光通信や光計測の分野においては、電気光学効果を有する基板上に形成した光導波路と、当該光導波路内を伝搬する光波を制御するための制御電極と、を備えた、導波路型光変調器などの光導波路素子が多く用いられている。
このような導波路型光素子として、例えば強誘電体結晶であるニオブ酸リチウム(LiNbO3)(「LN」とも称する)を基板に用いたマッハツェンダ(MZ、mach-zehnder)型光変調器が広く用いられている。マッハツェンダ型光変調器は、外部から光を導入するための入射導波路と、当該入射導波路に導入された光を2つの光に分岐する分岐導波路と、当該分岐導波路により分岐された2つの光をそれぞれ伝搬させるための2本の並行導波路と、当該2本の並行導波路を伝搬した光を合波する合波導波路と、当該合波導波路により合波された光を外部へ出力するための出射導波路とにより構成されるマッハツェンダ型光導波路を備える。また、マッハツェンダ型光変調器は、上記並行導波路内を伝搬する光波の位相を電気光学効果により変化させて制御するための制御電極を備える。
近年では、SSB(Single Side-Band)データ通信、ミリ波レーダや電波天文の分野、あるいは光マイクロ波/ミリ波伝送などRoF(Radio on Fiber)通信システムの分野において、一つのマッハツェンダ型光変調器の2本の並行導波路のそれぞれにマッハツェンダ型光変調器を集積させた構成の光変調器を同一基板上に集積した光素子(以下、「ネスト型光変調器」とも称する)の用途が広がっている。
ネスト型光変調器の応用例として、例えば、デジタル光通信分野において、周波数資源の効率的な使用を目的とした光SSB変調装置が知られている(特許文献1参照)。また、デジタル放送波等の用途向けに超広帯域の変調信号を実現することを目的として、上記のようなネスト型MZ光変調器を用いて変調された光を自乗検波することにより、目的とする帯域幅を持った角度変調波(位相変調波又は周波数変調波)を得る角度変調装置が知られている(特許文献2参照)。この装置では、例えば図8に示すようなネスト型MZ光変調器を用いた多機能集積型光変調器が使用される。
この多機能集積型光変調器800は、例えばXカットのLNを基板802とし、当該基板802上に形成された光導波路と電極とにより構成されている。すなわち、多機能集積型光変調器800は、入射導波路804と、分岐導波路806と、並行導波路808、810と、合波導波路812と、出射導波路814と、により構成されるマッハツェンダ型光変調器(メイン光変調器)の、一方の並行導波路808に、ネスト型光変調器820が集積されている。ネスト型光変調器820は、分岐導波路806に繋がった並行導波路808の部分(入射部)及び合波導波路812に繋がった並行導波路808の部分(出射部)をそれぞれ入射導波路及び出射導波路とし、当該入射部からの光を2つの光に分岐する分岐導波路822と、当該分岐導波路822で分岐された2つの光をそれぞれ伝搬する2つの並行導波路824、826と、当該並行導波路824、826からの光を合波する合波導波路828と、を備える。
さらに、ネスト光型変調器820の2つの並行導波路824、826には、マッハツェンダ型光変調器830a、830bがそれぞれ挿入されている。そして、マッハツェンダ型光変調器830aは、ネスト型光変調器820の並行導波路824のうち分岐導波路822に繋がった部分(入射部)及び合波導波路828に繋がった分部(出射部)をそれぞれ入射導波路及び出射導波路とし、当該入射部からの光を2つの光に分岐する分岐導波路832aと、当該分岐導波路832aにより分岐された2つの光をそれぞれ伝搬する並行導波路834a、836aと、当該並行導波路834a、836aからの光を合波する合波導波路838aと、を備える。
また、マッハツェンダ型光変調器830bは、ネスト型光変調器820の並行導波路826のうち分岐導波路822に繋がった部分(入射部)及び合波導波路828に繋がった分部(出射部)をそれぞれ入射導波路及び出射導波路とし、当該入射部からの光を2つの光に分岐する分岐導波路832bと、当該分岐導波路832bにより分岐された2つの光をそれぞれ伝搬する並行導波路834b、836bと、当該並行導波路834b、836bからの光を合波する合波導波路838bと、を備える。
