JP6444584B2 - 飼育ネズミのストレス被曝判定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、飼育ネズミのストレス被曝判定方法及び飼育ネズミのストレス被曝判定材に関する。
非ヒト動物を飼育し、実験に利用することでヒト等の生体内の様々な生理学的な現象や動態等の生体情報を図り知ることができる。より精度の高い生体情報を得るためには飼育動物の品質維持が重要となってくる。この飼育動物として、例えば、マウス、ラット、ハムスター等のネズミ上科(Muroidea)動物(以下、「ネズミ」という)がよく利用されている。飼育ネズミは、衛生的に管理的に飼育され、飼育環境のモニタリングが行われている。例えば、飼育ネズミを、温度及び湿度管理下で、床材を敷いてケージ内で衛生的に飼育したり(特許文献1)、必要に応じてケージ個別ごとに換気フィルターを備え、換気しながら飼育することもある。
しかしながら、衛生的に管理的に飼育されている飼育ネズミであっても、飼育中に予期し得ないストレスに被曝することがある。このストレス被曝によって、飼育ネズミの性質が大きく変化することが知られている(非特許文献1)。また、実験動物の動物倫理の観点からも、飼育ネズミの状況を把握することは重要である。ところが、現在用いられている手法は非科学的な手法と言わざるを得ない(非特許文献2)。
このため、より科学的な基準に基づき、より簡便に飼育ネズミのストレス被曝を判定することが望まれている。
特開2004−194602号公報
M. Brown, L. et a.l; Report of the Working Group on Animal Distress in the Laboratory, Lab Anim, 35, 26-30 (2006) W. Nicklas,et al. FELASA (Federation of European Laboratory Animal Science Associations Working Group on Health Monitoring of Rodent and Rabbit Colonies), Recommendations for the health monitoring of rodent and rabbit colonies in breeding and experimental units, Lab Anim, 36, 20-42 (2002)
本発明は、斯かる実情に鑑み、飼育ネズミがストレスに被曝したことを簡便に効率よく判定できることを提供しようとするものである。
そこで、本発明者は、鋭意検討した結果、飼育ネズミの糞便のpH変化がストレスを受けると変化することを見出した。そして、糞便のpH変化に基づくことで、飼育ネズミがストレスに被曝したことをより簡便に効率よく判定できることを見出した。また、本発明者は、糞便の細菌叢変化、糞便の臭気変化、糞便のpH変化等の糞便の性質変化のうちで何れか1つ又は2つ以上を組み合わせることによって簡便に効率よく判定できると考えた。糞便の性質変化を視覚的に判断できるようにすることで、飼育ネズミがストレスに被曝したことを簡便に効率よく判定できることを見出した。このようにして本発明者は、本発明を完成させた。
本技術は、飼育ネズミの糞便のpH変化に基づく飼育ネズミのストレス被曝判定方法を提供するものである。
さらに、糞便の臭気変化及び/又は糞便の細菌叢変化に基づいてもよい。
前記これらの糞便の性質変化を、呈色試薬反応にて判断してもよい。前記呈色試薬が、pH指示試薬、気体検知試薬又は細菌検出試薬であってもよい。呈色試薬を用いることにより、視覚でも判定することができる。
本技術は、呈色試薬を含む、飼育ネズミのストレス被曝判定材を提供するものである。当該判定材は、pH指示試薬を含む床材及び/又は気体検知試薬を含むフィルターでもよい。
本技術は、前記飼育ネズミのストレス被曝判定材を備えるディスポーザブルケージを提供するものである。
本技術は、飼育ネズミのストレス被曝判定材を用いる、飼育ネズミのストレス被曝判定方法を提供するものである。呈色試薬を含むケージ部材及びこの周辺部材を用いることにより、簡便に視覚でも精度良く判定することができ、効率的である。
本発明によれば、飼育ネズミがストレスに被曝したことを簡便に効率よく判定できる。
科学的モニタリングによる実験結果をフィードバックさせる飼育動物のシステムを示す概略図である。本技術によるストレス被爆飼育ネズミの判定により、その飼育環境が飼育ネズミにとって好ましい環境であるか否かを判断し、より良い飼育環境の維持に利用することができる。 図2Aは、コントロール群、振とうストレス群、床敷きなしストレス群の摂食量を示す図である。図2Bは、コントロール群、振とうストレス群、床敷きなしストレス群の排便量を示す図である。 図3Aは、コントロール群、振とうストレス群、床敷きなしストレス群の乳酸菌数を示す図である。図3Bは、コントロール群、振とうストレス群、床敷きなしストレス群のLactobacillus属菌数を示す図である。 図4は、コントロール群(図4A)、絶食ストレス群(図4B)、行動制ストレス群(図4C)、振とうストレス群(図4D)、床敷きなしストレス群(図4E)の各群の糞便の経時的(0〜60時間)pHの状態を示す図である。 図5は、コントロール群(図4A)、絶食ストレス群(図4B)、行動制御ストレス群(図4C)、振とうストレス群(図4D)、床敷きなしストレス群(図4E)の各群の糞便の経時的(0〜60日)pHの状態を示す図である。 図6左は、種々の呈色試薬を含むフィルターを備えるディスポーザブルケージを示す。図6右は、ニンヒドリン試薬を含むフィルターを備えるディスポーサブルケージを示す。
1.飼育ネズミのストレス被曝判定方法等
(1)糞便の性質変化
(2)ストレス被曝判定材及びこれを備える飼育ケージ
(3)ストレス被曝の判定
(4)糞便のpH変化
(5)糞便の臭気変化に基づく判定
(6)糞便の細菌叢変化に基づく判定
1.飼育ネズミのストレス被曝判定方法
本技術は、飼育ネズミの糞便の性質変化に基づき飼育ネズミがストレスに被曝したことを判定する方法である。
本技術における「ストレス」とは、飼育ネズミの性質を変化させる外的な干渉をいう。
そのストレスとして、例えば、物理的ストレス、生理的ストレス、精神的ストレスが挙げられる。本技術では、主に物理的ストレス、生理的ストレスを判定することが好ましい。該当物理的ストレスとして、振とうストレス、床敷きなしストレス、行動制御ストレス等であり、生理的ストレスとしては、絶食ストレス等が挙げられる。
本技術で判定される対象動物の飼育ネズミは、ネズミ上科(Muroidea)動物であればよい。当該飼育ネズミとして、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が挙げられる。このうち、マウスが好ましい。健常な飼育ネズミにおけるストレス被曝判定が望ましい。
通常ストレスに被曝したことを判定する方法として、ストレス被曝により血中のホルモン等が変化するため、侵襲的に採血する血清学的手法(参考文献1及び2)がある。しかしながら、採血する際に固定や穿刺等によりストレスを受けることが知られ(参考文献3)、また採血をするには修練が必要となる。
また、飼育しているマウスの尿中に存在する揮発性有機物(VOCs)が、外部からの刺激により変化することが報告されており(参考文献4)、尿中に存在する揮発性有機物を非侵襲的なストレス被曝判定手法として利用することが考えられる。しかしながら、マウスの尿は採取量が少なく、また、腎臓による再吸収により、単位あたりの成分濃度が変化しやすい性質がある。
また、非侵襲的な手法として、唾液中のクロモグラニンAを用いた手法が報告されている(参考文献5)が、唾液の採集は困難である。
また、非侵襲的な手法を用いても、採取又は測定する際に、飼育動物を捕まえたり、固定したり、強制的に行動を制限することは、飼育動物が何らかのストレスを受けていることと考える。
このように、従来の侵襲的及び非侵襲的な手法を用いたストレス被曝の判定方法では、上記した非特許文献1の手法よりも、客観性は得られるが、簡便で効率がいいとは言い難く、また精度の点でも改善が求められる。
そこで、本発明者は、飼育ネズミが外部から受けるストレスに対するシグナルを検出することを目標として種々検討した。その結果、全く意外にも、本発明者は、飼育している飼育ネズミがストレスに被曝すると、飼育ネズミの糞便の性質変化(例えば、細菌叢の変化、臭気の変化及びpHの変化等)が変化することを見出した。このことから、本発明者は、飼育ネズミの糞便の性質をモニタリングし、糞便の性質変化に基づき、飼育ネズミがストレスに被曝したか否かを判定できることを見出した。
参考文献1:V. Riley, Psychoneuroendocrine influences on immunocompetence and neoplasia, Science, 212, 1100-1109 (1981).
