以下に、本発明の実施の形態にかかる電波環境解析装置、通信装置および電波環境解析方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる電波環境解析装置100の機能構成例を示す図である。本実施の形態の電波環境解析装置100は、電波環境測定データを取得し、電波環境測定データに基づいて各電波環境測定データに対応する電波環境を複数の種別のうちのいずれであるかを分類する。電波環境測定データは、電波環境解析装置100が受信した電磁波を測定した測定データである。
図1に示すように、本実施の形態の電波環境解析装置100は、電波環境測定データすなわち受信した電磁波の電力値を取得する取得部であるデータ取得部11と、データ取得部11により取得された複数の電力値であるデータセットすなわちデータ群を用いてヒストグラムすなわち度数分布を算出する度数算出部である電力値カウント部12と、電力値カウント部12により算出されたヒストグラムから複数の次数のモーメントを計算するモーメント計算部13と、を備える。
電波環境解析装置100は、さらに、電波環境の種別に対応する電力値の度数分布、すなわち電波環境の種別に対応する干渉波の特徴を用いて生成された電力値の度数分布に基づいて生成された複数の次数のモーメントであるテンプレートデータを電波環境の種別ごとに記憶する記憶部であるテンプレートデータ記憶部14と、モーメント計算部13の計算結果、すなわちモーメント計算部13により計算された複数の次数のモーメントに基づいてデータ群に対応する電波環境の種別を判定する判定部である相関値計算部15と、相関値計算部15により計算された相関値を電波環境測定データごとに記憶する分類結果記憶部16と、分類結果記憶部16に記憶された分類結果を出力する分類結果出力部17とを備える。本実施の形態では、相関値計算部15は、モーメント計算部13の計算結果、すなわちモーメント計算部13により計算されたモーメントと、テンプレートデータ記憶部14に記憶されているテンプレートデータのモーメントとの相関値を計算し、相関値に基づいてデータ群に対応する電波環境の種別を判定する。
図2は、本実施の形態の電波環境解析装置100のハードウェア構成例を示す図である。図2に示すように電波環境解析装置100は、図1のデータ取得部11に対応するデータ取得部101と、制御回路102とで構成される。データ取得部101は、例えば、アンテナなど電磁波を受信する装置と、受信した電磁波に増幅およびノイズ除去などの処理を行い、受信した電磁波の電力を一定時間ごとにサンプリングされたデジタル信号として出力する電子回路とで構成される。また、データ取得部101は複数の周波数の電磁波を受信可能であってもよい。この場合、データ取得部101は、時間および周波数にそれぞれサンプリングされたデジタル信号を出力する。また、データ取得部11は、アンテナが受信した電磁波を時間でサンプリングした後に時間周波数変換処理により各周波数のデータを求めるようにしてもよい。
図3は、制御回路102の構成例を示す図である。制御回路102は、外部から入力されたデータを受信する受信部であり入力ポートおよびインタフェース回路である入力部201と、プロセッサ202と、メモリ203と、データを外部へ送信する送信部であり、出力ポートおよびインタフェース回路である出力部204とを備える。図1の分類結果出力部17は図3の出力部204であり、テンプレートデータ記憶部14および分類結果記憶部16は、図3のメモリ203の一部である。電力値カウント部12、モーメント計算部13および相関値計算部15は、プロセッサ202がメモリ203に記憶された各々に対応するプログラムを読み出して実行することにより実現される。また、メモリ203は、プロセッサ202が実施する各処理における一時メモリとしても使用される。
なお、ここでは、電力値カウント部12、モーメント計算部13および相関値計算部15が1つのプロセッサにより実現される例を示したが、電力値カウント部12、モーメント計算部13および相関値計算部15がそれぞれ別のプロセッサにより実現されてもよい。また、ここでは、テンプレートデータ記憶部14および分類結果記憶部16が図3のメモリ203の一部である例を示したが、メモリ203とは別に、テンプレートデータ記憶部14および分類結果記憶部16用のメモリを備えてもよいし、テンプレートデータ記憶部14と、分類結果記憶部16とのそれぞれ個別のメモリを備えるようにしてもよい。また、ここでは、電力値カウント部12、モーメント計算部13および相関値計算部15がプロセッサおよびメモリを用いてソフトウェアにより実現される例を示したが、これらのうちの1つ以上がソフトウェアではなく電子回路として実装されてもよい。
複数の無線通信方式に対応した通信装置が、本実施の形態の電波環境解析装置100により分類された結果を用いると、通信装置が、電波環境に応じた適切な無線通信方式を選択することができる。電波環境解析装置100は通信装置とは別に設けられ、電波環境解析装置100から通信装置へ、無線または有線の通信、あるいはその他の手段により、電波環境を分類した結果を通知するようにしてもよいし、通信装置が電波環境解析装置100を備えていてもよい。また、電波環境解析装置100が、データ取得部11を備えずに、外部の通信装置をデータ取得部11として用い、外部の通信装置から電波環境測定データを取得するようにしてもよい。
図4は、本実施の形態の電波環境解析装置100を備える通信装置300の構成例を示す図である。図4に示すように、通信装置300は、アンテナ301と、アンテナ301で受信した電磁波すなわち受信信号を一定時間ごとにサンプリングしてデジタル信号として出力し、また、デジタル信号として入力される送信信号をアナログ信号に変換してアンテナ301へ出力する処理回路302と、制御回路303と、各々が異なる無線通信方式に対応した送受信処理を行う送受信処理部304−1〜304−Lと、制御回路303から受け取った電波環境を分類した結果に基づいて、無線通信方式を選択し、対応する送受信処理部を選択する選択部305とを備える。処理回路302は、送受信処理部304−1〜304−Lのうち選択部305により選択された送受信処理部304−1〜304−Lにより生成された送信信号をアンテナ301へ出力し、アンテナ301で受信した信号を送受信処理部304−1〜304−Lのうち選択部305により選択された送受信処理部304−1〜304−Lへ出力する。なおLは送受信処理部の数を示す2以上の整数である。図4の構成例では、本実施の形態の電波環境解析装置100は、アンテナ301、処理回路302および制御回路303に対応する。アンテナ301および処理回路302が図2のデータ取得部101に対応し、制御回路303が制御回路102に対応する。図4の構成は一例であり、この構成に限定されるものではない。
