[第5世代移動通信を取り巻く背景]
現在、スマートフォンなどの高機能な移動通信端末が爆発的に普及している。携帯電話に関しては、第3世代移動通信から第4世代移動通信に移行し、現在では更に先の第5世代移動通信(通称「5G」)に関する研究開発が進められている。この5Gに関して行われている検討のひとつに、マクロセルとスモールセルとの利用がある。これまでの移動通信では、ひとつのサービスエリアを半径数キロメートル程度に設定し、このマクロセルのエリアをひとつの基地局装置がカバーしていた。都市部などの人口密集地では、この様なマクロセル内には非常に膨大な数のユーザが存在することになる。膨大な数のユーザをひとつの基地局装置が収容するとき、全体の限りあるシステム容量は各ユーザでシェアされることになるため、個々のユーザごとのスループットは低下する。
この様なスループットの低下を回避するために、トラヒックが集中する様な人口密集地に半径数十メートル程度の非常に小さなサービスエリアをスモールセルとして設定し、このスモールセルを活用することでマクロセルを介さずにスポット的なトラヒックをネットワークにオフロードする技術が開発されている。ここでは、スモールセルにおける通信能力とマクロセルにおける通信能力とを同時並行的に利用可能な端末局装置を想定することで、制御情報はマクロセルを活用して情報交換を行いながら、ユーザデータはスモールセル側において収容し、マクロセルとスモールセルのメリットを最大限活用することが可能になる。
このスモールセルでは、大容量の通信を行うことでトラヒックの効率的なオフロードを実現する必要がある。マクロセルにおいては長距離伝搬を許容するために周波数の低いマイクロ波帯を利用することが前提となる。しかし、既に周波数資源が枯渇しつつあるマイクロ波帯の現状を考慮し、比較的近距離での通信を想定するスモールセルでは、比較的周波数の高い準ミリ波帯又はミリ波帯の利用が想定されている。この高周波数帯の特徴は、周波数の2乗に反比例して伝搬減衰が大きくなるため、スモールセル基地局は理想的にはユーザの端末局装置に近い場所に設置されることが好ましい。例えば、ビルの屋上の様な設置の容易な場所では、端末局装置と基地局装置との距離が離れ過ぎてしまい、回線設計的には好ましくない。一方、スモールセルはトラヒックが集中する場所に設定されることになるため、基地局装置を設置し、そこまで光ファイバを敷設することが困難な場所であっても、基地局装置の設置が強く望まれるケースは存在する。
例えば、新宿や渋谷などの駅前などの様に非常に人が多く密集する場所に設置する場合を想定すれば、その様な場所に隣接するビルの屋上では伝搬減衰が大きくなるため、ビルの屋上よりも高さの低い場所、即ちビルの壁面などに設置することが求められる場合がある。しかし、既設のビルの壁面に光ファイバを敷設するのは困難な場合があり、その様な場合には無線回線を用いてその基地局装置へのバックホール回線を提供する必要に迫られる場合がある。
ここで、光ファイバ上での光回線に求められる符号誤り率は10−12程度である。一般的に光回線よりも符号誤り率が高い無線回線をバックホール回線に用いながら、光回線と同等の品質を満たすことは困難である。あくまでも、1回の送信でこの目標誤り率を実現しようとするならば、例えば非常に指向性利得の高い開口の大きなパラボラアンテナを送受信局で対向させ、反射波成分を殆ど無視可能な状態で固定的な通信を行うことで、周波数選択性歪のない非常に静的で安定的な環境で通信を行わなければならない。しかし、大型のパラボラアンテナはそのアンテナ面積の大きさ故に強風時の風圧は大きく、例えば送受信局共にビルの屋上に大きな風圧にも耐えうる頑丈な土台に固定設置するなどの設置条件が求められる。
しかし、無線回線でバックホール回線を設置する必要があるケースは例えばビルの壁面などに無線局を設置する場合であり、その様な場所に大きなパラボラアンテナを安全に設置するのは至難の業である。必然的に、アンテナの開口面積は小さなものが求められる様になり、その結果、指向性利得は相対的に低いものとならざるを得ない。指向性利得が小さくなると反射波の影響を受けやすくなり、周波数選択性歪を生じることになり、結果的にエラーフロアを引きやすい状況になる。これは、SNRを幾ら大きな値に改善しても、一定のレベルにまでしかPDU(Protocol Data Unit)の誤り率を改善することはできないことを意味する。この結果、無線区間のPDUの誤り率は10−12より大幅に劣化することになる。しかし、仮に無線区間の1回の伝送当たりのPDUの誤り率が10−4程度に維持できれば、3回送信すれば3回連続で符号誤りが発生する確率は10−12となり、光回線と同レベルの符号誤り率にすることができる。
つまり、再送制御を適用し、複数回の送信により符号誤り率を改善することが現実的な解となる。最も厳しい条件を仮定し、無線の伝送単位であるPDUのサイズを所定のビット数を仮定し、そのPDUが再送制御によっても誤り補償ができなかった場合にPDUの全誤りと見なすと、無線区間のPDUの目標誤り率は10−12と設定する必要がある。実際には、PDUの符号誤り時に符号誤りを許容してそのまま出力するとするならば、出力PDUの中の誤りビット数は全体のごく一部であるために、もう少し高い目標誤り率に設定することは可能であるかも知れない。この辺の考え方はシステム設計方針により異なる。いずれにしてもこの程度の非常に低い目標誤り率が求められるが、不安定な無線回線上ではこの誤り率を再送制御なしに実現することは困難である。
一方、5Gに関する検討の中では5Gに関する要求条件も整理されており、例えば通信速度としては10Gbit/s以上の伝送速度の実現や、時速100km/h以上の高速で移動する端末局装置への追従性や、エリア内で収容する端末局装置数を1桁以上増やすなど、非常に厳しいハードルが設定されている。この5Gに向けた無線アクセスにおける最も厳しい条件のひとつとしては、無線区間での伝送処理遅延が1ms以内との規定がある。
ここで、基地局装置へのバックホール回線の一部を無線化する場合、遅延時間1ms以下という厳しい条件を考えれば、より条件の厳しいラスト1ホップの無線通信のために許容伝送処理遅延の大半を割り当てるため、概ね要求条件である1msの10〜20%程度、即ち100〜200μs程度の値をバックホール回線での配分の目標値とすべきである。したがって、上述の再送制御もこの時間内に処理を完了することが求められる。
[再送制御に関する従来技術]
次に、再送制御に関する従来技術について以下に図を用いて説明する。再送制御は別名、ARQ(Automatic Repeat Request)とも呼ばれている。図16は、従来技術における信号処理フローの概要を示す図である。図左側の処理S101から処理S106までの処理は、送信処理を示す。図右側の処理S107から処理S112までの処理は、受信処理を示す。送信局が送信処理を開始すると(処理S101)、入力されたユーザデータを基に無線回線での送信データを生成し(処理S102)、これに再送制御のためのシーケンス番号などのヘッダ情報を付与して送信すべきPDUを構成し(処理S103)、PDUの送信を行う(処理S104)。その後、所定の時間内に正常送信の完了を示すACKを受信することができれば(処理S105でYes)、処理を終了する(処理S106)。一方、所定の時間以内にACKを受信できない場合には(処理S105でNo)、処理S104に戻りPDUの再送信を行う。
一方、受信局が受信処理を開始すると(処理S107)、PDUを受信し(処理S108)、受信したPDUに符号誤りがあるか否かの判定を行い(処理S109)、符号誤りがある場合には(処理S110でYes)、処理を終了する(処理S112)。処理S110で符号誤りが検出されない場合、即ち正常にPDUが受信できた場合には(処理S110でNo)、送信局に向けてACKを送信し(処理S111)、処理を終了する(処理S112)。
以上が基本的な処理フローであるが、一般に伝送路上での伝搬遅延であったり、フレーム構成を組むことでACKの送信処理が即座に実施できない場合があり、この再送処理には幾つかのバリエーションがある。
図17は、Stop&Wait型再送制御の概要を示す図である。図17において、横軸は時間軸を表し、上側はPDUの送信元の無線局#1からの送信信号、下側はPDUの受信側の無線局#2の送信信号を表す。図中の符号101−1〜101−3はデータを収容したPDUを表し、符号102−1〜102−2はACKを表す。PDU(101−1〜101−3)にはそれぞれPDUを識別するためのシーケンス番号が連番で付与されており、PDU101−1、101−2はシーケンス番号SN=1及びSN=2が付与されている。
PDU101−1を無線局#2が符号誤りなしに正常受信すると、無線局#2は正常受信できたPDU101−1のシーケンス番号であるSN=1をACK102−1に収容して送信する。ACK102−1を受信した無線局#1は、次のデータであるPDU101−2にシーケンス番号SN=2を付与して送信する。ここで符号誤りが生じている場合を想定すると、無線局#2は正常受信ができないのでACKを送信しない。所定の時間内にACKの受信を確認できない場合、無線局#1は、シーケンス番号SN=2を付与したPDU101−3を再送する。再送されるPDU101−3は、PDU101−2と同一の内容である。これを正常受信できた無線局#2は、シーケンス番号SN=2を付与したACKを送信する。
この様に、Stop&Wait型再送制御は図16に示した処理フローに相当し、ひとつのPDUの送信に対してひとつのACKを送信し、PDUとACKが1対1対応する。このため、必ずしもシーケンス番号の付与は必須ではないし、ACK信号にもシーケンス番号を付与しなくても動作可能である。
次に、図18は、Go−Back−N型再送制御の概要を示す図である。図17と同様に、横軸は時間軸を表し、上側はPDUの送信元の無線局#1からの送信信号、下側はPDUの受信側の無線局#2の送信信号を表す。図中の符号103−1〜103−8はデータを収容したPDUを表し、符号104−1〜104−2はACK信号を表す。図18では、無線局#2からのACK104−1の返信を待つ前に、PDU(101−1〜101−4)を連続的に送信している。
ここで、シーケンス番号SN=3のPDU103−3に符号誤りが生じているものとする。無線局#2では、シーケンス番号SN=2までのPDUは抜けがなく連続的に受信できているが、シーケンス番号SN=4のPDU103−4は受信できていても、シーケンス番号が不連続となっている。そこで、受信が完了している最新のシーケンス番号SN=2を代表値としてACK104−1に収容して返送する。無線局#1では、シーケンス番号SN=2の次のシーケンス番号SN=3以降が再送対象であるものと判断し、シーケンス番号SN=3以降のPDU103−5〜103−8を送信する。
