本発明は、増加した逆転写酵素効率を含む改善された活性を有するDNAポリメラーゼ、ならびに核酸ポリヌクレオチドの伸長および増幅を含む様々な用途におけるかかるポリメラーゼの使用を提供する。
DNAポリメラーゼは、世代間での遺伝情報の正確な伝達の中心的役割である、ゲノムの複製および維持に関与する。DNAポリメラーゼは、DNA合成に関与する酵素として細胞中で機能する。それらは、Mg2+などの金属活性化剤の存在下で、コピーされるDNAテンプレート又はポリヌクレオチドテンプレートによって指示された順番でデオキシリボヌクレオシド三リン酸を重合させる。インビボでは、DNAポリメラーゼは、DNA複製、DNA修復、組換えおよび遺伝子増幅を含む様々なDNA合成過程に参加する。各DNA合成過程の間に、DNAテンプレートは1回または多くても2,3回コピーされて、同一の複製物を生成する。対照的に、インビトロでは、DNA複製は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(例えば、米国特許第4,683,202号を参照のこと)のように多数回反復されることが可能である。
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に関する初期の研究において、DNAポリメラーゼは、各回のDNA複製開始時に添加された(上記米国特許第4,683,202号を参照のこと)。続いて、熱安定性DNAポリメラーゼが、高温で成長する細菌から得られ、これらの酵素の添加が必要なのは1回だけであることが判明した(米国特許第4,889、818号および米国特許第4,965,188号を参照のこと)。PCRの間に使用される高温において、これらの酵素は不可逆的に不活性化されない。結果として、各合成付加過程の開始時に新鮮な酵素を添加することなくポリメラーゼ連鎖反応の反復サイクルを実施することができる。DNAポリメラーゼ、特に熱安定性ポリメラーゼは、組換えDNA研究および疾患の医学的診断における多くの技術への手がかりである。特に、診断応用のためには、標的核酸配列は問題のDNAまたはRNAのほんの小さな部分であるかも知れず、したがって、増幅せずに標的核酸配列の存在を検出することは難しいかも知れない。
DNAポリメラーゼの全体的な折りたたみパターンは、ヒトの右手に似ており、掌、指および親指の3つの異なるサブドメインを含む(Beese et al., Science 260:352-355, 1993;Patel et al., Biochemistry 34:5351-5363, 1995を参照のこと)。指および親指サブドメインがサイズおよび細胞機能において異なるポリメラーゼ間で大きく異なる一方、触媒性の掌サブドメインはすべて重ね合わせることができる。例えば、入来(incoming)dNTPと相互作用し、化学的触媒作用の間の遷移状態を安定化するモチーフAは、中でも哺乳動物のpolαおよび原核生物のpolIファミリーのDNAポリメラーゼと、約1Åの平均偏差で重ね合わせることができる(Wang et al., Cell 89:1087-1099, 1997)。モチーフAは、構造的に、主として疎水性の残基を含む逆平行のβ鎖で開始し、αへリックスに続く。モチーフAの場合、例えば、配列DYSQIELR(配列番号22)は、サーマス・アクアティクス(Thermus aquaticus)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)およびエシェリキア・コリ(Escherichia coli)などを含む、何百万年もの進化により分かれた生物由来のポリメラーゼ中に保持されている。
よく保存されていることに加えて、DNAポリメラーゼの活性部位は、比較的変異可能で、DNAポリメラーゼ活性を顕著に低下させることなく、一定のアミノ酸置換を受け入れることができることも明らかになっている(例えば、米国特許第6,602,695号を参照のこと)。かかる変異DNAポリメラーゼは、核酸合成反応を含む診断および研究用途などにおいて様々な選択有利性を提供することができる。
DNA重合の酵素による過程には、少なくとも2つのステップ、1)入来ヌクレオチドの組み込みおよび2)新たに組み込まれたヌクレオチドの伸長、がある。DNAポリメラーゼの全体的な忠実度または「正確性(fidelity)」は、一般にこれらの2つの酵素活性の複合化したものと考えられるが、ステップは別個である。DNAポリメラーゼは、入来ヌクレオチドを誤って組み込みうるが、それが効率的に伸長されない場合には伸長率(extension rate)は激しく減少し、全体的な生成物形成は最小限となるであろう。或いは、DNAポリメラーゼに入来ヌクレオチドを誤って組み込ませ、新たに形成されたミスマッチを容易に誤って伸長させることも可能である。この場合、全体的な伸長率は高いが、全体的な正確性は低いであろう。このタイプの酵素の例は、Mn2+を二価金属イオン活性化剤として用いた場合のES112DNAポリメラーゼ(E683R Z05 DNAポリメラーゼ;US7,179,590を参照のこと)である。ミスマッチに遭遇したときに躊躇/停止する傾向のある典型的なDNAポリメラーゼとは異なるため、この酵素は非常に高効率である。ES112において示される表現型は、おそらくRNA/DNAヘテロ二本鎖対DNA/DNAホモ二本鎖の構造効果によってRTステップの間により明白である。第二の例は、DNAポリメラーゼが直ちに誤って組み込まない(誤って組み込む可能性がより低いかも知れない)が、ミスマッチを誤って伸長する能力が増加している場合である。この場合、生成物全体に関する正確性は顕著に変化しない。一般に、このタイプの酵素は、生成物の正確性が改善されるため、Mn2+中のES112の特徴よりも伸長反応のためにより好ましい。しかしながら、この属性は、単一配列のオリゴヌクレオチドプライマーが(ウイルス標的などの)配列多様性を有する標的にハイブリダイズされる場合などに、ミスマッチしたオリゴヌクレオチドプライマーの誤った伸長を許容するために利用されうるが、通常以下の誤った組み込み率は元のオリゴヌクレオチドプライマーを超えるDNA合成の完了を可能とする。このタイプのDNAポリメラーゼの例は、Z05 D508G DNAポリメラーゼである(米国特許出願公開第2009/0148891号を参照のこと)。それはオリゴヌクレオチドプライマー中のミスマッチに対してより耐性であるため、このタイプの活性は、「ミスマッチ耐性」と呼ばれる。上記の例がプライマー伸長型の反応を論じた一方、その活性はプライマー伸長が頻繁に繰り返すRT−PCRおよびPCRなどの反応においてより重要でありうる。データは、Z05 D580Gなどの酵素がミスマッチに対してより「耐性」である一方、それらは(t−ブチルベンジル修飾塩基などの)修飾塩基を含むオリゴヌクレオチドプライマーを伸長させる、またはSYBR Green IなどのDNA結合色素の存在下でオリゴヌクレオチドプライマーを伸長させるための亢進された能力も有することを示唆する(米国特許出願公開第2009/028053号を参照のこと)。
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)は、増幅によってRNA標的を検出および/または定量するために多くの用途において使用される技術である。PCRによってRNA標的を増幅するためには、最初にRNAテンプレートをcDNAに逆転写する必要がある。典型的に、RT−PCRアッセイは、最初のcDNA合成ステップ(RT)のために、中温生物由来の非熱安定性逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)に依存する。PCRにおける核酸変性に必要な高温に耐えるために、cDNAの増幅にはさらなる熱安定性DNAポリメラーゼが必要である。RT−PCRアッセイのためのより効率的な逆転写を実行するように設計された熱活性または熱安定性DNAポリメラーゼを用いるいくつかの潜在的利益がある。RNAテンプレートの二次構造を緩ませる、より高い逆転写インキュベーション温度を用いる能力と結びついた逆転写酵素活性は、全体的なより高いcDNA合成効率およびアッセイ感度をもたらす。より高温でのインキュベーションは、逆転写ステップにおける間違ったプライミングを低減することによって、特異性を増大させることもできた。改善された逆転写効率を有する酵素は、低減されたRTインキュベーション時間および/または酵素濃度を可能とすることによってアッセイデザインを単純化することができる。dUTPおよびUNGを使用する場合、非ストリンジェントなセットアップ条件の間に形成されるdUMPを含有する非特異的伸長産物は、UNGにより分解され、プライマー又はテンプレートのいずれとしても利用されることができない。中温生物由来の非熱安定性逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)を使用する場合、dUTPおよびUNG方法論を利用することはできない(Myers, T.W. et al., Amplification with Thermus thermophiles DNA Polymerase, in PCR Strategies, Innis, M.A., Gelfand, D.H. and Sninsky, J.J., Eds., Academic Press, San Diego, CA, 58-68, (1995))。しかしながら、本発明の熱活性または熱安定性のDNAポリメラーゼの逆転写ステップのための使用は、反応がdUTP/ウラシルN−グリコシラーゼ(UNG)キャリーオーバー防止システム(Longo et al., Use of Uracil DNA Glycosylase to Control Carry-over Contamination in Polymerase Chain Reactions. Gene 93:125-128, (1990))と完全に適合性であることを可能とする。キャリーオーバーコンタミネーションの制御を提供することに加えて、dUTPおよびUNGの使用は、非特異的増幅を低減するための「ホットスタート」を提供する(Innis and Gelfand 1999)。
発明の簡単な要約
対応する非改変対照ポリメラーゼに比較して増加した逆転写酵素効率を含む改善された活性を有するDNAポリメラーゼおよびかかるDNAポリメラーゼを作製および使用する方法が本明細書中に提供される。いくつかの実施態様において、配列番号1の522位に対応する上記DNAポリメラーゼのアミノ酸は、E以外の任意のアミノ酸であり、対照DNAポリメラーゼは、配列番号1の522位に対応する対照DNAポリメラーゼのアミノ酸がEであること以外は、上記DNAポリメラーゼと同じアミノ酸配列を有する。例えば、いくつかの実施態様において、配列番号1の522位に対応する位置のアミノ酸は、G、A、L、M、F、W、P、S、T、C、Y、Q、D、K、R、V、I、NまたはHから選ばれる。いくつかの実施態様において、配列番号1の552位に対応する位置のアミノ酸は、非極性の無荷電側鎖を有するアミノ酸(例えば、G、A、L、M、W、P、F、C、VまたはI)である。いくつかの実施態様において、配列番号1の552位に対応する位置のアミノ酸はGである。
いくつかの実施態様において、増加した逆転写酵素効率を有するDNAポリメラーゼは、
S−T−X1−X2−X3−X4−L−X5−X6−X7−X8−X9−X10−H−X11−I
{式中、
X1は、S、R、NまたはAであり;
X2は、A、IまたはVであり;
X3は、A、E、SまたはDであり;
X4は、VまたはAであり;
X5は、E以外の任意のアミノ酸であり;
X6は、A、L、E、PまたはKであり;
X7は、LまたはIであり;
X8は、R、AまたはSであり;
X9は、E、G、N、K、DまたはPであり;
X10は、A、E、HまたはYであり;
X11は、PまたはEである}(配列番号8)
を含むモチーフをポリメラーゼドメイン中に含む。
いくつかの実施態様において、X5は、G、A、L、M、F、W、P、S、T、C、Y、Q、D、K、R、V、I、NまたはHから選ばれる。
いくつかの実施態様において、増加した逆転写酵素効率を有するDNAポリメラーゼは、
S−T−X1−X2−X3−V−L−X5−X6−X7−X8−X9−X10−H−X11−I
{式中、
X1は、SまたはRであり;
X2は、AまたはIであり;
X3は、AまたはEであり;
X5は、E以外の任意のアミノ酸であり;
X6は、A、LまたはEであり;
X7は、LまたはIであり;
X8は、RまたはAであり;
X9は、E、GまたはNであり;
X10は、AまたはEであり;
X11は、PまたはEである}(配列番号9)
を含むモチーフをポリメラーゼドメイン中に含む。
いくつかの実施態様において、増加した逆転写酵素効率を有するDNAポリメラーゼは、
S−T−S−A−A−V−L−X5−A−L−R−E−A−H−P−I
{式中、
X5は、E以外の任意のアミノ酸である}(配列番号10)
を含むモチーフをポリメラーゼドメイン中に含む。
いくつかの実施態様において、X5は、非極性の無荷電側鎖を有するアミノ酸(例えば、G、A、L、M、W、P、F、C、VまたはI)である(配列番号29)。いくつかの実施態様において、X5は、Gである(配列番号11)。
いくつかの実施態様において、配列番号1の580位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸は、DまたはE以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施態様において、配列番号1の580位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸は、D以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施態様において、配列番号1の580位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸は、L、G、T、Q、A、S、N、RおよびKから成る群から選ばれる。
様々なDNAポリメラーゼが本発明による変異を受けることができる。特に好適なのは、様々な種の好熱細菌由来の野生型または天然の熱安定性ポリメラーゼ、ならびにアミノ酸置換、挿入もしくは欠失または他の改変によりかかる野生型または天然の酵素から得られた合成の熱安定性ポリメラーゼを含む、熱安定性ポリメラーゼである。ポリメラーゼの代表的な非改変形態は、例えば、CS5、CS6もしくはZ05DNAポリメラーゼ、またはそれに対して少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸配列同一性を有する機能的DNAポリメラーゼを包含する。ある実施態様において、アミノ酸配列同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%である。他の非改変ポリメラーゼは、例えば、以下の好熱細菌種:サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima);サーマス・アクアティクス;サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus);サーマス・フラバス(Thermus flavus);サーマス・フィリホルミス(Thermus filiformis);サーマス種Sps17(Thermus sp. Sps17);サーマス種Z05(Thermus sp. Z05);サーモトガ・ネオポリタナ(Thermotoga neopolitana);サーモシフォ・アフリカヌス(Thermosipho africanus);サーマス・カルドフィルス(Thermus caldophilus)、デイノコッカス・ラディオデュランス(Dinococcus radiodurans)、バシラス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)またはバシラス・カルドテナックス(Bacillus caldotenax)のいずれか由来のDNAポリメラーゼ(またはかかるポリメラーゼに対して少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%のアミノ酸配列同一性を有する機能的DNAポリメラーゼ)を包含する。ある実施態様において、アミノ酸配列同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%である。好適なポリメラーゼは、逆転写酵素(RT)活性および/またはリボヌクレオチドまたは他の2’−修飾ヌクレオチドのような特殊なヌクレオチドを組み込む能力を有するものも包含する。
効率的な逆転写活性を有する熱安定性DNAポリメラーゼがRT−PCR、特に単一酵素RT−PCRの実施に特に好適である一方、熱活性であるが熱安定性でない、効率的な逆転写活性を有するDNAポリメラーゼも本発明による変異を受け入れることができる。例えば、増加した逆転写酵素効率、ミスマッチ耐性、伸長率および/またはRT阻害剤耐性の属性は、RT−PCRにおけるRTステップにとって重要であり、このステップは、熱活性であるが熱安定性でないDNAポリメラーゼを不活性化しうる温度において実施される必要はない。RTステップに続いて、熱安定性DNAポリメラーゼは、PCR増幅ステップを実施するために反応混合物に添加されうるかまたはすでに含まれていることができる。この第二の方法論は、RTステップの間に完全に活性でないように化学的に改変された熱安定性DNAポリメラーゼ(または熱安定性DNAポリメラーゼを不活性化するための他のホットスタート技術)を使用することにより特に利益を得るであろう。効率的な逆転写活性を有する、熱活性であるが熱安定性でないDNAポリメラーゼの例は、カルボキシドサーマス・ヒドロゲノフォルマンス(Carboxydothermus hydrogenoformans)由来のDNAポリメラーゼ(Chy;配列番号40)である(米国特許第6,468,775号および同第6,399,320号を参照のこと)。
いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼは、以下の:
(a)サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(Z05)(配列番号1);
(b)サーマス・アクアティクスDNAポリメラーゼ(Taq)(配列番号2);
(c)サーマス・フィリホルミスDNAポリメラーゼ(Tfi)(配列番号3);
(d)サーマス・フラバスDNAポリメラーゼ(Tfl)(配列番号4);
(e)サーマス種Sps17DNAポリメラーゼ(Sps17)(配列番号5);
(f)サーマス・サーモフィルスDNAポリメラーゼ(Tth)(配列番号6);
(g)サーマス・カルドフィルスDNAポリメラーゼ(Tca)(配列番号7);および
(h)カルボキシドサーマス・ヒドロゲノフォルマンスDNAポリメラーゼ(Chy)(配列番号40)
から成る群から選ばれるポリメラーゼに対して、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のアミノ酸配列同一性を有する。
ある実施態様において、アミノ酸配列同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%である。
いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼは、サーモトガDNAポリメラーゼである。例えば、いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼは、以下の:
(a)サーモトガ・マリティマDNAポリメラーゼ(Tma)(配列番号34);
(b)サーモトガ・ネオポリタナDNAポリメラーゼ(Tne)(配列番号35)
から成る群から選ばれるポリメラーゼに対して、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のアミノ酸配列同一性を有する。
ある実施態様において、アミノ酸配列同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%である。
いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼは、配列番号1に対して少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のアミノ酸配列同一性を有する。ある実施態様において、アミノ酸配列同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%である。いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼは、サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(Z05)DNAポリメラーゼであり、522位のアミノ酸は、E以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼは、Z05DNAポリメラーゼ(すなわち、配列番号1)であり、522位のアミノ酸はE以外の任意のアミノ酸である。例えば、いくつかの実施態様において、522位のアミノ酸は、G、A、L、M、F、W、P、S、T、C、Y、Q、D、K、R、V、I、NまたはHから選ばれる。いくつかの実施態様において、配列番号1の522位に対応する位置のアミノ酸は、非極性の無荷電側鎖を有するアミノ酸(例えば、G、A、L、M、W、P、F、C、VまたはI)である。いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼは、Z05DNAポリメラーゼであり、522位のアミノ酸はGである。いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼは、580位における置換をさらに含むZ05DNAポリメラーゼであり、580位のアミノ酸はDまたはE以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼはZ05DNAポリメラーゼであり、580位のアミノ酸はD以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼは、Z05DNAポリメラーゼであり、580位のアミノ酸は、L、G、T、Q、A、S、N、RおよびKから成る群から選ばれる。いくつかの実施態様において、DNAポリメラーゼは、Z05DNAポリメラーゼであり、580位のアミノ酸はGである。
変異または改善されたポリメラーゼは、他の、無置換改変を含みうる。かかる1つの改変は、酵素を不活性化するが、ポリヌクレオチド伸長のために典型的に使用される温度のような高温におけるインキュベーションにより逆に酵素を活性化する熱可逆性共有結合改変である。かかる熱可逆性改変のための代表的試薬は、米国特許第5,773,258号および同第5,677,152号に記載されている。
いくつかの実施態様において、逆転写酵素活性は、リアルタイムRT−PCR増幅およびpSP64 Poly(A)中のHCV遺伝子型Ibの5’NTRの最初の800塩基から作り出されたC型肝炎ウイルス(HCV)転写産物の検出を実施することによって決定される。2つ以上の反応混合物は、設定された数のC型肝炎ウイルス(HCV)転写産物のコピーを有することができる(例えば、1:5滴定(titrations)、1:10滴定、例えば、数個の反応混合物中、10,000コピー、1000コピー、100コピー、10コピー、1コピー、0コピー)。本明細書に記載のとおり、本発明のポリメラーゼの逆転写酵素能力が、参照ポリメラーゼ(例えば、天然または非改変ポリメラーゼ)の逆転写酵素能力に対して前選択した時間単位にわたって比較されうる。改善された逆転写酵素能力を有するポリメラーゼは、天然または非改変ポリメラーゼに比較してより高い効率で転写産物を増幅するかまたは転写産物を増幅するために必要なPCRサイクル数がより少ない(すなわち、本明細書において計算されるより低いCp値を示す)であろう。さらに、いくつかの実施態様においては、改善されたRT機能を有するポリメラーゼは、長いRNA(例えば、少なくとも500または1000または2000または5000またはそれを超えるヌクレオチド長)テンプレートの複製も改善した。
他の様々な態様において、本発明は、本明細書に記載の変異または改善されたDNAポリメラーゼをコードする組換え核酸、該組換え核酸を含むベクター、および該ベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。ある実施態様において、ベクターは発現ベクターである。かかる発現ベクターを含む宿主細胞は、組換え核酸の発現に好適な条件下で宿主細胞を培養することによって変異または改善されたポリメラーゼを産生するための本発明の方法において有用である。本発明のポリメラーゼは、反応混合物および/またはキットに含まれてよい。組換え核酸、宿主細胞、ベクター、発現ベクター、反応混合物およびキットの実施態様は、上記および本明細書中に記載されたとおりである。
さらに別の態様において、ポリヌクレオチド伸長を行うための方法が提供される。該方法は一般に、本明細書に記載の増加した逆転写酵素効率、ミスマッチ耐性、伸長率および/またはRTおよびポリメラーゼ阻害剤耐性を有するDNAポリメラーゼを、プライマーの伸長に好適な条件下でプライマー、ポリヌクレオチドテンプレートおよびヌクレオシド三リン酸と接触させ、それによって伸長されたプライマーを生成することを含む。ポリヌクレオチドテンプレートは、例えば、RNAまたはDNAテンプレートであることができる。ある実施態様において、テンプレートはRNAである。ヌクレオチド三リン酸は、リボヌクレオチドおよび/または標識ヌクレオチドなどの特殊なヌクレオチドを包含しうる。さらに、プライマーおよび/またはテンプレートは、1つまたは複数のヌクレオチドアナログを包含しうる。いくつかの変法において、ポリヌクレオチド伸長方法は、変異または改善されたDNAポリメラーゼを、ポリヌクレオチドの増幅に好適な条件下でプライマー対、ポリヌクレオチドテンプレートおよびヌクレオシド三リン酸と接触させることを包むポリヌクレオチド増幅方法である。ポリヌクレオチド伸長反応は、PCR、等温伸長又はシークエンシング(例えば、454シークエンシング反応)であることができる。ある実施態様において、プライマー伸長法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含む。ポリヌクレオチドテンプレートは、任意のタイプの生体サンプル由来であることができる。
場合により、プライマー伸長反応は、参照または非改変ポリメラーゼの実際のまたは潜在的な阻害剤を含む。阻害剤は、参照または非改変(対照)ポリメラーゼの核酸伸長率および/または逆転写効率を阻害することができる。いくつかの実施態様において、阻害剤は、ヘモグロビンまたはその分解産物である。例えば、いくつかの実施態様において、ヘモグロビン分解産物は、ヘミン、ヘマトポルフィリン、またはビリルビンなどのヘム分解産物である。いくつかの実施態様において、阻害剤は鉄キレーターまたは紫色色素である。他の実施態様において、阻害剤はヘパリンまたはメラニンである。ある実施態様において、阻害剤は挿入色素である。いくつかの実施態様において、挿入色素は、[2−[N−ビス−(3−ジメチルアミノプロピル)−アミノ]−4−[2,3−ジヒドロ−3−メチル−(ベンゾ−1,3−チアゾール−2−イル)−メチリデン]−1−フェニル−キノリニウム]+である。いくつかの実施態様において、挿入色素は、[2−[N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N−プロピルアミノ]−4−[2,3−ジヒドロ−3−メチル−(ベンゾ−1,3−チアゾール−2−イル)−メチリデン]−1−フェニル−キノリニウム]+である。いくつかの実施態様において、挿入色素は、[2−[N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N−プロピルアミノ]−4−[2,3−ジヒドロ−3−メチル−(ベンゾ−1,3−チアゾール−2−イル)−メチリデン]−1−フェニル−キノリニウム]+ではない。いくつかの実施態様において、伸長に好適な条件はMg2+を含む。いくつかの実施態様において、伸長に好適な条件はMn2+を含む。
本発明は、かかるポリヌクレオチド伸長方法において有用なキットも提供する。一般に、該キットは、本明細書に記載の変異または改善されたDNAポリメラーゼを提供する少なくとも1つの容器を含む。ある実施態様において、キットはさらに、1つまたは複数の追加の試薬を提供する1つまたは複数の容器を含む。例えば、特定の変形において、該1つまたは複数の追加の容器は、ヌクレオシド三リン酸;ポリヌクレオチド伸長に好適なバッファー;および/またはポリヌクレオチド伸長条件下で所定のポリヌクレオチドテンプレートにハイブリダイズ可能な1つまたは複数のプライマーまたはプローブヌクレオチドを提供する。ポリヌクレオチドテンプレートは、任意のタイプの生体サンプルであることができる。
本発明のポリメラーゼを含む反応混合物がさらに提供される。該反応混合物は、テンプレート核酸(DNAおよび/またはRNA)、1つまたは複数のプライマーまたはプローブポリヌクレオチド、(例えば、デオキシリボヌクレオシド三リン酸、リボヌクレオシド三リン酸、標識ヌクレオシド三リン酸、特殊なヌクレオシド三リン酸を包含する)ヌクレオシド三リン酸、バッファー、塩、(フルオロフォアなどの)標識も含むことができる。いくつかの実施態様において、反応混合物は、鉄キレーターまたは紫色色素を含む。ある実施態様において、反応混合物は、ヘモグロビンまたはヘモグロビンの分解産物を含む。例えば、ある実施態様において、ヘモグロビンの分解産物は、ヘミン、ヘマチン、ヘマトフォリンおよびビリルビンなどのヘム分解産物を包含する。他の実施態様において、反応混合物は、ヘパリンまたはその塩を含む。場合により、反応混合物は、(上記または本明細書の他の場所に記載のものを包含するがそれらに限定されない)挿入色素を含む。ある実施態様において、反応混合物は、血液から単離されたテンプレート核酸を含有する。ある実施態様において、ポリヌクレオチドテンプレートはRNAである。他の実施態様において、テンプレート核酸はRNAであり、反応混合物はヘパリンまたはその塩を含む。
本発明のさらなる実施態様が本明細書中に記載される。
定義
別段の定義がない限り、本明細書中で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものに類似する任意の方法および材料は本質的に本発明の実施または試験において使用可能であるが、代表的な方法および材料のみが記載される。本発明の目的のために、次の用語が以下に定義される。
用語「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに他を意味しない限り、複数の指示対象を包含する。
「アミノ酸」は、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に取り込まれることのできる任意のモノマー単位を意味する。本明細書中で使用されるとおり、用語「アミノ酸」は、以下の20の天然のまたは遺伝的にコードされたαアミノ酸:アラニン(AlaまたはA)、アルギニン(ArgまたはR)、アスパラギン(AsnまたはN)、アスパラギン酸(AspまたはD)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GlnまたはQ)、グルタミン酸(GluまたはE)、グリシン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、リジン(LysまたはK)、メチオニン(MetまたはM)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、トリプトファン(TrpまたはW)、チロシン(TyrまたはY)、およびバリン(ValまたはV)を包含する。「X」残基が定義されない場合、これらは「任意のアミノ酸」として定義されるべきである。これらの20の天然アミノ酸の構造は、例えば、Stryer et al., Biochemistry, 5th ed., Freeman and Company (2002)に示される。セレノシステインおよびピロリジンなどの追加のアミノ酸も遺伝的にコードされることができる(Stadtman (1996) "Selenocysteine," Annu Rev Biochem. 65:83-100 および Ibba et al. (2002) "Genetic code: introducing pyrrolysine," Curr Biol. 12(13):R464-R466)。用語「アミノ酸」は、非天然アミノ酸、(修飾側鎖および/または骨格を有するなどの)修飾アミノ酸、およびアミノ酸類似体も包含する。例えば、Zhang et al. (2004) "Selective incorporation of 5-hydroxytryptophan into proteins in mammalian cells," Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101(24):8882-8887、Anderson et al. (2004) "An expanded genetic code with a functional quadruplet codon "Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101(20):7566-7571、 Ikeda et al. (2003) "Synthesis of a novel histidine analogue and its efficient incorporation into a protein in vivo," Protein Eng. Des. Sel. 16(9):699-706 、 Chin et al. (2003) "An Expanded Eukaryotic Genetic Code" Science 301(5635):964-967、James et al. (2001) "Kinetic characterization of ribonuclease S mutants containing photoisomerizable phenylazophenylalanine residues," Protein Eng. Des. Sel. 14(12):983-991、 Kohrer et al. (2001) "Import of amber and ochre suppressor tRNAs into mammalian cells: A general approach to site-specific insertion of amino acid analogues into proteins," Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98(25):14310-14315、 Bacher et al. (2001) "Selection and Characterization of Escherichia coli Variants Capable of Growth on an Otherwise Toxic Tryptophan Analogue," J. Bacteriol. 183(18):5414-5425、Hamano-Takaku et al. (2000) "A Mutant Escherichia coli Tyrosyl-tRNA Synthetase Utilizes the Unnatural Amino Acid Azatyrosine More Efficiently than Tyrosine," J. Biol. Chem. 275(51):40324-40328、およびBudisa et al. (2001) "Proteins with {beta}-(thienopyrrolyl)alanines as alternative chromophores and pharmaceutically active amino acids," Protein Sci. 10(7):1281-1292を参照のこと。
