以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。
まず、エンジン冷却水回路について説明する。エンジン2を出た80〜90℃程度の冷却水は、ラジエータ11を通る冷却水通路13と、ラジエータ11をバイパスするバイパス冷却水通路14とに別れて流れる。その後、2つの流れは、両通路13、14を流れる冷却水流量の配分を決めるサーモスタットバルブ15で再び合流し、さらに冷却水ポンプ16を経てエンジン2に戻る。冷却水ポンプ16はエンジン2によって駆動され、その回転速度はエンジン回転速度と同調している。
サーモスタットバルブ15は、冷却水温度が高い場合に冷却水通路13側のバルブ開度を大きくしてラジエータ11を通過する冷却水量を相対的に増やす。また、冷却水温度が低い場合に冷却水通路13側のバルブ開度を小さくしてラジエータ11を通過する冷却水量を相対的に減らす。エンジン2の暖機前など特に冷却水温度が低い場合には、完全にラジエータ11をバイパスさせることにより、冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れるようにする。一方、バイパス冷却水通路14側のバルブ開度は全閉になることはなく、ラジエータ11を流れる冷却水流量が多くなったときに、バイパス冷却水通路14を流れる冷却水の流量は、冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れる場合と比べて低下する。しかしながら、流れが完全に停止することがないようにサーモスタットバルブ15が構成されている。
ラジエータ11をバイパスするバイパス冷却水通路14は、第1バイパス冷却水通路24と、第2バイパス冷却水通路25とからなる。そして、第1バイパス冷却水通路24は冷却水通路13から分岐して後述の熱交換器36に直接接続している。一方、第2バイパス冷却水通路25は冷却水通路13から分岐して廃熱回収器22を経た後に熱交換器36に接続している。
バイパス冷却水通路14には、ランキンサイクル31の冷媒と熱交換を行なう熱交換器36を備える。この熱交換器36は加熱器と過熱器とを統合したものである。すなわち、熱交換器36には2つの冷却水通路36a、36bがほぼ一列に設けられている。また、冷媒と冷却水が熱交換可能なようにランキンサイクル31の冷媒が流れる冷媒通路36cが冷却水通路36a、36bと隣接して設けられている。さらに、熱交換器36の全体を俯瞰して見たときにランキンサイクル31の冷媒と冷却水が互いに流れ方向が逆向きとなるように各通路36a、36b、36cが構成されている。
詳細には、ランキンサイクル31の冷媒にとって上流(図1の左)側に位置する一方の冷却水通路36aは、第1バイパス冷却水通路24に介装されている。この冷却水通路36a及びこの冷却水通路36aに隣接する冷媒通路部分からなる熱交換器左側部分は、エンジン2から出た冷却水を冷却水通路36aに直接導入することで、冷媒通路36cを流れるランキンサイクル31の冷媒を加熱するための加熱器である。
ランキンサイクル31の冷媒にとって下流(図1の右)側に位置する他方の冷却水通路36bには、第2バイパス冷却水通路25を介して廃熱回収器22を経た冷却水が導入される。冷却水通路36b及びこの冷却水通路36bに隣接する冷媒通路部分からなる熱交換器右側部分(下流側)は、エンジン出口の冷却水を排気によって加熱した冷却水を冷却水通路36bに導入することで、冷媒通路36cを流れる冷媒を過熱する過熱器である。
廃熱回収器22の冷却水通路22aは排気管5に隣接して設けている。廃熱回収器22の冷却水通路22aにエンジン2の出口の冷却水を導入することで、冷却水を高温の排気によって例えば110〜115℃程度まで加熱することができる。廃熱回収器22の全体を俯瞰して見たときに、排気と冷却水とが互いに流れる向きが逆向きとなるように冷却水通路22aが構成されている。
廃熱回収器22を設けた第2バイパス冷却水通路25には制御弁26が介装されている。エンジン2の内部にある冷却水の温度が、例えばエンジンの効率悪化やノックを発生させないための許容温度(例えば100℃)を超えないように、エンジン2の出口の冷却水温度センサ74の検出温度が所定値以上になると、この制御弁26の開度を減少させる。これによって、エンジン2の内部にある冷却水の温度(エンジン水温)が許容温度に近づくと、廃熱回収器22を通過する冷却水量を減少させるので、エンジン水温が許容温度を超えてしまうことを確実に防ぐことができる。
一方、第2バイパス冷却水通路25の流量が減少したことによって、廃熱回収器22により上昇する冷却水温度が上がりすぎて冷却水が蒸発(沸騰)してしまったのでは、熱交換器36での効率が落ちる。これだけでなく、冷却水通路内の冷却水の流れが悪くなって温度が過剰に上昇してしまう恐れもある。これを避けるため、廃熱回収器22をバイパスするバイパス排気管6と、排熱回収器22の排気通過量とバイパス排気管6の排気通過量とをコントロールするサーモスタットバルブ7をバイパス排気管6の分岐部に設けている。すなわち、サーモスタットバルブ7は、そのバルブ開度が廃熱回収器22を出た冷却水温度が所定の温度(例えば沸騰温度120℃)を超えないように、廃熱回収器22を出た冷却水温度に基づいて調節される。
熱交換器36とサーモスタットバルブ7と廃熱回収器22とは、廃熱回収ユニット23として一体化されていて、車幅方向略中央の床下において排気管途中に配設されている(図示しない)。サーモスタットバルブ7は、バイメタル等を用いた比較的簡易な感温弁でも良いし、温度センサ出力が入力されるコントローラによって制御される制御弁であっても良い。サーモスタットバルブ7による排気から冷却水への熱交換量の調節は比較的大きな遅れを伴うため、サーモスタットバルブ7を単独で調節したのではエンジン水温が許容温度を超えないようにするのが難しい。しかしながら、第2バイパス冷却水通路25の制御弁26をエンジン水温(出口温度)に基づき制御するようにしてあるので、熱回収量を速やかに低減し、エンジン水温が許容温度を超えるのを確実に防ぐことができる。また、エンジン水温が許容温度までに余裕がある状態であれば、廃熱回収器22を出る冷却水温度がエンジン水温の許容温度を越えるほどの高温(例えば110〜115℃)になるまで熱交換を行って、廃熱回収量を増加させることができる。冷却水通路36bを出た冷却水は、第2バイパス冷却水通路25を介して第1バイパス冷却水通路24に合流されている。
バイパス冷却水通路14からサーモスタットバルブ15に向かう冷却水の温度が、例えば熱交換器36でランキンサイクル31の冷媒と熱交換することによって十分低下していれば、サーモスタットバルブ15の冷却水通路13側のバルブ開度が小さくされる。これによって、ラジエータ11を通過する冷却水量は相対的に減らされる。この逆にバイパス冷却水通路14からサーモスタットバルブ15に向かう冷却水の温度が、ランキンサイクル31が運転されていないことなどによって高くなると、サーモスタットバルブ15の冷却水通路13側のバルブ開度が大きくされる。これによって、ラジエータ11を通過する冷却水量は相対的に増やされる。このようなサーモスタットバルブ15の動作に基づいて、エンジン2の冷却水温度が適当に保たれ、熱がランキンサイクル31へ適当に供給(回収)されるように構成されている。
次に、ランキンサイクル31について述べる。ランキンサイクル31は、エンジン2の冷却水を介してエンジン2の廃熱を冷媒に回収し、回収した廃熱を動力として回生するシステムである。ランキンサイクル31は、冷媒ポンプ32、過熱器としての熱交換器36、膨張機37及び凝縮器(コンデンサ)38を備え、各構成要素は冷媒(R134a等)が循環する冷媒通路41〜44により接続されている。
冷媒ポンプ32の軸は同一の軸上で膨張機37の出力軸と連結配置され、膨張機37の発生する出力(動力)によって冷媒ポンプ32を駆動すると共に、発生動力をベルト伝動機構を介してエンジン2の出力軸(クランク軸)に供給する構成である。ここで、ベルト伝動機構は、ポンププーリ33,ベルト34,クランクプーリ2aから構成されている。すなわち、冷媒ポンプ32軸及び膨張機37の出力軸は、エンジン2の出力軸と平行に配置され、冷媒ポンプ32軸の先端に設けたポンププーリ33と、クランクプーリ2aとの間にベルト34を掛け回している。なお、本実施形態の冷媒ポンプ32としてはギヤ式のポンプを、膨張機37としてはスクロール式の膨張機を採用している。
また、ポンププーリ33と冷媒ポンプ32との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「膨張機クラッチ」という。)35を設けて、冷媒ポンプ32及び膨張機37とを、エンジン2と締結・解放可能にしている。このため、膨張機37の発生する出力が冷媒ポンプ32の駆動力及び回転体が有するフリクションを上回る場合(推定した膨張機トルクが正の場合)に膨張機クラッチ35を締結する。これによって、膨張機37の発生する出力でエンジン出力軸の回転をアシスト(補助)することができる。このように廃熱回収によって得たエネルギを用いてエンジン出力軸の回転をアシストすることで、燃費を向上できる。また、冷媒を循環させる冷媒ポンプ32を駆動するためのエネルギも、回収した廃熱で賄うことができる。
冷媒ポンプ32からの冷媒は冷媒通路41を介して熱交換器36に供給される。熱交換器36は、エンジン2の冷却水と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を気化し過熱する熱交換器である。
熱交換器36からの冷媒は冷媒通路42を介して膨張機37に供給される。膨張機37は、気化し過熱された冷媒を膨張させることにより熱を回転エネルギに変換する蒸気タービンである。膨張機37で回収された動力は冷媒ポンプ32を駆動し、ベルト伝動機構(33,34,2a)を介してエンジン2に伝達され、エンジン2の回転をアシストする。
膨張機37からの冷媒は冷媒通路43を介して凝縮器38に供給される。凝縮器38は、外気と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を冷却し液化する熱交換器である。このため、凝縮器38をラジエータ11と並列に配置し、ラジエータファン12によって冷却するようにしている。
凝縮器38により液化された冷媒は、冷媒通路44を介して冷媒ポンプ32に戻される。冷媒ポンプ32に戻された冷媒は、冷媒ポンプ32により再び熱交換器36に送られ、ランキンサイクル31の各構成要素を循環する。
次に、冷凍サイクル51について述べる。冷凍サイクル51は、コンプレッサ(圧縮機)52、凝縮器53、エバポレータ(蒸発器)55を備える。
コンプレッサ52は冷凍サイクル51の冷媒を高温高圧に圧縮する流体機械で、エンジン2によって駆動される。すなわち、コンプレッサ52の駆動軸にはコンプレッサプーリが固定され、このコンプレッサプーリとクランクプーリとにベルトを掛け回している。
エンジン2の駆動力がこのベルトを介してコンプレッサプーリに伝達され、コンプレッサ52が駆動される。また、コンプレッサプーリとコンプレッサ52との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「コンプレッサクラッチ」という。)を設けて、コンプレッサ52とコンプレッサプーリとを断接可能にしている。
コンプレッサ52からの冷媒は冷媒通路56を介して凝縮器53に供給される。凝縮器53は外気との熱交換によって冷媒を凝縮し液化する熱交換器である。凝縮器53はラジエータ11と並列に配置し、車速風または冷却ファン12で冷却する。
凝縮器53からの液状の冷媒は、冷媒通路57を介してエバポレータ(蒸発器)55に供給される。エバポレータ55は、図示しないヒータコアと同様にエアコンユニットのケース内に配設されている。エバポレータ55は、凝縮器53からの液状冷媒を蒸発させ、そのときの蒸発潜熱によってブロアファンからの空調空気を冷却する熱交換器である。
エバポレータ55によって蒸発した冷媒は冷媒通路58を介してコンプレッサ52に戻される。なお、エバポレータ55によって冷却された空調空気とヒータコアによって加熱された空調空気は、エアミックスドアの開度に応じて混合比率が変更され、乗員の設定する温度に調節される。
ランキンサイクル31には、サイクル内を流れる冷媒を制御するため、回路途中に各種の弁が適宜設けられている。例えば、膨張機37の上流から膨張機37をバイパスして逆止弁64上流に合流する膨張機バイパス通路65を設け、この膨張機バイパス通路65にバイパス弁66を設けている。上記のバイパス弁66は電磁式の開閉弁である。
また、冷媒ポンプ32と熱交換器36とを連絡する冷媒通路41に、熱交換器36から冷媒ポンプ32への冷媒の逆流を防止するため逆止弁63を備えている。膨張機37と凝縮器38とを連絡する冷媒通路43にも、凝縮器38から膨張機37への冷媒の逆流を防止するため逆止弁64を備えている。
冷媒通路41〜44及びバイパス通路65のうち2つのポイントの圧力及び温度を検出する冷媒圧力センサ72,73及び冷媒温度センサ81,82からの信号がエンジンコントローラ71に入力されている。ここで、一方のポイントは熱交換器36の出口から膨張機37の入口までの冷媒通路42である。冷媒圧力センサ72は当該冷媒通路42の圧力(この圧力を、以下「熱交換器出口圧力」という。)Pheoを、冷媒温度センサ82は当該冷媒通路42の温度(この温度を、以下「熱交換器出口温度」という。)Theoを検出する。他方のポイントは凝縮器38の出口から冷媒ポンプ32の入口までの冷媒通路44である。冷媒圧力センサ73は当該冷媒通路44の圧力(この圧力を、以下「冷媒ポンプ入口圧力」という。)Ppmpiを、冷媒温度センサ82は当該冷媒通路44の温度(この温度を、以下「冷媒ポンプ入口温度」という。)Tpmpiを検出する。
エンジンコントローラ71では、所定の運転条件に応じ、これらの各入力信号に基づいて、膨張機クラッチ35の締結・解放の制御を行なうとともに、上記のバイパス弁66の開閉を制御する。
例えばランキンサイクル31の運転開始に際しては、冷媒通路やバイパス通路から冷媒が漏れているか否かの診断に冷媒圧力センサ73により検出される冷媒ポンプ入口圧力Ppmpi及び冷媒圧力センサ72により検出される熱交換器出口圧力Pheoを用いる。すなわち、冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiや熱交換器出口圧力Pheoが大気圧力より大きいときには冷媒通路41〜44やバイパス通路65から冷媒が漏れていないと判定する。一方、冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiや熱交換器出口圧力Pheoが大気圧力以下であるときには冷媒通路41〜44やバイパス通路65から冷媒が漏れていると判定する。冷媒が冷媒通路41〜44やバイパス通路65から漏れていないと判定したときランキンサイクル31の運転を開始するが、冷媒が冷媒通路41〜44やバイパス通路65から漏れていると判定したときには、ランキンサイクル31の運転を開始しない。
また、ランキンサイクル31の運転で得られる膨張機トルク(回生動力)が正なのか負なのかを推定している。これは、車両1が必要とする目標駆動トルクの管理に膨張機トルクが必要となるためである。目標駆動トルクから目標エンジントルクが定まるが、エンジン2に補機負荷が加わるときには、その分エンジン2が発生するトルクを増やしてやらなければ、目標駆動トルクが得られなくなる。同様に、膨張機クラッチ35を締結して膨張機トルクをエンジン2に付加したとき、目標駆動トルクを大きく超えるようだと不要なトルクの付加になるとして、膨張機クラッチ35を解放することが好ましい。その一方で、膨張機トルクが負の場合に膨張機クラッチ35を締結したのでは、エンジントルクを却って低下させてしまうので、このときには膨張機クラッチ35を解放することが好ましい。このように、膨張機トルクについても目標駆動トルクの管理に必要となるので、膨張機トルクがどの程度なのかを見極めるため、膨張機トルクを推定する。
例えば、推定した膨張機トルクが正のとき(エンジン出力軸の回転をアシストすることができるとき)に膨張機クラッチ35を締結し、推定した膨張機トルクがゼロないし負のときに膨張機クラッチ35を解放する。
膨張機トルクの推定方法としては、簡単には熱交換器出口圧力Pheoから冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiを差し引いた値に基づいて推定すればよい。Pheo−Ppmpiの差圧が大きいほど膨張機トルクが大きいと推定するのである。あるいは、熱交換器出口圧力Pheo及び熱交換器出口温度Theoに基づいて冷媒通路42を流れる冷媒の有するエンタルピh1を、冷媒ポンプ入口圧力Ppmpi及び冷媒ポンプ入口温度Tpmpiに基づいて冷媒通路44を流れる冷媒の有するエンタルピh2を算出する。そして、両エンタルピの差h2−h1から膨張機トルクを推定する。h2−h1の差が大きいほど膨張機トルクが大きいと推定するのである。
ここで、上記のエンタルピh1は熱交換器出口圧力Pheoと熱交換器出口温度Theoの関数であるので、熱交換器出口圧力Pheoと熱交換器出口温度Theoをパラメータとするエンタルピh1のマップを予め作成して持たせておけばよい。同様に、上記のエンタルピh2は冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiと冷媒ポンプ入口温度Tpmpiの関数であるので、冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiと冷媒ポンプ入口温度Tpmpiをパラメータとするエンタルピh2のマップを予め作成して持たせておけばよい。
そのほか、ランキンサイクル31内を流れる冷媒が異常な高圧になっていないか否か、あるいはランキンサイクル内を流れる冷媒が異常な高温になっていないか否かの診断にも熱交換器出口圧力Pheo、熱交換器出口温度Theoを用いている。すなわち、熱交換器出口圧力Pheoが圧力上限値以下であれば異常な高圧になっていないと、熱交換器出口温度Theoが温度上限値以下であれば異常な高温になっていないと判断してランキンサイクル31の運転を継続する。一方、熱交換器出口圧力Pheoが圧力上限値を超えているときには異常な高圧になっていると、熱交換器出口温度Theoが温度上限値を超えているときには異常な高温になっていると判断してランキンサイクル31の運転を停止する。
さて、エンジン2の冷間始動時にはエンジン冷却水の温度を高く保ってエンジン2の暖機促進を図ることが燃費向上に資する。このため、エンジン2の暖機が完了するまではエンジン冷却水の有する熱が熱交換器36でランキンサイクルの冷媒に奪われることがないようにランキンサイクル31の運転を停止している。すなわち、冷媒ポンプ32が駆動されないように膨張機クラッチ35を解放状態とすると共に、膨張機37が駆動されないようにバイパス弁62を開き、膨張機37をバイパスして冷媒が流れるようにしている。
この場合、膨張機クラッチ35の解放のためには膨張機クラッチ35にOFF信号を出力して膨張機クラッチ35の電磁コイルに電流を流さないことである。
