(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る紙幣処理装置について説明する。図1,図2は、本発明の第1実施形態に係る紙幣処理装置の内部構造を示し、図3,図4は、前記紙幣処理装置の外観を示している。
図1〜図4に示すように、紙幣処理装置1は、後述する各ユニット2,3,4A〜4Cを収容可能とする所定の大きさの箱状に形成されたケーシング1aを有する。このケーシング1aは、前面側(図1の右側)が開口した箱状のケーシング本体11と、このケーシング本体11の前面を塞ぐ扉12とを備えている。ケーシング1a前面の扉12の上部には、紙幣挿入用の開口14及び払出用の開口15が配設されている。
前記ケーシング1aの内部には、最上部に位置する入出金用ユニット2と、最下部に位置するベースユニット3と、これらのユニット2、3の間に位置する一乃至複数段(図示の例では3段)の中間部ユニット4A〜4Cとが配備されている。各中間部ユニット4A〜4C及びベースユニット3には金種別に紙幣が収納され、例えば中間部ユニットのうちの上段のユニット4Aに千円札、中段のユニット4Bに五千円札、下段のユニット4Cに一万円札がそれぞれ収納され、ベースユニット3に疲弊度の高い紙幣(後述する疲弊紙幣)が収納される。
さらに必要に応じ、いずれか1つもしくは複数の中間部ユニットの上方に紙幣収納スペース増量のための補助ユニット5が配置され、図示の例では中間部ユニット4Aの上に補助ユニット5が配置されている。
入出金用ユニット2、ベースユニット3及び中間部ユニット4A〜4Cは、それぞれ相互に分離可能で、かつ、それぞれケーシング1aに対して着脱可能となっている。そして、各ユニット2,3,4A〜4Cの一側部にそれぞれ設けられた被支持部17が、ケーシング1aの一側部に設けられたスライドガイド16に、前後方向に摺動可能に結合されることにより、ケーシング1aに対して各ユニット2,3,4A〜4Cが個別に前方へ引出し可能な状態で片持ち状態に支持されている。
また、図4に示すように、ケーシング1aの側部にはメインCPU基板101、サブCPU基板102等を含む制御基板部100及び電源部105が装備され、これら制御基板部100及び電源部105に対して各ユニット2,3,4A〜4Cが着脱可能なコネクタを介して電気的に接続されるようになっている。
入出金用ユニット2は、挿入口20a及び払出口20bを備えたフレーム20内に、前記挿入口20aから紙幣を導入する紙幣導入機構21と、前記払出口20bへ紙幣を導出する紙幣導出機構23と、搬送機構29とを配備しており、挿入口20a及び払出口20bがケーシング1aの開口14,15から突出する状態でケーシング1a内の上部に収容されている。
紙幣導入機構21は、挿入口20aの近傍に紙幣の真贋及び金種を識別する識別装置22を有するとともに、挿入口20aから識別装置22を介して取込んだ紙幣をユニット2の後方部下方向へ向かわせるように案内する紙幣導入路210を有する。さらに、紙幣導入機構21は、紙幣導入路210の上流側及び下流側に配置された送りローラ211,212,紙幣導入路210の途中に配設されたガイドローラ213、および紙幣導入路210から離れた位置に配置された送りローラ214を備えている。ローラ211,212,213,214は、モータ215によりベルト等の伝動機構216を介して駆動される。
紙幣導出機構23は、出金指令に応じて紙幣を払出口20bに払出す機構と、不正紙幣等をリジェクトする機構とを含んでおり、払出口20bに対応する高さ位置に配置した払出しリジェクト用送りベルト装置24と、このベルト装置24の上方のスペースで構成される一時貯留部25と、この一時貯留部25に紙幣を導く案内装置26と、紙幣をベルト装置24上の一時貯留部25に堆積させるためのプッシャー装置27と、前記ベルト装置24の下方のスペースに形成されたリジェクト室28とを備えている。なお、リジェクト室28の前面は扉280によって開放可能とされ、扉280には錠281が設けられている。
ベースユニット3には、紙幣収納部31と、該紙幣収納部31の後方において紙幣の搬送を行う搬送機構32と、この搬送機構32の駆動源である搬送モータ33と、搬送機構32と紙幣収納部31との間で紙幣の取込み、繰出しを行う取込み繰出し機構34と、紙幣収納部31において紙幣の集積を行う紙幣集積機構35と、この紙幣集積機構35を駆動する駆動機構36とが設けられている。
前記紙幣収納部31は、両側板、底板及び前面側の扉310(図2参照)等で構成され、内部に紙幣を集積状態で収納し得るスペースを有するように形成されている。前記扉310には錠311が設けられている。紙幣収納部31内には、所定高さ位置に紙幣支持テーブル312が設けられている。
前記各中間部ユニット4A〜4Cは、同一構造を有し、それぞれ、紙幣収納部41と、この紙幣収納部41の後方において当該ユニットの上端から下端にわたる範囲で紙幣の搬送を行う搬送機構42と、この搬送機構42と紙幣収納部41との間で紙幣の取込み、繰出しを行う取込み繰出し機構44と、紙幣収納部41において紙幣の集積を行う紙幣集積機構45とを有する。
前記紙幣収納部41は、ベースユニット3の紙幣収納部31と同様に、両側板、底板、前面側の錠411付の扉410(図2参照)等で構成されている。
また、補助ユニット5には、その下方に位置するユニット4Aの紙幣収納部41に通じる収納スペース増量部51が形成されるとともに、その後方に搬送機構52が設けられている。この搬送機構52は、詳細な図示は省略するが、中間部ユニット4A〜4Cの搬送機構42と同様に、上下一対ずつのローラを備えるとともに、各ローラ軸に設けられたギヤ、上下各一方のローラ軸に設けられたプーリ間に掛け渡された伝動用ベルト、上部の一方のローラ軸に設けられたギヤに噛合する中間伝動ギヤを備えている。そして、各ローラが相互に連動するとともに、下段側のユニットから駆動力が伝達される一方、上段側のユニットに駆動力を伝達し得るようになっている。
次に、図1〜図4に示した紙幣処理装置1の電気的な構成について説明する。図5は、紙幣処理装置1の電気的な構成を示すブロック図である。なお、図1〜図4に示す部材と同一の部材については同一の番号を付し、その説明を省略する。
図5に示すように、紙幣処理装置1は、入出金用ユニット2、ベースユニット3、中間部ユニット4A〜4Cに加え、マイクロホン501、紙幣挿入センサ502、紙幣通過センサ503及び制御部600を備える。
マイクロホン501は、音を電気信号(アナログ信号)に変換するものであり、紙幣の搬送中に発せられる音を収集する。マイクロホン501は、識別装置22によって真贋及び金種が識別された紙幣が搬送される搬送路又はその近傍に設置され、第1実施形態においては、図1に示すように、紙幣から音がたちやすい場所、例えば、紙幣導入路210に沿って配置されたローラ213の近傍に、前記マイクロホン501を設置されている。また、紙幣導入路210には、紙幣から音が立ちやすいように紙幣に接触する突起やブラシなどを設けておいてもよい。
