JP6372914B2 - マイクロ流体チップ - Google Patents

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Description

本発明は、主に細胞及び細胞集合体の酸素消費速度を蛍光計測法に基づき非侵襲的に定量化することができる細胞及び細胞集合体の酸素消費計測システム及び細胞の酸素消費計測方法に関する。
近年の発生生物学・生殖工学の発展は、組換え動物の作製、家畜等の品種改良、医療技術、等の多くの分野において技術革新を生み出している。中でも体外受精及び体外培養技術の向上は、不妊治療技術や家畜改良技術に与える影響が大きい。これらの技術では卵子等の対象となる生体物質の品質評価技術が重要である。例えば、卵子の定量的な品質評価には酸素消費活性が指標として用いられている。従来、酸素消費活性を指標とした卵子の品質評価法では、酸素電極を用いた手法が提案されてきた。
細胞近傍の酸素濃度分布から酸素の球面拡散に基づいて酸素消費活性を求める方法は一般的な方法として知られている。例えば、酸素電極を集積したマイクロプローブを用い、卵子近傍を走査し得られた卵子近傍の酸素濃度プロファイルから卵子の酸素消費活性を算出する方法、マイクロ流体チップ内に作製した酸素電極を用いて、受精卵から一定距離に設置された電極で発生する酸素濃度に依存した量の酸素還元電流から受精卵の呼吸活性を計測する手法が提案されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
しかしながらプローブを走査する手法には、プローブが折れやすい、プローブによる卵子の損傷の可能性がある、プローブの走査に時間がかかる、等の課題がある。集積化センサを用いた手法では、計測可能な酸素消費活性の方向は、電極の配置に制限される。また上記手法は電極上での酸素分解より生じる酸素還元電流を検出するものであり、電極上での酸素消費による濃度プロファイルの乱れによるノイズ、卵子の酸素消費の方向性を考慮できない、といった課題がある。また、卵子下部の基板がガラスやプラステック等の酸素の透過性が低い材料で作製されている場合は酸素の球面拡散理論が成立しない。計測時に酸素を消費しない酸素計測法としては、酸素濃度に依存して蛍光強度が変化する蛍光物質を卵子の下部に設置して蛍光強度変化を計測する蛍光法がある。しかしながら、蛍光物質が拡散しやすく担体として用いられる物質の酸素の拡散係数が培地と比較して低いため、球面拡散理論が成立しない、といった課題があり、これまで球面拡散理論が成立し、計測時に酸素を消費しない計測方法、計測システムのデザイン、計測システムの試作を行った例は報告されていない。
特許公開2010−121948 Oxygen Consumption of Single Bovine Embryos Probes by Scanning Electrochemical Microscopy、Analytical Chemistry、73、pp。3751−3753、2001:
(1)酸素電極をプローブとして用いて卵子近傍を走査して酸素濃度プロファイルを取得する手法は、プローブが折れやすい、プローブによる卵子の損傷の可能性がある、プローブの走査に時間がかかる、等の課題がある。(2)酸素電極を基板上に集積したマイクロ流体チップ等を用いる手法では、計測可能な酸素消費活性の方向が電極が配置された方向のみに制限される。(3)酸素電極を用いた手法では、電極上での酸素消費による濃度プロファイルへの影響、といった(1)、(2)に共通の課題がある。(4)卵子下部の基板がガラスやプラステック等の酸素の透過性が培地と大きく異なる材料で作製されている場合は、酸素の球面拡散理論が成立せず対象近傍の濃度プロファイルが球面拡散とならない。
本発明はこのような課題に着目してなされたもので、球面拡散理論が成立した環境で酸素を消費しない蛍光法を用いたシステムで実現可能な酸素消費計測技術を提供することを目的としている。