しかしながら、膨張機クラッチ35にON信号を出力していないのに膨張機クラッチ35が締結状態のまま固着することがある。この膨張機クラッチ35が締結状態のままとなる固着を、以下「クラッチON固着」という。クラッチON固着が生じると、エンジン2により冷媒ポンプ32が駆動され冷媒が凝縮器38から冷媒通路44,41,42を経てバイパス通路65を流れ、さらに冷媒通路43,44を流れて冷媒通路44に戻る。つまり、冷媒がサイクル内を循環するため、熱交換器36でエンジン冷却水の熱が奪われることになり、エンジン2の暖機完了が遅れてしまう。また、冷媒ポンプ32がエンジン2により駆動されるのでは、エンジン2の不要な負荷になり燃費が悪化する。
このため、膨張機37の回転速度を検出する回転速度センサと、膨張機クラッチ35の電磁コイルを流れる電流を検出する電流センサとを設けておき、これらの信号に基づいてクラッチON固着が生じているか否かを診断する従来装置がある。しかしながら、膨張機回転速度センサや電流センサは高価であるため、これらセンサを設けるのではコストアップとなる。
そこで本発明の第1実施形態では、エンジン暖機中にエンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されているか否かをみる。そして、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されると判定される場合に、クラッチON固着が生じていると診断する。ここで、上記の「エンジン暖機中」とは、冷間始動タイミングからエンジン2が暖機完了するまでの期間をいう。
エンジン暖機中にエンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されているか否かの判定は、エンジン出口の冷却水温度Twに基づいて行う。エンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出していない状態で、エンジン出口の冷却水温度Twの上昇がクラッチON固着が生じていない場合のエンジン出口の冷却水温度の上昇より遅い場合にクラッチON固着が生じていると診断する。またはエンジン出口の冷却水温度Twが膨張機クラッチ35にクラッチON固着が生じていない場合のエンジン出口の冷却水温度より低下する場合に、クラッチON固着が生じていると診断する。
これについて図2を参照して説明すると、図2最上段にはt1のタイミングで冷間始動を行い、t5のタイミングでエンジン2が暖機を完了するとしたときのエンジン出口の冷却水温度の変化を示している。クラッチON固着が生じていない場合には、エンジン出口の冷却水温度(=出口冷却水温度推定値)は図2最上段に破線で示したように、外気の空気温度から離れて徐々に高くなってゆく。そして、エンジンの暖機完了のタイミング(t5)で所定温度(例えば80℃程度)に落ち着く。一方、始動前にクラッチON固着が生じている場合には、エンジン出口の冷却水が有する熱が熱交換器36で冷媒に奪われる。このため、始動前にクラッチON固着が生じている場合のエンジン出口の冷却水温度は、図2最上段に実線で示したように、図2最上段の破線に示すクラッチON固着が生じていない場合よりもゆっくりと上昇する。
この場合、クラッチON固着が生じていない場合のエンジン出口の冷却水温度は推定し得る。以下、クラッチON固着が生じていない場合のエンジン出口の冷却水温度の推定値を「出口冷却水温度推定値」という。この出口冷却水温度推定値を導入したとき、始動前にクラッチON固着が生じている場合には出口冷却水温度推定値とエンジン出口の実際の冷却水温度との間に差温度ΔTが生じる。この差温度ΔTを制御周期毎に積算すると、差温度ΔTの積算値は図2第2段目に実線で示したように、始動からの時間の経過とともに増えてゆく。このため、予めスライスベルS/Lを図示のように定めておく。そして、差温度ΔTの積算値がスライスベルS/Lに到達するt3のタイミングで、クラッチON固着が生じていると判断し、図2第3段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
また、エンジン暖機途中にもクラッチON固着が生じ得る。例えば、図2において暖機途中のt2のタイミングでクラッチON固着が生じたとする。この場合のエンジン出口の冷却水温度は、図2最上段に一点鎖線で示したように、t2のタイミングより少し遅れたタイミングから破線特性を外れて低下していく。このようにエンジン暖機途中にクラッチON固着が生じた場合にも出口冷却水温度推定値とエンジン出口の実際の冷却水温度との間に差温度ΔTが生じる。この差温度ΔTを制御周期毎に積算すると、差温度Δの積算値は図2第2段目に一点鎖線で示したようにt2のタイミングより少し遅れたタイミングからの時間の経過とともに増えてゆく。このため、温度差Δの積算値がスライスベルS/Lに到達するt4のタイミングで、膨張機クラッチ35にクラッチON固着が生じていると判断し、図2第4段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
このように、始動前にクラッチON固着が生じている場合と、エンジン暖機途中でクラッチON固着が生じた場合との2つのケースを考えた。いずれのケースでもクラッチON固着が生じていると診断し得るようにスライスレベルS/Lを設定しておく。
エンジンコントローラ71で実行されるこの制御を図3のフローチャートを参照して説明する。図3のフローはクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ1では診断済みであるか否かを診断済みフラグから判断する。ここでは診断済みフラグ=0、つまり診断済みでないとしてステップ2に進む。ステップ2ではクラッチON固着フラグをみる。ここでは、クラッチON固着フラグ=0であるとしてステップ3,4に進む。
ステップ3ではエンジン2の暖機が完了しているか否か、ステップ4ではエンジン冷間始動後であるか否かをみる。例えば、冷却水温度センサ74により検出されるエンジン出口の実際の冷却水温度Tw[℃]とエンジン暖機完了時のエンジン出口の冷却水温度(例えば80℃)とを比較する。そして、エンジン出口の実際の冷却水温度Twが80℃以上あればエンジン2の暖機が完了していると、エンジン出口の実際の冷却水温度Twが80℃未満であればエンジン2の暖機が完了していないと判定する。
また、エンジン始動直前に冷却水温度センサ74により検出されるエンジン出口の実際の冷却水温度[℃]をエンジン出口の始動時冷却水温度Twint[℃]として記憶し、このエンジン出口の始動時冷却水温度Twintと所定値[℃]を比較する。エンジン出口の始動時冷却水温度Twintが所定値以下であれば冷間始動後であると、エンジン出口の始動時冷却水温度Twintが所定値を超えていれば、冷間始動後でない(ホットリスタート後である)と判定する。このときの所定値は冷間始動後であるかホットリスタート後であるかを判定するための値で、予め定めておけばよい。
ステップ3,4でエンジン2の暖機が完了しているときやエンジン冷間始動後でないときにはそのまま今回の処理を終了する。
ステッ3,4でエンジン2の暖機が完了しておらずかつエンジン冷間始動後であるときにはエンジン暖機中にあると判断し、ステップ5以降に進む。
ステップ5では、出口冷却水温度推定値θe[K]を次の式に基づいて算出する。
C・M・dθe/dt=qig−qoe−qoh …(1)
ただし、C:冷却水の比熱[kcal/kg・K]
M:冷却水の質量[kg]
qig:燃焼ガスから冷却水に伝わる単位時間当たり熱量
[kcal/s]
qoe:エンジン表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量
[kcal/s]
qoh:エアコンのヒータコア表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量 [kcal/s]
ここで、エンジン2の暖機完了後であれば、上記(1)式にラジエータ表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量qorを加える必要がある。しかしながら、本実施形態はエンジン暖機中が対象であり、エンジン暖機中にはラジエータ11に冷却水を流さない。よって、エンジン暖機中であれば、ラジエータ表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量qorは考慮する必要がないため、当該熱量qorを省略している。
具体的には上記(1)式を積分することによって、つまり次式により出口冷却水温度推定値θeを算出する。
θe=(1/C・M)∫(qig−qoe−qoh)dt …(2)
上記(2)式は連続の式であるので、(2)式から離散値の式を作って出口冷却水温度推定値θeを算出するようにしてもかまわない。
上記(2)式に基づいて算出される出口冷却水温度推定値θeを[K]の単位から[℃]の単位に変換し、変換後の出口冷却水温度推定値をTest[℃]とする。
ステップ6では出口冷却水温度推定値Testと、冷却水温度センサ74により検出されるエンジン出口の実際の冷却水温度Tw[℃]との差温度ΔT[℃]を次の式により算出する。
ΔT=Test−Tw …(3)
ステップ7ではこの差温度ΔTを差温度積算値の前回値であるSΔT(前回)[℃]に加算することにより、差温度積算値SΔT[℃]を算出する。
ステップ8では差温度積算値SΔTとスライスレベルS/L[℃]を比較する。ここで、スライスレベルS/LはクラッチON固着が生じているか否かを判定するための値で、予め設定しておく。差温度積算値SΔTがスライスレベルS/L以上であるときにはクラッチON固着が生じていると判断し、ステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、ステップ8で差温度積算値SΔTがスライスレベルS/L未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断し、ステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
これでクラッチON固着が生じているか否かの診断を終了するので、ステップ11では診断済みフラグ=1とする。
ステップ11で診断済みフラグ=1となったときには、次回以降ステップ1よりステップ2以降に進むことができない。つまり、クラッチON固着が生じているか否かの診断はエンジン暖機中に一度だけ行う。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態では、ランキンサイクル31と、冷媒ポンプ32の軸とエンジン2の回転軸とを、膨張機クラッチ35(電磁クラッチ)を介して連結する伝動機構とを備えている。そして、エンジン暖機中にエンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されると判定される場合に、クラッチON固着が生じている(電磁クラッチが締結状態で固着している)と診断する固着診断手段(71)を設けた。ランキンサイクル31にはランキンサイクル31の運転開始や運転停止のため、圧力センサや温度センサを設けている。エンジン暖機中にエンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進される場合には、これらのセンサにより検出される圧力や温度がクラッチON固着が生じていない場合より上昇する。このため、エンジン暖機中にエンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かの判定に用いるセンサとしては、上記既設の圧力センサや温度センサで足りる。すなわち、本実施形態によれば、膨張機回転速度センサと電流検出センサを設けることなく、既設の圧力センサや温度センサを用いて膨張機クラッチ35の固着診断を行い得るので、コストアップを抑制できる。
本実施形態は、基本的にエンジン暖機中にクラッチON固着が生じているか否かやエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。このようにエンジン暖機中にクラッチON固着が生じている場合やエンジン暖機中にクラッチON固着が生じた場合には、エンジンの暖機完了までの時間が長引く分だけ燃費が悪化する。また、エンジンの暖機完了までの時間が長引くのであれば、排気管5に設けてある触媒(図示しない)の活性化までの時間も長引き、その分、排気性能が悪くなる。これより、エンジン暖機中にクラッチON固着が生じているか否かを診断することと、燃費悪化が生じているか否かを診断したり、排気性能の悪化が生じているか否かを診断したりすることとは等価である。従って、本実施形態によれば、既設の圧力センサや温度センサを用いてエンジン暖機中に燃費悪化が生じているか否かやエンジン暖機中に燃費悪化が生じたか否かを診断することができる。また、エンジン暖機中に排気性能の悪化が生じているか否かやエンジン暖機中に排気性能が生じたか否かを診断することができる。
クラッチON固着が生じている場合には膨張機クラッチ35(電磁クラッチ)にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環するため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が奪われる分だけ、エンジン出口の冷却水温度の上昇が遅れるか、エンジン出口の冷却水温度が低下する。本実施形態では、エンジン出口冷却水の上昇がクラッチON固着が生じていない場合(電磁クラッチが締結状態で固着していない場合)より遅いときに、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されると判定する(図3のステップ5〜9参照)。またはエンジン出口冷却水がクラッチON固着が生じていない場合(電磁クラッチが締結状態で固着していない場合)のエンジン出口の冷却水温度より低下するときに、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されると判定する。この場合、エンジン出口の冷却水温度は既設の冷却水温度センサ74により検出している。つまり、本実施形態によれば、既設の冷却水温度センサ74により検出されるエンジン出口の冷却水温度に基づいて、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができるので、コストアップを抑制できる。
(第2実施形態)
冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が奪われる分だけ、ランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒の圧力が上昇する。または、ランキンサイクル31の冷媒通路のうち同一の箇所でない二箇所を流れる冷媒の圧力の差圧力が予め定めた所定値以上に生じる。こうしたランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒圧力の上昇は、ランキンサイクル31の冷媒通路に既設の冷媒圧力センサにより検出し得る。このため、既設の冷媒圧力センサにより検出される冷媒圧力に基づけば、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができる。以下、詳述する。
図33は第2実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。第1実施形態の図1と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態では、熱交換器出口圧力、冷媒ポンプ入口圧力をそれぞれ検出する冷媒圧力センサ72,73が既設である場合で説明した。一方、第2実施形態では、冷媒圧力として、冷媒ポンプ出口圧力Ppmpo、膨張機入口圧力Pexpi、膨張機出口圧力Pexpo、冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiを検出する4つの冷媒圧力センサ75,72,76,73が既設であるとする。ここで、第1実施形態の冷媒圧力センサ72は、熱交換器出口圧力を検出するものであったが、第2実施形態では、熱交換器出口圧力は膨張機入口圧力にほぼ等しいとして冷媒圧力センサ72は膨張機入口圧力を検出するものとする。
図4は第2実施形態のタイミングチャートである。すなわち、図4最上段の左方には始動前にクラッチON固着が生じており、t1のタイミングで冷間始動を行ったときのランキンサイクル31を構成する冷媒通路の特定位置の冷媒圧力の変化を示している。ここで、ランキンサイクル31を構成する冷媒通路の特定位置の冷媒圧力としては、冷媒ポンプ出口圧力Ppmpo、膨張機入口圧力Pexpi、膨張機出口圧力Pexpo、冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiの4つを採用する。図4最上段の左方において冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoを実線で、膨張機入口圧力Pexpiを破線で、膨張機出口圧力Pexpoを一点鎖線で、冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiを二点鎖線で示している。なお、膨張機入口圧力Pexpiはパイバス弁66を全閉状態としているときの変化を示している。
エンジン冷間時にクラッチON固着が生じていない場合には、いずれの冷媒圧力Ppmpo、Pexpi、Pexpo、Ppmpiもほぼ一定値(例えば0.5MPa程度)で変化しない。一方、始動前にクラッチON固着が生じている場合にはエンジン冷間始動後にいずれの冷媒圧力Ppmpo、Pexpi、Pexpo、Ppmpiも一定値を離れて上昇する。この場合、圧力の上昇の程度は2つに分かれ、冷媒ポンプ出口圧力Ppmpo及び膨張機入口圧力Pexpiの上昇の程度のほうが、膨張機出口圧力Pexpo及び冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiの上昇の程度より大きくなっている。
このため、予めスライスベルS/L1、S/L2、S/L3、S/L4を図示のように定めておく。そして、冷媒ポンプ出口圧力PpmpoがスライスベルS/L1に到達するt11のタイミングで、膨張機クラッチ35にクラッチON固着が生じていると判断し、図4第2段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、膨張機入口圧力PexpiがスライスベルS/L2に到達するt11のタイミングで、膨張機クラッチ35にクラッチON固着が生じていると判断し、図4第2段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、膨張機出口圧力PexpoがスライスベルS/L3に到達するt11のタイミングで、膨張機クラッチ35にクラッチON固着が生じていると判断し、図4第2段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、冷媒ポンプ入口圧力PpmpiがスライスベルS/L4に到達するt11のタイミングで、膨張機クラッチ35にクラッチON固着が生じていると判断し、図4第2段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。ここまでは、4つある冷媒圧力Ppmpo、Pexpi、Pexpo、Ppmpiを同等に扱ったが、冷媒の圧力に基づいてクラッチON固着が生じているか否かの判定を行うには、冷媒の圧力が高いほど判定精度がよくなる。この意味では、4つある冷媒圧力Ppmpo、Pexpi、Pexpo、Ppmpiのうちで圧力が相対的に高い2つの冷媒圧力Ppmpo、Pexpiを採用することが好ましい。