さらに例解すると、アミノ酸は典型的に、置換もしくは非置換アミノ基、置換もしくは非置換カルボキシ基、および1つまたは複数の側鎖もしくは側鎖基、またはこれらの基のいずれかの類似体を含む有機酸である。代表的な側鎖は、例えば、チオール、セレノ、スルホニル、アルキル、アリール、アシル、ケト、アジド、ヒドロキシル、ヒドラジン、シアノ、ハロ、ヒドラジド、アルケニル、アルキニル、エーテル、ボレート、ボロネート、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、ヘテロサイクリック、エノン、イミン、アルデヒド、エステル、チオ酸、ヒドロキシルアミン、またはこれらの基の任意の組み合わせを包含する。他の代表的なアミノ酸は、光励起性クロスリンカーを含むアミノ酸、金属結合性アミノ酸、スピン標識アミノ酸、蛍光性アミノ酸、金属含有アミノ酸、新規官能基を有するアミノ酸、他の分子と共有結合または非共有結合で相互作用するアミノ酸、光ケージアミノ酸および/または光異性化アミノ酸、放射性アミノ酸、ビオチンまたはビオチン類似体を含むアミノ酸、グリコシル化アミノ酸、他の炭化水素修飾アミノ酸、ポリエチレングリコールまたはポリエーテルを含むアミノ酸、重原子置換アミノ酸、化学的に切断可能なアミノ酸および/または光切断可能なアミノ酸、炭素結合型糖アミノ酸(carbon-linked sugar containing amino acid)、酸化還元活性アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸、ならびに1つまたは複数の毒性部分を含むアミノ酸を包含するが、これらに限定されない。
用語「生体サンプル」は、生物体から得られた様々なサンプルタイプを包含し、診断的アッセイまたはモニタリングアッセイにおいて使用可能である。この用語は、尿、尿沈査、血液、唾液、および生物起源の他の液体サンプル、バイオプシー検体または組織培養またはそれに由来する細胞およびその後代などの固体組織サンプルを包含する。この用語は、試薬による処理、可溶化、沈降またはある構成要素に関する濃縮などの、その獲得後に任意の方法で操作されたサンプルを包含する。この用語は、臨床的サンプルを包含し、細胞培養、細胞上清、細胞ライセート、血清、血漿、生物体液、および組織サンプル中の細胞も包含する。
本発明のDNAポリメラーゼの関係における用語「変異体」は、対応する機能的DNAポリメラーゼと比較して、1つまたは複数のアミノ酸置換を含むポリペプチド、典型的には組換え体、を意味する。
変異ポリメラーゼの関係における用語「非改変形態」は、本発明の変異DNAポリメラーゼを定義する目的で本明細書において使用される用語であり、用語「非改変形態」は、変異ポリメラーゼを特徴づけるとして特定された1つまたは複数のアミノ酸位置(複数可)以外において、変異ポリメラーゼのアミノ酸配列を有する機能的DNAポリメラーゼをさす。したがって、(a)その非改変形態および(b)1つまたは複数の特定のアミノ酸置換に関する変異DNAポリメラーゼへの言及は、該特定のアミノ酸置換(複数可)を除いて、それ以外では該変異ポリメラーゼが特定のモチーフ中に非改変形態と同一のアミノ酸配列を有することを意味する。「非改変ポリメラーゼ」(そしてしたがって、増加した逆転写酵素効率、ミスマッチ耐性、伸長率および/またはRTおよびポリメラーゼ阻害剤耐性を有する改変形態も)ジデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、リボヌクレオチド類似体、色素標識ヌクレオチドの改善された組み込み、5’−ヌクレアーゼ活性の調節、3’−ヌクレアーゼ(または校正)活性の調節などの所望の機能性を提供するさらなる変異を含みうる。したがって、本明細書に記載のとおりに本発明を実施するにあたって、DNAポリメラーゼの非改変形態が予め決定される。DNAポリメラーゼの非改変形態は、例えば、野生型および/または天然のDNAポリメラーゼ、あるいはすでに意図的に修飾されたDNAポリメラーゼであることができる。ポリメラーゼの非改変形態は、様々な好熱細菌由来のDNAポリメラーゼなどの熱安定性DNAポリメラーゼ並びに野生型または天然の熱安定性ポリメラーゼと実質的な配列同一性を有するその機能的バリアントであることが好ましい。かかるバリアントは、例えば、米国特許第6,228,628号および同第7,148,049号に記載のキメラDNAポリメラーゼなどのキメラDNAポリメラーゼを包含しうる。ある実施態様において、ポリメラーゼの非改変形態は逆転写酵素(RT)活性を有する。
用語「熱安定性ポリメラーゼ」は、熱に対して安定であり、熱抵抗性であり、その後のポリヌクレオチド伸長反応をもたらす十分な活性を保持し、二本鎖核酸の変性をもたらすのに必要な時間の間、高温に供された場合に不可逆的に変性(不活性化)されない酵素をさす。核酸変性に必要な加熱条件は、本分野で周知であり、例えば、米国特許第4,683,202号、同第4,683,195号、および同第4,965,188号に例示されている。本明細書中で使用されるとおり、熱安定性ポリメラーゼは、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)などの温度サイクル反応における使用に好適である。本明細書における目的のための不可逆的変性は、永久的かつ完全な酵素活性の喪失を意味する。熱安定性ポリメラーゼに関して、酵素活性は、テンプレート核酸鎖に相補的なポリヌクレオチド伸長産物を形成するための適切なやり方でヌクレオチドを結合させる触媒作用をさす。好熱細菌由来の熱安定性DNAポリメラーゼは、例えば、サーモトガ・マリティマ、サーマス・アクアティクス、サーマス・サーモフィルス、サーマス・フラバス、サーマス・フィリホルミス、サーマス種Sps17、サーマス種Z05、サーマス・カルドフィルス、バシラス・カルドテナックス、サーモトガ・ネオポリタナ、およびサーモシフォ・アフリカヌスを包含する。
用語「熱活性」は、RT−PCRおよび/またはPCR反応において逆転写またはアニール/伸長ステップのために一般的に使用される温度(すなわち、45〜80℃)において触媒特性を保持する酵素をさす。熱安定性酵素は、核酸の変性に必要な高温に供された場合に不可逆的に不活性化または変性されないものである。熱活性酵素は熱安定性であってもなくてもよい。熱活性DNAポリメラーゼは、エシェリキア・コリ、モロニーマウス白血病ウイルス、およびトリ骨芽球症ウイルスを含むがそれらに限定されない、好熱種由来または中温種由来のDNAまたはRNA依存性のものであることができる。
本明細書中で使用されるとおり、「キメラ」タンパク質は、そのアミノ酸配列が少なくとも2つの異なるタンパク質由来のアミノ酸配列の部分配列の融合産物を表すタンパク質をさす。キメラタンパク質は典型的に、アミノ酸配列を直接操作することにより生成されず、むしろ、キメラアミノ酸配列をコードする「キメラ」遺伝子から発現される。ある実施態様において、例えば、本発明の変異DNAポリメラーゼの非改変形態は、サーマス種DNAポリメラーゼ由来のアミノ末端(N末端)とTmaDNAポリメラーゼ由来のカルボキシ末端(C末端)から成るキメラタンパク質である。N末端領域は、N末端(アミノ酸位置1)から内部アミノ酸にわたる領域をさす。同様に、C末端領域は、内部アミノ酸からC末端にわたる領域をさす。
用語「アプタマー」は、米国特許第5,693,502号に記載の、DNAポリメラーゼを認識し、結合し、そして効率的にポリメラーゼ活性を阻害する一本鎖DNAをさす。RT−PCRにおけるアプタマーおよびdUTP/UNGの使用は、例えば、Smith et al, (Amplification of RNA: High-temperature Reverse Transcription and DNA Amplification with a Magnesium-activated Thermostable DNA Polymerase, in PCR Primer: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Dieffenbach, C.W. and Dveksler, G.S., Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 211-219, (2003))においても議論されている。
変異DNAポリメラーゼの関係において、(領域、断片、ヌクレオチドまたはアミノ酸位置などの)別の配列への「対応」は、ヌクレオチドまたはアミノ酸位置番号により番号付けし、次いで、配列同一性のパーセンテージを最大化するやり方で配列をアラインメントする規則に基づく。「[特定の配列]の位置[X]に対応する」アミノ酸は、特定の配列の同等のアミノ酸と整列する着目のポリペプチド中のアミノ酸を指す。一般に、本明細書に記載のとおり、ポリメラーゼのある位置に対応するアミノ酸は、下記のBLASTのようなアラインメントアルゴリズムを用いて決定可能である。所与の「対応領域」内のすべての位置が同一である必要はないため、対応領域内の不一致(ミスマッチ)の位置が「対応位置」とみなされる場合もある。したがって、本明細書中で用いられるとおり、特定のDNAポリメラーゼの「アミノ酸位置[X]に対応するアミノ酸位置」への照会は、他のDNAポリメラーゼならびに構造的ホモローグおよびファミリー中でのアラインメントに基づく同等の位置をさす。本発明のいくつかの実施態様において、アミノ酸位置の「対応」は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33,34、35、36、37、または40のうちの1つまたは複数のモチーフを含むポリメラーゼの領域に関して決定される。ポリメラーゼポリペプチド配列が(アミノ酸の変化またはアミノ酸の付加もしくは欠失などにより)配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33,34、35、36、37、または40と異なる場合、本明細書において議論される改善された活性と関連した特別な変異は配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33,34、35、36、37、または40中と同じ位置番号にないかもしれない。これは、例えば、表1に例解される。
本明細書中で使用される「組換え体」は、組換え法によって意図的に改変されたアミノ酸配列またはヌクレオチド配列をさす。本明細書中の用語「組換え核酸」により、一般に、もともとはインビトロでの制限エンドヌクレアーゼによる核酸の操作によって、通常は自然に見出されない形態で形成された核酸が意味される。したがって、線状形態の単離された変異DNAポリメラーゼ核酸、または通常結合されないDNA分子を連結することによってインビトロで形成された発現ベクターは、どちらも本発明の目的のための組換え体と見なされる。組換え核酸が作られ、宿主細胞に導入されると、それは組換えによらずに、すなわち、インビトロの操作でなく宿主細胞のインビボの細胞機構を用いて複製されるであろうが、その後組換えによらずに複製されたにもかかわらず、いったん組換えにより生成されたかかる核酸は、本発明の目的のためにはなお組換え体とみなされる。「組換えタンパク質」は、組換え技術を用いて、すなわち、上述の組換え核酸の発現により作られたタンパク質である。
核酸は、別の核酸配列と機能的関係に置かれた場合に「操作可能に連結」される。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を及ぼす場合に操作可能にコード配列に連結され;またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように配置された場合に操作可能にコード配列に連結される。
用語「宿主細胞」は、細胞培養中で成長させた場合の単細胞原核生物および(細菌、酵母および放線菌などの)真核生物、ならびに高等な植物または動物由来の単一細胞の両方をさす。
用語「ベクター」は、典型的には二本鎖であり、一片の外来DNAをその中に挿入することのできる一片のDNAをさす。またはベクターは、例えば、プラスミド由来であることができる。ベクターは、宿主細胞中でのベクターの自律的複製を容易化する「レプリコン」ポリヌクレオチド配列を含有する。外来DNAは、例えば、ベクター分子を複製し、選択可能またはスクリーニング可能なマーカーをコードするかあるいはトランス遺伝子をコードする、宿主細胞中で自然に見出されない異種DNAと定義される。ベクターは、外来または異種DNAを好適な宿主細胞中に輸送するために使用される。宿主細胞中では、ベクターは宿主の染色体DNAとは独立にまたは同時に複製可能であり、ベクターおよびその挿入DNAの数個のコピーが生成されることができる。さらに、ベクターは、挿入DNAのmRNA分子への転写を可能とするか、そうでなければ、挿入DNAからRNAの複数のコピーへの複製をもたらす。いくつかの発現ベクターは、さらに、挿入DNAに隣接し、発現されたmRNAの半減期を増大させ、および/またはmRNAのタンパク質分子への翻訳を可能とする配列要素を含有する。こうして、多数のmRNA分子および挿入DNAによりコードされたポリペプチド分子が迅速に合成されうる。
天然のリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドモノマーへの言及に加えて、用語「ヌクレオチド」は、本明細書中で、文脈上明らかに他を意味しない限り、ヌクレオチドが使用される特別な状況(相補塩基へのハイブリダイゼーションなど)に関して機能的に等価な誘導体および類似体を含む、関連するその構造変異体をさすと理解されるべきである。
用語「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、リボース核酸(RNA)またはデオキシリボース核酸(DNA)ポリマーに相当しうるポリマー、あるいはその類似体をさす。これは、RNAおよびDNAなどのヌクレオチドのポリマー、ならびにその合成形態、(例えば、化学的または生物化学的に修飾された)修飾形態、そして、(RNAおよびDNAサブユニットの両方を含むなどの)混合ポリマーを包含する。代表的な修飾は、メチル化、1つまたは複数の天然ヌクレオチドの類似体による置換、(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメートなどの)無荷電結合などのヌクレオチド間修飾、(ポリペプチドなどの)懸垂部分、(アクリジン、ソラーレンなどの)挿入剤、キレーター、アルキレーター、および(α−アノマー核酸などの)修飾結合を含む。水素結合および他の化学的相互作用を介して所定の配列に結合するその能力においてポリヌクレオチドを模倣する合成分子も含まれる。典型的に、ヌクレオチドモノマーは、ホスホジエステル結合を介して結合されるが、核酸の合成形態は(Nielsen et al. (Science 254: 1497-1500, 1991)に記載のペプチド核酸などの)他の結合を含みうる。核酸は、例えば染色体または染色体断片、(発現ベクターなどの)ベクター、発現カセット、裸のDNAまたはRNAポリマー、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の産物、オリゴヌクレオチド、プローブおよびプライマーなどであることができるか、またはそれを含むことができる。核酸は、一本鎖、二本鎖、または三本鎖であることができ、いかなる特別な長さにも制限されない。別段の指示がない限り、特別な核酸配列は、場合により、明示された任意の配列に加えて相補配列を含むかまたはコードする。
用語「オリゴヌクレオチド」は、少なくとも2つの(ヌクレオチドなどの)核酸モノマー単位を含む核酸をさす。オリゴヌクレオチドは典型的に、約6個から約175個までの核酸モノマー単位、より典型的には、約8個から約100個までの核酸モノマー単位、さらにより典型的には、約10個から約50個までの核酸モノマー単位(例えば、約15個、約20個、約25個、約30個、約35個またはそれを超える核酸モノマー単位)を含む。オリゴヌクレオチドの正確なサイズは、オリゴヌクレオチドの最終的な機能または用途を含む多くの因子に依存する。オリゴヌクレオチドは、場合により、現存するまたは自然の配列の単離、DNA複製または増幅、逆転写、適切な配列のクローニングおよび制限消化、あるいはNarang et al.のホスホトリエステル法(Meth. Enzymol. 68: 90-99, 1979);Brown et al.のホスホジエステル法(Meth. Enzymol. 68:109-151, 1979);Beaucage et al.のジエチルホスホラミダイト法(Tetrahedron Lett. 22: 1859-1862, 1981);Matteucci et alのトリエステル法(J. Am. Chem. Soc. 103: 3185-3191, 1981);自動合成法;または米国特許第4,458,066号に記載の固相支持体法などによる直接的化学合成、あるいは当業者に知られた他の方法を含むが、これらに限定されない任意の好適な方法によって調製される。