マッハツェンダ型光変調器830aの並行導波路834aと836aの間には、当該並行導波路834a、836aを伝搬する光波を制御するための高周波信号電極(RF電極)840aが設けられており、マッハツェンダ型光変調器830bの並行導波路834bと836bの間には、当該並行導波路834b、836bを伝搬する光波を制御するためのRF電極840bが設けられている。また、各RF電極840a、840bに対し、それぞれ当該RF電極840a、840bから所定距離だけ隔たった位置に、並行導波路834a、836a、834b、836bをそれぞれ挟んで接地電極850、852、854が設けられている。
さらに、並行導波路810から所定距離離れた位置に、当該並行導波路810に沿って制御用の直流電圧が印加されるDC電極860が設けられ、当該DC電極860に対し、所定距離離れて並行導波路810を挟む位置に形成された部分を有する接地電極862が設けられている。
ネスト型光変調器820は(全体として)SSB変調器、または周波数変換変調器として機能する。また、並行導波路810は、DC電極860と共に光位相制御器を構成している。
上記の構成において、多機能集積型光変調器800は、中心周波数f0(中心波長λ0に対応する周波数)を持つレーザ等の光源(不図示)からのCW(無変調連続波、continuous wave)光を入射導波路804により受け取る。そして、当該CW光を、分岐導波路806により、並行導波路808に入射する第1の分岐光と、並行導波路810に入射する第2の分岐光と、に分岐する。
第1の分岐光は、ネスト型光変調器820により例えば周波数fcの正弦波により強度変調されて、その中心周波数がf0+fcにシフトした周波数シフト光となる。
このとき、ネスト型光変調器820で生成される上記周波数シフト光(中心周波数f0+fc)には、ネスト型光変調器820における並行導波路824、826間の位相ずれ等に起因して、中心周波数f0を持つCW光の一部が残留光として含まれることとなる。
当該残留光を抑圧するため、並行導波路810に入射した第2の分岐光は、DC電極860により、その位相が上記残留光に対し逆相となるように制御される(この制御は、例えば出射導波路814から出力される出射光をモニタリングしてフィードバック制御を行うことにより実現される)。合波導波路812において、並行導波路808からの上記周波数シフト光と周波数変調光との合波光が、並行導波路810からの上記逆相の光と合波されると、上記周波数シフト光に含まれている周波数f0の残留光は、上記逆相の光により相殺され、当該残留光を含まない上記周波数シフト光と光周波数変調信号との合波光が出射導波路814から出力されることとなる。
これにより、出射導波路814からの出射光を、フォトダイオード等の光受信機(不図示)により自乗検波すると、周波数シフト光と位相調整された周波数無変調光とのビート信号として、周波数fcの光マイクロ波/ミリ波信号が得られる。なお、上記残留光と上記逆相の光とのレベル合わせは、例えば並行導波路810の一部に光減衰器を設けることにより行うこともできる。
ところで、上記の多機能集積型光変調器のように、高周波信号電圧が印加されるRF電極と、位相制御等のための直流制御電圧が印加されるDC電極とが近接して設けられる光導波路素子では、DC電極に印加される電圧によっては、当該DC電極からの放射電界に起因してRF電極の電位に変動が生じ、光導波路素子全体の動作に誤りが生じ得る。特に、光導波路素子においては、光導波路に沿うように所定距離に亘って電極が設けられることから、2以上の電極の形成位置を光導波路の長さ方向に沿って互いにずらして形成することは素子全体のサイズを増大させることとなる。このため、RF電極とDC電極とは、互いに隣接して形成されることが多く、DC電極からRF電極への上記干渉が生じやすい。
さらに、光導波路素子のようなデバイスに対する小型化への要求は不変であり、更なる小型化に向けて同一基板上に集積する光導波路や電極間の間隔を狭くするにつれ、上述したDC電極からRF電極への干渉は、ますます顕著なものとなり得る。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光導波路素子の構成を示す図である。
本光導波路素子100は、例えば、基板102上に形成された多機能集積型光変調器である。すなわち、光導波路素子100は、外部から光を導入する入射導波路104と、当該入射導波路104により導入された光を分岐する分岐導波路106と、当該分岐導波路106により分岐された2つの光をそれぞれ伝搬する並行導波路108、110と、当該並行導波路108、110を伝搬した光を合波する合波導波路112と、当該合波導波路112により合波された光を外部へ出力するための出射導波路114と、を有する。