ここで、PDU103−5はPDU103−3の再送であり、全く同一のPDUである。同様にシーケンス番号SN=6が付与されたPDU103−8に符号誤りが生じると、無線局#2は直前のシーケンス番号SN=5を収容したACK104−2を送信する。Go−Back−N型再送制御のStop&Wait型再送制御に対するメリットは、ACKの返送にタイムラグが生じる場合(伝搬遅延や処理遅延などを含む)、その返送を待つ間に先走って多くのデータを送信することが可能になるため、ACK返送のタイムラグに起因した伝送効率の低下が回避できる点にある。
次に、図19は、選択再送型再送制御の概要を示す図である。図18と同様に、横軸は時間軸を表し、上側はPDUの送信元の無線局#1からの送信信号、下側はPDUの受信側の無線局#2の送信信号を表す。図19において、符号105−1〜105−8はデータを収容したPDUを表し、符号106−1〜106−2はACKを表す。図18では、無線局#2からのACK104−1にはひとつのシーケンス番号SN=2のみが収容されていたが、図19のACK106−1にはシーケンス番号SN=1、SN=2、SN=4が収容されている。これは、シーケンス番号SN=1を収容したPDU105−1、シーケンス番号SN=2を収容したPDU105−2、シーケンス番号SN=4を収容したPDU105−4の正常受信を無線局#1へ通知するものである。
これを受信した無線局#1は、シーケンス番号SN=3以外の送信の完了を把握すると共にシーケンス番号SN=3のPDU105−3の送信の未完了を把握する。無線局#1は、シーケンス番号SN=3のPDU105−5をPDU105−3の再送として送信し、これに続けて未送信のシーケンス番号SN=5、SN=6、SN=7のPDU105−6〜105−8を送信する。シーケンス番号SN=7のPDU105−8に符号誤りが存在する場合、無線局#2はシーケンス番号SN=3、SN=5、SN=6のPDU105−5〜105−7の受信完了を通知するACK106−2を送信する。ACK106−2は、シーケンス番号SN=3、SN=5、SN=6を収容している。
図19に示した選択再送型再送制御のGo−Back−N型再送制御に対するメリットは、符号誤りの生じたPDUのみを再送しているために、結果的に無駄な再送が省略され、伝送効率を高めることができる点にある。一方、図18に示したGo−Back−N型再送制御では、PDU103−4が符号誤りなしに正常に受信されているにも関わらず、PDU103−6で再度送信されている。実際、図18では図中でシーケンス番号SN=5までのPDUしか送信完了できていないが、図19ではシーケンス番号SN=6までのPDUの送信を完了している。
次に、一般の無線通信ではユーザ情報の伝送以外にも、システム運用に必要な様々な制御情報の伝達も定期的に必要となる。更に、送受信局間の同期やチャネル情報のトラッキングなどの目的もあり、これらを効率的に全体の無線通信の中に取り組むために、周期的なフレーム構成を取り運用するケースが多々ある。図20は、時分割複信(TDD:Time Division Duplex)適用時のフレーム構成における送受信データの収容の概要を示す図である。図20において、符号109−1はダウンリンク領域、符号109−2はアップリンク領域、符号105−1〜105−4はPDU、符号106−1はACK、107はダウンリンク内の割り当てスロット、符号108はアップリンクの割り当てスロットを示す。なお、図19における説明に対応するものには同一の符号を付与している。
この無線通信システムでは所定の周期のフレーム構成を組み、その前半部分をダウンリンク領域109−1、後半部分をアップリンク領域109−2としている。これら領域の境界は、固定的に設置されていても構わないし、毎フレーム動的に変更していても構わない。一般に、ダウンリンク領域の先頭には、同期確立やチャネル情報取得に必要なトレーニング信号、更には各種の制御情報などがヘッダ情報として付与されていることが多い。しかし、ここでは説明の本質ではないのでダウンリンク領域のヘッダ情報も含めて省略している。一般に、複数の端末局装置を収容するP−MP(Point−to−Multipoint)型の通信では、アップリンクもダウンリンクも複数の端末局装置でシェアすることになるが、ここではその様な状況は省略し、着目したふたつの無線局間での通信に特化した説明を行っている。
図19と同様に、無線局#1(ここではダウンリンクであるので、実質的には基地局装置に相当)からPDU105−1〜105−4を送信するにあたり、フレーム長に対してPDU長が短い場合には、複数のPDU105−1〜105−4を所定の割り当てスロット107に収容して連続的に送信し、所定の数まで送信したところでACK106−1の返送を待ち受ける。ACK106−1などの制御情報は、PDU105−1〜105−4が収容されているダウンリンク領域109−1と逆方向のアップリンク領域109−2に割り当てられるスロット108に収容される。無線局#2(ここでは端末局装置に相当)は、スロット108にてACK106−1を無線局#1へ送信することにより、PDUの受信状況を通知する。ここでは同一フレーム内でACK106−1の返信が行われる例を示したが、この様な制御情報は毎フレーム割り当てられるとは限らず、場合によっては数フレーム後のアップリンク領域で返送されていても構わない。また、ここでは同一フレーム内のダウンリンク領域109−1で送信されたPDU105−1〜105−4の受信状態が同一フレームのACK106−1で返送されるものとして説明したが、無線局#2は処理遅延的に間に合わなければ後続するフレームで遅れてACKを送信しても構わない。
選択再送型再送制御やGo−Back−N型再送制御などは、この様なタイムラグに対する許容度を備えた再送制御方式であり、特に選択再送型再送制御はタイムラグによる効率の低下を抑えることに役立つ。なお、図20ではダウンリンクでPDUを送信する場合を例に示したが、アップリンクでPDUを送信する場合には、アップリンク領域109−2にPDUが収容され、ダウンリンク領域109−1にACKが収容されることになる。
図21は、周波数分割複信(FDD:Frequency Division Duplex)適用時のフレーム構成における送受信データの収容の概要を示す図である。図21において、符号110−1はダウンリンク用の周波数F1の通信状態、符号110−2はアップリンク用の周波数F2の通信状態、符号105−1〜105−4はPDU、符号106−1はACK、符号107はダウンリンク内の割り当てスロット、符号108はアップリンクの割り当てスロットを示す。同様に図19における説明に対応するものには同一の番号を付与している。
ここでは、異なる周波数F1、F2を用いて同時に双方向の通信を可能としている。ここでも図20と同様に、各種ヘッダ情報は省略している。図20の場合と同様に、P−MP型の通信の場合の様な複数の無線局で全帯域をシェアしている状況はここでは省略し、着目したふたつの無線局間での通信に特化した説明を行っている。
基本的な動作は図20と同様であるが、ここではFDDを適用しているために、アップリンクとダウンリンクとは同時に通信が可能であり、PDU105−1〜105−4を受信した無線局#2は、スロット108の割り当てがあれば直ぐにアップリンクでの通知が可能である。しかし、フレーム構成の中で制御情報用に割り当てられるスロット108がフレームの後方にある場合には、無線局#2は、そのタイミングまで待ってACK106−1を送信することになる。
以上の典型的な例である図20及び図21の特徴は、TDD/FDDの差に関係なく、一般にACK106−1の返送用のスロット108はフレーム内には無線局装置当たりひとつまで(ゼロであっても良い)であり、この結果、再送の周期は最短でもフレーム周期に留まることになる。
次に、図22は、従来技術における再送制御の処理フローの別の例を示す図である。図16がStop&Wait型再送制御の処理フローに概ね対応するのに対して、図22は選択再送型再送制御の処理フローに対応する。処理全体は4つの処理に分けられる。処理S121から処理S125で示される(a)送信側事前処理と、処理S126から処理S130で示される(b)送信側送信信号処理と、処理S131から処理S137で示される(c)受信側受信信号処理と、処理S138から処理S140で示される(d)送信側送信管理処理に分かれる。処理(a)、(b)、(d)が送信側の処理に対応し、処理(c)が受信側の処理に対応する。
まず、送信局にデータが入力され処理が開始されると(処理S121)、送信局は、フレーム構成を組んだPDUとして送信データを構成し(処理S122)、更にこれにシーケンス番号などのヘッダ情報を付与して送信PDUを生成し(処理S123)、送信バッファに収容し(処理S124)、一旦処理を終了する(処理S125)。その後、送信用のスロットが割り当てられて送信が開始されると(処理S126)、送信局は、送信未完了のデータを検索し(処理S127)、その送信未完了のデータを読み出して(処理S128)、PDUを送信し(処理S129)、送信終了と共に一旦処理を終了する(処理S130)。
受信局は、PDUを受信すると(処理S131)、受信信号処理を実施し(処理S132)、受信したPDUの誤り検出を行う(処理S133)。符号誤りが検出されない場合(処理S134でNo)、受信局は、そのシーケンス番号をACKに収容する(処理S135)。符号誤りが検出された場合(処理S134でYes)、受信局は、そのシーケンス番号はACKに収容しない(特に処理なし)。その後、一連の受信が終わった後に、受信局は、それらの符号誤りなしに受信されたPDUのシーケンス番号を収容したACKを送信し(処理S136)、処理を終了する(処理S137)。
送信局は、このACKを受け取ると(処理S138)、このACKを基に送信が正常に完了したPDUを記録したデータベースを更新し(処理S139)、処理を終了する(処理S140)。このデータベースは処理S127において利用され、送信未完了のPDUの検索に利用される。なお、データの送信からACKの受信までのタイムラグを考慮し、対応するACKを含む制御情報の受信がなされていないタイムラグ期間中には不要な再送を行わない様な管理を、このデータベース上で管理してもよい。
