<第1実施形態>
以下の説明において、「元画像データ」とは、ユーザがコンピュータ上で作成したり、スキャナ等から読み取られたり等して、コンピュータ内に予め記憶されているドキュメント、ベクターデータで表現される画像データ等をいう。また、「印字データ」とは、元画像データに対してRIP処理やハーフトーン処理を行うことで得られる複数の画素の配列により構成されるデータをいう。
なお、以下の説明において、各図には方向関係を明確にするため、Z軸を鉛直方向とし、XY平面を水平面とする座標系を適宜付している。各座標系において、矢印の先端が向く方向を+(プラス)方向とし、逆の方向を−(マイナス)方向とする。
<1−1.画像記録装置の構成>
図1から図5までの図面を適宜用いて、本発明に係る画像記録装置の構成について説明する。図1に、本発明に係る画像記録装置の概略構成を示す。
図1は、本発明に係る画像記録装置1とその周辺機器の概略構成を示す模式図である。画像記録装置1は、長尺シート状の記録媒体7と、記録媒体7を図1中のY方向(すなわち、記録媒体の長手方向であり、以下、適宜「第1方向」と記載する)に移動させる移動機構2と、図1中のX方向(すなわち、記録媒体の第1方向と直交する方向であり、以下、適宜「第2方向」と記載する)に延在し、記録媒体7にインクの微小液滴を吐出するヘッドユニット3と、移動機構2、ヘッドユニット3、およびこれらの構成を制御する制御部9を備える。
移動機構2は、X方向に延在する複数のローラ21を、Y方向に配列して備える。複数のローラ21の(−Y)側には、ロール状に記録媒体7を巻き付けて保持する供給部22が設けられ、複数のローラ21の(+Y)側には、ロール状に記録媒体7を巻き付けて保持する巻取部23が設けられる。
移動機構2の一部のローラ21には記録媒体7のY方向の移動速度を検出するエンコーダ24が設けられ、制御部9がエンコーダ24の出力にもとづいて巻取部23のモータの回転を制御することにより、記録媒体7が(+Y)方向に一定速度にてヘッドユニット3の下を通過するように搬送される。記録媒体7の搬送時には、供給部22が有するモータ(図示省略)により、記録媒体7に対して(−Y)方向の負荷(テンション)を付与することで、複数のローラ21上の記録媒体7が波打つことなく滑らかに移動する。
ヘッドユニット3は、移動機構2に対して図1中の(+Z)側(すなわち、移動機構2の上方)に設けられる。制御部9の制御によって移動機構2が記録媒体7を搬送し、記録媒体7がヘッドユニット3の下の各位置を通過する際に、制御部9が後述の印字データにもとづいて、ヘッドユニット3による記録媒体7へのインクの吐出を制御することにより、記録媒体7上に画像を記録する。
制御部9にはコンピュータ11とディスプレイ13が接続される。コンピュータ11は、制御部9へ元画像データを入力する入力部であり、ディスプレイ13は、制御部9の動作状況等をユーザへ知らせる表示部として機能する。
本実施形態においては、複数のヘッドユニット3が画像記録装置1に設けられる。図1に示すように、複数のヘッドユニット3は、Y方向に4個配列しており、(−Y)側から、C(cyan:シアン)、M(magenta:マゼンタ)、Y(yellow:イエロー)、K(black:ブラック)といった、それぞれ異なる色のインクを記録媒体7へ供給する。
図2は、本実施形態におけるヘッドユニット3の概略構成を示す平面図である。図2に示すように、本実施形態において、ヘッドユニット3は記録媒体7の第2方向(X方向)の全域にわたって延在する、いわゆるフルラインヘッドである。
なお、ヘッドユニット3の構造や画像記録動作は、インクが異なる以外は、それぞれ同様であるため、以降は(+Y)側にあるKインクのヘッドユニット3を代表として説明する。
ヘッドユニット3から供給するインクとしては、染料系インク、顔料系インク、水性インク、油性インク、UV硬化インク、可食インクなど、インクジェット印刷に使用される公知の種々のインクを用いることができる。
記録媒体7としては、例えば普通紙やコート紙等の用紙、ポリエチレンテレフタレート(PET)等を含む樹脂フィルム、またはアルミ板等の金属等、様々な部材を使用することができる。本実施形態では、インクジェット記録に多く用いられる普通紙を用いる。また、記録媒体7の形状としては、本実施形態では長尺シート状としているが、本発明の実施に関してはこれに限られず、枚葉紙を使用することもできる。
また、上記の長尺シートや枚葉紙の他に、医薬品等の錠剤表面を印刷対象として使用することもできる。すなわち、印刷対象は平面に限られない。この場合、インクとしては可食インクが用いられる。
図3は、ヘッドユニット3の構成を示す底面図であり、Y方向を縦向きに図示している。ヘッドユニット3は、複数の記録ヘッド31を配列して備える。複数の記録ヘッド31は、それぞれ千鳥状に配列する。なお、本実施形態では、X方向における記録媒体7の幅と略同一の幅のヘッドユニット3を用いるが、本発明の実施に関してはこれに限られず、第2方向(X方向)において記録媒体7の幅より短い幅のヘッドユニット3を用いることも、第2方向(X方向)において記録媒体7の幅より長い幅のヘッドユニット3を用いることもできる。
図4は、1つの記録ヘッド31の構成を示す底面図であり、Y方向を縦向きに図示している。記録ヘッド31の底面には、複数のノズル330,350が形成されている。また、複数のノズル330,350は、第2方向(X方向)に沿って2列のノズル列を形成する。便宜上、第1方向の下流側((+Y)側)において第2方向に沿って配列する複数のノズル330を「第1吐出部33」と称し、図4において第1吐出部33に含まれるノズル330を以降は「第1吐出口330」と称し、識別の目的で斜線を付して記す。
また、第2方向の上流側((−Y)側)において第2方向に沿って配列する複数のノズル350を「第2吐出部35」と称し、図4において第2吐出部35に含まれるノズル350を以降は「第2吐出口350」と称し、識別の目的で白抜きにして記す。
第1吐出部33と第2吐出部35は、第1方向に第1吐出口330、第2吐出口350が互い違いになるように千鳥状に配置される。なお、1つの記録ヘッド31に形成される複数の第1吐出口330、第2吐出口350の個数は、図4ではそれぞれ9個として示すが、本発明の実施に関してはこれに限られず、記録媒体7の幅や、記録する画像の解像度等の種々の条件に応じて、適宜の数としてよい。
また、第1吐出部33および第2吐出部35において、複数の第1吐出口330、第2吐出口350は、それぞれ第2方向に等間隔に、所定のドット密度に相当する間隔(ピッチ)で配置される。所定のドット密度は、記録媒体7へ記録する画像に必要とされる解像度に依存し、例えば360dpi(dots per inch)や、720dpiのドット密度が用いられる。なお、本実施形態では、720dpiのドット密度を用いる。
なお、上記の第1吐出口330、第2吐出口350の間隔は、本発明の実施に関してはこれに限られず、記録媒体7の幅や、記録する画像の解像度等の種々の条件に応じて、適宜の距離としてよい。
