本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
(第一の実施の形態)
本発明における第一の実施の形態について、図1から図11を用いて説明する。第一の実施の形態における潜像印刷物は、蒲鉾状画線群が全て直線の蒲鉾状画線から成り、加えて潜像画線群を構成する画線が、一種類の非反転画線又は反転画線からなる形態について説明する。
図1(a)に本発明の潜像印刷物(1)を示し、図1(b)には潜像印刷物(1)のA−A’ラインにおける断面図(略図)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に、印刷画像(3)を備える。基材(2)は、印刷画像(3)が形成できれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であっても良く、材質は問わない。また、印刷画像(3)は、透明であっても着色されていても良く、その色彩は問わない。
図2に、印刷画像(3)の構成の概要を示す。印刷画像(3)は、蒲鉾状画線群(4)と、潜像画線群(5)が重なって形成されてなる。印刷画像(3)の積層構造は、蒲鉾状画線群(4)の上に潜像画線群(5)が重なる構造を有してなる。
まず、蒲鉾状画線群(4)について説明する。第一の実施の形態において蒲鉾状画線群(4)は、図3に示すように、直線状の蒲鉾状画線(6)によって万線状に構成されてなる。本発明において、「万線状」とは、直線や曲線、円等の画線方向を有した画線が互いに重なり合わないように任意のピッチで画線方向と直交する方向に一定の規則をもって複数配列されている状態をいう。第一の実施の形態において、第一の画線方向(図中S1方向)を有する直線である蒲鉾状画線(6)は、任意の画線幅(W1)を有して、特定のピッチ(P1)で画線方向と直交する方向である、第二の方向(図中S2方向)に連続して配置されてなる。蒲鉾状画線(6)は、基材(2)面から垂直の高さ方向に一定の盛り上がりを必要とする。盛り上がりのある蒲鉾状画線(6)の表面形状は蒲鉾のようになだらかな曲面で構成されている必要がある。
以上のような構成の蒲鉾状画線群(4)を、印刷画線に盛り上がりを形成できる印刷方式によって形成する。出現する潜像画像に一定の視認性を確保するためには、蒲鉾状画線群(4)の盛り上がり高さは3μm以上が必要であるため、スクリーン印刷や凹版印刷等で形成することが望ましいが、グラビア印刷やフレキソ印刷、凸版印刷等であってもこの程度の画線の盛り上がり高さを形成することは可能である。また、盛り上がりの高さの上限に関しては、特に制限はないが、大量に積載した場合の安定性や耐摩擦性、流通適性等を考慮して1mm以下とする。
また、蒲鉾状画線群(4)は、明暗フリップフロップ性又は、カラーフリップフロップ性を備える必要がある。明暗フリップフロップ性とは、正反射した場合に明度が上昇する特性を指し、カラーフリップフロップ性とは、色相が変化する特性を指す。すなわち、蒲鉾状画線群(4)は、光が入射した場合に、明度や色相が変化することで、色彩が大きく変化する特性を有する必要がある。色彩の変化の大きさが大きければ大きいほど、出現する潜像画像の視認性は高くなる。
前述のような盛り上がりを有する蒲鉾状画線群(4)に明暗フリップフロップ性を付与する方法の一例としては、高光沢なインキ樹脂を用いたり、インキ中に金属顔料を混合したりすることで容易に実現することができる。カラーフリップフロップ性を付与できる機能性材料の一例としては、パール顔料やコレステリック液晶、ガラスフレーク顔料、金属粉顔料や鱗片状金属顔料、OVI(Optical Variable Ink)等が考えられる。
第一の実施の形態では直線状の蒲鉾状画線(6)が複数配置されて蒲鉾状画線群(4)を形成した例で説明するが、これに限定されるわけではない。後記する第三の実施の形態において具体的に説明するが、曲線や円等で構成しても良い。
続いて、潜像画線群(5)について説明する。図4に示すように、潜像画線群(5)は、基準位置(7)(蒲鉾状画線群が直線の場合、基準位置が点でなく、連続した線の場合には基準位置(7)を基準線(7)と呼ぶ)を中心に、非反転画線群(5A)及び反転画線群(5B)に大きく区分けされる。なお、潜像画線群(5)を構成する画線は、全て非反転画線群(5A)又は反転画線群(5B)であるが、特に区別して考える必要がない場合、本明細書においては、単に潜像画線(8)と呼ぶ。
図5に、非反転画線群(5A)及び反転画線群(5B)の構成を示す。非反転画線(8A)及び反転画線(8B)からなる潜像画線(8)は、蒲鉾状画線群(4)と同じ規則性を有して万線状に配置されてなる。その規則性について具体的には、それぞれ同じ画線幅(W1)の蒲鉾状画線群と同じ画線方向(図中S1)を有する非反転画線(8A)及び反転画線(8B)が、蒲鉾状画線群(4)と同じピッチ(P1)、かつ、同じ画線方向(図中S2方向)に連続して配置されてなる。それぞれの非反転画線(8A)及び反転画線(8B)は、隣り合うそれぞれの画線同士でわずかずつ形状が異なる。
それぞれの非反転画線(8A)及び反転画線(8B)には、それぞれ対となる蒲鉾状画線(6)が存在し、それぞれの非反転画線(8A)及び反転画線(8B)と対となる蒲鉾状画線(6)は、その形状が略等しい。適正な位置関係においては、非反転画線(8A)及び反転画線(8B)と対となる蒲鉾状画線(5)は重なり合う(蒲鉾状画線(5)の上に潜像画線(8A、8B)が形成される)。ここでいう非反転画線(8A)及び反転画線(8B)の形状とは、画線自体の形状を指すのではなく、図5に示した画線幅(W1)内に存在している空白部分を含めた形状を指す。
非反転画線(8A)及び反転画線(8B)の作成方法とその構成を説明する。まず、非反転画線(8A)の作製方法及び構造について説明する。図6(f)にある任意の非反転画線(8Ai)の作製方法の一例を示す。まず、潜像画像として出現させたいと作製者が意図する画像を用意する。第一の実施の形態においては、図6(a)に示した曲万線で構成された彩紋を用いる。この画像(9)が非反転画線群(8A)及び反転画線群(8B)における全ての潜像画線の基となるため、基画像(9)と呼ぶ。次に、拡大又は縮小の動画効果の動きの方向の中心となる位置、すなわち動きの基準位置(基準線(7))を図6(a)に示すように設定する。第一の実施の形態においては、動画効果が生じた場合、この基準線(7)を中心として出現した基画像(9)が拡大したり、縮小したりする。
したがって、基画像(9)は、基準線(7)を境に、左側の第1の領域と右側の第2の領域に区分けされ、後述する非反転画線群(8A)と反転画線群(8B)の基となる。
続いて、印刷画像(3)中において基画像(9)を出現させる位置をおおまかに決め、図6(b)のように基画像(9)の下に配される任意の蒲鉾状画線(6Ai)との位置関係を決定する。そして、図6(c)に示すように、画線と平行方向の高さ(L)(Lは基画像(9)の高さよりも大きな値)と、画線と直交する方向の幅(H)のフレーム(10)を設定し、任意の蒲鉾状画線(6Ai)の中心にフレーム(10)の中心を据えて、フレーム内に納まる基画像(9)のみを図6(d)のように取り出す。この取り出された画像は、フレーム内画像(9Ai)と呼ぶ。この取り出したフレーム内画像(9Ai)を蒲鉾状画線(6Ai)の中心に向かって、特定の縮率で一定の幅(W2)に圧縮する(図6(e))。これによって非反転画線(8Ai)の一つができあがる(図6(f))。
図6では任意の一つの蒲鉾状画線(6Ai)に対応した一つの非反転画線(8Ai)の作製方法を示したが、図7に示すように蒲鉾状画線群(4)の中の全ての蒲鉾状画線(6i−10、・・・、6i、・・・、6i+10)について、対となる非反転画線(8Ai-10、・・・、8Ai、・・・、8Ai+10)を作製することで、非反転画線群(5A)を作製することができる。この方法で作製した非反転画線群(5A)には、基画像(9)がそれぞれの蒲鉾状画線(6i)の中心から画線の直交方向に約フレームの幅(H)の距離だけ移動する圧縮された画像が含まれる。
次に、反転画線群(5B)の作製方法及び構造について説明する。図8に反転画線(8Bi)の作製方法の一例を示す。本発明の潜像印刷物(1)においては、非反転画線群(5A)の基画像(9)と反転画線群(5B)の基画像(9)は同じ画像である必要がある。したがって、反転画線群(5B)に対する基画像(9)も図8(a)に示す曲万線の彩紋である。また、印刷画像(3)中の基画像(9)の配置位置も非反転画線群(5A)と反転画線群(5B)とで変更してはならない。第一の実施の形態においては、同じ基画像(9)を、同じ位置に配置して、それぞれ非反転画線群(5A)と反転画線群(5B)を作製する。
まず、図8(b)のように基画像(9)の下に配される任意の蒲鉾状画線(6Bi)との位置関係を決定する。非反転画線(8Ai)の作製に用いたのと同じ大きさのフレーム(10)を任意の蒲鉾状画線(6Bi)の中心に据えて(図8(c))、フレーム(10)の中に納まる基画像(9)のみを図8(d)のように取り出してフレーム内画像(9Bi)とする。この取り出したフレーム内画像(9Bi)を画像の中心を軸にして画線と直交する方向にミラー反転する(図8(e))。この工程の有無が非反転画線(9A)と反転画線(9B)の違いである。このミラー反転したフレーム内画像(9BiR)を蒲鉾状画線(6Bi)の中心に向かって、特定の縮率で一定の幅(W2)に圧縮する(図8(f))。これによって反転画線(8Bi)の一つが完成する(図8(g))。
図8では、任意の一つの蒲鉾状画線(6i)に対応した一つの反転画線(8Bi)の作製方法を示したが、図9に示すように蒲鉾状画線群(4)の中の全ての蒲鉾状画線(6i−10、・・・、6i、・・・、6i+10)について、対となる反転画線(8Bi−10、・・・、8Bi、・・・、8Bi+10)を作製することで、反転画線群(5B)を作製することができる。非反転画線群(5A)と同様に、この方法で作製した反転画線群(5B)にも、基画像(9)がそれぞれの蒲鉾状画線(6i)の中心から画線の直交方向に約フレームの幅(H)の距離だけ移動する圧縮された画像が含まれる。ただし、非反転画線群(5A)とは移動方向が逆である。
以上のように、一つの基画像(9)から二種類の潜像画線(非反転画線(8A)と反転画線(8B))を作り出す。第一の実施の形態においては、基画像(9)の下に蒲鉾状画線(6)が存在する部分に対して基準線(7)との位置関係に応じて全ての潜像画線(8)を作り出す必要があり、フレーム(10)の移動範囲とは、基画像(9)の横幅+フレーム幅Hの範囲となる。取り出したフレーム内画像をミラー反転するか否か(非反転画線(8A)とするか、反転画線(8B)とするか)は、基準線(7)をフレーム(10)の中心が越えたか、越えていないかが基準となる。
非反転画線(8A)と反転画線(8B)の違いは、取り出した画像をミラー反転する工程の有無にある。ミラー反転されることなく作製された非反転画線(8A)の集合である非反転画線群(5A)と、ミラー反転されて作製された反転画線(8B)の集合である反転画線群(5B)とは、基画像(9)が約フレームの幅(H)の距離だけ画線方向と直交する方向に移動するだけの圧縮された画像が含まれるが、その移動方向は正反対であり、画像が出現した場合に動きの方向のみが異なる。
縮率の値は、基画像(9)をどの程度圧縮したかを示す値であり、この値が小さければ小さいほど、一つ一つの潜像画線(8)に含まれる基画像(9)の情報量が多いため、正反射光下で出現する基画像(9)の動きの幅が大きくなる。その一方、この値が小さければ小さいほど再生される基画像(9)は不鮮明になる傾向にあるため、この数値の設定にあたっては動画効果と出現する基画像(9)の鮮明さの両方を考慮して決定する必要がある。この数値は基本的に1より小さい値とすれば、本発明の効果自体は生じる。仮に、一般的なオフセット印刷やフレキソ印刷等によって潜像画像群(5)を形成する場合には、この数値は0.005以上、0.5以下の数値を用いることが望ましい。
