以下、添付図面を参照して、超音波診断装置の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。図1に例示するように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、モニタ2と、入力装置3と、装置本体10とを有する。
超音波プローブ1は、複数の振動子(例えば、圧電振動子)を有し、これら複数の振動子は、後述する装置本体10が有する送受信部11から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ1が有する複数の振動子は、被検体Pからの反射波を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ1は、振動子に設けられる整合層と、振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ1が有する複数の振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
超音波プローブ1は、装置本体10と着脱自在に接続される。被検体Pの2次元走査を行なう場合、操作者は、例えば、複数の圧電振動子が一列で配置された1Dアレイプローブを超音波プローブ1として装置本体10に接続する。1Dアレイプローブは、リニア型超音波プローブ、コンベックス型超音波プローブ、セクタ型超音波プローブ等である。また、被検体Pの3次元走査を行なう場合、操作者は、例えば、メカニカル4Dプローブや2Dアレイプローブを超音波プローブ1として装置本体10と接続する。メカニカル4Dプローブは、1Dアレイプローブのように一列で配列された複数の圧電振動子を用いて2次元走査が可能であるとともに、複数の圧電振動子を所定の角度(揺動角度)で揺動させることで3次元走査が可能である。また、2Dアレイプローブは、マトリックス状に配置された複数の圧電振動子により3次元走査が可能であるとともに、超音波を集束して送信することで2次元走査が可能である。以下では、装置本体10に、1Dアレイプローブが接続される場合について説明する。
入力装置3は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等を有し、超音波診断装置の操作者からの各種設定要求を受け付け、装置本体10に対して受け付けた各種設定要求を転送する。
モニタ2は、超音波診断装置の操作者が入力装置3を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体10において生成された超音波画像データ等を表示したりする。
装置本体10は、超音波プローブ1が受信した反射波信号に基づいて超音波画像データを生成する装置である。図1に示す装置本体10は、超音波プローブ1が受信した2次元の反射波データに基づいて2次元の超音波画像データを生成可能な装置である。また、図1に示す装置本体10は、超音波プローブ1が受信した3次元の反射波データに基づいて3次元の超音波画像データを生成可能な装置である。
装置本体10は、図1に示すように、送受信部11と、Bモード処理部12と、ドプラ処理部13と、画像生成部14と、データ処理部15と、画像メモリ16と、内部記憶部17と、制御部18とを有する。
送受信部11は、超音波送信における送信指向性を制御する送信ビームフォーマーである。具体的には、送受信部11は、レートパルサ発生器、送信遅延部、送信パルサ等を有し、超音波プローブ1に駆動信号を供給する。レートパルサ発生器は、所定のレート周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。レートパルスは、送信遅延部を通ることで異なる送信遅延時間が掛けられた状態で送信パルサへ電圧を印加する。すなわち、送信遅延部は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な振動子ごとの送信遅延時間を、レートパルサ発生器が発生する各レートパルスに対し与える。送信パルサは、かかるレートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。
駆動パルスは、送信パルサからケーブルを介して超音波プローブ1内の振動子まで伝達した後に、振動子において電気信号から機械的振動に変換される。この機械的振動は、生体内部で超音波として送信される。振動子ごとに異なる送信遅延時間を持った超音波は、収束されて、所定の送信方向に伝搬していく。送信遅延部は、各レートパルスに対し与える送信遅延時間を変化させることで、振動子面からの送信方向を任意に調整する。送受信部11は、超音波ビームの送信に用いる振動子の数及び位置(送信開口)と、送信開口を構成する各振動子の位置に応じた送信遅延間とを制御することで、送信指向性を与える。
なお、送受信部11は、後述する制御部18の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、超音波ビームの送信周波数(送信中心周波数)、送信駆動電圧等を瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬時にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、又は、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
超音波プローブ1が送信した超音波の反射波は、超音波プローブ1内部の振動子まで到達した後、振動子において、機械的振動から電気的信号(反射波信号)に変換される。反射波信号は、ケーブルを介して、超音波受信における受信指向性を制御する受信ビームフォーマーとしても機能する送受信部11に入力される。
具体的には、受信ビームフォーマーとしての送受信部11は、プリアンプ、A/D変換器、受信遅延部、加算部等を有し、超音波プローブ1が受信した反射波信号に対して各種処理を行なって反射波データを生成する。反射波データは、例えば、後述するBモード処理部12、画像生成部14の処理により超音波画像データ(Bモード画像データ)に変換され、モニタ2に出力される。
プリアンプは、反射波信号をチャンネルごとに増幅してゲイン補正処理を行なう。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をA/D変換することで、ゲイン補正された反射波信号をデジタルデータに変換する。受信遅延部は、デジタルデータに対して、受信指向性を決定するのに必要な受信遅延(受信遅延時間)を掛ける。具体的には、受信遅延部は、超音波画像の撮影対象である被検体Pの体内組織の平均音速として予め設定された音速値から算出される集束点ごとの受信遅延時間の分布(受信遅延パターン)に基づいて、デジタルデータに対して受信遅延時間を与える。このように、受信遅延部が各振動子の出力信号に対して受信遅延時間を掛けることで、受信走査線の同一サンプル点からの信号のデータ列が、加算部に入力される。
加算部は、受信遅延部により受信遅延時間が与えられた反射波信号(デジタルデータ)の加算処理(整相加算処理)を行なう。すなわち、加算部は、受信開口の各振動子が受信した同一サンプル点からの信号を加算する。加算部の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。加算部が出力した信号は、反射波データ(受信信号)として、後段の処理部に出力される。
受信ビームフォーマーとしての送受信部11は、反射波の受信に用いる振動子の数及び位置(受信開口)と、受信開口を構成する各振動子の位置に応じた受信遅延時間とを制御することで、受信指向性を与える。なお、受信遅延時間は、振動子の位置とともに、受信フォーカスの位置に応じて異なる。
また、送受信部11は、DVAF(Dynamic Variable Aperture Focus)法を実行可能である。DVAF法を行なう場合、送受信部11は、近くから返ってくる信号を受信する場合は、受信開口幅を小さくして、近距離の受信ビームを細くする。また、DVAF法を行なう場合、送受信部11は、遠くから返ってくる信号を受信する場合は、受信開口幅が大きいほど強いフォーカスをかけられるので、距離に応じて受信開口幅を大きくする。かかる受信開口幅は、予め設定される「F-number」により設定される。「F-number」は、受信フォーカスの深さと受信開口幅との比で定義される値であり、例えば、操作者により任意に変更可能である。送受信部11は、DVAF法を行なう場合、「F-number」に応じて、各深さ位置での受信開口幅を変更する。具体的には、送受信部11は、受信フォーカス位置と「F-number」とで定まる受信開口幅の受信開口を、受信走査線が中心となるように設定する。
また、送受信部11は、受信アポダイゼーション(apodization)を行なう。すなわち、加算部は、受信開口の各振動子が受信した同一サンプル点からの信号(受信遅延時間が掛けられた状態で入力された信号)を、開口関数(アポダイゼーション関数)により重み付けを行なった後に、加算処理を行なう。例えば、後述する制御部18は、開口関数を作成し、送受信部11に設定する。開口関数(受信開口関数)は、振動子の位置ごとに重みが設定された関数である。また、送受信部11は、1本の送信走査線上で行なわれた送信超音波により、複数の受信走査線それぞれの反射波を同時に受信する並列同時受信を行なうことも可能である。
送受信部11からの出力信号の形態は、位相情報が含まれる信号である場合や、包絡線検波処理後の振幅情報(振幅信号)である場合等、種々の形態が選択可能である。なお、位相情報が含まれる信号とは、RF(Radio Frequency)信号や、RF信号から抽出された同相信号(I信号、I:In-phase)及び直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)であるIQ信号である。以下に説明する実施形態では、送受信部11がIQ信号を用いて様々な処理を行なって、受信走査線の反射波データとして、IQ信号を生成出力する場合について説明する。なお、上記の一例では、送受信部11は、遅延加算(DAS:Delay And Sum)法を行なう受信ビームフォーマーである。ただし、図1に示す送受信部11は、アダプティブアレイ(Adaptive Array)法に基づいて、受信指向性を有する反射波データを生成する受信ビームフォーマーであっても、DAS法及びアダプティブアレイ法の双方を実行可能な受信ビームフォーマーであっても良い。
ここで、送受信部11は、被検体Pを2次元走査する場合、超音波プローブ1から2次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した2次元の反射波信号から2次元の反射波データを生成する。また、送受信部11は、被検体Pを3次元走査する場合、超音波プローブ1から3次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した3次元の反射波信号から3次元の反射波データを生成する。
Bモード処理部12は、送受信部11が出力した反射波データに対して、対数増幅、包絡線検波処理、対数圧縮等を行なって、サンプル点ごとの信号強度(振幅強度)が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。
ドプラ処理部13は、送受信部11が出力した反射波データを周波数解析することで、ドプラ効果に基づく移動体(血流や組織、造影剤エコー成分等)の運動情報を抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。具体的には、ドプラ処理部13は、移動体の運動情報として、平均速度、分散値、パワー値等を多点に渡り抽出したドプラデータを生成する。
Bモード処理部12及びドプラ処理部13は、2次元の反射波データ及び3次元の反射波データの両方について処理可能である。
なお、図1に示す超音波診断装置は、コントラストハーモニックイメージング(CHI:Contrast Harmonic Imaging)や、ティッシュハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)等のハーモニックイメージングを実行可能である。
例えば、ハーモニックイメージングでは、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)法や位相変調(PM:Phase Modulation)法、AM法及びPM法を組み合わせたAMPM法と呼ばれる映像法が行なわれる。AM法、PM法及びAMPM法では、同一の走査線に対して振幅や位相が異なる超音波送信を複数回行なう。これにより、送受信部11は、各走査線で複数の反射波データ(受信信号)を生成する。そして、送受信部11は、各走査線の複数の反射波データ(受信信号)を、変調法に応じた加減算処理することで、ハーモニック成分を抽出する。そして、Bモード処理部12は、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)に対して包絡線検波処理等を行なって、Bモードデータを生成する。
例えば、PM法が行なわれる場合、送受信部11は、制御部18が設定したスキャンシーケンスにより、例えば(−1,1)のように、位相極性を反転させた同一振幅の超音波を、各走査線で2回送信させる。そして、送受信部11は、「−1」の送信による受信信号と、「1」の送信による受信信号とを生成する。そして、送受信部11は、これら2つの受信信号を加算する。これにより、基本波成分が除去され、2次高調波成分が主に残存した信号が生成される。そして、Bモード処理部12は、この信号に対して包絡線検波処理等を行なって、THIのBモードデータやCHIのBモードデータを生成する。
また、THIでは、受信信号に含まれる2次高調波成分と差音成分とを用いて映像化を行なう方法が実用化されている。差音成分を用いた映像化法では、例えば、中心周波数が「f1」の第1基本波と、中心周波数が「f1」より大きい「f2」の第2基本波とを合成した合成波形の送信超音波を、超音波プローブ1から送信させる。この合成波形は、2次高調波成分と同一の極性を持つ差音成分が発生するように、互いの位相が調整された第1基本波の波形と第2基本波の波形とを合成した波形である。送受信部11は、合成波形の送信超音波を、位相を反転させながら、例えば、2回送信させる。かかる場合、送受信部11は、これら2回の送信それぞれに対応する2つの受信信号を生成する。そして、送受信部11は、これら2つの受信信号を加算する。これにより、基本波成分が除去され、差音成分及び2次高調波成分が主に残存した信号が生成される。そして、Bモード処理部12は、この信号に対して包絡線検波処理等を行なって、THIのBモードデータを生成する。なお、各走査線での複数の反射波データ(受信信号)の加減算処理は、Bモード処理部12により行われても良い。
画像生成部14は、Bモード処理部12及びドプラ処理部13が生成したデータから超音波画像データを生成する。すなわち、画像生成部14は、Bモード処理部12が生成した2次元のBモードデータから、反射波の強度を輝度で表した2次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部14は、ドプラ処理部13が生成した2次元のドプラデータから、移動体情報を表す2次元ドプラ画像データを生成する。2次元ドプラ画像データは、速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又は、これらを組み合わせた画像データである。
ここで、画像生成部14は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成部14は、超音波プローブ1による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成部14は、スキャンコンバート以外に種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行なう。また、画像生成部14は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
Bモードデータ及びドプラデータは、スキャンコンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成部14が生成するデータは、スキャンコンバート処理後の表示用の超音波画像データである。なお、Bモードデータ及びドプラデータは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。画像生成部14は、反射波データから振幅変換により得られた振幅信号、又は、振幅信号の対数圧縮変換により得られた画像信号に対して、上述した平滑化処理や、エッジ強調処理等のフィルタ処理を行なう機能を有する。以下では、画像生成部14が行なうフィルタ処理を「Rawフィルタ処理」と記載する場合がある。
更に、画像生成部14は、Bモード処理部12が生成した3次元のBモードデータに対して座標変換を行なうことで、3次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部14は、ドプラ処理部13が生成した3次元のドプラデータに対して座標変換を行なうことで、3次元ドプラ画像データを生成する。すなわち、画像生成部14は、「3次元のBモード画像データや3次元ドプラ画像データ」を「3次元超音波画像データ(ボリュームデータ)」として生成する。そして、画像生成部14は、ボリュームデータをモニタ2にて表示するための各種の2次元画像データを生成するために、ボリュームデータに対して様々なレンダリング処理を行なう。
データ処理部15は、装置本体10内で生成されたデータに対して、各種処理を行なう処理部であり、図1に示すように、取得部151と、合成部152と、信号処理部153とを有する。取得部151が取得するデータは、位相情報を含む信号を整相加算した信号(IQ信号)や、この信号を位相検波した後の振幅信号や、この振幅信号を対数圧縮した後の画像信号であり、合成部152及び信号処理部153は、取得部151が取得したデータに対して各種処理を行なう。なお、第1の実施形態に係るデータ処理部15については、後に詳述する。
画像メモリ16は、画像生成部14が生成した画像データを記憶するメモリである。また、画像メモリ16は、Bモード処理部12やドプラ処理部13が生成したデータを記憶することも可能である。画像メモリ16が記憶するBモードデータやドプラデータは、例えば、診断の後に操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成部14を経由して表示用の超音波画像データとなる。また、画像メモリ16は、送受信部11が出力したデータや、データ処理部15が出力したデータを記憶することも可能である。
内部記憶部17は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行なうための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、内部記憶部17は、必要に応じて、画像メモリ16が記憶するデータの保管等にも使用される。
制御部18は、超音波診断装置の処理全体を制御する。具体的には、制御部18は、入力装置3を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部17から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信部11、Bモード処理部12、ドプラ処理部13、画像生成部14及びデータ処理部15の処理を制御する。また、制御部18は、画像メモリ16が記憶する表示用の超音波画像データをモニタ2にて表示するように制御する。
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、超音波画像データ(例えば、Bモード画像データ)の生成表示を行なう。
