以下、本発明の実施形態における魚の品質状態判定装置の具体的な構成例について、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する場合がある。また、以下の具体的な説明は、本発明における魚の品質状態判定装置の特徴を例示しているに過ぎない。例えば、上記魚の品質状態判定装置を特定した用語と同じ用語または相当する用語に適宜の参照符号を付して以下の具体例を説明する場合、当該具体的な構成要素は、これに対応する上記魚の品質状態判定装置の構成要素の一例である。したがって、上記魚の品質状態判定装置の特徴は、以下の具体的な説明によって限定されない。
図1に示すように、魚の品質状態判定装置1は、装置本体2と、装置本体2の外部に露出した電極部3を含むインピーダンス測定部6と、装置本体2の表面に設けられた表示部4および入力部5とを備えている。
装置本体2は、片手で持ち運びできる程度の大きさであり、図2に示すように、内部には後述するインピーダンス測定部6、演算部7、記憶部8、通信部9などが収納されている。また、装置本体2内部には電源部10が設けられる。電源部10の電源には電池を装置本体2の内部に収容することとしてもよいし、外部の電源から電力コードを介して電力を導入することとしてもよい。
電極部3は、装置本体2の下面から下方へ延出した少なくとも1つの陽極側電極と少なくとも1つの陰極側電極とを備えている。本実施形態においては、電極部3は、2つの陽極側電極として、陽極側電流極3ipおよび陽極側電圧極3vpを備え、2つの陰極側電極として陰極側電圧極3vnおよび陰極側電流極3inを備えている。当該電極部3を魚の表面に接触させることにより、魚のインピーダンスの測定を行う。
表示部4には、魚種などの各種設定を確認したり設定入力を行ったりするための設定入力画面やインピーダンス測定の結果演算された魚の品質を示す品質指標の値を出力する品質確認画面などが表示される。表示部4は、例えば液晶表示パネル、バックライトなどを備えている。なお、液晶表示パネルを有する表示部4の代わりに、点灯するランプの数や位置によって品質指標の程度を表す複数のランプ表示により表示部を構成することとしてもよい。
入力部5は、電源のオンオフの切り替えを行う電源ボタン51、インピーダンス測定を開始するための測定開始ボタン52および魚種を選択するための魚種選択ボタン53を備えている。
演算部7は、マイクロコントローラなどのCPUを含み、各種の演算を行い、各回路への命令信号を出力するように構成される。演算部7の演算結果は、EEPROMなどにより構成される記憶部8に記憶されるとともに、表示部4に表示される。また、演算部7は、通信部9を介して外部の機器(パーソナルコンピュータやサーバ装置など)に演算結果を送信することも可能である。通信部9は、無線通信機能を有していてもよいし、USB接続などの有線による通信機能を有していてもよい。
インピーダンス測定部6は、電極部3に接触した魚のインピーダンスを測定するように構成されている。具体的には、インピーダンス測定部6は、所定の周波数および所定の定電流値を有する定電流信号を出力する定電流回路11を備えている。インピーダンス測定部6は、演算部7からのトリガ信号に基づいて定電流信号の基準となり、所定の周波数を有する正弦波形を有する信号を生成する正弦波形生成回路12を備えている。定電流回路11には、演算部7から設定された定電流値を示す電流値信号が入力され、定電流回路11は、正弦波形生成回路12から出力された正弦波形信号の有する周波数でかつ演算部7で設定された定電流値となるような定電流信号を電流極3ip,3in間に流すように構成されている。
定電流回路11は、フィードバック抵抗が魚のインピーダンスRfおよび電流極3ip,3inの接触抵抗の合計値となる反転増幅回路として構成される。すなわち、定電流回路11は、正弦波形生成回路12の出力が一端に入力される可変抵抗素子17と、可変抵抗素子17の他端と反転入力端子とが接続されるオペアンプ18とを備えている。オペアンプ18の非反転入力端子は、接地電圧となっている。オペアンプ18の出力端子は、陽極側電流極3ipに接続されている。また、オペアンプ18の反転入力端子には、陰極側電流極3inも接続されている。定電流回路11は、正弦波形生成回路12から出力され、所定の周波数で可変抵抗素子17に入力される電圧Vinに基づいて、可変抵抗素子17を流れる電流Iinとオペアンプ18の出力電流Ioutが等しくなるようにオペアンプ18の出力電圧Voutを調整する。したがって、測定インピーダンス値が大きいほど(魚のインピーダンスが大きいほど)出力電圧Voutが大きくなる。