紙幣挿入センサ502は、図1に示すように、紙幣挿入口20aの近傍位置に設置されており、該開口14への紙幣の挿入を検知するものである。紙幣挿入センサ502は、例えば一対の反射型投受光器を備えて構成されており、搬送される紙幣が検知位置に進入すると、前記投光器から出力した光がその紙幣により反射されて受光器により受光される。紙幣挿入センサ502は、前記受光器が紙幣からの反射光が受光している間、受光信号(オン信号)を制御部600に出力する。紙幣挿入センサ502から出力されるオン信号の立ち上がりタイミング及び立下りタイミングは、紙幣導入機構21に備えられるモータ等の動作開始及び停止のタイミングを決定するために用いられる。
紙幣通過センサ503は、図1に示すように、紙幣導入路210に沿って配置されたローラ213の近傍位置であって、前記マイクロホン501の近傍位置(マイクロホン501の下流側の位置)に設置されており、予め設定された検知位置における紙幣の通過を検知するものである。紙幣通過センサ503は、前記紙幣挿入センサ502と同様の構成を有しており、前記受光器が紙幣からの反射光が受光している間、受光信号(オン信号)を制御部600に出力する。紙幣通過センサ503から出力されるオン信号の立ち上がりタイミング及び立下りタイミングは、マイクロホン501の集音動作の開始及び停止のタイミングを決定するために用いられる。
制御部600は、図略のCPU(Central Processing Unit:中央演算処理部)、そのCPUの動作を規定するプログラムを格納するROM(Read Only Memory)、およびデータを一時的に保管する機能や作業領域としての機能を有するRAM(Random Access Memory)等を備えて構成されたマイクロコンピュータを有し、当該紙幣処理装置1の全体的な制御を行なう。なお、制御部600は、制御基板部100に設置されたメインCPU基板101及びサブCPU基板102上の回路部品により構成される。
ところで、第1実施形態に係る紙幣処理装置1は、識別装置22によって真贋及び金種が識別された紙幣を対象として、疲弊(紙葉類のよれや皺の程度)が小さく張りや腰の程度が大きい紙幣(以下、この紙幣を新紙幣という)であるのか、それとも前記疲弊が大きく張りや腰の程度が小さい紙幣(以下、この紙幣を疲弊紙幣という)であるのかを識別して、当該紙幣処理装置1に投入された紙幣の中から疲弊紙幣を抽出する紙幣疲弊判別装置としての機能と、該疲弊紙幣が再び利用に供されることのないように当該装置1の内部で保管する収容部としての機能を有する。
制御部600は、上記の紙幣疲弊判別装置の機能を実現するために、集音制御部601と、サンプリング部602と、フレーム分割部603と、周波数差分特徴量算出部604と、判定部605とを備える。
集音制御部601は、マイクロホン501の集音動作を制御するものであり、紙幣通過センサ503の出力信号のオフからオンへの立ち上がりタイミング(紙幣通過センサ503の検知位置を紙幣の先端が通過するタイミングに相当)に基づいて、マイクロホン501による集音動作を開始させ、また、紙幣通過センサ503の出力信号のオンからオフへの立ち下がりタイミング(紙幣通過センサ503の検知位置を紙幣の後端が通過する開始タイミングに相当)に基づいて、マイクロホン501による集音動作を停止させる。
サンプリング部602は、マイクロホン501から出力されるアナログ信号Sを一定のサンプリング周期(例えば1/8000秒周期)でサンプリングするものである。以下、サンプリングしたデータをサンプリングデータというものとする。紙幣の搬送方向における長さが例えば16cm、紙幣の搬送速度を8cm/秒とし、1/8000(秒)のサンプリング周期でサンプリングした場合、1枚の紙幣につき16000(個)のサンプリングデータが得られることになる。
図6(a)は、新紙幣の搬送中に発せられる音を集音したマイクロホン501の出力信号(音響信号)の信号波形を示し、図6(b)は、疲弊紙幣の搬送中に発せられる音を集音したマイクロホン501の出力信号(音響信号)の信号波形を示す。図6(a),(b)から判るように、新紙幣の場合、疲弊紙幣に比べて前記信号波形の振幅が大きい。一方、疲弊紙幣の場合、新紙幣に比べて前記信号波形が滑らか(振幅の増減の態様が小刻み)に変化する。
ここで、図7(a)、(b)において同図(a)の新紙幣の信号波形と同図(b)の疲弊紙幣の信号波形とを比較した場合、時間が0〜4300(単位はデータの個数で表される)までは、両者の信号波形が大きく異なるので、新紙幣と疲弊紙幣の判別が可能だが、4300以降の範囲では、両者の信号波形がほとんど同じ形状になるので、大半の範囲では識別不可能になる。そこで、この紙幣処理装置1では、以下のようにして、一連のサンプリングデータを複数のフレームに分割して、特定のフレーム(例えば、図7(a)〜(b)の時間0〜4300の間に存在するフレーム)のデータを用いて疲弊判別に行うことによって、判別精度を向上させている。
図5のフレーム分割部603は、一連のサンプリングデータを同じ時間幅を有する複数のフレームごとに分割する。 例えば、フレーム分割部603は、総データ数N個の一連のサンプリングデータをデータ数L個ごとにフレーム分割することにより、N/L個のフレームを生成する。具体的には、フレーム分割部603は、2秒間における16000個の一連のサンプリングデータを、100個づつ含むフレーム(すなわち、1/160秒の時間幅を有するフレーム)ごとに分割する。
周波数差分特徴量算出部604は、フレームごとに周波数スペクトル分布を求め、隣り合うフレーム間における当該周波数スペクトル分布に基づく差分から得られる周波数差分特徴量を求める。
周波数差分特徴量算出部604は、フレームごとに周波数スペクトル分布を算出する機能、例えば高速フーリエ変換(FFT)を行う機能を有する。周波数スペクトル分布は、複数の周波数成分によって構成される。各周波数成分は、それぞれスペクトル値を有する。
周波数差分特徴量算出部604によって算出される周波数差分特徴量としては、例えば、後で詳細に述べる「周波数スペクトル差分特徴量」または「周波数個数差分特徴量」のいずれかが用いられる。これらの特徴量は以下のとおりである。
まず、周波数スペクトル差分特徴量について説明する。周波数スペクトル差分特徴量は、隣り合うフレーム間において周波数スペクトル分布における各周波数成分におけるスペクトル値の差分の和から得られる特徴量である。
具体的には、周波数スペクトル差分特徴量は、図8に示されるように、周波数差分特徴量算出部604によって、連続する3フレーム単位のセグメントごとに算出される。
