に示すように、ステータ5が、回転軸P1方向に垂直な面内において複数に分割された分割コアにより構成されている。このため、複雑な断面形状の内部容器7にその径外方側から分割コアを順次組み付けていくことにより、内部容器7を内部に備えた超電導モータ1を容易に作製することができる。
本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態においては、冷凍機17によって、内部容器7内の第二空間22内の冷媒、ロータ3及びコイル6を冷却する例を示したが、図6に示すように、予め超電導遷移温度以下に冷却された冷媒を内部容器7で循環させるように構成してもよい。この場合、内部容器7に、冷媒供給配管18aと冷媒排出配管18bが接続される。冷媒供給配管18aから、超電導遷移温度以下に冷却された冷媒が内部容器7の第二空間22内に供給される。また、第二空間22内で、例えばコイル6の発熱によって加熱された冷媒は、冷媒排出配管18bを経由して第二空間22の外部に排出される。このようにして、予め冷却された冷媒を順次第二空間22に供給することにより、冷凍機を用いずとも、内部容器7内の冷媒の温度を超電導遷移温度以下の温度に維持しておくことができる。
また、ハウジング2内に、内部容器7を固定する固定部材を設けてもよい。例えば、図7に示すように、第一キャップ部7aに取り付けられている第一フランジ11、及び、第二キャップ部7bに取り付けられている第二フランジ12、のそれぞれに、固定部材としての第一円筒部材19a及び第二円筒部材19bを取り付けておいてもよい。第一円筒部材19a及び第二円筒部材19bは樹脂等の熱伝導性が悪い材料により構成される。第一円筒部材19aの一方の端面は第一フランジ11に接続され、他方の端面はハウジング2の蓋部2aの内壁面に接続される。第二円筒部材19bの一方の端面は第二フランジ12に接続され、他方の端面はハウジング2の底部2bの内壁面に接続される。このように第一円筒部材19a及び第二円筒部材19bを介して内部容器7をハウジング2に固定することにより、内部容器7を精度良く、特に、精度良く回転軸P1の同軸上に、位置決めすることができる。
また、図8に示すように、第一キャップ部7a及び第二キャップ部7bのそれぞれに、固定部材としての第一円板部材19c及び第二円板部材19dを取り付けておいてもよい。第一円板部材19c及び第二円板部材19dは樹脂等の熱伝導性の悪い材料によりリング状に形成される。第一円板部材19cの内周面は第一キャップ部7aに接続され、外周面はハウジング2の側周部2cの内壁面に接続される。第二円板部材19dの内周面は第二キャップ部7bに接続され、外周面はハウジング2の側周部2cの内壁面に接続される。このように第一円板部材19c及び第二円板部材19dにより内部容器7を固定することによっても、内部容器7を精度良く、特に、精度良く回転軸P1の同軸上に、位置決めすることができる。
また、本実施形態においては、図4に良く示すように、内部容器7の隔壁部7cとティース5bとの間に所定の隙間が形成されているが、この隙間を、樹脂等の熱伝導性が悪い物質によって埋めることもできる。これによれば、内部容器7がステータ5に固定されることによって、内部容器7を精度良く位置決めすることができる。なお、樹脂などの熱伝導の悪い物質は、空孔率の高い物質が良く、好ましくは透磁率の高い物質を選択することができる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。