<1.新規細胞>
本発明の新規細胞は、前述のように、受領番号NITE AP−01818で特定される新規細胞である。本発明の新規細胞の用途は、特に制限されないが、例えば、前述のような、腫瘍細胞へのオンコリティックウイルスの感染を利用する抗腫瘍効果の誘導、癌の遺伝子治療等において、前記キャリアー細胞として有用である。以下、本発明の新規細胞を、本発明のキャリアー細胞ともいう。
本発明のキャリアー細胞の寄託の情報を以下に示す。前記キャリアー細胞は、本願の発明者が、愛媛大学において独自に単離した肺癌患者の肺腺癌細胞株から、初めてクローニングした新規細胞である。
寄託の種類:国内寄託
寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
あて名:日本国 郵便番号292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8
受領番号:NITE AP−01818
識別のための表示:EHMK−51
受領日:2014年3月7日
また、本発明のキャリアー細胞は、例えば、前記受領番号NITE AP−01818のクローン細胞(以下、「継代細胞」ともいう)も含む。前記クローン細胞としては、例えば、受領番号NITE AP−1578で特定される細胞が例示できる。
寄託の種類:国内寄託
寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
あて名:日本国 郵便番号292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8
受領番号:NITE AP−1578
識別のための表示:EHMK−51−35
受領日:2013年3月22日
<2.抗腫瘍効果の誘導剤および癌の遺伝子治療用医薬>
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、前述のように、オンコリティックウイルスを腫瘍細胞に作用させるためのキャリアー細胞を含み、前記キャリアー細胞が、前記本発明の新規細胞であることを特徴とする。本発明は、前記キャリアー細胞として、前記本発明の新規細胞を使用することが特徴であって、その他の構成および条件等は、制限されない。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、抗腫瘍効果の誘導による癌の治療に使用できることから、癌の遺伝子治療用医薬ということもできる。なお、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤の用途は、癌患者に対する癌の治療には制限されず、例えば、生命化学分野等において、腫瘍細胞または腫瘍組織に対しても使用できる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前述のように、対象の腫瘍細胞または腫瘍組織におけるオンコリティックウイルスの感染を利用する抗腫瘍効果の誘導剤であり、前記キャリアー細胞は、被検体への投与時において、前記オンコリティックウイルスを感染させた状態で使用される。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、前記本発明のキャリアー細胞を使用することにより、例えば、以下のような効果を奏することができる。すなわち、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、凍結保存等の保存によっても安定な抗腫瘍効果を維持でき、前記キャリアー細胞の腫瘍形成能が十分に抑制されることから安全性に優れ、生物個体に投与する際、腫瘍内投与だけでなく、従来のキャリアー細胞では困難であった胸腔内投与、腹腔内投与や全身投与等によっても抗腫瘍効果を発揮でき、また、従来のキャリアー細胞よりも少ないオンコリティックウイルスの感染量であっても、抗腫瘍効果を発揮することができる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、抗腫瘍効果の誘導によって、癌の治療に寄与できることから、癌の遺伝子治療用医薬ともいい、悪性腫瘍治療用医薬ともいう。また、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤の使用方法は、特に制限されず、例えば、後述する、抗腫瘍効果の誘導方法および癌の治療方法における記載を援用できる。なお、本発明の癌の遺伝子治療用医薬は、前述のように、前記本発明の抗腫瘍効果の誘導剤を含むことを特徴とし、その他の構成および条件等は制限されない。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤の標的は、特に制限されず、あらゆる良性腫瘍および悪性腫瘍に適用できる。前記対象の癌は、例えば、卵巣癌、子宮体癌、扁平上皮癌(子宮頚部癌、皮膚癌、頭頚部癌、食道癌、肺癌、肛門癌等)、消化器癌(大腸癌、小腸癌、直腸癌、膵癌、肝癌、胆嚢胆管癌、胃癌等)、神経芽細胞腫、脳腫瘍、乳癌、精巣癌、前立腺癌、膀胱癌等の固形癌、および血液性悪性腫瘍等の悪性腫瘍、ならびに増殖速度の速い髄膜種、神経線維腫、子宮筋腫等の良性腫瘍が例示できる。本発明は、例えば、治療対象の癌の種類に応じて、感染可能な前記オンコリティックウイルスを選択すればよく、癌と前記オンコリティックウイルスとの関係は、出願時の技術常識に基づいて、選択できる。なお、本発明は、癌の種類と前記オンコリティックウイルスの種類との組合せが特徴ではなく、本発明の新規細胞をキャリアー細胞として使用することが特徴である。このため、例えば、癌の種類と前記オンコリティックウイルスの種類との組合せは、公知の組合せには制限されず、本願の出願後に明らかとなった組合せに関しても、本発明を適用できることは、明らかである。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤の投与対象は、特に制限されず、例えば、ヒト、非ヒト動物であり、前記非ヒト動物は、例えば、トリ、マウス、ラット、ウサギ、サル、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ロバ、ラクダ等の哺乳類動物等があげられる。また、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤の投与は、例えば、in vivo、ex vivoおよびin vitroのいずれでもよく、具体例として、生物個体、採取した細胞、組織または器官、培養した細胞、組織または器官等への投与があげられる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤において、前記キャリアー細胞は、例えば、放射線照射処理した前記本発明の新規細胞でもよいし、放射線照射処理を行っていない前記本発明の新規細胞でもよい。前記キャリアー細胞に前記放射線照射を行う場合、前記オンコリティックウイルスの感染前でもよいし、感染後でもよい。前記放射線照射の条件は、特に制限されず、照射量は、例えば、120〜600Gy、好ましくは150〜400Gyに設定することが好ましい。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤において、前記キャリアー細胞は、例えば、標的の腫瘍細胞と結合しやすくなるように、前記キャリアー細胞の細胞表面に、人為的に特定タンパク質等を発現させてもよく、また、前記キャリアー細胞に、センダイウイルスを感染させる処置等を行ってもよい。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤において、前記キャリアー細胞は、前述のように、前記オンコリティックウイルスを感染させた状態で、被検体に投与される。しかしながら、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤に含まれる前記キャリアー細胞は、例えば、前記オンコリティックウイルスに感染した本発明の新規細胞(以下、「ウイルス感染キャリアー細胞」ともいう)でもよいし、被検体への投与まで、前記オンコリティックウイルスに感染していない本発明の新規細胞(以下、「ウイルス未感染キャリアー細胞」ともいう)でもよい。
前者の場合、前記ウイルス感染キャリアー細胞は、例えば、そのまま被検体へ投与できる。前記ウイルス感染キャリアー細胞は、例えば、使用時(被検体への投与)まで、凍結した形態とし、使用時に解凍することが好ましい。また、前記ウイルス感染キャリアー細胞は、例えば、放射線照射処理した上で、凍結した形態でもよい。前記凍結保存の条件は、特に制限されず、例えば、液体窒素での保存、または約−150℃での保存等があげられる。
前記ウイルス感染キャリアー細胞の被検体(例えば、生物個体)への投与経路は、特に制限されず、腫瘍内投与でも、腫瘍外投与でもよい。前記腫瘍内投与は、例えば、前記腫瘍組織への直接的な投与である。前記腫瘍外投与は、例えば、局所投与でも、非局所投与(例えば、全身投与)でもよく、具体例として、経口投与等を含む経腸投与、または、経静脈投与、胸腔内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与等の非経口投与等があげられる。
他方、後者の場合、前記ウイルス未感染キャリアー細胞は、例えば、被検体への投与前に、前記オンコリティックウイルスを感染させ、前記ウイルス感染キャリアー細胞として被検体に投与すればよい。前記ウイルス未感染キャリアー細胞は、例えば、使用時(前記オンコリティックウイルスの感染および被検体への投与)まで、常温保存、冷蔵保存または凍結保存してもよく、凍結保存の場合、使用時に解凍することが好ましい。前記凍結保存の条件は、特に制限されず、例えば、液体窒素での保存、または約−150℃での保存等があげられる。後者の形態の場合、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、抗腫瘍効果の誘導剤キット、抗腫瘍効果の誘導剤の製造用キット、癌の遺伝子治療用医薬キット、癌の遺伝子治療用医薬の製造用キットということもできる。本発明において、ウイルスまたはベクターの感染は、導入ともいう。
