JP6343838B2 - 排水の処理方法、および排水処理用キット - Google Patents

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Description

本発明は、シリコーンオイルを排水に添加する工程と、油分を資化する酵母を排水に接触させる工程とを含む、排水の処理方法に関する。本発明はまた、シリコーンオイルと、油分を資化する酵母とを含む、排水処理用キットに関する。
厨房や食品工場からの排水には、通常、生ゴミや調理用油が含まれている。生ゴミ等の固形物は、排水口にカゴ等を設けることによって容易に排水から除去することが可能であるが、調理油のように液状のものを除去することは容易ではない。したがって、多量の油分が混入した排水を排出する厨房や食品工場などの施設において、油分を集積し上層部に浮上した油分を分離して廃棄するためのグリーストラップが設けられている。
しかしながら、グリーストラップ内で集積した油分が固形化し、グリーストラップの水面にスカム(油の塊)として残留することがある。このとき、集積した油分は、酸化・腐敗して、悪臭・害虫の発生原因となることがある。また、集積した油分を放置すると、グリーストラップの油分除去能力が低下し、下水や河川に油分を流出させてしまう。そのため、グリーストラップ内で油分が集積した場合、専門の業者に依頼してバキューム処理や高圧洗浄処理などで油分の除去を行う必要があるためコストがかかってしまう。
そこで、グリーストラップにおいて、効率よく油分を低減するさまざまな方法が検討されている。たとえば特許文献1には、リパーゼと乳化剤とを用いて、排水中の油分を乳化剤で乳化させることで、リパーゼが効率的に油分を分解する方法が開示されている。特許文献2には、排水管やグリーストラップの洗浄に用いられる、胞子、細菌、または真菌;および、硼酸アルカノールアミン、を含む洗浄用組成物に関する発明が開示されている。
特開2000−93938号公報 特表2007−522264号公報
特許文献1に記載されるようにリパーゼを用いる場合、撹拌を行って水と油分とを混ぜたり、乳化剤を用いて油分を乳化したりするなど、リパーゼと油分の接触面積を増加させる操作が必要である。したがって、これらの方法では、曝気や撹拌をグリーストラップ内で行うため、グリーストラップから油分を流出させてしまうリスクがある。
特許文献2においては、組成物が約0.0005〜約35wt%のシリコーン界面活性剤をさらに含む構成が開示されている。界面活性剤の使用により、胞子等と油分とが接触する面積が増加しこれによって高効率な油分の低減が期待されるものの、油分が乳化するため、特許文献1と同様の問題が存在する。
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、油分の流出を抑制しつつ、グリーストラップ内において高効率に油分を低減する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、グリーストラップ内の油分の低減に使用される、排水処理用キットを提供することを目的とする。
グリーストラップに油分が排出されると、通常、グリーストラップ内で浮上し、油分が凝集してくる。本願発明者らは、シリコーンオイルを用いることにより、グリーストラップからの油分の流出を防ぎつつ、高効率に油分を低減できるのではないかとの着想に想到し、鋭意研究を行った。その結果、ある種のシリコーンオイルであれば上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。本発明は、以下の内容をその骨子とする。
(1) 下記式(1):
ただし、式(1)中、R11およびR12はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基および下記式(1a):
式(1a)中、Rは直鎖または分岐鎖の炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数2〜4のアルケニレン基であり、Zは水素原子または水酸基である、からなる群から選択され;R21およびR22はそれぞれ独立に、水素原子、フェニル基および直鎖または分岐鎖の炭素数1〜4の炭化水素基からなる群から選択され;nは1〜2230の任意の整数である、
で表わされるシリコーンオイルを排水に添加する工程;ならびに
油分を資化する酵母を排水に接触させる工程;
を含む、排水の処理方法。
(2) 式(1)中、R11およびR12がそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、メチル基、エチル基、エテニル基、カルビノール基、およびメチルカルビノール基からなる群から選択される、(1)に記載の排水の処理方法。
(3) 式(1)中、R21およびR22がそれぞれ独立に、水素原子、フェニル基、メチル基、エチル基、およびエテニル基からなる群から選択される、(1)または(2)に記載の排水の処理方法。
(4) 前記シリコーンオイルの比重が0.60以上1.00未満(25℃)である、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の排水の処理方法。
(5) 前記シリコーンオイルの濃度が0.001〜5%(w/v)となるように排水に添加する、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6) 前記酵母が、ヤロウィア属、キャンディダ属、ピキア属、ハンセヌラ属、サッカロマイセス属、クルイベロマイセス属、およびトリコスポロン属からなる群から選択される、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の排水の処理方法。
(7) 前記酵母が、ヤロウィア属である、(6)に記載の排水の処理方法。
(8) 前記酵母が、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である、(7)に記載の排水の処理方法。
(9) 下記式(1):
ただし、式(1)中、R11およびR12はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基および下記式(1a):
式(1a)中、Rは直鎖または分岐鎖の炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数2〜4のアルケニレン基であり、Zは水素原子または水酸基である、からなる群から選択され;R21およびR22はそれぞれ独立に、水素原子、フェニル基および直鎖または分岐鎖の炭素数1〜4の炭化水素基からなる群から選択され;nは1〜2230の任意の整数である、
で表わされるシリコーンオイル;ならびに
油分を資化する酵母;
を含む、排水処理用キット。
(10) 乳化剤を含まない、(9)に記載の排水処理用キット。