ここで、従来、Bモード画像データのノイズ信号(多重反射信号や、サイドローブ等)を低減するために、様々な方法が行なわれている。ノイズ信号は、映像化されると、画質の低下を招くとともに、診断の妨げとなる。すなわち、映像化されたノイズ信号を参照した医師は、本来、ノイズ信号が描出された位置に、何かしらの物体があると判断してしまう。図2は、多重反射アーチファクトを説明するための図である。図2の左図は、表面に水を張ったファントムからの反射信号を画像化したBモード画像データであり、この画像には、約1.1cmの深さに位置するファントム境界面による多重反射信号が約2.2cmの深さの位置に描出されている。また、図2の右図は、ヒト頸動脈からの反射信号を画像化したBモード画像データであり、この画像には、頸動脈の血管内腔部に、多重反射信号が存在している。
例えば、図2に例示する多重反射信号を低減するため、従来、所謂、空間コンパウンド処理が行われている。図3、図4及び図5は、従来の空間コンパウンド処理を説明するための図である。
コンパウンド処理による多重反射信号低減の方法の一例は、超音波送受信の偏向角を変えた複数のBモード画像データを加算平均により合成(コンパウンド)する方法である。また、この方法を応用して、偏向角の異なる複数のBモード画像データから、多重反射エコー成分の程度と位置とを推定し、推定結果から加算平均時の重みを適応的に制御する方法も知られている。これらの方法は、フレーム間で超音波送受信の偏向角を変える超音波走査により生成された偏向角の異なる複数の超音波画像データをコンパウンドする方法である。
ここで、振動子の配列方向に対して垂直な方向の偏向角を「0度」と定義する。偏向角「0度」は、偏向を施さずに行なわれる通常の超音波送受信の方向である。また、振動子の配列方向に対して左側に振った方向の偏向角を「正の角度」と定義し、振動子の配列方向に対して右側に振った方向の偏向角を「負の角度」と定義する。
かかる定義を用いると、図3に示す「C」は、偏向角「0度」の超音波送受信が行なわれることで生成されたBモード画像データである。また、図3に示す「L」は、偏向角「+θ度」の左側に偏向した超音波送受信が行なわれることで生成されたBモード画像データである。また、図3に示す「R」は、偏向角「−θ度」の右側に偏向した超音波送受信が行なわれることで生成されたBモード画像データである。以下、図3に示す「L」を、左偏向画像データLと記載する。また、以下、図3に示す「R」を、右偏向画像データRと記載する。また、以下、左偏向画像データLと右偏向画像データRとの間の中央の画像となる図3に示す「C」を、中央画像データCと記載する。
図3に示す従来方法では、中央画像データCと左偏向画像データLと右偏向画像データRとを加算平均した画像データを出力する。又は、図3に示す従来方法では、中央画像データCと左偏向画像データLと右偏向画像データRとから多重反射エコー成分の程度と位置とを推定する。そして、図3に示す従来方法では、推定結果から加算平均時の重みを算出し、中央画像データCと左偏向画像データLと右偏向画像データRとを重み付け加算して画像データを出力する。
また、上記の「偏向角の異なる複数の画像をコンパウンドする従来方法」の他にも、多重反射エコーを軽減するための一般的な空間コンパウンド処理として、図4の(A)及び図4の(B)に例示する2つの従来方法が用いられている。図4の(A)に例示する方法は、1本の走査線の受信信号を得る際に、同一の送信ビームに対して、並列同時受信により同時に得られる受信偏向角の異なる複数の受信信号群を加算平均する方法である。図4の(A)に例示する方法では、送信開口及び受信開口を固定したうえで、ある走査線での送信超音波に対して3方向の受信偏向角(例えば、0度、+θ度、−θ度)の反射波を並列同時受信することで、3方向の同時受信信号が得られる。図4の(A)に示す従来方法では、3方向の同時受信信号を加算平均することで、受信偏向角「0度」の1本の受信信号を得る。かかる処理は、フレーム内の全走査線で行なわれる。
一方、図4の(B)に例示する方法は、1本の走査線の受信信号を得る際に、レート間で送信の偏向角を変えながら対応する方向からの受信信号を得て、これら複数レートでの受信信号を加算平均する方法である。図4の(B)では、送信開口及び受信開口を固定したうえで3方向の送受信偏向角(0度、+θ度、−θ度)で超音波送受信を行なって生成された3方向の受信信号を示している。図4の(B)に示す従来方法では、3方向の受信信号を加算平均することで、受信偏向角「0度」の1本の受信信号を得る。かかる処理は、フレーム内の全走査線で行なわれる。
これらの3種類の従来方法は、被検体Pに対する超音波ビームの偏向角を変えた場合(超音波ビームを斜めにした場合)、多重反射エコー(ノイズ)が出現する位置が偏向角に応じて変化することを利用して、斜めにしても強度変化が相対的に少ない信号成分(例えば、組織由来の信号成分)をコンパウンド処理により維持して、画像中の信号対ノイズ比を向上させる技術である。なお、送信時の偏向角の変更は、送信遅延パターンによる制御が好適である。また、受信時の偏向角の変更は、受信遅延パターンを変える制御を行なう場合と、受信開口分布(apodization)を左右に偏らせる制御を行なう場合とがある。
ここで、図4の(A)に例示する従来方法は、並列同時受信を用いることから、リアルタイム性が高い。しかし、図4の(A)に例示する従来方法は、送受信間の偏向角を異ならせることから、多重軽減効果を得るためには、偏向角を大きくする必要がある。しかし、図4の(A)に例示する従来方法は、送受信間の偏向角を大きくすると、感度が低下する。
これに対して、図4の(B)に例示する従来方法は、送受信間の偏向角を同一にできるので、感度低下を抑えつつ大きな偏向角を設定するができ、図4の(A)に例示する従来方法より高い多重軽減効果が得られる。しかし、図4の(B)に例示する従来方法は、レートシーケンスが必要となり、フレームレートが低くなる。
一方、図3に例示する従来方法では、フレーム単位(画像単位)で偏向角を変えるため、送受信間の偏向角を同一にできることで感度低下を抑えつつ、フレームレートの減少はない。すなわち、フレーム単位で偏向角を変える場合、受信開口サイズ(受信開口幅)を一定にしたままで送受信遅延パターンの制御により送受信偏向角を変えることができるので、感度を維持しつつ、相対的に大きな偏向角を得ることができる。偏向角を大きくすると、例えば、図5に示すように、送信開口(Tx Aperture)から斜めに送信された超音波の反射波の中で、1回反射の真の信号成分(Signal)は、受信開口(Rx Aperture)で受信される一方で、繰り返し反射する多重反射成分(Reverberation)は、受信開口(Rx Aperture)の外部で受信される。このように、フレーム単位で偏向角を変える方法では、偏向角を大きくすることで、多重反射低減効果が高くなる。従って、図3に例示する従来方法では、多重軽減効果と、フレームレート及び感度の有る程度の維持との両立が可能となる。
しかし、フレーム単位で偏向角を変える方法では、エレメントファクタの制約により、偏向角を大きくした場合の振幅低下の影響が避けられない。特に開口端部の素子では、相対的に、より大きな偏向角で送受信が行われるために、振幅低下の程度が大きくなる。これは有効な開口幅が減少したことに相当する。すなわち、斜めに振った画像データ(例えば、左偏向画像データLや右偏向画像データR)では、偏向角「0度」の画像データ(中央画像データC)に比べて、方位分解能が低下する。更に、斜めに振った画像では、中央画像データCに対する感度(S/N比)も低下する。従って、偏向角を変えた複数の画像を用いてコンパウンドして得られる出力画像は、偏向していない画像(例えば、中央画像データC)と比較して、方位分解能及び感度が低下するという課題がある。
また、近年、図3〜図5等を用いて説明した空間コンパウンド法以外にも、受信アポダイゼーションにより、鏡面状の多重反射を効果的に低減させる方法が提案されている。受信アポダイゼーションは、受信ビームフォーミングで用いられるパラメータの1つであり、受信アポダイゼーションは、上述した開口関数の重み付けパターンを、目的に応じたパターンとすることで行われる。上記の提案方法では、多重反射成分を可能な限り除外するための受信アポダイゼーションが行われる。この提案方法の受信アポダイゼーションで用いられる開口関数について、従来の受信アポダイゼーションで用いられる開口関数と併せて、図6〜図9を用いて説明する。図6〜図9は、開口関数を説明するための図である。
従来の受信アポダイゼーションでは、信号成分のメインローブを得るために、例えば、「ハミング窓(Hamming Window)」により重みを与える開口関数が用いられる(図6の上図の「Hamming-weight」を参照)。或いは、従来の受信アポダイゼーションでは、周波数分解能が高い信号成分を得るために、例えば、「方形窓(Rectangular Window)」により重みを与える開口関数が用いられる(図6の中図の「Rect-weight」を参照)。なお、図6では、受信開口幅を「1.0」として示している。
また、上記の提案方法では、多重反射成分の除去を目的として、受信開口の中央部分の重みを略「0」とする開口関数が用いられる。例えば、この提案方法では、図6の下図の「Inv-weight」に示すように、受信開口幅の半分(0.5)で開口中央部を「0」とする開口関数が用いられる。
図6に示すように、ハミング窓を用いた開口関数は、受信開口の端部の素子側の重みより中央部の素子側の重みが大きい重み付けパターンの開口関数である。また、方形窓を用いた開口関数は、ハミング窓を用いた開口関数の重み付けパターンよりも端部の素子側の重みが大きい開口関数の一例となる。
これに対して、「Inv-weight」の開口関数は、図6に示すように、受信開口の端部の素子側の重みより中央部の素子側の重みが小さい開口関数である。以下では、このような重みのパターン形状の違いから、従来の受信アポダイゼーションを「順アポダイゼーション」と記載し、上記の提案方法の受信アポダイゼーションを「逆アポダイゼーション」と記載する場合がある。また、以下では、「順アポダイゼーション」で用いられる開口関数を「順開口関数」と記載し、「逆アポダイゼーション」で用いられる開口関数を「逆開口関数」と記載する場合がある。
上記の提案方法で用いられる逆開口関数が多重反射の低減に効果的であることを、図7を用いて説明する。図7に示す「Aperture」は、受信開口である。図7では、受信開口の幅を両矢印線で示している。図7は、リニア走査、又は、セクタ走査で受信開口直下(正面)に位置する反射源から反射波を受信した場合での、受信開口と走査線方向(図中の「Receiving direction」を参照)との位置関係を表している。また、図7に示すP1は、走査線方向に位置する反射源であり、図7に示すP2は、走査線方向に位置し、反射源P1より受信開口に近い場所に位置する反射源である。図7では、反射源P1と受信開口との距離が、反射源P2と受信開口との距離の2倍となっている。
仮に、反射源P2で反射された反射波が超音波プローブ1の表面で1回反射して生体内に再入射し、更に、再入射した反射波が反射源P2で反射されて反射波信号として受信されたとする。かかる1回多重反射で反射源P2から反射された反射波の波面(wavefront)は、反射源P1で反射された反射波の波面として観測される。図7では、真の反射源P2からの信号波面(Signal wavefront)を「WF2」で示し、1回多重の反射源P1からの多重波面(Reverberation wavefront)を「WF1」で示している。
ここで、反射源P2近傍の位置を受信フォーカスとする受信遅延処理により、信号波面であるWF2は、受信開口を構成する全素子で位相が揃う。一方、正面からの信号成分が最終的に反射された深さと、正面からの多重成分が最終的に反射された深さとの違いに起因して、反射源P2近傍の位置を受信フォーカスとする受信遅延処理を行なっても、多重波面であるWF1は、受信開口の中央部の限定された範囲の振動子でしか位相が揃わない。逆アポダイゼーションは、かかる現象を利用して、例えば、図6の下図に示す逆開口関数(中央部ゼロの逆開口関数)を用いて、受信開口の中央部に入射する多重反射成分を「0」とすることで、多重反射成分の低減を行なう方法である。
しかし、逆アポダイゼーションでは、多重反射成分の低減が可能となる一方で、順アポダイゼーションと比較して、サイドローブ成分(特に、1st-sidelobe成分)が高くなり、方位分解能が低下し、画質が劣化する。図8の左図は、ハミング窓の順開口関数を用いて、ファントムからの反射信号を画像化したBモード画像データであり、図8の右図は、中央部ゼロの逆開口関数を用いて、ファントムからの反射信号を画像化したBモード画像データである。図8に示すように、ハミング窓の順開口関数を用いたBモード画像データは、方位分解能が高いが、約1.1cmの深さに位置するファントム境界面による多重反射信号が約2.2cmの深さの位置に描出されている。一方、図8に示すように、中央部ゼロの逆開口関数を用いたBモード画像データは、約2.2cmの深さに生じていた多重反射信号が低減されているが、方位分解能が低下している。
これについて、図9を用いて説明する。図9は、図6に示す3つの開口関数で得られる焦点近傍の音場分布(受信音場分布)を計算した結果を示している。図9の横軸は、方位方向の位置(単位:mm)を示し、図9の縦軸は、焦点近傍の音場の2乗平均平方根(RMS:Root Mean Square、単位:dB)を示している。なお、焦点近傍の音場分布は、開口関数のフーリエ変換によって与えられることが知られている。例えば、矩形関数のフーリエ変換は、sinc関数となる。
図9に示すように、ハミング窓の順開口関数の音場分布と、方形窓の順開口関数の音場分布とを比較すると、ハミング窓の順開口関数では、メインローブ成分の方位方向の幅が広がっているものの、高い強度のメインローブ成分が得られ、且つ、サイドローブ成分を低くすることができる。一方、図9に示すように、中央部ゼロの逆開口関数では、メインローブ成分の強度が、方形窓の順開口関数より更に低下し、また、メインローブ成分に対するサイドローブ成分の強度比が、方形窓の順開口関数より更に上昇している。図9の音場分布は、反射減である点が、画像中どのように描出されるかを示している。図9は、中央部ゼロの逆開口関数を用いた逆アポダイゼーションで得られるBモード画像データの方位分解能が、順アポダイゼーションより低下することを示している。
ここで、逆アポダイゼーションによる画質劣化を軽減するために、順アポダイゼーションと逆アポダイゼーションとを組み合わせた開口コンパウンド処理を行なうことも可能である。しかし、順開口関数で得られる受信信号と逆開口関数で得られる受信信号との開口コンパウンド処理では、逆アポダイゼーションで高くなるサイドローブ成分(特に、1st-sidelobe成分)の影響により、コンパウンド後の画像の方位分解能が劣化する。また、逆アポダイゼーションで発生する1st-sidelobe成分の位置は、図9に示すように、順アポダイゼーションではメインローブ成分の位置となるため、双方の位相干渉により画像にモアレ(縦縞)が発生する場合がある。また、通常の送受信音場形成では、比較的広い送信ビームを狭い受信ビームで絞ることでサイドローブ成分を抑圧する。しかし、逆アポダイゼーションでは、図9に示すように、1st-sidelobe成分だけでなく2nd-sidelobe成分等も一様に高くなっている。このことから、逆アポダイゼーションのサイドローブ成分は、広い送信ビームを用いると、順アポダイゼーションと比較してサイドローブ成分が更に上昇する。その結果、広い送信ビームを狭い受信ビームで絞る通常の送受信音場形成を行なうと、開口コンパウンド後の画像では、これら周辺のノイズが畳み込まれて画質が劣化する傾向がある。
上述したように、多重反射信号を低減することを目的とする空間コンパウンド処理や、逆受信アポダイゼーションを行なう処理では、多重反射信号の低減効果を高めると、逆に、本来存在する反射信号が除去される、画像の分解能が低下する、或いは、超音波診断装置の利点である画像生成表示のリアルタイム性が低下するといったトレードオフが発生する。また、例えば、ハミング窓の開口関数で得られたRF信号と方形窓の開口関数で得られたRF信号との相関係数を求めてサイドローブを抑制する方法も知られている。しかし、かかる方法では、RF信号を用いた所定区間の加算処理が各点に対して必要となり、演算量が多いためにリアルタイム性を高めるのが困難である。
このようなことから、従来、上述したようなトレードオフが発生しない超音波イメージング方法、又は、トレードオフが発生する処理により得られた画像に対して処理を行なうことで、トレードオフが解消された画像を得る超音波イメージング方法の開発が要望されている。
しかし、ノイズ低減のために、近年、最も行われる方法である空間コンパウンド処理は、例えば、超音波を偏向させることで複数の信号群を取得し,その信号群を線形処理である加算処理によって合成して画質を向上させる方法である。
しかし、例えば、図4等を用いて説明したように、空間コンパウンドによる加算処理をIQ信号の段階で行うと、位相干渉によってスペックルパターンが変化し、肝臓のようにスペックルを1つの診断基準にしている部位では、診断上、弊害になる可能性がある。また、例えば、図3等を用いて説明したように、振幅値の段階で加算処理を行うと、絶対値を取ってしまうことで位相情報が失われ、空間コンパウンド以降の後段処理では,画像処理によるフィルタ処理(上述したRawフィルタ処理等)以外の処理を行なうことが困難となり、応用範囲が狭い。
以下、従来の空間コンパウンド法で用いられる合成処理(加算処理)で得られる信号から、トレードオフが解消された画像を得る処理を行なうことが困難である理由について説明する。
例えば、条件が異なる2つの処理で得られた2つの出力信号(IQ信号)を「IQ1」「IQ2」を、以下の式(1)で示す。
ここで、式(1)に示す「j」は、虚数であり、式(1)に示す「A」及び「B」それぞれは、「IQ1」及び「IQ2」の振幅を示し、式(1)に示す「θ1」及び「θ2」それぞれは、「IQ1」及び「IQ2」の位相を示す。また、式(1)に示す「Ai」及び「Aq」それぞれは、「IQ1」の実部及び虚部を示し、式(1)に示す「Bi」及び「Bq」それぞれは、「IQ2」の実部及び虚部を示す。
式(1)に示す「A」及び「B」を、複素の段階、すなわち、IQ信号の段階で、空間コンパウンドの加算処理「IQ1+IQ2」で合成した信号「IQcompound」は、以下の式(2)となる。
ここで、空間コンパウンド後の信号「IQcompound」の位相は、以下の式(3)となる。
IQ信号の段階で加算処理による空間コンパウンドを行なうと、位相項が変化するため、特に、画像データ内のスペックル領域を変化することができる。特に相関が低い信号を加算することで、スペックルリダクション効果が得られる。しかし、スペックルリダクションの変化は、時に、合成による位相干渉によってスペックルパターンが変化し、肝臓のようにスペックルを診断基準の1つにしている部位では、逆に、診断の弊害になる可能性がある。
また、IQ信号の絶対値を得た後に、対数変換して振幅値(振幅信号)にした段階で、空間コンパウンドする場合(例えば、図3の空間コンパウンド)では、以下の式(4)で示す「IQ1」及び「IQ2」の振幅値を加算することで、以下の式(5)に示す「Ampcompound」が出力される。
振幅値の空間コンパウンドは、IQ信号の空間コンパウンドと同様、画質を向上させる手法の1つであるが、合成を行う前の段階で絶対値をとるため、位相情報を失い,振幅情報のみとなる。すなわち、振幅値の空間コンパウンドは、位相情報を持たない段階での合成法となるので、IQ信号の空間コンパウンドのように、加算合成による位相干渉が起きず、IQ信号の空間コンパウンドと比較して、読影者にとって違和感のない画像データを得ることができる。しかし、仮に、加算合成で得た画像データの画質が、未だ悪く、何らかしらの処理を、振幅値の空間コンパウンドの後段で行いたい場合、振幅値の空間コンパウンド後の信号には、振幅情報しかないため、複素信号に対する複素フィルタや、逆フィルタ等の位相情報を用いた信号処理を行なうことができない。すなわち、振幅値の空間コンパウンドの後段で実行可能な処理は、振幅情報を用いた画像処理に限定される。