非反転画線(8A)の縮率(W2/H)と反転画線(8B)の縮率(W2/H)の値は基本的には同じでも変更しても良いが、基画像(9)をスムーズに拡大又は縮小させたい場合には、一定の規則性を持たせることが望ましい。最も望ましい規則性とは具体的に、それぞれの潜像画線(8)のうち、基準線(7)からの距離の絶対値が等しい非反転画線(8A)と反転画線(8B)の縮率の値を同じ値とすることである。図7と図9の三つの潜像画線(8)の例でいうと、基準線(7)からの距離が最も遠い非反転画線(8Ai−10)と反転画線(8Bi+10)の縮率は同じであることが望ましく、中間の位置にある非反転画線(8Ai)と反転画線(8Bi)の縮率は同じであることが望ましく、最も近い非反転画線(8Ai+10)と反転画線(8Bi−10)の縮率は同じであることが望ましい。また、その場合、基準線(7)に、より近いそれぞれの潜像画線(8)の縮率は大きい値とし、基準線(7)から、より遠い潜像画線(8)の縮率は相対的に小さい値とした場合、拡大する効果においては基準線(7)から離れるに従って基画像(9)がより早く広がる視覚効果が生まれ、縮小する効果においては基準線(7)に近づくに従って基画像(9)がゆっくりと縮む視覚効果が生まれ、拡大縮小の効果をより認識しやすくなるため、望ましい。
仮に、前述の例とは逆に、基準線(7)に、より近いそれぞれの潜像画線(8)の縮率は小さい値とし、基準線(7)から、より遠い潜像画線(8)の縮率は相対的に大きい値とした場合、縮率の値によっては基準線(7)の中心部において非反転画線群(5A)から生じた基画像(9)と反転画線群(5B)から生じた基画像(9)が離れ、間に空間が生じたり、二つの画像が重なり合ったりしてしまう場合があることから、このような構成は、望ましくない。
第一の実施の形態ではW2はいずれも同じ値を有するため、縮率(W2/H)を変えることはフレームの幅(H)の値を変えることと同義である。すなわち、縮率を小さくするためには、基準線(7)から離れるに従ってフレームの幅(H)を大きくすれば良い。
続いて、非反転画線群(5A)と反転画線群(5B)の二つの潜像画線群を重ね合わせて、最終的な潜像を構成する画像となる潜像画線群(5)を作製する。非反転画線群(5A)と反転画線群(5B)をそれぞれの画線同士が重なり合わないように合成することで、潜像画線群(5)が作製できる。第一の実施の形態のような潜像画線群(5)が一種類の画線からなる単純な構成の場合、単に非反転画線群(5A)のうちの最も基準線(7)に近い非反転画線(8An)と、反転画線群(5B)のうちの最も基準線(7)に近い非反転画線(8B1)とを特定のピッチ(P1)で隣り合わせて配置すれば良い。
以上のようにそれぞれの非反転画線(8A)と、反転画線(8B)を作製し、最終的に潜像画線群(5)を作製するには市販の画像処理ソフトを用いれば良い。あるいは、前述の処理をコンピュータ上で行うプログラムを作製して潜像画線群(5)を作製しても良い。
潜像画線群(5)には盛り上がりは必須ではなく、このため、如何なる印刷方式で形成しても良い。生産性を考えれば、オフセット印刷で形成することが最も好ましい。正反射光下で潜像化されていた基画像(9)を可視化するために、潜像画線群(5)は正反射時に蒲鉾状画線群(4)との間に色差が生じる必要があり、少なくとも反射時の色彩が蒲鉾状画線(6)の正反射時の色彩と異なっている必要がある。
また、潜像画線群(5)は、蒲鉾状画線群(4)の上に重ねて形成されるために、潜像画線群(5)の下の蒲鉾状画線群(4)に入射する光を遮断し、正反射光下で生じる蒲鉾状画線群(4)の色彩変化を抑制する働きを成す。したがって、潜像画線群(5)が重なっているか否かによって、蒲鉾状画線群(4)は、正反射時において、色彩に、より大きな違いが生じるため、潜像画像の視認性をより高めるためには、潜像画線群(5)は、高い光遮断性を備えていることが望ましい。
そのため、潜像画線群(5)を印刷で形成する場合には、低光沢なマットインキを用いることが望ましい。また、これらのインキにチタンのような光遮断性の高い機能性材料を配合すると、より高い効果を得ることができる。
さらに、潜像画線群(5)は、拡散反射光下では不可視であることが望ましいことから、無色透明又は半透明程度の色彩であることが望ましい。ただし、印刷工程等における品質管理を容易にするために、わずかに着色顔料を配合してインキを着色したり、透明インキに蛍光顔料を配合したりして、UVランプを用いて脱刷や印刷不良等の異常を管理することもできる。
また、潜像画線群(5)は、版面を用いる印刷機で形成するだけでなく、プリンター等のデジタル印刷機を用いて形成しても良い。また、潜像画線群(5)を、印刷により蒲鉾状画線群(4)の上に形成するのではなく、蒲鉾状画線(6)を切削して蒲鉾状画線(6)自体が潜像画線(8)の形状を有することもできる。このような切削は、レーザー加工機を用いることで容易に実施することができる。レーザーが照射された蒲鉾状画線群(4)は、多くの場合、明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性が失われるか、又は大きく低下するため、逆に本発明においては、潜像画線群(5)に必要となる低光沢な特性を付与することができる。これらのプリンターやレーザー加工機を用いる場合には、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。
本発明の潜像印刷物(1)は、蒲鉾状画線群(4)の上に潜像画線群(5)を重ね合わせて形成するが、この二つの画像の重ね合わせの位置関係について説明する。図10は、蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)の二つの画像の重なり合いの適正な位置関係を示す。潜像印刷物(1)において、蒲鉾状画線群(4)の上に潜像画線群(5)が重なり合う必要がある。最も望ましい位置関係は、図10に示すように、蒲鉾状画線(6)の上にそれぞれ対を成す潜像画線(8)が完全に重なり合った位置関係である。つまり、図10の断面拡大図に示すように、それぞれの蒲鉾状画線(6Bi−1、6Bi、6Bi+1、6i+2)に対してそれぞれ対を成す関係にある潜像画線(8Bi−1、8Bi、8Bi+1、8i+2)がそれぞれ重なり合う関係とする必要がある。
蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)の位置関係については、印刷時の刷り合わせの変動(所謂、印刷時のアバレ)によっては適正な位置関係から外れる可能性がある。このような場合でも、それぞれ対を成す関係の蒲鉾状画線(6)と潜像画線(8)が、少なくとも一部に重なった状態であれば本発明の効果は発揮されるが、基画像(9)の大きさが連続的に変化するのではなく、多くの場合、ある観察角度において突然別の大きさに変わるという問題(以下、この問題を「ジャンプ現象」と呼ぶ)が発生する。このジャンプ現象を解消するための画線構成については、第二の実施の形態で後述する。
続いて、図10の蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)の適正な重なり合いの位置関係で構成された本発明の潜像印刷物(1)の効果について説明する。印刷画像(3)に強い光が入射しない拡散反射光下においては、潜像画像である基画像(9)は不可視であり、単に印刷画像(3)のみが視認できる(図示せず)。一方の正反射光下においては、彩紋を表した基画像(9)が光のコントラストによって出現する。
図11(a)、(b)、(c)に示すように、入射する光に対して潜像印刷物(1)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(3)中の基画像(9)の中心位置は変わらずに大きさが変化する。この例では潜像印刷物(1)を傾け角度が大きくなるに従って、基画像(9)が画線と直交する方向に徐々に広がっているように見える。また、逆に傾ける方向を逆転させることによって、徐々に縮んでいるように見える。一つの基画像(9)が広がったり、縮んだりして見える効果は、従来技術では、なし得なかった効果であり、本発明の最大の特徴である。
以上のような効果が生じる原理について説明する。例えば、図11において、潜像印刷物(1)のA側の方向から光が入射した場合、蒲鉾状画線群(4)を形成している盛り上がりを有する蒲鉾状画線(6)表面のうち、光を強く正反射するのは、それぞれの画線中心からA側にあたる画線表面のみであり、逆に、潜像印刷物(1)のA’側の方向から光が入射した場合、蒲鉾状画線(6)表面のうち、光を強く正反射するのは、それぞれの画線中心からA’側の方向にあたる画線表面のみである。
以上のように、蒲鉾状画線(6)のような、盛り上がりを有する画線が光を反射する場合、入射する光に対して入射光と法線を成す画線表面を中心に光を反射しており、言い換えれば、入射する光の角度に応じて、盛り上がりを有する画線表面のうち、強く光を反射する領域は変化している。
蒲鉾状画線(6)の表面には、それぞれ潜像画線(8)が形成されていることから、蒲鉾状画線(6)が光を強く反射した場合には、その画線上に重ねられた潜像画線(8)と蒲鉾状画線(6)とは異なる色彩に変化し、それまで隠蔽されていた潜像画線(8)が色彩の違いによって可視化される。
この場合、可視化される潜像画線(8)は、蒲鉾状画線(6)のうち光を強く反射した領域に重ねられて形成されていた潜像画線(8)の一部のみであり、それ以外の領域に重ねられて形成されていた潜像画線(8)は隠蔽されたままとなる。このため、光が入射した場合、蒲鉾状画線(6)には、その画線表面の一部にのみ、光を強く反射する領域が形成されるため、この光を強く反射した領域の上に重ねられた潜像画線(8)のみがサンプリングされて可視化される。
この際、サンプリングされる幅、すなわち、それぞれの蒲鉾状画線(6)が光を強く反射する領域の幅が狭い方が、出現する潜像画像は、より基画像(9)に近く、輪郭がシャープで画像全体が明瞭に再現される。
逆に、その幅が広い場合には、より潜像画線群(5)自体に近い画像となり、輪郭がぼやけ、不明瞭な状態で再現されてしまう。この状態を防ぐためには、それぞれの盛り上がりを有する画線が光を強く反射する領域を狭くする必要があり、盛り上がりを有する画線の高さをより高くすることが有効である。
観察者の視点が動いたり、潜像印刷物(1)を傾けたりした場合には、光が入射する角度が変化するために、蒲鉾状画線(6)の表面のうち、光を反射する領域も移動し、それに伴って潜像画線(8)のサンプリングされる領域も移動する。
ここで、蒲鉾状画線(6)上に形成された潜像画線群(5)を構成する潜像画線(8)は、基準線(7)を中心としての非反転画線(8A)と反転画線(8B)とに区分けされている。基画像(9)の一部をミラー反転することなく作製された非反転画線群(5A)と、ミラー反転して作製された反転画線群(5B)とは、それぞれ基画像(9)が約フレームの幅(H)の距離だけ画線方向と直交する方向に移動するだけの圧縮された画像が含まれるが、それぞれの画像情報における移動方向は正反対である。このため、出現した基画像(9)が基準線(7)を中心に画線と直交する方向に、それぞれ逆向きに、かつ、同時に動く効果が生じる。この逆向きに、かつ、同時に動く効果が、基画像(9)が基準線(7)を中心に拡大したり、逆方向に傾けて観察することで縮小したりして見える効果と成っている。
以上が、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像印刷物(1)が光を強く反射した場合に潜像画像として基画像(9)が出現し、傾けて観察することによって基準線(7)を中心に、拡大又は縮小して見える効果が発現する原理である。以上が第一の実施の形態の説明である。
(第二の実施の形態)
続いて、本発明における第二の実施の形態について、図12から図24を用いて説明する。第二の実施の形態における潜像印刷物は、非反転画線群(5A)と反転画線群(5B)は、それぞれ二種類の潜像画線からなる(潜像画線セットである)形態で、蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)の重ね合わせの位置関係が適正な位置からずれたとしても、スムーズで連続的な拡大又は縮小効果が生じる形態について説明する。なお、第二の実施の形態において、「潜像画線セット」とは、第一の実施の形態における1本の潜像画線を、非反転潜像画線と反転潜像画線の2本が1セットとなって一つの画線を構成している状態をいう。
図12(a)に本発明の潜像印刷物(1’)を示し、図12(b)には、潜像印刷物(1’)のA−A’ラインにおける断面図(略図)を示す。潜像印刷物(1’)は、基材(2’)上に、印刷画像(3’)を備える。基材(2’)は、印刷画像(3’)が形成できれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であっても良く、材質は問わない。また、印刷画像(3’)は透明であっても着色されていても良く、その色彩は問わない。