電波環境を分類した結果と送受信処理部304−1〜304−Lとの対応をあらかじめ保持しておき、選択部305は、この対応に従って制御回路303から受け取った電波環境の分類結果に応じた送受信処理部304−1〜304−Lを選択し、選択結果を送受信処理部304−1〜304−Lへ通知する。例えば、選択部305は、この対応をテーブルとして保持して、制御回路303から受け取った電波環境の分類結果に応じた送受信処理部304−1〜304−Lをこのテーブルに従って選択する。この場合、選択部305は、このテーブルを保持する回路と制御回路303から受け取った電波環境を分類した結果およびテーブルに基づいて送受信処理部304−1〜304−Lに選択結果を通知する回路とで構成することができる。このテーブルは、例えば、電波環境の分類結果ごとに対応する送受信処理部304−1〜304−Lが格納されたテーブルである。送受信処理部304−1〜304−Lへ通知する選択結果は、処理を行うか否かを示す信号であり、処理を行うことを信号により指示された送受信処理部304−1〜304−Lはアンテナ301および処理回路302を用いた送受信処理を実施する。
例えば、送受信処理部304−1は、16QAM変調(Quadrature Amplitude Modulation)と16QAM変調に対応した復調とを行い、送受信処理部304−2は、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)変調とQPSK変調に対応した復調を行うとする。16QAM変調は、直角位相の関係にある2つの搬送波の振幅をそれぞれ4段階に変更することにより4×4の16の状態に16値を対応させる変調であり、QPSK変調は搬送波の4種類の位相に4値を対応させる変調である。そして、選択部305は、制御回路303から受け取った電波環境を分類した結果として、干渉波があまり存在しない環境と干渉波が存在する環境とのうちのいずれであるかを示す情報が得るとする。干渉波があまり存在しない環境とは、例えば後述する環境aであり、干渉波が存在する環境とは後述する環境bおよび環境cである。選択部305は、上述したテーブルにおいて、干渉波があまり存在しない環境に送受信処理部304−1を対応させ、干渉波がする環境に送受信処理部304−2を対応させることを示す情報を保持しておく。16QAM変調を用いた通信では、伝送速度はQPSK変調による通信より高くなるが、干渉波が存在する環境では干渉波による誤りがQPSK変調による通信より発生しやすい。本実施の形態では、選択部305が、制御回路303から受け取った電波環境を分類した結果と上述のテーブルとを用いて、干渉波が存在しない環境では16QAM変調に対応する送受信処理部304−1を選択し、干渉波が存在する環境ではQPSK変調に対応する送受信処理部304−2を選択することができる。これにより、干渉波が少ない環境では、伝送速度を高めることができ、一方で、干渉波が存在する環境では、伝送速度は低下するものの誤りの発生しにくいQPSK変調を用いることで信号の信頼度を高めることができ、データの再送回数等を減らしてシステム全体としてスループットの向上させることができる。
次に、本実施の形態の動作について説明する。まず、データ取得部11は、電波環境測定データを取得する。電波環境測定データは、受信された電磁波の電力値を示すデジタルデータである。本実施の形態では、複数のデジタルデータ単位で電波環境すなわち干渉波の特徴を分類する。電波環境の特徴を分類する単位である複数のデジタルデータすなわちデータ群をデータセットとよぶ。電力値カウント部12は、データセットごとにヒストグラムを生成するための階級および階級ごとの電力値の範囲を決定する。階級は、ヒストグラムの横軸となる値である。具体的には、電力値カウント部12は、データセットを構成する電波環境測定データの電力値を示すデジタルデータのデータ数NPに基づき、スタージェスの公式、平方根選択、スコットの選択法などを用いてヒストグラムを作成するための階級の数NRを決定し、階級ごとの電力値の範囲を決定する。
また、電力値カウント部12は、階級ごとの電力値の範囲に基づいて、データ取得部11から入力されるデジタルデータすなわち入力データが示す電力値が属する電力の範囲を求め、求めた電力の範囲ごとすなわち階級ごとに度数をカウントすることにより、電力値のヒストグラムを作成する。電力値のヒストグラムを作成する処理の詳細は後述する。モーメント計算部13は、電力値カウント部12により作成された電力値のヒストグラムを用いて高次モーメントの計算を行う。なお、本実施の形態では、3次以上のモーメントのことを高次モーメントとよぶ。本実施の形態では、3次以上のモーメントを計算する例を説明するが、テンプレートデータに合わせた複数の次数のモーメントを計算すればよいので、次数は3未満であってもよい。ヒストグラムを用いた高次モーメントの計算方法は後述する。
テンプレートデータ記憶部14には、あらかじめ算出された干渉波の特徴の種別ごとのモーメントがテンプレートデータとして記憶されている。ここでいうモーメントは確率分布の特性を示すために用いられる指標である。具体的には、n次モーメント平均値まわりのモーメントと呼ばれるものを標準偏差のn乗で割ったものである。したがって、3次モーメントはいわゆる歪度とよばれるものに相当し、4次モーメントは尖度とよばれるものに相当する。ただし、尖度は、下記式(1)においてn=4とした値から3を引いたものと定義される場合もある。電力値であるデータXに関するn次モーメントαnは、n次モーメントを求める対象となる確率分布の期待値μおよび標準偏差σを用いて以下の式(1)で表わされる。E(A)はAの期待値を示す。
本実施の形態では、分類対象となる電波環境の種別ごとに、種別に対応する干渉波の特徴を定義しておき、該特徴に対応する電力値の確率分布を仮定する。そして、確率分布に基づいて、上記の式(1)によりn=3からm次までのNM(NM=m−2)個の高次モーメントをあらかじめ求めておき、種別ごとにテンプレートデータとしてテンプレートデータ記憶部14に格納しておく。または、分類対象となる電波環境の種別ごとに、典型的な実際の電波環境で電力値を測定して、測定値の統計量を求めて、上記(1)により高次モーメントを算出してテンプレートデータを生成しておいてもよい。各テンプレートデータは、テンプレートデータを識別するための番号すなわちテンプレートデータ番号と対応付けてテンプレートデータ記憶部14に記憶される。なお、ここでは、3次以上のモーメントをテンプレートデータとして記憶するようにしたが、これに限らず1次以上のモーメントであればよい。テンプレートデータには、1次以上の複数の次数のモーメントが含まれていればよい。