より具体的には、周波数スペクトル差分特徴量は、図8に示されるように、あるk番目のセグメントkにおいて、そのセグメントを構成する3つのフレームのうちの中間のフレーム(fi番目のフレーム)における周波数スペクトル分布とその1つ前のフレーム(fi−1番目のフレーム)における周波数スペクトル分布とを比較した場合に同じ周波数ωにおけるそれぞれのスペクトル値fik(ω)とfi−1k(ω)との差分の絶対値を後方差分値yik(ω)とし、同様に、中間のフレーム(fi番目のフレーム)における周波数スペクトル分布とその1つ後のフレーム(fi+1番目のフレーム)における周波数スペクトル分布とを比較した場合に同じ周波数ωにおけるそれぞれのスペクトル値fik(ω)とfi+1k(ω)の差分の絶対値を前方差分値xik(ω)として求める。
そして、セグメント毎の前方差分値と後方差分値の総和を、以下の(式1)で求め、周波数スペクトル差分特徴量とする。ここで、周波数ωの範囲は、フーリエ変換の出力数Tのうちデータとして有効なT/2の範囲に設定される。
つぎに、周波数個数差分特徴量について説明する。
周波数個数差分特徴量は、隣り合うフレーム間において周波数スペクトル分布における所定の帯域毎の所定の閾値を超えたスペクトル値を有する周波数成分の個数の差分から得られる特徴量である。
具体的には、周波数個数差分特徴量は、図9に示されるように、周波数差分特徴量算出部604によって、連続する3フレーム単位のセグメントごとに算出される点では、上記周波数スペクトル差分特徴量と共通する。
周波数個数差分特徴量は、図9に示されるように、複数の周波数成分(例えば、2kHzの間に4個の周波数成分)を有する周波数スペクトル分布において、あるk番目のセグメントkにおいて、中間のフレーム(fi番目のフレーム)における周波数スペクトル分布とその1つ前のフレーム(fi−1番目のフレーム)における周波数スペクトル分布とを比較し、所定の帯域毎(例えば2kHz毎)の所定の閾値を超えたスペクトル値を有する周波数成分の個数をそれぞれfik(ω)とfi−1k(ω)とした場合に、fik(ω)とfi−1k(ω)との差分の絶対値を後方差分値yik(ω)とする。同様に、中間のフレーム(fi番目のフレーム)における周波数スペクトル分布とその1つ後のフレーム(fi+1番目のフレーム)における周波数スペクトル分布とを比較し、所定の帯域毎(例えば2kHz毎)の所定の閾値を超えたスペクトル値を有する周波数成分の個数をそれぞれfik(ω)とfi+1k(ω)とした場合に、fik(ω)とfi+1k(ω)の差分の絶対値を前方差分値xik(ω)として求める。
これらのセグメント毎の前方差分値と後方差分値の総和を、上記の(式1)で求め、周波数個数差分特徴量とする。
ここで、閾値は、例えば、サンプルとして過去にサンプリングされた新紙幣のサンプリングデータおよび疲弊紙幣のサンプリングデータのそれぞれの周波数スペクトル分布の形状を参考にして適宜設定される。
判定部605は、周波数差分特徴量算出部604により算出された周波数差分特徴量に基づいて、紙幣の疲弊状態を判定するものである。具体的には、判定部605は、サンプルとしてあらかじめ算出された新紙幣のサンプリングデータに基づく周波数差分特徴量の領域と疲弊紙幣のサンプリングデータに基づく周波数差分特徴量の領域とに分けて紙幣の疲弊状態の判定を行なうために、サポートベクターマシン(以下、SVMという)の技術が用いられる。
SVMは、2クラス(例えば、新紙幣と疲弊紙幣の2種類)のパターン認識を行なうための学習アルゴリズムである。SVMは、基本的には線形の識別器であるが、非線形の識別器に拡張することが可能である。SVMは、予め用意された既知の2クラス(例えば、新紙幣と疲弊紙幣)の教師データ(または学習データ)に基づいて、それぞれのクラスを分ける境界線(または境界平面)を求めるために、それぞれのクラスに所属する教師データのうち、境界線に最も近い教師データがその境界線との距離(すなわち、マージン)が最大になる境界線を決める。これにより、既知の教師データによって求められた境界線によって、将来の未知の判別対象のデータをなるべく正しく識別することができる(すなわち、汎化能力が高い)。
具体的には、第1実施形態におけるSVMの技術を用いた紙幣の疲弊状態の判定は、以下の手順で行なわれる。まず、新紙幣か疲弊紙幣か否かの判別、すなわち、新旧紙幣の判別を行うべき紙幣に対して新旧紙幣の判別を行う前に、別途、新紙幣および疲弊紙幣についてそれぞれ複数のサンプル紙幣(本発明の境界設定用紙葉類の概念に含まれる紙幣)を予め用意し、これらのサンプル紙幣について紙幣通過時の音声をサンプリングして、データを収集する。
制御部600は、データをフレーム分割(例えば20個のフレームに分割)し、3フレーム単位で1つのセグメントとして、セグメントごとの周波数差分特徴量を算出し、セグメントごとの周波数差分特徴量を教師データとして判定部605に記憶する。
具体的には、判定部605には、セグメントごとの周波数差分特徴量が記憶される。例えば、新しい紙幣、すなわち新紙幣である複数のサンプル紙幣のセグメントごとの周波数差分特徴量が記憶され、さらに、それとは別に、疲弊した紙幣として疲弊紙幣である複数のサンプル紙幣のセグメントごとの周波数差分特徴量が記憶される。このようにして、判定部605は、新紙幣および疲弊紙幣を含む複数のサンプル紙幣の各々について、セグメントの数(例えば18個)に対応する多次元(例えば18次元)のデータを求める。
ついで、判定部605は、求められた多次元のデータのうち、新紙幣のサンプル紙幣における多次元のデータと疲弊紙幣のサンプル紙幣における多次元のデータとの間で最も距離が近い多次元のデータを2つ選択する。ここで例示として、選択された2つの多次元のデータをA(a1、・・・an)とB(b1、・・・bn)とする。
ついで、判定部605は、選択された2つの多次元データA、Bに対応する点の中間に位置する中間点の多次元データCを求める。ここで、多次元データCは、
C((a1+b1)/2、・・・、(an+bn)/2) (式2)
として表される。
そして、(式2)の多次元データCにより求められる中間点を通る境界面であって、前記最も距離が近い多次元のデータA、Bに対応する点と前記中間点との距離が他の多次元データに対応する点と当該境界面との間で確保できるように、境界面を設定する。この境界面が新紙幣と疲弊紙幣を判別する基準となる。
つぎに、判定部605は、上記のように設定された境界面を用いて、判別対象の紙幣の疲弊状態を判別する。具体的には、判定部605は、判別対象の紙幣について、セグメントごとの周波数差分特徴量を検出し、セグメントの数に対応する多次元のデータを求める。
その後、判定部605は、判別対象の紙幣から求められた多次元のデータが上記の境界面により分割されてなる新しい紙幣における多次元のデータを含む領域と疲弊した紙幣における多次元のデータを含む領域のどの領域に属するものであるかを検出し、その検出結果に基づいて当該紙幣の疲弊状態を判別する。これにより、簡単な処理によって、正確に紙幣の疲弊状態を判別することができる。
