JP6414238B2 - 核酸解析用マイクロチップ - Google Patents

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Description

本技術は、核酸解析用マイクロチップに関する。より詳しくは、チップに配設された領域内において核酸を光学的に分析する核酸解析用マイクロチップに関する。また、本技術は、核酸の検出方法及び核酸の解析方法にも関する。
近年、医療分野、創薬分野、臨床検査分野、食品分野、農業分野、工学分野、法医学分野及び犯罪鑑識分野などの様々な分野で、核酸解析用マイクロチップが用いられ始めている。核酸解析用マイクロチップは、チップに配設された領域(ウェル)に核酸と必要に応じて試薬を導入し、核酸の増幅反応や電気泳動、ハイブリダイゼーション、染色、検出などを行うものである。
例えば、特許文献1には、液体が導入される導入口と、核酸増幅反応の反応場となる複数のウェルと、液体を導入口から各ウェル内に供給する流路と、が配設された核酸増幅反応用マイクロチップが開示されている。この核酸増幅反応用マイクロチップは、反応に必要な試薬等の物質を各ウェル内に予め固着化させておくことにより、前記物質をウェル内に導入する手間を省いて簡便に分析を行うことを可能としたものである。関連技術として、特許文献2には、ウェル内に固着化させた物質を、核酸増幅反応の反応温度付近で溶融する薄膜により被覆する技術が開示されている。
核酸検出のために用いられる基本技術として、蛍光色素を用いて核酸を染色する方法がある。蛍光色素としては、エチジウムブロマイドやSYBR greenなどが知られている。例えば、エチジウムブロマイドは、電気泳動法において核酸を染色するために多用される。また、SYBR greenは、ポリメラーゼ・チェーン・リアクションなどの核酸増幅反応において、核酸の増幅過程をリアルタイムに検出する目的で用いられている。
本技術に関連して、蛍光観察の際に細胞が示す自家蛍光として、従来知られている蛍光について説明する。このような蛍光の一つに、銅の存在下においてUV照射された細胞が示すオレンジ色の自家蛍光がある。例えば、ショウジョウバエ幼虫中腸の特定部分の細胞が、銅を投与するとオレンジ色の蛍光を発することが報告されている(非特許文献1〜8参照)。ショウジョウバエ幼虫中腸においてこのオレンジ色の蛍光が特に強く観察される細胞は、「copper cell」などと呼ばれている。投与する銅の濃度を高くすると、copper cellの周辺の細胞(非特許文献4)及び幼虫の体壁全体(非特許文献2)でも、蛍光が観察されることが報告されている。
上記のオレンジ色の蛍光は、細胞内において、細胞質と細胞核の両方で観察され、特に細胞質の顆粒で顕著に検出されると記述されている(非特許文献2〜4,7参照)。蛍光の波長範囲は590-630nmであり、ピーク波長は610nm、最大励起波長は340nmと記載されて
いる(非特許文献3)。
また、ショウジョウバエ以外の生物種についても、同様な性質をもつ自家蛍光が観察されている。例えば、ラットの実験では、銅を与えた個体の肝臓において、UV励起(励起波長310nm)によってオレンジ色の蛍光(ピーク波長605nm)が見られることが報告されている(非特許文献9参照)。さらに、加齢に伴って腎臓及び肝臓に銅を蓄積するモデルラットの腎臓においても、類似の蛍光が観察されたことが報告されている(非特許文献10参照)。同様の性質をもつ自家蛍光は、酵母(非特許文献11参照)や、ヒトのWilson病患者の肝細胞(非特許文献12参照)においても報告されている。なお、Wilson病は、銅の排泄機能が不全となり、肝細胞内に銅が蓄積する遺伝性疾患である。
上記のオレンジ色の蛍光を発光する蛍光体としては、銅とmetallothionein (MT)との複合体(以下、「Cu-MT」と略記する)が推定されている(非特許文献14〜23参照)。Cu-MTの波長特性は、非特許文献13では励起波長305nm、蛍光波長565nmとされ、非特許文献17では励起波長310nm、蛍光波長570nmとされている。また、Cu-MTにおいて銅は、一価イオン(Cu(I))の状態で存在していると考えられている(非特許文献13,15,17,19,23参照)。
このような銅を含む蛍光体には、ピリミジン又はメルカプチドなどを含む化合物であって、ピリミジン又はメルカプチドが銅と作用することにより蛍光が発せられる化合物が広く報告されている(非特許文献24〜29参照)。
一方、各種金属イオンと核酸との相互作用について、古くから研究がなされている。例えば、銅一価イオンと核酸との相互作用については、細胞核中に微量に含まれる銅が、核酸構造を安定化する一方、過酸化水素との共存下においてDNAにダメージを与えることが知られている(非特許文献30参照)。また、銅との相互作用により、DNAの吸収スペクトルが変化することが報告されている(非特許文献30,31参照)。さらに、この吸収スペクトルの変化が、DNAの塩基配列(具体的にはGCペアのポリマーとATペアのポリマー)に応じて異なることなども報告されている(非特許文献30参照)。
特開2011−160728号公報 特開2012−024072号公報
Physiological genetic studies on copper metabolism in the genus Drosophila. (1950) Genetics 35, 684-685 Organization and function of the inorganic constituents of nuclei. (1952) Exp. Cell Res., Suppl. 2:161-179 Ultrastructure of the copper- accumulating region of the Drosophila larval midgut. (1971) Tissue Cell. 3, 77-102 Specification of a single cell type by a Drosophila homeotic gene. (1994) Cell. 76, 689-702 Two different thresholds of wingless signalling with distinct developmental consequences in the Drosophila midgut. (1995) EMBO J. 14, 5016-5026 Calcium-activated potassium channel gene expression in the midgut of Drosophila. (1997) Comp. Biochem. Physiol. B Biochem. Mol. Biol. 118, 411-420 Evidence that a copper- metallothionein complex is responsible for fluorescence in acid-secreting cells of the Drosophila stomach. (2001) Cell Tissue Res. 304, 383-389 Peptidergic paracrine and endocrine cells in the midgut of the fruit fly maggot. (2009) Cell Tissue Res. 336, 309-323 A luminescence probe for metallothionein in liver tissue: emission intensity measured directly from copper metallothionein induced in rat liver. (1989) FEBS Lett. 257, 283-286 Direct visualization of copper- metallothionein in LEC rat kidneys: application of autofluorescence signal of copper-thiolate cluster. (1996) J. Histochem. Cytochem. 44, 865-873 Incorporation of copper into the yeast Saccharomyces cerevisiae. Identification of Cu(I)--metallothionein in intact yeast cells. (1997) J. Inorg. Biochem. 66, 231-240 Portmann B. Image of the month. Copper- metallothionein autofluorescence. (2009) Hepatology. 50, 1312-1313 Luminescence properties of Neurospora copper metallothionein. (1981) FEBS Lett. 127, 201-203 Copper transfer between Neurospora copper metallothionein and type 3 copper apoproteins. (1982) FEBS Lett.142, 219-222 Spectroscopic studies on Neurospora copper metallothionein. (1983) Biochemistry. 22, 2043-2048 Metal substitution of Neurospora copper metallothionein. (1984) Biochemistry. 23, 3422-3427 (Cu,Zn)-metallothioneins from fetal bovine liver. Chemical and spectroscopic properties. (1985) J. Biol. Chem. 260, 10032-10038 Primary structure and spectroscopic studies of Neurospora copper metallothionein. (1986) Environ. Health Perspect. 65, 21-27 Characterization of the copper-thiolate cluster in yeast metallothionein and two truncated mutants. (1988) J. Biol. Chem. 263, 6688-6694 Luminescence emission from Neurospora copper metallothionein. Time-resolved studies. (1989) Biochem J. 260, 189-193 Establishment of the metal-to-cysteine connectivities in silver-substituted yeast metallothionein (1991) J. Am. Chem. Soc. 113, 9354-9358 Copper- and silver-substituted yeast metallothioneins: Sequential proton NMR assignments reflecting conformational heterogeneity at the C terminus. (1993) Biochemistry. 32, 6773-6787 Luminescence decay from copper(I) complexes of metallothionein. (1998) Inorg. Chim. Acta. 153, 115-118 Solution Luminescence of Metal Complexes. (1970) Appl. Spectrosc. 24, 319 - 326 Fluorescence of Cu, Au and Ag mercaptides. (1971) Photochem. Photobiol. 13, 279-281 Luminescence of the copper--carbon monoxide complex of Neurospora tyrosinase. (1980) FEBS Lett. 111, 232-234 Luminescence of carbon monoxide hemocyanins. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 77, 2387-2389 Photophysical properties of hexanuclear copper(I) and silver(I) clusters. (1992) Inorg. Chem., 31, 1941-1945 Photochemical and photophysical properties of tetranuclear and hexanuclear clusters of metals with d10 and s2 electronic configurations. (1993) Acc. Chem. Res. 26, 220-226 Interaction of copper(I) with nucleic acids. (1990) Int. J. Radiat. Biol. 58, 215- 234 Copper(I)-Catalyzed Regioselective "Ligation" of Azides and Terminal Alkynes. (2002) Ang. Chem. Int. Ed.41, 2596-2599