参考文献2R.A. Sabbadini, R.J. Baskin, Active state of normal and dystrophic mouse muscle, Am. J. Physiol, 230, 1138-1147 (1976) .
参考文献3:M. Cuoto, Report on the SCAW conference on pain, distress and stress in research animals. Current Standards and IACUC responsibility. May 18-19, 2000, Baltimore, MD, Contemp Top Lab Anim Sci, 39(4), 123-7 (2000) .
参考文献4:M.L. Schaefer et al., Trevejo, Mouse Urinary Biomarkers Provide Signatures of Maturation, Diet, Stress Level, and Diurnal Rhythm, Chem. Senses, 35, 459-471 (2010) .
参考文献5: M. Toda, S. Kusakabe, S. Nagasawa, K. Kitamura and K. Morimoto, Effect of laughter on salivary endocrinological stress marker chromogranin A, Biomedical Research, 28(2), 115-118 (2007) .
(1)糞便の性質変化
本技術の「糞便の性質変化」は、特に限定されないが、当該「糞便の性質変化」として、例えば、糞便の細菌叢の変化、糞便の臭気の変化、糞便のpHの変化等から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて、ストレス被曝判定を行うことができる。
このうち、糞便のpH変化を少なくとも選択することが、簡便にかつ精度よくストレス被曝判定を行うことができるので、好ましい。
さらに、糞便のpH変化及び臭気変化を組み合わせることが、より精度が向上するので、好ましい。
複数を組み合わせるときには、高精度でストレス被曝ネズミを排除したい際には、ストレス被曝したとの判定が1つでもある場合には、ストレス被曝ありと判定する。通常は、糞便のpH変化の判定結果を優先してストレス被曝を最終的に判定すればよい。
また、前記「糞便の性質変化」は、呈色試薬反応を使用してストレス被曝判定を行うことも可能である。このように呈色試薬反応を用いることにより肉眼で視認できるので、簡便に効率よくできる点で、好適である。前記呈色試薬として、例えば、pH指示試薬、気体検知指示薬及び細菌検出試薬等が挙げられる。
前記pH指示試薬として、公知のものを使用すればよく、入手可能な市販品を用いることが好ましい。
例えば、pH指示試薬として、特に限定されない。当該pH指示試薬は、酸性領域、中性領域、又は塩基性領域が判断可能な指示薬に分類することができる。
さらに、各分類の指示薬の例示を以下に挙げるが、このうちから1種又は2種以上を選択して、糞便のpH変化を判断することが可能である。
酸性領域用のpH指示試薬として、例えば、ゲンチアナバイオレット(メチルバイオレット)〔pH0.0−2.0〕、マラカイトグリーン〔pH0.0−2.0〕、チモールブルー〔pH1.2−2.8〕、メチルイエロー〔pH2.9−4.0〕、ブロモフェノールブルー〔pH3.0−4.6〕、コンゴーレッド〔pH3.0−5.0〕、メチルオレンジ(MO)〔pH3.1−4.4〕、ブロモクレゾールグリーン(BCG)〔pH3.8−5.4〕、メチルレッド(MR)〔pH4.4−6.2〕、メチルレッド/ブロモクレゾールグリーン〔pH4.5−5.2〕等が挙げられる。
中性領域用のpH指示試薬として、例えば、リトマス〔pH4.5−8.3〕ブロモクレゾールパープル〔pH5.2−6.8〕、ブロモチモールブルー(BTB)〔pH6.0−7.6〕、フェノールレッド〔pH6.8−8.4〕、ニュートラルレッド〔pH6.8-8.0〕、ナフトールフタレイン〔pH7.3−8.7〕、クレゾールレッド〔pH7.2−8.8〕等が挙げられる。
塩基性領域用のpH指示試薬として、例えば、マラカイトグリーン〔pH11.6-14〕、チモールブルー〔pH 8.0-9.6〕、フェノールフタレイン (PP)〔pH8.3-10.0〕、チモールフタレイン〔pH9.3-10.5〕、アリザリンイエローR〔pH10.2-12.0〕等が挙げられる。
このうち、酸性領域用指示薬及び中性領域用指示薬が好ましく、さらにこのうち、BCG試薬及びBTB試薬が好適である。このうち、BTB試薬が好適である。
前記「気体検知指示薬」は、気体中の成分に指示薬が接触し、反応することで、色が変化するものである。市販品の気体検知指示薬を含む気体検知管を用いて飼育ネズミのストレス被曝判定を行うことも可能である。
気体成分(気体検知指示試薬)として、例えば、アルデヒド(フェーリング試薬);ホルムアルデヒド(シッフ試薬);アルデヒド、ケトン(2,4−ジニトロフェニルヒドラジン試薬);アミン(エーリッヒ(Van Urk)試薬);アミン(ニンヒドリン試薬);カルボン酸(ブロモグレゾールグリーン);アルコール、アミン、スルフィド、メルカプタン(過マンガン酸カリウム試薬);アルコール、フェノール(バニリン試薬)等が挙げられる。
前記「細菌検出試薬」は、細菌と反応し、色が変化するものであり、通常細菌検出を視覚で行う際に配合するpH指示試薬や細菌染色剤等を配合してもよい。市販品の細菌検出培地や細菌染色剤を用いて飼育ネズミのストレス被曝判定を行うことも可能である。
細菌検出試薬(検出菌)として、例えば、MRS培地組成物(乳酸菌)、LBS培地組成物(Lactobacillus)、LA培地組成物(乳酸菌)、グラム染色剤(グラム陰性及び陽性)等が挙げられる。
(2)ストレス被曝判定材及びこれを備える飼育ケージ
前記呈色試薬を、飼育ネズミを飼育するための飼育ケージ(例えば、ディスポーザブルケージ等)に備える部材に含ませることで、ストレス被曝判定材として使用することが可能である。この前記呈色試薬を含む部材を使用することにより、前記部材に存在する呈色試薬が反応し、呈色した結果に基づき、飼育ネズミがストレスに被曝したか否かを判定することが可能である。この呈色結果を作業従事者が視認することにより、ストレス被曝の判定が簡便にかつ精度よくできる利点がある。また標準物質や標準変色表等の標準品を使用することで、熟練者でなくとも、より簡便でさらに精度を向上させることも可能である。
前記呈色試薬を含ませた部材として、フィルターは不織布や織布等が、床材としてはセルロース繊維等が挙げられる。この部材の素材として、フィルターは化学合成繊維(ナイロン、アクリル、ホモポリマー等)、木綿繊維、麻繊維等が挙げられる。この部材の素材として、床材はセルロース繊維(木材パルプ、木材チップ等)、さらに吸水性や吸湿性があるものが望ましい。
ストレス被曝判定材として、pH指示試薬を含む床材及び気体検知指示薬を含むフィルターが好ましい。当該床材は、糞便のpH変化をみる際に適しており、当該フィルターは、ケージ内の気相変化をみる際に適している。このとき、ケージ内の気相変化の指標としてアミン類及びアルデヒド類等の臭気化合物が好適である。
また、飼育ケージの形状は、特に限定されず、実験目的や飼育動物に適合したものであればよい。飼育ケージの材質は、特に限定されず、PETE樹脂等が挙げられ、飼育ケージ及びこれに備える部材の材質は、電子線滅菌できる材質であることが好ましい。
(3)ストレス被曝の判定
本技術の「ストレス被曝の判定」では、対象となる飼育ネズミ(以下、「飼育ネズミ」ともいう。)の糞便の性質を測定した値を、「対象基準(比較対象)」と比較することで、ストレスに被曝しているか否かを判定することができる。
また、「対象基準(比較対象)」として、例えば、飼育ネズミのモニタリング(測定)開始時の糞便の性質;ストレス被曝していない対照群の糞便の性質;判定用に予め設定された糞便の性質の所定値等が挙げられる。
一例として、飼育ネズミの糞便の性質を測定した値と、ストレス被曝していない対照の糞便の性質を測定した値と比較することで、飼育ネズミがストレスに被曝しているか否かを判定することも可能である。
また、ストレス被曝のモニタリング間隔は、特に限定されない。例えば、6〜24時間間隔で行うことが好ましく、12〜24時間間隔で行うことが、精度及び作業効率の点からより好ましい。