そこで、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、信号合成で得られる画像データの画質を確実に向上させるために、図1に示すデータ処理部15及び制御部18の処理が行なわれる。
まず、第1の実施形態に係る取得部151は、条件の異なる複数の処理により出力された複数のIQ信号を取得する。具体的には、取得部151は、超音波プローブが有する振動子で発生した反射波信号に対して条件の異なる複数の処理を施すことにより得られる複数のIQ信号を取得する。そして、第1の実施形態に係る合成部152は、複数のIQ信号を非線形処理により合成した合成信号を生成する。具体的には、合成部152は、非線形処理として、IQ信号間の乗算処理を行なうことで、複数のIQ信号から合成信号を生成する。より具体的には、合成部152は、非線形処理として、複素相関で定義される分子項を算出することで、複数のIQ信号から合成信号を生成する。そして、制御部18は、合成信号に基づく画像データを、少なくともモニタ2に表示させる。
以下、取得部151が取得するIQ信号が、2つの異なる処理で出力された2つのIQ信号であるとして、合成部152が行なう非線形処理による合成法について説明する。例えば、合成部152は、式(1)に示す「IQ1」及び「IQ2」を、非線形処理の一例として、式(6)に示す乗算処理により合成して、合成信号「IQ」を出力する。式(6)は、「IQ1」と、「IQ2」の複素共役「IQ2 *」とを乗算することで、「IQ1」及び「IQ2」の合成信号「IQ」を得ることを示している。「IQ1・IQ2 *」は、「IQ1」及び「IQ2」のアンサンブル平均を行わない複素相関の分子項となる。
ここで、2つのIQ信号の加算合成である式(2)の「IQcompound」は、以下の式(7)に示すように、振幅項と位相項との積としてまとめることができる。また、2つのIQ信号の振幅値の加算合成である式(5)の「Ampcompound」は、以下の式(8)に示すように、振幅項のみの式としてまとめることができる。また、2つのIQ信号の乗算合成である式(6)の「IQ」は、以下の式(9)に示すように、振幅項と位相項との積としてまとめることができる。
ここで、式(9)の振幅項、すなわち、合成部152の非線形合成処理の一例である乗算処理後の合成信号の振幅項は、従来の振幅値の空間コンパウンドと同じ式で表現される。すなわち、式(9)から振幅を得た結果は、式(8)に示す振幅値の空間コンパウンドと等価になる。なお、式(9)から得られる振幅「AmpIQ」は、以下の式(10)となる。
式(9)の位相項は,IQ信号の段階での空間コンパウンドと同様に、合成前後で変化しているが、上述したように、乗算処理後の合成信号の振幅は、振幅値の空間コンパウンドと等価であるため、位相項が変化したとしても、スペックル領域で違和感のない画像を、合成部152が生成した合成信号から取得できる。
そして、乗算処理後の合成信号と、振幅値の空間コンパウンドとの大きな違いは、乗算処理後の合成信号は、式(9)に示すように、IQ信号と同様に、合成後の段階で位相情報を持っていることである。合成信号の位相項は、以下の式(11)に示す位相情報「θIQ」の情報を有している。
位相情報「θIQ」は、式(11)に示すように、「θ1−θ2」であり、「θ1−θ2」」は、異なる2つの処理によって出力されたIQ信号間の位相差となる。これは、位相情報「θIQ」が、「IQcompound」が有する位相情報と異なり、意味のある指標であることを意味している。
すなわち、上述したような非線形処理(共役複素との乗算処理)による合成を行なうことで得た合成信号は、IQ信号間の位相差といった位相情報を含む複素信号となる。従って、第1の実施形態では、合成部152が出力する合成信号に対して、加算合成を行なう従来のコンパウンド処理では適用できなかった「空間的な複素フィルタや、位相情報を用いた信号処理」を行なうことが可能となる。
そこで、図1に示すように、データ処理部15は、複素信号に対する信号処理を行なう機能を有する信号処理部153を備える。合成する2つのIQ信号の位相差が検出可能なため、位相差を利用することで、合成する2つの信号間の相関関係を利用することが可能となる。また、信号処理部153は、信号処理として、空間的な複素フィルタ処理を行なうことも可能である。例えば、信号処理部153は、平滑化処理によりノイズ信号を落とす複素フィルタ処理を行なうことができる。上記の場合、複素フィルタによって位相が変化するため、位相情報を利用した処理の後に行うことが望ましい。他には、信号処理部153は、「Wiener Filter」のような畳み込みを使った劣化信号の復元を行なう逆フィルタ処理等を行なう。
例えば、信号処理部153は、合成信号に対して、信号処理を行なう。かかる場合、制御部18は、信号処理が行われた合成信号から生成された画像データを、少なくともモニタ2に表示させる。
或いは、合成信号に対する信号処理を行なうことを前提として、以下の処理が行われる場合であっても良い。すなわち、信号処理部153は、取得部151が取得した複数のIQ信号それぞれに対して、信号処理(合成前信号処理)を行なう。かかる場合、合成部152は、信号処理が行われた複数のIQ信号を非線形処理により合成した信号を、合成信号として信号処理部153に出力し、信号処理部153は、合成信号に対して、信号処理(合成後信号処理)を行なう。そして、制御部18は、信号処理(合成後信号処理)が行われた合成信号から生成された画像データを、少なくともモニタ2に表示させる。
図10は、第1の実施形態で行われる処理の概要を示す図である。まず、制御部18の制御により、送受信部11は、走査範囲を形成する各走査線で超音波送受信を行なう。ここで、制御部18の制御により、超音波送受信で得られた「IQ-CHデータ群」に対して条件の異なる様々な処理が行われる。図10に示す「W1、W2、W3、・・・、Wn」は、「n」種類の処理が行われて、ある走査線で「n」個のIQ信号のデータ列を、取得部151が取得することを示している。
ここで、「n」個のIQ信号のデータ列に対する信号処理(合成前信号処理)を「On」とするか「Off」とするかは、例えば、操作者により任意に変更設定可能である。合成前信号処理を行なう場合、操作者は、例えば、各IQ信号に対する信号処理として、逆フィルタ処理を指定する。
合成前処理が「On」であっても「Off」であっても、合成部152には、図10に示すように、「n」個のIQ信号のデータ列「IQ1、IQ2、IQ3、・・・、IQn」が入力され、合成部152は、「IQ1、IQ2、IQ3、・・・、IQn」に対して、非線形処理による合成を行なう。これにより、各走査線の合成信号が信号処理部153に入力され、信号処理部153は、図10に示すように、各走査線の合成信号に対して、信号処理を行なう。ここで、第1の実施形態では、例えば、信号処理部153は、合成後信号処理として、操作者が指定した領域内の合成信号に空間的な複素フィルタ処理を行なって、平滑化を行なうことができる。散乱信号が得られるようなスペックル領域では、位相の分散が大きいため、IQ信号と同様の性質を有する合成信号に対して複素フィルタで平滑化処理を行なうことで、スペックル低減効果を得ることができる。
そして、信号処理部153が出力した各走査線の合成信号(合成後信号処理後の合成信号)は、図10に示すように、Bモード処理部12による振幅変換後、画像生成部14によるRawフィルタ処理(On)を経て、或いは、画像生成部14によるRawフィルタ処理を行なわずに(Off)、表示用の画像データ(Bモード画像データ)となり、モニタ2に出力される。なお、信号処理部153の合成後信号処理を行なわずに、Bモード処理部12の出力データに対して、画像処理で用いる空間的なRawフィルタ処理のみを行なっても、平滑化の効果は得られるが、スペックル低減効果を得ることができない。従って、図10に示す概念に基づいて得られる画像データは、例えば、従来の空間コンパウンド処理と比較して、スペックル低減効果及び平滑化の効果の相乗効果により、画質が向上することになる。
ここで、取得部151が3つの処理で出力された3つのIQ信号(IQ1、IQ2、IQ3)を取得した場合、合成部152は、一例として、以下の合成処理を行なう。例えば、合成部152は、「IQ1・IQ2 *」と、「IQ2・IQ3 *」の複素共役とを乗算することで合成信号を生成する。或いは、合成部152は、「IQ1・IQ2 *」と「IQ3 *」とを乗算することで合成信号を生成する。なお、上記はあくまでも一例であり、合成元の複数のIQ信号の位相情報を反映した位相情報が得られる非線形処理であれば、合成部152は、任意の手法により合成処理を行なうことができる。
なお、図10に示す条件の異なる複数の処理「W1、W2、W3、・・・、Wn」については、第2の実施形態以降で詳細に説明する。
上述したように、第1の実施形態では、様々な処理で得られた各走査線のIQ信号群を非線形処理により合成することで、複素信号処理を行なうに際して有用な位相情報を含む合成信号を出力する。その結果、第1の実施形態では、合成後の信号に対して、複素フィルタや逆フィルタといった様々な複素信号処理を行なって、画質を改善することができる。従って、第1の実施形態では、信号合成で得られる画像データの画質を確実に向上させることができる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、第1の実施形態で説明した「複数の処理」が、受信ビームフォーミングに用いるパラメータ群の少なくとも1つのパラメータを複数の異なるパラメータにすることで実行される「複数系統での受信ビームフォーミングの並列処理」である場合について説明する。図11及び図12は、第2の実施形態を説明するための図である。
具体的には、第2の実施形態では、「複数系統での受信ビームフォーミングの並列処理」が、図11に示すように、アポダイゼーション(受信アポダイゼーション)に用いる開口関数を、重み付けパターンが異なる複数の開口関数にすることで実行される。
まず、第2の実施形態では、各走査線において、異なる複数の開口関数に基づいて複数のIQ信号が出力される。具体的には、第2の実施形態では、複数の開口関数は、上述した順開口関数と逆開口関数との少なくとも1つを含む。以下では、順開口関数と逆開口関数との双方が、異なる複数の開口関数として用いられるものとする。
ここで、順開口関数は、信号成分を得るための開口関数である。「ハミング窓の開口関数」は、概念的には、受信開口で信号成分の受信位置を含む範囲の外側の重みより当該範囲の重みが大きい開口関数である順開口関数の一例である。例えば、「多重反射の要因となる対象物で形成される境界とプローブ表面とが平行」であり「超音波送受信の方向がプローブ表面に対して垂直方向」である場合、「信号成分の受信位置」は、「受信開口の中央の位置」となる。「信号成分の受信位置」を受信開口の中心と固定すると、順開口関数は、受信開口の端部の素子側の重みより中央部の素子側の重みが大きい開口関数となる。「ハミング窓の開口関数」は、「信号成分の受信位置」を「受信開口の中央の位置」に固定した場合の順開口関数の一例である。
なお、「方形窓の開口関数」は、受信開口の各素子の重みが一様となる順開口関数であり、「ハミング窓の開口関数」の重み付けパターンよりも端部の素子側の重みが大きい重み付けパターンの開口関数の一例となる。また、第2の実施形態に適用可能な順開口関数は、「ハニング窓(Hanning window)の開口関数」、「フラットトップ窓(Flat-top window)の開口関数」であっても良い。
そして、逆開口関数は、多重反射成分を低減するための開口関数である。逆開口関数は、「受信開口で多重反射成分の受信位置を含む範囲」の外側の重みより当該範囲の重みが小さい開口関数である。かかる概念で設計した逆開口関数を用いることで、受信開口の範囲内で受信された信号の情報が、範囲外で受信された信号の情報より低減された受信信号を、受信開口の受信信号として出力させることができる。
例えば、「多重反射の要因となる対象物で形成される境界とプローブ表面とが平行」であり「超音波送受信の方向がプローブ表面に対して垂直方向」である場合、「多重反射成分の受信位置」は、「受信開口の中央の位置」となる。「多重反射成分の受信位置」を受信開口の中心と固定すると、逆開口関数は、受信開口の端部の素子側の重みより中央部の素子側の重みが小さい開口関数となる。上述した「中央部ゼロの逆開口関数」は、受信位置を「受信開口の中央の位置」に固定した場合の「中心固定型逆開口関数」の一例である。また、上述した「中央部ゼロの逆開口関数」は、「受信位置を含む範囲」を「受信位置(受信開口の中央)を中心とする範囲」とし、「受信位置を含む範囲」の幅を、受信開口幅の半分とした一例である。
なお、逆開口関数の作成に用いる「範囲」は、制御部18、又は、操作者により任意に変更可能である。また、「範囲」における「多重反射成分の受信位置」の位置は、「範囲」の中心に限定されるものではなく、例えば、「範囲」の重心等、制御部18、又は、操作者により任意に変更可能である。また、逆開口関数の「範囲」の重みは、一様に「0」とする場合に限定されるものではなく、上記の設計概念が満たされるのであれば、制御部18、又は、操作者により任意に変更可能である。例えば、逆開口関数の「範囲」における重みのパターンは、範囲の両端位置の重みを「1」とし、両端から受信位置に向かって重みが順次減少して受信位置の重みを「0」とする場合でも良い。
制御部18の制御により、送受信部11は、走査範囲を形成する各走査線で超音波送受信を行なう。すなわち、送受信部11は、図11に示すように、送信用駆動パルスを超音波プローブ1に与えて、超音波プローブ1から反射波信号を受信し、DAS処理を行なう。具体的には、送受信部11の受信遅延部は、受信信号の各素子のIQ信号に対して受信遅延を掛け、加算部に出力する。ここで、「n種類」の開口関数が設定された場合、加算部は、図11に示すように、IQ信号のデータ列を、n系統に分離し、各系統で該当する開口関数を用いた重み付けを行なって整相加算を行なう。これにより、取得部151は、図11に示すように、ある走査線の「n」個のIQ信号のデータ列「IQ1、IQ2、IQ3、・・・、IQn」を取得する。そして、合成部152は、「IQ1、IQ2、IQ3、・・・、IQn」を非線形処理(乗算処理)により合成する。例えば、「ハミング窓の順開口関数」と「中央部ゼロの逆開口関数」との2種類の開口関数が設定されている場合、合成部152は、「ハミング窓の順開口関数」で得られた「IQ1」と「中央部ゼロの逆開口関数」で得られた「IQ2」との乗算処理により、合成信号を生成する。
そして、信号処理部153は、図11に示すように、合成信号の位相検出(位相情報の検出)を行ない、位相情報を用いた信号処理を行なう。例えば、信号処理部153は、2つのIQ信号の合成信号の位相項から、2つのIQ信号の位相差を検出して、合成信号の信号処理を行なう。そして、信号処理部153が出力した各走査線の信号は、Bモード処理部12によるBモード処理及び画像生成部14によるBモード画像データ生成処理を経て、モニタ2に表示される。
図12は、ヒト頸動脈の短軸面のBモード画像データを示している。まず、図12の左上図は、「ハミング窓の順開口関数」で得られた「IQ1」を画像化したBモード画像データを示し、図12の右上図は、「中央部ゼロの逆開口関数」で得られた「IQ2」を画像化したBモード画像データを示している。また、図12の下図は、「IQ1」及び「IQ2」の合成信号を、信号処理することなく画像化したBモード画像データを示す。
図12に示す各画像中央に位置している頸動脈の内腔部に着目すると、「ハミング窓の順開口関数」で得られたBモード画像データは、方位分解能が良いが多重反射信号が重畳しているため、血管内腔部の抜けが悪い。一方、「中央部ゼロの逆開口関数」で得られたBモード画像データは、方位分解能の劣化による画質低下が見られるが、血管内腔部の多重反射信号が消失している。そして、合成信号を画像化したBモード画像データでは、「ハミング窓の順開口関数」の効果による方位分解能が維持され、且つ、「中央部ゼロの逆開口関数」の効果である多重反射信号の低減が確保された画像となっている。
そして、信号処理部153は、例えば、複数の走査線それぞれの合成信号に対して、空間的な平滑化処理を行なう複素フィルタ処理を行ない、Bモード処理部12及び画像生成部14は、信号処理が行われた合成信号から画像データを生成する。これにより得られる画像データは、信号処理部153の合成後信号処理の効果により、図12の下図に示すBモード画像データより更に画質が向上した画像データとなる。
上述したように、第2の実施形態では、各開口関数で異なる画質向上の効果を得ることができる複数の開口関数を用いて出力されたIQ信号群を、非線形処理により合成することで、複数の開口関数それぞれで得られる効果が維持された合成信号を生成する。そして、第2の実施形態では、この合成信号に含まれる有意な位相情報を用いた複素信号処理を行なうことで、複数の開口関数を用いて出力されたIQ信号群の信号合成で得られる画像データの画質を確実に向上させることができる。
なお、第2の実施形態は、例えば、上述した様々な種類の順開口関数のみを用いる場合にも適用可能であり、複数種類の順開口関数と「中央部ゼロの逆開口関数」とを用いる場合にも適用可能である。
また、上記では、逆開口関数として、受信開口で多重反射成分の受信位置を受信開口の中心に固定した「中心固定型逆開口関数」の一例である「中央部ゼロの逆開口関数」を用いる場合について説明した。しかし、第2の実施形態は、変形例として、撮影条件及び撮影部位に応じて「多重反射成分の受信位置」を適応的にシフトさせる逆開口関数を用いて、非線形処理を行なうIQ信号を得る場合であっても良い。図13〜図15は、第2の実施形態の変形例を説明するための図である。
ここで、「多重反射の要因となる対象物で形成される境界とプローブ表面とが平行」であり「超音波送受信の方向がプローブ表面に対して垂直方向」である場合、「反射信号のメインビームの指向性と多重反射信号のメインビームの指向性とが同一方向」となり「多重反射成分の受信位置が、反射成分の受信位置と同様に受信開口の略中央部」となる。この前提条件を満たす場合は、「中心固定型逆開口関数」により多重信号を除去することが可能となる。
しかし、「中心固定型逆開口関数」による逆アポダイゼーションでは、プローブ表面に対して対象物が傾いていると、上記の前提条件が満たされず、有効とならない場合がある。また、「中心固定型逆開口関数」による逆アポダイゼーションでは、送信ビームをステアリングしていると、上記の前提条件が満たされず、有効とならない場合がある。すなわち、上記の前提条件が満たされない場合、受信開口における多重反射成分の受信位置は、開口中央部から開口端部に向かって移動する。かかる場合、「中心固定型逆開口関数」を用いると、多重反射信号は、重みが存在する振動子位置で受信されることになり、多重低減効果が低下する。
すなわち、受信開口で多重反射成分が受信される受信位置は、超音波送受信の方向と、多重反射の要因となる対象物の方向との関係から、移動する。しかし、反射信号や多重反射信号が受信開口で受信される位置は、超音波送受信の方向と、対象物の方向(多重反射源である対象物により形成される境界)とがなす角度による多重反射が、鏡面反射により起こると仮定すると、幾何学的演算により推定することが可能である。
そこで、第2の実施形態の変形例では、例えば、図1に示す制御部18は、超音波送受信の方向と、多重反射の要因となる対象物の方向とに基づいて、受信位置を算出して、逆開口関数を作成する。例えば、制御部18は、図13に示すように、中央部ゼロの開口関数の逆開口関数をベースにする。そして、制御部18は、超音波送受信の方向と対象物の方向とから、受信開口(Rx Aperture)における受信位置が、開口中心から右側であると算出した場合、図13に示すように、「重み:0」とする範囲を、右側にシフトさせる。以下では、図13に例示した概念で作成される逆開口関数を「シフト型逆開口関数」と記載する場合がある。また、以下では、「シフト型逆開口関数」による逆アポダイゼーションを「シフト型逆アポダイゼーション」と記載する場合がある。また、以下では、「中心固定型逆開口関数」による逆アポダイゼーションを「固定型逆アポダイゼーション」と記載する場合がある。
