JP6309209B2 - 血管平滑筋細胞の増殖を抑制する血管内皮細胞の検出方法 - Google Patents

血管平滑筋細胞の増殖を抑制する血管内皮細胞の検出方法 Download PDF

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Description

本発明は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する血管内皮細胞の検出方法、血管内皮細胞の品質管理技術、および血管内皮細胞の移植技術等に関する。
血管は、ほぼ全身臓器に分布し、栄養補給と老廃物除去に寄与する。血管は、一層の血管内皮細胞と結合組織からなる「内膜」、多層の血管平滑筋細胞と結合組織からなる「中膜」、線維芽細胞と結合組織からなる「外膜」で構成される。
血管内腔面を隙間なく被服する血管内皮細胞が剥脱すると、血管平滑筋細胞の増殖が惹起され、血管内腔は狭窄する。その結果、臓器を栄養する血流量が減少し、臓器は虚血に陥る。例えば、冠動脈の狭窄により心虚血性疾患が、頸動脈や脳動脈の狭窄により脳梗塞が発症する。このような臓器の虚血に基づく疾患を虚血性疾患と呼ぶ。
虚血性疾患の罹患人口は世界的に増加しており、世界の死亡原因の第一位が虚血性心疾患、第二位が脳血管疾患(含、脳梗塞)である。日本などの先進諸国のみならず、中華人民共和国やインド共和国などの新興国においても虚血性疾患は増加しており、これらの国々が抱える大きな人口を鑑みれば、今後、虚血性疾患の罹患者数は爆発的に増加することが予想される。
以上、虚血性疾患の予防・治療法の開発は、世界人民の健康増進ならびに健康寿命延長に貢献する。さらに、世界各国で医療費破綻が叫ばれている現状においては、世界経済の健全化にも貢献する。同時に、虚血性疾患の制圧や根治に繋がる新技術の開発は、世界的市場を持つ巨大医療産業の創成を通じ、多大な経済効果をもたらす。例えば、アメリカでは年間92万人が虚血性心疾患に罹患し、その医療費は年間150兆円にも達する。日本でも80.8万人が虚血性心疾患に罹患し、心疾患による死亡数は年間19.5万人(厚生労働省「平成23年人口動態統計の概況」)、年間医療費は7700億円(平成22年度 国民医療費の概況)と4年連続で増加している。また脳梗塞による死亡者は年間7.3万人(厚生労働省「平成23年人口動態統計の概況」)、脳血管疾患全体の年間医療費は1兆5513億円であり、前年度から1207億円増加している(平成21年度 国民医療費の概況)。
虚血性心疾患の現行治療としては、薬剤療法、経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention; PCI)、冠動脈バイパス術、がある。薬剤療法としては、冠動脈拡張剤の投与、心筋酸素消費量の抑制を目的としたβ遮断剤の投与、血管狭窄部での血栓形成を防止するための抗血小板剤や抗凝固剤の投与、がある。しかし厳しい狭窄がある場合は心筋梗塞のリスクは残存するため、物理的に狭窄を解除するPCIや、狭窄の遠位部に新血流を供給する冠動脈バイパス術が必要となる。
これらのうちPCIは、開胸手術が不要であり侵襲性は低く、かつ閉塞を最も迅速に解除できることから、現在、多くの医療機関で広く実施されている。
PCIには、「バルーン血管形成術」と「ステント留置術」がある。前者は1980年に開発され、バルーンカテーテルを用いて狭窄部を一過性に強制拡張する術式である。しかし術後再狭窄が45%の症例で生じるなど、バイパス術に比べると予後は悪い。一方、後者は1990年代に開発され、「ステント」と呼ばれる金属製の網筒状形状記憶性基材を狭窄部に埋め込むことで持続的に強制拡張する術式であり、現在はこちらが主体となっている。
しかし、ステント留置術においても、術後半年以内に10〜30%の症例で再狭窄が生じている。またステントは金属製であり、生体にとっては「異物」である。このため、強制拡張に伴う血管内皮細胞傷害に加えて、異物に対する拒絶反応としての慢性炎症が惹起される。結果、血栓形成が促進されて発症する「ステント血栓症」が問題となる。
このようなステント血栓症は、次項で述べる「薬剤放出性ステント」(Drug-Eluting Stent: DES)を用いたステント留置術では特に問題となっている。
DESとは、ステント留置術後の再狭窄防止を目的に開発されたもので、シロリムス等の免疫抑制剤、またはパクリタキセル等の抗癌剤が溶出されるステントである。これらの薬剤は非特異的に広く細胞毒性を発揮するため、血管平滑筋細胞の増殖は抑制される。実際、DESを使用することで、術後半年以内の再狭窄は10%程度にまで低下した。
しかし、これらの薬剤が持つ細胞毒性は、ステント表面での内皮化も遅延させるため、新生内膜に覆われていない部分が生じるなど、従来型のステント(Bare Metal Stent; BMS)よりも血栓症のリスクは増大する。
ステント留置術の施行後には、BMSでもDESでも、「ステント血栓症」を防止する目的で、「2剤の抗血小板薬」の内服が行なわれている。うち1剤はアスピリンであり、一生涯服用することが推奨されている。もう1剤は、チクロピジン塩酸塩製剤またはクロピドグレル硫酸塩製剤であり、BMSの場合は術後4週間の服用が、DESの場合は術後6ヶ月の服用が推奨されている。
しかし、抗血小板薬の服用期間に関する絶対安全値は決定されておらず、服薬中止後に致命的なステント血栓症を発症した例もあり社会問題となっている。例えば、2006年の米国心臓学会(American College of Cardiology; ACC)で発表されたBASKET-LATE試験では、推奨されていた6ヶ月間の投与終了後にクロピドグレル硫酸塩製剤の内服を中止すると、BMSに比較して有意に心臓死および非致死的心筋梗塞が増大することが報告された。
また2007年のBernとRotterdamらの共同研究では、実臨床における8000例のDES植え込み後のステント血栓症の発生頻度が発表され、術後1年以降のステント血栓症の発生頻度は、DESにおいて毎年0.6%ずつ累積的に増加していることが報告された(非特許文献1)。ステント血栓症が経年的に増加することはBMS植え込みが施行されていた時代には考えられなかったことであり、これによりDESの安全性懸念は増幅された。
またこの頃は、すでに欧米ではDES導入後4年以上が経過していたが、実臨床においても3年以降に、外科手術のため抗血小板薬投与を中断した後に突然死を生じた事例が散見されるようになり、米国では大きな社会問題として取り上げられるようになった。
さらに、2006年11月の米国心臓学会(American Heart Association; AHA)では、術後1年以降に生じる超遅発性ステント血栓症が、2剤の抗血小板薬を内服している患者にも見られることが報告され、抗血小板薬に対する「薬剤耐性」が生じていることが報告された。
このようにDESは、1)ステント血栓症の発症率の経年的増加、2)超遅発性ステント血栓症の発症、3)抗血小板薬への耐性化、といった問題を孕んでおり、抗血小板薬の中止時期を決定することは容易ではない。また、経済的・社会的理由で薬物治療のコンプライアンスが低い患者が少なくないこと、癌など外科手術を受ける際には必ず服薬を中止しなければならないこと、が問題の解決をさらに難しくしている。
ここで、BMS埋め込みにおける「術後再狭窄」の問題も、DES埋め込みにおける「ステント血栓症」の問題も、「PCI施術部において血管内皮細胞が剥脱されること」に原因があることは留意すべきである。なぜなら、ステント留置術とは、血管狭窄部を物理的に強制拡張する処置であるため、術部において血管内皮細胞は不可避的に剥脱する。しかし血管内皮細胞は、血管内腔面を裏打ちすることで血栓形成を防止するとともに、血管平滑筋細胞の増殖を抑制することで血管構造の安定化に寄与している(特許文献1)。このため、PCI施術は、血管内皮細胞という血管の重要構成員を欠如させる「血管に傷害を与える処置」ともなっている。
以上、ステント留置術は、血管内皮細胞を不可避的に剥脱することで、「ステント血栓症」と「術後再狭窄」を誘発するのである。
上記の観点からは、ステント留置術における「術後再狭窄」と「ステント血栓症」の問題に対する直接的かつ根本な解決策とは、施術後に「血管内皮細胞を血管内腔面に補充すること」であることは自明である。
「PCI施術部への血管内皮細胞の補充」のための方策としては、GenousTM stentという「血管内皮細胞捕獲性ステント」が開発されている。これはCD34という「血管内皮細胞前駆細胞」の表面抗原に対する抗体をステント表面にコーティングしたもので、末梢血中を流れる血管内皮細胞前駆細胞をステント表面に捕獲することで、ステント留置術により傷害された血管内腔面において内皮化を促進することを狙ったものである。既にヨーロッパで治験が開始されているが、2年目の中間報告では、薬剤溶出ステントと比較して同等またはそれ以下の成績であることが示されている。その理由として、抗体のコーティングが不安定であること、CD34抗原は血管内皮細胞前駆細胞のみならず、造血前駆細胞にも高発現しているために、動脈硬化や血管狭窄の増悪に働く好中球やマクロファージがリクルートされること、などが挙げられている。
以上、ステント留置術において問題となっている「再狭窄」および「ステント血栓症」の発症を防止するための鍵となるべき、「効果的な血管内皮細胞の血管内腔面への補充技術」はまだ開発されていない。これを解決すると、虚血性心疾患をはじめとする虚血性疾患に対して「根治に繋がる画期的治療法」が提供されることとなる。
しかし、虚血性疾患に対する根治療法の開発のためには、もう一つ、解決されねばならない課題がある。それは、「補充療法に用いる血管内皮細胞の品質管理」に関する問題である。なぜなら、基礎医学実験に汎用されている「市販のヒト血管内皮細胞(初代培養細胞)」はどれも、血管平滑筋細胞の増殖を促進する「悪玉」の血管内皮細胞であることが報告されているからである(特許文献1)。
また、健常人ボランティアの末梢血や骨髄から血管内皮細胞前駆細胞を採取して血管内皮細胞を調製しても、調製した直後から悪玉化しているか(非特許文献2,3)、または調製直後は善玉であっても継代培養の過程で速やかに悪玉化することが示されている(特許文献1)。さらに、患者はすでに血管狭窄を発症しており、血管内皮細胞はすでに「悪玉化」していると考えられるため、患者自身から血管内皮細胞を取得して治療の使用することは有効な方法とはなりえない。
一方、ヒト多能性幹細胞である「ヒト胚性幹(embryonic stem; ES)細胞」から作製した血管内皮細胞(特許文献2)は、少なくとも作製した直後には、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する「善玉」であることが報告されている(特許文献1)。しかし、ヒトES細胞から作製した善玉血管内皮細胞も、継代培養の過程で速やかに悪玉化することが報告されている(非特許文献2)。
一方、「ヒト人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem; iPS)細胞」から作製した血管内皮細胞(特許文献2)は、ヒトES細胞の場合とは異なる結果が報告されている。即ち、レトロウイルスベクターを用いて樹立したヒトiPS細胞(ReV-hiPS細胞)から作製された血管内皮細胞は、作製直後から悪玉化しているか、または作製直後は善玉であっても継代培養の過程で速やかに悪玉化することが報告されている(非特許文献2)。
一方、センダイウイルスベクターを用いて樹立したヒトiPS細胞(SeV-hiPS細胞)から作製した血管内皮細胞(特許文献2)は、作製直後はもちろん、8〜10回もの継代増幅培養を重ねた後でも「善玉」の形質を保持している「スーパー善玉血管内皮細胞」であることが報告されている(非特許文献3)。
即ち、SeV-hiPS細胞を用いれば、「善玉」のヒト血管内皮細胞を大量製造することが可能となる。
以上、ステント留置術において問題となっている「再狭窄」および「ステント血栓症」の発症を防止するための鍵となる「血管内腔面への血管内皮細胞補充療法」に使用可能な「ヒト善玉血管内皮細胞」は、ヒトSeV-hiPS細胞を材料として、特許文献2に記載の方法を適用することで大量製造が可能である。
しかし、上記の「血管内皮細胞補充療法」の実現には、さらに2つの課題が残されている。1つは、PCI施術により血管内皮細胞が剥脱した部位に、いかにして「ヒト善玉血管内皮細胞」を補充するか、という移植技術に関する問題である。もう1つは、血管内皮細胞を血管平滑筋細胞の増殖に与える影響、即ち、「善玉(=血管平滑筋細胞増殖抑制型)」および「悪玉(=血管平滑筋細胞増殖促進型)」という観点から品質評価ための、これまで唯一確立された技術は「血管平滑筋細胞との共培養実験」(特許文献1)である。しかし、この方法では、血管平滑筋細胞の調製工程、細胞の蛍光ラベルの工程、4日間の細胞培養の工程、細胞回収後のフローサイトメトリー工程が必要であり (特許文献1)、大量検体の処理には不向きである。さらにModFit LT ソフトウェア(Verity Software House社製)というアプリケーションも必要となる(特許文献1)。より迅速かつ安価にスクリーニングを達成するためには、遺伝子マーカーなど、世界中の多くの施設で短時間に実施できる簡便な検査指標が必要となる。
特開2010-131373 WO2008/056779
デーメン(Daemen)ら、Lancet誌、第369巻、第667-678頁(2007) 佐伯ら、6th Annual Frontiers of Clinical Investigation Symposium. Vascular Diseases 2011: Bench to Bedside. October 13-15, 2011. La Jolla, CA, USA. 佐伯ら、第2回 創薬Innovation Forum 2011。 2011年7月5日(東京)
本発明は血管平滑筋増殖抑制作用のある血管内皮細胞の検出方法、および当該血管内皮細胞を動脈内腔面に移植する治療技術を提供する。
具体的には本発明は、例えば虚血性疾患に対して、既存の血管再建術と組み合わせて実施することで、「術後再狭窄」および「ステント血栓症」の発症を防止する「血管内腔面への血管内皮細胞補充療法」に使用する血管内皮細胞の品質評価のための遺伝子マーカーを提供し、それにより従来よりも速やかな品質管理の遂行を可能とする。即ち、従来は4日間以上の期間を要していた血管内皮細胞の品質評価は、半日またはそれ以下の時間で遂行することが可能となる。
本発明は、また、「善玉血管内皮細胞」が発揮する「血管平滑筋増殖抑制作用」の制御に関わる鍵遺伝子に関する情報を提供することで、生体における血管構造の維持に必須である「血管内皮細胞の血管平滑筋細胞増殖抑制作用」の分子機序解析のためのツールを提供する。
本発明は、また、「善玉血管内皮細胞」が発揮する「血管平滑筋増殖抑制作用」の制御に関わる鍵遺伝子に関する情報を提供することで、虚血性疾患の原因となる「血管狭窄」の治療開発に向けた、新規な「創薬標的分子」の発明を提供する。
本発明は、また、vasa vasorum(血管の血管)を介して血管内腔面へ血管内皮細胞を移植する方法を提供する。この方法は、血管内皮細胞を動脈などの血管の外膜面上(外壁)に置く工程を含む方法である。例えば、血管内皮細胞が包埋された基材を動脈などの血管の外膜面上(外壁)に置く工程を含む簡便な手順で実施することができる。本発明は、動脈等の血管内腔面へ血管内皮細胞を移植するための薬剤であって、血管内皮細胞を含み、該細胞を血管の外膜面上(外壁)に置く工程を含む方法によりvasa vasorum(血管の血管)を介して血管内腔面へ血管内皮細胞を移植するための薬剤を提供する。また本発明は、動脈等の血管内腔面へ血管内皮細胞を移植するための血管内皮細胞であって、該細胞は血管の外膜面上(外壁)に置く工程を含む方法によりvasa vasorum(血管の血管)を介して血管内腔面へ移植されるための細胞を提供する。また本発明は、動脈等の血管内腔面へ血管内皮細胞を移植するための薬剤の製造における血管内皮細胞の使用であって、該薬剤は該血管内皮細胞を含み、該薬剤は、該薬剤を血管の外膜面上(外壁)に置く工程を含む方法によりvasa vasorum(血管の血管)を介して血管内腔面へ血管内皮細胞を移植するための薬剤である使用を提供する。また本発明は、動脈等の血管内腔面へ血管内皮細胞を移植するための薬剤であって、血管内皮細胞が包埋された基材を含み、該基材を血管の外膜面上(外壁)に置く工程を含む方法によりvasa vasorum(血管の血管)を介して血管内腔面へ血管内皮細胞を移植するための薬剤を提供する。また本発明は、動脈等の血管内腔面へ血管内皮細胞を移植するための薬剤の製造における血管内皮細胞の使用であって、該薬剤は、血管内皮細胞が包埋された基材を含み、該薬剤は、該基材を含む該薬剤を血管の外膜面上(外壁)に置く工程を含む方法によりvasa vasorum(血管の血管)を介して血管内腔面へ血管内皮細胞を移植するための薬剤である使用を提供する。血管内皮細胞としては、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞が好ましい。本方法および薬剤は、血管内皮細胞の剥脱に対する血管内腔面への血管内皮細胞の補充等のために有用であり、血管内皮細胞移植および/または血管平滑筋増殖抑制による所望の治療、例えば血管狭窄、閉塞性動脈硬化症、および/または血管平滑筋肥厚を伴う疾患(PCI施術後の再狭窄、閉塞性動脈硬化症、虚血性脳血管障害、虚血性心疾患、閉塞末梢動脈疾患、血管炎の血管狭窄性病変等を含む)に対する治療に有用である。