前記オンコリティックウイルスを前記ウイルス未感染キャリアー細胞に感染させる方法は、特に制限されず、常法に従って行うことができる。具体例として、前記ウイルス未感染キャリアー細胞をディッシュに播き、これに対して、全ての前記ウイルス未感染キャリアー細胞に感染可能な量の前記オンコリティックウイルスを添加し、培養する方法があげられる。培養条件は、特に制限されず、例えば、95%O2、5%CO2、37℃、6−72時間の条件が例示できる。培地は、例えば、HyQ CDM4Retino無血清培地あるいはRPMI培地等が例示できる。RPMI培地における牛胎児血清FCSは、未添加でもよいし、添加でもよく、具体例として、3−6時間、FCS未添加で培養した後、FCSを添加(例えば、10%)して培養してもよい。
前記ウイルス未感染キャリアー細胞に対する前記オンコリティックウイルスの感染の条件、例えば、感染量および感染時間等は、特に制限されず、例えば、治療対象の腫瘍の大きさ・種類、前記キャリアー細胞の投与量、前記オンコリティックウイルスの種類、前記抗腫瘍効果の誘導剤の投与方法等に応じて、適宜設定できる。前記ウイルス未感染キャリアー細胞に対する前記オンコリティックウイルスの感染量は、例えば、約0.1〜200(multiplicity of infection:以下、「MOI」ともいう。)であり、好ましくは約1〜100MOIであり、より好ましくは約5〜50MOIであり、さらに好ましくは約5〜20MOIである。具体例として、腹腔内投与の場合、前記ウイルス未感染キャリアー細胞に対する前記オンコリティックウイルスの感染量を約2〜20MOI、感染時間を約16〜36時間、腫瘍内投与の場合、前記感染量を約5〜50MOI、感染時間を約16〜36時間に設定できる。本発明のキャリアー細胞によれば、例えば、同程度の抗腫瘍効果を得る場合、公知のキャリアー細胞(例えば、A549細胞)と比較して、前記オンコリティックウイルスの感染量を、約4分の1〜20分の1に低減できる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記本発明のキャリアー細胞の他に、その他の構成成分を有してもよい。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、抗腫瘍効果の誘導剤キットということもできる。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記本発明のキャリアー細胞と前記その他の成分とを、それぞれ別個の薬剤として備えてもよいし、いずれか2以上の成分を1つの薬剤として備えてもよい。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、1つの薬剤からなる1剤系でもよいし、2つの薬剤からなる2剤系または3以上の複数の薬剤からなる複数剤系でもよい。本発明において、「投与が同時」とは、例えば、2種類以上の薬剤の添加時期が完全に一致することだけでなく、ほぼ一致していることの意味も含む。ほぼ一致とは、例えば、投与した薬剤について、被検体での前記薬剤の効果を実質的に発揮させるための一定時間の放置を行うことなく、さらに、他の薬剤を投与することを意味する。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、さらに、治療対象の腫瘍細胞に作用させる前記オンコリティックウイルスを含んでもよい。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記本発明のキャリアー細胞と前記オンコリティックウイルスとを、それぞれ別個の薬剤としてもよいし、前記キャリアー細胞と前記オンコリティックウイルスとを1つの薬剤としてもよい。
前者の場合、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤に含まれる前記キャリアー細胞は、例えば、前記ウイルス未感染キャリアー細胞であり、前述のように、例えば、被検体への投与前に、前記オンコリティックウイルスを感染させ、前記ウイルス感染キャリアー細胞として被検体に投与すればよい。前記オンコリティックウイルスは、例えば、使用時(前記ウイルス未感染キャリアー細胞への感染)まで、冷凍保存することが好ましく、具体例として、約−80℃での保存があげられる。
後者の場合、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤に含まれる前記キャリアー細胞は、例えば、前記オンコリティックウイルスが感染した前記ウイルス感染キャリアー細胞である。
前記オンコリティックウイルスは、一般に、細胞間相互作用(cell to cell interaction)によって、キャリアー細胞から標的の腫瘍細胞へと感染し、前記腫瘍細胞内で特異的に増殖し、前記腫瘍細胞を融解して殺傷する細胞融解(cell lysis)作用を発揮することが知られている。従来、ウイルスによる癌の遺伝子治療は、例えば、抗体産生によって頻回投与ができないことが問題とされていたが、前記キャリアー細胞を用いると、細胞間相互作用によって標的の腫瘍細胞に直接的に感染でき、これにより頻回投与が可能となり、より強力な抗腫瘍効果を得ることが可能となる。
前記オンコリティックウイルスは、特に制限されず、例えば、遺伝子導入に使用される従来のウイルスベクターを使用できる。前記オンコリティックウイルスは、例えば、標的の腫瘍細胞または腫瘍組織に感染し、増殖し得るものであり、好ましくは、標的の腫瘍細胞または腫瘍組織において特異的に増殖するものである。前記オンコリティックウイルスの具体例として、例えば、増殖型ウイルスであって、標的の腫瘍細胞において特異的に増殖するようウイルス遺伝子が改変され、標的の腫瘍細胞を融解して殺傷するcell lysis作用を有するものが好ましい。
前記オンコリティックウイルスは、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、HIVウイルス等のレンチウイルス;マウス白血病ウイルス等のレトロウイルス;レオウイルス;水疱性口内炎ウイルス(VSV)、麻疹ウイルス、センダイウイルス、コクサッキーウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(venezuelan equine encephalitis virus)、カナリア痘ウイルス(canarypox virus)、ライノウイルス(rhino virus)、鶏痘ウイルス(fowlpox virus)等があげられ、その他のオンコリティックウイルスであってもよい。前記ヘルペスウイルスは、例えば、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)等があげられる。前記アデノウイルスのタイプは、特に制限されない。前記オンコリティックウイルスは、例えば、中でも、アデノウイルスが好ましい。前記オンコリティックウイルスとしての前記アデノウイルスは、例えば、その増殖に必要なE1A遺伝子およびE1B遺伝子に関して、E1AプロモーターおよびE1Bプロモーターの少なくとも一方が、一部もしくは全て欠失したものがあげられ、この場合、E1AプロモーターあるいはE1Bプロモーターを、腫瘍特異的プロモーターで置換したもの等があげられる。具体的には、前記アデノウイルスは、例えば、E1AプロモーターおよびE1Bプロモーターの一方のみが一部または全てを欠失してもよいし、両方のプロモーターが一部または全てを欠失してもよく、また、E1AプロモーターおよびE1Bプロモーターの一方のみが前記腫瘍特異的プロモーターで置換されてもよいし、両方のプロモーターが前記腫瘍特異的プロモーターで置換されてもよい。前記E1Aプロモーターを一部欠失したものは、例えば、E1Aプロモーター(Δ24)があげられる。また、前記アデノウイルスは、例えば、E1A遺伝子およびE1B遺伝子の少なくとも一方を欠失するものでもよい。
前記オンコリティックウイルスは、例えば、プロモーターを有することが好ましい。前記プロモーターの具体例は、例えば、1A1.3Bプロモーター、ミッドカインプロモーター、β−HCGプロモーター、SCCA1プロモーター、SCCA2プロモーター、CEAプロモーター、cox−2プロモーター、PSAプロモーター、AFPプロモーター、オステオカルシンプロモーター、CA12−5(Mucin 16)プロモーター、テロメラーゼ(hTERT、human telomerase reverse transcriptase)プロモーター、ネスチンプロモーター、E2F−1プロモーター、chemokine SDF-1 receptor (CXCR4)プロモーター、epithelial glycoprotein 2 (EGP−2)プロモーター、survivinプロモーター、L-plastinプロモーター、Hexokinase type II (HK II)プロモーター、Tyrosinaseプロモーター、MUC−1プロモーター、Rat probasinプロモーター、Leukoprotease inhibitorプロモーター、Tcf responsiveプロモーター、Calponinプロモーター、Albuminプロモーター、Flt-1プロモーター、Hypoxia responsive elementsプロモーター、β-cateninプロモーター、Uroplakin IIプロモーター、surfactant protein Bプロモーター、B−Mybプロモーター、DF3プロモーター、UL38プロモーター、mesothelinプロモーター、prostate specific antigen (PSA)プロモーター、c-erb-2プロモーター、EGFプロモーター、12−o−tetradecanoylphorbol-13-acetate(TPA)プロモーター、SSX4プロモーター、TGFβプロモーター、H19プロモーター、IGF-1プロモーター、DF3プロモーター、MARE(Maf recognition element)配列、MGMTプロモーター、Prostate stem cell antigen (PSCA)プロモーター、CDX2プロモーター、Vascular endothelial growth factor receptor type-1(flt-1プロモーター)、PSF1プロモーター、HURTプロモーター、ガストリン放出ペプチド(GRP)プロモーター、II型ヘキソキナーゼプロモーター、CRI1プロモーター、I.7プロモーター、Prostate-specific membrane antigen (PSMA)プロモーター、Egr-1プロモーター、Matrix Metalloproteinase(MMP)プロモーターおよびTransforming growth factor-β1(TGF-β1)プロモーター等があげられる。