次に、図23は、選択再送型再送制御における送信ウインドウと受信ウインドウとの概要を示す図である。上述の説明においてシーケンス番号は連続する通し番号として説明してきたが、実際には所定のビット数の2進数で表すのが一般的である。例えば、10ビットのカウンタを用いれば、0から1023の数値を表すことができる。これを「モジュロM(ここではM=1024)」と呼ぶ。ここでは、1023の次には0に戻ることになるため、連続して運用していれば、同一のシーケンス番号が現れることになる。このとき、同一のシーケンス番号が指し示すPDUの区別が確実にできる様にするために、一般に選択再送型再送制御においては、送信局及び受信局において、モジュロMの半分のサイズの送信ウインドウ及び受信ウインドウを設定し、そのウインドウ内のシーケンス番号のPDUのみを有効と見なす。
送信ウインドウの起点は、送信局においてACKが受信されていないシーケンス番号のうちの最古のシーケンス番号NTx−oldestとする。受信ウインドウの起点は、受信局において未受信PDUの内の最古のシーケンス番号NRx−oldestとする。終点はモジュロMに対し、送信局においてはNTx−oldest+(M/2)−1とし、受信局においてはNRx−oldest+(M/2)−1とする。それぞれのウインドウサイズはM/2である。別の言葉で説明すれば、送信局では抜けがなく連続してACKが受信されたPDUのうち最後のシーケンス番号の次のシーケンス番号がNTx−oldestである。受信局では抜けがなく連続して正常受信されたPDUのうち最後のシーケンス番号の次のシーケンス番号がNRx−oldestである。
したがって、送信側でシーケンス番号NTx−oldestに対するACKを受信すると、抜けがなく連続して全てのACKを受信済みのPDUの最後のシーケンス番号は別の値に置き換えられることになるが、次に送信ウインドウの起点となるべきシーケンス番号は必ずしも容易に探索できず、NTx−oldest+1、NTx−oldest+2、NTx−oldest+3・・・と順にチェックを行い、最初にACKが未受信となるシーケンス番号を探索しなければならない。同様に受信局側では、シーケンス番号NRx−oldestを符号誤りなしに正常に受信すると、抜けがなく連続して正常受信済みのPDUの最後のシーケンス番号は別の値に置き換えられることになるが、次に受信ウインドウの起点となるべきシーケンス番号は必ずしも容易に探索できず、NRx−oldest+1、NRx−oldest+2、NRx−oldest+3・・・と順にチェックを行い、最初に未受信のPDUとなるシーケンス番号を探索しなければならない。
また、ACKを収容した制御情報にも符号誤りが発生する可能性があることも考慮すれば、一般には送信側の送信ウインドウと受信側の受信ウインドウとは一致している保証はない。更に、遅延が極端に増大することを避けるため再送回数に上限を定めて再送制御を行うことも一般的であるが、この様に送信側が一方的に再送を打ち切る際には、シーケンス番号NTx−oldestのPDUのACKを未受信のまま、別のシーケンス番号に送信ウインドウの起点を変更することになる。この際、事前にネゴシエーションを行う処理を実施しないと、受信局側の受信ウインドウはこれに連動させることができないため、このネゴシエーション処理が非常に重要になる。しかし、このネゴシエーション用のメッセージを収容した制御情報にも符号誤りが発生する可能性があることも考慮すれば、確実で且つ短時間で実現可能なネゴシエーション処理が求められる。
以上が従来技術における再送制御の概要である。この再送制御には実際には幾つかのバリエーションが存在し、例えば上述の説明ではACKに収容する情報を正常に受信がなされたPDUのシーケンス番号として説明したが、正常な受信がなされなかったPDUのシーケンス番号(一般的にはNACKと呼ぶ)を収容しても同様の制御は可能である。また、符号誤りが検出されたPDUに関しては、そのPDUは処理対象から除外する(即ち廃棄する)として説明を行ったが、符号誤りはあるにしろ何らかの利用価値があるものと判断し、符号誤りを含む受信済みのPDUと、再送されたPDUないしはその一部の情報を組み合わせ、符号誤りのないPDU(ないしは元のユーザ情報)を再生することも可能である。これらの再送制御はハイブリッドARQと呼ばれ、例えば再送情報として誤り訂正符号化の符号化率等の条件を変えて実施した際の符号化情報の一部を送信したり、受信した複数のパケットの情報をあたかも異なる複数のアンテナで受信された情報と見なして最大比合成したりするなどの方法が提案されている。この様な多少のバリエーションはあるが、基本的な部分としては、送受信局間のPDUの送信完了、未完了の状態を連続したシーケンス番号を介して相互に把握している点では共通しており、このシーケンス番号の通知の仕方のバリエーションを除けば、再送PDUの管理方法については上述の説明で網羅されている。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態における無線通信システム及び無線通信方法を説明する。なお、以下の実施形態では、同一の符号を付した構成要素は同様の動作を行うものとして、重複する説明を適宜省略する。
なお、本発明の実施形態の説明における「送信バッファ」とは、再送制御の管理及び速やかなデータの伝送を行うためのPDU収容用の記憶領域である。例えば、データに所定の識別情報などを付与してPDUを構成する前のデータを収容するためにも「バッファ」は必要であり、これも広義の意味では「送信バッファ」ではあるが、以下で用いる「送信バッファ」は再送制御の管理及び速やかなデータの伝送を行うためのPDU収容用の狭義の「送信バッファ」を意図して説明を行っている。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態におけるPDU管理のための識別情報の付与の概要を示す図である。図1において、横軸は時間を所定の基準で区切ったスロット番号を、縦軸は同一スロット番号内で複数収容されるPDUの識別のためのミニスロット番号を示す。また、スロット番号とミニスロット番号との組み合わせに対応する四角は、ユーザデータを収容したPDUを表し、その中にPDU管理のための識別情報が示されている。ここでは、符号誤りがなく、再送が発生していない場合の例を示しており、識別情報に含まれるN1、N2はスロット番号、ミニスロット番号を表している。四角で表されるPDUそれぞれの右上に添えられた数字はPDU列の連番を表すもので、以下の説明ではこの連番を用いて、具体的にどのPDUの説明であるかを区別する。図1に示す様に、PDUのスロット番号がi、ミニスロット番号がjの場合、当該PDUに含まれる識別情報は、N1=i、N2=jと設定されている。なお、PDUに対して付与される識別情報は、PDUそれぞれが含むデータに関するその他の情報を含んでもよい。またモジュロMを考慮した上で、スロット番号が若番ほど時系列的には早い時刻(時間的に古い)に対応している。
ここでのスロットの時間の区切りは如何なるものであっても構わないが、送受信制御の基準となる一定の時間間隔で且つひとつのスロット内にひとつ又は複数のPDUが収容される時間間隔が想定される。例えば広帯域のシステムでOFDM変調方式を採用する場合、1OFDMシンボル内にひとつ以上のPDUを収容可能であれば、OFDMシンボル長をスロット長と設定してもよい。この条件下では、N2の上限を4とし、図1は1OFDMシンボルに4つのPDUを収容可能とする場合を示している。なお、ここではあくまでも符号誤りが生じていない場合の例であり、符号誤りが発生する場合には、図1に示した例と異なるPDUの収容パターンとなる。また、本発明の適用範囲はOFMD変調方式に限らず、スロット化されたシングルキャリア伝送を含め、任意の変調方式において実施可能である。
ここで、各PDUの識別情報のN1及びN2で示されるスロット番号及びミニスロット番号には、PDUの初回送信時のスロット番号及びミニスロット番号が付与される。PDUの再送時にも、初回送信時のスロット番号及びミニスロット番号を用い、当該PDUの再送に用いるスロット番号及びミニスロット番号とは異なる値が用いられる。そのため、再送に用いられたスロット番号及びミニスロット番号の組み合わせに対しては、その組み合わせで示されるミニスロットで初回送信されるPDUは存在しないことになる。なお、初回送信とは、再送でない送信のことである。
図2は、第1の実施形態における送信ウインドウの概要を示す図である。図2において、上部の横軸は時間の経過によるスロット番号を表し、その下側の4本の矢印は、スロット番号が9、10、11、12に相当する時刻tにおける送信ウインドウを表している。従来技術の図23では、送信ウインドウはシーケンス番号に紐付けられていた。これに対して、第1の実施形態の無線通信システムでは、送信ウインドウはスロット番号に紐付けられている。具体的には、スロット番号が1増加するごとに、送信ウインドウに含まれる複数のスロットのスロット番号も1ずつ増加する。これはACKの受信状況とは全く関係なく、あくまでも時間の経過により送信ウインドウが変化しているという特徴を示している。
また更に、この送信ウインドウのサイズに対してモジュロMの半分の様な規定はなく、図2に示す例では、送信ウインドウの幅が9スロット分の幅に設定されている。例えば、t=10、即ちスロット番号が10に相当する時刻においては、t=9の送信ウインドウに対してひとつだけ送信ウインドウが右側にシフトしており、この結果、スロット番号1が送信ウインドウから外れ、かつスロット番号10が送信ウインドウに含まれた状態になっている。したがって、t=10においては既に初回送信がスロット番号1であったPDUに関しては再送処理を実施する対象から外れる。これにより、初回送信がスロット番号1であったPDUは送信バッファから廃棄してよいことになる。図1を参照すれば、「N1=1、N2=1」、「N1=1、N2=2」、「N1=1、N2=3」、「N1=1、N2=4」に相当するPDUはt=10の時点で再送制御の対象から外れることになる。したがって、これらのPDUは送信バッファから削除されることになる。
同様に、t=11においては、t=10の送信ウインドウに対してひとつだけ送信ウインドウが右側にシフトしており、この結果、スロット番号2が送信ウインドウから外れた状態になっている。したがって、t=11においては既に初回送信がスロット番号2であったPDUに関しては再送処理を実施の対象から外れたので、初回送信がスロット番号2であったPDUは送信バッファから廃棄して良いことになる。図1を参照すれば、「N1=2、N2=1」、「N1=2、N2=2」、「N1=2、N2=3」、「N1=2、N2=4」に相当するPDUはt=11の時点で再送制御の対象から外れることになり、これらのPDUは送信バッファから削除されることになる。