このようにして、定電流回路11から出力された所定の周波数を有する定電流は、電流極3ip,3inを介して魚に流れる。こうして魚に流れる定電流によって魚に印加される電圧を検出することで、魚のインピーダンスを測定することができる。
インピーダンス測定部6は、当該定電流信号に基づいて当該魚に印加される電圧として電圧極3vp,3vn間の電圧を検出する電圧検出回路13を備えている。電圧検出回路13は、陽極側電圧極3vpと陰極側電圧極3vnとの間に印加される電圧の差を、直流電圧に変換するAC/DC変換部19と、AC/DC変換部19の出力を、設定されたゲインに基づいて増幅するためのゲイン設定回路31と、ゲイン設定回路31の出力電圧をΔΣ変調によりデジタル化するA/D変換器20とを備えている。ゲイン設定回路31のゲインは、演算部7からの制御信号に基づいて設定可能に構成されている。本実施形態においては、上記のように電圧極3vp,3vn間の電圧の差を求めているが、電圧極3vp,3vn間の電圧の比を求めることとしてもよい。
図3に示すように、本実施形態におけるAC/DC変換部19は、電圧極3vp,3vn間の差分電圧を出力する差動増幅器32と、差動増幅器32の出力を整流する整流回路33と、整流回路33の出力電圧を平滑化する平滑回路34と、を備える。平滑回路34の出力電圧は、AC/DC変換部19の出力電圧Vdとなり、ゲート設定回路31に入力される。
さらに、インピーダンス測定部6は、陽極側電圧極3vpと陰極側電圧極3vnとの間に、抵抗値が既知である複数の基準抵抗のそれぞれを接続可能な基準抵抗回路35を備えている。さらに、インピーダンス測定部6は、電極部3に魚を接触させた際に、定電流回路11および電圧検出回路13に接続する抵抗を、電圧極3vp,3vn間のインピーダンスRfと基準抵抗回路35における基準抵抗との間で切り替えるためのスイッチ回路36を備えている。スイッチ回路36における切り替えは、演算部7からの制御信号に基づいて行われる。
このようにして電圧検出回路13で検出され、デジタル化された検出電圧は、演算部7に入力される。演算部7は、設定された定電流値と検出電圧とから魚のインピーダンスを算出する。この際、演算部7は、検出電圧と、電極間に基準抵抗回路35の複数の基準抵抗をそれぞれ接続した際に得られる複数の基準電圧とを相関することにより魚のインピーダンスを算出する。例えば、基準抵抗回路35は、未冷凍魚のための複数の基準抵抗(第1の基準抵抗群)として、30Ω、200Ω、900Ωの3つの基準抵抗を有している。このような複数の基準抵抗およびこれらを電極間に接続した場合の電圧に基づいて、検出電圧に対するインピーダンスの相関関係を決定している。なお、直線性を有する相関関係を得るために、基準抵抗回路35は、第1の基準抵抗群として例えば3つ以上の基準抵抗を備える。
魚のインピーダンス測定に際し、インピーダンス測定部6は、陽極側電圧極3vpと陰極側電圧極3vnとの間に魚を接続した際に、定電流回路11から陽極側電流極3ipと陰極側電流極3inとの間に所定の周波数および所定の定電流値を有する第1の定電流を流すことにより、第1の定電流に応じて陽極側電圧極3vpおよび陰極側電圧極3vnとの間に印加される第1電圧を検出し、定電流回路11から陽極側電流極3ipおよび陰極側電流極3inとの間に第1の定電流と同じ定電流値で第1の定電流より低い周波数を有する第2の定電流を流すことにより、第2の定電流に応じて電圧極3vp,3vn間に印加される第2電圧を検出するよう構成されている。
具体的には、電圧検出回路13のAC/DC変換部19の出力が第1電圧または第2電圧となる。第1電圧および第2電圧は、それぞれ、ゲイン設定回路31において設定されたゲインで増幅される。そして、演算部7は、ゲイン設定回路31によって増幅された第1電圧から第1のインピーダンスを算出し、ゲイン設定回路31によって増幅された第2電圧から第2のインピーダンスを算出するよう構成されている。さらに、演算部7は、第1のインピーダンスおよび第2のインピーダンスうちの少なくとも1つを用いて品質指標の値を演算するよう構成されている。
ここで、例えば、魚の品質指標には、鮮度を示すK値、魚身の脂肪量や脂肪率、冷凍履歴および身やけなどの肉質の軟化が含まれる。
演算部7は、第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差または比が所定の値以下の場合に、ゲイン設定回路31のゲインをより大きい値にするように再設定するよう構成される。さらに、演算部7は、再設定されたゲインを用いて第1のインピーダンスおよび第2のインピーダンスを再度算出し、再度算出された第1のインピーダンスおよび第2のインピーダンスのうちの少なくとも1つを用いて品質指標の値を演算するよう構成される。