なお、図4では、始動前にクラッチON固着が生じている場合に、4つの冷媒圧力とも同じt11のタイミングでクラッチON固着フラグがゼロから1に切換わる場合で示してあるが、この場合に限られない。例えば、4つの各冷媒圧力Ppmpo、Pexpi、Pexpo、PpmpiでクラッチON固着フラグがゼロから1に切換わるタイミングが相違するように4つの各スライスレベルS/L1、S/L2、S/L3、S/L4を設定してもかまわない。
図4最上段の右方にはt1のタイミングで冷間始動を行った後の暖機途中のt2のタイミングでクラッチON固着が生じた場合の上記4つの冷媒圧力Ppmpi、Pexpi、Pexpo、Ppmpoの変化を重ねて示している。この場合にも、冷媒ポンプ出口圧力PpmpoがスライスベルS/L1に到達するt12のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図4第3段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、膨張機入口圧力PexpiがスライスベルS/L2に到達するt12のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図4第3段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、膨張機出口圧力PexpoがスライスベルS/L3に到達するt12のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図4第3段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、冷媒ポンプ入口圧力PpmpiがスライスベルS/L4に到達するt12のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図4第3段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
なお、図4では、暖機途中でクラッチON固着が生じた場合に、4つの冷媒圧力とも同じt12のタイミングでクラッチON固着フラグがゼロから1に切換わる場合で示してあるが、この場合に限られない。例えば、4つの各冷媒圧力Ppmpo、Pexpi、Pexpo、PpmpiでクラッチON固着フラグがゼロから1に切換わるタイミングが相違するように4つの各スライスレベルS/L1、S/L2、S/L3、S/L4を設定してもかまわない。
図5A,図5B,図5C,図5Dのフローは第2実施形態のクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。ここで、図5Aは冷媒ポンプ出口圧力から、図5Bは膨張機入口圧力から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。同様に、図5Cは膨張機出口圧力から、図5Dは冷媒ポンプ入口圧力から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。第1実施形態の図3のフローと同一の部分には同一の符号を付している。
第1実施形態の図3のフローと相違する部分を主に説明すると、図5Aのステップ21Aで冷媒ポンプ出口圧力Ppmpo[MPa]とスライスレベルS/L1[MPa]を比較する。上記の冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoは既設の冷媒圧力センサ75(図33参照)により検出する。上記のスライスレベルS/L1は予め設定しておく。
図5Bのステップ19では、バイパス弁66に閉指令を出す。これは、バイパス弁66を閉じていない状態では、冷媒が膨張機37をバイパスして流れるので、膨張機入口圧力Pexpiと膨張機出口圧力Pexpoとが同じ圧力になる。従って、膨張機入口圧力Pexpiと膨張機出口圧力Pexpoとの間に圧力差をつけるためにはバイパス弁66を閉じる必要があるためである。
図5Bのステップ20ではバイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過したか否かを見る。一定時間が経過していない場合にはそのまま今回の処理を終了する。図5Bのステップ20で一定時間が経過したときには図5Bのステップ21Bに進む。このようにバイパス弁66に閉指令を出してから一定時間の経過後にステップ21Bに進ませるのは、バイパス弁66に閉指令を出してから実際にバイパス弁66が全閉状態となるまでに応答遅れがあるためである。
図5Bのステップ21Bでは膨張機入口圧力Pexpi[MPa]とスライスレベルS/L2[MPa]を比較する。上記の膨張機入口圧力Pexpiは熱交換器出口圧力Pheoに等しいとみなし、既設の冷媒圧力センサ72により検出される熱交換器出口圧力をそのまま膨張機入口圧力pexpiとして採用する。上記のスライスレベルS/L2は予め設定しておく。
同様に、図5Cのステップ21Cでは膨張機出口圧力Pexpo[MPa]とスライスレベルS/L3[MPa]を比較する。図5Dのステップ21Dでは冷媒ポンプ入口圧力Ppmpi[MPa]とスライスレベルS/L4[MPa]を比較する。上記の膨張機出口圧力Pexpoは既設の冷媒圧力センサ76(図33参照)により検出する。上記の冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiは既設の冷媒圧力センサ73(図33参照)により検出する。上記2つの各スライスレベルS/L3、S/L4は予め設定しておく。
図5Aのステップ21AでPpmpoがS/L1以上となったとき、図5Bのステップ21BでPexpiがS/L2以上となったときにはクラッチON固着が生じていると判断する。同様に、図5Cのステップ21CでPexpoがS/L3以上となったとき、図5Dのステップ21DでPpmpiがS/L4以上となったときにはクラッチON固着が生じていると判断する。このときには図5A,図5B,図5C,図5Dのステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、図5Aのステップ21AでPpmpoがS/L1未満であるとき、図5Bのステップ21BでPexpiがS/L2未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断する。同様に、図5Cのステップ21CでPexpoがS/L3未満であるとき、図5Dのステップ21DでPpmpiがS/L4未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断する。このときには図5A,図5B,図5C,図5Dのステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
第2実施形態では、4つの各冷媒圧力とこれに対応するスライスレベルの比較により、クラッチON固着が生じているか否かを診断したが、この場合に限られるものでない。例えば、冷媒圧力差に基づいてクラッチON固着が生じているか否かを診断するようにしてもかまわない。
図6A,図6B,図6C,図6Dのフローは第2実施形態の他の態様のクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。ここで、図6Aは冷媒ポンプ出口圧力から膨張機出口圧力を差し引いた圧力差から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。また、図6Bは冷媒ポンプ出口圧力から冷媒ポンプ入口圧力を差し引いた圧力差から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。同様に、図6Cは膨張機入口圧力から膨張機出口圧力を差し引いた圧力差から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。また、図6Dは膨張機入口圧力から冷媒ポンプ入口圧力を差し引いた圧力差から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。図5A,図5B,図5C,図5Dのフローと同一部分には同一の符号を付している。
図5A,図5B,図5C,図5Dのフローと相違する部分を主に説明すると、図6Aのステップ31Aで冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoから膨張機出口圧力Pexpoを差し引いて冷媒圧力差ΔP1[MPa](=Ppmpo−Pexpo)を算出する。図6Aのステップ32Aではこの冷媒圧力差ΔP1とスライスレベルS/L5[MPa]を比較する。上記のスライスレベルS/L5は予め設定しておく。
同様にして、図6Bのステップ31Bで冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoから冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiを差し引いて冷媒圧力差ΔP2[MPa](=Ppmpo−Ppmpi)を算出する。図6Bのステップ32Bではこの冷媒圧力差ΔP2とスライスレベルS/L6[MPa]を比較する。上記のスライスレベルS/L6は予め設定しておく。
図6Cのステップ29では、バイパス弁66に閉指令を出す。これは、バイパス弁66を閉じていない状態では、冷媒が膨張機37をバイパスして流れるので、膨張機入口圧力Pexpiと膨張機出口圧力Pexpoとが同じ圧力になる。従って、膨張機入口圧力Pexpiと膨張機出口圧力Pexpoとの間に圧力差をつけるためにはバイパス弁66を閉じる必要があるためである。
図6Cのステップ30ではバイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過したか否かを見る。一定時間が経過していない場合にはそのまま今回の処理を終了する。図6Cのステップ30で一定時間が経過したときには図6Cのステップ31Cに進む。このようにバイパス弁66に閉指令を出してから一定時間の経過後に図6Cのステップ31Cに進ませるのは、バイパス弁66に閉指令を出してから実際にバイパス弁66が全閉状態となるまでに応答遅れがあるためである。
図6Cのステップ31Cで膨張機入口圧力Pexpiから膨張機出口圧力Pexpoを差し引いて冷媒圧力差ΔP3[MPa](=Pexpi−Pexpo)を算出する。図6Cのステップ32Cではこの冷媒圧力差ΔP3とスライスレベルS/L7[MPa]を比較する。上記のスライスレベルS/L7は予め設定しておく。
同様にして、図6Dのステップ31Dで膨張機入口圧力Pexpiから冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiを差し引いて冷媒圧力差ΔP4[MPa](=Pexpi−Ppmpi)を算出する。図6Dのステップ32Dではこの冷媒圧力差ΔP4とスライスレベルS/L8[MPa]を比較する。上記のスライスレベルS/L8は予め設定しておく。
図6Aのステップ32Aで冷媒圧力差ΔP1がスライスレベルS/L5以上であるとき、図6Bのステップ32Bで冷媒圧力差ΔP2がスライスレベルS/L6以上であるときにはクラッチON固着が生じていると判断する。同様に、図6Cのステップ32Cで冷媒圧力差ΔP3がスライスレベルS/L7以上であるとき、図6Dのステップ32Dで冷媒圧力差ΔP4がスライスレベルS/L8以上であるときにはクラッチON固着が生じていると判断する。このときには図6A,図6B,図6C,図6Dのステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、図6Aのステップ32Aで冷媒圧力差ΔP1がスライスレベルS/L5未満であるとき、図6Bのステップ32Bで冷媒圧力差ΔP2がスライスレベルS/L6未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断する。同様に、図6Cのステップ32Cで冷媒圧力差ΔP3がスライスレベルS/L7未満であるとき、図6Dのステップ32Dで冷媒圧力差ΔP4がスライスレベルS/L8未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断する。このときには図6A,図6B,図6C,図6Dのステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
クラッチON固着が生じている場合には膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環するため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が奪われる分だけ、ランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒の圧力(冷媒ポンプ出口圧力Ppmpo、膨張機入口圧力Pexpi、膨張機出口圧力Pexpo、冷媒ポンプ入口圧力Ppmpi)が上昇する。または、ランキンサイクル31の冷媒通路のうち同一の箇所でない二箇所を流れる冷媒の圧力の差圧力(ΔP1、ΔP2、ΔP3、ΔP4)が予め定めた所定値(S/L5、S/L6、S/L7、S/L8)以上に生じる。第2実施形態では、ランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒の圧力がクラッチON固着が生じていない場合(電磁クラッチが締結状態で固着していない場合)より上昇するときに、エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されると判定する。または、ランキンサイクル31の冷媒通路のうち同一の箇所でない二箇所を流れる冷媒の圧力の差圧力が予め定めた所定値(S/L5、S/L6、S/L7、S/L8)以上に生じるときに、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されると判定する。この場合、ランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒の冷媒圧力(Ppmpo、Pexpi、Pexpo、Ppmpi)は既設の冷媒圧力センサ75,72,76,73により検出している。つまり、第2実施形態によれば、既設の冷媒圧力センサ75,72,76,73により検出されるランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒の圧力に基づいて、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができる。これによって、コストアップを抑制できる。
クラッチON固着が生じていることに起因するとはいえ、ランキンサイクル31の運転によって冷媒が冷媒通路を循環する場合に、冷媒の圧力は冷媒の温度と違って冷媒ポンプ32があるため、冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoが最も高くなる。つまり、冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoが最も高く、その次に膨張機入口圧力Pexpiが高くなる。一方、ランキンサイクル31の運転によって冷媒が冷媒通路を循環する場合に、冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiが最も低く、その次に膨張機出口圧力Pexpoが低くなる。この場合に、冷媒の圧力に基づいてクラッチON固着が生じているか否かの判定を行うには、冷媒の圧力が高いほど判定精度がよくなる。また、2つの圧力の差圧力に基づいてクラッチON固着が生じているか否かの判定を行うには、差圧力が相対的に大きいほど判定精度がよくなる。第2実施形態では、冷媒の圧力は、冷媒通路の中で圧力が最も高くなる冷媒ポンプ出口圧力Ppmpo、その次に高くなる膨張機入口圧力Pexpiの少なくとも一つである。これによって、クラッチON固着が生じている(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進される)か否かの判定を精度良く行うことができる。また、第2実施形態では、冷媒の圧力の差圧力は、圧力差が相対的に大きくなる、冷媒ポンプ出口圧力Ppmpo、膨張機入口圧力Pexpiのいずれか一方から膨張機出口圧力Pexpo、冷媒ポンプ入口圧力Ppmpiのいずれか一方を差し引いた値である。これによって、クラッチON固着が生じている(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進される)か否かの判定を精度良く行うことができる。
第2実施形態では、冷媒圧力として、冷媒通路のうちの4つ特定位置の圧力を挙げたが、これに限られるものでなく、冷媒通路のうちの任意の位置の圧力でかまわない。
(第3実施形態)
冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が奪われる分だけ、ランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒の温度が上昇する。または、ランキンサイクル31の冷媒通路のうち同一の箇所でない二箇所を流れる冷媒の温度の差温度が予め定めた所定値以上に生じる。つまり、熱交換器36で熱を受けると冷媒は圧力が上昇するだけでなく、冷媒の温度も上昇するので、冷媒の温度も冷媒の圧力と同等に扱うことができる。こうしたランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒温度の上昇は、ランキンサイクル31の冷媒通路に既設の冷媒温度センサにより検出し得る。このため、既設の冷媒温度センサにより検出される冷媒温度に基づけば、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができる。以下、詳述する。
図34は第3実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。第1実施形態の図1と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態では、熱交換器出口温度、冷媒ポンプ入口温度をそれぞれ検出する冷媒温度センサ82,81が既設である場合で説明した。一方、第3実施形態では、冷媒温度として、冷媒ポンプ出口温度Tpmpo、膨張機入口温度Texpi、膨張機出口温度Texpo、冷媒ポンプ入口温度Tpmpiを検出する4つの温度センサ83,82,84,81が既設であるとする。ここで、第1実施形態の冷媒温度センサ82は、熱交換器出口温度を検出するものであったが、第3実施形態では、熱交換器出口温度は膨張機入口温度にほぼ等しいとして冷媒温度センサ82は膨張機入口温度を検出するものとする。
