JP6320688B2 - 環状カーボネートの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、生分解性ポリマー等の製造における中間体として有用な環状カーボネートの製造方法に関し、より詳細には、分子内にカルボキシル基のような官能基を有する環状カーボネート及びその誘導体の製造方法並びに新規な中間体化合物に関する。
脂肪族ポリカーボネート及びポリエステル等は、薬物送達、ポリマーを基材とする医療用機器、イメージング造影剤等のための生体適合性材料として期待されている。これらの用途に好ましいポリマーは、環状カーボネートや環状エステル等を用いた開環重合(ROP)によって調製されうる。合成されたポリマーの用途を拡大するためには、多様な官能基を有する環状モノマーを簡単にかつ安価に製造することが必須である。官能基を有する環状エステルがいくつか報告されているものの、立体的な嵩高さや環のひずみから官能基の導入部位が限定されること、特定の環状エステルは安価に製造することが難しく、またモノマーの安定性が低く反応収率が悪いことなどのために、その有用性が限定されている。これに対し、1,3−ジオールを出発物質とする官能基化された環状カーボネートの合成方法に関する多くの報告がある。
例えば、下記スキーム1に示すように、カルボキシル基を有するジオール化合物bis−MPAから得られる環状カーボネートMTC−XR(Xは、O、NH又はS等を表す)の基Rには、カルボキシル基を介して反応することができる様々な官能基Rを適用することができる。このような6員環状カーボネートは開環重合によって容易に脂肪族ポリカーボネートを与え、それが生分解性を示すことから薬剤キャリアや細胞培養基板等、医療材料への応用が幅広く研究されている。特に、構造−(C=O)X−をリンカーとしてカーボネートに結合している官能基Rによって、例えば、薬剤担持能、細胞認識能、選択的細胞接着能、抗血栓性等の機能が付加された生分解性ポリマーは、高機能医療材料、スマートバイオマテリアルとして近年注目されている。
上記環状カーボネートMTC−XRの製造方法として、従来より上記スキームのように複数の製法によって製造可能であることが知られている。上記スキームでは、いずれもbis−MPA等を出発原料として使用し、典型的には非プロトン性有機溶媒中で、そのジオール部位を環化反応により環状化することで、環状カーボネートが製造される。また、主に環状カーボネートを開環重合して得られるポリマーに適宜の側鎖を導入する点から、環状カーボネートを合成する出発原料としてカルボキシル基を含むbis−MPA等が使用され、上記環化反応と前後して、反応性試薬によるカルボキシル基の置換反応が行われる。
上記のような環状カーボネートの合成においては、環化反応を非プロトン性有機溶媒等の中で行う必要があるのに対し、bis−MPAは極性が高いために有機溶媒への溶解性が低いという問題を有し、典型的には予めカルボキシル基に対して何らかの置換反応を行うことで、有機溶媒への溶解性を高める操作が行われる。一方、当該カルボキシル基との置換反応は、一般に反応性試薬である置換アルコールやアミンとの間でのエステル化又はアミド化を経由するため、その際にジオール部位への影響を考慮する必要がある。特にカルボキシル基をエステル化する場合、ジオール部位とのエステル化反応の競争を考慮する必要がある。そのため、bis−MPA等を出発原料とする環状カーボネートの合成においては、ジオール部位及びカルボキシル基に対する保護・脱保護段階を適切に経由する必要があり、従来より上記のような様々な合成経路が提案されている。
スキーム1における製法Aは、非特許文献1等にて報告されており、カルボキシル基をベンジルエステルとして保護した後、有機溶媒中で環化反応を行い、その後、カルボキシル基の脱保護と、脱保護によって再生したカルボキシル基に対するアルコール又はアミンの求核アシル置換反応によって反応性官能基を導入するものである。製法Aは、広範囲の求核試薬が使用可能であるが,工程数が多い。すなわち、カルボキシル基のベンジルエステルは化学的に安定であり、水素化分解法などにより脱保護を行うためには中間体を単離しなければならず、そのため工程数の増加により全体としての収率が低下するという課題を有している。
製法Bは非特許文献2等にて報告されており、カルボキシル基への反応性官能基の導入反応を先行させ、その後環化反応を行うものである。求核剤を大過剰に使用することで初段階の反応においてbis−MPAの自己縮合反応を抑制している。ただし、高温での加熱が必要で、精製・単離の観点から低沸点かつ化学的に安定なアルコールやアミンを使用する場合に限定される。また、その他にも反応条件や反応基質に大きな制限がかかり、様々な機能を有する分子を設計するうえでは大きな欠点を有している。
製法Cは非特許文献3及び4等で報告されており、予めジオール部位を保護した後にカルボキシル基を反応性官能基で修飾し、その後にジオール部位の脱保護、環化反応と続く手法である。製法Cによれば、ジオール部位の保護によってカルボキシル基への反応性官能基の導入反応において自己縮合の懸念がなく、製法Bと比較して使用できる求核試薬の範囲が拡大する。その一方で、製法Bと同様に、カルボキシル基に導入される基Rには、その後の酸性条件で行われるジオール部位の脱保護反応や環化反応に対する耐性が必要とされる。
最近、特許文献1や非特許文献5にて、下記スキーム2に示すように、ビスペンタフルオロフェニルカーボネート(PFC)を用いて環化反応とカルボキシル基の保護を1段階で行うことが提案されている。つまり、bis−MPAとPFCを所定環境下で反応させ、bis−MPAのジオール部位を環化すると共に、ペンタフルオロフェニルエステル置換基を活性エステルとして機能させ、カルボキシル基の保護と活性化を図ることが提案されている。そして、当該ペンタフルオロフェニルエステル置換基は脱離基として機能し、温和な条件でのアルコールやアミンとの置換反応が可能であることが報告されている。
当該手法によれば、スキーム1で示されるような、bis−MPAを出発原料として各種の環状カーボネートを合成する工程における、ジオール部位とカルボキシル基との保護・脱保護に関係する各種工程が省略可能であり、単一の工程でカルボキシル基を保護しつつ、ジオール部位の環化反応を行うことが可能となる。
製法Aと同様に導入できる求核試薬の多様性を維持しつつ工程数の大幅な低減が達成されているが、PFCは高価で入手性に問題がある。また、副生するペンタフルオロフェノールの除去が不十分な場合、その後の重合反応に影響することも不利となる。
Pratt et al., Chem. Commun. 2008, 114-116. 2) Goodwin et al., JACS 2007, 129, 6994-6995. Weilandt et al., Macromol. Chem. Phys. 1996, 197, 3851-3868. 4) Al-Azemi et al., Macromolecules 1999, 32, 6536-6540. Al-Azemi et al., Polymer 2002, 43-2161-2167. Mullen et al., J. Polym. Sci. Part A.; Polym. Chem. 2003, 41, 1978-1991. Sanders et al., JACS 2010, 132, 14724-14726.
米国特許公開公報第2010305281号
以上、説明したように、従来のカルボキシル基を有するジオール化合物を出発原料とするカルボキシル基を有する環状カーボネートの合成方法においては、出発原料が有する有機溶媒への溶解性が低いことや、出発原料に含まれる官能基間で競合する各種反応を制御するための保護・脱保護に関係する各種工程が必要であり低コスト化が困難であった。また、上記スキーム2に記載の方法によれば、工程の簡略化が可能である点で優れる一方で、反応に使用されるビスペンタフルオロフェニルカーボネート(PFC)は高価で入手性に問題があり、コスト低減の点で問題が残る。また、副生するペンタフルオロフェノールの除去が不十分な場合には、合成した環状カーボネートの重合反応にも影響する問題があった。
本発明は、カルボキシル基を有するジオール化合物を出発原料として、単純でかつ効率的にカルボキシル基又はその誘導体を有する環状カーボネートを合成する新規な方法を提供することを課題とする。
予想に反して、驚くべきことに、カルボキシル基を有するジオール化合物に対して、当該カルボキシル基を有機塩基により保護しつつ、有機溶媒の存在下で環化反応を行うことで、カルボキシル基の保護・脱保護反応を省略しつつ、高価な試薬を用いなくても効率的に環状カーボネートを合成しうることを見いだした。すなわち、本発明の1つの視点において、カルボキシル基を有するジオール化合物を、有機塩基、及び有機溶媒の存在下で、式(I):R−(C=O)−R[式中、R及びRは、互いに独立してハロゲン原子、イミダゾリウム基、若しくは−OR(ここでRは、場合によりハロゲン原子で置換された低級アルキル基、又はハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキル基、及びハロアルキル基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基で場合により置換されたアリール基である)である]で表される化合物と反応させることを含む、環状カーボネートの製造方法が提供される。
前記カルボキシル基を有するジオール化合物は、環化反応に先立って、有機塩基の存在下で有機溶媒に溶解していることが好ましく、これは、反応混合物中の有機塩基が、ジオール化合物中のカルボキシル基との非共有結合性の相互作用、例えば錯体を形成することにより、前記ジオール化合物の有機溶媒への溶解を促進するとともに、カルボキシル基の保護基としての役割も果たしているためであると考えられる。したがって、本発明の方法に用いる有機塩基は、ジオール化合物中のカルボキシル基と有機溶媒中で相互作用をなし得るものであればよく、用いる有機溶媒の極性に応じて、種々のものを適宜選択することができる。
本発明によれば、従来法におけるカルボキシル基の保護・脱保護反応を省略しつつ、ジオール化合物を出発原料としてカルボキシル基等を有する環状カーボネートの合成を簡略に達成することを可能にする。最も驚くべきことは、一連の反応を連続的又は半連続的に行うことができ、種々の環状カーボネート誘導体の合成を複雑化することなく行うことができることである。
実施例1で得られた中間体(MTC−TEA)のH−NMRスペクトル(400MHz、アセトン−d)である。 実施例1で得られたMTC−OHのH−NMRスペクトル(400MHz、アセトン−d)である。 実施例2で得られたMTC−ClのH−NMRスペクトル(400MHz、アセトン−d)である。 実施例3で得られたMTC−THFのH−NMRスペクトル(400MHz、アセトン−d)である。 MTC−OH(比較例1)のH−NMRスペクトル(500MHz、アセトン−d)である。 実施例5で得られたMTC−MEのH−NMRスペクトルである。 参考例1で得られたP(MTC−ME)のH−NMRスペクトルである。 参考例3で培養した各ポリマー基板上におけるHUVECの接着数とその経時変化を示すグラフである。 参考例4で培養した各ポリマー基板上における培養1時間後のHT-1080の接着数を示すグラフである。 参考例4における、血小板粘着数を示すグラフである。
用語の定義
本発明において、以下の用語は、単独で現れるか又は組み合わせて現れるかにかかわらず、それぞれについて説明される内容を示すものとして使用される。
本明細書において、用語「アルキル基」は、炭素原子による骨格を有する直鎖又は分岐鎖状の炭素鎖を含む、1価の飽和炭化水素基を示す。また、用語「アルキレン基」は、直鎖状の炭素鎖からなる2価の炭化水素基を示す。用語「アルキレンオキシド鎖」は、アルキレン基の末端以外の炭素原子をエーテル結合で置換した構造を示す。「低級アルキル基」又は「低級アルキレン基」は、炭素数が1〜6の範囲である、上記アルキル又はアルキレン基を示す。
用語「アルケニル」は、炭素原子による骨格中に一つ以上の炭素−炭素二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状の炭素鎖を含む、1価の飽和炭化水素基を示す。アルケニルの炭素原子の数は特に制限されないが、炭素原子数2〜20が好ましく、炭素原子数2〜10がより好ましく、炭素原子数2〜6が最も好ましい。アルケニルの例は、エテニル(ビニル)、プロペニル、ブテニル、2−メチルプロペニル、ペンテニル、ヘキセニル等を含むが、これらに限定されない。また、用語「アルキニル」は、炭素原子による骨格中に一つ以上の炭素−炭素三重結合を有する直鎖又は分岐鎖状の炭素鎖を含む、1価の飽和炭化水素基を示す。アルキニルの炭素原子の数は特に制限されないが、炭素原子数2〜20が好ましく、炭素原子数2〜10がより好ましく、炭素原子数2〜6が最も好ましい。アルキニルの例は、エチニル、プロピニル、ブチニル、2−メチルプロピニル、ペンチニル、ヘキシニル等を含むが、これらに限定されない。
本明細書において、用語「アルコキシ」は、上記のアルキル基が酸素原子に結合した構造で、酸素原子で他の分子構造に結合している、1価の飽和炭化水素基を示す。アルコキシの炭素原子の数は特に制限されないが、炭素原子数1〜20が好ましく、炭素原子数1〜10がより好ましく、炭素原子数1〜6が最も好ましい。アルコキシの例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ等を含むが、これらに限定されない。
用語「脂環式アルキル」とは、炭素による骨格が環を形成する、1価の脂肪族環状炭化水素基を示す。脂環式アルキルは、環を形成する炭素原子の数により表現され、例えば「C3−8脂環式アルキル」というときは、環を形成する炭素原子の数が3〜8個であることを示す。脂環式アルキルの例は、シクロプロピル(C)、シクロブチル(C)、シクロペンチル(C)、シクロヘキシル(C11)、シクロヘプチル(C13)、シクロオクチル(C15)等を含むが、これらに限定されない。
用語「鎖状エーテル」又は「アルキレンオキシド」は、互換的に使用することができ、前記アルキル基中の末端以外の一つの−CH−部分がエーテル結合(−O−)で置き換えられた構造を示す。また、用語「環状エーテル」は、前記脂環式アルキルの一つの−CH−部分が、エーテル結合で置き換えられた構造を示す。
用語「アリール基」とは、1個の環又は2個若しくは3個の縮合した環を含む芳香族置換基を示す。アリール基は6〜18個の炭素原子を含むものが好ましく、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、フルオレニルおよびインダニルが挙げられる。
本発明は、カルボキシル基を有するジオール化合物に対して、当該カルボキシル基を有機塩基により保護しつつ、有機溶媒の存在下でジオール化合物のジオール部に環化反応のための炭酸源を作用させることで、有機塩基により保護されたカルボキシル基を有する環状カーボネートが生じることに基づくものである。また、当該方法により合成された環状カーボネートに対して酸処理等を行うことにより、カルボキシル基を保護する有機塩基を容易に脱離してカルボン酸が生じる等、上記反応は各種の反応性官能基が導入されたカルボキシル基を有する環状カーボネートの合成に用いることが可能である。
各種検討の結果より、カルボキシル基を有するジオール化合物が上記反応を生じる機序は以下のようであると考えられる。つまり、ジオール化合物のカルボキシル基から生じるプロトンを補足するための有機塩基を介在させることで、ジオール化合物と有機塩基との錯体が形成され、ジオール化合物のカルボキシル基が当該有機塩基により保護される。この際に、当該有機塩基として陽イオンを生じる物質を使用した場合には、当該錯体が有機溶媒に対する溶解度を示し、また当該有機塩基として陰イオン交換樹脂等を使用した場合には、陰イオン交換樹脂の表面に当該錯体が生成するなどにより、錯体の一部であるジオール化合物が有機溶媒中に安定して存在可能となる。
上記により有機溶媒中に安定して存在するジオール化合物に対し、ジオール部位を環化するための炭酸源「−(C=O)−」を適用することで、カルボキシル基部分に影響を与えることなくジオール部位が環化されるものと考えられる。 本発明によれば、適宜の有機塩基によってジオール化合物のカルボキシル基を保護した状態でジオール部位の環化を行うため、以下に説明するように、環化反応に使用する炭酸源の構造についての選択の幅が広く、使用するジオール化合物等に応じて適宜の炭素源を使用することが可能となる。一方、カルボキシル基を保護する保護基として特に有機塩基を用いることで、ジオール化合物の有機溶媒に対する溶解度を高められると共に、環化反応後の脱保護を容易に行うことが可能となって、その後の環化反応とカルボキシル基の脱保護を効率的に行うことができる。また、環化反応に炭酸源として使用する化合物とは独立にカルボキシル基を保護する保護基を適宜選択可能となるため、合成される環状カーボネートにおけるカルボニル基に導入される官能基の構造等に応じた保護基を使用することが可能になる。
上記環状カーボネートを生成するための炭酸源として利用される化合物は、ジオール化合物のジオール部位と反応して環化するものであれば特に限定されない。例えば、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)を使用する他に、以下の式(I)により示される化合物を用いることも可能である。
−(C=O)−R (I)
式(I)の化合物において、R及びRは、適宜の条件でカルボニル炭素から遊離可能なものであればよく、フッ素、塩素、臭素を含むハロゲン原子であるか、イミダゾリウム基であるか、−ORであり、ここでRは炭素数6以下のアルキル基若しくはそれらのハロゲン置換体であるか、ベンゼンやナフタレン等のアリール基、又は1個以上の置換基により置換されたアリール基(ここで、置換基には例えばフッ素、塩素、臭素を含むハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキル基、ハロアルキル基が挙げられる)等が例示される。また、RとRの構造は同じでも異なっていてもよい。また、R,Rはカーボネートの生成の際に遊離するため、遊離後のR,Rが一連の反応系において望まない影響を示さないものとすることが好ましい。
すなわち、式(I)で表される化合物の例としては、非限定的に、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジブチル等の脂肪族炭酸ジエステル、炭酸ジフェニル、炭酸ジナフチル等の芳香族炭酸ジエステル、炭酸メチルフェニル等の混合炭酸ジエステル、ホスゲン、トリホスゲン(炭酸ビス(トリクロロメチル))、カルボニルジイミダゾール(CDI)等が挙げられる。炭酸ジメチル、炭酸ジフェニル又はトリホスゲンが、入手又は取扱いの容易さ、安全性等の面で好ましい。
式(I)で表される化合物において、適宜のR,Rを選択することにより、カルボニル炭素との結合強度等が変化し、特にカルボニル炭素からR,Rが遊離する温度等を変化することが可能である。R,Rの選択によりカルボニル炭素が遊離しやすい化合物を使用する場合には、比較的低温においてジオール化合物の環化反応を行うことが好ましい。また、カルボニル炭素と強固な結合を形成するR,Rを選択する場合には、加熱環境下で環化反応を行う他、適宜の触媒などを使用してカルボニル炭素の遊離を促進することも好ましい。
また、R,Rとして比較的分子量の大きい炭化水素基を選択することで、ジオール化合物の環化反応の反応場として使用する有機溶媒中への溶解度が向上し、高い密度での環状カーボネートの合成が可能になる点で好ましい。
本発明においてジオール化合物の環化反応における炭素源として使用される化合物の量は、使用されるジオール化合物と等モル量以上が好ましく、より好ましくはジオール1分子に対して等モル以上2モル以下のカルボニル単位が作用する量である。
本発明においては、ジオール化合物のジオール部位をカルボニル炭素により環化する環化反応の反応場として、典型的には有機溶媒が選択されるが、当該環化反応を良好に進行させるためには、特に非プロトン性有機溶媒が好ましく使用される。
本発明においては、炭酸源である化合物とジオール化合物との間で環化反応を生じる限りにおいて、有機塩基、有機溶媒等との混合の手順などは特に限定されるものでないが、
本発明の好ましい実施形態では、有機塩基等の介在によって有機溶媒に溶解させたジオール化合物に対して炭酸源である化合物を作用させることで、ジオール部位の環化反応を行うことが好ましい。
したがって、1つの好ましい実施形態において、本発明の環状カーボネートの製造方法は、カルボキシル基を有するジオール化合物を、有機塩基の存在下で、有機溶媒に溶解する第一の工程と、有機溶媒に溶解した前記ジオール化合物と炭酸源である化合物を反応させる第二の工程とを含む形態が挙げられる。
本発明の一つの実施形態において、前記カルボキシル基を有するジオール化合物は、式(II)により表すことができる。