図13に印刷画像(3’)の構成の概要を示す。印刷画像(3’)は、蒲鉾状画線群(4’)と、潜像画線群(5)’が重なって形成されてなる。印刷画像(3’)の積層構造は、蒲鉾状画線群(4’)の上に潜像画線群(5’)が重なる構造を有してなる。
蒲鉾状画線群(4’)については、第一の実施の形態の構成と同様であることから説明を省略し、潜像画線群(5’)について説明する。潜像画線群(5’)は、図14に示すように、基準線(7’)を中心に、第一の潜像画線群(5A’)及び第二の潜像画線群(5B’)に大きく区分けされる。さらに、第一の潜像画線群(5A’)は、第一の非反転画線群(5A−1’)及び第一の反転画線群(5A−2’)から成り、第二の潜像画線群(5B’)は、第二の反転画線群(5B−1’)及び第二の非反転画線群(5B−2’)からなる。すなわち、潜像画線群(5’)は、第一の非反転画線群(5A−1’)及び第二の非反転画線(5B−2’)の二種類の非反転画線群と、第一の反転画線群(5A−2’)及び第二の反転画線群(5B−1’)の二種類の反転画線群からなる。
図15に第一の潜像画線群(5A’)及び第二の潜像画線群(5B’)の構成を示す。第一の潜像画線群(5A’)は、第一の非反転画線群(5A−1’)及び第一の反転画線群(5A−2’)からなる第一の潜像画線セット(8A’)が蒲鉾状画線群(4)と同じ規則性を有して万線状に配置されて成り、第二の潜像画線群(5B’)は、第二の反転画線群(5B−1’)及び第二の非反転画線群(5B−2’)からなる第二の潜像画線セット(8B’)が蒲鉾状画線群(4’)と同じ規則性を有して万線状に配置されてなる。
具体的には、それぞれ同じ画線幅(W2)、かつ、同じ画線方向(図中S1)を有する第一の潜像画線セット(8A’)及び第二の潜像画線セット(8B’)が、蒲鉾状画線群と同じピッチ(P1)で、かつ、同じ画線方向(図中S2方向)に連続して配置されてなる。第一の潜像画線セット(8A’)及び第二の潜像画線セット(8B’)は、隣り合うそれぞれの画線同士でわずかずつ形状が異なる。
第一の潜像画線セット(8A’)及び第二の潜像画線セット(8B’)には、それぞれ対となる蒲鉾状画線(6’)が存在し、それぞれの第一の潜像画線セット(8A’)及び第二の潜像画線セット(8B’)と対となる蒲鉾状画線(6’)と、その形状が略等しい。適正な位置関係において第一の潜像画線セット(8A’)及び第二の潜像画線セット(8B’)と対となる蒲鉾状画線(5’)は、重なり合う。ここでいう第一の潜像画線セット(8A’)及び第二の潜像画線セット(8B’)の形状とは、画線自体の形状を指すのではなく、図15に示した画線幅(W1)内に存在している空白部分を含めた形状を指す。
それぞれの第一の潜像画線セット(8A’)は、第一の非反転画線(8A−1’)及び第一の反転画線(8A−2’)からなる。すなわち、図16に示すように任意の第一の潜像画線セット(8A5’、8A8’、8A10’)とは、第一の非反転画線(8A5−1’、8A8−1’、8A10−1’)及び第一の反転画線(8A5−2’、8A8−2’、8A10−2’)の二種類の異なる画線の組み合わせでなる。
同じく、それぞれの第二の潜像画線セット(8B’)は、第二の反転画線(8B−1’)及び第二の非反転画線(8B−2’)からなる。すなわち、図16に示すように任意の第二の潜像画線セット(8B5’、8B8’、8B10’)とは、第二の反転画線(8B5−1’、8B8−1’、8B10−1’)及び第二の非反転画線(8B5−2’、8B8−2’、8B10−2’)の二種類の異なる画線の組み合わせでなる。第二の実施の形態において、潜像画線群(5’)を構成する4種類の画線(8A−1’、8A−2’、8B−1’、8B−2’)は、いずれも同じ画線幅(W3)で構成されてなる。ここで、W3=W2/2である。
第一の潜像画線セット(8A’)において、一つのピッチ(P1)の中で隣り合った第一の非反転画線(8A−1)と第一の反転画線(8A−2)とは、一対の関係であり、それぞれの画像(画線自体)の関係は、互いの画像をミラー反転した画像と略等しく、結果として第一の潜像画線セット(8A’)は、画線の中心線を基準に左右にシンメトリーな関係に近い画像となる。これは、第二の潜像画線セット(8B’)についても同様である。
ここで第一の非反転画線(8A−1’)は、第一の実施の形態における非反転画線(8A)と作製方法及び構成が同じであり、第二の反転画線(8B−1’)は、第一の実施の形態における反転画線(8B)と作製方法及び構成が同じであるため説明を省略する。以下では、第一の反転画線(8A−2’)と第二の非反転画線(8B−2’)の作製方法と構成について説明する。
まず、第一の反転画線(8A−2’)の作製方法及び構造について説明する。図17にある任意の第一の反転画線(8Ai−2’)の作製方法の一例を示す。図17(a)に示す基画像(9’)と、基画像(9)の出現位置はすでに決定しているため、図17(b)のように基画像(9’)の下に配される任意の蒲鉾状画線(6Ai’)との位置関係を決定する。
そして、図17(c)に示すように、画線と平行方向の高さ(L)(Lは基画像(9)の高さよりも大きな値)と、画線と直交する方向の幅(H)のフレーム(10’)を設定し、任意の蒲鉾状画線(6Ai’)の中心にフレーム(10’)の中心を据えて、フレーム内に納まる基画像(9’)のみを図17(d)のように取り出す。この取り出したフレーム内画像(9Ai’)を画像の中心を軸にして画線と直交する方向にミラー反転する(図17(e))。この工程の有無が第一の反転画線(8A−2’)と第一の非反転画線(8A−1’)との違いである。この反転した画像を蒲鉾状画線(6Ai’)の中心に向かって、特定の縮率で一定の幅(W3)に圧縮する(図17(f))。これによって第一の反転画線(8Ai−2’)の一つができあがる(図17(g))。
図17では、任意の第一の反転画線(8Ai−2’)の作製方法を示したが、図18に示すように蒲鉾状画線群(4’)の中の全ての蒲鉾状画線(6i−10’、・・・、6i’、・・・、6i+10’)について、対となる第一の反転画線(8Ai−10−2’、・・・、8Ai−2’、・・・、8Ai+10−2’)を作製することで、第一の反転画線群(5A−2’)を作製することができる。
次に、第二の非反転画線群(5B−2’)の作製方法及び構造について説明する。図19に第二の非反転画線(8Bi−2’)の作製方法の一例を示す。第一の反転画線(8Ai−2’)の作製に用いたのと同じ大きさのフレーム(10’)を任意の蒲鉾状画線(6Bi’)の中心に据えて(図19(c))、フレーム(10’)の中に納まる基画像(9’)のみを図19(d)のように取り出してフレーム内画像(9Bi’)とする。このフレーム内画像(9Bi’)を蒲鉾状画線(6Bi’)の中心に向かって、特定の縮率で一定の幅(W3)に圧縮する(図19(e))。これによって第二の非反転画線(8Bi−2’)の一つができあがる(図19(f))。
図20では、一つの蒲鉾状画線(6i’)に対応した第二の非反転画線(8Bi−2’)の作製方法を示したが、図20に示すように、蒲鉾状画線群(4’)の中の全ての蒲鉾状画線(6i−10’、・・・、6i’、・・・、6i+10’)について、対となる第二の非反転画線(8Bi−10−2’、・・・、8Bi−2’、・・・、8Bi+10−2’)を作製することで、第二の非反転画線群(5B−2’)を作製することができる。
第一の非反転画線(8A−1’)と第一の反転画線(8A−2’)の違いは、取り出した画像をミラー反転する工程の有無にあり、これは第二の反転画線(8B−1’)と第二の非反転画線(8B−2’)も同様である。
以上のように、第二の実施の形態では、一つの基画像(9’)から四種類の潜像画線(第一の非反転画線(8A−1’)、第一の反転画線(8A−2’)、第二の反転画線(8B−1’)及び第二の非反転画線(8B−2’))を作製する。第一の実施の形態同様に、基画像(9’)の下に蒲鉾状画線(6’)が存在する部分に対して実施する必要があり、基画像(9’)の下に存在する1本の蒲鉾状画線(6’)に対して第一の実施の形態では非反転型か反転型のいずれか一方の潜像画線(非反転画線(8A)、反転画線(8B))を作製したが、第二の実施の形態では、非反転型と反転型で組み合わせ順が異なる二種類のペア画線(第一の非反転画線(8A−1’)と第一の反転画線(8A−2’)か、又は第二の反転画線(8B−1’)と第二の非反転画線(8B−2’))を、それぞれセットで作製する必要がある。
同じ蒲鉾状画線(6’)に対して、その蒲鉾状画線の中心に、潜像画線(8’)を作成するためのフレームを当て嵌めてから作製した第一の非反転画線(8A−1’)と第一の反転画線(8A−2’)は、一対のペアとして隣接させる。二つの画線の隙間は設けないか、可能な限り小さくすることが望ましい。これによって一つの第一の潜像画線セット(8A)が完成する。この作業を繰り返し、全ての第一の潜像画線セット(8A’)を作製し、蒲鉾状画線(6’)の配置ピッチと同じ特定のピッチ(P1)で連続して配置して第一の潜像画線群(5A’)が完成する。同じ作業を第二の反転画線(8B−1’)と第二の非反転画線(8B−2’)に対しても行い、第二の潜像画線セット(8B’)を作製し、同様に連続して配置することで第二の潜像画線群(5B’)が完成する。
ここで重要な点として、第一の潜像画線セット(8A’)と第二の潜像画線セット(8B’)では、基準線(7’)との位置関係に応じて、それぞれのセットの中における非反転画線と反転画線の配置を調整する必要がある。図16で説明すると、第一の画線セット(8A’)において、基準線(7’)に遠い側に第一の非反転画線(8A−1’)を配置し、近い側に第一の反転画線(8A−2’)を配置したのであれば、第二の潜像画線セット(8B’)でも基準線(7’)に近い側に第二の反転画線(8B−1’)を配置し、遠い側に第二の非反転画線(8B−2’)を配置する必要がある。
また、逆に第一の潜像画線セット(8A’)において、基準線(7’)に近い側に第一の非反転画線(8A−1’)を配置し、遠い側に第一の反転画線(8A−2’)を配置したのであれば、第二の潜像画線セット(8B’)でも基準線(7’)に遠い側に第二の反転画線(8B−1’)を配置し、近い側に第二の非反転画線(8B−2’)を配置する必要がある。
すなわち、潜像画線群(5’)を構成するそれぞれの潜像画線は、それぞれ対を成す蒲鉾状画線(6’)の中心を軸として、基準線(7’)に遠い側にそれぞれの非反転画線(8A−1’、8B−2’)を配置し、かつ、基準線(7’)に近い側にそれぞれの反転画線(8A−2’、8B−1’)を配置するか、又は基準線(7’)に近い側にそれぞれの非反転画線(8A−1’、8B−2’)を配置し、かつ、基準線(7’)に遠い側にそれぞれの反転画線(8A−2’、8B−1’)を配置する必要がある。
次に、第一の潜像画線群(5A’)と第二の潜像画線群(5B’)の二つの潜像画線群を重ね合わせて、最終的な潜像を構成する画像となる潜像画線群(5’)を作製する。第一の潜像画線群(5A’)と第二の潜像画線群(5B’)をそれぞれの画線同士が重なり合わないように合成することで、潜像画線群(5’)が作製できる。第一の潜像画線群(5A’)のうちの最も基準線(7’)に近い第一の潜像画線セット(8An’)と、第二の潜像画線群(5B’)のうちの最も基準線(7’)に近い第二の潜像画線セット(8B1’)とを特定のピッチ(P1)で隣り合わせて配置し、潜像画線群(5’)が完成する。
以上のように、潜像画線群(5)は、第一の潜像画線群(5A’)と第二の潜像画線群(5B)が組み合わさって成り、潜像画線群(5’)は、二種類の非反転画線(8A−1’,8B−2’)と、二種類の反転画線(8A−2’、8B−1’)の四種類の画線からなる。すなわち、潜像画線群(5’)を構成するそれぞれの潜像画線(8)の中には、画線と直交する特定の方向に基画像(9’)が拡大する情報と、画線と直交する特定の方向と逆の方向に基画像(9’)が縮小する情報とが同時に備わっている。縮率、潜像画線群(5’)に求められる光学特性、形成方法等については、第一の実施の形態と同じであり、説明を省略する。
