以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
<可変圧縮比内燃機関>
図1は、本発明に係る可変長コンロッドを備える可変圧縮比内燃機関の概略的な側面断面図を示す。図1を参照すると、1は内燃機関を示している。内燃機関1は、クランクケース2、シリンダブロック3、シリンダヘッド4、ピストン5、可変長コンロッド6、燃焼室7、燃焼室7の頂面中央部に配置された点火プラグ8、吸気弁9、吸気カムシャフト10、吸気ポート11、排気弁12、排気カムシャフト13、排気ポート14を具備する。
可変長コンロッド6は、その小径端部においてピストンピン21によりピストン5に連結されると共に、その大径端部においてクランクシャフトのクランクピン22に連結される。可変長コンロッド6は、後述するように、ピストンピン21の軸線からクランクピン22の軸線までの距離、すなわち有効長さを変更することができる。
可変長コンロッド6の有効長さが長くなると、クランクピン22からピストンピン21までの長さが長くなるため、図中に実線で示したようにピストン5が上死点にあるときの燃焼室7の容積が小さくなる。一方、可変長コンロッド6の有効長さが変化しても、ピストン5がシリンダ内を往復動するストローク長さは変化しない。したがって、このとき、内燃機関1における機械圧縮比が大きくなる。
一方、可変長コンロッド6の有効長さが短くなると、クランクピン22からピストンピン21までの長さが短くなるため、図中に破線で示したようにピストン5が上死点にあるときの燃焼室7内の容積が大きくなる。しかしながら、上述したように、ピストン5のストローク長さは一定である。したがって、このとき、内燃機関1における機械圧縮比が小さくなる。
<可変長コンロッドの構成>
図2は、本発明に係る可変長コンロッド6を概略的に示す斜視図であり、図3は、本発明に係る可変長コンロッド6を概略的に示す断面側面図である。図2及び図3に示したように、可変長コンロッド6は、コンロッド本体31と、コンロッド本体31に回動可能に取り付けられた偏心部材32と、コンロッド本体31に設けられた第1ピストン機構33及び第2ピストン機構34と、これら両ピストン機構33、34への作動油の流れの切換を行う流れ方向切換機構35とを具備する。
まず、コンロッド本体31について説明する。コンロッド本体31は、その一方の端部にクランクシャフトのクランクピン22を受容するクランク受容開口41を有し、他方の端部に後述する偏心部材32のスリーブを受容するスリーブ受容開口42を有する。クランク受容開口41はスリーブ受容開口42よりも大きいことから、クランク受容開口41が設けられている側(クランクシャフト側)に位置するコンロッド本体31の端部を大径端部31aと称し、スリーブ受容開口42が設けられている側(ピストン側)に位置するコンロッド本体31の端部を小径端部31bと称する。
なお、本明細書では、クランク受容開口41の中心軸線(すなわち、クランク受容開口41に受容されるクランクピン22の軸線)と、スリーブ受容開口42の中心軸線(すなわち、スリーブ受容開口42に受容されるスリーブの軸線)との間で延びる線X(図3)、すなわちコンロッド本体31の中央を通る線をコンロッド6の軸線と称す。また、コンロッド6の軸線Xに対して垂直であってクランク受容開口41の中心軸線に垂直な方向におけるコンロッドの長さをコンロッドの幅と称する。加えて、クランク受容開口41の中心軸線に平行な方向におけるコンロッドの長さをコンロッドの厚さと称する。
図2及び図3からわかるように、コンロッド本体31の幅は、大径端部31aと小径端部31bとの間の中間部分で最も細い。また、大径端部31aの幅は小径端部31bの幅よりも広い。一方、コンロッド本体31の厚さは、ピストン機構33、34が設けられている領域を除いてほぼ一定の厚さとされる。
次に、偏心部材32について説明する。図4及び図5は、コンロッド本体31の小径端部31b近傍の概略斜視図である。図4及び図5では、偏心部材32は、分解された状態で示されている。図2〜図5を参照すると、偏心部材32は、コンロッド本体31に形成されたスリーブ受容開口42内に受容される円筒状のスリーブ32aと、スリーブ32aからコンロッド本体31の幅方向において一方の方向に延びる一対の第1アーム32bと、スリーブ32aからコンロッド本体31の幅方向において他方の方向(上記一方の方向とは概して反対方向)に延びる一対の第2アーム32cとを具備する。スリーブ32aはスリーブ受容開口42内で回動可能であるため、偏心部材32はコンロッド本体31の小径端部31bにおいてコンロッド本体31に対して小径端部31bの周方向に回動可能に取り付けられることになる。偏心部材32の回動軸線はスリーブ受容開口42の中心軸線と一致する。
