JP6425958B2 - 電気泳動装置、電気泳動法および電気泳動法を用いた濃縮・分離・分析方法 - Google Patents

電気泳動装置、電気泳動法および電気泳動法を用いた濃縮・分離・分析方法 Download PDF

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Description

本発明は、電気泳動装置、電気泳動法および電気泳動法を用いた濃縮・分離・分析方法に関し、特に、同位体元素の濃縮・分離・分析などに好適な電気泳動装置、電気泳動法および電気泳動法を用いた濃縮・分離・分析方法に関する。
近年、核化学分野や生物化学分野など様々な分野で、種々の元素の同位体が使用されている。
同位体元素を濃縮・分離する方法として、従来より、主に、遠心分離法が用いられている。
しかし、この遠心分離法を用いた同位体元素の濃縮・分離には、濃縮・分離対象の元素が含まれた気体を必要とするため、気体の化合物が存在しないCa(カルシウム)等の同位体の濃縮・分離には採用することができない。
そこで、このように気体の化合物が存在しない元素から同位体を濃縮・分離する場合には、質量分析法が採用されている。この方法は、真空中で原子をイオン化し、電界によりイオンビームとして加速し、磁場で曲げた場合、同位体の質量差により曲率が相違することを利用して同位体の濃縮・分離を行うものであり、殆どの元素の濃縮が可能であるが、濃縮に際して多大の電力を消費するためコストが掛かり、非常に高価とならざるを得ない。例えば、90%以上に濃縮された48Caは、一般的に、1g当たり1000万円を超える価格となっている。
そこで、このように気体の化合物が存在しないCa等から同位体を安価に濃縮・分離することができる方法が種々検討されている。
一例として、同位体によって生じる化学反応率の差を利用して同位体の濃縮・分離を行うことが検討されたが、この方法には、適用し得る元素が限られるという問題がある。
しかし、質量分析法以外の方法では実験室レベルの少量の濃縮・分離に留まっており、現実的な量を大量に効率よく濃縮・分離することには未だ到達できていない。
このような状況下、単原子イオンやタンパク質、アミノ酸などの分離、分析に使用されてきた電気泳動法を用いて同位体の濃縮・分離を行うことが、適用し得る元素が広範なことや、簡便な方法であるなどの観点より、注目されている(例えば、特許文献1、2および非特許文献1)。
この電気泳動法は、溶液中で電荷を持つ粒子、即ちイオン(高分子やタンパク質を含む)が、電場が掛けられた際に移動する性質を利用するものであり、溶液中におけるイオンの移動速度はイオン固有の移動度(電場と速度の比)で決定されるため、移動度の差と泳動距離の積により各イオンを分別することができる。
しかし、従来の電気泳動法を用いて、同位体の濃縮を行おうとすると、以下に示すような解決すべき点があった。
即ち、電気泳動法では、溶液に電場を掛けてイオンを移動させているが、単原子イオンにおける同位体間の移動度の差は基本的に小さいため、同位体を濃縮・分離するためには、高い電場を掛けて泳動距離を長くして、移動距離の差を大きくする必要がある。しかし、高い電場を掛けて大きな電流を通電すると、その通電に伴い大きなジュール熱が発生して、溶液に対流などの乱流を生じさせる恐れがある。この乱流は、イオンの移動に乱れを生じさせるため、泳動距離を長くしても、充分な同位体の濃縮・分離が阻害される。また、沸騰に至った場合には乱流はさらに大きくなるため、イオンが移動できなくなる。
通電せずに電場を掛けると、イオンが電場を移動することにより、電荷の分布(pH勾配)が生じるが、この電荷の分布はそれ自身が新たな電場を形成して、元々掛けていた電場を相殺する(打消す)方向に作用するため、双方の電場がちょうど釣り合った段階でイオンの移動が停止するという問題もある。
これらの問題を解決する手段として、径が小さなキャピラリー(毛細管)内でイオンを泳動させるキャピラリー電気泳動法が提案されている。径が小さなキャピラリーを用いるため、冷却が容易で、乱流が発生しにくい。しかし、径が小さなキャピラリーを用いる限り、一度に分離できる同位体の量を多くすることが困難であり、工業的に実用的な手段とは言えない。
そこで、ゲルやスポンジやイオン交換樹脂などを充填して、乱流の発生を抑制することにより、より径が大きな泳動部に乱流を押さえる機能をもたせ、一度に大量の同位体を濃縮することが検討されている。
しかし、これらゲルやスポンジやイオン交換樹脂などが充填された泳動部を用いた場合であっても、ジュール熱の発生を考慮すると、掛けることができる電圧(電流)には限界があり、イオンを短時間で長距離移動させることは容易ではなく、同位体を充分に濃縮・分離するには長時間を要するため、効率的な手段とは言えない。
例えば、泳動部の径を大きくした電気泳動法を用いて、カルシウム同位体の分離を行った例が、非特許文献1に示されている。ここでは、1.2V/cm程度の電圧を約900時間掛けて23m移動させることにより、48Caを40Caに対して自然存在比の0.187%から約30%濃縮している。
上記においては、ジュール熱による温度上昇を抑えながら大量の泳動を行うために、電圧を1.2V/cm程度と低く設定すると共に、電流密度を0.1〜0.2A/cm(ジュール熱で0.1〜0.2W/cmに相当)程度にすることで温度を80℃程度に抑えている。しかし、乱流を抑えても、拡散による泳動距離の広がりは避けられない。このため、高い濃縮度を達成するには同位体間の泳動距離の差を、前記した拡散による泳動距離の広がりよりも充分大きくすることが必要であり、約900時間という長時間を掛けて長距離の泳動をさせている。
このときの移動速度は、内径0.1mmのキャピラリーで0.1〜1kV/cm程度の電圧をかけて1m程度泳動させる一般的なキャピラリー電気泳動法における金属イオンの移動速度(1kV/cmの電圧で5mm/s程度)に比べ、百分の1から千分の1である。また、周りに冷却水を通すため、泳動部全体としての直径は数cmになる。
このような従来の電気泳動法に対して、本発明者は、複数の泳動路(以下、「マルチチャネル」ともいう)が設けられた泳動媒体を用いることで大量の同位体を濃縮・分離するマルチチャネル向流電気泳動法(MCCCE:Multi−Channel Counter Current Electrophoresis)を提案した(特許文献3)。
このMCCCE法は、簡便な電気泳動法を用いて、移動度の差が小さい同位体であっても、短時間で充分な距離を泳動させて、効率良く、大量に濃縮・分離・分析することができる電気泳動法として、本発明者により初めて開発された技術である。
具体的に、MCCCE法は、濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析を行う電気泳動法であって、高い電場を掛けることで泳動距離と泳動に掛かる時間を短くして効率を向上させる一方で、泳動路が設けられた熱伝導率の高い絶縁体により、高い電場に伴って発生する大きなジュール熱を効率的に取り去ると共に泳動路を多数にして有効な除熱を可能にすることで、大量のイオンの濃縮・分離を実現している。
そして、このMCCCE法においては、電場でのイオンが移動する方向と逆の方向に溶液を流している(向流)。この向流の速度をイオンの電場による移動速度(泳動速度)とほぼ同じにすることで、短い泳動路で実質的に長距離の泳動を達成させて、濃縮・分離・分析の効率を向上させている。
特開2002−79059号公報 特開2010−29797号公報 特開2014−97463号公報
NOBUYA KOBAYASHI 他2名著、「CALCIUM ISOTOPE ENRICHMENT BY MEANS OF COUNTER−CURRENT ELECTROMIGRATION USING AN ION−EXCHANGE RESIN AS MIGRATION MEDIUM」、Journal of Chromatography 252(1982) 121−130
本発明者は、上記したMCCCE法によれば、従来に比べてはるかに高い効率で濃縮・分離が行えるが、MCCCE法による濃縮・分離の高い効率が充分に発揮されない場合があり、安定性に問題があることが分かった。
そこで、本発明は、上記したMCCCE法を用いて、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができる濃縮・分離・分析技術を提供することを課題とする。
1.本発明者が開発したMCCCE法
本発明について説明する前に、本発明に関連する技術として本発明者が開発した上記MCCCE法について具体的に説明する。
本発明に関連するMCCCE法に関する第1の技術は、
濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、電場が掛けられた泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析する電気泳動装置であって、
前記泳動路が、高熱伝導率の絶縁体中に複数設けられていることを特徴とする電気泳動装置である。
イオンの移動距離は速度×時間により決定されるが、イオンは拡散や乱流によりさらに広がって移動する。この内、乱流による移動距離の広がりは、泳動路の径を制御することにより抑制することができるものの、拡散による広がりは抑制することができない。
このため、イオンの効率的な濃縮・分離を行うためには、電気泳動において掛ける電場を高くして、対象となるイオンとそれ以外のイオンとの間における移動距離の差を、拡散による移動距離の広がりよりも大きくなるようにして、これらを明確に分離させる必要がある。
しかし、泳動路におけるイオンの移動は電流となるため、電場に掛けられた電圧との積で与えられる電力に対応するジュール熱が発生する。前記したように、ジュール熱の発生は水溶液を温度上昇させて、イオンに新たな乱流の発生を招くため、温度を妥当な範囲内に維持できるように除熱して、この乱流の発生を抑制する必要がある。
MCCCE法以前の電気泳動法においては、例えば、0.1mmφ程度の極細キャピラリーを用いて泳動路とすることにより、イオンの移動距離が乱流で広がることを抑制していた。この円筒状のキャピラリーは体積に対する表面積が大きいため、周囲から有効に熱を取り去ることが可能であるが、除熱に際しては、キャピラリーの周囲に大きな冷却スペースを設ける必要がある。例えば、直径0.1mmφ程度のキャピラリーであれば、その周囲に直径数cmの冷却スペースを設ける必要があり、冷却スペースを含めた泳動装置全体の断面積に対して泳動路自体(キャピラリー)の断面積の比が10−4〜10−5と小さくなる。このため、大量の濃縮・分離・分析を目的として多数のキャピラリーを配置することは、電気泳動装置の大きさが非常に大きくなることが避けられず、実用的な方法として適用することができなかった。
本技術によれば、泳動路を設ける媒体(泳動媒体)として高熱伝導率の絶縁体を採用し、この泳動媒体中にイオン水溶液を泳動させる複数の泳動路が設けられているため、高い電場を掛けて、大量のイオン水溶液を泳動させても、充分に乱流の発生を抑制して、短時間で、充分に大きな移動距離の差を生み出させることができ、濃縮・分離・分析の効率を飛躍的に向上させることができる。
即ち、複数の泳動路(以下、「マルチチャネル」ともいう)が設けられた泳動媒体を用いることにより、大量のイオン水溶液を泳動させることが可能となるため、大量の濃縮・分離・分析を行うことができる。
そして、泳動媒体として高熱伝導率の絶縁体を用いているため、複数の泳動路に高い電場を掛けた場合でも、発生するジュール熱を高熱伝導率の泳動媒体を介して効率的に除熱することができるため、乱流の発生を充分に抑制して、短時間で、効率的な濃縮・分離・分析を行うことができる。
また、このように効率的に除熱することができるため、泳動路の径を、乱流の発生が予測される限度まで大きくすることが可能となり、より大量の濃縮・分離・分析を行うことができる。
この結果、上記したように、濃縮・分離・分析の効率を飛躍的に向上させることができ、気体の化合物が存在しないCaなどであっても、同位体を安価に濃縮・分離・分析して提供することができる。
さらに、高熱伝導率の泳動媒体中に複数の泳動路を設けても効率的な除熱が行われるため、泳動媒体全体の断面積に対する泳動路の断面積の比を小さくすることができ、電気泳動装置のコンパクト化を図ることができる。
なお、本技術に係る電気泳動装置は、上記のような同位体の濃縮・分離・分析のみならず、従来と同様に、単原子イオン、タンパク質、アミノ酸などの濃縮・分離・分析に使用することもできる。
そして、本技術において「高熱伝導率」とは、水溶液中をイオンが移動するに際して、チャネル内を支障なく移動することができる温度、具体的には、水の沸点(100℃)に対して充分に低い温度、具体的には、イオンの濃縮・分離・分析に影響を与えるような乱流を水溶液に生じさせない温度に維持できるように除熱することができる熱伝導率を意味し、チャネルの径や間隔および数などに応じて適宜選択される。
本発明に関連するMCCCE法に関する第2の技術は、
前記泳動路が設けられている泳動媒体の熱伝導率が、30W/mK以上であることを特徴とする第1の技術に記載の電気泳動装置である。
MCCCE法における泳動媒体としては、前記したように、泳動路を複数設けても温度上昇を100℃以下に保つように有効に除熱することができ、乱流を引き起こすことがない高熱伝導率の絶縁体からなる泳動媒体が採用され、具体的には、通常の絶縁体に比べて100倍程度大きい30W/mK以上、より好ましくは50W/mK以上の熱伝導率を有する絶縁体からなる泳動媒体が好ましく使用される。なお、高熱伝導率である限り、熱伝導率の上限は特に限定されないが、コストなどを考慮すると、実用的には、300W/mK程度を上限とすることが好ましい。
このような高熱伝導率の絶縁体からなる泳動媒体を用いることにより、従来のキャピラリーよりも大きな径の泳動路を複数設けても、温度上昇を100℃以下に保つように有効に除熱でき、乱流を引き起こすことがない。具体的には、例えば、0.5mmφまで直径を大きくすることができ、直径0.1mmφ程度の極細チューブを用いるキャピラリー電気泳動法に比べて断面積を25倍程度にまで大きくすることができるため、泳動量を飛躍的に増加させることができる。
このような高熱伝導率を有する絶縁性物質、特に熱伝導率が50W/mK以上の絶縁性物質としては、例えば、BN、AlN、ダイヤモンドなどを挙げることができる。
本発明に関連するMCCCE法に関する第3の技術は、
前記泳動媒体には、直径0.5mmφ以下の泳動路が、泳動媒体全体の断面積に対する泳動路の断面積の合計の割合が10−2〜10−1となるように、等間隔に複数配置されている
ことを特徴とする第2の技術に記載の電気泳動装置である。
