JP6345736B2 - 液滴安定化装置、液滴分取装置及びそれらの方法 - Google Patents

液滴安定化装置、液滴分取装置及びそれらの方法 Download PDF

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Description

本発明は、液滴安定化装置、液滴分取装置及びそれらの方法に関する。
細胞や染色体等の生物学的な粒子を分析するフローサイトメータが知られている。このフローサイトメータでは、例えばマイクロ流路内に粒子を封入した液滴が連続相流体によってマイクロ流路中を順次に流される。マイクロ流路中を流れている間に、液滴内の粒子に検査光を照射し、得られる散乱光や蛍光から個々の粒子の分子特性等が分析される。フローサイトメータのうち特にセルソータと呼ばれる装置では、分析結果に基づいて、液滴を選り分けて液滴を分取する。
マイクロ流路を用いて液滴を生成する液滴生成装置として、液滴となる分散相流体と、キャリアオイル等の連続相流体とをY字状あるいはT字状の流路で合流させるものが知られている。分散相流体と連続相流体との合流部付近では、連続相流体が分散相流体をせん断することによって液滴が生成される。このときに、生成される液滴と連続相流体との間の界面張力を小さくし、液滴の分裂や、他の液滴と融合してしまうことを抑止する目的で、一般的に連続相流体に界面活性剤を含有したものが用いられる。
キャピラリを用いて液滴を形成する液滴生成装置が知られている(非特許文献1)。この非特許文献1の液滴生成装置では、それぞれ先端がノズル状に加工された第1及び第2キャピラリと、第1及び第2キャピラリが内挿されたガラス管とを備えている。第1及び第2キャピラリは、ノズル状の先端を互いに所定の間隔(100μm)だけ離して対向させた状態で、ガラス管内に配されるともに、各キャピラリとガラス管との間に液体が流れるようにされている。液滴を生成する場合には、第1キャピラリにその後端から液滴となる分散相流体(油)を供給するとともに、第1キャピラリ側のガラス管の端部から連続相流体(水)を供給する。一方で、第2キャピラリ側のガラス管の端部から界面活性剤を含有する水(以下、界面活性剤含有水という)を流し、分散相流体と連続相流体と界面活性剤含有水とを第2キャピラリの先端から後端に向けて流入させる。これにより、連続相流体によって分散相流体をせん断することで生成される液滴を第2キャピラリの先端からその内部に流し入れ、その後に界面活性剤含有水を第2キャピラリ内で連続相流体に混合している。
一方、マイクロ流路内において、2つの液滴を合体させる装置が非特許文献2によって知られている。非特許文献2では、2種類の液滴をマイクロ流路内にそれぞれ供給し、マイクロ流路をジグザグ状にした混合領域を通すことで2種類の液滴を合体させて1つの液滴にしている。
Dimitris N. Josephides and Shahriar Sajjadi "Increased Drop Formation Frequency via Reduction of Surfactant Interactions in Flow-Focusing Microfluidic Devices" Langmuir, 2015, 31 (3), pp 1218-1224 Linas Mazutis, Jean-Christophe Baret and Andrew D. Griffiths "A fast and efficient microfluidic system for highly selective one-to-one droplet fusion" Lab Chip. 2009 Sep 21;9(18) pp 2665-2672.
ところで、上記のようなマイクロ流路を用いた液滴生成装置等では、所望とする液滴の生成速度、粒径サイズの液滴を生成しながら、安定な液滴を生成することは難しい。これは液滴と連続相流体との間の界面張力と粘性力のバランスにより、液滴の生成速度と液滴の粒径が決まるため、例えば単に液滴を安定化させる観点から連続相流体に含まれる界面活性剤の濃度を設定してしまうと、所望とする液滴の生成速度、液滴の粒径サイズが得られなくなるからである。
また、非特許文献1のような構成では、ガラス管内に第1及び第2キャピラリを内挿するという複雑な構造であるとともに、第1及び第2キャピラリの先端を精度よく対向した状態に配置しなければならず構造的に調整が難しい等の問題があった。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、簡単な構成により、マイクロ流路を流れる液滴の安定化を図ることができる液滴安定化装置及びその安定化方法を提供することを目的とし、さらにその技術を用いた液滴分取装置及びその方法を提供することを目的とする。