この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための形態」欄において用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。
上記「発明が解決しようとする課題」において述べた問題を解決するためになされた発明は、細胞及び細胞集合体の近傍の酸素拡散を阻害せず球面拡散が成立するような酸素濃度感受性を有する蛍光色素を含んだセンサの配置を備えることを特徴とする蛍光酸素消費計測方法及び蛍光酸素消費計測システムであって、酸素電極を用いた方法に比べて、計測時のセンサによる酸素の消費が生じず安定性が高く、細胞に対する機械的損傷の危険が無く、任意の方向の生体物質の酸素消費活性を計測でき、安価で簡便に計測システムを構築できる。
請求項2に記載の発明は、細胞及び細胞集合体の近傍の酸素拡散を阻害せず球面拡散が成立するような酸素拡散係数を有する材料で構成されたマイクロ流体チップであることを特徴とする蛍光酸素消費計測方法及び蛍光酸素消費計測システムである。
請求項3に記載の発明は、複数の酸素濃度分布情報を蛍光強度が分布した蛍光画像として、酸素濃度とともに取得する画像取得手段と、前記画像取得手段で取得した細胞及び細胞集合体無しの蛍光画像をリファレンスとし細胞及び細胞集合体存在下での蛍光画像の輝度分布から、細胞及び細胞集合体近傍の蛍光強度変化を抽出する情報解析手段と、前記画像取得手段で取得した前記複数の酸素濃度に対して、前記解析手段で抽出した各酸素濃度に対する蛍光強度情報を関連付ける較正直線を作成する較正直線作成手段と、前記較正直線作成手段で作成した較正直線を用いて酸素濃度計測を行う酸素濃度計測手段と、前期酸素濃度計測手段で得られた細胞及び細胞集合体近傍の酸素濃度プロファイルから球面拡散理論に基づいて酸素消費速度を算出する酸素消費算出手段と、蛍光物質を内部に固定して作製する励起光を照射することで酸素濃度に応じた強度の蛍光を発する酸素濃度センサと、を備えることを特徴とする蛍光酸素消費計測方法及び蛍光酸素消費計測システムである。
請求項4に記載の発明は、複数の酸素濃度分布状態を蛍光画像として、励起光源を用いて蛍光物質を内部に固定した蛍光酸素濃度センサを励起し、異なる酸素濃度分布での蛍光画像を蛍光情報取得装置で取得する画像取得システムと、前記画像取得システムで取得した複数の酸素濃度における前記蛍光画像の輝度情報から、生体物質無しの蛍光画像をリファレンスとして細胞及び細胞集合体存在下の蛍光強度分布から細胞及び細胞集合体近傍の蛍光強度変化を計測するする酸素濃度計測システムと、各酸素濃度に対する蛍光強度情報を関連付ける較正直線から前記色差情報から酸素濃度を算出する酸素濃度計測手段と、前期酸素濃度計測手段で得られた細胞及び細胞集合体近傍の酸素濃度プロファイルから球面拡散理論に基づいて酸素消費速度を算出する酸素消費算出システム、を備えたことを特徴とする蛍光酸素消費計測方法及び蛍光酸素消費計測システムである。
上記目的を達成するために、本発明に係る蛍光強度の分布情報を用いた蛍光酸素消費計測システムでは、励起光源2で励起された蛍光酸素濃度センサ1からの蛍光画像を蛍光強度取得装置3で取得し、制御部11において細胞が存在する蛍光画像と細胞が存在しない蛍光画像の蛍光強度比を抽出し、その蛍光強度比情報と酸素濃度の較正直線を作成し、その結果を用いて酸素濃度計測を行うことで、酸素電極をプローブとして用いた計測方法に比べて細胞に対する機械的損傷の可能性が低く、酸素電極を集積化したセンサに比べて任意の方向の酸素消費活性を計測でき、前記2つの手法に比べて安価なシステムで構築できることを、特徴とする蛍光酸素消費計測手法である。
通常、酸素は周辺の物質に依存した拡散係数に基づいて拡散する。このため、培地6とマイクロ流体チップ5の酸素の拡散係数が大きく異なる場合、細胞及び細胞集合体12近傍の酸素濃度プロファイルは球状の濃度分布とならない。本発明では、および蛍光酸素濃度センサ1を細胞及び細胞集合体12近傍の酸素の拡散を阻害しないように配置することでマイクロ流体チップ5の材料として、培地と同程度の酸素の拡散係数を有する材料を用いること、細胞及び細胞集合体12近傍の酸素濃度が球状に分布するように設計する。