第1の定電流および第2の定電流のうち周波数のより低い第2の定電流は、主に魚の細胞の外(表面)を流れ、周波数のより高い第1の定電流は、魚の細胞内にも流れる。ここで、一旦冷凍をした後に解凍した解凍魚では、冷凍により魚の細胞膜が破壊され、細胞膜中の水分と脂肪分とが分離する。この結果、解凍魚では、このインピーダンスの差または比が冷凍をしたことのない未冷凍魚に比べて小さくなる。
そこで、本実施形態の魚の状態判定装置1は、ひとまず未冷凍魚の品質状態を計測するためにある程度広いインピーダンスの計測範囲が確保できるような分解能としておき、当該分解能での計測が困難である場合に、分解能をより高くする構成を備えている。すなわち、上記構成においては、陽極側電圧極3vpと陰極側電圧極3vnとの間に印加される電圧の差または比を、設定されたゲインに基づいて増幅するためのゲイン設定回路31が設けられ、インピーダンスの差または比が所定の値以下である場合、ゲイン設定回路31のゲインを大きくすることにより、インピーダンスの差または比が小さい範囲において分解能を高くした状態で再度インピーダンスが演算される。
このように、インピーダンスの差または比が所定の値以下である場合には、インピーダンスを測定するために電圧極3vp,3vn間に接触させている魚を解凍魚であるとみなして、高い分解能でインピーダンスを演算することにより、解凍魚であっても高精度な品質指標を得ることができる。したがって、未冷凍魚であるか解凍魚であるかに拘わらず魚の品質指標を簡単かつ高精度に推定することができる。
例えば第2インピーダンスから第1インピーダンスを差し引いた値が5Ω以下の場合にゲイン設定回路31のゲインを大きくする変更を行う。または、例えば第1インピーダンスに対する第2インピーダンスの比が1.1以下の場合にゲイン設定回路31のゲインを大きくする変更を行う。また、ゲイン設定回路31において、未冷凍魚用の第1ゲインは、算出されるインピーダンスが整数位までの分解能となるように設定され、解凍魚用の第2ゲインは、算出されるインピーダンスが小数第2位までの分解能となるように設定される。なお、ゲイン設定回路31のゲインを変更するためのしきい値(第1インピーダンスと第2インピーダンスとの差)および各ゲインの値は、魚種に応じて複数設定可能に構成される。魚種選択ボタン53を押下操作することにより、各値の設定変更が可能である。
なお、演算部7は、ゲイン設定回路31のゲインを変更する条件として、第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差または比が所定の値以下の場合だけでなく、第1のインピーダンスが第1のしきい値以下または第2のインピーダンスが第2のしきい値以下であることを条件に含めてもよい。
図4に示すように、本実施形態におけるゲイン設定回路31は、非反転入力端子にオフセット電圧調整抵抗VR1によって調整されたオフセット電圧が印加され、反転入力端子とAC/DC変換部19の出力とが抵抗R13を介して接続されるオペアンプ41を備えている。オフセット電圧調整抵抗VR1は、可変抵抗で構成され、その抵抗値を変更することにより、電源電圧Vccとグランドとの間の所定の電位がオフセット電圧として抽出される。オペアンプ41の非反転入力端子と出力端子との間にはフィードバック抵抗VR2が設けられる。フィードバック抵抗VR2は、可変抵抗で構成され、その抵抗値を変更することにより、ゲイン設定回路31における増幅率を変化させることができる。このように、ゲイン設定回路31は、オフセット電圧を調整可能な反転増幅回路として構成される。
上述したように、演算部7において、演算されたインピーダンスの差または比が所定の値以下であると判定された場合、演算部7は、オフセット電圧調整抵抗VR1およびフィードバック抵抗VR2を変更することによりゲインを未冷凍魚用の第1ゲインから大きくして解凍魚用の第2ゲインに変更する。なお、オフセット電圧調整抵抗VR1およびフィードバック抵抗VR2は、電子ボリュームによりその抵抗値を変更することができるように構成される。これにより、演算部7からの制御信号に基づいて容易にゲインを変更することができる。以上のように、ゲイン設定回路31は、AC/DC変換部19の出力電圧(第1電圧および第2電圧)Vdを設定されたゲインで増幅し、増幅後の電圧Vgを出力する。
ゲイン設定回路31のゲインの変更に合わせて、インピーダンスを算出する際に用いる基準抵抗回路35の複数の基準抵抗の抵抗値の範囲も変更される。基準抵抗回路35は、例えば前述した第1の基準抵抗群(30Ω、200Ω、900Ω)と、第2の基準抵抗群(30Ω、50Ω、70Ω)とを含む。第1の基準抵抗群において、複数の基準抵抗の各抵抗値のうち最大値と最小値との差である第1の値は、870Ωとなる。一方、第2の基準抵抗群において、複数の基準抵抗の各抵抗値のうち最大値と最小値との差である第2の値は、40Ωとなり、第1の値に比べ小さい値となる。