式中、Rは、合成される環状カーボネートの重合により得られるポリカーボネートの側鎖の有無やその構成を決定する部分であり、当該ポリカーボネートにおいて期待される特性に応じてRが適宜決定される。つまり、ポリカーボネートにおける該当箇所に側鎖を設けない場合は、Rは水素原子とされ、側鎖を設ける場合には、当該側鎖に応じた官能基等がRとして導入される。また、特に以下で説明する生体親和性のポリカーボネートを得るための環状カーボネートである場合には、Rは水素原子又は低級アルキル基であり、低級アルキル基としては特にC1−3アルキル基が好ましく、メチルであることが最も好ましい。
式(II)におけるm及びm’は、合成される環状カーボネートの環状部の員数を決定する部分であり、環化反応の容易さや、合成される環状カーボネートの安定性の観点から、m及びm’の和が1〜7程度以下であることが好ましい。また、環状カーボネートの生成を選択的に行うことを可能とするため、その和が1〜3の範囲であることが好ましい。この範囲において、m及びm’は、互いに独立して、0〜5の整数であってよいが、m,m’間の差が大きい場合には環化反応が困難になる傾向があり、環化反応の容易さの点からはm,m’間の差が2以下であり、特にm及びm’が同じ値であることが好ましい。環状カーボネートの生成の点からは、m及びm’が 共に1であることが最も好ましい。
本発明において有機塩基の語は、プロトン受容体として作用する有機化合物を意味し、プロトン受容部位として、例えば、窒素又はリンのような原子を有する化合物及びイオン交換樹脂等を含むものとする。このような有機塩基は、カルボキシル基を有するジオール化合物に対し、当該カルボキシル基からプロトンを引き抜くことによりイオン性の結合による錯体を形成し、ジオール化合物の有機溶媒中への溶解度を高めると共に、ジオール部位の環化反応の際にカルボキシル基を保護する機能が期待される。このため、本発明において用いられる有機塩基は、カルボキシル基から生じるプロトンを捕捉することができるものであれば特に限定されないが、有機溶媒中への溶解度を高める点からはアルキル置換基を有する有機塩基が好ましく使用される。また、カルボン酸との錯体(塩)を形成後にも塩基性が残るような強い有機塩基を用いた場合には環化したモノマーの重合を促進する傾向があるため、目的とする環状カーボネートの構造等に応じて有機塩基を選択して用いることが望ましい。
また、カルボキシル基を有するジオール化合物に反応試薬を作用させる際には、カルボキシル基部分とジオール部位との反応の競争を考慮する必要があるが、一般に有機塩基はジオール部位との反応を生じ難いため、カルボキシル基の保護に適している。この点において、トリエチルアミン等の三級アミン等においては窒素上の水素が存在せず、ジオール部位の環化反応に関与する可能性が特に低い点で好ましく用いられる。また、ジオール化合物との錯体形成後の余剰分の有機塩基を減圧乾燥で除去可能な点でも、トリエチルアミンが好ましく用いられる。
本発明において用いられる有機塩基の例としては、非限定的に、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン等の第三級アルキルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、メチルモルホリン等の環状アミン、ピリジン、イミダゾール等の芳香族アミン、アミジン、グアニジンのような含窒素化合物、フォスファゼン等のリン原子を含む化合物、オキソニウム、イミダゾリウム、アンモニウム、スルホニウム、ホスフォニウム等のオニウムイオンの水酸化物、陰イオン交換樹脂等が挙げられる。好ましくは、トリエチルアミン等の三級アミンである。また、本発明において用いられる有機塩基には、炭酸源である式(I)の化合物から脱離した基R及びRをトラップする作用が期待される。
オニウム水酸化物(オニウムヒドロキシド)は、オニウムカチオンと水酸化物アニオンとからなる物質である。オニウム水酸化物として、1,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヒドロキシド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヒドロキシド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヒドロキシド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヒドロキシド、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムヒドロキシド、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムヒドロキシド、1,3−ジアリルイミダゾリウムヒドロキシド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド等のイミダゾリウムの水酸化物;
2−エチル−1,3,5−トリメチルピラゾリウムヒドロキシド、2−プロピル−1,3,5−トリメチルピラゾリウムヒドロキシド、2−ブチル−1,3,5−トリメチルピラゾリウムヒドロキシド、2−ヘキシル−1,3,5−トリメチルピラゾリウムヒドロキシド等のピラゾリウムの水酸化物;
1−エチルピリジニウムヒドロキシド、1−ブチルピリジニウムヒドロキシド、1−ヘキシルピリジニウムヒドロキシド、1−オクチルピリジニウムヒドロキシド、1−エチル−3−メチルピリジニウムヒドロキシド、1−エチル−3−ヒドロキシメチルピリジニウムヒドロキシド、1−ブチル−3−メチルピリジニウムヒドロキシド、1−ブチル−4−メチルピリジニウムヒドロキシド、1−オクチル−4−メチルピリジニウムヒドロキシド、1−ブチル−3,4−ジメチルピリジニウムヒドロキシド、1−ブチル−3,5−ジメチルピリジニウムヒドロキシド等のピリジニウムの水酸化物;
1−プロピル−1−メチルピロリジニウムヒドロキシド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムヒドロキシド、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウムヒドロキシド、1−オクチル−1−メチルピロリジニウムヒドロキシド、1−ブチル−1−プロピルピロリジニウムヒドロキシド等のピロリジニウムの水酸化物;
1−プロピル−1−メチルピペリジニウムヒドロキシド、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムヒドロキシド、1−(2−メトキシエチル)−1−メチルピペリジニウムヒドロキシド等のピペリジニウムの水酸化物;
4−プロピル−4−メチルモルホリニウムヒドロキシド、4−(2−メトキシエチル)−4−メチルモルホリニウムヒドロキシド等のモルホリニウムの水酸化物;
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラヘプチルアンモニウムヒドロキシド、テトラヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラオクチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、プロピルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ジエチル−2−メトキシエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリオクチルアンモニウムヒドロキシド、シクロヘキシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、ジメチルジステアリルアンモニウムヒドロキシド、ジアリルジメチルアンモニウムヒドロキシド、2−メトキシエトキシメチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウムヒドロキシド、N−メトキシトリメチルアンモニウムヒドロキシド、N−エトキシトリメチルアンモニウムヒドロキシド、N−プロポキシトリメチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウムの水酸化物;
トリヘキシルテトラデシルホスホニウムヒドロキシド等のホスホニウムの水酸化物;
トリメチルスルホニウムヒドロキシド等のスルホニウムの水酸化物;
グアニジニウムヒドロキシド、2−エチル−1,1,3,3−テトラメチルグアニジニウムヒドロキシド等のグアニジニウムの水酸化物;
2−エチル−1,1,3,3−テトラメチルイソウロニウムヒドロキシド等のイソウロニウムの水酸化物;及び
2−エチル−1,1,3,3−テトラメチルイソチオウロニウムヒドロキシド等のイソチオウロニウムの水酸化物を挙げることができる。
有機塩基とジオール化合物との混合操作は、錯体形成の反応が円滑に進展するものであればよく、使用する有機塩基、ジオール化合物の種類等に応じて適宜決定される。本発明において典型的に使用される有機塩基の量は、投入されるジオール化合物のカルボキシル基に対する当量以上とすることが好ましく、特に安定してカルボキシル基を保護するために2〜5倍当量の有機塩基を用いることが好ましい。有機塩基とジオール化合物との錯体形成は、適宜の有機溶媒中で両者を混合すれば良く、有機溶媒に対する溶解度が小さいジオール化合物を用いる場合には、適宜の方法で有機溶媒中に分散させたジオール化合物に対して有機塩基を作用させることが好ましい。有機塩基とジオール化合物との錯体形成は、有機溶媒中に分散相として存在するジオール化合物が、有機塩基の存在により有機溶媒中に溶解して均一な溶液を形成する等、適宜の手段により確認される。
有機塩基とジオール化合物との混合は、室温等の適宜の温度環境下で行うことが可能であるが、各種の副次反応の防止等の点からは、冷却環境下で行うことも好ましい。また、錯体形成後に存在する過剰量の有機塩基が、その後のジオール化合物の環化反応に望ましくない影響を及ぼさない場合には、有機塩基とジオール化合物とを混合して錯体を生じた有機溶媒中において、更にジオール化合物の環化反応を生じさせるための炭酸源を加えて、環状カーボネートの生成を行ってもよい。その際には、ジオール化合物の環化反応に適した有機溶媒中において、有機塩基とジオール化合物との錯体生成を行うことが好ましい。
錯体生成反応と、環化反応を同一の反応場で行う場合には、必ずしも全ての錯体生成が完了した後に環化反応を生じさせる必要はなく、例えば、別相から供給されるジオール化合物を錯体とする反応と、生成した錯体に対する環化反応とを同時に進行することもできる。
本発明においては、ジオール化合物のジオール部位をカルボニル炭素により環化する環化反応の反応場として、一般に有機溶媒が望ましいが、当該環化反応への関与を抑制して収率を高めるためには、特に非プロトン性有機溶媒が好ましく使用される。つまり、本発明において用いられる有機溶媒は、本発明の反応を阻害しないものであれば特に制限なく用いることが可能であり、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族溶媒又はアセトニトリルや酢酸エチル等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、ジクロロメタン及びテトラヒドロフランである。
本発明の方法において、ジオール化合物と式(I)の化合物の間の環化反応は、用いられる式(I)の化合物又は溶媒の種類に応じて適宜選択されるが、用いる溶媒の沸点以下の温度で、例えば100℃以下で行われ、また室温以下で行うこともできる。
本発明の一つの実施形態は、上記方法によって得られた環状カーボネートを、酸で処理し、環状カーボネートのカルボン酸を回収する工程を更に含む、上記環状カーボネートの製造方法である。前記工程において用いられる酸としては、塩酸や硫酸等の無機酸、トリフルオロ酢酸やメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機カルボン酸や有機スルホン酸、有機ホスホン酸の他、陽イオン交換樹脂や固体酸等、錯体中の塩基性化合物とカルボン酸よりも強く相互作用してカルボキシル基を再生するものであればこれらに限定されないが、好ましくは塩基性化合物と錯体を形成して沈殿状物質を形成し、分離を容易にするものが望ましい。また、その実施方法として、錯体状の環状カーボネートの溶液にこれら酸性物質を加えて沈殿状副生物を除去する方法の他、陽イオン交換樹脂や固体酸の入った管に錯体状の環状カーボネートの溶液を通す方法も用いることができる。
したがって、本発明の一つの実施形態における環状カーボネートの製造方法は、以下のようなスキームにより表される。