シフト型逆アポダイゼーションは、図14に示すパラメータを制御部18が取得することで実行される。図14では、振動子の配列方向(方位方向)をx軸で示している。また、図14では、x軸に直交し、受信開口の中心位置を通る方向(すなわち、深さ方向)を下向きの矢印で示している。以下では、受信開口(及び送信開口)の中心位置を原点(0,0)として説明する。
また、図14では、送受信ビームの方向と深さ方向とがなす角度「θt」を、送受信ビームの方向を示すパラメータの一例として用いることを示している。また、図14では、送受信ビームの方向とx軸とがなす角度「θ0」を、対象物の方向を示すパラメータの一例として用いることを示している。また、図14に示す「d」は、角度「θ0」で傾いている対象物が形成する境界において、角度「θt」で送信された超音波ビームが最初に反射される位置の深さを示している。すなわち、図14に示す「d」は、走査線上で、対象物が位置する深さを示している。
そして、図14に示す「X」は、受信開口の中心位置から、例えば、受信開口で1回多重反射のメインビームが受信される受信位置までの距離を示す。すなわち、「X」は、重みを低減する範囲の設定に用いられる基準としての受信位置であり、例えば、シフト型逆開口関数で重みを「0」にする振動子群が占める範囲の重心位置(中心位置)となる。制御部18は、例えば、角度「θt」と角度「θ0」とで定式化される関数F(θt,θ0)に「d」を乗算することで、「X」を算出する。なお、このF(θt,θ0)については、後に数式を用いて詳細に説明する。
まず、図14に示す各種パラメータの取得方法について説明する。超音波送受信の制御を行なうことから、制御部18は、送受信ビームの方向を示す角度「θt」を取得可能である。すなわち、制御部18は、超音波スキャン前に設定された各種送受信条件から、角度「θt」を取得する。例えば、制御部18は、通常のBモード撮影では、角度「θt=0」を取得する。
また、制御部18は、対象物の方向を示す角度「θ0」を、以下に説明する様々な方法で取得する。最も簡易な方法では、制御部18は、角度「θ0」として予め初期設定されている値を取得する。例えば、制御部18は、「θ0=0」や「θ0=3」等を、内部記憶部17に格納されている設定値から取得する。かかる場合、操作者は、初期設定されている「θ0」の値を、例えば、検査部位等の情報に応じて、任意の値に変更することができる。
或いは、対象物の方向を示す角度「θ0」は、実際の超音波走査が行われる走査範囲を通常のBモードで予め撮影した超音波画像データを用いて取得される。かかる場合、制御部18は、予め得られている超音波画像データを参照した操作者が入力した情報に基づいて、対象物の方向を取得する。例えば、制御部18は、予備撮影で事前に得られたBモード画像データをモニタ2に表示させる。操作者は、例えば、多重信号の要因となる血管壁の傾きを、入力装置3が有する角度計測用のつまみを回して、「信号」の角度を計測する。制御部18は、操作者がつまみで計測した角度を対象物の方向を示す角度「θ0」として取得する。
なお、対象物の方向を手動で測定することは、操作者にとって手間がかかる処理のため、制御部18は、対象物の方向を自動で取得しても良い。角度「θ0」の取得処理の自動化が指定されている場合、制御部18は、予め得られている超音波画像データを解析して、対象物の方向を推定する。例えば、制御部18は、予備撮影で得られたBモード画像データの解析処理として、エッジ検出、又は、主成分分析を行なって、対象物の方向を示す角度「θ0」を推定する。一例として、制御部18は、Bモード画像データのエッジ強調処理を行なって法線ベクトルを取得し、取得した法線ベクトルからエッジを検出する。そして、制御部18は、検出したエッジの方向から角度「θ0」を推定する。上記の手法は、あくまでも一例であり、制御部18は、様々な公知の手法により、角度「θ0」を推定することが可能である。
ここで、角度「θ0」を画像情報の検出処理で行なう場合、負荷を軽減するために、制御部18は、以下の処理を行なっても良い。具体的には、制御部18は、事前に撮影されたBモード画像データに設定された関心領域(ROI:Region Of Interest)に限定して、画像情報の検出処理を行なう。例えば、ROIは、Bモード画像データを参照した操作者により設定される。或いは、操作者の負担を軽減するために、制御部18は、ROIを自動的に設定しても良い。通常、画像中央に描出される領域は、画像診断で特に着目される領域である。そこで、制御部18は、画像中央に多重信号が描出されることを回避するため、画像中央を中心として、所定形状のROIを自動設定する。
或いは、制御部18は、ROIの自動設定に用いられるパラメータとして、超音波プローブ1の当接面から検査対象の組織が位置する深さを用いる。例えば、制御部18は、事前に入力された検査に関する情報から検査対象の組織が「頸動脈」であることを取得する。通常、超音波プローブ1の当接面から頸動脈が位置する深さは、「10mm」近傍となる。例えば、内部記憶部17は、検査対象の組織ごとに、当該組織が位置する代表的な深さが設定されたテーブルを記憶する。制御部18は、かかるテーブルを参照して、検査情報から取得した組織に対応付けられている深さを取得して、所定形状のROIを設定する。制御部18は、検査対象の組織が描出される領域に多重信号が描出されることを回避するため、検査対象の組織が位置する深さを中心としてROIを自動設定する。
或いは、制御部18は、ROIの自動設定に用いられるパラメータとして、送信フォーカスの位置を用いる。送信フォーカスの位置を中心とする領域も、画像診断で特に着目される領域である。そこで、制御部18は、送信フォーカスの位置を含む領域に多重信号が描出されることを回避するため、送信フォーカスの深さ位置を中心としてROIを自動設定する。
ここで、第2の実施形態に係る制御部18は、2つのパターンのシフト型逆アポダイゼーションを実行させることができる。第1パターンでは、制御部18は、走査線上で対象物が位置している深さ「d」を取得せずに、多重反射成分の受信位置を算出する。具体的には、制御部18は、受信走査線上で設定される複数の受信フォーカスの深さそれぞれに、対象物が位置していると仮定して、受信位置を算出する。
例えば、制御部18は、走査線上の複数の受信フォーカスの深さそれぞれを、受信位置の算出に用いる「d」とする。そして、制御部18は、受信フォーカスの位置に応じて受信開口の幅を変更するDVAF法を、送受信部11に実行させる。そして、制御部18は、各受信フォーカスでの受信開口において受信位置を算出する。なお、制御部18は、各受信走査線で、角度「θt」と角度「θ0」とから、各受信フォーカスでの受信開口において受信位置を算出する。
そして、制御部18は、各受信フォーカスでの受信開口における受信位置に基づいて、「シフト型逆開口関数」を作成し、「シフト型逆開口関数」を送受信部11に通知することで、順アポダイゼーションと並行して、シフト型逆アポダイゼーションを実行させる。
図15及び数式を用いて、多重反射成分の受信位置の算出方法について詳細に説明する。図15では、角度「θt」で送信された超音波ビームが「θ0」で傾いている境界で最初に到達する位置(以下、P1)が、(x1,d)であることを示している。また、図15では、角度「θt」と角度「θ0」とによる鏡面反射により、P1で反射された反射波のプローブ表面での受信位置(以下、P2)が、(x1+x2,0)であることを示している。また、図15では、角度「θt」と角度「θ0」とによる鏡面反射により、P2で反射された反射波が境界に再度到達する位置(以下、P3)が、(x1+x2+x3,d+d’)であることを示している。また、図15では、角度「θt」と角度「θ0」とによる鏡面反射により、P3で反射された反射波のプローブ表面での受信位置(以下、P4)が、(x1+x2+x3+x4,0)であることを示している。
シフト型逆受信アポダイゼーションで算出される図15に示す「X」、すなわち、開口関数で重みを略「0」にする振動子群が占める範囲を設定する基準となる受信位置「X」は、図15に示すように、「X=x1+x2+x3+x4」となる。
まず、「原点からP1への方向と深さ方向との角度」は、図15に示すように、「θt」となる。また、角度「θt」と角度「θ0」とで起こる反射が鏡面反射であると仮定した幾何学的計算により、「P1からP2への方向と深さ方向との角度」及び「P2からP3への方向と深さ方向との角度」は、図15に示すように、「θt+2θ0」となる。また、同様の幾何学的計算により、「P3からP4への方向と深さ方向との角度」は、図15に示すように、「θt+4θ0」となる。
まず、「θt」と「d」とから、制御部18は、以下の式(12)により、「x1」を算出する。また、制御部18は、以下の式(13)により.「θt+2θ0」と「d」とから、「x2」を算出する。
一方、「θt+2θ0」と「d」と「d’」とから、「x3」は、以下の式(14)で示すことができる。また、「θt+4θ0」と「d」と「d’」とから、「x4」は、以下の式(15)で示すことができる。
そして、「d’」は、以下の式(16)で示すことができる。
ここで、式(16)を展開すると、以下に示す式(17)となる。
式(18)に示す三角関数の加法定理を用いると、式(17)の左辺に示す「1−tan(θt+2θ0)・tan(θ0)」は、以下に示す式(19)の右辺となる。
式(19)を式(17)に代入することで、「d’」は、以下の式(20)に示すように、「x2」と「θt」と「θ0」とから算出可能であることがわかる。
以上により、「x3」は、以下の式(21)により算出でき、「x4」は、以下の式(22)により算出できる。
制御部18は、上記の方法により、角度「θt」と角度「θ0」とを取得して、受信フォーカスの深さ「d」を代入することで、式(12)及び式(13)により「x1」及び「x2」を算出する。そして、制御部18は、算出した「x2」と「θt」と「θ0」とを用いて、式(21)及び式(22)により「x3」及び「x4」を算出する。そして、制御部18は、「x1+x2+x3+x4」を算出して、受信位置「X」を取得する。なお、式(12)、式(13)、式(21)及び式(22)から分かるように、「X=x1+x2+x3+x4」は、「d」を共通因数としてくくり出すと、角度「θt」と角度「θ0」とで表現される関数F(θt,θ0)と「d」との積で定式化できる。制御部18は、取得した角度「θt」と角度「θ0」とをF(θt,θ0)に代入して得られた値と、任意の深さ「d」の値とを乗算することで、各受信フォーカスで設定された受信開口での受信位置「X」を算出することができる。
以上が、第1パターンのシフト型逆アポダイゼーションである。第1パターンでは、対象物の深さを受信フォーカス位置とし、「X」の位置を、F(θt,θ0)と「F-number」とで自動的に算出している。しかし、第1パターンでは、各深さ「d」で重みを「0」にする振動子群が常に存在するため、有効開口幅が常に通常の受信アポダイゼーションに比べて小さくなる。
これに対して、第2パターンのシフト型逆アポダイゼーションでは、制御部18は、更に、走査線上で対象物が位置している深さ「d」を取得して、受信位置「X」を算出する。すなわち、第2パターンのシフト型逆アポダイゼーションでは、制御部18は、超音波送受信の方向と、多重反射の要因となる対象物の方向と、対象物の深さとに基づいて、受信位置「X」を算出して、逆開口関数を作成する。
第2パターンでは、例えば、操作者は、事前に撮影されたBモード画像データを参照して、角度「θ0」を計測するとともに、対象物の深さ「d0」も同時に計測する。制御部18は、操作者が計測した深さを対象物の深さ「d0」として取得する。
或いは、制御部18は、上述したように、エッジ検出や主成分分析により、角度「θ0」を推定するとともに、例えば、エッジ検出で抽出したエッジを、対象物で形成される境界とし、エッジの画像中での位置を自動計測することで、深さ「d0」を取得する。
或いは、制御部18は、上述したROI設定に用いられた様々なパラメータから「d0」を取得する。具体的には、制御部18は、ROI設定に用いた「画像中央」、又は、「検査対象組織の代表的深さ」、又は、「送信フォーカス」を、「d0」として取得する。なお、「送信フォーカス=d0」とすることで、画像撮影中の送受信条件の変更に即時に対応することができる。
ここで、例えば、操作者が入力した「d0」が、画像内で描出された対象物の右端での深さであるとする。かかる場合、制御部18は、角度「θ0」と「d0」とから、各走査線における対象物の深さ「di」を算出し、「di・F(θt,θ0)」により、各走査線におけるシフト型逆開口関数を作成する。そして、制御部18は、深さ「di」の受信フォーカス、又は、深さ「di」近傍の受信フォーカスにおいて、作成したシフト型逆開口関数を用いるように送受信部11に指示し、更に、この受信フォーカス以外の受信フォーカスでは、順開口関数を用いるように送受信部11に指示する。
すなわち、第2パターンのシフト型逆アポダイゼーションは、対象物の深さに対応する受信フォーカスにおいてはシフト型逆開口関数を適用し、対象物の深さから離れている受信フォーカスにおいて順開口関数を適用する逆アポダイゼーションである。換言すると、対象物の深さを用いない第1パターンは、画像全体(全サンプル点)で一様なシフト型逆開口関数を設定するパターンであり、対象物の深さを用いる第2パターンは、画像全体(全サンプル点)の中の局所領域に適応的に作成したシフト型逆開口関数設定するパターンである。
第2の実施形態の変形例では、上述した処理により、撮影条件及び撮影部位内の対象物の位置に応じて受信位置をシフトした逆開口関数を、逆アポダイゼーションに適用することができる。第1パターンのシフト型逆アポダイゼーション、又は、第2パターンのシフト型逆アポダイゼーションで得られる受信信号は、固定型逆アポダイゼーションで得られる受信信号と比較して、多重反射成分が確実に低減している。また、第2パターンのシフト型逆アポダイゼーションで得られる受信信号は、局所領域に限定して逆アポダイゼーションを行なって得られる受信信号であることから、全体で有効開口幅が狭くなる第1パターンのシフト型逆アポダイゼーションで得られる受信信号より感度が高い。
第2の実施形態の変形例では、例えば、順アポダイゼーションで得られるIQ信号と、かかるシフト型逆アポダイゼーションで得られるIQ信号を非線形処理で合成した合成信号を生成し、この合成信号に対して、様々な複素信号処理を行なうことで、例えば、多重反射が低減され、且つ、方位分解能及び感度が維持された高画質な画像を確実に得ることができる。
なお、上述したシフト型逆アポダイゼーションの概念は、例えば、ハミング窓の順開口関数を用いる順アポダイゼーションに適用することも可能である。例えば、式(12)及び式(13)で算出可能な「x1+x2」は、信号成分が受信される位置となる。そこで、例えば、制御部18は、「x1+x2」の位置が受信開口の中心から所定距離より離れている場合、ハミング窓で重みが「1」となる位置を「x1+x2」とするシフト型順開口関数を作成し、送受信部11に通知しても良い。すなわち、第2の実施形態の変形例では、シフト型順アポダイゼーションとシフト型逆アポダイゼーションとを並列的に実行して複数のIQ信号を取得する場合であっても良い。
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、第1の実施形態で説明した「複数の処理」が、異なる超音波送受信条件に基づく「複数の処理」である場合について説明する。図16は、第3の実施形態を説明するための図である。
例えば、第3の実施形態では、図16に示すように、複数の処理は、超音波の送信中心周波数及び超音波の受信中心周波数の少なくとも一方を、異なる複数の周波数とする処理とされる。例えば、送受信部11は、各走査線で、中心周波数の異なる超音波ビームを超音波プローブ1に送信させて、複数の送信中心周波数それぞれの反射波信号を用いたDAS処理により、各走査線で複数のIQ信号「IQ1、IQ2、IQ3、・・・、IQn」を出力する。
或いは、例えば、送受信部11は、超音波プローブ1から1種類の中心周波数で超音波ビームを送信させて受信した反射波信号から検波する周波数を複数とし、複数の受信中心周波数それぞれでDAS処理を行なって、各走査線で複数のIQ信号「IQ1、IQ2、IQ3、・・・、IQn」を出力する。或いは、例えば、送受信部11は、送受信時それぞれで、中心周波数を複数とすることで、各走査線で複数のIQ信号「IQ1、IQ2、IQ3、・・・、IQn」を出力する。これにより、取得部151は、複数のIQ信号「IQ1、IQ2、IQ3、・・・、IQn」を取得し、合成部152は、図16に示すように、非線形処理により合成信号を生成する。
上記の複数の処理は、所謂、スペックル低減効果を目的とする周波数コンパウンド処理である。例えば、受信時の検波周波数を複数として得られた複数のIQ信号を乗算処理により合成した合成信号では、周波数コンパウンド処理と同様のスペックル低減効果が得られる。また、メインビーム幅が周波数に依存する(中心周波数の逆数に比例する)ことから、合成信号には、高域側の中心周波数のIQ信号で得られる方位分解能の効果が維持される。
そして、信号処理部153は、図16に示すように、合成信号の位相検出(位相情報の検出)を行ない、位相情報を用いた信号処理を行なう。そして、信号処理部153が出力した各走査線の信号は、Bモード処理部12によるBモード処理及び画像生成部14によるBモード画像データ生成処理を経て、モニタ2に表示される。
これにより、第3の実施形態では、周波数コンパウンド処理で得られる画質向上効果を、非線形処理による信号合成を行なうことで、周波数コンパウンド処理で得られる画像データの画質より更に高い画質となる画像データを得ることができる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、第2の実施形態とは異なる「複数系統での受信ビームフォーミングの並列処理」が、第1の実施形態で示す「複数の処理」として実行される場合について、図17及び図18等を用いて説明する。図17及び図18は、第4の実施形態を説明するための図である。
例えば、「複数系統での受信ビームフォーミングの並列処理」は、受信遅延パターンの設定に用いる音速を、値が異なる複数の音速にすることで実行されても良い。例えば、制御部18は、予備的な処理として、複数の音速を用いた受信遅延パターンにより得られる複数のBモード画像データを解析して、浅い部位で高いコントラストのBモード画像データ得られる第1音速と、深い部位で高いコントラストのBモード画像データ得られる第2音速とを取得する。或いは、例えば、操作者は、第1音速と、第2音速とを、入力装置3を用いて入力する。
そして、制御部18の制御により、送受信部11は、本撮影において、受信開口で受信された各素子のIQ信号を、2系統に分離し、第1音速による受信遅延パターンでDAS処理を行なったIQ信号と、第2音速による受信遅延パターンでDAS処理を行なったIQ信号とを取得部151に出力する。そして、合成部152は、これら2つのIQ信号を、例えば、乗算処理により合成した合成信号を生成する。この合成信号は、浅い部位及び深い部位双方で、高いコントラストとなる画像データを生成可能な信号となる。信号処理部153は、合成信号に対して複素信号処理を行なって、Bモード処理部12に出力する。これにより、画像生成部14は、浅い部位及び深い部位双方で、高いコントラストとなり、且つ、複素信号処理で画質が向上したBモード画像データを生成することができる。なお、上記の内容は、あくまでも一例であり、本実施形態は、3つ以上の音速を用いた処理が行われる場合であっても良い。