この糞便の性質変化に着目したことで、ストレス被曝判定のための糞便の採集量を確保しやすい;飼育しているネズミに、糞便の性質変化を測定する際にストレスを与えにくい等の利点がある。さらに、糞便の細菌叢の変化、臭気の変化及びpHの変化等の糞便の性質変化は測定しやすいので、ユーザが種々の目的で飼育しているネズミのストレス被曝を判定することが簡便に効率よく行うことができる。
また、本技術は、糞便の性質変化を視覚的に見ることも可能であることから、さらに簡便に効率よく判定することができ、評価者のストレス被曝判定の差も少なくなるという利点もある。
本技術により、ストレスに被曝されていない飼育ネズミを選別することが簡便で効率よく行うことが可能となる。さらに、均一的な品質の飼育ネズミをユーザに提供することが可能となる。また、この飼育ネズミから得られた実験データの安定性や信頼性が高まるという利点もある。
(4)糞便のpH変化に基づく判定
本技術は、飼育ネズミの糞便のpH変化に基づき、飼育ネズミがストレスに被曝したか否かを判定することができる。
糞便は、そのまま又は粉末状、固形状、半固形状、懸濁状に処理した後にpH測定を行うことが好ましい。糞便(そのまま又は固形状)を液体に懸濁し、その懸濁液のpHを測定することが好ましい。pH測定時期は、懸濁中、懸濁後の何れでもよい。
懸濁の液体として、特に限定されず、例えば、純水、希酸溶液、希アルカリ溶液及びpH指示試薬混合溶液等が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用してもよい。糞便を純水で懸濁後に、希酸、希アルカリを添加して懸濁してもよく、またpH指示試薬を添加してもよい。さらに、希酸・希アルカリとpH指示試薬とを混合させてもよい。希酸・希アルカリを使用した場合、この使用した分を中和することが望ましい。また、希酸及び希アルカリの濃度は、0.001〜0.04Mであることが好ましい。
使用する液体の量は、糞便を懸濁することが可能であれば特に限定されないが、糞便20〜40mgに対して、好ましくは0.1〜10mL、より好ましくは1〜3mLである。懸濁時間は、特に限定されないが、好ましくは1分〜2時間、より好ましくは0.5〜1.5時間である。
糞便と液体の懸濁は、撹拌、超音波等の公知のホモジナイズ可能な手法を用いればよい。
飼育ネズミの糞便のpH変化を測定する方法は、pHが測定可能であれば特に限定されない。例えば、pH変化測定可能な方法として、pHメーター等のpH計測機器でpH測定を行うこと;pH指示試薬を用いて行うこと等が挙げられる。pH指示試薬は上述の「1.飼育ネズミのストレス被曝判定方法」のとおりである。
〔pH変化判定方法a;指標pHとの対比〕
好適には、前記糞便のpH変化において、指標pHと比較して、飼育ネズミの糞便のpHが高い場合、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定する。これにより、特に、絶食ストレスであると精度よく判定することができる。
指標pHは、予め設定してもよく、所定値以上になったときは、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定するのが好適である。より精度を高めるため、糞便のpHが、好ましくはpH7.7以上、より好ましくは8.0以上である。
さらに糞便のpHが所定値以上になったときから20〜28時間(好適には24時間)前に、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定することが可能である。
〔pH変化判定方法b;測定開始時pHとの対比〕
また、好適には、前記糞便のpH変化において、測定開始時の飼育ネズミの糞便のpHを指標pHとし、24〜48時間飼育した後の糞便のpHが所定値以上に上昇していた場合、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定する。これにより、特に、絶食ストレスであると精度よく判定することができる。
前記所定値とは、(測定時の糞便のpH−開始時の糞便のpH)で求めることができる。前記所定値を、好ましくは+0.2以上、より好ましくは+0.3以上、さらに好ましくは+0.32以上と設定することが可能であり、このような設定によって、より精度の高いストレス被曝の判定ができる。
〔pH変化判定方法c;pHの周期性〕
また、好適には、前記糞便のpH変化において、飼育ネズミの糞便がアルカリ性の強い傾倒を示した後に中性領域(6.5〜7.5程度の範囲)に戻るときには、強い傾倒(最も高いpH値)が開始したときから24〜48時間前に飼育ネズミがストレスに被曝したと判定することができる。これにより、特に、絶食ストレスであると精度よく判定することができる。
また、好適には、前記糞便のpH変化において、最大pH値を測定した時間から50〜70時間(好適には60時間)前に、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定する。
〔pH変化判定方法d;pHの変動幅〕
また、好適には、前記糞便のpH変化において、飼育ネズミの糞便のpHについて長期間モニタリングを行い、糞便のpHの振れ幅が所定値以上に大きい場合に、飼育ネズミがストレス被曝したと判定する。これにより、特に、振とうストレスであると精度よく判定することができる。
さらに、pHの振れ幅の所定値が、モニタリング中、上限値と下限値の差が0.5以上のときに、飼育ネズミがストレス被曝したと判定するのがより好ましい。この長期モニタリングの期間は、10〜60日間程度であればよい。
上述したpH変化判定方法a〜dのように、指標pHとの対比、測定開始時pHとの対比、pHの周期性、pHの変動幅から選ばれる1種又は1種以上のものに基づき、ストレス被曝判定を行うことができる。さらに、これらpH変化判定方法a〜dを必要に応じて2又は3種以上組み合わせて用いることにより、より精度を高めることが可能である。
本技術により、飼育ネズミの糞便のpH変化を測定又は観察し、飼育環境モニタリングを行うことで、ストレス被曝が判定できるので、至って簡便な方法である。さらに呈色試薬を用いることで飼育ネズミの生理的な情報を短時間で視覚的に表すことができるので、より簡便かつ効率よくストレス被曝の判定を行うことができる。
(5)糞便の臭気変化に基づく判定
本技術は、飼育ネズミの糞便の臭気変化に基づき、飼育ネズミがストレスに被曝したか否かを判定することができる。当該臭気変化として、特徴な臭気成分又は臭気強度の増減が好ましい。これにより、特に、行動制御ストレスであると精度よく判定することができる。
糞便は、そのまま又は粉末状、固形状、半固形状、懸濁状に処理した後に臭気測定を行うことが好ましい。糞便(そのまま又は固形状)を加熱し、臭気を測定することが好ましい。加熱は、30〜50℃で0.5〜2時間程度であるのが好ましい。
飼育ネズミの糞便の臭気変化を測定する方法は、臭気が測定可能又は評価可能であれば特に限定されない。例えば、臭気変化測定可能な方法として、各気体成分を分析可能なGC/MS分析装置で臭気成分測定を行うこと。;気体検出試薬を用いて行うこと;ヒトのパネラによって行うこと等が挙げられる。気体検出試薬は上述の「1.飼育ネズミのストレス被曝判定方法」のとおりである。
本技術は、飼育ネズミの糞便の特徴な臭気成分又は臭気強度が増加することで、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定することが望ましい。
〔臭気変化判定方法a;対照群の臭気強度との対比〕
好適には、前記糞便の臭気変化において、対照群の臭い強度と比較して、飼育ネズミの臭い強度が強いと判断した場合、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定する。
臭い強度の強弱については、指標となる臭気成分との臭気強度の対比;ヒトのパネラによる臭気全体の臭気強度の対比等により行うことが可能である。臭気強度は、測定機器による計測値及びパネラによる評価値の何れでもよい。
指標となる臭気として、例えば、アルデヒド類、硫黄化合物、アルコール類、アミン類、ケトン類、エステル類、脂肪酸類から選ばれる1種又は2種以上のものを指標とすることができる。