本実施形態において、記録ヘッド31としては、圧電素子によってインクに圧力を与えることで各第1吐出口330、第2吐出口350からインクの微小液滴を吐出する、いわゆるピエゾ方式のヘッドを用いる。
なお、本発明の実施に関してはこれに限られず、他の吐出方式によるインクジェットヘッドを記録ヘッド31として用いてもよい。例えば、インクを急速に加熱して気化させ、その時に発生する気泡の圧力を利用してインクを吐出する、いわゆるサーマル方式のヘッドを用いてもよい。
図5は、制御部9による画像記録装置1の機能構成を示すブロック図である。本実施形態における画像記録装置1の動作には、主に制御部9、コンピュータ11およびディスプレイ13が用いられる。
コンピュータ11としては、元画像データを制御部9へ入力する公知のコンピュータが用いられる。ディスプレイ13としては、制御部9から出力される情報にもとづいて、画像記録装置1の動作状況等を表示する公知のディスプレイが用いられる。
制御部9のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部9は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。
制御部9は、移動機構2の各部である供給部22、エンコーダ24および巻取部23と電気的に接続する。制御部9の動作指令により、巻取部23が記録媒体7を巻き取ることで、記録媒体7の第1方向への移動を制御する。また、エンコーダ24から制御部9に入力された情報をフィードバックし、巻取部23の巻き取り速度を調整する。
また、制御部9は、記録ヘッド31の複数の第1吐出口330および複数の第2吐出口350と電気的に接続する。複数の第1吐出口330および複数の第2吐出口350のそれぞれが、制御部9によって個別に制御される。制御部9は、コンピュータ11から入力される元画像データ、およびエンコーダ24から入力される信号にもとづいて、複数の第1吐出口330および複数の第2吐出口350からのインクの液滴の吐出タイミングを制御する。
制御部9には、白抜き線検出部91およびフィルタ処理部92が設けられている。白抜き線検出部91およびフィルタ処理部92は、制御部9のCPU(図示省略)が所定の処理プログラムを実行することによって実現される機能処理部である。白抜き線検出部91およびフィルタ処理部92の動作内容については、さらに後述する。
次に、上記構成を有する画像記録装置1の画像記録動作について説明する。第1実施形態では、図1から図5により説明される画像記録装置1を用いて、第1方向に搬送される記録媒体7へ画像の記録を行う。まず、記録ヘッド31による基本的な印刷処理について説明する。
制御部9へコンピュータ11から元画像データが入力されると、制御部9は公知のRIP処理、網掛け処理を行うことで、印字データを生成する。そして、この印字データに基いて記録ヘッド31を制御し、記録媒体7へ画像の記録を行う。
図6は、記録ヘッド31による印刷処理を模式的に示す図である。図6において、上段には記録ヘッド31の底面を示し、下段には記録媒体7に記録される画像を示す。また、上段の記録ヘッド31の底面と下段の記録媒体7とを点線にて対応付けて示している。第1吐出口330および第2吐出口350による着弾予定位置を記録媒体7上にそれぞれドット701、ドット702として示し、第1吐出口330および第2吐出口350とそれぞれ第2方向(X方向)に対応するドット701,702を点線で結んで示す。
移動機構2によって一定速度で搬送される記録媒体7に対して記録ヘッド31からインクの液滴を吐出することにより印刷処理が進行する。記録媒体7は、第1方向((+Y)方向)に搬送される。記録ヘッド31の第1吐出口330および第2吐出口350は、一定周期でインクの液滴を吐出する。第1吐出口330および第2吐出口350がインクを吐出することが出来る最短の周期は各吐出口の構造によって規定されおり、それよりも短い間隔でインクの液滴を吐出することはできない。
従って、高速印刷を行うべく、記録媒体7の搬送速度を高めた場合には、最短周期でイ
ンクを吐出したとしても第1吐出口330(または第2吐出口350)のみでは記録媒体7の移動方向である第1方向に沿って連続してインクを着弾させることができず、一定間隔を空けて着弾することとなる(いわゆるインターレース)。
このため、第1吐出口330と第2吐出口350とは最短周期の半周期だけずれたタイミングで交互にインクの液滴を吐出する。このようにすれば、記録媒体7の搬送方向に沿って連続してインクを着弾させることができ、高速印刷が可能となる。図6では、第1吐出口330および第2吐出口350によって、最短周期の半周期だけずれたタイミングで交互にインクの液滴を吐出することで記録媒体7の搬送方向に沿って連続してインクを着弾させた結果、記録媒体7に記録される画像を下段に示している。
図6において、便宜上、第1吐出口330による着弾領域は斜線を付した円701で示し、第2吐出口350による着弾領域は白抜きの円702で示す。そして、以降は、円701を「第1ドット701」と称し、円702を「第2ドット702」と称する。なお、これら第1吐出口330と第2吐出口350から吐出されるインクは、同色のインクである。
ここで、第1吐出口330および第2吐出口350は、一定周期で常にインクの液滴を吐出し続けるものではなく、印刷すべき画像の形状に応じてインクの吐出を停止することもある。例えば、印刷すべき画像に第2方向に沿った白抜き線が存在する場合には、第1吐出口330または第2吐出口350がインクの吐出を一回分休止する。
ところが、一定周期でインクの液滴を吐出し続けるている第1吐出口330(または第2吐出口350)が一回分吐出を休止してから再度吐出を開始すると、その再開時のインクの吐出速度が変化し、記録媒体7上の着弾予定位置からずれた位置にインクの液滴が着弾する現象が生じる。
すなわち、第1吐出口330(または第2吐出口350)が一定周期でインクの液滴を吐出し続けているときには一定速度でインクの液滴が吐出され、第1ドット701(または第2ドット701)は記録媒体7において第1方向に等間隔に記録される。しかし、一回分吐出を休止することによって記録ヘッド31における第1吐出口330(または第2吐出口350)に連通する圧力室の圧力状態に変動が生じると、吐出を再開したときのインクの液滴の吐出速度が変化する。これにより、第1吐出口330(または第2吐出口350)から記録媒体7へ達するまでの時間が変化し、記録媒体7上の着弾予定位置からずれた位置にインクの液滴が着弾するのである。
図7は、吐出再開時にインクの吐出速度が遅くなった場合の画像記録処理を模式的に示す図である。この例では、第1吐出口330および第2吐出口350が一定周期で交互にインクの液滴を吐出した後、第1吐出部33の第1吐出口330が一回分の吐出を休止し、その後再び第1吐出口330および第2吐出口350が一定周期で交互にインクの液滴を吐出して白抜き線SP1を形成する。