本発明によれば、油分の流出を抑制しつつ、グリーストラップ内において高効率に油分を低減する方法が提供される。また、本発明は、グリーストラップ内の油分の低減に使用される、排水処理用キットが提供される。
図1は、グリーストラップの構造を模式的に表す。図1は、シリコーンオイルを使用しない、従来の処理方法を適用した場合を示す。 図2は、グリーストラップの構造を模式的に表す。図2は、シリコーンオイルを使用した処理方法を適用した場合を示す。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」及び「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
本発明によれば、排水の流出を抑制しつつ、グリーストラップ内において高効率に油分を低減することができる。推定される本発明のメカニズムを、図1および図2を参照して説明する。図1および図2は、グリーストラップの構造を模式的に表している。図1では、シリコーンオイルを使用せず、油分8が凝集している状態を模式的に示す。図2は、シリコーンオイルの使用により、油分の凝集が抑制されている状態を模式的に示す。
本発明に係る方法において、シリコーンオイルや油分を資化する酵母はあらかじめ排水へ添加されていても良いが、典型的には、ふた5を開けて、グリーストラップ本体1中の排水へ添加される。
図1において、グリーストラップへ排出された排水は、矢印の方向へ流れる。油分を含む排水は、残渣受け3を通じてグリーストラップ本体1へと流れ込む。この時、生ゴミ等の残渣は残渣受け3で捕集されるが、大部分の油分は残渣受け3を通過してグリーストラップ本体1へ流入する。グリーストラップ本体1へ流入した油分8は水面7へ向かって浮上し、仕切り板2aと2cとで仕切られた空間に集まる。従って、シリコーンオイルや乳化剤を排水へ添加しない場合、仕切り板2aと2cとで仕切られた空間で油分8が次第に凝集し、スカムを形成することとなる。
排水へ乳化剤を添加した場合、油分8の凝集を抑えることが期待されるものの、油分8を含む乳化液がグリーストラップ内で分散し、排水の流れに従ってトラップ管4を通じて外部環境へ流出されやすい。このため、油分がグリーストラップから流出し、環境保全の観点から好ましくない。
一方、本発明にかかる方法においては、油分8は仕切り板2aと2cとで仕切られた空間に集まるものの、式(1)で表わされるシリコーンオイルにより、油分8が乳化されることなく凝集が抑制される(図2)。このため、仕切り板2aと2cとで仕切られた空間において、油分を資化する酵母と油分8との接触面積が増加し、油分8が効率的に分解される。式(1)で表わされるシリコーンオイルを用いた場合、油分8の分解は仕切り板2aと2cとで仕切られた空間において行われるため、油分がトラップ管4を通じて外部環境へ流出することを防止できる。さらに、式(1)で表わされるシリコーンオイルのうち比重の小さいものを用いることにより、式(1)で表わされるシリコーンオイルが水面7付近に多く存在することとなる。これにより、油分の分解が水面7付近で主として行われ、油分の外部環境への流出が、より一層低減されうる。以上のメカニズムはあくまで推定であり、本発明の技術的範囲をなんら制限するものではない。
本発明の第一の形態は、式(1)で表わされるシリコーンオイルを排水に添加する工程;ならびに油分を資化する酵母を排水に接触させる工程;を含む、排水の処理方法に関する。本発明にかかる方法においては乳化剤を必要としないため、油分を含む乳化された排水が外部環境へ流出することを防止できる。以下、本発明の第一の形態についてより詳細に説明する。
[シリコーンオイル]
本発明に係る方法で使用されるシリコーンオイルは、下記式(1)で表わされる。なお、下記式(1)中、nが2以上の場合には、各構成単位中のR21およびR22はそれぞれ同じであっても、または異なっていてもよい。
式(1)中、R11およびR12はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基および下記式(1a)からなる群から選択される。
式(1a)中、Rは直鎖または分岐鎖の炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数2〜4のアルケニレン基であり、Zは水素原子または水酸基である。炭素数1〜4のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、およびテトラメチレン基が挙げられる。直鎖または分岐鎖の炭素数2〜4のアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1−ブテニレン基、および2−ブテニレン基が挙げられる。
式(1)中、R11およびR12がそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、メチル基、エチル基、エテニル基(−CH=CH)、カルビノール基(−CHOH)、およびメチルカルビノール基(−CHCHOH)からなる群から選択されることが好ましく、R11およびR12がそれぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基およびエテニル基(−CH=CH)からなる群から選択されることが、油分減少率の観点からさらに好ましい。
式(1)中、R21およびR22はそれぞれ独立に、水素原子、フェニル基および直鎖または分岐鎖の炭素数1〜4の炭化水素基からなる群から選択される。直鎖または分岐鎖の炭素数1〜4の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基;エテニル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基;などが挙げられる。本発明においては、式(1)中においてR21またはR22(側鎖)がポリエーテル基であるような親水性シリコーンオイルは、グリーストラップ内でO/W型の乳化を起こすおそれがあるため、好ましくない。側鎖が上記のような疎水性の基であることにより、シリコーンオイルの親水性が低くなり、グリーストラップ内で油分が乳化することを防止できる。式(1)中、R21およびR22がそれぞれ独立に、水素原子、フェニル基、メチル基、エチル基、およびエテニル基からなる群から選択されることが、油分減少率の観点から好ましい。
本発明のある実施形態では、式(1)中、R11およびR12がそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、メチル基、エチル基、エテニル基、カルビノール基、およびメチルカルビノール基からなる群から選択され、R21およびR22がそれぞれ独立に、水素原子、フェニル基、メチル基、エチル基、およびエテニル基からなる群から選択される。