より具体的には、例えば、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、ノナナール、3−メチルブタナール、2−メチルブタナール、ヘプタナール、デカナール、ペンタナール、イソブタナール、ブタノール、ジメチルジスルフィド、ジメチルスルフィド、トリメチルアミン、2,3−ブタンジオン、酪酸エチル、イソ酪酸等から選ばれる1種又は2種以上のものを指標とすることができる。
このうち、アミン類(好適にはトリメチルアミン)及びアルデヒド類(好適にはアセトアルデヒド)を指標とするのが、後述する呈色反応にて判定することができるので好ましい。
〔臭気変化判定方法b;指標臭気との対比〕
また、好適には、前記糞便の臭気変化において、対照群の糞便からの指標臭気の測定値と比較し、飼育ネズミの糞便からの臭気の測定値が高い場合、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定する。
また、好適には、飼育ネズミの糞便からの指標臭気を測定し、検出することで、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定する。さらに、指標臭気が所定値以上の場合に、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定することが好ましい。所定値とは、臭気変化測定開始時期の指標臭気と比較し、これより増加した場合等が挙げられる。
例えば、アセトアルデヒドを指標臭気とし、このアセトアルデヒド3.5ppbを所定値と設定した場合、アセトアルデヒドが3.5ppb以上測定される際に、飼育ネズミがストレスに被曝したと判定する。
上述した臭気変化判定方法a〜bにように、臭気強度との対比、指標臭気との対比から選ばれる1種又は1種以上のものに基づき、ストレス被曝判定を行うことができる。さらに、必要に応じて2種以上組み合わせて用いることにより、より精度を高めることが可能である。
本技術において、日々のモニタリングの中で、「臭いを嗅ぐ」といった簡易な手法でも、ストレス被曝判定を行うことが可能である。この場合、特別な器具を用いる必要がないという利点である。
また、本技術において、12種類の臭気成分を重要な臭気とし、これらを組み合わせて調香し、テスターを作成することが可能となった。この基本臭(テスター)を利用することで、作業者でも、ストレス被曝の判定が簡便にかつ精度よく行うことが可能である。
また、本技術において、糞便によって、ケージ内に化学的な気相変化が生じていることを明らかにした。さらに、その気相変化を、フィルター等のケージ部材に、その気相変化が判断可能な呈色試薬を含有させることで、視覚的に把握できることを実証できた。また、この気相変化成分として、偶然にも、アミン類(好適にはトリメチルアミン)及びアルデヒド類(好適にはアセトアルデヒド)の臭気成分を、指標とするのが可能であることが確認できた。
よって、ケージ部材に呈色試薬を含有させることで、この部材をストレス被曝判定用の部材として使用可能である。このように、ケージ本体に呈色反応を示す部材を予め備えることによって、作業者が特別な行動を起こさずとも、飼育ネズミの様子をモニターできる手法を提供できる。
(6)糞便の細菌叢変化に基づく判定
本技術は、飼育ネズミの糞便の細菌叢変化に基づき、飼育ネズミがストレスに被曝したか否かを判定することができる。当該細菌叢変化として、特定の腸内細菌の菌体数又はコロニー数の増減が好ましい。これにより、特に、振とうストレスと床敷きなしストレスであると精度よく判定することができる。
糞便は、そのまま又は粉末状、固形状、半固形状、懸濁状に処理した後に細菌数の測定を行うことが好ましい。糞便(そのまま又は固形状)を液体に懸濁し、その懸濁液の細菌数を又はその懸濁液を培養し、測定することが好ましい。
懸濁の液体として、特に限定されず、例えば、純水、希酸溶液、希アルカリ溶液及びpH調整剤、キレート剤等が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用してもよい。
糞便と液体の懸濁は、撹拌、超音波等の公知のホモジナイズ可能な手法を用いればよい。
飼育ネズミの糞便の細菌叢の変化を測定する方法は、細菌(コロニー)数が測定可能であれば特に限定されず、細菌の種類を判断できる方法が好ましい。例えば、細菌叢測定可能な方法として、顕微鏡観察を行うこと;細菌検出試薬を用いること;特定の細菌用培地組成を用いること;微生物検査装置又は光学測定装置を用いること等が挙げられる。細菌検出試薬は上述の「1.飼育ネズミのストレス被曝判定方法」のとおりである。
〔細菌叢変化判定方法a;対照群の菌数(コロニー数)との対比〕
好適には、前記糞便の細菌叢において、測定開始時の糞便中の乳酸菌数と比較し、糞便中の乳酸菌が減少した場合、前記飼育ネズミがストレスに被曝したと判定する。また、対照群の乳酸菌数と比較して判定してもよい。
前記飼育ネズミの細菌数が最も減少したときには、そのときから30〜60時間前(より40〜55時間前)に、飼育ネズミがストレス被曝したと判定することができる。
前記乳酸菌のうち、Lactbacillus属細菌が、細菌数の減少が容易に理解しやすいので、好ましい。
本技術における糞便の細菌叢変化から、日常起こりえるストレスの判定を行うことが可能となる。
本技術は、以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕 飼育ネズミの糞便の性質変化に基づく飼育ネズミがストレスに被曝したことを判定する方法。好適には、糞便のpH変化である。
〔2〕 前記糞便の性質変化が、糞便のpH変化、糞便の臭気変化、糞便の細菌叢変化から選ばれる1種又は2種のものである前記〔1〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔3〕 前記糞便のpH変化において、指標pHとの対比、測定開始時のpHとの対比、pHの周期性、pHの変動幅から選ばれる1種又は2種以上のものに基づく前記〔2〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔4〕 前記糞便のpH変化において、指標pHと比較して糞便のpHが高い場合、前記飼育ネズミがストレス被曝したと判定する前記〔2〕又は〔3〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔5〕 前記糞便の最大pH値を測定した時間から50〜70時間前に、前記飼育ネズミがストレス被曝したと判定する前記〔1〕〜〔3〕の何れか1項記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔6〕 前記糞便のpH値の揺れ幅が大きい場合に、前記飼育ネズミがストレス被曝したと判定する前記〔1〕〜〔3〕の何れか1項記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔7〕 前記糞便の臭気変化において、臭気強度との対比及び/又は指標臭気との対比に基づく前記〔2〕項記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔8〕 前記糞便の臭気変化において、対照群の臭い強度と比較して臭い強度が増加した場合、前記飼育ネズミがストレス被曝したと判定する前記〔2〕又は〔7〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔9〕 前記糞便の臭気変化において、当該臭気のうち、デカナール、ヘプタナール、トリメチルアミン、ヘキサナール、酪酸エチレン、イソブタノール、2−メチルブタナール、オクタノール、ノナナール、アセトアルデヒド、2,3−ブタンジオン、3−メチルブタナールから選ばれる1種又は2種以上のものを指標として、前記飼育ネズミがストレス被曝したと判定する前記〔2〕、〔7〕又は〔8〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔10〕 前記糞便の細菌叢変化において、対照群の菌数との対比に基づく前記〔2〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔11〕 前記糞便の細菌叢変化において、Lactobacillus属が減少した場合、前記飼育ネズミがストレス被曝したと判定する前記〔2〕又は〔10〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔12〕 前記糞便の性質変化を、呈色試薬反応にて判断する前記〔1〕又は〔2〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔13〕 前記呈色試薬が、pH指示試薬、気体検知試薬又は細菌検出試薬である前記〔12〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