本発明の液滴安定化装置は、第1の液体に第1の界面活性剤を含有させた連続相流体とともに第1の液体に不溶な第2の液体の液滴が流れるマイクロ流路と、マイクロ流路に接続された安定化液供給流路と、第1の液体に第2の界面活性剤を含有し、第2の界面活性剤の濃度が連続相流体の第1の界面活性剤の濃度よりも高くされた安定化液を安定化液供給流路を介してマイクロ流路に供給する安定化液供給部とを備えるものである。
本発明の液滴分取装置は、第1の液体に第1の界面活性剤を含有させた連続相流体とともに第1の液体に不溶な第2の液体の液滴が流れるマイクロ流路と、マイクロ流路に接続された安定化液供給流路と、第1の液体に第2の界面活性剤を含有し、第2の界面活性剤の濃度が連続相流体の第1の界面活性剤の濃度よりも高くされた安定化液を安定化液供給流路を介してマイクロ流路に供給する安定化液供給部と、安定化液供給流路よりも下流のマイクロ流路に設けられ、液滴が流れ込む収集流路及び安定化液が流れ込む排出流路を有する分離部と、収集流路に接続された流路内を流れる個々の液滴の進路を変化させ、複数の分取路のうちのいずれかに誘導して液滴を分取する液滴分取部とを備えるものである。
本発明の液滴安定化方法は、マイクロ流路内に第1の液体に第1の界面活性剤を含有させた連続相流体とともに第1の液体に不溶な第2の液体の液滴を流す流動ステップと、第1の液体に第2の界面活性剤を含有し、第2の界面活性剤の濃度が連続相流体の第1の界面活性剤の濃度よりも高くされた安定化液をマイクロ流路内に供給し、液滴を安定化する安定化液供給ステップとを有するものである。
本発明の液滴分取方法は、マイクロ流路内に第1の液体に第1の界面活性剤を含有させた連続相流体とともに第1の液体に不溶な第2の液体の液滴を流す流動ステップと、第1の液体に第2の界面活性剤を含有し、第2の界面活性剤の濃度が連続相流体の第1の界面活性剤の濃度よりも高くされた安定化液をマイクロ流路内に供給し、液滴を安定化する安定化液供給ステップと、液滴を安定化液から分離する分離ステップと、個々の液滴の進路を変化させて液滴を分取する液滴分取ステップとを有するものである。
本発明の液滴安定化装置及びその安定化方法によれば、連続相流体の第1の界面活性剤よりも高い濃度で第2の界面活性剤を第1の液体に含有させた安定化液をマイクロ流路内に供給するので、簡単な構成により液滴に付着する界面活性剤を増加させて、マイクロ流路を流れる液滴の安定化を図ることができる。
本発明の液滴分取装置及びその分取方法によれば、安定化液をマイクロ流路に供給して安定化された個々の液滴の進路を変化させて液滴を分取するので、簡単な構成により液滴に付着する界面活性剤を増加させて、マイクロ流路を流れる液滴が安定化され、分取する際に液滴が破裂したり、液滴が他の液滴と融合したりすることなく分取できる。
本発明を実施した液滴生成装置の構成を示す概略図である。 安定化部で液滴が安定化される状態を示す説明図である。 第2実施形態の液滴分取装置の構成を示す概略図である。 実施例の流路デバイスに設けた貯留部を示す説明図である。 マイクロ流路及び貯留部における液滴の状態を撮影した撮影画像である。 安定化液の界面活性剤の濃度と収集流路内における界面活性剤の濃度及び混合効率との関係を示すグラフである。
[第1実施形態]
図1において、本発明を実施した液滴生成装置10は、流路デバイス11、分散相供給部12、連続相供給部13、安定化液供給部14を備えている。流路デバイス11には、マイクロ流路として、メイン流路15の他、後述する各種流路が形成されている。この液滴生成装置10は、液滴Dを高速かつ安定的に生成してから、生成された液滴Dを安定化する。この例においては、連続相流体を油相とし、分散相流体を水相として、油中水型(W/O型)の液滴Dを生成、安定化する場合について説明するが、液滴Dは水中油型(O/W型)であってもよい。水中油型の液滴Dの場合には、連続相流体を水相とし、分散相流体を油相とすればよい。
流路デバイス11は、例えばメイン流路15とともに他の流路となる各種溝を形成したPDMS(ジメチルポリシロキサン(dimethylpolysiloxane))をガラス基板上に貼り付けることによって作製されている。メイン流路15及び他の流路の内壁面は、液滴Dとなる分散相流体に対して親和性が低くなるように表面処理されている。したがって、この例では、分散相流体が水相であるから、メイン流路15及び他の流路の内壁面が疏水性となるように処理を施してある。なお、分散相流体が油相である場合には、内壁面が親水性(疎油性)となるように処理を施す。なお、流路デバイス11の形成材料は、特に限定されるものではない。