本明細書中で使用される用語「プライマー」は、ポリヌクレオチド伸長が開始される条件下(例えば、適切なバッファー中の(コピーされるテンプレートによって規定される)必須のヌクレオシド三リン酸およびポリメラーゼの存在を含む条件下および好適な温度または(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応におけるような)温度サイクル(複数可)における)に置かれた場合に、テンプレートにより指示される核酸合成の開始点として作用することのできるポリヌクレオチドをさす。さらに例解すると、プライマーは、様々な他のオリゴヌクレオチド介在性合成過程において、例えば、デノボのRNA合成および(例えば、核酸配列に基づく増幅(NASBA)および転写介在性増幅(TMA)などの)インビトロの転写関連過程のイニシエーターとしても使用可能である。プライマーは典型的に、(オリゴデオキシリボヌクレオチドなどの)一本鎖オリゴヌクレオチドである。プライマーの適切な長さは、プライマーの目的の用途に依存するが、典型的には6個から40個までのヌクレオチド、より典型的には15個から35個までのヌクレオチドにわたる。短いプライマー分子は一般に、テンプレートと十分に安定なハイブリッド複合体を形成するためにより低い温度を必要とする。プライマーはテンプレートの正確な配列を反映する必要はないが、プライマー伸長が起こるためにはテンプレートとハイブリダイズするのに十分に相補的でなくてはならない。ある実施態様において、用語「プライマー対」は、増幅される核酸配列の5’末端の相補体とハイブリダイズする5’センスプライマー(時には「フォワード」と呼ばれる)および(例えば、標的配列がRNAとして発現されるかまたはRNAである場合に)増幅される配列の3’末端とハイブリダイズする(時には「リバース」と呼ばれる)3’アンチセンスプライマーを含むプライマーの組を意味する。所望により、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段により検出可能な標識を組み込むことによって、プライマーは標識されることができる。例えば、有用な標識は、32P、蛍光色素、電子密度試薬、(ELISAアッセイにおいて一般に使用される)酵素、ビオチン、またはハプテンおよびそれに対する抗血清またはモノクローナル抗体が入手可能であるタンパク質を含む。
核酸塩基、ヌクレオチド三リン酸、またはヌクレオチドに言及するときの用語「従来の」または「天然の」は、記述されるポリヌクレオチド中に天然に存在するもの(すなわち、DNAに関しては、これらはdATP、dGTP、dCTPおよびdTTPである)をさす。さらに、dITPおよび7−デアザ−dGTPは、頻繁にdGTPのかわりに利用され、7−デアザ−dATPは、配列決定などのインビトロのDNA合成反応においてdATPの代わりに利用可能である。まとめて、これらはdNTPsと呼ばれうる。
核酸塩基、ヌクレオシドまたはヌクレオチドに言及するときの用語「特殊な」または「改変」は、特別なポリヌクレオチド中に天然に存在する従来の塩基、ヌクレオシド、またはヌクレオチドの改変、誘導または類似体を含む。ある特殊なヌクレオチドは、従来のdNTPsと比較して、リボース糖の2’位において改変されている。したがって、RNAに関して、天然のヌクレオチドはリボヌクレオチド(すなわち、ATP、GTP、CTP、UTP、総称してrNTPs)であるが、比較するとこれらのヌクレオチドはdNTP中には存在しないヒドロキシル基を糖の2’位に有するため、本明細書中で使用されるように、リボヌクレオチドはDNAポリメラーゼの基質としては特殊なヌクレオチドである。本明細書中で使用されるように、特殊なヌクレオチドは、核酸シークエンシングのためのターミネーターとして使用される化合物を包含するが、これらに限定されない。代表的なターミネーター化合物は、2’,3’ジデオキシ構造を有し、ジデオキシヌクレオシド三リン酸と呼ばれる化合物を包含するが、これらに限定されない。ジデオキシヌクレオシド三リン酸、ddATP、ddTTP、ddCTPおよびddGTPは、まとめてddNTPsと呼ばれる。ターミネーター化合物の追加の例は、リボヌクレオチドの2’−PO4類似体(例えば、米国特許出願公開第2005/0037991号および同第2005/0037398号を参照のこと)を包含する。他の特殊なヌクレオチドは、ホスホロチオエートdNTPs([α−S]dNTPs)、5’−[α−ボラーノ]−dNTPs、[α]−メチル−ホスホネートdNTPs、およびリボヌクレオシド三リン酸(rNTPs)を包含する。特殊な塩基は、32P、33Pまたは35Sなどの放射性同位体;蛍光標識;ケミルミネッセント標識;バイオルミネッセント標識;ビオチンなどのハプテン標識;またはストレプトアビジンもしくはアビジンなどの酵素標識で標識されてよい。蛍光標識は、フルオレッセインファミリーの色素などの陰性荷電した色素、またはローダミンファミリーの色素などの電気的に中性の色素、またはシアニンファミリーの色素などの陽性荷電した色素を包含しうる。フルオレッセインファミリーの色素は、例えば、FAM、HEX,TET、JOE、NANおよびZOEを包含する。ローダミンファミリーの色素は、Texas Red、ROX、R110、R6GおよびTAMRAを包含する。様々な色素またはFAM、HEX、TET、JOE、NAN、ZOE、ROX、R110、R6G、Texas RedおよびTAMRAで標識されたヌクレオチドは、Perkin-Elmer (Boston, MA)、 Applied Biosystems (Foster City, CA)またはInvitrogen/Molecular Probes (Eugene, OR)により販売されている。シアニンファミリーの色素は、Cy2、Cy3、Cy5およびCy7を含み、GE Healthcare UK Limited (Amersham Place, Little Chalfont, Buckinghamshire, England)により販売されている。
本明細書中で使用される「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウにわたって最適にアラインメントされた2つの配列を比較することによって決定され、ここで、比較ウィンドウ中の配列の一部は、2つの配列の最適のアラインメントのための(付加または欠失を含まない)参照配列に比較して付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含むことができる。パーセンテージは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両配列中に生じる位置の数を決定して一致(マッチ)した位置の数を得て、比較ウィンドウ中の位置の総数で一致した位置の数を除し、結果に100をかけて配列同一性のパーセンテージを得ることにより、計算される。
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列の関係で、用語「同一」または「同一性」パーセントは、同一の2つ以上の配列または部分配列をさす。配列は、比較され、比較ウィンドウまたは以下の配列比較アルゴリズムを用いてもしくは手動のアラインメントおよび目視による検査によって測定された指定領域にわたる一致が最大となるようにアラインメントされたときに、それらが特定のパーセンテージの同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基(例えば、特定の領域にわたる、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%)を有する場合、お互いに「実質的に同一」である。配列は、それらが少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、または少なくとも55%同一である場合に、お互いに「実質的に同一」である。これらの定義は、被験配列の相補体にも当てはまる。場合により、同一性は、少なくとも約50ヌクレオチドの長さの領域にわたって、またはより典型的には、100から500もしくは1000もしくはそれを超えるヌクレオチドの長さの領域にわたって存在する。
2つ以上のポリペプチド配列の関係で、用語「類似性」または「類似性」パーセントは、比較され、比較ウィンドウまたは以下の配列比較アルゴリズムを用いてもしくは手動のアラインメントおよび目視による検査によって測定された指定領域にわたる一致が最大となるようにアラインメントされたときに、それらが特定のパーセンテージの同一または保存的アミノ酸置換により定義された類似のアミノ酸残基(例えば、特定の領域にわたる60%類似性、場合により、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%類似する)を有する2つ以上の配列または部分配列をさす。配列は、それらがお互いに少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、または少なくとも55%類似する場合に、お互いに「実質的に類似」する。場合により、この類似性は、少なくとも約50アミノ酸の長さにわたって、より典型的には、少なくとも約100から500または1000またはそれを超えるアミノ酸の長さにわたって存在する。
配列比較のために、典型的に1つの配列が参照配列の役割を務め、それに対して被験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、被験および参照配列はコンピュータに入力され、必要に応じて部分配列座標が設計され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。一般的にデフォルトプログラムパラメータが使用されるか、または代わりのパラメータが指定されることができる。次いで、配列比較アルゴリズムが、プログラムパラメータに基づいて、被験配列についての参照配列に対する配列同一性パーセントまたは配列類似性パーセントを計算する。
本明細書中で使用される「比較ウィンドウ」は、その中で、ある配列が隣接位置が同数の参照配列に対して、該2つの配列が最適にアラインメントされた後に比較される、隣接位置の数が20から600まで、通常は約50から約200まで、より通常は約100から約150までから成る群から選ばれるいずれか1つである区分への言及を含む。比較のための配列のアラインメント方法は本分野で周知である。比較のための配列の最適アラインメントは、例えば、Smith and Watermanのローカル・ホモロジー・アルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2:482, 1970)により、Needleman and Wunschのホモロジー・アラインメント・アルゴリズム(J. Mol. Biol. 48:443, 1970)により、Pearson and Lipmanの類似性検索方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988)により、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実行(例えば、Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Sicence Dr. Madison, Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)により、または手動のアラインメントおよび目視による検査によって行われうる(例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (1995 supplement)を参照のこと)。
配列同一性パーセントおよび配列類似性の決定に好適なアルゴリズムの例は、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムであり、これらは、Altschul et al.(Nuc. Acids Res. 25:3389-402, 1977)およびAltschul et al.(J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990)にそれぞれ記載されている。BLAST分析の実施のためのソフトウエアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nig.gov/)により公的に入手可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードと整列させたときにポジティブ値閾値スコアと一致するかまたはそれを満たす、クエリ配列中の長さWの短いワードを同定することにより、最初に高スコア配列ペア(HSPs)を同定することを含む。Tは、隣接ワードスコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(Altschul et al.、上記)。これらの初期の隣接ワードヒットは、それらを含有するより長いHSPsを見つけるための検索を開始するためのシードとして機能する。ワードヒットを、累積アラインメントスコアが増加しうる限り、各配列に沿って両方向に伸長させる。累積スコアは、ヌクレオチド配列については、パラメータM(一致する残基対に対する報酬スコア;常に>0)およびN(不一致の残基対に対するペナルティースコア;常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列については、累積スコアを計算するためにスコアリングマトリックスが使用される。各方向へのワードヒットの伸長は:累積アラインメントスコアがその最大到達値から量Xだけ低下したとき;1つまたは複数の負のスコアの残基アラインメントの蓄積によって、累積スコアがゼロ以下になったとき;またはいずれかの配列の末端に達したときに停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度およびスピードを決定する。(ヌクレオチド配列のための)BLASTNプログラムは、デフォルト値として、11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=4および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列のためには、BLASTPプログラムはデフォルト値として、3のワード長および10の期待値(E)および50のBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89: 10915, 1989を参照のこと)アラインメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=4および両鎖の比較を使用する。
BLASTアルゴリズムは、2つの配列の間の類似性の統計分析も実施する(例えば、Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-87, 1993を参照のこと)。BLSATアルゴリズムにより提供される類似性の1つの尺度は、最小合計確率(smallest sum probability)(P(N))であり、これは、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の一致が偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、被験核酸の参照核酸に対する比較において最小合計確率が約0.2未満、典型的に約0.01未満、より典型的に約0.001未満である場合、核酸は参照配列に類似するとみなされる。
用語「逆転写効率」は、所与の逆転写反応においてcDNAとして逆転写されるRNA分子の比率をさす。ある実施態様において、本発明の変異DNAポリメラーゼは、これらのDNAポリメラーゼの非改変形態に比較して改善された逆転写効率を有する。すなわち、これらの変異DNAポリメラーゼは、特別なひと組の反応条件のもとで、それらの非改変形態よりも高い比率のRNAテンプレートを逆転写する。逆転写効率は、例えば、RNAテンプレートを用いるPCR反応のクロッシングポイント(crossing point)(Cp)を測定し、このCp値を(UがTで置きかわる以外は)同じである配列のDNAテンプレートが増幅される対照反応のCp値と比較することによって測定可能であり、ここで、RNAとDNAの増幅は、実施例に記載されたものなどの共通のプライマーセットおよび同じポリメラーゼを使用する。RNAがテンプレートとして使用される場合、被験ポリメラーゼが対照ポリメラーゼに比較して低いCp値を有するとき、被験ポリメラーゼは改善されたRT効率を有するが、DNAがテンプレートとして使用される場合、対照ポリメラーゼと実質的に変わらないCp値を有する。いくつかの実施態様において、本発明のポリメラーゼは、RNAテンプレートにおいて、対応する対照ポリメラーゼよりもCpが少なくとも1、2、3、4または5単位少ないような、改善されたRT効率を有する。
用語「ミスマッチ耐性」は、1つまたは複数のヌクレオチドを(共有結合などによって)核酸に付加することによって、テンプレート依存性のやり方で(プライマーまたは他のオリゴヌクレオチドなどの)核酸を伸長させる際の、ミスマッチを含む配列を許容するポリメラーゼの能力をさす。用語「3’ミスマッチ耐性」は、伸長される(プライマーまたは他のオリゴヌクレオチドなどの)核酸が、プライマーの3’末端ヌクレオチドにおいてそのテンプレートとのミスマッチを有する場合の、ミスマッチを含む(ほとんど相補的な)配列を許容するポリメラーゼの能力をさす。テンプレートに対するミスマッチは、プライマーの3’末端から2番目のヌクレオチドまたはプライマー配列内の別の位置にあってもよい。