すなわち、第2吐出口350が一定周期でインクの液滴を吐出し続けるのに対して、第1吐出口330は一回分の吐出を休止してから吐出を再開する。しかし、一定周期で続けてインクの液滴を吐出し続ける第2吐出口350は同じ吐出速度でインクの吐出を継続するものの、一回分の吐出を休止した第1吐出口330についてはノズル内の圧力変動に起因して吐出再開直後に吐出速度が低下する。
このため、第2吐出口350から吐出されたインクの液滴は目標位置に正確に着弾する一方で、吐出再開直後の第1吐出口330から吐出されたインクの液滴は目標とする着弾位置から第1方向の上流側((−Y)側)にずれて着弾する。
ずれて着弾した着弾位置は、その上流側が、直後に第2吐出口350から吐出されるインクの着弾位置とオーバーラップする位置であり、図7に示すように、ずれて着弾した着弾位置の下流側、すなわち予定されていない位置に白抜き線SP2が形成される。その結果、所望の白抜き線SP1の他に予期しない白抜き線SP2が形成され、白抜き線が二重化される。
このような白抜き線の二重化の課題は、図7において示す、吐出再開時にインクの吐出速度が遅くなった場合の印刷処理に限らず、吐出再開時にインクの吐出速度が速くなった場合においても生じる。なお、典型的には、吐出休止後に吐出を再開した場合には、図7のようにインクの吐出速度が遅くなる傾向がある。
図7に示すように、予定されていない位置に白抜き線が出現して二重化されると印刷結果である画像の品質が低下する。そこで、特許文献4に記載の技術では、白抜き線を形成する直前又は直後のノズルも休止状態とする処理を行うことで、白抜き線の二重化を防止する。
図8は、特許文献4の技術における印刷処理の結果、記録媒体に記録される画像を示す図である。すなわち、印刷すべき画像に第2方向に沿った白抜き線が存在し、第1吐出口330がインクの吐出を一回分休止する。これに伴い、特許文献4の技術では、白抜き線の直前(または直後)の第2吐出口350からのインクの吐出も休止される。図8では、第1吐出口330がインクの吐出を一回分休止することによる白抜き線の第1方向下流側((+Y)側)、すなわち白抜き線に対し、吐出順において直前に相当する第2吐出口350からのインクの吐出を休止する。
これにより、吐出再開時に第1吐出口330から吐出されるインクが着弾して形成される第1ドット701の位置が着弾予定位置よりも第1方向上流側にずれても、第2吐出口350から吐出されるインクが着弾して形成される第2ドット702の位置も一緒に第1方向上流側にずれるため、吐出再開時の第1ドット701と第2ドット702の間に図7のようなすき間(SP2)が生じない。したがって、形成される白抜き線がSP3の1本のみとなり、白抜き線の二重化が防止される。
しかしながら、かかる処理を行うと、白抜き線の目標本数は達成されるものの、目標とする白抜き線よりも実際に得られる白抜き線が太くなるという課題が新たに生じる。すなわち、本来目標とする白抜き線幅はSP1の線幅であるところ、実際に得られる白抜き線幅がSP3として示す白抜き線の線幅となる。特に、図8のように吐出再開時にインクの吐出速度が遅くなる場合には、実質上白抜き線幅が倍以上に太線化する。したがって、白抜き線の二重化は防止できるが、細い線幅を有する白抜き線を実現できないという課題が生じていた。
上記より、本願の第1実施形態では、次の処理動作により白抜き線の二重化を防止しつつ、目標とする白抜き線幅からの線幅の太りを防止することで、画像品質の向上を実現する。
図9は、画像処理装置1における画像記録動作の手順を示すフローチャートである。
画像記録装置1において、画像記録動作が開始されると、まず、画像記録装置1の制御部9は、記録媒体7上に形成すべき画像の元画像データを取得する元画像データ取得工程(S1)を実行する。
第1実施形態では、元画像データは、オンラインで制御部9に接続されたコンピュータ11から供給される。取得された元画像データは制御部9の図示省略する記憶部(例えば、メモリ)に格納される。
なお、本願発明の実施において、元画像データの入力はコンピュータ11からの入力に限られず、CD−ROM等の媒体に記録されているものを制御部9の図示しない読取手段によって読み込むようにしても良いし、制御部9の内部にて新規作成してもよい。
次に、制御部9は、取得した画像データに対してRaster Image Processor(RIP)による処理(以降、単に「RIP処理」と記載する)を行うRIP処理工程(S2)を実行する。
RIP処理は、ベクターデータで表現された元画像データを画像記録装置1の解像度等に応じて記録ヘッド31による記録可能なラスターデータの形式に変換する処理である。また、RIP処理時には、元画像データがC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の各色に分解され、それぞれの色ごとにラスターデータの形式に変換される、いわゆる、分版を行う。
続いて、制御部9は、ラスターデータで表現された元画像データに対して、網掛け処理を行う(S3)。網掛け処理は、ラスターデータから画素の階調値に応じて大きさの異なる網点(ハーフトーンドット)を生成する処理である。CMYKの色ごとにラスターデータの形式に変換された元画像データについて、色ごとに網掛け処理が実行されると、色ごと1bit TIFF等の形式で構成される印字データが生成される。
図10は、RIP処理工程(S2)および網掛け処理工程(S3)により生成される印字データ6を示す図である。これらS2,3工程により生成される印字データ6は、第1方向および第2方向に対応する方向に、それぞれ画素が2画素以上配列する画素の集まりである。
図10中では、第1方向(Y方向)を縦向きに図示しており、後述する印刷工程(S6)では、印字データ6の下側(すなわち、(+Y)側)から、印字データ6にもとづくヘッドユニット3の制御が行われる。また、図10では、第2方向(X方向)を横向きに図示している。
図10中の格子状に区切られた領域1つずつが、印字データ6における画素Dを示しており、それぞれが、X方向およびY方向に対応する座標情報を有している。
Y方向に配列した複数の画素Dは、後述する印刷工程(S6)において、記録媒体7上に1対の第1吐出口330および第2吐出口350から第1方向に一列に記録される画素Dである。ここで、この第1方向に配列した画素Dをまとめて第1方向画素列D1と称す。
X方向に並ぶ複数の第1方向画素列D1は、第2方向において異なる位置に配列する1対の第1吐出口330および第2吐出口350とそれぞれ対応する。後述する印刷工程(S6)では、第1方向画素列D1に含まれる画素Dが、該対応する1対の第1吐出口330および第2吐出口350を制御する。
画素Dは、第1吐出口330および第2吐出口350におけるインクの液滴の吐出、または非吐出を、画素Dの印字情報により制御する。印字情報は、図10において格子内の網掛けの有無により示しており、吐出口からインクの液滴を吐出させる情報である印字画素601を網掛けの有る格子で、吐出口からインクの液滴を吐出させない情報である非印字画素602を網掛けの無い格子で示している。
これらの印字情報は、画素Dの座標情報と組合せた上で、制御部9のメモリ等に記憶される。例えば、座標情報を2次元配列のインデックス、印字情報を配列の値として記憶される。
