以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるアンテナ装置1の動作を解析するためのコンピュータ上のシミュレーションモデルを示した斜視図である。電磁界シミュレータとして、Microwave Studio(登録商標)(CST社)を使用した。
アンテナ装置1は、例えば、無線装置100に搭載されるアンテナである。無線装置100の例として、移動体自体又は移動体に内蔵される無線通信装置が挙げられる。移動体の例として、携帯可能な携帯端末装置、自動車等の車両、ロボットなどが挙げられる。携帯端末装置の具体例として、携帯電話、スマートフォン、タブレット型コンピュータ、ゲーム機、テレビ、音楽や映像のプレーヤーなどの電子機器が挙げられる。アンテナ装置1は、グランドプレーン70と、給電素子37と、放射素子31とを備えている。
グランドプレーン70は、少なくとも一本の線分を外縁部として有する平面状の導体パターンであり、図面には、XY平面内に延在する長方形状のグランドプレーン70が例示されている。グランドプレーン70は、例えば、X軸方向に直線的に延伸する外縁部71を有している。グランドプレーン70は、例えば、XY平面に平行に配置され、X軸方向に平行な横の長さをL64とし、Y軸方向に平行な縦の長さをL67とする長方形の外形を有している。
給電素子37は、グランドプレーン70をグランド基準とする給電点38に接続された給電素子の一例である。給電素子37は、放射素子31に対して非接触で高周波的に結合して給電可能な線状導体である。図面には、外縁部71に対して直角且つY軸に平行な方向に延在する直線状導体と、X軸に平行な外縁部71に並走して延在する直線状導体とによって、L字状に形成された給電素子37が例示されている。図示の場合、給電素子37は、給電点38を起点にY軸方向に延伸してからX軸方向に折り曲げられ、X軸方向への延伸の端部39まで延伸している。端部39は、他の導体が接続されていない開放端である。給電素子37は、図示の形状に限られず、直線状などの他の形状でもよい。
給電点38は、グランドプレーン70を利用した所定の伝送線路や給電線等に接続される給電部位である。所定の伝送線路の具体例として、マイクロストリップライン、ストリップライン、グランドプレーン付きコプレーナウェーブガイド(導体面とは反対側の表面にグランドプレーンが配置されたコプレーナウェーブガイド)などが挙げられる。給電線としては、フィーダー線や同軸ケーブルが挙げられる。
図1には、マイクロストリップライン28が給電点38に接続される形態が示されている。マイクロストリップライン28は、基板25を有し、基板25の一方の表面にグランドプレーン70が配置され、基板25のもう一方の反対側の表面に線状のストリップ導体27が配置されている。ストリップ導体27と給電素子37との接続点を給電点38とし、基板25は、給電点38にマイクロストリップライン28を介して接続されるICチップ等の集積回路が実装される基板を想定している。
給電素子37は、例えば、基板25に設けられ、ストリップ導体27と同じ表面に配置されている。給電素子37とストリップ導体27との境界は、Z軸方向での平面視において、グランドプレーン70の外縁部71に一致して見える箇所であり、給電点38である。
放射素子31は、給電素子37から離れて配置され、給電素子37と電磁界結合することにより給電されて放射導体として機能する放射素子の一例である。放射素子31は、給電素子37から非接触で給電を受ける給電部36を有する線状導体である。
図面には、直線状に形成された放射素子31が例示されている。直線状の放射素子31は、外縁部71から離れて配置され外縁部71に沿うようにX軸方向に延伸する導体部分を有している。図面には、直線状の放射素子31が例示されているが、放射素子31の形状は、L字状、ループ状、メアンダ状などの他の形状であってもよい。放射素子31が、外縁部71に沿った導体部分を有することによって、例えばアンテナ装置1の指向性を容易に制御することが可能となる。