高熱伝導率の泳動媒体を用いることにより、前記したように、従来のキャピラリーよりも大きな径の泳動路を設けることができるが、さらに、このような泳動路を複数設ける(マルチチャネル化)ことにより、より有効に熱を取り除くことができる。具体的には、泳動媒体全体の断面積に対する泳動路の断面積の合計の割合を、キャピラリー泳動法における10−5〜10−4から10−2〜10−1にまで、2〜4桁大きくすることができる。なお、泳動装置の断面は実質的に泳動媒体により占められていると考えることができるため、「泳動媒体全体の断面積」を「泳動装置全体の断面積」と考えてもよい。そして、泳動媒体全体の断面積の割合が同じ場合には、細い径の泳動路が多く設けられている方が好ましく、工作上の強度等の問題を考慮して、適切な径の泳動路を適切な泳動媒体全体の断面積の割合で設けることが好ましい。
この結果、装置の小型化を図りながら、充分な量の泳動が可能になる。なお、設けられる泳動路の径や上記面積割合は、泳動媒体の熱伝導率や泳動路の形状に合わせて適宜設定することができる。そして、複数の泳動路は、泳動媒体に熱の偏りが生じないように、等間隔に配置されていることが好ましい。また、複数の泳動路が等間隔に配置されている場合には、投入できる電力等の評価を容易に行うことができる。
本発明に関連するMCCCE法に関する第4の技術は、
さらに、前記泳動路中の溶液に、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向の流れを生じさせる向流発生手段が設けられていることを特徴とする第1の技術ないし第3の技術のいずれかに記載の電気泳動装置である。
泳動路中の溶液に、イオンの泳動速度に対応した逆流(向流)を作用させることにより、イオンの移動距離を抑制することができるため、短い距離の泳動路であっても、実質的には長い泳動距離を確保することができ、移動距離の差が小さい同位体であっても充分に濃縮・分離・分析することができる。また、電気泳動装置のより小型化を図ることができる。
本発明に関連するMCCCE法に関する第5の技術は、
濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、電場が掛けられた泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析する電気泳動法であって、
高熱伝導率の絶縁体中に複数設けられている前記泳動路に電場を掛けることにより、前記イオンを移動させて濃縮・分離または分析することを特徴とする電気泳動法である。
前記したように、高熱伝導率の泳動媒体に複数の泳動路を設ける(マルチチャネル化)ことにより、従来のキャピラリー電気泳動法で用いられる一般的な電場に近い電場、具体的には100V/cm以上の電場を掛けても、乱流の発生を充分に抑制しながら有効に除熱することができるため、短時間で、大量のイオン水溶液を効率的に濃縮・分離・分析することができる。
ここで、一定の分離を得る条件では、電場の高さは濃縮・分離・分析に要する時間の平方根の逆数に比例し、泳動距離は電場の高さと時間との積で与えられるため、電場をn倍高くすることにより、濃縮・分離・分析に要する時間を1/nに短縮することができると共に、濃縮・分離・分析に要する泳動距離を1/nと短縮することができ、効率的な濃縮・分離・分析を行うことができる。
2.本発明に係るMCCCE法
本発明者は、上記したMCCCE法において、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができなかった原因とその解決方法について検討を行った。
具体的に、本発明者は、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができる条件を見出すために、多くの実験パラメーターを種々組み合わせて数多くの実験を行うと共に、設備や部品についても改良や変更を加えた。
その結果、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができなかった原因が、向流の発生方法にあり、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うためには、向流の速度分散を制御する必要があることが分かった。
即ち、高い効率の濃縮・分離を達成するには、分離を妨げるイオンの速度分散を抑制することが必要である。上記した従来のMCCCE法ではイオンの熱運動による速度分散より同位体による移動度の差が生み出すイオンの移動距離が大きくなるように考案されていたが、向流による速度分散が非常に大きくなる場合があり、結果的に、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができなかったことが分かった。
具体的には、絶縁体で囲まれた細い泳動路の中で電場はほぼ一様であるため、電場によるイオンの泳動速度もほぼ一様となる。このため、イオンの泳動速度をキャンセルしてイオンの移動距離を短くさせる向流も一定の速度で流れていないと、泳動するイオンに速度分散が発生して安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができない。
しかし、細い泳動路の中における液体の流れは、通常、ハーゲン・ポアズイユ流と呼ばれる層流になっている。このハーゲン・ポアズイユ流において、速度分布は中心からの距離の関数として2次関数となるため、向流の速度は泳動路内において大きな位置依存性を持つことになり、向流の速度分散が発生する。その結果、泳動するイオンに速度分散が発生して、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができていなかったことが分かった。
即ち、従来の実験において高い効率で濃縮・分離を行うことができた場合もあったのは、その際に使用した向流発生手段の影響で、偶然、向流の速度の位置依存性が殆どない状況にあったためであり、他の一般的な向流発生手段を使用した場合には、向流の速度の位置依存性により高い効率で濃縮・分離を行うことができていなかったことが分かった。
そこで、本発明者は、細い泳動路の中における液体の流れ、即ち、向流の速度の位置依存性がないようにすることができれば、泳動するイオンに速度分散が発生せず、高い効率の濃縮・分離を安定的に達成することができると考え、実験の結果これを確認し、本発明を完成するに至った。
そして、このような向流発生手段として、チュービングポンプのような向流に脈動を追加する手段や、泳動路に径の大きい部分と小さい部分とを交互に形成させて泳動路自体を波打った形状に形成する手段が、有効であることが分かった。
即ち、これらの手段を設けることにより、泳動路内を流れる向流の進行最前面をフラットにすることができるため、向流の速度の位置依存性がないようにすることができ、より高い効率で濃縮・分離を達成することができる。なお、この際、向流が乱流とならないようにする必要がある。
請求項1および請求項2に記載の発明は、上記の知見に基づくものであり、
請求項に記載の発明は、
濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、電場が掛けられた泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析する電気泳動装置であって、
前記泳動路が、30W/mK以上の高熱伝導率の絶縁体中に複数設けられており、
さらに、前記泳動路中の溶液に、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れを生じさせる向流発生手段が設けられており、
前記向流発生手段が、チュービングポンプを用いて、前記泳動路中の溶液に、所定の時間、所定の間隔で脈動を与えることにより、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れを生じさせる向流発生手段である
ことを特徴とする電気泳動装置である。
また、請求項に記載の発明は、
濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、電場が掛けられた泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析する電気泳動装置であって、
前記泳動路が、30W/mK以上の高熱伝導率の絶縁体中に複数設けられており、
さらに、前記泳動路中の溶液に、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れを生じさせる向流発生手段が設けられており
前記向流発生手段が、前記泳動路に径の大きい部分と小さい部分とを交互に形成させて前記泳動路を波打った形状に形成することにより、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れを生じさせる向流発生手段であることを特徴とする電気泳動装置である。
請求項に記載の発明は、
濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、電場が掛けられた泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析する電気泳動法であって、
30W/mK以上の高熱伝導率の絶縁体中に複数設けられている前記泳動路に電場を掛けることにより、前記イオンを移動させ、
前記泳動路中の溶液に、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れを、チュービングポンプを用いることによって生じさせる
ことを特徴とする電気泳動法である。
請求項4に記載の発明は、
濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、電場が掛けられた泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析する電気泳動法であって、
30W/mK以上の高熱伝導率の絶縁体中に複数設けられている前記泳動路に電場を掛けることにより、前記イオンを移動させ、
前記泳動路中の溶液に、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れの流れを、前記泳動路が径の大きい部分と小さい部分とを交互に形成させて前記泳動路を波打った形状に形成することによって生じさせる
ことを特徴とする電気泳動法である。
高熱伝導率の泳動媒体に複数の泳動路を設け(マルチチャネル化)、さらに、泳動路内にイオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、位置依存性がない一様な速度分布の流れを生じさせることにより、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができる。
請求項に記載の発明は、
前記濃縮・分離または分析の対象である物質が同位体元素であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の電気泳動法である。
上記の電気泳動法は、マルチチャネル化した泳動媒体を用いて、さらに、泳動路内で位置依存性を持たない一定の速度の向流によりイオンの泳動速度を一様な速度分布としているため、より短時間で充分な距離を泳動させることができ、移動度の差が小さい同位体であっても、より短時間で、より充分な距離を泳動させて、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができる。
請求項に記載の発明は、
前記同位体元素が、48Caであることを特徴とする請求項に記載の電気泳動法である。
上記の電気泳動法は、移動度の差が小さい同位体であっても、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができるため、近年注目されている同位体であって、遠心分離法の採用が不可能な気体の化合物が存在しないカルシウムの同位体の濃縮・分離・分析に好ましく適用することができ、また、質量分析法による分離に比べて、安価かつ大量に48Caを提供することができる。
請求項に記載の発明は、
請求項ないし請求項のいずれか1項に記載の電気泳動法を用いて、対象となる物質のイオンを濃縮・分離または分析することを特徴とする濃縮・分離または分析方法である。
これらの電気泳動法は、より短時間に大量のイオンをより充分な距離泳動させて、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができるため、移動度の差が小さい同位体であっても、効率よく濃縮・分離・分析することができる。
本発明によれば、MCCCE法を用いて、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができる濃縮・分離・分析技術を提供することができる。
本発明の一実施の形態に係る電気泳動装置を模式的に示す縦断面図である。 本発明の一実施の形態に係る電気泳動装置の泳動媒体の平面図である。 本発明の他の実施の形態に係る電気泳動装置の泳動路を模式的に示す縦断面図である。 MCCCE法の基本的な実施の形態における電気泳動装置を模式的に示す図である。
[1]MCCCE法の基本的な実施の形態
本発明の実施の形態について説明する前に、本発明者が開発したMCCCE法の基本的な実施の形態について具体的に説明する。
1.MCCCE法の基本的な実施の形態
(1)電気泳動装置の構成
図4はMCCCE法の基本的な実施の形態における電気泳動装置を模式的に示す図であり、(a)は電気泳動装置を正面から見た断面図、(b)は前記電気泳動装置に設けられた泳動媒体の正面図である。図4において、101は容器、102は泳動部、103は陽極板、104は陰極板、105は泳動媒体、106は向流発生部、107は泳動路(チャネル)、108はマルチチャネル部、109は陽極側撹拌部、110は陰極側撹拌部である。
容器101は縦断面の形状が略円形で両端が閉じられた筒状の容器であり、容器101の内部には、濃縮・分離・分析の対象である物質のイオンを含む水溶液が満たされており、泳動媒体105を挟んで所定の間隔で+電極となる陽極板103、および−電極となる陰極板104が配置されている。なお、容器101としては、泳動媒体105における除熱をより効果的に行う観点から、熱伝導性が高い絶縁体の材質を用いて形成されていることが好ましいが、コストと効果を考慮して適宜設定される。なお、本実施の形態においては、アクリル樹脂を用いている。
そして、陽極板103と泳動媒体105との間には陽極側撹拌部109が、また陰極板104と泳動媒体105との間には陰極側撹拌部110が設けられて、陽極板103と陰極板104との間に泳動部102が形成されている。
泳動媒体105には、図4(b)に示すように、断面形状が円形の泳動路107が多数設けられており(マルチチャネル化)、この泳動路107の中をイオンが移動する。泳動路107の直径としては0.5mmφまで大きくすることが可能で、本実施の形態においては、前記したように、工作上の強度等の問題を考慮して、泳動媒体全体の断面積に対する泳動路107の断面積の合計の割合が0.03となるように等間隔に配置したが、0.1程度まで高めることが可能である。また、本実施の形態においては、泳動媒体105を冷却するために銅管(図示せず)が巻かれており、中に水を通して冷却している。
Figure 0006425958