図10に示す印字データ6は、白抜き線WP1を有する。印字データ6において、第1方向(Y方向)に1画素(1pixcel)分であり、第2方向(X方向)に延びる非印字画素602の配列が、白抜き線WP1である。
図9のフローチャートに戻る。次に、制御部9は、白抜き線の検出処理を行う白抜き線検出工程(S4)を実行する。白抜き線検出工程が開始されると、制御部9の白抜き線検出部91が印字データ6に含まれる白抜き線を検出する。
白抜き線検出部91は、印字データ6上において、記録媒体7の移動方向である第1方向に対応した第1方向画素列D1に含まれる1画素分の非印字画素602が、第2方向に沿って2画素以上連続する領域を、白抜き線として検出する。
なお、第1実施形態では、第1方向に沿って2画素以上連続した領域については検出の対象外とする。すなわち、2画素以上の線幅により構成される白抜き線は、対象外である。
より具体的な検出手順を説明する。制御部9は、記憶部(図示省略)に図11に示すパターン604を予め記憶している。検出パターン604は、Y方向の正側、すなわち第1吐出口330および第2吐出口350による吐出が先に行われる側であって、制御部9によるインクの液滴の吐出制御が行われる側から、その吐出制御が行われる液滴制御順に印字画素601、印字画素601、非印字画素602、印字画素601および印字画素601の順に配列したパターンである。
換言すれば、検出パターン604は、印字画素601が液滴の吐出制御が先に行われる側から2画素連続し、その後、非印字画素602が1画素後続し、そして印字画素601が2画素連続して後続するパターンである。
白抜き線検出部91は、制御部9の記憶部(図示省略)から、検出パターン604を読み出し、印字データ6から、検出パターン604に該当する位置を検出する。
検出工程が開始されると、まず、白抜き線検出部91は、印字データ6に含まれる複数の画素のうち、白抜き線を検出する対象となる検出対象領域を決定する。
複数の記録ヘッド31において、上述の液滴速度変化の度合いは、記録ヘッド31それぞれの製造誤差に起因して異なる。すなわち、複数の記録ヘッド31において、一回分吐出を休止した後の再開時の液滴の吐出速度が、休止前の吐出速度からほとんど変化しない記録ヘッド31と、著しく変化する記録ヘッド31が存在する。
そこで、第1実施形態では、予め複数の記録ヘッド31において、公知のテストパターンなどを用いて再開時の液滴の吐出速度変化の度合い(すなわち、着弾位置ずれの度合い)を検出する。そして、制御部9の記憶部(図示省略)に、予め吐出速度変化の度合いに関する記録ヘッド31の情報が記憶される。
検出工程において、白抜き線検出部91は、当該記憶部から当該情報を読み出し、印字データ6のうち、吐出速度変化が所定値よりも小さく、後述の補正処理を実行しなくても白抜き線の二重化が生じない記録ヘッド31が印字を担当する画素領域を、白抜き線を検出しない検出対象外領域に分類する。一方、白抜き線検出部91は、印字データ6のうち、吐出変化が所定値よりも大きく、後述の補正処理を実行しないまま印刷を実行すると、図7に示すように白抜き線の二重化が生じる記録ヘッド31が印字を担当する画素領域を、白抜き線を検出する検出対象領域に分類する。
以上により、白抜き線検出部91は、印字データ6のうち、白抜き線を検出する検出対象領域を決定する。
なお、第1実施形態では、記録ヘッド31ごとに検出対象領域および検出対象外領域を切替えるが、本発明の実施に関してはこれに限られず、記録ヘッド31の吐出口を第2方向に例えば5個ずつグループ分けし、当該グループごとに検出対象・非対象となる領域を決めてもよい。また、印字データ6の全てを検出対象領域としてもよい。
検出対象領域が決定されると、次に、白抜き線検出部91は当該検出対象領域において検出パターン604の探索を実行する。第1実施形態では、図10に示す印字データ6がすべて検出対象領域とされる。そして、(−X)側から第1方向画素列D1ごとに検出パターン604を有する領域を検出する。
印字データ6において、検出パターン604が検出されると、白抜き線検出部91は、印字データ6における検出パターン604に相当する位置の情報を、座標情報として制御部9の記憶部(図示省略)に記憶する。第1実施形態では、(−X)側から順に、PP(1)、PP(2)、PP(3)、PP(4)、PP(5)、PP(6)、PP(7)が、印字データ6において検出パターン604に相当する画素の配列を有する変更対象パターンPPとして検出される。そして、白抜き線検出部91は、これら変更対象パターンPPにおける非印字画素602の画素Dを、各変更対象パターンPPの代表(すなわち、注目画素)として、その座標情報を制御部9の記憶部(図示省略)に記憶する。
次に、白抜き線検出部91は、検出パターン604により印字データ6の検出対象領域を検出した結果、記憶部に返された注目画素としての非印字画素602の座標を比較することで、白抜き線WP1を検出する。
具体的には、白抜き線検出部91は、記憶部に返された注目画素としての非印字画素602の座標が、第1方向(Y方向)に同じ座標を有し、第2方向(X方向)に連続して3画素以上隣接するか否かを比較する。そして、複数の注目画素の座標が、第1方向に同じ座標を有し、第2方向に連続して3画素以上隣接している領域を、白抜き線(図10では白抜き線WP1)として検出する。
最後に、白抜き線検出部91は、検出された白抜き線に対応する画素Dの座標情報を、制御部9の記憶部(図示省略)に記憶する。
なお、第1実施形態では第2方向に連続して3画素以上隣接する注目画素としての非印字画素602を、白抜き線として検出したが、本発明の実施に関してはこれに限られず、第2方向に連続して2画素以上としてもよいし、第2方向に連続して4画素以上としてもよい。第2方向に連続する画素数が、白抜き線の長さに対応するため、二重化を防止する必要のある線長にあわせて適宜当該画素数を変更してもよい。
次に、制御部9のフィルタ処理部92が、白抜き線検出工程(S4)にて印字データ6から検出された白抜き線WP1を含む変更対象パターンPP(1)ないしPP(7)に対し、フィルタ処理を行って白抜き線を拡張する補正処理工程(S5)を実行する。
図12は、補正処理工程(S5)の内容を示すフローチャートである。第1実施形態における補正処理工程(S5)では、フィルタ処理部92は、2種類のフィルタを用いて補正処理を実行し、白抜き線WP1に対し第1方向上流側または下流側に隣接する印字画素601を非印字画素602に変更する。以下、補正処理工程(S5)にて用いられるフィルタの説明をした後、補正処理工程(S5)における変更領域決定工程(S51)と変更工程(S52)を説明する。
図13および図14に、フィルタ処理部92が用いる第1フィルタ614、第2フィルタ616と、これらフィルタによる補正処理を模式的に示す。
図13における第1フィルタ614は、検出パターン604における非印字画素602よりも第1方向(Y方向)上流側に位置し、記録ヘッド31の液滴吐出順に関しては非印字画素602の直後に記録ヘッド31の吐出を制御する印字画素601を、非印字画素602に変更するフィルタである。