また、偏心部材32のスリーブ32aは、ピストンピン21を受容するためのピストンピン受容開口32dを有する。このピストンピン受容開口32dは円筒状に形成されている。円筒状のピストンピン受容開口32dは、その軸線がスリーブ32aの円筒状外形の中心軸線と平行ではあるが、同軸にはならないように形成される。したがって、ピストンピン受容開口32dの中心軸線は、スリーブ32aの円筒状外形の中心軸線、すなわち偏心部材32の回動軸線から偏心している。
このように、本実施形態では、スリーブ32aのピストンピン受容開口32dの中心軸線が偏心部材32回動軸線から偏心している。このため、偏心部材32が回転すると、スリーブ受容開口42内でのピストンピン受容開口32dの位置が変化する。スリーブ受容開口42内においてピストンピン受容開口32dの位置が大径端部31a側にあるときには、コンロッドの有効長さが短くなる。逆に、スリーブ受容開口42内においてピストンピン受容開口32dの位置が大径端部31a側とは反対側にあるときには、コンロッドの有効長さが長くなる。したがって本実施形態によれば、偏心部材を回動させることによって、コンロッド6の有効長さが変化する。
次に、図3を参照して、第1ピストン機構33について説明する。第1ピストン機構33は、コンロッド本体31に形成された第1シリンダ33aと、第1シリンダ33a内で摺動する第1ピストン33bとを有する。第1シリンダ33aは、そのほとんど又はその全てがコンロッド6の軸線Xに対して第1アーム32b側に配置される。また、第1シリンダ33aは、小径端部31bに近づくほどコンロッド本体31の幅方向に突出するように軸線Xに対して或る程度の角度だけ傾斜して配置される。また、第1シリンダ33aは、第1ピストン連通油路51を介して流れ方向切換機構35と連通する。
第1ピストン33bは、第1ロッド45により偏心部材32の第1アーム32bに連結される。具体的には、第1アーム32bは、スリーブ32aに結合されている側とは反対側の端部において、第1連結ピン36によって第1ロッド45に回転可能に連結される。第1ピストン33bは、第2連結ピン37によって第1ロッド45に回転可能に連結される。したがって、第1ロッド45はその一方の端部に位置する第1連結部において第1連結ピン36によって偏心部材32の第1アーム32bに連結される。加えて、第1ロッド45はその他方の端部に位置する第2連結部において第2連結ピン37によって第1ピストン33bに連結される。
次に、第2ピストン機構34について説明する。第2ピストン機構34は、コンロッド本体31に形成された第2シリンダ34aと、第2シリンダ34a内で摺動する第2ピストン34bとを有する。第2シリンダ34aは、そのほとんど又はその全てがコンロッド6の軸線Xに対して第2アーム32c側に配置される。また、第2シリンダ34aは、小径端部31bに近づくほどコンロッド本体31の幅方向に突出するように軸線Xに対して或る程度の角度だけ傾斜して配置される。また、第2シリンダ34aは、第2ピストン連通油路52を介して流れ方向切換機構35と連通する。
第2ピストン34bは、第2ロッド46により偏心部材32の第2アーム32cに連結される。具体的には、第2アーム32cは、スリーブ32aに結合されている側とは反対側の端部において、第3連結ピン38によって第2ロッド46に回転可能に連結される。第2ピストン34bは、第4連結ピン39によって第2ロッド46に回動可能に連結される。したがって、第2ロッド46はその一方の端部に位置する第3連結部において第3連結ピン38によって偏心部材32の第2アーム32cに連結される。加えて、第2ロッド46は、その他方の端部に位置する第4連結部において第4連結ピン39によって第2ピストン34bに連結される。
図6は、第1ロッド45の形状を示す平面図である。ここで、第1連結部と第2連結部との間で延びる直線に対して垂直であって、第1連結ピン36及び第2連結ピン37の軸線方向(すなわち、ピストンピン21及びクランクピン22の軸線方向)と垂直な方向を第1ロッド45の幅方向とする。図6に示したように、第1ロッド45は、基本的に、その幅方向における長さ(以下、「幅」という)Wが第1ピストン33b側から第1アーム32b側に向かうにつれて徐々に大きくなるように形成されている。また、第1ロッド45は、幅方向においてコンロッド本体31側とは反対方向に拡がるように形成されている。したがって、第1ロッド45は、第1ピストン33b側から第1アーム32b側に向かうにつれてその幅がコンロッド本体31側とは反対方向に徐々に拡がるように形成されているといえる。