としては、特に条件は無いが、一般的に数cmに設定される。
泳動媒体105は、絶縁体で高い熱伝導率を有する物質、好ましくは熱伝導率が30W/mK以上、より好ましくは50W/mK以上の物質、例えば、BNなどを用いて形成されている。このように高い熱伝導率を有する物質を用いて泳動媒体105が形成されているため、直径0.1mmφ程度の極細チューブを用いるキャピラリー電気泳動法に比べて大きな直径の複数の泳動路107に同程度の高い電場を掛けた場合でも、発生するジュール熱を充分に取り除くことができ、泳動路107における乱流の発生が抑制される。
なお、この電気泳動装置には、図4(a)に示すように、さらに、向流発生部106が設けられていることが好ましい。向流発生部106を設けて、イオンの泳動速度に対応した逆流(向流)を作用させることにより、イオンの移動距離を抑制して、実質的に長い泳動距離を短い距離の泳動路107で確保することができるため、電気泳動装置を大型化することなく、濃縮・分離することができ好ましい。
(2)同位体の濃縮・分離・分析
次に、上記の電気泳動装置を用いた同位体の濃縮・分離・分析について説明する。
最初に、容器101内に、対象となる同位体のイオンが含まれた水溶液、例えば、48Caが含まれたCaイオンの水溶液などを充填する。
次に、陽極板103と陰極板104との間に所定の電圧を印加し、電場を形成させる。好ましい電場は100V/cm以上であり、これは、キャピラリー電気泳動法における電場とほぼ同程度の電場である。
このように大きな電場を掛けることができるのは、前記したように、高熱伝導率の泳動媒体105中に泳動路107が設けられているため、発生するジュール熱を充分に取り除くことができ、泳動路107における乱流の発生が抑制されるからである。
電場が形成されることにより、泳動路107内を、カチオンは陰極板104側に、アニオンは陽極板103側にそれぞれ泳動する。
このとき、質量が異なる同位体は異なる移動速度を持つため、充分な距離を泳動させることにより、質量が異なる同位体の濃縮・分離を行うことができる。
本実施の形態においては、前記したように、従来のキャピラリー電気泳動法に比べて大きな直径の泳動路107に高い電場を掛けても、発生するジュール熱を充分に取り除いて乱流の発生を抑制することができるため、大量の水溶液を効率的に濃縮・分離・分析することができる。
なお、上記において、濃縮・分離・分析の対象となるカチオンの泳動速度と同程度で、図4(a)に矢印で示すように、カチオンとは逆方向の流れ(向流)を作用させると、カチオンの実質的な移動速度は非常に小さくなるため、泳動路107の長さ
Figure 0006425958