本計測手法で用いる酸素濃度分布取得手段は、蛍光物質の蛍光強度の酸素濃度依存性を用いる。外部で調整された酸素濃度の溶液を、蛍光酸素センサ1を組み込んだマイクロ流体チップ5に満たし、蛍光酸素センサ1の蛍光強度を蛍光強度取得装置3を用いて取得し、各酸素濃度での蛍光強度情報を用いて、較正直線を作成する。細胞及び細胞集合体12が存在しない状態において酸素濃度がマイクロ流体チップ5において一様とした場合、細胞存在下での蛍光画像と細胞及び細胞集合体12が存在しない場合の蛍光画像の各ピクセルの強度比をとることで、細胞及び細胞集合体12近傍の蛍光強度分布情報を取得する。この蛍光強度分布情報と較正直線を用いて細胞及び細胞集合体12近傍の酸素濃度変化の分布情報を取得でき、細胞及び細胞集合体12近傍の酸素濃度変化の二次元分布情報が得られる。また、細胞及び細胞集合体12が存在しない場合の酸素濃度が既知である場合、細胞及び細胞集合体12近傍の酸素濃度の二次元分布情報が得られる。
得られた酸素濃度プロファイル画像において、細胞及び細胞集合体12表面での細胞の半径方向の濃度プロファイルの傾きを求めることで、式1から酸素消費速度F[mol/s]を算出できる。
ここで、r[m]は細胞及び細胞集合体12の半径、r[m]は細胞及び細胞集合体12中心からの距離、C(r)[mol/s]は細胞及び細胞集合体12中心からr離れた場所での酸素濃度、D[m/s]は酸素の拡散係数である。
本手法は、蛍光画像のピクセル毎の蛍光強度比から酸素濃度変化量を求めるため、蛍光強度取得装置3の画素数と画像取得領域のサイズから酸素濃度計測の空間分解能が決定される。例えば、蛍光強度取得装置3のズーム機能や顕微鏡に搭載されるような高倍率の対物レンズ4を用いることで数十nmの空間分解能を達成可能である。
本手法は、蛍光画像の各ピクセルの蛍光強度比により酸素濃度を計測するため、蛍光強度取得装置3としては市販の安価な装置を用いて計測シスムを構築可能である。また、得られた計測値に対して制御部11において加算平均等、従来の計測器で用いられている信号処理手法を適用することでノイズ除去等を行い感度及び精度の向上が可能である。
本手法は、蛍光物質の励起に用いる励起光源2として、水銀ランプ、キセノンランプ、レーザ、LED等、従来の蛍光観察に用いられてきた光源を使用可能である。
本手法で用いる蛍光酸素濃度センサ1に導入する蛍光物質は、高感度の計測を実現するため、酸素濃度に対しる蛍光強度の変化の大きく、他の条件、例えば温度やpH等に対する感受性が小さい物質であることが望ましい。
本手法で用いる蛍光酸素濃度センサ1に導入する蛍光物質は、長時間の計測を実現するため、励起に対する蛍光の退色が少ない物質であることが望ましい。
酸素感受性の蛍光物質として、例えば、プラチナやルテニウム等の希土類金属の錯体に代表される蛍光物質等があるが、蛍光強度取得装置1の感度及び露光条件の調整、励起光源2の調整により上記の条件を満たすことができる蛍光物質を使用する。
本手法で用いる蛍光酸素濃度センサ1としては、上記の蛍光物質を酸素の拡散係数が培地と同程度の材料で作製されたマイクロ流体チップ5に組み込んだ状態で用いることができる。また、蛍光物質をポリマー等で構成される微粒子、膜、ブロック、トロイダル、等の任意の形状の構造体に封入して用いることが可能である。
本手法で用いる蛍光酸素濃度センサ1は、細胞及び細胞集合体12周辺の酸素の拡散を阻害しない範囲でマイクロ流体チップ5の任意の場所に任意のレイアウト、例えば縞状、同心円状等の状態で設置できる。センサのレイアウトに関しては、有限要素法等を用いて解析して得られた結果に基き行う。
構造体の作製方法は、鋳型またはフォトリソグラフィに代表される半導体加工技術、塩析・熱重合・光重合等の化学的反応プロセス等から任意に選択できる。
この酸素濃度センサは、酸素濃度指示薬として封入している蛍光物質と干渉しない励起・蛍光スペクトルの蛍光物質であれば、同時に用いることが可能であり、酸素濃度以外の環境に対して感受性を有する蛍光物質もしくは呈色性の指示薬を用いることでマルチ環境パラメータ計測に用いることが可能である。