このように構成された第1ロッド45では、その重心が図6にCで示した点に位置する。すなわち、第1ロッド45の重心は第1連結部と前記第2連結部との間で延びる直線Lに対してコンロッド本体31側とは反対側に位置する。加えて、第1ロッド45の重心は第1連結部と第2連結部との中央(図中の直線T)よりも第1連結部側に位置することになる。
一方、第2ロッド46は図3に示すように第3連結部と第4連結部との間で直線的に延びる。ここで、第3連結部と第4連結部との間で延びる直線に対して垂直であって、第3連結ピン38及び第4連結ピン39の軸線方向(すなわち、ピストンピン21及びクランクピン22の軸線方向)と垂直な方向を第2ロッド46の幅方向とする。図3に示したように、第2ロッド46は、基本的に、その幅方向における長さ(以下、「幅」という)Wが第2ピストン34b側から第2アーム32c側までほぼ一定になるように形成されている。このように構成された第2ロッド46ではその重心が第3連結部と第4連結部との間で延びる直線上に位置する。
また、第1ロッド45は幅方向に拡がっているのに対して、第2ロッド46は幅方向に拡がっていない。加えて、図3に示したように、第1ロッド45の長さ(すなわち、第1連結部と第2連結部との間の長さ)は、第2ロッド46の長さ(すなわち、第3連結部と第4連結部との間の長さ)よりも長い。この結果、第1ロッド45の質量は第2ロッド46の質量よりも重い。
なお、第1ロッド45は、必ずしも図6に示した形状と同一の形状でなくてもよく、その重心が第1連結部と第2連結部との間で延びる直線に対してコンロッド本体側とは反対側にあり且つ第1連結部と第2連結部との中央よりも第1連結部側に位置するように構成されれば、如何なる形状であってもよい。したがって、第1ロッド45は、図7に示したように、その幅が第1ピストン33b側から第1アーム32b側に向かうにつれて、最初は徐々にコンロッド本体31側とは反対方向に拡がり、途中の変曲点から徐々に狭くなるように構成されてもよい。この場合、変曲点は、第1連結部と第2連結部との中央よりも第1連結部側に位置することになる。
また、本実施形態では、第1ロッド45及び第2ロッド46は同一の物質で形成されている。しかしながら、第1ロッド45は、第2ロッド46よりも比重の大きい物質で形成されてもよい。これにより、第1ロッド45を第2ロッド46よりもより重いものとすることができる。
<可変長コンロッドの動作>
次に、図8を参照して、このように構成された偏心部材32、第1ピストン機構33及び第2ピストン機構34の動作について説明する。図8(A)は、第1ピストン機構33の第1シリンダ33a内に作動油が供給され且つ第2ピストン機構34の第2シリンダ34a内には作動油が供給されていない状態を示している。一方、図8(B)は、第1ピストン機構33の第1シリンダ33a内には作動油が供給されておらず且つ第2ピストン機構34の第2シリンダ34a内には作動油が供給されている状態を示している。
ここで、後述するように、流れ方向切換機構35は、第1シリンダ33aから第2シリンダ34aへの作動油の流れを禁止し且つ第2シリンダ34aから第1シリンダ33aへの作動油の流れを許可する第一状態と、第1シリンダ33aから第2シリンダ34aへの作動油の流れを許可し且つ第2シリンダ34aから第1シリンダ33aへの作動油の流れを禁止する第二状態との間で切換可能である。
流れ方向切換機構35が第1シリンダ33aから第2シリンダ34aへの作動油の流れを禁止し且つ第2シリンダ34aから第1シリンダ33aへの作動油の流れを許可する第一状態にあると、図8(A)に示したように、第1シリンダ33a内には作動油が供給され、第2シリンダ34aから作動油が排出されることになる。このため、第1ピストン33bは上昇し、第1ピストン33bに連結された偏心部材32の第1アーム32bも上昇する。一方、第2ピストン34bは下降し、第2ピストン34bに連結された第2アーム32cも下降する。この結果、図8(A)に示した例では、偏心部材32が図中の矢印の方向(時計回り)に回動され、その結果、ピストンピン受容開口32dの位置が上昇する。したがって、クランク受容開口41の中心とピストンピン受容開口32dの中心との間の長さ、すなわちコンロッド6の有効長さが長くなり、図中のL1となる。すなわち、第1シリンダ33a内に作動油が供給され、第2シリンダ34aから作動油が排出されると、コンロッド6の有効長さが長くなる。