放射素子31は、例えば、基板26に設けられている。基板26は、基板25の法線方向(Z軸に平行な方向)に、基板25から間隔L68をあけて配置されている。放射素子31は、基板26の表面のうち、給電素子37が形成される基板25に近い側の面に形成される。放射素子31は、一方の端部34と他方の端部35とを直線的に結ぶ線状導体である。
放射素子31と給電素子37は、給電素子37が放射素子31に非接触で給電可能に電磁界結合可能な距離離れていれば、X軸、Y軸又はZ軸方向などの任意の方向での平面視において重複していても重複していなくてもよい。
給電素子37と放射素子31は、互いに電磁界結合可能な距離で離れて配置されている。放射素子31は、給電素子37から給電を受ける給電部36を有している。放射素子31は、給電部36で給電素子37を介して電磁界結合によって非接触で給電される。このように給電されることによって、放射素子31は、アンテナ装置1の放射導体として機能する。
図示のように、放射素子31が2点間を結ぶ線状導体である場合、半波長ダイポールアンテナと同様の共振電流(分布)が放射素子31上に形成される。すなわち、放射素子31は、所定の周波数の半波長で共振するダイポールアンテナとして機能(以下、ダイポールモードという)する。
また、図示しないが、放射素子31は線状導体で四角形を形成するようなループ状導体であってもよい。放射素子31がループ状導体である場合、ループアンテナと同様の共振電流(分布)が放射素子31上に形成される。すなわち、放射素子31は、所定の周波数の1波長で共振するループアンテナとして機能(以下、ループモードという)する。
また、図示しないが、放射素子31は、給電点38のグランド基準に接続される線状導体であってもよい。給電点38のグランド基準とは、例えば、グランドプレーン70、又はグランドプレーン70に直流的に導通可能に接続された導体などである。例えば、放射素子31の端部35が、グランドプレーン70の外縁部71に接続される。放射素子31は、一端が給電点38のグランド基準に接続され、他端が開放端である線状導体である場合、λ/4モノポールアンテナと同様の共振電流(分布)が放射素子31上に形成される。すなわち、放射素子31は、所定の周波数の4分の1波長で共振するモノポールアンテナとして機能(以下、モノポールモードという)する。
電磁界結合とは、電磁界の共鳴現象を利用した結合であり、例えば非特許文献(A.Kurs, et al,“Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances,”Science Express, Vol.317, No.5834, pp.83−86, Jul. 2007)に開示されている。電磁界結合は、電磁界共振結合又は電磁界共鳴結合とも称され、同じ周波数で共振する共振器同士を近接させ、一方の共振器を共振させると、共振器間に作られるニアフィールド(非放射界領域)での結合を介して、他方の共振器にエネルギーを伝送する技術である。また、電磁界結合とは、静電容量結合や電磁誘導による結合を除いた高周波における電界及び磁界による結合を意味する。なお、ここでの「静電容量結合や電磁誘導による結合を除いた」とは、これらの結合が全くなくなることを意味するのではなく、影響を及ぼさない程度に小さいことを意味する。給電素子37と放射素子31との間の媒体は、空気でもよいし、ガラスや樹脂材等の誘電体でもよい。なお、給電素子37と放射素子31との間には、グランドプレーンやディスプレイ等の導電性材料を配置しないことが好ましい。
給電素子37と放射素子31を電磁界結合させることによって、衝撃に対して強い構造が得られる。すなわち、電磁界結合の利用によって、給電素子37と放射素子31を物理的に接触させることなく、給電素子37を用いて放射素子31に給電できるため、物理的な接触が必要な接触給電方式に比べて、衝撃に対して強い構造が得られる。
給電素子37と放射素子31を電磁界結合させることによって、非接触給電を簡易な構成で実現できる。すなわち、電磁界結合の利用によって、給電素子37と放射素子31を物理的に接触させることなく、給電素子37を用いて放射素子31に給電できるため、物理的な接触が必要な接触給電方式に比べて、簡易な構成での給電が可能である。また、電磁界結合の利用によって、容量板などの余計な部品を構成してなくても、給電素子37を用いて放射素子31に給電できるため、静電容量結合で給電する場合に比べて、簡易な構成での給電が可能である。