相関値計算部15は、テンプレートごとに、モーメント計算部13により計算された高次モーメントとテンプレートデータ内の高次モーメントの相関値である相関係数を算出する。そして、相関値計算部15は、相関係数に基づいてテンプレートデータを選択する。例えば、相関値計算部15は、相関係数が最も高いテンプレートデータを選択する。なお、相関係数Rは、モーメント計算部13により計算された高次モーメントをβp(p=3,4,…,m)とし、モーメント計算部13により計算された高次モーメントの平均値をβ(バー)とし、テンプレートデータの高次モーメントをαp(p=3,4,…,m)とし、テンプレートデータの高次モーメントの平均値をα(バー)とすると、以下の式(2)により求めることができる。
次に、相関値計算部15は、モーメント計算部13により計算された高次モーメントの算出の基になったデータセットを識別する識別情報と、選択したテンプレートデータを識別するための識別番号とを対応付けて分類結果として分類結果記憶部16に格納する。最後に、分類結果出力部17は、分類結果記憶部16に格納された分類結果を出力する。データセットを識別する識別情報としては、例えば、データ取得部11が対応する電磁波を受信した時刻、データ取得部11がデータセットを出力した時刻等を用いることができる。なお、ここでは、分類結果を分類結果記憶部16に格納してから分類結果出力部17へ出力するようにしているが、分類結果記憶部16に格納せずに、相関値計算部15から直接分類結果出力部17へ出力してもよい。
次に、各部が実施する処理手順の一例を説明する。図5は、本実施の形態の電力値カウント部12が実施する階級数のカウント手順の一例を示すフローチャートである。なお、図5の処理の開始時には、入力されるデータセットを識別する変数iは1に初期化されている。図5に示すように、まず、データ取得部11からi番目の入力データすなわちi番目のデータセットが入力される(ステップS1)。なお、データ取得部11からデータセットが入力される方法は、データセットを構成する全デジタルデータをデータ取得部11が保持しておき、データセット単位でデータ取得部11が電力値カウント部12へ入力する方法でもよいし、データ取得部11がデジタルデータを順次電力値カウント部12へ入力し、データセットの個数Npとなった時点でi番目の入力データの入力完了と判断する方法でもよい。後者の場合は、Npをあらかじめ定めておき、電力値カウント部12へ設定しておく。
次に、電力値カウント部12は、入力データ内のデジタルデータすなわち電力値の個数Npに基づいて、スタージェスの公式、平方根選択、スコットの選択法などを用いて階級数NRと、階級ごとの電力値の範囲[Pk_min,Pk_max)とを算出する(ステップS2,S3)。Pk_minは、k番目の階級の電力値の範囲の最小値を示し、Pk_maxはk番目の階級の電力値の範囲の最大値を示し、[Pk_min,Pk_max)は、Pk_min以上Pk_max未満の範囲を示す。例えば、スタージェスの公式を用いる場合、階級数を示すrankを、以下の式(3)により求めることができる。以下の式(3)により求めたrankを四捨五入、切り捨てまたは繰り上げ等により整数にしたものを階級数とする。
階級数を決定した後、あらかじめ定められた電力値の最大値と最小値との差分を階級数で割ることにより、階級ごとの電力値の範囲の大きさすなわち幅を求めることができ、データセット内の最小値または最大値に基づいて、階級ごとの電力値の範囲を求めることができる。なお、上記の例では、スタージェスの公式を用いる例を説明したが、階級ごとの電力値の範囲を求める具体的手順は方式により異なる。例えば、スコットの選択法は階級の幅を算出する方法であるため、スコットの選択法を用いる場合には階級の幅を決定することにより階級数が決定される。スコットの選択法を用いる場合には、階級の幅を決定して、データセット内の最小値または最大値に基づいて、階級ごとの電力値の範囲を求めればよい。このように、階級ごとの電力値の範囲の具体的算出方法は、採用する方式に応じて適宜変更可能である。
次に、電力値カウント部12は、入力データ内の電力値の番号を示す変数jと、階級を示す変数kとをそれぞれ1に初期化し、階級kの度数を0に初期化する(ステップS4)。そして、電力値カウント部12は、入力データのうちj番目の電力値Pjが階級kの電力値の範囲[Pk_min,Pk_max)に含まれているかすなわちPj∈[Pk_min,Pk_max)であるかを判断する(ステップS5)。電力値Pjが階級kの電力値の範囲[Pk_min,Pk_max)に含まれていない場合(ステップS5 No)、電力値カウント部12は、kの値に1を加算すなわちk=k+1とし(ステップS6)、ステップS5へ戻る。
電力値Pjが階級kの電力値の範囲[Pk_min,Pk_max)に含まれている場合(ステップS5Yes)、電力値カウント部12は、階級kの度数に1を加算する(ステップS7)。次に、電力値カウント部12は、j=NPであるか否かを判断し(ステップS8)、j=NPでない場合(ステップS8 No)、jに1を加算し、kを1に初期化して(ステップS9)、ステップS5へ戻る。j=NPである場合(ステップS8 Yes)、電力値カウント部12は、iが入力データの個数、すなわちデータセットの個数であるNDに等しいか否かを判断し(ステップS10)、iがNDに等しくない場合(ステップ10 No)、iに1を加算し(ステップS11)、ステップS1へ戻る。iがNDに等しい場合(ステップS10 Yes)、処理を終了する。以上の処理により、電力値カウント部12は、データセットごとの度数分布すなわちヒストグラムを生成し、生成したヒストグラムを示すヒストグラム情報すなわち度数情報をモーメント計算部13へ入力する。具体的には、例えば、データセットごとの階級と対応する度数とが、データセットを示す識別情報とともにモーメント計算部13へ入力される。また、モーメント計算部13がヒストグラム情報を電力値カウント部12へ入力するタイミングは、NDのデータセットの計算が終わった後であってもよいし、データセットに対応するヒストグラムが完成するごとであってもよい。