一方、流れ方向切換機構35が第1シリンダ33aから第2シリンダ34aへの作動油の流れを許可し且つ第2シリンダ34aから第1シリンダ33aへの作動油の流れを禁止する第二状態にあると、図8(B)に示したように、第2シリンダ34a内には作動油が供給され、第1シリンダ33aから作動油が排出されることになる。このため、第2ピストン34bは上昇し、第2ピストン34bに連結された偏心部材32の第2アーム32cも上昇する。一方、第1ピストン33bは下降し、第1ピストン33bに連結された第1アーム32bも下降する。この結果、図8(B)に示した例では、偏心部材32が図中の矢印の方向(反時計回り)に回動され、その結果、ピストンピン受容開口32dの位置が下降する。したがって、クランク受容開口41の中心とピストンピン受容開口32dの中心との間の長さ、すなわちコンロッド6の有効長さは図中のL1よりも短いL2となる。すなわち、第2シリンダ34a内に作動油が供給され、第1シリンダ33aから作動油が排出されると、コンロッド6の有効長さが短くなる。
本実施形態に係るコンロッド6では、上述したように、流れ方向切換機構35を第一状態と第二状態との間で切り替えることによって、コンロッド6の有効長さをL1とL2との間で切り替えることができる。この結果、コンロッド6を用いた内燃機関1では、機械圧縮比を変更することができる。
ここで、流れ方向切換機構35が第一状態にあるときには、基本的には外部から作動油を供給することなく、偏心部材32が図6の時計回りに回動し、これに伴って第1ピストン33b及び第2ピストン34bが図8(A)に示した位置まで移動する。これは、内燃機関1のシリンダ内でピストン5の往復動によってピストン5に上向きの慣性力が作用したときに偏心部材32が図8の時計回りに回動して第2ピストン34bが押し込まれ、これによって第2シリンダ34a内の作動油が第1シリンダ33aに移動するためである。この結果、コンロッド6の有効長さが長くなり、ピストン5はコンロッド本体31に対して上昇する。一方、内燃機関1のシリンダ内でピストン5が往復動してピストン5に下向きの慣性力が作用したときや、燃焼室7内で混合気の燃焼が起きてピストン5に下向きの力が作用したときには、偏心部材32が図8の反時計回りに回動しようとし、よって第1ピストン33bが押し込まれようとする。しかしながら、流れ方向切換機構35により第1シリンダ33aから第2シリンダ34aへの作動油の流れが禁止されているため、第1シリンダ33a内の作動油は流出せず、よって第1ピストン33bは押し込まれない。
一方、流れ方向切換機構35が第二状態にあるときにも、基本的には外部から作動油を供給することなく、偏心部材32が図8の反時計回りに回動し、これに伴って第1ピストン33b及び第2ピストン34bが図8(B)に示した位置まで移動する。これは、内燃機関1のシリンダ内でのピストン5の往復動によってピストン5に下向きの慣性力が作用したときや、燃焼室7内で混合気の燃焼が起きてピストン5に下向きの爆発力が作用したときに、偏心部材32が図8の反時計回りに回動して第1ピストン33bが押し込まれ、これによって第1シリンダ33a内の作動油が第2シリンダ34aに移動するためである。この結果、コンロッド6の有効長さが短くなり、ピストン5はコンロッド本体31に対して下降する。一方、内燃機関1のシリンダ内でピストン5が往復動してピストン5に上向きの慣性力が作用したときには、偏心部材32が図8の時計回りに回動しようとし、よって第2ピストン34bが押し込まれようとする。しかしながら、流れ方向切換機構35により第2シリンダ34aから第1シリンダ33aへの作動油の流れが禁止されているため、第2シリンダ34a内の作動油は流出せず、よって第2ピストン34bは押し込まれない。
<流れ方向切換機構の構成>
次に、図9、図10を参照して、流れ方向切換機構35の構成について説明する。図9は、流れ方向切換機構35が設けられた領域を拡大したコンロッドの断面側面図である。図10(A)は、図9のVIII−VIIIに沿ったコンロッドの断面図であり、図10(B)は、図9のIX−IXに沿ったコンロッドの断面図である。上述したように、流れ方向切換機構35は、第1シリンダ33aから第2シリンダ34aへの作動油の流れを禁止し且つ第2シリンダ34aから第1シリンダ33aへの作動油の流れを許可する第一状態と、第1シリンダ33aから第2シリンダ34aへの作動油の流れを許可し且つ第2シリンダ34aから第1シリンダ33aへの作動油の流れを禁止する第二状態との間で切換を行う機構である。
流れ方向切換機構35は、図9に示したように、二つの切換ピン61、62と一つの逆止弁63とを具備する。これら二つの切換ピン61、62及び逆止弁63は、コンロッド本体31の軸線X方向において、第1シリンダ33a及び第2シリンダ34aとクランク受容開口41との間に配置される。また、逆止弁63は、コンロッド本体31の軸線X方向において、二つの切換ピン61、62よりもクランク受容開口41側に配置される。
さらに、二つの切換ピン61、62は、コンロッド本体31の軸線Xに対して両側に設けられると共に逆止弁63は、軸線X上に設けられる。これにより、コンロッド本体31内に切換ピン61、62や逆止弁63を設けることによってコンロッド本体31の左右の重量バランスが低下することを抑制することができる。