判定部605は、とくに複数のフレームのうちの特定の隣り合うフレームにおける周波数差分特徴量を用いて、紙幣の疲弊状態を判別する。
ここで、複数のフレームのうちから選択される特定のフレームは、例えば、サンプルとしての新しい紙幣から得られた一連のサンプリングデータの特徴量とサンプルとしての疲弊した紙幣から得られた一連のサンプリングデータの特徴量とを比較した場合のDTW距離が平均よりも長いフレームから選択される。
DTW距離(すなわち、動的タイムワーピング距離)は、2つの時系列データから動的計画法に基づいて最適なマッチングを求めて、類似度を計算する手法である。
例えば、長さmの時系列データxと長さnの時系列データyの間のDTW距離は、以下の(式3)、(式4)で与えられる。
上記(式3)および(式4)に基づいて、例えば、任意のフレームkにおけるサンプルとしての新紙幣の周波数差分特徴量x’と疲弊紙幣の周波数差分特徴量y’についての
のDTW距離Lkは、以下の(式5)のようになる。ここで、l、mは、それぞれの新紙幣と疲弊紙幣の総数、i、jは、それぞれの任意の新紙幣と疲弊紙幣を表している。(式5)のDは、上記(式3)、(式4)に基づくDTW距離である。
判定部605は、上記(式5)により求められたDTW距離Lkが平均よりも長いフレームを1個または複数個を用いて、当該フレームおよびそれに隣り合うフレームにおける周波数差分特徴量を用いて紙幣の疲弊状態を判別する。
つぎに、DTW距離を用いて特定のフレームを選択する具体例を、図10〜12を用いて説明する。ここでは、図10に示される3本のサンプル用の信号A、B,Cのうち、信号Cが信号A、信号Bのいずれに類似するかを判別する例を考える。信号Cは、信号Aの全体に若干のノイズを加えて作成されたものである。信号Bは、その後半部分として信号Aの後半部分にノイズを加えたものが用いられ、前半部分として信号Aとは全く別の信号が用いられることにより作成されたものである。
この信号Cは、全体的には信号Aに類似しているが、後半部分だけを見れば、信号Aよりも信号Bに類似している部分が若干多い。そのため、信号Cを9個のフレームに分割して、信号Aおよび信号Bのいずれに類似しているかを判定部605が上記の周波数差分特徴量を用いて判別した場合、図11の判別結果のように、信号Bであると判別した後半のフレーム5〜9が信号Aであると判別した前半のフレーム1〜4よりも若干多いので、多数決の結果では信号Bと判別される。
ここで、前半のフレーム1〜4は、信号Aと信号Bとが大きく異なるので、信号Cを判別する場合の重要度が高いと考えられる。それに対して、後半のフレーム5〜9は、信号Aと信号Bとの違いが少ないので、重要度が低いと考えられる。
そこで、判定部605は、上記の(式5)を用いて、各フレームごとの信号Aと信号BのDTW距離を算出し、DTW距離が平均よりも長いフレームを選択する。これにより選択されたフレームは、図12に示されるように、フレーム1〜4およびフレーム9となる。図12に示されるように、これら選択されたフレーム1〜4および9における多数決の結果では、信号Aと判別されるので、判別精度が向上していることが分かる。
次に、紙幣処理装置1の動作を説明する。図13は、紙幣処理装置1による入金時の紙幣の流れを示すフローチャートである。
図13に示すように、紙幣挿入口20aから紙幣が挿入されたことを示す検出信号(オン信号)が、前記紙幣挿入口20a付近に設けられた紙幣挿入センサ502から出力されると(ステップ♯1でYES)、制御部600は、紙幣導入機構21の図略のモータを駆動して該紙幣導入機構21に紙幣を装置1の内部に取り込ませる(ステップ♯2)。このとき、該モータの駆動による紙幣の導入は比較的低速で行われる。
次に、制御部600は、該紙幣の搬送中に金種の判定を行い(ステップ♯3)、金種の判定が可能であるものについては(ステップ♯4でYES)、紙幣の真贋を判定する(ステップ♯5)。制御部600は、前記紙幣が真札であると判定した場合には(ステップ♯6でYES)、該紙幣について後述する疲弊状態の識別を行った後(ステップ♯7)、識別された紙幣の金種及び疲弊状態に応じてその紙幣を取込むべきユニットに紙幣を取り込ませる(ステップ♯8)。
なお、金種の識別が不可能である場合(ステップ♯4でNO)、及び、前記紙幣が贋札であると制御部600が判定した場合には(ステップ♯6でNO)、紙幣を払出口20bに向けて搬送する(ステップ♯9)。
次に、図13におけるステップ♯7の疲弊状態判定処理についてさらに詳細に説明する。
ここで、判別対象の紙幣について疲弊状態判定処理を行なう前に、事前に、境界設定用前処理を行なう。境界設定用前処理は、判定処理を行なうための基準としてサンプリングデータから算出されたセグメントごとの周波数差分特徴量を含む多次元データが新紙幣の領域と疲弊紙幣の領域とのいずれかの領域に含まれるかを判定するために用いられる境界を設定するための前処理であり、図14に示されるフローチャートに沿って行なわれる。
まず、図14に示すように、新紙幣および疲弊紙幣についてそれぞれ複数(例えば10枚)のサンプル紙幣が紙幣挿入口20aから挿入されることにより、紙幣通過センサ503により紙幣の先端が検出され(ステップ♯11でYES)、集音制御部601は、マイクロホン501に集音動作を開始させ、また、サンプリング部602は、マイクロホン501から出力されるアナログの出力信号を一定のサンプリング周期でサンプル紙幣をサンプリングする動作を開始する(ステップ♯12)。
紙幣通過センサ503により紙幣の後端が検出されると(ステップ♯13でYES)、集音制御部601はマイクロホン501による集音動作を停止させ、また、サンプリング部602は前記サンプリング動作を停止し、フレーム分割部603は、前記サンプリング部602により取得された各サンプリングデータを所定の時間幅を有するフレームごとに分割する(ステップ♯14)。
次に、周波数差分特徴量算出部604は、フレームごとに周波数スペクトルを算出する。(ステップ♯15)。
そして、周波数差分特徴量算出部604は、隣り合うフレーム間における当該周波数スペクトル分布に基づく差分から得られる周波数差分特徴量(具体的には、上記の周波数スペクトル差分特徴量、または周波数個数差分特徴量)を求める(ステップ♯16)。
その後、判定部605は、上記の周波数差分特別量に基づいて新紙幣および疲弊紙幣についてそれぞれ複数のサンプル紙幣についての多次元のデータを求める。そして、判定部605は、この多次元データを用いて上記のSVMの処理を行なうことにより、新紙幣の領域と疲弊紙幣の領域とを分割する境界を設定する(ステップ♯17)。
さらに、判定部605は、サンプルとしての新しい紙幣から得られた一連のサンプリングデータの周波数差分特徴量とサンプルとしての疲弊した紙幣から得られた一連のサンプリングデータの周波数差分特徴量とを比較した場合のDTW距離が平均よりも長いフレームを特定する(ステップ♯18)。