さらに、差動増幅器32の増幅率は、第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差または比が所定の値以下の場合に、より大きい値に変更可能に構成される。図3の例において、差動増幅器32は、一定の増幅率を有する差動増幅回路32aと、当該差動増幅回路32aの出力を反転増幅する反転増幅回路32bとを有し、反転増幅回路32bのフィードバック抵抗VR3を可変とするように構成される。反転増幅回路32bは、オペアンプ43と反転入力端子および出力端子間に接続されたフィードバック抵抗VR3と、反転入力端子に接続され、差動増幅回路32aの出力が入力される抵抗R5と、批判店入力端子に接続されるオフセット抵抗R6とを備える。
差動増幅回路32a自身の増幅率を変更する構成としてもよいが、そのためには、差動増幅回路32aを構成する複数の抵抗R1〜R4を変更する構成が必要となり、現実的ではない。そのため、差動増幅回路32aを構成するオペアンプ42の出力端子に反転増幅回路32bを接続した上で、当該反転増幅回路32bのフィードバック抵抗VR3を可変とする構成としている。これによれば、反転増幅回路32bのフィードバック抵抗VR3のみを可変とすることにより、差動増幅器32全体の出力として増幅率を安定的に変更することができる。
上記のように、ゲイン設定回路31におけるゲインの変更に合わせて、基準抵抗回路35の基準抵抗の抵抗値範囲が変更され、差増増幅器32の増幅率も変更される。すなわち、電圧極3vp,3vn間に魚を接触させたときに計測された第1電圧および第2電圧と相関するために用いられる基準抵抗回路35における複数の基準抵抗の範囲が、未冷凍魚を計測する場合には広くなり(870Ω)、解凍魚を計測する場合には狭くなる(40Ω)。したがって、未冷凍魚の計測時にはインピーダンスの計測範囲を広くする一方、解凍魚の計測時にはインピーダンスの計測範囲を狭くして分解能を上げることができる。このため、未冷凍魚および解凍魚の何れの場合についても品質指標の値を高精度に演算することを簡単な構成で実現することができる。
なお、整流回路33は、オペアンプ44、コンデンサ45、ダイオード46,47、抵抗R7〜R9を有する半波整流回路として構成される。これにより、整流回路33は、正弦波形を有する定電流に応じた正弦波形を有する検出電圧を半波整流する。また、平滑回路34は、オペアンプ49、コンデンサ48、抵抗R10〜R12を有するローパスフィルタとして構成される。これにより、平滑回路34は、半波整流された検出電圧を直流化する。
演算部7は、品質指標として脂肪量または脂肪率を算出する。この場合、演算部7は、単純に第1のインピーダンスと別途入力部5から入力される魚の重量から魚の脂肪量または脂肪率を算出することとしてもよい。ただし、以下の理由から第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとを用いて脂肪量についての品質指標を求めることとしてもよい。
すなわち、多くの魚類において、肝臓には主に脂質が蓄えられ、筋肉繊維には主にタンパク質が蓄えられる特徴を有している。栄養状態が悪くなると、まず脂質が消費され、その後にタンパク質が消費されるため、見た目以上に栄養状態が悪いことがある。そこで、魚の脂質を把握することにより、魚の栄養状態を適切に把握することができる。ここで、魚類の脂質の蓄積には血液で運ばれる血清リポタンパク質が関与するため、細胞内外で血流量が変わると脂質の蓄積にも差異が生じる可能性がある。また、脂質の蓄積量は、体水分量と相関があることが知られており、体液の量の細胞内外の差が大きい場合、1つの周波数を用いたインピーダンス測定では高精度な脂肪量を算出することができない場合がある。
そこで、このような場合は特に、演算部7は、第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとを用いて脂肪量に関する品質指標の値を演算する。具体的には、例えば第1のインピーダンスと第2のインピーダンスの差または比を品質指標として演算してもよいし、各インピーダンスからそれぞれ脂肪量を演算した上で、脂肪量の差または比を品質指標として演算してもよい。また、例えば第1のインピーダンスおよび第2のインピーダンスをそれぞれ独立変数として用いた重回帰分析による品質指標の値を演算してもよい。