二つの切換ピン61、62は、それぞれ円筒状のピン収容空間64、65内に収容される。本実施形態では、ピン収容空間64、65は、その軸線がクランク受容開口41の中心軸線と平行に延びるように形成される。切換ピン61、62は、ピン収容空間64、65内でピン収容空間64が延びる方向に摺動可能である。すなわち、切換ピン61、62は、その作動方向がクランク受容開口41の中心軸線に平行になるようにコンロッド本体31内に配置されている。
また、二つのピン収容空間64、65のうち第1切換ピン61を収容する第1ピン収容空間64は、図10(A)に示したように、コンロッド本体31の一方の側面に対して開いていると共にコンロッド本体31の他方の側面に対して閉じているピン収容穴として形成される。加えて、二つのピン収容空間64、65のうち第2切換ピン62を収容する第2ピン収容空間65は、図10(A)に示したように、コンロッド本体31の上記他方の側面に対して開いていると共に上記一方の側面に対して閉じているピン収容穴として形成される。
第1切換ピン61は、その周方向に延びる二つの円周溝61a、61bを有する。これら円周溝61a、61bは、第1切換ピン61内に形成された連通路61cによって互いに連通せしめられる。また、第1ピン収容空間64内には第1付勢バネ67が収容されており、この第1付勢バネ67によって第1切換ピン61はクランク受容開口41の中心軸線と平行な方向に付勢されている。特に、図10(A)に示した例では、第1切換ピン61は、第1ピン収容空間64の閉じた端部に向かって付勢されている。
同様に、第2切換ピン62も、その周方向に延びる二つの円周溝62a、62bを有する。これら円周溝62a、62bは、第2切換ピン62内に形成された連通路62cによって互いに連通せしめられる。また、第2ピン収容空間65内には第2付勢バネ68が収容されており、この第2付勢バネ68によって第2切換ピン62はクランク受容開口41の中心軸線と平行な方向に付勢されている。特に、図10(A)に示した例では、第2切換ピン62は、第2ピン収容空間65の閉じた端部に向かって付勢されている。この結果、第2切換ピン62は、第1切換ピン61とは逆向きに付勢されている。
加えて、第1切換ピン61と第2切換ピン62とは、クランク受容開口41の中心軸線と平行な方向において互いに逆向きに配置されている。加えて、第2切換ピン62は、第1切換ピン61とは逆向きに付勢されている。このため、本実施形態では、これら第1切換ピン及び第2切換ピン62に油圧が供給されたときのこれら第1切換ピン61と第2切換ピン62との作動方向は互いに逆向きとなる。
逆止弁63は、円筒状の逆止弁収容空間66内に収容される。本実施形態では、逆止弁収容空間66も、クランク受容開口41の中心軸線と平行に延びるように形成される。逆止弁63は、逆止弁収容空間66内で逆止弁収容空間66が延びる方向に運動可能である。したがって、逆止弁63は、その作動方向がクランク受容開口41の中心軸線に平行になるようにコンロッド本体31内に配置されている。また、逆止弁収容空間66は、コンロッド本体31の一方の側面に対して開いていると共にコンロッド本体31の他方の側面に対して閉じている逆止弁収容穴として形成される。
逆止弁63は一次側(図10(B)において上側)から二次側(図10(B)において下側)への流れを許可すると共に、二次側から一次側への流れを禁止するように構成される。
第1切換ピン61を収容する第1ピン収容空間64は、第1ピストン連通油路51を介して第1シリンダ33aに連通せしめられる。図10(A)に示したように、第1ピストン連通油路51は、コンロッド本体31の厚さ方向中央付近において、第1ピン収容空間64に連通せしめられる。また、第2切換ピン62を収容する第2ピン収容空間65は第2ピストン連通油路52を介して第2シリンダ34aと連通せしめられる。図10(A)に示したように、第2ピストン連通油路52も、コンロッド本体31の厚さ方向中央付近において、第2ピン収容空間65に連通せしめられる。
なお、第1ピストン連通油路51及び第2ピストン連通油路52は、クランク受容開口41からドリル等によって切削加工を行うことによって形成される。したがって、第1ピストン連通油路51及び第2ピストン連通油路52のクランク受容開口41側には、これらピストン連通油路51、52と同軸の第1延長油路51a及び第2延長油路52aが形成される。換言すると、第1ピストン連通油路51及び第2ピストン連通油路52は、その延長線上にクランク受容開口41が位置するように形成される。これら第1延長油路51a及び第2延長油路52aは、例えば、クランク受容開口41内に設けられるベアリングメタル71によって閉じられる。