以上のようにして、新紙幣の領域と疲弊紙幣の領域との間の境界を予め設定するとともに、特定のフレームを選択することが可能である。
その後、上記の境界設定用前処理(図14参照)によって得られた境界を用いることによって、図15に示されるフローチャートのように、判別対象である紙幣の疲弊状態識別処理が行なわれる。
図15に示すように、まず、判別対象である紙幣が紙幣挿入口20aから挿入されることにより、上記と同様に、紙幣通過センサ503により紙幣の先端が検出され(ステップ♯21でYES)、集音制御部601は、マイクロホン501に集音動作を開始させ、また、サンプリング部602は、マイクロホン501から出力されるアナログの出力信号を一定のサンプリング周期でサンプリングする動作を開始する(ステップ♯22)。
紙幣通過センサ503により紙幣の後端が検出されると(ステップ♯23でYES)、集音制御部601はマイクロホン501による集音動作を停止させ、また、サンプリング部602は前記サンプリング動作を停止し、フレーム分割部603は、前記サンプリング部602により取得された一連のサンプリングデータ同じ時間幅(例えばデータ数100個単位)を有する複数のフレームごとに分割する(ステップ♯24)。
次に、周波数差分特徴量算出部604は、判定部605であらかじめ選択された特定のフレームの周波数スペクトル分布を求める(ステップ♯25)。周波数差分特徴量算出部604は、隣り合うフレーム間における当該周波数スペクトル分布に基づく差分から得られる周波数差分特徴量(具体的には、上記の周波数スペクトル差分特徴量、または周波数個数差分特徴量)を求める(ステップ♯26)。
そして、判定部605は、上記の検出された周波数差分特徴量に基づいて各々の判別対象の紙幣について多次元のデータ(具体的には、上記のセグメントの数に対応する多次元のデータ)を求める。ついで、判定部605は、判別対象の紙幣から求められた多次元データが、上記の境界により分割されてなる新紙幣(いわゆる新札)における多次元のデータを含む領域と疲弊紙幣における多次元のデータを含む領域のうちどの領域に属するものであるかを検出し、その検出結果に基づいて当該紙幣の疲弊状態を判別する(ステップ♯27)。当該判別対象の紙幣の多次元データが新紙幣の領域にない場合には(ステップ♯27でNO)、当該紙幣は疲弊紙幣と判定して、回収対象紙幣として設定する(ステップ♯28)。回収対象紙幣として設定された紙幣は、ベースユニット3に収納される。ベースユニット3に収納された疲弊紙幣は、市場に再び流通させると、当該紙幣処理装置1、或いは自動販売機や両替機等の機器において、紙幣詰まりを起こし、故障を来たす虞があるため、市場に流通させない(再び利用に供されることのない)ように他の紙幣と分別するようにしている。
一方、判定部605は、当該判別対象の紙幣の多次元データが新紙幣の領域にある場合には(ステップ♯27でYES)、当該紙幣は新紙幣と判定して、回収対象外紙幣として設定する(ステップ♯29)。回収対象外紙幣として設定された紙幣は、中間ユニット4A〜4C等に収納される。
つぎに、第1実施形態の紙幣疲弊判別方法を用いた紙幣疲弊判別実験について説明する。
まず、スペクトル値が閾値を超えた周波数成分の個数を利用した周波数個数差分特徴量を用いて行った判別実験について説明する。
サンプルとして新紙幣と疲弊紙幣を1 枚ずつ使用し、どのような特徴量が取れるかを検証する。まず、図16 で表されるサンプリング周波数44.1kHz、データ数16000 個の時系列信号が与えられたとする。周波数差分特徴量算出部604は、1024 点のFFTを行うこと により、各フレーム512 点(すなわち、512個の周波数成分)、15フレームの周波数スペクトル分布が求まる。図17には、フレーム1〜4までの周波数スペクトル分布が示されている。
次に、2kHz毎に閾値を超えるスペクトル値を有する周波数成分がいくつ含まれていたかを計算する。ただし、10kHz 以上の周波数成分はほとんど観測されなかったため除外する。ここで、図18には、新紙幣のフレーム毎の閾値を超えた周波数成分の個数が2kHz毎の帯域別に示され、一方、図19には、疲弊紙幣のフレーム毎の閾値を超えた周波数成分の個数が帯域別に示される。
そして、上記の図18および図19の結果に基づいて、隣接する3フレームを1セグメントとした場合に、新紙幣および疲弊紙幣についてそれぞれセグメント毎にフレーム間の周波数個数差分特徴量を上記の(式1)を用いて計算した結果が、図20および図21に示される。
さらに、図20〜21の結果から各セグメント毎において2kHz毎に5個得られた周波数個数差分特徴量の平均値を取ることによって、セグメント毎にどれぐらい変化が起きたかという周波数個数差分特徴量を得ることができる。それによって得られた新紙幣と疲弊紙幣の周波数個数差分特徴量が、それぞれ図22および図23に示される。図22に示される新紙幣の周波数個数差分特徴量は、前半のセグメントでは変動が激しく、後半のセグメントでは変動があまりないのに対し、図23に示される疲弊紙幣の周波数個数差分特徴量は、後半のセグメントにも変動が見られることがわかる。
上記のように、周波数帯域毎に閾値を超えた周波数成分の個数を数えて算出された周波数個数差分特徴量では、スペクトル値が強い周波数成分の検出された場合もスペクトル値がわずかに閾値を超えた周波数成分が検出された場合も同等な扱いとなってしまう。また、帯域毎に周波数個数差分特徴量を計算しているため、利用されない周波数成分がある。
そこで、次に、閾値を超えた周波数成分の個数を数えて算出する周波数個数差分特徴量の代わりに、周波数スペクトル値そのものの差分値を取って算出する周波数スペクトル差分特徴量を用いた判別方法について検証する。
上記のような周波数個数差分特徴量と同じ実験条件で、特定のセグメント(セグメント1〜4および10〜13)について上記(式1)を用いて新紙幣および疲弊紙幣についての周波数スペクトル差分特徴量をそれぞれ算出する。新紙幣の周波数スペクトル差分特徴量は図24で示され、疲弊紙幣の周波数スペクトル差分特徴量は図25で示される。
この図24〜25に示される周波数スペクトル差分特徴量は、閾値を超えた周波数成分の個数で算出された周波数個数差分特徴量と比較して、特徴量自体の数値は大きくなっているが、前側のセグメント(セグメント1〜4)は、図24に示される新紙幣の動きが激しく、後側のセグメント(セグメント10〜13)は図25に示される疲弊紙幣の動きが激しいという上記の周波数個数差分特徴量と同じような傾向がみられた。そのため、周波数スペクトル差分特徴量も、周波数個数差分特徴量と同様に、紙幣の疲弊判別に利用できると考えられる。
次に、SVMを使用して新紙幣と疲弊紙幣の2クラスに判別する識別実験について説明する。
紙幣の疲弊度合は、例えば、以下のような5段階(S00〜S04)に分けることができる。