或いは、例えば、「複数系統での受信ビームフォーミングの並列処理」は、受信開口の開口幅を、値が異なる複数の開口幅にすることで実行されても良い。例えば、受信開口幅を広くすると、方位分解能が向上するが、受信開口の素子配列方向において、位相が揃った反射波が入射する領域だけではなく,位相が揃っていない反射波が入射する領域が混入することになる。その結果、大口径の受信開口で得られる信号には、ノイズが重畳され、S/N比が低下した画像データが得られる可能性が高くなる。一方、受信開口幅を狭くすると、位相が揃った反射波が入射する領域のみを有効開口とすることができるため、S/N比が高い画像データが得られるが、有効開口が狭くなることで、方位分解能が低下する可能性がある。
そこで、例えば、制御部18の制御により、送受信部11は、大口径の受信開口の全領域で得られたIQ信号群を一方の系統としてDAS処理を行なった大口径のIQ信号と、大口径の受信開口の一部の領域で得られたIQ信号群を他方の系統としてDAS処理を行なった小口径のIQ信号とを取得部151に出力する。そして、合成部152は、これら2つのIQ信号を、例えば、乗算処理により合成した合成信号を生成する。この合成信号は、方位分解能が高く、且つ、S/N比が高い画像データを生成可能な信号となる。信号処理部153は、合成信号に対して複素信号処理を行なって、Bモード処理部12に出力する。これにより、画像生成部14は、方位分解能が高く、且つ、S/N比が高く、且つ、複素信号処理で画質が向上したBモード画像データを生成することができる。なお、上記の内容は、あくまでも一例であり、本実施形態は、3つ以上の開口幅を用いた処理が行われる場合であっても良い。
或いは、例えば、「複数系統での受信ビームフォーミングの並列処理」は、第2の実施形態で説明した様々な開口関数以外の開口関数を用いることで、実行される場合であっても良い。例えば、「複数系統での受信ビームフォーミングの並列処理」を実行するための
複数の開口関数は、受信開口を構成する複数の素子それぞれが受信した信号の位相分布に応じて、重み付けのパターンを変更した開口関数を含む場合であっても良い。かかる開口関数は、一例として、受信アポダイゼーションを適用的に設計するアダプティブアレイ(AA:Adaptive Array)処理により得られる開口関数である。
AA処理とは、指向性を形成するために、チャンネル信号に遅延をかけ、遅延をかけたチャンネル信号を適応的に重み付け加算するアレイ映像系のモデルに適用される方法である。より具体的には、AA処理は、複数の振動子を配列したアレイ振動子群を設け、各振動子から得られるチャンネル信号に与える重み付け(一般的には複素数係数となる)を伝播環境に応じて適応的に制御することで、環境に応じて最適化された指向性を受信信号に与える。AA処理について、図17を用いて説明する。
図17では、受信開口を構成する振動子群(チャンネル群)を、M個の素子(i=0、1、・・・、m、m+1、・・・M)で例示している。また、図17では、振動子群の配列面から同一の深さに位置する反射源(サンプル点)を、P個の音源(0、1、・・・、p、p+1、・・・、P−1)で例示している。
AA処理を行なう送受信部11は、受信遅延部により遅延がかけられた状態の各素子の受信信号(IQ信号)を入力とし、遅延後の各素子の受信信号同士の相関行列「RX」を算出する。そして、送受信部11は、相関行列「RX」から、最適な重み係数w(w0、w1、・・・、wm、wm+1、・・・、wM−1)を、各点(各素子)で決定する。具体的には、送受信部11は、相関行列「RX」の固有値「λ」を算出し、固有値「λ」を用いて、最適な重み係数を決定する。これにより、送受信部11は、AA処理に基づくIQ信号「yR(t)」を出力する。なお、入力データセットがIQ信号であることから、送受信部11が決定する重み係数は、複素数となる。また、重み係数は、振動子及びサンプル点ごとに決定される。また、送受信部11は、最適な重み係数を相関行列の固有値から求める方法だけでなく、この方法と等価な方法ならば反復法等を用いても良い。
ここで、図17に示すように、偏向角「θ」は、音源の位置と素子の位置とにより変化する。このため、固有値「λ」は、偏向角「θ」により変化する。また、相関行列「RX」は、入力信号の状態にも依存する。このため、送受信部11は、伝播環境に応じて適応的に変化する重み係数wを、各振動子で決定することになる。なお、送受信部11は、相関行列「RX」から重み係数wを決定する設計方法として、例えば、MV(Minimum Variance)法、又は、APES(Amplitude and Phase Estimation)法を用いる。或いは、送受信部11は、適応的にサイドローブを低減する方法であれば他の設計方法を用いても良い。
なお、MV法は、映像化したい方向のアレイゲインを「1」とし、それ以外の方向からの信号のエネルギーを最小化するように重み係数を決定する方法である。例えば、MV法では、有限個の音源の場合、映像化したい方向の音源への応答がゲイン「1」で、それ以外の音源方向への指向性を「0(Null点)」とするように重み係数が決定される。また、APES法では、映像化したい方向からの平面波との誤差を最小とするように重み係数が決定される。
上記の様な設計方法を行なうことで、送受信部11は、環境、すなわち、生体の状況に応じて受信信号に含まれるサイドローブが最小化され、且つ、メインローブが最大化された状態で、各走査線のIQ信号を生成することができる。そして、上記の様な設計方法を応用することで、送受信部11(又は、制御部18)は、第2の実施形態で説明した中心固定型逆開口関数や、シフト型逆開口関数と同様の効果が得られる開口関数を適応的に設計することができる。
例えば、中央部ゼロの逆開口関数は、組織からの反射信号の素子方向での位相分布と多重反射信号の素子方向での位相分布とが、受信開口の中心部で同様の傾向となることを利用した開口関数である。受信開口の素子方向での位相分布に着目すると、隣接する素子の信号間の線形関係が強ければ、組織からの反射信号を表わし、線形関係が弱ければ、散乱信号を表わすという位相情報を利用すると、AA処理により、適応的に逆開口関数を設計することができる。例えば、送受信部11(又は、制御部18)は、映像化に用いる検波周波数の位相を解析して、素子方向に線形関係が強い位置での素子の重みを小さくし、反対に、線形関係が弱い位置での素子の重みを大きくした逆開口関数を設計する。
そして、例えば、送受信部11は、図18に示すように、受信開口の各素子で得られた信号に受信遅延が掛けられたIQ信号群を2系統に分離し、例えば、ハミング窓の順開口関数を用いたDAS処理を行なうとともに、位相分布に基づいて適応的に設計した逆開口関数を用いたAA処理を行なう。これにより、取得部151は、DAS処理に基づくIQ信号「IQ1」と、AA処理に基づくIQ信号「IQ2」とを取得し、合成部152は、これら2つのIQ信号を、例えば、乗算処理により合成した合成信号を生成する。この合成信号は、第2の実施形態で得られる合成信号と同様に、多重反射成分が低減され、且つ、方位分解能が高い画像データを生成可能な信号となる。信号処理部153は、合成信号に対して複素信号処理を行なって、Bモード処理部12に出力する。これにより、画像生成部14は、多重反射成分が低減され、且つ、方位分解能が高く、且つ、複素信号処理で画質が向上したBモード画像データを生成することができる。
なお、上記の内容は、あくまでも一例であり、本実施形態は、例えば、順開口関数を上述した適応的な概念により設計し、適応的に設計した逆開口関数及び順開口関数を用いたAA処理が行われる場合であっても良い。また、本実施形態は、第2の実施形態で説明した逆開口関数及び順開口関数を用いたDAS処理を行ない、更に、上述した適応的な設計法で得た逆開口関数及び順開口関数を用いたAA処理を行なう場合であっても良い。
また、上記の処理において、AA処理は、APES法で行われる場合でも、MV法で行われる場合でも良い。更に、上記のAA処理において適応的に設計される開口関数は、上述したように、本来、アダプティブアレイが目的とするサイドローブを抑制するための開口関数であっても良い。例えば、APES法では、サイドローブを抑制する効果が得られるが、通常のAPES法では、受信有効素子に対して正面方向に指向性を持たせるように重み係数を設計するので、正面方向に向かって反射してくる信号以外の重みを小さくしてしまう。このため、通常のAPES法では、仮に、走査領域内に傾いた組織が存在すると、この組織由来の信号が、小さい重みにより消失される可能性があるというデメリットがある。そこで、AA処理で通常のAPES法に基づいて決定された重み係数を用いたIQ信号と、一般的なDAS処理でハミング窓の開口関数を用いたIQ信号とを非線形処理で合成することで、上記のデメリットを低減させることができ、且つ、APES法で得られるサイドローブの抑制効果も得ることができる。
なお、上記の第2の実施形態〜第3の実施形態で説明した複数の処理は、任意の組み合わせで行なうことが可能である。いずれの場合であっても、複数の処理それぞれで得られた複数のIQ信号を非線形処理で合成することで、各処理のメリットを維持し、且つ、各処理のデメリットを他の処理のメリットで補間された合成信号を得ることができる。
(第5の実施形態)
第5の実施形態では、第1の実施形態〜第4の実施形態において実行可能な様々な表示形態について説明する。
第1の実施形態〜第4の実施形態では、並列的な複数の処理により複数のIQ信号を取得して、合成処理及び合成後信号処理を行なったり、合成前信号処理、合成処理及び合成後信号処理を行なったりするため、最終的にモニタ2に出力可能な表示用画像データは、複数存在する。
すなわち、合成前信号処理を行なわない場合、制御部18は、信号処理(合成後信号処理)が行われた合成信号から生成された画像データとともに、複数のIQ信号それぞれから生成された複数の画像データ及び合成信号から生成された画像データの中で少なくとも1つの画像データを、表示用画像データ群としてモニタ2に出力可能である。
また、合成前信号処理を行なう場合、制御部18は、信号処理(合成後信号処理)が行われた合成信号から生成された画像データとともに、複数のIQ信号それぞれから生成された複数の画像データ、信号処理(合成前信号処理)が行われた複数のIQ信号それぞれから生成された複数の画像データ及び合成信号から生成された画像データとの中で少なくとも1つの画像データを、表示用画像データ群としてモニタ2に出力可能である。
そして、制御部18の指示により、モニタ2は、表示用画像データ群を同時に表示する表示形態を行なうことが可能である。ただし、表示用画像データが多数であると、情報量が多くなるため、逆に、診断が困難になる場合がある。そこで、制御部18の指示により、モニタ2は、表示用画像データ群を構成する各画像データを切り替えて表示する表示形態を行なうことも可能である。
また、非線形合成処理及び合成後信号処理で得られた画像データにおいて、複数の処理それぞれで得られる効果が維持されているか否かを読影者が確認するため、制御部18は、合成元の複数のIQ信号それぞれから生成された複数の画像データの少なくとも1つの画像データを表示用画像データ群に含める制御を行なっても良い。また、合成後信号処理の前後で、画質が向上しているか否かを読影者が確認するため、制御部18は、合成信号から生成された画像データを表示用画像データ群に含める制御を行なっても良い。
上記の表示制御の具体例について、図19及び図20を用いて説明する。図19及び図20は、第5の実施形態を説明するための図である。
例えば、図19は、第2の実施形態で説明した複数の様々な開口関数を用いて、複数の受信アポダイゼーションを並列処理する場合に、モニタ2の出力可能な表示用画像データ群を示している。なお、以下では、合成前信号処理が行われない場合を一例として説明する。
例えば、図19では、非線形処理及び合成後信号処理で得られた信号「IQ」がBモード処理部12に出力されるとともに、合成元の複数のIQ信号「IQ1、・・・、IQn」がBモード処理部12に出力されることを示している。仮に、合成元のIQ信号が、ハミング窓の順開口関数で得られた「IQ1」と、中央部ゼロの逆開口関数で得られた「IQ2」である場合、制御部18の指示により、モニタ2は、図20の(A)に示すように、画像データ(IQ1)と、画像データ(IQ2)と、画像データ(IQ)とを同時に並列表示する。
図20の(A)に例示する表示形態では、読影者は、方位分解能が良好な画像データ(IQ1)を参照して、多重反射信号と思われる信号が重畳している部位を特定することができる。そして、読影者は、画像データ(IQ2)において、画像データ(IQ1)で特定した部位に対応する部位を参照して、多重反射信号と思われる信号が低減しているか否かを確認することで、この信号が真の反射信号であるか、多重反射信号であるかを判断して、画像診断を進めることができる。そして、読影者は、画像データ(IQ)を参照して、画像データ(IQ1)に特有な画質と画像データ(IQ2)に特有な画質とが維持されている、或いは、更に画質が向上していることを確認して、画像データ(IQ)を用いた画像診断を進めることができる。
或いは、上述した理由に基づいて、例えば、読影者の指示を受け付けた制御部18の制御により、モニタ2は、図20の(B)に示すように、画像データ(IQ1)と、画像データ(IQ2)と、画像データ(IQ)とを、選択的に切り替えて表示する。或いは、例えば、モニタ2は、図20の(C)に示すように、画像データ(IQ1)及び画像データ(IQ2)と、画像データ(IQ)とを、選択的に切り替えて表示する。
なお、上記の一例において、表示用画像データには、合成信号「IQ1・IQ2 *」から生成された画像データが含まれる場合であっても良い。
更に、合成処理前後や、信号処理前後等、様々な処理前後での画像データの変化を読影者が捉えるために、制御部18は、表示用画像データ群を構成する任意の組み合わせの画像データ間の差分画像データを、更に、表示用画像データ群に含めても良い。或いは、制御部18は、表示用画像データ群を構成する任意の組み合わせの画像データを重畳合成した重畳合成画像データを、更に、表示用画像データ群に含めても良い。
例えば、図19に示す「演算処理」において、Bモード処理部12は、信号間の差分を行なって差分信号を生成し、この差分信号からBモードデータを生成し、画像生成部14は、Bモード画像データを生成する。例えば、Bモード処理部12は、「IQ1」から「IQ」を差し引いた差分信号からBモードデータを生成する。かかるBモードデータから生成表示される画像データには、主に、非線形処理により低減された多重反射信号が描出される。
或いは、例えば、図19に示す「演算処理」において、Bモード処理部12は、信号間の重畳合成を行なって重畳信号を生成し、この重畳信号からBモードデータを生成し、画像生成部14は、Bモード画像データを生成する。例えば、Bモード処理部12は、「IQ1」と「IQ2」とをRBG上で加算処理した重畳信号からBモードデータを生成する。かかるBモードデータから生成表示される画像データには、例えば、「IQ1」に特異的な信号が赤色系で描出され、「IQ2」に特異的な信号が青色系で描出され、「IQ1」及び「IQ2」双方で得られた信号が緑色系で描出される。
また、制御部18は、重畳合成画像データを生成する際に、例えば、読影者の指示により、重畳合成する際の合成率(重畳率)を変更するように制御しても良い。例えば、読影者が入力装置3として設置されたスライドバーや、つまみを操作することで、受信アポダイゼーションのパラメータ変更にともなう画像データの変化を容易に捉えることができる。なお、上記の重畳処理は、例えば、「IQ1」と「IQ」とをRBG上で加算処理した重畳信号を用いて実行される場合であっても良い。
上述したように、第5の実施形態では、最終的に得られる信号処理後の合成信号から生成された画像データとともに、処理過程のIQ信号から生成可能な画像データであって、画像診断のうえで有益な情報が得られる様々な画像データを、様々な表示形態でモニタ2に出力する。第5の実施形態では、かかる表示用画像データの選択及び表示形態の選択は、読影者の要望により、任意に変更可能である。従って、第5の実施形態では、画像診断の効率を向上させることができる。
(第6の実施形態)
第6の実施形態では、第2の実施形態で説明した複数種類の開口関数を用いた複数系統の受信アポダイゼーションの並列処理において、信号処理部153が行なう信号処理の一例について、図21〜図24等を用いて説明する。図21は、第6の実施形態に係る信号処理部の構成例を示す図であり、図22〜図24は、第6の実施形態で行われる信号処理を説明するための図である。
第6の実施形態では、第2の実施形態で説明した「複数系統での受信ビームフォーミングの並列処理」として、重み付けパターンが異なる2つの開口関数を用いた2系統での受信ビームフォーミングの並列処理が行われる。例えば、重み付けパターンが異なる2つの開口関数は、ハミング窓の順開口関数及び中央部ゼロの逆開口関数であり、2系統での受信ビームフォーミングの並列処理は、固定型順アポダイゼーションと固定型逆アポダイゼーションとの並列処理である。ただし、以下で説明する処理は、順開口関数及び逆開口関数が、第2の実施形態で説明した様々な順開口関数及び逆開口関数である場合でも適用可能である。
第6の実施形態に係る超音波診断装置は、図1に示す超音波診断装置と同様に構成される。ただし、第6の実施形態に係る信号処理部153は、図21に例示するように、算出部153a及び乗算部153bを有する。
そして、第6の実施形態に係る取得部151は、2つの開口関数それぞれに対応する2つのIQ信号を取得する。そして、第6の実施形態に係る合成部152は、非線形処理である乗算処理により、2つのIQ信号から合成信号を生成する。
ここで、式(6)及び式(9)に示す「IQ=IQ1・IQ2 *」は、仮に、「IQ1=IQ2」である場合、「IQ1」又は「IQ2」のパワーとなる。そこで、以降の実施形態では、以下の式(23)に示すように、合成信号「IQ」をCP(Cross-Power)と定義する。
また、以降の実施形態では、合成信号であるCPの位相(位相角)、具体的には、「IQ1」と「IQ2」との位相差である式(11)の「θIQ=θ1−θ2」を、以下の式(24)に示すように、「θCP」と定義する。
かかる定義を用いると、信号処理部153は、合成信号CPに対して、信号処理を行なう。すなわち、第6の実施形態では、図21に示す算出部153aは、合成信号CPに含まれる位相情報から1つの係数又は複数種類の係数を算出する。具体的には、算出部153aが合成信号CPから算出する係数は、合成信号CPに含まれる位相情報から検出される2つのIQ信号の相関の大小に応じて値が増減する係数である。
より具体的には、算出部153aが合成信号CPから算出する係数は、合成信号CPの位相項から検出される2つのIQ信号の位相差を示す位相角「θCP」に応じて値が変化する係数であって、当該位相角が2つのIQ信号が直交することを示す場合にゼロとなり、当該位相角が前記2つのIQ信号が平行であることを示す場合に絶対値が1となる係数である。例えば、算出部153aが合成信号CPから算出する係数は、位相角「θCP」の余弦の値である。
そして、第6の実施形態では、図21に示す乗算部153bは、合成信号CPに1つの係数、又は、複数種類の係数のいずれか1つの係数を乗算した信号を、信号処理が行われた合成信号として出力する。
上記の処理について、図22を用いて説明する。まず、制御部18の制御により、送受信部11は、走査範囲を形成する各走査線で超音波送受信を行なう。送受信部11の加算部には、入力信号として、受信遅延部で必要な遅延が掛けられた各素子の受信信号(図22に示す「IQ-CH data」)が入力される。「IQ-CH data」は、IQ信号のデータ列を示す。加算部は、図22に示すように、入力信号「IQ-CH data」を2系統に分離する。そして、加算部は、一方の系統では、順アポダイゼーション(NormApod)としてハミング窓の順開口関数を用いた重み付けを行なって整相加算を行なう。これにより、「IQ1」が取得部151に出力される。また、加算部は、他方の系統では、逆アポダイゼーション(InvApod)として中央部ゼロの逆開口関数を用いた重み付けを行なって整相加算を行なう。これにより、「IQ2」が取得部151に出力される。