核酸解析用マイクロチップに配設した領域内において、既存の蛍光色素を用いて核酸の蛍光検出を行う場合、次のような問題がある。すなわち、蛍光色素が液体試薬であるために、領域内に蛍光色素を保持させるためのチップの構造が複雑となり、チップを使用する際の操作も煩雑になる。また、一般に液体試薬は劣化防止のため保管時の温度管理や遮光が必要で、保管できる期間も短いため、従来の蛍光色素を領域内に保持させた核酸解析用マイクロチップは保管条件に制約があった。
そこで、本技術は、簡便な操作で使用でき、長期に保管しても安定した性能を発揮できる核酸解析用マイクロチップを提供することを主な目的とする。
上記課題解決のため、本技術は、反応領域と、検出領域と、が設けられ、前記検出領域に銅が収容されている核酸解析用マイクロチップを提供する。
この核酸解析用マイクロチップにおいて、前記銅は、固形銅であってよく、前記検出領域内にスパッタリング、蒸着又は塗布されているものとできる。
この核酸解析用マイクロチップでは、銅と接触して複合体を形成した核酸から発生する蛍光を検出することによって核酸を光学的に分析できる。
この核酸解析用マイクロチップにおいて、前記検出領域には、必要に応じて塩化ナトリウム及び塩化カリウムなどの塩が収容される。前記塩の収容量は、核酸を含むサンプル液を前記検出領域へ導入した後の終濃度で50mM以上に設定されることが好ましい。
この核酸解析用マイクロチップにおいて、前記反応領域は、前記核酸の増幅反応、電気泳動、ハイブリダイゼーション反応又はバイサルファイト反応の反応場であってよい。また、この核酸解析用マイクロチップは、前記反応領域への前記サンプル液の導入部と、前記反応領域と前記検出領域とを接続する流路と、を有するものとできる。
本技術において、「核酸」には、天然の核酸(DNA及びRNA)が含まれる。また、「核酸」には、天然の核酸のリボースの化学構造又はホスホジエステル結合の化学構造を人為的に改変して得た人工核酸が広く包含される。人工核酸としては、特に限定されないが、例えばペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエート型オリゴヌクレオチド(S-oligo)、ブリッジド核酸(BNA)又はロックト核酸(LNA)などが挙げられる。
また、本技術は、
核酸を含みうるサンプルを固形銅と接触させる手順と、
前記サンプルに塩を混合する手順と、
前記サンプルから発せられる蛍光を検出する検出手順と、
を含み、
前記サンプルの塩濃度は前記塩と混合した後の終濃度で25mM以上に設定され、
前記塩が塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化マグネシウムから選ばれる1種又は2種以上であり、且つ、
前記固形銅がスパッタリング、蒸着、又は塗布されたものである
前記サンプル中の核酸の検出方法も提供する。
前記検出方法は、固形銅がスパッタリング、蒸着、又は塗布された検出領域を含むマイクロチップ内において行われるものでありうる。
前記検出方法は、核酸反応を行って、前記核酸を含みうるサンプルを得る手順を更に含みうる。
前記検出方法において、前記核酸反応は、核酸の増幅反応、電気泳動、ハイブリダイゼーション反応、又はバイサルファイト反応でありうる。
前記検出方法は、前記検出された蛍光に基づき、前記サンプル中の核酸の種類、濃度、塩基長、塩基配列及び高次構造からなる群から選択される情報を得る手順をさらに含みうる
記検出方法において、前記検出領域に塩が収容されており、当該塩の収容量が、前記核酸を含みうるサンプル液を前記検出領域へ導入した後の終濃度で25mM以上に設定されていてもよい。
前記検出方法は、前記検出された蛍光に基づき、前記サンプル中の核酸の有無についての情報を得る手順をさらに含みうる。
また、本技術は、
核酸を含みうるサンプルを固形銅と接触させる手順と、
前記サンプルに塩を混合する手順と、
前記サンプルから発せられる蛍光を検出する検出手順と、
を含み、
前記サンプルの塩濃度は前記塩と混合した後の終濃度で25mM以上に設定され、
前記塩が塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化マグネシウムから選ばれる1種又は2種以上であり、且つ、
前記固形銅がスパッタリング、蒸着、又は塗布されたものである
前記サンプル中の核酸の解析方法も提供する。
前記解析方法は、固形銅は、スパッタリング、蒸着、又は塗布された検出領域を含むマイクロチップ内において行われるものでありうる。
前記解析方法は、核酸反応を行って、前記核酸を含みうるサンプルを得る手順を更に含みうる。
前記解析方法において、前記核酸反応は、核酸の増幅反応、電気泳動、ハイブリダイゼーション反応、又はバイサルファイト反応でありうる。
前記解析方法は、前記検出手順の前に、前記サンプルに塩を混合する手順を含みうる
記解析方法において、前記検出領域に塩が収容されており、当該塩の収容量が、前記核酸を含みうるサンプル液を前記検出領域へ導入した後の終濃度で25mM以上に設定されていてもよい。
前記解析方法は、前記検出された蛍光に基づき、核酸の種類、核酸の濃度、核酸の塩基長、核酸の塩基配列、及び核酸の高次構造からなる群から選択される情報を得る手順をさらに含みうる。


本技術により、簡便な操作で使用でき、長期に保管しても安定した性能を発揮できる核酸解析用マイクロチップが提供される。
本技術の第一実施形態に係る核酸解析用マイクロチップの構成を説明する図である。 本技術の第二実施形態に係る核酸解析用マイクロチップの構成を説明する図である。 本技術の第三実施形態に係る核酸解析用マイクロチップの構成を説明する図である。 本技術の第四実施形態に係る核酸解析用マイクロチップの構成を説明する図である。 S.A.濃度50mMの条件下でssDNAと濃度を変化させたCuSO4とを接触させて取得された蛍光スペクトル及びRFU値を示す図面代用グラフである。(A)は蛍光スペクトルを示し、(B)はピークRFU値を示す(実施例1)。 S.A.濃度50mMの条件下でssDNAと濃度を変化させたCuSO4とを接触させて取得された蛍光スペクトル及びRFU値を示す図面代用グラフである。(A)は蛍光スペクトルを示し、(B)はピークRFU値を示す(実施例1)。 S.A.濃度4mMの条件下でオリゴDNAと濃度0.4mMのCuSO4とを接触させて取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例1)。 S.A.濃度4mMの条件下でオリゴDNAと濃度0.4mMのCuSO4とを接触させて取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例1)。 CuSO4濃度0.4mM、S.A.濃度4mMの条件下でT(20)、T(6)、T(3)のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトル及び吸収スペクトルの経時変化を示す図面代用グラフである(実施例1)。上段は縦軸をRFU値(絶対値)とした蛍光スペクトル、中段は縦軸をRFU値(相対値)とした蛍光スペクトル、下段は吸収スペクトルを示す。 CuSO4濃度0.4mM、S.A.濃度4mMの条件下でT(20)、T(6)、T(3)のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトル及び吸収スペクトルの経時変化を示す図面代用グラフである(実施例1)。(A)はピークRFU値の経時変化を示し、(B)は波長346nmにおける吸光度の経時変化を示す。 T(20)、T(6)、T(3)のオリゴDNAで取得された2次元蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例1)。 T(20)、T(6)、T(3)のオリゴDNAの励起スペクトル(破線)と蛍光スペクトル(実線)を示す図面代用グラフである(実施例1)。 アデニン及びチミンの組み合わせによってなる3塩基長の配列からなるオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例1)。 アデニン及びチミンの組み合わせによってなる3塩基長の配列からなるオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルのRFUの最大値(A)及びピーク波長(B)を示す図面代用グラフである(実施例1)。 配列番号19及び配列番号20に記載する配列からなるオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例1)。 ssDNA含むサンプルを固形銅と接触させて取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例2)。 ssDNA含むサンプルを異なる濃度の固形銅と接触させて取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例2)。 ssDNA含むサンプルを異なる種類あるいは濃度の塩を含む反応溶液中で固形銅と接触させて取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例2)。 異なる濃度のssDNA(A)及びRNA(B)を含むサンプルを固形銅と接触させて取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例2)。 異なる配列のオリゴDNAを含むサンプルを固形銅と接触させて取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例2)。 異なる配列のオリゴDNAを含むサンプルを固形銅と接触させて取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例2)。 異なる配列のオリゴDNAを含むサンプルを固形銅と接触させて取得された励起−蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例2)。 8塩基のシトシンと12塩基のチミンの組み合わせ配列からなるオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例2)。 ミスマッチを含む二本鎖DNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例2)。 