メイン流路15の上流端(図中左側)に液滴生成部21が設けられている。この液滴生成部21は、フローフォーカシング法により液滴Dを形成する。液滴生成部21は、一対の連続相供給流路22と、分散相供給流路23とを有している。分散相供給流路23は、メイン流路15の延長線上に直線状に設けられ、連続相供給流路22は、分散相供給流路23のメイン流路15との境界付近にY字型に交差するように互いに対向させた状態で接続されている。なお、本実施形態では連続相供給流路22は一対で設けられているが、一つでも実施可能である。
分散相供給流路23には分散相供給部12が接続されている。この分散相供給部12は、分散相供給流路23を介して、分散相供給流路23と各連続相供給流路22との交差部(以下、液滴生成交差部という)に分散相流体Ldを供給する。一方、各連続相供給流路22には連続相供給部13が接続されており、連続相供給部13は、各連続相供給流路22を介して液滴生成交差部に連続相流体Lcを供給する。これにより、分散相流体Ldと連続相流体Lcとが液滴生成交差部で合流すると、連続相流体Lcが分散相流体Ldをせん断することによって液滴Dが生成され、これが周期的に繰り返されることで、多数の液滴Dが連続的に生成される。生成される液滴Dは、連続相流体Lcとともにメイン流路15内を流れる。なお、液滴D内に細胞や染色体等の生物学的な粒子を封入してもよい。この場合には、分散相供給部12から生物学的な粒子を含む分散相流体Ldを供給する。
連続相流体Lcは、第1の液体としてのキャリアオイルに界面活性剤(第1の界面活性剤)を混合した流体であり、界面活性剤を含有している。キャリアオイルとしては、ヘキサデカン(hexadecane,C1634)、フッ素系オイル(例えばパーフルオロヘキサンが含まれる)、ミネラルオイル、シリコーンオイル等を用いることができる。このキャリアオイルは、細胞などバイオサンプルを扱う際には、生体適合性の観点からガス含有率の高いオイルであることが好ましい。界面活性剤は、非イオン(ノニオン)界面活性としてのソルビタンモノオレエート(Span80等とも称される)や、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween80等とも称される)、オクチルフェノールエトキシレート(Triton X-100とも称される)、perfluorinated polyethers with polyethylene glycol(PFPE-PEG)等を用いることができる。また、これらを混合して使用することもできる。この界面活性剤は、キャリアオイルの種類に合わせて選択することが好ましい。
キャリアオイルと界面活性剤との好ましい組み合わせとしては、ヘキサデカンまたはミネラルオイルとソルビタンモノオレエート、フッ素系オイルとPFPE-PEG、シリコーンオイルとオクチルフェノールエトキシレート等が挙げられる。
連続相流体Lcが水相である場合には、第1の液体としては純水(Deionized water)等を用いることができる。界面活性剤は、非イオン(ノニオン)界面活性としてのソルビタンモノオレエート(Span80等とも称される)や、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween80等とも称される)、オクチルフェノールエトキシレート(Triton X-100とも称される)、perfluorinated polyethers with polyethylene glycol(PFPE-PEG)等を用いることができる。このように第1液体が水相である場合では、油相の分散相流体に応じて適宜に界面活性剤を組み合わせるのがよく、例えばヘキサデカンまたはミネラルオイルとソルビタンモノオレエート、フッ素系オイルとPFPE-PEG、シリコーンオイルとオクチルフェノールエトキシレート等の組み合わせが挙げられる。
連続相供給部13から供給される連続相流体Lcの界面活性剤は、液滴生成部21で生成される液滴Dの安定性にも寄与するが、その界面活性剤の濃度は、液滴Dの生成速度、液滴Dの粒径(直径)を制御する観点で調整している。以下、連続相供給部13から供給される連続相流体Lcの界面活性剤の初期の濃度を初期濃度Ccという。この実施形態では、例えば粒径が60μm以上となるような液滴Dを、生成速度が4000個/秒以上で生成するように、初期濃度Ccがかなり低く(例えば、0.1質量%程度)に設定される。なお、初期濃度Ccは、界面活性剤を含む連続相流体Lcの全質量をMc、その連続相流体Lcに含まれる界面活性剤の質量をMscとしたときに、「Cs=(Msc/Mc)×100(%)」である。
分散相流体Ldは、第2の液体、すなわちキャリアオイルに不溶な水相の液体である。分散相流体Ldとしては、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline, PBS)、細胞の培養液、純水(Deionized water),淡水等を用いることができるが、水相であれば特に限定されるものではない。