ここで、第6の実施形態では、2つのIQ信号「IQ1」及び「IQ2」の少なくとも一方が、非線形成分が抽出された信号であることが好適である。なお、非線形成分が抽出された信号とは、ある信号から線形成分が略除去され、非線形成分が残存した信号であることを意味する。具体的には、中央部ゼロの逆開口関数を用いた逆アポダイゼーションの場合には、受信ビームのサイドローブが高くなることから、送信ビームによるアーチファクト成分の混入が少ない組織ハーモニック成分が抽出されたIQ信号を「IQ2」とすることが好適である。
一方、順アポダイゼーションのIQ信号「IQ1」は、高感度で深部まで画像化することに好適な基本波成分の信号を用いる場合でも、送信ビームのサイドローブが少なくなり、アーチファクト成分の混入の少ない組織ハーモニック成分(組織の非線形成分)の信号を用いる場合でも良い。ただし、送受信部11の構成を簡単にする観点からは、順アポダイゼーション及び逆アポダイゼーションの双方で、図22に示す「IQ-CH data」を組織ハーモニック成分が抽出されたIQ信号のデータ列とすることが有利である。かかる場合、例えば、送受信部11は、上述したPM法による超音波送受信を行なって、非線形成分を抽出した信号を得て、順アポダイゼーション及び逆アポダイゼーションを行なう。
そして、合成部152は、「IQ1」と、「IQ2」の複素共役(図22に示すconj(IQ2))との乗算処理を行なって、CPを出力する。そして、算出部153aは、CPから係数を算出する。具体的には、CPの位相「θCP」を係数「PHdot」に変換する。そして、乗算部153bは、CPに「PHdot」を乗算する。乗算部153bの出力データは、Bモード処理部12及び画像生成部14の処理を経て、画像データ「CP_dot」として出力される。
ここで、CPの位相「θCP」を係数「PHdot」に変換する一例としては、上述したように、「cos(θCP)」を用いることが好適である。
CPは、1点の入力IQ信号として定義でき、更に、係数値としての「cos(θCP)」は、CPの各成分の四則演算と平方根とのみで算出可能であり、高速演算が可能である。また、「cos(θCP)」は、「IQ1」と「IQ2」との相関係数に相当し、相関係数の絶対値が大きい場合には、出力が強調され、相関係数が低い場合には、出力が減弱されることになる。
上記の内容について、以下、説明する。改めて、複素平面上でCPの意味を考察すると、「IQ1」と「IQ2」との位相差である「θCP」が「ゼロ」又は「2π」の場合、CPは、実数軸上のみに存在し、「IQ1」又は「IQ2」の信号パワーそのものとなる。一方、位相差「θCP」が「+π/2」又は「−π/2」の場合には、CPは、虚数軸上のみに存在する。そして、位相差「θCP」が「π」の場合には、CPは、マイナスの符号を持つ実数軸上の値となる。そして、これら以外の位相差では、CPは、実数成分と虚数成分の両者を持つが、いずれの場合であっても物理的な次元は、パワーの次元となる。
ここで、CPの絶対値とCPの実部(Re[CP])との比を取ると、以下の式(25)に示すように、その値は、「cos(θCP)」となる。一方、CPの絶対値とCPの虚部(Im[CP])との比を取ると、以下の式(25)に示すように、その値は、「sin(θCP)」となる。特に、「IQ1」及び「IQ2」をベクトルと見なすと、「cos(θCP)」は、双方のベクトルの内積と等価であり、この内積は、「IQ1」と「IQ2」との相関係数を意味する値となる。
図23では、「cos(θCP)」のグラフを実線で示している。図23に示すように、「cos(θCP)」は、「θCP」が「ゼロ」又は「2π」の場合、絶対値が「1」となり、「θCP」が「π」の場合には「0」となる。従って、CPに「cos(θCP)」を乗算することで、位相の揃うメインビームの中央の成分が残存し、且つ、相関の低いサイドローブ付近の成分が低減され、更に、相関の低い多重反射成分も低減された信号を得ることが可能となる。
図24は、鏡面多重反射成分を含む画像を得るために、表面に水を張ったファントムをTHIで撮影した結果を示している。図24の左図に示す「IQ1(NormApod)」は、順アポダイゼーションで得られた組織ハーモニック成分のBモード画像データであり、図24の中図に示す「IQ2(InvApod)」は、逆アポダイゼーションで得られた組織ハーモニック成分のBモード画像データである。そして、図24の右図に示す「CP_dot」は、図22に例示した処理で出力される画像データである。
ここで、「IQ1(NormApod)」では、ファントム表面とプローブと間の1回多重反射成分と、ファントム表面とプローブと間の2回多重反射成分とが認められ、また、2回多重反射成分が包嚢(Cyst)による黒抜け部位に重畳していることが認められる。一方、「CP_dot」では、「IQ1(NormApod)」で認められる包嚢(Cyst)の黒抜け部位に重畳している2回多重反射成分だけでなく、輝度の高い組織上に重畳している1回多重反射成分についても軽減されている。また、「CP_dot」では、ワイヤに着目すると、「IQ2(InvApod)」よりも方位分解能が改善し、「IQ1(NormApod)」と同等の方位分解能となっていることが示されている。
上述したように、第6の実施形態では、例えば、CPに「cos(θCP)」を乗算することで、位相の揃うメインビームの中央の成分が残存し、且つ、相関の低いサイドローブ付近の成分が低減された信号が得られることから、単純に開口コンパウンド処理を行なうより、方位分解能が改善するとともに、モアレを軽減することができる。また、CPに「cos(θCP)」を乗算することで、相関の低い多重反射成分も低減された信号が得られることから、多重反射成分の低減が可能となる。また、第6の実施形態で合成信号CPに乗算される係数は、位相情報に基づく係数であるため、組織由来の信号成分と多重反射成分と重畳している場合であっても、従来のコンパウンド処理よりも多重反射の低減効果が高くなる。
また、CPを得るための演算量及び「cos(θCP)」を得るための演算量が少ないため、第6の実施形態で説明した処理は、リアルタイムでの処理を行なうことが可能となる。また、第6の実施形態では、組織ハーモニック成分のIQ信号を合成元の信号とすることで、例えば、逆アポダイゼーションにより起こるサイドローブの上昇の影響を軽減することが可能となる。このようなことから、第6の実施形態では、多重反射が低減され、且つ、方位分解能及び感度が維持された高画質な画像を得ることができる。
なお、上述した一例では、CPの位相「θCP」に応じた係数への変換例として、物理的な意味が内積や相関係数と等価の「cos(θCP)」を用いる場合について説明した。しかし、上述したように、複素平面上での位相差の意味を考えれば、同様の作用を得る係数変換方法は他にも存在する。
具体的には、双方のベクトルが平行の場合は重みが大きく、直交する場合は重みがゼロとなる特性を有する係数ならば、上記の処理に適用可能である。このような係数の変形例として、図23では、「cos2(θCP)」を鎖線で示し、「θCP」と出力重みとを2変数とする楕円形状に基づく関数「ellips」を1点鎖線で示している。なお、「ellips」は、「θCP」が「π/2、π、3π/2」である時を境界条件とする関数である。
「cos2(θCP)」及び「ellips」は、双方のベクトルが直交する場合の重みを内積「cos(θCP)」の場合よりも小さくして、相関が無い場合の出力をより小さくする特性を有している。
ただし、これらの3種類の係数のいずれか1つの係数をCPに乗算する場合には、ゲイン補正を行なうことが望ましい。仮に、「θCP」に依らず常に係数「1」を乗算する場合と比較して、「cos(θCP)」を乗算する場合には、パワーの次元で係数の積分値は、図23のx軸で囲まれる面積値となり、1/2となるので、乗算結果に「+3dB」を与えることで、「cos(θCP)」を乗算しない場合のゲインと等しくすることができる。かかるゲイン補正をすることで、通常のBモード画像データと見かけ上のゲインが同等になるように、「CP_dot」を表示することができる。
なお、「cos2(θCP)」は、マイナスの値を持たない係数を出力するが、信号の振幅成分(絶対値成分)を得た後に最終的な画像出力が行われることから、上記の処理の係数として適用可能となる。これは、「cos(θCP)」を用いると、「θCP=π」の時は「IQ1」と「IQ2」とが逆相関となり係数値がマイナスとなるが、係数乗算後に絶対値を取れば、結果として、信号が強め合うことになるのと同等である。
また、「sin(θCP)」を係数として用いる場合は、相関が低い場合を強調することになるので、CPに「sin(θCP)」を乗算した信号を、CPから差し引くことで、「cos(θCP)」を用いる場合と同様の作用を得ることもできる。この演算処理は、「CP*(1−sin(θCP))となることから、CPに係数「1−sin(θCP)」を乗算する処理と等価となる。
なお、第6の実施形態は、上述したように、順開口関数及び逆開口関数として、第2の実施形態で説明した様々な開口関数(例えば、シフト型逆開口関数等)を適用することができる。また、第6の実施形態は、2つの開口関数として、例えば、方形窓の順開口関数と、ハミング窓の順開口関数とを用いる場合であっても良い。この一例では、細いメインビームと低いサイドローブとの双方の効果を保持する画像データを得ることができる。
また、第6の実施形態は、2つの開口関数として、受信開口の一方の端部から他方の端部に向かって重みが増大する重み付けパターンの開口関数と、他方の端部から一方の端部に向かって重みが増大する重み付けパターンの開口関数とを用いる場合であっても良い。すなわち、第6の実施形態は、受信開口の右側の重みを大きくした右開口関数と、受信開口の左側の重みを大きくした左開口関数とを用いる場合であっても良い。この一例では、左右どちらの開口から見ても相関の高い信号成分を強調することによりスペックルノイズが確実に低減された画像データを得ることが可能となる。なお、右開口関数と左開口関数とは、第2の実施形態の処理で用いられる複数の開口関数に含めることも可能である。
(第7の実施形態)
第6の実施形態では、合成信号CPに対して、合成信号CPの位相「θCP」から算出した係数を乗算することで、最終的な出力画像データを得る場合について説明した。第7の実施形態では、合成信号CPの位相「θCP」から算出した係数を、合成信号CPの合成元であるIQ信号に乗算することで、最終的な出力画像データを得る場合について、図25及び図26等を用いて説明する。図25及び図26は、第7の実施形態を説明するための図である。
第7の実施形態に係る信号処理部153は、第6の実施形態に係る信号処理部153と同様に、算出部153a及び乗算部153bを有する。第7の実施形態に係る算出部153aは、第6の実施形態と同様に、合成信号CPに含まれる位相情報「θCP」から、1つの係数、又は、複数種類の係数を算出する。ここで、算出部153aが算出する係数は、上述した「cos(θCP)」、「cos2(θCP)」及び「ellips」等である。
そして、第7の実施形態に係る乗算部153bは、2つのIQ信号の一方のIQ信号に1つの係数、又は、複数種類の係数の中で1つの係数を乗算した信号を、信号処理が行われた合成信号として出力する。
上記の処理について、図25を用いて説明する。なお、図25において、「IQ1」及び「IQ2」を得る処理と、「IQ1」及び「IQ2」の乗算処理からCPを得る処理と、CPの位相角を変換して係数「PHdot」を得る処理とは、図22に示す処理と同様であるので説明を省略する。なお、第6の実施形態で説明した内容は、乗算部153bの処理が異なる点以外、第7の実施形態でも適用可能である。
そして、乗算部153bは、図25に示すように、「IQ1」又は「IQ2」に「PHdot」を乗算する。乗算部153bの出力データは、Bモード処理部12及び画像生成部14の処理を経て、画像データ「IQ_dot」として出力される。例えば、乗算部153bは、「IQ2」に「cos(θCP)」を乗算して、Bモード処理部12に出力する。
図26の左図に示す「IQ1(NormApod)」は、図24の左図に示す画像データと同じ画像データであり、図26の中図に示す「IQ2(InvApod)」は、図24の左図に示す画像データと同じ画像データである。そして、図26の右図に示す「IQ_dot」は、「IQ2」に「cos(θCP)」を乗算した信号から生成された画像データである。
ベースとなる信号として、多重反射成分が最も少ない逆アポダイゼーションで得られた「IQ2」を用いていることから、「IQ_dot」では、多重反射成分が十分に小さくなっている。そして、更に、「IQ_dot」では、「IQ2(InvApod)」よりも方位分解能が改善していることが分かる。しかし、「IQ_dot」では、「IQ1(NormApod)」に比べて、組織のスペックルパターンの様相は変化が大きく、「IQ2(InvApod)」に近いパターンとなっている。これは、組織のスペックルパターンの部分では、「IQ1」及び「IQ2」双方の位相差が統計的に小さく、逆アポダイゼーションで得られた「IQ2」がそのまま出力されることに起因する。
上述したように、第7の実施形態では、合成信号CPから算出した係数を、合成元の逆アポダイゼーションで得られたIQ信号に乗算することで、多重反射が低減され、且つ、方位分解能が維持された高画質な画像を得ることができる。なお、第7の実施形態では、合成信号CPから算出した係数を、合成元の順アポダイゼーションで得られたIQ信号に乗算する場合でも適用可能である。また、第7の実施形態では、係数として、「cos(θCP)」、「cos2(θCP)」及び「ellips」のいずれか1つを用いることが可能である。
なお、第7の実施形態では、乗算部153bが、複数種類の係数の中の2つの係数それぞれを合成元の2つのIQ信号それぞれに乗算することで2つの信号を得て、これら2つの信号を合成した信号を出力しても良い。例えば、乗算部153bは、「IQ1」に「cos(θCP)」を乗算した信号と、「IQ2」に「cos2(θCP)」を乗算した信号とを加算平均した信号を、Bモード処理部12に出力しても良い。なお、乗算部153bは、「IQ1」及び「IQ2」に同じ係数を乗算した2つの信号を加算平均した信号を、Bモード処理部12に出力しても良い。
(第8の実施形態)
第8の実施形態では、合成信号CPの位相「θCP」から算出した係数を、合成信号CPに乗算するとともに、合成信号CPの合成元であるIQ信号に乗算し、これら2つの信号を、インコヒーレント加算でコンパウンド処理することで、最終的な出力画像データを得る場合について、図27及び図28等を用いて説明する。図27及び図28は、第8の実施形態を説明するための図である。
第8の実施形態に係る信号処理部153は、第6の実施形態及び第7の実施形態に係る信号処理部153と同様に、算出部153a及び乗算部153bを有する。第8の実施形態に係る算出部153aは、第6の実施形態及び第7の実施形態と同様に、合成信号CPに含まれる位相情報「θCP」から、1つの係数、又は、複数種類の係数を算出する。ここで、算出部153aが算出する係数は、上述した「cos(θCP)」、「cos2(θCP)」及び「ellips」等である。
そして、第8の実施形態に係る乗算部153bは、合成信号CPに1つの係数、又は、複数種類の係数のいずれか1つの係数を乗算した信号と、2つのIQ信号の一方のIQ信号に1つの係数、又は、複数種類の係数のいずれか1つの係数を乗算した信号とを合成した信号を、信号処理が行われた前記合成信号として出力する。
上記の処理について、図27を用いて説明する。なお、図27において、「IQ1」及び「IQ2」を得る処理と、「IQ1」及び「IQ2」の乗算処理からCPを得る処理と、CPの位相角を変換して係数「PHdot」を得る処理とは、図22に示す処理と同様であるので説明を省略する。なお、第6の実施形態で説明した内容は、乗算部153bの処理が異なる点以外、第8の実施形態でも適用可能である。
そして、乗算部153bは、図27に示すように、「CP」に「PHdot」を乗算する。そして、乗算部153bは、Bモード処理部12が行なう処理と同様の処理により、「CP」に「PHdot」を乗算した信号から振幅信号、又は、振幅信号を対数圧縮した信号を求める。更に、乗算部153bは、図27に示すように、「IQ1」又は「IQ2」に「PHdot」を乗算する。そして、乗算部153bは、Bモード処理部12が行なう処理と同様の処理により、「IQ1」又は「IQ2」に「PHdot」を乗算した信号から振幅信号、又は、振幅信号を対数圧縮した信号を求める。そして、乗算部153bは、これら2つの信号を合成する。乗算部153bの出力データは、画像生成部14、又は、Bモード処理部12及び画像生成部14の処理を経て、画像データ「CP_dot+IQ_dot」として出力される。
例えば、乗算部153bは、「CP」に「cos(θCP)」を乗算した信号と、「IQ2」に「cos(θCP)」を乗算した信号とを合成した信号を出力する。
図28の左図に示す「IQ1(NormApod)」は、図24の左図に示す画像データと同じ画像データであり、図28の中図に示す「IQ2(InvApod)」は、図24の左図に示す画像データと同じ画像データである。そして、図26の右図に示す「CP_dot+IQ_dot」は、「CP」に「cos(θCP)」を乗算した信号と、「IQ2」に「cos(θCP)」を乗算した信号とを合成した信号から生成された画像データである。
出力画像データ「CP_dot+IQ_dot」は、第6の実施形態で説明した出力画像データ「CP_dot」と、第7の実施形態で説明した出力画像データ「IQ_dot」とをコンパウンドした画像データとなる。第8の実施形態では、「CP_dot」より多重軽減効果を高めると同時に、スペックルパターンの様相を、「IQ_dot」より「IQ1(NormApod)」に近づけて、読影者にとってより自然な出力を得ることを目的としている。図28に示す「CP_dot+IQ_dot」では、上記の期待した効果が得られていることを示している。
上述したように、第8の実施形態では、合成信号CPから算出した係数を、合成信号及び合成元の逆アポダイゼーションで得られたIQ信号に乗算してインコヒーレント加算することで、多重反射が低減され、且つ、方位分解能が維持された高画質な画像を得ることができる。
なお、第8の実施形態は、合成元の順アポダイゼーションで得られたIQ信号に係数を乗算する場合であっても良い。また、第8の実施形態は、合成信号に乗算する係数と、2つのIQ信号の一方のIQ信号に乗算する係数とが異なる種類の係数であっても良い。
また、第8の実施形態では、乗算部153bは、合成信号に1つの係数、又は、複数種類の係数のいずれか1つの係数を乗算した信号と、複数種類の係数の中の2つの係数それぞれを2つのIQ信号それぞれに乗算した2つの信号を合成した信号とを、インコヒーレント加算で合成した信号を、信号処理が行われた合成信号として出力する場合であっても良い。かかる場合、乗算部153bは、CP用の係数と、IQ1用の係数と、IQ2用の係数とを、それぞれ異なる係数としても良いし、「CP、IQ1、IQ2」の3つの信号の中で、2つの信号に乗算する係数を同じ係数としても良い。
ここで、上記の第6の実施形態、第7の実施形態及び第8の実施形態で説明した3つの処理は、最終的に得られる画像データのスペックルパターンの自然さと、多重反射信号の軽減効果との相対的なトレードオフの兼ね合いから、例えば、プリセットメニューから、読影者が用途に合わせて最適な処理を選択可能とする構成にすることが、好適である。
(第9の実施形態)
第9の実施形態では、第6の実施形態、第7の実施形態及び第8の実施形態で説明した合成信号CPから得られる係数とは独立に得られる係数分布を更に用いることで、更に多重低減効果を高める場合について、図29を用いて説明する。図29は、第9の実施形態を説明するための図である。