用語「ミスマッチ識別能」は、1つまたは複数のヌクレオチドを(共有結合によって)核酸に付加することによって、テンプレート依存性のやり方で(プライマーまたは他のオリゴヌクレオチドなどの)核酸を伸長させる際の、ミスマッチを含む配列から完全に相補的な配列を識別するポリメラーゼの能力をさす。用語「3’ミスマッチ識別能」は、伸長される(プライマーまたは他のオリゴヌクレオチドなどの)核酸が、プライマーの3’末端ヌクレオチドにおいてそのテンプレートに比較してミスマッチを有する際の、ミスマッチを含む(ほとんど相補的な)配列を許容するポリメラーゼの能力をさす。用語「ミスマッチ」は、その他は相補的なひとつながりの二本鎖形成性(または潜在的に二本鎖形成性)配列内の1つまたは複数の誤った塩基対形成(または「非相補的な塩基の向かい合わせ(noncomplementary base oppositions)」)の存在をさす。
用語「Cp値」または「クロッシングポイント」値は、投入された標的核酸の定量を可能とする値をさす。Cp値は、二次導関数最大値法(second-derivative maximum method)(Van Luu-The, et al., "Improved real-time RT-PCR method for high-throughput measurements using second derivative calculation and double correction," Bio Techniques, Vol. 38, No. 2, February 2005, pp. 287-293)。該二次導関数法においては、Cpは二次導関数曲線の最初のピークに相当する。このピークは対数線形フェーズ(log-linear phase)の始まりに相当する。二次導関数法は、リアルタイム蛍光強度曲線の二次導関数値を計算し、1つの値だけが得られる。元のCp法は、多項式関数によるなど、強度値の局所的に定義された微分可能な近似に基づく。次いで、三次導関数が計算される。Cp値は、三次導関数の最小根である。Cpは、対数線形領域中の補助線に対する平行線の交点により決定されるフィットポイント法(fit point method)を用いて決定されることもできる(Van Luu-The, et al, BioTechniques, Vol.38, No. 2, February 2005, pp. 287-293)。Cp値は、Rocheにより提供されたLight Cycler機器により、二次導関数最大値法に従って計算することによって提供される。
用語「PCR効率」は、サイクルからサイクルへの増幅効率の指標をさす。PCR効率は、式:%PCR効率=10(-傾き)−1)×100を用いて各条件について計算され、ここで、傾きはy軸にプロットされたコピー数の対数とx軸にプロットされたCpを用いる線形回帰により計算した。PCR効率は、完全に一致したまたは不一致のプライマーテンプレートを用いて測定されることができる。
用語「核酸伸長率」は、1つまたは複数のヌクレオチドを核酸に(例えば、共有結合により)付加することによって、生物触媒(例えば、ポリメラーゼ、リガーゼなどの酵素)が核酸(例えば、プライマーまたは他のオリゴヌクレオチド)を、テンプレート依存性またはテンプレート非依存性のやり方で伸長させる比率をさす。例解すると、本明細書に記載のある変異DNAポリメラーゼは、所与のひと組の反応条件のもとで、それらの非改変形態よりも高い比率でプライマーを伸長しうるような、これらのDNAポリメラーゼの非改変形態に比較して改善された核酸伸長率を有する。
用語「RTおよびポリメラーゼ阻害剤耐性」は、対照ポリメラーゼのポリメラーゼ活性または逆転写活性を阻害しうる量の阻害剤の存在下で、活性(ポリメラーゼ活性または逆転写活性)を維持するポリメラーゼの能力をさす。いくつかの実施態様において、改善されたポリメラーゼは、対照ポリメラーゼの活性を本質的に除去しうる量の阻害剤の存在下で、ポリメラーゼまたは逆転写酵素活性を維持することができる。「対照ポリメラーゼ」は、配列番号1の522位に対応するグルタミン酸(E)を含むが、その他は改善されたポリメラーゼと同一である、ポリメラーゼをさす。
用語「5’ヌクレアーゼプローブ」は、少なくとも1つの発光標識部分を含み、5’ヌクレアーゼ反応において使用されて、標的核酸の検出を果たすオリゴヌクレオチドをさす。いくつかの実施態様において、例えば、5’ヌクレアーゼプローブは、ただ1つの(蛍光色素などの)発光部分を含む。ある実施態様において、5’ヌクレアーゼプローブは、選択された条件下においてプローブがヘアピン構造を形成可能であるような、自己相補性領域を含む。さらに例解すると、いくつかの実施態様において、5’ヌクレアーゼプローブは、少なくとも2つの標識部分を含み、2つの標識のうちの1つが切断されるかまたはオリゴヌクレオチドから分離された後に、増大した強度の放射光を発する。ある実施態様において、5’ヌクレアーゼプローブは、2つの異なる蛍光色素、例えば、5’末端レポーター色素および3’末端クエンチャー色素または部分で標識される。いくつかの実施態様において、5’ヌクレアーゼプローブは、末端位置以外の、またはそれに加えた1つまたは複数の位置において標識される。プローブが無傷である場合、レポーター色素からの蛍光放射が少なくとも部分的にクエンチングされるように、エネルギー移動は典型的に2つのフルオロフォア間で起こる。ポリメラーゼ連鎖反応の伸長ステップの間、例えば、テンプレート核酸に結合した5’ヌクレアーゼプローブは、レポーター色素の蛍光発光がさらにクエンチングされないように、Taqポリメラーゼまたはこの活性を有する他のポリメラーゼなどの5’−3’ヌクレアーゼ活性によって切断される。代表的な5’ヌクレアーゼプローブは、例えば、1993年5月11日にGelfandらに付与された「核酸ポリメラーゼのヌクレアーゼ活性を用いる均一アッセイシステム」と題された米国特許第5,210,015号、1999年11月30日にHiguchiに付与された「核酸増幅および検出のための均一方法」と題された米国特許第5,994,056号、および2001年1月9日にHiguchiに付与された「均一な核酸増幅および検出のための方法および装置」と題された米国特許第6,171,785号にも記載されている。他の実施態様において、5’ヌクレアーゼプローブは、2つ以上の異なるレポーター色素および3’末端クエンチャー色素または部分で標識されうる。
用語「FRET」または「蛍光共鳴エネルギー転移」または「フェルスター共鳴エネルギー転移」は、少なくとも2つのクロモフォア、ドナークロモフォアおよび(クエンチャーと呼ばれる)アクセプタークロモフォア間のエネルギー移動をさす。典型的に、ドナーは好適な波長の光放射によって励起されると、アクセプターにエネルギーを転移させる。典型的に、アクセプターは転移されたエネルギーを異なる波長の光放射の形態で再放射する。アクセプターは、「ダーク」クエンチャーである場合、転移されたエネルギーを光以外の形態で散逸させる。特別なフルオロフォアがドナーまたはアクセプターとして作用するか否かは、FRET対の他の要素の性質に依存する。一般的に使用されるドナー−アクセプター対は、FAM−TAMRA対 を包含する。一般的に使用されるクエンチャーは、DABCYLおよびTAMRAである。一般的に使用されるダーククエンチャーは、BlackHole Quenchers(商標)(BHQ)、(Biosearch Technologies, Inc., Novato, Cal.)、Iowa Black(商標)(Integrated DNA Tech., Inc., Coralville, Iowa)、およびBlackBerry(商標)Quencher 650(BBQ−650)(Berry & Assoc., Dexter, Mich.)を包含する。
様々な種の細菌:サーマス種Z05(Z05)(配列番号12)、サーマス・アクアティクス(Taq)(配列番号13)、サーマス・フィリホルミス(Tfi)(配列番号14)、サーマス・フラバス(Tfl)(配列番号15)、サーマス種Sps17(Sps17)(配列番号16)、サーマス・サーモフィルス(Tth)(配列番号17)、サーマス・カルドフィルス(Tca)(配列番号18)、サーモトガ・マリティマ(Tma)(配列番号19)、サーモトガ・ネオポリタナ(Tne)(配列番号20)、サーモシフォ・アフリカヌス(Taf)(配列番号21)、デイノコッカス・ラディオデュランス(Dra)(配列番号23)、バシラス・ステアロサーモフィルス(Bst)(配列番号24)およびバシラス・カルドテナックス(Bca)(配列番号25)由来の代表的なDNAポリメラーゼのポリメラーゼドメインからの領域のアミノ酸配列のアラインメントを示す。さらに、示されるポリペプチド領域は、アミノ酸コンセンサスモチーフS−T−X1−X2−X3−X4−L−X5−X6−X7−X8−X9−X10−H−X11−I(配列番号26)を含み、その可変位置は、本明細書中でさらに定義される。このモチーフは、各ポリメラーゼ配列に関して太字で強調される。本発明により変異を受けることのできるアミノ酸位置は、アスタリスク(*)により示される。アラインメント中のギャップはドット(.)で示される。
以下のDNAポリメラーゼI酵素:サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(Z05);サーマス・アクアティクスDNAポリメラーゼ(Taq);サーマス・フィリホルミスDNAポリメラーゼ(Tfi);サーマス・フラバスDNAポリメラーゼ(Tfl);サーマス種Sps17DNAポリメラーゼ(Sps17);サーマス・サーモフィルスDNAポリメラーゼ(Tth);サーマス・カルドフィルスDNAポリメラーゼ(Tca);デイノコッカス・ラディオデュランスDNAポリメラーゼ(Dra);サーモトガ・マリティマDNAポリメラーゼ(Tma);サーモトガ・ネオポリタナDNAポリメラーゼ(Tne);サーモシフォ・アフリカヌスDNAポリメラーゼ(Taf);バシラス・ステアロサーモフィルスDNAポリメラーゼ(Bst);およびバシラス・カルドテナックスDNAポリメラーゼ(Bca)間の配列同一性を提供する。(A)(Z05のアミノ酸1〜834に相当する)ポリメラーゼI酵素全体にわたる配列同一性;および(B)Z05のアミノ酸420〜834に相当するポリメラーゼサブドメインにわたる配列同一性。
様々なサーマス種DNAポリメラーゼI酵素:サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(Z05);サーマス・アクアティクスDNAポリメラーゼ(Taq);サーマス・フィリホルミスDNAポリメラーゼ(Tfi);サーマス・フラバスDNAポリメラーゼ(Tfl);サーマス種Sps17DNAポリメラーゼ(Sps17);サーマス・サーモフィルスDNAポリメラーゼ(Tth);およびサーマス・カルドフィルスDNAポリメラーゼ(Tca)間の配列同一性を提供する。(A)(Z05のアミノ酸1〜834に相当する)ポリメラーゼI酵素全体にわたる配列同一性;および(B)Z05のアミノ酸420〜834に相当するポリメラーゼサブドメインにわたる配列同一性。
詳細な説明
本発明は、機能的DNAポリメラーゼに比較してポリメラーゼドメイン中の1つまたは複数のアミノ酸が変異している改善されたDNAポリメラーゼを提供する。本発明のDNAポリメラーゼは、ポリメラーゼの非改変形態に比較して(例えば、Mn2+およびMn2+2価カチオンの存在下での)増加した逆転写酵素効率を有する活性酵素である。ある実施態様において、変異DNAポリメラーゼは、親酵素よりも優れたまたは同等の能力のためにより低濃度で使用されうる。
より効率的に逆転写を実施するDNAポリメラーゼは、例えば、RNA標的を検出および/または定量するためにRT−PCRを採用するアッセイを含む様々な用途において役に立つ。したがって、DNAポリメラーゼは、ポリヌクレオチド伸長並びに組換えDNA研究および疾患の医学的診断における用途を含む、ポリヌクレオチドテンプレートの逆転写または増幅を含む様々な用途において有用である。変異DNAポリメラーゼは、そのミスマッチに対する耐性によって、(例えば、ウイルス標的または癌および他の疾患の遺伝子マーカーなどの)可変の配列を有する可能性のある標的を検出するためにも特に有用である。
いくつかの実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、以下のモチーフ:
Ser−Thr−X1−X2−X3−X4−Leu−X5−X6−X7−X8−X9−X10−His−X11−Ile(本明細書中では1文字コードで、S−T−X1−X2−X3−X4−L−X5−X6−X7−X8−X9−X10−H−X11−Iとも称される)(配列番号8);
{式中、
X1は、Ser(S)、Arg(R)、Asn(N)またはAla(A)であり;
X2は、Ala(A)、Ile(I)またはVal(V)であり;
X3は、Ala(A)、Glu(E)、Ser(S)またはAsp(D)であり;
X4は、Val(V)またはAla(A)であり;
X5は、Glu(E)以外の任意のアミノ酸であり;
X6は、Ala(A)、Leu(L)、Glu(E)、Pro(P)またはLys(K)であり;
X7は、Leu(L)またはIle(I)であり;
X8は、Arg(R)、Ala(A)またはSer(S)であり;
X9は、Glu(E)、Gly(G)、Asn(N)、Lys(K)、Asp(D)またはPro(P)であり;
X10は、Ala(A)、Glu(E)、His(H)またはTyr(Y)であり;
X11は、Pro(P)またはGlu(E)である}
を有することを特徴としうる。
いくつかの実施態様において、X5は、G、A、L、M、F、W、P、S、T、C、Y、Q、D、K、R、V、I、NまたはHから選ばれる。
いくつかの実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、(サーマスおよびサーモトガに対応する)以下のモチーフ:
Ser−Thr−X1−X2−X3−Val−Leu−X5−X6−X7−X8−X9−X10−His−X11−Ile(本明細書中では、1文字コードでS−T−X1−X2−X3−V−L−X5−X6−X7−X8−X9−X10−H−X11−Iとも称される)(配列番号9)
{式中、
X1は、Ser(S)またはArg(R)であり;
X2は、Ala(A)またはIle(I)であり;
X3は、Ala(A)またはGlu(E)であり;
X5は、Glu(E)以外の任意のアミノ酸であり;
X6は、Ala(A)、Leu(L)またはGlu(E)であり;
X7は、Leu(L)またはIle(I)であり;
X8は、Arg(R)またはAla(A)であり;
X9は、Glu(E)、Gly(G)またはAsn(N)であり;
X10は、Ala(A)またはGlu(E)であり;
X11は、Pro(P)またはGlu(E)である}
を有することを特徴としうる。
いくつかの実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、以下のモチーフ:
Ser−Thr−Ser−Ala−Ala−Val−Leu−X5−Ala−Leu−Arg−Glu−Ala−His−Pro−Ile(本明細書中では、1文字コードで、S−T−S−A−A−V−L−X5−A−L−R−E−A−H−P−Iとも称される)(配列番号10)
{式中、
X5は、Glu(E)以外の任意のアミノ酸である}
を有することを特徴としうる。
いくつかの実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、以下のモチーフ:
Ser−Thr−Ser−Ala−Ala−Val−Leu−X5−Ala−Leu−Arg−Glu−Ala−His−Pro−Ile(本明細書中では、1文字コードで、S−T−S−A−A−V−L−X5−A−L−R−E−A−H−P−Iとも称される)(配列番号11)
{式中、
X5は、Gly(G)である}
を有することを特徴としうる。
このモチーフは、多くのファミリーAタイプのDNA依存性DNAポリメラーゼ、特に、好熱細菌由来の熱安定性DNAポリメラーゼの「親指」ドメイン内に存在する(Li et al., EMBO J. 17:7514-7525, 1998)。例えば、図1は、数種の細菌:バシラス・カルドテナックス、バシラス・ステアロサーモフィルス、デイノコッカス・ラディオデュランス、サーモシフォ・アフリカヌス、サーモトガ・マリティマ、サーモトガ・ネオポリタナ、サーマス・アクアティクス、サーマス・カルドフィルス、サーマス・フィリホルミス、サーマス・フラバス、サーマス種Sps17、サーマス種Z05、およびサーマス・サーモフィルス由来のDNAポリメラーゼの「親指」ドメインからの領域のアミノ酸配列アラインメントを示す。示されるとおり、上記モチーフに対応する天然の配列は、これらの各ポリメラーゼ内に存在し、ポリメラーゼのこの領域についての保存された機能を示唆している。図2は、これらのDNAポリメラーゼ間の配列同一性を提供する。