前記オンコリティックウイルスは、例えば、前記プロモーターとして、腫瘍特異的プロモーターを有することが好ましく、前述に列挙したプロモーターが例示できる。前記プロモーターの種類は、特に制限されず、例えば、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤による治療対象の癌に応じて、適宜選択できる。
具体例として、治療対象が卵巣癌の場合は、1A1.3BプロモーターまたはCA12−5(Mucin 16)プロモーター、脳腫瘍および悪性グリオーマの場合は、ミッドカインプロモーター、精巣癌の場合は、β―HCGプロモーター、扁平上皮癌の場合、SCCA1プロモーターおよびSCCA2プロモーター、大腸癌の場合は、CEAプロモーター、前立腺癌の場合は、PSAプロモーター、PSMAプロモーター、PSCAプロモーター、肝癌の場合、AFPプロモーター等がそれぞれ選択できる。また、他の公知の腫瘍特異的プロモーターとして、例えば、種々の悪性腫瘍に対してプロモーター活性を発揮し、広い作用スペクトラムを有するcox−2プロモーター、その他オステオカルシンプロモーター等の各種癌特異性プロモーターを使用してもよい。前記ミッドカインプロモーターは、例えば、脳腫瘍、悪性グリオーマの他、種々の悪性腫瘍に対しても使用可能であり、この点において、cox−2プロモーターと同様に、広い作用スペクトラムを有する。
前記プロモーターの条件、例えば、配列および長さ等は、特に制限されず、例えば、腫瘍特異的プロモーター活性が得られる範囲であればよい。
各プロモーターは、特に制限されず、例えば、以下に示す文献等にしたがって、設計および調製し、前記オンコリティックウイルスのゲノムに挿入できる。
1A1.3Bプロモーター:国際公開第03/025190号パンフレットおよび文献Cancer Research 63,2506−2512,2003
ミッドカインプロモーター:国際公開第02/10368号パンフレット
β−HCGプロモーター:国際公開第01/90344号パンフレット
SCCA1プロモーター:国際公開第00/60068号パンフレット、論文Biochimica et Biophysica Acta 91522 (2001) 1-8, Molecular cloning of human squamous cell carcinoma antigen 1 gene and characterization of its promoter, Katsuyuki Hamada, Hiroto Shinomiya, Yoshihiro Asano, Toshimasa Kihana, Mari Iwamoto, Yasushi Hanakawa, Koji Hashimoto, Susumu Hirose, Satoru Kyo, Masaharu Ito
前記オンコリティックウイルスにおける前記腫瘍特異的プロモーターの挿入部位は、特に制限されない。具体例として、アデノウイルスを使用する場合、ウイルスの増殖に必須である初期遺伝子E1AまたはE1Bの上流に、前記腫瘍特異的プロモーターを挿入してもよいし、または、前記初期遺伝子E1AまたはE1Bのプロモーターと、前記腫瘍特異的プロモーターとを置換してもよい。アデノウイルス以外、例えば、HSV−1、HSV−2、レトロウイルス、レオウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)等の場合も、同様に、ウイルスの増殖に必要な遺伝子の上流に、前記腫瘍特異的プロモーターを挿入してもよいし、または、前記遺伝子と前記腫瘍特異的プロモーターとを置換してもよい。
前記オンコリティックウイルスは、前記腫瘍特異的プロモーターを有するものには制限されず、例えば、標的の腫瘍細胞または腫瘍組織において特異的に増殖する性質を有する場合、腫瘍特異的プロモーターを有しないものでもよい。このようなオンコリティックウイルスとしては、例えば、ONYX社のE1B遺伝子欠失型のオンコリティックアデノウイルス、アラバマ大学バーミングハム校(UAB)のE1A遺伝子一部欠失型のAd5-△24アデノウイルス等があげられる。前記オンコリティックウイルスがアデノウイルスの場合、例えば、野生型アデノウイルスでもよいし、その一部の遺伝子を欠失させたものでもよい。
前記オンコリティックウイルスは、例えば、以下のようなウイルスが例示できる。なお、本発明は、これらの例示には制限されない。前記オンコリティックウイルスとしては、例えば、アデノウイルスAdE3−midkineが使用でき、これは、E3遺伝子を有し、前記E1A遺伝子の上流のアデノウイルスtype 5のnucleotide position 448−552のE1A遺伝子プロモーターを欠失した部位に、前記腫瘍特異的プロモーターとして、癌特異的ミッドカインプロモーターを有するウイルスである。前記nucleotite position448−552は、E1A遺伝子プロモーター領域とほぼ一致する。このため、前記nucleotite position448−552欠失型(E1A遺伝子プロモーター欠失型)のオンコリティックアデノウイルスは、E1A遺伝子プロモーターが残存しているnucleotide position 552に前記腫瘍特異的プロモーターが挿入された(552挿入型)オンコリティックアデノウイルスに比べ、E1A遺伝子プロモーターの影響を受けないため、例えば、腫瘍特異性が高まる。また、前記552挿入型のオンコリティックアデノウイルスは、自然発生的に前記腫瘍特異的プロモーターが脱落する可能性がある。このため、前記552挿入型のE1A遺伝子プロモーター残存型のオンコリティックアデノウイルスは、前記腫瘍特異的プロモーターが脱落した際に、野生型アデノウイルスとなる危険性がある。しかしながら、前記E1A遺伝子プロモーター欠失型のオンコリティックアデノウイルスでは、前記E1A遺伝子プロモーターを欠失しているため、例えば、前記腫瘍特異的プロモーターが脱落した際に、前記野生型アデノウイルスとなる危険性がない。そして、前記Nucleotite 448−552の上流領域のnucleotide 404−448には、オンコリティックアデノウイルスのパッケージングシグナルがあるため、前記E1A遺伝子欠失型のオンコリティックアデノウイルスは、前記nucleotide 404−552欠失型のオンコリティックアデノウイルスに対して、例えば、オンコリティックアデノウイルスの増殖能力が高く、且つ抗腫瘍効果も向上する。また、前記オンコリティックウイルスとしては、例えば、アデノウイルスAdE3−1A1.3B(IAI.3B)が使用でき、これは、E1A遺伝子およびE3遺伝子を有し、かつ、前記E1A遺伝子の上流のアデノウイルスtype 5のnucleotide position 448−552のE1A遺伝子プロモーターを欠失した部位に、前記腫瘍特異的プロモーターとして、卵巣癌特異的1A1.3Bプロモーター(IAI.3Bプロモーター)を有するウイルスである。また、前記オンコリティックウイルスとしては、例えば、アデノウイルス34型、35型等が使用でき、これらは、血液細胞にも感染可能であり、血液性悪性腫瘍等を標的とする場合に好ましい。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、さらに、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CSF)の発現ベクターを含むことが好ましい。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記GM−CSF発現ベクターにより前記GM−CSFを発現させることで、標的の腫瘍細胞または腫瘍組織において、前記ウイルス感染キャリアー細胞と前記GM−CSFとを併存でき、これによって免疫反応をさらに向上できる。前記発現ベクターは、例えば、前記オンコリティックウイルスとは、独立したベクターとして用いてもよいし、前記オンコリティックウイルスのゲノムに前記発現ベクターを導入した、GM−CSF導入オンコリティックウイルスとして用いてもよい。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤が前記発現ベクターを含む場合、前記キャリアー細胞は、例えば、前記オンコリティックウイルスと前記発現ベクターとを共感染させた状態、または前記GM−CSF導入オンコリティックウイルスを感染させた状態で、被検体に投与でき、また、前記キャリアー細胞は、例えば、前記オンコリティックウイルスを感染させた細胞と前記発現ベクターを感染させた細胞の組合せとして、被検体に投与することもできる。しかしながら、これらの形態において、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤に含まれる前記キャリアー細胞は、例えば、前記発現ベクターに感染した前記ウイルス感染キャリアー細胞、前記発現ベクターに未感染の前記ウイルス感染キャリアー細胞、前記発現ベクターと前記オンコリティックウイルスの両方に未感染の前記ウイルス未感染キャリアー細胞のいずれでもよい。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記本発明のキャリアー細胞と前記発現ベクターとを、別個の薬剤として備えてもよいし、前記キャリアー細胞と前記発現ベクターとを1つの薬剤として備えてもよい。前記キャリアー細胞は、いずれの形態であっても、例えば、投与の際に、前記発現ベクターに感染した状態であればよく、具体的には、例えば、投与の際に、前記発現ベクターと前記オンコリティックウイルスの両方が共感染した状態、前記GM−CSF導入オンコリティックウイルスが感染した状態、または前記発現ベクターが感染した細胞と前記オンコリティックウイルスが感染した細胞の組合せの状態であればよい。