〔14〕 呈色試薬を含む、飼育ネズミのストレス被曝判定材。
〔15〕 pH指示試薬を含む床材及び気体検知試薬を含むフィルターから選ばれる1種又は2種以上である前記〔14〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定材。
〔16〕 前記〔14〕又は〔15〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定材を備えるディスポーザブルケージ。
〔17〕 前記〔14〕又は〔15〕記載の飼育ネズミのストレス被曝判定材を用いる、飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
以下に、具体的な実施例等を説明するが、本発明(本技術)はこれに限定されるものではない。
<実施例1:マウスの腸内細菌叢の乳酸菌(Lactobacillus属)における菌数変化>
〔1−1:マウスの飼育方法〕
実験動物として供されたマウスはC57BL/6J(日本クレア株式会社)20週齢の雌マウスを用いた。室温は25℃±5℃でケージ1つ当たり1匹の飼育数で飼育した。ケージ内は100gの床敷きを敷き詰め、水と固形試料(MF:オリエンタル酵母社)を自由摂食させた。その組成は、100g当たり、粗蛋白質23.1g、粗脂質5.1g、粗灰分5.8g、粗繊維2.8 g、可溶性無窒素分55.3g、水分7.9g.カロリー359kcalである。また、明暗リズムはAM9:30〜PM9:30を明期、PM9:30〜AM9:30を暗期とした。
〔1−2:ストレスの種類〕
本実施例1において、「振とうストレス」と「床敷きなしストレス」の2種類のストレスを与えた。
「振とうストレス群」は水平方向に3cmの幅で円の軌道を描く振とう機上で飼育した。この時の回転数は100rpmの速度で行い、72時間(3日間)飼育した。また、「床敷きなしストレス群」は、100gの床敷きを取り除き飼育した。
尚、コントロールマウスは上記〔1−1:マウスの飼育方法〕に示した方法で飼育した。
〔1−3:糞便の採取方法〕
24時間ごとに3日間糞便を採取した。また糞便の採取方法は、尿に触れることなくマウス肛門から排出される糞便をバイアルに採取し直ちに重量を測定した。その後直ちにリン酸緩衝液により懸濁し菌数測定に用いた。尚、糞便排出に要する時間は数秒から10分以内であった。また、固形試料の摂食量と糞便の排出量測定は24時間ごとに3日間固形試料と糞便を採取した。また糞便の重量測定は糞便を乾燥させた乾燥重量を測定に用いた。
〔1−4:マウス糞便中における常在細菌叢の解析〕
財団法人日本食品分析センターにて通常飼育のマウス糞便における常在細菌叢の解析を行った。用いた方法は培養法を基本とする各種選択培地、カタラーゼ活性、顕微鏡下における形態的同定法を用い、菌の同定分析は属以上の分類にて行った。サンプル数はN=1とした。
〔1−5:糞便中におけるLactic acid bacteriaやLactobacillus属の菌数測定〕
リン酸緩衝液により希釈し、段階希釈法により10−5倍まで希釈した糞便懸濁液から100μl採取しde Man, Rogosa, Sharoe (MRS)寒天培地(Becton, Dickinson and Co., Sparks, MD)、Lactobacillus Selection(LBS)寒天培地(Becton, Dickinson and Co., Sparks, MD)上に塗布した。尚、用いたプレート径は10cmであった。培養は嫌気チャンバー(三菱ガス化学社製)でアネロパック(三菱ガス化学社製)と共に37℃で48時間、嫌気的に培養した。培養後に出現したコロニー数を算定した。コロニー形成数測定は24時間ごとに3日間行った。
〔1−6:本実施例1に用いたマウスの試行数〕
摂食量、糞便量の計測に用いたマウスの供試数は、コントロール群6匹、振とうストレス群4匹、床敷きなしストレス群では4匹用の計14匹を用いた。また、Lactic acid bacteriaの菌数測定に用いたマウスの試行数はコントロール群3匹、振とうストレス群3匹、床敷きなしストレス群では3匹の計9匹、Lactobacillus属の菌数測定に用いたマウスの試行数はコントロール群6匹、振とうストレス群6匹、床敷きなしストレス群では3匹の計15匹を用いた。
〔1−7:統計解析〕
得られた摂食量、糞便数、糞便中のLactic acid bacteria、Lactobacillus属の差はt検定による検定を行った。統計的有意水準は0.05未満とした。
〔1−8:ストレス下における摂食量と排便量の変化〕
初めにストレスによる餌の摂食量の変化を分析した。
「振とうストレス群」において、24時間後の摂食量が劇的に減少した。しかし、その後の計測においては「コントロール群」と同様の量にまで回復した。「床敷きなしストレス群」においては48時間後まで「コントロール群」と同様の傾向を示しており、72時間後に若干の増加が認められたが統計的な有意差は認められなかった(図2A)。これらの傾向は排便量においても同様の傾向を示した。
「振とうストレス群」においては、24時間後に劇的に減少し、その後「コントロール群」と同様の値を示し摂食量と同様の傾向を示した。一方、「床敷きなしストレス群」においては、48時間までは摂食量と同様の傾向を示していたが72時間後に摂食量が増加した(図2B)。
〔1−9:マウス糞便中における常在細菌叢の解析〕
腸内細菌を構成する細菌叢の解析を簡易的な培養法と形態的観察により大枠の構成を解析した。その結果、Lactobacillus属が最も菌数として優勢細菌であり、Enterobacteriaceae属、Actinomycetes属がそれらに続いた。また、別のカテゴリーであるグラム性細菌に関しては、嫌気性グラム陽性桿菌が嫌気性グラム陽性無芽胞桿菌よりも多く存在した。これらのことから、マウスの糞便に存在する優勢細菌はLactobacillus属であることが示唆された。
〔1−10:ストレスによるLactic acid bacteria、Lactobacillus属における菌数変化〕
Lactic acid bacteriaにおける菌数変化は図2A及び図2Bと同様の傾向を示し、「振とうストレス群」における24時間後の菌数が減少した(図3A)。24時間後におけるLactobacillus属のコロニー数の変化においても同様の傾向を示したが、予想に反して48時間後の振とうストレス、床敷きなしストレスにおいて劇的な現象を示した。72時間後においてはコントロールと同様の数値を示した(図3B)。
実験動物の品質を保証する観点、飼育環境下における動物福祉の観点から、実験動物が飼育環境においてストレス受けていないことを検証することは非常に重要である。
日常的に起こりえるストレスを模した「振とうストレス」、「床敷きなしストレス」をマウスに与えた。「振とうストレス群」において、24時間後に摂食量と排便量が減少し、コントロールと同様の傾向までの回復を示した。これらの現象はマウスにおけるストレスの順応性を表していると考えられる。また、「床敷きなしストレス群」において、摂食量に対して排便量が増加したことはストレスによる消化運動効率の向上を示唆するものであった。これらのことから、2つのストレスは腸内における環境を著しく変化させる効果を持ち、腸内細菌への環境変化を引き起こし、糞便の性質を変化させる可能性を示唆した。
また、マウス糞便中における常在細菌叢の解析の結果、Lactobacillus属が優勢であることが示唆された。そこでLactobacillus属に着目しストレス付加実験を行った。その結果、「振とうストレス群」において、LBS選択培地上で、腸内細菌のLactobacillusのコロニー形成数が減少した。このことは、摂食量とその結果減少する排便量の変化によるLactobacillusのコロニー数への減少変化への影響を示すものであった。
しかしながら、摂食量、排便量が減少しなかった「床敷きなしストレス群」における菌数減少はこのセオリーに当てはまらず、摂食量以外の経路による腸内細菌叢への影響を示した。また総じて腸内細菌叢の変化は腸管内の環境を変化させ、代謝物構成やその結果のpHも変化させる可能性も示唆できる。