特に本発明により、虚血性疾患に対する血管再建術において問題となっている「術後再狭窄」および「ステント血栓症」の原因となっている「PCI施術による血管内皮細胞の不可避的な剥脱」という有害事象に対し、血管内皮細胞剥脱部に血管内皮細胞を迅速に補充することで「術後再狭窄」および「ステント血栓症」の発症を防止することが可能となる。
既に述べたように、移植に用いる血管内皮細胞は、血管平滑筋細胞増殖抑制作用のある「善玉血管内皮細胞」であることが前提となる。しかし、血管内皮細胞が「善玉」であるか「悪玉」であるかについての評価は、従来の技術では血管平滑筋細胞と血管内皮細胞の共培養試験により行われていた(特許文献1)。このため最低でも4日間の共培養作業が必要となるが、共培養試験を行うためのサンプル調製に要する期間を加味すると、実質的には、判定に1週間またはそれ以上の時間が要される。
しかし、「善玉」と「悪玉」を区別する遺伝子マーカーが同定されれば、その発現レベルを測定するだけで血管内皮細胞の品質評価を行うことができる。即ち、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞の培養を一切行うことなく、半日またはそれ以下の試験時間において、血管内皮細胞の「善玉」「悪玉」について判定することができる。
ここで本発明者らは、「悪玉」の血管内皮細胞群(市販のヒト初代培養血管内皮細胞、継代培養を重ねたヒトES由来血管内皮細胞等)では発現するが、「善玉」の血管内皮細胞群(ヒトSeV-iPS由来血管内皮細胞、作製直後のヒトES由来血管内皮細胞等)では発現しない遺伝子を、マイクロアレイ解析、real time PCRに基づく遺伝子発現定量、免疫細胞染色、Western blottingの技術により網羅的に探索を続けた結果、ついに Regulator of G-protein signaling 5 (RGS5)を同定することに成功した。即ち、「善玉」と「悪玉」を区別する遺伝子マーカーを得ることに成功した(実施例7、実施例8参照)。
さらに、臨床標本における免疫組織染色においても、健常者の動脈の血管内皮細胞ではRGS5蛋白の発現が認められないのに対し、血管狭窄を来す諸疾患(動脈硬化、高血圧、全身性エリテマトーデス等)の患者の動脈の血管血管内皮細胞では、狭窄の程度に応じてRGS5蛋白の発現が誘導されていることが確認され、RGS5の臨床的意義が検証された(実施例9参照)。すなわち本発明は、RGS5 mRNAまたはRGS5蛋白質からなる、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞のマーカーを提供する。また本発明は、RGS5 mRNAまたはRGS5蛋白質からなる、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性のマーカーを提供する。当該マーカーは、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出するために有用である。また当該マーカーは、血管平滑筋肥厚および/または血管狭窄のリスクマーカーとして有用であり、血管平滑筋肥厚および/または血管狭窄を伴う諸疾患(動脈硬化、高血圧、全身性エリテマトーデス等)における検査において有用である。RGS5の発現の亢進は、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖抑制作用の低下を示すことから、上記リスクの増大を示唆する。
さらに、遺伝子導入実験により、「善玉」の血管内皮細胞にRGS5遺伝子を強制発現すると悪玉性が賦与されること、また遺伝子ノッックダウン実験により「悪玉」の血管内皮細胞でRGS5遺伝子の発現を減少させると善玉性が賦与されることが確認され、RGS5は「善玉」と「悪玉」を区別する単なる遺伝子マーカーではなく、「血管内皮細胞の悪玉化を惹起する原因遺伝子」でもあることが明らかとなった(実施例7参照)。
即ち、RGS5は血管内皮細胞の品質管理における「最上位マーカー」であることが示された。
上述の結果は、RGS5遺伝子の発現レベルを減少させることで悪玉内皮細胞を善玉方向にシフトさせられることを示しており、血管狭窄の治療開発のための新規な「創薬標的分子」としてRGS5が同定された。すなわちこの知見によれば、RGS5遺伝子およびRGS5蛋白質は、血管平滑筋細胞の増殖を促進するために使用することが可能で、例えばRGS5蛋白質およびRGS5蛋白質を発現するベクターは血管平滑筋細胞の増殖促進剤となる。逆に、RGS5の発現を阻害することで、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を上昇させたり、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を上昇させた血管内皮細胞を製造することができる。例えばsiRNA、shRNA、miRNA、その他のRGS5発現阻害剤、または所望のRGS5活性またはシグナル伝達の阻害剤等で血管内皮細胞におけるRGS5遺伝子の発現または作用を阻害することにより、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を上昇させることが可能である。
また、この結果から、「RGS5遺伝子の発現制御システムの解明」に関する基礎医学的研究は、血管内皮細胞の「善玉/悪玉の制御機構」の全貌解明のための有用な情報を提供するものとなることが解る。即ち、「血管構造維持」に関する生理学研究および病理学研究のための鍵分子としてRGS5が位置づけられる。
なおこのように取得された血管内皮細胞を臨床適用するためには、血管内皮細胞を血管内腔面に簡便かつ効率的に移植する技術が求められる。虚血性疾患の原因となる「血管狭窄」は中型動脈において生じており、これらには「高い圧力」を持つ「脈流」が流れている。このため、骨髄移植や間葉系幹細胞移植療法等で施行されている「静脈注射」または「動脈注射」による移植法は効果を奏しない。なぜなら、血管内皮細胞が流血中に注入されても、高い動脈圧による脈流により、血管内皮細胞は動脈内腔面に付着せずに流れ去るからである。特に、血管狭窄部や血管形成術施行部では乱流も発生しており、血管内腔面に血管内皮細胞が生着することは望めない。
しかし中型動脈には、血管を構成する細胞群を栄養する「血管の血管(vasa vasorum)」が血管外膜から侵入する(図1)。特に、血管狭窄部では、血管平滑筋細胞が過剰増殖しているために血管平滑筋層は肥厚し、結果としてvasa vasorumの発達は顕著になる。
Vasa vasorumは、血管を構成する細胞を栄養する唯一の「生理的」な経路であるため、本発明者らは、ここを介して血管内皮細胞を移植することは、血管内皮細胞剥脱部に血管内皮細胞を補充するための最も効果的に手段となるのではないかと考えた。実際、本発明者らは血管内皮細胞剥脱処置を施した血管狭窄モデル動物において鋭意検討を行うことでそのことを実証し、ここに「vasa vasorumを介した血管内皮細胞の血管内腔面へ移植技術」、即ち、「per-vasa vasorum transplantation(PVVT)」の技術を確立した。
具体的には、血管内皮細胞と基材との混合体を血管外膜面に置くだけで、移植した血管内皮細胞は少なくとも1週間以内に血管内腔面に敷き詰められ、血管内皮細胞を移植しなかった場合に形成される凝血塊、フィブリン塊は生じないことが確認された(実施例6参照)。
以上、血管狭窄に対して、既存の血管形成術(PCI等)と組み合わせて実施する「再狭窄防止、血栓症防止に有用な血管内腔面への血管内皮細胞補充療法」は、(1)RGS5遺伝子発現測定に基づく血管内皮細胞の品質管理技術、(2)PVVTによる血管内腔面への血管内皮細胞移植技術、の開発によって効率的に遂行することが可能となった。
即ち、本発明は、以下の発明に関する。
〔1〕 血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する細胞を検出する方法であって、血管内皮細胞におけるRGS5(Regulator of G-protein signaling 5)の発現を検出する工程、および該発現を、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性の低下および/または血管平滑筋細胞の増殖を促進する活性の上昇の指標とする工程を含む方法。
〔2〕 RGS5 mRNAを検出する工程を含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 RT-PCRまたはリアルタイムRT-PCRによりRGS5 mRNAを検出する工程を含む、〔2〕に記載の方法。
〔4〕 RGS5蛋白質を検出する工程を含む、〔1〕に記載の方法。
〔5〕 免疫染色、エライザ(ELISA)、またはウェスタンブロット法によりRGS5蛋白質を検出する工程を含む、〔4〕に記載の方法。
〔6〕 血管内皮細胞が誘導多能性幹細胞(iPS)から生成された細胞である、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 誘導多能性幹細胞がセンダイウイルスベクターを用いて多能性が誘導された細胞である、〔6〕に記載の方法。
〔8〕 血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む細胞集団を製造する方法であって、〔1〕から〔7〕のいずれかの方法により該細胞を検出する工程、および該細胞を回収する工程を含む方法。
〔9〕 血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む細胞集団を製造する方法であって、血管内皮細胞を含む1または複数の細胞集団を製造する工程、該細胞集団において、〔1〕から〔7〕のいずれかの方法により血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する細胞を検出する工程、および、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する細胞が検出された細胞集団を選択する工程を含む方法。
〔10〕 RGS5の発現を検出するプライマーまたはプローブ、あるいはRGS5蛋白質に結合する抗体を含む、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出するための試薬。
〔11〕 RGS5 mRNAまたはRGS5蛋白質からなる、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出するためのマーカー。
〔12〕 RGS5蛋白質または該蛋白質を発現するベクターを含む、血管平滑筋細胞の増殖促進剤。
〔13〕 血管内皮細胞におけるRGS5遺伝子の発現を阻害する工程を含む、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を製造する方法。
〔14〕 血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞または該細胞が包埋された基材を血管の外膜面上に置く工程を含む、vasa vasorum(血管の血管)を介して動脈内腔面へ血管内皮細胞を移植する方法。
〔15〕 血管内皮細胞の剥脱に対する血管内腔面への血管内皮細胞の補充のために用いられる、〔14〕に記載の方法。
〔16〕 動脈内腔面へ血管内皮細胞を移植するための薬剤であって、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞または該細胞が包埋された基材を含み、その使用に際し、該細胞または基材は血管の外膜面上に置かれることにより、vasa vasorum(血管の血管)を介して血管内皮細胞が動脈内腔面に移植されるものである、薬剤。
〔17〕 血管内皮細胞の剥脱に対する血管内腔面への血管内皮細胞の補充のために用いられる、〔16〕に記載の薬剤。
〔18〕 RGS5遺伝子のプロモータの下流にインディケータ遺伝子が挿入されたノックイン血管内皮細胞。
〔19〕 インディケータ遺伝子が蛍光蛋白質、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、抗体断片、エピトープペプチド、タグペプチド、タグ蛋白質、薬剤耐性因子、および細胞死誘導因子からなる群より選択されるポリペプチドをコードする、〔18〕に記載の細胞。
〔20〕 〔18〕または〔19〕の細胞の、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性のマーカーとしての使用。
〔21〕 血管内皮細胞および/または血管内皮前駆細胞(EPC)におけるRGS5の発現または〔18〕に記載の細胞におけるインディケータ遺伝子の発現を検出し、該発現を低下または上昇させる化合物または培養条件を選択する工程を含む、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞増殖抑制活性をそれぞれ上昇または低下させる化合物または培養条件のスクリーニング方法。
また本発明により、以下の技術が提供される。
(A) RGS5遺伝子発現測定に基づく血管内皮細胞の品質管理技術
(B) PVVTによる血管内腔面への血管内皮細胞移植技術
(C) RGS5遺伝子発現を指標にした血管狭窄治療薬のスクリーニング技術
(D) RGS5遺伝子発現制御系および蛋白機能に関する解析に基づいた血管学研究ツール
(E) RGS5遺伝子発現を指標にした血管狭窄のリスク診断技術
これまでの、血管内皮細胞に関するRGS5の研究報告としては、基礎実験に汎用されている「ヒト臍帯静脈内皮細胞」(human umbilical vein endothelial cells; HUVEC)においてRGS5の発現が認められたことから、血管内皮細胞の機能発現に重要であると想像されていた (Jinら、The journal of biological chemistry 第284巻、第23436頁-23443頁, 2009年)。HUVECは入手が容易であるため、古くから様々な実験に使用されてきた経緯があるが、HUVECを初めとする初代培養血管内皮細胞は、調製過程で被るストレスにより不可避的に「悪玉内皮細胞」となるため、生体状況を正しく再現できないことが報告されている(特許文献1)。よって上記の想像は否定されるに至った。
以上、血管内皮細胞におけるRGS5の役割と意義については、これまで有用な情報は全くない状況であった。
即ち、本発明により初めて、RGS5は「悪玉血管内皮細胞」において選択的に発現していること、さらにRGS5は「血管内皮細胞悪玉化の原因遺伝子」であることが示された。
ここで注目すべき点として、「悪玉」の血管内皮細胞であり、RGS5が高発現しているHUVECであっても、センダイウイルスベクターを用いてヒトiPS細胞を樹立するとRGS5発現は消失し、かつ樹立されたSeV-iPS細胞から「特許文献2」の方法で血管内皮細胞を作製すると、作製された血管内皮細胞は「スーパー善玉血管内皮細胞」となり(非特許文献2、非特許文献3)、かつRGS5発現は長期に渡り抑制されることである(図9〜図11参照)。
即ち、RGS5は血管内皮細胞の品質評価の鍵遺伝子であり、「悪玉」の血管内皮細胞では構成的に発現しているが、iPS樹立過程における「初期化」により発現はリセット(消去)され、そこから作製されるスーパー善玉血管内皮細胞においては発現が長期に抑制される。
すなわち本発明は、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を判別する方法であって、血管内皮細胞におけるRGS5(Regulator of G-protein signaling 5)の発現を検出する工程、および該発現を、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性の低下および/または血管平滑筋細胞の増殖を促進する活性の上昇の指標とする工程を含む方法に関する。また本発明は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出する方法であって、血管内皮細胞におけるRGS5の発現を検出する工程、および該発現または発現の上昇を、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性の低下および/または血管平滑筋細胞の増殖を促進する活性の上昇の指標とする工程を含む方法に関する。また本発明は、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を判別する方法であって、血管内皮細胞におけるRGS5の発現を検出する工程、および該発現または発現の上昇を、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性の低下および/または血管平滑筋細胞の増殖を促進する活性の上昇の指標とする工程を含む方法に関する。RGS5の発現レベルが高いほど、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する作用は低下し、より発現レベルが高い場合、血管平滑筋細胞の増殖はむしろ促進される。RGS5の発現レベルが低いほど、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する作用は上昇する。RGS5の発現が検出されなければ、その血管内皮細胞は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する高い活性を有する好ましい細胞と判断される。このような細胞は「善玉」血管内皮細胞と判断することができる。血管平滑筋細胞の増殖を抑制する作用が低い、または喪失した細胞は、「悪玉」血管内皮細胞と判断できる。