に対して実際の泳動距離を大きく伸ばすことができる。
前記したように、質量が異なる同位体は、異なる移動速度を持つため、向流の速度をその中間に設定すると、平均の速度が0となって、移動速度が遅い同位体は図4(a)において左側の陽極側に、移動速度が速い同位体は図4(a)において右側の陰極側に集まることになるため、質量が異なる同位体の濃縮・分離・分析をより効率的に行うことができる。
2.理論面からの考察
次に、本発明者が開発したMCCCE法を用いた電気泳動法の理論面からの考察について、同じく図4を参照しながら説明する。
(1)基本的な考え方
前記したように、電気泳動法によるイオンの濃縮・分離・分析は、泳動路107に電場を掛けて、イオンの移動度の差が濃縮・分離・分析に充分な泳動距離の差を生み出すまで、イオンを泳動させることにより達成することができるが、短時間で、大量に濃縮・分離・分析するためには、拡散による広がりより大きな移動距離の差を生み出させると共に、電圧との積で与えられる電力に対応するジュール熱を適切に除熱する必要がある。
(2)具体的な方策
細い泳動路を用いると、イオンの移動距離が乱流によりさらに広がることを避けることができる。また体積に対する表面積が大きいので周りから熱を有効に取り去ることができる。しかし、前記したように、泳動に使える有効な断面積が小さいので、大量のイオンの濃縮(分離)に向いていない。
そこで、本発明者は、イオンの濃縮(分離)の効率を上げる方法と、発生したジュール熱を除去する方法の2つに着目し、
イ)細い泳動路(チャネル)107を高熱伝導率の絶縁体からなる泳動媒体105中に設けることで、乱流の発生を抑制すると共に発生したジュール熱を有効に除去する、
ロ)泳動路(チャネル)107の数を多くするマルチチャネル化を行うことにより、大量の分離を可能にする、
ハ)各泳動路(チャネル)107の形状と配置を、除熱の観点から最適化すると共に、電場を高くすることにより、電力当たりの分離効率を向上する、
ことにより、濃縮・分離・分析の効率を飛躍的に向上させることができると考えた。
このような電気泳動法がマルチチャネル向流電気泳動法(MCCCE:Multi−Channel Counter Current Electrophoresis)であり、以下、このMCCCE法の基本的な考え方に付き説明する。
(3)マルチチャネル向流電気泳動法
(a)基本方程式
泳動媒体105の断面積をS、マルチチャネル部108の開口断面積の合計をSMCとする。電圧は電極で与えられる。このとき、基礎となる方程式は、電荷密度と電位の関係を与えるポアッソンの方程式(1.1)、電荷の保存則(1.2)、オームの法則(1.3)であり、それぞれ以下のように表される。なお、Vは電位、ρは電荷密度、
Figure 0006425958

は電流密度、Δはラプラス演算子、∇はナブラ微分演算子、εは水溶液の誘電率、κは水溶液(イオン水溶液)の電気伝導度である。
Figure 0006425958
Figure 0006425958
Figure 0006425958
(b)実際の関係式
本実施の形態においては、定常状態を考えているため、時間微分は0となる。また、泳動路107を移動する水溶液は導体であるため、電荷分布ρも0となる。この結果、上記の式(1.2)において電流密度は
Figure 0006425958

となる。これを攪拌部(陽極側撹拌部109および陰極側撹拌部110)とマルチチャネル部108との境界に適用すると、流れ込む電流と流れ出す電流は同じ
Figure 0006425958

であることから、
Figure 0006425958

となり、マルチチャネル部108における電流密度は、下記の式(2.1)で表される。なお、式(2.1)において、添え字はAが攪拌部を表し、MCがマルチチャネル部を表す。
Figure 0006425958

となる。
電気伝導度(κ)が場所に依らず一定とすると、オームの法則(1.3)によって、電場にも電流密度と同様の
Figure 0006425958

という関係がある。
そして、電極間の電圧Vとマルチチャネル部に掛かる電圧VMCと攪拌部の電圧Vの関係は、攪拌部の長さを陽極側と陰極側の和、即ち、
Figure 0006425958

を用いると、
Figure 0006425958

と表すことができる。ここで、マルチチャネル部108の開口断面積SMCは泳動路の断面積Sに比較して遙かに小さい、即ち、
Figure 0006425958

であるため、マルチチャネル部108における電場は攪拌部に比較して充分大きく、即ち、
Figure 0006425958

となる。この結果、殆どの電圧がマルチチャネル部108に掛かるようにすると、ジュール熱は殆ど泳動路107において発生することになる。
(c)泳動路における消費電力
マルチチャネル部108の泳動路107において発生する電力、即ちジュール熱
Figure 0006425958

は、電流と電圧の積、即ち、
Figure 0006425958

を泳動路107内で体積積分することで与えられるため、
Figure 0006425958

と表すことができる。なお、上記式(2.3)の最後の式を得るに当たっては、
Figure 0006425958

および
Figure 0006425958

の近似を用いた。
電極間における電力はほぼ電極間の電流と電圧の積のIVで与えられるが、上記の式(2.3)より、マルチチャネル部108の泳動路107における電力の場合には、攪拌部で消費される電力分、即ち、
Figure 0006425958

だけ少なくなっていることが分かる。
(d)電場と分離に要する時間
(イ)泳動速度と電場と電力
電場によるイオンの移動泳動速度は移動度と電場の積で与えられる。また、塩の溶液における電気伝導度は、カチオンとアニオンの移動度と濃度で与えられる。
例えば、CaCl溶液の場合、Caイオンの泳動速度は0.59mm/s/[100V/cm]であり、Clイオンの泳動速度は0.77mm/s/[100V/cm]である。
また、元素が同じでも同位体によって(例えば40Caと48Ca)小さいながら移動度が違うことが知られている。この小さい差を利用して濃縮・分離・分析を行うためには、長距離の泳動を必要とする。
(ロ)拡散
泳動による同位体の分離効率や目的とするイオンの分離効率は、拡散との関係で与えられる。電気泳動によって泳動距離に同位体間で差が生じても、その差が拡散による移動距離の広がりに比較して大きくなければ分離の効率は上がらない。ここで、拡散は溶液中のイオンが熱運動でランダムな方向に移動することを反映している。
ある時間(t秒)経過後の位置の広がりはガウス関数で与えられ、その広がりを表す幅(σ)は拡散係数Dと時間tを用いて、下記式(3.1)に示すように、時間の平方根に比例する。
Figure 0006425958
前記したCaCl溶液の場合、Caイオンの水中での拡散係数は常温で7.9×10−10[m/s]である。また、具体的なσの値は、例えば、1秒で0.039mm、10000秒では3.9mmである。
実際には、この他に泳動路の乱流や泳動速度の場所依存性などが更なる拡散を引き起こし、その寄与が無視できない場合が多いが、装置の工夫で原理的には抑えることができる。
そして、充分な濃縮・分離・分析を達成するためには、同位体の泳動距離の差が、上記のσより充分大きくなる条件を実現する必要がある。
(ハ)電場と分離効率
電場による泳動距離は、移動度μと電場Eにより表すことができるため、時間tに移動する距離
Figure 0006425958