よって、飼育環境下におけるストレスを模したこれら2つのストレスによりLactobacillus属のコロニー数が減少することが明らかになった。特に、ストレス付加(開始時)から48時間後に、Lactobacillus属のコロニー数は著しく減少し、コントロール群と比較しても著しく減少していた。
そして、Lactobacillus属のコロニー数は飼育されているマウスのストレスに対するバイオインディケーターとしての潜在的利用価値があることが明らかとなった。
<実施例2:ストレスを与えることによる糞便臭気の変化>
〔2−1:マウスの飼育方法〕
上記〔1−1:マウスの飼育方法〕に従った。
〔2−2:ストレスの種類〕
上記<実施例1>において実行したストレスに加え、血糖値測定等において頻繁に用いられる「絶食ストレス」、マウスの密飼いや不適切なケージ使用による1匹あたり行動面積を制限した「行動制御ストレス群」を追加した。但し、ストレス時間を60時間とした。具体的には、絶食ストレスは24時間の絶食の後、給餌を復帰させ36時間後に糞便を採取した。また、「行動制御ストレス群」は15cm×15cmの透明なプラスチック製の箱にて飼育した。
〔2−3:本実施例2に用いたマウスの試行数〕
糞便臭気の定量解析に用いたマウスの供試数は、コントロール群6匹、床敷きなしストレス群3匹、振とうストレス群3匹、絶食ストレス群3匹、行動制御ストレス群3匹の計18匹を用いた。
〔2−4:糞便の採取方法〕
上記〔1−3:糞便の採取方法〕に従った。
〔2−5:臭気成分分析〕
採取された糞便を直ちに重量を測定し、密閉バイアルに封入しGC/MSによるにおい分析まで4℃にて保存した。におい分析は、住化分析センター大分事業所に依頼した。
〔2−6:ヒト嗅覚によるにおい評価〕
6名(男性3名、女性3名)によるにおい評価を行った。本方法は、においの強度を5段階(0=未検出,1=認識強度(嗅覚閾値),2=弱く臭う,3=はっきりと臭う,4=強烈に臭う)にて評価し、集計した強度はストレス群の平均値として算出した。また、においの表現も行い、その表現方法は被験者における自由な表現方法とした。また、サンプルはブラインド試験により糞便における情報は明かさずに、においの評価を行った。
〔2−7:におい物質の定量解析〕
20mgの糞便をヘッドスペース分析のためのバイアルへ移し、40℃で1時間加熱した。糞便からの揮発性物質はマイクロスケールパージトラップGC/MS( micro scale purge and trap gas chromatography-mass spectrometry: MPT-GC/MS) (MPT : Entech Instrument Inc., Simi Valley, CA, USA; GC/MS : Agilent Technologies Inc., Santa Clara, CA, USA)により分離された。
検出ピークの特定は、WILEY/NIH libraryによる275,000物質のデータベースを参照し物質の同定を行った。また、それぞれの物質の濃度は各物質に対する機器の検出感度がトルエンと同様であるとの仮定のもと、トルエン換算により算定した。従って、トルエンのピークエリアと各物質のピークエリアを比較し濃度決定を行った(vol ppm)。
〔2−8:統計解析〕
ANOVA解析はヒト嗅覚によるにおい評価とMPT−GC/MSの結果に対して行った。
ヒト嗅覚によるにおい評価におけるANOVA解析において、グループ数はコントロールと他4ストレスの計5グループ、グループ間の自由度は4、グループ内の自由度は25であった。MPT−GC/MSにおけるANOVA解析において、グループ数はコントロールと他4ストレスの計5グループ、グループ間の自由度は4、グループ内の自由度は13であった。本実験における統計的な有意差は0.05以下であった。
〔2−9:ストレスに特異的な物質の定量解析〕
検出された物質の濃度は各物質特有の嗅覚閾値(TL)濃度と比較した。嗅覚閾値以下の場合、0点、そのほかは下記の通りのスコアリングを行い、TL値との相対的な比較を行った。
スコアリング
0 = [<TL]
1 = [TL≦, <3×TL]
2 = [3×TL≦, <10×TL]
3 = [10×TL≦, <30×TL]
4 = [30×TL≦, <100×TL]
5 = [100×TL≦, <300×TL]
6 = [300×TL≦]
〔2−10:ヒト嗅覚によるにおい評価〕
表1に嗅覚評価のにおい強度、においの表現を示した。コントロール群と比較し、絶食ストレス群以外の全てのストレス群においてにおい強度が増加した。また、ANOVA解析の結果、コントロール群と床敷きなしストレス群、コントロール群と行動制御ストレス群、絶食群と行動制御ストレス群において統計的な有意差が見られた。
〔2−11:MPT−GC/MSによるにおい物質の定量〕
MPT−GC/MSにより物質の特定を行い、におい閾値の高い17種類の物質を選出した。その結果、10種類のアルデヒド類、2種類の硫黄化合物の他、アルコール類、アミン類、ケトン類、エステル類、脂肪酸類が検出された(表2)。これらの物質の中で、最も高い濃度を示していたのはアセトアルデヒドであり、3.7ppbから26.3ppbの範囲で検出された(表3)。また、2番目に高い値を示していたトリメチルアミンであり、トリメチルアミンは我が国において悪臭防止法による規制対象の一つに指定されている。トリメチルアミンの臭気は強烈悪臭で、濃度によっては魚臭、あるいはアンモニア状臭を呈する。
本におい閾値の高い17種類の物質は、床敷きなしストレス群、絶食ストレス群において検出された。
〔2−12:ストレスによるにおい物質濃度の統計解析〕
ANOVA解析により各ストレスにおける17種類の統計的有意差を求めた。その結果ヘプタナール、ヘキサナール、ペンタナールにおいて統計的な有意差が確認された。更にTukey法を用いて多重比較を行った。
以下、「コントロール群」を(C)、「床敷きなしストレス群」を(N)、「振とうストレス群」を(S)、「絶食ストレス群」を(F)、「行動制御ストレス群」を(M)とした。
ヘプタナール; C and M、N and M、S and M、F and M、ヘキサナール; N and S、N and M、ペンタナール; C and S、N and S、F and S、M and Sのペアにて有意差が見られた。
これらから、コントロールと全てのストレスに共通した物質における有意差は見られなかった。
〔2−13:ストレスによるにおい物質出現パターン解析〕
表3に示した物質の濃度とTLとの相対的な分類によりスコアリングを行った(表4)。イソ酪酸、ペンタナール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ブタノールはTLより低い値を示した。また、トータルのスコアはC; 20、N; 34、S; 12、F; 23、M; 14であった。
MPT−GC/MSによるにおい物質の選定により17種類の化合物をリストアップした。特に悪臭指定物質のトリメチルアミンは嗅覚閾値が低く、「床敷きなしストレス群」と「絶食ストレス群」において検出された物質である。しかしながら、検出された濃度とヒト嗅覚によるにおい評価によるにおい強度の値とは相関は認められなかった。
また、MPT−GC/MSによる各物質の検出濃度を各ストレス間にてANOVA解析を行った結果、ヘプタナール、ヘキサナール、ペンタナールにおいて有意差が認められた。しかし、Tukey法による多重統計解析を行った結果、ストレスにおける共通な物質の検出には至らなかった。
これらのことからも、糞便のにおいは、高濃度一つのにおい物質により決めることは難しいと考えられる。そこで検出されたにおい物質やその濃度そのものではなく、TLとの比較を考察すべきと考えた。
表4では、17種類のにおい物質をTLにより選別し、TL以下の物質を棄却した。表4では、また、スコアリングによる物質による総合的なにおい強度とそのにおいパターンを示した。つまり、物質の濃度解析とTL選別、におい強度解析、パターン解析の方法によりストレスに曝されているマウスを検出できる可能性を示した。
例えば、TL以上のトリメチルアミンとヘキサナールを同時に検出した場合は、「床敷きがない」又は「餌を食べていない」のストレスを受けている可能性がある。
また、TL以上のデカナールとヘプタナールが同時に検出された場合は、「行動制御」のストレスを受けている可能性がある。