並行導波路108には、集積されたネスト型光変調器120が挿入されている。当該ネスト型光変調器120は、並行導波路108のうち分岐導波路106に繋がった部分(入射部)及び合波導波路112に繋がった部分(出射部)をそれぞれ入射導波路及び出射導波路とし、並行導波路108の入射部から入射される光を分岐する分岐導波路122と、当該分岐導波路122により分岐された2つの光をそれぞれ伝搬する並行導波路124、126と、当該並行導波路124、126を伝搬した光を合波する合波導波路128と、を有する。
また、ネスト型光変調器120の並行導波路124及び126には、それぞれ、集積された2つのマッハツェンダ型の光変調器130a、130bが挿入されている。
マッハツェンダ型光変調器130aは、並行導波路124のうち分岐導波路122に繋がった部分(入射部)及び合波導波路128に繋がった部分(出射部)をそれぞれ入射導波路及び出射導波路とし、並行導波路124の入射部から入射される光を分岐する分岐導波路132aと、当該分岐導波路132aにより分岐された2つの光をそれぞれ伝搬する並行導波路134a、136aと、当該並行導波路134a、136aを伝搬した光を合波する合波導波路138aと、を有する。
同様に、マッハツェンダ型光変調器130bは、並行導波路126のうち分岐導波路122に繋がった部分(入射部)及び合波導波路128に繋がった部分(出射部)をそれぞれ入射導波路及び出射導波路とし、並行導波路126の入射部から入射される光を分岐する分岐導波路132bと、当該分岐導波路132bにより分岐された2つの光をそれぞれ伝搬する並行導波路134b、136bと、当該並行導波路134b、136bを伝搬した光を合波する合波導波路138bと、を有する。
また、マッハツェンダ型光変調器130aの並行導波路134aと136aの間には、これらの並行導波路から所定距離だけ離れ、かつ、これらの並行導波路と平行に形成された部分を有する高周波信号電極(RF電極)140aが設けられている。同様に、マッハツェンダ型光変調器130bの並行導波路134bと136bの間には、これらの並行導波路から所定距離だけ離れ、かつ、これらの並行導波路と平行に形成された部分を有する高周波信号電極(RF電極)140bが設けられている。
さらに、RF電極140aに対し、並行導波路134a、136aを挟むように、且つ当該RF電極140aと平行に、それぞれ接地電極150、152が設けられている。また、接地電極152は、RF電極140bに対しても、並行導波路134bを挟むように、且つ当該RF電極140bと平行となるように設けられている。さらに、RF電極140bに対し、並行導波路136bを挟むように、且つ当該RF電極140bと平行に、接地電極154が設けられている。
さらに、並行導波路110には、当該並行導波路110から所定距離離れた位置に、且つ当該並行導波路110と所定距離に亘って平行となる部分を有するように、直流制御電極(DC電極)160が設けられている。また、DC電極160を覆うように、且つDC電極160と電気的に接触することなく当該DC電極160を跨ぐように、接地電極162が設けられている。接地電極162は、基板102の面上においては、DC電極160に対し並行導波路110を挟んで対向する位置に、当該DC電極160と所定距離に亘って平行となるように形成された部分を有している。
図2は、図1に示す光導波路素子100のAA断面矢視図である。基板102の表面近傍に形成された並行導波路136a、138a、136b、138b、を挟むように、基板102上に接地電極150、RF電極140a、接地電極152、RF電極140b、及び接地電極154が設けられている。また、基板102の表面近傍に形成された並行導波路110の図示右側上方の基板102上にDC電極160が設けられており、当該DC電極160を覆うように接地電極162が設けられている。接地電極162にはブリッジ(空洞部)200が設けられており、当該ブリッジ200により、接地電極162は、DC電極160と電気的に接触することなく、当該DC電極160を跨ぐように形成されている。