第1切換ピン61を収容する第1ピン収容空間64は、二つの空間連通油路53、54を介して逆止弁収容空間66に連通せしめられる。このうち一方の第1空間連通油路53は、図10(A)に示したように、コンロッド本体31の厚さ方向において中央よりも一方の側面側(図10(B)において下側)において、第1ピン収容空間64及び逆止弁収容空間66の二次側に連通せしめられる。他方の第2空間連通油路54は、コンロッド本体31の厚さ方向において中央よりも他方の側面側(図10(B)において上側)において、第1ピン収容空間64及び逆止弁収容空間66の一次側に連通せしめられる。また、第1空間連通油路53及び第2空間連通油路54は、第1空間連通油路53と第1ピストン連通油路51との間のコンロッド本体厚さ方向の間隔及び第2空間連通油路54と第1ピストン連通油路51との間のコンロッド本体厚さ方向の間隔が、円周溝61a、61b間のコンロッド本体厚さ方向の間隔と等しくなるように配置される。
また、第2切換ピン62を収容する第2ピン収容空間65は、二つの空間連通油路55、56を介して逆止弁収容空間66に連通せしめられる。このうち一方の第3空間連通油路55は、図10(A)に示したように、コンロッド本体31の厚さ方向において中央よりも一方の側面側(図10(B)において下側)において、第1ピン収容空間64及び逆止弁収容空間66の二次側に連通せしめられる。他方の第4空間連通油路56は、コンロッド本体31の厚さ方向において中央よりも他方の側面側(図10(B)において上側)において、第1ピン収容空間64及び逆止弁収容空間66の一次側に連通せしめられる。また、第3空間連通油路55及び第4空間連通油路56は、第3空間連通油路55と第2ピストン連通油路52との間のコンロッド本体厚さ方向の間隔及び第4空間連通油路56と第2ピストン連通油路52との間のコンロッド本体厚さ方向の間隔が、円周溝62a、62b間のコンロッド本体厚さ方向の間隔と等しくなるように配置される。
これら空間連通油路53〜56は、クランク受容開口41からドリル等によって切削加工を行うことによって形成される。したがって、これら空間連通油路53〜56のクランク受容開口41側には、これら空間連通油路53〜56と同軸の延長油路53a〜56aが形成される。換言すると、空間連通油路53〜56は、それぞれ、その延長線上にクランク受容開口41が位置するように形成される。これら延長油路53a〜56aは、例えば、ベアリングメタル71によって閉じられる。
上述したように、延長油路51a〜56aは、いずれもベアリングメタル71によって閉じられる。このため、ベアリングメタル71を用いてコンロッド6をクランクピン22に組み付けるだけで、これら延長油路51a〜56aを閉じるための加工を別途することなくこれら延長油路51a〜56aを閉じることができる。
また、コンロッド本体31内には、第1切換ピン61に油圧を供給するための第1制御用油路57と、第2切換ピン62に油圧を供給するための第2制御用油路58とが形成される。第1制御用油路57は、第1付勢バネ67が設けられた端部とは反対側の端部において第1ピン収容空間64に連通せしめられる。第2制御用油路58は、第2付勢バネ68が設けられた端部とは反対側の端部において第2ピン収容空間65に連通せしめられる。これら制御用油路57、58は、クランク受容開口41に連通するように形成されると共に、クランクピン22内に形成された油路(図示せず)を介して外部の油圧供給源に連通される。
したがって、外部の油圧供給源から油圧が供給されていないときには、第1切換ピン61及び第2切換ピン62はそれぞれ第1付勢バネ67及び第2付勢バネ68に付勢されて、図10(A)に示したように、ピン収容空間64、65内の閉じられた端部側に位置することになる。一方、外部の油圧供給源から油圧が供給されているときには、第1切換ピン61及び第2切換ピン62はそれぞれ第1付勢バネ67及び第2付勢バネ68による付勢に抗して移動せしめられ、それぞれピン収容空間64、65内の開かれた端部側に位置することになる。
さらに、コンロッド本体31内には、逆止弁63が収容された逆止弁収容空間66のうち逆止弁63の一次側に作動油を補充するための補充用油路59が形成される。補充用油路59の一方の端部は、逆止弁63の一次側において逆止弁収容空間66に連通せしめられる。補充用油路59の他方の端部は、クランク受容開口41に連通せしめられる。また、ベアリングメタル71には、補充用油路59に合わせて貫通穴71aが形成されている。補充用油路59は、この貫通穴71a及びクランクピン22内に形成された油路(図示せず)を介して外部の作動油供給源に連通される。したがって、補充用油路59により、逆止弁63の一次側は、常時又はクランクシャフトの回転に合わせて定期的に作動油供給源に連通している。なお、本実施形態では、作動油供給源は、コンロッド6等に潤滑油を供給する潤滑油供給源とされる。