蒲鉾状画線群(4’)と潜像画線群(5’)の重ね合わせの位置関係について説明する。図21は、蒲鉾状画線群(4’)と潜像画線群(5’)の二つの画像の重なり合いの適正な位置関係を示す。潜像印刷物(1’)において、蒲鉾状画線群(4’)の上に潜像画線群(5’)が重なり合う必要がある。最も望ましい位置関係は、図21に示すように、それぞれ対を成す蒲鉾状画線群(4’)の上に潜像画線群(5’)が完全に重なり合った位置関係である。つまり、図21の断面拡大図に示すように、それぞれの蒲鉾状画線(6Bi−1’、6Bi’、6Bi+1’、6i+2’)に対してそれぞれ対を成す関係にある潜像画線(8Bi−1’、8B’、8Bi+1’、8Bi+2’)がそれぞれ重なり合う関係とする必要がある。
続いて、図21の蒲鉾状画線群(4’)と潜像画線群(5’)の適正な重なり合いの位置関係で構成された本発明の潜像印刷物(1’)の効果について説明する。印刷画像(3’)に強い光が入射しない拡散反射光下においては、潜像画像である基画像(9’)は不可視であり、単に印刷画像(3’)のみが視認できる(図示せず)。一方の正反射光下においては、彩紋を表した基画像(9’)が光のコントラストによって出現する。
図22(a)、(b)、(c)に示すように、入射する光に対して潜像印刷物(1’)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(3’)中の基画像(9’)の中心位置は変わらずに大きさが変化する。この例では図22(a)の状態から潜像印刷物(1’)を傾けるに従って、図22(b)のように基画像(9’)が基準線(7’)を中心に画線と直交する方向に徐々に拡大して見える。また、その状態から図22(c)のようにそのまま同じ方向により深く傾けて観察すると、基画像(9’)が図22(b)の状態とは逆方向に徐々に縮んで見える。以上のように、第二の実施の形態では、傾きの方向を変化させるのではなく、単に傾きの角度を深くするだけで、出現した基画像(9’)が拡大したのち特定の観察角度から逆に縮小したり、縮小したのち特定の観察角度から逆に拡大したりするといった特殊な視覚効果が生じる。
これは、潜像画線群(5’)を構成する潜像画線が、それぞれ別々の方向へ動く非反転画線(8A−1’,8B−2’)と反転画線(8A−2’,8B−1’)の組み合わせで構成されているために生じる効果である。潜像印刷物(1’)の傾ける方向が一定の方向であるにもかかわらず、基画像(9’)の動きの方向が反転する効果は、第一の実施の形態のような一つの潜像画線を一方向へ動く一種類の潜像画線で構成していた形態では、なし得ない効果であり、一つの潜像画線を別々の方向に動く二種類の潜像画線で構成する第二の実施の形態における潜像印刷物(1’)の効果の特徴である。
このような、単に傾きの角度を深くするだけで出現した基画像(9’)が拡大したのち特定の観察角度から逆に縮小する効果(以下、この効果を「拡大縮小逆転効果」と呼ぶ)は、一つの方向にのみ基画像(9’)が動く効果と比較すると、観察者の興味を惹きやすく、偽造も難しいため、より望ましい効果であると言える。
この「拡大縮小逆転効果」が生じる原理について説明する。第二の実施の形態における潜像画像(5’)は、全て潜像画線セット(8A’、8B’)によって構成されている。そして、全ての潜像画線セット(8A’、8B’)は、非反転潜像画線(8A−1’,8B−2’)と反転潜像画線(8A−2’、8B−1’)の組合せによって構成されてなる。そして、全ての蒲鉾状画線(6’)の上には、対となる潜像画線セット(8A’、8B’)が重ね合わさってなる。すなわち、全ての蒲鉾状画線(6’)の上には、画線と直交する特定の方向に基画像(9’)が拡大する情報と、画線と直交する特定の方向と逆の方向に基画像(9’)が縮小する情報とが同時に備わっている。
このことから、蒲鉾状画線(6’)に光が入射して蒲鉾状画線(6’)の上に形成された潜像画線セット(8A’、8B’)の、どの部分がサンプリングされるかによって出現する基画像(9)が拡大されるのか、逆に縮小されるのかが変化する。
ここで、図21に示したように、一つの蒲鉾状画線(6’)に対して、蒲鉾状画線(6’)の盛り上がりの頂点を分岐線として、基準線(7’)に近い側(A辺側)の斜面に第二の反転画線(8B−1’)が重なり、基準線(7’)に遠い側(A’辺側)の斜面に第二の非反転画線(8B−2’)が重なっている位置関係を例とする。
この位置関係の場合、A辺側から光が入射した場合には第二の反転画線(8B−1’)がサンプリングされる。第二の反転画線(8B−1’)のA辺側には基画像(9’)が基準線(7’)側に最も近づいた(縮んだ)状態の情報があり、第二の反転画線(8B−1’)の盛り上がりの頂点側には基画像(9’)が基準線(7’)から最も離れた(拡大した)状態の情報がある。このため、図22(a)から図22(b)にかけて潜像印刷物(1’)に対する観察角度を深くしたように、傾き角度を大きくすることによって蒲鉾状画線(6’)の光の反射面は、A辺側から徐々に盛り上がりの頂点側に移動し、同時にサンプリングされる第二の反転画線(8B−1’)の画像情報も、A辺側から盛り上がりの頂点側へと移動する。そのため、サンプリングされて出現する基画像(9’)は、まず縮んだ状態であり、そこから徐々に拡大された状態へと変化して見える。以上のように、A辺側から光が入射し、そこから傾き角度を大きく変化させた場合には出現した基画像(9’)が拡大される効果を生じる。
また、その状態から潜像印刷物(1’)の傾きをより大きく変化させた場合(図22(c))、蒲鉾状画線(6’)の光の反射面は、A辺側から盛り上がりの頂点まで達する。この段階でサンプリングされる情報は、第二の反転画線(8B−1’)の画像情報から第二の非反転画線(8B−2’)の画像情報へと切り替わる。第二の非反転画線(8B−2’)の盛り上がりの頂点側には基画像(9’)が基準線(7’)側から最も離れた(拡大した)状態の情報があり、第二の非反転画線(8B−2’)のA’辺側には基画像(9’)が基準線(7’)に最も近づいた(縮んだ)状態の情報がある。
このため、図22(b)から図22(c)にかけて潜像印刷物(1’)に対する観察角度を深くしたように、傾き角度を大きくすることによって蒲鉾状画線(6’)の光の反射面は、盛り上がりの頂点から徐々にA’辺側に移動し、同時にサンプリングされる第二の反転画線(8B−1’)の画像情報も盛り上がりの頂点側からA’辺側へと移動する。そのため、盛り上がりの頂点からA’辺側へと反射面が移動し、サンプリングされて出現する基画像(9’)は、まず拡大された状態であり、そこから徐々に縮小された状態へと変化して見える。以上のように、より一層、傾き角度を大きく変化させた場合には出現した基画像(9’)が縮小される効果を生じる。以上の原理によって、第二の実施の形態における「拡大縮小逆転効果」が生じる。
第二の実施の形態における拡大縮小逆転効果は、単にユニークな視覚効果や偽造抵抗力を高めるためだけに付与するものではない。この効果を得るための構成とは、蒲鉾状画線群(4’)と潜像画線群(5’)の刷り合わせが適正な位置からずれてしまった場合に生じる「ジャンプ現象」を抑制し、拡大や縮小の効果を必ず連続的にスムーズな動きの中で生じさせることをもう一つの大きな目的としている。以下に具体的に説明する。
第一の実施の形態でも触れたが、蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)の位置関係が適正な状態から外れた場合、「ジャンプ現象」と呼ばれる、基画像(9)の大きさが突然大きく変わる現象が発生する。第一の実施の形態を例にとれば、仮に図23に示すように、図10の適正な蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)の位置関係から、1ピッチの半分(P1/2)だけ刷り合わせがずれてしまった場合、それぞれ対を成す蒲鉾状画線(6)と潜像画線(8)が重なり合わず、一つの蒲鉾状画線(6)に二つの異なる反転画線(8B)が重なってしまう位置関係となる。
それぞれの反転画線(8B)の画像情報は、基準線(7)から遠い側には、基画像(9)が基準線(7)に最も近づいた(縮んだ)状態の情報があり、基準線(7)から近い側には、基画像(9)が基準線(7)から最も離れた(拡大した)状態の情報がある。図23の蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)の位置関係では、蒲鉾状画線(6)の盛り上がりの頂点で、一つの反転画線(8Bi)から隣接した反転画線(8Bi+1)が切り替わる構造を有しているため、潜像印刷物(1)を傾けて蒲鉾状画線(6)の盛り上がり近傍の情報がサンプリングされた場合、再生される基画像(9)の画像情報は、最も縮んだ状態から最も拡大された状態か、又は最も拡大された状態から最も縮んだ状態へと、基画像(9)の大きさが一気に変化する。この状態の変化は不連続であり、これによって本発明の効果である連続的でスムーズな拡大又は縮小効果が失われ、観察者に違和感を生じさせてしまう。これが「ジャンプ現象」であり、蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)の刷り合わせズレがその発生の原因である。
第二の実施の形態においては、この「ジャンプ現象」は生じない。その理由を以下に説明する。図24に示すように、図21に示した適正な蒲鉾状画線群(4’)と潜像画線群(5’)の位置関係から、1ピッチの半分(P1/2)だけ刷り合わせがずれた場合、図23で示した第一の実施の形態の例と同様に、それぞれ対を成す蒲鉾状画線(6’)と潜像画線(8B’)が重なり合わず、一つの蒲鉾状画線(6’)に二つの異なる潜像画線(8B’)が重なる位置関係となる。ここで第二の実施の形態におけるそれぞれの潜像画線は、必ずそれぞれ逆方向に動く画像情報がペアとなっている。
第一の実施の形態の潜像画線の構成では、一つの潜像画線の両端の画像情報は基画像(9)が最も縮んだ状態と最も拡大した状態の二つの極端に異なる情報であり、そのため隣り合った二つの潜像画線の切り替わり部分がサンプリングされることで、最も縮んだ状態から最も拡大した状態へ(あるいは最も拡大した状態から、最も縮んだ状態へ)と一気に変化する「ジャンプ現象」が生じていた。
一方、第二の実施の形態の潜像画線(8’)の中の画像情報は、最も縮んだ状態から最も拡大した状態へ変化する情報と、最も拡大した状態から最も縮んだ状態へと変化する情報の二種類の異なる情報のセットからなるか、又は最も拡大した状態から最も縮んだ状態へ変化する情報と、最も縮んだ状態から最も拡大した状態へと変化する情報の二種類の異なる情報のセットからなる。このため、第二の実施の形態の潜像画線(8’)の中の画像情報の両端の画像情報とは、両端とも最も縮んだ状態の情報であるか、あるいは最も拡大した状態の情報となる。そのため隣り合った二つの潜像画線の切り替わり部分がサンプリングされた場合でも、最も縮んだ状態から最も縮んだ状態へ(あるいは最も拡大した状態から最も拡大した状態へ)と同じ状態を保つだけであり、「ジャンプ現象」が生じず、連続した「拡大縮小逆転効果」が担保される。
例として図24の蒲鉾状画線群(4’)と潜像画線群(5’)の位置関係で本発明の潜像印刷物(1’)を構成した場合の効果を図25に示す。光源から光が直接潜像印刷物(1’)に入射しない拡散反射光下では潜像画像である基画像(9’)は不可視であり、単に印刷画像(3’)のみが視認できる(図示せず)。一方の正反射光下においては、彩紋を表した基画像(9’)が光のコントラストによって出現する。
図25(a)、(b)、(c)に示すように、入射する光に対して潜像印刷物(1’)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(3’)中の基画像(9’)の中心位置は変わらずに大きさが変化する。この例では図25(a)の状態から潜像印刷物(1’)を傾けるに従って、図25(b)のように基画像(9’)が基準線(7’)を中心に画線と直交する方向に徐々に縮小して見える。また、その状態から図25(c)のようにより深く傾けて観察すると、基画像(9’)が図25(b)の状態とは逆方向に徐々に拡大して見える。以上のように、図21で示した刷り合わせが適正な位置関係であった場合の効果(図22)とは傾けた場合の拡大又は縮小の関係が逆転しているものの、刷り合わせがずれた場合でも「ジャンプ現象」は生じず、連続してスムーズな「拡大縮小逆転効果」が生じていることがわかる。