前記発現ベクターは、例えば、ベクターに、GM−CSFをコードするGM−CSF遺伝子が組み込まれたものである。前記遺伝子を組み込む前記ベクターは、特に制限されず、前記オンコリティックウイルスまたは前記GM−CSF導入オンコリティックウイルスと同種類のウイルスベクターが好ましく、前述の通りであり、好ましくはアデノウイルスである。前記オンコリティックウイルスとしてアデノウイルスを使用する場合、前記発現ベクターは、例えば、前記遺伝子を組み込んだアデノウイルスが好ましい。
前記ウイルス感染キャリアー細胞が、前記発現ベクターと前記オンコリティックウイルスの両方が共感染した細胞、または前記GM−CSF導入オンコリティックウイルスが感染した細胞の場合、前記キャリアー細胞に対する前記発現ベクターと前記オンコリティックウイルスの両者を合わせた感染量は、例えば、約5〜200MOIである。
また、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記発現ベクターに代えて、または、さらに、前記GM−CSFを含んでもよい。前記GM−CSFは、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞と同時に被検体に投与することが好ましい。前記GM−CSFの投与経路は、特に制限されず、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞と同じもよいし、経静脈、あるいは皮下、皮内からの全身投与でもよい。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記キャリアー細胞と前記GM−CSFとを、それぞれ別個の薬剤としてもよいし、一つの薬剤としてもよい。前者の場合、前記キャリアー細胞は、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞でもよいし、前記ウイルス未感染キャリアー細胞でもよい。前記ウイルス未感染キャリアー細胞の場合、前述のように、例えば、被検体への投与前に、前記オンコリティックウイルスを感染させて、前記ウイルス感染キャリアー細胞として被検体に投与すればよく、この際、前記GM−CSFを同時に投与することが好ましい。他方、後者の場合、前記キャリアー細胞は、前記ウイルス感染キャリアー細胞であることが好ましい。この場合、1つの薬剤であることから、前記ウイルス感染キャリアー細胞と前記GM−CSFとを、同時に被検体に投与できる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、さらに、アテロコラーゲンを含むことが好ましい。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、前記アテロコラーゲンを含むことで、例えば、副作用を十分に抑制でき、これに伴い、被検体に対する前記オンコリティックウイルスの投与量を、さらに増加できる。前記アテロコラーゲンによる副作用の抑制は、例えば、標的の腫瘍細胞または腫瘍組織からの前記オンコリティックウイルスの拡散の抑制、および、抗オンコリティックウイルス抗体に対するブロック等によると推測される。なお、本発明は、この推測には制限されない。
前記アテロコラーゲンは、例えば、コラーゲンのテロペプチド結合のみを切断した組成物であり、コラーゲンよりも分子量が小さく、水溶性である。前記アテロコラーゲンは、例えば、市販品(例えば、株式会社高研の製品)を使用してもよいし、コラーゲンをペプシン等で処理した組成物を使用してもよい。
前記アテロコラーゲンは、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞と同時に被検体に投与することが好ましい。前記アテロコラーゲンの投与経路は、特に制限されず、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞と同じである。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記キャリアー細胞と前記アテロコラーゲンとを、それぞれ別個の薬剤としてもよいし、一つの薬剤としてもよい。前者の場合、前記キャリアー細胞は、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞でもよいし、前記ウイルス未感染キャリアー細胞でもよい。前記ウイルス未感染キャリアー細胞の場合、前述のように、例えば、被検体への投与前に、前記オンコリティックウイルスを感染させて、前記ウイルス感染キャリアー細胞として被検体に投与すればよく、この際、前記アテロコラーゲンを同時に投与することが好ましい。他方、後者の場合、前記キャリアー細胞は、前記ウイルス感染キャリアー細胞であることが好ましい。この場合、1つの薬剤であることから、前記ウイルス感染キャリアー細胞と前記アテロコラーゲンとを、同時に被検体に投与できる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、さらに、ウイルス産生増加剤を含んでもよい。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、前記ウイルス産生増加剤を含むことで、例えば、標的の腫瘍細胞または腫瘍組織における前記オンコリティックウイルスの産生量を、さらに向上できる。
前記ウイルス産生増加剤は、例えば、鉄含有化合物およびポルフィリン化合物であり、いずれか一方を含んでもよいし、両方を含んでもよい。前記鉄含有化合物は、例えば、硫酸第一鉄(FeSO4)、クエン酸第一鉄、コンドロイチン硫酸鉄、含糖酸化鉄等が例示できる。前記鉄含有化合物は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上の併用でもよい。前記鉄含有化合物の種類は、特に制限されず、例えば、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤の投与形態によって、適宜選択できる。具体例として、例えば、経口剤の場合、硫酸第一鉄(FeSO4)またはクエン酸第一鉄等があげられ、静注剤の場合、コンドロイチン硫酸鉄または含糖酸化鉄等があげられる。前記ポルフィリン化合物は、例えば、5−アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid:ALA)、ヘマトポルフィリン(hematoporphyrin)、フォトフィリン(photofrin)等があげられ、ALAが好ましい。前記ウイルス産生増加剤として、前記鉄含有化合物と前記ポルフィリン化合物とを併用する場合、その組合せは特に制限されない。また、前記ウイルス産生増加剤は、HDAC inhibitorでもよい。
前記ウイルス産生増加剤は、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞と同時に被検体に投与することが好ましい。前記ウイルス産生増加剤の投与経路は、特に制限されず、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞と同じである。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記キャリアー細胞と前記ウイルス産生増加剤とを、それぞれ別個の薬剤としてもよいし、一つの薬剤としてもよい。前者の場合、前記キャリアー細胞は、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞でもよいし、前記ウイルス未感染キャリアー細胞でもよい。前記ウイルス未感染キャリアー細胞の場合、前述のように、例えば、被検体への投与前に、前記オンコリティックウイルスを感染させて、前記ウイルス関連キャリアー細胞として被検体に投与することが好ましく、この際、前記ウイルス産生増加剤を同時に投与することが好ましい。他方、後者の場合、前記キャリアー細胞は、前記ウイルス感染キャリアー細胞であることが好ましい。この場合、1つの薬剤であることから、前記ウイルス感染キャリアー細胞と前記ウイルス産生増加剤とを、同時に被検体に投与できる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、さらに、免疫処置用ウイルスを含んでもよい。前記免疫処置用ウイルスは、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞を感染させる前に、被検体に感染させて、事前に免疫(イムナイゼーション)を施すためのウイルスである。前記免疫処置用ウイルスを含む本発明の抗腫瘍効果の誘導剤によれば、例えば、予め、被検体に前記免疫処置用ウイルスを投与して免疫処置を施した後、前記ウイルス感染キャリアー細胞を投与することで、前記オンコリティックウイルスが標的の腫瘍細胞に感染して直接的な抗腫瘍効果をもたらし、さらに、感染した前記腫瘍細胞に対する、生体のCTL反応(細胞傷害性T細胞を介した細胞傷害活性)が、誘導または惹起され、結果として、より優れた抗腫瘍効果を実現できる。