は、下記式(3.2)のように表すことができる。
Figure 0006425958
前記したように、移動度は同位体によって差があるため、例えば、40Caと48Caの場合について、その差
Figure 0006425958

が生み出す泳動距離の差
Figure 0006425958

が、拡散による距離の広がりを示す式(3.1)に比べて充分に大きく、即ち、下記式(3.3)の条件を満たすことができれば、分離が可能になる。
Figure 0006425958
上記式(3.3)を、両辺が等しいときの電場と時間の関係に直すと、下記式(3.4)または(3.5)のように表すことができる。
Figure 0006425958
Figure 0006425958
上記式において、DおよびΔμは溶液の種類と濃度で決まる定数であるため、電場Eは時間の平方根の逆数で与えられることになる。即ち、電場をn倍強くすれば分離に必要な時間が1/nで短くなり、式(3.2)の電場と時間の積で与えられる泳動距離は1/nになる。
前記したように、非特許文献1では、キャピラリー電気泳動法により、900時間で23mに対応する泳動を行い、30%の濃縮を達成している。このとき、Caの泳動速度から電場は1.2V/cmであったと推定される。
キャピラリー電気泳動法の場合、数100V/cmの電場が一般的であるため、例えば電場が100倍になると同じ分離を得るための時間は1/10000、泳動距離は1/100になって、大きく効率の向上を図ることが可能である。
しかし、式(2.3)で与えられる単位体積当たりの電力は電圧の二乗に比例して、10000倍となるため、発生するジュール熱を制御することが鍵となる。キャピラリー電気泳動法では、極細チューブの周りを水で冷却することで高い電圧に伴う単位体積当たりの高いジュール熱を取り去り、少量のサンプルを分析する用途に使われている。しかし、大量の濃縮(分離)に向いていない。
(ニ)電場と分離に要する電力
前記したように、電場(単位長さ辺りの電圧)をn倍にすると、単位体積・時間当たりの電力はn倍になるが、分離に必要な時間は1/n、泳動距離は1/nで良いため、電場の掛かる体積もほぼ1/nになる。この結果、一定量を濃縮・分離・分析するために投入される全エネルギー(電力×時間)をほぼ1/nに減らすことができるため、投入する電力が一定の条件下では、電場を高くした方が総合的に分離効率を向上させることができることが分かる。
(e)放熱とマルチチャネル
(イ)電力と放熱
電場をn倍にしたときにn倍になる電力はジュール熱となってそのまま水溶液の発熱に使われる。キャピラリー電気泳動法では周りを冷却水で冷やすことで、この熱を取り去っているが、冷却のためにキャピラリーの直径は0.1mm程度と細く、周りに数cmの冷却のスペースを必要とするため、全体の断面積の中で泳動路の断面積の比は10−4〜10−5と小さい。
本実施の形態においては、泳動量を増やすために熱伝導率の高い物質を用いて作製された泳動媒体中に泳動路(チャネル)を多数設けている。これにより、以下に示すように、冷却を有効に行いながら泳動路の断面積の割合を10−1〜10−2まで増やすことを可能にしている。
(ロ)マルチチャネルのパラメーター
1つのチャネルを半径rで長さ
Figure 0006425958

の円柱としたとき、熱は中の水溶液に接するチャネル側面から逃げると考えられる。そして、温度勾配があるときに単位時間および単位面積当たりに移動する熱量、即ち、除熱量J[W/m]は、以下の式(4.1)で与えられる。なお、λは熱伝導率で物質固有の値で、gradTは温度勾配である。
Figure 0006425958
前記したように、除熱はチャネルの側面から行われるため、その面積は
Figure 0006425958

で表すことができる。なお、添え字のcは1個のチャネルを意味するが、長さは複数のチャネルのいずれにおいても同じであるため、
Figure 0006425958

である。
一方、各チャネルで発生する電力Pは、チャネル内の電力密度ρに体積を掛けることにより求めることができ、下式(4.2)、(4.3)と表すことができる。
Figure 0006425958
Figure 0006425958
ここで、チャネル内の溶液で発生する電力(P)は側面の面積から側面から逃げるパワー(J×側面積)と定常状態では釣り合っているため、Jについて、下式(4.4)に示す関係を得ることができる。
Figure 0006425958
前記式(4.1)より、除熱される熱量は温度勾配gradTが一定の条件ではλに比例することが分かる。キャピラリー電気泳動法で用いられる樹脂製のチューブのλは0.5前後であるが、本実施の形態において用いる泳動媒体においては、例えばBNを用いた場合では、結晶で2000、焼結のセラミックでも50程度のλを容易に得ることができるため、Jを100倍から数1000倍にまで上昇させることが可能となる。
(ハ)マルチチャネル領域の冷却
前記したように、キャピラリー電気泳動法では0.1mmφ程度の極細チューブを用いることが多い。これに対して、本実施の形態の泳動媒体のBNはλが100倍以上大きいため、式(4.4)より電力密度又は半径を(乱流を引き起こさない程度に)大きく設定することが可能となる。単純には、式(4.1)と式(4.4)より半径rはλの平方根に比例して大きくできる。
例えば、泳動路(チャネル)の太さを0.5mmφ程度にすると断面積は25倍に増え、その上でチャネルを多く設置(マルチチャネル化)することにより、泳動量を更に増やすことができる。この場合、各チャネルは熱源となるが、泳動路媒体に多数設けられているため、熱源が一様に存在すると考えることができる。
そこで、以下においては、マルチチャネル領域が円形の場合について除熱を評価する。マルチチャネル領域を半径RMCの内側とし、半径Rの位置が冷却系に接しているとすると、側面から逃げる熱量は下式(4.5)と表すことができる。なお、電力密度ρは各チャネルで発生する全電力をマルチチャネル泳動媒体の体積で割ったものであり、平均の電力密度である。
Figure 0006425958
ここで、温度勾配は半径方向だけにあるので、式(4.1)は、
Figure 0006425958