第1フィルタ614は、「1」と「0」の値が5つ配列されたフィルタであり、第1方向上流側に対応する側から順に、1、0、1、1、1と並んで配列する。
検出パターン604に対応する各変更対象パターンPPに対して第1フィルタ614を適用し、フィルタ処理部92が第1フィルタ処理(第1補正処理)を行うと、第1補正後パターン610が生成される。より具体的には、第1フィルタ処理では、変更対象パターンPPにおいて、1画素分の白抜き線WP1に対応する注目画素としての非印字画素602の第1方向上流側の印字画素601の階調値に0をかけ、それ以外の画素の階調値には1を乗じる処理を行う。
0が掛けられた画素の階調値は0となり、非印字画素602となる。1をかけられた画素の階調値は第1フィルタ処理前の値が保持され、印字画素601は印字画素601のまま、非印字画素602は非印字画素602のまま維持される。その結果、図13に示すように、1画素分の非印字画素602が第1方向上流側へ2画素分に拡張された第1補正後パターン610が生成される。換言すれば、補正前に印字画素601であり、液滴吐出順に非印字画素602に後続する画素が、非印字画素602に変更された第1補正後パターン610が得られる。ここで、当該変更された非印字画素602を、適宜「補正後非印字画素603」と称する。
図14における第2フィルタ616は、検出パターン604における非印字画素602よりも第1方向(Y方向)下流側に位置し、記録ヘッド31の液滴吐出順に関しては非印字画素602の直前に記録ヘッド31の吐出を制御する印字画素601を、非印字画素602に変更するフィルタである。
第2フィルタ616は、「1」と「0」の値が5つ配列されたフィルタであり、第1方向上流側に対応する側から順に、1、1、1、0、1と並んで配列する。
検出パターン604に対応する各変更対象パターンPPに対して第2フィルタ616を適用し、フィルタ処理部92が第2フィルタ処理(第2補正処理)を行うと、第2補正後パターン612が生成される。より具体的には、第2フィルタ処理では、変更対象パターンPPにおいて、1画素分の白抜き線WP1に対応する注目画素としての非印字画素602の第1方向下流側の印字画素601の階調値に0をかけ、それ以外の画素の階調値には1を乗じる処理を行う。
第1フィルタ614による第1フィルタ処理と同様に、第2フィルタ処理では、0が掛けられた画素の階調値は0となり、1をかけられた画素の階調値は第2フィルタ処理前の値が保持される。その結果、図14に示すように、1画素分の非印字画素602が第1方向下流側へ2画素分に拡張された第2補正後パターン612が生成される。換言すれば、補正前に印字画素601であり、液滴吐出順に非印字画素602に先行する画素が、非印字画素602に変更された第2補正後パターン612が得られる。ここで、当該変更された非印字画素602を、図13の場合と同様に、適宜「補正後非印字画素603」と称する。
図12のフローチャートに戻る。補正処理工程(S5)では、はじめに、白抜き線に対応する各変更対象パターンPPについて、上記の第1フィルタ614による第1フィルタ処理を行う第1変更領域と、第2フィルタ616による第2フィルタ処理を行う第2変更領域と、を決定する変更領域決定工程(S51)が実行される。
変更領域決定工程(S51)が開始されると、フィルタ処理部92は、制御部9の記憶部(図示省略)から白抜き線としての複数の画素Dの座標情報や、検出パターン604の情報を読み出す。そして、画素Dの座標情報や検出パターン604の情報から、白抜き線に対応する注目画素としての非印字画素602を含む変更対象パターンPPの位置を検出する。
図10の印字データ6の場合には、フィルタ処理部92が白抜き線WP1に対応する非印字画素602から、変更対象パターンPP(1)ないしPP(7)を検出する。
次に、検出された複数の変更対象パターンPPのうち、第1フィルタ処理を行うパターンと、第2フィルタ処理を行うパターンを決定する。第1実施形態では、フィルタ処理部92は、ある白抜き線のうち第2方向(X方向)上流側の非印字画素602から数えて、偶数番目の画素Dに対応する変更対象パターンPP(2n)に対し、第1フィルタ614を乗じて第1フィルタ処理を行うことを決定する。ここで、nは任意の自然数(n:1,2,3,…)である。
また、フィルタ処理部92は、当該白抜き線のうち第2方向(X方向)上流側の非印字画素602から数えて、奇数番目の画素Dに対応する変更対象パターンPP(2n−1)に対し、第2フィルタ616を乗じて第2フィルタ処理を行うことを決定する。
上記を換言すれば、フィルタ処理部92は、当該変更対象パターンPP(2n)を、第1フィルタ処理を行う第1変更領域に決定し、当該変更対象パターンPP(2n−1)を、第2フィルタ処理を行う第2変更領域に決定する。
図10の印字データ6の場合、フィルタ処理部92は、変更対象パターンPP(1)ないしPP(7)のうち、PP(2)、PP(4)およびPP(6)を、第1フィルタ処理を行う第1変更領域として決定する。また、フィルタ処理部92は、変更対象パターンPP(1)ないしPP(7)のうち、PP(1)、PP(3)、PP(5)およびPP(7)を、第2フィルタ処理を行う第2変更領域として決定する。
なお、第1実施形態では第1変更領域および第2変更領域の決定方法として、白抜き線の第2方向上流側からの列順を利用した。上記では、白抜き線において偶数列に相当する変更対象パターンPPを第1変更領域に、奇数列に相当する変更対象パターンPPを第2変更領域に振り分けたが、本発明の実施に関してはこれに限られず、偶数列を第2変更領域とし、奇数列を第1変更領域としてもよい。また、第1実施形態とは異なる第1変更領域と第2変更領域の他の配列に関しては、他の実施形態にて後述する。
図12に戻る。以上により、変更領域決定工程(S51)が実行されると、次に、フィルタ処理部92は、これら第1変更領域および第2変更領域に対し、図13および図14に示す各フィルタ処理を実行して、第1方向に1画素分である白抜き線を2画素分に拡張する変更工程(S52)を行う。
変更工程(S52)が開始されると、フィルタ処理部92は、第1変更領域に対応する変更対象パターンPPに対し、それぞれ第1フィルタ614を適用して第1フィルタ処理を行う(図13参照)。これにより、当該変更対象パターンPPが、それぞれ第1補正後パターン610に変更される。また、フィルタ処理部92は、第2変更領域に対応する変更対象パターンPPに対し、それぞれ第2フィルタ616を適用して第2フィルタ処理を行う(図14参照)。これにより、当該変更対象パターンPPが、それぞれ第2補正後パターン612に変更される。
図15は、図10に示す印字データ6に対し、フィルタ処理部92が上記の変更工程(S52)を実行して得られる補正後印字データ61を示す図である。変更工程(S52)により、白抜き線WP1に加え、新たに白抜き領域WP2が形成される。偶数・奇数番目の変更対象パターンPPに、それぞれ異なるフィルタ処理である第1フィルタ処理または第2フィルタ処理がなされることで、白抜き領域WP2は、白抜き線WP1を挟んで第2方向に交互に配列して形成される。