反応溶液のバッファーの種類及びpHを変更した場合に取得されたRFU値を示す図面代用グラフである(実施例2)。 ガラス表面にスパッタリングした銅とssDNAとを接触させて取得された蛍光画像を示す図面代用写真である(実施例3)。 ガラス表面にスパッタリングした銅とRNAとを接触させて取得された蛍光画像を示す図面代用写真である(実施例3)。 DNAあるいはRNAを含むサンプルをガラス表面にスパッタリングした銅あるいは銀に接触させた場合に取得された蛍光の強度を示す図面代用グラフである(実施例3)。 ガラス表面にスパッタリングした銅とssDNAとを接触させて取得された蛍光の経時的な強度変化を示す図面代用グラフである(実施例3)。 ガラス表面にスパッタリングした銅とssDNAとを接触させた後、温度を変化させた場合の蛍光強度の変化を示す図面代用グラフである(実施例3)。 銅スパッタガラス上でタマネギ薄皮を蛍光観察した結果を示す図面代用写真である(実施例4)。 銅スパッタガラス上でヒト白血球サンプルを蛍光観察した結果を示す図面代用写真である(実施例4)。 銅スパッタガラス上でジャルカット細胞を蛍光観察した結果を示す図面代用写真である(実施例4)。 銅スパッタガラス上でジャルカット細胞を蛍光観察した結果を示す図面代用写真である(実施例4)。 異なる濃度のT(20)のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例5)。 異なる濃度のT(10)のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例5)。 異なる濃度のT(6)のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例5)。 異なる濃度のT(5)のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例5)。 異なる濃度のT(4)のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例5)。 異なる濃度のT(3)のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例5)。 異なる濃度のT(2)のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例5)。 異なる塩基数のチミンからなるオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例5)。 異なる塩基数のチミンからなるオリゴDNAについて、オリゴDNAの濃度と蛍光強度の最大値との関係を示す図面代用グラフである(実施例5)。 TとCを含んでなる塩基配列のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例6)。 TとGを含んでなる塩基配列のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例6)。 T(10)のオリゴDNA及びT(10)のクエンチャーを修飾した同オリゴDNAで蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例7)。 T(10)及びU(9)GのオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例8)。 T(10)、C(10)及びC(4)MeC(6)のオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例8)。 T(10)、A(10)及びI(9)GのオリゴDNAで取得された蛍光スペクトルを示す図面代用グラフである(実施例8)。
以下、本技術を実施するための好適な形態について詳細に説明する。以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。

1.本技術の第一実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ
(1)全体構成
(2)反応領域(3)検出領域
[銅]
[塩]
(4)核酸解析方法
[増幅反応後の核酸解析]
[電気泳動後の核酸解析]
[ハイブリダイゼーション反応後の核酸解析]
[バイサルファイト反応後の核酸解析]
2.本技術の第二実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ
(1)全体構成
(2)核酸解析方法
3.本技術の第三実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ
4.本技術の第四実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ
1.本技術の第一実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ
(1)全体構成
図1は、本技術の第一実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ1aの構成を説明する模式図である。図Aは上面図、図BはA中P−P断面に対応する断面図である。
核酸解析用マイクロチップ1a(以下、単に「マイクロチップ1a」とも称する)には、導入部2、反応領域3、検出領域4、導入部2と反応領域3を接続する流路51、及び反応領域3と検出領域4を接続する流路52が設けられている。流路51及び流路52には、サンプル液の逆流を防止する弁を設けてもよい(不図示)。
マイクロチップ1aは、導入部2、反応領域3、検出領域4、流路51及び流路52を成形した基板層を貼り合わせることによって形成できる。導入部2等の成形は、例えば、シリコン製もしくはガラス製基板層のウェットエッチング又はドライエッチングによって、あるいはプラスチック製基板層のナノインプリント、射出成型又は切削加工によって行うことができる。導入部2等を成形した基板層は、例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合及び超音波接合等の公知の手法により貼り合わされてマイクロチップ1aとされる。なおシリコンなど光透過性を有しない基板層を用いる場合は、貼り合わせる基板層としてガラスなど光透過性を有する材料を組み合わせることが好ましい。
基板層の材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、PMMA(ポリメチルメタアクリレート:アクリル樹脂)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)などの各種プラスチップ又はガラスであってよい。基板層の材料は、光透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差の少ない材料を選択することが好ましい。
(2)反応領域
反応領域3は、核酸の増幅反応、電気泳動、ハイブリダイゼーション反応又はバイサルファイト反応等の核酸反応の反応場である。解析対象とする核酸を含むサンプル液は、導入部2から導入され、流路51を送液されて反応領域3に導入される。導入部2は、例えばマイクロチップ1aの上面に設けられた開口であってよい。また、導入部2は、例えばマイクロチップ1aを構成する基板層に注射針等を穿通させ、注射針が取り付けられたシリンジからチップ内へサンプル液を注入するための穿刺部位であってもよい。
ここで、核酸増幅反応には、温度サイクルを実施するPCR(polymerase chain reaction)法や、温度サイクルを伴わない各種等温増幅法が含まれるものとする。等温増幅法
としては、例えば、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法やSMAP(SMart Amplification Process)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法(登録商標)、TRC(transcription-reverse transcription concerted)法、SDA(strand displacement amplification)法、TMA(transcription-mediated amplification)法、RCA(rolling circle amplification)法等が挙げら
れる。また、これらの核酸増幅反応には、リアルタイムPCR(RT−PCR)法やRT−LAMP法などの増幅核酸鎖の定量を伴う反応も包含される。
(3)検出領域
サンプル液は、反応領域3における核酸反応の後、流路52を送液されて検出領域4に導入される。検出領域4は核酸の検出場であり、検出領域4内には銅6と塩7が収容されている。
本発明者らは、実施例において詳しく後述するように、核酸と銅との複合体が蛍光を発することを新たに見出している。検出領域4では、反応領域3における核酸反応後の核酸を銅6と接触させ、核酸と銅が形成する複合体から発生する蛍光の検出が行われる。
[銅]
銅6は、固形銅もしくは銅を含む固形物であることが好ましい。固形銅は、検出領域4内への配置が容易であり、チップ構造の簡素化のため好ましい。また、固形銅は、熱、光、振動、衝撃及び時間経過などに対して安定的で、チップの製造条件や保存条件などの影響を受け難く、チップの取り扱いを容易にするため好ましい。
固形銅には、純粋な銅のほか、銅を含む合金などを用いることもできる。形状は、特に限定されず、例えば、粉末や微粒子、ロッド、ワイヤ、板、ホイルなどの形状が挙げられる。また、図1に示すように、銅を含む薄膜を、スパッタリング、蒸着又は塗布などによって検出領域4を構成する基板層面に形成してもよい。スパッタリング及び蒸着は従来公知の手法によって行えばよく、塗布は例えば銅粉末を含む接着剤組成物を用いて行うことができる。
銅6は、検出領域4に照射される光、及び核酸と銅との複合体から発生する蛍光を遮断しないような態様で配置されることが好ましい。銅6を薄膜とする場合、薄膜を例えば10〜50nm程度の厚さとすれば光透過性を確保ができる。また、薄膜を検出領域の片面のみに配置し、反対側より励起光の照射および蛍光の検出を行ってもよい。さらに、銅6を検出領域4の内部あるいは表面の一部のみに配置することで光の透過性を確保してもよい。
ただし、本技術に係る核酸解析用マイクロチップにおいて、銅6として銅を含む溶液を配置することも排除されるものではない。検出のための時間を短縮する必要がある場合には、溶液を用いることが好ましい場合もある。溶液を用いる場合、十分量の銅(I)イオンが溶液中に存在した状態で用いることが好ましい。銅イオンは一般には二価陽イオンの状態において安定して存在し、一価陽イオンは二価陽イオンに比して不安定である。このため、例えばCuSO4水溶液など銅の二価陽イオンを含む水溶液に対し、銅(II)イオンを銅(I)イオンに還元する還元剤を混合することが好ましい。還元剤には、例えばアスコルビン酸ナトリウムを用いることができる。
銅6の量は、蛍光検出が可能な限り、特に限定されない。固形銅の量は、サンプル液と銅6とが接触する面積、該面積のサンプル液容量に対する割合、検出領域4の形状、銅の含有率などに合わせて適宜設定される。例えば、後述する実施例で挙げた銅粉末を用いる場合、サンプル液容量1mlに対して、銅粉末は37.5mg以上であることが好ましい。あるいは後述する実施例で挙げた、銅スパッタ処理を片側に施したガラス基板を用いる場合では、ガラス基板間の間隔すなわち検出領域4の深さは20μm程度であることが望ましい。
[塩]
検出領域4には、サンプル液と混合して溶解されたときの濃度が25mM以上、好ましくは50mM以上となるように塩7を収容しておくことが好ましい(後述する実施例の図18参照)。より望ましくは、サンプル液と混合して溶解されたときの濃度が250mM程度となるように塩7を収容することで、より強い蛍光が得られる。塩の種類は、本技術の効果が奏される限りにおいて特に限定されず、例えば塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)などであってよく、好ましくは塩化ナトリウム又は塩化カリウムとされる。塩は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