式(1)中、nは1〜2230の任意の整数であるが、油分減少率の観点から、1〜1000の任意の整数であることが好ましく、1〜500の任意の整数であることがより好ましく、10〜500の任意の整数であることが更に好ましい。式(1a)中、Zが水酸基のような親水性の基であるシリコーンオイルであっても、R21やR22が疎水性の基であることから、重合度の大きいものは疎水性のシリコーンオイルとなる。従って、式(1a)中、特にZが水酸基の場合、下記の方法で求めたnが35〜500の任意の整数であることが更に好ましい。また、シリコーンオイルの動粘度は重合度との相関が一般に認められることから、式(1a)中、Zが水酸基のような親水性の基であるシリコーンオイルであって、25℃での動粘度が27mm/s以上のものも好ましく用いられる。25℃での動粘度は、ASTM D 445−46Tに準じたウッベローデ粘度計による測定方法で得られた値が採用される。25℃での動粘度の上限は特に制限されるものではないが、扱いやすさの観点から、例えば10,000mm/s以下のものが好ましい。式(1a)中、特にZが水酸基の場合、25℃での動粘度が好ましくは28mm/s以上のもの、より好ましくは28mm/s以上のものが用いられる。式(1a)中、特にZが水酸基の場合も、25℃での動粘度の上限は特に制限されるものではないが、扱いやすさの観点から、例えば10,000mm/s以下のものが好ましい。
本発明に係る方法において使用されるシリコーンオイルは、25℃で測定される表面張力が、14〜30(mN/m)であることが好ましい。表面張力の小さいシリコーンオイルを用いることで、グリーストラップ内での気泡の発生が抑制され、油分を資化する酵母と油分との接触面積が増加する。25℃で測定されるシリコーンオイルの表面張力は、15〜25(mN/m)であることがより好ましく、15〜21(mN/m)であることが更に好ましい。シリコーンオイルの表面張力は、JIS K3362:2008に準拠した方法により測定される。
本発明に係る方法において、酵母による油分の資化は、水面付近で行われることが好ましい。従って、本発明にかかる方法において使用されるシリコーンオイルは、比重(25℃)が1.00より小さいものが好ましい。比重が1.00より小さいシリコーンオイルを用いることで、グリーストラップ内での油分の分散が水面付近で行われ、油分が外部環境へ流出することをより効果的に防止できる。シリコーンオイルの比重(25℃)は、好ましくは0.60以上1.00未満であり、より好ましくは0.70以上0.99以下であり、更に好ましくは0.70以上0.98以下である。シリコーンオイルの比重は、JIS Z8804:2012(液体の密度および比重の測定方法)に準拠した方法により測定される。
本発明に係る方法において使用されるシリコーンオイルは、消泡剤として使用されるような、疎水性のシリコーンオイルが好ましく、HLBが0〜4であることがより好ましい。HLBが0〜4であることにより、油分を含む排水の乳化がより効果的に抑制され得る。HLBは、グリフィン法によって算出された値を採用する。
本発明にかかる方法に用いることができる市販のシリコーンオイルとしては、例えば、KF96L−0.65cs、KF−96L−5cs、KF−96L−6cs、KF96−10cs、KF96−20cs、KF96−30cs、KF96−50cs、KF96−100cs、KF96−200cs、KF96−500cs、KF96−1000cs、KF−56、KF−99、KF−9901、KF−6000、X21−5841(以上、信越化学工業社製)等が例示できる。
本発明においては、上記のシリコーンオイルの1種を単独で、または2種以上を混合して用いることもできる。
[油分を資化する酵母]
本発明に係る方法において使用される酵母は、油分を資化するものであれば特に制限されない。油分を資化する酵母としては、例えば、ヤロウィア属、キャンディダ属、ピキア属、ハンセヌラ属、サッカロマイセス属、クルイベロマイセス属、およびトリコスポロン属等が知られており、本発明においてもこれらの子嚢菌酵母からなる群から選択されてもよい。これらの酵母のうち1種または2種以上を選択して使用できる。
より具体的には、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ヤロウィア スピーシーズ(Yarrowia sp.)、キャンディダ・ファマタ(Candida famata)、キャンディダ・ボンビコーラ(Candida bombicola)、キャンディダ・シリンドラセア(Candida cylindoracea)、キャンディダ・ルゴサ(Candida rugosa)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)、キャンディダ・インターメディア(Candida intermedia)、キャンディダ・パラリポリティカ(Candida paralipolytica)、キャンディダ・アンタークティカ(Candida antarctica)、キャンディダ スピーシーズ(Candida sp.)、ピキア・ファリノサ(Pichia farinosa)、ピキア・クルイベリ(Pichia kluyveri)、ピキア・カナデンシス(Pichia canadensis)、ピキア・フェルメンタンス(Pichia fermentans)、ピキア・ハプロフィラ(Pichia haplophila)、ピキア・メンブランアエファシエンス(Pichia menbranaefaciens)、ピキア・ロダネンシス(Pichia rhodanensis)、ハンセヌラ・アノマラ(Hansenura anomala)、ハンセヌラ・ビムンダリス(Hansenura bimundalis)、ハンセヌラ・カプスラタ(Hansenura capsulata)、ハンセヌラ・シフェリイ(Hansenura ciferrii)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・フェルメンタティ(Saccharomyces fermentati)、サッカロマイセス・ノルベンシス(Saccharomyces norbensis)、サッカロマイセス・オビフォルミス(Saccharomyces oviformis)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、トリコスポロン・ブラシカエ(Trichosporon brassicae)、トリコスポロン・キャピタタス(Trichosporon capitatus)、トリコスポロン・クタネウム(Trichosporon cutaneum)、トリコスポロン・ファーメンタンス(Trichosporon fermentans)、トリコスポロン・ネオファーメンタンス(Trichosporon neofermentans)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)、トリコスポロンスピーシーズ(Trichosporon sp.)等が例示できる。これらの意生物は、ATCC、NBRC、DSMZ等のカルチャーコレクションから入手可能である。