ここで、基板102は、例えばXカットのニオブ酸リチウム(LN、LiNbO3)基板であり、基板102の平面に平行な方向の電界に対して最も大きな電気光学定数を持つ。このため、RF電極140a、140b、DC電極160、接地電極150、152、154、162は、基板102の面上において、それぞれ対応する並行導波路136a、138a、136b、138b、110を挟む位置に形成されている。なお、基板102に設けられる光導波路(符号104〜114、122〜128、132a〜138a、132b〜138b)は、例えば基板102上においてフォトリソグラフィとスパッタリング等の手法により所望の導波路パターンを構成するように堆積された金属チタン(Ti)を、基板102内部へ熱拡散させることにより形成することができる。
なお、LNを用いた基板102への上記導波路の形成は、上述のTi熱拡散法に限らず、プロトン交換法等の他の公知の手法により行うことができる。また、基板102としては、上記LNのほか、タンタル酸リチウムや、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、電気光学ポリマー等、電界印加により所要の屈折率変化を誘起することのできる電気光学定数を持った素材とすることができる。
また、RF電極140a、140b、DC電極160、接地電極150、152、154、162は、例えばTi又はCrを下地としてAu又はAl等の金属により形成した金属電極とすることができる。
上記の構成を有する光導波路素子100は、例えば、図8に示す多機能集積型光変調器と同様に、デジタル放送用のSSB変調やRoFシステム用の光マイクロ波/ミリ波信号を生成するためのものであり、ネスト光変調器120は、SSB変調器、あるいは光周波数変調器を構成し、並行導波路110とDC電極160は、光位相制御器を構成する。そして、図1において、レーザ光源等(不図示)からのCW光が、図示左方から入射導波路104に入射され、残留CW光の除去された周波数シフト光と周波数変調光との合波光が出射導波路114から出射されて、フォトダイオード等の受信機(不図示)により受信されて自乗検波される。なお、CW光から広帯域変調信号を得るための動作については、図8を参照して上述した動作と同様であるので、上述の図8についての説明を援用する。
特に、本実施形態に係る光導波路素子100は、DC電極160と協働して並行導波路110に電界を印加する接地電極162が、ブリッジ200によりDC電極160と電気的に接触することなく当該DC電極160を覆うように構成されている。このため、本光導波路素子100では、DC電極160に印加された直流電圧により当該DC電極160から生ずる放射電界は接地電極162により終端されるので、当該放射電界によりRF電極140a、140bの電位や接地電極152、150の接地電位は影響を受けない。従って、本光導波路素子100では、SSB変調や光周波数変調等を行うネスト型光変調器120は、光位相制御等のためDC電極160に印加されるDC電圧の影響を受けることなく、安定な変調動作を行うことができる。
なお、図2では、ブリッジ200の形状を半円で示しているが、ブリッジの形状はこれに限らず任意の形状とすることができ、例えば半長丸、長半楕円、あるいは任意の多角形とすることができる。
接地電極162は、例えばMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuits)の製造工程において回路素子間の空中接続配線(エアブリッジ)の形成に用いられるプロセスと同様のプロセスにより実現することができる。この場合、ブリッジ部分を構成するための犠牲層(金属堆積後に除去されてブリッジを構成する部分)の素材としては、フォトレジストや、ニッケル、クロム、ニクロムなどの金属を用いることができる。
また、DC電極160は、RF電極140a、140bのように高周波信号(例えば、数十GHz)を扱うものではないため、アスペクト比の大きい背の高い電極とする必要はなく、その厚さは例えば500Å〜5μm程度であれば十分である。このため、ブリッジ200の高さもこれに応じて低くすることができ、その結果、接地電極162の厚さは、例えば50〜100μm程度であればよい。
この厚さは、上述した背の高いセンタストリップを形成する際にRF電極材料に求められる堆積厚さと同等であり、したがって、接地電極162の材料堆積は、RF電極材料の堆積に用いるものと同じメッキプロセス(メッキ法)を用いて、例えばRF電極材料を堆積する工程と同一の工程において行うことができる。例えば、ブリッジ部分となる上述の犠牲層(フォトレジスト等)を基板102上に堆積した後、RF電極140a、140bの材料を堆積する際に、これと同じ材料により接地電極162も堆積させ、その後に犠牲層をエッチング除去することで、ブリッジ200を容易に形成することができる。この場合には、接地電極162の素材や犠牲層に用いる素材に制限があるものの、少ない工程で接地電極162を形成することができ、製造コストの点で有利である。