前記免疫処置用ウイルスは、特に制限されず、例えば、前記オンコリティックウイルスと同種類のものが好ましく、より好ましくは、非増殖型ウイルスまたは不活化ウイルスであり、特に好ましくは、非増殖型ウイルス等である。前記非増殖型アデノウイルスは、例えば、増殖に関与するE1A遺伝子およびE1B遺伝子の両方が欠失した非増殖型ウイルスがあげられる。前記不活化は、例えば、増殖型ウイルスまたは非増殖型ウイルスを紫外線等で処理し、DNAを破壊することにより行える。
前記免疫処置用ウイルスとしてアデノウイルスを使用する場合、例えば、E1A遺伝子およびE1B遺伝子の両方が欠失したウイルス、紫外線照射等によりDNAを破壊し不活化したウイルス、E1A遺伝子およびE1B遺伝子の両方が欠失し且つDNAを破壊し不活化したウイルス等があげられる。前記免疫処置用ウイルスの具体例として、例えば、E1領域が欠失し、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下にβ-galactosidase(β gal)をコードするLacZ遺伝子が組み込まれたアデノウイルス(Ad-β gal)があげられる。なお、本発明は、これに限定されず、例えば、増殖型アデノウイルスを紫外線照射等で不活化したものでもよく、また、LacZ遺伝子等の他の遺伝子が組み込まれておらず、polyA配列のみの非増殖型アデノウイルス(Ad−polyA)を紫外線照射等で不活化したものでもよい。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記キャリアー細胞と前記免疫処置用ウイルスとを、それぞれ、別個の薬剤とすることが好ましい。前記免疫処置用ウイルスは、例えば、前記被検体に対して、前記ウイルス感染キャリアー細胞を投与する前に、投与することが好ましい。
前記免疫処置用ウイルスの投与経路は、特に制限されず、例えば、皮下投与または皮内投与があげられる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤が前記免疫処置用ウイルスを含む場合、例えば、腫瘍免疫(ワクチネーション)のため、腫瘍細胞を併用することが好ましい。前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞は、例えば、被検体における治療対象の腫瘍細胞に対する免疫応答をより向上することから、予め、放射線等の前処理を施した腫瘍細胞が好ましい。前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞は、例えば、患者由来の腫瘍細胞が好ましく、また、前記患者由来の腫瘍細胞に代えて、例えば、前記患者由来の腫瘍細胞と類似した抗原を提示すると考えられる、一般に入手可能な放射線照射した腫瘍細胞でもよい。前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞は、例えば、治療対象の腫瘍細胞とは異なる種類の腫瘍細胞でもよい。前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞は、例えば、前記免疫処置用ウイルスの投与と共に、または、その前後に、被検体に投与することが好ましい。そこで、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、さらに、前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞を含んでもよく、好ましくは、前記放射線照射した前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞を含んでもよい。
前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞への放射線照射の条件は、特に制限されず、例えば、約120〜600Gy、好ましくは約200〜400Gyである。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、前記キャリアー細胞と前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞とを、それぞれ別箇の薬剤とすることが好ましい。
前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞の投与経路は、特に制限されず、例えば、腫瘍内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与または皮内投与等があげられる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、前述のように、前記1剤系、前記2剤系および前記複数剤系のいずれでもよい。前記各薬剤は、例えば、いずれか1種類の前記成分を含んでもよいし、2種類以上の前記成分を含んでもよい。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、前述のように、前記本発明のキャリアー細胞(A1)を必須の成分とし、好ましくは、さらに、下記(B1)または(B3)を含み、より好ましくは、さらに、下記(B2)、(C1)、(C2)、(C3)、(D1)および(D2)からなる群から選択された少なくとも一つの成分を含む。
(A1)前記キャリアー細胞
(B1)前記オンコリティックウイルス
(B2)前記GM−CSF発現ベクター
(B3)前記GM−CSF導入オンコリティックウイルス
(C1)前記GM−CSF
(C2)前記アテロコラーゲン
(C3)前記ウイルス産生増加剤
(D1)前記免疫処置用ウイルス
(D2)前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤において、前記各成分の組合せとしては、例えば、以下の組合せが例示できる。
(1)前記(A1)キャリアー細胞
(2)前記(1)と、前記(B1)オンコリティックウイルスとの組合せ
(3)前記(1)または(2)と、前記(B2)GM−CSF発現ベクターとの組合せ
(4)前記(1)または(2)と、前記(C1)GM−CSFとの組合せ
(5)前記(1)と、前記(B3)GM−CSF導入オンコリティックウイルスとの組合せ
(6)前記(1)〜(5)のいずれかと、前記(C2)アテロコラーゲンとの組合せ
(7)前記(1)〜(6)のいずれかと、前記(C3)ウイルス産生増加剤との組合せ
(8)前記(1)〜(7)のいずれかと、前記(D1)免疫処置用ウイルスとの組合せ
(9)前記(1)〜(8)のいずれかと、前記(D2)腫瘍免疫用の腫瘍細胞との組合せ
(10)前記(1)〜(9)のいずれかと、後述する添加剤との組合せ
(11)前記(1)〜(10)のいずれかと、後述する容器との組合せ
前記(B1)、(B2)および(B3)の成分は、それぞれ、前述のように、例えば、被検体への投与前に、前記(A1)のキャリアー細胞に感染させる成分である。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤において、前記(B1)、(B2)および(B3)は、それぞれ、例えば、前記(A1)のキャリアー細胞と別個の薬剤であってもよいし、前記(A1)のキャリアー細胞と同じ薬剤、すなわち、前記キャリアー細胞に感染した状態で含まれてもよい。後者の場合、前記(A1)のキャリアー細胞は、例えば、前記(B1)および(B2)が共感染した細胞でもよいし、前記(B1)が感染した細胞と、前記(B2)が感染した細胞との組合せでもよいし、前記(B3)が感染した細胞でもよい。
前記(C1)、(C2)および(C3)の成分は、それぞれ、前述のように、例えば、前記オンコリティックウイルスが感染した前記(A1)のキャリアー細胞を被検体に投与する際、同様に前記被検体に投与する薬剤である。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤において、前記(C1)、(C2)および(C3)は、それぞれ、例えば、前記(A1)のキャリアー細胞と別個の薬剤でもよいし、前記(A1)のキャリアー細胞と同じ1つの薬剤であってもよい。前者の場合、前記(C1)−(C3)は、それぞれ、前記(A1)のキャリアー細胞と同時に、被検体に投与されることが好ましい。
前記(D1)および(D2)の成分は、それぞれ、前述のように、例えば、前記オンコリティックウイルスが感染した前記(A1)のキャリアー細胞を被検体に投与する前に、予め前記被検体に投与する薬剤である。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤において、前記(D1)および(D2)は、それぞれ、例えば、前記(A1)のキャリアー細胞と別個の薬剤であることが好ましい。
前記キャリアー細胞が、例えば、前記オンコリティックウイルス(B1)および任意で前記GM−CSF発現ベクター(B2)に感染したウイルス感染キャリアー細胞(A1)の場合、前記(C1)、(C2)および(C3)の成分は、任意で、前記ウイルス感染キャリアー細胞(A1)と同じ薬剤(第1薬剤)とすることができる。前記免疫処置用ウイルス(D1)および前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞(D2)は、それぞれ、例えば、同じ薬剤(第2薬剤)、または、別箇の薬剤(第2薬剤および第3薬剤)とすることもできる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、そのまま投与可能な形態であってもよいし、前述のように、製造用キットの形態、すなわち、被検体への投与前に、投与可能な形態への処理を行うものであってもよい。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤の形態は、特に制限されない。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤を被検体へ投与する際の形態は、例えば、被検体の種類に応じて、適宜決定でき、例えば、液状、固形状、液状薬剤と固形状薬剤との組み合わせでもよい。