メイン流路15の液滴生成部21よりも下流側には、安定化部31が設けられている。安定化部31は、メイン流路15に接続された一対の安定化液供給流路32と、メイン流路15の下流端に設けた分離部33とを有している。また、メイン流路15は、安定化液供給流路32が合流した位置から安定化領域34となっている。メイン流路15は、直線状に形成されており、安定化領域34も直線状になっている。
各安定化液供給流路32に安定化液供給部14が接続されている。安定化液供給部14は、各安定化液供給流路32を介して、安定化液Lsをメイン流路15に供給する。安定化液Lsは、キャリアオイルに界面活性剤(第2の界面活性剤)を混合した流体である。安定化液Lsの成分(キャリアオイルと界面活性剤)は、連続相流体Lcに用いている成分と同じである事が望ましいが、異なる成分でもよい。安定化液供給部14から供給する安定化液Lsの界面活性剤の濃度(以下、安定化液初期濃度Csという)は、連続相流体の界面活性剤の初期濃度Ccよりも高くされている。安定化液初期濃度Csを初期濃度Ccよりも高くすることによって、メイン流路15に流れている液滴Dに付着する界面活性剤を増大して液滴Dを安定化することができる。
液滴Dのより高い安定化を図るために安定化液初期濃度Csは、20質量%以上60質量%以下の範囲内とすることが好ましい。例えば連続相流体Lcがヘキサデカンとソルビタンモノオレエートを混合したものであれば、安定化液Lsについてもヘキサデカンとソルビタンモノオレエートを混合したものとなるが、ソルビタンモノオレエートの濃度を20質量%以上60質量%以下の範囲内にする。なお、安定化液初期濃度Csは、界面活性剤を含む安定化液Lsの全質量をMs、その安定化液Lsに含まれる界面活性剤の質量をMssとしたときに、「Cs=(Mss/Ms)×100(%)」である。
安定化液Lsの界面活性剤の濃度が高くなるのにしたがって、安定化液Lsの粘性が高くなり、粘性が高くなるのにしたがって、連続相流体Lcに移動する安定化液Lsの量が減少する傾向を示すが、その一方で安定化液Lsの移動量あたりの界面活性剤の移動量が増加する傾向を示す。このため、安定化液初期濃度Csを20質量%以上60質量%以下の範囲内とすれば、液滴Dを安定化させるのに十分な界面活性剤が安定化液Lsから連続相流体Lc(安定化液Lsから液滴に直接)に移動し、液滴Dのより高い安定性が得られる。
一対の安定化液供給流路32は、メイン流路15に対して、上流側に開いてY字型に交差するように互いに対向させた状態で対称に接続されている。このように安定化液供給流路32を接続することによって、安定化液Lsがメイン流路15内に、連続相流体Lcの流れ方向に沿って円滑に供給されている。
安定化液供給部14は、それぞれの安定化液供給流路32からメイン流路15に流れ込む安定化液Lsが、それぞれメイン流路15内において連続相流体Lcとともに層状に流れるように、安定化液Lsのメイン流路15への供給量を連続相流体Lcの流量等に応じて調整される。各安定化液Lsは、液滴を含む連続相流体Lcを挟むようにしてメイン流路15の壁面に沿って層状に流れる。液滴Dに不必要な負荷を与えない範囲で最大の流量を導入するために、メイン流路15内において層状に流れる一対の安定化液Lsの間隔Wを液滴の粒径とほぼ等しくすることが好ましい。
安定化領域34は、安定化液Ls中の界面活性剤を液滴に十分に付着させるための領域である。この安定化領域34を液滴が通過することよって、安定化液Lsからの界面活性剤の移動によって界面活性剤の濃度が高くなった連続相流体Lcを介して、当該液滴Dに界面活性剤が十分に付着し、液滴Dが安定化する。
分離部33は、安定化領域34の通過によって安定化された液滴Dを安定化液Lsから分離する。分離部33は、メイン流路15の下流端部を三方に分岐させた形状であり、メイン流路15の中央に開口した収集流路41と、収集流路41を挟む位置にそれぞれ形成された一対の排出流路42とを有している。収集流路41は、上記のようにメイン流路15の中央、すなわち液滴Dの移動軌跡上に開口することによって、安定化領域34を通過した液滴Dが流れ込む。収集流路41に流れ込んだ液滴Dは、分析装置等に送られる。
収集流路41と各排出流路42との間にそれぞれ形成された仕切り壁43によって、層状に流れる一対の安定化液Lsが各排出流路42に向けて流れるように、安定化液Lsの流れ方向が変化される。一対の安定化液Lsは、各排出流路42に流れ込み、例えば所定の処理後に廃棄される。このように安定化液Lsから液滴Dを分離するという観点からは、連続相流体Lcに対して安定化液Lsが層状に分離して流れるような粘度となるように安定化液Lsの界面活性剤の濃度が調整されることも好ましい。