例えばRGS5発現が陰性の血管内皮細胞は、血管平滑筋細胞の増殖抑制活性が高いと判断される。またRGS5発現が相対的に低い細胞は、血管平滑筋細胞の増殖抑制活性が相対的に高いと判断され、RGS5発現が相対的に高い細胞は、血管平滑筋細胞の増殖抑制活性が相対的に低いと判断される。例えば適当な基準を設定し、RGS5発現レベルがそれ未満の血管内皮細胞を血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が高い細胞(善玉血管内皮細胞)、それ以上の細胞を血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が低い細胞(悪玉血管内皮細胞)と判断することができる。
より具体的に例示すれば、real time RT-PCRによるメッセージ発現量測定におけるインターナルコントロールとして頻用されるGAPDH遺伝子に対するRGS5遺伝子のメッセージ発現量の比(RGS5/GAPDH)の値が0.08未満、好ましくは0.05未満、より好ましくは0.015未満の場合を血管平滑筋細胞の増殖抑制活性が高いと判断してもよい。あるいは、GAPDH遺伝子に対するRGS5遺伝子のメッセージ発現量の比が、0.08以上の場合を血管平滑筋細胞の増殖抑制活性が低いと判断してもよい。
なお、一般にGAPDH遺伝子の発現量はほぼ一定であるから、RGS5/GAPDHの値はRGS5遺伝子の発現量を反映することになる。従って、RGS5/GAPDHの値が上記で例示した値となるようなRGS5遺伝子の発現量を基準とすれば、RGS5の発現を測定するだけで同様に判断することが可能である。すなわち上記の比となるようなRGS5遺伝子の発現量を基準とすれば、GAPDH遺伝子の発現量を実際に測定することは必須ではなく、例えばインターナルコントロールを用いずにRGS5の発現量を測定してもよく、あるいはβ-actinやその他のハウスキーピング遺伝子発現をインターナルコントロールとして用いてRGS5遺伝子の発現量を測定してもよい。
また、センダイウイルスベクターを用いて作成したiPS細胞から生成させた血管内皮細胞は、継代後もRGS5の発現レベルが極めて低いレベルに維持されるため、血管平滑筋細胞の増殖抑制活性が高い状態の細胞を安定的に得ることができる。従って、この細胞におけるRGS5の発現レベルを基準とすることもできる。例えば、ヒト新生児包皮由来線維芽細胞(BJ) (ATCC(www.atcc.org), CRL-2522) (例えば継代数11の細胞) に、WO2010/008054の記載に従って SeV18+ OCT3/4/TSΔF、SeV18+ SOX2/TSΔF、SeV18+ KLF4/TSΔF、SeV(HNL)-c-rMyc/TS15ΔFをMOI=3で導入してiPS細胞を誘導する(SeV-hiPS(BJ)iPS;実施例1〜3を参照)。この細胞をサイトカイン(例えば血管内皮成長因子(VEGF)、骨形成タンパク質-4(BMP-4)、幹細胞因子(SCF)、Flt3-リガンド、インターロイキン-3(IL3)、およびインターロイキン-6(IL6))の存在下、血清もしくは血清代替物を含む培地または無血清培地で浮遊培養し、胚葉体または胚葉体類似細胞凝集塊を製造する。例えば以下の組成で培養する。培養期間は例えば3日としてよい。
[分化培地]
・イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、
・15重量% 牛胎児血清
・1mM β−メルカプトエタノール、
・2mM L−グルタミン、
・終濃度20ng/ml 血管内皮成長因子(VEGF)、
・終濃度20ng/ml 骨形成タンパク質-4(BMP-4)、
・終濃度20ng/ml 幹細胞因子(SCF)、
・終濃度10ng/ml Flt3-リガンド、
・終濃度20ng/ml インターロイキン-3(IL3)、
・終濃度10ng/ml インターロイキン-6(IL6)
得られた細胞凝集塊を3〜4日ごとに継代しながらゼラチンコートした培養器で培養し、接着細胞として血管内皮細胞を取得できる。例えば、継代数9のもののRGS5の発現レベルを測定し、そのRGS5発現レベルの5倍未満、好ましくは3倍未満、より好ましくは2倍未満、より好ましくは1.5倍未満、1.2倍未満、より好ましくは同等またはそれ以下の任意の発現レベルの基準に対して、それ以下の場合を血管平滑筋細胞の増殖抑制活性が低いと判断してもよい。そして当該発現レベル未満の場合を血管平滑筋細胞の増殖抑制活性が高いと判断してもよい。
なお上記のBJ細胞などから作製した血管内皮細胞の記載は、RGS5の発現レベルを例示するために記載したものに過ぎず、血管平滑筋細胞の増殖抑制活性を判断するにあたって、実際にBJ細胞などから血管内皮細胞を作製する工程を実施することを要するものではない。
また、血管内皮細胞の「善玉」「悪玉」に関する品質評価のためのRGS5遺伝子の発現レベルの検定は、公知の所望の方法で行うことができる。例えば、発現を転写レベルで検出してもよく、翻訳レベルで検出してもよい。具体的には、RGS5 mRNAを検出してもよいし、RGS5蛋白質を検出してもよい。RGS5発現の検出は、例えばRGS5遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブやプライマー、またはRGS5蛋白質に特異的に結合する抗体等を用い、当該プローブおよび/またはプライマーを細胞のmRNAおよび/または該細胞から調製したcDNAに接触させる工程、当該抗体を細胞の蛋白質に接触させる工程を含む公知の方法により実施することができる。
RGS5発現の検出は、例えば以下の方法で遂行される。即ち、RGS5 mRNAの発現は、汎用のreverse transcription polymerase chain reaction (RT-PCR)、またはreal time PCR技術を適用した汎用のreverse transcription quantitative polymerase chain reaction (RT-qPCR)、等により測定が可能である。またRGS5蛋白の発現は、汎用のウェスタン・ブロット法、ドット・ブロット法、Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)等により測定が可能である。なお、臨床標本など分量の少ないサンプルにおいては、RGS5蛋白に対する特異的抗体を用いた免疫染色法により、RGS5蛋白の発現の検定することが可能である。
血管内皮細胞におけるRGS5の発現を検出する工程は、血管内皮細胞からなる所望の細胞試料や細胞集団について行うことができる。当該細胞試料および細胞集団は、例えば90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくはほぼすべての生細胞が血管内皮細胞である細胞試料および細胞集団である。例えば、血管内皮細胞は、アセチル化low-density lipoprotein (Ac-LDL)の取込みが見られること、cord formation assayにおいてコード形成が確認できること、蛍光ラベルされた抗VEGFR1抗体を用いたフローサイトメトリーにおいてアイソタイプコントロール抗体で染色したサンプルの蛍光分布に対して明らかに右方(蛍光強度の高い方)にシフトが見られることとともに、平滑筋細胞マーカーであるsmooth muscle cell actin (ACTA2: actin, alpha 2, smooth muscle, aorta)、およびペリサイトマーカーであるplatelet-derived growth factor receptor, beta polypeptide (PDGFRβ)が免疫染色で陰性であること、により同定することができる。また、さらに抗Tie2抗体および/または抗VEGFR2抗体を用いたフローサイトメトリーにおいてアイソタイプコントロール抗体で染色したサンプルの蛍光分布に対して右方(蛍光強度の高い方)にシフトしてもよい。また血管内皮細胞は、VE-caddhein、PECAM1、von Willebrand factor、およびNOS3からなる群より選択される1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ、より好ましくは4つの発現が、RT-PCR、Western blotting、または免疫染色で検出されるものであってもよい。但し、血管内皮細胞における抗VE-caddhein抗体および抗PECAM1抗体を用いたフローサイトメトリーにおける陽性率は任意であってよい(Nakahara M et al., Cloning Stem Cells. 2009 11:509-522)。
血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出する本発明の方法は、これらの細胞の品質管理および/または品質評価のために有用である。すなわち本発明は、(1)上記本発明の方法により血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出する工程、および(2)RGS5の発現が低い(または検出されない)場合に、その細胞を血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞(すなわち血管内皮細胞移植に適した細胞)であると判定する工程、および/または、RGS5の発現が高い(または検出された)場合に、その細胞を血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が低い血管内皮細胞(すなわち血管内皮細胞移植に適さない細胞)であると判定する工程を含む方法に関する。具体的には、本発明は、(1)血管内皮細胞におけるRGS5の発現を検出する工程、および(2)RGS5の発現が低い(または検出されない)場合に、その細胞を血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞(すなわち血管内皮細胞移植に適した細胞)であると判定する工程、および/または、RGS5の発現が高い(または検出された)場合に、その細胞を血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が低い血管内皮細胞(すなわち血管内皮細胞移植に適さない細胞)であると判定する工程を含む方法に関する。RGS5の発現レベルの基準は上記の通り設定すればよい。また、血管内皮細胞におけるRGS5の発現は、mRNAの検出および/または蛋白質の検出を行えばよく、mRNAの検出はRGS5遺伝子に対するプローブやプライマーを用いて、RGS5蛋白質の検出は、RGS5蛋白質に結合する抗体を用いて実施すればよい。血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有すると判定された血管内皮細胞は、血管内皮細胞の剥脱に対する血管内腔面への血管内皮細胞の補充のために好適に用いられる。
また血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出する本発明の方法は、RGS5遺伝子発現を指標にした血管狭窄のリスク予測のために有用である。すなわち本発明は、(1)血管内皮細胞を含む採取された細胞サンプルについて、上記本発明の方法により血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出する工程、および(2)RGS5の発現が低い(または検出されない)場合に、血管平滑筋細胞の増殖リスクが低い(すなわち血管平滑筋の肥厚リスク、および/または血管狭窄の発症リスクが低い)と判定する工程、および/または、RGS5の発現が高い(または検出された)場合に、血管平滑筋細胞の増殖リスクが高い(すなわち血管平滑筋の肥厚リスク、および/または血管狭窄の発症リスクが高い)と判定する工程を含む方法に関する。具体的には、本発明は、(1)血管内皮細胞を含む採取された細胞サンプルについてRGS5の発現を検出する工程、および(2)RGS5の発現が低い(または検出されない)場合に、血管平滑筋細胞の増殖リスクが低い(すなわち血管平滑筋の肥厚リスク、および/または血管狭窄のリスクが低い)と判定する工程、および/または、RGS5の発現が高い(または検出された)場合に、血管平滑筋細胞の増殖リスクが高い(すなわち血管平滑筋の肥厚リスク、および/または血管狭窄のリスクが高い)と判定する工程を含む方法に関する。血管内皮細胞におけるRGS5の発現は、mRNAの検出および/または蛋白質の検出を行えばよく、mRNAの検出はRGS5遺伝子に対するプローブやプライマーを用いて、RGS5蛋白質の検出は、RGS5蛋白質に結合する抗体を用いて実施すればよい。この方法はインビトロで実施でき、また、すでに採取された細胞サンプルを用いて実施することが可能であるので、医師の指示によらず、検査会社等により実施することができる。本方法は、虚血性疾患のハイリスク群の抽出、早期発見に有用である。
また本発明は、血管に移植するための血管内皮細胞を取得するための、上記血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出する方法に関する。また本発明は、血管内皮細胞の剥脱に対する血管内腔面への血管内皮細胞の補充のために用いるための、上記血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出する方法に関する。また本発明は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む薬剤であって、血管に移植するための血管内皮細胞を取得するための薬剤の製造、あるいは血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む薬剤であって、血管内皮細胞の剥脱に対する血管内腔面への血管内皮細胞の補充のために用いるための薬剤の製造における、RGS5遺伝子に対するプローブやプライマー、またはRGS5蛋白質に結合する抗体の使用に関する。また本発明は、上記において検出された血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を、血管に移植する工程を含む、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を血管に移植する方法に関する。また本発明は、上記において検出された血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を、血管に移植する工程を含む、血管内皮細胞の剥脱に対する血管内腔面への血管内皮細胞の補充方法に関する。
本発明の方法により同定された血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞の血管への移植は、血管内壁に直接移植してもよく、例えば適当な基材やステントなどに血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含ませ、それを血管内部に移植することもできるが、好ましくはPVVT移植技術を用いて移植される。血管内壁に直接投与する場合、血管内皮細胞の全身投与ではなく、血管平滑筋細胞の増殖している血管狭窄部または血管内皮細胞の剥離部位に直に接触させることが好ましい。血管内皮細胞を基材に担持させる方法に制限はない。ステントを用いる場合は、筒状形状記憶性基材等を用いることができる。医療器具として公知のカテーテル、医療用チューブも、基材として使用可能である。
基材の材質は、ステンレス、タンタル、コバルト合金、ニッケル・チタン合金等の金属、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、生体吸収性ポリマー等の樹脂である。上記金属にポリ四フッ化エチレン膜、シリコーン膜、ポリウレタン膜等を被覆したものでもよい。
血管内皮細胞の投与量に制限はないが、例えば投与1箇所あたり 1x102 〜 1x1010、好ましくは 1x103 〜 1x109、または 1x104 〜 1x108 であり、1箇所または数か所(2、3、4、5〜10箇所)に投与することができる。また、投与は一回でも複数回(2〜10回)行ってもよい。
PVVT移植技術については、例えば血管内皮細胞を基材と混合したものを、処置血管の外膜面上に置くだけで遂行が可能である。血管内皮細胞と混合する基材としては、血管内皮細胞の生存性を損なわず、かつ生体に対して毒性を発揮することなく、血管内皮細胞を包埋できるものであれば何でもよく、例えば、細胞外マトリックスや、細胞外マトリックスから抽出されたペプチドや多糖体分子等、またはこれらの合成産物などが挙げられる。血管内皮細胞の投与量に制限はないが、例えば投与1箇所あたり 1x102 〜 1x1010、好ましくは 1x103 〜 1x109、または 1x104 〜 1x108 であり、1箇所または数か所(2、3、4、5〜10箇所)に投与することができる。また、投与は一回でも複数回(2〜10回)行ってもよい。また血管内皮細胞を含む基材は、上記の投与に適するように適宜調製すればよい。