また、TL以上のアセトアルデヒド、2,3−ブタンジオン、3−メチルブタナールが同時に検出され、イソブタナール、オクタナール、ノナナールが検出されなかった場合、「振とうストレス」のストレスを受けている可能性がある。
よって、ストレスに曝されたマウスから得られた糞便のヒトの嗅覚及びMPT−GC/MSによる定量解析により、糞便からの臭気が変化することが明らかになった。また、MPT−GC/MSによる定量解析によるTLとの相対的な比較によるスコアリング方法は、ストレスに曝されたマウスを検出するのに重要な12種類のにおい物質(表3参照)を明らかにした。
<実施例3:ストレスを与えることによる糞便pHの変化>
〔3−1:マウスの飼育方法〕
<実施例1>に従った。但し、用いたマウスは15週齢から30週齢のC57BL/6Jメスマウスを実験に用いた。
〔3−2:ストレスの種類〕
<実施例2>に従った。
〔3−3:実験に用いたマウスの試行数〕
糞便pH変化の解析に用いたマウスの供試数は、コントロール群6匹、床敷きなしストレス群6匹、振とうストレス群6匹、絶食ストレス群6匹、行動制御ストレス群6匹の計30匹を用いた。また、継時的な糞便pHモニタリングに用いたマウスはコントロール群3匹、床敷きなしストレス群3匹、振とうストレス群3匹、絶食ストレス群3匹、行動制御ストレス群3匹の計15匹を用いた。尚、継時的な糞便の採取は上記ストレスを与え終わった日を0dとした。
〔3−4:糞便の採取方法〕
<実施例1>に従った。
〔3−5:糞便pHの測定方法〕
得られた糞便を完全にホモジェナイズし、蒸留水にて100倍希釈した(W/V)。得られた懸濁液をpHメーター(DKK-TOA CORPORATION., Tokyo.)にて測定した。
このとき、糞便の重量は20〜40mg程度に対し、溶液量2mlを添加した。この添加量によって、pH指示試薬を目視により的確に判断することができた。
〔3−6:pH指示試薬の調整〕
ブロモクレゾールグリーン(Tokyo Chemical Undustry CO., LTD. Tokyo.)40mgをエタノール(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Tokyo.)100mlに懸濁しBCG溶液とした。
また、BTB溶液でも、BCG溶液のように、呈色反応が生じ、肉眼で識別することが可能であった。
〔3−7:ストレスによる糞便pHの変化〕
各ストレス群におけるpHの変化を確認したところ、全てのストレスの群において共通して24時間後にpHの上昇がみられた(図4B−E)。また、「絶食ストレス群」においては48時間後に更にそのpHは上昇し最も高い値を示した(図4B)。また、共通して24時間から48時間後にアルカリ性への強い傾倒を示し、60時間後ではストレス前のpHへ戻る傾向にあった。また、60時間後pHの値がストレスを与える前と比較して高い。これらのことからストレスに対する順応性が観察されたことと、その順応性は60時間以内では元に戻らないことが示された。
〔3−8:ストレス後の糞便pH変化の長期的な変化〕
図5A−Eに示すように、糞便のpH測定を10日ごとに、60日間計測を行った。「コントロール群」は、最大7.55、最小7.00であり、日ごとのpHの振れ幅はなだらかなものであった(図5A)。これに対し、「行動制御ストレス群」(最大7.75、最小6.75)、「振とうストレス群」(最大8.05、最小6.70)、「床敷きなしストレス群」(最大7.69、最小6.80)において、日ごとの振れ幅が大きいことが明らかになった(図5B−E)。特に、「行動制御ストレス群」は60日目まで値が乱れ続け、「振とうストレス群」は実験終了直後から値のばらつきが見られた(図5C−D)。「床敷きなしストレス群」において、実験終了後は安定していたが、20日目に大きくばらついた(図5E)。
〔3−9:ストレスマウスから得られた糞便におけるpH指示試薬による呈色反応〕
振とうストレスを与え、60時間後の糞便とコントロール糞便をpH指示試薬であるBCG溶液に浸透させ反応させた。その結果、反応させて直ちに「コントロール群」の糞便と「振とうストレス群」の糞便とで、色の違いが見られ、前者のコントロール群はやや黄色であるのに対し後者のストレス群は緑色であった。
糞便のpH変化は、ストレスを与えている最中だけでなく、長期間その変化が持続することが示された。このpH変化を利用することにより、マウスの状態を簡便に日々モニタリングすることができる。実験動物の飼育作業におけるより簡便な検出方法と言える。
例えば、pH指示試薬に糞便を浸透させることにより、生理的な変化を色として呈色することができる。また、この簡便性は多くの実験動物が存在するネズミ飼育室において、瞬時に飼育ネズミの状況判断に利用できることから、飼育ネズミのモニタリングにおけるファーストスクリーニングとして活用することが考えられる。また、pH指示試薬を含ませた床材を利用すれば、糞便のpH変化を簡便にモニタリングできる。
よって、各ストレスの被曝によって飼育ネズミの糞便のpHは変化し、その変化は共通した変化のパターンが見られた。ストレスを与えてから24時間から48時間の内にpHのアルカリ性への傾向を示し、60時間後にはpHが無ストレス時に近くなった。また、これらのストレスが終了した後、継時的な糞便pH変化を測定したところ、「コントロール群:と比較し不安定になることが明らかになった。またBCG溶液による「振とうストレス群」と「コントロール群」の糞便の呈色反応は明らかな色の違いが確認できた。
また、無ストレスマウス糞便は中性付近であったが、これと比較してストレスマウスは塩基性に傾く傾向が認められた。このため、BTB溶液の方が、BCG溶液と比較して、肉眼で識別することが容易であった。
これらのことから、実験動物における糞便のpHを利用した非侵襲的モニタリング方法を提供できる。
<実施例4:ケージ内気相を利用した実験動物自動モニタリングシステムの開発>
これまでマウスに対してストレスを加えることにより、生理的な変化を糞便の性質を通して捉えることができた。特に、糞便の腸内細菌叢の変化、糞便の臭気の変化、糞便のpHの変化により捉えることができた。これらの糞便の性質変化をより簡便に、より非侵襲的な3つのモニタリングシステムの開発を行った。
上記<実施例1>より、ケージ内における糞便は1日約3g程度排出され、これらのケージは2週間程度ケージを交換することはない。その為、糞便は、ケージ内における気相の性質を決定する大きな要因と言える。先ほども示した通り、ストレスによる糞便の性質は変化することから、この気相の特徴を捉えることによりその変化を捉えることが出来ると考えられる。そこで、ケージ内気相の特徴をモニタリングするためにケージにフィルターを装着できる個別換気方式の動物飼育ラックを用い、その気流とフィルターとの呈色反応によりケージ内気相を視覚化するモニタリング方法の開発を行った。
〔4−1:マウスの飼育方法〕
<実施例3>に従った。但し、飼育に用いた飼育ケージ、飼育ラックはイノバイブ個別換気システム(Innovive Inc. San Diego, USA)を用い、飼育ケージの排気口に本研究にて設計したフィルターを装備した。
尚、マウス飼育ケージ(Innovive Inc. San Diego, USA)は、使い捨て可能な飼育ケージである。当該ケージは、PET(polyethylene terephthalate)樹脂により整形され、ケージは製造時にγ線照射により滅菌され、供給されるものである。
また、飼育ラックは、1つのラックで168ケージ収納が可能なものがある。給排気システムを利用すると、HEPA(highly efficient particulate removing air)フィルターを通した清浄度の高い空気を各ケージに供給することが可能である。また、床敷き交換頻度は2週間に1度で行うことが可能であり、交換の際には、床敷き交換チャンバーで行うことが可能であり、当チャンバー内で床敷きの廃棄を行うことが可能である。
〔4−2:ストレスの種類〕
<実施例3>に従った。但し、汎用的なストレスを更に加味するため、採血時の保定や、胃潰瘍モデルとして用いられている拘束ストレスを加えた。本ストレスは直径3cm、長さ10cmの筒状のチューブにて保定し、3時間静置するものである。
〔4−3:実験に用いたマウスの試行数〕
ニンヒドリンフィルターを用いた飼育に用いたマウスの供試数は、コントロール3匹、拘束ストレス3匹、床敷きなしストレス3匹、振とうストレス3匹、絶食ストレス3匹、行動制御ストレス3匹の計18匹を用いた。それぞれ、No.1、No.2、No.3とした。