したがって、いくつかの実施態様において、本発明は、本明細書に記載の改善された活性および/または特徴を有する、配列番号8、9、10または11を含むポリメラーゼを提供し、ここで、該DNAポリメラーゼは、その他の点では、任意の上で列挙された好熱細菌種由来のポリメラーゼなどの野生型または天然のDNAポリメラーゼであるか、あるいはかかる野生型または天然のDNAポリメラーゼと実質的に同一である。例えば、いくつかの実施態様において、本発明のポリメラーゼは、配列番号8、9、10または11を含み、配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33、34、35、36、37または40に対して少なくとも80%、85%、90%または95%同一である。1つの変形において、ポリメラーゼの非改変形態は、サーマス属の種に由来する。本発明の他の実施態様において、非改変ポリメラーゼは、サーモトガなどのサーマス以外の好熱種に由来する。多数の熱安定性DNAポリメラーゼについての完全な核酸およびアミノ酸配列が入手可能である。サーマス・アクアティクス(Taq)(配列番号2)、サーマス・サーモフィルス(Tth)(配列番号6)、サーマス種Z05(Z05)(配列番号1)、サーマス種Sps17(Sps17)(配列番号5)、サーモトガ・マリティマ(Tma)(配列番号34)およびサーモシフォ・アフリカヌス(Taf)(配列番号33)ポリメラーゼのそれぞれの配列がPCT国際特許出願公開第WO92/06200号において公表されている。サーマス・フラバス由来のDNAポリメラーゼの配列(配列番号4)は、Akhmetzjanov and Vakhitov (Nucleic Acids Research 20: 5839, 1992)中に公表されている。サーマス・カルドフィルス由来の熱安定性DNAポリメラーゼの配列(配列番号7)は、EMBL/GenBank寄託番号U62484中に見出される。サーマス・フィリホルミス由来の熱安定性DNAポリメラーゼの配列は、ATCC寄託番号42380から、米国特許第4,889,818号に提供された方法ならびに表1に提供された配列情報などを用いて回復することができる。サーモトガ・ネオポリタナ(Tne)DNAポリメラーゼの配列(配列番号35)は、GeneSeq Patent Data Base寄託番号R98144およびPCT国際特許出願公開第WO97/09451号による。バシラス・カルドテナックス由来の熱安定性DNAポリメラーゼの配列(配列番号37)は、Uemori et al., (J.Biochem (Tokyo) 113(3): 401-410, 1993; Swiss−Prot database寄託番号Q04957およびGenBank寄託番号D12982およびBAA02361も参照のこと)などに記載されている。本明細書に記載のとおりに改変可能なDNAポリメラーゼの非改変形態の例は、米国特許第6,228,628号;同第6,346,379号;同第7,030,220号;同第6,881,559号;同第6,794,177号;同第6,468,775号;同第7,148,049号;同第7,179,590号;同第7,410,782号;同第7,378,262号にも記載されている。代表的な完全長ポリメラーゼ配列は、配列表にも提供されている。例えば、デイノコッカス・ラディオデュランスDNAポリメラーゼ(Dra)は、配列番号32として示される。
(アミノ酸置換、付加または欠失などにより)先に改変された機能的DNAポリメラーゼも本明細書に記載の変異を受け入れられる。いくつかの実施態様において、かかる機能的改変ポリメラーゼは、配列番号8のモチーフ(または配列番号9、10または11のモチーフ)および場合により、配列番号38のモチーフを保持する。したがって、好適な非改変DNAポリメラーゼは、野生型または天然のポリメラーゼの機能的バリアントも包含する。かかるバリアントは、典型的に、野生型または天然のポリメラーゼに対する実質的な配列同一性または類似性、典型的には、少なくとも80%の配列同一性、より典型的には、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するであろう。
いくつかの実施態様において、本発明のポリメラーゼは、配列番号8、9、10または11を含むポリメラーゼドメインを有するとともに、(例えば、Z05の1〜291位に対応する)ヌクレアーゼドメインも含む。
いくつかの実施態様において、本発明のポリメラーゼはキメラポリメラーゼであり、すなわち、2つ以上の酵素由来のポリペプチド領域を含む。かかるキメラDNAポリメラーゼは、例えば、米国特許第6,228,628号に記載されている。特に好適なのは、キメラCSファミリーDNAポリメラーゼであり、CS5(配列番号27)およびCS6(配列番号28)ポリメラーゼならびに配列番号27または配列番号28に対する実質的なアミノ酸配列同一性または類似性(典型的には、少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、より典型的には少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸配列同一性)を有するそれらのバリアントを含み、したがって配列番号8を含むように改変可能である。CS5およびCS6DNAポリメラーゼは、サーマス種Z05おおびサーモトガ・マリティマ(Tma)DNAポリメラーゼ由来のキメラ酵素である。それらは、サーマス酵素のN末端5’ヌクレアーゼドメインならびにTma酵素のC末端3’−5’エキソヌクレアーゼおよびポリメラーゼドメインを含む。これらの酵素は、効率的な逆転写酵素活性を有し、ヌクレオチド類似体含有プライマーを伸長することができ、アルファ−ホスホロチオエートdNTPs、dUTP、dITP、そしてフルオレッセイン−およびシアニン−色素ファミリーで標識されたdNTPsも組み込むことができる。CS5およびCS6ポリメラーゼは、効率的なMg2+活性化PCR酵素でもある。CS5およびCS6キメラポリメラーゼは、米国特許第7,148,049号などにさらに記載されている。
いくつかの実施態様において、アミノ酸置換は1アミノ酸置換である。本明細書中に提供されるDNAポリメラーゼは、非改変ポリメラーゼと比較して、1つまたは複数のアミノ酸置換を活性部位内に含みうる。いくつかの実施態様において、アミノ酸置換(複数可)は少なくとも配列番号8に示されるモチーフ(または配列番号9、10もしくは11のモチーフ)の位置X5を含む。この位置におけるアミノ酸置換は、増加した逆転写酵素効率を与え、非改変ポリメラーゼに比較して増加した逆転写酵素効率を有する変異DNAポリメラーゼをもたらす。典型的に、位置X5のアミノ酸は、配列番号8に示されるモチーフ(または配列番号9、10もしくは11のモチーフ)内の天然の配列に対応しないアミノ酸で置換される。したがって、置換されると、典型的に、位置X5におけるアミノ酸は天然のポリメラーゼ中で生じるGlu(E)ではない(例えば、図1を参照のこと)。ある実施態様において、アミノ酸置換は、位置X5におけるG、A、L、M、F、W、P、S、T、C、Y、Q、D、K、R、V、I、NまたはHを含む。ある実施態様において、アミノ酸置換は、位置X5のグリシン(G)を含む。1つまたは複数の同定された部位における他の好適なアミノ酸置換(複数可)は、例えば、部位特異的変異導入の知られた方法および本明細書でさらに記載されるかまたはその他当業者に知られたアッセイにおけるポリヌクレオチド伸長性能の決定などを用いて、決定されることができる。
いくつかの実施態様において、本発明のポリメラーゼは配列番号8、9、10または11を含み、さらに、天然のポリメラーゼと比較して1つまたは複数の追加の(例えば、アミノ酸置換、付加または欠失による)アミノ酸の変化を含む。いくつかの実施態様において、かかるポリメラーゼは、配列番号8のアミノ酸モチーフ(または配列番号9、10もしくは11のモチーフ)を保持し、さらに(Z05(配列番号1)のD580X変異に相当する)以下の配列番号38のアミノ酸モチーフを含む:
Thr−Gly−Arg−Leu−Ser−Ser−X7−X8−Pro−Asn−Leu−Gln−Asn(本明細書中では、1文字コードでT−G−R−L−S−S−X7−X8−P−N−L−Q−Nとも称される)(配列番号38)
{式中、
X7は、Ser(S)またはThr(T)}であり;および
X8は、Asp(D)またはGlu(E)以外の任意のアミノ酸である}
配列番号38に特徴を有する変異は、例えば、米国特許出願公開第2009/0148891号においてより詳細に議論される。典型的に、かかる機能的バリアントポリメラーゼは、(配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33,34、35、36、37、または40などの)野生型または天然のポリメラーゼに対する実質的な配列同一性または類似性、典型的には、少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、より典型的には、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸配列同一性を有するであろう。
いくつかの実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、位置X5において(例えば、配列番号8、9、10または11から選ばれるモチーフにおけるような)アミノ酸置換を含み、配列番号38に対応するアミノ酸置換を含む。
1つまたは複数の同定された部位における他の好適なアミノ酸置換(複数可)は、例えば、部位特異的変異導入の知られた方法および本明細書でさらに記載されるかまたはその他米国特許出願公開第2009/01438891号および同第2009/0280539号に記載されたアミノ酸置換などの当業者に知られた方法を用いて決定されることができる。例えば、本明細書でさらに記載されるかまたはその他当業者に知られたアッセイにおける部位特異的変異導入およびポリヌクレオチド伸長性能決定の知られた方法などを用いて、決定されることができる。
DNAポリメラーゼの正確な長さは異なるため、配列番号8、9、10もしくは11の各X5または配列番号38のX8に対応する正確なアミノ酸位置は、使用する特別な変異ポリメラーゼによって変化しうる。アミノ酸および核酸配列アラインメントプログラムは、容易に入手可能であり(例えば、上記で引用されたものを参照のこと)、本明細書において同定された特別なモチーフは、本発明による改変のための正確なアミノ酸(および対応するコドン)の同定を支援する役割を果たす。各キメラ熱安定性DNAポリメラーゼおよび代表的な好熱種由来の熱安定性DNAポリメラーゼに関する、X5およびX8それぞれに対応する位置が表1に示される。
いくつかの実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(配列番号1)に由来するかまたは(例えば、D580G変異などを担持する)そのバリアントである。上記のとおり、サーマス種Z05DNAポリメラーゼにおいて、位置X5は522位のグルタミン酸(E)に対応し;位置X8は580位のアスパラギン酸(D)に対応する。したがって、本発明のある変形において、変異ポリメラーゼは、サーマス種Z05DNAに比較して、E522および/またはD580において少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。したがって、典型的に、522位のアミノ酸はEでない。いくつかの実施態様において、522位のアミノ酸は、G、A、L、M、F、W、P、S、T、C、Y、Q、D、K、R、V、I、NまたはHから選ばれる。いくつかの実施態様において、配列番号1の552位に対応する位置のアミノ酸は、中性のpHにおいて非極性の無荷電側鎖を有するアミノ酸(例えば、G、A、L、M、W、P、F、C、VまたはI)である。ある実施態様において、522位のアミノ酸残基はGである。ある実施態様において、D580位のアミノ酸残基は、ロイシン(L)、グリシン(G)、スレオニン(T)、グルタミン(Q)、アラニン(A)、セリン(S)、アスパラギン(N)、アルギニン(R)およびリジン(K)から選ばれうる。
代表的なサーマス種Z05DNAポリメラーゼ変異体は、アミノ酸置換(複数可)E522Gおよび/またはD580Gを含むものを包含する。いくつかの実施態様において、変異サーマス種Z05DNAポリメラーゼは、例えば、アミノ酸残基置換E552GおよびD580Gを含む。ある実施態様において、変異サーマス種Z05DNAポリメラーゼは、例えば、E522Gおよび/またはD580Gから独立して選ばれるアミノ酸残基置換を含む。
本明細書に記載の配列番号8、9,10、11および38のモチーフの変異に加えて、本発明のDNAポリメラーゼは、他の非置換改変(複数可)も含みうる。かかる改変は、例えば、ポリヌクレオチド伸長を含む用途に追加の利益を付与するための、本分野で知られた共有結合的改変を包含しうる。例えば、かかる1つの改変は、酵素を不活性化するが、ポリヌクレオチド伸長に典型的に使用される温度のような高温におけるインキュベーションによって逆転して酵素を活性化する、熱可逆性の共有結合的改変である。かかる熱可逆性改変のための代表的な試薬は、米国特許第5,773,258号および同第5,677,152号に記載されている。
本発明のDNAポリメラーゼは、部位特異的変異導入と一般に呼ばれる技術を用いるなど、対応する未改変ポリメラーゼ(例えば、野生型ポリメラーゼまたは本発明のポリメラーゼがそれに由来する対応するバリアント)をコードするDNA配列に変異を起こさせることによって構築されることができる。ポリメラーゼの未改変形態をコードする核酸分子は、本分野の当業者に周知の様々なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって変異させられうる(例えば、PCR Strateigiesの14章 (M.A. Innis, D.H. Gelfand, and J. J. Sninsky eds., 1995, Academic Press, San Diego, CA);PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (M.A. Innis, D.H. Gelfand, and J. J. Sninsky, and T. J. White eds., Academic Press, NY, 1990)を参照のこと)。
非限定的な例として、ClontechからのTransformer Site-Directed Mutagenesisキットにおいて利用される2つのプライマー系が、部位特異的変異体をポリメラーゼの未改変形態をコードするポリヌクレオチド中に導入するために使用されてよい。この系における標的プラスミドの変性に続いて、2つのプライマーが同時に該プラスミドにアニーリングされ;これらのプライマーの一方は所望の部位特異的変異を含み、他方は制限部位の除去をもたらすプラスミド中の別のポイントにおける変異を含む。次いで、第2の鎖の合成が実施され、これら2つの変異を緊密に連係させ、得られたプラスミドがE.コリのmutS株を形質転換する。形質転換された細菌からプラスミドDNAが単離され、関連する制限酵素で制限され(それによって未変異プラスミドを直線化し)、次いで、E.コリを再び形質転換する。この系は、サブクローニングまたは一本鎖プラスミドの生成を必要とせずに発現プラスミド中に直接変異を生じさせることを可能とする。2つの変異の緊密な連係およびその後の未変異プラスミドの直線化は、高い変異効率をもたらし、最小限のスクリーニングを可能とする。最初の制限部位プライマーの合成に続いて、この方法は、変異部位あたり1つの新しいプライマータイプの使用しか必要としない。すべての所望の変異を所与の部位に同時に導入するためには、各位置的変異体を別々に調製するよりも、ひと組の「設計された変性」オリゴヌクレオチドプライマーが合成可能である。変異領域を介してプラスミドDNAを配列決定して変異体クローンを同定しソートすることによって、形質転換細胞がスクリーニングされうる。次いで、配列中に他の変更が生じていないことを確認するために、各変異DNAが制限され、Mutation Detection Enhancementゲル(Mallinckrodt Baker, Inc., Phillipsburg, NJ)などにおける電気泳動によって(未変異対照に対するバンドシフトの比較により)分析される。或いは、標的領域外でさらなる変異事象が起こっていないことを確認するために、全DNA領域が配列決定されることができる。
1つまたは複数のアミノ酸が置換されたDNAポリメラーゼは、様々な方法で作製されることができる。ポリペプチド鎖内で密接して位置するアミノ酸の場合、それらは、すべての所望のアミノ酸置換をコードする1つのオリゴヌクレオチドを用いて同時に変異させられうる。しかしながら、アミノ酸がお互いにいくらかの距離をもって位置する(例えば、10超のアミノ酸によって隔てられる)場合、すべての所望の変化をコードする単一のオリゴヌクレオチドを作製することはより困難である。かわりに、2つの変法のうちの1つが採用されうる。第1の方法においては、置換される各アミノ酸について別々のオリゴヌクレオチドが作製される。次いで、これらのオリゴヌクレオチドは同時に一本鎖テンプレートDNAにアニーリングされ、テンプレートから合成される第2のDNA鎖はすべての所望のアミノ酸置換をコードするであろう。別法は、所望の変異体を生成するための2回以上の変異誘発の繰り返しを含む。初回は単一の変異体について記載したとおりであり:未改変ポリメラーゼをコードするDNAがテンプレートのために使用され、第1の所望のアミノ酸置換(複数可)をコードするオリゴヌクレオチドがこのテンプレートにアニーリングされ、そして、ヘテロ二本鎖DNA分子が作製される。変異誘発の第2回は、第1回の変異誘発においてテンプレートとして生成された変異DNAを使用する。したがって、このテンプレートは1つまたは複数の変異をすでに含んでいる。次いで、さらなる所望のアミノ酸置換(複数可)をコードするオリゴヌクレオチドがこのテンプレートにアニーリングされ、得られたDNA鎖は、いまや第1回および第2回の変異誘発の両方からの変異をコードしている。結果として生じたこのDNAは、第3回以降の変異誘発においてテンプレートとして使用可能である。或いは、Seyfang & Jin(Anal. Biochem. 324:285-291. 2004)の多部位変異誘発法が利用されうる。