以上の理由から第二の実施の形態の構成においては蒲鉾状画線群(4’)と潜像画線群(5’)の位置関係に関係なく「ジャンプ現象」が生じず、「拡大縮小逆転効果」が必ず担保できる。実際に潜像印刷物(1’)を製造することを考えると、蒲鉾状画線群(4’)と潜像画線群(5’)は、それぞれ別々の印刷方式で形成される場合が多く、この二つの画線群の刷り合わせを完全に一致させることは容易ではない。この対策として、蒲鉾状画線群(4’)と潜像画線群(5’)の位置関係にずれが生じても必ず「拡大縮小逆転効果」を担保できるよう、第二の実施の形態の構成を用いて本発明の潜像印刷物(1’)の構成を適用することは、製造難度を下げるうえで大きな意味がある。
(第三の実施の形態)
続いて、第三の実施の形態として蒲鉾状画線群(4’’)が直線でなるのではなく、曲線や直線等を含んだ画線によって構成され、かつ、第二の実施の形態と同様に「拡大縮小逆転効果」が生じる例について説明する。
図26に、本発明の潜像印刷物(1’’)を示し、図26(b)には潜像印刷物(1’’)のA−A’ラインにおける断面図を示す。潜像印刷物(1’’)は、基材(2’’)上に、印刷画像(3’’)を備える。基材(2’’)は、印刷画像(3’’)が形成できれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であっても良く、材質は問わない。また、印刷画像(3’’)は透明であっても着色されていても良く、その色彩は問わない。
図27に印刷画像(3’’)の構成の概要を示す。印刷画像(3’’)は、蒲鉾状画線群(4’’)と、潜像画線群(5’’)が重なって形成されてなる。印刷画像(3’’)の積層構造は、蒲鉾状画線群(4’’)の上に潜像画線群(5’’)が重なる構造を有してなる。
まず、蒲鉾状画線群(4’’)について説明する。蒲鉾状画線群(4’’)は、図28に示すように、直径が異なり、それぞれ形状が相似な同心円の形態を有する複数の蒲鉾状画線(6’’)が、万線状に構成されてなる。第三の実施の形態において、画線方向が変化する円である蒲鉾状画線(6’’)は、任意の画線幅(W1)を有して、特定のピッチ(P1)で画線方向と直交する方向に連続して配置されてなる。第三の実施の形態における基準位置(7’’)は円心とする。
なお、第三の実施の形態で言う「画線方向」及び「画線方向と直交する方向」について説明する。画線が直線である場合、図29(a)に示すように画線方向は完全に固定された一つの方向のみとなり、その方向は画線自体と一致し、画線方向と直交する方向は、画線と90度で交わる方向となる。一方、図29(b)に示すように画線が曲線である場合、画線方向とはそれぞれの地点で連続的に変化する。すなわち、それぞれの地点における曲線の接線方向が画線方向となり、画線方向と直交する方向とは、それぞれの地点における曲線の法線方向(画線上のある点から直角に外側に向かう方向)となる。
図30に一例として、画線方向が異なる蒲鉾状画線(6’’)によって構成された蒲鉾状画線群(4’’)の一例を示す。これらは、それぞれの蒲鉾状画線(6’’)が相似な形状を有し、画線方向と直交する方向に対して同じピッチ(P1)で連続して配置することで形成できる。
また、図31に示すのは、画線方向が異なる蒲鉾状画線(6’’)によって構成された蒲鉾状画線群(4’’)の一例を示す。これらはそれぞれの蒲鉾状画線(6’’)が相似でない、非相似な形状を有し、この場合には画線方向と直交する方向に対してピッチを変えて連続して配置することで形成できる。このように、直線以外の相似形状及び非相似形状の蒲鉾状画線(6’’)によって蒲鉾状画線群(4’’)を構成することが第三の実施の形態の潜像印刷物(1’’)の最大の特徴である。
なお、それぞれの蒲鉾状画線(6’’)を互いに非相似形状で形成する場合、隣り合う位置関係にある蒲鉾状画線(6’’)同士は、蒲鉾状画線群(4’’)に含まれる全ての蒲鉾状画線(6’’)の形状の中でも最も似た形状を有することが望ましい。この理由は、本発明においては、非相似形状である複数の蒲鉾状画線(6’’)を用いて蒲鉾状画線群(4’’)を形成するため、蒲鉾状画線群(4’’)中にはそれぞれ全く形状の異なる非相似形状の蒲鉾状画線(6’’)が含まれ得るが、それぞれ隣り合う蒲鉾状画線(6’’)同士の形状が著しく異なると、潜像画線群(5’’)の刷り合わせがわずかでもずれた場合、基画像(9’’)に歪が生じやすく、基画像(9’’)が不明瞭な形で再生される場合がある。そのため、基画像(9’’)を可能な限り歪のない、明瞭な形で再生するために、少なくとも隣り合った蒲鉾状画線(6’)同士は非相似形状であっても、可能な限り形状を似せることが望ましい。
なお、それぞれの蒲鉾状画線(6’’)を互いに非相似形状で形成する場合、それぞれの蒲鉾状画線(6’’)は形状が異なるため、当然のことながら画線方向や画線幅、それぞれの蒲鉾状画線(6’’)間のピッチも異なる。ただし、一つの蒲鉾状画線群(4’’)の中に含まれるそれぞれの蒲鉾状画線(6’’)の画線幅のうち、最も大きい画線幅を持つ蒲鉾状画線(6’’)の画線幅と、最も小さい画線幅を持つ蒲鉾状画線(6’’)の画線幅の倍率が2倍以下であることが望ましく、また同様に一つの蒲鉾状画線群(4’’)の中に含まれる各蒲鉾状画線(6’’)間のピッチは、最も大きいピッチと最も小さいピッチの倍率が2倍以下であることが望ましい。
これは、前述した以上の画線幅の差やピッチの差があると、潜像画線群(5’’)を重ねた場合に出現する基画像(9’’)が、部分的に解像度が低下したり、濃淡に強弱が生じたりするためであり、基画像(9’’)を画像全体として違和感なく再生するために満たした方が良い条件である。また画線幅は、一つの蒲鉾状画線(6’’)の中でも太くしたり、細くしたり、自在に変化させて良い。
蒲鉾状画線(6’’)は、動画効果の認証性を高めるために、画線方向が連続的に変化する曲線を少なくとも一部に含む構成を有する。その場合の曲線は、画線角度にして少なくとも10度以上変化するものが望ましく、30度以上変化することがより望ましい。10度未満の角度変化では、従来の直線で蒲鉾状の画線が構成された印刷物と比較して、効果の面で顕著な差異が生じないためである。動画効果を高める上で、最も効果的な蒲鉾状画線(4’’)の構成は、第二の実施の形態で示した360度のあらゆる画線方向を有した円を一部に有した構成である。
図32に潜像画線群(5’’)の概要を示す。第三の実施の形態の潜像印刷物(1’’)における潜像画線群(5’’)は、蒲鉾状画線群(4’’)と同じ規則性を有して万線状に配置されている。この同じ規則性について具体的には、蒲鉾状画線群(4’’)と同様に、円の形状を有し、画線幅(W2)の潜像画線(8’’)を蒲鉾状画線群(4’’)と同じピッチ(P1)で画線方向と直交する方向に連続して配置してなる。
また、第三の実施の形態の潜像印刷物(1’’)においては、「拡大縮小逆転効果」を実現する上で第二の実施の形態のように四種類の非反転画線(8A’’)と反転画線(8B’’)を作製する必要はなく、第一の実施の形態同様に単に二種類の非反転画線と反転画線を作製すれば良い。これは、第三の実施の形態の蒲鉾状画線(4’)が閉じた円形状を有することに起因する。この場合、それぞれの蒲鉾状画線(6’’)において、蒲鉾状画線(6’’)の画線中心から基準位置(7’’)に近い側と、遠い側とに分けて、非反転画線(8A’’)か、反転画線(8B’’)を配置することで、第二の実施の形態と同様な基準位置(7’’)を対称に非反転画線(8A’’)と反転画線(8B’’)とが向かい合わせた構成となるためである。
図33に、潜像画線群(5’’)におけるそれぞれの非反転画線(8A’’)か、反転画線(8B’’)の配置図を示す。それぞれの潜像画線は、非反転画線(8A’’)及び反転画線(8B’’)を蒲鉾状画線(6’’)の中心に対して向かい合わせで配置する構成となる。
第三の実施の形態のように、蒲鉾状画線(6’’)が直線でなく、円や曲線である場合の非反転画線(8A’’)の作製方法の一例について説明する。まず、図34(a)に示すように、これまでの実施の形態と同様に基画像(9’’)を設定し、印刷画像(3’’)中に配置する。ここから、任意の蒲鉾状画線(6i’’)と対となる非反転画線(8Ai’’)を作製する。蒲鉾状画線(6i’’)の中心線から基準位置(7’’)に向かう方向とは逆方向にHの距離だけ大きな円(6fi’’)と蒲鉾状画線(6i’’)の中心線の間に入る基画像(9’’)を取り出す(図35(d))。この取り出した画像(9Ai’’)をフレーム内画像(9Ai’’)とし、この画像を図34(e)に示すように蒲鉾状画線(6i’’)の中心線に向かって画線幅がW3になるように圧縮し、非反転画線(8Ai’’)が完成する。これが任意の蒲鉾状画線(6i’’)と対となる非反転画線(8A’’)の作製方法である。
続いて、任意の蒲鉾状画線(6i’’)と対となる反転画線(8Bi’’)の作製方法の一例について説明する。非反転画線(8Ai)と同様の手順で任意の蒲鉾状画線(6i’’)の中心線から基準位置(7’’)に向かう方向にフレームの幅(H)の距離だけ小さな円(6fi’’)と蒲鉾状画線(6i’’)の中心線の間に入る基画像(9’’)を取り出す(図35(d))。
この取り出した画像(9Ai’’)をフレーム内画像(9Ai’’)とし、この画像を図35(e)に示すように蒲鉾状画線(6i’’)の中心線に向かってミラー反転する。このミラー反転した画像(9BiR’’)を図35(f)に示すように蒲鉾状画線(6i’’)の中心線に向かって画線幅がW3になるように圧縮し、反転画線(8Bi’’)が完成する。これが任意の蒲鉾状画線(6i’’)と対となる反転画線(8B’’)の作製方法である。
前述の非反転画線(8Ai’’)と反転画線(8Bi’’)の作製の手順を全ての蒲鉾状画線(6i’’)に対して繰り返すことで、全ての非反転画線(8Ai’’)と反転画線(8Bi’’)が完成する。それぞれの非反転画線(8Ai’’)と反転画線(8Bi’’)を嵌め合わせることで潜像画線群(5’’)が完成する。
第三の実施の形態においては、第一の実施の形態や第二の実施の形態と異なり、非反転画線(8Ai’’)と反転画線(8Bi’’)を形成するためのフレーム内画像(9Ai’’、9Bi’’)を、非反転画線(8Ai)については、蒲鉾状画線(6i’’)の中心線から外側に、反転画線(8Bi)については、蒲鉾状画線(6i’’)の中心線から内側に、それぞれ異なる領域に対して設定した。
これは、第三の実施の形態における基準位置(7’’)が蒲鉾状画線群(4’’)円心であるため、同じフレーム内画像を用いて非反転画線(8Ai’’)と反転画線(8Bi’’)を形成した場合、それぞれの画線が重なるため、非反転画線(8Ai’’)と反転画線(8Bi’’)を最終的に重なり合わないように合成するために、いずれかの画像か、又は両方の画像を拡大又は縮小をして配置する必要があり、その手間を省くための一つの手法であって、この手順に限定されるわけではない。第一の実施の形態や第二の実施の形態と同じように、同じフレームを設定し、それぞれ得られた画像を反転させない非反転画線と反転させた反転画線を作製し、最終的に二つの画像に対して拡大又は縮小を行って重なり合わないように配置しても良い。
以上の手順で作製した潜像画線群(5’’)を蒲鉾状画線群(4’’)の上に重ね合わせて形成する。任意の蒲鉾状画線(6i’’)の上に対となる潜像画線(8i’’)が重なり合う図36に示す位置関係となるのが適正な位置関係である。また、第三の実施の形態は、一つの蒲鉾状画線(6’’)の上に非反転画線(8A’’)と反転画線(8B’’)の二つの異なる種類の画線が構成される形態であるため、任意の蒲鉾状画線(6i’’)の上に対となる潜像画線(8i’’)が完全に一致して重なり合わなかったとしても、「ジャンプ現象」が生じず、「拡大縮小逆転効果」を担保することができる。
続いて、図37に、第三の実施の形態の効果を示す。印刷画像(3’’)に強い光が入射しない拡散反射光下においては、潜像画像である基画像(9’’)は不可視であり、単に印刷画像(3’’)のみが視認できる(図37(a))。一方の正反射光下においては、基画像(9’’)である彩紋が光のコントラストによって出現する。図37(b)、(c)、(d)、(e)の例においては、光は潜像印刷物(1’’)の充分な距離のある位置から潜像印刷物(1’’)の印刷画像(3’’)表面に対して垂直に落射していると仮定する。
図37(b)、(c)、(d)、(e)に示すように、入射する光に対して潜像印刷物(1’’)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(3’’)中の基画像(9’’)の形状が変化し、基画像(9’’)がそれぞれの位置の蒲鉾状画線群(4’’)の基準位置(7’’)を中心として拡大したり、縮小したりしているように観察される。また、その傾ける方向によって、その拡大又は縮小する形状が異なるという効果が生じる。