また、電磁界結合で給電する場合の方が、静電容量結合又は磁界結合で給電する場合に比べて、給電素子37と放射素子31の離間距離(結合距離)を長くしても、放射素子31の動作利得(アンテナ利得)は低下しにくい。ここで、動作利得とは、アンテナの放射効率×リターンロスで算出される量であり、入力電力に対するアンテナの効率として定義される量である。したがって、給電素子37と放射素子31を電磁界結合させることで、給電素子37と放射素子31の配置位置を決める自由度を高めることができ、位置ロバスト性も高めることができる。なお、位置ロバスト性が高いとは、給電素子37及び放射素子31の配置位置等がずれても、放射素子31の動作利得に与える影響が低いことを意味する。また、給電素子37と放射素子31の配置位置を決める自由度が高いため、アンテナ装置1の設置に必要なスペースを容易に縮小できる点で有利である。
また、図示の場合、給電素子37が放射素子31に給電する部位である給電部36は、放射素子31の一方の端部34と他方の端部35との間の中央部33以外の部位(中央部33と端部34又は端部35との間の部位)に位置している。このように、給電部36を放射素子31の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分(この場合、中央部33)以外の放射素子31の部位に位置させることによって、アンテナ装置1のマッチングを容易に取ることができる。給電部36は、放射素子31と給電素子37とが最近接する放射素子31の導体部分のうち給電点38に最も近い部分で定義される部位である。
放射素子31のインピーダンスは、ダイポールモードの場合、放射素子31の中央部33から端部34又は端部35の方に離れるにつれて高くなる。電磁界結合における高インピーダンスでの結合の場合、給電素子37と放射素子31間のインピーダンスが多少変化しても一定以上の高インピーダンスで結合していればインピーダンスマッチングに対する影響は小さい。よって、マッチングを容易に取るために、放射素子31の給電部36は、放射素子31の高インピーダンスの部分に位置することが好ましい。
ダイポールモードの場合、例えば、アンテナ装置1のインピーダンスマッチングを容易に取るために、給電部36は、放射素子31の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分(この場合、中央部33)から放射素子31の全長の1/8以上(好ましくは、1/6以上、さらに好ましくは、1/4以上)の距離を離した部位に位置するとよい。図示の場合、放射素子31の全長は、L52に相当し、給電部36は、中央部33に対して端部34側に位置している。
一方、ループモードの場合、例えば、アンテナ装置1のインピーダンスマッチングを容易に取るために、給電部36は、放射素子31の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分から放射素子31のループの内周側の周長の1/16以下(好ましくは1/12,さらに好ましくは、1/8以下)の距離を離した範囲内の部位に位置するとよい。
他方、端部35が給電点38のグランド基準に接続されるモノポールモードの場合、給電素子37が放射素子31に給電する部位である給電部36は、放射素子31の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分(この場合、端部35)から端部34側に近い部位に位置させることによって、アンテナ装置1のインピーダンスマッチングを容易に取ることができる。特には中央部33より端部34側に位置させることが好ましい。なお、給電部36は、放射素子31と給電素子37とが最近接する放射素子31の導体部分のうち給電点38に最も近い部分で定義される部位である。