上記のように、連続相流体Lcとともに液滴Dが流れる直線状のメイン流路15に安定化液を供給して層状に流すという流路デバイス11の簡単な構成によって、容易に液滴Dが安定化される。また、安定化液Lsは、層状に流れることで簡単な流路の構成で液滴Dから分離することが可能である。さらに、液滴生成部21の下流に安定化部31を設けているので、液滴Dの生成と安定化のための界面活性剤の濃度を別々に設定できる。
この実施形態においては、液滴生成部21で生成した液滴Dを安定化部31で安定させている。したがって、液滴生成交差部から安定化部31までの間では、メイン流路15の幅を一定し、また直線的にすることによって、液滴同士の衝突や液滴Dを変形させる力が付加されないようにするのがよい。
次に上記構成の作用について説明する。分散相供給部12から分散相供給流路23に、また連続相供給部13から各連続相供給流路22にそれぞれ分散相流体Ld、連続相流体Lcを供給すると、各相が液滴生成交差部で合流し、連続相流体Lcが分散相流体Ldをせん断することによって液滴Dが生成される。この液滴Dの生成は、周期的に繰り返されて、多数の液滴Dが連続的に生成される。このとき、連続相流体Lcにおける界面活性剤の初期濃度Ccを低くできるので、液滴Dを高速に、例えば数千個/秒で生成することができる。上記のように液滴生成部21で順次生成される液滴Dは、連続相流体Lcとともにメイン流路15を流れる。
生成された液滴Dは、メイン流路15と安定化液供給流路32との交差部に達する。安定化液供給部14からは各安定化液供給流路32を介して安定化液Lsがメイン流路15に供給されている。これにより、メイン流路15、すなわち安定化領域34には、メイン流路15の対向する側面に沿って連続相流体Lcと層状に分離した状態の一対の安定化液Lsが流れる。そして、液滴Dは、連続相流体Lcとともに安定化領域34を通って下流に移動し、安定化液供給流路32から供給される安定化液Lsに含まれる界面活性剤が供給される。
図2(A)に示すように、液滴生成部21で液滴Dが生成される段階では、連続相流体Lcに含まれる界面活性剤の濃度が低いため、生成される液滴Dに付着している界面活性剤も少ない。したがって、この段階では、生成される液滴Dは、相対的に不安定である。この液滴Dがメイン流路15と安定化液供給流路32との交差部に達した段階においても、界面活性剤の濃度が低い連続相流体Lcとともに液滴Dが移動するため、図2(B)に示すように、液滴Dに付着している界面活性剤の個数は生成段階とあまり変わらない。
図2(C)に示すように、安定化領域34では、安定化液Lsの界面活性剤の安定化液初期濃度Csが連続相流体Lcの界面活性剤の初期濃度Ccよりも高いから、安定化液Lsから連続相流体Lcに移動した界面活性剤によって、連続相流体Lcの界面活性剤の濃度が上昇している。このため、液滴Dが安定化領域34を移動している間に、その液滴Dの連続相流体Lc中の界面活性剤が付着する。このようにして、液滴生成部21で生成された液滴Dには、生成段階よりも多くの界面活性剤が付着する。そして、より多くの界面活性剤が付着することによって、液滴Dと連続相流体Lcとの間の表面張力が低下し、その液滴Dの安定性が増大する。
安定化領域34を通過した液滴Dは、分離部33を直進して、一部の連続相流体Lcとともに収集流路41に流れ込み、次工程の例えば分析装置等に送られる。このときに、図2(D)に示すように、収集流路41に流れ込む液滴Dは、安定化領域34でより多くの界面活性剤が付着した状態を維持して安定しているから、たとえ他の液滴Dに衝突したりしても、それらが融合することはない。一方、安定化領域34からの安定化液Lsは、層状を維持しているので、そのほとんどが各排出流路42に流れ込む。このようにして、不要となった安定化液Lsから液滴Dが分離される。
上記では、液滴生成装置10の例について説明したが、液滴Dを安定化させる部分を独立した液滴安定化装置とすることもできる。
[第2実施形態]
次に液滴分取装置(セルソーター)に液滴安定化の技術を適用した第2実施形態について図3を参照して説明する。なお、この第2実施形態の液滴分取装置は、大別して液滴生成ユニット52及び分取ユニット53とから構成されるが、液滴生成ユニット52は、第1実施形態の液滴生成装置10と実質的に同じであるから、同じ構成部材には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