次に、図3は、第1の実施形態における受信ウインドウの概要を示す図である。図3において、上部の横軸は時間の経過によるスロット番号を表し、その下側の4本の矢印は、スロット番号が9、10、11、12に相当する時刻tにおける受信ウインドウを表している。従来技術の図23では、受信ウインドウはシーケンス番号に紐付けられていた。これに対して、第1の実施形態の無線通信システムでは、送信ウインドウと同様に、受信ウインドウもスロット番号に紐付けられている。スロット番号が1増加するごとに、受信ウインドウに含まれるひとつ又は複数のスロットのスロット番号も1ずつ増加する。これはPDUの受信状況とは全く関係なく、あくまでも時間の経過により受信ウインドウが変化している。
また更に、この受信ウインドウのサイズに対してモジュロMの半分の様な規定はなく、図3に示す例では、9スロット分の幅に設定されている。例えば、t=10、即ちスロット番号が10に相当する時刻においては、t=9の受信ウインドウに対してひとつだけ受信ウインドウが右側にシフトしており、この結果、スロット番号1が受信ウインドウから外れ、かつスロット番号10が受信ウインドウに含まれた状態になっている。したがって、t=10においては既に初回送信がスロット番号1であったPDUに関しては再送処理を実施する対象から外れる。これにより、初回送信がスロット番号1であったPDUは受信バッファから出力し、PDUを終端してユーザデータを再構成してよいことになる。
図1を参照すれば、「N1=1、N2=1」、「N1=1、N2=2」、「N1=1、N2=3」、「N1=1、N2=4」に相当するPDUはt=10の時点で再送制御の対象から外れることになる。したがって、これらのPDUは受信バッファから全て時系列の順番で「N1=1、N2=1」、「N1=1、N2=2」、「N1=1、N2=3」、「N1=1、N2=4」を出力し、PDUを終端してユーザデータが再構成される。
同様に、t=11においては、t=10の受信ウインドウに対してひとつだけ受信ウインドウが右側にシフトしており、この結果、スロット番号2が受信ウインドウから外れた状態になっている。したがって、t=11においては既に初回送信がスロット番号2であったPDUに関しては正常受信されることはなくなったので、初回送信がスロット番号2であったPDUは受信バッファから出力して良いことになる。図1を参照すれば、「N1=2、N2=1」、「N1=2、N2=2」、「N1=2、N2=3」、「N1=2、N2=4」に相当するPDUはt=11の時点で再送制御の対象から外れることになり、これらのPDUは受信バッファから出力し、PDUを終端してユーザデータを再構成することになる。
以上説明した様に、第1の実施形態における無線通信システムにおいては、送信ウインドウも受信ウインドウもPDUの通信状態ないしはACKの受信状況に依存することなく、単純に時間の経過と共に(ないしはスロット番号と共に)シフトすることになるので、特に送受信局間でネゴシエーションを行うまでもなく、一旦、送受信局間でスロット番号が同期されると、それ以降は送信ウインドウに含まれるスロットと、受信ウインドウに含まれるスロットとの不一致は発生しない。また、図1に示した様に、第1の実施形態の無線通信システムにおける、PDUに付与される情報は、従来の様な連番のシーケンス番号ではなく、不連続な値となっている。しかし、スロット番号(N1)とミニスロット番号(N2)との組み合わせで、任意のふたつのPDUの間の時系列は区別がつく様になっている。具体的にはスロット番号の若番の方が時間的に古い(すなわち、時間的に早く入力された)PDUで、且つ、同一のスロット番号の場合にはミニスロット番号が若番の方が時間的に古いPDUとなっている。
図4は、第1の実施形態における再送制御の概要を示す図である。図4において、上側には図1と同様のPDUへの識別情報の付与方法が示され、下側にはPDU送信の逆方向の制御情報、即ちACKに収容される情報の例が示されている。また、横軸は時間に相当し、スロット番号を示す。四角で示されるこのACKそれぞれの右上には、説明する上でACKを識別するためのアルファベットの添字を便宜上付与している。上側に示す送信局側から送信されるPDUは、受信側では受信処理遅延により受信内容を把握するのにタイムラグが存在するため、PDUの送信スロットとACKを返送する返信スロットとの間には若干の遅延が伴う。例えば、スロット番号1の「N1=1、N2=1(右肩の添字が1のPDU)」、「N1=1、N2=2(右肩の表示で2のPDU)」、「N1=1、N2=3(右肩の添字が3のPDU)」、「N1=1、N2=4(右肩の表示で4のPDU)」の受信状態であるACKを送信できるのはスロット番号3であり、2スロット分のタイムラグが生じている。
同様に受信側がスロット番号3で送信したACK(右肩の添字がaのACK)が送信側で認識され、ACKで再送を要求されたPDUを再送できるのはスロット番号5においてである。この対応関係を斜めの矢印で示しており、下向きの実線の矢印はPDUの送信スロットとACKの送信スロットとの関係を、上向きの点線の矢印はACKの送信スロットとそのACKに対応する再送がなされる送信スロットとの対応を示している。実際に再送が行われたPDUは、四角い表記の枠線を太い実線で表している。本実施形態では送信側と受信側とは完全に同期しており、送信されたPDUのACKが送信されるスロット番号は既知であるものと仮定し、更にACKを受信後にPDUを再送するスロットも固定的な位置関係になっている。このため、ACKに収容する情報は、PDU識別のための番号である必要はなく、ミニスロット番号1〜4に対するビットマップで表現することが可能である。ここでは2スロット遅れでACKが返送されることが既知であるとし、右肩の添字がaのACK(スロット番号が3のACK)には、明示的にN1=1のスロットのACKであることを明記していないが、「N1=1」と明記する形でACKを返信しても構わない。
また、伝送路上で符号誤りが生じたPDUは四角の中に×で表記し、図4に示す例では右肩の添字が1、6、8、11、23、24のPDUで符号誤りが生じている。これを反映する形で、符号誤りありを「0」で、符号誤りなしを「1」で示した情報をACKに収容している。例えば、右肩の添字がa、b、c、e、fのACKには「0111」「1010」「1101」「0111」「1100」として符号誤りありのPDUの存在がビットマップで表現されている。この結果、1のPDU「N1=1、N2=1」は17のPDUで再送されており、添字17で示された四角の表記の中にも「N1=1、N2=1」と同一の識別情報が明示されている。同様に、6のPDU「N1=2、N2=2」は21のPDUで再送され、8のPDU「N1=2、N2=4」は22のPDUで再送され、11のPDU「N1=3、N2=3」は25のPDUで再送され、17のPDU「N1=1、N2=1」は33のPDUで再送され、23のPDU「N1=6、N2=3」は37のPDUで再送され、24のPDU「N1=6、N2=4」は38のPDUで再送されている。
1のPDU「N1=1、N2=1」は17のPDUで再送されているが、このPDUにも符号誤りが生じているため33のPDUで再度、再送されている。即ち、スロット番号1のPDUはスロット番号5とスロット番号9で再送を行い、言い換えれば初回送信がスロット番号1のPDUはスロット番号9で3回目の送信が完了することになる。送信回数の上限を3回とすれば、スロット番号10以降ではスロット番号1で初回送信したPDUが再送されることはなく、これが図2のt=10での送信ウインドウの説明に対応している。なお、正常受信されたPDUを受信バッファに収容する場合には、PDUに付与されたスロット番号N1とミニスロット番号N2を参照し、その「N1=1、N2=1」の組み合わせに対応した受信バッファの領域に情報を記憶する。
図5は、第1の実施形態における受信側の受信バッファへのPDUの収容の概要を示す図である。図4に示した様に、右肩の添字が1、6、8、11、23、24のPDUで符号誤りが生じているが、再送制御により右肩の添字が33、21、22、25、37、38のPDUにて正常受信されているので、これらの「N1=1、N2=1」、「N1=2、N2=2」、「N1=2、N2=4」、「N1=3、N2=3」、「N1=6、N2=3」、「N1=6、N2=4」に対応するPDUは、右肩の添字が1、6、8、11、23、24のミニスロットに対応する受信バッファに適切に収容されることになる。しかし逆に、17、21、22、25、33、37、38のミニスロットに相当するPDUは、そのミニスロットで初回の送信を行ったPDUは存在しないため、この部分は受信バッファ上で空欄になっている。この状況を、図5では四角に網掛けをして示している。見かけ上は空欄ができている様に見えるが、実際には右肩の添字が16のPDUの次のPDUは右肩の添字が18のPDUであり、20のPDUの次のPDUは23のPDUであり、24のPDUの次のPDUは26のPDUであり、32のPDUの次のPDUは34のPDUであり、更に36のPDUの次のPDUは39のPDUである。この様に、網掛けをしたPDUを飛ばして順番にPDUを出力すれば、結果的に順番通りにユーザ情報を再構成することが可能になる。
なお、以上の説明は再送するPDUをミニスロット番号の若番側に収容する場合の例を示したが、番号が大きな老番側に収容することも可能である。図6は、第1の実施形態における再送制御の概要の別の例を示す図である。図7は、第1の実施形態における受信側の受信バッファへのPDUの収容の概要の別の例を示す図である。図6及び図7は、図4及び図5で示した例と同様に、右肩の添字が1、6、8、11、23、24のPDUを再送したときの動作及び受信バッファへの収容を示している。図6及び図7と、図4及び図5との差は、再送するPDUをミニスロット番号の老番側に収容している点である。その結果、右肩の添字において、図4及び図5の17の太枠の四角と、図6及び図7の20の太枠の四角とは、1のPDUの再送に割り当てられるという点で対応している。
同様に対応を示せば、図4及び図5における21及び22のPDUは、図6及び図7の23及び24のPDUに対応する。また、図4及び図5における25、33、37、38のPDUは、それぞれ図6及び図7における28、36、39、40のPDUに対応する。なお、図4の例では再送に用いられる23及び24のPDUにも符号誤りが生じているため、図6における40及び39で再送されるPDUの内容が異なっているが、本質的な制御内容に差はない。