放射素子31のインピーダンスは、端部35が給電点38のグランド基準に接続されるモノポールモードの場合、放射素子31の端部35から端部34に近づくにつれて高くなる。電磁界結合における高インピーダンスでの結合の場合、給電素子37と放射素子31との間のインピーダンスが多少変化しても一定以上の高インピーダンスで結合していればインピーダンスマッチングに対する影響は小さい。よって、マッチングを容易に取るために、放射素子31の給電部36は、放射素子31の高インピーダンスの部分に位置させることが好ましい。
端部35が給電点38のグランド基準に接続されるモノポールモードの場合、例えば、アンテナ装置1のインピーダンスマッチングを容易に取るために、給電部36は、放射素子31の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分(この場合、端部35)から放射素子31の全長の1/4以上(好ましくは、1/3以上、より好ましくは、1/2以上)の距離を離した部位、さらに好ましくは中央部33よりも端部34側に位置するとよい。
また、放射素子31の基本モードの共振周波数における真空中の電波波長をλ0とする場合、給電部36とグランドプレーン70との最短距離D1は、0.0034λ0以上0.21λ0以下である。最短距離D1は、より好ましくは、0.0043λ0以上0.199λ0以下であり、更に好ましくは、0.0069λ0以上0.164λ0以下である。最短距離D1をこのような範囲に設定することによって、放射素子31とグランドプレーン70との距離を短くしたまま、すなわちアンテナ装置1を小型化しても放射素子31の動作利得を充分に確保できる。また、最短距離D1が(λ0/4)未満であるため、アンテナ装置1は、円偏波を発生させるのではなく、直線偏波を発生させる。
なお、最短距離D1とは、給電部36と外縁部71との最近接部分を直線で結んだ距離に相当し、この場合の外縁部71は、給電部36に給電する給電素子37に接続された給電点38のグランド基準であるグランドプレーン70の外縁部である。また、放射素子31とグランドプレーン70は、同一平面上にあってもよいし、異なる平面上にあってもよい。また、放射素子31は、グランドプレーン70が配置された平面に対して、平行な平面に配置されてもよいし、任意の角度で交差する平面に配置されてもよい。
図2は、最短距離D1と放射素子31の動作利得との関係を示したグラフである。縦軸の動作利得とは、アンテナの反射損失を考慮した放射効率であり、放射効率をη、反射係数をΓとしたときに、η×(1−|Γ|2)で算出される数値である。
図2を解析したときのシミュレーション条件では、図1のグランドプレーン70は、横の長さL64が140mm、縦の長さL67が40mmの、厚みが無い仮想導体とした。また、給電素子37のL53を10mmとし、放射素子31のL52を60mm、L54を0mmとした。また、放射素子31の一方の端部34が、Z軸方向から見たときに、給電素子37のL字の折れ曲がり部で重なるように、放射素子31は給電素子37に対してZ軸方向に離して配置した。また、放射素子31のX軸方向の導体部分が、Z軸方向から見たときに、給電素子37のX軸方向の導体部分と重なるように、放射素子31は給電素子37に対してZ軸方向に離して配置した。基板25は、横の長さL64が140mm、縦の長さL61が(70+D1)mm、厚さが0.8mm、比誘電率が3.4、tanδ=0.0015である基板とした。基板26は、横の長さL65が120mm、縦の長さL62が40mm、厚さが1.0mm、比誘電率が8.926、tanδ=0.00356である基板とした。L63が15mm、L66が10mm、L68が2mm、L69が35.95mmとした。
図2のデータは、給電素子37の位置及びX軸方向の長さL53を10mmに固定したまま、最短距離D1を変化させて、放射素子31の動作利得を計算した結果である。最短距離D1を変化させるとき、給電素子37のY軸方向の長さも、最短距離D1の変化量と同じだけ変化させている。図2の縦軸は、電波の周波数を1.3GHzに設定したときの放射素子31の動作利得である。図2の横軸の最短距離D1は、1波長で規格化した値(1波長当たりの距離に換算した値)である。