図6は、本実施の形態のモーメント計算部13が実施する高次モーメント算出処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、図6の処理の開始時には、入力されるヒストグラム情報を識別する変数iは1に初期化されている。図6に示すように、まず、データ取得部11からi番目のヒストグラム情報すなわちi番目のデータセットに基づいて生成されたヒストグラム情報が入力される(ステップS12)。次に、モーメント計算部13は、階級を示す変数k、高次モーメントの次数を示すpをそれぞれ1に初期化する(ステップS13)。そして、モーメント計算部13は、階級kの度数を電力値の総数Npで割ることにより、度数を正規化した値Dkを求める(ステップS14)。次に、モーメント計算部13は、kが階級数NRに等しいか否かを判断する(ステップS15)。kがNRに等しくない場合(ステップS15 No)、kに1を加算し(ステップS16)、ステップS14へ戻る。
kがNRに等しい場合(ステップS15 Yes)、正規化された度数に基づいてp次モーメントを計算する(ステップS17)。p次モーメントの求め方は、上述した式(1)におけるnをpとした場合と同様であるが、ステップS17では、μ、σ、E(X−μ)pを上記処理で得られた正規化された度数に基づいて求めることになる。具体的には、例えば、階級kの代表値、例えば階級kをXkの値とすると、以下の式(4)、(5)によりμ、σを算出することができ、また、E(X−μ)pを式(6)により算出することができる。なお、式(4)−(6)におけるΣは、k=1からk=NRまでの和であり、sqrt(・)は、・の平方根を示す。
μ=ΣXkDk …(4)
σ=sqrt(Σ(XkDk−μ)2) …(5)
E(X−μ)p=(ΣXkDk−μ)p …(6)
次に、モーメント計算部13は、pが、計算する高次モーメントの最大次数mに等しいか否かを判断する(ステップS18)。pがmに等しくない場合(ステップS18 No)、pに1加算し(ステップS19)、ステップS17へ戻る。pがmに等しい場合(ステップS18 Yes)、iがNDに等しいか否かを判断する(ステップS20)。iがNDに等しくない場合(ステップ20 No)、iに1を加算し(ステップS21)、ステップS12へ戻る。iがNDに等しい場合(ステップS20 Yes)、処理を終了する。以上の処理により、各ヒストグラムに対応する高次モーメントが算出される。モーメント計算部13は、ヒストグラム情報ごとの高次モーメントを、ヒストグラム情報を識別する情報すなわちヒストグラム情報の生成の基になったデータセットを識別する情報とともに相関値計算部15へ入力する。
図7は、本実施の形態の相関値計算部15が実施する相関値計算処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、図7の処理の開始時には、入力されるヒストグラム情報を識別する番号を示すiとテンプレートデータを識別する変数であるqとは1に初期化されている。図7に示すように、まず、相関値計算部15は、モーメント計算部12に、i番目のデータセットに対応する高次モーメントの計算結果が入力される(ステップS23)。相関値計算部15は、テンプレートデータ記憶部14に格納されたq番目のテンプレートデータを読み出す(ステップS24)。次に、相関値計算部15は、i番目のデータセットに対応する高次モーメントの計算結果とq番目のテンプレートデータとの相関係数を上記の式(2)に従って計算する(ステップS25)。次に、相関値計算部15は、qが、テンプレートデータ記憶部14に格納されたテンプレートデータの数NTに等しいか否かを判断する(ステップS26)。qがNTに等しくない場合(ステップS26 No)、相関値計算部15は、qに1を加算し(ステップS27)、ステップS24に戻る。
qがNTに等しい場合(ステップS26 Yes)、相関値計算部15は、テンプレートデータごとに計算された相関係数に基づいて、i番目のデータセットに対応する高次モーメントの計算結果との間の相関係数の最も大きいすなわち相関の最も高いテンプレートデータを選択する(ステップS28)。そして、相関値計算部15は、選択したテンプレートデータに対応するテンプレートデータ番号とi番目のデータセットに対応するデータセットの識別情報とを分類結果記憶部16へ格納する(ステップS29)。そして、相関値計算部15は、iがNDに等しいか否かを判断する(ステップS30)。iがNDに等しくない場合(ステップ30 No)、iに1を加算し(ステップS31)、ステップS23へ戻る。iがNDに等しい場合(ステップS30 Yes)、処理を終了する。なお、データセットの識別情報とデータセットの番号iとの対応は、例えば、データ取得部11から相関値計算部15へ通知される。以上の処理により、データセットごとに対応するテンプレート番号を求めることができる。したがって、データセットごとに、干渉波の特徴を分類することができる。
次に、図8、9、10を用いて、干渉波の特徴の分類の例を説明する。なお、図8、9、10の例では、データ取得部11が複数の周波数の電磁波を受信可能であり、データ取得部11から周波数および時間ごとのデジタルデータが出力されることを前提としている。図8は、各テンプレートデータで仮定した干渉波の電力値のヒストグラムと、干渉波の電力分布の一例を示す図である。図8では、テンプレートデータ番号が各々a,b,cである3つのテンプレートデータをあらかじめ計算する例を示している。なお、テンプレートデータ番号がa,b,cのテンプレートデータを、各々テンプレートデータa,テンプレートデータb,テンプレートデータcと呼ぶ。
テンプレートデータaの算出の前提として仮定した電波環境すなわち干渉波の存在状態は、干渉波が少ない環境である。テンプレートデータbの算出の前提として仮定した電波環境すなわち干渉波の環境は、干渉波の占有時間および占有周波数は多くないが、まばらに干渉波が存在する環境である。テンプレートデータcの算出の前提として仮定した電波環境すなわち干渉波の状況は、干渉波の占有時間および占有周波数は多くないが、広帯域にわたり長い時間を占有する干渉波が存在する環境である。テンプレートデータa,b,cの算出の前提として仮定した電波環境の種別を各々環境a,b,cとよぶ。これら、テンプレートデータa,テンプレートデータb,テンプレートデータcの算出の前提として仮定した電波環境に対応する干渉波の分布を図8の下段に示し、下段の干渉波の分布を前提として得られる干渉波のヒストグラムを図8の上段に示している。各図の下には、対応するテンプレート名が記載されている。
図8に示すように、テンプレートデータaに対応するヒストグラムは、正規分布に近い形状になり、テンプレートデータbに対応するヒストグラムは、やや右すなわち電力値の高い側の度数が多くなる形状になり、テンプレートデータcに対応するヒストグラムは、双峰型の形状になる。これは、干渉波が占有する帯域幅または時間が多くなるに従い、低い電力値の度数が低くなり高い電力値の度数が高くなるためである。このように、存在する干渉波の状況によってヒストグラムの形状は異なる。このため、ヒストグラムの特徴を示す高次モーメントを用いることで、電波環境を分類することができる。具体的には、テンプレートデータの高次モーメントと、測定された電力値の高次モーメントとの相関係数が大きい場合、テンプレートデータの生成の際に仮定した干渉の電力分布に近い電波環境であると判断できる。