第9の実施形態に係る取得部151は、更に、2つのIQ信号を得るために行った所定方向の偏向角以外の複数の偏向角での複数の受信信号から構成される受信信号群を取得する。そして、第9の実施形態に係る算出部153aは、2つのIQ信号から係数を算出するとともに、更に、受信信号群の少なくとも1つの受信信号を用いて係数分布を算出する。そして、第9の実施形態に係る乗算部153bは、係数及び係数分布を用いた乗算処理を行なう。そして、第9の実施形態に係る制御部18は、乗算部153bが出力した信号に基づく画像データをモニタ2に表示させる。
具体的には、取得部151は、更に、フレーム間で超音波送受信の偏向角を変える超音波走査により生成された偏向角の異なる複数の超音波画像データで構成される画像データ群を取得する。ここで、上記の複数の偏向角には、2つのIQ信号を得るために行われた所定方向の偏向角(0度)が含まれる。そして、算出部153aは、更に、画像データ群の中で、所定方向以外の方向の偏向角の少なくとも1つの超音波画像データを用いて、係数分布「cof(x,y)」を算出する。そして、乗算部153bは、画像データ群の中で、所定方向の偏向角の超音波画像データ、又は、所定方向を含む複数方向の偏向角それぞれの超音波画像データを合成処理した画像データに対して、係数及び係数分布を乗算する。
すなわち、第9の実施形態では、図3を用いて説明したフレーム単位(画像単位)で偏向角を変える超音波走査を行なう。例えば、制御部18の制御により、送受信部11は、3方向(偏向角:0度、+θ度、−θ度)の超音波送受信を、フレーム単位で、超音波プローブ1に実行させる。これにより、偏向角が異なる3つのBモード画像データが画像生成部14により生成される。なお、以下で説明する処理は、Bモード処理部12が位相検波を行なった後の信号であるならば、任意の段階での信号に対して適用可能である。
ここで、上記の所定方向は、偏向角「0度」の方向となる。偏向角「0度」の方向は、例えば、第6の実施形態で説明した「IQ1、IQ2」を得るために行われた方向であり、「CP_dot」を得るために行われた方向である。図29に示す「L(x,y)」及び「R(x,y)」は、斜め送受信により多重反射成分が低減された左偏向画像データ及び右偏向画像データである。また、図29に示す「CP_dot(x,y)」は、偏向角「0度」の方向のBモード画像データであり、第6の実施形態の図24に示す「CP_dot」である。なお、「(x,y)」は、画像データを構成する各画素の位置を示している。
第9の実施形態では、合成信号CPを画像化した画像データに、CPの位相差に応じて算出した係数及び後述する係数分布を乗算するが、かかる処理は、「CP_dot(x,y)」に係数分布「cof(x,y)」を乗算する処理と略等価となる。
このため、図29では、算出部153aが「L(x,y)」及び「R(x,y)」を処理対象として係数分布を算出し、乗算部153bが「CP_dot(x,y)」を係数分布の乗算対象とする場合を示している。なお、係数分布を算出する入力データである「L(x,y)」及び「R(x,y)」は、例えば、上述した包嚢(Cyst)の黒抜け部位での多重発生が小さくなるデータを選択することが、効果的である。「L(x,y)」及び「R(x,y)」を如何なる条件で得るかについては、後述する3つのケースを選択可能である。これについては、後に詳述する。
まず、算出部153aは、図29に示すように、「L(x,y)」及び「R(x,y)」の平均画像データである「M(x,y)」を得る。具体的には、算出部153aは、以下の式(26)により、「M(x,y)」を得る。
図29に示すように、「L(x,y)」及び「R(x,y)」を位置合わせすると、双方が重なり合う領域である重複領域と、「L(x,y)」における重複領域以外の左側領域と、「R(x,y)」における重複領域以外の右側領域とがある。上記の式(26)は、重複領域については、「L(x,y)」及び「R(x,y)」で同一位置の画素値の平均値を割り当て、左側領域については、「L(x,y)」の画素値を割り当て、右側領域については、「R(x,y)」の画素値を割り当てることで、平均画像データ「M(x,y)」を得ることを示している。
そして、算出部153aは、図29に示すように、平均画像データ「M(x,y)」から係数分布「cof(x,y)」を算出する。具体的には、算出部153aは、以下の式(27)により、「cof (x,y)」を算出する。
上記の式(27)では、M(x,y)を「β」で除算した値を「α乗」した値を、「cof(x,y)」として定義している。また、上記の式(27)では、M(x,y)を「β」で除算した値が「1」より大きい場合は、「cof(x,y)」を「1」にすると定義している。ここで、「α、β」は、予め設定される値である。具体的には、「β」は、出力信号の上限レベルを意味し、画像信号の最大値「max」以下のレベルに設定される。なお、「β」は、「max」に対して、7割から8割程度のレベルとして設定されることが好適である。また、べき乗係数である「α」は、「1/4〜1/3」程度の値に設定されることが好適である。
図29に示すグラフは、「α=1/4」とした式(27)を用いて、入力値「M(x,y)/β」から算出された出力値「cof(x,y)」をプロットしたグラフを示す。なお、式(27)のように、算出部153aが入力値に対するべき乗を行なう演算処理を含む関数を用いて係数分布を算出する利点については、後述する。
そして、乗算部153bは、図29に示すように、「CP_dot(x,y)」に係数分布「cof(x,y)」を乗算して、出力画像データ「Output(x,y)=CP_dot(x,y)*cof(x,y)」を出力する。そして、制御部18は、出力画像データ「Output(x,y)」を、Bモード画像データとして、モニタ2に表示させる。
以下、上記の処理により出力される「Output(x,y)」が、多重反射が低減され、且つ、方位分解能及び感度が維持された高画質な画像データとなる理由について説明する。
散乱信号のように、左右どちらから見ても信号レベルが変わらない部位では、平均画像データの輝度が高くなる。一方、多重反射のように、ビームを斜めにしたことで信号レベルが低下する部位では、平均画像データの輝度が低下する。特に、多重反射では、左右各々の偏向で信号レベルが低下するだけでなく、左右各々の偏向に対して出現位置も変化するため、左偏向画像データ及び右偏向画像データの平均画像データでの輝度低下の度合いは、大きくなる。
このため、上記の処理では、平均画像データで平均輝度が高い部位は、真の信号成分と見なして、最終的に出力したい中央画像データに寄与する係数値を大きくする。また、上記の処理では、平均画像データで平均輝度が小さい部位は、多重反射等のノイズ成分と見なして、中央画像データ「CP_dot(x,y)」に寄与する係数値を小さくする。従って、上記の処理により、中央画像データ「CP_dot(x,y)」に対して、更なる多重反射成分の低減が可能となる。また、出力画像データの画像信号そのものは、方位分解能が高く、感度も高い中央画像データに由来するため、信号と見なされて係数値が大きい部位については、方位分解能や感度が維持されることになる。
ここで、入力データである平均画像データから、出力データである係数値を得る変換方法としては、入力の大きさの程度が信号とノイズの境目となるレベルに対して、信号領域では出力値が高く維持され、ノイズ領域では出力値が十分に小さくなることが望まれる。このような変換特性を得るための最も単純な方法は、入力値が、設定された閾値を超えたら出力値を「1」とし、閾値以下では出力値を「0」とする閾値処理が挙げられる。
しかし、閾値設定に用いられる「信号とノイズの境界レベル」は、一般的に、被検体Pに応じて変化するため、明確には定められない。そこで、ロバストな多重軽減効果を得るためには、入力に対して滑らかな変化をしつつ、且つ、閾値処理に近い特性を有する変換特性を用いるのが有効である。
かかる変換特性を得るための具体的な方法は、上記の式(27)に示すように、入力レベルに応じた「べき乗関数」により、出力値を与えることが好適である。例えば、図29に示す変換特性は、「M(x,y)/β」が「0.1」より大きい範囲では、係数値が滑らかに変化し、「M(x,y)/β」が「0.1」以下の範囲では、係数値が急激に減少している。
ただし、上記の係数制御を行なう場合、図29のグラフからも明らかなように、出力画像データ「Output(x,y)」では、低輝度領域の信号が殆ど表示されなくなるため、見かけ上、表示ダイナミックレンジが狭くなり、ゲインが下がる傾向がある。そこで、制御部18は、上記の乗算処理を行なわない画像データと見かけ上の表示ダイナミックレンジ及びゲインが同等になるように、出力画像データを表示する際の表示ダイナミックレンジ及びゲインを、予め設定されたLUT(Look Up Table)を用いて制御しても良い。
次に、上述した係数分布を算出するための入力データである「L(x,y)」及び「R(x,y)」の生成条件について、説明する。係数分布を得る「L(x,y)」及び「R(x,y)」は、図21に示す3つのケースが考えられる。第1ケースは、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータを、順開口関数に基づいて生成されたデータとするものである。例えば、取得部151は、「L(x,y)」及び「R(x,y)」として、ハミング窓の開口関数を用いた順アポダイゼーションで得られたBモード画像データを取得し、算出部153aは、これら2つのBモード画像データの平均画像データから、係数分布を算出する。
第1ケースのように、係数分布の入力源として、順アポダイゼーションで得られる左右偏向時のデータが利用可能である理由は、以下となる。例えば、多重反射の要因となる対象物が右上に傾いている場合、左方向の偏向角では、多重反射成分の受信位置は、多重反射のパスが増大するにつれて、順開口関数で重みの小さい開口の左端方向へ寄っていくことから、多重反射アーチファクトが大幅に低減する。一方、対象物が右上に傾いている場合、右方向の偏向角では、相対的に多重反射成分が受信開口の内側で受信されるので多重反射成分が大きくなる。しかし、右方向の偏向角の多重反射アーチファクトは、通常の偏向角「0度」のBモード画像データより低減していると考えられる。
従って、処理の簡便化の観点からは、係数分布を得る2つの入力源それぞれを、順アポダイゼーションにより得ることが好適となる。
第2ケースについて説明する。第2ケースは、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータを、逆開口関数に基づいて生成されたデータとするものである。具体的には、第2ケースは、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータを、第2の実施形態で説明したシフト型逆開口関数に基づいて生成されたデータとするものである。
第2の実施形態で説明したように、超音波送受信方向に基づくシフト型逆アポダイゼーションを行なうことで、偏向時でも、確実に多重低減効果を得ることができる。従って、第2ケースでは、係数分布の算出に用いるデータを、シフト型逆アポダイゼーションで得られるデータとすることで、多重成分を確実に低減可能な係数分布を求めることができる。なお、第2ケースで用いるシフト型逆アポダイゼーションは、第2の実施形態で説明した第1パターンであっても第2パターンであっても良い。
第3ケースについて説明する。第3ケースは、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータを、例えば、第6の実施形態等で説明した係数乗算で得られたデータとするものである。例えば、左偏向角で順逆アポダイゼーションを行なうことで、第6の実施形態で説明した処理により、「L(x,y)」を得て、例えば、右偏向角で順逆アポダイゼーションを行なうことで、第6の実施形態で説明した処理により、「R(x,y)」を得る。第3ケースでは、逆アポダイゼーションとして、シフト型逆アポダイゼーションを行ない、順アポダイゼーションとして、固定型順アポダイゼーション、又は、シフト型順アポダイゼーションを行なう。第3ケースでは、係数分布の算出に用いるデータを、シフト型逆アポダイゼーション及び順アポダイゼーションの合成信号の係数を用いた乗算結果の出力データとすることで、第2ケースより多重成分を低減可能な係数分布を求めることができる。なお、上記の3つのケースにおいて、「L(x,y)」及び「R(x,y)」は、組織ハーモニック成分の画像データであることが好適である。
上記では、偏向角として3方向(±θ度、0度)を用い、第1ケース〜第3ケースのいずれかのケースの左偏向画像データと右偏向画像データとの平均画像データを用いて係数分布を算出する代表的な例を示した。ただし、「cos(θCP)」等の係数とは独立して多重軽減が可能となる係数分布を算出するための「斜めの偏向画像データ」は、左右どちらかの1方向の偏向画像データであっても良い。例えば、算出部153aは、式(27)に「L(x,y)」を代入することで、係数分布「cof(x,y)」を算出しても良い。
ただし、被検体Pの走査領域内の多重反射源となる構造体は、例えば、振動子の配列方向に対して斜めに傾く場合があることから、係数分布を用いてロバストな多重反射低減効果を得るためには、上記のように、左偏向画像データと右偏向画像データとの平均画像データを用いることが、好適である。
更に、第9の実施形態では、偏向角の方向数を、5や7に増やすことも可能である。かかる場合、「(a):平均画像データの加算方向数を増加させる方法」と、「(b):正面の画像データを含む複数の画像データをコンパウンド処理(例えば、重み付け処理)した画像データを中央画像データとして用いる方法」と、「(c):(a)及び(b)を併用する方法」とを行なうことができる。なお、正面の画像データは、例えば、「CP_dot(x,y)」である。
ここで、フレームシーケンスでコンパウンド処理を行なう従来方法であっても、フレームシーケンスで係数及び係数分布を用いた乗算処理を行なう第9の実施形態に係る方法であっても、フレームレートは、通常のBモード走査の通常の走査時と変わらない。しかし、双方の方法では、方向数に相当する数のフレームが処理に用いられる影響で、超音波プローブ1の移動や、被検体Pの呼吸動等に対する画像変化の応答性は、方向数の増加にともない低下する傾向がある。その一方、双方の方法では、多重反射軽減効果は方向数の増大にともない大きくなる。
このため、第9の実施形態に係る方法では、方向数の設定により、応答性と多重反射軽減効果とに関するトレードオフが生じる。従って、第9の実施形態では、「全体の方向数」と「平均画像データの生成処理に用いる方向数及び中央画像データの生成処理に用いる方向数」との設定を、用途に応じて操作者が選択可能なように、これらの方向数の候補セットを予め設定しておくことが好適である。かかる場合、操作者は、例えば、GUIに表示された候補セットから、所望の設定を選択する。
上述したように、第9の実施形態では、例えば、フレームシーケンスで得られる偏向時の画像データから係数分布を求め、フレームシーケンスで得られる偏向無しの正面の画像データである「CP_dot(x,y)」に係数分布を乗算したデータを、Bモード画像データとして出力する。これにより、第9の実施形態では、例えば、第6の実施形態で得られる画像より、更に、多重反射が低減された高品質な画像を得ることができる。なお、上記では、第6の実施形態に、フレームシーケンスで得られる係数分布を適用する場合について説明したが、上記の内容は、第7の実施形態や第8の実施形態にも適用可能である。
(第10の実施形態)
第10の実施形態では、第9の実施形態で説明した係数分布とは独立に得られる、別の係数分布を用いることで、更に多重低減効果を高める場合について、図30等を用いて説明する。図30は、第10の実施形態を説明するための図である。
第10の実施形態に係る取得部151は、更に、レート間で超音波送受信の偏向角を変える超音波走査により、偏向角の異なる複数の受信信号で構成される受信信号群を取得する。すなわち、第10の実施形態では、図4の(B)を用いて説明したレートシーケンスで偏向角を変える超音波走査を行なう。ここで、上記の複数の偏向角には、2つのIQ信号を得るために行われた所定方向の偏向角(0度)が含まれる。
そして、第10の実施形態に係る算出部153aは、更に、受信信号群の中で、所定方向以外の方向の偏向角の少なくとも1つの受信信号を用いて、係数分布を算出する。そして、第10の実施形態に係る乗算部153bは、受信信号群の中で、所定方向の偏向角の受信信号、又は、所定方向を含む複数方向の偏向角それぞれの受信信号を合成処理した信号に対して、係数及び係数分布を乗算する。なお、以下で説明する処理は、受信信号とされる各種信号(IQ信号、振幅信号及び画像信号)に適用可能である。
レートシーケンスでは、1本の受信走査線の信号を得る際に、この受信走査線の方向を中心として偏向角の異なる超音波送受信を複数回行なう。例えば、制御部18の制御により、送受信部11は、3方向(偏向角:0度、+θ度、−θ度)の超音波送受信を、レート単位で、超音波プローブ1に実行させる。これにより、偏向角が異なる3つの受信信号が得られる。ここで、上記の所定方向は、偏向角「0度」の方向となる。偏向角「0度」の方向は、例えば、第6の実施形態で説明した「IQ1、IQ2、CP」を得るために行われた方向である。そして、取得部151は、これら3つの受信信号を取得する。
図30の(A)に示す「Lr(d)」及び「Rr(d)」は、斜め送受信により多重反射成分が軽減された左偏向受信信号及び右偏向受信信号である。また、図30の(A)に示す「Cr(d)」は、例えば、合成信号CPに係数を乗算して得られた受信信号である。なお、「(d)」は、受信信号における深さ方向(受信走査線方向)の位置を示している。
図30の(B)〜(D)では、算出部153aが「Lr(d)」及び「Rr(d)」を処理対象として係数分布を算出し、乗算部153bが「Cr(d)」に係数分布を乗算する場合を例示している。「Cr(d)」に係数分布を乗算する処理は、偏向角「0度」での合成信号CPに係数及び係数分布を乗算する処理と等価である。
ここで、第10の実施形態の係数分布を算出する入力データである「Lr(d)」及び「Rr(d)」は、多重発生が小さくなるデータを選択することが、効果的である。「Lr(d)」及び「Rr(d)」を如何なるデータとするかは、第9の実施形態で説明した3つのケースを適用することができる。すなわち、第10の実施形態に係る第1ケースでは、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータ(「Lr(d)」及び「Rr(d)」)を、順開口関数に基づいて生成されたデータとする。また、第10の実施形態に係る第2ケースでは、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータ(「Lr(d)」及び「Rr(d)」)を、シフト型逆開口関数に基づいて生成されたデータとする。また、第10の実施形態に係る第3ケースでは、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータ(「Lr(d)」及び「Rr(d)」)を、順アポダイゼーション及びシフト型逆アポダイゼーションで得られた合成信号CPから得た係数の乗算処理で得られたデータとする。
また、第10の実施形態においても、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータは、サイドローブ成分の混入を防止するため、非線形成分が抽出されたデータであることが好適である。
上記のデータを取得部151が取得すると、算出部153aは、図30の(B)に示すように、「Lr(d)」及び「Rr(d)」の平均信号「Mr(d)」を得る。具体的には、算出部153aは、以下の式(28)により、「Mr(d)」を得る。
そして、算出部153aは、図30の(C)に示すように、平均信号「Mr(d)」から、深さ方向「d」で「Cr(d)」に与える係数分布「cof_r(d)」を算出する。具体的には、算出部153aは、以下の式(29)により、「cof_r(d)」を算出する。