本発明によれば、従来の酸素電極を用いた酸素消費計測法で課題となっていた、計測時に酸素を消費することによるノイズの発生が生じず安定した計測を行うことができ、二次元の酸素濃度分布情報から任意の方向の酸素消費速度を算出でき、従来の蛍光計測法と同様の計測方法で実施可能な、細胞及び細胞集合体12の蛍光酸素消費計測方法及び蛍光酸素消費計測システムを提供することができる。
本発明の第1実施形態に係る蛍光酸素消費計測システムの構成図である。 本発明の第1実施形態に係る蛍光酸素濃度センサ部の拡大図である。 本発明の第1実施形態に係る細胞及び細胞集合体下のPDMSの厚さを50μmとした場合の酸素濃度の有限要素法の解析結果である。 本発明の第1実施形態に係る細胞及び細胞集合体12下のPDMSの厚さを200μmとした場合の酸素濃度の有限要素法の解析結果である。 本発明の第1実施形態に係る細胞及び細胞集合体12下の蛍光酸素濃度センサを板状に配置した場合の酸素濃度の有限要素法の解析結果である。 本発明の第1実施形態に係る細胞及び細胞集合体12下の蛍光酸素濃度センサを縞状(センサ幅:5μm,間隔:5μm)に配置した場合の酸素濃度の有限要素法の解析結果である。 本発明の第1実施形態に係る蛍光強度と酸素濃度の較正結果のグラフである。 本発明の第1実施形態に係るマウス卵子の明視野画像である。 本発明の第1実施形態に係るマウス卵子の無い場合の蛍光画像である。 本発明の第1実施形態に係るマウス卵子が存在する場合の蛍光画像である。 本発明の第1実施形態に係るマウス卵子が存在する場合の蛍光画像の強度をマウス卵子の無い場合の蛍光画像の蛍光強度で除算した蛍光強度比の画像である。 本発明の第1実施形態に係るマウス卵子近傍の各方向の酸素濃度分布のグラフである。 本発明の第1実施形態に係るマウス卵子が存在する場合の各方向の酸素消費速度、卵子毎の酸素消費速度の平均および標準偏差の表である。 本発明の第2実施形態に係る蛍光酸素消費計測システムの模式図である。 蛍光酸素消費計測システムのフローチャート図である。
_以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
蛍光酸素消費計測システムは、蛍光酸素濃度センサ1、励起光源2、蛍光強度取得装置3、マイクロ流体チップ5、制御部11、を備えている。
蛍光酸素濃度センサ1は励起光を照射することで酸素濃度に応じた強度の蛍光を発するものである。具体的には、酸素感受性の蛍光物質を内部に固定して成形したものである。
励起光源2は、蛍光酸素濃度センサ1に固定した蛍光物質を励起して蛍光を発するために用いられるものである。具体的には、水銀ランプやレーザ、LEDを用いる。
蛍光強度取得装置3は励起光源2からの光で励起された蛍光酸素濃度センサ1からの酸素濃度に応じた強度の蛍光を受け取るものである。具体的には冷却CCD等を用いる。
マイクロ流体チップ5は蛍光酸素濃度センサ1が組み込まれており、細胞を計測中に保持するものであり、酸素の拡散係数が培地6と同程度の材料で作製されているものである。具体的には、材料としてポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いる。
制御部11は蛍光強度取得装置3で得た蛍光画像を受け取り、蛍光強度情報を酸素濃度較正直線と比較し酸素濃度プロファイルを算出、及び酸素消費速度を算出して出力するものである。具体的にはCPU、ROM、RAM及びI/Oを備えたものである。
「制御部における処理の説明」
図15のフローチャートより、蛍光酸素消費計測システムにおいて、制御部11で実行される蛍光強度分布情報から酸素消費速度情報への変換処理について説明する。制御部11はS101ステップにおいて、細胞及び細胞集合体12が存在しない状態で蛍光強度取得装置3で得られた画像情報を受け取りリファレンス画像とする。S102ステップにおいて、制御部11は細胞及び細胞集合体12が存在する状態で蛍光強度取得装置3で得られた画像情報を受け取り、リファレンス画像の各ピクセルの蛍光強度との比を計算し、蛍光強度比の二次元分布画像を得る。S103ステップにおいて、得られた蛍光強度比の二次元分布情報を制御部内に保存された温度較正直線と比較し、酸素濃度情報を計算し酸素濃度分布の二次元データを得る。S104ステップにおいて、任意の方向の酸素濃度プロファイルと式1から細胞及び細胞集合体12の任意の方向の酸素消費速度を算出し、データをファイルに保存しもしくは外部に出力する。