これらの酵母のうち、資化能の高さから、ヤロウィア属の酵母を用いることが好ましい。ヤロウィア属の酵母としては、ヤロウィア・リポリティカ ATCC48436、ヤロウィア・リポリティカ NBRC1548、ヤロウィア・リポリティカ LM02−011(受託番号NITE P−01813)、ヤロウィア・リポリティカ NBRC0746、ヤロウィア・リポリティカ NBRC1209のようなヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ヤロウィア YH−01のようなヤロウィア スピーシーズ(Yarrowia sp.)等が例示できるが、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)がより好ましくヤロウィア・リポリティカ LM02−011(受託番号NITE P−01813)が更に好ましい。
本発明に係る方法において使用される酵母の培養方法は、当該酵母が生育・増殖できるものであれば、いずれのものであってよい。例えば、本発明に係る方法において使用される酵母の培養に使用する培地は、固体または液体培地のいずれでもよく、また、使用する酵母が資化しうる炭素源、適量の窒素源、無機塩及びその他の栄養素を含有する培地であれば、合成培地または天然培地のいずれでもよい。通常、培地は、炭素源、窒素源および無機物を含む。
本発明に係る方法において使用される酵母の培養において使用できる炭素源としては、使用する菌株が資化できる炭素源であれば特に制限されない。具体的には、酵母の資化性を考慮して、グルコース、フラクトース、セロビオース、ラフィノース、キシロース、マルトース、ガラクトース、ソルボース、グルコサミン、リボース、アラビノース、ラムノース、スクロース、トレハロース、α−メチル−D−グルコシド、サリシン、メリビオース、ラクトース、メレジトース、イヌリン、エリスリトール、グルシトール、マンニトール、ガラクチトール、N−アセチル−D−グルコサミン、デンプン、デンプン加水分解物、糖蜜、廃糖蜜等の糖類、麦、米等の天然物、グリセロール、メタノール、エタノール等のアルコール類、酢酸、乳酸、コハク酸、グルコン酸、ピルピン酸、クエン酸等の有機酸類、ヘキサデカン等の炭化水素などが挙げられる。上記炭素源は、培養する酵母による資化性を考慮して適宜選択される。また、上記炭素源を1種または2種以上選択して使用することができる。
また、本発明の酵母の培養において使用できる窒素源としては、肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆加水分解物、大豆粉末、カゼイン、ミルクカゼイン、カザミノ酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸等の各種アミノ酸、コーンスティープリカー、その他の動物、植物、微生物の加水分解物等の有機窒素源;アンモニア、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩、硝酸ナトリウムなどの硝酸塩、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩、尿素等の無機窒素源などが挙げられる。上記窒素源は、培養する酵母による資化性を考慮して適宜選択される。また、上記窒素源を1種または2種以上選択して使用することができる。
本発明において使用できる無機物としては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄及び亜鉛などの、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩化物等のハロゲン化物などが挙げられる。上記無機物は、培養する酵母による資化性を考慮して適宜選択される。また、上記無機物を1種または2種以上選択して使用することができる。
本発明の酵母に効率よく油分を分解・資化させるあるいは酵母の油分分解・資化能を維持するためには、培地中に油分を添加することが好ましい。
本明細書において「油分」とは、トリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドのようなグリセリド類を多く含む食用または工業用油脂、ならびに脂肪酸を指す。培地へ添加する油分としては、例えば、オリーブ油、キャノーラ油、ココナッツ油、ごま油、米油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油、牛脂、ラード、鶏油、魚油、鯨油、バター、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等の食用油脂;アマニ油、ジャトロファ油、トール油、ハマナ油、ひまし油、ホホバ油等の工業用油脂;ならびに、酪酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等、デセン酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、イコセン酸、ドコセン酸、テトラコセン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、ヘンイコサペンタエン酸、ドコサジエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の脂肪酸;が好ましい。
培地への油分の添加量は、特に制限されず、培養する酵母による油分分解・資化能などを考慮して適宜選択されうる。具体的には、混合油脂(菜種油:大豆油:牛脂=2:2:1(重量比))を、培地1L中に1〜30g、より好ましくは5〜15gの濃度で添加することが好ましい。このような添加量であれば、酵母は、高い油分分解・資化能を維持できる。なお、油分は、単独で添加してもまたは2種以上の混合物の形態で添加してもよい。
本発明の酵母の培養は、通常の方法によって行える。例えば、酵母の種類によって、好気的条件下または嫌気的条件下で培養する。前者の場合には、酵母の培養は、振盪あるいは通気攪拌などによって行われる。また、酵母を連続的にまたはバッチで培養してもよい。培養条件は、培地の組成や培養法によって適宜選択され、本発明に係る方法において使用される酵母が増殖できる条件であれば特に制限されず、培養する酵母の種類に応じて適宜選択されうる。通常は、培養温度が、好ましくは15〜50℃、より好ましくは25〜40℃である。また、培養に適当な培地のpHは、好ましくは3〜11、より好ましくは5〜8である。さらに、培養時間は、特に制限されず、培養する酵母の種類、培地の量、培養条件などによって異なる。通常は、培養時間は、好ましくは16〜48時間、より好ましくは20〜30時間である。
本発明に係る方法において使用される酵母は、培養液中に懸濁された状態、培養液から固形分として回収された状態、乾燥された状態、担体に固定化された状態など、様々な形態で排水に接触させられうる。培養液中に懸濁され、培養液から固形分として回収され、または乾燥された状態の酵母は、例えば、排水中へ添加され、排水と接触させられる。担体に固定化された状態の酵母は、排水中へ添加されてもよいが、酵母を固定化した担体をグリーストラップ内に設置し、担体に排水を通液させることにより酵母と排水とを接触させることもできる。