なお、ブリッジ200のサイズについては、基板102の面上における並行導波路110から接地電極162までの距離が、当該接地電極162に起因する並行導波路110での光吸収損失を生じさせない程度の距離であることが必要である。例えば、並行導波路110の伝搬光のスポットサイズが10μmである場合、当該光スポットの端部から2μm程度の距離を持たせるものとすることができる。また、基板102の面上におけるDC電極160と接地電極162までの距離が、当該DC電極160に印加される最大電圧において沿面放電を生じない程度に設定される必要がある。
また、接地電極162の形成は、上述したメッキプロセスを用いる方法のほか、所定の幅の開口を有する少なくとも一つの金属層を含む複数の金属膜を基板102上に積層することで行うこともできる。
図3は、金属層を積層することにより形成される接地電極の例を示す断面図である。図示の接地電極362は、図2の接地電極162に代えて光導波路素子100に用いることができる。本接地電極362は、DC電極160を跨ぐブリッジ300を構成するための開口を有する2つの金属層370a、370bと、開口を有さない金属層370cとを、基板102上に積層させることで形成されている。なお、積層する金属層の数は3に限らず、ブリッジ300について所望される形状に応じて、4つ以上の金属層を積層するものとすることができる。
さらに、図1及び図2において、接地電極162は、ブリッジ200によりバイアス電極を跨ぐように形成された導電材料であればよく、必ずしもその全体が基板102上への材料堆積により形成される必要はない。したがって、例えば、DC電極160を跨ぐように構成された溝を形成した略板状の導電性部材を、DC電極160から所定距離離れて並走するように設けられた金属膜に対し、例えばフリップチップボンディングにより接合して、接地電極を構成するものとすることもできる。
図4は、導電性部材の接合により形成される接地電極の例を示す断面図である。図4に示す接地電極462は、図2に示す接地電極162に代えて光導波路素子100に用いることができる。本接地電極462は、DC電極160を跨ぐブリッジ400を構成するための溝部を設けた導電性部材470(例えばアルミニウム板)と、DC電極160から所定の距離だけ離れて並走するように設けられた金属膜472a、472bとにより構成される。導電性部材470の、金属膜472a、472bと対向する部分には、ハンダバンプ474a、474bが設けられており、これらのハンダバンプを用いて、導電性部材470が、フリップチップボンディングにより金属膜472a、472bに接合されて、基板102に固定される。
接地電極162の他の代替例として、ブリッジ200を逆V字型の形状とするものとし、DC電極160を跨ぐように構成されたV溝を形成した導電性部材(例えば、シリコン板)を、DC電極160を挟んで並走するように設けられた金属膜と接合することにより、接地電極を形成するものとすることができる。
図5は、V溝を形成したシリコン板を用いた接地電極の例を示す断面図である。図5に示す接地電極562は、図2に示す接地電極162に代えて光導波路素子100に用いることができる。本接地電極562は、DC電極160を跨ぐブリッジ500を構成するためのV溝部を設けた導電性部材であるシリコン板570と、DC電極160から所定の距離だけ離れて並走するように設けられた金属膜572a、572bとにより構成されている。シリコン板570のうちV溝が形成されていない平坦部分には、例えばAu等の薄膜が堆積されており、当該平坦部と金属膜572a、572bとが(ハンダ等により)接合されることにより、シリコン板570が基板102に固定される。なお、シリコン板570にハンダバンプを設けて、シリコン板570と金属膜572a、572bとをフリップチップボンディングにより接合することもできる。
接地電極162の代替として、上述した多層金属膜や導電性部材で構成される接地電極362、462、又は562を用いる構成では、RF電極140a、140b等のための材料堆積とは異なる工程を用いて、上記接地電極362、462、又は562を形成することとなるため、当該接地電極362、462、又は562の材料をRF電極134a、134bの材料と同一とする必要はなく、材料選択の自由度が増す。