図7は第3実施形態のタイミングチャートである。すなわち、図7最上段の左方には始動前にクラッチON固着が生じており、t1のタイミングで冷間始動を行ったときのランキンサイクル31を構成する冷媒通路の特定位置の冷媒温度の変化を示している。ここで、ランキンサイクル31を構成する冷媒通路の特定位置の冷媒温度としては、膨張機入口温度Texpi、冷媒ポンプ出口温度Tpmpo、膨張機出口温度Texpo、冷媒ポンプ入口温度Tpmpiの4つを採用する。図7最上段の左方において膨張機入口温度Texpiを実線で、冷媒ポンプ出口温度Tpmpoを破線で、膨張機出口温度Texpoを一点鎖線で、冷媒ポンプ入口温度Tpmpiを二点鎖線で示している。なお、膨張機入口温度Texpiはパイバス弁66を全閉状態としているときの変化を示している。
エンジン冷間時にクラッチON固着が生じていない場合には、いずれの冷媒温度Texpi、Tpmpo、Texpo、Tpmpiもほぼ一定値(例えば外気の空気温度)で変化しない。一方、始動前にクラッチON固着が生じている場合にはエンジン冷間始動後にいずれの冷媒温度Texpi、Tpmpo、Texpo、Tpmpiも一定値を離れて上昇する。この場合、温度の上昇の程度は2つに分かれ、膨張機入口温度Texpi及び冷媒ポンプ出口温度Tpmpoの上昇の程度のほうが、膨張機出口温度Texpo及び冷媒ポンプ入口温度Tpmpiの上昇の程度より大きくなっている。
このため、予めスライスベルS/LT1、S/LT2、S/LT3、S/LT4を図示のように定めておく。そして、膨張機入口温度TexpiがスライスベルS/LT1に到達するt21のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図7第2段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、冷媒ポンプ出口温度TpmpoがスライスベルS/LT2に到達するt21のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図7第2段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、膨張機出口温度TexpoがスライスベルS/LT3に到達するt21のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図7第2段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、冷媒ポンプ入口温度TpmpiがスライスベルS/LT4に到達するt21のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図7第2段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。ここまでは、4つある冷媒温度Texpi、Tpmpo、Texpo、Tpmpiを同等に扱ったが、冷媒の温度に基づいてクラッチON固着が生じているか否かの判定を行うには、冷媒の温度が高いほど判定精度がよくなる。この意味では、4つある冷媒温度Texpi、Tpmpo、Texpo、Tpmpiのうちで温度が相対的に高い2つの冷媒温度Texpi、Tpmpoを採用することが好ましい。
なお、図7では、始動前にクラッチON固着が生じている場合に、4つの冷媒温度とも同じt21のタイミングでクラッチON固着フラグがゼロから1に切換わる場合で示してあるが、この場合に限られない。例えば、4つの各冷媒温度Texpi、Tpmpo、Texpo、TpmpiでクラッチON固着フラグがゼロから1に切換わるタイミングが相違するように4つの各スライスレベルS/LT1、S/LT2、S/LT3、S/LT4を設定してもかまわない。
図7最上段の右方にはt1のタイミングで冷間始動を行った後の暖機途中のt2のタイミングでクラッチON固着が生じた場合の上記4つのTexpi、冷媒温度Tpmpo、Texpo、Tpmpiの変化を重ねて示している。この場合にも、膨張機入口温度TexpiがスライスベルS/LT1に到達するt22のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図7第3段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、冷媒ポンプ出口温度TpmpoがスライスベルS/LT2に到達するt22のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図7第3段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、膨張機出口温度TexpoがスライスベルS/LT3に到達するt22のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図7第3段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。また、冷媒ポンプ入口温度TpmpiがスライスベルS/LT4に到達するt22のタイミングでクラッチON固着が生じていると判断し、図7第3段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
なお、図7は、暖機途中でクラッチON固着が生じている場合に、4つの冷媒温度とも同じt22のタイミングでクラッチON固着フラグがゼロから1に切換わる場合で示してあるが、この場合に限られない。例えば、4つの各冷媒温度Texpi、Tpmpo、Texpo、TpmpiでクラッチON固着フラグがゼロから1に切換わるタイミングが相違するように4つの各スライスレベルS/LT1、S/LT2、S/LT3、S/LT4を設定してもかまわない。
図8A,図8B,図8C,図8Dのフローは第3実施形態のクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。ここで、図8Aは冷媒ポンプ出口温度から、図8Bは膨張機入口温度から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。同様に、図8Cは膨張機出口温度から、図8Dは冷媒ポンプ入口温度から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。第2実施形態の図5A,図5B,図5C,図5Dのフローと同一の部分には同一の符号を付している。
第2実施形態の図5A,図5B,図5C,図5Dのフローと相違する部分を主に説明すると、図8Aのステップ41Aで冷媒ポンプ出口温度Tpmpo[MPa]とスライスレベルS/LT2[MPa]を比較する。上記の冷媒ポンプ出口温度Tpmpoは既設の冷媒温度センサ83(図34参照)により検出する。上記のスライスレベルS/LT2は予め設定しておく。
図8Bのステップ19では、バイパス弁66に閉指令を出す。これは、バイパス弁66を閉じていない状態では、冷媒が膨張機37をバイパスして流れるので、膨張機入口圧力Pexpiと膨張機出口圧力Pexpoとが同じ圧力になる。従って、膨張機入口圧力Pexpiと膨張機出口圧力Pexpoとの間に圧力差をつけるためにはバイパス弁66を閉じる必要があるためである。
図8Bのステップ20ではバイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過したか否かを見る。一定時間が経過していない場合にはそのまま今回の処理を終了する。図8Bのステップ20で一定時間が経過したときには図8Bのステップ41Bに進む。このようにバイパス弁66に閉指令を出してから一定時間の経過後にステップ21Bに進ませるのは、バイパス弁66に閉指令を出してから実際にバイパス弁66が全閉状態となるまでに応答遅れがあるためである。
図8Bのステップ41Bでは膨張機入口温度Texpi[℃]とスライスレベルS/LT1[℃]を比較する。上記の膨張機入口温度Texpiは熱交換器出口温度Theoに等しいとみなし、既設の温度センサ82により検出される熱交換器出口温度をそのまま膨張機入口温度Texpiとして採用する。上記のスライスレベルS/LT1は予め設定しておく。
同様に、図8Cのステップ41Cでは膨張機出口温度Pexpo[℃]とスライスレベルS/LT3[℃]を比較する。図8Dのステップ41Dでは冷媒ポンプ入口温度Tpmpi[℃]とスライスレベルS/LT4[℃]を比較する。上記の膨張機出口温度Texpoは既設の冷媒温度センサ84(図34参照)により検出する。上記の冷媒ポンプ入口温度Tpmpiは既設の冷媒温度センサ81(図34参照)により検出する。上記2つの各スライスレベルS/LT3、S/LT4は予め設定しておく。
図8Aのステップ41AでTexpiがS/LT2以上となったとき、図8Bのステップ41BでTpmpoがS/LT1以上となったときにはクラッチON固着が生じていると判断する。同様に、図8Cのステップ41CでTexpoがS/LT3以上となったとき、図8Dのステップ41DでTpmpiがS/LT4以上となったときにはクラッチON固着が生じていると判断する。このときには図8A,図8B,図8C,図8Dのステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、図8Aのステップ41AでTexpiがS/LT2未満であるとき、図8Bのステップ41BでTpmpoがS/LT1未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断する。同様に、図8Cのステップ41CでTexpoがS/LT3未満であるとき、図8Dのステップ41DでTpmpiがS/LT4未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断する。このときには図8A,図8B,図8C,図8Dのステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
第3実施形態では、4つの各冷媒温度とこれに対応するスライスレベルの比較により、クラッチON固着が生じているか否かを診断したが、この場合に限られるものでない。例えば、冷媒温度差に基づいてクラッチON固着が生じているか否かを診断するようにしてもかまわない。
図9A,図9B,図9C,図9Dのフローは第3実施形態の他の態様のクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。ここで、図9Aは冷媒ポンプ出口温度から膨張機出口温度を差し引いた温度差から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。また、図9Bは冷媒ポンプ出口温度から冷媒ポンプ入口温度を差し引いた温度差から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。同様に、図9Cは膨張機入口温度から膨張機出口温度を差し引いた温度差から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。また、図9Dは膨張機入口温度から冷媒ポンプ入口温度を差し引いた温度差から冷間始動前にクラッチON固着が生じているか否か及び冷間始動後のエンジン暖機中にクラッチON固着が生じたか否かを診断するものである。図8A,図8B,図8C,図8Dのフローと同一部分には同一の符号を付している。
図8A,図8B,図8C,図8Dのフローと相違する部分を主に説明すると、図9Aのステップ51Aで冷媒ポンプ出口温度Tpmpoから膨張機出口温度Texpoを差し引いて冷媒温度差ΔT1[℃](=Tpmpo−Texpo)を算出する。図9Aのステップ52Aではこの冷媒温度差ΔT1とスライスレベルS/LT5[℃]を比較する。上記のスライスレベルS/LT5は予め設定しておく。
同様にして、図9Bのステップ51Bで冷媒ポンプ出口温度Tpmpoから冷媒ポンプ入口温度Tpmpiを差し引いて冷媒温度差ΔT2[℃](=Tpmpo−Tpmpi)を算出する。図9Bのステップ52Bではこの冷媒温度差ΔT2とスライスレベルS/LT6[℃]を比較する。上記のスライスレベルS/LT6は予め設定しておく。
図9Cのステップ29では、バイパス弁66に閉指令を出す。これは、バイパス弁66を閉じていない状態では、冷媒が膨張機37をバイパスして流れるので、膨張機入口圧力Pexpiと膨張機出口圧力Pexpoとが同じ圧力になる。従って、膨張機入口圧力Pexpiと膨張機出口圧力Pexpoとの間に圧力差をつけるためにはバイパス弁66を閉じる必要があるためである。
図9Cのステップ30ではバイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過したか否かを見る。一定時間が経過していない場合にはそのまま今回の処理を終了する。図9Cのステップ30で一定時間が経過したときには図9Cのステップ51Cに進む。このようにバイパス弁66に閉指令を出してから一定時間の経過後に図9Cのステップ51Cに進ませるのは、バイパス弁66に閉指令を出してから実際にバイパス弁66が全閉状態となるまでに応答遅れがあるためである。
図9Cのステップ51Cで膨張機入口温度Texpiから膨張機出口温度Texpoを差し引いて冷媒温度差ΔT3[℃](=Texpi−Texpo)を算出する。図9Cのステップ52Cではこの冷媒温度差ΔT3とスライスレベルS/LT7[℃]を比較する。上記のスライスレベルS/LT7は予め設定しておく。
同様にして、図9Dのステップ51Dで膨張機入口温度Texpiから冷媒ポンプ入口温度Tpmpiを差し引いて冷媒温度差ΔT4[℃](=Texpi−Tpmpi)を算出する。図9Dのステップ52Dではこの冷媒温度差ΔT4とスライスレベルS/LT8[℃]を比較する。上記のスライスレベルS/LT8は予め設定しておく。
図9Aのステップ52Aで冷媒温度差ΔT1がスライスレベルS/LT5以上であるとき、図9Bのステップ52Bで冷媒温度差ΔT2がスライスレベルS/LT6以上であるときにはクラッチON固着が生じていると判断する。同様に、図9Cのステップ52Cで冷媒温度差ΔT3がスライスレベルS/LT7以上であるとき、図9Dのステップ52Dで冷媒温度差ΔT4がスライスレベルS/LT8以上であるときにはクラッチON固着が生じていると判断する。このときには図9A,図9B,図9C,図9Dのステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、図9Aのステップ52Aで冷媒温度差ΔT1がスライスレベルS/LT5未満であるとき、図9Bのステップ52Bで冷媒温度差ΔT2がスライスレベルS/LT6未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断する。同様に、図9Cのステップ52Cで冷媒温度差ΔT3がスライスレベルS/LT7未満であるとき、図9Dのステップ52Dで冷媒圧力差ΔT4がスライスレベルS/LT8未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断する。このときには図9A,図9B,図9C,図9Dのステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
クラッチON固着が生じている場合には膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環するため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が奪われる分だけ、ランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒の温度(冷媒ポンプ出口温度Tpmpo、膨張機入口温度Texpi、膨張機出口温度Texpo、冷媒ポンプ入口温度Tpmpi)が上昇する。または、ランキンサイクル31の冷媒通路のうち同一の箇所でない二箇所を流れる冷媒の温度の差温度(ΔT1、ΔT2、ΔT3、ΔT4)が予め定めた所定値(S/LT5、S/LT6、S/LT7、S/LT8)以上に生じる。第3実施形態では、ランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒の温度がクラッチON固着が生じていない場合(電磁クラッチが締結状態で固着していない場合)より上昇するときに、エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されると判定する。または、ランキンサイクル31の冷媒通路のうち同一の箇所でない二箇所を流れる冷媒の温度の差温度が予め定めた所定値(S/LT5〜S/LT8)以上に生じるときに、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されると判定する。この場合、ランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒の温度(Tpmpo、Texpi、Texpo、Tpmpi)は既設の冷媒温度センサ83,82,84,81により検出している。つまり、第3実施形態によれば、既設の冷媒温度センサ83,82,84,81により検出されるランキンサイクル31の冷媒通路を流れる冷媒の温度に基づいて、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができる。
これによって、コストアップを抑制できる。
クラッチON固着が生じていることに起因するとはいえ、ランキンサイクル31の運転によって冷媒が冷媒通路を循環する場合に、膨張機入口温度Texpiが最も高く、その次に冷媒ポンプ出口温度Tpmpoが高くなる。一方、ランキンサイクル31の運転によって冷媒が冷媒通路を循環する場合に、冷媒ポンプ入口温度Tpmpiが最も低く、その次に膨張機出口温度Texpoが低くなる。この場合に、冷媒の温度に基づいてクラッチON固着が生じているか否かの判定を行うには、冷媒の温度が高いほど判定精度がよくなる。また、2つの温度の差温度に基づいてクラッチON固着が生じているか否かの判定を行うには、差温度が相対的に大きいほど判定精度がよくなる。第3実施形態では、冷媒の温度は、冷媒通路の中で温度が最も高くなる膨張機入口温度Texpi、その次に高くなる冷媒ポンプ出口温度Tpmpoの少なくとも一つである。これによって、クラッチON固着が生じている(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進される)か否かの判定を精度良く行うことができる。また、第3実施形態では、冷媒の温度の差温度は、温度差が相対的に大きくなる、膨張機入口温度Texpi、冷媒ポンプ出口温度Tpmpoのいずれか一方から膨張機出口温度Texpo、前記冷媒ポンプ入口温度Tpmpiのいずれか一方を差し引いた値である。これによって、クラッチON固着が生じている(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進される)か否かの判定を精度良く行うことができる。