と表すことができ、これを変形させた
Figure 0006425958

を、r=Rからr=0まで積分することにより、下式(4.6)に示すように、水溶液の温度Tを求めることができる。なお、Tは周りの冷却系の温度である。
Figure 0006425958
このTが100℃より充分に低ければ乱流の発生を抑制することができる。
例えば、図4(b)において、RMC=2cm、R=4cmでλ=63の泳動媒体を用いて、温度の上昇を50℃までに押さえようとすると、電力密度は1.2×10[W/m](12[W/cm])と求まり、水1cc当たり12W投入できることになる。これを非特許文献1の場合における電力密度と比較すると、非特許文献1の場合は1cc当たり約0.1Wであり、本発明を適用することにより、ほぼ100倍大きく電力を投入できることが分かる。
このとき、最大の温度勾配はr=RMCの位置で、2000℃/m(2℃/mm)となり、1cmで20℃変化することになる。
ここで使用した泳動媒体(マルチチャネル媒体)では0.5mmφの穴(泳動路)が2.5mm毎に設けられており、チャネルの断面積の合計は、泳動媒体全体の断面積の3.14%(3.14×10−2)に相当する。温度上昇の抑制の観点からは、泳動路の配置密度を高くして、チャネルの断面積の合計の割合が10−1を超えても問題ないが、泳動媒体の材質の強度等工作上の問題を考慮すると、チャネルの断面積の合計の割合は10−2〜10−1(1〜10%)とすることが好ましい。
[2]本発明に係るMCCCE法の実施の形態
前記したように、MCCCE法において高い効率の濃縮・分離を達成するには、イオンの熱運動による速度分散より同位体による移動度の差が生み出すイオンの移動距離が大きくなるようにすることが必要であり、その手段として向流を発生させている。
しかし、これまでのMCCCE法では向流による速度分散が非常に大きくなって、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができない場合があった。
そして、検討の結果、濃縮・分離の効率が充分に高く発揮されない場合、細い泳動路の中における向流がハーゲン・ポアズイユ流と呼ばれる層流になっており、泳動路内において向流の速度が大きな位置依存性を持って速度分散が発生していることが分かった。
そこで、本発明に係るMCCCE法においては、泳動路において層流とならず位置依存性がない一様な速度分布の流れを生じさせる向流発生手段を設け、これにより、安定的に高い効率で濃縮・分離を行っている。
以下、上記した本発明に係るMCCCE法における実施の形態を具体的に説明する。
1.電気泳動装置
本発明者は、本発明を実施するための実験を行うにあたって、図1に示すような電気泳動装置を、本実施の形態に係る電気泳動装置として新たに作成した。なお、本実施の形態においては、この電気泳動装置を用いて、塩化カルシウム溶液(CaCl溶液)に含まれる48Caの濃縮を行った。
図1において、1は電気泳動装置、11はケース、12は泳動媒体である。また、図中のAはCaCl溶液の流入口、BはCaCl溶液の流出口、Cは塩酸溶液の流入口、Dは塩酸溶液の流出口、Eは陰極、Fは陽極、Gはカチオン交換膜であり、そして、Hは泳動媒体12を冷却するために設けられた冷却水の流路である。
ケース11は、外形が80mmφ(径)×130mm(高さ)のアクリル樹脂製であり、内部は40mmφに形成されて泳動媒体12が配置されている。泳動媒体12は、10mm厚のBN(窒化ホウ素)板であり、0.8mmφの穴が4mm間隔で合計69個空けられて各チャネル13が形成されている(図2参照)。
上記において、チャネル13の径は、現実的な工作の制限から図4に示す装置のチャネルの径(0.5mmφ程度)より少し大きい0.8mmφになっているが、本発明の有用性を示す上で1mmφ程度までは問題なく大きくすることができる。
なお、泳動媒体12の下側には、泳動媒体12のチャネルと重なる位置に直径2mmφ程度の穴が空けられた5mm厚程度のBN板が積層配置されていることが好ましい。これにより、泳動媒体12における溶液の流れを安定させて、乱流の発生を確実に防ぐことができる。
この電気泳動装置1を使用して、まず、CaCl溶液を流入口Aから流入させる。流入口Aから流入した溶液中のCaイオンは、陰極Eおよび陽極Fに電圧を印加して形成された電場により、図中の上から下に向かって泳動する。このとき、溶液中のCaイオンが泳動する速度と、下から上に向かう溶液の流れ(向流)の速度とが、ほぼバランスのとれた状態になるように調整する。
このように、濃縮・分離対象であるCaイオンの泳動速度と同程度の速度の逆向きの流れである向流を生じさせることにより、相対的なCaイオンの泳動速度が非常に小さくなるため、10mmという非常に短い長さの泳動路であっても、実際の泳動距離を大きく伸ばすことができる。
そして、泳動するCaイオンは、泳動媒体12に形成された各チャネルを通って下方に流れ、カチオン交換膜Gを自由に通過した後、陰極Eに到達した際に電子を受け取って中性化し、Caが陰極Eに付着する。なお、Caイオンと共に生成された陰イオンのClイオンは、上向きの電場および溶液の流れによって非常に速い速度で陽極Fに向かって泳動する。
このとき、48Caや40Caなど質量が異なる同位体を含む溶液が泳動すると、それぞれの同位体の泳動速度が異なるため、向流の速度をその中間に設定して平均の泳動速度を0にすることにより、泳動速度が遅い同位体を陽極F側に集め、速い同位体を陰極E側に集めることができる。この結果、泳動速度が遅い質量が大きな同位体、即ち、48Caを陽極F側で濃縮して流出口Bから取り出して分離することができる。
なお、本実施の形態においては、塩酸溶液を流入口Cから流入させて流出口Dから流出させて塩酸溶液を循環させている。これは、陰極Eに付着したCaを塩酸溶液に溶かすことにより、Caの付着に伴う陰極Eの導通の悪化を防止することを目的として行われている。
また、泳動媒体12(マルチチャネル電気泳動媒体)としては、上記したように、絶縁体で高い熱伝導率を有しているBN(窒化ホウ素)板が好ましく用いられる。本実施の形態において用いられるBN板の熱伝導率は63[W/(mK)]であり、水や一般の絶縁体のほぼ100倍高い熱伝導率を有している。
2.MCCCE法の基本形態により解決できる課題
本実施の形態に係るMCCCE法は、上記したMCCCE法の基本形態と同様に、極めて高い効率で濃縮・分離を行うことができる。この点について、上記したMCCCE法の基本形態において既に説明した内容と一部重複するが、以下に詳しく説明する。
(1)濃縮・分離・分析の効率化
上記したMCCCE法の基本形態で説明したように、MCCCE法は、泳動路に高い電場を掛けることにより、拡散によるイオンの広がりよりも大きな泳動速度を生じさせて、効率よく、イオンを大量に濃縮・分離・分析することができる。即ち、効率的な濃縮・分離は、泳動路に掛かる電場により生じる泳動速度と関係している。
(a)泳動速度と電場と電力
ここでは、イオンの泳動速度について説明する。前記したように、イオンの泳動速度は、移動度と電場の積で与えられる。そして、塩の溶液ではカチオンとアニオンの移動度と濃度が電気伝導度を与える。例えば、CaCl溶液の場合、Caイオンの移動度は、0.59mm/s/[100V/cm]であり、Clイオンの移動度は、0.77mm/s/[100V/cm]である。
このとき、元素が同じでも例えば40Caと48Caのような同位体の場合には、それぞれのイオンの移動度が小さいながら異なる。通常、電気泳動法では、この移動度の小さな差を利用して同位体の濃縮(分離)を行うが、移動度が小さい場合には、泳動距離の広がりにより同位体を濃縮・分離するために長距離の泳動を必要とする。
(b)拡散
上記したように、電気泳動法による同位体の濃縮効率は、拡散によるイオンの泳動距離の広がりとの関係で決まる。このため、同位体間の泳動距離の差は、拡散による泳動距離の広がりに比較して大きくなることが求められる。
拡散による泳動距離の広がりはガウス関数で求めることができ、この泳動距離の広がりを表す幅(σ)は拡散係数Dと時間を用いて
Figure 0006425958

により算出することができる。この式により求められる水中でのCaイオンの拡散係数は常温で7.9×10−10[m/s]である。このときの泳動距離の広がり(σ)の具体的な値は、例えば、1秒で0.039mmとなり、10000秒で3.9mmとなる。
実際には、上記した拡散によるイオンの泳動距離の広がりの他に、泳動路に生じる乱流や泳動速度の場所依存性などがさらなる拡散を引き起こす恐れがあるため、その影響を無視できない場合が多いが、これらは、原理的には装置の構成を工夫することにより抑制することができる。このため、高い効率で濃縮・分離を行うためには同位体の泳動距離の差がこの拡散によるイオンの泳動距離の広がりの値より充分に大きくなるように、電場と電力の条件を設定する必要がある。
(c)電場と分離効率
上記したように、同位体間の泳動距離の差を短時間で広げることにより、高い効率で濃縮・分離を行うことができる。そこで、本実施の形態においては、電場を高く設定して短時間で同位体間の泳動距離の差を広げることにより有効な濃縮(分離)を行っている。移動度は同位体によって差があり、例えば40Caと48Caの場合の移動度の差
Figure 0006425958

が生み出す泳動距離の差
Figure 0006425958

が、拡散によるイオンの泳動距離の広がりの値より充分大きければ分離が可能になる。即ち、
Figure 0006425958

又は
Figure 0006425958

と表すことができる。これらの式より、電場をn倍強くすれば分離に必要な時間が1/nで短くなることが分かり、また、電場と時間の積で与えられる泳動距離が1/nになることから、装置をコンパクト化できることが分かる。
(2)ジュール熱の発生
しかし前記したように、泳動路でのイオンの移動は電流となるため、電圧との積で与えられる電力に対応するジュール熱が発生する。このジュール熱の発生により、溶液の温度が上昇するため、適切な範囲内に温度を維持できるように除熱する必要がある。
本実施の形態に係る電気泳動装置は、上記したMCCCE法の基本形態と同様に、熱伝導率の高い物質で構成された泳動媒体を用いているため、高い電場に伴って発生するジュール熱を有効に除熱することができる。
(a)電力と放熱
本実施の形態においては、上記したように、63[W/(mK)]という水や一般の絶縁体のほぼ100倍高い熱伝導率を有しているBN板を泳動媒体として用いている。このとき、BN板に形成される泳動路(チャネル)内の温度上昇と、BN板中心の温度上昇とを比較した際に、各チャネル内の温度上昇の方が低くなるように、泳動媒体が構成されていることが好ましい。
ここで、BN板における温度分布は、チャネル内の溶液でジュール熱が一様に発生して、BN板の周りの温度が冷却によって一定に保たれるとの境界条件の下で、熱伝導方程式を解くことにより求めることができる。なお、本実施の形態においては、各チャネルの中心の温度上昇に対して、BN板の中心と周りの温度上昇が1.1倍となるように設定されている。
(b)マルチチャネル領域の冷却
そして、電気泳動装置を安定に作動させるためには、装置内のどの部分においても100度よりも充分に低い温度になっている必要がある。なお、チャネルの直径を細くし、チャネル数を増やせば、泳動路の面積(チャネルの面積×チャネル数)が同じで上限温度も同じになるため、装置全体における効率を増すことができる余地がある。しかし、装置全体における効率の向上は最大でも2倍弱に留まり、一方ではチャネルの直径を細くするために高いレベルの工作精度が要求されるため、得策とは言えず、本実施形態においては上記したMCCCE法の基本形態と同様のサイズに設定している。
以上述べた各条件について適切に制御することにより、極めて高い効率で濃縮・分離を行うことができる。
3.本実施の形態における向流について
前記したように、MCCCE法において高い効率の濃縮・分離を達成するには、イオンの熱運動による速度分散より同位体による移動度の差が生み出すイオンの移動距離が大きくなるようにすることが必要であり、その手段として向流を発生させている。
しかし、これまでのMCCCE法では向流による速度分散が非常に大きくなって、安定的に高い効率で濃縮・分離を行うことができない場合があった。
そこで、本実施の形態においては、速度分散のない向流(一様向流)を用いている。これにより、細いチャネルの中を一様にイオンが泳動することができ、高い効率の濃縮・分離を安定的に達成できる。以下、具体的に説明する。
(1)ハーゲン・ポアズイユ流
向流において速度分散が大きくなるのは、向流が細い泳動路(チャネル)内で層流を形成することに起因している。即ち、細い泳動路を向流が定常的に流れる場合、流れる向流は壁面では流速が0になるという境界条件を満たす層流となる。この層流はハーゲン・ポアズイユ流として知られており、本実施の形態のように円柱状に泳動路が設けられている場合、その中を流れる液体(向流)の速度νは、中心から半径rの2次関数として、
Figure 0006425958