最後に、変更工程(S52)において、フィルタ処理部92は、補正後印字データ61を、制御部9の記憶部(図示省略)に記録する。
図9のフローチャートに戻る。以上により、補正処理工程(S5)が実行され、補正後印字データ61が得られると、次に、制御部9は、補正後印字データ61を記憶部(図示省略)から読み出し、補正後印字データ61に従って記録媒体7へ印刷処理を行う印刷工程(S6)を実行する。
印刷工程(S6)が開始されると、制御部9が、移動機構2に動作命令を行い、記録媒体7を第1方向へ一定速度で搬送させる。そして、制御部9が、補正後印字データ61に基いて、記録ヘッド31における複数のノズル330,350(第1吐出口330、第2吐出口350)にそれぞれ動作命令を行い、複数のノズル330,350のうち、任意のノズルからインクの液滴を吐出させる。これにより、記録媒体7に補正後印字データ61に基づく画像が記録され、すなわち印刷処理が実行される。
図16に、印刷工程(S6)において、補正後印字データ61に基づいて記録媒体7に記録された画像の模式図を示す。図16の表示の方法は、図8と同様である。
第1実施形態では、印刷工程(S6)の前処理として、記録媒体7に形成すべき画像の白抜き線に対応する、第1方向に1画素分の白抜き線WP1を印字データ6から検出し(S4)、その白抜き線WP1を第1方向に2画素分に拡張している。
したがって、第1または第2フィルタ処理後の補正後印字データ61に基いて、制御部9が記録ヘッド31の吐出を制御すると、第2方向に関し同一の列に液滴の着弾を行う所定の1組の第1吐出口330および第2吐出口350に着目した場合には、第1吐出口330および第2吐出口350が一定周期で交互にインクの液滴を吐出した後、第1吐出口330および第2吐出口350の双方がともに一回分の吐出を休止し、その後再び第1吐出口330および第2吐出口350が一定周期で交互にインクの液滴を吐出することとなる。
換言すれば、第1または第2フィルタ処理前から本来的に吐出を休止して記録媒体7に白抜き線を形成する第1吐出口330に対し、当該白抜き線の第1方向上流側に予定の着弾位置が位置し、吐出を休止する当該第1吐出口330の直後に吐出制御がなされる第2吐出口350のうち、変更領域決定工程(S52)にて第1変更領域として選ばれた画素の吐出制御を行う第2吐出口350からの吐出を休止状態とする。
そして、当該白抜き線の第1方向下流側に予定の着弾位置が位置し、吐出を休止する当該第1吐出口330の直前に吐出制御がなされる第2吐出口のうち、第1方向に当該白抜き線を挟んで第1変更領域として選ばれた画素の制御を行う第2吐出口350と対向しない第2吐出口350からの吐出も休止状態とする。
一回分の吐出を休止した第1吐出口330および第2吐出口350には同様の圧力変動が生じ、吐出再開後に同程度の吐出速度の変化が生じる。このため、吐出再開直後の第1吐出口330および第2吐出口350から吐出されたインクの液滴は目標位置から同程度にずれて記録媒体7に着弾することとなる。
図16において、第1吐出口330および第2吐出口350が一定周期で交互にインクの液滴を吐出した後、第1吐出口330および第2吐出口350の双方がともに一回分の吐出を休止し、その後再び第1吐出口330および第2吐出口350が吐出を再開したときにはインクの吐出速度が遅くなっている。このため、一回分の吐出を休止して吐出を再開した直後の第1吐出口330および第2吐出口350から吐出されたインクの液滴は目標とする着弾位置から同程度に第1方向上流側(−Y側)にずれて着弾することとなる。その結果、図16に示すように、1本の白抜き線SP4のみが形成され、白抜き線の二重化が抑制される。
さらに、図16に示すように、第1実施形態の補正処理工程(S5)により得られた補正後印字データ61に基づくことで、白抜き線を形成するために本来的に吐出を休止する(すなわち、補正処理工程を実行しなくても元々非吐出であった)一回分の第1吐出口330の直前または直後に吐出制御が行われる第2吐出口350の吐出を、第2方向に交互に直前・直後となるように休止した印刷工程(S6)が実行される。
これにより、白抜き線SP4は、図8に示す白抜き線SP3よりも第1方向に幅が狭く視認され、白抜き線の二重化防止にともなう白抜き線の太りを抑制することができる。この理由を以下に述べる。
図8に示すように、白抜き線SP3は、元の印字データでは1画素分であった白抜き線が2画素分に拡張され、さらに吐出再開直後の第1吐出口330および第2吐出口350から吐出されたインクの液滴が目標とする着弾位置から後方にずれて着弾するため、白抜き線が予定よりも太くなることとなる。しかしながら、インクジェット印刷の場合、記録媒体7にてインクのにじみが生じて白抜き線が細くなる傾向にあるが、予定していた白抜き線SP1よりも白抜き線SP3が太くなることは避けられない。
これに対し、図16に示すように、白抜き線SP4は、元の印字データでは1画素分であった白抜き線に対し、吐出制御順に直前または直後の吐出を第2方向に交互に休止する結果、白抜き線SP4が得られる。
白抜き線SP4と、ドット701およびドット702の着弾位置との境界は、第2方向に平坦ではない。しかし、ドット701およびドット702は記録媒体7に着弾した後、記録媒体7上で拡散・流動することにより拡がり(すなわち、インクのにじみが生じ)、これにより、図16中に点線で示すように、ドット701およびドット702が拡がった結果として、記録線の境界703が得られる。
図16に示すように、白抜き線SP4に接するドット702における、第2方向に配列する隙間が、インクのにじみによって埋められることで、白抜き線SP4と記録線の境界703は平坦に近くなり、白抜き線SP4は第2方向に伸びる直線として視認される。
また、インクのにじみによって隙間が埋められることで、白抜き線SP4は、白抜き線SP3(図8参照)よりも第1方向に細く認識される。したがって、従来技術のような、白抜き線の二重化防止にともなう白抜き線の太りを抑制することができる。
以上のように、第1実施形態においては、記録媒体7上に形成すべき画像の印字データ6から白抜き線SP1(図7参照)に対応する1画素分の白抜き線WP1(図10参照)を検出し、その白抜き線WP1に加え、新たに白抜き領域WP2を変更工程(S52)により形成して補正後印字データ61を得る(図15参照)。白抜き領域WP2は、白抜き線WP1を挟んで第2方向に交互に配列して形成され、ある第1方向画素列D1に着目すれば、白抜き線WP1が2画素分に拡張されたともいえる。
そして、補正後印字データ61に従って記録ヘッド31の吐出を制御することにより、第1吐出部33の第1吐出口330および第2吐出部35の第2吐出口350が一定周期で交互にインクの液滴を吐出しているときに、第1吐出口330から液滴を吐出させない吐出休止状態として記録媒体7に白抜き線を形成する直前または直後の第2吐出口350を第2方向に交互に吐出休止状態としている。