図8は、第1の実施形態におけるスロットの設定の概要を示す図である。図8には、図21と同様にFDDの場合を例が示されている。一般に、TDDでもFDDでも、所定の周期で、無線通信システムに関する制御情報や同期に関する情報などの情報(以下、オーバヘッド情報という。)が収容され、ユーザ情報を収容できない時間帯が存在し得る。図8において、横軸は時間(及びスロット番号)を示し、上側に周波数F1で送信される信号、下側に周波数F2で送信される信号が示されている。また、符号110−1、111−1で示される太い実線で囲まれた領域は周波数F1で送信されるユーザ情報を収容する領域、符号112−1、113−1は周波数F1で送信されるオーバヘッド情報を収容する領域、符号110−2、111−2で示される太い実線で囲まれた領域は周波数F2で送信されるユーザ情報を収容する領域、符号112−2、113−2は周波数F2で送信されるオーバヘッド情報を収容する領域を示す。
図1などではスロットは時間軸上を等間隔で連続的に区切りスロットを設定したが、実際には時間軸上でオーバヘッド情報を収容する領域112−1、112−2、113−1、113−2が存在し、この領域にはPDUを収容することができない。そこで図8では、この領域を避ける形でユーザ情報を収容する領域110−1、110−2を10分割してスロット番号1〜10を付与し、更にユーザ情報を収容する領域111−1、111−2を10分割してスロット番号11〜20を付与する。スロット番号は1から20の間で連続となっており、オーバヘッド情報を収容する領域113−1、113−2が間に割り込んでもその影響を受けない構成となっている。この様に、各種制御情報がオーバヘッド情報として存在する場合には、適宜、スロット番号の付与の仕方を調整し、スロット番号が連続的になる様にすると送信ウインドウ及び受信ウインドウの制御が単純化できる。以下、送信ウインドウ及び受信ウインドウを送受信ウインドウという。
勿論、この様なオーバヘッド情報を意識せずにスロット番号を付与することも可能であるが、その場合にはオーバヘッド情報の領域ではPDU及びACKが送信できないため、その分、送受信ウインドウのサイズを広げて調整する必要がある。また、場合によってはそのウインドウサイズの拡張に伴い所定の回数以上の再送が実施されてしまう可能性があるが、その様な状況を回避するためにはPDUごとの送信回数を送信局側で管理し、所定の回数の送信が実施されたPDUは送信ウインドウ内であっても再送しないという制御とすればよい。
なお、図5で示した状況では、スロット番号ごとに読み出し可能なPDU数が異なっている。例えば、スロット番号1〜4では4つのPDUを読み出し可能であるが、スロット番号5では3つのPDUを、スロット番号6ではふたつのPDUを、スロット7では3つのPDUを読み出し可能である。仮に送受信局間の信号伝送が、本来は一定のビットレートの定常的な通信であり、且つ、毎スロット4PDU相当の伝送速度であったとすると、当然ながら符号誤りがあった分だけ実効的な伝送速度が低下する。その様な状況を回避するためには実際の伝送速度よりも広い帯域を割り当てる必要がある。この辺の制御は従来の再送制御にも共通することであり、ここでは詳細は省略するが、確率論的に符号誤りによる処理遅延の増大が所定の時間以内に収まる様に、所望帯域よりもマージンを見込んだ帯域を割り当て、受信側では若干の遅延揺らぎ吸収用の遅延を付加して一定の速度でPDUを読み出し処理することで対応すればよい。この制御は本発明の本質とは関係なく、任意の制御が適用可能である。
以上が全体の説明であるが、以下に処理フローの例を説明する。無線通信システムにおける基地局装置と端末局装置とは、送信局であると共に受信局であることも可能であるため、送信局と受信局との両方の局としての処理を行うことになる。その際には基地局装置が同期を行う際のマスター局とし、端末局装置がスレーブ局として、スレーブ局がマスター局に同期する構成となる。基地局装置と端末局装置とは離れているため、伝搬遅延δtが存在するが、そのため送信側のスロットタイミング(又はフレームタイミング)と受信側のスロットタイミングは微妙にδtずれている。しかし、そのずれが僅かであれば、基地局装置の受信スロットタイミングに端末局装置が同期し、端末局装置の送信スロットタイミングを端末局装置の受信スロットタイミングと共通化(同一のタイミングと見なす)することも可能である。
また、基地局装置と端末局装置との距離が概ね既知であるならば、例えばその距離の情報を基に伝搬遅延の推定値δt’を算出し、端末局装置は受信フレームタイミングよりもδt’だけ前側にオフセットを加えて送信フレームタイミングを設定すれば、より効率的にタイミング管理を行うことができる。なお、この伝搬遅延δtの調整処理などは、他の如何なる技術を用いても構わないし、上述の様に誤差として無視して処理を進めることも可能である。
図9は、第1の実施形態における基地局装置における送受信ウインドウの処理フローを示す図である。前述の通り、基地局装置は、端末局装置との同期に関してマスター局として動作する。基地局装置は、電源ON等で起動すると(処理S1)、送信フレームのスロット番号TTXをゼロにリセットし(処理S2)、そこから所定の時間だけ待機し(処理S3)、スロット番号TTXを管理するカウンタを1加算する。ただし、このカウンタはモジュロM(Mは任意の整数)のカウンタであるものとし、実質的にはTTXに1加算後にモジュロMの演算を行いTTXの値を更新する(処理S4)。このスロット番号TTXに連動させる形で、TTXの値をT2TXへ代入し、このT2TXから所定の再送処理を行うのに要するスロット数の値Tmaxの幅で送信ウインドウの起点を設定するため、TTX−Tmaxにモジュロ演算を施した値をT1TXへ代入する(処理S5)。その後、基地局装置は、処理を処理S3に戻し、処理S3から処理S5の動作を繰り返す。なお、図2〜図7に示した例では、Tmaxの値は8としている。また、T1TXは送信ウインドウの起点のスロット番号(若番)であり、T2TXは送信ウインドウの終点のスロット番号(老番)である。このとき、T2TXは現時点の無線通信に用いられるスロットのスロット番号である。
また、基地局装置は、処理S2で送信フレームのスロット番号をリセットした後、受信フレームのスロットタイミングを合わせて設定する。ここでは、端末局装置が基地局装置の送信スロットの更新タイミングに同期できているものと仮定し、基地局装置は、その送信スロットの更新タイミングからδt’だけオフセットした時間まで待機し(処理S6)、そこを起点として受信フレームのスロット番号TRXをゼロにリセットする(処理S7)。基地局装置は、そこから所定の時間だけ待機し(処理S8)、受信フレームのスロット番号TRXを管理するカウンタを1加算後にモジュロMの演算を行い、演算結果でTRXの値を更新する(処理S9)。基地局装置は、このスロット番号TRXに連動させる形で、TRXの値をT2RXへ代入し、このT2RXから所定の再送処理を行うのに要するスロット数の値Tmaxの幅で受信ウインドウの起点を設定するため、TRX−Tmaxにモジュロ演算を施した値をT1RXへ代入する(処理S10)。その後、基地局装置は、処理を処理S8に戻し、処理S8から処理S10の動作を繰り返す。また、T1RXは受信ウインドウの起点のスロット番号(若番)であり、T2RXは受信ウインドウの終点のスロット番号(老番)である。なお、処理S5や処理S10のモジュロ演算では、関数mod(x,M)の引数xがマイナスの値を取ることを避けるために引数xの中に「+M」の加算を行っているが、関数mod(x,M)の引数xとしてマイナスの値を許容する様に関数を定義していれば、この「+M」の加算は省略可能である。
また、基地局装置は、自装置が管理するスロット番号に関する情報を配下の端末局装置に対して通知する機能を備えている。例えば、図8に示された様なフレーム構成においては、符号112−1〜112−2、符号113−1〜113−2に示した様なオーバヘッド情報を収容する領域を使用してスロット番号を配下の端末局装置へ通知する。基地局装置が端末局装置へ通知するスロット番号は、例えば、通知した時点のスロットを示すスロット番号、又は、通知した時点のスロットの次のスロットを示すスロット番号である。端末局装置は、オーバヘッド情報を受信し、オーバヘッド情報に含まれるスロット番号を取得することで、基地局装置が管理するスロット番号と同期することが可能になる。なお、図8ではFDDの場合の例を示しているが、TDDの場合も同様にオーバヘッド情報を介してスロット番号を基地局装置から端末局装置へ通知することで、スロット番号の同期が可能になる。
図10は、第1の実施形態における端末局装置における送受信ウインドウの処理フローを示す図である。前述の通り、端末局装置は同期に関してスレーブ局として動作する。端末局装置は、電源ON等で起動すると(処理S11)、まずは基地局装置からの信号を受信して受信スロットを同期する(処理S12)。ここでの同期とは、自装置の受信スロットのスロット番号を更新するタイミングに同期すると共に、基地局装置が管理するスロット番号を把握することまでを含む。端末局装置は、処理S12で取得した基地局装置のスロット番号を自装置における受信フレームのスロット番号TRXへ設定する(処理S13)。その後、端末局装置は、自らのクロックで自走しながら所定の時間だけ待機し(処理S14)、スロット番号TRXを管理するカウンタを1加算する。ただし、このカウンタはモジュロM(Mは任意の整数)のカウンタであるものとし、実質的にはTRXに1加算後にモジュロMの演算を行い、演算結果でTRXの値を更新する(処理S15)。
また、端末局装置は、受信フレームのスロット番号TRXに連動させる形で、TRXの値をT2RXへ代入し、このT2RXから所定の再送処理を行うのに要するスロット数の値Tmaxの幅で受信ウインドウの起点を設定するため、TRX−Tmaxにモジュロ演算を施した値をT1RXへ代入する(処理S16)。その後、端末局装置は、処理を処理S14に戻し、処理S14から処理S16の動作を繰り返す。
また、端末局装置は、処理S12で受信スロットの同期を行った後、送信スロットのスロット番号を更新するタイミングを合わせて設定する。ここでは、端末局装置の受信スロットは、基地局装置の送信スロットよりδt’だけ先行していると仮定する。端末局装置は、その受信スロットのタイミングからδt’だけ前にオフセットしたタイミングを送信スロットの切り替えタイミングとみなし、そのタイミングで送信スロットを切り替えるタイミング及び送信スロットのスロット番号TTXを設定する(処理S17)。この結果、基地局装置と端末局装置の送受信スロット番号を示すカウンタ値が同期し、一致することになる。端末局装置は、そこから所定の時間だけ待機し(処理S18)、スロット番号TTXを管理するカウンタを1加算後にモジュロMの演算を行い、演算結果でTTXの値を更新する(処理S19)。端末局装置は、このスロット番号TTXに連動させる形で、TTXの値をT2TXへ代入し、このT2TXから所定の再送処理を行うのに要するスロット数の値Tmaxの幅で送信ウインドウの起点を設定するため、TTX−Tmaxにモジュロ演算を施した値をT1TXに代入する(処理S20)。その後、端末局装置は、処理を処理S18に戻し、処理S18から処理S20の動作を繰り返す。この結果、基地局装置と端末局装置の送受信ウインドウの起点と終点も、合わせて同期し一致することになる。なお、ポイント−マルチポイント型の通信の場合にはδt’の値が端末局装置ごとに異なり、このため微妙なずれは生じるが、運用上の問題とはならない。