前記被検体が生物個体の場合、前記本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、非経口用および経口用のいずれでもよく、また、両者の組み合わせでもよい。前記非経口用の場合、その形態は、例えば、注射剤等があげられる。また、その投与方法は、例えば、注射等があげられ、具体例としては、静注、点滴静注、腫瘍内注射、腹腔注射、胸腔内注射等の腔内注射等があげられる。前記経口用の場合、その形態は、例えば、液状、固形状のいずれでもよい。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤を被検体に投与する際、前記誘導剤の投与量、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与量は、特に制限されず、例えば、腫瘍の種類・大きさ、症状の程度、患者の年齢・性別、体重等に応じて調節できる。前記本発明の抗腫瘍効果の誘導剤が注射剤の場合、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞を含んでいればよく、常法に従って製造できる。前記ウイルス感染キャリアー細胞の希釈剤としては、例えば、生理食塩水、生理食塩緩衝液、細胞培養液、アルブミン製剤等が使用できる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、さらに、添加物を含んでもよい。前記添加物は、例えば、本発明の抗腫瘍効果の誘導剤の形態、投与方法、投与部位等に応じて適宜選択でき、例えば、ウイルスまたは発現ベクターの感染、細胞の培養、保存、医薬製剤の調製等に使用する添加剤があげられる。前記添加物は、例えば、緩衝液、酵素、試薬、製剤用担体、殺菌剤、防腐剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤等が例示できる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、さらに、容器を含んでもよい。前記容器は、例えば、ウイルスまたは発現ベクターの感染、細胞の培養、保存等のための容器があげられる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤において、各成分の含有量、含有濃度、含有比等は、特に制限されず、例えば、後述する本発明の抗腫瘍効果の誘導方法における記載を援用できる。
本発明の抗腫瘍効果の誘導剤は、例えば、被検体の抗腫瘍効果の誘導、被検体の癌の治療等に使用できる。本発明の抗腫瘍効果の誘導剤の使用方法は、例えば、後述する本発明の抗腫瘍効果の誘導方法における記載を援用できる。
本発明の癌の遺伝子治療用医薬は、前述のように、前記本発明の抗腫瘍効果の誘導剤を含むことを特徴とする。本発明の癌の遺伝子治療用医薬は、例えば、癌患者の治療に使用でき、前記本発明の抗腫瘍効果の誘導剤についての記載、および、後述する本発明の抗腫瘍効果の誘導方法における記載を援用できる。
<3.抗腫瘍効果の誘導方法>
本発明の誘導方法は、前述のように、被検体における抗腫瘍効果の誘導方法であり、被検体に、キャリアー細胞にオンコリティックウイルスを感染させたウイルス感染キャリアー細胞を投与する工程(A1)を含み、前記キャリアー細胞が、前記本発明の新規細胞であることを特徴とする。本発明の誘導方法は、例えば、治療対象の腫瘍細胞におけるオンコリティックウイルスの感染を利用する抗腫瘍効果の誘導において、本発明の新規細胞を前記キャリアー細胞として使用することが特徴であって、その他の構成および条件等は、特に制限されない。
本発明の誘導方法は、例えば、前記本発明の抗腫瘍効果の誘導剤を用いて行うことができる。特に示さない限り、本発明において被検体に投与する各成分は、前記本発明の抗腫瘍効果の誘導剤における記載を援用できる。
前記ウイルス感染キャリアー細胞の被検体への投与経路は、特に制限されず、前述の通りである。
前記ウイルス感染キャリアー細胞は、例えば、前記オンコリティックウイルスと前記GM−CSF発現ベクターを共発現させた細胞でもよい。また、前記ウイルス感染キャリアー細胞は、例えば、前記GM−CSF発現ベクターを感染させた前記ウイルス未感染キャリアー細胞と組合せて、前記被検体に投与してもよい。前記ウイルス感染キャリアー細胞は、前述のように、前記本発明のキャリアー細胞に前記オンコリティックウイルスを感染させることで調製できる。
本発明の誘導方法は、例えば、さらに、前記GM−CSFを投与する工程(C1)を含んでもよい。前記GM−CSFの投与工程(C1)は、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与工程(A1)と同時であることが好ましい。前記GM−CSFは、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞とGM−CSFとを含む注射剤として投与してもよく、また、経静脈から全身投与してもよい。
本発明の誘導方法は、例えば、さらに、前記アテロコラーゲンを投与する工程(C2)を含んでもよい。前記アテロコラーゲンの投与工程(C2)は、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与工程(A1)と同時であることが好ましい。前記アテロコラーゲンは、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞と前記アテロコラーゲンとを含む注射剤として投与してもよい。
本発明の誘導方法は、例えば、さらに、前記ウイルス産生増加剤を投与する工程を含んでもよい。前記ウイルス産生増加剤の投与工程(C3)は、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与工程(A1)と同時であることが好ましい。前記ウイルス産生増加剤は、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞と前記ウイルス産生増加剤とを含む注射剤として投与してもよい。
本発明の誘導方法は、例えば、さらに、前記免疫処置(イムナイゼーション)用ウイルスを投与する工程を含んでもよい。前記免疫処置用ウイルスによって、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与に対する被検体のCTL反応を誘導できることから、前記免疫処置用ウイルスの投与工程(D1)は、例えば、前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与工程(A1)よりも前に行うことが好ましい。具体的には、例えば、被検体に前記免疫処置用ウイルスを投与し、所定期間経過後、前記被検体に、さらに前記ウイルス感染キャリアー細胞を投与することが好ましい。前記所定期間は、特に制限されないが、例えば、約2週間〜約3ヵ月、約2週間〜約13週間、好ましくは3週間〜4週間であり、短期間が望ましい。前記免疫処置用ウイルスの投与方法は、特に制限されず、例えば、皮内注射または皮下注射が好ましい。
本発明の誘導方法は、例えば、さらに、前記腫瘍免疫(ワクチネーション)のための腫瘍細胞を投与する工程(D2)を含んでもよい。前記腫瘍細胞の投与工程(D2)は、例えば、前記免疫処置用ウイルスの投与工程(D1)と同時、その前、またはその後に行うことが好ましい。前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞の投与方法は、特に制限されず、例えば、皮内注射または皮下注射が好ましい。
前記ウイルス感染キャリアー細胞および前記その他の各成分の投与対象である被検体は、例えば、ヒトまたは非ヒト動物への投与であり、前記非ヒト動物は、例えば、前述の通りである。また、前記投与は、例えば、in vivo、ex vivoおよびin vitroのいずれでもよく、具体例として、生物個体、採取した細胞、組織または器官、培養した細胞、組織または器官等への投与があげられる。
本発明の誘導方法において、各成分の投与条件は、特に制限されず、例えば、以下のような条件が例示できる。なお、本発明は、これらの例示に制限されない。
前記被検体に対する前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与量は、特に制限されず、例えば、前述のように、腫瘍の種類・大きさ、症状の程度、患者の年齢・性別、体重等に応じて調節できる。前記被検体がヒト個体の場合、前記ウイルス感染キャリアー細胞の1回の投与量は、例えば、約1×106〜約1×109細胞数とし、前記ウイルス感染キャリアー細胞による前記オンコリティックウイルスの1回の投与量は、例えば、約5×106〜約2×1011plaque forming unit(PFU)である。なお、前記ウイルス未感染キャリアー細胞に対する前記オンコリティックウイルスの感染量は、特に制限されず、前述のように、例えば、約0.1〜200MOIであり、好ましくは約1〜100MOI、より好ましくは約5〜20MOIに設定できる。