これにより、吐出再開直後の第1吐出口330および第2吐出口350から吐出されたインクの液滴が目標位置から同程度にずれて着弾し、白抜き線の二重化を抑制してその視認性を良好にすることができる。また、白抜き線を形成する直前または直後の第2吐出口350を第2方向に交互に吐出休止状態として印刷処理がなされ、インクのにじみを利用してドット702の隙間が埋められることで、白抜き線の太線化を抑制して、所望の太さの白抜き線を実現することができる。その結果、白抜き線を含む画像を高い品質にて印刷することができる。
<第2実施形態>
第1実施形態では、第1変更領域と第2変更領域は第1方向画素列に関し第2方向に1列ごと交互に配列した。しかしながら、本発明の実施に関してはこれに限られず、2列(2画素分の列)ごとに第1変更領域と第2変更領域が交互に配列してもよい。
第2実施形態では、上記のように2列ごとに第1変更領域と第2変更領域が交互に配列する。第2実施形態において、第1実施形態と異なるのは、変更領域決定工程(S51:図12参照)であり、その他は同様であるため、他の工程や装置構成についての説明は、同一の符号を附して適宜省略する。
第2実施形態における、画像処理装置1の画像記録動作の手順を説明する。まず、第1実施形態と同様にS1からS4までの各工程(図9参照)が実行される。
次に、補正処理工程(S5)の変更領域決定工程(S51:図12参照)において、フィルタ処理部92は、ある白抜き線のうち第2方向(X方向)上流側の非印字画素602から数えて、(4n)および(4n−1)番目の変更対象パターンPP(4n)およびPP(4n−1)に対し、第1フィルタ614を乗じて第1フィルタ処理を行うことを決定する。ここで、nは任意の自然数(n:1,2,3,…)である。
また、フィルタ処理部92は、当該白抜き線のうち第2方向(X方向)上流側の非印字画素602から数えて、(4n−2)および(4n−3)番目の画素Dに対応する変更対象パターンPP(4n−2)およびPP(4n−3)に対し、第2フィルタ616を乗じて第2フィルタ処理を行うことを決定する。
上記を換言すれば、フィルタ処理部92は、当該変更対象パターンPP(4n)およびPP(4n−1)を、第1フィルタ処理を行う第1変更領域に決定し、当該変更対象パターンPP(4n−2)およびPP(4n−3)を、第2フィルタ処理を行う第2変更領域に決定する。
図10の印字データ6の場合、フィルタ処理部92は、変更対象パターンPP(1)ないしPP(7)のうち、PP(3)、PP(4)およびPP(7)を、第1フィルタ処理を行う第1変更領域として決定する。また、フィルタ処理部92は、変更対象パターンPP(1)ないしPP(7)のうち、PP(1)、PP(2)、PP(5)およびPP(6)を、第2フィルタ処理を行う第2変更領域として決定する。
図17は、図10に示す印字データ6に対し、フィルタ処理部92が第1実施形態と同様の変更工程(S52)を実行して得られる補正後印字データ62を示す図である。変更工程(S52)により、白抜き線WP1に加え、新たに白抜き領域WP3が形成される。2列ごとの変更対象パターンPPに、それぞれ異なるフィルタ処理である第1フィルタ処理または第2フィルタ処理がなされることで、白抜き領域WP3は、白抜き線WP1を挟んで第2方向に交互に2列ずつ配列して形成される。
最後に、変更工程(S52)において、フィルタ処理部92は、補正後印字データ62を、制御部9の記憶部(図示省略)に記録する。
図9のフローチャートに戻る。以上により、補正処理工程(S5)が実行され、補正後印字データ62が得られると、次に、制御部9は、補正後印字データ62を記憶部(図示省略)から読み出し、補正後印字データ62に従って記録媒体7へ印刷処理を行う印刷工程(S6)を実行する。実行内容は、第1実施形態の印刷工程と同様である。
図18に、第2実施形態の印刷工程(S6)において、補正後印字データ62に基づいて記録媒体7に記録された画像の模式図を示す。図18の表示の方法は、図8と同様である。
第2実施形態では、印刷工程(S6)の前処理として、記録媒体7に形成すべき画像の白抜き線に対応する、第1方向に1画素分の白抜き線WP1を印字データ6から検出し(S4)、その白抜き線WP1を第1方向に2画素分に拡張している。
したがって、第1または第2フィルタ処理後の補正後印字データ62に基いて、制御部9が記録ヘッド31の吐出を制御すると、第2方向に関し同一の列に液滴の着弾を行う所定の1組の第1吐出口330および第2吐出口350に着目した場合には、第1吐出口330および第2吐出口350が一定周期で交互にインクの液滴を吐出した後、第1吐出口330および第2吐出口350の双方がともに一回分の吐出を休止し、その後再び第1吐出口330および第2吐出口350が一定周期で交互にインクの液滴を吐出することとなる。
一回分の吐出を休止した第1吐出口330および第2吐出口350には同様の圧力変動が生じ、吐出再開後に同程度の吐出速度の変化が生じる。このため、吐出再開直後の第1吐出口330および第2吐出口350から吐出されたインクの液滴は目標位置から同程度にずれて記録媒体7に着弾することとなる。
図18において、第1吐出口330および第2吐出口350が一定周期で交互にインクの液滴を吐出した後、第1吐出口330および第2吐出口350の双方がともに一回分の吐出を休止し、その後再び第1吐出口330および第2吐出口350が吐出を再開したときにはインクの吐出速度が遅くなっている。このため、一回分の吐出を休止して吐出を再開した直後の第1吐出口330および第2吐出口350から吐出されたインクの液滴は目標とする着弾位置から同程度に第1方向上流側(−Y側)にずれて着弾することとなる。その結果、図18に示すように、1本の白抜き線SP5のみが形成され、白抜き線の二重化が抑制される。
さらに、図18に示すように、第2実施形態の補正処理工程(S5)により得られた補正後印字データ62に基づくことで、白抜き線を形成するために本来的に吐出を休止する(すなわち、補正処理工程を実行しなくても元々非吐出であった)一回分の第1吐出口330の直前または直後に吐出制御が行われる第2吐出口350の吐出を、第2方向に2列ずつ交互に直前・直後となるように休止した印刷工程(S6)が実行される。
これにより、白抜き線SP5は、図8に示す白抜き線SP3よりも第1方向に幅が狭く視認され、白抜き線の二重化防止にともなう白抜き線の太りを抑制することができる。この理由は、第1実施形態と同様に、ドット702のインクのにじみを利用したものである。
<3.変形例>
<3−1.3列以上間隔の第1および第2変更領域配列>
上記の第2実施形態では、第1変更領域と第2変更領域が2列ずつ配列したが、ドット702のインクのにじみにより、白抜き線の太りが抑制されるように視認されるのであれば、3列以上間隔を開けて配列させてもよい。しかし、間隔が広くなると、インクのにじみによりドット702の隙間が埋められず、白抜き線の太りが抑制されなくなるため、好適には配列間隔は3列以下、より好ましくは1列ずつ配列する構成とされる。