電波環境測定データの一例として、干渉波が少ない状態で測定されたデータセットの一例を図9に示す。図9の上段の左には、データセットが測定された際の干渉波の電力分布を示し、図9の上段の右には、このデータセットに基づいて電力値カウント部12が生成したヒストグラムを示す。また、干渉波の電力分布を、図9に示すように、データ取得部11が出力する周波数および時間のサンプリング間隔で離散化された行列と考える。この行列を、周波数を行とし時間を列とした、行数nr、列数ncの行列とすると、データセットを構成するデジタルデータすなわち電力値の数NPはnr×ncとなる。ここで、NPを70000とすると、上記式(3)で示したスタージェスの公式を用いると、rankは約16.09となる。このため、電力値カウント部12は、階級数を16に決定する。あらかじめ定めた電力値の最大値を−30dBとし、あらかじめ定めた電力値の最小値を−110dBとすると、−110dB〜−30dBの80dBを16で割って階級幅を求めることができる。この場合、階級幅5dBとなる。図9の下段には、図9の上段の右に示したヒストグラムに対応する階級ごとの度数を示している。
図8に示したテンプレートデータに対応する各ヒストグラムと、図9に示した電波環境測定データを用いて算出されたヒストグラムとを比較すると、図9に示した電波環境測定データを用いて算出されたヒストグラムは、テンプレートデータaに対応するヒストグラムに近いことがわかる。
図10は、テンプレートデータ、電波環境測定データを用いて算出された高次モーメント、およびこれらの相関係数の一例を示す図である。図10の左の上段には、テンプレートデータ番号ごとに、テンプレートデータとして記憶されている高次モーメントの一例を示している。ここでは、テンプレートデータとして3次から7次までのモーメントα3,α4−3,α5,α6,α7を用いている。また、図10の左の下段には、電波環境測定データのデータセットを示す名称と、各データセットを用いてモーメント計算部13により計算された高次モーメントβ3,β4−3,β5,β6,β7を示している。なお、図10では、4次のモーメントとして、いわゆる尖度であるα4−3,β4−3を用いているが、これに限らずα4,β4を用いてもよい。なお、ここでは図5、6、7のフローチャートにおいてデータセットを示す番号iに対応するデータの名称をデータセット#iとしている。したがって、例えば、i=1に対応するデータセットの名称はデータ#1である。データ#1は、図9に示したヒストグラムに対応するデータセットである。
図10の右図は、相関値計算部15により算出されたテンプレートデータa,b,cと各データセットに対応する高次モーメントとの相関係数を示している。図10の右図に示すように、データ#1に対応する高次モーメントと、テンプレートデータa,b,cの各々との相関係数は、各々0.94,0.26,0.42であり、テンプレートデータaとの相関係数が最も大きくなる。このため、相関値計算部15は、データ#1に対応するテンプレートデータとしてテンプレートデータaを選択する。この結果は、図8、9に示したように、図9のヒストグラムの形状がテンプレートデータaに対応するヒストグラムに近いことと一致する。したがって、データ#1に対応する電波環境は、テンプレートデータaが前提とした電波環境である環境a、すなわち干渉波が少ない環境に分類される。すなわち、相関値計算部15は、データ#1に対応する電波環境の種別は環境aであると判定する。
以上のように、本実施の形態の電波環境解析装置100は、干渉波の電力値のヒストグラムすなわち度数分布を求め、度数分布に基づいて高次モーメントを算出する。そして、電波環境解析装置100は、あらかじめ分類対象の電波環境ごとに計算された高次モーメントをテンプレートデータとして保持し、テンプレートデータと度数分布に基づいて算出された高次モーメントとの相関係数に基づいて、電波環境を分類するようにした。このため、電波環境を的確に分類することができる。この結果、分類結果を用いて無線通信方式を選択する際に、周波数を有効利用できる適切な無線通信方式を選択したり、電波環境に応じた耐干渉性機能を有する無線通信方式を選択したりすることができ、無線通信の通信性能を向上させることができる。
実施の形態2.
図11は、本発明の実施の形態2にかかる電波環境解析装置100aの機能構成例を示す図である。本実施の形態の電波環境解析装置100aの機能構成は、実施の形態1の電波環境解析装置100の相関値計算部15を、判定部である相関値計算部15aに替える以外は、実施の形態1の電波環境解析装置100と同様である。実施の形態1と同様の機能を有する構成要素は、実施の形態1と同一の符号を付して、重複する説明を省略する。以下、実施の形態1と異なる点を説明する。
本実施の形態の電波環境解析装置100aのハードウェア構成は、実施の形態1の電波環境解析装置100のハードウェア構成と同様である。相関値計算部15aは、相関値計算部15と同様に、図4に示したプロセッサ202が、メモリ203に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現される。
実施の形態1では、干渉波の電力値のヒストグラムの形状を示す高次モーメントを求め、テンプレートデータとの相関係数を計算して電波環境を分類した。本実施の形態では、複数のテンプレートデータとの間の相関係数がいずれも大きい場合、および全てのテンプレートデータとの間の相関係数が小さい場合の電波環境の分類方法について説明する。
本実施の形態の相関値計算部15aは、モーメント計算部13により計算された高次モーメントと、各テンプレートデータとの相関係数を計算し、全テンプレートに対して相関係数が第1のしきい値以下の場合、新たにテンプレートデータを作成する。また、相関値計算部15aは、相関係数が第2のしきい値以上となるテンプレートデータが複数ある場合には、これら複数のテンプレートデータに対応する環境の特徴を併せ持つ環境であると分類する。
次に、本実施の形態の動作について説明する。なお、実施の形態1と同様の動作については説明を省略する。以下に述べる動作以外の本実施の形態の動作は、実施の形態1と同様である。