具体的には、図37(c)や図37(e)に示すように、第二の方向(S2方向)に傾けた場合には、基画像(9’’)は、主として第二の方向(S2方向)に拡大又は縮小する変化は大きい一方で、第一の方向(S1)方向に対する変化は小さい。逆に図37(b)や図37(d)に示すように、第一方向(S1方向)に傾けた場合には、基画像(9’’)は、主として第一の方向(S1方向)に拡大又は縮小する変化は大きい一方で、第二の方向(S2)方向に対する変化は小さくなる。
これは、傾ける方向に応じて蒲鉾状画線群(4’’)の正反射する画線表面が移動する割合が相対的に大きくなることに起因する。以上のように、直線で形成された蒲鉾状画線群(4’’)と異なり、第三の実施の形態のように円や曲線で形成した場合、出現する基画像(9’’)の拡大又は縮小の効果は一定方向に限定されるのではなく、それぞれの画線と直交する全ての方向に対して生じることが確認できる。
最後に第三の実施の形態の潜像印刷物(1’’)の特徴の一つである、正反射光下で出現する基画像(9’’)の拡大又は縮小の効果について、従来の技術との違いを具体的に説明する。図38に第三の実施の形態の潜像印刷物の拡大又は縮小の効果を示す。第三の実施の形態においては、基画像(9’’)の拡大効果は、画線設計上、基準位置(7’’)(円心)を中心に円心方向の逆方向へと全体が拡大する。
一方で、引用文献1に記載の従来の技術の場合、図39(a)、(b)に示すように正反射光下で出現する基画像(9’’)は、画線と直交する方向に画像全体が水平移動する。また、引用文献2及び引用文献3に記載の従来の技術の場合、図39(c)、(d)に示すように本発明の基画像(9’’)と同様に形状が変化するものの、基画像(9’’)のある領域は大きくなり、別の領域は縮小するという効果となり、本発明のような画像全体が拡大したり、縮小したりする効果とは異なり、基画像(9’’)がやや不明確な形状となってしまう。以上のように、基準位置(7’’)を中心に画像全体が拡大したり、縮小したりする効果は本発明の潜像印刷物(1’’)の独自の特徴である。以上が第三の実施の形態の説明である。
本発明を実施するための形態において、基画像(9)として彩紋を例にして説明したが、これに限定される必要はなく、文字の他に記号、図柄、図柄などでも形成可能である。
また、本発明を実施するための形態において、印刷画像(3)中に基画像(9)を一つだけ配置した例について説明したが、同時に異なる基画像(9B)を同じ印刷画像(3)内に配置しても良い。この場合、一方の基画像(9A)が拡大した場合に、もう一方の異なる基画像(9B)は縮小するといった拡大縮小の効果を逆の関係とすれば、その拡大縮小の効果がより一層引き立つため、望ましい。
さらに、本発明を実施するための形態において、基画像(9)を拡大又は縮小する効果のみで構成したが、従来の技術と組み合わせて印刷画像(3)中の一部の画像には本発明の拡大又は縮小の効果を、その他の一部には従来の技術の画像全体が画線と直交する一つの方向に移動する効果を付与する等、別々の視覚効果を一つの印刷画像(3)の中に付与しても良い。このような構成は、デザイナーによっては印刷画像(3)中の画像の動きのデザインの自由度が大きく広がるとともに、観察者にとっては、その効果が認識し易くなるため、より望ましい。
なお、本明細書中で言う正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。
(潜像印刷物の作製方法及び作製用ソフトウェア)
次に、本発明の実施の形態による潜像印刷物(1)における潜像画線群(5)の作製に用いられる装置について、その構成を示した図40を用いて説明する。この作製装置は、入力部101、処理部102、記憶部103及び出力部104を備えている。入力部101は、本発明の実施の形態の潜像印刷物(1)の作製に必要なデータを入力し、処理部102に与える。処理部102は、与えられたデータを記憶部103に格納するとともに、潜像印刷物(1)の作製に必要な演算処理及び画像処理等を行い、得られた結果を出力部104に与える。出力部104は、処理部102から与えられたデータを、外部の、例えば、図示されてない印刷機等に出力する。
このような作製装置を用いて本潜像印刷物(1)における潜像画線群(5)を作製する方法について、その手順を示した図41を用いて説明する。
なお、以下の説明では、前述した本発明の潜像印刷物(1)である曲線状の画線群について説明するが、画線群が直線状であってもそのまま適用可能である。また、取り扱う全ての画像データについては、複数の画素により構成されるものとして記載するが、必ずしも画素により構成される必要は無く、画素を持たず連続直線や連続曲線等のベクトル情報で構成された画像であっても良い。
また、以下の説明では、基画像(9)及び蒲鉾状画線群画像(15)及び潜像画線群画像(16)という画像データを使用する。基画像(9)は、実施の形態で記載した通り、潜像画像として出現させたいと作製者が意図する画像のことである。また、蒲鉾状画線群画像(15)は、潜像印刷物(1)上の蒲鉾状画線群(4)の元になる画像データのことであり、潜像画線群画像(16)は、潜像印刷物(1)上の潜像画線群(5)の元になる画像データのことである。
元になる画像データとは、即ち、蒲鉾状画線群画像(15)により作製した印刷版面を用いて印刷を実施する等の手段により、潜像印刷物(1)上の蒲鉾状画線群(4)の形成が可能であり、また、潜像画線群画像(16)により作製した印刷版面を用いて印刷を実施する等の手段により、潜像印刷物(1)上の潜像画線群(5)の形成が可能であるという意味である。さらに、以下の説明では、画像データ内の画線に対しても、潜像印刷物(1)上の各種画線と同じ名称を用いる。
さらに、以下の説明では取り扱う全ての画像データについて、画像内に二つの直行する座標軸を定めるものとし、図43に示すように画像の左下を原点として右向きの軸をx軸、上向きの軸をy軸とそれぞれ定める。このとき、取り扱う全ての画像データについて、各画像内の任意の位置をx成分及びy成分から成る座標を用いて表すことが可能であることから、以下の説明では取り扱う全ての画像データにおいて前記座標を統一的に用いるものとする。よって例えば、異なる画像データにおいて同一の座標を持つ位置同士を「同じ位置」と表現する。
まずステップS11として、蒲鉾状画線群画像(15)に関する画像データを作製する。具体的には、所定の画線幅の蒲鉾状画線(6)を複数配列した蒲鉾状画線群(4)から成る蒲鉾状画線群画像(15)を画像データとして処理部102が作製するか、又はあらかじめ作製した蒲鉾状画線群画像(15)を外部から画像データとして入力部101より入力し処理部102を介して、記憶部103に格納する。
次に、記憶部103に格納された蒲鉾状画線群画像(15)に対して、処理部102においてステップS21の基画像圧縮情報生成を行うことにより、基画像圧縮情報(13)を得る。基画像圧縮情報(13)は、ステップS313の基画像圧縮処理工程において、基画像(9)を圧縮することにより潜像画線群(5)を得る際に、基画像(9)をどの方向に圧縮するか等の圧縮方向に関する情報を持つ。得られた基画像圧縮情報(13)は、記憶部103に格納する。
次に、ステップS12として、基画像(9)を画像データとして処理部102が作製するか、又は外部からあらかじめ作製された画像データとして入力部101より入力し、処理部102を介して記憶部103に格納する。この工程は、ステップS31の潜像画線群形成工程よりも前に実施する。
ステップS31として、記憶部103に格納された基画像(9)及び基画像圧縮情報(13)及び基準位置(7)を用いて、処理部102において潜像画線群形成処理を行う。潜像画線群形成処理により得られた画像は、潜像画線群(5)を含む画像であり、この画像を前述の通り潜像画線群画像(16)と呼ぶ。本ステップで得られた潜像画線群画像(16)は、記憶部103に格納する。
ここでいう基準位置(7)とは、実施の形態で記載した基準位置(7)のことであり、基準位置(7)が点状であれば1つの座標点により、線状の場合は座標上の関数又は座標点の集合により表現可能である。基準位置(7)は、潜像画線の作製者が任意に定めるものであるが、例えば、あらかじめ定めた固定の座標点又は線であっても良く、また、例えば蒲鉾状画線群画像(15)の中心位置のように、蒲鉾状画線群画像(15)又は基画像(9)の内容から一意に導出可能な座標点又は線であっても良い。
最後にステップS41として、記憶部103に格納された潜像画線群画像(16)を、処理部102を介して出力部104へ与えて、潜像画線群(5)を蒲鉾状画線群(4)上に形成するか、あるいは潜像画線群(5)を蒲鉾状画線群(4)上に形成するために必要な、潜像画線群(5)の印刷版面を出力する。
ステップS21の基画像圧縮情報生成処理工程において、蒲鉾状画線群画像(15)から基画像圧縮情報(13)を得る処理方法について、図42を用いて更に詳細に説明する。
ステップS21の基画像圧縮情報生成処理工程では、最初に記憶部103に格納された蒲鉾状画線群(4)を構成する複数の蒲鉾状画線(6)に対し、ステップS211の中心線抽出処理により、各蒲鉾状画線(6)から中心線(14)を抽出して記憶部103に格納する。
ここで蒲鉾状画線(6)の中心線(14)及び中心線抽出処理について説明する。ここでいう画線の中心線(14)とは、画線に対して細線化処理を施すか、又は画線の輪郭からの距離が極大となるような位置の集合を抽出することにより、得られる線のことである。中心線(14)を得るためのこれらの処理方法は、いずれも一般的な画像処理手法であり、例えば、以下の文献において処理方法が詳細に記載されている。この処理を行うことによって、例えば図44(a)で示す蒲鉾状画線群画像(15)から、図44(b)に示す中心線(14)を抽出することができる。
田村秀行 著、コンピュータ画像処理、オーム社出版局、2002年発行
村上伸一 著、画像処理工学 第2版、東京電機大学出版局、2004年発行
以下では、図44(b)に示すような、黒色の画素により構成される中心線(14)を含む独立した画像を生成するものとして説明を行い、この画像を中心線画像と呼ぶが、中心線の形状を表す情報さえ保持できれば独立した中心線画像は必須では無い。例えば、蒲鉾状画線群画像(15)内に中心線(14)の形状情報を記録しても良く、あるいは、前述の通り定められた座標における関数として中心線(14)の形状情報を保持しても良い。
次にステップS212再近傍中心線位置取得処理工程では、処理部102において自動で定めた複数の位置(F1、F2、…、Fn(nは任意の自然数))の集合である再近傍中心位置取得位置(F)について、記憶部103に格納された中心線(14)のうち最も近い位置を計算により求める。
処理部102が再近傍中心位置取得位置(F)の各位置(F1、F2、…、Fn)を自動で定める方法は任意であるが、図45(a)で示すように、記憶部103に格納されている蒲鉾状画線群画像(15)内の全画素の各中心位置を再近傍中心位置取得位置(F)とすることが通常である。もしも図45(b)で示すF1、F2、…、Fn’(n’はnよりも小さい任意の自然数)のように間隔が広くなるような各位置の定め方をした場合は、図45(a)で示すように、F1、F2、…、Fnを定めた場合と比べて、処理部102による必要計算量が減少して処理速度が向上するかわりに、後工程のステップS31の潜像画線群形成処理における圧縮方向及び圧縮率の計算誤差が大きくなり、最終的に得られる潜像画線群(5)の形状に影響を与える。
また、再近傍中心位置取得位置(F)を自動で定めるに際しては、後工程のステップS31潜像画線群形成処理工程内のステップS313基画像圧縮処理工程において、圧縮処理を行うことが分かっている領域のみにF1、F2、…、Fnを置くことによって、無駄な計算を省略することが可能である。例えば、後述するように、本作製方法によって生成する潜像画線群(5)における潜像画線(8)の画線形状を、蒲鉾状画線(6)の画線形状と一致するように定めるものとすると、蒲鉾状画線(6)外の位置に対して圧縮処理を行う必要が無くなるため、図46に示すように、蒲鉾状画線(6)上のみにF1、F2、…、Fnを定めても良い。