したがって、任意の本発明のDNAポリメラーゼをコードする組換え核酸も提供される。DNAポリメラーゼをコードする本発明の核酸を用いて、様々なベクターが作製されうる。宿主細胞と適合性である種由来のレプリコンおよび制御配列を含む任意のベクターが、本発明の実施において使用可能である。一般に、発現ベクターはDNAポリメラーゼをコードする核酸に操作可能に連結された転写および翻訳調節核酸領域を含む。用語「制御配列」は、操作可能に連結されたコード配列の特別な宿主生物中での発現に必要なDNA配列をさす。原核生物に適した制御配列は、例えば、プロモーター、場合によりオペレーター配列、およびリボソーム結合部位を含む。さらに、ベクターは、転写されたmRNAの半減期を高めるためのポジティブ逆制御要素(Positive Retoregulatory Element(PRE))を含有しうる(Gelfand et al..米国特許第4,666,848号を参照のこと)。一般に、転写および翻訳調節核酸領域は、ポリメラーゼを発現するために使用される宿主細胞に適している。多くのタイプの適切な発現ベクターおよび好適な調節配列が様々な宿主細胞に関して本分野で知られている。一般に、転写および翻訳調節配列は、例えば、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始および停止配列、翻訳開始および停止配列、ならびにエンハンサーまたはアクチベーター配列を含みうる。典型的な実施態様において調節配列は、プロモーターおよび転写開始および停止配列を含む。ベクターは、典型的に、外来DNAの挿入のための数個の制限部位を含むポリリンカー領域も包含する。ある実施態様において、「フュージョン・フラッグ(fusion flags)」が、精製、および所望によりその後のタグ/フラッグ配列、例えば「His/Tag」の除去を促進するために使用される。しかしながら、「加熱ステップ」が使用されうる、熱活性および/または熱安定性タンパク質の(E.コリなどの)中温宿主からの精製時には、これらは一般に必要でない。複製配列、調節配列、表現型選択遺伝子および着目のポリメラーゼをコードするDNAを含有する好適なベクターの構築は、標準的な組換えDNA手順を用いて調製される。本分野で周知のとおり、所望のベクターを作製するために、単離されたプラスミド、ウイルスベクターおよびDNA断片が切断され、個別化され、特定の順序で一緒に連結される(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Mannual (Cold Spring Harbor Laboratory Press New York, NY, 2nd ed. 1989)を参照のこと)。
ある実施態様において、発現ベクターは、形質転換された宿主細胞の選択を可能とするための選択マーカー遺伝子を含む。選択遺伝子は、本分野で周知であり、使用される宿主細胞によって異なるであろう。好適な選択遺伝子は、例えば、これらのベクターで形質転換された細胞がこれらの抗生物質の存在下で増殖することを可能とする、アンピリシンおよび/またはテトラサイクリン耐性をコードする遺伝子を含むことができる。
本発明の一態様において、DNAポリメラーゼをコードする核酸が、単独でまたはベクターとともに細胞に導入される。「へ導入される」または本明細書中の文法上の同義語は、核酸のその後の統合、増幅、および/または発現に好適なやり方で核酸が細胞中に入ることを意味する。導入方法は、標的細胞タイプによって大きく規定される。代表的な方法は、CaPO4沈降法、リポソーム融合、LIPOFECTIN(登録商標)、エレクトロポーレーション、ウイルス感染などを包含する。
いくつかの実施態様において、本発明の最初のクローニングステップのための宿主細胞として原核生物が典型的に使用される。それらは、大量のDNAの迅速な生成のため、部位特異的変異誘発に使用される一本鎖DNAテンプレートの生成のため、多くの変異体の同時のスクリーニングのため、および作製された変異体のDNA配列決定のために特に有用である。好適な原核生物宿主細胞は、E.コリK12株94(ATCC番号31,446)、E.コリ株W3110(ATCC番号27,325)、E.コリK12株DG116(ATCC番号53,606)、E.コリX1776(ATCC番号31,537)、およびE.コリBを包含するが;HB101、JM101、NM522、NM538、NM539などの多くの他のE.コリ菌株、ならびに、バシラス・スブチリス(Bacillus subtilis)などの多くの他の種および属の原核生物、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)またはセラチア・マルセスセンス(Serratia marcesans)および様々なシュードモナス種(Pseudomonas species)などの他の腸炎細菌がすべて、宿主として使用可能である。原核生物宿主細胞または堅い細胞壁を有する他の宿主細胞は、典型的に、上記Sambrook et al.の1.82節に記載の塩化カルシウム法を用いて形質転換される。或いは、エレクトロポーレーションがこれらの細胞の形質転換のために使用可能である。原核生物の形質転換技術は、例えば、Genetic Engineering, Principles and Methods 12: 275-296 (Plenum Publishing Corp., 1990)中のDower,;Hanahan et al., Meth. Enzymol., 204: 63, 1991に述べられている。典型的にE.コリの形質転換に使用されるプラスミドは、pBR322、pUCI8、pUCI9、pUCI18、pUCI19およびBluescript M13を包含し、これらはすべて、上記Sambrook et al.の1.12〜1,20節に記載されている。しかしながら、多くの他の好適なベクターが同様に利用可能である。
本発明のDNAポリメラーゼは、典型的に、該DNAポリメラーゼの発現を誘導し、引き起こす適切な条件下において、該DNAポリメラーゼをコードする核酸を含有する発現ベクターとともに宿主細胞を培養することによって産生される。形質転換された宿主細胞をタンパク質発現に好適な条件下で培養する方法は、本分野で周知である(上記Sambrook et al.を参照のこと)。ラムダpLプロモーター含有プラスミドベクターからのポリメラーゼの産生のための好適な宿主細胞は、E.コリ株DG116(ATCC番号53606)を包含する(米国特許第5,079,352号およびLawyer, F.C. et al., PCR Methods and Applications 2: 275-87, 1993を参照のこと)。発現に続いて、ポリメラーゼは採集され、単離されることができる。熱安定性DNAポリメラーゼの精製方法は、例えば、上記Lawyer et al.に記載されている。一旦精製されたら、改善されたRT効率、増加したミスマッチ耐性、伸長率および/またはRTおよびポリメラーゼ阻害剤耐性を有するDNAポリメラーゼの能力が(例えば、実施例に記載のとおりに)試験されることができる。
本発明の改善されたDNAポリメラーゼは、かかる酵素活性が必要または望ましい任意の目的のために使用されうる。したがって、本発明の別の態様において、ポリメラーゼを使用する(PCRなどの)ポリヌクレオチド伸長法が提供される。ポリヌクレオチド伸長に好適な条件は、本分野で知られている(例えば、上記Sambrook et al.を参照のこと。Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology(4th ed., John Wiley & Sons 1999)も参照のこと)。一般に、プライマーは、標的核酸にアニーリングされ、すなわち、ハイブリダイズされて、プライマー−テンプレート複合体を形成する。プライマー−テンプレート複合体は、1つまたは複数のヌクレオチドのプライマーの3’末端への付加を許容する好適な環境においてDNAポリメラーゼおよびヌクレオシド三リン酸と接触させられ、それによって標的核酸に相補的な伸長されたプライマーを生成する。プライマーは、例えば、1つまたは複数のヌクレオチド類似体(複数可)を包含しうる。さらに、ヌクレオシド三リン酸は、従来のヌクレオチド、(リボヌクレオチドまたは標識ヌクレオチドなどの)特殊なヌクレオチドまたはそれらの混合物を包含しうる。いくつかの変形において、ポリヌクレオチド伸長反応は、標的核酸の増幅を含む。DNAポリメラーゼおよびプライマー対を使用する核酸の増幅に好適な条件も、本分野で知られている(例えば、PCR増幅法)(例えば、上記Sambrook et al.;上記Ausubel et al.,:PCR Applications: Protocols for Functional Genomics (Innis et al. eds., Academic Press 1999)を参照のこと)。他の非相互排他的な実施態様において、ポリヌクレオチド伸長反応は、RNAテンプレートの逆転写を含む(RT−PCRなど)。いくつかの実施態様において、改善されたポリメラーゼは、454シークエンシングにおいて用途を見い出す(Margulies, M et al. 2005, Nature, 437, 376-380)。
いくつかの実施態様において、本発明の改善されたポリメラーゼは、逆転写反応において使用される。いくつかの実施態様において、逆転写反応は、RNAテンプレート、1つまたは複数のプライマーおよび本発明の熱安定性DNAポリメラーゼを含有する混合物中で実施される。反応混合物は典型的に、4つの標準的デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)および二価カチオンと一価カチオンを含有するバッファーを含有する。代表的なカチオンは、例えば、Mg2+を包含するが、Mn2+、Co2+などの他のカチオンもDNAポリメラーゼを活性化することができる。他の実施態様において、逆転写反応は、本発明の熱活性DNAポリメラーゼにより実施される。特別な実施態様において、本発明の改善されたポリメラーゼは、実施例に記載のとおり、Mn2+またはMg2+の存在下でのDNAテンプレートの効率的な増幅を損なうことなく、より効率的なRNAテンプレートの増幅を可能とする。
熱安定性DNAポリメラーゼにおけるもっとも効率的なRT活性は、二価金属イオン活性化剤としてMn2+を用いて達成された。しかしながら、Mn2+が反応中に存在すると、DNAポリメラーゼの正確性が低いことは周知である。変異を生じさせることを試みない限り、高い正確性を維持することは一般に好ましい。幸運にも、最も従来型の配列決定法、PCRおよびRT−PCR応用は、検出系が一般に産物の集団を見ているために、高い正確性を必要としない。次世代の配列決定、デジタルPCRなどとともに、産物の正確性はより重要となり、より正確性の高いDNA合成を可能とする方法が決定的である。Mg2+を二価金属イオン活性化剤として使用して効率的なRT活性を達成することは、DNAポリメラーゼの正確性を実質的に増大させ、核酸標的のより信頼性のある複製を可能とするための優れた方法である。
本明細書に記載のポリメラーゼは増加したミスマッチ耐性も有するため、該ポリメラーゼは、標的テンプレートの変化の可能性があっても、標的テンプレートの変化に関わらずテンプレートが増幅されることが望ましい方法における用途を見い出す。かかるテンプレートの例は、例えば、ウイルス、細菌または他の病原体配列を包含しうる。多くの実施態様において、個体(ヒトまたは非ヒト動物)がウイルスまたは他の感染を有するか否かを、該個体に感染した正確なウイルスバリアントにかかわらず単純に決定することが望ましい。一例として、本発明のポリメラーゼを用いてHCVを増幅し、HCVの存在を検出するために、個体に感染した特別なウイルスがプライマーハイブリダイゼーション部位にミスマッチをもたらす変異を有するとしても、プライマー対を使用することができる。
標的核酸は生体または合成の供給源に由来しうる。標的は、例えば、DNAまたはRNAであることができる。増幅産物が生成される場合、リボヌクレオチドまたはヌクレオチドも増幅産物中に組み込まれうるが、一般に増幅産物はDNAから成るであろう。RNAの検出を望む場合、増幅過程は典型的に、逆転写PCR(RT−PCR)などを包含する逆転写の使用を含む。
特定の標的配列は、例えば、(ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、パルボB19ウイルス、エプシュタイン−バーウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、西ナイルウイルス(WNV)、セントルイス脳炎ウイルス(SLEV)、マーレーバレー脳炎ウイルスおよびクンジンウイルスなどの)ウイルス核酸、(S.アウレウス(S. aureus)、ナイセリア・メニンギチジス(Neisseria meningitidis)、プラスモディウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)、クラミジア・ムリダルム(Chlamydia muridarum)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)などの)細菌核酸、マイコバクテリア、真菌核酸、または動物もしくは植物由来の核酸を含みうる。いくつかの実施態様において、標的核酸は(ヒトなどの)動物核酸であるか、または(ヒトなどの)動物サンプルに由来する(すなわち、ウイルスまたは他の病原体生物核酸が動物バイオプシー由来のサンプル、血液サンプル、尿サンプル、大便サンプル、唾液などの中に存在しうる)。いくつかの実施態様において、標的核酸は、例えば、(癌、糖尿病などの)病気に関連したバリアントを含みうるヒト遺伝子領域である。いくつかの実施態様においては、本発明のポリメラーゼはミスマッチ耐性を有するため、かかる酵素は、様々な関連配列が標的配列内にありうる場合などに特に有用である。例として、ほとんどまたはすべての可能なウイルスゲノムを増幅するであろう単一または少数のプライマーの組を設計することが困難または不可能とするのに十分なそのゲノムにおける多様性をウイルス病原体が有する場合にウイルス病原体を検出するため、あるいは配列の多様性が知られているかまたは生じそうである場合の癌または他の疾患の遺伝子マーカーにおいて、本発明は使用可能である。
本明細書に記載の改善されたポリメラーゼを用いて伸長産物または増幅産物を検出するための他の方法は、蛍光二本鎖ヌクレオチド結合色素または蛍光二本鎖ヌクレオチド挿入色素を包含する。蛍光二本鎖DNA結合色素の例は、SYBR−グリーン(Molecular Probes)を包含する。二本鎖DNA結合色素は、プライマー伸長産物および/または増幅産物を測定するための融解曲線分析とともに使用可能である。融解曲線分析は、機載ソフトウエア(SDS2.1)を備えたABI5700/7000(96ウエルフォーマット)またはABI7900(384ウエルフォーマット)機器などのリアルタイムPCR機器において実施可能である。或いは、融解曲線分析は、エンドポイント分析として実施可能である。融点分析の代表的な方法は、米国特許出願公開第2006/0172324号に記載されている。
本発明の別の態様において、本明細書に記載のプライマー伸長方法における使用のためにキットが提供される。いくつかの実施態様において、キットは使用の容易のために区分けされ、本発明による改善されたポリメラーゼを提供する少なくとも1つの容器を含む。さらなる試薬(複数可)を提供する1つまたは複数の追加の容器も含められることができる。いくつかの実施態様において、キットは採血用チューブ、容器あるいはヘパリンもしくはその塩を含むかまたはヘパリンを溶液中に放出するユニットも含むことができる。採血用ユニットは、ヘパリン添加チューブであることができる。かかる追加の容器は、例えば、(PCR,RT−PCRなどの)核酸増幅手順、DNA配列決定手順、またはDNA標識手順における使用のための試薬を含む、当業者によって上記の方法によるプライマー伸長手順における使用のためであると認識される任意の試薬または他の要素を含むことができる。例えば、ある実施態様において、キットは、プライマー伸長条件下において所定のポリヌクレオチドテンプレートにハイブリダイズ可能な5’センスプライマー、または5’センスプライマーおよび対応する3’アンチセンスプライマーを含むプライマー対を提供する容器をさらに含む。他の非相互排他的変形において、キットは(従来のおよび/または特殊な)ヌクレオシド三リン酸を提供する1つまたは複数の容器を含む。特定の実施態様において、キットは、アルファホスホロチオエートdNTPs、dUTP、dITP、および/またはフルオレッセインまたはシアニン色素ファミリーのdNTPsなどの標識dNTPsを含む。さらに他の非相互排他的実施態様において、キットは、プライマー伸長反応に好適なバッファーを提供する1つまたは複数の容器を含む。