相関値計算部15aは、モーメント計算部13から入力された高次モーメントとテンプレートデータとの相関係数を実施の形態1と同様に計算する。そして、相関値計算部15aは、全テンプレートデータとの相関係数が第1のしきい値以下の場合、モーメント計算部13から入力された高次モーメントにテンプレートデータ番号を付して、新たなテンプレートデータとしてテンプレートデータ記憶部14に格納する。また、相関値計算部15aは、テンプレートデータごとに計算した相関係数のうち第2のしきい値以上となるテンプレートデータを選択して、選択したテンプレートデータを分類結果記憶部16に格納する。なお、相関係数が第2のしきい値以上となるテンプレートデータが複数ある場合は、選択したテンプレートデータを分類結果記憶部16に格納する際に、複数のテンプレートデータと一致したことを示す情報を、分類結果記憶部16に格納する。
図12は、本実施の形態の相関値計算部15aが実施する相関係数算出処理手順の一例を示すフローチャートである。ステップS23〜ステップS27,ステップS29〜S31は実施の形態1と同様である。ステップS26で、qがNTに等しい場合(ステップS26 Yes)、相関値計算部15aは、各テンプレートデータの相関係数すなわちNT個の相関係数をそれぞれ第1のしきい値と比較し、全テンプレートデータデータの相関係数が第1のしきい値以下であるか否かを判断する(ステップS32)。全テンプレートデータデータの相関係数が第1のしきい値以下である場合(ステップS32 Yes)、相関値計算部15aは、モーメント計算部13から入力された高次モーメントを、テンプレートデータ番号を付して新たなテンプレートデータとしてテンプレートデータ記憶部14に格納し、NTを1増加させ(ステップS33)、ステップS30へ進む。一方、テンプレートデータの相関係数のうち第1のしきい値より大きいものが1つでもある場合(ステップS32 No)、相関値計算部15aは、各テンプレートデータの相関係数すなわちNT個の相関係数をそれぞれ第2のしきい値と比較し、相関係数が第2のしきい値以上のテンプレートデータが2つ以上存在するか判断する(ステップS34)。
相関係数が第2のしきい値以上のテンプレートデータが2つ以上存在する場合(ステップS34 Yes)、相関値計算部15aは、相関係数が第2のしきい値以上のテンプレートデータを選択し、選択したテンプレートデータに対応する全てのテンプレートデータ番号をデータセットの識別情報とともに分類結果記憶部16に格納し(ステップS35)、ステップS30へ進む。相関係数が第2のしきい値以上のテンプレートデータが存在しないまたは1つ存在する場合(ステップS34 No)、ステップS29へ進む。
次に、図13,14に示す電波環境測定データの例を用いて本実施の形態の動作を説明する。なお、テンプレートデータ記憶部14には図8に示したテンプレートデータa,b,cが格納されているとする。図13,14は、測定されたデータセットの一例示す図である。NPは、図13,14の例ともに図9の例と同様に70000であり、階級数は16であり、階級幅も図9の例と同様である。図13の上段の左には、データ#2のデータセットが測定された際の干渉波の電力分布を示し、図9の上段の右には、このデータセットに基づいて電力値カウント部12が生成したヒストグラムを示す。図13の下段には、図13の上段の右に示したヒストグラムに対応する階級ごとの度数を示している。また、干渉波の電力分布を、図9の例と同様に行数nr、列数ncの行列と考える。図13のヒストグラムを図8の各ヒストグラムと比較すると、図13のヒストグラムはテンプレートデータaおよびテンプレートデータbに近い形状であることがわかる。
また、図14の上段の左には、データ#3のデータセットが測定された際の干渉波の電力分布を示し、図14の上段の右には、このデータセットに基づいて電力値カウント部12が生成したヒストグラムを示す。図14の下段には、図14の上段の右に示したヒストグラムに対応する階級ごとの度数を示している。また、干渉波の電力分布を、図9の例と同様に行数nr、列数ncの行列と考える。図14のヒストグラムを図8の各ヒストグラムと比較すると、図14のヒストグラムはテンプレートデータa、テンプレートデータb、テンプレートデータcのいずれとも異なる形状であることがわかる。
図15は、テンプレートデータ、図13,14に示したデータ#2、データ#3の高次モーメント、およびこれらの相関係数を示す図である。ここで、図12のフローチャートのステップS34で用いる第2のしきい値を0.7とし、ステップS32で用いる第1のしきい値を0.2とする。なお、第1のしきい値および第2のしきい値の値はこれらに限定されない。ただし、第1のしきい値は第2のしきい値より小さい値とする。図15の右図は、各データセットのテンプレートデータごとの相関係数を示しており、データ#2では、テンプレートデータbと間の相関係数が0.72と最も大きい。しかしながら、テンプレートデータaとの相関値も0.71と大きく、データ#2は、相関係数が第2のしきい値以上となるテンプレートデータが2つ存在することとなる。この場合、データ#2は、テンプレートデータaとテンプレートデータbの両方に対応する環境の特徴を有する環境であると分類する。また、データ#3は、3つのテンプレートデータとの間の相関係数がいずれも第1のしきい値以下となり、3つのテンプレートデータとは異なる電波環境であると判断される。この場合は、データ#3に対応する高次モーメントを新たなテンプレートデータdとして登録する。
以上のように、本実施の形態の電波環境解析装置100aは、テンプレートデータ記憶部14に格納され全テンプレートデータとの間の相関が第1のしきい値以下の場合、算出した高次モーメントを新たにテンプレートデータとしてテンプレートデータ記憶部14に格納する。また、相関係数が第2のしきい値以上となるテンプレートデータが複数存在する場合は、該当するテンプレートデータに対応する特徴を併せ持つ電波環境と判断する。これにより、より精度よく電波環境を分類することができる。なお、本実施の形態では、テンプレートデータ記憶部14に格納され全テンプレートデータとの間の相関が第1のしきい値以下の場合、算出した高次モーメントを新たにテンプレートデータとしてテンプレートデータ記憶部14に格納する第1の処理と、相関係数が第2のしきい値以上となるテンプレートデータが複数存在する場合は、該当するテンプレートデータに対応する特徴を併せ持つ電波環境と判断する第2の処理との両方を実施する例を説明したがいずれか一方を実施するようにしてもよい。
また、実施の形態の電波環境解析装置も実施の形態1の電波環境解析装置と同様に通信装置に搭載されてもよい。この場合の通信装置の構成は、実施の形態1の電波環境解析装置を本実施の形態の電波環境解析装置に替える以外は、実施の形態1の通信装置と同様である。
実施の形態3.