サンプル液に十分な量の塩が含まれている場合には、検出領域4に塩7を収容しなくてもよいか、あるいは収容する量が少なくてもよい場合がある。反応領域3において核酸の増幅反応を行う場合、サンプル液は、核酸と増幅反応のための試薬を含み、一般的な反応系では10〜50mM程度の塩濃度に調製される。例えばサンプル液に10mMの塩が含まれている場合、検出領域4には少なくとも不足分の40mM相当量を収容しておけばよい。ただし塩濃度が250mM程度と高い条件下でより強い蛍光が検出されることから、例えば240mM相当を収容しておくことがより望ましい。また、高い塩濃度条件下でも活性を示す酵素を用いれば、サンプル液中の塩濃度を50mMよりも大きくすることが可能であるため、検出領域4への塩7の収容は不要である。
なお、反応領域3において核酸の電気泳動を行う場合、サンプル液は電気泳動用緩衝液を含み、緩衝液には通常塩を含まないものが用いられる。また、反応領域3において核酸のハイブリダイゼーション反応を行う場合、サンプル液はハイブリダイゼーション用緩衝液を含み、一般的なSSC緩衝液などでは150mM程度の塩が含まれる。
また、検出領域4中の銅6として銅を含む溶液を用いる場合には、該溶液中に塩を含有させておくことで、検出領域4に塩7を収容しなくてもよいか、あるいは収容する量が少なくてもよい場合がある。さらに、銅を含む溶液を用いる場合、例えば後述する実施例1で用いたHEPPSO緩衝液などのように特定の種類の緩衝液を使用することで、塩の非存在下であっても核酸に由来する蛍光を検出できる場合がある。
(4)核酸解析方法
次に、マイクロチップ1aを用いた核酸解析方法について説明する。
まず、解析対象とする核酸を含むサンプル液を、導入部2から反応領域3に導入する。サンプル液は、シリンジやポンプ等によって加圧しながら導入部2に注入することで反応領域3に導入できる。また、サンプル液を導入部2へ注入した後に、遠心力によって反応領域3に送液してもよい。
サンプル液には、銅(II)イオンを安定化するキレート剤などの成分(例えば、EDTAやTrisなど)を含まないものを用いることが好ましい(後述する実施例の図25参照)。サンプル液には、例えばHEPPSO, EPPS, POPSO, TAPS, PIPES, TAPS, CAPSなどのバッファーを用いることができる。
サンプル液を反応領域3に導入した後、所定の核酸反応を行う。核酸反応は、核酸の増幅反応、電気泳動、ハイブリダイゼーション反応又はバイサルファイト反応等であってよい。これらの核酸反応は従来公知の手法によって行うことが可能である。
核酸反応を行った後、反応後の核酸を含むサンプル液を反応領域3から検出領域4に導入し、銅6と接触させる。このとき、検出領域4に塩7が収容されている場合には、塩7がサンプル液と混合して溶解される。サンプル液は、シリンジやポンプ等によって導入部2に圧を加えることによって反応領域3から検出領域4に送液できる。また、遠心力によって反応領域3から検出領域4サンプル液を送液してもよい。
次に、反応領域3に光(励起光)を照射し、核酸と銅との複合体から発生する蛍光を検出する。励起光は、複合体から蛍光を効率よく発生させるため、300〜420nm程度の波長域の光を含むことが好ましく、330〜380nm程度の波長域の光を含むことが特に好ましい。また、蛍光検出の際の妨げとならないように、励起光は、波長が420nm程度以上の光の強度が十分に低いことが望ましく、波長が500nm程度以上の光の強度が十分に低いことが特に望ましい。
励起光の光源には、例えば水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、レーザー、LED、太陽光などを用いることができる。また、光学フィルタ、プリズム、グレーティングミラーなどの波長選別手段を用いて、光源から出射される光から望ましい波長域の光のみを選択して励起光としてもよい。
蛍光は、所定波長の蛍光、複数の波長の蛍光あるいは所定波長域の蛍光スペクトルとして検出する。蛍光の検出は、フォトディテクター、フォトダイオード、フォトマルチプライヤー、CCDカメラ、CMOSカメラなどの検出手段に、必要に応じてレンズなどの集光手段及び光学フィルタ、プリズム、グレーティングミラーなどの波長選別手段を組み合わせて行う。蛍光検出は、検出領域4に対する励起光の照射方向と同じ向きから行っても良いし、異なる向きから行ってもよい。
核酸と銅との複合体から発生する蛍光の波長は、励起光の波長が360nm程度の場合、600nm程度となる。従って、波長選別手段は、励起光の好ましい波長域の上限である420nm程度以上の蛍光のみを選別し得るものが好ましく、波長500nm程度以上の蛍光のみを選別し得るものであることが特に好ましい。
核酸と銅との複合体から発生する蛍光の強度及びスペクトルは、核酸の種類、濃度、塩基長、塩基配列及び高次構造などに依存して変化する(実施例参照)。特に核酸反応条件及び蛍光検出のための光学系の構成が同一であり、核酸の種類、塩基長、塩基配列及び高次構造が一定である場合には、取得された蛍光の強度及びスペクトルから核酸の濃度についての情報を得ることができる。核酸の濃度の算出は、例えば既知濃度の核酸を分析して得た検量線に基づいて行う。
また、特に核酸反応条件及び蛍光検出のための光学系の構成が同一であり、核酸の種類、濃度及び塩基長が一定である場合には、取得された蛍光の強度及びスペクトルから核酸の塩基配列及び高次構造についての情報を得ることができる。ここで高次構造とは、核酸の一本鎖構造あるいは二本鎖構造、ハイブリダイゼーションによる二本鎖形成の有無及び部位、二本鎖中のミスマッチの有無及び部位などを指す。核酸の塩基配列及び高次構造の解析は、例えば既知の塩基配列及び高次構造の核酸について予め取得された蛍光の強度及びスペクトルに基づいて行う。
[増幅反応後の核酸解析]
反応領域3において核酸の増幅反応を行った後、検出領域4において増幅された核酸の蛍光を検出することで、サンプル液に含まれる核酸のうち所定の核酸の種類、濃度、塩基長、塩基配列及び高次構造などを解析できる。
[電気泳動後の核酸解析]
また、反応領域3において核酸の電気泳動を行い、サンプル液に含まれる核酸の中から所定の核酸のみを分離して検出領域4に導入し、蛍光の強度及びスペクトルを検出することで、分離された核酸の種類、濃度、塩基長、塩基配列及び高次構造などを解析できる。
[ハイブリダイゼーション反応後の核酸解析]
さらに、実施例において詳しく説明するように、核酸と銅との複合体から発生する蛍光の強度及びスペクトルは、二本鎖核酸中のミスマッチの有無に依存して変化する。反応領域3において解析対象とする核酸をそのフルマッチ鎖プローブあるいはミスマッチ鎖プローブとハイブリダイゼーションさせ、生成した二本鎖核酸を検出領域4に導入する。そして、検出領域4において二本鎖の蛍光の強度及びスペクトルを検出し、これらに基づいて二本鎖核酸中のミスマッチの有無を判定すれば、解析対象核酸の塩基配列を解析できる。
ミスマッチ検出による塩基配列の解析は、特に遺伝子変異の検出や一塩基多型(SNPs)などの遺伝子多型の検出による種々の疾患リスクの診断のために有用である。プローブは、DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエート型オリゴヌクレオチド、BNA (LNA)などで構成できる。
[バイサルファイト反応後の核酸解析]
反応領域3において核酸のバイサルファイト反応を行った後、検出領域4において核酸の蛍光を検出することで、核酸の塩基配列中のシトシン(C)のメチル化の有無を解析できる。DNA分子のうちシトシン(C)は、細胞内のゲノム中においてメチル化されることが知られている。シトシン(C)のメチル化の有無は、バイサルファイト反応においてウラシル(U)に置換されるかどうかで検出することが可能である。
反応領域3において適切な条件下で核酸のバイサルファイト(亜硫酸水素塩)処理を行う。これにより、メチル化されていないシトシン(C)のみを選択的にウラシル(U)に変換できる。
核酸と銅との複合体に由来する蛍光は、ウラシルとチミンで強度が高く、シトシン及びメチル化シトシンでは検出されない(実施例参照)。従って、バイサルファイト処理によってサンプルに含まれる核酸中の非メチル化シトシンを選択的にウラシルに変換した後、検出領域4においてサンプルから検出される蛍光の強度及び/又はスペクトルの変化量を調べることで、核酸中のシトシンのメチル化あるいは脱メチル化の有無及び量を解析できる。
メチル化解析は、バイサルファイト処理前のサンプル及び処理後のサンプルから検出される蛍光の強度及び/又はスペクトルを比較することによって行う。メチル化されていないシトシンの量が多いほど、バイサルファイト処理によって生じるウラシルの量が多くなるため、バイサルファイト処理前後のサンプルの蛍光を比較することにより、核酸中のシトシンのメチル化あるいは脱メチル化の有無及び量についての情報を得ることができる。
以上のように、本技術に係る核酸解析用マイクロチップ1aによれば、反応領域3における核酸反応後の核酸を検出領域4に導入し銅6と接触させるという簡便な操作によって、核酸を光学的に分析することができる。また、検出領域4に収容する銅6を配置が容易で安定的な固形銅とした場合には、核酸解析用マイクロチップ1aは、製造、保存及び使用が容易である。
2.本技術の第二実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ
(1)全体構成
図2は、本技術の第二実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ1bの構成を説明する模式図である。
核酸解析用マイクロチップ1b(以下、単に「マイクロチップ1b」とも称する)は、特に核酸の電気泳動を伴う解析のために用いられるものである。マイクロチップ1bには、反応領域3として、核酸の電気泳動のための泳動チャネル31,32が設けられている。また、マイクロチップ1bには、導入部2、検出領域4、反応領域3と検出領域4を接続する流路52が設けられている。なお、ここでは、検出領域4を折れ曲がった流路とする場合を示したが、検出領域4の形状は任意であり、マイクロチップ1aと同様に円柱状の領域であってもよい。
マイクロチップ1bにおいて、反応領域3以外の構成は、上述のマイクロチップ1aと同様とできる。以下、マイクロチップ1bの反応領域3の構成について詳しく説明する。
泳動チャネル31の一端は、導入部2とされ、電極311が配されている。また、泳動チャネル31の他端には、電極312が配されている。泳動チャネル32は、合流部33で泳動チャネル31と交差し、合流部34で流路52と交差している。泳動チャネル32の端部には、それぞれ電極321と電極322が配されている。なお、電極322は、合流部34に配することもできる。
合流部33と合流部34の間の泳動チャネル32には、電気泳動のためのゲルが充填される。あるいは泳動チャネル32の同部位には、ゲルの代替として電気泳動のためのナノピラー構造を設けるとともに、電気泳動用の緩衝液を満たしてもよい。ゲル及び緩衝液は、銅(II)イオンを安定化するキレート剤などの成分(例えば、EDTAやTrisなど)を含まないものを用いることが好ましい。緩衝液には、例えばHEPPSO, EPPS, POPSO, TAPS, PIPES, TAPS, CAPSなどのバッファーを用いることができる。なお、合流部34と電極322との間にもゲルもしくはバッファーを充填してもよい。
(2)核酸解析方法
まず、核酸を含むサンプル液を導入部2から泳動チャネル31に導入し、電極311に負,312に正の電圧を印加して、核酸の電気泳動を行う。このとき、核酸が合流部33から泳動チャネル32に侵入しないようにするため、電極321と電極322にも適当な負電圧を印加することとが望ましい。