第3実施形態では、冷媒温度として、冷媒通路のうちの4つ特定位置の温度を挙げたが、これに限られるものでなく、冷媒通路のうちの任意の位置の温度でかまわない。
(第4実施形態)
図10は図1からラジエータファン12,ラジエータ11,凝縮器38,凝縮器53を取り出して示した第4実施形態のエンジン2の一部の縦断面図である。図10に示したように、車両前方よりラジエータファン12,ラジエータ11,凝縮器38,凝縮器53の順に並んでいる。このため、車両1が走行するときには、走行風が凝縮器38を通過するので、凝縮器38を通過する走行風が凝縮器38を流れる冷媒から熱を奪う。凝縮器38を冷却するに際して走行風による冷却だけでは足りないときには、ラジエータファン12を回すことによって凝縮器38を通過する風量を増やし、これよって凝縮器38を流れる冷媒から奪う熱量を増やす。
なお、第4実施形態では、凝縮器38の故障診断のため、凝縮器38のすぐ下流に温度センサ85が既設であるとする。ランキンサイクル31の運転域で凝縮器38を流れる冷媒から外気に熱が放出されているときには、凝縮器38の直ぐ下流の空気温度(この温度を以下「凝縮器下流空気温度」という。)が外気の空気温度より上昇する。このため、凝縮器下流空気温度と外気の空気温度との差温度を算出し、この差温度が所定のスライスレベル以上あれば凝縮器38に故障はないと、また差温度が所定のスライスレベル未満であれば凝縮器38に故障があると診断するのである。
さて、冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は凝縮器38に運ばれ、凝縮器38を流れる冷媒から外気に放出される。こうした凝縮器38を流れる冷媒から外気への熱の放出は既設の温度センサ85により検出し得るので、既設の温度センサ85により検出される凝縮器下流空気温度に基づけば、エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されるか否かを判定することができる。
以下、詳述する。
図11は第4実施形態のタイミングチャートである。すなわち、図11最上段の左方には始動前にクラッチON固着が生じており、t1のタイミングで冷間始動を行ったときの凝縮器下流空気温度Tcnda[℃]と外気の空気温度Ta[℃]との差温度[℃]の変化を実線で示している。
エンジン冷間時にクラッチON固着が生じていない場合には、図11最上段に破線で示したように凝縮器下流空気温度Tcndaと外気の空気温度Taとの差温度はゼロで変化しない。一方、始動前にクラッチON固着が生じている場合にはエンジン冷間始動後に凝縮器下流空気温度Tcndaと外気の空気温度Taとの差温度がゼロを離れて上昇する。このため、予めスライスベルS/L11を図示のように定めておく。そして、凝縮器下流空気温度Tcndaと外気の空気温度Taとの差温度がスライスベルS/L11に到達するt31のタイミングで、クラッチON固着が生じていると判断し、図11第2段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図11最上段の右方にはt1のタイミングで冷間始動を行った後の暖機途中のt2のタイミングでクラッチON固着が生じた場合の凝縮器下流空気温度Tcndaと外気の空気温度Taとの差温度の変化を一点鎖線で重ねて示している。この場合にも、凝縮器下流空気温度Tcndaと外気の空気温度Taとの差温度がスライスベルS/L11に到達するt32のタイミングで、クラッチON固着が生じていると判断する。そして、図11第3段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図12のフローは第4実施形態のクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。第1実施形態の図3のフローと同一の部分には同一の符号を付している。
第1実施形態の図3のフローと相違する部分を主に説明すると、図12のステップ61で凝縮器下流空気温度Tcnda[℃]から外気の空気温度Ta[℃]を差し引いて差温度ΔTcnd[℃](=Tcnda−Ta)を算出する。ここで、凝縮器下流空気温度Tcndaは凝縮器53の下流位置に既設の空気温度センサ85(図10参照)により検出する。温度センサ85は、凝縮器38と凝縮器53の間に設けてあってもかまわない。外気の空気温度Taは、エンジン2のエアフローメータに付属させて設けている外気の空気温度センサ86(図10参照)により検出する。
図12のステップ62ではこのようにして算出した差温度ΔTcndとスライスレベルS/L11[℃]を比較する。ここで、スライスレベルS/L11はクラッチON固着が生じているか否かを判定するための値で、予め設定しておく。
差温度ΔTcndがスライスレベルS/L11以上となったときにはクラッチON固着が生じていると判断し、図12のステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、図12のステップ62で差温度ΔTcndがスライスレベルS/L11未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断し、図12のステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環するため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は凝縮器38に運ばれ、凝縮器38を流れる冷媒から外気に放出されるため、凝縮器下流空気温度(凝縮器下流の空気温度)が上昇する。第4実施形態では、凝縮器下流空気温度がクラッチON固着が生じていない場合(電磁クラッチが締結状態で固着していない場合)より上昇するときに、エンジン1からランキンサイクル31への熱交換が促進されると判定する。この場合、凝縮器下流空気温度は既設の温度センサ85により検出している。つまり、第4実施形態によれば、既設の温度センサ85により検出される凝縮器下流空気温度に基づいて、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができるので、コストアップを抑制できる。
(第5実施形態)
冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は凝縮器38に運ばれ、凝縮器38を流れる冷媒から外気に放出される。この凝縮器38で放熱された後の冷媒は再び冷媒通路を循環する。このため、バイパス弁66を全開状態から全閉状態へと切換えたときには、膨張機37の前後圧力差が生じる。こうした膨張機37の前後圧力差は、既設の冷媒圧力センサ72により検出し得るので、既設の冷媒圧力センサ72により検出される膨張機37の前後圧力差に基づけば、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができる。
以下、詳述する。
図13は第5実施形態のタイミングチャートである。すなわち、図13最上段には始動前にクラッチON固着が生じており、t1のタイミングで冷間始動を行った後、エンジン暖機中のt41のタイミングでバイパス弁66を一時的に全閉位置に切換えたときの膨張機入口圧力Pexpiの変化を示している。
エンジン冷間時にクラッチON固着が生じていない場合には、図13最上段に破線で示したようにt41からt43までの間(一定時間Δt)でバイパス弁66を全閉位置に切換えても、膨張機入口圧力Pexpiはほぼゼロで変化しない。一方、始動前にクラッチON固着が生じている場合には、エンジン冷間始動後に図13第2段目に示したようにバイパス弁66をt41からt43までの間で全閉位置に切換えると、膨張機入口圧力Pexpiがゼロを離れて所定圧力まで一時的に上昇する。このため、予めスライスベルS/L21をゼロと上記の所定圧力との間に定めておく。そして、膨張機入口圧力PexpiがスライスベルS/L21に到達するt42のタイミングで、クラッチON固着が生じていると判断し、図13第3段目に示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図13第4段目にはt1のタイミングで冷間始動を行った後の暖機途中のt2のタイミングでクラッチON固着が生じた場合にt44からt46までの間(一定時間Δt)でバイパス弁66を全閉位置に切換えたときの膨張機入口圧力Pexpiの変化を一点鎖線で示している。この場合にも、膨張機入口圧力PexpiがスライスベルS/L21に到達するt45のタイミングで、膨張機クラッチ35にクラッチON固着が生じていると判断し、図13第6段目に示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図14A,図14Bのフローは第5実施形態のクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。第1実施形態の図3のフローと同一の部分には同一の符号を付している。
第5実施形態では、膨張機37の前後圧力差を算出するため、バイパス弁66が全開状態にあるときの膨張機入口圧力と、バイパス弁66が全閉状態にあるときの膨張機入口圧力とを取得する必要がある。このため、バイパス弁66が全開状態にあるときの膨張機入口圧力を第1圧力P1、バイパス弁66が全閉状態にあるときの膨張機入口圧力を第2圧力P2として取り込む。
第1実施形態の図3のフローと相違する部分を主に説明すると、図14Bのステップ71で第1圧力P1を取得済みであるか否かをP1取得済みフラグより判断する。ここでは、P1取得済みフラグ=0つまり第1圧力P1を取得済みでないと判断して図14Bのステップ72,73に進む。
図14Bのステップ72では、冷媒圧力センサ72により検出される熱交換器出口圧力[MPa]を膨張機入口圧力Pexpiとして第1圧力P1[MPa]に移す。このとき、バイパス弁66は全開状態にあるので、第1圧力P1はバイパス弁66が全開状態にあるときの膨張機入口圧力Pexpiとなる。これで第1圧力P1を取得したので、図14Bのステップ73ではP1取得済みフラグ=1とする。
図14Bのステップ73でP1取得済みフラグ=1としたことにより、次回以降は図14Bのステップ71よりステップ74に進む。図14Bのステップ74では第2圧力P2を取得済みであるか否かをP2取得済みフラグより判断する。ここでは、P2取得済みフラグ=0つまり第2圧力P2を取得済みでないと判断して図14Bのステップ75に進む。
図14Bのステップ75では、バイパス弁66に閉指令を出す。これによって、バイパス弁66が全開状態から全閉状態に切換えられる。バイパス弁66が全閉状態に切換えられると、クラッチON固着が生じている場合には膨張機37が通路抵抗となって膨張機入口圧力Pexpiが上昇する。
図14Bのステップ76では、バイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過したか否かをみる。これは、バイパス弁66に閉指令を出してからバイパス弁66が全閉状態に切換えられ膨張機入口圧力Pexpiが上昇するまでに応答遅れがあるので、この応答遅れが経過したか否かをみるためである。バイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過していないときには、まだ膨張機入口圧力Pexpiが上昇していないと判断し、そのまま今回の処理を終了する。
バイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過するまでは、そのまま今回の処理を終了する。やがて、バイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過したときには、図14Bのステップ77に進み、冷媒圧力センサ72により検出される熱交換器出口圧力[MPa]を膨張機入口圧力Pexpiとして第2圧力P2[MPa]に移す。このとき、バイパス弁66は全閉状態にあるので、第2圧力P2はバイパス弁66が全閉状態にあるときの膨張機入口圧力Pexpiとなる。これで第2圧力P2を取得したので、図14Bのステップ78ではP2取得済みフラグ=1とする。図14Bのステップ79では、バイパス弁66を元の状態に戻すため、バイパス弁66に開指令を出す。
図14Bのステップ78でP2取得済みフラグ=1としたことにより、次回以降は図14Bのステップ71,74よりステップ80に進む。図14Bのステップ80では第2圧力P2と第1圧力P1の差圧力を膨張機37の前後圧力差ΔPexp[MPa](=P2−P1)として算出する。
図14Bのステップ81では膨張機37の前後圧力差ΔPexpとスライスレベルS/L21[MPa]を比較する。ここで、スライスレベルS/L21はクラッチON固着が生じているか否かを判定するための値で、予め設定しておく。膨張機37の前後圧力差ΔPexpがスライスレベルS/L21以上となったときにはクラッチON固着が生じていると判断し、図14Bのステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、図14Bのステップ81で膨張機37の前後圧力差ΔPexpがスライスレベルS/L21未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断し、図14Bのステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
クラッチON固着が生じていても、バイパス弁66を開いていると膨張機37の前後圧力差が生じることがない。このため、バイパス弁66を開いた状態で膨張機入口圧力が上昇するか否かにより判定するのでは、クラッチON固着が生じているのにクラッチON固着が生じていない(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されていない)との誤判定が生じ得る。第5実施形態では、膨張機37の上流から膨張機37をバイパスして膨張機37の下流に合流するバイパス通路65に、常開のバイパス弁66を備え、冷媒の圧力が膨張機入口圧力であるときにバイパス弁66を全閉状態へと切換える。これによって、クラッチON固着が生じている場合(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されている場合)には、膨張機37の前後圧力差が生じるので、クラッチON固着が生じているのにクラッチON固着が生じていないとの誤判定を回避できる。
冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は凝縮器38に運ばれ、凝縮器38を流れる冷媒から外気に放出される。この凝縮器38で放熱された後の冷媒は再び冷媒通路を循環する。このため、バイパス弁66を全開状態から全閉状態へと切換えたときには、膨張機37の前後圧力差が生じる。これに対応し、第5実施形態では、バイパス通路65に常開のバイパス弁66を備え、冷媒の差圧力は、バイパス弁66を全開状態から全閉状態へと切換えたときの膨張機47の前後圧力差である。この場合、膨張機37の前後圧力差は既設の冷媒圧力センサ72により検出している。つまり、第5実施形態によれば、既設の冷媒圧力センサ72により検出される膨張機37の前後圧力差に基づいて、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができるので、コストアップを抑制できる。
(第6実施形態)
冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は凝縮器38に運ばれ、凝縮器38を流れる冷媒から外気に放出される。この凝縮器38で放熱された後の冷媒は再び冷媒通路を循環する。つまり、熱交換器36で熱を受けると、冷媒は圧力が上昇するだけでなく、冷媒の温度も上昇するので、冷媒の温度も冷媒の圧力と同等に扱うことができる。このため、バイパス弁66を全開状態から全閉状態へと切換えたときに膨張機37の前後圧力差が生じるだけでなく、膨張機37の前後温度差が生じる。こうした膨張機の前後温度差は、既設の冷媒温度センサ82により検出し得るので、既設の冷媒温度センサ82により検出される膨張機37の前後温度差に基づけば、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができる。
以下、詳述する。
図15は第6実施形態のタイミングチャートである。すなわち、図15最上段には始動前にクラッチON固着が生じており、t1のタイミングで冷間始動を行った後、エンジン暖機中のt41のタイミングでバイパス弁66を一時的に全閉位置に切換えたときの膨張機入口温度Texpiの変化を示している。
エンジン冷間時にクラッチON固着が生じていない場合には、図15最上段に破線で示したようにt51からt53までの間(一定時間Δt)でバイパス弁66を全閉位置に切換えても、膨張機入口温度Texpiはほぼゼロで変化しない。一方、始動前にクラッチON固着が生じている場合には、エンジン冷間始動後に図15第2段目に示したようにバイパス弁66をt51からt53までの間で全閉位置に切換えると、膨張機入口温度Texpiがゼロを離れて所定圧まで一時的に上昇する。このため、予めスライスベルS/LT21をゼロと上記の所定圧との間に定めておく。そして、膨張機入口温度TexpiがスライスベルS/LT21に到達するt52のタイミングで、クラッチON固着が生じていると判断し、図15第3段目に示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図15第4段目にはt1のタイミングで冷間始動を行った後の暖機途中のt2のタイミングでクラッチON固着が生じた場合にt54からt56までの間(一定時間Δt)でバイパス弁66を全閉位置に切換えたときの膨張機入口温度Texpiの変化を一点鎖線で示している。この場合にも、膨張機入口温度TexpiがスライスベルS/LT21に到達するt55のタイミングで、膨張機クラッチ35にクラッチON固着が生じていると判断し、図15第6段目に示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図16A,図16Bのフローは第6実施形態のクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。第1実施形態の図3のフローと同一の部分には同一の符号を付している。
第6実施形態では、膨張機37の前後温度差を算出するため、バイパス弁66が全開状態にあるときの膨張機入口温度と、バイパス弁66が全閉状態にあるときの膨張機入口温度とを取得する必要がある。このため、バイパス弁66が全開状態にあるときの膨張機入口温度を第1温度T1、バイパス弁66が全閉状態にあるときの膨張機入口温度を第2温度T2として取り込む。
第1実施形態の図3のフローと相違する部分を主に説明すると、図16Bのステップ91で第1温度T1を取得済みであるか否かをT1取得済みフラグより判断する。ここでは、T1取得済みフラグ=0つまり第1温度T1を取得済みでないと判断して図16Bのステップ92,93に進む。