図16は、本発明の実施の形態3にかかる電波環境解析装置100bの機能構成例を示す図である。本実施の形態の電波環境解析装置100bの機能構成は、実施の形態1の電波環境解析装置100の相関値計算部15を相関値計算部15bに替え、分類結果記憶部16を分類結果記憶部16aに替え、さらに相関解析部18を追加する以外は、実施の形態1の電波環境解析装置100と同様である。実施の形態1と同様の機能を有する構成要素は、実施の形態1と同一の符号を付して、重複する説明を省略する。以下、実施の形態1または実施の形態2と異なる点を説明する。
本実施の形態の電波環境解析装置100bのハードウェア構成は、実施の形態1の電波環境解析装置100のハードウェア構成と同様である。相関値計算部15bは、相関値計算部15と同様に、図4に示したプロセッサ202が、メモリ203に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現される。相関解析部18は、同様に、図4に示したプロセッサ202が、メモリ203に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現される。分類結果記憶部16aは、図3のメモリ203の一部である。
実施の形態2では、いずれのテンプレートデータと相関の低い場合は、新たにテンプレートデータを作成するようにしたものであるが、本実施の形態の電波環境解析装置100bは、データセット間の相関係数を用いて電波環境を分類する。これにより、使用する周波数帯の干渉が既知でない場合などでも、適切に電波環境を分類できる。なお、データセットにより生成された高次モーメントとデータセットにより生成された高次モーメントとの間の相関係数を、適宜データセット間の相関係数と略して記載する。
相関値計算部15bは、モーメント計算部13で算出した、データセットごとの高次モーメントの計算結果を元にデータセット間の相関係数を計算する。なお、データセットの個数をNDとすると、相関係数を計算するデータセットの組み合わせはNDC2個存在する。なお、NDC2における下付きのNDはNDと同一である。また、相関値計算部15bは、実施の形態1の相関値計算部15が実施する処理または実施の形態2の相関値計算部15aの実施する処理により、テンプレートデータを用いて分類をすることもできる。
相関解析部18は、相関値計算部15bにより計算された相関係数に基づいて、相関係数が第1のしきい値より大きいデータセット同士が同一のグループとなるようにデータセットをグループ分けし、生成済のグループの代表データとの相関係数が第1のしきい値以下のデータセットがある場合には、新たなグループを生成する。そして、最後に各グループから選択したデータセットの高次モーメントをテンプレートデータとする。
本実施の形態では、相関値計算部15bと相関解析部18とが、モーメント計算部13により計算された複数の次数のモーメントに基づいてデータ群に対応する電波環境の種別を判定する判定部を構成する。
分類結果記憶部16aは、相関解析部18によりグループ分けされた結果を記憶する。また、相関値計算部15bが、実施の形態1の相関値計算部15が実施する処理または実施の形態2の相関値計算部15aの実施する処理を実施する場合には、実施の形態1と同様の分類結果を記憶する。
図17は、本実施の形態の相関値計算部15bが実施するデータセット間の相関係数算出処理手順の一例を示すフローチャートである。データセット間の相関係数算出処理と後述の相関分析部18の処理とは、テンプレートデータがテンプレートデータ記憶部14に格納されていない場合、またはテンプレートデータ記憶部14に格納されているテンプレートデータとは異なる環境であると推定される場合等に実施される。
図17に示すように、相関値計算部15bは、データセットを識別する変数であるiを1に初期化し、i番目のデータセットとの相関係数を計算する対象となるデータセットを識別する変数であるzをz=1に初期化する(ステップS36)。そして、相関値計算部15bは、i番目のデータセットの高次モーメントと、z番目のデータセットの高次モーメントとの相関係数を計算する(ステップS37)。相関値計算部15bは、計算した相関係数を、i,zと対応付けて保持する。次に、相関値計算部15bは、zがNDに等しいか否かを判断する(ステップS38)。zがNDに等しくない場合(ステップS38 No)、相関値計算部15bは、zを1増加させ(ステップS39)、ステップS37へ戻る。zがNDに等しい場合(ステップS38 No)、相関値計算部15bは、iがNDに等しいか否かを判断する(ステップS40)。iがNDに等しくない場合(ステップS40 No)、i=i+1,z=i+1とし(ステップS41)、ステップS37へ戻る。iがNDに等しい場合(ステップS40 Yes)、処理を終了する。相関値計算部15bは、以上の処理により算出されたデータセット間の相関係数を相関解析部18へ入力する。
なお、例えば、i=2,z=3の相関係数と、i=3,z=2の相関係数は同じである。したがって、同じ相関係数となるものを計算しなくてよいように、ステップS41では、z=i+1としている。
図18は、相関解析部18が実施するテンプレートデータ生成処理手順の一例を示すフローチャートである。図18の処理の開始時点では、生成済みのグループ数NVは1に初期化されている。相関解析部18は、データセットを識別する変数であるiを1に初期化し、グループの番号を示す変数であるgを1に初期化し、g番目のグループの代表データのデータセットを示す変数rg[g]を1に初期化し、グループの数を示す変数ngを1に初期化する(ステップS42)。
次に、相関解析部18は、i=1であるか否かを判断する(ステップS43)。i=1である場合(ステップS43 Yes)、相関解析部18は、rg[g]をiとする(ステップS44)。そして、相関解析部18は、i番目のデータセットをg番目のグループに分類し(ステップS45)、ステップS50へ進む。
i=1でない場合(ステップS43 No)、i番目のデータセットとg番目のグループの代表データであるrg[g]番目のデータセットとの間の相関係数は第1のしきい値以下であるか否かを判断する(ステップS46)。i番目のデータセットとg番目のグループの代表データであるrg[g]番目のデータセットとの間の相関係数が第1のしきい値以下でない場合(ステップS46 No)、ステップS45へ進む。
i番目のデータセットとg番目のグループの代表データであるrg[g]番目のデータセットとの間の相関係数が第1のしきい値以下である場合(ステップS46 Yes)、相関解析部18は、g=ngであるか否かを判断する(ステップS47)。g=ngでない場合(ステップS47 No)、相関解析部18は、gを1増加させ(ステップS48)、ステップS46へ戻る。
g=ngである場合(ステップS47 Yes)、相関解析部18は、i番目のデータセットをg+1番目のグループに分類し、rg[g+1]=i,ng=ng+1とする(ステップS49)。次に、相関解析部18は、i=NDであるか否かを判断する(ステップS50)。なお、NDは実施の形態1、実施の形態2と同様に、データセットの数である。
i=NDでない場合(ステップS50 No)、iを1増加させ(ステップS51)、ステップS46へ戻る。i=NDである場合(ステップS50 Yes)、相関解析部18は、グループごとにグループに属するデータセットからテンプレートデータとするデータセットを選択し(ステップS52)、処理を終了する。ステップS52で、グループごとにグループに属するデータセットからテンプレートデータとするデータセットを選択する際には、例えば、グループに属するデータセットのうちからランダムな番号のデータセットを選択する。