次に、図11は、第1の実施形態における再送制御を考慮した送信局の処理フローを示す図である。基地局装置又は端末局装置の送信局は、PDUの生成処理を開始すると(処理S21)、その時点での送信スロット番号TTXを基に、PDUの処理開始から実際に送信を実施する送信スロットまでのタイムラグであるスロット数ΔTを用い、(TTX+ΔT)のモジュロMの演算を実施することで、送信スロット番号N1を算出する(処理S22)。次に、送信局は、このスロットで再送すべきPDUの有無を確認し(処理S23)、再送PDUが存在する場合には(処理S23でYes)、該当する再送PDUを検索して送信バッファに記録し(処理S24)、更に再送PDUの数をNRへ代入する(処理S25)。一方、再送PDUが存在しない場合には(処理S23でNo)、送信局は、ゼロをNRに代入し(処理S26)、NRの値をN2に代入する(処理S27)。
その後、送信局は、カウンタN2の値を1加算し(処理S28)、新規に送信すべきデータがバッファにあるか否かを確認する(処理S29)。送信すべきデータがある場合(処理S29でYes)、送信局は、PDUを生成し、PDUのヘッダ部分に識別情報として(N1,N2)の組み合わせを設定し(処理S30)、これを送信バッファに記録する(処理S31)。その後、送信局は、処理を処理S28に戻し、処理S28から処理S31を繰り返す。送信局は、送信すべきデータがない場合(処理S29でNo)、PDU生成の処理を終了し、送信処理に向けた準備を行う(処理S32)。
ここで、処理S23及び処理S24にて行う再送すべきPDUの管理方法について説明を加えておく。例えば、第1の実施形態の例では、ACKに記載される情報の例としてビットマップでの正常受信の有無を表記していた。図4及び図6などでは、4ビットのビットマップを用い、符号誤りあり(すなわち非正常受信)を「0」、符号誤りなし(すなわち正常受信)を「1」で表していた。また、左側のビットがミニスロット番号の若番に対応していた。具体的に図4を用いて説明すると、スロット番号「3」の右肩の添字が「a」のACKでは、「0111」と通知されているが、システムとしての処理遅延が往復で4スロット相当であることが既知であれば、受信局側で右肩の添字が「a」のACKを受け取った際に、当該ACKがスロット番号「1」(N1=1)で示されるスロットに対するACKであることは認識可能である(明示的にACKに「N1=1」を表記していても同様)。
例えば、送信局側は各スロット番号及びミニスロット番号で送信していたPDUのN1値、N2値を記録しておけば、ACKのビットマップに対応するPDUを把握することは可能である。具体的には、スロット番号「N1=1」にて送信したPDUがミニスロット番号の若番から「N1=1、N2=1」、「N1=1、N2=2」、「N1=1、N2=3」、「N1=1、N2=4」であることを記憶しておけば、右肩の添字が「a」のACKを受け取った際に、「0111」の1ビット目の「0」に対応するPDUはスロット番号1で且つミニスロット番号が1で送信したPDUであることを把握できる。1ビット目の「0」に対応するPDUが「N1=1、N2=1」のPDUであることを確認し、このN1値が送信ウインドウ内に存在することを確認することでこのPDUが再送PDUであることが把握でき(処理S23に相当)、これを送信バッファに記録し(処理S24に相当)、スロット番号「5」のミニスロット番号「1」にて、「N1=1、N2=1」のPDUを再送信することができる。
同様に、送信局が右肩の添字が「e」のACKを受信した際には、処理遅延が往復で4スロット相当であることを考慮し、受信したACKのビットマップ「0111」がスロット番号「5」に対応することを把握し、そのミニスロット番号「1」に送信した「N1=1、N2=1」のPDUのN1値が送信ウインドウ内に存在することを確認することでこのPDUが再送PDUであることが把握でき(処理S23に相当)、これを送信バッファに記録し(処理S24に相当)、スロット番号「9」のミニスロット番号「1」にて当該PDUを再送信することができる。以上の送信PDUの管理方法を用いる場合、送信ウインドウ内のスロット番号に対応するPDUを送信バッファ内に記録しておけば、再送をすべきPDUを自由に読み出すことが可能になる。
同様のことは、別の送信PDUの管理方法でも実現することは可能である。例えば、上述の説明では処理遅延が往復で4スロット相当である場合を例に説明したが、送信バッファとしてこの処理遅延の4スロットと更に送信に要するスロット数に相当するスロット数分の送信PDUを管理してもよい。具体例として、例えば送信局側で図4の右肩の添字が「a」のACKを受け取った際の処理について説明する。右肩の添字が「a」のACKはスロット番号「3」にて受信局側から送信されるが、受信信号処理に時間を要するために、実際にはスロット番号「4」でACKの内容を把握することになる。ここで、処理遅延が往復で4スロット相当であることを意識し、このACKのビットマップ「0111」に対応するスロット番号が「1」であり、ここで送信処理を行ったPDUが送信されるスロット番号は「5」であることが既知であるとする。この場合、右肩の添字が「a」のACKの「0」に対応するのはスロット番号が「1」及びミニスロット番号「1」であることが分かる。そこでスロット番号が「1」及びミニスロット番号「1」で送信したPDUを読み出し、このPDUに付与された識別情報のスロット番号であるN1の値を参照し、N1値が送信ウインドウの中にある場合には、このPDUを再送対象のPDUとみなし(処理S23に相当)、これを送信バッファのスロット番号「5」、ミニスロット番号「1」の記憶領域に記録する(処理S24に相当)。この他に再送PDUがなければ、新規送信のPDUをスロット番号「5」、ミニスロット番号が「2」から「4」に記録する(処理S31に相当)。この信号処理はスロット番号が「4」において実施され、このときに送信バッファにおいて管理されるべき情報は、スロット番号が「1」から「5」に対応する送信PDUの情報である。なお、スロット番号の「5」は未来のスロット番号に相当するが、送信処理の準備として未来に送信するPDUの記憶領域も合わせて記録管理する必要がある。スロット番号「5」で実際にPDUを送信する際には、当該スロット番号の「5」の送信バッファの記憶領域から、ミニスロット番号が1から4に対応するPDUを順番に読み出して送信を実施すればよい。
同様に、受信局がスロット番号「7」で送信した右肩の添字が「e」のACKを送信局がスロット番号「8」で受け取った際には、このACKのビットマップ「0111」に対応するスロット番号が「5」であり、ここで送信処理を行ったPDUが送信されるスロット番号は「9」であることが既知であるとする。この場合、右肩の添字が「e」のACKの「0」に対応するのはスロット番号が「5」及びミニスロット番号「1」であることが分かる。そこでスロット番号が「5」及びミニスロット番号「1」で送信したPDUを読み出し、このPDUに付与された識別情報のスロット番号であるN1の値を参照し、N1値が送信ウインドウの中にある場合には、このPDUを再送対象のPDUとみなし(処理S23に相当)、これを送信バッファのスロット番号「9」、ミニスロット番号「1」の記憶領域に記録する(処理S24に相当)。この他に再送PDUがなければ、新規送信のPDUをスロット番号「9」、ミニスロット番号が「2」から「4」に記録する(処理S31に相当)。この信号処理はスロット番号が「8」において実施され、このときに送信バッファにおいて管理されるべき情報は、スロット番号が「5」から「9」に対応する送信PDUの情報である。なお、スロット番号の「9」は未来のスロット番号に相当するが、送信処理の準備として未来に送信するPDUの記憶領域も合わせて記録管理する必要がある。スロット番号「9」で実際にPDUを送信する際には、当該スロット番号の「9」の送信バッファの記憶領域から、ミニスロット番号が1から4に対応するPDUを順番に読み出して送信を実施すればよい。
以上の説明の様に、送信バッファにて管理するスロット番号の値は、時間と共にひとつずつシフトするため、このスロット番号のシフトを意識した送信バッファの管理を行う必要がある。また、この送信バッファで管理すべきスロット番号の範囲は、送受信の処理に伴う遅延時間に依存する。更に、この管理対象から外れたスロットで送信されたPDUに関しては、送信バッファから破棄しても構わない。詳細に見れば、スロット番号「9」、ミニスロット番号「1」で送信される右肩の添字が33のPDUに付与された識別情報は「N1=1、N2=1」であるが、スロット番号が「8」の時点でスロット番号「1」、ミニスロット番号「1」の送信PDUの情報が廃棄されてしまっていても、スロット番号「5」、ミニスロット番号「1」には全く同一の「N1=1、N2=1」に対するPDUの情報は記録されており、図4の処理S24に関する後者の「別の送信PDUの管理方法」での説明に従えば、スロット番号が「8」の時点でスロット番号が「4」より以前に送信済みのPDUの情報は廃棄されていても問題はない。また、図4の処理S24に関する前者の説明の場合には、再送PDUの管理を「N1、N2」の値で管理しているため、スロット番号「8」の時点で、スロット番号「1」で送信されたPDUに関する送信バッファに記憶された情報を残しておく必要があるが、これ以前のスロット番号の情報に関しては廃棄しても構わない。この場合にも、スロット番号「8」の時点でスロット番号「9」は送信ウインドウの終点T2RXの次のスロット番号であり、送信バッファの管理対象は送信ウインドウとは若干ずれている。
以上説明した様に、再送制御が伴う場合の送信バッファでは、未来に送信するためのPDUの記録に用いるだけではなく、過去に送信済みのPDUの記録管理にも合わせて用いられる。