次に、合流部33に存在する核酸を合流部34に向けて電気泳動させるために、電極321に負、電極322に正の電圧を印加する。このとき、電極311と電極312との間の核酸が合流部33から泳動チャネル32に流入し過ぎないようにするため、電極311と電極312にも適度な正電圧を印加しておくことが好ましい。
合流部34まで電気泳動された核酸は、開孔81から導入される緩衝液によって検出領域4へ運ばれ、検出領域4に配された銅と接触し、複合体を形成する。検出領域4では、上述のように、複合体から発生する蛍光の強度及びスペクトルを検出することで、分離された核酸の種類、濃度、塩基長、塩基配列及び高次構造などを解析できる。なお、検出領域4における解析後、核酸を含む緩衝液は、開孔91から排出される。
開孔81から導入する緩衝液も、銅(II)イオンを安定化するキレート剤などの成分を含まないものを用いることが好ましい。緩衝液には、例えば上述のHEPPSO, EPPS, POPSO, TAPS, PIPES, TAPS, CAPSなどのバッファーを用いることができる。あるいは緩衝液の代替としてバッファー成分を含まない水を用いてもよい。
核酸の電気泳動では、サンプル液に、塩を含まない緩衝液が用いられる。従って、マイクロチップ1aと同様に、検出領域4には、サンプル液と混合して溶解されたときの濃度が25mM以上、好ましくは50mM以上となるように塩を収容しておくことが好ましい。開孔81から継続的に緩衝液が導入される場合には、塩は徐放性を有する形態で収容されることが好ましい。
検出領域4には、サンプル液と塩との混合促進するための構造を設けてもよい。図2では、検出領域4を折れ曲がった流路とすることで混合を促進する例を示した。この他、検出領域4を構成する流路の流路幅及び/又は深さを部位によって変化させることで混合を促進することもできる。
塩は、開孔81から導入される緩衝液に、上記濃度で含ませてもよい。ただし、開孔81から導入される緩衝液に含まれる塩が、泳動チャネル32における電気泳動に好ましくない影響を与える場合がある。この場合には、塩は検出領域4に配置するか、又は流路52のうち合流部34から検出領域4までの間の部位に配置する。開孔81から継続的に緩衝液が導入される場合には、塩は徐放性を有する形態で配置されることが好ましい。
3.本技術の第三実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ
図3は、本技術の第三実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ1cの構成を説明する模式図である。
核酸解析用マイクロチップ1c(以下、単に「マイクロチップ1c」とも称する)も、マイクロチップ1bと同様に核酸の電気泳動を伴う解析のために用いられるものである。マイクロチップ1cは、流路52のうち合流部34から検出領域4までの間の部位に、一端に開孔82を有する流路53が接続されている点でマイクロチップ1bと異なっている。
開孔82及び流路53は、流路52に塩溶液を導入するために機能する。マイクロチップ1cでは、開孔81から導入される緩衝液に、開孔82及び流路53から導入される塩溶液を添加することができる。このため、マイクロチップ1cでは、開孔81から導入される緩衝液に塩を含有させる必要がなく、開孔81から導入される緩衝液に含まれる塩が泳動チャネル32における電気泳動に好ましくない影響を与えるのを防止できる。また、マイクロチップ1cでは、開孔82から継続的に塩溶液を導入できるため、開孔81から継続的に緩衝液が導入される場合にも、検出領域4における塩濃度を適切な値に維持し易い。
4.本技術の第四実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ
図4は、本技術の第四実施形態に係る核酸解析用マイクロチップ1dの構成を説明する模式図である。
核酸解析用マイクロチップ1d(以下、単に「マイクロチップ1d」とも称する)も、マイクロチップ1b、1cと同様に核酸の電気泳動を伴う解析のために用いられるものである。マイクロチップ1dは、マイクロチップ1cにおける開孔82に替えて、流路52に送液される塩溶液を貯蔵する塩溶液タンク83を備える。また、マイクロチップ1b、1cにおける開孔91に替えて、検出領域4における解析後の核酸を含む緩衝液を貯留する廃液タンク92を備えている。
本技術に係る核酸解析用マイクロチップは以下のような構成をとることもできる。
(1)反応領域と、検出領域と、が設けられ、前記検出領域に銅が収容されている核酸解析用マイクロチップ。
(2)前記銅が固形銅である上記(1)記載の核酸解析用マイクロチップ。
(3)前記検出領域に塩が収容されている上記(1)又は(2)記載の核酸解析用マイクロチップ。
(4)前記塩の収容量が、核酸を含むサンプル液を前記検出領域へ導入した後の終濃度で50mM以上となるように設定されている上記(3)記載の核酸解析用マイクロチップ。
(5)前記固形銅が、前記検出領域内にスパッタリング、蒸着又は塗布されている上記(2)〜(4)のいずれかに記載の核酸解析用マイクロチップ。
(6)前記塩が、塩化ナトリウム又は塩化カリウムである上記(3)又は(4)記載の核酸解析用マイクロチップ。
(7)前記反応領域が、前記核酸の増幅反応、電気泳動、ハイブリダイゼーション反応又はバイサルファイト反応の反応場である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の核酸解析用マイクロチップ。
(8)前記反応領域への前記サンプル液の導入部と、前記反応領域と前記検出領域とを接続する流路と、を有する上記(7)記載の核酸解析用マイクロチップ。
実施例1では、Cu(II)イオンをアスコルビン酸で還元することでCu(I)イオンを発生させた溶液中に核酸を混合すると、一定の条件下にて紫外線照射に対してオレンジ色の蛍光が発せられることを示した。
<材料と方法>
銅:CuSO4水溶液と(+)-Sodium L-ascorbate(以下、「S.A.」と表記する)は、Sigma-Aldrichより購入した。
核酸:BioDynamics laboratory Inc. (Tokyo, Japan)より購入したSonicated Salmon Sperm DNA(以下、「ssDNA」と表記する)を用いた。また、オリゴDNAには、Invitrogen社より購入したカスタムオリゴを用いた。
緩衝液(バッファー):DOJINDO Laboratories(Kumamoto, Japan)より購入したHEPPSOを、メーカー提供のプロトコルに準じてpH8.5に調製して用いた。
蛍光測定器:NanoDrop 3300(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA, USA)又はF-4500形分光蛍光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いた。NanoDrop 3300の励起光にはUV LED光源を用い、励起光で励起した際の蛍光スペクトルを計測した。
付属のソフトウェアを用いて、スペクトル強度が最大となる波長でのRelative Fluorescence Units(RFU)をピークRFU値として取得した。F-4500形分光蛍光光度計には、Helix Biomedical Accessories, Inc.社製の石英キャピラリーと専用アダプターセルを使用した。なお以下で特に断りがない場合は、NanoDrop3300を使用した。
吸光測定器:NanoDrop 1000 Spectrophotometerを用いて吸収スペクトルを計測した。
サンプル調製と蛍光測定:50mMのHEPPSOバッファーに、塩化ナトリウム(250mM)、CuSO4(0〜4mM)、S.A.(4, 50mM)、ssDNA(1mg/ml)あるいはオリゴDNA(50, 250, 500μM)を混合してサンプル20μlとした。なお、S.A.は混合液中においてCuSO4から生じるCu(II)イオンをCu(I)イオンに還元する作用を有することが知られている(非特許文献31参照)。
<結果>
ssDNAについて、S.A.濃度50mMの条件下でCuSO4の濃度を変化させて取得された蛍光スペクトル及びRFU値を、図5及び図6にそれぞれ示す。(A)は蛍光スペクトルを示し、(B)はピークRFU値を示す。
オリゴDNAについて、CuSO4濃度0.4mM、S.A.濃度4mMの条件下で取得された蛍光スペクトルを、図7及び図8に示す。オリゴDNA濃度は、20, 10, 6, 3塩基長のものについてそれぞれ50, 50, 250, 500μM, とした。図7は、配列番号1〜6に記載の塩基配列からなるオリゴDNAの結果を示す。横軸は波長を示し、(A)の縦軸は各波長でのRFU値、(B)の縦軸は各波長でのRFU値をRFUの最大値で除した値を示す。図8は、配列番号2に記載の塩基配列からなるオリゴDNA(以下、T(20)と表記する)の結果(A)、配列番号10に記載の塩基配列からなるオリゴDNA(T(6))の結果(B)、配列番号12に記載の塩基配列からなるオリゴDNA(T(3))の結果(C)、配列番号11に記載の塩基配列からなるオリゴDNA(A(3))の結果(D)を示す。横軸は波長を示し、縦軸は各波長でのRFU値を示す。
図に示されるように、核酸の塩基配列に依存して蛍光スペクトルのパターン(ピーク波長や強度)が変化していることが確認された。
次に、T(20)、T(6)、T(3)のオリゴDNAについて、CuSO4濃度0.4mM、S.A.濃度4mMの条件下で蛍光スペクトル及び吸収スペクトルの経時変化を測定した。S.A.の添加は、初回の蛍光スペクトル及び吸収スペクトルの測定直前に行い、その後、8, 14, 24, 35分後に蛍光スペクトルあるいは吸収スペクトルの測定を行った。結果を図9及び図10に示す。図9上段は縦軸をRFU値(絶対値)とした蛍光スペクトル、中段は縦軸をRFU値(相対値)とした蛍光スペクトル、下段は吸収スペクトルを示す。図10は、ピークRFU値の経時変化(A)と、波長346nmにおける吸光度の経時変化(B)を示す。
図に示されるように、T(20)、T(6)、T(3)の全てのオリゴDNAで、30分を経過後、蛍光がほとんど消失した。特に、塩基長が短いオリゴDNAでは、蛍光の消失が早かった。35分後の蛍光スペクトルの測定直後に、サンプルに44mMのS.A.溶液を1.8μl再添加し測定を行ったところ、蛍光を再度検出できた。このことから、蛍光の消失は、Cu(I)イオンのCu(II)イオンへの酸化によるものと考えられた。なお、T(6)及びT(3)のオリゴDNAの蛍光スペクトルでは、ピーク強度の減少とともに、短波長側に新たなピークの出現がみられた。
一方、各オリゴDNAの吸光スペクトルについても経時的にピーク強度の減少が認められた。吸光スペクトルの減衰は、蛍光スペクトルの減衰に比して緩徐であった。
T(20)、T(6)、T(3)のオリゴDNAについて、F-4500形分光蛍光光度計で取得した2次元蛍光スペクトルを、それぞれ図11(A)〜(C)に示す。また、図12に、各オリゴDNAでの励起スペクトル(破線)と蛍光スペクトル(実線)を示す。スペクトルの測定は、蛍光波長については1nm間隔、励起波長については2nm間隔で行った。
図に示されるように、オリゴDNAの塩基長に依存して蛍光スペクトルのパターンが異なることが確認される。また、励起スペクトルについても、塩基長に依存してパターンが異なっていることが確認された。
塩基配列とスペクトルとの関係をさらに調べるため、配列番号11〜18に記載する、アデニン(A)及びチミン(T)の組み合わせによってなる3塩基長の配列からなるオリゴDNAについて、蛍光の計測実験を行った。結果を、図13及び図14に示す。図13の横軸は波長を示し、(A)の縦軸はNanodropで計測した各波長でのRFU値、(B)の縦軸は各波長でのRFU値をRFUの最大値で除した値を示す。図14には、RFUの最大値及びピーク波長を3回計測して得た平均値及び標準誤差を示す。
図に示されるように、オリゴDNAの塩基配列によって蛍光の強度やピーク波長が変化することが確認された。