また、前述したように、測定対象の表面に電極を接触させ、魚に所定の定電流を流す際、周波数のより低い第2の定電流は、主に魚の細胞の外(表面)を流れ、周波数のより高い第1の定電流は、魚の細胞内にも流れる。新鮮な魚の細胞内においては魚の表面に比べてインピーダンスが低く、インピーダンスの差または比が大きいが、魚の品質状態が悪化してくると、自己消化によるタンパク質の変成が起き、細胞が破壊されるため、魚の細胞外におけるインピーダンスの値は魚の細胞内におけるインピーダンスに近づいて(小さくなって)いき、インピーダンスの差または比が小さくなる。
このため、演算部7は、例えば第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差または比に応じた品質指標の値を演算することもできる。図5には、インピーダンス比と品質指標の一例であるK値との相関関係が例示されている。図5には、第2の定電流として周波数が2kHzの場合と20kHzの場合とが示されている。第1の定電流における周波数は、いずれにおいても100kHzとしている。これらの相関関係は、測定により得られたインピーダンス比と化学分析によるK値の実測値との関係をグラフ上にプロットし、そこから近似式を導出したものである。図5の例において、横軸(インピーダンス比)をxとし、縦軸(K値)をyとすると、第2の定電流における周波数が2kHzの場合、近似式は、y=40.868x-13.559となる。このときの近似式の相関係数rは、r=0.926となり、かなり高い相関が得られている。同様に、第2の定電流における周波数が20kHzの場合、近似式は、y=63.193x-38.11となる。このときの近似式の相関係数rは、r=0.850となり、十分高い相関が得られている。なお、近似式は、図5の例のように直線でもよいし、曲線でもよい。
いずれの場合においても、第2の定電流における第2のインピーダンスに対する第1の定電流における第1のインピーダンスの値が小さいほどK値が小さくなり、第2のインピーダンスに対する第1のインピーダンスの値が大きいほどK値も大きくなる。K値は、小さいほど新鮮であることを示す指標である。例えば、K値(%)が10以下であれば即殺魚相当であり、20〜40前後で寿司などの生食可能相当であり、60〜80前後でかまぼこなどの加工品相当となる。したがって、図5に示すような相関関係より作成された近似線の情報を記憶部8に予め記憶しておき、演算部7で算出されたインピーダンス比と予め記憶された相関関係から検査対象の魚のK値を演算することができる。
このように、周波数の異なる複数の定電流を魚に流すことによって得られた複数のインピーダンスを用いて品質指標を演算することにより、魚の品質状態を推定することができる。第1の定電流の周波数としては、数kHz〜数10kHzのオーダ(例えば2kHz〜20kHz)が好ましく、第2の定電流の周波数としては、100kHz程度のオーダ(例えば50kHz〜1MHz)が好ましい。
なお、第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差と、K値との相関関係を用いることにより、K値を算出することとしてもよい。
また、品質指標として身やけを含む肉質の軟化や解凍履歴を算出する場合も同様に求められる。身やけや解凍履歴があると魚の細胞外におけるインピーダンスが低くなり魚の細胞内におけるインピーダンスと非常に近くなる。このため、インピーダンス比またはインピーダンス差が所定のしきい値以下となった場合に、身やけを含む肉質軟化または解凍履歴があると判定することができる。また、インピーダンス比またはインピーダンス差が小さい領域で複数のしきい値を設け、それに応じた複数の身やけを含む肉質軟化や解凍によるダメージレベルを設定することとしてもよい。また、しきい値の代わりに、身やけレベルや解凍によるダメージレベルを上記K値と同様の百分率で表すこととしてもよい。
上記構成によれば、測定対象の魚の表面に陽極側電流極3ipおよび陰極側電流極3inを接触させ、魚に所定の定電流が流される。周波数のより低い第2の定電流は、主に魚の細胞の外(表面)を流れ、周波数のより高い第1の定電流は、魚の細胞内にも流れる。新鮮な魚の細胞内においては魚の細胞外に比べてインピーダンスが低く、インピーダンスの差または比が大きいが、魚の品質状態が悪化してくると、自己消化によるタンパク質の変成が起き、細胞が破壊されるため、魚の細胞外におけるインピーダンスの値は魚の細胞内におけるインピーダンスに近づいて(小さくなって)いき、インピーダンスの差または比が小さくなる。このように、周波数の異なる複数の定電流を魚に流すことにより測定された複数のインピーダンスを用いて品質指標を演算することにより、魚の品質を推定することができる。また、魚の品質状態は主に死んだ後に測定されるため、魚の温度は周囲の環境などに応じて変化し易い。インピーダンスは温度によって大きく変化するため、後述する温度測定部14により測定された魚の表面温度に基づいて演算された品質指標の値を補正することにより、より高精度に魚の品質指標を推定することができる。インピーダンスの測定および温度測定は、簡単な回路構成により実現できる。したがって、魚の品質指標を簡単かつ高精度に推定することができる。