図2に示されるように、給電部36が外縁部71からある程度離れるにつれて、放射素子31のマッチング状態が悪化するため、放射素子31の動作利得が低下していることがわかる。このように、最短距離D1は、0.0034λ0以上0.21λ0以下(より好ましくは、0.0043λ0以上0.199λ0以下であり、更に好ましくは、0.0069λ0以上0.164λ0以下)であると、放射素子31の動作利得を向上させる点で有利である。
図3は、放射素子31の動作利得が0.65以上になるときの、放射素子31(導体)のシート抵抗RSと最短距離D1との関係を示す図である。放射素子31の動作利得とは、図2の場合と同様に、アンテナの反射損失を考慮した放射効率であり、放射効率をη、反射係数をΓとしたときに、η×(1−|Γ|2)で算出される数値である。シート抵抗RSの単位は、Ω/□(Ohms per square)である。図3は、図2と同じシミュレーション条件下で計算されている。
図3によれば、シート抵抗RSと最短距離D1との関係について、最小二乗法により近似式を求めると、
D1=0.0152×RS 0.5229
という関係式が得られる。
したがって、最短距離D1が0.0152×RS 0.5229以上を満たす値であれば、放射素子31の動作利得を向上させる点で有利である。すなわち、シート抵抗RSを低くすることにより最短距離D1を小さくでき、アンテナ装置を小型化できる。
また、放射素子31の基本モードの共振周波数における真空中の電波波長をλ0とする場合、給電素子37と放射素子31との最短距離D2は、0.2×λ0以下(より好ましくは、0.1×λ0以下、更に好ましくは、0.05×λ0以下)であると好適である。給電素子37と放射素子31をこのような最短距離D2だけ離して配置することによって、放射素子31の動作利得を向上させる点で有利である。
なお、最短距離D2とは、給電部36と給電部36に給電する給電素子37との最近接部分を直線で結んだ距離に相当する。また、給電素子37と放射素子31は、両者が電磁界結合していれば、任意の方向から見たときに、交差しても交差しなくてもよいし、その交差角度も任意の角度でよい。また、放射素子31と給電素子37は、同一平面上にあってもよいし、異なる平面上にあってもよい。また、放射素子31は、給電素子37が配置された平面に対して、平行な平面に配置されてもよいし、任意の角度で交差する平面に配置されてもよい。
また、給電素子37と放射素子31とが最短距離D2で並走する距離は、ダイポールモードの場合は、放射素子31の物理的な長さの3/8以下であることが好ましい。より好ましくは、1/4以下、更に好ましくは、1/8以下である。ループモードの場合は、放射素子31のループの内周側の周長の3/16以下であることが好ましい。より好ましくは、1/8以下、更に好ましくは、1/16以下である。モノポールモードの場合は、放射素子31の物理的な長さの3/4以下であることが好ましい。より好ましくは、1/2以下、更に好ましくは、1/4以下である。
最短距離D2となる位置は給電素子37と放射素子31との結合が強い部位であり、最短距離D2で並走する距離が長いと、放射素子31のインピーダンスが高い部分と低い部分の両方と強く結合することになるため、インピーダンスマッチングが取れない場合がある。よって、放射素子31のインピーダンスの変化が少ない部位のみと強く結合するために最短距離D2で並走する距離は短い方がインピーダンスマッチングの点で有利である。
また、給電素子37の共振の基本モードを与える電気長をLe37、放射素子31の共振の基本モードを与える電気長をLe31、放射素子31の基本モードの共振周波数f1における給電素子37または放射素子31上での波長をλとして、Le37が、(3/8)・λ以下であり、かつ、Le31が、放射素子31の共振の基本モードがダイポールモードである場合、(3/8)・λ以上(5/8)・λ以下であり、放射素子31の共振の基本モードがループモードである場合、(7/8)・λ以上(9/8)・λ以下であり、放射素子31の共振の基本モードがモノポールモードの場合、(1/8)・λ以上(3/8)・λ以下であることが好ましい。
また、外縁部71が放射素子31に沿うようにグランドプレーン70が形成されているので、給電素子37は、外縁部71との相互作用により、給電素子37とグランドプレーン70上に、共振電流(分布)を形成することができ、放射素子31と共鳴して電磁界結合する。そのため、給電素子37の電気長Le37の下限値は特になく、給電素子37が放射素子31と物理的に電磁界結合できる程度の長さであればよい。