配列番号19及び配列番号20に記載する配列からなるオリゴDNAについて同様の計測を行った結果を、図15に示す。ウラシル(U)を含む配列番号20に記載する配列からなるオリゴDNAでは、チミン(T)のみを含む配列番号19に記載する配列からなるオリゴDNAと比較して、蛍光強度が微弱であるものの、類似のスペクトル形状及びピーク位置の蛍光を発することが確認された。
<考察>
本実施例では、CuSO4とS.A.を混合した、塩化ナトリウムを含むHEPPSOバッファー溶液中にDNAを混合すると、紫外線照射によって波長500nm〜700nm程度のオレンジ色の蛍光が観察されることを示した。また、蛍光の強度はCuSO4濃度に依存し、蛍光強度及びスペクトルは核酸の塩基配列による影響も受けることが確認された。
蛍光は少なくともチミン(T)、アデニン(A)もしくはウラシル(U)を含むオリゴDNAより確認された。また、チミン(T)とアデニン(A)よりなる3塩基長のオリゴDNAを用いた実験からは、いずれの配列からも蛍光は観察され、しかもその蛍光強度及びスペクトルには、チミン(T)ないしアデニン(A)の量のみでなく、それらのオリゴDNA上における位置(配列順序)も影響することが示された。
また、S.A.添加後に時間が経過すると、蛍光強度は経時的に減衰したが、これはS.A.再添加により回復した。ところでCu(I)イオンは酸素存在下では非常に不安定で、S.A.による還元の効果が消えると速やかにCu(II)や固形の銅に変化する。このことから、蛍光は、Cu(I)イオンと核酸との複合体から発生するものであると考えられた。また、銅と核酸との作用による蛍光を検出するためには、反応溶液と空気中の酸素との接触を極力避けることが望ましいと考えられた。
実施例2では、核酸を含む水溶液と固体の銅とを接触させると、一定条件の下で紫外線照射に対し、実施例1で観察されたのと同様のオレンジ色の蛍光が発せられることを示した。
<方法と材料>
核酸に接触させる銅として、和光純薬工業株式会社製の銅粉末(Copper, Powder, -75um, 99.9% / Cat.No.030-18352 / Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)を用いた。
RNAとしては、Rat Brain Total RNA (Cat.No.636622, Takara Bio Inc., Otsu, Japan)を使用し、これをDEPC treated water (Cat.No.312-90201/Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Japan)に溶解したものを用いた。
PIPES, ACES, BES, TAPSO, HEPPSO, EPPS, TAPS, CAPS, TES, Tricine及びPOPSOはDOJINDO Laboratories(Kumamoto, Japan)より購入したものを用い、メーカー提供のプロトコルに準じてpHを調整して用いた。その他の試薬は実施例1と同じものを用いた。
核酸と銅との接触は、総量40マイクロリットルの水溶液中に、各種の核酸、塩、及び銅粉末を混合し、15分間攪拌することにより行った。加えた銅粉末の量は、特に断りがない限り水溶液1mlに対して375mgとした。また塩の量は、特に断りがなければ500mMの塩化ナトリウム(NaCl)とした。
サンプルを遠心機にかけて銅粉末を沈殿させた後、その上清について蛍光のスペクトルと強度の計測を行った。蛍光スペクトルと強度の測定は、実施例1と同様の手順で行った。
<結果>
1.5 mg/mlのssDNAを加えた反応溶液について、蛍光測定を3回行った結果を図16に示す(横軸:波長、縦軸:RFU)。図に示されるように、核酸を含むサンプルを固形の銅と接触させた後にUV励起すると、サンプルから600nm付近をピークとする蛍光が検出できた。
次に、銅粉末の量を反応液1mLに対して375mg、250mg、125 mg、62.5 mg、37.5 mg、12.5 mg及び0 mgとした反応溶液に1.5 mg/mlのssDNAを加え、蛍光測定を3回行った結果を図17に示す。図に示されるように、蛍光強度は、銅粉末の量に依存した。本実施例で用いたCu粉末では、37.5 mg/ml以上の量があれば明白な蛍光が観察された。一方、12.5 mg/ml以下では明白な蛍光は確認されなかった。
続いて、反応溶液中の塩の種類及び濃度を変更し、1.5 mg/mlのssDNAを加えた場合に検出される蛍光強度を比較した。結果を図18に示す。(A)は濃度0.5、0.25、0.1、0.05、0.025、0Mの塩化ナトリウム(NaCl)を添加した反応溶液で検出された蛍光の強度を示す。(B)は0.45M塩化ナトリウム(NaCl)、0.45M塩化カリウム(KCl)、0.45M塩化マグネシウム(MgCl2)及び45%エタノール(EtOH)を添加した反応溶液で検出された蛍光の強度を示す。蛍光強度は604nmにおけるRFUを示し、各々3回ずつ測定を行った結果の平均及び標準誤差を図示した。図に示されるように、蛍光強度は、塩化ナトリウム濃度に依存した。また、塩化ナトリウムのほか、塩化カリウムや塩化マグネシウムを共存させた場合においても、蛍光が検出された。
図19には、反応溶液に添加する核酸濃度を変化させた場合に検出される蛍光強度を比較した結果を示す。(A)は、反応液中に5、2.5、1、0.5、0.25、0.1、0.05、0 mg/mlのssDNAを加えて検出された蛍光の強度を示す。(B)は、反応液中に2.5、0.25、0 mg/mlのRNA加えて検出された蛍光の強度を示す。横軸は核酸濃度を示し、縦軸は蛍光波長604nmにおけるRFUを示す。計測は3回行った。なお、塩化ナトリウム(NaCl)濃度は0.25M、銅粉末の量は1mlに対して200mgの割合とし、以下の実験でも特に断りがなければこの条件を用いた。図に示されるように、蛍光強度は、DNA濃度及びRNA濃度に依存した。
次に、配列番号1,2,5,6,9に記載する、異なる配列よりなるオリゴDNAを0.1mM添加した反応溶液について蛍光測定を行った。結果を図20に示す。(A)の縦軸はNanodropで計測したRFU値、(B)の縦軸はピーク高さを1とした相対値でのRFU値を示す。図に示されるように、蛍光強度及びピーク波長は、塩基配列の影響を受けた。特にチミン(T)の割合が高いと蛍光強度が強く、ピーク波長が長めになる傾向があることが確認できた。
配列番号1,2,5,6に記載する配列よりなるオリゴDNAを添加した反応溶液については、F-4500形分光蛍光光度計を用いた計測も行った。図21は、360nm(スリット幅10nm)の励起光を照射した際の、400nm〜700nmにおける蛍光スペクトル(スリット幅2.5nm)を計測した結果である。ここでも、チミン(T)及びアデニン(A)の組み合わせによりなる配列では、チミン(T)の割合が高いと蛍光強度が強く、ピーク波長が長めになる傾向があることが確認できた。図22は、励起光を330nm〜390nm(スリット幅3nm)及び400nm〜700nm(スリット幅2.5nm)でスキャンして励起−蛍光スペクトルを計測した結果である。(A)は3次元表示、(B)は等高線表示を示す。軸EXは励起波長(nm)、軸EMは蛍光波長(nm)を示し、高さ方向が蛍光強度を示す。これらの結果から、DNAの塩基配列の違いによって励起及び蛍光のスペクトル及び強度が変化することを読み取ることができた。
塩基配列とスペクトルとの関係をさらに調べるため、配列番号21〜26に記載する、8塩基のシトシン(C)と12塩基のチミン(T)の組み合わせ配列からなるオリゴDNAについて、蛍光の計測実験を行った。結果を図23に示す。図に示されるように、オリゴDNAの塩基組成が同じであっても配列が異なる場合、蛍光強度が異なった。
次に、ミスマッチを含む二本鎖のDNAについて、蛍光スペクトルのパターンを計測する実験を行った。二本鎖DNAには、配列番号1に示す配列からなるオリゴDNAと配列番号2に示す配列からなるオリゴDNAの混合物((e)+(f))、配列番号5に示す配列からなるオリゴDNAと配列番号2に示す配列からなるオリゴDNAの混合物((d)+(f))、及び配列番号1に示す配列からなるオリゴDNAと配列番号6に示す配列からなるオリゴDNAの混合物((e)+(c))、の3種類を用いた。いずれのオリゴDNAも、最終濃度0.5 mg/mlで混合した。結果を図24に示す。(A)の縦軸はNanodropで計測したRFU値を示し、(B)の縦軸はピーク高さを1とした相対値でのRFU値を示す。横軸は波長(nm)を示す。図に示されるように、二本鎖DNAでは一本鎖と比較すると蛍光強度は低くなっているが、チミン(T)にミスマッチが入った二本鎖DNAで強い蛍光が確認された。
反応溶液のバッファーの種類及びpHを変更した場合に検出される蛍光強度を比較した。結果を図25に示す。(A)は、ssDNAを含むサンプル(+)及び核酸を含まないサンプル(−)における、各バッファー条件下でのピークRFU値の相対値を示す。(B)は、配列番号1に示す配列からなるオリゴDNAを含むサンプルにおける同条件下でのピークRFU値の相対値を示す。(C)は配列番号2に示す配列からなるオリゴDNAを含むサンプルにおける同条件下でのピークRFU値の相対値を示す。各バッファーの濃度は50mMとし、ssDNAの終濃度は0.5 mg/ml 、オリゴDNAの終濃度は25mMとした。なお、ピークRFU値の相対値とは、バッファーを含まない条件下で計測したピークRFU値を1とした相対値を表す。蛍光強度は、バッファーの種類に依存した。また、いずれのバッファーにおいても核酸が存在しない場合には蛍光はほとんど検出されなかった。
<考察>
本実施例の結果から、核酸を固形の銅粉末と接触させた場合にも、適切な塩濃度などの条件下において、核酸をCu(I)イオンと接触させた場合と同様に、蛍光を検出できることが示された。イオンによる場合と固形の銅による場合では、波長特性や配列依存性などの性質がほぼ同一であることから、これらで観察されている蛍光は同じメカニズムによるものと考えられた。また、核酸としてRNAを用いても蛍光が観察された。さらに、二本鎖DNAにおいては、特にチミン(T)にミスマッチが存在している場合に強い蛍光が観察された。このことから、相補配列との結合は、核酸の銅との結合による蛍光体の形成に対して阻害要因となる可能性が示唆された。また、ミスマッチ部位での蛍光強度の上昇は、核酸の塩基配列に含まれる変異を検出する方法への応用が可能と考えられた。
また、各種バッファー条件での蛍光を比較した実験では、PIPES, BES, HEPPSO, EPPS, TAPS, CAPS, TES, POPSOのバッファー中で蛍光が観察され、特にPIPES, HEPPSO, EPPS, POPSOのバッファーで強い蛍光が検出された。蛍光は、pH範囲7.0〜10.5の範囲で観察することができた。バッファーの種類とpHに依存した蛍光強度の変化は、核酸の塩基配列に応じて異なるパターンを示すことが見出された。一方、Cu(II)イオンをキレートして安定化する性質を有するバッファーを含む溶液中では蛍光が観察されない傾向が認められ、本実施例中にデータは掲載していないが例えばトリスバッファーや、EDTAなどを含む反応液を用いた場合では、蛍光はほとんど観察されなかった。
実施例3では、ガラス表面にスパッタリングした銅に核酸を接触させた後に蛍光が検出できることを確認し、蛍光の特性を解析した。
<材料と方法>
DNAは実施例1に記載のssDNAを、RNAは実施例2に記載のものを用いた。
ガラス表面への銅スパッタリングは、装置にULVAC, Inc. (Kanagawa, Tokyo)のSH-350を用い、Cu Target, 99.99% (Kojundo Chemical Laboratory Co., Ltd, Saitama, Japan)を装着して実施した。スパッタリングの厚みは40 nmとし、事前に計測した堆積速度をもとに適切なスパッタ時間を定めた。銀スパッタガラスとしては、株式会社協同インターナショナル (Kyodo International, Inc., Kanagawa, Japan)に作製のものを用いた。