演算部7は、ゲイン設定回路31のゲインをより大きい値にするように再設定した場合、再度算出された第1のインピーダンスおよび第2のインピーダンスのうちの何れか一方のみを用いて品質指標の値を演算するよう構成されてもよい。解凍魚の場合には、第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差が小さいので、一方のインピーダンスのみを用いて品質指標の値を演算しても精度の低減を抑制することができる。また、これにより演算時間を短くすることができる。
ただし、演算部7は、解凍魚の測定時においても、未冷凍魚の測定時と同様に、第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差または比に応じた品質指標の値を演算してもよい。
また、魚の品質状態判定装置1は、魚の表面温度を測定する温度測定部14を備えている。温度測定部14は、温度センサとして機能するサーミスタ15およびサーミスタ補償回路16を備えている。サーミスタ15は、電極部3を構成する複数の電極のうちの少なくともいずれか1つ(図2の例においては陽極側電流極3ip)に内装されている。
電極部3の各電極は、例えばステンレスなどの金属材料により中空形状に形成される。サーミスタ15は、電極の中空部内に当該電極の金属部分とは絶縁された状態で固定される。具体的には、電極の中空部内にサーミスタ15を当該中空部の内壁に接触させないように挿入した状態で当該サーミスタ15の周囲にシリコンやエポキシなどの樹脂を流し込むことにより、サーミスタ15を電極とは絶縁した状態で電極の中空部内に固定する。
サーミスタ補償回路16は、一端がサーミスタ15に接続され、他端に所定の基準電圧Vpが印加される固定抵抗素子21と、基準電圧Vpのサーミスタ15の分電圧(固定抵抗素子21とサーミスタ15との間の電圧)Vthをデジタル化するA/D変換器22とを備えている。サーミスタ15の抵抗値は、温度によって大きく変化するため、サーミスタ15が設けられた電極の温度変化に応じてサーミスタ15の分電圧Vthが変化することとなる。電極は魚との接触部分が高い熱伝導率を有する金属材料で形成されているため、魚の表面温度により温度変化が生じる。したがって、サーミスタ15は、電極を介して魚の表面温度変化を検出することができる。検出された温度変化は、A/D変換器22によりデジタル化された温度情報として演算部7に入力される。
演算部7は、温度測定部14により測定された魚の表面温度に基づいて品質指標の値を補正するように構成される。
図6に示すように、魚のインピーダンスは温度によって大きく変化する。例えば、同じ試料(魚)に同じ周波数の定電流を流して測定した場合でも、温度が低いほどインピーダンスは高くなる。図6において、例えば10kHzの定電流で計測した場合、試料のインピーダンスは、5℃で151Ω、10℃で127Ω、15℃で110Ωとなっている。また、100kHzの定電流で計測した場合、試料のインピーダンスは、5℃で68Ω、10℃で55Ω、15℃で35Ωとなっている。その他の周波数においても同様の傾向を示していることが分かる。
特に、魚の品質状態は主に死んだ後に測定されるため、魚の温度は周囲の環境(例えば氷蔵、冷蔵、常温環境など)に応じて変化し易い。したがって、温度測定部14により測定された魚の表面温度に基づいて演算された品質指標の値を補正する。これにより、より高精度に魚の品質指標を推定することができる。インピーダンスの測定および温度測定は、簡単な回路構成により実現できる。したがって、魚の品質指標を簡単かつ高精度に推定することができる。なお、本装置は生きた魚に対しても測定できる。
本実施の形態において、インピーダンス測定部6は、陽極側電極および陰極側電極の間(電流極3ip,3in間)に印加される電圧Voutが所定の値以上である場合、定電流回路11から出力される定電流値を段階的に低減させて、当該電流極3ip,3in間に印加される電圧Voutを所定の値未満となるようにするよう構成されている。具体的には、インピーダンス測定部6は、オペアンプ18から出力される出力電圧Voutの波形を検出し、当該出力電圧Voutの波形が飽和電圧に達しているかどうか(サチュレーションを生じているかどうか)を判定するサチュレーション検出回路23を備えている。サチュレーション検出回路23は、例えば当該出力電圧Voutの波形をデジタル化するA/D変換器や、出力電圧Voutを所定の基準電圧と比較するコンパレータにより構成することができる。