(式中、Rは、水素原子又は低級アルキル基であり、m及びm’は、互いに独立して、0〜5の整数であり、ただし、その少なくとも一方は0ではなく、また、m及びm’の和は、7以下である)
本発明のさらなる一つの実施形態は、上記方法で得られた環状カーボネートのカルボン酸誘導体にハロゲン化剤(例えば、PX、PX、SOX又はNCX)を反応させて、環状カーボネートのカルボン酸ハロゲン化物を生成する工程をさらに含む、上記環状カーボネートの製造方法である。好ましくは、ハロゲン化剤は、塩化チオニル、五塩化リン、塩化オキサリル、三臭化リン及びフッ化シアヌルから選択され、最も好ましくは、塩化チオニルである。ハロゲン化剤として好ましく用いられる塩化チオニルの量は、例えば、1当量以上5当量以下である。
本発明の別の一つの実施形態は、上記方法により得られた環状カーボネートのカルボン酸ハロゲン化物に、基Rで示される、少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分を含むアルコール又はアミンを反応させて、環状カーボネートのカルボン酸誘導体を合成する工程をさらに含む、環状カーボネートの製造方法である。
上記少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分は、鎖状エーテル、環状エーテル又はアセタール構造を少なくとも1つ有する構造であることが好ましく、当該構造部分によって、本発明の方法によって得られる環状カーボネートをポリカーボネート材料としたときに、ポリカーボネートに付与される物性を任意に設計することができる。具体的な1つの実施形態として、当該構造部分は、下記式(III)で示すことができる。