で与えられ、この式より、ハーゲン・ポアズイユ流となった向流は壁面での流速が0で、中心部での流速が最高になるという位置依存性を有していることが分かる。なお、上式において、平均の速度はνであり、中心の速度は2νとなる。また、aは泳動路の半径である。
泳動路を流れる向流がこのような層流になるか否かはレイノルズ数で特徴づけられる。レイノルズ数(Re)は
Figure 0006425958

で与えられる。上記数式中のUは向流の流速、Lは円柱状の泳動路の半径、νは動粘性係数である。本実施の形態において、流速Uを0.6mm/s、半径Lを0.8mmとすると、水の動粘性係数νは1×10−6/sであるため、レイノルズ数は0.5となる。通常、レイノルズ数が2000より小さくなると層流になると言われており、Reが1より小さなMCCCE法では必ず層流(ハーゲン・ポアズイユ流)が生じる。
そして、このようなハーゲン・ポアズイユ流において、速度分布の分散σνは下式により求めることができ、33%もの速度分散を生じることが分かる。
Figure 0006425958
この値は、同位体間の移動度の差による速度差、即ち、泳動するイオンの速度分布の数%に比べてはるかに大きいため、高い効率の濃縮・分離を安定的に達成するためには、この向流の速度分散が充分に抑え込まれた位置依存性のない向流(一様向流)を生じさせる必要があることが分かる。
そして、向流は、本来、乱流であってはいけない。乱流は、前記したように、電場により濃縮・分離したイオンを再び混合された状態に戻してしまう。
(2)一様向流の実現
上記した位置依存性のない向流(一様向流)を生じさせる方法につき、本発明者は、以下に示す2つの方法が好ましく採用できることを見出した。
(a)脈動流の形成
第1の方法は、向流の流れに脈動を追加して脈動流を形成させる方法である。前記したように、ハーゲン・ポアズイユ流は、レイノルズ数が小さく定常的に流れる場合に現れて中心は高速、周りは低速という速度分布を発生させる。そこで、向流の流れに脈動を追加して脈動流を形成させることにより、ハーゲン・ポアズイユ流ではない向流の流れを形成させる。これにより、中心は高速、周りは低速という速度分布が発生せず、位置依存性のない一様な速度分布の向流(一様向流)を生じさせることができる。
このような脈動の追加を最も簡単に実現する手段としては、液送用のチュービングポンプを採用することが好ましい。
本発明者は、チュービングポンプを用いて実験を開始したが、チュービングポンプの使用により濃縮度が3倍と目覚ましい結果が出た段階で、プランジャーポンプに変更した。即ち、流量が安定していると電圧も安定するが、チュービングポンプは、チューブが時間的に変形することによって流量が変化して流量を精度よく再現することが難しいと考えて、流量をデジタルで決定でき精度よく再現することが期待できるプランジャーポンプに変更した。
しかし、プランジャーポンプを用いた場合には、流量と電圧の関係を同じように設定しても、濃縮度に有意差が現れず、有効な濃縮を確認することができなかった。具体的には、プランジャーポンプを使う限り、濃縮度の向上効果はせいぜい10%に留まっており、チュービングポンプの3倍といった値と比較すると効果なしと言わざるを得ない。
流量と電圧の関係を同じように設定して、チュービングポンプやプランジャーポンプを用いても、このように大きな差が生じるということは、チュービングポンプに重要な意味があることを示しており、チュービングポンプにより間欠的な脈動を作ることが重要であることが分かった。
チュービングポンプを用いて脈動流を形成させることにより、位置依存性のない向流(一様向流)が生じる理由としては、チュービングポンプは、中心程速度が速い層流を一挙に送った後は、一旦待つことで均一な流れに変えているためと思われる。
しかし、チュービングポンプを用いる場合であっても、パルス間隔を短くして脈動のスピードを早くして流量を大きくすると、連続的な流れに近づくため、濃縮の効果がなくなる。具体的には、脈動のスピードを2.5倍とすることにより、濃縮の効果がなくなった。
なお、前記したように、チュービングポンプでは、平均の流量と脈動間隔、変動幅を独立に制御できないため、限られた場合にのみ有効な方法として、独立な脈動システムを組み込むことが望ましい。
(b)波打った形状の泳動路
第2の方法は、泳動路に径の大きい部分と小さい部分とを交互に形成させて泳動路自体を波打った形状に形成する方法である。具体的には図3に示すように、泳動媒体14に太さの大きい部分15aと小さい部分15bとが長手方向に交互に反復された泳動路(チャネル)15を形成する。
具体的な一例として、各泳動路を0.8mmと2mmの直径の穴を厚さ2mm毎に交互に5回繰り返すことにより全体で20mm厚のBN板で泳動路を作成し、2mm毎に太さの大きい部分と小さい部分とが長手方向に交互に反復された泳動路を形成する。
なお、この泳動路15の場合、スムーズな流れを作るプランジャーポンプを用いても、1.4倍の濃縮度を得ることができている。
なお、上記した脈動流の形成や波打った形状の泳動路の形成において、脈動流の溶液の平均の流量、脈動間隔、変動幅、および泳動路を波打たせるための太さの大きい部分と小さい部分のそれぞれの太さ、長さは、向流の流速が泳動速度とバランスし、層流が維持され、かつ一様向流が形成されるように濃縮・分離対象の溶液等の物性に応じて適宜決定される。
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。なお、本実施例においては、チュービングポンプを用いて向流を発生させて、48Caの濃縮・分離を行っている。
図1に示した電気泳動装置を用い、溶液にCaCl溶液を用いて、48Caの濃縮・分離を行った。
このとき、MCCCE法の有効性を示すために、キャピラリー電気泳動法(CE)における電場(約100V/cm)を超える電場(120V/cm)を掛けて向流の流速を0.72mm/sに設定した。この流速は流入速度1.5cc/分に相当しており、この液送(流入)をチュービングポンプ(アズワン社製SMP−23AS)を用いて行った。
チュービングポンプによる液送は、ほぼ3秒に1回のパルスで行うため、向流は2.2mm/パルス(0.72mm/s×3秒/パルス)で、脈動流となって進行する。ただし、この流速はチュービングポンプでは正確に測ることが難しいことと、後述する泡の発生の問題があって10%程度の誤差がある。
電極間にかけた電圧の内、10mm厚のBN板の表裏面間にかかる電圧が泳動路中の電場を形成するが、近傍にあるプローブの電圧と簡単な計算で、約80%の電圧がBN板の泳動路にかかっていると推定できる。
なお、本実施例においては、向流の速度は一定に設定しておいて、電場を変化させることで、一定の向流速度に対して電場による移動速度が濃縮度をどう変化させるかを見た。
電圧をかけると電流が発生し、その積の電力がジュール熱として泳動路内に発生する。同じ電場でも溶液の濃度で電流が変化する。ここではCaCl溶液の濃度を0.01N(0.01mol/リットル)とした。例えば、170Vの条件では電流は時間的に変化しているが典型的に200mAであり、BN板中での電力は27W(=170V×80%×200mA)と計算された。これに基づき、BN板中の泳動路の体積が0.34ccであることから電力密度は80W/ccと求められた。
この電力密度は、除熱しなければ1秒で約20度温度上昇するパワーを泳動路に投入可能であることを示している。計算上、各直径0.8mmの泳動路での温度上昇は5.3度で、半径20mmでの温度上昇は6度であることから、全体の温度上昇は11度で、チャネルと呼べる泳動路のサイズとBNの高い熱伝導率で、この温度上昇が充分低く抑えられていることが分かる。
より細い泳動路にして数を増やせば、泳動路での全体の温度上昇がほぼBNの温度上昇で決まるようになり、同じ上限温度で投入できる最大電力を増やすことも可能となる。しかし、この改善の余地は2桁近く改善した後の1.8倍程度であり、敢えて、工作上難しい細い泳動路を多く作ることのメリットは少ない。前記したように、本実施例において発生するジュール熱による温度上昇は10度程度と計算されるので、濃度には5倍程度の余裕があるが、まずは濃縮度の確認が最初に重要なので、安全に温度が制御出来ている濃度で実験を行った。
上記の電気泳動装置を運転するにあたって最大の問題点は、泡の発生にあると言える。電極では泡が発生する。この泡がBN板の泳動路をブロックしてしまうと、向流の速度が変化して、電圧との関係が壊れてしまう。
具体的に、上の陽極Fでは主に塩素にある程度酸素が混じったガスが発生していると考えられるが、これは流出口Bから抜けていくので問題にならない。
一方、下の陰極Eでは水素が主に発生している。これはBN板の泳動路をマスクして有効な泳動路の面積を小さくしてしまうため、解決する必要がある。そこで、イオン交換膜Gを設置し、それに傾きをつけて泡を抜く工夫を施したところ、電極から発生するガス(泡)は解決できた。
しかし、BN板の上下でもガスが発生した。これを解消するためには、溶液に溶け込んでいるガスを真空ポンプで吸引することで対処した。一応の改善が見られたが完全には泡を取ることができなかった。
そこで、ガスを取り去るために装置を横置きしたところ、ガスをBN板の泳動路を塞がない形で抜き取ることができた。しかし、ガスを抜くという目的は達成できたが、横置きにする限り、濃縮の効果を確認することはできなくなった。これは、縦置きにしている限りは重い溶液が下側にあるという条件が常に成り立っているが、横置きにした場合には濃度差あるいは温度差による対流が発生し、濃縮の効果を消してしまったと考えられる。
他にもいろいろガスを取り去るために装置の置き方を試したが、結局うまくいったのは少し傾けるという中間の対策であった。具体的には、傾いたBN板を横から見て、対角線が水平線より傾かないようにした上で、泡がある程度以上に成長すると抜けるように工夫したところ、ある程度電圧と向流速度の関係が安定するようになった。しかし10%程度の変化は避けられなかった。
表1に、1.5cc/mの流量を固定して、電圧を変化させた時に得られた濃縮・分離の結果を示す。なお、濃縮度の評価は、下側のスペースが25ccで上側が44ccの装置を用いて、1時間程度で溜まった溶液の同位体比を測定している。原理的には濃縮度は最初はいずれもほぼ同じ値からスタートして、時間的に濃度が高まっていると考えられる。
なお、ここでは、48Caと43Caの存在比α(48/43)を測定した。装置がどの程度濃縮を達成しているかを評価する性能としては48Caと40Caの比α(48/40)で評価するほうが好ましいが、今回の実験においては、質量分析装置としてICP質量分析器を用いており、イオン源にアルゴンガスを用いる関係で40Arにより40Caがマスクされて、40Caを測定することができない。そこで、48Caと43Caとの濃縮度を用いて48Caと40Caとの濃縮度に変換するために、
文献 Y. Fujii, et al., Zeitschrift fur Naturforschung ection A−A Journal of Physical Sciences, 40, 8 (1985) 843−848
に記載の濃縮度の質量依存性が質量差に比例する関係を示す式
Figure 0006425958