図16Bのステップ92では、冷媒温度センサ82により検出される熱交換器出口温度[℃]を膨張機入口温度Texpiとして第1温度T1[℃]に移す。このとき、バイパス弁66は全開状態にあるので、第1温度T1はバイパス弁66が全開状態にあるときの膨張機入口温度Texpiとなる。これで第1温度T1を取得したので、図16Bのステップ93ではT1取得済みフラグ=1とする。
図16Bのステップ93でT1取得済みフラグ=1としたことにより、次回以降は図16Bのステップ91よりステップ94に進む。図16Bのステップ94では第2温度T2を取得済みであるか否かをT2取得済みフラグより判断する。ここでは、T2取得済みフラグ=0つまり第2温度T2を取得済みでないと判断して図16Bのステップ95に進む。
図16Bのステップ95では、バイパス弁66に閉指令を出す。これによって、バイパス弁66が全開状態から全閉状態に切換えられる。バイパス弁66が全閉状態に切換えられると、クラッチON固着が生じている場合には膨張機入口温度Texpiが上昇する。
図16Bのステップ96では、バイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過したか否かをみる。これは、バイパス弁66に閉指令を出してからバイパス弁66が全閉状態に切換えられ膨張機入口圧力Pexpiが上昇するまでに応答遅れがあるので、この応答遅れが経過したか否かをみるためである。バイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過していないときには、まだ膨張機入口温度Texpiが上昇していないと判断し、そのまま今回の処理を終了する。
バイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過するまでは、そのまま今回の処理を終了する。やがて、バイパス弁66に閉指令を出してから一定時間が経過したときには、図16Bのステップ97に進み、冷媒温度センサ82により検出される熱交換器出口温度[℃]を膨張機入口温度Texpiとして第2温度T2[℃]に移す。このとき、バイパス弁66は全閉状態にあるので、第2温度T2はバイパス弁66が全閉状態にあるときの膨張機入口温度Texpiとなる。これで第2温度T2を取得したので、図16Bのステップ98ではT2取得済みフラグ=1とする。図16Bのステップ99では、バイパス弁66を元の状態に戻すため、バイパス弁66に開指令を出す。
図16Bのステップ98でT2取得済みフラグ=1としたことにより、次回以降は図16Bのステップ91,94よりステップ100に進む。図16Bのステップ100では第2温度T2と第1温度T1の差温度を膨張機37の前後温度差ΔTexp[℃](=T2−T1)として算出する。
図16Bのステップ101では膨張機37の前後温度差ΔTexpとスライスレベルS/LT21[℃]を比較する。ここで、スライスレベルS/LT21はクラッチON固着が生じているか否かを判定するための値で、予め設定しておく。膨張機37の前後温度差ΔTexpがスライスレベルS/LT21以上となったときにはクラッチON固着が生じていると判断し、図16Bのステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、図16Bのステップ101で膨張機37の前後温度差ΔTexpがスライスレベルS/LT21未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断し、図16Bのステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
クラッチON固着が生じていても、バイパス弁66を開いていると膨張機37の前後温度差が生じることがない。このため、バイパス弁66を開いた状態で膨張機入口温度が上昇するか否かにより判定するのでは、クラッチON固着が生じているのにクラッチON固着が生じていない(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されていない)との誤判定が生じ得る。第5実施形態では、膨張機37の上流から膨張機37をバイパスして膨張機37の下流に合流するバイパス通路65に、常開のバイパス弁66を備え、冷媒の温度が膨張機入口温度であるときにバイパス弁66を全閉状態へと切換える。これによって、クラッチON固着が生じている場合(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されている場合)には、膨張機の前後温度差が生じるので、クラッチON固着が生じているのにクラッチON固着が生じていないとの誤判定を回避できる。
冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は凝縮器38に運ばれ、凝縮器38を流れる冷媒から外気に放出される。この凝縮器38で放熱された後の冷媒は再び冷媒通路を循環する。このため、バイパス弁66を全開状態から全閉状態へと切換えたときには、膨張機37の前後温度差が生じる。これに対応し、第6実施形態では、膨張機37の上流から膨張機37をバイパスして膨張機37の下流に合流するバイパス通路65に、常開のバイパス弁66を備え、冷媒の差温度は、バイパス弁66を全開状態から全閉状態へと切換えたときの膨張機47の前後温度差である。この場合、膨張機37の前後温度差は既設の冷媒温度センサ82により検出している。つまり、第6実施形態によれば、既設の冷媒温度センサ82により検出される膨張機37の前後温度差に基づいて、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができるので、コストアップを抑制できる。
(第7実施形態)
図17は第7実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。第1実施形態の図1と同一部分には同一の符号を付している。ただし、エンジン冷却水回路の一部は省略して示していない。また、冷凍サイクル51については、凝縮器53しか示していない。
第1実施形態はエンジン駆動の車両1を対象とするものであったが、第7実施形態はハイブリッド車両1’を対象としている。ハイブリッド車両1’では、周知のように強電バッテリ、強電バッテリからの直流を交流に変換するインバータ、インバータからの交流で回転し得るモータから主に構成される強電系が加わっている。この場合に、強電系を構成するモータ及びインバータは高温になり得るので、モータ及びインバータの機能を補償しる温度を超えることがないように、モータ及びインバータの内部を冷却する必要がある。
このため、ハイブリッド車両1’にランキンサイクル31を適用するに際しては、エンジン駆動の車両1と凝縮器の構成を変えている。すなわち、第1実施形態では凝縮器38が空冷式であったが、第6実施形態では水冷式の凝縮器38’へと変更している。
水冷式凝縮器38’には冷媒通路38’aと冷却水通路38’bとを設けている。冷媒通路38’aの一方はランキンサイクル31の冷媒通路43に、他方はランキンサイクル31の冷媒通路44に接続する。
一方、冷却水通路38’bには、サブラジエータ91で冷却した冷却水(この冷却水をエンジンの冷却水と区別するため、以下「第2冷却水」という。)を冷却水通路101,102を介して循環させる。このため、冷却水通路101,102の各一端を冷却水通路38’bに、冷却水通路101,102の各他端をサブラジエータ91に接続している。ここで、水冷式凝縮器38’の全体を俯瞰して見たときに、第2冷却水とランキンサイクル31の冷媒とが互いに流れる向きが逆向きとなるようにしている。
上記のサブラジエータ91はラジエータ11と並列に配置し、車速風または冷却ファン12で冷却する。サブラジエータ91の出口には冷却水ポンプ92を設けて、第2冷却水を循環させる。
冷却水ポンプ92はモータ93駆動で、このモータ93に流す電流値を調整し得る電流値調整装置94を有し、この電流値調整装置94によりモータ93に流す電流値をデューティ制御可能(調整可能)である。電流値調整装置94の電源はバッテリである。例えば、電流値調整装置94に与えるONデューティ値が0%のときモータ93は非駆動状態にあり冷却水ポンプ92は非回転状態にある。電流値調整装置94に与えるONデューティ値が最大の100%のときモータ93は駆動状態となり、冷却水ポンプ92は回転して最大の流量を吐出する。
冷却水ポンプ92下流の冷却水通路101には、強電系を構成するモータ及びインバータを冷却するため、モータの冷却水通路111、インバータの冷却水通路112を、さらに水冷式のインタークーラ113を直列に配置している。これによって、サブラジエータ91からの冷却水でモータ及びインバータがモータ及びインバータの機能を補償しる温度を超えることがないように冷却される。また、冷却水ポンプ92下流の冷却水通路101に第2冷却水温度を検出する温度センサ121を設けている。
また、第7実施形態では、水冷式凝縮器38’出口の第2冷却水温度(この温度を、以下「凝縮器出口冷却水温度」という。)を検出する凝縮器出口温度センサ122が既設であるとする。
さて、冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は水冷式凝縮器38’に運ばれ、水冷式凝縮器38’を流れる冷媒から第2冷却水に放出される。こうした水冷式凝縮器38’を流れる冷媒から第2冷却水への熱の放出は、既設の温度センサ122により検出し得るので、既設の温度センサ122に基づけば、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができる。以下、詳述する。
図18は第7実施形態のタイミングチャートである。すなわち、図18最上段の左方には始動前にクラッチON固着が生じており、t1のタイミングで冷間始動を行ったときの凝縮器出口冷却水温度Tcndwo[℃]の変化を実線で示している。
エンジン冷間時にクラッチON固着が生じていない場合には、図18最上段に破線で示したように凝縮器出口冷却水温度Tcndwoは外気の空気温度Taとほぼ同じで変化しない。一方、始動前にクラッチON固着が生じている場合にはエンジン冷間始動後に凝縮器出口冷却水温度Tcndwoが外気の空気温度Taを離れて上昇する。このため、予めスライスベルS/L31を図示のように定めておく。そして、凝縮器出口冷却水温度TcndwoがスライスベルS/L31に到達するt61のタイミングで、膨張機クラッチ35にクラッチON固着が生じていると判断し、図18第2段目に実線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図18最上段の右方にはt1のタイミングで冷間始動を行った後の暖機途中のt2のタイミングでクラッチON固着が生じた場合の凝縮器出口冷却水温度の変化を一点鎖線で重ねて示している。この場合にも、凝縮器出口冷却水温度TcndwoがスライスベルS/L31に到達するt62のタイミングで、膨張機クラッチ35にクラッチON固着が生じていると判断する。そして、図18第3段目に一点鎖線で示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図19のフローは第6実施形態のクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。第4実施形態の図10のフローと同一の部分には同一の符号を付している。
第4実施形態の図10のフローと相違する部分を主に説明すると、図19のステップ111で凝縮器出口冷却水温度センサ122(図17参照)により検出される凝縮器出口冷却水温度TcndwoとスライスレベルS/L31を比較する。ここで、スライスレベルS/L31はクラッチON固着が生じているか否かを判定するための値で、予め設定しておく。
凝縮器出口冷却水温度TcndwoがスライスレベルS/L31以上となったときにはクラッチON固着が生じていると判断し、図19のステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、図19のステップ111で凝縮器出口冷却水温度TcndwoがスライスレベルS/L31未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断し、図19のステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は水冷式凝縮器38’に運ばれ、水冷式凝縮器38’を流れる冷媒から第2冷却水に放出されるため、凝縮器出口冷却水温度(液冷式の凝縮器の出口の液冷媒温度)が上昇する。このとき、第6実施形態では、凝縮器出口冷却水温度がクラッチON固着が生じていない場合(電磁クラッチが締結状態で固着していない場合)より上昇するときに、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されると判定する。この場合、凝縮器出口冷却水温度は既設の凝縮器出口冷却水温度センサ122により検出している。つまり、本実施形態によれば、既設の温度センサ122により検出される凝縮器出口冷却水温度に基づいて、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができるので、コストアップを抑制できる。
(第8実施形態)
図20は第8実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。第1実施形態の図1と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態は、膨張機37の上流から膨張機37をバイパスして逆止弁64上流に合流する膨張機バイパス通路65を設け、この膨張機バイパス通路65にバイパス弁66を設けたものであった。一方、第8実施形態は、図20に示したように、冷媒ポンプ32の上流から冷媒ポンプ32をバイパスして冷媒ポンプ32の下流に合流するポンプバイパス通路131を設け、このポンプバイパス通路131に第2バイパス弁132を設けている。以下、この第2バイパス弁を「ポンプバイパス弁」という。このポンプバイパス弁132は電磁式の開閉弁である。
なお、第8実施形態では、冷媒ポンプ32のすぐ上流に設けてある冷媒圧力センサ75は既設であるとする。
さて、冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は凝縮器38に運ばれ、凝縮器38を流れる冷媒から外気に放出される。この凝縮器38で放熱された後の冷媒は再び冷媒通路を循環する。このため、ポンプバイパス弁132を全開状態から全閉状態へと切換えたときには、冷媒ポンプ32の前後圧力差が生じる。こうした冷媒ポンプ32の前後圧力差は、既設の圧力センサ75により検出し得るので、既設の圧力センサ75により検出される冷媒ポンプ32の前後圧力差に基づけば、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができる。以下、詳述する。
図21は第8実施形態のタイミングチャートである。すなわち、図21最上段には始動前にクラッチON固着が生じており、t1のタイミングで冷間始動を行った後、エンジン暖機中のt61のタイミングでポンプバイパス弁132を一時的に全閉位置に切換えたときの冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoの変化を示している。
エンジン冷間時にクラッチON固着が生じていない場合には、図21最上段に破線で示したようにt71からt73までの間(一定時間Δt)でポンプバイパス弁132を全閉位置に切換えても、冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoはほぼゼロで変化しない。一方、始動前にクラッチON固着が生じている場合には、エンジン冷間始動後に図21第2段目に示したようにポンプバイパス弁132をt71からt73までの間で全閉位置に切換えると、冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoがゼロを離れて所定圧力まで上昇する。このため、予めスライスベルS/L41をゼロと上記の所定圧力との間に定めておく。そして、冷媒ポンプ出口圧力PpmpoがスライスベルS/L41に到達するt72のタイミングで、クラッチON固着が生じていると判断し、図21第3段目に示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図21第4段目にはt1のタイミングで冷間始動を行った後の暖機途中のt2のタイミングでクラッチON固着が生じた場合にt74からt76までの間(一定時間Δt)でポンプバイパス弁132を全閉位置に切換えたときの冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoの変化を一点鎖線で示している。この場合にも、冷媒ポンプ出口圧力PpmpoがスライスベルS/L41に到達するt75のタイミングで、クラッチON固着が生じていると判断し、図21第6段目に示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図22A,図22Bのフローは第8実施形態のクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。第5実施形態の図14A,図14Bのフローと同一の部分には同一の符号を付している。
第8実施形態では、冷媒ポンプ32の前後圧力差を算出するため、ポンプバイパス弁132が全開状態にあるときの冷媒ポンプ出口圧力と、ポンプバイパス弁132が全閉状態にあるときの冷媒ポンプ出口圧力とを取得する必要がある。このため、ポンプバイパス弁132が全開状態にあるときの冷媒ポンプ出口圧力を第3圧力P3、ポンプバイパス弁132が全閉状態にあるときの冷媒ポンプ出口圧力を第4圧力P4として取り込む。
第5実施形態の図14A,図14Bのフローと相違する部分を主に説明すると、図22Bのステップ121で第3圧力P3を取得済みであるか否かをP3取得済みフラグより判断する。ここでは、P3取得済みフラグ=0つまり第3圧力P3を取得済みでないと判断して図22Bのステップ122,123に進む。
図22Bのステップ122では、冷媒圧力センサ75(図20参照)により検出される冷媒ポンプ出口圧力[MPa]を第3圧力P3[MPa]に移す。このとき、ポンプバイパス弁132は全開状態にあるので、第3圧力P3はポンプバイパス弁132が全開状態にあるときの冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoとなる。これで第3圧力P3を取得したので、図22Bのステップ123ではP3取得済みフラグ=1とする。
図22Bのステップ123でP3取得済みフラグ=1としたことにより、次回以降は図22Bのステップ121よりステップ124に進む。図22Bのステップ124では第4圧力P4を取得済みであるか否かをP4取得済みフラグより判断する。ここでは、P4取得済みフラグ=0つまり第4圧力P4を取得済みでないと判断して図22Bのステップ125に進む。