式(III)中、繰り返し数(l)は、1〜30の整数であり、Uは、水素原子又は炭素数5以下の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基である。式(III)で示される繰り返しは鎖状エーテルに相当し、繰り返し数(l)が大きい場合には側鎖の水への溶解度が高くなる傾向が見られる。このため、式(III)で示される構造によりポリカーボネート材料に与えられる水溶性等所望の物性にも依存するが、典型的にはlは20以下であり、また10以下とされることが好ましく、さらには、lは5以下、例えば1、2、3程度としてもよい。また、式(III)で示される繰り返しはエチレングリコール(−C−O−)に対応するものであるが、本発明ではこれに限定されず、ポリマーの耐水溶性を向上する点でプロピレングリコール(−C−O−)に対応する構造や、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体を用いることも可能である。
鎖状エーテルの末端である構造Uにおいては、アルキル基の炭素数が大きいものを用いることでポリカーボネート材料としたときの耐水溶性が向上する一方で、炭素数が減少することで含有される中間水が増加する傾向にあり、典型的にはUとしてメチル(炭素数1)が好ましい。また、Uは、環員数3〜7の環状エーテル基であってもよい。この場合において、分子の安定性の面から、環員数は4〜7であることが好ましい。
また、他の具体的な実施形態においては、上記少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分Rは、下記式(IV)で示される構造であることもできる。

式(IV)中、M’は、水素原子、炭素数3以下の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、好ましくは、メチルである。E及びE’は、互いに独立して、直接結合、−O−又は−CH−であり、ただし、少なくとも一方は−O−である。Q’及びQ”は、互いに独立して、水素原子、炭素数6以下の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル、アルケニル若しくはアルキニル、C3−8脂環式アルキル又はベンジルを表すか、あるいはQ’及びQ”は、一緒になって炭素数2〜5のアルキレン基を形成するが、ポリカーボネート材料としたときに含有可能な中間水の割合を好ましい程度に保つため、好ましくは水素原子又は炭素数6以下のアルキルであり、最も好ましくは、Q及びQ’は、共に水素原子又はメチルである。k及びk’は、互いに独立して、0〜2の整数であるが、原料の入手容易性等から、k=1、k’=0である場合が好ましい。
本発明の一つの実施形態において、上記方法は、環化反応を行う反応容器、イオン交換樹脂を詰めたイオン交換塔及びハロゲン化からエステル化又はアミド化を行う反応容器を連結させて、中間体を単離、精製しない連続した工程で行うこともできる。また、単一の反応容器でワンポット合成方法により行うことができる。
6員環構造を有する、本発明の1つの実施形態における環状カーボネートの製造方法は、以下に示すスキーム4により表すことができる。本実施形態の方法により、環状カーボネートの誘導体(MTC−XR)を効率的に得ることができる。MTC−XRは、環状カーボネート部分に(−(C=O)X−)をリンカー部分(L)として基Rを結合した構造を有し、開環重合によりポリカーボネートとすることができ、Rの性質に応じたスマートバイオマテリアルの原料として有用である。
本実施形態では、リンカー部分Lがエステル結合、すなわちXがOであるような化合物MTC−XRを製造するために、第一の工程として、ジオール構造を有するカルボン酸、例えば2,2−ビス(メチロール)プロピオン酸に対して、塩基性有機化合物と1:1の錯体を形成させて有機溶媒に可溶化させ、第二の工程として、例えばトリホスゲンのような炭酸源と作用させて環状カーボネート化させ、第三の工程として、酸性物質によって錯体部位の塩基性化合物を取り除いてカルボキシル基を再生した後、第四の工程のように、基Rで示す構造部分等を有するアルコールとエステル化させることで得る方法である。エステル化は、第三の工程で得られたカルボン酸をハロゲン化剤(例えば、PX’、PX’、SOX’又はNCX’なお、X’はハロゲン原子)と反応させてアシルハロゲン化物を得ることを含む。
第一の工程で得られる錯体は単離されなくてもよく、塩基性有機化合物を過剰に用いて、第二の工程の環状カーボネート化で用いる炭酸源の脱離成分を捕捉させることもできる。この場合、第一及び第二の工程は、連続した1工程とすることができる。さらに、錯体状の環状カーボネートに対して第四の工程を行って、基Rで示す構造部分等を有するアルコールとエステル化させることもできる。
また、上記MTC−TEAから出発して、少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分を含むアミン、又はチオールを反応させることにより、アミド(−C(=O)NH−)又はチオエステル(−C(=O)S−)をリンカーとするMTC−XRが合成される。その際に用いられる反応条件は、当業者に公知である。
本発明の方法により得られる中間体化合物もまた、本発明の目的である。すなわち、本発明における一つの実施形態は、下記式(V):