また本発明は、血管内皮細胞および/または血管内皮前駆細胞(EPC)におけるRGS5の発現または、RGS5遺伝子のプロモータの下流に所望のインディケータ遺伝子が挿入されたノックイン血管内皮細胞にインディケータ遺伝子を指標とする、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞増殖抑制活性を上昇または低下させる化合物または培養条件のスクリーニング方法に関する。当該発現を低下させる化合物または培養条件は、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞増殖抑制活性を上昇させ、それにより血管平滑筋細胞の増殖の抑制、血管平滑筋の肥厚の抑制、および血管狭窄、および血管狭窄に伴う各種疾患・障害(動脈硬化症、虚血性脳血管障害(虚血性脳血管障害、虚血性心疾患)を含む)を抑制することが期待できる。すなわち本発明の上記スクリーニング方法は、血管平滑筋細胞の増殖の抑制、血管平滑筋の肥厚の抑制、血管狭窄を抑制する薬剤、および血管狭窄に伴う各種疾患・障害(動脈硬化症、虚血性脳血管障害(虚血性脳血管障害、虚血性心疾患)を含む)等に対する医薬(治療薬、予防薬、および処置薬)のスクリーニング方法ともなる。これらの疾患には、閉塞性動脈硬化症、血管平滑筋肥厚を伴う疾患(PCI施術後の再狭窄、閉塞性動脈硬化症、虚血性脳血管障害、虚血性心疾患、閉塞末梢動脈疾患、血管炎の血管狭窄性病変等を含む)が含まれ、特にPCI施術に伴う術後再狭窄やステント血栓症の発症を抑制する薬剤のスクリーニングとして有用である。
RGS5遺伝子の発現レベルを指標にした血管狭窄抑制薬(抗血管狭窄薬、血管狭窄予防および/または治療薬)のスクリーニングは、例えば以下の2つの方法により遂行が可能である。一つは、悪玉血管内皮細胞に種々の薬剤を添加し、RGS5発現量が低下したものを選別するものである。もう一つは、善玉血管内皮細胞に種々の薬剤を添加し、RGS5発現が誘導されたものを選別し、さらにそれらの薬剤の作用をブロックする物質を別途選別するものである。なお前者のスクリーニングは、後者のスクリーニングを包含する。
前記のRGS5発現レベルの検定は、real time PCRの技術によるquantitative RT-PCR(RT-qPCR)等によるmRNA量の測定や、ドット・ブロットやEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)等による蛋白量の測定により遂行可能である。
また、血管狭窄抑制薬に関するハイスループットなスクリーニング法としては、以下の2つの方法が挙げられる。1つは、悪玉血管内皮細胞を用いて、RGS5遺伝子のプロモータ(注:University of California, Santa Cruz Collage (UCSC)のGenome Browserより検索が可能、genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgGateway)(例えば、NM_003617.3(RGS5 transcript varient 1)の転写開始点下流の3kbまたは4kb)の下流に、Green Fluorescent Protein (GFP)等のインディケータ遺伝子の発現ユニットをインフレームでノックインした細胞株を樹立し、これを96穴や386穴等の培養プレートに播種し、種々の薬剤を添加した後にマルチウェル・プレートリーダー等でインディケータ遺伝子の発現量を測定し、GFP蛍光等のシグナル値が減少した薬剤を選別するものである。
もう1つは、スーパー善玉血管内皮細胞を用いて、RGS5遺伝子のプロモータの下流に、GFP等のインディケータ遺伝子の発現ユニットを挿入したものをノックインした細胞株を樹立し、これを96穴や386穴等の培養プレートに播種し、種々の薬剤を添加したものをマルチウェル・プレートリーダー等で測定し、GFP蛍光等のシグナル値が増加した薬剤を抽出し、その作用をブロックする物質を別途選別するものである。なおこの方法は、前者のスクリーニング方法に含まれる。
また血管狭窄予防薬に関するハイスループットなスクリーニング法としては、以下の方法が挙げられる。即ち、ヒトES由来血管内皮細胞などの「ストレス負荷により悪玉化する善玉内皮細胞」を96穴や386穴等の培養プレートに播種し、種々の薬剤をあらかじめ添加したうえで、過酸化水素等の悪玉化誘発ストレスを負荷し、一定時間培養したのちマルチウェル・プレートリーダー等で測定し、ストレス負荷によるGFP蛍光等のシグナルの上昇が阻止または抑制された薬剤を選別するものである。
本発明は、RGS5遺伝子の「血管内皮細胞の悪玉化における役割」を明示することで、血管狭窄に対する遺伝子治療の開発に向けた有用な指標を提供する。即ち、狭窄部、または血管形成術施行部に、RGS5遺伝子の発現を抑制するためのRNA interference (RNAi)ベクター等を血管内皮細胞に特異的に導入することで、血管狭窄に対する遺伝子治療が可能となる。
すなわち本発明は、血管内皮細胞におけるRGS5遺伝子および/または蛋白質の発現、あるいはRGS5蛋白質の活性を阻害する工程を含む、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を上昇させる方法、および血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を製造する方法を提供する。RGS5遺伝子および/または蛋白質の発現を阻害する方法は特に限定されず、例えばRGS5 mRNAを標的とするRNAi核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、デオキシリボザイム、microRNA、抗microRNA核酸分子、デコイ核酸、DNAアプタマー、RNAアプタマー、CRISPR interference(Qi, L.S. et al., Cell, 2013, 152:1173-83)などを含む機能性核酸、RGS5蛋白質に対する抗体、抗体断片、その他の所望のRGS5アンタゴニスト、あるいはそれらを発現するベクターなどを用いて実施することができる。またインビボおよびインビトロで実施することができる。RNAi核酸としては、例えばsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、CRISPR interference、またはそれらをコードするDNAまたはベクターなどが含まれる。また、RGS5 mRNAを標的とするRNAi核酸は、miRNA(microRNA)であってもよい。miRNAは、RGS5 mRNAの3' 非翻訳領域に結合してRGS5遺伝子の発現を抑制するものである。RNAi核酸のサイズは、通常19〜30ヌクレオチド長、好ましくは19〜25ヌクレオチド長、さらに好ましくは19〜23ヌクレオチド長である。RGS5遺伝子に対するアンチセンス核酸は、RGS5 mRNAのCDS全体またはその部分に相補的なRNA配列、該RNAをコードするDNA、該RNAを発現するベクターなどであってよい。これらの核酸は、固相ホスホアミダイト法など周知の化学合成技術を用いて合成することができる。
shRNAは、siRNAのセンス鎖配列とアンチセンス鎖配列との間にループを有する二本鎖RNAであり、好ましくはその3' 末端に1〜5個、好ましくは2〜3個のUからなるオーバーハングを含む。これらは、例えばリポフェクタミン、リポフェクチンなどの所望のトランスフェクション試薬やベクターを利用して細胞に導入することができる。
すなわち本発明は、RGS5に対するshRNA、siRNA、miRNA等を含むRNAi核酸などのRGS5阻害核酸、またはそれらを発現するベクター、あるいはその他の所望のRGS5アンタゴニスト(発現阻害剤または活性阻害剤を含む)を含む、血管内皮細胞の悪玉化阻害剤、すなわち血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を上昇させるための薬剤を提供する。また本発明は、所望のRGS5アンタゴニスト(shRNA、siRNA、miRNA、それらを発現するベクター等の発現阻害剤、およびアゴニスト抗体やその他の低分子化合物等の活性阻害剤を含む)を含む、血管内皮細胞を用いた治療の併用剤を提供する。また本発明は、該RGS5アンタゴニストの血管内皮細胞の悪玉化阻害剤の製造における使用、すなわち血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を上昇させるための薬剤の製造における使用を提供する。また本発明は、血管内皮細胞を用いた治療の併用剤の製造における、該RGS5アンタゴニストの使用を提供する。また本発明は、血管内皮細胞の悪玉化阻害のために使用されるRGS5アンタゴニスト、すなわち血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を上昇させるために使用されるRGS5アンタゴニスト(shRNA、siRNA、miRNA、それらを発現するベクター等の発現阻害剤、およびアゴニスト抗体やその他の低分子化合物等の活性阻害剤を含む)を提供する。また本発明は、血管内皮細胞を用いた治療において併用するための、RGS5アンタゴニストを提供する。
RGS5アンタゴニストは、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞増殖抑制活性を上昇させ、それにより血管平滑筋細胞の増殖は抑制される。従って、RGS5アンタゴニストは血管平滑筋の肥厚抑制剤、血管狭窄抑制剤、および血管狭窄に伴う各種疾患・障害(動脈硬化症、虚血性脳血管障害(虚血性脳血管障害、虚血性心疾患)を含む)に対する医薬として有用である。すなわちRGS5アンタゴニスト(shRNA、siRNA、miRNA、それらを発現するベクター等の発現阻害剤、およびアゴニスト抗体やその他の低分子化合物等の活性阻害剤を含む)は、閉塞性動脈硬化症、PCI施術後の再狭窄、閉塞性動脈硬化症、虚血性脳血管障害、虚血性心疾患、閉塞末梢動脈疾患、血管炎の血管狭窄性病変等の発症を抑制するための医薬として有用であり、特にPCI施術に伴う術後再狭窄やステント血栓症の発症を抑制する医薬として有用である。
また、RGS5は、血管内皮細胞の悪玉化を誘発する原因遺伝子として、本発明により初めて、血管内皮細胞における意義と役割に関する情報が提供されたが、RGS5遺伝子の発現を制御する上流シグナル、およびRGS5蛋白の効果を伝達する下流シグナルもやはり、血管構造維持の生理学研究、ならびに、血管狭窄の病態生理の理解に向けた病理学的研究において重要な情報を与えるものであり、さらに新しい創薬標的を提供する可能性を持つ。
即ち、本発明は、RGS5遺伝子という血管内皮細胞の善玉/悪玉制御の鍵遺伝子を提供することで、血管に関する生理学、病理学における未解明の問題に対する研究ツールを提供する。
また、RGS5遺伝子は血管内皮細胞の悪玉化遺伝子であることから、患者の血管内皮細胞における発現量を調べることで、将来的な血管狭窄の発症に関するリスク診断が可能である。血管組織を患者から得て調べてもよいが、例えば末梢血を流れる血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells: EPC)で発現量を調べることも有効である。なおEPCは、末梢血からCD34とCD14の二重陽性細胞として回収する、末梢血単核球を専用培地で培養するなど、汎用の方法で得ることができる。
すなわち本発明は、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を判定または予測する方法であって、血管内皮前駆細胞(EPC)におけるRGS5の発現を検出する工程、および該発現を、当該前駆細胞から生成される血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が低いこと、および/または血管平滑筋細胞の増殖を促進する活性が高いことの指標とする工程を含む方法を提供する。EPCにおけるRGS5の発現が低いまたは検出されなければ、該EPCから生成される血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性は高く、血管平滑筋細胞の増殖や血管平滑筋の肥厚は起こりにくい、すなわち血管狭窄の発症リスクは低いと判断される。EPCにおけるRGS5の発現が高い場合は、該EPCから生成される血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性は低く、血管平滑筋細胞の増殖や血管平滑筋の肥厚が起こりやすい、すなわち血管狭窄の発症リスクは高いと判断される。発現レベルの基準は適宜決定することができ、例えば上記の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出する方法における基準値を用いてよい。被験対象となるEPCは、多能性幹細胞などからインビトロで生成させた細胞であってもよく、あるいは患者から採取した細胞であってもよい。採取した細胞における発現を調べることで、その細胞のもととなるEPCの集団の特性を推定することができる。RGS5の発現は、mRNAの検出および/または蛋白質の検出を行えばよく、mRNAの検出はRGS5遺伝子に対するプローブやプライマーを用いて、RGS5蛋白質の検出は、RGS5蛋白質に結合する抗体を用いて実施することができる。この方法はインビトロで実施でき、また、すでに採取された細胞サンプルを用いて実施することが可能であるので、医師の指示によらず、検査会社等により実施することができる。
本発明により、血管狭窄に対するPCI治療において不可避的に生じ、「術後再狭窄」および「ステント血栓症」の発症の原因である「血管内皮細胞剥脱」という有害事象に対し、血管平滑筋増殖抑制作用のある「善玉血管内皮細胞」を動脈内腔面に移植し、PCI等の処置により傷害された血管を修復することで、術後再狭窄およびステント血栓症が防止された、血管狭窄の根治に繋がる新規な治療技術が提供された。
生体内でゲル化する基材に「善玉血管内皮細胞」を包埋したものを、PCI等の処置を行なった動脈の血管壁の上面に置く経vasa vasorum移植技術により、血管内皮細胞が剥脱された動脈の内腔面に一層の血管内皮細胞が補充され、血管構造は整復される。なお移植に用いる善玉血管内皮細胞の品質管理は、従来は、細胞培養のための設備と、4日以上の培養期間が要されたが、悪玉遺伝子RGS5の同定により、RGS5 mRNAまたは蛋白質を検定するだけで、半日以内の時間で、かつ培養設備を要さずに、善玉血管内皮細胞を「RGS5陰性血管内皮細胞」として検証することが可能となった。なお「善玉血管内皮細胞」は、ヒト多能性幹細胞やヒトEPC等からも作製が可能であるが、血管狭窄の根治を目指したPVVT治療においては、各種のストレスに耐性を持ち、長期に善玉形質を保持する「スーパー善玉血管内皮細胞」を用いることが最も好ましく、「スーパー善玉血管内皮細胞」はセンダイウイルスベクターを用いて樹立されたヒトiPS細胞から、WO2008/056779に記載の方法で血管内皮細胞を作製することで得られる。
血管狭窄に対して、現在、広く施行されている血管形成術(ステント留置術)において社会問題ともなっている「再狭窄防止」および「ステント血栓症」の発症を防止するための最善かつ唯一の方法は、施術部で不可避的に生じる「血管内皮細胞の欠損状態」という有害事象を速やかに解消することである。本発明は、PVVTという新しい血管内皮細胞移植技術の提供により、高い圧力の脈流が流れる動脈内腔面へ迅速に血管内皮細胞を補充することを可能とする。また血管内皮細胞の「善玉」「悪玉」の品質評価に関する遺伝子マーカー(RGS5)を提供することで、従来よりも迅速に血管内皮細胞の品質管理を図ることが可能となる。これにより、世界の死因の第一位である心虚血性疾患、および第二位の脳血管障害(含、脳梗塞)などの虚血性疾患を制圧するための道が開かれ、地球レベルでの健康寿命の延長が達成される。これは、現在、世界各国で問題となっている医療費破綻の問題に対して有効な解決策となる。
虚血性疾患は世界的に罹患者数が多いうえ致命率も高いことから、その制圧に繋がる新規な治療技術の開発は、世界的市場を持つ巨大医療産業の創成を介して、甚大な経済的利益をもたらす。例えば、PVVTに使用する「スーパー善玉血管内皮細胞」のバンクは、ヒトSeV-iPS細胞バンクを活用することで創成が可能であり、全世界の医療機関に向けての「虚血性疾患の細胞治療用マテリアル」として販売が可能であり、当該市場の大きさを鑑みれば、得られる経済効果は甚大である。
また、「スーパー善玉血管内皮細胞」をバンク化せずとも、数種類程度の株が作製できれば、血管学領域における基礎研究ツール、および血管狭窄を標的とした創薬研究ツールとして、全世界の研究施設や製薬企業等への販売が可能であり、当該市場の大きさを鑑みれば、得られる経済効果は甚大である。
さらに、「血管内皮細胞の悪玉化誘発に関わる鍵遺伝子(RGS5)」を提供することで、血管狭窄に関するリスク診断が可能となる。即ち、世界の死亡原因の上位を占める虚血性疾患の制圧に向けて、ハイリスク群の抽出、早期発見、早期治療、といった積極的な対策が展開できる。即ち、虚血性疾患の診療と治療に関するコストベネフィットを高めることとが可能となる。
なお、本明細書に記載した任意の技術的事項およびその任意の組み合わせは、本明細書に開示されているとみなされるべきものである。また、それらの発明において、本明細書に記載の任意の事項またはその任意の組み合わせを除外した発明も、本明細書に開示されているとみなされるべきものである。また本発明に関して、明細書中に記載されたある特定の態様は、それを開示するのみならず、その態様を含むより上位の本明細書に開示された発明から、その態様を除外した発明も開示するものである。例えば本発明は、ES細胞を用いない発明であってもよく、ES細胞以外の細胞に由来する血管内皮細胞を用いる発明に限定された発明も開示するものである。