図22Bのステップ125では、ポンプバイパス弁132に閉指令を出す。これによって、ポンプバイパス弁132が全開状態から全閉状態に切換えられる。ポンプバイパス弁132が全閉状態に切換えられると、クラッチON固着が生じている場合には冷媒ポンプ32が通路抵抗となって冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoが上昇する。
図22Bのステップ126では、ポンプバイパス弁132に閉指令を出してから一定時間が経過したか否かをみる。これは、ポンプバイパス弁132に閉指令を出してからポンプバイパス弁132が全閉状態に切換えられ冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoが上昇するまでに応答遅れがあるので、この応答遅れが経過したか否かをみるためである。ポンプバイパス弁132に閉指令を出してから一定時間が経過していないときには、まだ冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoが上昇していないと判断し、そのまま今回の処理を終了する。
ポンプバイパス弁132に閉指令を出してから一定時間が経過するまでは、そのまま今回の処理を終了する。やがて、ポンプバイパス弁132に閉指令を出してから一定時間が経過したときには、図22Bのステップ127に進み、冷媒圧力センサ75により検出される冷媒ポンプ出口圧力Ppmpo[MPa]を第4圧力P4[MPa]に移す。このとき、ポンプバイパス弁132は全閉状態にあるので、第4圧力P4はポンプバイパス弁132が全閉状態にあるときの冷媒ポンプ出口圧力Ppmpoとなる。これで第4圧力P4を取得したので、図22Bのステップ128ではP4取得済みフラグ=1とする。図22Bのステップ129では、ポンプバイパス弁132を元の状態に戻すため、ポンプバイパス弁132に開指令を出す。
図22Bのステップ128でP4取得済みフラグ=1としたことにより、次回以降は図22Bのステップ121,124よりステップ130に進む。図22Bのステップ130では第4圧力P4と第3圧力P3の差圧力を冷媒ポンプ32の前後圧力差ΔPpmp[MPa](=P4−P3)として算出する。
図22Bのステップ131では冷媒ポンプ32の前後圧力差ΔPpmpとスライスレベルS/L41[MPa]を比較する。ここで、スライスレベルS/L41はクラッチON固着が生じているか否かを判定するための値で、予め設定しておく。冷媒ポンプ32の前後圧力差ΔPpmpがスライスレベルS/L41以上となったときにはクラッチON固着が生じていると判断し、図22Bのステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、図22Bのステップ131で冷媒ポンプ32の前後圧力差ΔPpmpがスライスレベルS/L41未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断し、図22Bのステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
クラッチON固着が生じていても、ポンプバイパス弁132を開いていると冷媒ポンプ32の前後圧力差が生じることがない。このため、ポンプバイパス弁を開いた状態で冷媒ポンプ出口圧力が上昇するか否かにより判定するのでは、クラッチON固着が生じているのにクラッチON固着が生じていない(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されていない)との誤判定が生じ得る。第8実施形態では、ポンプバイパス通路131(バイパス通路)にポンプバイパス弁132(常開の第2バイパス弁)を備え、冷媒の圧力が冷媒ポンプ出口圧力であるときにポンプバイパス弁132を全閉状態へと切換える。これによって、クラッチON固着が生じている場合(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されている場合)には、冷媒ポンプ32の前後圧力差が生じるので、クラッチON固着が生じているのにクラッチON固着が生じていないとの誤判定を回避できる。
冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は凝縮器38に運ばれ、凝縮器38を流れる冷媒から外気に放出される。この凝縮器38で放熱された後の冷媒は再び冷媒通路を循環する。このため、ポンプバイパス弁132を全開状態から全閉状態へと切換えたときには、冷媒ポンプ32の前後圧力差が生じる。これに対応し、第8実施形態では、ポンプバイパス通路131(バイパス通路)に常開のポンプバイパス弁132(第2バイパス弁)を備え、冷媒の差圧力は、ポンプバイパス弁132を全開状態から全閉状態へと切換えたときの冷媒ポンプの前後圧力差である。この場合、冷媒ポンプ32の前後圧力差は既設の冷媒圧力センサ75により検出している。つまり、第8実施形態によれば、既設の冷媒圧力センサ75により検出される冷媒ポンプ32の前後圧力差に基づいて、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができるので、コストアップを抑制できる。
(第9実施形態)
図23は第9実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。第8実施形態の図20と同一部分には同一の符号を付している。
第9実施形態でも、図23に示したように、冷媒ポンプ32の上流から冷媒ポンプ32をバイパスして冷媒ポンプ32の下流に合流するポンプバイパス通路131を設け、このポンプバイパス通路131に第2バイパス弁132を設けている。以下、この第2バイパス弁を「ポンプバイパス弁」という。このポンプバイパス弁132は電磁式の開閉弁である。
なお、第9実施形態では、冷媒ポンプ32のすぐ上流に設けてある冷媒温度センサ83は既設であるとする。
さて、冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は凝縮器38に運ばれ、凝縮器38を流れる冷媒から外気に放出される。この凝縮器38で放熱された後の冷媒は再び冷媒通路を循環する。つまり、熱交換器36で熱を受けると、冷媒は圧力が上昇するだけでなく、冷媒の温度も上昇するので、冷媒の温度も冷媒の圧力と同等に扱うことができる。このため、ポンプバイパス弁132を全開状態から全閉状態へと切換えたときに冷媒ポンプ32の前後圧力差が生じるだけでなく、冷媒ポンプ32の前後温度差が生じる。こうした冷媒ポンプ32の前後温度差は、既設の冷媒温度センサ83により検出し得るので、既設の冷媒温度センサ83により検出される冷媒ポンプ32の前後温度差に基づけば、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができる。以下、詳述する。
図24は第9実施形態のタイミングチャートである。すなわち、図24最上段には始動前にクラッチON固着が生じており、t1のタイミングで冷間始動を行った後、エンジン暖機中のt81のタイミングでポンプバイパス弁132を一時的に閉じたときの冷媒ポンプ出口温度Tpmpoの変化を示している。
エンジン冷間時にクラッチON固着が生じていない場合には、図24最上段に破線で示したようにt81からt83までの間(一定時間Δt)でポンプバイパス弁132を全閉位置に切換えても、冷媒ポンプ出口温度Tpmpoは一定値で変化しない。一方、始動前にクラッチON固着が生じている場合には、エンジン冷間始動後に図24第2段目に示したようにポンプバイパス弁132をt81からt83までの間で全閉位置に切換えると、冷媒ポンプ出口温度Tpmpoが一定値を離れて所定温度まで上昇する。このため、予めスライスベルS/L41をゼロと上記の所定温度との間に定めておく。そして、冷媒ポンプ出口温度TpmpoがスライスベルS/LT41に到達するt82のタイミングで、クラッチON固着が生じていると判断し、図24第3段目に示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図24第4段目にはt1のタイミングで冷間始動を行った後の暖機途中のt2のタイミングでクラッチON固着が生じた場合にt84からt86までの間(一定時間Δt)でポンプバイパス弁132を全閉位置に切換えたときの冷媒ポンプ出口温度Tpmpoの変化を一点鎖線で示している。この場合にも、冷媒ポンプ出口温度TpmpoがスライスベルS/LT41に到達するt85のタイミングで、クラッチON固着が生じていると判断し、図24第6段目に示したようにクラッチON固着フラグをゼロから1に切換える。
図25A,図25Bのフローは第9実施形態のクラッチON固着診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。第8実施形態の図22A,図22Bのフローと同一の部分には同一の符号を付している。
第9実施形態では、冷媒ポンプ32の前後温度差を算出するため、ポンプバイパス弁132が全開状態にあるときの冷媒ポンプ出口温度と、ポンプバイパス弁132が全閉状態にあるときの冷媒ポンプ出口温度とを取得する必要がある。このため、ポンプバイパス弁132が全開状態にあるときの冷媒ポンプ出口温度を第3温度T3、ポンプバイパス弁132が全閉状態にあるときの冷媒ポンプ出口温度を第4温度T4として取り込む。
第8実施形態の図22A,図22Bのフローと相違する部分を主に説明すると、図22B5ステップ141で第3温度T3を取得済みであるか否かをT3取得済みフラグより判断する。ここでは、T3取得済みフラグ=0つまり第3温度T3を取得済みでないと判断して図25Bのステップ142,143に進む。
図25Bのステップ142では、冷媒温度センサ83(図23参照)により検出される冷媒ポンプ出口温度[℃]を第3温度T3[℃]に移す。このとき、ポンプバイパス弁132は全開状態にあるので、第3温度T3はポンプバイパス弁132が全開状態にあるときの冷媒ポンプ出口温度Tpmpoとなる。これで第3温度T3を取得したので、図25Bのステップ143ではT3取得済みフラグ=1とする。
図25Bのステップ143でT3取得済みフラグ=1としたことにより、次回以降は図25Bのステップ141よりステップ144に進む。図25Bのステップ144では第4温度T4を取得済みであるか否かをT4取得済みフラグより判断する。ここでは、T4取得済みフラグ=0つまり第4温度T4を取得済みでないと判断して図25Bのステップ145に進む。
図25Bのステップ145では、ポンプバイパス弁132に閉指令を出す。これによって、ポンプバイパス弁132が全開状態から全閉状態に切換えられる。ポンプバイパス弁132が全閉状態に切換えられると、クラッチON固着が生じている場合には冷媒ポンプ出口温度Tpmpoが上昇する。
図25Bのステップ146では、ポンプバイパス弁132に閉指令を出してから一定時間が経過したか否かをみる。これは、ポンプバイパス弁132に閉指令を出してからポンプバイパス弁132が全閉状態に切換えられ冷媒ポンプ出口温度Tpmpoが上昇するまでに応答遅れがあるので、この応答遅れが経過したか否かをみるためである。ポンプバイパス弁132に閉指令を出してから一定時間が経過していないときには、まだ冷媒ポンプ出口温度Tpmpoが上昇していないと判断し、そのまま今回の処理を終了する。
ポンプバイパス弁132に閉指令を出してから一定時間が経過するまでは、そのまま今回の処理を終了する。やがて、ポンプバイパス弁132に閉指令を出してから一定時間が経過したときには、図25Bのステップ147に進み、冷媒温度センサ83により検出される冷媒ポンプ出口温度Tpmpo[℃]を第4温度T4[℃]に移す。このとき、ポンプバイパス弁132は全閉状態にあるので、第4温度T4はポンプバイパス弁132が全閉状態にあるときの冷媒ポンプ出口温度Tpmpoとなる。これで第4温度T4を取得したので、図25Bのステップ148ではT4取得済みフラグ=1とする。図25Bのステップ149では、ポンプバイパス弁132を元の状態に戻すため、ポンプバイパス弁132に開指令を出す。
図25Bのステップ148でT4取得済みフラグ=1としたことにより、次回以降は図25Bのステップ141,144よりステップ150に進む。図25Bのステップ150では第4温度T4と第3温度T3の差温度を冷媒ポンプ32の前後温度差ΔTpmp[℃](=T4−T3)として算出する。
図25Bのステップ151では冷媒ポンプ32の前後温度差ΔTpmpとスライスレベルS/LT41[℃]を比較する。ここで、スライスレベルS/LT41はクラッチON固着が生じているか否かを判定するための値で、予め設定しておく。冷媒ポンプ32の前後温度差ΔTpmpがスライスレベルS/LT41以上となったときにはクラッチON固着が生じていると判断し、図25Bのステップ9に進んでクラッチON固着フラグ=1とする。
一方、図25Bのステップ151で冷媒ポンプ32の前後温度差ΔTpmpがスライスレベルS/LT41未満であるときにはクラッチON固着が生じていないと判断し、図25Bのステップ10に進んでクラッチON固着フラグ=0とする。
クラッチON固着が生じていても、ポンプバイパス弁132を開いていると冷媒ポンプ32の前後温度差が生じることがない。このため、ポンプバイパス弁132を開いた状態で冷媒ポンプ出口温度が上昇するか否かにより判定するのでは、クラッチON固着が生じているのにクラッチON固着が生じていない(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されていない)との誤判定が生じ得る。第9実施形態では、ポンプバイパス通路131(バイパス通路)にポンプバイパス弁132(常開の第2バイパス弁)を備え、冷媒の温度が冷媒ポンプ出口温度であるときにポンプバイパス弁132を全閉状態へと切換える。これによって、クラッチON固着が生じている場合(エンジンからランキンサイクルへの熱交換が促進されている場合)には、冷媒ポンプ32の前後温度差が生じるので、クラッチON固着が生じているのにクラッチON固着が生じていないとの誤判定を回避できる。
冷間始動前にクラッチON固着が生じている場合や冷間始動後にクラッチON固着が生じた場合にはエンジン暖機中に膨張機クラッチ35にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環する。このため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36で冷媒に奪われた熱は凝縮器38に運ばれ、凝縮器38を流れる冷媒から外気に放出される。この凝縮器38で放熱された後の冷媒は再び冷媒通路を循環する。このため、ポンプバイパス弁132を全開状態から全閉状態へと切換えたときには、冷媒ポンプ32の前後温度差が生じる。これに対応し、第9実施形態では、ポンプバイパス通路131(バイパス通路)に常開のポンプバイパス弁132(第2バイパス弁)を備え、冷媒の差温度は、ポンプバイパス弁132を全開状態から全閉状態へと切換えたときの冷媒ポンプの前後温度差である。この場合、冷媒ポンプ32の前後温度差は既設の冷媒温度センサ83により検出している。つまり、第9実施形態によれば、既設の冷媒温度センサ83により検出される冷媒ポンプ32の前後温度差に基づいて、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができるので、コストアップを抑制できる。
(第10実施形態)
図26は第10実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。第1実施形態の図1と同一部分には同一の符号を付している。
第10実施形態は、第1実施形態と相違して、冷媒ポンプ32と膨張機37とが分離されているものである。すなわち、図26に示したように、冷媒ポンプ32の軸とエンジン2の出力軸とを平行に配置し、ベルト伝動機構(33,34,2a)を介して連結している。また、ポンププーリ33と冷媒ポンプ32との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「ポンプクラッチ」という。)135を設けて、冷媒ポンプ32をエンジン2と締結・解放可能にしている。このため、ポンプクラッチ135を締結したときに、エンジン2によって冷媒ポンプ32が回転駆動される。一方、膨張機37には発電機136が同軸に配置され、膨張機37が駆動されるときに発電機136が発電する。
第10実施形態の構成では、ポンプクラッチ135の解放のためにはポンプクラッチ135にOFF信号を出力してポンプクラッチ135の電磁コイルに電流を流さないことである。
さて、第10実施形態のポンプクラッチ135は、第1実施形態の膨張機クラッチ35と等価な手段であるので、ポンプクラッチ135にON信号を出力していないのにポンプクラッチ135が締結状態のまま固着し得る。このポンプクラッチ135が締結状態のままとなる固着を、以下「ポンプクラッチON固着」で定義する。
ポンプクラッチON固着が生じている場合にはポンプクラッチ135にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環するため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が奪われる分だけ、エンジン出口の冷却水温度の上昇が遅れるか、エンジン出口の冷却水温度が低下する。こうしたエンジン出口の冷却水温の低下は、既設の冷却水温度センサ74により検出し得るので、既設の冷却水温度センサ74に基づけば、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができる。
このように、ポンプクラッチON固着は第1実施形態でいうクラッチON固着と同様であるので、第1実施形態に示したクラッチON固着診断の考え方を第10実施形態にも同様に適用できる。すなわち、図27は第10実施形態のエンジン暖機中のエンジン出口冷却水温度の変化を示すタイミングチャート、図28は第10実施形態のポンプクラッチON固着診断を説明するためのフローチャートである。第1実施形態の図2,図3と同一部分には同一の符号を付している。図27,図28では、第1実施形態の図2,図3に記載されている「クラッチON固着」を「ポンプクラッチON固着」と、「クラッチON固着フラグ」を「ポンプクラッチON固着フラグ」と読み替えればよいので、説明は省略する。