銅ないし銀をスパッタしたスライドガラス、もしくは未処理のスライドガラスに、サンプル溶液をのせて、その上から松浪硝子工業株式会社製のギャップカバーガラス(Gap cover glass, 24x25 No.4 / #CG00024 / Matsunami Glass Ind., Ltd., Osaka, Japan)を被せた。5分程度静置した後、蛍光の観察を行った。観察には、Nikon社製の倒立顕微鏡 Ti-U (Nikon Co., Tokyo, Japan)を使用し、蛍光撮影には、フィルタセットUV-1A (Ex: 365/10, DM: 400, BA: 400 / Nikon)を使用した。画像の撮影及び記録にはデジタルCCDカメラRetiga 2000R (QImaging, BC, Canada)及び20倍の対物レンズを使用した。
<結果>
5 mg/mlのDNA及び0.5MのNaClを含むサンプルを、銅スパッタガラス上に5分間静置した後に撮影した画像を図26に示す。また、5 mg/mlのRNA及び0.5MのNaClを含むサンプルを、銅スパッタガラス上に5分間静置した後に撮影した画像を図27に示す。
図26(A)に示すように、DNAを含むサンプルを用いた場合には、撮像領域全体から滑らかな蛍光が観察された。一方、図27(A)及び(B)に示すように、RNAを含むサンプルを用いた場合には、撮像領域内に波状に広がる、特有のパターンの蛍光が観察された。このRNAに特有のパターンは、一本鎖のRNAが互いにハイブリダイズして高次構造を形成したことが要因と予想された。
次に、撮像領域内の蛍光強度を数値化した。撮影した各々の画像において、図26(B)に例示ように9分割し、中央部の9分の1区画(図中符号C部分)の領域を計測範囲として、計測範囲内の蛍光強度の平均値を算出した。各サンプルについて、スライド上の任意の5ヶ所を撮影し、各画像から上記平均値を算出した。得られた5つの平均値について、さらに平均と標準偏差を計算した。
DNAあるいはRNAを含むサンプルをガラス上にスパッタリングした銅あるいは銀に接触させた場合に取得された蛍光強度を図28に示す。図中、「DNA/Cu」、「RNA/Cu」、「(-)/Cu」は、それぞれ5 mg/ml DNA含むサンプル、5 mg/ml RNA含むサンプル、核酸を含まないサンプルについて、Cuスパッタガラス上で蛍光強度を計測した結果である。また、「DNA/Ag」、「RNA/Ag」、「(-)/Ag」は、それぞれ5 mg/ml DNA、5 mg/ml RNA、核酸を含まないサンプルについて、Agスパッタガラス上で蛍光強度を計測した結果である。なお、各サンプルには、0.5MのNaClを含有させた。また、「DNA/Cu」は、他と比較して蛍光強度が特に大きいため、露光時間を1秒とした。その他の露光時間は、5秒とした。
図に示されるように、Cuスパッタガラスでは、「(-)/Cu」と比較して「DNA/Cu」及び「RNA/Cu」の蛍光強度が高く、特にDNAサンプルにおいて強い蛍光が検出された。一方、Agスパッタガラスでは、「(-)/Ag」と比較して「DNA/Ag」及び「RNA/Ag」ともに蛍光強度の上昇を示さなかった。なお、「(-)/Cu」と比較して「(-)/Ag」の方が高い計測値を示しているが、これはAgスパッタ面の反射光又は散乱光あるいは自家蛍光に由来するバックグラウンドが原因と考えられた。
次に、核酸と銅との接触時間の経過に伴う蛍光強度の時間的変化を検討した。Cuスパッタガラスとギャップカバーガラスの間に、5 mg/mlのssDNAと0.5MのNaClを含むサンプルを入れた時点を起点とし、所定時間の経過ごとに蛍光強度の計測を行った。撮影は15秒おきに行い、励起光のシャッタは撮影ごとに開閉した。対物レンズは10倍、露光時間は1秒とした。各時間において撮像した画像を1枚ずつ用いて、蛍光強度の計測を行った。結果を図29に示す。
図に示されるように、蛍光強度は、サンプル導入後の数分間で徐々に上昇し、3分程度で最大値に達した。
続いて、核酸と銅とを接触させて所定時間が経過した後、温度を変化させた場合の蛍光強度の変化を計測した。撮影開始直後は室温のままとし、50秒後に65℃に熱したヒートブロックをCuスパッタガラスの上に静かに載せ、100秒後にそのヒートブロックを除去した。撮影は5秒おき行った。計測は150秒後に一度打ち切って励起光のシャッタを閉じた。さらに、900秒後に改めて計測を行った。結果を図30に示す。
図に示されるように、最初の50秒間は、徐々に蛍光強度が減衰した。これは蛍光退色によるものと考えられた。次の50秒間では、蛍光退色とは明らかに異なる速度で蛍光の消失が観察された。ヒートブロックを除去して室温条件下に戻した後は徐々に蛍光が回復した。さらに、900秒後では、当初の蛍光強度から退色分の蛍光強度を差し引いた水準にまで蛍光強度が戻った。これらの結果から、銅と接触した核酸が発する蛍光は、熱に対して感受性であり、温度が上昇すると可逆的に蛍光が消失することが示された。
実施例4では、銅スパッタガラス上に、細胞を含むサンプルを導入することで、細胞核の蛍光観察が可能であることを示した。
<材料と方法>
PBSには、Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline, Ca/Mg free (Invitrogen Corporation, CA, USA)を用いた。
タマネギ薄皮の実験では、市販のタマネギの薄皮を、ピンセットを用いて丁寧に剥がして、蒸留水中に浸してすすいで用いた。タマネギの薄皮をCuスパッタガラス上に載せ、PBSに浸した状態で上からカバーガラスを被せて観察した。
ヒト白血球サンプルの実験では、IMMUNO-TROL Cells (Cat.No.6607077, Beckman Coulter, Inc., Fullerton, CA, USA) を次の手順で処理したものを用いた。まず、IMMUNO-TROL Cellsを、500マイクロリットル取り分けてPBSで洗浄し、遠心分離機で細胞を沈殿させた(1200rpm,5min)。その後、上清を捨ててペレットをほぐし、水溶血処理を2回繰り返して得られたサンプルをPBSに希釈し、白血球サンプルを調製した。水溶血処理は、遠心分離の結果得られたペレットを良くほぐした後に、脱イオン水を9ミリリットル添加して30秒間転倒混和し、さらに1ミリリットルの10x PBS Buffer (Nippon Gene Co., Ltd.,Tokyo, Japan)を添加してよく攪拌し、遠心分離 (1200rpm, 5min)で細胞を沈殿させて上清を除去することにより行った。白血球サンプルをCuスパッタガラス上に撒き、上からカバーガラスを被せて観察した。
銅スパッタガラス、カバーガラス及び顕微鏡などは、実施例3と同一のものを用いた。スパッタリングの厚みは、20、40あるいは100 nmとした。以下の実験では特に断りがない場合は40 nmのものを用いた。スライドガラス表面の一部にのみCuをスパッタリングする場合には、まず、スライドガラス表面に、中央部5ミリメートル四方の領域を除いて、ポリイミドテープを貼付した状態でスパッタリング処理を行った。そして、ポリイミドテープを除去することで、中央部5ミリメートル四方の領域のみにCu層が形成されたCuスパッタガラスを作成した。
タマネギ薄皮の蛍光観察には、励起フィルタ:365/10nm、ダイクロイックミラー:400nm、蛍光フィルタ:590LPを使用した。白血球サンプル及びジャーカット細胞の蛍光観察には、フィルタセットUV-1A (Ex: 365/10, DM: 400, BA: 400 / Nikon)を使用した。
<結果>
図31に、銅スパッタガラス上でタマネギ薄皮を蛍光観察して撮像した画像を示す。(a)及び(b)はCuスパッタガラス上での観察像を示し、(c)及び(d)はCuをスパッタしていないスライドガラス上での観察像を示す。(a)及び(c)は明視野の観察像、(b)及び(d)は蛍光像である。なお、(a)〜(d)は10倍の対物レンズを用いて撮像した画像であり、(e)は40倍の対物レンズを用いて撮像した画像である。
図に示されるように、Cuスパッタガラス上の細胞では、細胞核に特異的な強い蛍光が観察された。なお、一部の細胞壁などからも若干の蛍光が確認されたが、これはCuをスパッタしていないスライドガラス上の細胞でも確認されたことから、細胞壁などの自家蛍光と考えられた。
次に、動物細胞の観察を行った。銅スパッタガラス上でヒト白血球サンプルを蛍光観察して撮像した画像を図32に示す。(a)は明視野の観察像、(b)は蛍光像である。対物レンズには40倍のものを用いた。
蛍光像において、好中球などの白血球に特有な分葉核の形状が明確に確認された。
図33には、スライドガラス表面の一部にのみCuをスパッタリングしたCuスパッタガラスを用いて観察された像を示す。Cuスパッタガラス上に、ヒト白血球細胞株であるジャーカット細胞を撒き、上からカバーガラスを被せて、20倍の対物レンズで観察を行った。画像は、CuスパッタガラスのCu積層領域とCu非積層領域との境界で撮像した。(a)及び(c)は明視野の観察像であり、画像中の過半を占める黒い領域は、Cu層が形成されているため光が透過しない領域である。(b)及び(d)は蛍光像である。
Cu積層領域に存在する細胞の細胞核のみから強い蛍光が観察された。図34は、厚み20nm(a)あるいは100 nm(b)のCu層を形成したCuスパッタガラスを用いて、ジャーカット細胞の観察を行った結果である。いずれの厚みにおいても細胞核からの蛍光が確認された。
<考察>
本実施例の結果から、細胞核についても銅との接触によって蛍光検出が可能となることが示された。この現象は、銅をスパッタリングしたガラス基板上でのみみられたこと、細胞核と銅との作用による結果であることは明らかである。
また、タマネギ薄皮細胞と白血球細胞の蛍光観察の結果、両者の細胞の細胞核形状の相違を明確に観察できた。このことから、本技術に係る核酸検出方法によれば、細胞の種類ごとに異なる細胞核形状を識別可能であることが示された。
実施例中に図では示さなかったが、スライドガラス表面の一部にのみ銅をスパッタしたスライドガラスを用いた実験において、Cu積層領域に存在する細胞のみから蛍光が観察される様子を確認したのち、スライドガラスを傾けてCu積層領域からCu非積層領域に細胞を移動させたところ、移動後にも引き続き蛍光が観察された。このことから、銅と細胞を接触させる部位と、細胞の蛍光観察を行う部位とを離して設けても、両部位の間にサンプルを移動させる手段を設けることによって蛍光検出が可能であることが判明した。
Cuスパッタガラスとカバーガラスの間に細胞が存在する状態で細胞核からの蛍光を確認した後に、カバーガラスを取り除いて細胞を含む溶液を空気中に暴露すると、蛍光が速やかに消失した。実施例1のCu(II)イオンとS.A.を用いた実験においても、反応溶液が空気に長時間暴露されると蛍光が消失することが見出されている。この蛍光の消失は、空気との接触によってCu(I)イオンが酸化されるためと考察された。従って、サンプル溶液の空気との接触(特に空気中に含まれる酸素への暴露)は、蛍光の発生を阻害する要因となると考えられ、本技術に係る核酸検出方法は、例えばマイクロチップなどの、空気との接触が限定された環境下で行うことが好ましいと考えられた。
実施例5では、実施例1と同様の実験条件下において、2塩基長のオリゴDNAを用いても蛍光が発せられることを確認した。
<材料と方法>
Invitrogen社より購入した7種類のオリゴDNAについて、実施例1と同様の材料と方法を用いて蛍光計測実験を行った。使用したオリゴDNAの配列は、T(20)(配列番号1)、T(10)(配列番号19)、T(6)(配列番号10)、T(5)(配列番号27)、T(4)(配列番号28)、T(3)(配列番号12)、T(2)(配列番号29)である。ここではCuSO4濃度は0.4mM、S.A.濃度は4mMとし、計測にはNanoDrop3300を使用した。
<結果>
図35に、T(20)についての測定結果を示す。オリゴDNAの濃度は、(a)100μM、(b)50μM、(c)50μM、(d)25μM、(e)12.5μM、(f)6.25μMである。各グラフは横軸が波長(nm)、縦軸が蛍光強度(RFU値)を示す。図36〜図41に、T(10), T(6), T(5), T(4), T(3), T(2)の各オリゴDNAについての測定結果を示す。各図のグラフ中に表記の数値は、オリゴDNAの濃度条件を示す。