本発明の別の態様において、増加した逆転写酵素効率、ミスマッチ耐性、伸長率および/または本明細書に記載のRTおよびポリメラーゼ阻害剤耐性を有するポリメラーゼを含む反応混合物が提供される。反応混合物はさらに、例えば、(PCR,RT−PCRなどの)核酸増幅手順、DNA配列決定手順、またはDNA標識手順における使用のための試薬をさらに含みうる。例えば、ある実施態様において、反応混合物はプライマー伸長反応に好適なバッファーを含む。反応混合物は、テンプレート核酸(DNAおよび/またはRNA)、1つまたは複数のプライマーまたはプローブポリヌクレオチド、(例えば、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、標識ヌクレオチド、特殊なヌクレオチドを含む)ヌクレオシド三リン酸、(Mn2+、Mg2+などの)塩、(フルオロフォアなどの)標識も含有しうる。いくつかの実施態様において、反応混合物は、プライマー伸長条件下で所定のポリヌクレオチドテンプレートにハイブリダイズ可能な5’−センスプライマーまたは5’センスプライマーおよび対応する3’アンチセンスプライマーを含むプライマー対を含有する。いくつかの実施態様において、反応混合物は、アルファホスホロチオエート、dNTPs、dUTP、dITP、および/またはフルオレッセインまたはシアニン色素ファミリーのdNTPsなどの標識dNTPsを含有する。いくつかの実施態様において、反応混合物は、鉄キレーターまたは紫色色素を含む。ある実施態様において、反応混合物は、ヘモグロビンまたはヘモグロビン分解産物を含む。例えば、ある実施態様において、ヘモグロビン分解産物は、ヘミン、ヘマチン、ヘマトフォリン、およびビリルビンなどのヘム分解産物を包含する。他の実施態様において、反応混合物は、ヘパリンまたはその塩を含む。ある実施態様において、反応混合物は、血液から単離されたテンプレート核酸を含有する。他の実施態様において、テンプレート核酸は、RNAであり、反応混合物はヘパリンまたはその塩を含む。
以下の実施例は、請求項に係る発明を限定するためでなく、例解するために提供される。
実施例1:ライブラリー作製
要するに、このスクリーニング方法おけるステップは、変異酵素のライブラリー作製、発現および部分精製、所望の特性に関する酵素のスクリーニング、DNA配列決定、クローン精製および選択された候補変異体のさらなる特徴づけを含んだ。これらの各ステップを以下に記載する。
クローンライブラリーの作製:Z05 D580G DNAポリメラーゼのポリメラーゼドメインをコードする核酸を、この核酸配列を含むプラスミドのBlp IおよびBgl II制限部位の間でエラープローン(変異誘発)PCRに供した。増幅された配列を、配列番号39として提供する。これに使用したプライマーは以下のとおりである。
フォワードプライマー:5’−CTACCTCCTGGACCCCTCCAA−3’(配列番号30);および
リバースプライマー:5’−ATAACCAACTGGTAGTGGCGTGTAA−3’(配列番号31)
様々な変異率のライブラリーを作製するために、1.8〜3.6mMの様々な濃度のMg2+を用いてPCRを実施した。バッファー条件は、50mM ビシンpH8.2、115mM KOAc、8%w/vグリセロール、および0.2mMの各dNTPsであった。GeneAmp(登録商標)AccuRT Hot Start PCR酵素を0.15U/μlで使用した。50μlの反応容量あたり、5×105コピーの線状化Z05 D580GプラスミドDNAで開始し、94℃の温度を60秒間使用して変性させ、次いで、94℃の変性温度を15秒間、60℃のアニーリング温度を15秒間、72℃の伸長温度を120秒間用いて、30サイクルの増幅を実施し、続いて72℃の温度における最終伸長を5分間行った。
得られた増幅産物をQIAquick PCR精製キット(Quiagen, Inc., Valencia, CA, USA)により精製し、Blp IおよびBgl IIにより切断し、次いで、QIAquick PCR精製キットで再び精製した。同じ2つの制限酵素で切断し、アルカリホスファターゼ、組換え体(RAS、カタログ番号003359123001)で処理することによってZ05 D580Gベクタープラスミドを調製し、QIAquick PCR精製キットで精製した。切断したベクターおよび変異した挿入断片を1:3の割合で混合し、T4 DNAリガーゼで室温において5分間、処理した(NEB Quick Ligation(商標)キット)。ライゲーションしたものをQIAquick PCR精製キットで精製し、エレクトロポーレーションによってE.コリ宿主株を形質転換した。
各形質転換における特徴的な形質転換体の数を決定するために、発現させた培養物のアリコートをアンピシリン−選択培地に播いた。形質転換体を、凍結保護剤としてのグリセロールの存在下で、−70℃〜−80℃において保存した。
その後、各ライブラリーを大フォーマットのアンピシリン選択寒天培地に播いた。個々のコロニーを、アンピシリンおよび10%w/vグリセロールを含む2XLuriaブロスを入れた384ウエルプレートに、自動化コロニーピッカー(QPix2, Genetix Ltd)を用いて移した。これらのプレートを、30℃で一夜インキュベーションして、培養物を増殖させ、次いで、−70℃〜−80℃で保存した。2XLuriaブロスに添加したグリセロールは、培養物の増殖を許容するのに十分に少なかったが、凍結保護を提供するには十分に多かった。後の使用のために、この方法で数個の変異誘発(Mg2+)レベルにおいて数千のコロニーを調製した。
抽出ライブラリーの調製パート1−発酵:上記のクローンライブラリーから、スクリーニングの目的に適した部分精製した抽出物の対応するライブラリーを調製した。この過程の最初のステップは、各クローンの小規模の発現培養物を生成することであった。これらの培養物を、96ウエルフォーマットにおいて増殖させ;したがって各384ウエルのライブラリープレートあたりの発現培養プレートは4つであった。クローンライブラリーの各ウエルから0.5μlを、150μlの培地A(以下の表3を参照のこと)を入れた96ウエルのシードプレートのウエルに移した。このシードプレートを一夜、30℃で、iEMSプレートインキュベーター/シェーカー(ThermoElectron)において1150rpmで振とうした。次いで、これらのシード培養物を同じ培地に接種するために使用し、今度は、大フォーマットの96ウエルプレート(Nunc #267334)中、250μlの培地Aに20μl接種した。これらのプレートを、37℃において一夜、振とうしながらインキュベートした。発現プラスミドは、37℃における発現を可能とするが、30℃では可能としない、転写制御要素を含有した。一夜のインキュベーション後、培養物は、典型的に総細胞タンパク質の1〜10%のクローンタンパク質を発現した。これらの培養物からの細胞を遠心分離によって採取した。これらの細胞を凍結(−20℃)または下記のとおりに直ちに加工処理した。
抽出ライブラリーの調製パート2−抽出:発酵ステップからの細胞ペレットを25μlの溶解バッファー(以下の表3)中に再懸濁し、384ウエルのサーモサイクラープレートに移し、密封した。バッファーは、細胞溶解を支援するためのリゾチームおよび抽出物からDNAを除去するためのDNAaseを含有した。細胞を溶解するために、プレートを37℃で15分間インキュベートし、−20℃で一夜凍結し、再び37℃で15分間インキュベートした。外因的に添加されたヌクレアーゼを含む混入タンパク質を沈殿させ、不活性化するために、硫酸アンモニウム(1.5μlの2M溶液)を添加し、プレートを75℃で15分間インキュベートした。プレートを3000×gで15分間、4℃で遠心分離し、上清を新しい384ウエルのサーモサイクラープレートに移した。スクリーニングにおける後の使用のために、これらの抽出物プレートを−20℃で凍結した。各ウエルは、約0.5〜3μMの変異ライブラリーポリメラーゼ酵素を含有した。
実施例2:改善された逆転写効率を有する変異DNAポリメラーゼの同定
改善された逆転写効率に関する抽出物ライブラリーのスクリーニング:pSP64ポリA(Promega)中にHCV遺伝型Ib5’NTRの最初の800塩基を含む、C型肝炎ウイルス(HCV)転写産物JP2−5からの240塩基対増幅産物の増幅から得た酵素粗抽出物の蛍光5’ヌクレアーゼ(TaqMan)活性によりRT−PCRシステムにおいて作成した増殖曲線から求めたCp(クロッシングポイント)を比較することによって、抽出物ライブラリーをスクリーニングした。
Roche LC 480カイネティック・サーモサイクラーにおいて、表4に記載のRT−PCRマスターミックス18.5μlに添加した、20mM Tris−HCl、pH8、100mM KCl、0.1mM EDTAおよび0.1% Tween−20を含むバッファーで5倍希釈した個々の酵素抽出物1.5μlを各ウエルが含む、384ウエルフォーマットで反応を実施した。熱サイクル条件は;65℃で1分間(「RT」ステップ);94℃で15秒間、続いて、60℃で30秒間を5サイクル;および91℃で15秒間、続いて60℃で30秒間を45サイクル、であった。
上記プロトコールを用いて約5000クローンをスクリーニングした。Abs Quant/二次導関数最大値法によって計算した最初のクロッシングポイント(Cp)値および任意のカットオフを上回る蛍光プラトー値に基づいて、21のクローンを再スクリーニングのために元のプールから選択した。最も上位の抽出物に対応する培養ウエルを新鮮な増殖培地にサンプリングし、再増殖させて、最良の変異体並びに比較用に使用する多数のZ05 D580X(X=G、KおよびR)親培養物を含む新しい培養プレートを作製した。その後、定量し、表4に記載したものと同じマスターミックス条件で20nM濃度においてスクリーニングした新しい粗抽出物を作製するために、これらの培養プレートを使用した。表5は、TaqManプローブの切断によるFAMシグナルの増加により得られたCp値を示す。結果は、クローン0818−M22が、親であるZ05 D580Gよりも高い効率でRNA標的を増幅することを示す。
いずれかの単一クローン中に存在した変異(複数可)を決定するために、ポリメラーゼ遺伝子の変異領域のDNA配列を配列決定した。クローン0818−M22をさらなる試験のために選択し、変異ポリメラーゼタンパク質をフラスコ培養中で発現させ、均一になるまで精製し、定量した。
Mn2+ベースのRT−PCRにおけるZ05 D580G変異体の使用:配列決定の結果は、クローン0818−M22が、親のD580G変異に加えて、変異E522G、N545Y、およびT642Iを担持することを明らかにした。精製した変異体Z05 D580G E522G N545Y T642I(0818−M22)を、親であるZ05 D580Gに、TaqMan M2+ベースのRT−PCRにおいて比較した。逆転写およびPCRの効率を、制限エンドヌクレアーゼEcoRIによって消化した、JP2−5 RNA転写産物およびpJP2−5 DNA線状プラスミドの増幅から得たCp値を比較することによって測定した。オリゴヌクレオチドおよびマスターミックス条件(表4)は、もとのスクリーニングにおいて使用したものと同じだった。各反応には、100,000コピーのJP2−5転写産物、100,000コピーのpJP2−5線状プラスミドDNA、または1000コピーのpJP2−5線状プラスミドDNAのいずれかが含まれた。すべての標的を2回の反応において、上記のプライマー1およびプライマー2で増幅し、240塩基対の増幅産物を生成した。すべての反応を、Roche Light Cycler 480サーマルサイクラーにおいて15μlの反応容量で実施し、クロッシングポイント(Cp)をAbs Quant/二次導関数最大値法により計算し、平均した。2,5nM〜30nMの範囲の様々なDNAポリメラーゼ濃度を用いて増幅を実施した。熱サイクル条件は:65℃で1分間(「RT」ステップ);94℃で15秒間、続いて60℃で30秒間を5サイクル;および91℃で15秒間、続いて60℃で30秒間を45サイクル、であった。表6は、20nMの酵素条件におけるTaqManプローブの切断による蛍光シグナルの増加から得たCp値を示す。
結果は、変異体Z05 D580G E522G N545Y T642Iが、DNA標的に対するPCR効率を損なうことなく、親に比較してより効率的なRNA標的の増幅を可能とすることを示す。
Mg2+ベースのRT−PCRにおけるZ05 D580G変異体の使用:Mg2+存在下でのTaqMan RT−PCRを実施する能力についても、精製した変異体Z05 D580G E522G N545Y T642Iを親であるZ05 D580Gに比較した。使用したマスターミックス条件は、KOAc濃度が20mM〜160mMで変化し、Mn(OAc)2を2.1mMのMg(OAc)2に置き換えた以外は、表4に記載したものと同一であった。各反応には、30nMの酵素および100,000コピーのJP2−5転写産物、100,000コピーのpJP2−5線状プラスミドDNA、または1000コピーのpJP2−5線状プラスミドDNAのいずれかが含まれた。すべての標的を2回の反応において同じプライマーの組で増幅し、240塩基対の増幅産物を生成した。PCRおよびRT−PCRの効率を、DNAおよびRNAの間でCp値を比較することによって決定した。すべての反応をRoche Light Cycler 480サーマルサイクラーにおいて、15μlの反応容量で実施した。クロッシングポイント(Cp)をAbs Quant/二次導関数最大値法により計算し、平均した。熱サイクル条件は:65℃−5分間、70℃−5分間および75℃−5分間(3つの温度の「RT」ステップ);94℃で15秒間、続いて62℃で30秒間を5サイクル;および91℃で15秒間、続いて62℃で30秒間を45サイクル、であった。表7は、40nMのKOAc条件におけるTaqManプローブの切断による蛍光シグナルの増加から得たCp値を示す。
結果は、これらの条件下で、変異体Z05 D580G E522G N545Y T642Iが、親であるZ05 D580Gよりも顕著に高い効率でMg2+ベースのRT−PCRを実施したことを示す。
表現型を与える変異(複数可)の決定:RT−PCRスクリーニングにおいて、変異体0818−M22は、親であるZ05 D580GよりもRNA増幅における顕著な改善を示す。クローン0818−M22は、親のD580G変異に加えて、E522G、N545YおよびT642I変異を担持する三重変異体である。アミノ酸変化の性質に基づいて、我々は、E522G変異が観察された表現型に関与すると予測した。Z05 D580G E522G変異体を、サブクローニングし、精製し、定量することによって構築し、5nM〜40nMの可変の酵素濃度で、Mn2+活性化TaqMan RT−PCRにおいて0818−M22(Z05 D580G E522G N545Y T642I)および親であるZ05 D580Gと比較した。マスターミックス条件は、100mMの代わりに90mMのKOAcが使用された以外は、表4に記載したものと同一であった。各反応には、100,000コピーのJP2−5転写産物、100,000コピーのpJP2−5線状プラスミドDNA、または1000コピーのpJP2−5線状プラスミドDNAのいずれかが含まれた。すべての標的を2回の反応において同じプライマーの組で増幅し、240塩基対の増幅産物を生成した。PCRおよびRT−PCRの効率を、DNAおよびRNA間でCp値を比較することによって決定した。すべての反応をRoche Light Cycler 480サーマルサイクラーにおいて、15μlの反応容量で実施した。クロッシングポイント(Cp)をAbs Quant/二次導関数最大値法により計算し、平均した。2,5nM〜30nMの範囲のDNAポリメラーゼ濃度を用いて増幅を実施した。熱サイクル条件は:65℃−1分間(「RT」ステップ);94℃で15秒間、続いて60℃で30秒間を5サイクル;および91℃で15秒間、続いて60℃で30秒間を45サイクル、であった。表8は、30nMの酵素条件におけるTaqManプローブの切断による蛍光シグナルの増加から得たCp値を示す。
この実施例は、Z05 D580G E522G N545Y T642IおよびZ05 D580G E522G変異が、RNAおよびDNA標的の両方に対して類似したCp値を有することを示し、RT−PCR性能において観察された改善をE522G変異が与えることを示している。
実施例3.E522G変異体の単離:
E522G変異を単一の変異体としてZ05 DNAポリメラーゼバックボーン中にサブクローニングした。発現および精製の後、変異体Z05 E522GのRT−PCR効率を、Mn2+触媒によるTaqMan RT−PCRにおいてDNAポリメラーゼ、Z05、Z05 D580G、およびZ05 D580G E522Gと比較した。マスターミックス条件は、Mn(OAc)2濃度が1.5mMであり、UNG濃度が0.2U/μl、酢酸カリウム濃度が120mM、およびプローブ濃度が100nMであった以外は、表4に記載したものと同一であった。各反応には、100,000コピーのJP2−5転写産物、100,000コピーのpJP2−5線状プラスミドDNA、または1000コピーのpJP2−5線状プラスミドDNAのいずれかが含まれた。すべての標的を2回の反応において同じプライマーの組で増幅し、240塩基対の増幅産物を生成した。すべての反応をRoche Light Cycler 480サーマルサイクラーにおいて実施した。クロッシングポイント(Cp)をAbs Quant/二次導関数最大値法により計算し、平均した。RT−PCR熱プロフィールは:50℃で2分間(「UNG」ステップ)、55℃−1分間、60℃−2分間、および65℃−3分間(3つの温度の「RT」ステップ);94℃で15秒間、続いて62℃で30秒間を5サイクル;および91℃で15秒間、続いて62℃で30秒間を45サイクル、であった。表9はTaqManプローブの切断による蛍光シグナルの増加から得たCp値を示す。
この実施例は、E522G変異が、D580G変異とは独立して、増加したRT−PCR効率を提供することを示す。さらに、DNAテンプレートを増幅した際、E522G酵素のCp値はZ05親酵素と同様であった。したがって、E522G変異は、DNAテンプレートを増幅する際にポリメラーゼ効率を減少させることなく、増加したRT−PCR効率を提供する。
本明細書に記載の実施例および実施態様が例示を目的とし、それらに照らした様々な改変または変更が当業者に示唆されるであろうことが理解される。