また、前記Le37は、給電素子37の形状に自由度を与えたい場合には、(1/8)・λ以上(3/8)・λ以下がより好ましく、(3/16)・λ以上(5/16)・λ以下が特に好ましい。Le37がこの範囲内であれば、給電素子37が放射素子31の設計周波数(共振周波数f1)にて良好に共振するため、グランドプレーン70に依存せずに給電素子37と放射素子31とが共鳴して良好な電磁界結合が得られ好ましい。
また、アンテナ装置1を小型化するためには、給電素子37の前記Le37は、(1/4)・λ未満がより好ましく、(1/8)・λ以下が特に好ましい。
なお、電磁界結合が実現しているとは整合が取れているということを意味している。また、この場合、給電素子37が放射素子31の共振周波数fに合わせて電気長を設計する必要がなく、給電素子37を放射導体として自由に設計することが可能になるため、アンテナ装置1の多周波化を容易に実現できる。
なお給電素子37の物理的な長さL37は、整合回路などを含んでいない場合、放射素子の基本モードの共振周波数における真空中の電波の波長をλ0として、実装される環境による波長短縮効果の短縮率をk1としたとき、λg1=λ0・k1によって決定される。ここでk1は、給電素子37の環境の実効比誘電率(εr1)および実効比透磁率(μr1)などの給電素子が設けられた誘電体基材等の媒質(環境)の比誘電率、比透磁率、および厚み、共振周波数などから算出される値である。すなわち、L37は、(3/8)・λg1以下である。なお、短縮率は上記の物性から算出してもよいし、実測により求めても良い。例えば、短縮率を測定したい環境に設置された対象となる素子の共振周波数を測定し、任意の周波数ごとの短縮率が既知である環境において同じ素子の共振周波数を測定し、これらの共振周波数の差から短縮率を算出してもよい。
給電素子37の物理的な長さL37は、Le37を与える物理的な長さであり、その他の要素を含まない理想的な場合、Le37と等しい。給電素子37が、整合回路などを含む場合、L37は、ゼロを超え、Le37以下が好ましい。L37はインダクタ等の整合回路を利用することにより短く(サイズを小さく)することが可能である。
また、前記Le31は、放射素子31の共振の基本モードがダイポールモード(放射素子31の両端が開放端であるような線状の導体)である場合、(3/8)・λ以上(5/8)・λ以下が好ましく、(7/16)・λ以上(9/16)・λ以下がより好ましく、(15/32)・λ以上(17/32)・λ以下が特に好ましい。また、高次モードを考慮すると、前記Le31は、(3/8)・λ・m以上(5/8)・λ・m以下が好ましく、(7/16)・λ・m以上(9/16)・λ・m以下がより好ましく、(15/32)・λ・m以上(17/32)・λ・m以下が特に好ましい。ただし、mは高次モードのモード数であり、自然数である。mは1〜5の整数が好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。m=1の場合は基本モードである。Le31がこの範囲内であれば、放射素子31が充分に放射導体として機能し、アンテナ装置1の効率が良く好ましい。
また同様に、放射素子31の共振の基本モードがループモード(放射素子31がループ状の導体)である場合、前記Le31は、(7/8)・λ以上(9/8)・λ以下が好ましく、(15/16)・λ以上(17/16)・λ以下がより好ましく、(31/32)・λ以上(33/32)・λ以下が特に好ましい。また、高次モードについては、前記Le31は、(7/8)・λ・m以上(9/8)・λ・m以下が好ましく、(15/16)・λ・m以上(17/16)・λ・m以下がより好ましく、(31/32)・λ・m以上(33/32)・λ・m以下が特に好ましい。Le31がこの範囲内であれば、放射素子31が充分に放射導体として機能し、アンテナ装置1の効率が良く好ましい。