F1、F2、…、Fnの各位置について、中心線(14)のうち最も近い各位置をQ1、Q2、…、Qnと定義する。このようなF1、F2、…、Fn及びQ1、Q2、…、Qnの例を図47(a)に図示する。このときQ1、Q2、…、Qnの位置を計算により求める方法は特に限定しないが、例えばF1、F2、…、Fnの各位置から中心線(14)を構成する各画素までの距離を総当たりで全て計算すれば、計算時間はかかるが確実にQ1、Q2、…、Qnの位置を求めることが可能である。このような総当たりによる方法のほかにも、中心線(14)の形状を関数として取り扱うことにより数学的にQ1、Q2、…、Qnを求めても良い。
F1、F2、…、Fnの中の一つであるFi(iは1以上、かつ、n以下の自然数)に対して最も近くなるような中心線(14)上の位置が複数存在する場合、例えば、図47(b)で例示するように、Fiに対して最も近くなるような中心線(14)上の位置がQi’とQi’’の二つ存在するような場合の処理は、特に限定するものではないが、例えば、Qi’とQi’’のいずれか一方をランダム、又はあらかじめ定めた何らかの方法により選択してQiとしても良い。あるいは図47(b)に示すように、ベクトルFiQi’にベクトルFiQi’’を加えて得られたベクトルをFiQiと定義することによりQiの位置を求めても良い。Fiに対して最も近くなるような中心線(14)上の位置が3点以上存在する場合も同様である。
次にステップS213の基画像圧縮情報変換処理工程では、F1、F2、…、Fn及びQ1、Q2、…、Qnから、ベクトルF1Q1、ベクトルF2Q2、…、ベクトルFnQnを計算した後、F1とベクトルF1Q1、F2とベクトルF2Q2、…、FnとベクトルFnQnを関連付けて記憶部103に格納する。このとき、ベクトルF1Q1、ベクトルF2Q2、…、ベクトルFnQnの各ベクトルを基画像圧縮情報(13)と定義する。
なお、ここで言う関連付けとは、ステップS213より後のステップにおいてF1の位置を指定して基画像圧縮情報(13)を参照しようとした場合に、基画像圧縮情報(13)としてベクトルF1Q1を得ることが可能であり、F2、…、Fnの各位置に対しても同様に基画像圧縮情報(13)としてベクトルF2Q2、…、ベクトルFnQnを得ることが可能な状態で情報を記憶部103に格納するという意味である。
ステップS213より後のステップにおいてF1、F2、…、Fnのいずれでもない位置を指定して基画像圧縮情報(13)を参照した場合に、記憶部103に格納されたF1、F2、…、Fn及びベクトルF1Q1、ベクトルF2Q2、…、ベクトルFnQnに対して、処理部102において補間処理を行うことによりベクトル情報を得ることが可能となるようなステップを、ステップS213以降、かつ、ステップS31の潜像画線群形成処理工程以前に設けても良い。このようにして補間処理によって得たベクトルについても、基画像圧縮情報(13)とする。このときの補間処理としては、画像の一般的な拡大縮小処理方法をそのまま用いることが可能であり、このような処理方法として、例えば、ニアレストネイバー法、バイリニア法、バイキュービック法が一般に知られている。
なお、例えばステップS212の基画像圧縮情報変換処理工程においてF1及びQ1が確定した後であれば、ステップS213の再近傍中心線位置取得処理工程においてF1とベクトルF1Q1を関連付けて基画像圧縮情報(13)として記憶部103に格納することが可能であることから、必ずしもステップS212の完全終了後にステップS213を実施する必要は無い。
ステップS21の基画像圧縮情報生成処理工程は、以上の一連のステップS211、S212、S213によって構成されており、これらの処理を行うことにより基画像圧縮情報(13)が得られる。
このようにして得た基画像圧縮情報(13)が、本発明における印刷画像(3)の作製において果たす役割について説明する。
前述のとおりF1、F2、…、Fnの各位置について、中心線(14)のうち最も近い各位置をQ1、Q2、…、Qnと定義していることから、初等幾何によれば、直線F1Q1、直線F2Q2、…、直線FnQnは、いずれも中心線(14)と直交することがわかる。よって蒲鉾状画線(6)の方向を、同蒲鉾状画線(6)から得られた中心線(14)の方向と同一として定義すると、直線F1Q1、直線F2Q2、…、直線FnQnは、いずれも蒲鉾状画線(6)に直交する。
さらに本作製方法によって生成する潜像画線(8)(非反転画線(8A)、反転画線(8B)、非反転画線セット(8A’)及び反転画線セット(8B’))の画線形状を、蒲鉾状画線(6)の画線形状と一致するように定めるものとすると、直線F1Q1、直線F2Q2、…、直線FnQnは、いずれも蒲鉾状画線(6)の方向、すなわち潜像画線(8)の画線方向に対して直交する。
実施の形態で記載した通り、本発明において非反転画線(8A)及び反転画線(8B)は、基画像(9)を部分的に取り出して蒲鉾状画線(6)の画線方向と直交する方向に沿って圧縮した構造を有することから、この画像方向と直交する圧縮は、直線F1Q1、直線F2Q2、…、直線FnQnと同一方向に沿って行われることになる。
記憶部103に格納された基画像圧縮情報(13)の形式は、直線F1Q1、直線F2Q2、…、直線FnQnと同等の情報を含んでいれば形式は問わないことから、ここでは前述の通り、F1、F2、…、Fnの位置情報とベクトルF1Q1、ベクトルF2Q2、…、ベクトルFnQnを関連付けて基画像圧縮情報(13)を格納するものとして説明を行っている。
以上の理由により、本発明における印刷画像(3)の作製に際して、位置毎の画像圧縮方向を決める情報として基画像圧縮情報(13)が必要となる。
次に、ステップS31の潜像画線群形成処理工程において、基画像圧縮情報(13)、基画像(9)及び基準位置(7)から潜像画線群(5)を生成する方法について、図48を用いて、さらに詳細に説明する。
ここで、新たに生成した潜像画線群(5)を格納するための画像として、蒲鉾状画線群画像(15)とx方向の画素数が同一、かつ、y方向の画素数が同一となるような潜像画線群画像(16)を、処理部102において自動で生成して記憶部103に格納するものとする。また、生成時の潜像画線群画像(16)は、画線を全く含まないものとする。ここでは取り扱う全ての画像において画線の色は黒色であるものとして説明を行うため、このときの生成時の潜像画線群画像(16)は、白色の画素のみで構成される。さらに、潜像画線群画像(16)の四隅の座標位置は、それぞれ蒲鉾状画線群画像(15)の四隅の各座標位置と同じであるものとして説明を行う。
また、ステップS31の潜像画線群形成処理を行う際は、あらかじめ圧縮係数kが入力部101により作製装置外から入力され記憶部103に格納されているものとする。ただし圧縮係数kは正または負の数であり、0ではないものとする。より好ましくは、kは、−1よりも大きく、かつ、1よりも小さい、0以外の数である。
ステップS311の基画像圧縮位置判定処理工程では、潜像画線群画像(16)を構成する任意の画素について、同画素が存在する位置を指定して基画像圧縮情報(13)を得た後、基画像圧縮情報(13)及び基準位置(7)を用いて以下の判定を行う。
以下の説明では、潜像画線群画像(16)を構成する前述の任意の画素が存在する位置をFiとし、中心線(14)のうちFiに最も近い位置Qiは、前記基画像圧縮情報(13)から得ているものとする。さらに基準位置(7)をRとする。このときのFi、Qi、Rの各xy座標を、Fi=(XPi,YPi)、Qi=(XQi,YQi)、R=(XR,YR)と表記する。なお、基準位置(7)Rは、ステップ311における処理の途中で変更されることは無い。
第一の実施の形態を実施する際のステップ311における判定処理は、前述の位置Fiが、前述の第1の領域と第2の領域のいずれの領域内であるかを単純に判定すれば良い。第二の実施の形態又は第三の実施の形態を実施する際のステップ311における判定処理については、以下、さらに詳細に説明する。以下では基準位置(7)が点状であるものとして説明を進めるが、基準位置(7)が線状の場合は、線状の基準位置(7)上において位置Fiとの距離が最短となるような位置をR’として、説明文中の位置Rを位置R’へと読み替えれば良い。またこの場合、線状の基準位置(7)R自体はステップ311における処理の途中で変更されることは無いが、位置R’は位置Fiに対応して位置が変化する。
第一の実施の形態では、線状の基準位置(7)を境界として潜像画線群画像(16)を第1の領域と第2の領域に区分けし、一方の領域に非反転画線群(5A)か反転画線群(5B)を配置し、他方の領域に反転画線群(5B)か非反転画線群(5A)を配置する。また、第二の実施の形態及び第三の実施の形態では、蒲鉾状画線(6)の画線中心を基準として、この画線中心から線状又は点状の基準位置(7)に近い側に非反転画線(8A)か、反転画線(8B)のいずれか一方のみを配置し、この画線中心から基準位置(7)に遠い側にもう一方の反転画線(8B)か、非反転画線(8A)のいずれか一方のみを配置する。
第二の実施の形態及び第三の実施の形態でいう画線中心から基準位置(7)に近い側とは、図49(a)に示すように、位置Rと位置Qiの間の距離が、位置Rと位置Fiの間の距離よりも長くなるような位置Fiの集合のことであり、この条件を数式で表記すると数式1となる。また、画線中心から基準位置(7)に遠い側とは、図49(b)に示すように、位置Rと位置Qiの間の距離が、位置Rと位置Fiの間の距離よりも短くなるような位置Fiの集合のことであり、この条件を数式で表記すると数式2となる。なお、数式1及び数式2においては、ユークリッド距離同士を比較する代わりにユークリッド距離の2乗同士を比較しているが、どちらの比較であっても判定結果に違いは無い。
(数式1)
(XR−XQi)2+(YR−YQi)2>(XR−XFi)2+(YR−YFi)2
(数式2)
(XR−XQi)2+(YR−YQi)2<(XR−XFi)2+(YR−YFi)2
よって、ステップS311の基画像圧縮位置判定処理工程では、潜像画線群画像(16)を構成する前述の任意の画素が存在する位置Fiに対して、数式1と数式2のどちらの条件に当てはまるかの判定処理を行う。数式1と数式2のどちらの条件も満たさない場合、即ち位置Rと位置Qiの間の距離が、位置Rと位置Fiの間の距離と等しい場合の判定結果については、ランダム又はあらかじめ定めた何らかの方法により、数式1又は数式2のいずれか一方の条件を満たすものとして処理する。
なお、距離の判定は必ずしも数式1及び数式2を使用する必要は無く、判定速度の高速化等の理由により、近似的な別の判定式を用いても良い。このような近似的な判定式の例として、位置Rと位置Fiと位置Qiが作る三角形において、頂点Fiの内角が鋭角か鈍角かにより判定する方法が挙げられる。
数式1の条件が満たされる場合、概ねの場合で図49(a)に示すようにFiの内角は鈍角となり、数式2の条件が満たされる場合、概ねの場合で図49(b)に示すようにFiの内角は鋭角となる。ここで言う概ねの場合とは、より正確には、位置Rと位置Fiの間の距離が、位置Fiと位置Qiの間の距離よりも十分に大きい場合である。位置RはステップS311において定点であり位置Fiは任意の位置であるのに対して、位置Qiは中心線(14)のうち位置Fiに最も近い位置と定義されていることから、位置Fiが位置Rの近傍となるような一部領域を除けば、この近似的な判定によっても妥当な判定結果が得られる。この近似的な判定では、ベクトルFiRとベクトルFiQiの内積を用いた数式3及び数式4を、それぞれ数式1及び数式2の代わりに使用すれば良い。
(数式3)
(XR−XFi)×(XQi−XFi)+(YR−YFi)×(YQi−YFi)<0
(数式4
(XR−XFi)×(XQi−XFi)+(YR−YFi)×(YQi−YFi)>0
また、数式1及び数式2ではユークリッド距離の2乗同士を比較しているが、数学的な距離の定義を満たしていれば、比較に使用する距離は必ずしもユークリッド距離でなくとも良い。例えば、マンハッタン距離を用いて距離の比較を行う場合、判定に使用する式は、数式5及び数式6となる。
(数式5)
|XR−XQi|+|YR−YQi|>|XR−XFi|+|YR−YFi|
(数式6)
|XR−XQi|+|YR−YQi|<|XR−XFi|+|YR−YFi|
次に、ステップS312の使用圧縮係数選択処理工程では、ステップS311の基画像圧縮位置判定処理工程における判定結果に応じて、圧縮係数k又は圧縮係数に−1を乗じて得られる値−kの一方を選択する。ここで選択した圧縮係数を、選択圧縮係数と呼ぶ。