上記の式(29)では、Mr(d)を「β」で除算した値を「α乗」した値を、「cof_r(d)」として定義している。また、上記の式(29)では、Mr(d)を「β」で除算した値が「1」より大きい場合は、「cof_r(d)」を「1」にすると定義している。ここで、「α、β」は、第9の実施形態で説明したように、予め設定される値である。具体的には、「β」は、出力される受信信号の上限レベルを意味し、受信信号の最大値「max」以下のレベルに設定される。なお、「β」は、「max」に対して、7割から8割程度のレベルとして設定されることが好適である。また、「α」は、「1/4〜1/3」程度の値に設定されることが好適である。なお、式(29)のように、算出部153aが入力値に対するべき乗を行なう演算処理を含む関数を用いて係数分布を算出する利点は、係数分布「cof(x,y)」の算出処理において説明した理由と同様である。
そして、乗算部153bは、図30の(D)に示すように、「Cr(d)」に係数分布「cof_r(d)」を乗算して、出力受信信号「O_Cr(d)」を出力する。
データ処理部15は、上記の処理を、全受信走査線で行なって、1フレーム分の出力受信信号を出力する。制御部18の制御により、画像生成部14は、1フレーム分の出力受信信号群から、出力画像データを生成する。そして、モニタ2は、制御部18の制御により、出力画像データを表示する。かかる出力画像データは、「θCP」に基づく係数及び係数分布の相乗効果で、多重反射が低減され、且つ、方位分解能及び感度が維持された高画質な画像となる。なお、第10の実施形態においても、制御部18は、乗算処理を行なわない画像データと見かけ上の表示ダイナミックレンジ及びゲインが同等になるように、出力画像データを表示する際の表示ダイナミックレンジ及びゲインを、予め設定されたLUTを用いて制御しても良い。
なお、第10の実施形態でも、第9の実施形態で説明したように、1つの斜めの受信信号(例えば、「Lr(d)」)を用いて、係数分布が算出されても良い。また、第10の実施形態でも、第9の実施形態で説明したように、偏向角の方向数を、5や7に増やすことも可能である。
なお、上記応用例を行なう場合、第10の実施形態では、第9の実施形態と同様に、「全体の方向数」と「平均信号の生成処理に用いる方向数及び中央信号の生成処理に用いる方向数」との設定を、用途に応じて操作者が選択可能なように、これらの方向数の候補セットを予め設定しておくことが好適である。
上述したように、第10の実施形態では、「θCP」に基づく係数及び係数分布「cof_r(d)」を用いた乗算処理を行なうことで、レート間の空間コンパウンドを行なう従来方法や、第6の実施形態で得られる画像より、更に、多重反射が低減された高品質な画像を得ることができる。なお、上記の内容は、第7の実施形態や第8の実施形態にも適用可能である。
(第11の実施形態)
第11の実施形態では、第9の実施形態及び第10の実施形態で説明した係数分布とは独立に得られる、別の係数分布を用いることで、更に多重低減効果を高める場合について、図31等を用いて説明する。図31は、第11の実施形態を説明するための図である。
第11の実施形態に係る取得部151は、更に、送信超音波に対して複数の受信偏向角の反射波を並列同時受信する超音波走査により生成された偏向角の異なる複数の同時受信信号で構成される同時受信信号群を取得する。すなわち、第11の実施形態では、図4の(A)を用いて説明した並列同時受信で偏向角を変える超音波走査を行なう。ここで、上記の所定方向は、偏向角「0度」の方向となる。偏向角「0度」の方向は、例えば、第6の実施形態で説明した「IQ1、IQ2、CP」を得るために行われた方向である。
そして、第11の実施形態に係る算出部153aは、更に、同時受信信号群の中で、所定方向以外の方向の偏向角の少なくとも1つの同時受信信号を用いて、係数分布を算出する。そして、第11の実施形態に係る乗算部153bは、同時受信信号群の中で、所定方向の偏向角の同時受信信号、又は、所定方向を含む複数方向の偏向角それぞれの同時受信信号を合成処理した信号に対して、「θCP」に基づく係数及び係数分布を乗算する。なお、以下で説明する処理は、受信信号とされる各種信号(IQ信号、振幅信号及び画像信号)に適用可能である。
例えば、制御部18を介した送受信部11の制御により、超音波プローブ1は、偏向角「0度」の方向で超音波ビームを送信し、3方向(偏向角:0度、+θ度、−θ度)の反射波を同時受信する。これにより、偏向角が異なる3つの同時受信信号が得られる。そして、取得部151は、これら3つの受信信号を取得する。
図31の(A)に示す「Lp(d)」及び「Rp(d)」は、斜め送受信により多重反射成分が軽減された左偏向同時受信信号及び右向偏同時受信信号である。また、図31の(A)に示す「Cp(d)」は、例えば、合成信号CPに係数を乗算して得られた受信信号である。なお、「(d)」は、受信信号における深さ方向(受信走査線方向)の位置を示している。
図31の(B)〜(D)では、算出部153aが「Lp(d)」及び「Rp(d)」を処理対象として係数分布を算出し、乗算部153bが「Cp(d)」に係数分布を乗算する場合を例示している。「Cp(d)」に係数分布を乗算する処理は、偏向角「0度」での合成信号CPに係数及び係数分布を乗算する処理と等価である。
ここで、第11の実施形態の係数分布を算出する入力データである「Lp(d)」及び「Rp(d)」は、多重発生が小さくなるデータを選択することが、効果的である。「Lp(d)」及び「Rp(d)」を如何なるデータとするかは、第9の実施形態で説明した3つのケースを適用することができる。すなわち、第11の実施形態に係る第1ケースでは、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータ(「Lp(d)」及び「Rp(d)」)を、順開口関数に基づいて生成されたデータとする。また、第11の実施形態に係る第2ケースでは、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータ(「Lp(d)」及び「Rp(d)」)を、シフト型逆開口関数に基づいて生成されたデータとする。また、第11の実施形態に係る第3ケースでは、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータ(「Lp(d)」及び「Rp(d)」)を、順アポダイゼーション及びシフト型逆アポダイゼーションで得られた合成信号CPから得た係数の乗算処理で得られたデータとする。
また、第11の実施形態においても、算出部153aが係数分布の算出に用いるデータは、サイドローブ成分の混入を防止するための、非線形成分が抽出されたデータであることが好適である。
上記のデータを取得部151が取得すると、算出部153aは、図31の(B)に示すように、「Lp(d)」及び「Rp(d)」の平均信号「Mp(d)」を得る。具体的には、算出部153aは、以下の式(30)により、「Mp(d)」を得る。
そして、算出部153aは、図31の(C)に示すように、平均信号「Mp(d)」から、深さ方向「d」で「Cp(d)」に与える係数分布「cof_p(d)」を算出する。具体的には、算出部153aは、以下の式(31)により、「cof_p(d)」を算出する。
上記の式(31)では、Mp(d)を「β」で除算した値を「α乗」した値を、「cof_p(d)」として定義している。また、上記の式(31)では、Mp(d)を「β」で除算した値が「1」より大きい場合は、「cof_p(d)」を「1」にすると定義している。ここで、「α、β」は、第9の実施形態及び第10の実施形態で説明したように、予め設定される値である。具体的には、「β」は、出力される受信信号の上限レベルを意味し、受信信号の最大値「max」以下のレベルに設定される。なお、「β」は、「max」に対して、7割から8割程度のレベルとして設定されることが好適である。また、「α」は、「1/4〜1/3」程度の値に設定されることが好適である。なお、式(31)のように、算出部153aが入力値に対するべき乗を行なう演算処理を含む関数を用いて第4係数分布を算出する利点は、係数分布「cof(x,y)」の算出処理において説明した理由と同様である。
そして、乗算部153bは、図31の(D)に示すように、「Cp(d)」に係数分布「cof_p(d)」を乗算して、出力受信信号「O_Cp(d)」を出力する。
データ処理部15は、上記の処理を、全受信走査線で行なって、1フレーム分の出力受信信号を出力する。制御部18の制御により、画像生成部14は、1フレーム分の出力受信信号群から、出力画像データを生成する。そして、モニタ2は、制御部18の制御により、出力画像データを表示する。かかる出力画像データは、「θCP」に基づく係数及び係数分布の相乗効果で、多重反射が低減され、且つ、方位分解能及び感度が維持された高画質な画像となる。なお、第11の実施形態においても、制御部18は、乗算処理を行なわない画像データと見かけ上の表示ダイナミックレンジ及びゲインが同等になるように、出力画像データを表示する際の表示ダイナミックレンジ及びゲインを、予め設定されたLUTを用いて制御しても良い。
また、第11の実施形態でも、第9の実施形態及び第10の実施形態で説明したように、1つの斜めの受信信号(例えば、「Lp(d)」)を用いて、係数分布が算出されても良い。また、第11の実施形態でも、第9の実施形態や第10の実施形態で説明したように、偏向角の方向数を、5や7に増やすことも可能である。
なお、上記応用例を行なう場合、第11の実施形態では、第9の実施形態及び第10の実施形態と同様に、「全体の方向数」と「平均信号の生成処理に用いる方向数及び中央信号の生成処理に用いる方向数」との設定を、用途に応じて操作者が選択可能なように、これらの方向数の候補セットを予め設定しておくことが好適である。
上述したように、第11の実施形態では、「θCP」に基づく係数及び係数分布「cof_p(d)」を用いた乗算処理を行なうことで、並列同時受信により空間コンパウンドを行なう従来方法や、第6の実施形態で得られる画像より、更に、多重反射が低減された高品質な画像を得ることができる。なお、上記の内容は、第7の実施形態や第8の実施形態にも適用可能である。
なお、第9の実施形態〜第11の実施形態で説明した処理は、任意の組み合わせにより実行されても良い。すなわち、第9の実施形態で説明したフレームシーケンスの走査モード(以下、第1走査モード)、第10の実施形態で説明したレートシーケンスの走査モード(以下、第2走査モード)、及び、第11の実施形態で説明した並列同時受信の走査モード(以下、第3走査モード)は、偏向角の設定を各々独立に設定することが可能である。従って、第9の実施形態〜第11の実施形態で説明した動作は、第6の実施形態〜第8の実施形態で説明した「θCP」に基づく係数を用いた処理に対して、任意に組み合わせて併用することができる。これにより、多重反射軽減効果と方位分解能及び感度の維持とを実現することができる。
また、3種類の走査モードの少なくとも2つを併用する場合、各モードで得られる係数分布を用いた乗算処理を少なくとも1つの走査モードで行ない、残余の走査モードでは、従来方法(コンパウンド処理)を行なっても良い。これによっても、多重反射軽減効果と方位分解能及び感度の維持とを実現することができる。
また、上記の第9の実施形態〜第11の実施形態では、様々な係数分布の算出に際し、偏向を有する画像信号や、偏向を有する受信信号に対して、複数方向の平均値を用いる場合について説明した。しかし、上記の第9の実施形態〜第11の実施形態では、複数方向の信号間の相互相関値や、差分値等から係数分布を算出しても良い。
(第12の実施形態)
第12の実施形態では、超音波プローブ1として、メカニカル4Dプローブや2Dアレイプローブを用いて、3次元走査が行われる場合について、図32〜図34を用いて説明する。図32〜図34は、第12の実施形態を説明するための図である。
すなわち、上述した第1の実施形態〜第11の実施形態で説明した超音波イメージング方法は、2次元の超音波画像データを撮影する場合だけでなく、ボリュームデータを撮影する場合にも適用可能である。例えば、超音波プローブ1として、メカニカル4Dプローブを用いる場合には、振動子群を機械的に揺動することで得られた複数の断層像を合成することでボリュームデータが生成される。かかる場合、各断層像において、上述した第1の実施形態〜第11の実施形態で説明した超音波イメージング方法を実行することで、信号合成で得られる画像データの画質を確実に向上させることができる。
また、例えば、第6の実施形態〜第11の実施形態において、2Dアレイプローブを用いて、2つのIQ信号を得るための2つの開口関数それぞれは、以下の2つの場合に大別される。
第1の場合は、2つの開口関数それぞれを、1次元の受信開口での重み付けパターンを2次元の受信開口の両方向に適用した開口関数とする場合である。例えば、図32の左図に示す開口関数は、1次元のハミング窓の順開口関数の重み付けパターンを、azimuth方向及びelevation方向それぞれに適用した順開口関数である。また、例えば、図32の右図に示す開口関数は、1次元の中央部ゼロの逆開口関数の重み付けパターンを、azimuth方向及びelevation方向それぞれに適用した逆開口関数である。なお、図32の右図では、中央部ゼロの形状が円柱である場合を例示しているが、中央部ゼロの形状が直方体であっても良い。
第1の場合、図32の左図に示す順開口関数から「IQ1」が出力され、図32の右図に示す逆開口関数から「IQ2」が出力されることになるので、データ処理部15が行なう処理としては、上述した実施形態と同様の処理となる。
第2の場合は、例えば、受信アポダイゼーションをazimuth方向及びelevation方向それぞれに分け、各方向で順アポダイゼーション及び逆アポダイゼーションを行なう場合である。仮に、断面走査用の2つの開口関数を、1次元の受信開口での重み付けのパターンが異なる第1開口関数(例えば、1次元のハミング窓の順開口関数)及び第2開口関数(例えば、1次元の中央部ゼロの逆開口関数)とする。
かかる場合、2次元の受信開口で設定可能な開口関数は、「第1開口関数の重み付けパターンを2次元の受信開口の一方の方向に適用した開口関数」と、「第1開口関数の重み付けパターンを2次元の受信開口の他方の方向に適用した開口関数」と、「第2開口関数の重み付けパターンを2次元の受信開口の一方の方向に適用した開口関数」と、「第2開口関数の重み付けパターンを2次元の受信開口の他方の方向に適用した開口関数」との4種類になる。
図33の左図は、「第1開口関数の重み付けパターンを2次元の受信開口の一方の方向に適用した開口関数」の一例であり、1次元のハミング窓の順開口関数の重み付けパターンを、azimuth方向に適用した順開口関数「NormApod-a」である。また、図33の右図は、「第2開口関数の重み付けパターンを2次元の受信開口の一方の方向に適用した開口関数」の一例であり、1次元の中央部ゼロの逆開口関数の重み付けパターンを、azimuth方向に適用した逆開口関数「InvApod-a」である。
また、図34の左図は、「第1開口関数の重み付けパターンを2次元の受信開口の他方の方向に適用した開口関数」の一例であり、1次元のハミング窓の順開口関数の重み付けパターンを、elevation方向に適用した順開口関数「NormApod-e」である。また、図34の右図は、「第2開口関数の重み付けパターンを2次元の受信開口の他方の方向に適用した開口関数」の一例であり、1次元の中央部ゼロの逆開口関数の重み付けパターンを、elevation方向に適用した逆開口関数「InvApod-e」である。
かかる場合、取得部151は、順開口関数「NormApod-a」で出力された第1のIQ信号(以下、IQ1a)と、順開口関数「NormApod-e」で出力された第2のIQ信号(以下、IQ1e)と、逆開口関数「InvApod-a」で出力された第3のIQ信号(以下、IQ2a)と、逆開口関数「InvApod-3」で出力された第4のIQ信号(以下、IQ2e)とを取得する。
そして、合成部152は、以下の2つの組み合わせのいずれかで、合成処理を行なう。第1の組み合わせでは、合成部152は、非線形処理により、IQ1a及びIQ2aから第1合成信号を生成し、IQ1e及びIQ2eから第2合成信号を生成する。また、第2の組み合わせでは、合成部152は、非線形処理により、IQ1a及びIQ2eから第1合成信号を生成し、IQ1e及びIQ2aから第2合成信号を生成する。
そして、信号処理部153は、第1の組み合わせで得られた第1合成信号及び第2合成信号それぞれに対して、例えば、第6の実施形態〜第8の実施形態で説明した信号処理を行なう。或いは、信号処理部153は、第2の組み合わせで得られた第1合成信号及び第2合成信号それぞれに対して、例えば、第6の実施形態〜第8の実施形態で説明した信号処理を行なう。
そして、制御部18の制御により最終的にモニタ2に表示される画像データは、以下の2種類のいずれかとなる。すなわち、制御部18は、信号処理を行なった第1合成信号及び第2合成信号を、コヒーレント加算した信号から生成された画像データを表示させる。或いは、制御部18は、信号処理を行なった第1合成信号及び第2合成信号を、インコヒーレント加算した信号から生成された画像データを表示させる。
信号処理を行なった第1合成信号及び第2合成信号をコヒーレント加算した信号から生成された画像データは、方位分解能が高い画像データとなる。一方、信号処理を行なった第1合成信号及び第2合成信号をインコヒーレント加算した信号から生成された画像データは、スペックルノイズが軽減された画像データとなる。
また、上記の第1の組み合わせを行なった場合、鏡面状の多重反射の要因となる物体が、超音波プローブ1側から見て、azimuth方向の軸及びelevation方向の軸と平行な場合、多重反射軽減効果が高くなる。また、上記の第2の組み合わせを行なった場合、鏡面状の多重反射の要因となる物体が、超音波プローブ1側から見て、azimuth方向の軸及びelevation方向の軸から45度回転している場合、多重反射軽減効果が高くなる。
2Dアレイプローブを用いて第2の場合を実行する際には、第1の組み合わせでコヒーレント加算を行なうか、第1の組み合わせでインコヒーレント加算を行なうか、第2の組み合わせでコヒーレント加算を行なうか、第2の組み合わせでインコヒーレント加算を行なうかの4つの選択肢があることになる。読影者は、これら4つの選択肢それぞれで得られる効果に応じて、処理内容を選択することが可能である。
なお、第1の実施形態〜第12の実施形態で説明した超音波イメージング方法は、超音波診断装置とは独立に設置され、上記のデータ処理部15及び制御部18等の機能を有するデータ処理装置により実行されても良い。
また、第1の実施形態〜第12の実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行なわれるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行なうこともでき、或いは、手動的に行なわれるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行なうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。更に、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
また、第1の実施形態〜第12の実施形態で説明した超音波イメージング方法は、予め用意された超音波イメージングプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。この超音波イメージング方法は、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、この超音波イメージング方法は、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
以上、説明したとおり、第1の実施形態〜第12の実施形態によれば、信号合成で得られる画像データの画質を確実に向上させることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。