図42に、各オリゴDNAについて、最も蛍光強度の高かった濃度条件での蛍光スペクトルを示す。横軸は波長(nm)を、縦軸は蛍光強度(RFU値)の相対値(ピークRFU値を1)を示す。(a)がT(20)、(b)がT(10)、(c)がT(6)、(d)がT(5)、(e)がT(4)、(f)がT(3)、(g)がT(2)の蛍光スペクトルを示す。
また、図43に、各オリゴDNAについて、各濃度におけるピークRFU値をプロットしたグラフを示す。横軸はオリゴDNAの濃度(μM)を、縦軸はピークRFU値(対数値)を示す。(a)がT(20)、(b)がT(10)、(c)がT(6)、(d)がT(5)、(e)がT(4)、(f)がT(3)、(g)がT(2)の結果を示す。
<考察>
本実施例の結果から、チミン2塩基からなる塩基配列のオリゴDNAでも、蛍光が観察されることが明らかとなった。蛍光スペクトルの形状は、オリゴDNAの濃度が変わってもほとんど変化しないが、塩基長が短くなるほど蛍光ピークが短波長側にシフトする傾向があることが見出された(図42参照)。また、蛍光スペクトルの強度は、オリゴDNAの濃度に依存する傾向が認められたが、一定濃度以上ではプラトーに達し、逆に減少する場合も観察された(図43参照)。なお、DNA濃度が高すぎる場合に蛍光強度が低下する現象は、実施例2の銅粉末を用いた実験でも観察されていた(図19参照)。
実施例6では、実施例1と同様の実験条件下において、TとC、あるいはTとGから構成される3塩基長のオリゴDNAを用いて実験を行った。
<材料と方法>
Invitrogen社より購入したオリゴDNAについて、実施例1と同様の材料と方法を用いて蛍光計測実験を行った。使用したオリゴDNAの配列は、TTT(配列番号12)、TTC、TCT、CTT、TCC、CTC、CCT、CCC、TTG、TGT、GTT、TGG、GTG、GGT、GGGである。CuSO4濃度は0.4mM、S.A.濃度は4mM、オリゴDNA濃度は0.5mMとし、計測にはNanoDrop3300を使用した。
<結果>
結果を図44及び図45に示す。図44の(a)がTTT(配列番号12)、(b)がTTC、(c)がTCT、(d)がCTT、(e)がTCC、(f)がCTC、(g)がCCT、(h)がCCCの結果を示す。図45の(a)がTTT(配列番号12)、(b)がTTG、(c)がTGT、(d)がGTT、(e)がTGG、(f)がGTG、(g)がGGT、(h)がGGGの結果を示す。横軸は波長(nm)を示し、縦軸は蛍光強度(RFU値)の対数値を示す。
TとCの混合配列のオリゴDNAでは、TTTで最も蛍光強度が強く、次いでCTT、CCT及びTCTであり、TTC及びCTCでは弱い蛍光が確認された(図44参照)。一方、TCC及びCCCでは、600nm付近をピークとする蛍光は認められなかった。また、TとGの混合配列のオリゴDNAでは、TTGで中程度の強度の蛍光、GTTにおいて微弱な蛍光が認められたが、その他の配列では600nm付近をピークとする蛍光は認められなかった(図45参照)。
<考察>
TとCの混合配列のオリゴDNAでは、2番目及び3番目にTが存在するCTTが、TCT及びTTCに比較して高い蛍光強度を示した。また、3番目にTが存在するTCT及びCCTが、2番目にTが存在するTTC及びCTCに比較して高い蛍光強度を示した。これらのことから、TとCの混合配列のオリゴDNAでは、3塩基目のTが最も蛍光への寄与が高く、次に2塩基目のTが寄与していると考えられた。
また、TとGの混合配列のオリゴDNAでは、TTG及びGTTを除いて、600nm付近をピークとする蛍光は認められず、CとTの混合配列のオリゴDNAと比較して全般的に蛍光強度が低かった。このことから、Gは、蛍光エネルギーを吸収し、蛍光をクエンチ(消光)する作用があるものと考えられた。
実施例7では、蛍光がクエンチ色素によってクエンチ(消光)されることを確認した。
<材料と方法>
Invitrogen社より購入したオリゴDNAであるT(10)(配列番号19)及び同オリゴDNAの3’末端にBlack Hole Quencher-2 (BHQ2)を修飾したオリゴDNA(T(10)BHQ2)(シグマ・アルドリッチ社)を用い、実施例1と同様の材料及び方法によって蛍光計測実験を行った。CuSO4濃度は0.4mM、S.A.濃度は4mM、オリゴDNA濃度は0.05mMとし、計測にはNanoDrop3300を使用した。
<結果>
結果を図46に示す。横軸は波長(nm)を、縦軸は蛍光強度(RFU値)を示す。T(10)からは明白な蛍光が確認されたが、クエンチャーを修飾したT(10)BHQ2からは蛍光は検出されなかった。
<考察>
BHQ2は560nm〜650nm程度の光を特に効果的に吸収することで知られるクエンチャーである。T(10)で観察されていた蛍光は、このBHQ2の効果によって、T(10)BHQ2では観察されなくなったものと考えられた。この結果から、銅の作用による蛍光とFRETとを組み合わせることが可能であることが示唆された。
実施例8では、チミン(T)及びウラシル(U)の蛍光の強度及びスペクトル形状の比較を再度行い、両者の強度が異なる一方、スペクトル形状は一致していることを確認した。さらに、メチル化シトシン(MeC)及びイノシン(I)の蛍光を調べ、両者が蛍光を生じないことを明らかにした。
<材料と方法>
各種のオリゴDNAについて、実施例1と同様の材料及び方法を用いて蛍光計測実験を行った。オリゴDNAには、Invitrogen社より購入したT(10)(配列番号19)、U(9)G(配列番号20)、A(10)(配列番号30)、I(9)G(配列番号31)を用いた。また、オリゴDNAとして、シグマ・アルドリッチ社より購入したC(10)(配列番号32)、C(4)MeC(6)(配列番号33、MeCは5-メチル2-デオキシシチジン)も用いた。CuSO4濃度は0.4mM、S.A.濃度は4mM、オリゴDNA濃度0.05mMとし、計測にはNanoDrop3300を使用した。
<結果>
T(10)及びU(9)Gの測定を各々3回行った結果を図47に示す。(a)は横軸を波長(nm)、縦軸を蛍光強度(RFU)としたグラフであり、(b)は縦軸に蛍光強度(RFU値)の平均値を相対値(それぞれのオリゴDNAのピークRFU値を1)で表示したグラフである。U(9)Gは、T(10)に比較して、強度は劣るが、類似したスペクトル形状の蛍光を発することが確認された。
T(10)、C(10)及びC(4)MeC(6)の測定結果を図48に示す。横軸は波長(nm)、縦軸は蛍光強度(RFU)を示す。T(10)からは顕著な蛍光が確認されたが、C(10)及びC(4)MeC(6)では、蛍光は確認されなかった。
T(10)、A(10)及びI(9)Gの測定結果を図49に示す。横軸は波長(nm)、縦軸は蛍光強度(RFU)を示す。T(10)からは顕著な蛍光が確認され、A(10)からは微弱な蛍光が確認されたが、I(9)Gからは蛍光は検出されなかった。
<考察>
ウラシルからなる配列を有する核酸では、チミンからなる配列を有する核酸に比して、強度は劣るが、類似したスペクトル形状の蛍光を発した。この結果は、実施例1においても確認されている。また、シトシンからなる配列、あるいはシトシンとメチル化シトシンとからなる配列を有する核酸は、蛍光を発しないことが確認された。
これらの結果から、銅を用いた蛍光の検出によって、ウラシルを、シトシン及びメチル化シトシンから識別可能であることが示された。このことは、本発明に係る核酸検出方法によれば、バイサルファイト反応によるシトシン(C)のウラシル(U)への置換を検出し、DNA分子のメチル化の解析を行うことが可能であることが示唆された。
本技術に係る核酸解析用マイクロチップは、簡便な操作で使用でき、長期に保管しても安定した性能を発揮できる。従って、本技術に係る核酸解析用マイクロチップは、医療分野、創薬分野、臨床検査分野、食品分野、農業分野、工学分野、法医学分野及び犯罪鑑識分野などの様々な分野における核酸解析に利用され得る。
1a,1b,1c,1d:核酸解析用マイクロチップ、2:導入部、3:反応領域、31,32:泳動チャネル、311,312,321,322:電極、33,34:合流部、4:検出領域、51,52:流路、6:銅、7:塩

Claims (13)

  1. 核酸を含みうるサンプルを固形銅と接触させる手順と、
    前記サンプルに塩を混合する手順と、
    前記サンプルから発せられる蛍光を検出する検出手順と、
    を含み、
    前記サンプルの塩濃度は前記塩と混合した後の終濃度で25mM以上に設定され、
    前記塩が塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化マグネシウムから選ばれる1種又は2種以上であり、且つ、
    前記固形銅がスパッタリング、蒸着、又は塗布されたものである
    前記サンプル中の核酸の検出方法。
  2. 固形銅がスパッタリング、蒸着、又は塗布された検出領域を含むマイクロチップ内において行われるものである、請求項1に記載の方法。
  3. 核酸反応を行って、前記核酸を含みうるサンプルを得る手順を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記核酸反応が、核酸の増幅反応、電気泳動、ハイブリダイゼーション反応、又はバイサルファイト反応である、請求項3に記載の方法。
  5. 前記検出された蛍光に基づき、前記サンプル中の核酸の種類、濃度、塩基長、塩基配列及び高次構造からなる群から選択される情報を得る手順をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記検出領域に塩が収容されており、当該塩の収容量が、前記核酸を含みうるサンプル液を前記検出領域へ導入した後の終濃度で25mM以上に設定されている、請求項2〜のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記検出された蛍光に基づき、前記サンプル中の核酸の有無についての情報を得る手順をさらに含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  8. 核酸を含みうるサンプルを固形銅と接触させる手順と、
    前記サンプルに塩を混合する手順と、
    前記サンプルから発せられる蛍光を検出する検出手順と、
    を含み、
    前記サンプルの塩濃度は前記塩と混合した後の終濃度で25mM以上に設定され、
    前記塩が塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化マグネシウムから選ばれる1種又は2種以上であり、且つ、
    前記固形銅がスパッタリング、蒸着、又は塗布されたものである
    前記サンプル中の核酸の解析方法。
  9. 固形銅がスパッタリング、蒸着、又は塗布された検出領域を含むマイクロチップ内において行われるものである、請求項に記載の方法。
  10. 核酸反応を行って、前記核酸を含みうるサンプルを得る手順を更に含む、請求項8又は9に記載の方法。
  11. 前記核酸反応が、核酸の増幅反応、電気泳動、ハイブリダイゼーション反応、又はバイサルファイト反応である、請求項10に記載の方法。
  12. 前記検出領域に塩が収容されており、当該塩の収容量が、前記核酸を含みうるサンプル液を前記検出領域へ導入した後の終濃度で25mM以上に設定されている、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 前記検出された蛍光に基づき、核酸の種類、核酸の濃度、核酸の塩基長、核酸の塩基配列、及び核酸の高次構造からなる群から選択される情報を得る手順をさらに含む、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。
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