(式中、Rは、水素原子又は低級アルキル基であり、m及びm’は、互いに独立して、0〜5の整数であり、ただし、m及びm’の少なくとも一方は0ではなく、また、m及びm’の和は、7以下である)で表される化合物又は錯体である。
本発明の方法によりカーボネートに導入される、基Rで示す構造部分は、上述した少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分であることが好ましく、このような実施形態の方法で合成されるMTC-XRとしては、エステル結合(−C(=O)O−)で環状カーボネート部分と少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分とが連結された化合物を得ることができる。すなわち、本発明の方法によって得られる好ましい一群の化合物は、下記式(VI):

(式中、
m、m’、Rは、上記定義のとおりであり、
lは、0〜30の整数であり、ここで、
lが0でないとき、Uは、低級アルキル又は環員数3〜7までの環状エーテル基であり、
lが0のとき、Uは、下記:

(式中、M’は、水素原子、炭素数3以下の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、E及びE’は、互いに独立して、直接結合、−O−又は−CH−であり、ただし、少なくとも一方は−O−であり、Q’及びQ”は、互いに独立して、水素原子、炭素数6以下の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル、アルケニル若しくはアルキニル、C3−8脂環式アルキル又はベンジルを表すか、あるいはQ’及びQ”は、一緒になって炭素数2〜5のアルキレン基を形成し、k及びk’は、互いに独立して、0〜2の整数である)で表される基である)で表すことができる。
さらに具体的な本発明の一つの実施形態において、本発明の方法によって得られる化合物は、下記式(VII):

(式中、m、m’、R、M’、E及びE’、Q’及びQ”ならびにk及びk’は、上記定義のとおりである)で表される化合物である。
具体的な式(VI)の化合物の例としては、非限定的に、以下のような化合物:
5−メチル−5−(2−テトラヒドロフラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン、
5−メチル−5−(3−テトラヒドロフラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン、
5−メチル−5−(3−テトラヒドロピラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン
4−メチル−4−(2−テトラヒドロフラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン、
4−メチル−4−(3−テトラヒドロフラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン、及び
4−メチル−4−(3−テトラヒドロピラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン、
等を挙げることができる。
本発明の方法により得られた環状カーボネートを開環重合することにより、種々のポリカーボネートを製造することができる。開環重合の方法としては、カチオン重合反応、アニオン重合反応等を用いることができる。カチオン重合反応は、三フッ化ホウ素エーテル錯体、四塩化チタン、塩化アルミニウム等のルイス酸、塩酸、メタンスルホン酸等のプロトン酸、ヨウ化メチル等のアルキルカチオン発生剤を開始剤として用いることができる。アニオン開環重合は、アルカリ金属、金属ヒドリド、金属アルコキシド、有機金属化合物等を用いて行うことができる。また、開環重合の反応は、モノマーである環状カーボネートを溶解する溶媒に溶解させて溶液相で行うことができるが、懸濁液の状態で重合反応を行ってもよく、さらにはバルク重合又は固体状のモノマーを溶融させた状態で重合させることもできる。分子量分布の小さい均一なポリマーを得るためには溶液相で重合することが好ましい。溶液重合を行う際の溶媒としては、モノマーを溶解することができ、溶媒自体が重合等の反応を起こさないような溶媒であれば特に制限されない。
例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン又はトルエン等の溶媒中、1−ピレンブタノール、ラウリルアルコール、デカノール又はステアリルアルコール等の重合開始剤、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)又はトリエチレンジアミン(DABCO)等の環状アミン重合開始剤の存在下で、場合により二官能基化チオウレア、例えば1−(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)−3−シクロヘキシル−2−チオウレア等の有機分子触媒を用いて、窒素雰囲気下、室温で反応させることにより行われる。
カーボネート結合を繰り返し単位とする主鎖に、少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分を有するポリカーボネートは、主鎖のポリカーボネートに由来する生分解性と、側鎖の少なくとも一つのエーテル基を有する構造に由来する血液適合性及び生体適合性等の特性を有するポリマーであり、医療用材料として用いたときに、優れた生体親和性を発揮する。したがって、本発明の方法を含む上記方法により得られるこのようなポリカーボネートを、本明細書では「生体親和性ポリカーボネート」と称し、その典型的な構造や用途について以下に具体的に説明する。
なお、このような生体親和性ポリカーボネートポリマーにおいて、用語「平均重合度」は、1個のポリマー分子中に含まれるモノマー単位の平均数をいう。すなわち、ポリマー組成物中には、異なる長さのポリマー分子がある程度の範囲で分散して存在している。
ポリマーの重合度に関して「数平均分子量」とは、ポリマー組成物中の分子1個あたりの分子量の平均をいい、「重量平均分子量」とは、重量に重みをつけて計算した分子量をいう。また、数平均分子量と重量平均分子量の比を分散度といい、ポリマー組成物の分子量分布の尺度となる。分散度が1に近いほど、ポリマー組成物中の平均重合度が近くなり、同じ程度の長さのポリマー鎖を多く含むことになる。
また、本明細書において、用語「生体親和性材料」とは、中間水を含有可能であることにより、生体物質と接触した際に異物として認識されにくい材料をいう。生体親和性材料には、例えば補体活性、血栓活性、組織侵襲性等の生体に対する活性を有しない材料であれば、特定のタンパク質吸着や細胞粘着を誘導し、あるいは誘導しないような活性を示す材料を含む。本発明において用語「血液適合性材料」とは、主に血小板の付着や活性化に起因する血液凝固を惹起しない材料をいう。ここでいう「中間水」とは、材料の近傍に弱い相互作用により位置する水分子を意味する。これまでに、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)、ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の生体親和性材料が知られており、これらは生体を構成する物質とは全く異なる構造を有するにもかかわらず高い生体親和性を示すことが分かっている。その理由は必ずしも明らかではないが、最近の研究により、これらのポリマーには、生体物質において観察される「中間水」と呼ばれる状態の水分子が含有可能であることが明らかにされている(例えば、Tanaka, M. et al., J.Biomat. Sci. Polym. Ed.., 2010, 21, 1849-1863参照)。つまり、上記文献にも記載されるように、生体由来物質であるか人工的な合成物であるかによらず、生体親和性を示す物質は「中間水」を含有可能であり、この中間水と呼ばれる状態の水分子が物質の表面に存在することにより生体組織中のタンパク質の非特異的吸着が防止され、その結果として生体親和性を発現することが実験的に明らかにされてきている。そして、所定の物質が中間水を含有するためには、必ずしもPEGのように物質全体が中間水の含有に適した構造を有する必要はなく、アルキル鎖等を主鎖として「中間水」の含有に適した構造を側鎖として設けることによっても、「中間水」を含有可能であることが明らかになっている。
一方、加水分解、酵素分解、微生物分解等の作用により化学的に分解することが可能な「生分解性ポリマー」の存在が知られている。生分解性ポリマーの例としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等のポリエステルやポリカーボネート等のような化学合成ポリマー、ポリペプチド、多糖類、セルロース等のような生体由来のポリマー、及びこれらの組み合わせによるポリマーが挙げられる。
本発明の方法を含む上記方法により得られる、生体親和性ポリカーボネートは、典型的には以下のような式で表すことができる。