図12は、第1の実施形態における受信局でのPDU読み出し処理フローを示す図である。図9又は図10に示した処理フローにより受信ウインドウであるT1RX及びT2RXの値が更新されると(処理S41)、基地局装置又は端末局装置の受信局は、モジュロMを考慮して新たな受信ウインドウの起点であるT1RXの前のスロット番号を取得し、取得したスロット番号をN1に代入する(処理S42)。更に、受信局は、カウンタN2をゼロリセットし(処理S43)、更にカウンタN2に1を加算し(処理S44)、初回送信のスロット番号及びミニスロット番号に対応する識別情報の値が(N1,N2)の組み合わせに相当するPDUが正常受信済みであるか否かを確認し(処理S45)、正常受信済みであれば(処理S45でYes)、識別情報の値が(N1,N2)の組み合わせに相当するPDUを受信バッファから読み出し(処理S46)、正常受信済みでなければ(処理S45でNo)、処理S46を省略し、カウンタN2の値が1スロットで送信可能な上限数Kに一致しているか否かを確認し(処理S47)、N2がKに達していない場合には(処理S47でNo)、処理S44に戻って処理S44から処理S47の処理を繰り返す。N2がKに達している場合には(処理S47でYes)、受信局は、一連の処理を終了する(処理S48)。
図13は、第1の実施形態における無線通信システム300の構成例を示す図である。同図に示す無線通信システム300は、一定の時間間隔で区切られたスロットを単位とした無線通信を行う、基地局装置310と少なくともひとつの端末局装置350とを備える。基地局装置310と端末局装置350とは、上述した処理を行う。基地局装置310は、送受信ウインドウ制御部311と、データユニット生成部312と、送信バッファ313と、無線通信部314と、受信バッファ315と、データ取得部316とを備える。端末局装置350は、送受信ウインドウ制御部351と、データユニット生成部352と、送信バッファ353と、無線通信部354と、受信バッファ355と、データ取得部356とを備える。
基地局装置310において、送受信ウインドウ制御部311は、図9に示した送受信ウインドウの処理フローを実行することで、スロット番号と送信ウインドウと受信ウインドウとの管理を行う。データユニット生成部312は、端末局装置350へ送信すべきデータを入力し、入力したデータに識別情報を割り当てる。また、データユニット生成部312は、データと当該データに割り当てた識別情報とを含むデータユニット(PDU)を送信バッファ313に記憶させる。送信バッファ313は、データユニットを記憶する。また、送信バッファ313は、記憶するデータユニットごとに、データユニットが端末局装置350において正しく受信されたか否かを示す受信完了フラグを記憶する領域を有してもよい。この場合、受信完了フラグは、無線通信部314が端末局装置350からACKを受信した際に更新される。
無線通信部314は、図11に示した処理フローを実行することで、再送制御を含む送信処理を行う。無線通信部314は、送受信ウインドウ制御部311が管理するスロット番号及び送信ウインドウに基づいて、送信バッファ313に記憶されているデータユニットのうち端末局装置350で受信されていないデータユニットを読み出す。無線通信部314は、送信バッファ313から読み出したデータユニットを、端末局装置350へ送信する。また、無線通信部314は、端末局装置350からACKを受信し、受信したACKに基づいてデータユニットの再送を行う。再送の対象となるデータユニットは、ACKにおいて、符号誤りなどで正常受信できていないデータユニットである。無線通信部314は、再送の対象となるデータユニットのスロット番号が送信ウインドウに含まれる場合、当該データユニットを送信バッファから読み出して再送する。再送の対象となるデータユニットのスロット番号が送信ウインドウに含まれない場合、当該データユニットの再送は行われない。
また、無線通信部314は、端末局装置350からデータユニットを受信する。無線通信部314は、データユニットを誤りなく受信できた場合に当該データユニットの受信完了を、符号誤りなどでデータユニットを誤りなく受信できなかった場合に受信未完了(再送要求)を端末局装置350へ送信する。受信バッファ315は、無線通信部314により誤りなく受信されたデータユニットを記憶する。データ取得部316は、図12に示したPDU読み出し処理フローを実行することで、受信ウインドウから外れたスロット番号に含まれるミニスロットに収容されていたデータユニットを受信バッファ315から読み出す。データ取得部316は、読み出したデータユニットに含まれるデータを再構成することで、端末局装置350から送信されたデータを再生する。
端末局装置350において、送受信ウインドウ制御部351は、図10に示した送受信ウインドウの処理フローを実行することで、スロット番号と送信ウインドウと受信ウインドウとの管理を行う。データユニット生成部352は、基地局装置310へ送信すべきデータを入力し、入力したデータに識別情報を割り当てる。また、データユニット生成部352は、データと当該データに割り当てた識別情報とを含むデータユニット(PDU)を送信バッファ353に記憶させる。送信バッファ353は、データユニットを記憶する。また、送信バッファ353は、記憶するデータユニットごとに、データユニットが基地局装置310において正しく受信されたか否かを示す受信完了フラグを記憶する領域を有してもよい。この場合、受信完了フラグは、無線通信部354が基地局装置310からACKを受信した際に更新される。
無線通信部354は、図11に示した処理フローを実行することで、再送制御を含む送信処理を行う。無線通信部354は、送受信ウインドウ制御部351が管理するスロット番号及び送信ウインドウに基づいて、送信バッファ353に記憶されているデータユニットのうち端末局装置350で受信されていないデータユニットを読み出す。無線通信部354は、送信バッファ353から読み出したデータユニットを、基地局装置310へ送信する。また、無線通信部354は、基地局装置310からACKを受信し、受信したACKに基づいてデータユニットの再送を行う。再送の対象となるデータユニットは、ACKにおいて、符号誤りなどで正常受信できていないデータユニットである。無線通信部354は、再送の対象となるデータユニットのスロット番号が送信ウインドウに含まれる場合、当該データユニットを送信バッファから読み出して再送する。再送の対象となるデータユニットのスロット番号が送信ウインドウに含まれない場合、当該データユニットの再送は行われない。
また、無線通信部354は、基地局装置310からデータユニットを受信する。無線通信部354は、データユニットを誤りなく受信できた場合に当該データユニットの受信完了を、符号誤りなどでデータユニットを誤りなく受信できなかった場合に受信未完了(再送要求)を基地局装置310へ送信する。受信バッファ355は、無線通信部354により誤りなく受信されたデータユニットを記憶する。データ取得部356は、図12に示したPDU読み出し処理フローを実行することで、受信ウインドウから外れたスロット番号に含まれるミニスロットに収容されていたデータユニットを受信バッファ355から読み出す。データ取得部356は、読み出したデータユニットに含まれるデータを再構成することで、基地局装置310から送信されたデータを再生する。
無線通信システム300では、スロットの更新に同期して更新される送信ウインドウ及び受信ウインドウを用いて再送の対象となるPDUが決定される。送信ウインドウ及び受信ウインドウから、初回送信のスロット番号が除外されたPDUは再送の対象から外される。これにより、基地局装置310と端末局装置350との間におけるPDUの再送の打ち切りの決定をネゴシエーションなしに行うことができる。また、基地局装置310と端末局装置350との間の無線通信において用いられるスロットを識別するスロット番号によって、送信ウインドウ及び受信ウインドウの更新を同期させているので、両装置間における再送の打ち切りの決定に関する不整合を回避することができる。
以上説明した様に、第1の実施形態における無線通信システムの特徴は、基地局装置の送信スロット及び受信スロットのタイミングと、端末局装置の送信スロット及び受信スロットのタイミングとが同期した状態において、それらのスロットのタイミングないしは現在時刻に関連づけられたこれらの情報を連動して送信ウインドウ及び受信ウインドウをシフトし、管理する点である。即ち、PDUの受信状態に関係なく送信ウインドウ及び受信ウインドウが遷移し、その遷移に合わせて再送の打ち切り及びPDUの受信待ちの打ち切りを行うため、所定の回数の再送制御でPDUの誤り補償ができない場合であっても、送信局と受信局との間におけるネゴシエーションを行うことなしに再送の打ち切りを実施することができる。また、再送打ち切りの決定は送信局と受信局との間において同期しているスロット番号(時刻)に基づいて行うので、再送の打ち切りに対する認識の不一致を生じることなしに再送の打ち切りを実施することが可能になる。この結果、無線通信システムにおいて、再送打ち切りのネゴシエーションに要する処理遅延が不要となり、安定して低遅延の通信を行うことが可能になる。
[第2の実施形態]
第1の実施形態においては、N2としてミニスロット番号を用いていたために、(N1,N2)の組み合わせの情報に全体を通しての連続性がなかった。しかし、N2は基本的にPDUを識別できるものであればよいので、全体の通し番号であるシーケンス番号をN2として用いることも可能である。第2の実施形態における無線通信システムでは、N2に付与する番号としてPDUのシーケンス番号が用いられる。
図14は、第2の実施形態における再送制御の概要を示す図である。図14において、左側の図14(a)は図4に相当する図であり、再送制御の概要を示す図である。右側の図14(b)は図5に相当する図であり、再送制御後の受信局における受信バッファのPDUの収容状態を表している。図14に示す再送制御の例では、図4における符号誤りの発生と同一の符号誤りの発生が発生した場合を示している。例えば、右肩の添字が5のPDUでは、N1は図4と同様にN1=2のままだが、N2はPDUの通し番号として連番のN2=5が付与されている。ひとつ前の右肩の添字が4のPDUではN2=4で、その次の番号がN2=5である。
同様に右肩の添字が6、7、8、9、10・・・のPDUに対して、N2=6、N2=7、N2=8、N2=9、N2=10・・・が付与されている。右肩の添字が17、21、22のPDUは再送されたPDUなのでこれらのN2は不連続となっているが、図14(b)に示した様に、右肩の添字が16、18、19、20、23のPDUは、N2の値が16、17、18、19、20・・・となっている。つまり、再送されたPDUを除けば連続するシーケンス番号の順番でPDUを送信していることになる。受信側では、再送により、受信するPDUのシーケンス番号の順序が入れ替わるため、受信バッファから読み出す際に順番の入れ替えを行わなければならない。第2の実施形態では、N2が連番になっているので、第1の実施形態と同様に、受信したPDUの順序を入れ替えて、送信されたデータを再生できる。