[第1実施形態]
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1は第1実施形態の蛍光強度情報による細胞酸素消費計測の模式図を示している。
蛍光酸素濃度センサ1は、ポリエチレングリコールを主成分とする光硬化性樹脂中にルテニウム錯体を封入したものであり、マイクロ流体チップ5の内部に固定されている。また固定する対象は、マイクロ流体チップ5等の表面等でもよい。
マイクロ流体チップ5は顕微鏡ステージ13上に設置されており、顕微鏡は対物レンズ4、励起用の光源2、蛍光強度取得装置3を備えている。蛍光強度取得装置3は制御部11に接続されている。
励起光源2としては波長561nmのレーザを用い、ダイクロイックミラー9、対物レンズ4を通して蛍光酸素濃度センサ1に照射し、蛍光酸素濃度センサ1からの蛍光を蛍光強度取得装置3で取り込み蛍光画像を得る。励起光源2としては水銀ランプやLEDを用いてもよい。
図2は蛍光酸素濃度センサ1を組み込んだマイクロ流体チップ5のセンサ部の拡大図である。本実施形態では、蛍光酸素濃度センサ1は縞状に配置した。
本発明では、細胞及び細胞集合体12近傍の酸素濃度分布が定常状態にあることを仮定して、球面拡散理論から細胞及び細胞集合体12の酸素消費速度を算出する。時間における濃度変化がない場合、Fickの第一法則より細胞及び細胞集合体12の表面での酸素流速fs[mol/m2・s]は式2として表される。
D[m/s]は拡散係数、C[mol/m]は酸素濃度、r[m]は細胞及び細胞集合体12の中心からの距離(r>rs)、rs[m]は細胞及び細胞集合体12の半径、S[m]は細胞及び細胞集合体12の表面積である。また、rは細胞及び細胞集合体12表面と蛍光酸素濃度センサ1間のPDMSの厚さをt[m]、細胞及び細胞集合体12と蛍光酸素濃度センサ1間の取得画像における距離をx[m]として式3として表される。
細胞及び細胞集合体12の形状を球としているため酸素消費速度は式1で表される。式1において細胞及び細胞集合体12における酸素濃度勾配は、蛍光画像における細胞及び細胞集合体12中心からの酸素濃度分布を最小二乗法でフィッティングしたプロファイルの細胞及び細胞集合体12表面での傾きとする。
マイクロ流体チップ5の設計に必要な蛍光酸素濃度センサ1の形状及びレイアウトは有限要素解析法等の解析結果に基づき行う。図3〜6では直径を75μmの細胞近傍の酸素濃度分布の解析結果を示す。酸素消費速度は、1fmol/sに設定した。また蛍光酸素濃度センサ1における酸素の拡散係数は光硬化性樹脂のポリエチレングリコールジアクリレート(PEG−DA)の値3.4×10−11/sを用いた。また、細胞及び細胞集合体12と蛍光酸素濃度センサ1間のPDMSの厚さは10μmとした。
細胞及び細胞集合体12周辺の酸素濃度が球状に拡散するために必要な蛍光酸素濃度センサ1下部のPDMSの厚みを解析した結果を図3及び図4に示す。センサの下部は顕微鏡ステージ13に固定するためガラスが存在するが、ガラスは酸素を透過しないため、蛍光酸素濃度センサ1とガラスの距離を適切に設計する必要がある。距離が50μmの場合は酸素の拡散が不均一になるが、200μm以上では均一な拡散となる結果が得られた。
蛍光酸素濃度センサ1の配置の検討として、平面状に配置した場合と縞上に配置した場合の酸素濃度分布を比較した結果を図5及び図6に示す。平面状に蛍光酸素濃度センサ1を配置した場合、蛍光酸素濃度センサ1の酸素拡散係数が小さいため酸素濃度分布が不均一になったが、縞状(センサ幅:5μm、センサ間距離:5μm)に配置した場合球状に酸素濃度分布が形成できることを確認した。