(式中、
Xは、O、NH,又はSであり;
は、上述した少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分であり;
m及びm’は、互いに独立して、0〜5の整数であり、また、m及びm’の和は、7以下であり;
これらの各々は、各繰り返し単位において異なっていてもよく、
nは、重合度を表し、好ましくは2〜2000の範囲である)。
mとm’の値は、モノマーの原料化合物の選択によって決定されるが、モノマーの調製の点から、mとm’の和が、1〜4の範囲にあることが好ましく、mとm’が、共に1であることが最も好ましい。
上記式(VIII)において少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分Rは、ポリエチレングリコール等の鎖状エーテル、環状エーテル又はアセタール構造を少なくとも一つ、すなわち少なくとも一つエーテル基を有するような分子鎖であれば特に制限されない。構造部分Rが、少なくとも一つのエーテル基(−O−)を有していることにより、例えばポリエチレングリコールに見られるような高い分子運動性を示すことが可能であって、このような構造を側鎖中に有することでポリマーとして中間水を含有可能になると考えられる。そして、構造部分Rに含まれるエーテル基の数、構造部分R自体の嵩高さ等を調節することにより、得られるポリマーが含有可能な中間水の量が調節されて抗血栓性の程度を調節することができる。
上記生体親和性ポリカーボネートの製造方法は、本発明の方法により得られた環状カーボネートを開環重合に限定されず、ポリカーボネートポリマーを最初に合成し、その主鎖の所定の炭素原子に対して所定のエーテル基を含む構造を導入することで生体親和性ポリカーボネートを製造してもよい。この生体親和性ポリカーボネート組成物において、主鎖ポリマーの繰り返し単位全てにわたってエーテル基を含む構造が側鎖として結合している必要は必ずしもないが、合成の簡便さや、ポリマーの特性を予測しやすくする観点からは、エーテル基を含む構造が導入された単一種のモノマーを重合してポリマーとすることも好ましい。
上記生体親和性ポリカーボネートには、必要に応じて、例えば、ラジカル捕捉剤、過酸化物分解剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤を添加して、生体親和性ポリカーボネート組成物として使用することができる。さらに、生体親和性ポリカーボネート組成物は、適宜の有機溶媒に溶解させて単独で使用することもできるし、使用の目的に応じて他の高分子化合物と混合して使用する等、各種のポリマー組成物として使用することができる。その場合には、使用の用途に応じて適宜の混合割合で使用することができる。特に、前記生体親和性ポリカーボネート組成物の割合を90重量%以上とすることで、生体親和性の特徴を強く有する組成物とすることができる。その他、用途によっては、前記生体親和性ポリカーボネート組成物の割合を50〜70重量%とすることで、生体親和性の特徴を活かしつつ、各種の特性を併せ持つ組成物とすることができる。
また、生体親和性ポリカーボネート組成物は、生体内組織や血液と接して使用される医療用機器の表面の少なくとも一部分に適用して、生体親和性ポリカーボネートを含む医療用機器とすることができる。つまり、医療用機器を成す基材の表面に対して、表面処理剤として用いることができるほか、医療用機器の少なくとも一部の部材を構成する材料として用いることができる。ここで、「医療用機器」とは、人工器官等の体内埋め込み型デバイス及びカテーテル等の一時的に生体組織と接触することがあるデバイスを含み、生体内で取り扱われるものに限定されない。また、医療用機器は、生体親和性ポリカーボネートを少なくとも表面の一部に有する医療用途に使用される機器である。本明細書でいう医療用機器の表面とは、例えば、医療用機器が使用される際に血液等が接触する医療用機器を構成する材料の表面並びに材料内の孔の表面部分等をいう。
なお、本明細書において、「生体内組織や血液に接して使用され」とは、例えば、生体内に入れられた状態、生体内組織が露出した状態で当該組織や血液と接して使用される形態、及び体外循環医用材料において体外に取り出した生体内成分である血液と接して使用される形態等を当然に含むものとする。また、「医療用途に使用され」とは、上記「生体内組織や血液に接して使用され」、又は、それを予定して使用されることを含むものである。
生体親和性ポリカーボネート組成物を医療用機器に適用するにあたっては、医療用機器を構成する部材の材質や形状は特に制限されることなく、例えば、多孔質体、繊維、不織布、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸や粉末等いずれでも良い。その材質としては木錦、麻等の天然高分子、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等の合成高分子あるいはこれらの混合物が挙げられる。また、金属、セラミクス及びそれらの複合材料等が例示でき、複数の基材より構成されていても構わない。
生体親和性ポリカーボネート組成物は、生体内組織や血液と接して使用される医療用機器に用いることができ、体内埋め込み型の人工器官や治療器具、体外循環型の人工臓器類、さらにカテーテル類(血管造影用カテーテル、ガイドワイヤー、PTCA用カテーテル等の循環器用カテーテル、胃管カテーテル、胃腸カテーテル、食道チューブ等の消化器用カテーテル、チューブ、尿道カテーテル、尿菅カテーテル等の泌尿器科用カテーテル)等の医療用機器の血液と接する表面の少なくとも一部、好ましくは血液と接する表面のほぼ全部に用いられることが望ましい。
さらに、生体親和性ポリカーボネート組成物は、止血剤、生体組織の粘着材、組織再生用の補修材、薬物徐放システムの担体、人工すい臓や人工肝臓等のハイブリッド人工臓器、人工血管、塞栓材、細胞工学用の足場のためのマトリックス材料等に用いることが特に好ましい。すなわち、生体内の所望の場所に存在する一定の期間は、抗血栓性等の血液適合性を発揮して血液凝固などの好ましくない生体反応を防止しつつ、適度な細胞接着性を有することから、生体内に存在する種々の細胞等の接着により様々な用途に使用することができる。そして、生分解性を有することから生体内で必要な期間経過後は酵素などにより分解されて接着した生細胞と置き換わることも可能であると考えられる。
例えば、生体内の人工血管に用いた場合は、血管内皮細胞が接着して自己の組織が再生するまでその足場として機能し、一定期間経過後は生体内で分解されるので再手術により取り出す必要がない。また、抗血栓性と癌細胞の接着性を利用して血液中を循環している転移性の高い癌細胞の吸着及び補足剤としても利用することができる。癌細胞の表面抗原に結合する抗体を用いた従来の特異的な吸着法に比べて、生体親和性ポリカーボネートを用いる場合はより広範囲の癌細胞を吸着できる可能性がある。さらに生体内の環境により近い状態で癌細胞を培養することができるため、抗癌剤のスクリーニングに用いる培養基材としても利用でき、抗癌剤の開発促進が期待される。生体親和性ポリカーボネートが生分解性を有する点は、生体内で癌細胞を吸着する用途においても有利な効果を示す。例えば、生体内で吸着された癌細胞が一定の大きさに達すると自然免疫システムによって認識されるが、免疫細胞に捕食されたときにポリマー自体が分解されやすいことは生体内の免疫システムにとって有利である。したがって、血液適合性と細胞接着性を併せ持つ生体親和性ポリカーボネートは、癌の診断や治療デバイスとして新たな用途に使用できると考えられる。
一方、生体内には様々な細胞が存在するところ、未分化な幹細胞を吸着することができれば、事故や病気で損傷を受けた組織の修復、補修材として用いた場合に、生体内に存在するこれらの幹細胞を損傷部位に濃縮することができ、組織の再生に極めて有利であろう。
生体親和性ポリカーボネート組成物を医療用機器等の表面に保持させる方法としては、コーティング法、放射線、電子線及び紫外線によるグラフト重合、基材の官能基との化学反応を利用して導入する方法等の公知の方法が挙げられる。この中でも特にコーティング法は製造操作が容易であるため、実用上好ましい。さらにコーティング方法についても、塗布法、スプレー法、ディップ法等があるが、特に制限なくいずれも適用できる。その膜厚は、好ましくは、0.1μm〜1mmである。例えば、前記生体親和性ポリカーボネート組成物の塗布法によるコーティング処理は、適当な溶媒に前記生体親和性ポリカーボネート組成物を溶解したコーティング溶液に、コーティングを行う部材を浸漬した後、余分な溶液を除き、ついで風乾させる等の簡単な操作で実施できる。また、コーティングを行う部材に前記生体親和性ポリカーボネート組成物をより強固に固定化させるために、コーティング後に熱を加え、生体親和性ポリカーボネート組成物との接着性を更に高めることもできる。また、表面を架橋することで固定化しても良い。架橋する方法として、コモノマー成分として架橋性モノマーを導入しても良い。また、電子線、γ線、光照射によって架橋しても良い。
架橋性モノマーとしては、メチレンビスアクリルアミド、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリアリルイソシアネート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のビニル基又はアリル基を1分子中に複数個有する化合物のほかに、ポリエチレングリコールジアクリレートがあげられる。このうち、ポリエチレングリコールジアクリレートを用いて、種々の官能基を導入した場合が、官能基を有する化合物の導入率が高く、更にポリエチレングリコール鎖を導入して親水性化できることにより、上記のように目的以外の細胞やタンパク質等の非特異的吸着が抑制されるので好ましい。この場合のポリエチレングリコール鎖の分子量は好ましくは100〜10000、さらに好ましくは500〜6000である。
以上のように、本発明の方法により、簡便かつ効率的に、種々のカーボネート化合物を合成することができる。また、本発明の方法を含む方法により得られた生体親和性ポリカーボネート組成物を、医療用機器の血液と接触する表面の少なくとも一部に導入すると、凝固系、補体系、血小板系の活性化等の望ましくない生体反応を抑制することが可能であり、優れた生体適合性を付与することができる。さらに一方では、生体親和性ポリカーボネート組成物は、生分解性を有するとともに、生体内においては、適度な細胞接着性を発揮して生体との親和性を有するため、生体及び環境に対する負荷を少なくすることができると考えられる。
以下、実施例及び参考例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等によって限定されるものではない。なお、以下の例で用いた薬品は、とくに断りの無い場合は市販品をそのまま用いた。
[実施例1]MTC−TEAを経由する5−カルボキシル−5−メチル−1,3−ジオキサン−2−オン(MTC−OH)の合成

環状カーボネートの出発原料であるジオール化合物として2,2−ビス(メチロール)プロピオン酸(bis−MPA;268mg、2.0mmol)を塩化メチレン(4mL)に分散させ、有機塩基であるトリエチルアミン(0.97mL、7.0mmol)を加えて攪拌することで、bis−MPAが塩化メチレン中に溶解して透明な溶液がえられた。溶液が透明になった後、その溶液をドライアイス−アセトン浴中で−75℃に冷却した。次にジオール化合物の環化反応における炭酸源としてトリホスゲン(239mg、0.8mmol)の塩化メチレン溶液(3mL)を滴下し、−75℃の冷却下にて30分、その後室温にて2時間撹拌し反応を終了させた。反応終了後、反応により生じた沈殿物をろ過にて除去した。沈殿物は、トリエチルアミン塩酸塩を主成分とするものであった。得られたろ液を減圧下で濃縮し、その後にテトラヒドロフランに再溶解させた。
なお、図1には、上記と同一の操作を経て合成され、沈殿物(トリエチルアミン塩酸塩)を除去した後の溶液に含まれる溶質について得られたH−NMRスペクトルを示す。H−NMRスペクトルから、上記操作によりMTC-TEAが生成していると同定した。
次に、テトラヒドロフランに溶解したMTC−TEAから有機塩基を分離して除去するために、その溶液にイオン交換樹脂Amberyst-15(登録商標)(550mg)を加えて室温で5時間撹拌後、溶液からイオン交換樹脂を濾別した。得られた濾液を減圧下で濃縮、乾燥して淡黄色の固体(245mg)を得た。
図2には、上記淡黄色の固体について得られたH−NMRスペクトルを示す。また、図5には、公知の方法で合成(比較例1)された5−カルボキシル−5−メチル−1,3−ジオキサン−2−オン(MTC−OH)についてのH−NMRスペクトルを示す。両スペクトルは良く一致し、上記操作により得られた淡黄色の固体は、MTC−OHであると考えられた。上記操作により得られるMTC−OHの収率は76.4%であった。
[実施例2]MTC−Clの合成