サチュレーション検出回路23が出力電圧Voutのサチュレーションを検出すると、当該検出情報は、演算部7に送られる。演算部7は、サチュレーションを検出したことに基づいて、定電流回路11の可変抵抗素子17の抵抗値を低減させる制御を行う。可変抵抗素子17の抵抗値が低減することにより、オペアンプ18から出力される出力電流Ioutが低減され、結果として出力電圧Voutも低減される。
電流極3ip,3in間に印加される電圧は装置の飽和電圧を超えることはできないため、魚のインピーダンスと定電流値との積が当該飽和電圧を超える場合には正しいインピーダンスを算出することができなくなる。魚によっては、鱗が分厚かったり表面の滑らかさの度合いが高いものがあり、このような魚においては、電極と魚と接触面に生じる接触抵抗が増加する。接触抵抗が増加すると定電流によって電流極3ip,3in間に印加される電圧Voutが高くなり、飽和電圧を超え易くなる。
このため、このような場合には定電流値を低減させることにより、電流極3ip,3in間に印加される電圧Voutを飽和電圧より低い所定の値未満とすることにより魚のインピーダンスを正確に算出することができる。さらに、このような構成を備えることにより、装置の飽和電圧を余裕を持って高く設定しなくてもすむため、装置をより小型かつ安価に製造することができる。また、定電流値を段階的に低減させることにより、なるべく大きな定電流値を用いてインピーダンスを算出することができるため、魚のインピーダンスをより高精度に算出することができる。
なお、定電流値を段階的に低減させる際、一段階低減させる毎に定電流値が予め決められた電流値だけ低減する(低減させる電流値が一定)こととしてもよいし、一段階低減させる毎に低減させる電流値を少なくまたは多くすることとしてもよい。また、出力電圧Voutに応じて低減させる電流値を変化させることとしてもよい。
以下、上記構成の魚の品質状態判定装置の制御の流れについて一例を挙げて説明する。図7に示すように、まず、電源ボタン51を押し、魚の品質状態判定装置1の電源をオンし、続いて魚種選択ボタン53を押し、魚種の選択を行うことにより、演算部7は、選択された魚種に対応する未冷凍魚用の設定を行う(ステップS1)。未冷凍魚用の設定において、演算部7は、ゲイン設定回路31のゲインを魚種に対応する未冷凍魚用の第1ゲインに設定し、基準抵抗回路31の第1の基準抵抗群を魚種に対応するインピーダンス算出用の基準抵抗群として設定し、差動増幅器32の増幅率を魚種に対応する未冷凍魚用の第1の増幅率に設定する。このとき、演算部7は、内部処理としてフラグG=1を設定する。その上で演算部7は、測定開始の操作を待ち受ける(ステップS2)。
測定開始ボタン52の押下操作が行われると(ステップS2でYes)、演算部7は、所定の周波数および所定の定電流値を有する第1の定電流を設定する(ステップS3)。このとき、演算部7は、内部処理としてフラグn=1を設定する。そして、演算部7は、第1の定電流を電流極3ip,3in間に流し、電圧検出回路13により電圧極3vp,3vn間の電圧を検出する(ステップS4)。温度補正やサチュレーションを検出した場合の処理もあわせて行われる。
演算部7は、電圧検出回路13により検出された電圧に基づいて第1のインピーダンスを算出し、当該値を記憶部8に記憶する(ステップS5)。具体的には、演算部7は、電圧検出回路13により検出された電圧および出力した定電流値から魚のインピーダンスを算出し、それに温度補正が必要な場合には設定された温度補正係数を掛けることにより温度補正後の魚のインピーダンス(第1のインピーダンス)を算出する。
この後、演算部7は、フラグnが2以上か否かを判定する(ステップS6)。フラグnが2未満である場合(ステップS6でNo)、演算部7は、第1の定電流と同じ定電流値で第1の定電流より低い所定の周波数を有する第2の定電流を設定する(ステップS7)。このとき、演算部7は、内部処理としてフラグn=2を設定する。そして、演算部7は、第2の定電流を電流極3ip,3in間に流し、電圧検出回路13により電圧極3vp,3vn間の電圧を検出する(ステップS8)。