〔4−4:モニタリング用フィルターの製作〕
<実施例2>より、糞便から放出される揮発性物質は様々な性質を持つことが明らかになった。例えば、トリメチルアミンのアミン類、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類などを放出していることを示した。そこで、これらの物質を元に検出フィルターの種類を選定した(表5)。
ニンヒドリン試薬は、ニンヒドリン(0.3g)を酢酸(3ml)、n−ブタノール(100ml)と混和し溶液とした。
また、Van Urk試薬は、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド(0.8g)、濃硫酸(10ml)、エタノール(90ml)を混和し溶液とした。
塩化鉄(III)試薬は、塩化鉄(III)(1.0g)を50%メタノール(100ml)と混和した。
これら作製した各種溶液に、不織布を30分間浸透させ、乾燥させたものを各種フィルターとした。
〔4−5:モニタリング用フィルターを挿入したケージによる飼育〕
これら作製した各種フィルターを装着したカートリッジを作製し、このカートリッジが装着されたケージ内で5日間、コントロール群のマウスを飼育した。
また、24時間ごとに写真を撮影し、フィルターの変化を視覚的にとらえた。
また、2cm×2cm四方に切り取られたニンヒドリンフィルターが装着されたケージ内で168時間(7日間)、各種ストレスを与えたマウスを飼育した。
〔4−6:各種フィルターを装着したカートリッジの呈色反応〕
「コントロール群」のマウスにおいて、モニタリング用フィルターにおける呈色反応を検証した。その結果、48時間までは呈色反応を示さなかったが、72時間後にニンヒドリンフィルターが、若干、紫色変化を呈した。その後、120時間後まで、その他のフィルターは呈しなかった。
〔4−7:ストレスによるニンヒドリンフィルターの呈色反応の変化〕
上記に示した様々な飼育ストレスによるニンヒドリンフィルターの変化を検証した。「コントロール群」において、上記の通り72時間頃に薄く呈色反応を示し、その後168時間にかけてその色が紫色呈色反応を示した。これに対し、「拘束ストレス群」No.1のフィルターはフィルター装着後の24時間後に既に呈色反応を示した。「絶食ストレス群」のNo.1、3のフィルターにおいて、144時間後に強力に色付き、「絶食ストレス群」のNo.3において、紫色呈色反応ではなく黄色を呈した。また、「床敷きなしストレス群」のNo.1において、コントロールと比較し濃い紫色呈色反応を示した。
18日後における各種フィルターの呈色反応を検証した。その結果、「拘束ストレス群」のNo.1の他、No.3にも黄色の呈色反応を示していた。また、「床敷きなしストレス群」のNo.1と、「絶食ストレス群」の紫色に呈色したNo.2のフィルターの一部に黄色い呈色を示していた。
168時間後において変化が見られなかった、「行動制御ストレス群」においては、No.1のフィルターが「コントロール群」よりも濃い紫色を呈した。
本研究では、ケージ気相内の物質を検知することにより非侵襲的にマウスの状態をモニタリングするシステムの開発の検討を行った。その結果、本実験の飼育環境下においてニンヒドリンフィルターが反応を示した。また、その結果はストレスにより色の濃さと、色の違いに変化が現れた。
ニンヒドリン反応はアミノ酸とニンヒドリン2分子が縮合してルーヘマン紫という青紫色の色素とアミノ酸が還元されて出来るアルデヒドが生成するものによると考えられる。また、アミノ酸がプロリンの場合、ニンヒドリン1分子としか反応しないため黄色の呈色反応を示す。
本研究において作成したニンヒドリンフィルターの呈色反応は紫色と黄色の反応を示していることから、ストレスによる気相が変化していることが示唆される。しかしながら、同じストレスにおいてもフィルターが同様に変化しない場合もあるため、マウスによってストレスを受ける影響が異なる可能性も考えられる。また、最終的な反応の判断に長時間かかることなどからニンヒドリンの濃度を上昇させ反応時間を短く、また、本フィルターへの流入風速を上げることにより更に短期間で反応が確認できると考えられる。
<実施例2>より、「床敷きなしストレス群」と「絶食ストレス群」において、糞便からトリメチルアミンの放出が見られた。アミン系の物質としては唯一トリメチルアミンだけであった。今回のフィルターの変色が著しかった「絶食ストレス群」において、また、一部ではあるが「床敷きなしストレス群」のNo.1も反応していたことから、これらのストレスとトリメチルアミンに何らかの関係性が示唆される。
本フィルターによりケージ内気相をモニタリングすることに成功した。また、ケージ内気相はストレスにより変化することが本研究におけるフィルターの呈色反応により明らかになった。
本技術によれば、飼育時における不意のストレスにより飼育ネズミの生体内で起きている反応を非侵襲的にモニタリングする方法と、その結果起きるケージ内環境変化のモニタリング手法を提供することができる。特にストレスに被曝した飼育ネズミの糞便の臭気変化、pH変化を定量的に行うことができるので、飼育ネズミの管理・モニタリングシステムの構築が可能となり、このようなことは従来行われていなかった。
また、これら管理、モニタリングシステムは、飼育動物のミクロ環境としての飼育動物自身の状況及びそれに付随する飼育ゲージ内雰囲気の両方のモニタリング、並びに施設の適正なシステム運用に利用することができる。これらモニタリングシステムの結果から、フィードバックされることにより、元ある飼育環境の是正も行うことが可能となる。本技術により、このようなフィードバックシステム可能な動物飼育施設を構築することも可能である。
このように本技術により、研究・実験精度の向上や実験動物の福祉の向上を図ることが可能となるので、本技術は産業上、非常に有益である。

Claims (9)

  1. 飼育ネズミの糞便のpH変化に基づく飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
  2. さらに、糞便の臭気変化及び/又は糞便の細菌叢変化に基づく請求項1記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
  3. 前記糞便のpH変化において、指標pHとの対比、測定開始時のpHとの対比、pHの周期性、pHの変動幅から選ばれる1種又は2種以上のものに基づく請求項1又は2記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
  4. 前記糞便のpH変化において、指標pHと比較して糞便のpHが高い場合、前記飼育動物がストレス被曝したと判定する請求項1〜3の何れか1項記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
  5. 前記糞便の臭気変化において、臭気強度との対比及び/又は指標臭気との対比に基づく請求項2〜4の何れか1項項記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
  6. 前記糞便の臭気変化において、対照群の臭い強度と比較して臭い強度が増加した場合、前記飼育動物がストレス被曝したと判定する請求項2〜5の何れか1項記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
  7. 前記糞便の性質変化を、呈色試薬反応にて判断する請求項1記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
  8. 前記呈色試薬が、pH指示試薬及び/又は気体検知試薬である請求項7記載の飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
  9. 飼育ネズミの糞便のpH変化に基づく飼育ネズミのストレス被曝判定をするためのpH指示試薬を含む飼育ネズミのストレス被曝判定材、又は、
    飼育ネズミの糞便のpH変化に基づく飼育ネズミのストレス被曝判定をするためのpH指示試薬を含む床材である飼育ネズミのストレス被曝判定材、を用いる、飼育ネズミのストレス被曝判定方法。
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