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る光導波路素子は、基板としてZカットのLNを用いる点が第1の実施形態における光導波路素子100と異なる。
図6は、本発明の第2の実施形態に係る光導波路素子の構成を示す平面図である。また、図7は、図6に示す光導波路素子600のBB断面の矢視図である。
なお、図6、図7に符号604〜614、622〜628、632a〜638a、632b〜638bで示す各光導波路は、ZカットのLN基板である基板602に形成されていることを除き、図1に符号104〜114、122〜128、132a〜138a、132b〜138bで示す各光導波路とそれぞれ同様であるので、これらの光導波路については、上述した図1についての対応する各光導波路に関する説明を援用するものとする。
光導波路素子600は、上述のとおり基板602としてZカットのLNを用いているので、光導波路に対し基板602の深さ方向に電界を印加する必要がある。このため、RF電極642a、644a、642b、644b、DC電極660は、それぞれ所定距離に亘って対応する並行導波路634a、636a、634b、636b、610の直上部と重なる部分を有するように、バッファ層680(図6、図7)を介して形成されている。
また、基板602のバッファ層680上には、RF電極642a、644a、642b、644bが例えばコプレーナ線路を構成するように、RF電極642a、644a、642b、644bに対し、各電極から所定距離だけ離れて当該各電極を挟むように、接地電極670、672、674、676、678が形成されている。
バッファ層680は、並行導波路634a、636a、634b、636b、610を伝搬する光が、それぞれRF電極642a、644a、642b、644b、DC電極660の材料金属により吸収されて損失を生ずるのを防止する。また、バッファ層680は、コプレーナ線路を構成するRF電極642a、644a、642b、644bのそれぞれの特性インピーダンスの設定可能範囲を決定付け、RF電極642a、644a、642b、644bを伝搬する高周波信号(変調信号)の速度と、並行導波路634a、636a、634b、636bを伝搬する光の速度との整合を可能にする。例えば、バッファ層680は、低誘電率材量である酸化珪素(SiO2)で構成される。
なお、LN基板である基板602の厚さが30μm以下である場合には、基板602の断面積が小さくなることから、当該基板602を介したRF電極と接地電極との間の静電容量が小さくなるので、バッファ層680がなくても、RF電極642a、644a、642b、644bを伝搬する高周波信号(変調信号)の速度と、並行導波路634a、636a、634b、636bを伝搬する光の速度とを整合させることができる。
基板602の厚さを30μm以下としてバッファ層680を用いない構成とした場合、並行導波路634a、636a、634b、636b、610においてRF電極642a、644a、642b、644b、DC電極660の材料金属による光の吸収損失が生ずることとなるが、並行導波路634a、636a、634b、636b、610に対しRF電極642a、644a、642b、644b、DC電極660から直に電圧を印加することができ、いわゆる半波長電圧Vπを小さくできる(従って変調に必要な電圧振幅を小さくできる)ので、電気特性の点で有利である。
図6において、ネスト型光変調器620は、光導波路622〜628とマッハツェンダ型光変調器630a、630bとにより構成されている。また、マッハツェンダ型光変調器630aは、光導波路632a〜638aとRF電極642a、644aと接地電極670〜674とにより構成され、マッハツェンダ型光変調器630bは、光導波路632b〜638bとRF電極642b、644bと接地電極674〜678とにより構成されている。
基板602のバッファ層680上には、DC電極660を覆うように、且つDC電極660と電気的に接触することなく当該DC電極660を跨ぐように、接地電極662が設けられている。接地電極662は、バッファ層680上において、DC電極660及び並行導波路610を挟んで対向する位置に、当該DC電極660及び並行導波路610と所定距離に亘って平行となるように形成された部分を有している。