流路デバイス54にメイン流路15、収集流路41を含む各種流路が形成されている。収集流路41の下流には、分取ユニット53の一部となる流路61が形成されている。この流路61は、収集流路41と繋がっており、収集流路41からの液滴Dが連続相流体Lcとともに流れる。分取ユニット53は、この流路61、センサ62、偏向部63、分流部64、制御部65を備えている。なお、例えば液滴生成ユニット52と分取ユニット53とを別々の流路デバイスを用いて作製し、生成される液滴Dを中空チューブ等を介して分取ユニット53に送るように構成してもよい。液滴生成ユニット52で生成される液滴Dは、安定しているので分取ユニット53に送られる際に分裂したり、他の液滴Dと融合したりすることはない。
例えば収集流路41から流路61に流れ込む液滴Dの軌跡上に検出位置が設定されており、センサ62は、その検出位置にレーザ光を照射する。このセンサ62は、液滴Dが検出位置を通過した際に、レーザ光の照射によって液滴Dから得られる蛍光や散乱光を受光し、それに応じた受光信号を制御部65に出力する。
制御部65は、センサ62からの受光信号に基づき、液滴Dが検査や調査等のために取得すべき液滴(以下、他の液滴と区別する場合には選別液滴という)であるか否かを判別する。例えば、液滴Dが細胞や染色体等の生物学的な粒子を封入したものであれば、受光信号に基づいて取得すべき細胞や染色体が封入された液滴Dであるか否かが判別される。制御部65は、判別結果に基づいて、選別液滴が偏向部63内を通過している間に偏向部63を作動させる。これにより、流路61内で、流れ方向とは直交する方向に選別液滴を移動させ、その選別液滴を第1分取路64aに流す。一方、取得すべきと判別されなかった液滴Dは、偏向部63で進路を変化しないことにより第2分取路64bに流す。
この例では、偏向部63は、流路61を挟んで配された対向電極63a、63bを有する電極対を複数設けた構成としてある。対向電極63a、63bは、それらの間を選別液滴が通るタイミングで制御部65によって電圧が印加される。これにより、選別液滴ごとに誘電泳動力を作用させて、その選別液滴の進路を変化させる。
なお、センサ62での検出を含め、取得すべき液滴Dであるか否かの判別手法、及び液滴Dの進路を変化させる手法は、上記の手法に限られるものではない。また、検査や調査等のために取得すべき液滴Dか否かで2種類に分取しているが、3以上に分類して分取してもよい。
上記構成によれば、液滴生成ユニット52で生成され、そして安定化された液滴Dは、収集流路41を介して分取ユニット53に送られる。そして、分取ユニット53では、センサ62によって液滴Dの検出が行われ、その結果に基づいて偏向部63が作動し、選別液滴だけが第1分取路64aに流れ、他の液滴Dは第2分取路64bに流れる。これにより、検査や調査等のために取得すべき液滴Dだけが第1分取路64aから得られる。このように液滴Dを分取するが、偏向部63で液滴Dの進路を変える場合には、その液滴Dに力(この例では誘電泳動力)が作用するが、安定化部31によって液滴Dが安定化されているため、液滴Dが進路を変えるための力で破壊され難い。
安定化液Lsによる液滴Dの安定化の効果を確認するために、以下の実験1〜5を行った。実験1〜5では、図1に示す液滴生成装置10を用いた。ただし、流路デバイス11には、図4に示すように、収集流路41の下流に多数の液滴Dを貯留できる貯留部71を形成した。貯留部71は、チューブ72を介して外部に液滴D及び連続相流体Lcを取り出すことができるようにしてある。後述するように、貯留部71は、液滴Dの安定性を評価する際に利用した。
流路デバイス11は、標準ソフトリソグラフィ・プロセスを用いて作製した。すなわち、フォトレジスト(KMPR-1035、MicroChem社製)を用いて、メイン流路15、貯留部71等を含め形成すべき各種流路のパターンを厚み55μmで、シリコンウエハ上に形成した鋳型を作製した。この鋳型にPDMSの主剤および硬化剤とを10:1で混合した液を流し入れ、真空チャンバ内で1時間脱気した後に、オーブン内で80℃に12時間加熱してPDMSを固化した。鋳型から剥離したPDMSには、分散相供給流路23、連続相供給流路22、安定化液供給流路32、収集流路41、排出流路42、貯留部71を連続相供給部13等の外部機器に接続するための穴を形成した。この後、このPDMSとスライドグラスとを67Pa(500mTorr)の真空下で酸素プラズマに90秒間曝して接着力を付与し、これらPDMSとスライドグラスとを重ね合わせて流路デバイス11を形成した。
流路デバイス11のメイン流路15、貯留部71を含む各流路の表面は、下記の3段階の処理を経て親水性から疎水性(親油性)に改質した。まず、0.1質量%のperfluorodecyldimethylchlorosilaneを含むエタノールを0.2mL/分の注入速度で5分間各流路に注入した。続いて、純粋なエタノールを0.2mL/分の注入速度で5分間各流路に注入し、各流路をリンスした。そして、最後に流路デバイス11をオーブン内で30分間80℃に加熱した。