前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与回数は、特に制限されず、例えば、投与期間において、1回の投与でもよいし、2回以上の複数回の投与でもよく、複数回のクールに分け、1クール当たりの投与回数および投与間隔等を任意に設定することもできる。また、前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与日数も、特に制限されない。前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与回数に応じて、例えば、他の成分の投与回数も設定できる。
前記被検体に対する前記アテロコラーゲンの投与量は、特に制限されない。前記アテロコラーゲンは、前記ウイルス感染キャリアー細胞と共に投与することが好ましく、この場合、前記ウイルス感染キャリアー細胞と前記アテロコラーゲンとを含む前記抗腫瘍効果の誘導剤を使用することが好ましく、その形態は、注射剤が好ましい。前記抗腫瘍効果の誘導剤が注射剤の場合、前記アテロコラーゲンの濃度は、特に制限されず、例えば、約0.01〜3.0%(w/v)、好ましくは約0.1〜0.2%(w/v)でも、十分な効果が得られる。
前記被検体に対する前記GM−CSFの投与量は、特に制限されない。前記GM−CSFは、前記ウイルス感染キャリアー細胞と共に投与することが好ましく、この場合、前記ウイルス感染キャリアー細胞と前記GM−CSFとを含む前記抗腫瘍効果の誘導剤を使用することが好ましく、その形態は、注射剤が好ましい。
前記被検体に対する前記免疫処置用ウイルスの投与量は、特に制限されず、例えば、被検体の前記ウイルスに対する抗体価、腫瘍の大きさ・種類、症状の程度、患者の年齢・性別、体重等に応じて適宜選択でき、また、前記被検体について、前記ウイルスに対する抗体が、陽性であるか陰性であるかに応じて、投与量を変更することが好ましい。
前記被検体が、抗体陰性(−)の前記ヒト個体の場合、例えば、約1×1010〜1×1012PFUであり、抗体陽性(+)の前記ヒト個体の場合、例えば、約1×108〜1×1010PFU、約1×108PFU未満または非投与とすることができる。具体例として、前記免疫処置用ウイルスおよび前記オンコリティックウイルスとして、タイプ5のアデノウイルスを使用する場合、前記免疫処置用ウイルスの投与量は、例えば、上述のような条件が好ましい。
前記被検体に対する前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞の投与量は、特に制限されず、例えば、約1×105〜108細胞数に設定できる。
以下に、前記免疫処置用ウイルスに対する抗体が陰性の被検体と、前記抗体が陽性の被検体とにわけて、前記免疫処置用ウイルスおよび前記腫瘍免疫用腫瘍細胞の投与について、例示する。なお、本発明は、この例示には制限されない。
抗体陰性の被検体の場合、前記免疫処置用ウイルスとして、例えば、前記非増殖型アデノウイルスを使用する。前記被検体への投与量は、例えば、約1×1010〜1×1012PFUである。前記免疫処置用ウイルスの投与と共に、前記腫瘍免疫用の腫瘍組織として、例えば、約200Gyで放射線処理した患者由来の腫瘍細胞(癌細胞)を、約1×105〜1010細胞数投与することが好ましい。前記免疫処置用ウイルスおよび前記腫瘍免疫用の腫瘍細胞の投与方法は、皮内注射または皮下注射が好ましい。
そして、前記免疫処置用ウイルスおよび腫瘍免疫用の腫瘍細胞の投与から、約3〜4週後、前記ウイルス感染キャリアー細胞を腫瘍内注射で投与する。前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与量は、例えば、1回あたり、約1×106〜1×109細胞数である。前記ウイルス感染キャリアー細胞は、例えば、約150〜400Gyで放射線処理した後、投与することが好ましい。前記ウイルス感染キャリアー細胞は、前記ウイルス未感染キャリアー細胞に、前記オンコリティックウイルスおよび前記GM−CSF発現ベクターを、それぞれ、例えば、約5〜200MOI、約5〜50MOIの条件で感染させて調製することが好ましい。前記オンコリティックウイルスと前記GM−CSF発現ベクターは、それぞれ、アデノウイルスが好ましい。前記ウイルス感染キャリアー細胞は、注射剤が好ましく、さらに、約0.1〜0.2%のアテロコラーゲンが混合されていることが好ましい。また、前記ウイルス感染キャリアー細胞の投与と同時に、例えば、前記ウイルス産生増加剤として、約40〜100mgの鉄(Fe)を静注する、または、同時に、前記ウイルス産生増加剤として、約2−2000mgのALAを腫瘍内に投与することが好ましい。また、HDAC inhibitorを約5−500mg経口投与することが望ましい。これらの一連の投与を、例えば、1クールの投与として、前記ウイルス感染キャリアー細胞を1〜6回投与することが好ましい。前記複数回の投与は、例えば、連日あるいは2,3日おきに行うことが好ましい。
前記抗体陽性の被検体の場合、前記免疫処置用ウイルスの投与量を、約1×1012PFU以下とすることが好ましく、その他は、例えば、前記抗体陰性と同様の条件で処理できる。
前記各成分の投与量として、ヒト個体を例にあげたが、ヒト以外の非ヒト動物個体に対しては、例えば、ヒトとの体重の違いを考慮して、投与量を適宜設定できる。前記非ヒト動物が、例えば、マウスまたはラット等の場合、前記各成分の投与量を約1/1000に設定できる。
本発明の誘導方法は、例えば、前記オンコリティックウイルスの感染力をより向上するために、他の抗がん剤の投与または放射線照射療法、手術療法等と併用することもできる。
<4.癌の治療方法>
本発明の癌の治療方法は、患者に、キャリアー細胞にオンコリティックウイルスを感染させたウイルス感染キャリアー細胞を投与する工程(A1)を含み、前記キャリアー細胞が、前記本発明の新規細胞であることを特徴とする。本発明の治療方法は、投与対象が患者であり、具体的な方法は、例えば、前記本発明の抗腫瘍効果の誘導方法における記載を援用できる。
前記患者は、例えば、ヒトまたは非ヒト動物であり、前記非ヒト動物は、例えば、前述の通りである。
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。
[実施例1]
愛媛大学医学部で独自に単離した肺癌患者の肺腺癌細胞(EHMK細胞)を限界希釈して、EHMK−51細胞を取得し、抗腫瘍効果を確認した。
(1)限界希釈法
96ウェルディッシュに、0.25細胞/100μL培地/wellまたは0.5細胞/100μL培地/wellとなるように細胞培養液を調製し、前記EHMK細胞を播種した。前記培地は、10%FCS含有RPMIを使用した。そして、倒立顕微鏡(ECLIPS TS100、Nikon社製)により前記各ウェルの細胞を観察し、1細胞/wellとなっているウェルのみ、限界希釈の対象とした。そして、前記対象となった細胞の培養を行い、細胞の形状、アポトーシスの状況、増殖状況に基づき、増殖に安定性がある細胞を、キャリアー細胞候補群IのEMHM−51細胞として選抜し、液体窒素に凍結保存した。前記培養の間、1〜2週間に1度の間隔で、各ウェルに前記培地を適宜補充し、培養条件は、37℃ 5%CO2とした(以下同様)。
(2)キャリアー細胞の作製
6ウェルディッシュに、1×106細胞/2mL培地/wellとなるよう、前記キャリア細胞候補群IのEMHM−51細胞をそれぞれ播種し、一晩培養した。前記培地は、10%FCS含有RPMIを使用した。前記培養後、前記ウェル内の培地を吸引除去し、オンコリティックウイルスとして、アデノウイルスAdE3−midkineを添加して、3時間の培養により、前記アデノウイルスを前記細胞に感染させた。前記アデノウイルスは、500MOI/1mL培地/wellとした。この際、前記培地は、FCS未添加のRPMIを使用した。そして、前記感染後、各ウェルに、20%FCS含有RPMIを1mL添加し、2日間培養を行った。そして、前記ウェル内の培地を吸引除去し、リン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄を行った後、トリプシン1mLで、前記ウェル内の細胞を回収した。回収した細胞をEHMK−51キャリアー細胞とした。
(3)抗腫瘍効果の確認
得られたEHMK−51キャリアー細胞について、抗アデノウイルス抗体の非存在下および存在下における抗腫瘍効果を確認した。
まず、96ウェルディッシュに、1×103細胞/100μL培地/wellとなるよう、卵巣癌細胞HEY(入手元:MD Anderson Cancer Center)を播種し、1日培養した。そして、回収した前記EHMK−51キャリアー細胞を、4×103細胞/wellから4倍で連続希釈し、前記HEYを播種したウェルに、前記連続希釈したEHMK−51キャリアー細胞を、それぞれ播種した。
つぎに、前記ウェル内の前記EHMK−51キャリアー細胞を、抗アデノウイルス抗体の存在下または非存在下で、5日間培養を行った。抗アデノウイルス抗体は、グロベニン−I(日本製薬社製)を使用し、添加量は、20μL(抗体価600倍)/ウェルとした。前記培養後、前記ウェルの培地を吸引除去し、200μL/wellとなるよう20%エタノールを添加した0.5%クリスタルバイオレット含有染色液を添加し、室温で1時間染色した。前記染色後、前記ウェルをPBSで3回洗浄し、残存するPBSを除去し、前記96ウェルディッシュを逆さにして室温で30分間乾燥した。
そして、乾燥後のウェルについて、550nmにおける吸光度を、分光光度計を用いて測定し、IC50(EHMK−51キャリアー細胞/well)を算出した。
比較例として、前記EHMK−51細胞に代えて、公知のA549細胞(入手元:独立行政法人 医薬基盤研究所 生物資源バンク)を用いた以外、同様にして、IC50を算出した。そして、前記A549のIC50を1とし、前記EHMK−51キャリアー細胞のIC50の比を求め、これを前記EHMK−51キャリアー細胞の抗腫瘍効果(EHMK−51/A549)として算出した。これらの結果を図1に示す。