培養液から固形分として回収した酵母を使用する場合、回収方法は当業者に公知のいずれの手段をも採用できる。例えば、上述の方法により培養した酵母の培養液を、遠心分離やろ過などにより固液分離し、固形分を回収して得ることができる。この固形分を乾燥(例えば、凍結乾燥)すれば、乾燥された状態の酵母を得ることができる。
担体に固定化された状態の酵母を用いる場合、酵母を固定化する担体としては、酵母を固定化することができるものであれば特に制限されず、一般的に微生物を固定化するのに使用される担体が同様にしてあるいは適宜修飾されて使用される。例えば、アルギン酸、ポリビニールアルコール、ゲランガム、アガロース、セルロース、デキストラン等のゲル状物質に包括固定する方法や、ガラス、活性炭、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、木材、シリカゲル等の表面に吸着固定する方法などが使用できる。
また、酵母を担体に固定化する方法もまた特に制限されず、一般的な微生物の固定化方法が同様にしてあるいは適宜修飾されて使用される。例えば、酵母の培養液を担体に流し込むことによる固定化法、アスピレーターを用いて担体を減圧下におき、酵母の培養液を担体に流し込むことによる固定化法、および酵母の培養液を滅菌した培地と担体との混合物に流し込み、振とう培養し、上記混合物から取り出した担体を自然乾燥する方法などが挙げられる。
[処理方法]
本発明にかかる方法において、排水に添加するシリコーンオイルの量は任意に設定できる。排水に添加するシリコーンオイルの量は、特に制限されるものではないが、排水に含まれる油分1gに対して0.001〜5gであり、好ましくは0.01〜0.5gである。または、グリーストラップ内の排水に対して、例えば0.001〜5%(w/v)であり、好ましくは0.01〜0.5%(w/v)である。シリコーンオイルを排水に0.001%(w/v)以上添加することで、効率的に油分を低減することができる。シリコーンオイルの添加量を5%(w/v)以下にすることで、添加したシリコーンオイルが外部環境へ過剰に流出することを防ぐことができる。
本発明にかかる方法において、排水に菌体を添加して接触させる場合、添加する菌量は任意に設定できる。排水に添加する菌量は、特に制限されるものではないが、排水に含まれる油分1gに対して1×10〜1×1012CFUであり、好ましくは1×10〜1×1011CFUである。もしくは、排水に含まれる油分1gに対して、例えば1mg〜1.5g(乾燥菌体重量)であり、好ましくは10mg〜150mg(乾燥菌体重量)である。または、グリーストラップ内の排水に対して、例えば1×10〜1×1012CFU/L、より好ましくは1×10〜1×1011CFU/Lとなるような量であってもよい。もしくは、グリーストラップ内の排水に対して、例えば10mg〜15g(乾燥菌体重量)/Lであり、好ましくは0.1g〜1.5g(乾燥菌体重量)/Lである。なお、酵母を2種以上組み合わせて用いる場合は、その合計量を意味する。なお、排水に添加する酵母は、前培養したものを用いても良い。前培養することにより、接種する菌量を容易に調節できる。
排水を外部環境へ排出する際、酵母は排水と共にグリーストラップ外へと排出されるので、本発明においては、グリーストラップ(排水)に、定期的に酵母を添加するのが好ましい。その間隔は、特に制限されないが、たとえば、1回/3時間、1回/24時間、または2〜3日に1回の間隔で添加するのが好ましい。添加する方法は、特に制限されず、排水が連続的にグリーストラップに流入する場合には、排水に混在させて添加してもよいし、グリーストラップ内の排水に直接、添加してもよい。厨房のシンクなどの排水口から酵母を添加すれば、洗浄により排出される排水とともに、酵母をグリーストラップ内に導入することができる。
排水へのシリコーンオイルは、菌体(排水に菌体を添加して接触させる場合)と同時に排水へ添加しても良く、別々でもよい。好ましくは、シリコーンオイルは、1週〜12週に1回、好ましくは2週〜8週に1回の頻度で排水へ添加する。
排水中に含まれる油分としては、上述の食用油脂、工業用油脂や脂肪酸が例示できる。排水中の油分の含有量は、特に制限されない。排水中に含まれる油分は、2種類以上であっても良い。
本発明の方法において、酵母に加えて、他の成分を排水に添加してもよい。他の成分としては、たとえば、リパーゼ、pH調整剤、油分の吸着剤などが挙げられる。
油分を資化する酵母は、通常、油脂をグリセロールと脂肪酸とに分解した後に資化する。従って、本発明に係る方法において使用される酵母による油分の資化を補助するため、排水にリパーゼを添加しても良い。リパーゼとしては、たとえば、シュードモナス(Pseudomonas)、特にシュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)、シュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・アルカリゲネス(Pseudomonas alcaligenes)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)、シュードモナス・マルトフィリア(Pseudomonas maltophilia)、シュードモナス・メンドシナ(Pseudomonas mendocina)、シュードモナス・メフィチカ・リポリティカ(Pseudomonas mephitica lipolytica)、シュードモナス・アルカリゲネス(Pseudomonas alcaligenes)、シュードモナス・プランタリイ(Pseudomonas plantari)、シュードモナス・シュードアルカリゲネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)およびシュードモナス・ウィスコンシネンシス(Pseudomonas wisconsinensis)の菌株、アスペルギルス(Aspergillus)、特にアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)およびアスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)の菌株、バチルス(Bacillus)、特にバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・ピュミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)およびバチルス・サチリス(Bacillus subtilis)の菌株、ペニシリウム(Penicillium)、特にペニシリウム・シクロピウム(Penicillium