上記作製した流路デバイス11の各流路の高さは55μmであった、また、液滴生成部21から安定化液Lsの合流地点までの長さは500μmであり、安定化領域34の長さは2mmであった。安定化領域34におけるメイン流路15の幅は150μm、収集流路41の幅は70μm、排出流路42の幅は75μmであった。
実験1〜5では、分散相流体Ldとしてリン酸緩衝生理食塩水を用い、連続相流体Lcとしてはキャリアオイルとしてのヘキサデカンに界面活性剤としてのソルビタンモノオレエート(Span80:Sigma-Aldrich社製)を混合したものを用いた。したがって、実験1〜5の安定化液Lsとしては、連続相流体Lcと同じく、ヘキサデカンとソルビタンモノオレエートとを混合したものを用いた。
連続相供給部13から供給する連続相流体Lcの界面活性剤の濃度、すなわち初期濃度Ccは、実験1〜実験5のいずれにおいても0.1質量%とした。これは、高速な液滴な生成のためである。一方、実験1〜実験5における安定化液Lsの界面活性剤の濃度、すなわち安定化液初期濃度Csは、0.1質量%、10質量%、25質量%、50質量%、75質量%とした。
実験1では、分散相流体Ldの流量を20μL/分としたが、実験2〜5では、4000個/秒以上の高速な液滴生成のために分散相流体Ldの流量を30μL/分とした。また、実験1〜5では、連続相流体Lc、安定化液Lsの流量は、粒径(直径)約60μmの液滴Dが生成され、かつ連続相流体Lcの流れの幅が生成される液滴Dの粒径よりもわずかに小さくなるように適宜調整した。実験1〜実験5における、分散相流体Ld、連続相流体Lc、安定化液Lsの流量、及び安定化液初期濃度Csを表1に示す。
Figure 0006345736
実験1〜実験5では、高速カメラを用いて流路デバイス11内の状態、及び貯留部71に貯留される液滴Dの状態を観察した。高速カメラで撮影された実験1〜実験5の画像を図5(A)〜図5(E)に示す。なお、図5(A)が実験1の画像であり、図5(B)が実験2の画像である。以下、同様に図5(C)、図5(D)、図5(E)の順番で、実験3、実験4、実験5の画像である。
実験1では、3500個/分の速度で液滴Dが生成されたが、収集流路41内ないし貯留部71内での液滴同士の融合が観察された。実験2では、貯留部71内で液滴同士の融合が観察されたが、後述するように収集流路41内における連続相流体Lcの界面活性剤の濃度が0.11%へと、わずかではあるか改善がみられている。このことは、安定化領域34を長くすることによって液滴Dの安定化の効果を得ることができることを示唆している。実験3では、収集流路41内ないし貯留部71内での液滴同士の融合は観察されず、安定化液Lsによって液滴Dの安定化が良好にされていることが確認された。また、この実験3では、4200個/分の液滴Dの生成速度が得られた。実験4では、実験3と同様に、収集流路41内ないし貯留部71内での液滴同士の融合は観察されず、安定化液によって液滴Dの安定化が良好にされていることが確認された。さらに、実験5では、収集流路41内ないし貯留部71内で一部の液滴に融合が観察されたが、液滴Dが安定化されたことが分かった。
連続相流体Lcと安定化液Lsとの混合(安定化液Lsから連続相流体Lcへの界面活性剤の移動)の効率を評価するために、実験2〜実験5における収集流路41内の連続相流体Lcを採取し、採取した連続相流体Lcにおける界面活性剤の濃度(以下、出口濃度Coという)を測定した。この出口濃度の測定では、ガスクロマトグラフィ(GC-2010AF 島津製作所製)を用いて測定を行った。この結果を図6の上段のグラフに示す。図6のグラフの横軸は、安定化液初期濃度Csである。また、図6の下段に、計算上の混合効率ηと安定化液初期濃度Csとの関係を示す。混合効率ηは、ηCs+(1−η)Cc=Coの関係式から計算されるものである。
安定化液初期濃度Csが10質量%(実験2)では、出口濃度Coは0.11質量%であり、供給される初期濃度Cc(=0.1質量%)に比べてわずかに上昇している結果となった。この値は、僅かながらでも連続相流体Lcと安定化液Lsと混合(安定化液Lsから連続相流体Lcへの界面活性剤の移動)が生じていることを示している。これに対して、安定化液初期濃度Csが25質量%(実験2)まで増加すると、出口濃度Coが1.5質量%となり大幅に上昇し、結果として上記のように液滴同士の融合が良好に抑制されたことと合致する。
一方、安定化液初期濃度Csが25質量%を超えると、その界面活性剤の濃度の増加とともに、出口濃度Coが減少する傾向を示した。この傾向は、実験3〜5が示す結果の傾向と一致すると考えられる。また、図3に示される混合効率ηと供給される安定化液初期濃度Csの相関関係についても同じ傾向を示している。そして、最大混合効率は、安定化液初期濃度Csが25質量%であるときの5.5%であることが見出され、この安定化液初期濃度Csが25質量%の前後の20質量%以上60質量%以下の範囲内であれば、より高い安定性で液滴Dの安定化がなされることが分かる。