実施例1に記載の方法で合成したMTC−TEA(2.60g、10mmol)を塩化メチレン50mLに溶解させ、氷浴中で0℃以下に冷却した溶液中に、シュウ酸クロリド(1.05mL、12mmol)の塩化メチレン溶液(20mL)を15分かけて滴下した。その後、当該溶液を室温にて1時間攪拌し、ロータリーエバポレーターにて濃縮した。濃縮物にテトラヒドロフラン50mLを加え、不溶物を濾別後、濾液を濃縮して淡黄色の固体を得た(1.711g)。
図3には、上記で得られた淡黄色の固体についてのH−NMRスペクトルを示す。当該スペクトルより、上記で得られた淡黄色の固体はMTC−Clであると推察され、収率が96.1%と計算された。
[実施例3]MTC−THFの合成

実施例2に記載の操作で合成したMTC−Cl(1.403g、7.86mmol)をテトラヒドロフラン20mLに溶解させ、氷浴中で0℃以下に冷却した溶液中に、テトラヒドロフルフリルアルコール(0.725g、7.1mmol)とトリエチルアミン(1.51mL、10.8mmol)をテトラヒドロフラン(10mL)に溶解した溶液を10分かけて滴下した。その後、当該溶液を室温にて3時間攪拌し、不溶物を濾別後、ロータリーエバポレーターにて濃縮した。油状の残渣に酢酸エチル100mLを加えて、1N塩酸水溶液と蒸留水で各1回ずつ洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で濃縮、乾燥させて透明な油状物質を得た(0.6653g)。
図4には、当該油状物質についてのH−NMRスペクトルを示す。当該スペクトルより、上記で得られた油状物質はMTC−THFであると推察され、収率が34.7%と計算された。
[実施例4]MTC−THFの、MTC−TEAからの直接的合成

実施例1に記載の方法で合成したMTC−TEA(2.08g、7.95mmol)を塩化メチレン40mLに溶解させ、氷浴中で0℃以下に冷却した溶液中に、シュウ酸クロリド(0.83mL、9.54mmol)の塩化メチレン溶液(15mL)を15分かけて滴下した。その後、当該溶液を室温にて3時間攪拌した後、窒素気流下で副生した塩化水素ガスを除去した。再び、溶液を0℃以下に冷却し、テトラヒドロフルフリルアルコール(0.732g、7.17mmol)とトリエチルアミン(1.66mL、11.3mmol)をテトラヒドロフラン(10mL)に溶解した溶液を10分かけて滴下した。その後、反応溶液を室温にて3時間攪拌し、不溶物を濾別後、ロータリーエバポレーターにて濃縮した。油状の残渣に酢酸エチル100mLを加えて、1N塩酸水溶液と蒸留水で各1回ずつ洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で濃縮、乾燥させて透明な油状物質を得た(0.4867g)。当該油状物質についてH−NMRスペクトルを取得したところ、MTC−THFが生成していることが推察され、収率が25.1%と計算された。
[比較例1]従来法によるMTC−OHの合成

公知の手法、たとえば非特許文献[Pratt et al., Chem. Commun., 2008, 114-116]にならってMTC−OHを合成した。つまり、bis−MPAから58.9%の収率で得られたた5−ベンジルオキシカルボニル−5−メチル−1,3−ジオキサン−2−オン(MTC−Bn;253.4mg、1.0mmol)をテトラヒドロフランに溶解し、脱気、窒素置換後に10wt%パラジウム担持Pd/C(63mg)を加えてさらに脱気と窒素置換し、シクロヘキセン(1.0mL、10mmol)を加えて18時間攪拌した。その後、Pd/Cをろ別し、ろ液を減圧下で濃縮してMTC−OHを得た(149.5mg、収率92.2%)。
図5には、上記で得られたMTC−OHについてのH−NMRスペクトルを示す。
[実施例5]5−メチル−5−(2−メトキシエチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン(MTC−ME)の合成
テトラヒドロフルフリルアルコールに替えて、2−メトキシエタノール(150mL、1.91mol)を用いた以外は実施例3と同様の方法にて反応を行い、無色の粘性液体を得た(11.0g)。
図6には、当該粘性液体についてのH−NMRスペクトルを示す。当該スペクトルより、上記で得られた油状物質は5−メチル−5−(2−メトキシエチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン(MTC−ME)であると推察され、収率が43.8%と計算された。
[参考例1]MTC−MEの開環重合:P(MTC−ME)の調製

窒素雰囲気下グローブボックス内で、MTC−ME(0.441g、2.02mmol)を、1−ピレンブタノール(PB;5.2mg、0.019mmol)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU;6.1mg、0.040mmol)及び1−(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)−3−シクロヘキシル−2−チオウレア(TU;15.0mg、0.041mmol)の存在下、DCM(1mL)中、室温で重合した。90分間の撹拌後、H−NMRにてモノマーの消費を確認した後、停止剤として無水酢酸を数滴加え、一晩撹拌した。その後、反応溶液をジエチルエーテル:ヘキサン(1:3、40mL)中に再沈殿し、真空下で乾燥させて無色で粘性のあるポリマーを得た(0.350g)。
図7には、当該粘性のあるポリマーについてのH−NMRスペクトルを示す。当該スペクトルより、上記で得られたポリマーはMTC−MEが重合したP(MTC−ME)であると推察され、収率が79.3%と計算された。また当該ポリマーについて、GPCにより分子量を測定した結果、数平均分子量(Mn)が9556g/mol、重量平均分子量との比(Mw/Mn)が1.27であった。
[比較例2]PTMCの合成