cyclopium)、ペニシリウム・クルストサム(Penicillium crustosum)およびペニシリウム・エクスパンサム(Penicillium expansum)の菌株、リゾプス(Rhizopus)、特にリゾプス・ジャポニカス(Rhizopus japonicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)、リゾプス・ミクロスポルス(Rhizopus microsporus)およびリゾプス・ノドサス(Rhizopus nodosus)の菌株、リゾムコール(Rhizomucor)、特にリゾムコール・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)の菌株、ムコール(Mucor)の菌株、ペシロマイセス(Paecilomyces)の菌株、リゾクトニア(Rhizoctonia)、特にリゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)の菌株、アブシディア(Absidia)、特にアブシディア・ブラケスレーナ(Absidia blakesleena)およびアブシディア・コリムビフェラ(Absidia corymbifera)の菌株、アクロモバクター(Achromobacter)、特にアクロモバクター・イオファグス(Achromobacter iophagus)の菌株、エロモナス(Aeromonas)の菌株、アルテルナリア(Alternaria)、特にアルテルナリア・ブラシッシオラ(Alternaria brassiciola)の菌株、アウレオバシジウム(Aureobasidium)、特にアウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)の菌株、ボーベリア(Beauveria)の菌株、クロモバクター(Chromobacter)、特にクロモバクター・ビスコサム(Chromobacter viscosum)の菌株、コプリヌス(Coprinus)、特にコプリヌス・シネリウス(Coprinus cinerius)の菌株、フザリウム(Fusarium)、特にフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)、フザリウム・ソラニ・ピシィ(Fusarium solani pisi)およびフザリウム・ロセウム・クルモルム(Fusarium roseum culmorum)の菌株、ゲオトリクム(Geotricum)、特にゲオトリクム・ペニシラタム(Geotricum penicillatum)の菌株、フミコラ(Humicola)、特にフミコラ・ブレビスポラ(Humicola brevispora)、フミコラ・ブレビス変種テルモイデ(Himicola brevis var.thermoidea)およびフミコラ・インソレンス(Humicola insolens)の菌株、ハイホジーマ(Hyphozyma)の菌株、ラクトバチルス(Lactobacillus)、特にラクトバチルス・クルバタス(Lactobacillus curbatus)の菌株、メタリジウム(Metarhizium)の菌株、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、特にロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)の菌株、および/またはトリコデルマ(Trichoderma)、特にトリコデルマ・ハージアナム(Trichoderma harzianum)およびトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)の菌株から得ることができる。また、上述のヤロウィア属、キャンディダ属、ピキア属、ハンセヌラ属、サッカロマイセス属、クルイベロマイセス属、および/またはトリコスポロン属の酵母から得たリパーゼを使用することもできる。
市販のリパーゼとしては、リパーゼMYおよびリパーゼOF、リパーゼPL、リパーゼQLM(名糖産業(株));リパーゼA「アマノ」6、リパーゼM「アマノ」10、リパーゼG「アマノ50、リパーゼF−AP15、リパーゼAY「アマノ」30G、リパーゼR「アマノ」GおよびリパーゼT「アマノ」(アマノエンザイム(株));スミチームNLS、スミチームRLS(新日本化学工業(株));ならびにリリパーゼA−10D、リリパーゼAF−5(ナガセケムテックス(株));エンチロンAKG−2000、エンチロンLP、エンチロンLPG(洛東化成工業(株));Lipolase100T,Lipolase100L、Platase20000L、Lipex100T、Lipex100L(ノボザイムズ社製)等が挙げられる。
リパーゼの量は、リパーゼが油分と反応できれば特に制限されないが、排水に含まれる油分1gに対して、10〜2,000Uで用いることが好ましい。より好ましくは50〜1,500U、さらに好ましくは100〜1,000Uである。または、グリーストラップの容量に対して、好ましくは1,000〜100,000U/L、より好ましくは2,000〜80,000U/Lとなるような量であってもよい。なお、リパーゼの活性単位(U)は、37℃、pH7の条件で1分間に1μモルの脂肪酸を遊離する酵素量である。
pH調整剤としては、酸やアルカリが挙げられる。排水のpHが、酵母の至適pHの範囲にない場合、酸やアルカリなどを添加して、至適なpHになるようpHを調整するのが好ましい。この際、酸やアルカリとしては、特に制限されないが、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸などの酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリが用いられる。pH調整剤の含有量は特に制限されず、所望のpHが実現される量を用いればよい。
また、本発明にかかる方法においては、特開2012−206084号公報に記載のシラスバルーン、珪藻土、パーライトのような無機高分子、ポリウレタン、ポリエチレン、メラニン樹脂のような有機高分子などの、油分の吸着剤を排水に添加しても良い。
グリーストラップは、油脂または脂肪酸含有排水を連続的に導入し、処理後の排水を連続的に排出する形態であってもよいし、油脂または脂肪酸含有排水を導入し、一括して処理した後に、処理後の排水を一括して排出する形態であってもよい。
また、本発明の方法において、酵母が油分を資化する際の温度、すなわちグリーストラップ内の温度としては、用いられる酵母により異なるため適宜選択することができる。また、酵母が油分を資化する際のpH、すなわちグリーストラップ内のpHとしても、用いられる酵母により異なるため適宜選択することができる。たとえば、一般的には、温度は、10〜60℃が好ましく、20〜50℃が好ましく、25〜40℃がより好ましい。pHは3〜10が好ましく、pH4〜9がより好ましく、pH5〜8がさらに好ましい。