10 液滴生成装置
11 流路デバイス
14 安定化液供給部
15 メイン流路
21 液滴生成部
31 安定化部
32 安定化液供給流路
Lc 連続相流体
Ld 分散相流体
Ls 安定化液
D 液滴

Claims (11)

  1. 第1の液体に第1の界面活性剤を含有させた連続相流体とともに前記第1の液体に不溶な第2の液体の液滴が流れるマイクロ流路と、
    前記マイクロ流路に接続された安定化液供給流路と、
    前記第1の液体に第2の界面活性剤を含有し、前記第2の界面活性剤の濃度が前記連続相流体の前記第1の界面活性剤の濃度よりも高くされた安定化液を前記安定化液供給流路を介して前記マイクロ流路に供給する安定化液供給部と
    を備えることを特徴とする液滴安定化装置。
  2. 前記安定化液供給流路は、一対設けられ、前記マイクロ流路の両側に対称に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴安定化装置。
  3. 前記安定化液供給部は、前記連続相流体を挟んで層状に流れる前記安定化液の間隔が前記液滴の直径と略同一となる供給量の前記安定化液を供給することを特徴とする請求項2に記載の液滴安定化装置。
  4. 前記安定化液供給流路よりも下流の前記マイクロ流路に設けられ、前記液滴が流れ込む収集流路及び前記安定化液が流れ込む排出流路を有する分離部を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の液滴安定化装置。
  5. 前記安定化液の前記第2の界面活性剤の濃度は、20質量%以上60質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の液滴安定化装置。
  6. 第1の液体に第1の界面活性剤を含有させた連続相流体とともに前記第1の液体に不溶な第2の液体の液滴が流れるマイクロ流路と、
    前記マイクロ流路に接続された安定化液供給流路と、
    前記第1の液体に第2の界面活性剤を含有し、前記第2の界面活性剤の濃度が前記連続相流体の前記第1の界面活性剤の濃度よりも高くされた安定化液を前記安定化液供給流路を介して前記マイクロ流路に供給する安定化液供給部と、
    前記安定化液供給流路よりも下流の前記マイクロ流路に設けられ、前記液滴が流れ込む収集流路及び前記安定化液が流れ込む排出流路を有する分離部と、
    前記収集流路に接続された流路内を流れる個々の前記液滴の進路を変化させ、複数の分取路のうちのいずれかに誘導して前記液滴を分取する液滴分取部と
    を備えることを特徴とする液滴分取装置。
  7. 前記安定化液の前記第2の界面活性剤の濃度は、20質量%以上60質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の液滴分取装置。
  8. マイクロ流路内に第1の液体に第1の界面活性剤を含有させた連続相流体とともに前記第1の液体に不溶な第2の液体の液滴を流す流動ステップと、
    前記第1の液体に第2の界面活性剤を含有し、前記第2の界面活性剤の濃度が前記連続相流体の前記第1の界面活性剤の濃度よりも高くされた安定化液を前記マイクロ流路内に供給し、前記液滴を安定化する安定化液供給ステップと
    を有することを特徴とする液滴安定化方法。
  9. 前記安定化液の前記第2の界面活性剤の濃度は、20質量%以上60質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の液滴安定化方法。
  10. マイクロ流路内に第1の液体に第1の界面活性剤を含有させた連続相流体とともに前記第1の液体に不溶な第2の液体の液滴を流す流動ステップと、
    前記第1の液体に第2の界面活性剤を含有し、前記第2の界面活性剤の濃度が前記連続相流体の前記第1の界面活性剤の濃度よりも高くされた安定化液を前記マイクロ流路内に供給し、前記液滴を安定化する安定化液供給ステップと、
    前記液滴を前記安定化液から分離する分離ステップと、
    個々の前記液滴の進路を変化させて前記液滴を分取する液滴分取ステップと
    を有することを特徴とする液滴分取方法。
  11. 前記安定化液の前記第2の界面活性剤の濃度は、20質量%以上60質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項10に記載の液滴分取方法。

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