窒素雰囲気下のグローブボックス内で、トリメチレンカーボネート(TMC:408mg、4.0mmol)を、PB(11.3mg、0.041mmol)、DBU(33.5mg、0.22mmol)、TU(75.3mg、0.20mmol)の存在下、DCM(1mL)中、室温で重合した。90分間の撹拌後、H−NMRにてモノマーの消費を確認した後、停止剤として無水酢酸を数滴加え、一晩撹拌した。その後、反応溶液をメタノール(40mL)中に再沈殿し、真空下で乾燥させて、無色で粘性のあるポリマーPTMCを得た(292.9mg、71.8%)。
当該ポリマーについて、GPCにより分子量を測定した結果、数平均分子量(Mn)が12000g/mol、重量平均分子量との比(Mw/Mn)が1.1であった。また、H−NMRスペクトル(500MHz、CDCl)を測定したところ、δ;4.25(t, 4H, CH2CH2CH2), 2.05(quin, 2H, CH2CH2CH2)のピークが観察された。
[参考例2]
メタノールで前洗浄したPET基板(直径14mm、厚さ125μm)に1.0、0.5、0.2、0.1w/v%の各濃度に調整したP(MTC−ME)のアセトン溶液、及びPTMCのテトラヒドロフラン(THF)溶液(40μL)をスピンコートにて塗布した(スピン条件:500rpm 5s、2000rpm 10s、SLOPE 5s、4000rpm 5s、SLOPE 4s、25℃)。1度目のスピンコートの10分後に2度目の塗布を行った。24時間の真空乾燥後、各ポリマーコート基板の中心部、左端、右端の3点についてそれぞれ水に対する接触角をθ/2法を用いて測定した。1点の測定につき2μLの水滴を使用した。
その結果を表1に示す。参考例1で合成したP(MTC−ME)の接触角は、比較例2で合成したPTMCに比べて小さな値を示し、ポリマーの表面がより親水性であることが示された。
[参考例3] ヒト血管内皮細胞(HUVEC)培養
準備したポリマーコーティング基板を6 well plateに収め、クリーンベンチ内で30分間UV滅菌を行った。基板をリン酸緩衝(phosphate buffered saline:PBS)溶液500μLで洗浄後、20% FBS DMEM/F−12(HUVEC用培地)を500μLずつ加え、37℃で一晩インキュベートした。HUVEC(P5)が培養されている10cmディッシュをPBS溶液2mLで洗浄し、トリプシン/エチレンジアミンテトラ酢酸イオン(EDTA)酵素溶液を2mL入れ、37℃で2分間インキュベート後、細胞を回収した。その溶液を1300rpmで5分間遠心分離し、上澄みを除去後、顕微鏡にて細胞数をカウントし、20% FBS DMEM/F−12を加え播種密度を5.0×10cells/cm2に調製した。プレコンディショニングで使用した培地を除去した後、調製した細胞溶液500μLと20% FBS DMEM/F−12 500μLを播種し、37℃でインキュベートした。培養は1時間、1日、3日の3つのタイムポイントで行った。各試料は抗体染色により染色し、共焦点レーザー顕微鏡にて細胞数と細胞形態を観察した。
その結果を図8に示す。リン脂質極性基を側鎖に有し、血液適合性を示す対照サンプルとして用いたPMPCでコートした基板には、ほとんど血管内皮細胞が接着していないのに対し、P(MTC−ME)でコートした基板には、培養後1日程度の間は、PETやPMEAと同程度に血管内皮細胞が接着することが分かる。培養3日後には、P(MTC−ME)やPTMCコート基板上の細胞数が減少しているのは、これらのポリマーが生分解性を有することに起因するものと考えられる。
[参考例4]ヒト線維肉腫細胞(HT−1080)培養
上記同様にポリマーコーティング基板を準備し、プレコンデショニング(60分、37℃まで)を行った。HT−1080が培養されている10cmディッシュをPBS溶液2mLで洗浄し、トリプシン/EDTA酵素溶液を3mL加え、37℃で2分間インキュベート後、細胞を回収した。その溶液を1300rpmで5分間遠心分離し、上澄みを除去後、顕微鏡にて細胞数をカウントし、培地を加え播種密度を1.0×10cells/cm2に調製した。プレコンディショニングで使用した培地を除去後、調製した細胞懸濁液を1mL播種し、37℃で1時間インキュベートした。培養後、PBS1mLで2回洗浄した後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBS 1mLで洗浄後、クリスタルバイオレットで染色し、位相差顕微鏡にて細胞数をカウントした。
その結果を図9に示す。P(MTC−ME)でコートした基板状には、PETやPMEAと同程度の細胞接着を示すことが分かった。
[参考例5]血小板粘着試験
P(MTC−ME)の0.2w/v%のアセトン溶液を塗布したスピンコート基板を8mm四方に切り、走査型電子顕微鏡(SEM)用試料台に固定した。ヒト血液を1500rpmで5分間遠心分離し、上澄みを多血小板血漿(platelet rich plasma:PRP)として回収した。残りの血液をさらに4000rpmで10分間遠心分離した上澄みを乏血小板血漿(platelet poor plasma:PPP)として回収した。PPPをリン酸緩衝(phosphate buffered saline:PBS)溶液を用いて800倍に希釈し、さらにPRPを希釈し、顕微鏡にて血小板数を確認しながら血小板濃度が4×10cell/mLの血小板溶液を調製した。この血小板溶液を各基板に200μL滴下し、37℃にて1時間静置した。その後、各基板をPBS溶液にて2回洗浄し、1%グルタルアルデヒド溶液に浸漬し、37℃にて2時間固定した。固定化した試料はPBS溶液にて10分、PBS:水=1:1にて8分、水にて8分、さらに水でもう一度8分浸漬させて洗浄した。各試料は室温で風乾し、SEMにて血小板粘着数を計測した。計測結果は、各基板表面に粘着した血小板の粘着形態を三種類、すなわちI型:活性化の度合いが小さい、血液中と同様の円形状の粘着形態、II型:活性化の度合いが中程度の、偽足形成が見られる粘着形態、III型:活性化の度合いが大きい、伸展した粘着形態に分類し、PETを対照として評価した。
血小板粘着数の計測結果を図10に示す。この結果から、比較例のPTMCと比べて、P(MTC−ME)は、血小板の粘着数を小さく抑えることができ、良好な生体適合性、抗血栓性を示すことが明らかになった。
[参考例6]酵素分解試験
P(MTC−ME)とPTMCの2種類のポリマーを使用した。1.5mLチューブにポリマーを30mg、リパーゼ溶液1mLを加えて、37℃にて静置した。リパーゼ溶液は2日毎に交換し、9日後、チューブよりリパーゼ溶液を抜き取り、残ったポリマー試料をミリQ水で3回すすいだ。その後、室温で24時間の真空乾燥後のポリマー重量から重量損失を求めた。
酵素処理9日後の重量減少率はそれぞれ、P(MTC−ME):6.4%、PTMC:1.7%であった。この結果から、比較例のPTMCと比べて、P(MTC−ME)は、酵素による優れた生分解性を有することが明らかになった。
実施例1及び比較例1を比べると、本発明の方法により、従来法より簡便に、また高い収率で目的の生成物が得られることが明らかとなった。また、本発明の方法から出発して、生体親和性等の物性を与えたポリカーボネート材料が調製でき、当該材料は、生体内の組織を選択的に吸着させ、かつ生分解性を有する、スマートバイオマテリアルとして有用な材料であることが示された。
本発明の方法によって、様々な官能基を有する環状カーボネート化合物を、簡便に得ることができる。本発明の方法は、種々のポリカーボネート材料を得るために用いることができ、特に、生体親和性材料として利用可能なポリカーボネート及びこれを用いた医療用機器を製造するにあたって有用である。

Claims (15)

  1. カルボキシル基を有するジオール化合物を環化して環状カーボネートを製造する方法において、前記カルボキシル基から生じるプロトンを有機塩基により捕捉して錯体を形成する工程と、その後に炭酸源を作用させて環化する工程を含むことを特徴とする環状カーボネートの製造方法。
  2. 前記炭酸源が、式(I):
    −(C=O)−R (I)
    [式中、R及びRは、互いに独立してハロゲン原子、イミダゾリウム基、若しくは−OR(ここでRは、場合によりハロゲン原子で置換された低級アルキル基、又はハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキル基、及びハロアルキル基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基で場合により置換されたアリール基である)である]で表される化合物である、請求項1に記載の環状カーボネートの製造方法。
  3. 前記カルボキシル基から生じるプロトンを有機塩基により捕捉して錯体を形成する工程が、カルボキシル基を有するジオール化合物を有機塩基の存在下で、有機溶媒に溶解することで行われる、請求項1又は2に記載の環状カーボネートの製造方法。
  4. 前記カルボキシル基を有するジオール化合物が、式(II):

    (式中、Rは、水素原子又は低級アルキル基であり、m及びm’は、互いに独立して、0〜5の整数であり、ただし、m及びm’の少なくとも一方は0ではなく、また、m及びm’の和は、7以下である)で表される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の環状カーボネートの製造方法。
  5. 前記有機塩基が、第三級アルキルアミン、環状アミン、芳香族アミン、窒素塩基化合物、リン原子含有化合物、オニウムイオンの水酸化物、又は陰イオン交換樹脂のいずれかである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の環状カーボネートの製造方法。
  6. 前記有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル及び酢酸エチルからなる群から選択される、請求項に記載の環状カーボネートの製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で得られた環状カーボネートを酸で処理することにより、当該環状カーボネートから有機塩基を分離してカルボキシル基を生成する工程を含む、環状カーボネートの製造方法。
  8. 請求項7に記載の方法でカルボキシル基を生成し環状カーボネートにハロゲン化剤を反応させて、カルボン酸ハロゲン化物とする工程を含む、環状カーボネートの製造方法。
  9. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で得られた環状カーボネートにハロゲン化剤を反応させて、カルボン酸ハロゲン化物とする工程を含む、環状カーボネートの製造方法。
  10. 請求項8又は9に記載の方法によりカルボン酸ハロゲン化物とした環状カーボネートに、少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分を含むアルコール又はアミンを反応させて、当該少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分によりハロゲン原子を置換する工程を含む、環状カーボネートの製造方法。
  11. 前記少なくとも1つのエーテル基を有する構造部分が、鎖状エーテル、環状エーテル又はアセタール構造を少なくとも1つ有する請求項10に記載の環状カーボネートの製造方法。
  12. 連続的若しくは半連続的に、及び/又は単一の反応容器で行われることを特徴とする請求項1〜11に記載の環状カーボネートの製造方法。
  13. 下記式(V):

    (式中、Rは、水素原子又は低級アルキル基であり、m及びm’は、互いに独立して、0〜5の整数であり、ただし、m及びm’の少なくとも一方は0ではなく、また、m及びm’の和は、7以下である)で表される化合物。
  14. 下記式(VII):

    (式中、
    m、m’、Rは、請求項4で定義されたとおりであり、
    M’は、水素原子、炭素数3以下の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、
    E及びE’は、互いに独立して、直接結合、−O−又は−CH2−であり、ただし、少なくとも一方は−O−であり、
    Q’及びQ”は、互いに独立して、水素原子、炭素数6以下の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル、アルケニル若しくはアルキニル、C3−8脂環式アルキル又はベンジルを表すか、あるいはQ’及びQ”は、一緒になって炭素数2〜5のアルキレン基を形成し、
    k及びk’は、互いに独立して、0〜2の整数である)で表される基である)で表される化合物。
  15. 5−メチル−5−(2−テトラヒドロフラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン、
    5−メチル−5−(3−テトラヒドロフラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン、
    5−メチル−5−(3−テトラヒドロピラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン
    4−メチル−4−(2−テトラヒドロフラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン、
    4−メチル−4−(3−テトラヒドロフラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン、及び
    4−メチル−4−(3−テトラヒドロピラニルメチル)オキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オン
    からなる群より選択される請求項14に記載の化合物。
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