しかしながら、本発明の実施に関してはこれに限られず、第2方向ににじみが強く生じる記録媒体やインクを用いる場合には、3列より多く間隔を開けて配置してもよい。本発明の要諦は、白抜き線の太りの抑制であるから、3列より多い間隔を開けて配置しても、ドット702の隙間が埋められるか、あるいは埋められるように視認されるのであれば、当配列間隔を採用することができる。
<3−2.非周期間隔の第1および第2変更領域配列>
また、第1実施形態および第2実施形態では、第1変更領域と第2変更領域を周期的に配列したが、当該配列が非周期的となる構成としてもよい。周期的に第1変更領域と第2変更領域が配列すると、インクのにじみ特性等によっては、記録媒体7上の白抜き線SP4(図16参照)が波打った形であると視認される新たな課題が生じうる。かかる課題を解決すべく、白抜き線について、1列ずつ第1変更領域と第2変更領域が配列する領域と、2列ずつ第1変更領域と第2変更領域が配列する領域と、を計算機等によりランダムに配置させ、配列の間隔を非周期的にしてもよい。これにより、白抜き線が波打った形状に視認されるのを防止することができる。
なお、配列間隔が3列以下であることが好ましいことを鑑みれば、第1変更領域と第2変更領域との配置は、第1変更領域と第2変更領域が前記第2方向に1画素以上3画素以下の間隔を開けて配置し、第1変更領域および第2変更領域はそれぞれ前記第2方向に1画素以上3画素以下連続して配置することが好ましい。また、インクのにじみにより、確実にドット間の隙間を埋めて白抜き線の太線化を抑制するためには、第1変更領域が、第2方向に1画素の間隔を開けて1画素ずつ配置され、第2変更領域も、第1変更領域と互い違いになるように第2方向に1画素の間隔を開けて1画素ずつ配置される構成とすることが、より好ましい。
<3−3.フィルタ処理以外の変更処理>
第1実施形態および第2実施形態では、変更対象パターンPPへ第1フィルタ614または第2フィルタ616を乗算することで、第1補正後パターン610または第2補正後パターン612に変換した(図13または図14参照)。しかしながら、本発明の実施に関しては、変更対象パターンPPに対する補正処理はフィルタ処理に限られない。
制御部9が、記憶部(図示省略)に予め第1補正後パターン610および第2補正後パターン612を記憶し、白抜き線検出部91により印字データ6から検出され、第1変更領域に決定された変更対象パターンPPを、直接第1補正後パターン610に書き換える処理(換言すれば、パターンの置換処理)を実行する構成としてもよい。すなわち、かかる置換処理を実行する置換処理部が、第1実施形態のフィルタ処理部92に置き換わった構成であるのが、当変形例の制御部9である。このような構成によっても、白抜き線の二重化を防止しつつ、白抜き線の太線化を抑制することができる。
<3−4.RIP処理後網掛け処理前の補正処理工程>
第1実施形態および第2実施形態では、図9に示すようにRIP処理工程(S2)および網掛け処理工程(S3)を実行した後に、白抜き線検出工程(S4)および補正処理工程(S5)を実行した。しかしながら、本発明の実施に関してはこれに限られず、RIP処理工程(S2)を実行した後に、白抜き線検出工程(S4)および補正処理工程(S5)を実行し、その後網掛け処理工程(S3)を実行する構成としてもよい。
本変形例において、RIP処理工程(S2)までの画像記録動作は、第1実施形態と同様に実行される。RIP処理後、網掛け処理前の印字データには、画素ごとに階調値が与えられる。本変形例の場合は、画素ごとに8ビットの階調値が与えられる。
ここで、本変形例では、次に白抜き線検出工程(S4)を行う。
8ビット階調値の場合、黒色文字の場合には、ほとんどの画素が「0」(非印字画素602)または「255」(印字画素601)となるが、「0」「255」以外の値も含まれる。
そこで、本変形例の白抜き線検出部91は、白抜き線検出処理を実行する前に、印字データについて、第1閾値以上の階調値を印字画素601とし、第2閾値以下の階調値を非印字画素602と仮決定する。これにより、図10に示す印字データ6に相当するデータが得られる。ここで、第1閾値は第2閾値よりも大きい値であり、本変形例では、第1閾値として階調値60%に相当する「153」が、第2閾値として10%に相当する「26」が、それぞれ選ばれる。
第1閾値よりも小さく、第2閾値よりも大きい階調値は、いずれの画素(印字画素601または非印字画素602)にも仮決定されず、白抜き線検出部91による検出が行われない画素となる。白抜き線検出部91は、上記仮決定した印字画素601および非印字画素602により構成される領域内で、第1実施形態と同様に検出パターン604(図11参照)に相当する位置を検出する。
続いて、第1実施形態と同様に補正処理工程(S5)が実行され、印字画素601に仮決定された画素のうち、補正対象となった画素が、第1または第2フィルタ処理(図13または図14参照)によって非印字画素602に変更される。
補正処理の後、網掛け処理工程(S3)が実行される。網掛け処理では、まず、白抜き線検出工程(S4)にて仮決定した印字画素601および非印字画素602を、元の階調値に復元する処理を実行する。
この復元処理において、仮決定した印字画素601はすべて元の階調値に復元する。一方で、非印字画素602に関しては、補正処理が行われなかった非印字画素602は元の階調値に復元し、補正処理が行われた結果非印字画素602となった画素(すなわち、補正後非印字画素603)は、階調値「0」とする。
上記のように、対象の画素を元の階調値に復元または階調値を「0」とした後、網掛け処理を行い、印字データを得る。その後、第1実施形態と同様に印刷工程(S6)を実行する。
以上のように、網掛け処理工程前に白抜き線検出工程および補正処理工程を行う構成としてもよい。第1実施形態とは異なる手順でも本発明は実行することができ、ユーザのRIP・網掛け処理の各種都合に合わせて補正処理を行うことができる。
<4.その他>
上記の第1実施形態、第2実施形態および各変形例において、本願発明の主な実施形態を説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上記以外にも種々の変更を行うことが可能である。
上記したそれぞれの実施形態では、記録ヘッド31、第1吐出部33、第1吐出口330、第2吐出部35、第2吐出口350、移動機構2および制御部9が、本願発明の「記録ヘッド」、「第1吐出部」、「第1吐出口」、「第2吐出部」、「第2吐出口」、「移動機構」および「制御部」の一例に相当する。
また、白抜き線検出部91が、本願発明の「白抜き線検出部」の一例に相当し、フィルタ処理部92(第1および第2実施形態等)または置換処理部(変形例3−3)が本願発明の「変更処理部」の一例に相当する。
また、変更対象パターンPPが、本願発明の「第1検出領域」の一例に相当し、印字データ6のうち、白抜き線検出工程(S4)にて印字データ6から検出された白抜き線WP1を含む複数の変更対象パターンPPに相当する領域が「変更対象領域」の一例に相当する。