このようにして、演算部7は、第2の定電流における第2のインピーダンスを算出する(ステップS9)。第2のインピーダンス算出後は、フラグnが2であるので(ステップS6でYes)、今度は、演算部7は、フラグGが2以上か否かを判定する(ステップS10)。フラグGが2未満である場合(ステップS10でNo)、演算部7は、第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差または比が所定の値以下であるか否かを判定する(ステップS11)。演算部7は、例えば差に基づいて判定する場合は、低い周波数下で計測された第2のインピーダンスから高い周波数下で計測された第1のインピーダンスを差し引いた値を用いて判定し、比に基づいて判定する場合は、第2のインピーダンスを第1のインピーダンスで割った値を用いて判定する。
第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差または比が所定の値より大きい場合(ステップS11でNo)、演算部7は、未冷凍魚用の設定で得られた第1のインピーダンスおよび第2のインピーダンスを用いて所定の品質指標を演算し、当該演算により得られた品質指標の値を表示部4に表示させる(ステップS12)。例えば第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差または比を品質指標として演算してもよいし、各インピーダンスからそれぞれ脂肪量または脂肪率を演算した上で、脂肪量の差または比あるいは脂肪率の差または比を品質指標として演算してもよい。また、例えば第1のインピーダンスおよび第2のインピーダンスをそれぞれ独立変数として用いた重回帰分析による品質指標の値を演算してもよい。
第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとの差または比が所定の値以下である場合(ステップS11でYes)、演算部7は、解凍魚用の設定を行う(ステップS13)。解凍魚用の設定において、演算部7は、ゲイン設定回路31のゲインを第1ゲインより大きい解凍魚用の第2ゲインに設定し、第1の基準抵抗群より抵抗値範囲の狭い基準抵抗回路31の第2の基準抵抗群をインピーダンス算出用の基準抵抗群として設定し、差動増幅器32の増幅率を第1の増幅率より大きい解凍魚用の第2の増幅率に設定する。このとき、演算部7は、内部処理としてフラグG=2を設定する。
演算部7は、解凍魚用の設定において演算部7は、第1の定電流を設定する(ステップS14)。このとき、演算部7は、内部処理としてフラグn=2の設定を維持する。そして、演算部7は、第1の定電流を電流極3ip,3in間に流し、電圧検出回路13により電圧極3vp,3vn間の電圧を検出し、解凍魚用の設定における第1のインピーダンスを算出する(ステップS4〜S5)。
解凍魚用の設定において第1のインピーダンスが演算された後は、フラグnが2(ステップS6でYes)かつフラグGが2(ステップS10でYes)である。演算部7は、当該解凍魚用の設定で得られた第1のインピーダンスを用いて所定の品質指標を演算し、当該演算により得られた品質指標の値を表示部4に表示させる(ステップS12)。例えば第1のインピーダンスから脂肪量または脂肪率を演算してもよい。また、例えば第1のインピーダンスを変数として用いた単回帰分析による品質指標の値を演算してもよい。
なお、ステップS12において演算される品質指標は、未冷凍魚と解凍魚とで異なることとしてもよい。例えば、未冷凍魚の場合(フラグGが1の場合)、演算部7は、品質指標として脂肪率または脂肪量と魚の鮮度(K値)を演算し、その演算結果を表示部4に表示させる。また、例えば、解凍魚の場合(フラグGが2の場合)、演算部7は、品質指標として脂肪率または脂肪量のみを演算し、その演算結果を表示部4に表示させるとともに、解凍魚である旨の表示(例えば解凍魚であることを示すランプを点灯させる等)を行う。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。例えば、電極部3を1つの陽極側電極と、1つの陰極側電極(陰極側電圧極および陰極側電流極)とを備える構成(各電極が電流極および電圧極として機能する構成)としてもよいし、4つの電流極と4つの電圧極とを備える構成としてもよい。また、電流極および電圧極をそれぞれ2つ以上備え、計測時に使用する電極を適宜選択することとしてもよい。また、上記実施形態においては温度測定部14の温度センサとしてサーミスタ15を何れかの電極内に設けることとしたが、魚の表面温度または魚の周囲の温度が検出できる限り、本発明はこれに限られない。例えば、電極とは別に魚の表面に接触させるための温度センサが設けられてもよい。また、装置本体2の表面であって電極部3の近傍に直接温度センサが取り付けられることとしてもよい。