また同様に、放射素子31の共振の基本モードがモノポールモード(放射素子31が、給電点38のグランド基準に接続され、開放端を有する)である場合、前記Le31は、(1/8)・λ以上(3/8)・λ以下が好ましく、(3/16)・λ以上(5/16)・λ以下がより好ましく、(7/32)・λ以上(9/32)・λ以下が特に好ましい。Le31がこの範囲内であれば、放射素子31が充分に放射導体として機能し、アンテナ装置1の効率が良く好ましい。
なお放射素子31の物理的な長さL31は、放射素子の基本モードの共振周波数における真空中の電波の波長をλ0として、実装される環境による短縮効果の短縮率をk2としたとき、λg2=λ0・k2によって決定される。ここでk2は、放射素子31の環境の実効比誘電率(εr2)および実効比透磁率(μr2)などの放射素子が設けられた誘電体基材等の媒質(環境)の比誘電率、比透磁率、および厚み、共振周波数などから算出される値である。すなわち、L31は、放射素子31の共振の基本モードがダイポールモードである場合、(1/2)・λg2であることが理想的である。放射素子31の長さL31は、好ましくは、(1/4)・λg2以上(5/8)・λg2以下であり、さらに好ましくは、(3/8)・λg2以上である。L31は、放射素子31の共振の基本モードがループモードである場合、(7/8)・λg2以上(9/8)・λg2以下である。L31は、放射素子31の共振の基本モードがモノポールモードである場合、(1/8)・λg2以上(3/8)・λg2以下である。
放射素子31の物理的な長さL31は、Le31を与える物理的な長さであり、その他の要素を含まない理想的な場合、Le31と等しい。L31は、インダクタ等の整合回路を利用することにより短くしたとしても、ゼロを超え、Le31以下が好ましく、Le31の0.4倍以上1倍以下が特に好ましい。放射素子31の長さL31をこのような長さに調整することによって、放射素子31の動作利得を向上させる点で有利である。
また、図示のように給電素子37とグランドプレーン70の外縁部71との相互作用を利用できる場合において、給電素子37を放射導体として機能させてもよい。放射素子31は、給電素子37によって給電部36で非接触に電磁界結合で給電されることにより、例えば、λ/2ダイポールアンテナとして機能する放射導体である。一方、給電素子37は、放射素子31に対して給電可能な線状の給電導体であるが、給電点38で給電されることにより、モノポールアンテナ(例えば、λ/4モノポールアンテナ)として機能することも可能な放射導体である。放射素子31の共振周波数をf1、給電素子37の共振周波数をf2と設定し、給電素子37の長さを周波数f2で共振するモノポールアンテナとして調整すれば、給電素子37の放射機能を利用することができ、アンテナ装置1の多周波化を容易に実現できる。
給電素子37の放射機能を利用したときの物理的な長さL37は、整合回路などを含んでいない場合、給電素子37の共振周波数f2における真空中の電波の波長をλ1として、実装される環境による短縮効果の短縮率をk1としたとき、λg3=λ1・k1によって決定される。ここでk1は、給電素子37の環境の実効比誘電率(εr1)および実効比透磁率(μr1)などの給電素子37が設けられた誘電体基材等の媒質(環境)の比誘電率、比透磁率、および厚み、共振周波数などから算出される値である。すなわち、L37は、(1/8)・λg3以下(3/8)・λg3以下であり、好ましくは、(3/16)・λg3以上(5/16)・λg3以下である。
なお、一つの給電素子37で複数の放射素子に給電してもよい。複数の放射素子を利用することにより、マルチバンド化、ワイドバンド化、指向性制御等の実施が容易となる。また、複数のアンテナ装置1が一つの無線装置に搭載されてもよい。
また、給電素子37と放射素子31とグランドプレーン70のうちの少なくとも二つは、互いに異なる高さに配置された部分を有する導体でもよいし、互いに同じ高さに配置された部分を有する導体でもよい。
給電素子37は、基板25の放射素子31に対向する側の表面に配置されている。しかしながら、給電素子37は、基板25の放射素子31に対向する側とは反対側の表面に配置されてもよいし、基板25の側面に配置されてもよいし、基板25の内部に配置されてもよいし、基板25以外の部材に配置されてもよい。