を用いて、求めたα(48/40)の値を表1に示した。なお、A43とA48はそれぞれ計測された43Caと48Caの存在比である。
Figure 0006425958
表1より、電圧と向流の速度がほぼ釣り合った状態で、濃縮度で3倍という大きな値が得られていることが分かった。電圧の依存性も、電場による泳動速度と向流の速度が近い点に最大値が得られており、妥当な結果である。
濃縮度の質量依存性はほぼ比例関係であることが知られているので、40Caと48Caの比に直すと6倍となり、驚くべき大きな値である。厚さ10mmのBN板で1時間程度の時間で得られた濃縮度としては大きな将来性を示している。
なお、ここでは1.5cc/mの結果だけを示しているが、測定は多くの場合について行っている。本来は流量を決めると最適な電圧が決まり、濃縮度もある値になると予想されるが、実際の結果は安定しているとは言えない。これは、上記したチュービングポンプで流量が安定しない問題の他に、泡が一部の泳動路を塞ぐことにより、流速が実質的に10%程度変化することが原因と考えられる。しかし、完全な再現が難しい一方で、良い濃縮度が観測される傾向は一致している。
具体的には、表1に示した170Vでの同位体比(A43/A48)0.201は今までの最高値であるが、その次に高い同位体比(A43/A48)は、表1には示していないが、0.26であり、先の0.201に比べて少し小さいながら、高い濃縮度が得られている。
そして、向流の速度を1.2cc/mに変えた場合では、電圧が150Vで同位体比(A43/A48)0.28が得られており、流速が下がると対応する泳動速度も下がるために電圧が下がり、濃縮度も少し低くなるとの傾向が見えている。なお、これを濃縮度に変換すると、α(48/43)で2.2倍、α(48/40)で3.5倍という値になる。
本発明者は、最近の実験において、20mm厚のBN板での測定において、実験条件の最適化は充分ではないが、210Vで同位体比(A43/A48)0.139を得ている。これはα(48/43)で4.4倍に対応し、α(48/40)では10.6倍に対応する値である。これは本発明者がCaの濃縮として第1段階で目指した値で、それが1時間程度で上記のような小さなサイズの装置を動かすことで達成できたことの意義は非常に大きい。
このように、本発明が提供する技術は対費用効果の高い濃縮・分離技術であり、上記した48Caの濃縮・分離だけでなく、同様に、ガスの化合物はないが基礎研究において大量の濃縮が求められている150Nd(ネオジム)の濃縮・分離にも好ましく適用することができる。また、溶液中で荷電イオンとなるすべての元素や化合物にも適用可能であるため、電気泳動法で分析されている少量元素、分子、高分子の大量濃縮・分離にも適用することができ、さらには、核燃料の濃縮・分離や、放射性廃棄物からの放射性同位元素の選別にも適用することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の原理を用いて、本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
1 電気泳動装置
11 ケース
12、14、105 泳動媒体
13、15、107 泳動路(チャネル)
15a 泳動路の太さの大きい部分
15b 泳動路の太さの小さい部分
101 容器
102 泳動部
103 陽極板
104 陰極板
106 向流発生部
108 マルチチャネル部
109 陽極側撹拌部
110 陰極側撹拌部
A CaCl溶液の流入口
B CaCl溶液の流出口
C 塩酸溶液の流入口
D 塩酸溶液の流出口
E 陰極
F 陽極
G カチオン交換膜
H 冷却水の流路

Claims (7)

  1. 濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、電場が掛けられた泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析する電気泳動装置であって、
    前記泳動路が、30W/mK以上の高熱伝導率の絶縁体中に複数設けられており、
    さらに、前記泳動路中の溶液に、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れを生じさせる向流発生手段が設けられており、
    前記向流発生手段が、チュービングポンプを用いて、前記泳動路中の溶液に、所定の時間、所定の間隔で脈動を与えることにより、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れを生じさせる向流発生手段である
    ことを特徴とする電気泳動装置。
  2. 濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、電場が掛けられた泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析する電気泳動装置であって、
    前記泳動路が、30W/mK以上の高熱伝導率の絶縁体中に複数設けられており、
    さらに、前記泳動路中の溶液に、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れを生じさせる向流発生手段が設けられており
    前記向流発生手段が、前記泳動路に径の大きい部分と小さい部分とを交互に形成させて前記泳動路を波打った形状に形成することにより、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れを生じさせる向流発生手段であることを特徴とする電気泳動装置。
  3. 濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、電場が掛けられた泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析する電気泳動法であって、
    30W/mK以上の高熱伝導率の絶縁体中に複数設けられている前記泳動路に電場を掛けることにより、前記イオンを移動させ、
    前記泳動路中の溶液に、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れを、チュービングポンプを用いることによって生じさせる
    ことを特徴とする電気泳動法。
  4. 濃縮・分離または分析の対象である物質のイオンを、電場が掛けられた泳動路に沿って移動させることにより濃縮・分離または分析する電気泳動法であって、
    30W/mK以上の高熱伝導率の絶縁体中に複数設けられている前記泳動路に電場を掛けることにより、前記イオンを移動させ、
    前記泳動路中の溶液に、前記イオンの泳動速度に対応した速度で、イオンの泳動方向とは逆方向に、一様な速度分布の流れの流れを、前記泳動路が径の大きい部分と小さい部分とを交互に形成させて前記泳動路を波打った形状に形成することによって生じさせる
    ことを特徴とする電気泳動法。
  5. 前記濃縮・分離または分析の対象である物質が同位体元素であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の電気泳動法。
  6. 前記同位体元素が、48Caであることを特徴とする請求項に記載の電気泳動法。
  7. 請求項ないし請求項のいずれか1項に記載の電気泳動法を用いて、対象となる物質のイオンを濃縮・分離または分析することを特徴とする濃縮・分離または分析方法。
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