ポンプクラッチON固着が生じている場合にはポンプクラッチ135(電磁クラッチ)にON信号を出力していない状態でも冷媒がランキンサイクル31の冷媒通路を循環するため、熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が冷媒に奪われる。この熱交換器36でエンジン出口の冷却水から熱が奪われる分だけ、エンジン出口の冷却水温度の上昇が遅れるか、エンジン出口の冷却水温度が低下する。このとき、第10実施形態では、エンジン出口冷却水の上昇がポンプクラッチON固着が生じていない場合(電磁クラッチが締結状態で固着していない場合)より遅いときに、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されると判定する。またはエンジン出口冷却水がポンプクラッチON固着が生じていない場合(電磁クラッチが締結状態で固着していない場合)のエンジン出口の冷却水温度より低下するときに、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されると判定する。この場合、エンジン出口の冷却水温度は既設の冷却水温度センサ74により検出している。つまり、第10実施形態によれば、既設の冷却水温度センサ74により検出されるエンジン出口の冷却水温度に基づいて、エンジン2からランキンサイクル31への熱交換が促進されるか否かを判定することができるので、コストアップを抑制できる。
(第11,第12の実施形態)
図29,図30は第11,第12の実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。第10実施形態の図26と同一部分には同一の符号を付している。
第11,第12の実施形態は、第10実施形態に対して、図29,図30に示したようにポンプバイパス通路131を設け、このポンプバイパス通路131にポンプバイパス弁132を設けたものである。ポンプバイパス通路131は、第10実施形態と同じに、冷媒ポンプ32の上流から冷媒ポンプ32をバイパスして冷媒ポンプ32の下流に合流するものである。
第11,第12の実施形態は、ポンプバイパス弁132を設けている点で図20,図23に示した第8,第9の実施形態と同じである。このため、第8実施形態に示したポンプクラッチON固着診断の考え方を第11実施形態のポンプクラッチON固着診断の考え方にそのまま適用できる。また、第9実施形態に示したポンプクラッチON固着診断の考え方を第12実施形態のポンプクラッチON固着診断の考え方にそのまま適用できる。このため、第11,第12の実施形態によれば、第8,第9の実施形態と同様の作用効果を奏する。
(第13実施形態)
さて、サーモスタットバルブ15は、前述のように、エンジン2の暖機完了前など特に冷却水温度が低い場合には、完全にラジエータ11をバイパスさせることにより、冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れるようにするものである。このサーモスタットバルブ15が冷却水通路13側のバルブ開度を大きした状態で固着することがある。このサーモスタットバルブ15が冷却水通路13側のバルブ開度を大きくした状態のままとなる固着を、「サーモスタット開固着」で定義する。
サーモスタット開固着が生じると、エンジン出口の冷却水がラジエータ11に流れラジエータで11でエンジン冷却水の熱が奪われることになり、エンジン2の暖機完了が遅れてしまう。また、冷媒ポンプ32がエンジン2により駆動されるのでは、エンジン2の不要な負荷になり燃費が悪化する。つまり、第1実施形態では、サーモスタット開固着とクラッチON固着とを区別してないので、クラッチON固着が生じておらずかつサーモスタット開固着が生じている場合に、クラッチON固着が生じていると誤診断される恐れがある。
そこで第13実施形態では、サーモスタット開固着とクラッチON固着とを区別して判別する。両者を区別する方法を図31を参照して説明すると、図31最上段はt1のタイミングで冷間始動を行い、t5のタイミングでエンジン2が暖機を完了するとしたときのエンジン出口の冷却水温度の変化を示す第13実施形態のタイミングチャートである。
図31最上段には、クラッチON固着、サーモスタット開固着のいずれも生じていない場合のエンジン出口の冷却水温度の変化を破線及び一点鎖線で示している。このうち、破線はランキンサイクル31の非運転時のエンジン出口冷却水温度推定値Test1、二点鎖線はランキンサイクル31の運転時のエンジン出口冷却水温度推定値Test2である。ここで、Test2はTest1よりも遅く上昇する。これは、次の理由からである。すなわち、ランキンサイクル31の非運転時には熱交換器36でエンジン出口の冷却水の有する熱が冷媒に奪われることがない。これに対して、ランキンサイクル31の運転時には熱交換器36でエンジン出口の冷却水の有する熱が冷媒に奪われるので、そのエンジン出口の冷却水の有する熱が奪われる分、外気の空気温度Taからのエンジン出口の冷却水の温度の上昇が遅れるためである。
ここで、冷間始動前よりサーモスタット開固着が生じておらず、かつ冷間始動前よりクラッチON固着が生じている場合を、「クラッチON固着のみが生じている場合」で定義する。また、冷間始動前よりクラッチON固着が生じておらず、かつ冷間始動前よりサーモスタット開固着が生じている場合を、「サーモスタット開固着のみが生じている場合」で定義する。なお、クラッチON固着とサーモスタット開固着とが同時に生じることは確率的に非常にまれであるので、クラッチON固着とサーモスタット開固着とが同時に生じている場合は考えない。
このように定義したとき、クラッチON固着のみが生じている場合のエンジン出口の冷却水温度Twは、図31最上段に太実線で示したように破線と一点鎖線の間で推移すると考えられる。
これは、クラッチON固着のみが生じている場合といっても様々なケースを考慮するものである。例えば膨張機クラッチ35が完全に締結している状態になっているケース1の他にも、膨張機クラッチ35が半クラッチ状態になっているケース2がある。膨張機クラッチ35が完全に締結している状態になっているケース1では、ランキンサイクル31の運転時と同一視できる。このときのエンジン出口の冷却水温度は、一点鎖線で示したランキンサイクル運転時の出口冷却水温度推定値Test2とほぼ同様となるものと思われる。一方、膨張機クラッチ35が半クラッチ状態になっているケース2では、冷媒ポンプ32の回転速度が、膨張機クラッチ35が完全に締結している状態のときより低下するので、その分エンジン出口の冷却水から奪われる熱が少なくなる。このエンジン出口の冷却水から奪われる熱が少なくなる分、エンジン出口の冷却水温度は破線で示したランキンサイクル非運転時の出口冷却水温度推定値Test1に近づくものと思われる。ただし、ケース2でのエンジン出口の冷却水温度、Test1に近づくにしてもTest1とほぼ同じになることはなく、Test1よりも下で推移する。Test1とほぼ同じになることは、クラッチON固着が生じていない場合のエンジン出口の冷却水温度となることを意味するためである。このように、クラッチON固着のみが生じている場合のエンジン出口の冷却水温度は、破線と一点鎖線の間で変化する(一点鎖線と一致することはあっても破線と一致することはない)ものと考えられるのである。図31最上段に示した太実線はケース2の場合である。
次に、サーモスタット開固着のみが生じている場合のエンジン出口の冷却水温度は、図31最上段に細実線で示したように一点鎖線で示したランキンサイクル運転時の出口冷却水温度推定値Test2よりも下で推移すると経験上考えられる。
今仮に、t91のタイミングをクラッチON固着のみ診断タイミングに定めたとする。このとき、t91の診断タイミングでクラッチON固着のみが生じている場合のエンジン出口冷却水温度Twがランキンサイクル非運転時の出口冷却水温度推定値Test1より低くなっている。これより、t91のタイミングでクラッチON固着のみが生じていると診断し、図31第2段目に太実線で示したようにクラッチON固着のみフラグをゼロから1に切換える。
同様に、t92のタイミングをサーモスタット開固着のみ診断タイミングに定めたとする。このとき、t92の診断タイミングでサーモスタット開固着のみが生じている場合のエンジン出口冷却水温度Twがランキンサイクル運転時の出口冷却水温度推定値Test2より低くなっている。これより、t92のタイミングでサーモスタット開固着のみが生じていると診断し、図31第3段目に細実線で示したようにサーモスタット開固着のみフラグをゼロから1に切換える。ここでは、クラッチON固着のみ診断タイミング(t91)とサーモスタット開固着のみ診断タイミング(t92)とをずらせた場合で説明したが、実際には同じタイミングでかまわない。
エンジンコントローラ71で実行されるこの制御を図32A,図32Bのフローチャートを参照して説明する。図32A,図32BのフローはクラッチON固着のみ診断及びサーモスタット開固着のみ診断を区別して行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。第1実施形態の図3と同一部分には同一の符号を付している。
図32Aのステップ161,162ではクラッチON固着のみフラグ及びサーモスタット開固着のみフラグをみる。ここでは、クラッチON固着のみフラグ=0かつサーモスタット開固着のみフラグ=0であるとしてステップ3,4に進む。ステップ3,4でエンジン2の暖機が完了しておらずかつエンジン冷間始動後であるときにはエンジン暖機中にあると判断し、図32Bのステップ163以降に進む。
図32Bのステップ163では、第1実施形態の図3のステップ5と同様にして、ランキンサイクル31の非運転時の出口冷却水温度推定値θe1[K]を次の式に基づいて算出する。
C・M・dθe1/dt=qig−qoe−qoh …(1 ’)
ただし、C:冷却水の比熱[kcal/kg・K]
M:冷却水の質量[kg]
qig:燃焼ガスから冷却水に伝わる単位時間当たり熱量
[kcal/s]
qoe:エンジン表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量
[kcal/s]
qoh:エアコンのヒータコア表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量 [kcal/s]
上記(1 ’)式は、基本的に上記(1)式と同じ式である。すなわち、エンジン2の暖機完了後であれば、上記(1’)式にラジエータ表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量qorを加える必要がある。しかしながら、第13実施形態は第1実施形態と同じにエンジン暖機中が対象であり、エンジン暖機中にはラジエータ11に冷却水を流さない。よって、エンジン暖機中であれば、ラジエータ表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量qorは考慮する必要がないため、当該熱量qorを省略している。
具体的には上記(1’)式を積分することによって、つまり次式により出口冷却水温度推定値θe1を算出する。
θe1=(1/C・M)∫(qig−qoe−qoh)dt …(2’)
上記(2’)式は連続の式であるので、(2’)式から離散値の式を作って出口冷却水温度推定値θeを算出するようにしてもかまわない。
上記(2’)式に基づいて算出される出口冷却水温度推定値θe1を[K]の単位から[℃]の単位に変換し、変換後の出口冷却水温度推定値を第1出口冷却水温度推定値Test1[℃]とする。
図32Bのステップ164では、ランキンサイクル31の運転時の出口冷却水温度推定値θe2[K]を次の式に基づいて算出する。
C・M・dθe2/dt=qig−qoe−qoh−qrankine …(4)
ただし、C:冷却水の比熱[kcal/kg・K]
M:冷却水の質量[kg]
qig:燃焼ガスから冷却水に伝わる単位時間当たり熱量
[kcal/s]
qoe:エンジン表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量
[kcal/s]
qoh:エアコンのヒータコア表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量 [kcal/s]
qrankine:ランキンサイクルから外気に伝わる単位時間当たりの熱量
[kcal/s]
上記(4)式と上記(1 ’)式との違いは、上記(4)式ではランキンサイクルから外気に伝わる単位時間当たりの熱量qrankineが追加されている点である。
ここで、ランキンサイクルから外気に伝わる単位時間当たりの熱量qrankineは、次の式のように、エンジン回転速度Ne[rpm]、エンジン出口の冷却水温度Tw[℃]、外気の空気温度Ta[℃]、車速VSP[km/h]の関数である。
qrankine=f(Ne,Tw,Ta,VSP) …(5)
エンジン暖機中のqrankineを求める際にエンジン回転速度Neをパラメーとしているのは、エンジン回転速度Neによって冷媒流量[kg/s]が変わるためである。エンジン暖機中のqrankineを求める際に外気の空気温度Taをパラメーとしているのは、外気の空気温度Taの相違で凝縮器38の前面温度が変化し、凝縮器38から外気への放熱量が変わるためである。エンジン暖機中のqrankineを求める際に車速VSPをパラメーとしているのは、車速VSPの相違で凝縮器38を通過する風速が変化し、凝縮器38から外気への放熱量が変わるためである。Ne,Tw,Ta,VSPをパラメータとするqrankineのマップ等の特性は、予め求めておく。
上記エンジン回転速度は、エンジン2に設けている既設のクランク角センサ(図示しない)により検出する。上記エンジン出口の冷却水温度Twは既設の冷却水温度センサ74により検出する。上記外気の空気温度Taは既設の空気温度センサ86(図10参照)により検出する。上記車速VSPは既設の車速センサ(図示しない)により検出する。
ここで、エンジン2の暖機完了後であれば、上記(4)式にもラジエータ表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量qorを加える必要がある。しかしながら、第13実施形態は第1実施形態と同じにエンジン暖機中が対象であり、エンジン暖機中にはラジエータ11に冷却水を流さない。よって、エンジン暖機中であれば、ラジエータ表面から外気に伝わる単位時間当たり熱量qorは考慮する必要がないため、当該熱量qorを省略している。
具体的には上記(4)式を積分することによって、つまり次式により出口冷却水温度推定値θe2を算出する。
θe2=(1/C・M)∫(qig−qoe−qoh)dt …(6)
上記(6)式は連続の式であるので、(6)式から離散値の式を作って出口冷却水温度推定値θe2を算出するようにしてもかまわない。
上記(6)式に基づいて算出される出口冷却水温度推定値θe2を[K]の単位から[℃]の単位に変換し、変換後の出口冷却水温度推定値を第2出口冷却水温度推定値Test2[℃]とする。
図32Bのステップ165では、冷間始動から一定時間が経過したか否かをみる。これは、冷間始動後直ぐを診断タイミングとしたのではエンジン出口の冷却水温度Twと出口冷却水温度推定値Test1,Test2との差が明確でなく、誤診断を生じる可能性があるので、両者の差が明確となるタイミングを診断タイミングとするためである。一定時間は適合により予め定めておく。冷間始動から一定時間が経過していないときにはそのまま今回の処理を終了する。
図32Bのステップ165で冷間始動から一定時間が経過したときには図32Bのステップ166に進む。図32Bのステップ166では、実際のエンジン出口の冷却水温度Twがランキンサイクル運転時の出口冷却水温度推定値Test2以上であり、かつランキンサイクル非運転時の出口冷却水温度推定値Tes1未満であるか否かをみる。冷却水温度センサ74により検出される実際のエンジン出口の冷却水温度Twが第2出口冷却水温度推定値Test2以上であり、かつ第1出口冷却水温度推定値Tes1未満である場合にはクラッチON固着のみが生じていると判断する。この場合には図32Bのステップ167に進み、クラッチON固着のみフラグ=1とする。
図32Bのステップ166で実際のエンジン出口の冷却水温度Twが第2出口冷却水温度推定値Test2以上であり、かつ第1出口冷却水温度推定値Tes1未満である場合でなかったときには図32Bのステップ168に進む。図32Bのステップ168では、実際のエンジン出口の冷却水温度Twと第2出口冷却水温度推定値Test2を比較する。実際のエンジン出口の冷却水温度Twが第2出口冷却水温度推定値Test2未満であるときにはサーモスタット開固着のみが生じていると判断し、図32Bのステップ169に進んでサーモスタット開固着のみフラグ=1とする。
図32Bのステップ168で実際のエンジン出口の冷却水温度Twが第2出口冷却水温度推定値Test2以上であるときには、クラッチON固着のみ、サーモスタット開固着のみとも生じていないと判断する。このときには図32Bのステップ170,171でクラッチON固着のみフラグ=0、サーモスタット開固着のみフラグ=0とする
これでクラッチON固着のみが生じているか否か、サーモスタット開固着のみが生じているか否かの診断を終了するので、図32Bのステップ11では診断済みフラグ=1とする。
図32Bのステップ11で診断済みフラグ=1となったときには、次回以降図32Aのステップ1よりステップ161以降に進むことができない。つまり、クラッチON固着のみが生じているか否か、サーモスタット開固着のみが生じているか否かの診断はエンジン暖機中に一度だけ行う。
第13実施形態では、エンジン出口冷却水を冷却するラジエータ11と、サーモスタットバルブ15とを備えている。サーモスタットバルブ15は、ラジエータ11に流れる冷却水とラジエータ11をバイパスして流れる冷却水との流量割合をバルブ開度によって調整し得るものである。また、サーモスタットバルブ15は、エンジン暖機中にはエンジン出口冷却水の全量がラジエータ11をバイパスして流れるようにバルブ開度を調整する。また、第13実施形態では、第1出口冷却水温度推定値算出手段と、第2出口冷却水温度推定値算出手段と、冷却水温度センサ74(エンジン出口冷却水温度検出手段)とを備えている。ここで、第1出口冷却水温度推定値算出手段はランキンサイクル31の非運転時のエンジン出口の冷却水温度の推定値を第1出口冷却水温度推定値Test1として算出する。第2出口冷却水温度推定値算出手段はランキンサイクルの運転時のエンジン出口の冷却水温度の推定値を第2出口冷却水温度推定値Test2として算出する。冷却水温度センサ74は実際のエンジン出口の冷却水温度を検出する。そして、エンジン暖機中に実際のエンジン出口の冷却水温度Twが第2出口冷却水温度推定値Test2以上でかつ第1出口冷却水温度推定値Test1未満である場合に、クラッチON固着のみが生じている(電磁クラッチが締結状態で固着している)と判定する。これによって、サーモスタット開固着のみが生じている(サーモスタットバルブがエンジン出口冷却水の全部または一部をラジエータに流している状態で固着している)ことに起因して、クラッチON固着のみが生じていると誤診断することを回避することができる。
第13実施形態では、エンジン暖機中に実際のエンジン出口の冷却水温度Twが第2出口冷却水温度推定値Test2未満である場合に、次のように判定する。すなわち、サーモスタット開固着のみが生じている(サーモスタットバルブがエンジン出口冷却水の全部または一部をラジエータに流している状態で固着している)と判定する。これによって、サーモスタット開固着のみが生じている(サーモスタットバルブがエンジン出口冷却水の全部または一部を前記ラジエータに流している状態で固着している)か否かを診断できる。