<流れ方向切換機構の動作>
次に、図11及び図12を参照して、流れ方向切換機構35の動作について説明する。図11は、油圧供給源75から切換ピン61、62に油圧が供給されているときの流れ方向切換機構35の動作を説明する概略図である。また、図12は、油圧供給源75から切換ピン61、62に油圧が供給されていないときの流れ方向切換機構35の動作を説明する概略図である。なお、図11及び図12では、第1切換ピン61及び第2切換ピン62に油圧を供給する油圧供給源75は別々に描かれているが、本実施形態では同一の油圧供給源から油圧が供給される。
図11に示したように、油圧供給源75から油圧が供給されているときには、切換ピン61、62は、それぞれ、付勢バネ67、68による付勢に抗して移動した第一位置に位置する。この結果、第1切換ピン61の連通路61cにより第1ピストン連通油路51と第1空間連通油路53とが連通せしめられ、第2切換ピン62の連通路62cにより第2ピストン連通油路52と第4空間連通油路56とが連通せしめられる。したがって、第1シリンダ33aが逆止弁63の二次側に接続され、第2シリンダ34aが逆止弁63の一次側に接続される。
ここで、逆止弁63は、第2空間連通油路54及び第4空間連通油路56が連通する一次側から第1空間連通油路53及び第3空間連通油路55が連通する二次側への作動油の流れは許可するが、その逆の流れは禁止するように構成される。したがって、図11に示した状態では、第4空間連通油路56から第1空間連通油路53へは作動油が流れるが、その逆には作動油が流れない。
この結果、図11に示した状態では、第2シリンダ34a内の作動油は、第2ピストン連通油路52、第4空間連通油路56、第1空間連通油路53、第1ピストン連通油路51の順に油路を通って第1シリンダ33aに供給されることができる。しかしながら、第1シリンダ33a内の作動油は、第2シリンダ34aに供給されることができない。したがって、油圧供給源75から油圧が供給されているときには、流れ方向切換機構35は、第1シリンダ33aから第2シリンダ34aへの作動油の流れを禁止し且つ第2シリンダ34aから第1シリンダ33aへの作動油の流れを許可する第一状態にあるといえる。この結果、上述したように、第1ピストン33bが上昇し、第2ピストン34bが下降するため、コンロッド6の有効長さが図8(A)にL1で示したように長くなる。
一方、図12に示したように、油圧供給源75から油圧が供給されていないときには、切換ピン61、62は、それぞれ、付勢バネ67、68によって付勢された第二位置に位置する。この結果、第1切換ピン61の連通路61cにより、第1ピストン機構33に連通する第1ピストン連通油路51と第2空間連通油路54とが連通せしめられる。加えて、第2切換ピン62の連通路62cにより、第2ピストン機構34に連通する第2ピストン連通油路52と第3空間連通油路55とが連通せしめられる。したがって、第1シリンダ33aが逆止弁63の一次側に接続され、第2シリンダ34aが逆止弁63の二次側に接続される。
上述した逆止弁63の作用により、図12に示した状態では、第1シリンダ33a内の作動油は、第1ピストン連通油路51、第2空間連通油路54、第3空間連通油路55、第2ピストン連通油路52の順に油路を通って第2シリンダ34aに供給されることができる。しかしながら、第2シリンダ34a内の作動油は、第1シリンダ33aに供給されることができない。したがって、油圧供給源75から油圧が供給されていないときには、流れ方向切換機構35は、第1シリンダ33aから第2シリンダ34aへの作動油の流れを許可し且つ第2シリンダ34aから第1シリンダ33aへの作動油の流れを禁止する第二状態にあるといえる。この結果、上述したように、第2ピストン34bが上昇し、第1ピストン33bが下降するため、コンロッド6の有効長さが図8(A)にL2で示したように短くなる。
また、本実施形態では、上述したように、作動油は第1ピストン機構33の第1シリンダ33aと第2ピストン機構34の第2シリンダ34aとの間を行き来する。このため、基本的には、第1ピストン機構33、第2ピストン機構34及び流れ方向切換機構35の外部から作動油を供給する必要はない。しかしながら、作動油は、これら機構33、34、35に設けられたシール等から外部に漏れる可能性があり、このように作動油の漏れが生じた場合には外部から補充することが必要になる。
本実施形態では、逆止弁63の一次側に補充用油路59が連通しており、これにより逆止弁63の一次側は常時又は定期的に作動油供給源76に連通する。したがって、作動油が機構33、34、35等から漏れた場合であっても、作動油を補充することができる。