図1は、動脈血管の基本的構造(含vasa vasorum)を示す図。血管構造は大まかに、内腔面を裏打ちする一層の内皮細胞、その外側に広がる数層の血管平滑筋細胞、さらにその外側の外膜から構成される。外膜からは「血管の血管」(vasa vasorum)が侵入して平滑筋細胞等へ栄養を供給する。 図2は、HUVECから樹立したSeV-iPS細胞から作製した血管内皮細胞の形質を示す図。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いてセンダイウイルスベクターで山中4因子を導入して樹立したiPS細胞から血管内皮細胞を作製した。形態学的に血管内皮細胞の特徴を認め、血管内皮細胞の各種マーカー(PECAM1、NOS3、VWF)の発現、さらには血管内皮細胞の機能としてのコード形成能を認めた。 図3は、マウス大腿動脈に対するwire injury処置(血管内膜剥脱処置)による血管狭窄モデルの妥当性を示す図(大腿動脈切片のHE染色図)。マウス大腿動脈にワイヤーを挿入し、擦過して内皮細胞を剥脱すると(wire injury手術)、血管平滑筋細胞は増殖し平滑筋層(←→で示す)が肥厚する。 図4は、マウス大腿動脈へのwire injury処置後のヒトSeV-iPS由来血管内皮細胞のper-vasa vasorum移植(PVVT)の効果を示す図(大腿動脈切片のHE染色図)。血管内腔面の裏打ちする内皮細胞(左図、矢印)は、wire injury施術により完全に剥離する(中図)。施術1週間後には血管平滑筋細胞は増殖を開始し、平滑筋層(括弧)は肥厚し、内腔面にフィブリン塊(矢頭)が付着する(中図、矢頭)。SeV-iPS由来内皮細胞移植群(右図)では、一層の血管内皮細胞が内腔面を裏打ちしフィブリン塊の付着は見られず、血管平滑筋細胞の肥厚も見られない。 図5は、図4の実験における抗ヒトPECAM1抗体を用いた免疫染色によるヒト由来血管内皮細胞の同定を示す図(蛍光顕微鏡写真)。移植したヒトSeV-iPS由来内皮細胞を同定するために、ヒト血管内皮細胞を特異的に認識する抗ヒトPECAM1抗体を用いた免疫染色を行った。マウス血管内皮細胞はこの抗体で認識されないが(上中図)、ヒトSeV-iPS由来内皮細胞を移植した個体では血管内腔面に抗ヒトPECAM1抗体(緑ラベル)で認識される血管内皮細胞が検出される(矢印)。左図および右図には、DAPI染色(青)による細胞核も示されている。 図6は、各種の善玉・悪玉内皮細胞におけるマイクロアレイデータ(パネル1、2)を示す図。パネル1:ヒト善玉EPC由来血管内皮細胞とヒト初代培養血管内皮細胞(悪玉)でのマイクロアレイ。パネル2:各種のヒトEPC由来血管内皮細胞(善玉・悪玉)でのマイクロアレイ。略語:EPC1dEC(P7)=ドナー1成人骨髄EPC由来血管内皮細胞(継代数7)、EPC1dEC(P12)=ドナー1成人骨髄EPC由来血管内皮細胞(継代数7)、EPC1dEC(P12)=ドナー1成人骨髄EPC由来血管内皮細胞(継代数12)、UCEPC1dEC(P7)=ドナー1臍帯EPC由来血管内皮細胞(継代数7)、EPC2dEC(P7)=ドナー2成人骨髄EPC由来血管内皮細胞(継代数7)、HUVEC=ヒト臍帯静脈内皮細胞、HAEC=ヒト大動脈内皮細胞、HMVEC=ヒト微小血管内皮細胞。 図7は、悪玉内皮細胞におけるRGS5遺伝子のノックダウンの効果を示す図。悪玉血管内皮細胞であるHUVECにおいてRNAi法(shRNA発現ユニットの導入)によりRGS5遺伝子発現をノックダウンした際のRGS5 mRNA発現量(左)、および接触共培養時の血管平滑筋の増殖(右)への影響。 図8は、善玉内皮細胞におけるRGS5遺伝子の強制発現の効果を示す図。善玉血管内皮細胞であるSeV-hiPS(BJ)dECにおいて、RGS5遺伝子発現ユニット導入によりRGS5遺伝子を過剰発現した際の、RGS5 mRNA発現量(左)、および接触共培養時の血管平滑筋の増殖(右)への影響。 図9は、各種の善玉・悪玉内皮細胞でのRGS5 mRNAのreal time PCRによる定量を示す図。(A) 各種のヒト血管内皮細胞(善玉・悪玉)のRGS5 mRNAをreal time PCRにより定量した。縦軸はコントロール遺伝子GAPDHに対するRGS5 mRNAの発現量を対数で表示した。略語:EPC1dEC[P6]=ドナー1成人骨髄EPC由来血管内皮細胞(継代数6)、EPC1dEC[P13]=ドナー1成人骨髄EPC由来血管内皮細胞(継代数13)、EPC2dEC[P8]=ドナー2成人骨髄EPC由来血管内皮細胞(継代数8)、HUVEC=ヒト臍帯静脈内皮細胞、HAEC=ヒト大動脈内皮細胞、HMVEC=ヒト微小血管内皮細胞、HCAEC=ヒト冠動脈内皮細胞、SeV-hiPS(BJ)dEC[P9]=BJ細胞から作製したSeV-hiPS細胞株に由来する血管内皮細胞(継代数9)、SeV-hiPS(HU)dEC[P10]=HUVECから作製したSeV-hiPS細胞株に由来する血管内皮細胞(継代数10)。(B) (A) の縦軸を、SeV-hiPS(BJ)dEC[P9]の数値を1とした相対値として表したもの。 図10は、善玉内皮細胞、スーパー善玉内皮細胞における過酸化水素水処理時のRGS5 mRNAのRT-PCRによる発現を示す図。略語:hES(KhES-5)dEC[P3]=ヒトES細胞(KhES-5株)由来血管内皮細胞(継代数3)、SeV-hiPS(HU)dEC[P11]=HUVECから作製したSeV-hiPS細胞株に由来する血管内皮細胞(継代数11)。SeV-hiPS(BJ)dEC[P8]=BJ細胞から作製したSeV-hiPS細胞株に由来する血管内皮細胞(継代数8)。H2O2=過酸化水素水。レーン1:H2O2非添加、レーン2:100μM H2O2 添加2時間後、レーン3:100μM H2O2 添加24時間後、レーン4:200μM H2O2 添加24時間後、レーン5:HUVEC。 図11は、各種の血管内皮細胞(善玉・悪玉)における抗RGS5抗体を用いた免疫染色の結果を示す図(蛍光顕微鏡写真)。各種の血管内皮細胞(善玉・悪玉)における抗RGS5抗体を用いた免疫染色の結果を示す。核(DAPI:青色蛍光)、RGS5蛋白質(赤色蛍光)。左の4パネル(善玉内皮細胞群)ではDAPIシグナルのみが観察され、RGS5のシグナルは見られないが、右の4パネル(悪玉内皮細胞群)では、RGS5蛋白質のシグナルが観察される。略語:hES(KhES-1)dEC(P2)=ヒトES(KhES-1株)由来血管内皮細胞(継代数2)、SeV-iPS(HU)dEC(P11)=HUVEC由来SeV-iPS株由来血管内皮細胞(継代数11)、SeV-iPS(BJ)dEC(P9)=BJ由来SeV-iPS株由来血管内皮細胞(継代数9)。 図12は、各種のヒト血管内皮細胞でのRGS5蛋白発現に関するWestern blottingの結果を示す図。各種の血管内皮細胞(善玉・悪玉)におけるRGS5蛋白量を抗RGS5抗体を用いたウェスタンブロット法で調べた。 図13は、免疫染色によるヒト臨床検体(血管組織標本)でのRGS5蛋白の発現を示す図(蛍光顕微鏡写真)。健常人、高血圧の症例、動脈硬化の症例、全身性エリテマトーデス(SLE)の動脈標本における血管内皮細胞におけるRGS5蛋白質の発現を二重免疫染色法により調べた。核(DAPI:青色蛍光)、RGS5蛋白質(赤色蛍光)、ヒトPECAM1蛋白質(緑色蛍光)。健常人サンプルではRGS5のシグナルは見られず、高血圧、動脈硬化、SLEのサンプルの血管内腔面において、PECAM1のシグナルに一致してRGS5のシグナルが検出される。
以下に、本発明の「血管狭窄治療性血管内皮細胞の血管内腔面移植技術」の一実施形態を添付の図面を用いて説明する。本発明は、高い圧力の脈流が流れる動脈血管において、PCI等の処置により血管内皮細胞が欠損した部位に、血管平滑筋細胞増殖抑制作用のある「善玉」の血管内皮細胞を補充することで、傷害された血管内腔面を血管内皮細胞で被覆して修復する技術を提供する。
本発明は、血管狭窄の治療のための広く施行されているPCI治療において問題となっている「血管内皮細胞の不可避的剥脱」という問題を解決するための手段として有用であるが、本発明の適応はPCI治療との併用に限定されず、血管内皮細胞欠損を伴うその他の血管障害においても適用できる。
本発明はまた、移植すべき血管内皮細胞に必要な資質である「血管平滑筋増殖抑制作用」の有無を、血管平滑筋細胞との共培養実験を行わずに、半日またはそれ以下の時間で評価するための技術を含む。
本発明はまた、血管内皮細胞に関する、「善玉(=血管平滑筋増殖抑制型)」および「悪玉(=血管平滑筋増殖促進型)」の品質評価において、前項に記載の方法で評価する際の「基準となる善玉血管内皮細胞」および「基準となる悪玉血管内皮細胞」を提供する。
本発明はまた、血管内皮細胞の「悪玉化の阻止」「善玉形質の復活」を指標とした、虚血性疾患に対する予防・治療薬のハイスループットなスクリーニングに有用な「細胞ツール」の作製および製造に関する発明を含む。
以下に、「血管狭窄治療性血管内皮細胞の血管内腔面移植技術」の一実施形態を添付の図面を用いて説明する。当該発明は、静脈注射、動脈注射、心腔内注射などの「血管内への移植」によっては達成できない、動脈内腔面への血管内皮細胞の移植を、動脈自身を栄養するvasa vasorum(邦訳:「血管の血管」)を介する移植により実行する技術である。
「Vasa vasorumを介した移植」、即ち、per-vasa vasorum transplantation(PVVT)とは、移植に用いる血管内皮細胞を、あらかじめ適当な基材と混合したうえで動脈壁の外側に置く、という極めて簡便な処置である。この場合の基材は、血管内皮細胞を包埋することができ、かつ細胞毒性がない(または非常に低い)ものであれば、何でもよい。例えば、細胞外マトリックスや、細胞外マトリックスから抽出されたペプチドや多糖体分子等、またはこれらの合成産物などが挙げられる。ここで細胞外マトリックスには天然および人工の細胞外マトリックスが含まれる。細胞外マトリックスは、例えばコラーゲンなどの蛋白質、ヒアルロン酸などの多糖類、および/またはプロテオグリカンなどを含むものであってよい。
上記の基材としては、血管内皮細胞と混合する際にはゾル状であり、移植後にゲル状になるものでもよい。例えば、「BDマトリゲル 基底膜マトリックス」(BD社製)や「PuraMatrixTM」(BD社製)がこれに相当するが、本発明の適用はこれらに限定されない。
また上記の基材は、HyStem TM ヒドロジェル(HyStem, HyStem-C, HyStem-HP)(Sigma-Aldrich社製)、コラーゲンスポンジハニカム(株式会社高研社製)などの、細胞の三次元培養に用いるスキャフォールドであってもよい。
また上記の基材は、アルギン酸三次元培養キット(株式会社PGリサーチ社製)のようにカルシウム存在下でゲル化するものであってもよい。
基材は血管外膜面に乗せやすい形状が好ましく、ゲル状、シート状、筒状、板状、微小磁性粒子等、所望の形態であってよい。
移植に用いる血管内皮細胞については特に制限はなく、血管狭窄に対する治療を目的として使用する際は、「血管平滑筋増殖抑制作用」を持つ「善玉」の血管内皮細胞を含むことが好ましい。
上記において、血管内皮細胞の「善玉」「悪玉」に関する品質評価は、例えば「特許文献1」に記載の方法等で実施が可能である。しかし、本発明の適用はこれに限定されない。
また血管内皮細胞の「善玉」「悪玉」に関する品質評価は、RGS5の発現レベルを検定することによっても可能である。ここで、RGS5の発現レベルが高いほど悪玉、すなわち血管平滑筋増殖抑制作用が低い、および/または血管平滑筋増殖促進細胞を有すると判定され、RGS5の発現レベルが低い(または検出されない)ほど善玉、すなわち血管平滑筋増殖抑制作用が高いと判定される。例えば「悪玉」の血管内皮細胞はRGS5陽性であり、「善玉」の血管内皮細胞はRGS5が陰性である。
哺乳動物のRGS5遺伝子の塩基配列および蛋白質のアミノ酸配列はすでに知られている(ヒト(NM_003617.3; NP_003608.1; NM_001254749.1; NP_001241678.1; AK315357.1; BAG37752.1)、テナガザル(XM_003258790.2; XP_003258838.1)、ゴリラ(XM_004027804.1; XP_004027853.1)、チンパンジー(XM_001174440.1; XP_001174440.1)、オランウータン(XM_002809862.2; XP_002809908.1)、アカゲザル(NM_001260517.1; NP_001247446.1)、ジャイアントパンダ(XM_002920096.1; XP_002920142.1)、イヌ(XM_545784.3; XP_545784.2)、ネコ(XM_003999541.1; XP_003999590.1)、ウシ(NM_001034707.2; NP_001029879.1)、マウス(NM_009063.3; NP_033089.2)、ラット(NM_019341.1; NP_062214.1))。本発明においてRGS5遺伝子および蛋白質には、哺乳動物の天然および/または野生型RGS5遺伝子および蛋白質が含まれる。RGS5遺伝子の発現は、mRNAや蛋白質を公知の方法で検出することで測定することができる。
なお本明細書に記載した塩基配列およびアミノ酸配列などのデータベースアクセッション番号が参照された配列は、例えば本願の出願日および優先日における配列を参照するものであって、本願の出願日および優先日のいずれ時点における配列としても特定することができ、好ましくは本願の出願日における配列として特定される。各時点での配列はデータベースのリビジョンヒストリーを参照することにより特定することができる。
またRGS5遺伝子には、上記に示したRGS5遺伝子のコード配列の相補鎖、または配列番号:1で示されるRGS5遺伝子の塩基配列(またはそのコード配列 (CDS))の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAが含まれる。
ハイブリダイゼーションにおいては、例えば上記に示したRGS5遺伝子のコード配列またはその相補配列を含む核酸、またはハイブリダイズの対象とする核酸のどちらかからプローブを調製し、それが他方の核酸にハイブリダイズするかを検出することにより同定することができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件は、例えば60℃、好ましくは65℃、より好ましくは68℃で、2xSSC、好ましくは1xSSC、より好ましくは0.5xSSC、より好ましくは0.1xSSCでハイブリダイズする条件である。具体的には、例えば 5xSSC、7%(W/V) SDS、100μg/ml 変性サケ精子DNA、5xデンハルト液(1xデンハルト溶液は0.2%ポリビニールピロリドン、0.2%牛血清アルブミン、及び0.2%フィコールを含む)を含む溶液中、60℃、好ましくは65℃、より好ましくは68℃でハイブリダイゼーションを行い、その後ハイブリダイゼーションと同じ温度で2xSSC中、好ましくは1xSSC中、より好ましくは0.5xSSC中、より好ましくは0.1xSSC中で洗浄する条件である。洗浄は、例えば振蘯しながら2時間行う。例えば本発明のRGS5遺伝子には、上記に示したRGS5遺伝子のコード配列の相補鎖、または配列番号:1のコード配列の相補鎖とストリンジェントな条件、具体的には、例えば 62℃、0.5xSSC、好ましくは 65℃、0.5xSSC、より好ましくは 65℃、0.2xSSC の条件下でハイブリダイズするDNAが含まれる。
またRGS5遺伝子および蛋白質には、上記に示した各哺乳動物のRGS5遺伝子のコード配列の相補鎖、または配列番号:1で示されるRGS5遺伝子の塩基配列、あるいは上記に例示した各哺乳動物のRGS5蛋白質のアミノ酸配列、または配列番号:2で示されるRGS5蛋白質のアミノ酸配列と高い同一性を持つ遺伝子および蛋白質が含まれる。高い同一性とは、例えば70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、または98%以上の同一性を有する塩基配列またはアミノ酸配列である。配列の同一性は、例えばBLASTプログラム(Altschul, S. F. et al., J. Mol. Biol. 215: 403-410, 1990)を用いて決定することができる。例えばNCBI(National Center for Biothchnology Information)のBLASTのウェブページにおいて、デフォルトのパラメータを用いて検索を行うことができる(Altschul S.F. et al., Nature Genet. 3:266-272, 1993; Madden, T.L. et al., Meth. Enzymol. 266:131-141, 1996; Altschul S.F. et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402, 1997; Zhang J. & Madden T.L., Genome Res. 7:649-656, 1997)。例えば2つの配列の比較を行うblast2sequencesプログラム(Tatiana A et al., FEMS Microbiol Lett. 174:247-250, 1999)により、2配列のアライメントを作成し、配列の同一性を決定することができる。ギャップはミスマッチと同様に扱い、例えば天然型遺伝子(または配列番号:1)のCDS全体または蛋白質(例えば配列番号:2)のアミノ酸配列全体に対する同一性の値を計算する。具体的には、それぞれ比較元となる遺伝子(例えば配列番号:1や上記に例示した哺乳動物RGS5遺伝子)のCDSまたは蛋白質の全塩基数またはアミノ酸数における、一致する塩基数またはアミノ酸数の割合を計算する。