疲弊度0(S00): ほとんど疲弊が見られず新紙幣とみなされる紙幣
疲弊度1 (S01):が入って見た目でも疲弊していることがわかるものの腰が強く再使用が可能な紙幣
疲弊度2(S02): 少し柔らかくなっているが、腰が強く再使用可能な紙幣
疲弊度3(S03): 腰が弱く全体的に柔らかく再使用が困難な紙幣
疲弊度4(S04):腰が弱く、強い折り目がある紙幣
新紙幣をS00、疲弊紙幣をS01〜S04とする2クラス試験を行い、その結果を図26 に示す。具体的には、S00〜S04の5段階の紙幣を40枚づつ準備し、それぞれの紙幣について2クラス試験(新紙幣か疲弊紙幣かの判別)を行い、正しく判別された枚数および識別率が図26に示されている。
図26の判別結果より明らかなように、周波数差分特徴量を取った場合の2 クラス識別は、差分値として閾値を超えた周波数成分の個数を用いる周波数差分特徴量(すなわち、周波数個数差分特徴量)の場合(図26の上段)も、差分値としてスペクトル値を用いる周波数差分特徴量(すなわち、周波数スペクトル差分特徴量)の場合(図26の下段)も、いずれもの場合も非常に良好な識別率の結果が得られた。
次に、S00〜S04 までの5個のクラスで識別を、多クラスSVMを用いて行った。その結果を図27に示す。具体的には、S00〜S04の5段階の紙幣を40枚づつ準備し、それぞれの紙幣について5クラス試験(S00〜S04のいずれに属するか判別)を行い、正しく判別された枚数および判別率が図27に示されている。
図27では、同図の上段の周波数個数差分特徴量の場合も、同図の下段の周波数スペクトル差分特徴量の場合も、どちらの場合でも、識別率が50%以上であり、判別精度が高いことが分かる。特に周波数スペクトル差分特徴量の場合、S00〜S04の識別結果を合算した合計の識別率が82.5%まで向上している。また、最も低いS01 の識別率においても、60%以上の識別率を得ている。
詳細な識別結果として、図28には周波数個数差分特徴量の識別結果が示され、図29には周波数スペクトル差分特徴量の識別結果が示されている。これら図28〜29の詳細な識別結果を見れば、識別失敗した紙幣のほとんどが、隣接するクラスと識別されている。しかし、S01 に関しては、隣接していないS03 やS04と誤って識別されるものもあることがわかった。
(第1実施形態の特徴)
(1)
第1実施形態に係る紙幣疲弊判別装置および判別方法では、紙幣処理装置1の制御部600におけるフレーム分割部603が、一連のサンプリングデータを同じ時間幅を有する複数のフレームごとに分割し、周波数差分特徴量算出部604が、フレームごとに周波数スペクトル分布を求め、隣り合うフレーム間における当該周波数スペクトル分布に基づく差分から得られる周波数差分特徴量を求める。さらに、判定部605は、複数のフレームにおける特定の隣り合うフレームにおける周波数差分特徴量を用いて紙葉類の疲弊状態を判別する。これにより、一連のサンプリングデータのうち特定の部分だけ取り出して、紙葉類疲弊判別に用いることにより、疲弊状態が特に顕著に表れるデータの部分だけ取り出して判別に用いることが可能になる。その結果、紙葉類の疲弊状態についての判別精度を向上することが可能である。
(2)
また、第1実施形態に係る紙幣疲弊判別装置では、前記周波数差分特徴量として、隣り合うフレーム間において周波数スペクトル分布における各周波数成分におけるスペクトル値の差分の和から得られる周波数スペクトル差分特徴量が用いられる。すなわち、スペクトル値の差分を利用して周波数差分特徴量を算出するので、判別精度をより向上させることが可能である。
(3)
また、第1実施形態に係る紙幣疲弊判別装置では、周波数差分特徴量として、隣り合うフレーム間において周波数スペクトル分布における所定の帯域毎の所定の閾値を超えたスペクトル値を有する周波数成分の個数の差分から得られる周波数個数差分特徴量が用いられる。そのため、周波数差分特徴量を算出するときに閾値を超えたスペクトル値のデータのみを用いることが可能になり、得られる周波数差分特徴量のデータを圧縮することができる。その結果、処理速度を向上することができる。
(4)
また、第1実施形態に係る紙幣疲弊判別装置では、周波数差分特徴量は、あるフレームとその前後のフレームの合計3つのフレームを用いて、周波数スペクトル分布に基づく前方側の差分と後方側の差分の和から得られるので、2つのフレーム間の差分から得られる場合と比較して、判別精度を向上させることが可能である。とくに、疲弊判別を多段階で判定する場合に有効である。
(5)
また、第1実施形態に係る紙幣疲弊判別装置では、特定のフレームは、サンプルとしての新しい紙葉類から得られた一連のサンプリングデータの特徴量とサンプルとしての疲弊した紙葉類から得られた一連のサンプリングデータの特徴量とを比較した場合のDTW距離が平均よりも長いフレームから選択されるので、2つのサンプルデータの特徴量が異なる度合いの大きいフレームが確実に抽出されるので、判別精度をより向上させることが可能である。
(6)
第1実施形態に係る紙幣処理装置1では、紙幣処理装置1に紙幣の疲弊状態を判別する機能を例えば制御部600に搭載する場合に、該機能の搭載によって紙幣処理装置が大型化したりコストアップを招いたりするのを抑制することができる。
(第2実施形態)
上記の第1実施形態の紙幣処理装置1では、紙幣疲弊判別機能を実現する制御部600が、周波数差分特徴量算出部604および判定部605を備え、判定別605が周波数差分特徴量を用いて紙幣の疲弊状態を判別しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、紙幣を判別するための特徴量として他の特徴量を用いてもよい。以下、他の特徴量として、振幅差分時系列特徴量を用いて紙幣の疲弊状態を判別する紙幣処理装置および紙幣疲弊判別方法について説明する。
第2実施形態の紙幣処理装置の基本構成は、図1〜4に示される第1実施形態の紙幣処理装置1の基本構成と共通している。ただし、図30のブロック図に示される第2実施形態の紙幣処理装置の電気的な構成は、図5に示される第1実施形態の電気的な構成と異なり、周波数差分特徴量算出部604の代わりに、振幅差分時系列特徴量算出部606を備えている点で大きく異なっている。
すなわち、第2実施形態の紙幣処理装置は、紙幣疲弊判別機能を有しており、当該紙幣疲弊判別機能を実現するために、図30に示されるように、紙幣の搬送中に発せられる音に応じた信号を一連のサンプリングデータとしてサンプリングするサンプリング部602と、一連のサンプリングデータを同じ時間幅を有する複数のフレームに分割するフレーム分割部603と、振幅差分時系列特徴量算出部606と、判定部605とを備えている。サンプリング部602およびフレーム分割部603は、第1実施形態と共通しているので、説明を省略する。