[排水処理用キット]
本発明の第二の形態は、式(1)で表わされるシリコーンオイル、および油分を資化する酵母を含む、排水処理用キットに関する。本発明にかかるキットにおいては、式(1)で表わされるシリコーンオイル、および油分を資化する酵母、ならびに任意に含まれる成分(リパーゼ、pH調整剤、油分の吸着剤など)は、同一の容器に収容されていても良いが、任意に別の容器に収容されても良い。本発明にかかる排水処理用キットに用いられる式(1)で表わされるシリコーンオイルや油分を資化する酵母については、上述のシリコーンオイルや酵母についての記載と同様である。
本発明にかかる排水処理用キットに含まれる油分を資化する酵母は、培養液から固形分として回収した凍結または乾燥菌体であることが好ましく、保存性の観点から、乾燥菌体であることが好ましい。菌体の乾燥方法は特に制限されないが、菌体の活性を考慮し、凍結乾燥を採用することが好ましい。
本発明にかかる排水処理用キットは、1重量部の式(1)で表わされるシリコーンオイルと、0.1〜50重量部(乾燥菌体重量換算)の油分を資化する酵母とを含む。好ましくは、本発明にかかる排水処理用キットは、1重量部の式(1)で表わされるシリコーンオイルと、1〜30重量部(乾燥菌体重量換算)の油分を資化する酵母とを含む。
また、本発明にかかる排水処理用キットは、上述のリパーゼ、pH調整剤、油分の吸着剤などを、本発明の目的効果を損なわない範囲において、任意の割合でさらに含んでも良い。
本発明にかかるキットにおいて、式(1)で表わされるシリコーンオイル、および油分を資化する酵母、ならびに任意に含まれる成分(リパーゼ、pH調整剤、油分の吸着剤など)を収容する容器は、特に制限されるものではなく、例えば、ガラス製(例えば、褐色ガラス)、金属製、セラミック製、プラスチック製などのものが使用できる。本発明にかかるキットは、キットに係るパーツの使用量やグリーストラップへの添加頻度等を記載した使用説明書を、任意にさらに含んでも良い。
本発明にかかる排水処理用キットは、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸(NaDDBS)、カゼインナトリウムなどの陰イオン界面活性剤、脂肪族アミン塩、4級アンモニウム塩などの陽イオン界面活性剤、脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル)、ポリエチレングリコール、レシチンなどの非イオン性界面活性剤、カルボン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、N−ドデシル−N,N−ジメチルベタイン、ベタイン、サポニンなどの両性界面活性剤などの乳化剤を含まないため、油分を含む乳化された排水が外部環境へ流出されることを防止できる。本発明において、「乳化剤を含まない」とは、排水処理用キットに実質的に乳化剤が含まれていないことをいい、キットの部品として乳化剤が含まれないだけでなく、排水処理用キットの各パーツの乾燥重量当たり、乳化剤の量が0.01重量%以下であることをいう。好ましくは、排水処理用キットの各パーツの乾燥重量当たり、乳化剤の量が0.001重量%以下である。排水処理用キットに含まれる乳化剤の下限は限定されるものではないが、排水処理用キットの各パーツの乾燥重量当たり、例えば0重量%である。
本発明にかかる排水処理用キットは、少なくともシリコーンオイルおよび酵母を同時にまたは別々に排水に添加して使用される。排水への添加量は、特に制限されるものではなく、排水中の油分の量や、排水の量に応じて適宜設定される。例えば、排水に添加するシリコーンオイルの量は、排水に含まれる油分1gに対して0.001〜5gであり、好ましくは0.01〜0.5gである。または、グリーストラップ内の排水に対して、例えば0.001〜5%(w/v)であり、好ましくは0.01〜0.5%(w/v)である。排水に添加する菌量は、排水に含まれる油分1gに対して、例えば1mg〜1.5g(乾燥菌体重量)であり、好ましくは10mg〜150mg(乾燥菌体重量)である。または、グリーストラップ内の排水に対して、例えば10mg〜15g(乾燥菌体重量)/Lであり、好ましくは0.1g〜1.5g(乾燥菌体重量)/Lである。
本発明の排水処理用キットに含まれるシリコーンオイルは、例えば、1週〜12週に1回、好ましくは2週〜8週に1回の間隔でグリーストラップ(排水)に添加する。また、本発明の排水処理用キットに含まれる酵母は、たとえば、1回/3時間、1回/24時間、または2〜3日に1回の間隔でグリーストラップ(排水)に添加するのが好ましい。排水処理用キットに含まれるシリコーンオイルと酵母とは、好ましい添加頻度が異なるため、別々の容器に収容されることが好ましい。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
[試験例1.試験液の調製]
(1)ナタネ油:大豆油:牛脂=2:2:1(w/w/w)である油分を、試験管内に0.05gずつ量り入れた。
(2)以下の組成の水層となるように、各成分を蒸留水に溶解し、塩酸を用いてpH5.0に調節し、(1)の試験管内に5mlずつ分注した。
(3)表2に記載のシリコーンオイルを、(2)の試験管内に2.5mgずつ量り入れ、試験液とした(表中、「No.」は試験区番号を示す。)。なお、比較対象として、シリコーンオイルを添加しない試験液も調製した(試験区番号「C」)。表2中、試験区No.15、18〜20は、親水性のシリコーンオイルである。また、表2中、試験区番号14〜20についての表面張力に関するデータは未確認である。表2中、動粘度が100mm/s未満であるNo.1〜No.7についてはWarricの式(J.Amer.Chem.Soc. 77. 5017(1955))により、動粘度が100mm/s以上であるNo.8〜No.11についてはBarryの式(J.Appl.Physics. 17. 1020 (1946))により分子量を求め、繰り返し単位の分子量(ジメチルポリシロキサンであれば74)から、nを求めた。本明細書においては、変性シリコーンオイル(R11、R12、R21、R22の少なくとも一つがメチル基以外の基(例えば、水酸基)であるシリコーンオイル)であるNo.12〜No.20のnについても、上記の式により分子量を求め、繰り返し単位の分子量はジメチルポリシロキサンの74を採用して求めた値をnとした。
[試験例2.微生物の前培養]
酵母としては、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica) LM02−011(受託番号NITE P−01813、以下「LM02−11株」とも称する。)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica) NBRC0746(NBRCより購入、以下「NBRC0746株」とも称する。)、またはヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica) NBRC1209(NBRCより購入、以下「NBRC1209株」とも称する。)を使用した。比較微生物としては、細菌バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)(TD800S、ノボザイムズ社製)、またはバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)(BNクリーン、明治フードマテリア社製)を用いた。