グランドプレーン70は、基板25の放射素子31に対向する側とは反対側の表面に配置されている。しかしながら、グランドプレーン70は、基板25の放射素子31に対向する側の表面に配置されてもよいし、基板25の側面に配置されてもよいし、基板25の内部に配置されてもよいし、基板25以外の部材に配置されてもよい。
基板25は、給電素子37と、給電点38と、給電点38のグランド基準であるグランドプレーン70とを有している。また、基板25は、給電点38に接続されるストリップ導体27を備えた伝送線路を有している。ストリップ導体27は、例えば、グランドプレーン70との間に基板25を挟むように基板25の表面に形成された信号線である。
放射素子31は、給電素子37から離れて配置され、例えば図示のように、基板25から距離L68離れて基板25に対向する基板26に設けられている。放射素子31は、基板26の給電素子37に対向する側の表面に配置されている。しかしながら、放射素子31は、基板26の給電素子37に対向する側とは反対側の表面に配置されてもよいし、基板26の側面に配置されてもよいし、基板26以外の部材に配置されてもよい。
基板25又は基板26は、例えば、XY平面に平行に配置され、誘電体、磁性体、又は誘電体と磁性体との混合物を基材とする基板である。誘電体の具体例として、樹脂、ガラス、ガラスセラミックス、LTCC(Low Temperature Co−Fired Ceramics)、アルミナなどが挙げられる。誘電体と磁性体との混合物の具体例として、FeやNi、Coなどの遷移元素、SmやNdなどの希土類元素を含む金属あるいは酸化物のいずれかを有していればよく、例えば、六方晶系フェライト、スピネル系フェライト(Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライトなど)、ガーネット系フェライト、パーマロイ、センダスト(登録商標)などが挙げられる。
アンテナ装置1がディスプレイを有する携帯無線装置に搭載される場合、基板26は、例えば、ディスプレイの画像表示面を全面的に覆うカバーガラスであってもよいし、基板25が固定される筐体(特には、底面、側面など)であってもよいし,携帯無線装置に構成される構成部品(特にはチップ部品や射出成形等により形成される部品,例えばMID(Molded Interconect Device),フレキシブル基板,バッテリーなど)であってもよい。カバーガラスは、透明又はディスプレイに表示される画像をユーザが視認可能な程度に半透明な誘電体基板であって、ディスプレイの上に積層配置された平板状の部材である。
放射素子31がカバーガラスの表面に設けられる場合、放射素子31は、銅や銀などの導体ペーストをカバーガラスの表面に塗って焼成して形成されるとよい。このときの導体ペーストとして、カバーガラスに利用される化学強化ガラスの強化が鈍らない程度の温度で焼成できる低温焼成可能な導体ペーストを利用するとよい。また、酸化による導体の劣化を防ぐために、メッキなどを施してもよい。また、カバーガラスには加飾印刷が施されていてもよく、加飾印刷された部分に導体が形成されていてもよい。また、配線などを隠す目的でカバーガラスの周縁に黒色隠蔽膜が形成されている場合、放射素子31が黒色隠蔽膜上に形成されてもよい。
以上、アンテナ装置及び無線装置を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
例えば、アンテナは、直線的に延びる線状の導体部分のみを含むものに限らず、曲がった導体部分を含むものでもよい。例えば、L字状の導体部分を含むものでもよいし、メアンダ形状の導体部分を含むものでもよいし、途中で分岐した導体部分を含むものでもよい。
また、給電素子に、スタブを設けてもよいし、整合回路を設けてもよい。これにより、給電素子が基板に占める面積を減らすことができる。
本国際出願は、2014年1月20日に出願した日本国特許出願第2014−008168号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2014−008168号の全内容を本国際出願に援用する。