また、第2の実施形態ではN2の値の設定方法を変更しているが、第2の実施形態における送受信ウインドウの管理方法は、図2、図3で示した第1の実施形態の管理方法と同じである。ここで若干注意が必要なのは、第1の実施形態の場合には、同一のスロット番号において、N2の取り得る範囲は1から所定の数(図1などの例ではN2は1から4の値)であるため、受信ウインドウをスライドさせた際に、そのN2の取り得る範囲の若番(小さい)の方から老番(大きい)方に順番に正常受信PDUの有無を検索すればよいが、本第2の実施形態の例では、同一スロット番号内でのN2の取り得る範囲が既知ではなく、何らかの管理方法で管理しなければならない。
例えば、図14では、スロット番号1では右肩の添字が1のPDUに受信側で符号誤りが検出されるのであるが、右肩の添字が2のPDUを受信した時点で、スロット番号1であった4つPDUの中に、N2=1となるPDUが含まれるのか否かは不明である。このため、例えば受信ウインドウの起点がスロット番号1からスロット番号2にシフトしたときに、その範囲に含まれるPDUのシーケンス番号、即ちN2の値がいくつになるべきかが一義に定まらない。同様に、例えば同一のN1を持つPDUの中でも、再送制御に伴いN2の値が順番通りに受信されないことがあるため、スロット番号2では右肩の添字が5、7の順番でN2=5、N2=7のPDUが受信されたのち、スロット番号6にてN2=6、N2=8のPDUが受信される。
受信したPDUを記憶する受信バッファのメモリ領域を、シーケンス番号順に確保した場合には、受信した順番に関係なくPDUの順番を正しく記録することができるが、例えばスロット番号が2で初回送信されたPDU(即ちN1の値が2であるPDU)をスロット番号2に対応付けたメモリ領域に記憶する際には、その記憶領域としてN2の値の何番を記憶すれば良いのか分からないので、一旦はN1に対応するメモリ領域に受信した順番でPDUを保存し、読み出すときには順番をソーティングして読み出し処理を行う必要がある。これらの状況を以下に説明する。
図15は、第2の実施形態における受信局でのPDU読み出し処理フローを示す図である。図9又は図10に示した処理フローにより受信ウインドウであるT1RX及びT2RXの値が更新されると(処理S51)、基地局装置又は端末局装置の受信局は、でモジュロMを考慮して受信ウインドウの起点であるT1RXの前のスロット番号を取得し、取得したスロット番号をN1に代入する(処理S52)。次に、受信局は、初回送信のスロット番号がN1であるPDUを検出し、検出したPDUのN2の値を順番にソートする(処理S53)。なお、スロット番号T1RXのひとつ前のスロット(スロット番号N1)における、初回送信のPDUの検出は、PDUそれぞれに含まれる識別情報(N1,N2)のN1の値がスロット番号N1の値と一致しているか否かの判定により行われる。N1の値が一致している場合、PDUはスロット番号N1で初回送信されたPDUである。
受信局は、ソート結果を受けて、N2の値の最大値N2maxと最小値N2minとを把握し(処理S54)、モジュロMを考慮したN2min−1の値をN2に代入する(処理S55)。受信局は、N2に1を加算し(処理S56)、識別情報の値が(N1,N2)の組み合わせに相当するPDUが正常受信済みであるか否かを確認し(処理S57)、正常受信済みであれば(処理S57でYes)、識別情報の値が(N1,N2)の組み合わせに相当するPDUを受信バッファから読み出し(処理S58)、正常受信済みでなければ(処理S57でNo)、処理S58を省略する。
受信局は、カウンタN2の値が最大値N2maxに一致しているか否かを確認し(処理S59)、N2がN2maxに達していない場合には(処理S59でNo)、処理を処理S56に戻し、処理S56から処理S59までの処理を繰り返す。N2がN2maxに達している場合には(処理S59でYes)、受信局は、一連の処理を終了する(処理S60)。
第2の実施形態における無線通信システムは、図13に示した無線通信システム300と同様の構成を有する。なお、第2の実施形態では、送受信ウインドウ制御部311、351が各PDUの識別情報に含まれるN2の値に連続した整数を割り当てる点が異なる。また、上述した様に、データ取得部316、356は、図15で示したPDU読み出し処理フローを実行することにより、データを再構成する。
以上説明した様に、PDUの識別情報としては、前述のミニスロット番号の様な各スロットごとに固定の値である必要はなく、全体のシーケンス番号の様な連番の値を用いることも可能である。
[実施形態に関する補足事項]
以上説明した本発明実施形態に関する補足事項を以下に示す。
上述の説明における「スロット」とは、特に限定をすることなく、再送制御を行う通信の単位となる時間を示しており、再送制御を管理する単位のPDU(無線パケット)を1以上の整数個を収容可能、且つ、ACKなども収容可能な単位としてのスロットであり、時間軸上で等間隔であったり、必ずしも連続している必要もない。例えば、OFDM変調方式などを用いる場合に、1OFDMシンボルにひとつ以上のPDUを収容可能であれば、OFDMシンボル単位で再送制御を行うことを想定し、OFDMシンボルを1スロットとしても良い。同様に、OFDMシンボルを複数束ねて、N(2以上の整数)シンボルを1スロットと見なしても構わない。これらの場合には、同等のサイズのスロット単位で、ACKの返送を行うメカニズムを同時に伴うことになる。この場合、FDD等の双方向の無線全二重通信が実現できていることが好ましい。仮にTDDを想定するのであれば、ACKの返送は最短でもフレーム周期(ここでのフレームとは、ダウンリンクとアップリンクの領域をセットで含む周期を意味するため、1フレームに複数回のダウンリンク+アップリンクの組み合わせが含まれる所謂スーパーフレーム状態の場合には、個別のダウンリンク+アップリンクの組み合わせを意味する。)をスロットと見なすことになる。
また、上述の説明ではACKについてビットマップを用いる場合を説明したが、ビットマップに限定される必要はなく、任意の識別情報を用いることも可能である。例えば、(N1,N2)の組み合わせでPDUの識別情報を通知しても良いし、第2の実施形態ではN2だけを通知してもPDUの識別は可能である。同様に、(N1,N2)を引数とする関数で変換した値など、その値に対する逆演算で(N1,N2)を再生できるのであれば、その様な全く異なる情報を用いても構わない。
また、上述の説明ではビットマップを用いているが、このビットマップが適用できるのは、あるPDUに着目した際に、スロット内の収容条件からミニスロット番号に相当する番号付けが一意に定まるケースである。例えば、1スロット内に収容する情報をビット列で表したときに、そのビット列の前方の方から順番に番号付けすれば、1番、2番・・・とミニスロット番号を定義してもよい。また、サブキャリアを複数のグループに分け、そのグループごとに並列的にPDUを収容するのであれば、そのグループの識別番号を送信局と受信局との間で定義していれば、その定義に従いミニスロット番号を規定することも可能である。更に、空間多重伝送を行うのであれば、空間多重時の受信信号処理では、信号分離を行う際の条件からストリームを特定することは可能なので、空間多重の各ストリームごとにミニスロット番号を定義しても構わない。更には、これらの組み合わせを用いてミニスロット番号を規定することも可能である。更には、各PDUに直接ミニスロット番号を付与したりする場合も含めて、任意のいかなる方法を用いてミニスロット番号を認識させることも適用可能である。
また、送信局側では符号誤りによりACKを正常に受信できない場合もある。その場合には、安全側の判断としてそのACKが対応する受信対象のPDUに対する「全て受信失敗」と見なして処理することも可能である。ただしこの場合、過去にACKを受信済みのPDUが存在する場合には、そのPDUについては正常受信されているものと見なすことは可能である。
なお、上述の実施形態では、スロットごとにACKを送信する構成となっているが、このACK送信用の帯域の割り当ては、PDUの送受信の有無に関係なく固定的に割り当てる構成であってもよいし、対応するPDUの送受信がある場合だけに割り当てられていてもよい。送受信がある場合だけの割り当てに関しては、別途、帯域割り当て管理を行う必要があるが、これは任意のスケジューリング管理のMAC技術を用いることが可能である。また、このACKを収用する帯域割り当ての具体的な方法としては、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、所定の一部のサブキャリアをACK返送用の帯域として割り当ててもよいし、そのスロット内のフレームフォーマットを規定し、そのスロットに収容されるビット列の中の一部をACK領域として設定してもよい。シングルキャリア伝送であれば、そのスロット内のフレームフォーマットを規定し、そのスロットに収容されるビット列の中の一部をACK領域として設定してもよい。ポイント−マルチポイント型の通信であれば、複数のACK用の帯域を設け、どの領域がどの無線局装置に対応するかを規定していてもよい。
また、上述の説明ではミニスロット番号を用いて(N1,N2)の組み合わせでPDUを特定していたが、仮に常にひとつのスロット内に収容するPDU数が常に1の場合では、この様なミニスロット番号を利用する必要はなく、N1のみで制御を実施しても構わない。また、識別情報に含めるN1すなわちスロット番号の値は、無線通信に用いるスロットを一意に識別でき、かつスロットの順序を把握できる値であればよく、連続する整数に代えて時刻を用いてもよい。
[その他の補足事項]
前述した実施形態における基地局装置、端末局装置をコンピュータで実現する様にしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線の様に、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリの様に、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、更に前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。