さらに、本実施形態では、流れ方向切換機構35は、油圧供給源75から切換ピン61、62に油圧が供給されているときに第一状態となってコンロッド6の有効長さが長くなり、油圧供給源75から切換ピン61、62に油圧が供給されていないときに第二状態となってコンロッド6の有効長さが短くなるように構成される。これにより、例えば、油圧供給源75における故障等によって油圧の供給を行うことができなくなったときに、コンロッド6の有効長さを短くしたままにすることができ、よって機械圧縮比を低く維持することができるようになる。機械圧縮比を高く維持すると、内燃機関による出力が制限されてしまうことから、本実施形態によれば、油圧供給源75の故障時等に内燃機関による出力が制限されてしまうのを抑制することができる。
<本実施形態の可変長コンロッドにおける効果>
ところで、内燃機関1の停止中には、油圧供給源75から油圧が供給されない。このため、内燃機関1を再始動するときには切替ピン61、62には油圧が供給されておらず、この結果、流れ方向切替機構35は第二状態となって、コンロッド6の有効長さが短くなる。したがって、機械圧縮比は低圧縮比となる。
しかしながら、内燃機関1の再始動直後には、多くの場合、機関負荷は低い。このように機関負荷が低いときには、一般に、機械圧縮比を高圧縮比にする方が効率的であるため、機関回転数の低い内燃機関1の再始動直後には、機械圧縮比を低圧縮比から高圧縮比に迅速に切り替えることが必要となる。また、内燃機関1の始動直後でなくても、内燃機関1がアイドリング状態にあるときに機械圧縮比を低圧縮比から高圧縮比に迅速に切り替えることが要求される場合もある。
ところで、上述したように、機械圧縮比の低圧縮比から高圧縮比への切替えは、ピストンに作用する上向きの慣性力を利用して行われる。一方、機械圧縮比の高圧縮比から低圧縮比への切替えは、ピストンに作用する下向きの慣性力及び燃焼室内での燃焼に伴う爆発力を利用して行われる。しかしながら、ピストンに作用する慣性力は爆発力よりもはるかに小さい。このため、機械圧縮比を低圧縮比から高圧縮比に切替えるときには爆発力を利用することができずに小さい慣性力を利用することになるため、十分な応答性をもって切替を行うことが困難である。また、慣性力は、内燃機関1の機関回転数の二乗に比例するため、内燃機関1の低回転域では、特に応答性が悪化する。
これに対して、本実施形態の可変長コンロッドでは、第1ロッド45はその重心が第1連結部と前記第2連結部との間で延びる直線Lに対してコンロッド本体31側とは反対側に位置するように構成される。このため、第1ロッド45の重心は、コンロッド本体31の幅方向において偏心部材32の回動軸線から離れたところに位置する。このため、ピストンの往復動に伴って第1ロッド45に作用する慣性力によって、偏心部材32を回動させようとする力が大きくなる。
同様に、本実施形態の可変長コンロッドでは、第1ロッド45の重心は第1連結部と第2連結部との中央(図中の直線T)よりも第1連結部側に位置することになる。ここで、図3等からわかるように、第1ロッド45は、第2連結部よりも第1連結部においてコンロッド本体31の幅方向にてコンロッド本体31から離れるように配置される。このため、第1ロッド45の重心が第1連結部側にあるほど、第1ロッド45の重心は、コンロッド本体31の幅方向において偏心部材32の回動軸線から離れたところに位置することになる。このため、ピストンの往復動に伴って第1ロッド45に作用する慣性力によって、偏心部材32を回動させようとする力が大きくなる。
また、本実施形態の可変長コンロッドでは、第2ロッド46の重心は第1連結部と第2連結部との間で延びる直線上に位置する。このため、第2ロッド46には、第1ロッド45ほど大きな慣性力が作用しない。また、第2ロッド46の質量は第1ロッド45の質量よりも小さいため、このことによっても第2ロッド46には第1ロッド45ほど大きな慣性力が作用しない。第2ロッド46に作用する慣性力は、第1ロッド45に作用する慣性力によって偏心部材32を回動させようとする力を打ち消す方向に作用する。本実施形態では、第2ロッド46に作用する慣性力が小さいため、ピストンの往復動に伴って第1ロッド45に作用する慣性力によって偏心部材32を回動させようとする力を大きくすることができる。
この結果、本実施形態によれば、ピストンに作用する上向きの慣性力を利用して行われる機械圧縮比の低圧縮比から高圧縮比への切替を迅速に行うことができるようになる。
なお、油圧ピストンが、偏心部材32が一方の方向へ回動するときに油圧シリンダ内で上昇し、偏心部材32が他方の方向へ回動するときに油圧シリンダ内で下降するように構成されていれば、ピストン機構の数は一つであってもよい。