振幅差分時系列特徴量算出部606は、フレームごとに当該フレーム内の隣り合うサンプリングデータ間における振幅に基づく差分であって時系列順に定義付けられた(具体的には、時系列順に並べられた)振幅差分時系列特徴量を求める。
具体的には、振幅差分時系列特徴量算出部606は、前記サンプリング部602により取得された各サンプリングデータについて、1つ前および1つ後のサンプリングデータとのデータ値の差をそれぞれ算出するものである。例えば図31の一連の3個のサンプリングデータQ1〜Q3に着目した場合、振幅差分時系列特徴量算出部606は、中間のサンプリングデータQ2のデータ値と当該データ値Q2の後に続く1つ後の矢印Q3で示すサンプリングデータのデータ値との差を第1振幅差Xiとして算出する。さらに、振幅差算出部603は、中間のサンプリングデータQ2のデータ値と当該データ値Q2の1つ前のサンプリングデータQ1のデータ値との差を第2振幅差Yiとして算出する。振幅差分時系列特徴量算出部606は、このような処理を前記サンプリング部602により取得された全てのサンプリングデータについて実施する。
これを一般的な形で表現すると、図32に示されるように、振幅差分時系列特徴量算出部606は、i番目のサンプリングデータA(ti)について、該サンプリングデータA(ti)とその1つ後のサンプリングデータとA(ti+1)の差「A(ti+1)−A(ti)」を第1振幅差Xi、前記サンプリングデータA(ti)とその1つ前のサンプリングデータA(ti−1)との差「A(ti)−A(ti−1)」を第2振幅差Yiとして算出する。
振幅差分時系列特徴量算出部606は、得られた2次元のデータXi、Yiを極座標変換する。
これにより、極座標の半径riおよび角度θiが得られる。
振幅差分時系列特徴量算出部606は、フレーム内のサンプリングデータから(式6)で得られた半径riに時系列順に番号を与え、半径riを大きさ別に4つの領域に分類する。
例えば、あるフレーム内の一連のサンプリングデータは、20個のデータで構成され、それぞれのデータの振幅は、(1、3、5、−4、−12、0、16、−14、−13、1、−12、10、10、7、−11、5、1、14、4、9)である。そして、このデータのうち、1番目及び20番目のデータについては後方差分と前方差分が計算できないため、差分値データは18個になる。図33は、そのデータを極座標上に割り当てたものである。
振幅差分時系列特徴量算出部606は、これら20個のデータ間における前方差分値Xiおよび後方差分値Yiを上記の(式6)に代入して18個の半径ri(r2〜r19)を得る。半径r2〜r19は、時系列順に並んでおり、各半径rには、時系列順に通し番号2〜19が与えられている。
半径r2〜r19は、これらの平均値をm(r=17.00の大きさ)とした場合、図34〜35に示されるように、それぞれ4つの領域1〜4に分類されると考えられる。そこで、振幅差分時系列特徴量算出部606は、半径r2〜r19を上記の領域1〜4のいずれかに分類する。
そして、振幅差分時系列特徴量算出部606は、半径r2〜r19の属する領域番号によって構成された18次元のデータを、振幅差分時系列特徴量として求める。例えば、図34〜35に示される半径r2〜r19の場合には、振幅差分時系列特徴量は、時系列順に並ぶ[122234423331332222]の18次元のデータとして求められる。
判定部605は、振幅差分時系列特徴量算出部606により算出された周波数時系列特徴量に基づいて紙幣の疲弊状態を判定する。判定部605は、上記第1実施形態と同様に、SVMの技術を用いて判定する。すなわち、判定部605は、SVMによって新紙幣と疲弊紙幣を判別する基準となる境界面を設定し、その境界面を用いて判別対象の紙幣の疲弊状態を判別する。
判定部605は、とくに複数のフレームのうちの特定の隣り合うフレームにおける周波数時系列特徴量を用いて、紙幣の疲弊状態を判別する。
ここで、複数のフレームのうちから選択される特定のフレームは、上記第1実施形態と同様に、例えば、サンプルとしての新しい紙幣から得られた一連のサンプリングデータの特徴量とサンプルとしての疲弊した紙幣から得られた一連のサンプリングデータの特徴量とを比較した場合のDTW距離が平均よりも長いフレームから選択される。
第2実施形態の紙幣処理装置のその他の構成は、第1実施形態の紙幣処理装置の構成と共通しているので説明を省略する。
第2実施形態の紙幣処理装置の動作は、第1実施形態と同様に、図13に示される紙幣処理装置1による入金時の紙幣の流れを示すフローチャートに沿って行われる。
なお、第2実施形態の紙幣処理装置では、判別対象の紙幣について疲弊状態識別処理を行なう前に事前に行われる境界設定用前処理は、図36に示されるステップ#31〜#37に沿って行われるが、フレーム分割(ステップ#34)の後にフレームごとに振幅差分時系列特徴量を算出する(ステップ#35)を行う点で、図14に示される第1実施形態の境界設定用前処理(すなわち、周波数スペクトルの算出(ステップ#15)および周波数差分特徴量算出(ステップ#16)を実行する処理)と異なっている。その他の点では、図14に示される第1実施形態の境界設定用前処理と共通する。
また、第2実施形態の紙幣処理装置では、判別対象の紙幣について疲弊状態識別処理は、図37に示されるステップ#41〜#48に沿って行われる。この疲弊状態識別処理は、が、フレーム分割(ステップ#44)の後に特定のフレームの振幅差分時系列特徴量を算出し(ステップ#45)、振幅差分時系列特徴量が新紙幣の領域にあるかを判定(ステップ#46)する点で、図15に示される第1実施形態の疲弊状態識別処理(すなわち、特定のフレームの周波数スペクトルの算出(ステップ#25)、周波数差分特徴量算出(ステップ#26)、および周波数差分特徴量が新紙幣の領域にあるかの判定(ステップ#27)を実行する処理)と異なっている。その他の点では、図15に示される第1実施形態の疲弊状態識別処理と共通する。
次に、第2実施形態における振幅差分時系列特徴量を用いた紙幣疲弊判別方法を用いた紙幣疲弊判別試験について説明する。ここでは、SVMを使用して新紙幣と疲弊紙幣の2クラスに判別する識別実験について説明する。具体的には、第1実施形態と同様に、新紙幣をS00、疲弊紙幣をS01〜S04とする2クラス試験を行い、その結果を図38 に示す。具体的には、S00〜S04の5段階の紙幣を40枚づつ準備し、それぞれの紙幣について2クラス試験(新紙幣か疲弊紙幣かの判別)を行い、正しく判別された枚数および識別率が図38に示されている。
ここで、図38の表の第1段目には、第2実施形態の実施例として、DTW距離の長い特定のフレームに絞り込まれた振幅差分時系列特徴量による判別結果が示されている。
また、図38の表の第2〜4段目には比較例1〜3の判決結果が示されている。