以上の解析結果より、蛍光酸素濃度センサ1下部のPDMSの厚みを1mm、蛍光酸素濃度センサ1の配置は幅5μm、間隔5μmとすることで卵子近傍の酸素濃度分布が球面拡散理論を成立させ、式1を用いて酸素消費速度を算出する。
蛍光酸素濃度センサ1を組み込んだマイクロ流体チップ5の酸素濃度を変化させ、それぞれの酸素濃度での蛍光画像を取得し、蛍光酸素濃度センサの蛍光強度を取得したところ、図7となり較正直線が得られた。
図8〜11にマウス卵子の酸素消費速度を計測した結果を示す。図8は明視野でのマウス卵子画像、図9はマウス卵子が無い状態での蛍光酸素濃度センサの蛍光画像、図10はマウス卵子が存在する状態での蛍光画像、図11は図10の各ピクセルの蛍光強度を図9の対応するピクセルの蛍光強度で除算した画像である。実験は、励起光源2として561nmのレーザを用い、蛍光強度取得装置3は冷却CCDを用いた。マウス卵子半径は33μmである。図11において図7で得られた較正直線から酸素濃度を算出し、A、B、C、Dの各方向においてマウス卵子中心からの酸素濃度プロファイルをプロットしたものが図12である。図12のデータを用い、マウス卵子表面での酸素濃度の傾きから酸素消費速度を求めた結果が図13である。2つのマウス卵子の計測結果から、任意の方向のマウス卵子の酸素消費速度を非接触に計測することができる。
[第2実施形態]
次に、図14に基づき第2実施形態について説明する。
図11は第2実施形態の蛍光強度情報による酸素消費速度計測の模式図を示している。蛍光酸素濃度センサ1はレーザ14によってマイクロ流体チップ5中でトラップされ細胞及び細胞集合体12近傍に多数任意の距離に配置することで細胞及び細胞集合体12近傍の酸素濃度プロファイルを取得できる。蛍光酸素濃度センサ1の操作に用いるレーザ14は蛍光温度センサ1の励起波長を含んでいないことが望ましい。また、蛍光酸素濃度センサ1の操作手段としては、レーザ14の他に、電場、磁場、超音波、流体力を用いてもよい。
蛍光酸素濃度センサ1をレーザ14によりトラップ若しくは任意の計測点まで搬送後に励起光源2から励起光7を蛍光酸素濃度センサ1に照射し、第1の実施形態と同様の手順で酸素消費速度計測を行う。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
例えば、第1実施形態〜第2実施形態では、酸素濃度計測に蛍光物質のみを用いているとしたが、蛍光物質に加えて呈色性の酸素濃度指示薬を用いて計測の補正を行うとしてもよい。
加えて、励起光や蛍光の干渉がなければ、酸素濃度計測以外に用いられる蛍光物質や呈色性の指示薬を同時に用いて複数の環境の同時計測を行ってもよい。
また、第1実施形態〜第3実施形態において、制御部において加算平均等、従来の計測器で用いられている信号処理手法を適用することで、ノイズ除去等を行い感度及び精度の向上が可能である。
1…蛍光酸素濃度センサ、2…励起用光源、3…蛍光強度取得装置、4…対物レンズ、5…マイクロ流体チップ、6…培地、7…励起光、8…蛍光、9…ダイクロイックミラー、10…全反射ミラー、11…制御部、12…細胞、13…顕微鏡ステージ、14…レーザ、

Claims (3)

  1. 蛍光酸素濃度センサ含むマイクロ流体チップであって、
    前記マイクロ流体チップは、酸素の拡散係数が培地と同程度の材料で作製され、
    前記蛍光酸素濃度センサは、酸素感受性の蛍光物質を含み、且つ、前記材料内に埋め込まれ、
    前記埋め込まれた蛍光酸素濃度センサより下部の前記材料の厚さが200μm以上である、
    マイクロ流体チップ。
  2. 前記材料がポリジメチルシロキサンである、
    請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
  3. 前記蛍光酸素濃度センサが、
    前記材料内に間隔をもって配置されている、
    請求項1または2に記載のマイクロ流体チップ。
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