またRGS5遺伝子および蛋白質には、上記に示した各哺乳動物のRGS5遺伝子のコード配列の相補鎖、または配列番号:1で示されるRGS5遺伝子のCDSの塩基配列、あるいは上記に例示した各哺乳動物のRGS5蛋白質のアミノ酸配列、または配列番号:2で示されるRGS5蛋白質のアミノ酸配列から改変された塩基配列またはアミノ酸配列を含む遺伝子および蛋白質が含まれる。改変されている塩基数またはアミノ酸数に特に制限はないが、例えば元となる遺伝子(例えば配列番号:1や上記に例示した哺乳動物RGS5遺伝子)のCDSの全塩基数または蛋白質の全アミノ酸の30%以内、好ましくは25%以内、より好ましくは20%以内、より好ましくは15%以内、より好ましくは10%以内、5%以内、または3%以内であり、例えば20アミノ酸以内、好ましくは15アミノ酸以内、好ましくは10アミノ酸以内、より好ましくは8アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、より好ましくは3アミノ酸以内である。アミノ酸の置換の場合は、側鎖の性質が似たアミノ酸に置換することにより蛋白質の活性を維持することが期待できる。このような置換は、本発明において保存的置換という。保存的置換は、例えば塩基性アミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸 (例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性アミノ酸 (例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性アミノ酸 (例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐アミノ酸 (例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族アミノ酸 (例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などの各グループ内のアミノ酸間の置換などが挙げられる。また、例えば、BLOSUM62置換マトリックス(S. Henikoff and J.G. Henikoff, Proc. Acad. Natl. Sci. USA 89: 10915-10919, 1992)において、正の値の関係にあるアミノ酸間の置換が挙げられる。
実施例に示す通り、RGS5遺伝子および蛋白質は、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を低下させる活性を有する。またRGS5遺伝子および蛋白質は、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を促進する活性を有する。この活性は、例えば血管内皮細胞においてRGS5遺伝子を発現させ、血管平滑筋細胞の増殖に対する影響を調べることで検出することができる。その場合、血管内皮細胞としては、RGS5が発現していない、または発現レベルが低い血管内皮細胞が好ましく、例えばセンダイウイルスベクターで誘導したiPS細胞から作製した血管内皮細胞を好適に用いることができる。また、RGS5を発現する血管内皮細胞において、shRNAやsiRNA等でRGS5の発現を阻害し、血管平滑筋細胞の増殖が低下することを確認することで、RGS5の血管平滑筋細胞の増殖を促進する活性を確認してもよい。また本発明のRGS5遺伝子および蛋白質は、好ましくは血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が低い、または失われた血管内皮細胞で発現が高いという特性を有する。また本発明のRGS5遺伝子および蛋白質は、血管平滑筋細胞の増殖を促進する血管内皮細胞で発現するものであってよい。
またRGS5蛋白質は、好ましくは G(i)-αおよび/またはG(o)-αに結合する活性を有する。またRGS5蛋白質は、好ましくは、G蛋白質のαサブユニットのGTPase活性の増加により誘導されるシグナル伝達を阻害する活性を有する。またRGS5蛋白質は、好ましくは、G蛋白質のGDP結合型への移行を促進する活性を有する。
上記でRGS5の発現を調べるための手段としては、Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction(RT-PCR)法、real time RT-PCR法、免疫染色法、Western blotting法、ドット・ブロット法、ELISA (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay) 法など、RGS5遺伝子産物(mRNAまたは蛋白質)の発現が検討できるものであれば何でもよい。
前項における、RGS5 mRNAまたは蛋白質の発現の評価においては、適宜基準を設定してよい。評価の際に用いる、基準となる「善玉」の血管内皮細胞に特に制限はないが、例えば特許文献1に記載の方法で「善玉」と判断されたるものを用いることができ、また基準となる「悪玉」の血管内皮細胞は、特許文献1に記載の方法で「悪玉」と判断されるものを用いることができる。
「基準となる善玉血管内皮細胞」は、より好ましくは、センダイウイルスベクターを用いて樹立したヒトiPS(SeV-iPS)細胞から作製した血管内皮細胞が挙げられる。RGS5 mRNAまたは蛋白質の発現がこれと同様であれば、その血管内皮細胞は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が高い、極めて好ましい血管内皮細胞だと判断される。
市販の「ヒト初代培養血管内皮細胞」に関しては、その多くが「悪玉」であることが報告されているが(特許文献1、非特許文献2)、ヒト初代培養血管内皮細胞からも、本発明の方法により血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が比較的高い細胞を選別することが可能である。そのように選別された細胞は血管内腔面への血管内皮細胞の移植のために使用することができるので、本発明における適用から除外されない。
市販の「ヒト血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell; EPC)」に由来する血管内皮細胞に関しては、作製直後は「善玉」であっても継代培養を繰り返すと「悪玉」となることが報告されているが(特許文献1、非特許文献2)、継代培養を繰り返した後でも、本発明の方法により血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が比較的高い細胞を選別することが可能である。本発明の方法により選別された細胞は、血管内腔面への血管内皮細胞の移植のために使用することができ、本発明における適用から除外されない。
また、血管内皮細胞は、多能性幹細胞等から作製された血管内皮細胞であってもよい。多能性幹細胞から作製された血管内皮細胞は、移植に好適に用いられる。
上記の「多能性幹細胞等」とは、ES細胞、iPS細胞、精巣幹細胞、成体幹細胞、Muse細胞などのpluripotent stem cells、間葉系幹細胞 などのmultipotent stem cells、およびEPCなどの組織前駆細胞、などが挙げられる。多能性幹細胞の調整は公知の方法に従って実施することができる(Suemori, H. et al., Dev.Dynamics, 222: 273-279, 2001; Thomson, J.A. et al., Proc.Natl.Acad.Sci,USA, 92: 7844-7848, 1995; Thomson, J.A. et al., Biolol.Reprod. 55: 254-259, 1996; Thomson, J.A. et al., Science 282: 1145-1147, 1998; Reubinoff, B.E. et al. Nat.Biotech. 18: 399-404, 2000)。
ES細胞由来血管内皮細胞に関しては、作製直後には「善玉」であっても、継代培養を行なうと「悪玉」なることが報告されているが(非特許文献2、非特許文献3)、本発明の方法により血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が比較的高い細胞を選別することが可能である。そのようにして本発明の方法により選別された細胞は、本発明における適用から除外されない。それらの細胞は血管内腔面への血管内皮細胞の移植のために有用である。また多能性幹細胞はES細胞以外の細胞であってもよい。本発明は、ES細胞を除く細胞を用いる発明も含まれる。また本発明は、ES細胞に由来する細胞を除く血管内皮細胞を用いる発明にも関する。また本発明は、胚破壊を伴う方法により取得された細胞を用いる発明が除外された発明にも関する。
iPS細胞由来血管内皮細胞に関しては、材料としては所望の体細胞等を用いてよく、例えば皮膚由来繊維芽細胞などを用いることができる。また初期化因子を体細胞で発現させる手段としては、レトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター、プラスミドベクター、エピゾーマルベクター、トランスポソンベクター、などのベクターを用いるものや、合成RNAやリコンビナント蛋白の導入等、iPS細胞が樹立されるものであれば何でもよい。また初期化に用いる転写因子のセットも、山中4因子(Oct3/4, Sox2, Nanog, Myc)や、Thomson4因子(Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28)など、iPS細胞が樹立されるものであれば制限はない。
レトロウイルスベクターで樹立したiPS(Ret-iPS)細胞に関しては、作製された血管内皮細胞は、作製直後から「悪玉」であるか、作製直後は「善玉」であっても、継代培養を行なうと「悪玉」となることが報告されているが(非特許文献2、非特許文献3)、本発明の方法により血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が比較的高い細胞を選別することが可能である。そのようにして本発明の方法により選別された細胞は、本発明における適用から除外されず、血管内腔面への血管内皮細胞の移植のために用いられうる。なおヒトRet-iPS細胞から血管内皮細胞を作製する方法としては、特許文献2に記載の技術等が挙げられるが、「善玉」の血管内皮細胞が作製されるものであればそれに限定されない。
またRet-iPS細胞の樹立に際しては、初期化に用いる体細胞としては所望の体細胞を用いてよく、また初期化に用いる転写因子などのリプログラミング因子のセットも、山中4因子や、Thomson4因子など、iPS細胞が樹立されるセットであれば制限はない。また用いるレトロウイルスベクターの構造は、iPS細胞が樹立されるものであれば制限はない。
iPS細胞由来血管内皮細胞に関しては、センダイウイルスベクターで樹立したiPS(SeV-iPS)細胞は、作製された血管内皮細胞が長期に渡り「善玉」の形質を保持する「スーパー善玉血管内皮細胞」であることが報告されていることから(非特許文献2、非特許文献3)、血管狭窄への治療を目的として使用する際の最も有力なマテリアルとなり得る。なおSeV-iPS細胞から血管内皮細胞を作製する方法としては、特許文献2に記載の技術等が挙げられるが、「善玉」の血管内皮細胞が作製されるものであれば制限はない。
またSeV-iPS細胞を樹立する際には、初期化に用いる体細胞としては所望の体細胞を用いてよく、また初期化に用いる転写因子などのリプログラミング因子のセットも、山中4因子や、Thomson4因子など、iPS細胞が樹立されるセットであれば制限はない。また用いるセンダイウイルスベクターの構造は、iPS細胞が樹立されるものであれば制限はない。センダイウイルスベクターによるiPS細胞の誘導は、WO2010/008054、および WO2012/029770 の記載に従って実施することができる。
SeV-iPS細胞の樹立に用いる体細胞としては、HUVECなどの「悪玉」の血管内皮細胞であってもよい。
本発明の方法を用いれば、これらの血管内皮細胞から、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む細胞を取得することができる。すなわち本発明は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む細胞集団を製造する方法であって、上記本発明の方法により血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出する工程、および該細胞を含む細胞集団を回収する工程を含む方法に関する。具体的には本発明は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む細胞集団を製造する方法であって、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性の指標として血管内皮細胞におけるRGS5の発現を検出する工程、および血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有すると判断された血管内皮細胞を含む細胞集団を回収する工程を含む方法に関する。RGS5の発現がないまたは低い血管内皮細胞は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有すると判断される。また本発明は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む細胞集団を製造する方法であって、血管内皮細胞を含む1または複数の細胞集団を製造する工程、該細胞集団において、上記本発明の方法により血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出する工程、および、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞が検出された細胞集団を選択する工程を含む方法に関する。具体的には本発明は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む細胞集団を製造する方法であって、血管内皮細胞を含む1または複数の細胞集団を製造する工程、該細胞集団において、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性の指標として血管内皮細胞におけるRGS5の発現を検出する工程、および血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有すると判断された血管内皮細胞を含む細胞集団を回収する工程を含む方法に関する。複数の細胞集団を検査する場合は、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性が高い細胞集団、すなわち、RGS5の発現がより低い細胞集団を選択することが好ましい。また本発明の方法により、血管内皮細胞が、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞であるかを確認することが可能であり、血管平滑筋細胞を用いることなく、血管内皮細胞の品質評価を迅速に実施することができる。
また本発明は、RGS5の発現を検出するプライマーまたはプローブ、あるいはRGS5蛋白質に結合する抗体を含む、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出するための試薬に関する。また本発明は、RGS5の発現を検出するプライマーまたはプローブ、あるいはRGS5蛋白質に結合する抗体を含む、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を判別するための試薬に関する。また本発明は、当該試薬の製造における、RGS5の発現を検出するプライマーまたはプローブ、あるいはRGS5蛋白質に結合する抗体の使用に関する。
また本発明は、血管内皮細胞におけるRGS5の発現を検出し、当該発現を低下または上昇させる化合物または培養条件を、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖抑制活性をそれぞれ上昇または低下させる化合物または培養条件と判断することを含むアッセイ方法を提供する。また本発明は、血管内皮細胞におけるRGS5の発現を検出し、当該発現を低下または上昇させる化合物または培養条件を選択する工程を含む、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖抑制活性をそれぞれ上昇または低下させる化合物または培養条件のスクリーニング方法を提供する。
披験化合物に特に制限はなく、低分子化合物、低分子無機化合物、低分子有機化合物、ペプチドまたは非ペプチド化合物、蛋白質、抗体、抗体断片、微生物培養物または培養上清などが挙げられるが、それらに制限されない。例えば被験化合物の非存在下と比較して、あるいは被験化合物の濃度に依存して、RGS5の発現を低下または上昇させる化合物は、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖抑制活性をそれぞれ上昇または低下させる化合物の候補となる。