比較例1は、特定のフレームに絞り込まれた振幅差分個数特徴量による判別結果が示されている。ここで、振幅差分個数特徴量とは、第2実施形態における振幅差分時系列特徴量とは異なり、時系列順に定義付けられていない振幅差分に基づく特徴量である。具体的には、振幅差分個数特徴量は以下のようにして求められる。まず、上記の図33のサンプルデータと(式6)から半径rが算出され、その半径rが、図39に示されるように領域1〜4のどこに含まれるか分類される。各領域1〜4の半径rの個数(領域内の要素数)が算出されることによって、[2853]のような領域1〜4の数に対応する多次元(ここでは4次元)のデータが得られる。この多次元のデータが、振幅差分個数特徴量として用いられる。したがって、振幅差分個数特徴量は、図35に示されるように時系列順に番号が与えられた半径r1〜r18がそれぞれ属する領域1〜4の番号で構成される時系列順に並ぶ多次元(18次元)のデータ[122234423331332222]と異なり、時系列順に定義付けられていない。
比較例2は、フレーム絞込みなしの振幅差分時系列特徴量による判別結果が示されている。
比較例3は、フレーム絞込みなしの振幅差分個数特徴量による判別結果が示されている。
図38に示されるように、実施例および比較例1〜3についてそれぞれ2クラス試験を行った場合、実施例のようにフレーム絞り込みが行われた振幅差分時系列特徴量の判別結果では、合計の識別率が93%となり、実施例および比較例1〜3のうち最も高かった。また、新紙幣(S00)の識別率についても、72.5%となり、最も高かった。
一方、比較例1では、新紙幣(S00)の識別率が35%と非常に低くなった。フレーム絞り込みが行われた振幅差分個数特徴量では、時系列情報を持たず紙幣全体での特徴を考慮しているため、フレームの絞り込みによって使用するデータが減ると紙幣の特徴を表す情報が削られてしまったため、上記のように識別率が低くなったと考察される。
さらに比較例2のように、フレーム絞り込みなしの振幅差分時系列特徴量による判別結果では、新紙幣(S00)の識別率が0%であり、他の疲弊紙幣(S01〜S04)は識別率が100%である。この結果は、全てのフレームを見た場合に、新紙幣と疲弊紙幣の特徴量の差が少ないフレームが多くあり、新紙幣か疲弊紙幣かの判別結果の多数決を全てのフレームについて行われたときに、全ての紙幣が疲弊紙幣と判別されたためであると考えられる。
(第2実施形態の特徴)
(1)
第2実施形態に係る紙幣疲弊判別装置および判別方法では、フレーム分割部603が、一連のサンプリングデータを同じ時間幅を有する複数のフレームごとに分割し、振幅差分時系列算出部606が、フレームごとに当該フレーム内の隣り合うサンプリングデータ間における振幅に基づく差分であって時系列順に定義付けられた振幅差分時系列特徴量を求める。さらに、判定部605は、複数のフレームにおける特定のフレームにおける前記振幅差分時系列特徴量を用いて前記紙葉類の疲弊状態を判別する。これにより、一連のサンプリングデータのうち特定の部分だけ取り出して、紙葉類疲弊判別に用いることにより、疲弊状態が特に顕著に表れるデータの部分だけ取り出して判別に用いることが可能になる。その結果、紙葉類の疲弊状態についての判別精度を向上することが可能である。
(2)
第2実施形態に係る紙幣疲弊判別装置では、振幅差分時系列特徴量は、フレーム内におけるサンプルデータとその前後のサンプルデータの合計3つのサンプルデータを用いて、振幅に基づく前方側の差分と後方側の差分の和から得られる。2つのサンプルデータ間の差分から得られる場合と比較して、判別精度を向上させることが可能である。とくに、疲弊判別を多段階で判定する場合に有効である。
(3)
なお、上記の振幅差分時系列特徴量は、フレーム内のサンプリングデータのうち所定の閾値を超えた振幅を用いて得られるようにしてもよい。その場合、振幅差分時系列特徴量を算出するときに閾値を超えた振幅のデータのみを用いることが可能になり、得られる振幅差分時系列特徴量のデータを圧縮することができる。その結果、処理速度を向上することができる。
(4)
また、第2実施形態に係る紙幣疲弊判別装置では、第1実施形態の紙幣疲弊判別装置と同様に、特定のフレームは、サンプルとしての新しい紙葉類から得られた一連のサンプリングデータの特徴量とサンプルとしての疲弊した紙葉類から得られた一連のサンプリングデータの特徴量とを比較した場合のDTW距離が平均よりも長いフレームから選択されるので、2つのサンプルデータの特徴量が異なる度合いの大きいフレームが確実に抽出されるので、判別精度をより向上させることが可能である。
(5)
第2実施形態に係る紙幣処理装置では、紙幣の疲弊状態を判別する機能を例えば制御部600に搭載する場合に、該機能の搭載によって紙幣処理装置が大型化したりコストアップを招いたりするのを抑制することができる。
(変形例)
(A)
上記の第1〜2実施形態では、フレーム分割部603は、一連のサンプリングデータを同じ時間幅を有する複数のフレームごとに分割するときに、図8(a)に示されるように、各フレームは重なり合わさないように互いに隣接するフレームに分割しているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の変形例として、図40に示されるように、フレーム間の前後のデータの連続性を担保するために、複数のフレームに分割する際に、前後のフレームにそれぞれ半分づつ重ね合わさるフレームをさらに追加して、いわゆるハーフオーバーラップにしてもよい。
(B)
上記の第1〜2実施形態では、紙幣の疲弊判別を行うための特徴量として、周波数差分特徴量および振幅差分時系列特徴量のうちのいずれか1つを用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、周波数差分特徴量および振幅差分時系列特徴量の両方を用いて紙幣の疲弊判別を行ってもよく、その場合、判別精度はさらに向上する。また、周波数差分特徴量および振幅差分時系列特徴量のうちどちらかを優先させて紙幣の判別を行ってもよい。
(C)
上記第1〜2実施形態では、特定のフレームは、サンプルとしての新しい紙葉類から得られた一連のサンプリングデータの特徴量とサンプルとしての疲弊した紙葉類から得られた一連のサンプリングデータの特徴量とを比較した場合のDTW距離が平均よりも長いフレームから選択されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の手法によって特定のフレームを選択してもよい。
(D)
上記の第1〜2実施形態では、新紙幣用の領域と疲弊紙幣用の領域との2つを用いて、識別対象の紙幣が新紙幣であるか疲弊紙幣であるかのみを識別するようにしたが、本発明では上記の形態に限定されず、紙幣の疲弊度として3段階以上設定し、識別対象の紙幣がどの疲弊度に該当するかを識別するようにしてもよい。
(E)
上記の第1〜2実施形態では、疲弊状態の識別対象を紙幣としたが、本件は、紙幣に限定されず、紙葉類全般に適用可能である。