図7(図6に示す光導波路素子600のBB断面矢視図)に示すように、接地電極662は、基板602上に形成されたバッファ層680上において、並行導波路610の直上部に形成されたDC電極660を覆うように形成されている。また、接地電極662にはブリッジ(空洞部)700が設けられており、当該ブリッジ700により、接地電極662は、DC電極660と電気的に接触することなく、当該DC電極660を跨ぐように形成されている。
上記の構成を有する光導波路素子600は、第1の実施形態に係る光導波路素子100と同様に、例えばデジタル放送波等のための広帯域変調信号の生成に用いることができ、ネスト型光変調器620は、SSB変調器あるいは光周波数変調器を構成し、並行導波路610とDC電極660は、光位相制御器を構成する。
光導波路素子600においては、DC電極660に印加された直流電圧により当該DC電極660から生ずる放射電界は接地電極662により終端されるので、当該放射電界によりRF電極642a、644a、642b、644bの電位や接地電極670〜678の電位は影響を受けない。従って、本光導波路素子600では、第1の実施形態に係る光導波路素子100と同様に、例えばSSB変調や光周波数変調等に関わるマッハツェンダ型光変調器630a、630bは、光位相制御等のためDC電極660に印加されるDC電圧に影響されることなく、安定な変調動作を行うことができる。
なお、基板602への各導波路604〜614、622〜628、632a〜638a、632b〜638bの作製方法(プロセス)、バッファ層680上へのRF電極642a、644a、642b、644b、及びDC電極660の作製方法は、上述した第1の実施形態に係る光導波路素子100における各導波路、及び各RF電極の作製方法と同様のものを用いることができる。また、バッファ層680上への、接地電極670〜678の作製方法は、上述した第1の実施形態に係る光導波路素子100における接地電極150〜154の作製方法と同様とすることができ、接地電極662の作製方法は接地電極162の作製方法と同様とすることができる。
ブリッジ700の形状は、図7に示す半円の他、半長丸、長半楕円、あるいは多角形等、任意の形状とすることができる。また、ブリッジ700のサイズについては、バッファ層680上におけるDC電極660と接地電極662との距離が、DC電極660に印加された電圧により並行導波路110に電界が効率的に発生するように設定されていること、及び、DC電極660に印加される最大電圧においてバッファ層680上に沿面放電を生じない程度に設定されていること、が必要である。なお、接地電極662の代替として、第1の実施形態に係る光導波路素子100に関連して説明した図3〜図5に示す構成の接地電極362、462、又は562を、同様に用いることができる。
以上、説明したように、本実施形態の光導波路素子は、同一基板上に隣接して形成されたRF電極とDC電極とを備え、当該DC電極に対し、当該DC電極を覆うように、且つ当該DC電極と電気的に接触することなく当該DC電極を跨ぐように、接地電極が形成されている。これにより、本光導波路素子は、DC電極が接地電極によりシールドされるので、RF電極とDC電極との間隔を狭めて集積度を上げる場合にも、DC電極から生じる放射電界によりRF電極及びその他の接地電極の電位に変動が生じるのを有効に回避して、当該光導波路素子の安定動作を確保することができる。
なお、上述の実施形態では、一例として一つのDC電極のみが設けられる光導波路素子の構成を示したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、同一基板上に一つ以上のRF電極と複数のDC電極とが設けられた構成においても、各DC電極に対し、上述した接地電極162等と同様の構造の接地電極を個別に設けることで、上記と同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態では、光導波路素子として同一基板上に複数のマッハツェンダ型光変調器がネストされる構成を示したが、これに限らず、本発明は、少なくとも一つのRF電極と少なくとも一つのDC電極とが隣接して混在する他のタイプの光変調器や他の種々のタイプの導波路型光機能素子(例えば、光スイッチ等)を種々の態様で集積した(即ち、ネストする形態に限らず任意の接続関係において集積した)光導波路素子に、同様に適用することができる。