図1は、抗アデノウイルス抗体の存在下(抗体(+))または非存在下(抗体(−))における抗腫瘍効果を示すグラフである。図1において、横軸は、細胞の種類を示し、縦軸は、抗腫瘍効果(IC50、A549/EHMK−51、A549=1)を示す。
図1に示すように、抗アデノウイルス抗体の非存在下および存在下のいずれにおいても、EHMK−51キャリアー細胞が、卵巣癌細胞HEYに対して、極めて優れた抗腫瘍効果を奏した。この結果は、前記A549キャリアー細胞の抗腫瘍効果に対して、抗体非存在下で約3.4±1.9倍の抗腫瘍効果であり、抗体存在下で約4.5±1.1倍の抗腫瘍効果であった。これらの結果から、EHMK−51キャリアー細胞が、極めて優れた抗腫瘍効果を発揮するキャリアー細胞であることがわかった。
[実施例2]
前記実施例1で得られたEHMK−51細胞について、継代による抗腫瘍効果の変化を確認した。
前記EHMK−51細胞を、継代0代目とした。そして、以下のようにして、継代を繰り返し、継代1〜20代目のEHMK−51細胞を作製した。前記継代1〜20代目のEHMK−51細胞は、10mLディッシュに、10mL培地/dishとなるよう培地を添加し、37℃、5%CO2の条件下でsubconfluentの状態になるまで培養した。前記培地は、10%FCS含有RPMIを使用した。前記培養後、前記ディッシュをPBSで2回洗浄を行った後、トリプシン1mLで、前記継代1〜20代目のEHMK−51細胞を回収した。1mLの前記回収液のうち50−100μLについて継代を行い、残りの前記回収液について、前記培地1mLを添加した後に、前記実施例1と同様にして、抗アデノウイルス抗体の存在下または非存在下での抗腫瘍効果を算出した。また、内部標準として、各継代時に、前記継代0〜20代目のEHMK−51細胞に代えてA549細胞を用いた以外は、同様にして抗腫瘍効果を算出した。そして、前記継代0〜20代目のEHMK−51キャリアー細胞の抗腫瘍効果について、各継代時のA549の抗腫瘍効果で補正した。そして、継代0代目(EHMK−51)のIC50を1とし、各継代のIC50の比を求め、これを各継代のキャリアー細胞の抗腫瘍効果として算出した。これらの結果を図2および図3に示す。
図2は、抗アデノウイルス抗体の非存在下における抗腫瘍効果を示すグラフであり、図3は、抗アデノウイルス抗体の存在下における抗腫瘍効果を示すグラフである。図2および図3において、横軸は、細胞の種類を示し、縦軸は、抗腫瘍効果(IC50、継代0代目=1)を示す。
図2に示すように、前記抗アデノウイルス抗体の非存在下において、継代20代目においても、十分な抗腫瘍効果が維持できた。また、図3に示すように、前記抗アデノウイルス抗体の存在下において、継代20代目においても、十分な抗腫瘍効果が維持できた。
[実施例3]
前記実施例1で得られたEHMK−51細胞を限界希釈して、さらに、EHMK−51細胞由来のクローン細胞群を取得し、抗腫瘍効果を確認した。
前記キャリアー細胞候補群Iに代えて、前記EHMK−51細胞を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、限界希釈を行い、40種類の前記EHMK−51細胞のクローン細胞群を作製した。そして、前記実施例1と同様にして、前記クローン細胞群について、抗アデノウイルス抗体の存在下または非存在下における前記クローン細胞群のIC50を計算した。そして、前記EHMK−51細胞のIC50を1とし、前記クローン細胞群のキャリアー細胞のIC50の比を求め、これを前記キャリアー細胞候補群の抗腫瘍効果として算出した。これらの結果を図4および図5に示す。
図4は、抗アデノウイルス抗体の非存在下における抗腫瘍効果を示すグラフであり、図5は、抗アデノウイルス抗体の存在下における抗腫瘍効果を示すグラフである。図4および図5において、横軸は、細胞の種類を示し、縦軸は、抗腫瘍効果(IC50、EHMK−51=1)を示す。
図4および図5に示すように、抗アデノウイルス抗体の非存在下および存在下のいずれにおいても、前記クローン細胞群の全てのキャリアー細胞が、卵巣癌細胞HEYに対して、極めて優れた抗腫瘍効果を奏した。中でも、EHMK−51−32細胞およびEHMK−51−35キャリアー細胞は、特に高い抗腫瘍効果を奏し、前記EHMK−51キャリアー細胞の抗腫瘍効果に対して、抗体非存在下で、それぞれ、約2.8±0.8倍および約3.1±1.5倍の抗腫瘍効果であり、抗体存在下で、それぞれ、約2.6±0.8倍および約2.8±0.9倍の抗腫瘍効果であった。これらの結果から、EHMK−51細胞由来のクローン細胞は、いずれも、極めて優れた抗腫瘍効果を発揮するキャリアー細胞であることがわかった。
[実施例4]
キャリアー細胞として、EHMK−51細胞、それのクローン細胞であるEHMK−51−32細胞およびEHMK−51−35細胞を使用し、それぞれの抗腫瘍効果を比較した。
キャリアー細胞として、EHMK−51細胞、EHMK−51−32細胞およびEHMK−51−35細胞を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、それぞれの細胞のIC50を計算した。また、比較例として、前記実施例1と同様に、A549を使用し、同様に、IC50を計算した。そして、前記A549のIC50を1とし、前記実施例1と同様にして、各キャリアー細胞の抗腫瘍効果を計算した。この結果を図6に示す。
図6は、抗アデノウイルス抗体の非存在下および存在下における抗腫瘍効果を示すグラフである。図7において、横軸は、細胞の種類を示し、縦軸は、抗腫瘍効果(IC50、A549=1)を示す。
図6に示すように、抗アデノウイルス抗体の非存在下および存在下のいずれにおいても、EHMK−51キャリアー細胞、EHMK−51−32キャリアー細胞およびEHMK−51−35キャリアー細胞は、極めて優れた抗腫瘍効果を示した。そして、前記A549細胞の抗腫瘍効果に対して、抗体非存在下で、それぞれ、約3.4±1.9倍、約9.5±3.0倍、約10.5±5.0倍の抗腫瘍効果を示し、抗体存在下で、それぞれ、約4.5±1.1倍、約11.9±3.7倍、約12.5±4.3倍の抗腫瘍効果を示した。これらの結果から、EHMK−51キャリアー細胞およびそのクローン細胞、特にEHMK−51−35キャリアー細胞が、極めて優れた抗腫瘍効果を発揮するキャリアー細胞であることがわかった。
これらの結果から、本発明のキャリアー細胞を使用することで、良好な抗腫瘍効果が得られることがわかった。
[実施例5]
前記実施例3で得られたクローン細胞EHMK−51−35をキャリアー細胞とし、免疫力のある皮下腫瘍モデルマウスにおけるin vivoでの抗腫瘍効果を確認した。
免疫機能が正常なであるB6C3F1マウスに、同種の高転移性卵巣癌細胞OVHMを皮下移植し、その10日後以降に形成された5−10mmの皮下腫瘍に対し、アデノウイルスAd-β galによる事前免疫を行った。そして、事前免疫の3週間後、前記皮下腫瘍に、3日間毎日、前記キャリアー細胞を腫瘍内投与して、治療を行う、生存率を確認した。前記マウスは、各群あたり10匹とした。前記キャリアー細胞は、オンコリティックアデノウイルスAdE3−midkineを感染させたものと、AdE3−midkineおよびアデノウイルス−mGM−CSF(Ad-mGM-CSF)を感染させたものを、それぞれ使用した。
また、皮下腫瘍に対して、キャリアー細胞による治療を行っていない群(Control)、キャリアー細胞による治療を行っていない群(AdE3−midkine)、前記キャリアー細胞としてA549細胞を使用した群(A549(AdE3-midkine)、A549(AdE3-midkine+Ad−mGM−CSF))についても、同様にして生存率を確認した。
これらの結果を図7に示す。図7は、マウスの生存率を示すグラフであり、Kaplan−Meierの生存曲線で表した。図7において、縦軸が生存率(%)、横軸が日数を示す。図7に示すように、未治療のControlおよびAdE3−midkineは、100日目前後で生存率が0%となった。また、A549キャリアー細胞を使用した群は、生存率が、約30%および約60%でプラトーに達した。これに対して、前記EHMK−51細胞のクローンキャリアー細胞によれば、生存率を約80%と約100%に維持することができた。中でも、オンコリティックアデノウイルスおよびアデノウイルス−mGM−CSFを共感染した前記クローンキャリアー細胞の場合、生存率が約100%と極めて優れた結果が得られた。
[実施例6]
前記実施例3で得られたクローン細胞EHMK−51−35をキャリアー細胞とし、免疫力のある腹腔内腫瘍モデルマウスにおけるin vivoでの抗腫瘍効果を確認した。
免疫機能が正常であるB6C3F1マウスに、アデノウイルスAd-β galによる事前免疫を行い、同種の高転移性卵巣癌細胞OVHMを腹腔内移植した。4日後以降に形成された腹腔内腫瘍に対し、2日毎に3回の腹腔内治療を行った以外は、前記実施例5と同様にして、生存率を確認した。
これらの結果を図8に示す。図8は、マウスの生存率を示すグラフであり、Kaplan−Meierの生存曲線で表した。図8において、縦軸が生存率(%)、横軸が日数を示す。図8に示すように、未治療のControl、AdE3−midkineおよびA549キャリアー細胞を使用した群は、いずれも、50日目前後で生存率が0%となった。これに対して、前記EHMK−51細胞のクローンキャリアー細胞によれば、生存率を約40%と約70%に維持することができた。中でも、オンコリティックアデノウイルスおよびアデノウイルス−mGM−CSFを共感染した前記クローンキャリアー細胞の場合、生存率が約70%と極めて優れた結果が得られた。
これらの結果から、本発明のキャリアー細胞を使用することで、良好な抗腫瘍効果が得られることがわかった。
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。