相関解析部18は、上記のステップS52で選択されたデータセットに対応する高次モーメントをテンプレートデータとしてテンプレートデータ記憶部14に格納する。なお、各データセットに対応する高次モーメントは、相関解析部18に入力されない。このため、例えば、相関解析部18の計算が終了するまで相関値計算部15bが各データセットに対応する高次モーメントを保持しているとし、選択したデータセットに対応する高次モーメントを相関値計算部15bから取得する。
以上の処理により、各データセットがグループ分けされ、また、グループに対応するテンプレートデータを生成することができる。本実施の形態のグループは、電波環境すなわち干渉波の特徴の種別に応じたグループとなっているため、グループ分けすることにより、電波環境の種別に応じてデータセットを分類していることになる。相関解析部18は、グループを示す番号とデータセットを示す識別情報を分類結果記憶部16aに格納する。なお、グループを示す番号とデータセットを示す識別情報を分類結果記憶部16aに格納せずに、そのまま分類結果出力部17へ出力してもよい。
また、テンプレートデータがテンプレートデータ記憶部14に格納された後は、実施の形態1または実施の形態2と同様に、テンプレートデータを用いた分類処理を実施することができる。なお、テンプレートデータを用いた処理を実施せずに、上述したデータセット間の相関係数によるグループ分けを実施する場合には、電波環境解析装置100bは、テンプレートデータ記憶部14を備えなくてよく、また、図18の処理のステップS52を実施しなくてよい。
次に、図19を用いてデータセットのグループ分けの一例を説明する。図19は、相関値計算部15bが算出したデータセット間の相関係数の一例とグループ分けの一例を示す図である。図19の上段の図は、相関値計算部15bが算出したデータセット間の相関係数の一例を示している。なお、上述のように、図17において、iとzの値が入れ替わったもの、すなわちi=2,z=3の相関係数と、i=3,z=2の相関係数との両方は計算していないが、一方の計算結果を複製して他方の相関係数とすることで図19の上段の図を得ることができる。図19の上段の図では、データセットの番号を示すデータセット番号を横方向と縦方向に記載し、横方向のデータ番号が同一となる列と縦方向のデータ番号が同一となる行とが交わる部分に、対応する相関係数を示している。例えば、横方向のデータ番号#1の列と、縦方向のデータ番号#1の行の交わる部分すなわち図19の左上端は、データ番号#1のデータセットであるデータ#1を用いて計算された高次モーメントとデータ番号#1のデータセットであるデータ#1を用いて計算された高次モーメントとの相関係数すなわち自己相関係数である。同様に、横方向のデータ番号#1の列と、縦方向のデータ番号#2の行の交わる部分は、データ番号#1のデータセットであるデータ#1を用いて計算された高次モーメントとデータ番号#2のデータセットであるデータ#2を用いて計算された高次モーメントとの相関係数である。
図19の下段の左側の図は、上段の相関係数を用いてグループ分けした結果を示している。なお、ここでは、第1のしきい値は0.2であるとする。まず、図18のステップS44、ステップS45により、1番目のグループであるグループaにデータ#1が分類されるとともに、グループaの代表データがデータ#1に設定される。その後、データ#2〜データ#10までは、グループ#1との相関係数が0.2より大きいため、ステップS46でNoの進む処理により、グループaに分類される。一方、グループ#11とグループ#1との間の相関係数は、0.02であり0.2以下である。このため、グループ#11は、ステップS46でYesに進んだ処理により、2番目の新たなグループであるグループbに分類される。そして、グループbの代表データはデータ#11に設定される。
データ#12は、データ#1との相関係数は0.2以下でありデータ#2との相関係数は0.2より大きかったとする。このため、データ#12はグループbに分類される。データ#13は、データ#1との相関係数は0.2以下でありデータ#2との相関係数も0.2以下であったとする。このため、3番目の新たなグループであるグループcに分類される。このような処理が繰り返され、ND個のデータセットが各グループに分類される。そして、図19の下段の右側の図に示すように、グループごとに、テンプレートデータとするデータセットが選択される。図19の例では、グループaからはデータ#6が選択され、グループbからはデータ#15が選択され、グループcからはデータ#30が選択された例を示している。したがって、テンプレートデータaとしてデータ#6の高次モーメントがテンプレートデータ記憶部14に格納され、テンプレートデータbとしてデータ#15の高次モーメントがテンプレートデータ記憶部14に格納され、テンプレートデータcとしてデータ#30の高次モーメントがテンプレートデータ記憶部14に格納される。
以上のように、本実施の形態の電波環境解析装置は、データセット間の相関係数に基づいて、データセットを電波環境の特徴に応じて分類するようにした。このため、テンプレートデータが生成されていない場合にもデータセットを電波環境の特徴に応じて分類することができる。このため、干渉波の特徴が既知でない場合でも、データセットを電波環境の特徴に応じて分類することができる。また、上記の分類結果に基づいてテンプレートデータを作成することができる。
したがって、例えば、電波環境解析装置が電波を受信可能な範囲で、通信方式が既知である通信装置により時間帯ごとに異なる通信方式で送信を行う。この通信装置は、本実施の形態の電波環境解析装置を備えた通信装置であってもよいし、電波環境解析装置を備えていない通信装置であってもよい。例えば、時間帯T1では第1の通信方式で送信を行い、時間帯T2では送信を行わず、時間帯T3では第2の通信方式で送信を行う。そして、本実施の形態の電波環境解析装置は、この通信装置から送信された電波を受信して、上述したように、データセットを電波環境の特徴に応じて分類する。上記の通信装置が通信方式ごとに送信した時間帯と分類結果により識別されたデータセットを識別する情報すなわちデータセットに対応する受信時刻等とに基づいてデータセットがどの通信方式に対応するものであるかまたは通信を行っていない時間帯のものであるかを把握できる。これにより、時間帯T1内の時刻に対応するデータセットにより生成されたテンプレートデータは、第1の通信方式の通信が行われている環境であることがわかり、時間帯T2内の時刻に対応するデータセットにより生成されたテンプレートデータは干渉波がほとんどない環境であることがわかり、時間帯T3内の時刻に対応するデータセットにより生成されたテンプレートデータは、第2の通信方式の通信が行われている環境であることがわかる。以上の結果を用いて実施の形態1と同様に、電波環境とテンプレートを対応付けることができるため、以降は実施の形態1または実施の形態2と同様に電波環境を分類することができる。
また、本実施の形態で述べたテンプレートの作成処理は、本実施の形態の電波環境解析装置による電波環境の分類結果を用いる通信装置の運用前に実施することができる。また、本実施の形態の電波環境解析装置による電波環境の分類結果を用いる通信装置の運用後に、再度、本実施の形態で述べたテンプレートの作成処理を行ってテンプレートデータを更新してもよい。また、実施の形態の電波環境解析装置も実施の形態1の電波環境解析装置と同様に通信装置に搭載されてもよい。この場合の通信装置の構成は、実施の形態1の電波環境解析装置を本実施の形態の電波環境解析装置に替える以外は、実施の形態1の通信装置と同様である。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。