(1)酵母の前培養
LM02−11株、NBRC0746株またはNBRC1209株をYM寒天培地(pH6.0)上に塗抹し、30℃で2日間培養した。なお、YM寒天培地は、1.0%(w/v)グルコース、0.5%(w/v)ポリペプトン、0.3%(w/v)麦芽エキス、0.3%(w/v)酵母エキスとなるように純水に溶解し、1.5%(w/v)寒天となるように添加し、高圧滅菌したものをシャーレに約25mlずつ分注して平板培地として調製した。
5mLのYM培地(pH6.0)が入った試験管に、LM02−11株、NBRC0746株またはNBRC1209株を1白金耳、植菌した。なお、YM培地は、1.0%(w/v)グルコース、0.5%(w/v)ポリペプトン、0.3%(w/v)麦芽エキス、0.3%(w/v)酵母エキスとなるように純水に溶解し、高圧滅菌したものを使用した。
YM培地に植菌したLM02−11株、NBRC0746株またはNBRC1209株を、30℃、140rpmで24時間、前培養した。
(2)細菌の前培養
バチルス・メガテリウム、またはバチルス・サブチリスをブイヨン寒天培地(pH7.0)上に塗抹し、30℃で2日間培養した。なおブイヨン寒天培地は、1%(w/v)ポリペプトン、0.7%(w/v)肉エキス、3%(w/v)NaClとなるように純水に溶解し、pH7に調整後、1.5%(w/v)寒天となるように添加し、高圧滅菌したものをシャーレに約25mlずつ分注して平板培地として調製した。
5mLのブイヨン培地(pH7.0)が入った試験管に、バチルス・メガテリウムまたはバチルス・サブチリスを1白金耳、植菌した。なお、ブイヨン培地は、1%(w/v)ポリペプトン、0.7%(w/v)肉エキス、3%(w/v)NaClとなるように純水に溶解し、高圧滅菌したものを使用した。
ブイヨン培地に植菌したバチルス・メガテリウムまたはバチルス・サブチリスを、30℃、140rpmで24時間、前培養した。
[試験例3.シリコーンオイルによる油分減少率への影響]
試験例1で調製した試験液に対し、試験例2で調製したLM02−11株の培養液200μlを添加した。なお、培養液200μl中の菌数は、8×10CFU(乾燥菌体換算で2mg)であった。
微生物を添加した試験液を30℃で20時間振盪(140rpm)培養した。
培養後、JIS K0102:2013改正(工業排水試験方法)に準じてノルマルヘキサン抽出物を調製した。ノルマルヘキサン抽出物を油分の残存量とし、試験液の調製時に添加した油分(0.05g)と油分の残存量(ノルマルヘキサン抽出物の量(g))とから、下記数式1により油分減少率を求めた。結果を下表に示す。
表3より、式(1)で表わされるシリコーンオイルを含む試験液においては、シリコーンオイルを含まない試験液よりも油分減少率が高いことが分かる。側鎖がポリエーテル(試験区番号15)である親水性シリコーンオイルでは、シリコーンオイルを含まない試験液よりも油分減少率が低下していた。同様に、親水性シリコーンオイルを用いた試験区番号18〜20においても、油分減少率が低かった。
[試験例4.微生物の種類による油分減少率への影響]
試験例1で調製した試験液(試験区番号Cまたは試験区番号1)に対し、試験例2で調製した酵母(LM02−11株、NBRC0746株、NBRC0746株)、または細菌(バチルス・メガテリウム、バチルス・サブチリス)の培養液200μlを添加した。なお、培養液200μl中の菌数は、それぞれ8×10CFU(乾燥菌体で2mg)、9×10CFU、9×10CFU、1.5×10CFU、1.5×10CFUであった。
微生物を添加した試験液を30℃で20時間振盪(140rpm)培養した。
培養後、JIS K0102:2013改正(工業排水試験方法)に準じてノルマルヘキサン抽出物を調製した。ノルマルヘキサン抽出物を油分の残存量とし、試験液の調製時に添加した油分(0.05g)と油分の残存量(ノルマルヘキサン抽出物の量(g))とから、上記数式1により油分減少率を求めた。結果を下表に示す。
表4より、酵母を用いた場合、細菌を用いた場合よりも油分減少率が高いことが分かる。また、酵母においては式1で表わされるシリコーンオイルの添加によって油分減少率が上昇したが、細菌においては式1で表わされるシリコーンオイルの添加によって油分減少率が低下した。
1 グリーストラップ本体、
2a、2b、2c 仕切り板、
3 残渣受け、
4 トラップ管、
5 ふた、
6 床、
7 水面、
8 油分。

Claims (8)

  1. 下記式(1):

    ただし、式(1)中、 11 が、CH 、CH OH、OHのいずれかであり、R 12 が、Si(CH 、Si(CH CH OH、Si(CH OHのいずれかであり、R 21 とR 22 がそれぞれ独立に、H、CH 、C のいずれかであり;nは1〜2230の任意の整数である、
    で表わされるシリコーンオイルを油分含有排水に添加する工程;ならびに
    前記油分を資化する酵母を前記排水に接触させる工程;
    を含む、油分含有排水の処理方法。
  2. 前記シリコーンオイルの比重が0.60以上1.00未満(25℃)である、請求項1に記載の処理方法。
  3. 前記シリコーンオイルの濃度が0.001〜5%(w/v)となるように前記排水に添加する、請求項1または2に記載の処理方法。
  4. 前記酵母が、ヤロウィア属、キャンディダ属、ピキア属、ハンセヌラ属、サッカロマイセス属、クルイベロマイセス属、およびトリコスポロン属からなる群から選択される、請求項1〜のいずれか1項に記載の処理方法。
  5. 前記酵母が、ヤロウィア属である、請求項に記載の処理方法。
  6. 前記酵母が、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である、請求項に記載の処理方法。
  7. 下記式(1):

    ただし、式(1)中、 11 が、CH 、CH OH、OHのいずれかであり、R 12 が、Si(CH 、Si(CH CH OH、Si(CH OHのいずれかであり、R 21 とR 22 がそれぞれ独立に、H、CH 、C のいずれかであり;nは1〜2230の任意の整数である、
    で表わされるシリコーンオイル;ならびに
    排水中の油分を資化する酵母;
    を含む、油分含有排水処理用キット。
  8. 乳化剤を含まない、請求項に記載の油分含有排水処理用キット。
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