また本発明は、血管内皮細胞におけるRGS5の発現を検出する代わりに、RGS5遺伝子のプロモータの下流にインディケータ遺伝子が挿入されたノックイン血管内皮細胞を用い、当該細胞のインディケータ遺伝子の発現を検出する、上記のアッセイ方法およびスクリーニング方法に関する。ノックイン細胞の作製は公知の方法で行うことができる。RGS5のコード領域をインディケータの遺伝子のコード領域と入れ替えれ、あるいはインフレームで挿入して融合蛋白質として発現するようにすればよいので、RGS5のプロモータ領域を同定することは必須ではない。インディケータ遺伝子としては特に制限はなく、RGS5以外の所望の異種遺伝子および異種蛋白質を用いることができるが、例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)などのような蛍光蛋白質、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、抗体断片、エピトープペプチド、タグ蛋白質またはタグペプチド、薬剤耐性因子、およびHSV-tk(ガンシクロビル(GCV)と組み合わせて用いる)などの細胞死誘導蛋白質などをコードする遺伝子が挙げられる。例えばタグペプチド・タグ蛋白質を利用した蛋白質発現検出法としては「蛋白質蛍光ラベル法」を利用することができる(堀雄一郎,菊地和也, 生化学 第83巻第2号, 135-139 (2011))。具体的には、Halo Tag (Promega), SNAP-TagTM (New England Biolab), LuminoTM Tag (Life Technologies), Ligand LinkTM Tag (Active Motif) などを利用してRGS5遺伝子の発現を容易に検出することが可能である。すなわちインディケータ遺伝子としては、内在性のRGS5蛋白質にタグが付加された蛋白質をコードするものであってもよい。
すなわち本発明は、RGS5遺伝子のプロモータの下流に所望のインディケータ遺伝子が挿入されたノックイン血管内皮細胞、および当該細胞の、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞のインディケーター(指標および/またはマーカー)としての使用を提供する。また本発明は、当該ノックイン血管内皮細胞の、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性のインディケーター(指標および/またはマーカー)としての使用を提供する。
RGS5遺伝子のプロモータの下流にGFP等のインディケータの遺伝子が挿入されたノックイン細胞を作製し、例えば、「善玉」=「RGS5陰性」、「悪玉」=「RGS5陽性」とすれば、「善玉」=「GFP蛍光陰性」、「悪玉」=「GFP蛍光陽性」であるため、蛍光強度を測定することで、より簡便に血管内皮細胞の品質評価を行なうことが可能となる。このようにして作製されたインディケータ細胞をマルチウェル培養皿に播種し、各々のウェルにスクリーニング用の薬剤を添加して上で蛍光強度等を測定すれば、血管狭窄を標的とした予防・治療薬のハイスループットなスクリーニングの実施が可能となる。
このとき、インディケータ細胞として、HUVEC等の「悪玉内皮細胞」にGFP等のインディケータ遺伝子をノックインした細胞を適用すれば、GFP蛍光等の強度が低下する薬剤を選別することで、血管狭窄の治療薬のハイスループットなスクリーニングの実施が可能となる。
また、インディケータ細胞として、ヒトES細胞由来内皮細胞等の「継代培養や酸化ストレスに対する抵抗性のない善玉内皮細胞」にGFP等のインディケータ遺伝子をノックインした細胞を適用すれば、継代やストレス負荷時のGFP蛍光等の強度増大を阻止する薬剤を選別することで、血管狭窄の予防薬のハイスループットなスクリーニングの実施が可能となる。
また、インディケータ細胞として、ヒトSeV-iPS細胞由来内皮細胞等の「スーパー善玉内皮細胞」にGFP等のインディケータ遺伝子をノックインした細胞を適用すれば、添加によりGFP蛍光等が検出されるようになる薬剤を選別し、それらの薬剤の作用をブロックする物質を別途選別することで、血管狭窄の治療薬のハイスループットなスクリーニングの実施が可能となる。
スクリーニングにより得られた物質は、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖抑制活性を上昇させるための薬剤の候補となる。また、スクリーニングにより選択された物質について、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖抑制活性をさらに確認してもよい。これは血管平滑筋細胞との共培養実験(特許文献1)により実施することができる。スクリーニングされた物質の中から、例えば生体に毒性がないものを選出する。具体的には、血管内皮細胞を含む様々な細胞に候補物質を添加して培養し、細胞傷害の有無を汎用の方法(市販のミトコンドリア呼吸能の測定キット、アポトーシス測定キット等)により評価する。
多くの細胞に対して毒性がないことが確認された物質については、「血管内皮細胞による血管平滑筋増殖抑制効果」を増強する作用のある安全性の高い物質として、虚血性疾患(血管狭窄症、血管平滑筋肥厚、動脈硬化症等を含む)への新規治療薬の候補となる。
血管内皮細胞を取得する方法に特に制限はないが、ヒトSeV-iPS細胞などの、多能性幹細胞から血管内皮細胞を作成する方法を、WO2008/056779並びに特開2010-131373の記載に基づいて実施することが好ましい。具体的な一例を挙げれば、血管内皮細胞は、例えば、
(A) 多能性幹細胞を浮遊培養し、胚葉体または胚葉体類似細胞凝集塊を製造するステップ、
(B) ステップ(A)で得られた胚葉体または胚葉体類似細胞凝集塊を接着培養して浮遊細胞と接着細胞とを含む特定前駆細胞を製造するステップ、
(C) ステップ(B)で得られた特定前駆細胞から浮遊細胞と接着細胞を分離するステップ、および
(D) 分離された接着細胞を接着培養で継代する方法を用いて血管内皮細胞を産生させるステップ
を含む方法により製造することができる。
ステップ(A)では、低吸着性培養容器等を用いて、細胞を、浮遊状態を保った状態で浮遊培養する。培養は、例えばサイトカインの存在下、血清もしくは血清代替物を含む培地または無血清培地で培養する。胚葉体類似細胞凝集塊は、胚性幹細胞から胚葉体が形成される途中の細胞凝集体を意味する。
胚葉体または胚葉体類似細胞凝集塊を形成する方法としては、慣例のハンギング・ドロップ法、慣例の非接着性培養皿を用いた培養、慣例の半固形培地を用いた培養等が挙げられるが、胚葉体または胚葉体類似細胞凝集塊が形成される限り、これらに限定されない。
ステップ(A)で用いるサイトカインは、胚性幹細胞を血液細胞および/または血管内皮細胞に分化させるための因子であればよく、特に限定されない。例えば、幹細胞因子(SCF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(FL)、インターロイキン(IL)(例えば、インターロイキン-3、インターロイキン-6、インターロイキン-15、インターロイキン−11等)、血管内皮成長因子(VEGF)、骨形成タンパク質(BMP;例えば、BMP-4等)、オンコスタチンM、酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子(acidic FGF、basic FGF)、アンギオポイエチンファミリー(例えば、Angiopoietin-1およびAngiopoietin-2)、アクチビン等が挙げられるが、好ましくはSCF, Flt3-リガンド, VEGF, BMP4, IL-6, IL-3を含むもの、が挙げられる。
浮遊培養の期間は、細胞や培養条件、目的の生成物により異なるが、通常、2日〜2週間程度である。期間が短いほど、胚葉体に対する細胞凝集塊の比率が増す。目的の血管内皮前駆細胞へ分化誘導するには、細胞凝集塊を充分形成するまで培養することが好ましい。
ステップ(B)では、最適化された分化培地で前記胚葉体または胚葉体類似細胞凝集塊をくずさずにそのまま、細胞の培養容器への接着性が担保された状態で接着培養することが好ましい。培養は、例えば血管内皮細胞に分化させるための少なくとも一種のサイトカインの存在下で行う。
前記培養容器は、細胞の培養に通常用いられる容器であればよい。培養容器のコート成分としては、多能性幹細胞から血管内皮細胞への分化を誘導するに適したものであればよい。具体的には、ゼラチン等が挙げられる。
前記分化培地は、多能性幹細胞を未分化状態で培養するための培地に、血管内皮細胞に分化させるための少なくとも一種のサイトカインを添加した培地を意味する。該培地は、所望により、細胞の維持および分化に悪影響を及ぼさない限り、適切な他の添加物を含有していてよい。
前記分化培地の基本培養成分としては、多能性幹細胞から血管内皮細胞への分化を誘導するのに適した培地であればよく、具体的には、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)等が挙げられる。
基本培養成分に添加する蛋白成分としては、SeV-iPS細胞から血管内皮細胞への分化を誘導するに適したものであればよく、具体的には、牛胎児血清、ヒト血清(免疫拒絶反応を誘発する危険性の少ないAB型血清を使用することが好ましい)などの血清、KNOCKOUT SR(登録商標、インビトロジェン社製)等が挙げられる。
ステップ(B)で用いるサイトカインの例は、血管内皮成長因子(VEGF)、幹細胞因子(SCF)、Flt3リガンド(FL)、インターロイキン(IL)(例えば、インターロイキン-3、インターロイキン-6)、骨形成タンパク質(BMP;例えば、BMP-4等)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic FGF)、アンギオポイエチンファミリー(例えば、Angiopoietin-1およびAngiopoietin-2)、アクチビン等である。好ましくは、ステップ(B)で用いる培地は、VEGF、BMP-4、SCF、Flt3-リガンド、IL-3、およびIL-6を含む。
分化誘導における培養条件は、用いられるSeV-iPS細胞の種類により適宜設定することができるが、37℃、5体積%CO2の条件等が挙げられる。
接着培養は、特定前駆細胞が形成されるまで行う。特定前駆細胞とは、浮遊細胞(培養液中に浮遊する性質を有する球状または球状に近い形状の細胞)と接着細胞(培養容器に接着する細胞)を含む、胚葉体または胚葉体類似の細胞凝集塊から分化した前駆細胞を意味する。これは、浮遊細胞としての球状細胞集団と接着細胞を含む嚢状構造物(内部に球状細胞集団を含有する)を形成する場合があるが、嚢状構造物は必ずしも形成されない。
血管内皮細胞へ分化しつつある血管内皮前駆細胞を、特定前駆細胞中の接着細胞から誘導することができる。そこで、血管内皮前駆細胞の集団の選択を、位相差顕微鏡下、細胞の組織的形態の観察に基づいて行う。その際、胚葉体を崩さずに新しい培養皿で接着培養を続けながら、位相差顕微鏡下で観察し、組織的形態を判定し選別する。
ステップ(C)では、浮遊細胞と接着細胞とを含む特定前駆細胞から、浮遊細胞と接着細胞を分離する。そのために、培養液中の浮遊細胞および嚢状構造物中の球状細胞を遠心等で分離する。嚢状構造物からの球状細胞の分離は、適当な方法で該嚢状構造物に開口部を設けて球状細胞を浮遊させることで行う。通常、嚢状構造物の開口部は培養により再度閉鎖され、その内部には球状細胞が充満してくる。嚢状構造物が形成されない場合には、浮遊細胞と接着細胞を適宜分離する。
分離された接着細胞(血管内皮前駆細胞を含む)から、適宜、より成熟傾向のある血管内皮細胞を分離してもよい。それには、血管内皮前駆細胞から血管内皮細胞を細胞膜表面でのVE-cadherin陽性PECAM1陽性の二重陽性集団として分離する。具体的には、VE-cadherin、PECAM1等のマーカーに対する特異的抗体を用いたフローサイトメトリーによるセルソーティング、該抗体を保持した磁気ビーズを用いるセルソーティング等により血管内皮細胞を分離する。
ステップ(D)では、分離された接着細胞(血管内皮前駆細胞を含む)またはそこから適宜分離された血管内皮細胞を、分化培地上の接着培養で継代する方法により拡大生産する。
こうして得られた血管内皮細胞は、実質上、異種動物細胞の混入や異種動物由来ウイルスの感染がないという優れた性質を有する。また、血管内皮細胞は、高純度で均質である。
血管内皮細胞は、バンバンカー(日本ジェネティックス社製)等の細胞凍結保存専用液内、窒素ガス凍結条件下で維持することができる。
本発明により、血管狭窄に対するPCI治療に伴って生じる「不可避的な血管内皮細胞の剥脱」は解決されるが、PCIと本発明との併用により血管構造が正常化したあかつきには、ステントはもはや要らなくなる。金属製のステントは、治癒後に回収してもよい。一定期間後に溶解してなくなる生体吸収性ポリマー(例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン等)でできた筒状形状記憶性基材(ステント)は、治癒後に回収する手間がいらないので特に好ましい。当該基材は、適宜血管内皮細胞で被覆される。好ましくは、本発明の方法により選択された平滑筋細胞増殖抑制作用を持つ血管内皮細胞で被覆される。血管内皮細胞を基材に被覆するにあたっては、例えば血管内皮細胞をシート状に培養して血管内皮細胞シートを作製することが有効である。細胞シートの作製するには、例えばUpCell(登録商標、CellSeed株式会社製)などを利用すればよい。
移植する血管内皮細胞として、ヒトSeV-iPS由来内皮細胞を用いる場合は、ヒトSeV-iPS由来内皮細胞は「善玉形質を保持したまま長期に自己増幅することが可能」であることから、一旦、病変部に補充された血管内皮細胞は、その後も長期間に局所で機能を発揮する。即ち、平滑筋細胞増殖抑制作用を持つ「善玉」の血管内皮細胞が血管内腔面に存在することで、長期に渡って血管平滑筋細胞の不適切な増殖が阻止されることから(=病的血管の正常化)、血行再建術から一定期間経過後にステントを除去する、または生体吸収性ステントを使用した血行再建術を行う等、ステントフリー状態での再狭窄防止治療を施行ことが可能となる。即ち、これまで懸案となっていたステント(=異物)に対する免疫反応の惹起は完全に防止される。
すなわち、本発明を利用すれば、
(A) 多能性幹細胞を浮遊培養し、胚葉体または胚葉体類似細胞凝集塊を製造するステップ、
(B) ステップ(A)で得られた胚葉体または胚葉体類似細胞凝集塊を接着培養して浮遊細胞と接着細胞とを含む特定前駆細胞を製造するステップ、
(C) ステップ(B)で得られた特定前駆細胞から浮遊細胞と接着細胞を分離するステップ、
(D) ステップ(C)で分離された接着細胞を接着培養で継代する方法を用いて血管内皮細胞を産生させるステップ
(E) ステップ(D)で作製された多能性幹由来血管内皮細胞の「善玉」「悪玉」に関する、RSG5 mRNAまたは蛋白質の発現検討による品質評価のステップ、
(F) ステップ(D)で作製された多能性幹由来血管内皮細胞を基材に包埋したうえで血管外膜面に載せる、PVVT移植のステップ
からなる、優れたPVVT移植を実現することが可能である。ステップ(A)〜(D)は上述したものと同様であって、ステップ(A)は、例えば、サイトカインの存在下、血清もしくは血清代替物を含む培地または無血清培地で行い、ステップ(B)は、例えば血管内皮細胞に分化させるための少なくとも一種のサイトカインの存在下で培養する。ステップ(E)で善玉であることが確認された細胞についてステップ(F)が実施される。
また本発明は、血管内皮細胞を含む試料の一部(aliquot)について、RSG5 mRNAまたは蛋白質の発現を検出する工程、および、RSG5 mRNAまたは蛋白質の発現がない、または低いと判断された血管内皮細胞または該細胞を含む基材を血管外膜面に載せる工程、を含む、血管内皮細胞を血管内腔に移植する方法に関する。また本発明は、当該方法に用いるための血管内皮細胞またはそれを含む細胞試料、および、当該方法に用いるための、血管内皮細胞またはそれを含む細胞試料の使用に関する。
また本発明に基づき、「悪玉内皮細胞」「善玉内皮細胞」「スーパー善玉内皮細胞」を用いて、RGS5プロモータ下流にインディケータ遺伝子を挿入した「血管狭窄予防・治療薬スクリーニング・ツール」を作製すれば、血管平滑筋細胞で逐一アッセイすることなく、血管狭窄予防・治療薬を効率的にスクリーニングすることが可能となる。
なお、本願明細書に記載した遺伝子名はよく知られており、この分野の研究者にとっては明確かつ容易に同定できるものである。参考のため、以下に各遺伝子の通称および正式名称を記す([]内はofficail symbol)。
(1) RGS5: regulator of G-protein signaling 5 [RGS5]
(2) VE-cadherin: cadherin 5, type 2 (vascular endothelium) [CDH5]
(3) PECAM1: platelet/endothelial cell adhesion molecule 1[PECAM1]
(4) NOS3: nitric oxide synthase 3 (endothelial cell) [NOS3]
(5) von Willebrand factor: von Willebrand factor [VWF]
(6) VEGFR1: fms-related tyrosine kinase 1 [FLT1]
(7) VEGFR2: kinase insert domain receptor (a type III receptor tyrosine kinase) [KDR]