具体的には、第一の実施の形態を実施する場合であれば、第1の領域内と判定された位置に対しては、選択圧縮係数としてkを選択し、また、第2の領域内と判定された位置に対しては、選択圧縮係数として−kを選択する。あるいは、第1の領域内と判定された位置に対しては、選択係数として−kを選択し、第2の領域内と判定された位置に対しては、選択圧縮係数としてkを選択する。第二の実施の形態又は第三の実施の形態を実施する場合であれば、画線中心から基準位置(7)に近いと判定された位置に対しては選択圧縮係数としてkを選択し、画線中心から基準位置(7)に遠いと判定された位置に対しては選択圧縮係数として−kを選択する。あるいは、画線中心から基準位置(7)に近いと判定された位置に対しては選択圧縮係数として−kを選択し、画線中心から基準位置(7)に遠いと判定された位置に対しては選択圧縮係数としてkを選択する。ステップS311の判定結果に応じた圧縮係数の選択ルールは前述のどちらであっても良いが、ステップS312の処理中に選択ルールを変更することは無い。
ステップS313の基画像圧縮処理工程では、潜像画線群画像(16)を構成する任意の画素について、同画素が存在する位置と、同画素が存在する位置を指定して得られた基画像圧縮情報(13)と、同画素が存在する位置に対してステップS312の使用圧縮係数選択処理工程で選択された選択圧縮係数k又は−kを用いて後述のとおり計算を行うことによって、参照位置を得る。
次に、潜像画線群画像(16)を構成する前述の画素が有する色情報を、基画像(9)内において前述の参照位置にある画素の色情報により上書きする。ただし、ここで言う色情報とは、一般的なデジタル画像において画素が持つ明るさ及び/又は色彩を表す数値情報のことであり、一般には、0〜255の数値で表わされる赤、緑、青の各成分又はシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各成分によって構成される情報のことである。
もしも前述の参照位置に基画像(9)の画素が存在しない場合、すなわち、参照位置が基画像(9)の範囲外となるような場合の処理方法は、特に限定するものではないが、この場合、参照位置の基画像(9)の色情報を非画線色である白色であるものとみなして処理を行うことが望ましい。
ステップS313の基画像圧縮処理工程における上述の処理を、潜像画線群画像(16)を構成する画素のうち、潜像画線(8)内の位置に存在する全ての画素に対して行うことにより、潜像画線群画像(16)の中に潜像画線群(5)が形成される。潜像画線(8)(非反転画線(8A)、反転画線(8B)、非反転画線セット(8A’)及び反転画線セット(8B’))の形状は、ステップS11で入力した蒲鉾状画線群画像(15)内の蒲鉾状画線(6)の画線形状を、そのまま潜像画線(8)の形状として用いても良いし、入力部101によりあらかじめ作製装置外から入力しておいても良い。
潜像画線群画像(16)を構成する任意の画素について、同画素が存在する位置をFiとし、位置Fiを指定して得られる基画像圧縮情報(13)をベクトルFiQiとし、同画素が存在する位置に対してステップS312の使用圧縮係数選択処理工程で選択された選択圧縮係数をk又は−kとしたときに、前述の位置Fi、ベクトルFiQi及び選択圧縮係数k又は−kから計算により参照位置Fi’を求める方法を説明する。
まず、ステップS312の使用圧縮係数選択処理工程において、位置Fiにおける選択圧縮係数としてkが選択された場合を説明する。
このとき計算により求めたい参照位置Fi’は、ベクトルQiFi’とベクトルQiFiと選択圧縮係数kを用いて次式で表わされる。ただし、ベクトルQiFiは位置Qiから位置Fiに向かうベクトルのことであり、ベクトルFiQiを逆向きにしたベクトルのことであり、数学的にはベクトルFiQiに−1を乗ずることでベクトルQiFiが得られる。
所謂、k×(ベクトルQiFi’)=ベクトルQiFi=−(ベクトルFiQi)の関係が成り立つこととなる。
前式左側の等号は、ベクトルQiFiは、ベクトルQiFi’をk倍に圧縮又は引き延ばしたベクトルに等しいということを表している。kが−1よりも大きく、かつ、1よりも小さい、0以外の数である場合、ベクトルQiFiは、ベクトルQiFi’をk倍に圧縮したベクトルである。図50は、ベクトルQiFi’とベクトルQiFiとの対応関係の例を示した図であり、同一形状の中心線(14)及び同一位置のFi及びQiに対して、kが0より大きい場合の例を図50(a)に、kが0より小さい場合の例を図50(b)に示す。
このとき前述のとおり直線FiQiは中心線(14)の方向に対して直交していることから、kが0よりも大きい場合は、図50(b)に例示したように、任意の画像を、中心線(14)を中心に、中心線(14)と直交する方向へk倍に圧縮した場合、圧縮前に位置Fi’にあった画素は、圧縮後には位置Fiへと移動している。またkが0よりも小さい場合は図50(b)に例示したように、任意の画像を中心線(14)に対してミラー反転して鏡像化した後に、この鏡像化した画像を、中心線(14)を中心に、中心線(14)と直交する方向へ−k倍に圧縮した場合、ミラー反転及び圧縮前に位置Fi’にあった画素は、ミラー反転及び圧縮後には位置Fiへと移動している。
よって、基画像(9)内の参照位置Fi’にある画素の色情報で、潜像画線群画像(16)内の位置Fiの画素の色情報を上書きする処理を行うことで、kが0より大きい場合には、基画像(9)に対して前述の圧縮処理を施して潜像画線群画像(16)内に格納したのと同等の効果が得られ、kが0より小さい場合には基画像(9)に対して前述のミラー反転及び圧縮処理を施して潜像画線群画像(16)内に格納したのと同等の効果が得られる。さらに潜像画線群画像(16)内において潜像画線(8)内の位置に存在する全ての画素について、各画素の位置を位置Fiとして上記処理を実施することにより、潜像画線群画像(16)内に潜像画線群(5)が形成される。
次に、ステップS312の使用圧縮係数選択処理工程において、位置Fiにおける選択圧縮係数として−kが選択された場合を説明するが、この場合は選択圧縮係数としてkが選択された場合と比べ、選択圧縮係数の符号が変わっただけなので、上記と同様の議論が成立する。
その結果、kが0より小さい場合には基画像(9)に対して前述の圧縮処理を施して潜像画線群画像(16)内に格納したのと同等の効果が得られ、kが0より大きい場合には基画像(9)に対して前述のミラー反転及び圧縮処理を施して潜像画線群画像(16)内に格納したのと同等の効果が得られる。つまり、選択圧縮係数としてkが選択された場合と−kが選択された場合では、一方には圧縮処理のみが施され、他方にはミラー反転処理及び圧縮処理が施される。
以上のステップS311乃至ステップS313を実施することにより、第一の実施の形態を実施する際には、線状の基準位置(7)を境界として区分けされた潜像画線群画像(16)内の第1の領域と第2の領域のうち、一方の領域には、非反転画線群(5A)か、反転画線群(5B)のいずれか一方のみに相当する画線が形成され、他方の領域には、もう一方の反転画線群(5B)か、非反転画線群(5A)に相当する画線が形成される。また、第二の実施の形態又は第三の実施の形態を実施する際には、各蒲鉾状画線(6)の画線中心を基準として、この画線中心から基準位置(7)に近い側に非反転画線(8A)か、反転画線(8B)のいずれか一方のみに相当する画像が形成され、この画線中心から基準位置(7)に遠い側にもう一方の反転画線(8B)か、非反転画線(8A)のいずれか一方のみに相当する画像が形成される。
なお、非反転画線(8A)の縮率と反転画線(8B)の縮率の値が異なる場合、ステップS312の使用圧縮係数選択処理工程において選択圧縮係数としてk又は−kの一方を選ぶかわりに、選択圧縮係数としてk1又はk2の一方を選ぶ。ただしこの場合、k1及びk2はいずれもあらかじめ入力部101により作製装置外から入力され記憶部103に格納されている必要があり、さらにk1とk2のうち一方は正の数であり、他方は負の数である必要がある。より好ましくは、k1及びk2はいずれも、さらに絶対値が1よりも小さい数である。
また、実施の形態で記載したように、非反転画線(8A)の縮率と反転画線(8B)の縮率の値を、基準位置(7)からの距離に応じた値とする場合は、ステップS312の使用圧縮係数選択処理工程において、任意の位置Fiにおける選択圧縮係数としてk又は−kの一方を選ぶ際にはk及び−kに、k1又はk2の一方を選ぶ際にはk1及びk2に、基準位置(7)からの距離に応じた補正を加えた後に選択圧縮係数とする。ただし前記補正において、補正前の値の正負と、補正後の値の正負とは一致しなければならない。
このとき、k及び−kに、又はk1及びk2に、基準位置(7)からの距離に応じた補正を加えて得られた値を各k3及びk4とすると、k3とk4のうち正の値の方が非反転画線(8A)の縮率であり、k3とk4のうち負の値の方の絶対値が反転画線(8B)の縮率の値である。非反転画線(8A)の縮率及び反転画線(8B)の縮率に関する望ましい条件は、実施の形態で記載した通りである。
最後にステップS41の潜像画線群出力処理工程において、潜像画線群(5)を含んだ潜像画線群画像(16)を出力部(104)で出力する。
以上のステップを実施することで、潜像画線群(5)を含んだ潜像画線群画像(15)が得られる。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
第一の実施の形態で用いた図で説明する。図1に、本発明の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に、灰色の印刷画像(3)を備える。基材(2)は、一般的な白色コート紙(日本製紙製)を用いた。印刷画像(3)は、拡散反射光下では灰色に視認される色彩で構成した。
図2に印刷画像(3)の構成の概要を示す。印刷画像(3)は、蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)を重ねて構成した。印刷画像(3)の積層構造は、蒲鉾状画線群(4)の上に潜像画線群(5)が重なる構造とした。基画像(9)は、彩紋とした。
蒲鉾状画線群は、図3に示すように、それぞれの直線の複数の蒲鉾状画線(6)によって構成した。この形状については、第一の実施の形態と同じであるため説明を省略する。画線幅は0.30mm、画線ピッチは0.4mmとした。
以上のような構成の蒲鉾状画線群(4)を、表1に示すUV乾燥型のスクリーンインキを用いて、スクリーン印刷によって基材(2)に印刷した。表1に示すインキは、拡散反射光下では着色顔料の色である灰色に見え、正反射光下では明度が上昇して白色に見える、優れた明暗フリップフロップ性を備えたインキである。このインキによって形成した蒲鉾状画線(6)の盛り上がり高さは約15μmであった。
潜像画線群(5)は、図4に示すように、それぞれの蒲鉾状画線(6)と対を成す、直線形状の非反転画線群(5A)及び反転画線群(5B)によって構成した。この形状と作製方法については第一の実施の形態と同じであるため、説明を省略する。それぞれの非反転画線(8A)及び反転画線(8B)の縮率は同じ0.08とし、潜像画線幅を0.38mm、画線ピッチは0.4mmとした。
以上の構成の潜像画線群(1)を透明なマットインキ(マットメジウム T&K TOKA製)を用いてウェットオフセット印刷方式で、それぞれ対を成す蒲鉾状画線(6)と非反転画線(8A)及び反転画線(8B)の画線中心が完全に重なり合う関係で蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)を重ね合わせて、潜像印刷物(1)を形成した。
以上の手順で作製した本発明の潜像印刷物(1)の効果について説明する。図11に、本発明の効果を示す。印刷画像(1)に強い光が入射しない拡散反射光下においては、潜像画像である基画像(9)は不可視であり、単に印刷画像(3)のみが灰色で視認できた(図示せず)。一方の正反射光下においては、印刷画像(3)全体が白色の反射光を発する中に、基画像(9)が灰色で出現した。
図17(a)、(b)、(c)に示すように、入射する光に対して潜像印刷物(1)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(3)中の基画像(9)の形状が変化し、基画像(9)が基準位置(7)を中心に拡大しているように見えた。以上のように作製した潜像印刷物(1)には所望の効果が備わっていることが確認できた。