(8) Tie2: TEK tyrosine kinase, endothelial [TEK]
(9) smooth muscle cell actin (ACTA2: actin, alpha 2, smooth muscle, aorta): actin, alpha 2, smooth muscle, aorta [ACTA2]
(10) platelet-derived growth factor receptor, beta polypeptide (PDGFRβ): platelet-derived growth factor receptor, beta polypeptide [PDGFRB]
(11) VEGF: vascular endothelial growth factor A [VEGFA]
(12) BMP4: bone morphogenetic protein 4 [BMP4]
(13) SCF: KIT ligand [KITLG]
(14) Flt3-リガンド:fms-related tyrosine kinase 3 ligand [FLT3LG]
(15) IL3: interleukin 3 (colony-stimulating factor, multiple) [IL3]
(16) IL6: interleukin 6 (interferon, beta 2) [IL6]
(17) Oct3/4: POU class 5 homeobox 1 [POU5F1]
(18) Sox2: SRY (sex determining region Y)-box 2 [SOX2]
(19) Nanog: Nanog homeobox [NONAG]
(20) Myc: v-myc myelocytomatosis viral oncogene homolog (avian) [MYC]
(21) Lin28: lin-28 homolog A (C. elegans) [LIN28A]
(22) FGF: fibroblast growth factor 2 (basic) [FGF2]
(23) G-CSF: colony stimulating factor 3 (granulocyte) [CSF3]
(24) GM-CSF: colony stimulating factor 2 (granulocyte-macrophage) [CSF2]
(25) M-CSF: colony stimulating factor 1 (macrophage) [CSF1]
(26) EPO: erythropoietin [EPO]
(27) トロンボポエチン(TPO): thrombopoietin [THPO]
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。また、本明細書中に引用された文献およびその他の参照は、すべて本明細書の一部として組み込まれる。
[実施例1]センダイウイルスベクターを用いたヒト人工多能性幹細胞の誘導:
まず、継代数11のヒト新生児包皮由来線維芽細胞(BJ) (ATCC(www.atcc.org), CRL-2522) 5.0 x 105(個)を6穴プレート上で、 10 % FBS含有DMEM (Life Technologies, Inc.,Grand Island,NY,USA)を用いて、37℃、5% CO2インキュベータにて培養した。また、継代数4のHUVEC(Lonza Group Ltd., Basel, Switzerland)2.5 x 105(個)を6穴プレート上で、EGM2ブレットキット培地(Lonza Group Ltd.)を用いて、37℃、5% CO2インキュベータにて培養した。また培養後に、MOI=3の濃度の下記(a)〜(d)のベクターを培養した細胞に感染させた(WO2010/008054)。
(a)SeV18+ OCT3/4/TSΔFベクター
(b)SeV18+ SOX2/TSΔFベクター
(c)SeV18+ KLF4/TSΔFベクター
(d)SeV(HNL)-c-rMyc/TS15ΔFベクター
ベクターを感染後、翌日に10%FBS含有DMEMで培地交換を行った。その後、6日間、37℃、5 % CO2インキュベータにて培養した。その後、ゼラチンコート10cm培養皿に用意したX線照射処理済みのマウス胎児線維芽細胞(MEF)6.0×105(個)の上で、Accutaseで剥がした上記導入細胞の5.0×104(個)から5.0×104(個)を培養した。翌日、10% FBS含有DMEMから霊長類ES細胞用培地(ReproCELL Inc.,Toyko, Japan)(5ng/mlになるようFGF2を添加した)に培地交換し、3% CO2インキュベータで培養した。培地交換は毎日行った。
コロニーは数日後から現れ、20日程度培養することで、ヒト胚性幹細胞様のコロニーが出現した。これらは、誘導前のBJ細胞やHUVEC細胞とは明らかに異なり、ヒト胚性幹細胞に見られるのと同様の扁平なコロニーが見られた。このヒト胚性幹細胞様のコロニーは、従来報告されている外観のものと同様であった。これらのコロニーは、マイクロピペットで単離した後、新しいMEF上で培養した。そしてヒト多能性幹細胞用剥離液(0.25% trypsin (Life Technologies社製), 1 mg/ml collagenase IV(和光純薬工業株式会社製),20% KnockOut(登録商標) Serum Replacement(Life Technologies社製),1mM CaCl2)を用いた剥離操作を介して、安定した継代・増殖培養が可能であった。
上記実験により得られた細胞が、多能性幹細胞に特徴的なマーカーを発現しているか否かを明らかにするために、更に下記実験を行った。
[実施例2]センダイウイルスベクターを用いたヒト人工多能性幹細胞の未分化維持の確認:
フローサイトメーター(FACSCalibur(登録商標))(BD Biosciences)を用いて、ヒト多能性幹細胞の未分化マーカーであるSSEA4, OCT4の発現を調べた。
具体的には、SSEA4については、実施例1で得られたSeV-hiPS細胞を、多能性幹細胞用剥離液(0.25% trypsin (Life Technologies, Inc.), 1mg/ml collagenase IV(和光純薬工業株式会社製),20% KnockOut(登録商標)Serum Replacement(Life Technologies社製), 1mM CaCl2)で回収した後、Trypsin/EDTA液(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO, USA)を用いて分散させたうえで、FACS buffer(X1 PBS, 0.05% NaN3, 5% FBS)に浮遊させた。ここに2% Mouse BD Fc Block (BD Biosciences)を添加した後、抗ヒトSSEA4 phycoerythrin conjugated mouse IgG (R&D, Minneapolis, MN, USA)をX 1/10添加して氷上にて60分静置後、FACS bufferで洗浄し、フローサイトメーターにてSSEA4発現を解析した。
また、OCT4発現については、SeV-hiPS細胞を回収後、FIX&PERM CELL PERMEABILIZATION KIT (Caltag Laboratories, An-Der-Grub, Austria) を用いて細胞の固定・細胞膜透過処理を行ったうえで、2% Mouse BD Fc Block (BD Biosciences)と抗ヒトOCT3/4 phycoerythrin conjugated rat IgG (R&D, Minneapolis, MN) X 1/10を添加し、氷上にて60分静置後、FACS bufferで洗浄し、フローサイトメーターでOCT4発現を解析した。
その結果、実施例1で得られたSeV-hiPS細胞(SeV-hiPS(BJ)iPS, SeV-hiPS(HU)iPS)は、SSEA4, OCT4の各未分化マーカーをいずれも高発現していることが確認された。
また、ヒト多能性幹細胞の未分化マーカーであるSSEA4、OCT4、Nanogの発現を免疫染色法でも確認した。
具体的には、実施例1で得られたSeV-hiPS細胞をアセトン/メタノール(1:3)で固定し、0.1% Triton-X-100 / PBSにより細胞膜透過処理を施したうえで、抗ヒトSSEA4抗体(ES Cell Marker Sample Kit)(Millipore Co, Bedford, MA, USA)、抗ヒトOCT3/4抗体(ES Cell Marker Sample Kit)(Millipore Co)、抗ヒトNanog抗体(ReproCELL Inc, Tokyo, Japan)X 1/100を用いて一次抗体反応を行った。なお、抗ヒトSSEA4抗体、抗ヒトOCT3/4抗体については、Kitのプロトコールにしたがって行った。そして、Alexa Fluor 488標識抗ウサギIgG抗体(Life Technologies, Inc)X 1/2000を用いて二次抗体反応を行った後、蛍光顕微鏡による観察を行った。
その結果、実施例1で得られたSeV-hiPS細胞は、SSEA4, OCT4, Nanogの各未分化マーカーをいずれも高発現していることが確認された。
[実施例3] SeVベクター由来外来遺伝子の除去:
実施例1で得られたSeV-hiPS細胞よりSeVベクター由来外来遺伝子が除去された株を得るためにクローニングを行った。
SeVベクター由来外来遺伝子の除去の目安として、抗SeV抗体(Medical & Biological Laboratories Co., Ltd., Nagoya, Japan)による免疫染色を行った。SeV-iPS細胞を10%マイルドホルム(WAKO Pure Chemical Industries, Osaka, Japan)で固定し、一次抗体として抗SeV抗体、二次抗体としてAlexa Fluor 488標識抗ウサギIgG抗体(Life Technologies, Inc.)を用いた染色を行った後、蛍光顕微鏡による観察を行った。
さらに、transgenes及びSeVゲノムを検出するためにreverse transcription-polymerase chain reaction (RT-PCR)を行った。RTはSuperscript III First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Life Technologies, Inc.)を用いて行った。PCRはGeneAmpRTM PCR System 9700 (Life Technologies, Inc.)を用いて、変性(94℃で5分)、増幅(94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒、30〜35サイクル)、後伸張(72℃で10分)の各ステップを行った。プライマーは、OCT3/4 (Fw: CCCGAAAGAGAAAGCGAACCAG(配列番号:3), Rv: AATGTATCGAAGGTGCTCAA(配列番号:4)),SOX2 (Fw: ACAAGAGAAAAAACATGTATGG(配列番号:5), Rv: ATGCGCTGGTTCACGCCCGCGCCCAGG(配列番号:6)), KLF4 (Fw: ACAAGAGAAAAAACATGTATGG(配列番号:7), Rv:CGCGCTGGCAGGGCCGCTGCTCGAC(配列番号:8)),cMYC (Fw: TAACTGACTAGCAGGCTTGTCG(配列番号:9), Rv: TCCACATACAGTCCTGGATGATGATG(配列番号:10)), SeV (Fw: GGATCACTAGGTGATATCGAGC(配列番号:11), Rv :ACCAGACAAGAGTTTAAGAGATATGTATC(配列番号:12))を用いた。
その結果、実施例1で得られたSeV-hiPS細胞株は、SeV抗原陰性であり、SeVベクター由来外来遺伝子を保持しないことが確認された。そのため、SeV-hiPS細胞株は、レトロウイルスベクターで作製されたiPS細胞に比して、臨床的使用、薬剤評価系、病態モデル系への使用にも適する。
[実施例4] ヒト多能性幹細胞の維持培養:
京都大学・再生医科学研究所より供与されたヒト胚性幹細胞(KhES-1 〜 KhES-5)、および[実施例1]〜[実施例3]により樹立したヒト人工多能性幹細胞(SeV-hiPS(BJ)iPS, SeV-hiPS(HU)iPS)はいずれも、X線照射処理済みのMEF上で、20% Knockout Serum Replacement(KSR)(Life Technologies, Inc.)、5 ng/ml FGF2、1% non-essential amino acids solution、100μM 2-mercaptethanol、2 mM L-glutamine含有DMEM/F12(Life Technologies, Inc.)培地を用いて維持培養を行った。
[実施例5] ヒト多能性幹細胞からの血管内皮細胞の作製
1)分化培地の調製
ヒト胚性幹細胞(KhES-1, KhES-3, KhES-5)および[実施例1]〜[実施例3]に記載の方法で樹立されたヒトSeV-hiPS細胞(SeV-hiPS(BJ)iPS, SeV-hiPS(HU)iPS)を用いて、以下に示す組成の分化培地(サイトカイン添加)(Nakahara M et al., Cloning Stem Cells. 2009, 11:509-522)を用いて血管内皮細胞の分化誘導を行った。
・イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM、シグマケミカル製)、
・15重量% 牛胎児血清(PAA Laboratories GmbH、オーストリア)
・1mM β−メルカプトエタノール(シグマケミカル製)、
・2mM L−グルタミン(インビトロジェン製)、
・終濃度20ng/ml 血管内皮成長因子(VEGF)、
・終濃度20ng/ml 骨形成タンパク質-4(BMP-4)、
・終濃度20ng/ml 幹細胞因子(SCF)、
・終濃度10ng/ml Flt3-リガンド、
・終濃度20ng/ml インターロイキン-3(IL3)、
・終濃度10ng/ml インターロイキン-6(IL6)
2)分化誘導の手技
ステップ(A)
分化培地(サイトカイン添加)を用いた浮遊培養法により、胚葉体類似の細胞凝集塊細胞を作成した。具体的には、直径10cmの円形培養皿で維持中のヒト多能性幹細胞を専用剥離液(リプロセル製)で処理することで剥離回収し、さらにピペッティング操作により細胞集塊をできるだけ細かく分散させた。この際、完全に1個の細胞レベルにまで分散させると細胞生存性が著しく損なわれるため、数個-数十個程度の細胞からなる微小集塊に分散させることを目指してピペッティングを行った。
回収されたヒト多能性幹細胞の微小集塊を、分化培地(サイトカイン不含)で洗浄した後、分化培地(サイトカイン添加)に懸濁させた。これを直径6cmの低吸着培養皿(ヌンク製)に移して、CO2インキュベータにおいて、37℃、5体積%COで3日間浮遊培養した。
ステップ(B)
3日後には培養液中に多数の細胞凝集塊の形成が肉眼的に確認されたので、これらを回収して、0.1%ゼラチンでコートした培養皿(直径10cmまたは6cm)の上で、分化培地(サイトカイン添加)を用いて、COインキュベータにおいて、37℃、5体積%COで接着培養を開始した。以後、3〜4日ごとに培地を交換した。ヒト多能性幹細胞の凝集塊は、平面上に広がりながら生長を続けた。
ステップ(C)
約2週間後に、嚢状構造物の形成、接着細胞の増殖、および浮遊細胞(球状細胞)の産生が確認された。培養上清を回収して遠心することで浮遊細胞(球状細胞)を沈降回収した。接着細胞は、トリプシン/EDTA液(インビトロジェン製)を用いて37℃、5分間反応させることで剥離回収した。
ステップ(D)
回収した接着細胞に関して、0.1%ゼラチンでコートした新しい培養皿で、分化培地(サイトカイン添加)を用いて接着培養を行った。以後、3〜4日ごとに細胞をトリプシン/EDTA液を用いて剥離しながら1/2〜1/3程度の希釈で継代を行ったところ、10回以上の継代培養が可能であった。細胞形態、各種マーカー発現および機能アッセイにより、全ての細胞が血管内皮細胞に分化していることが確認された(SeV-iPS(HU)については図2を参照、他は非特許文献2、非特許文献3を参照)。
[実施例6] ヒトSeV-iPS由来血管内皮細胞(SeV-iPSdEC)のPVVT移植による血管狭窄の防止
1)Wire injury処置によるマウス大腿動脈狭窄モデル
9週令のICR系統マウスの鼡径部に、脱毛(脱毛クリーム)と消毒(ヨード剤)の処置を行った後、ペントバルビタール(ソムノペンチル)麻酔下で、マウスに苦痛を与えずに鼡径部を2 cm程度切開した。先端の丸いピンセットを用いて、鈍的切開により大腿動脈を露出させて大腿深動脈を結紮し、その近位部に横方向に切開を入れ、0.014インチの血行再建ガイド(COCK社製)を腸骨動脈に向けて挿入した。ガイドが下大動脈に達したら、ガイドを10回上下方向に動かして擦過し、さらに5回回転させて擦過することで大腿動脈の内腔面にある血管内皮細胞を、一様かつ完全に剥脱させた。その後は、大腿深動脈の大腿動脈との分岐部に絹糸(6号)をかけて、ガイドを静かに引き抜きながら同部を結紮した。その後は皮膚切開部を縫合した。
上記のwire injury処置により、大腿動脈内腔面から血管内皮細胞が剥離し、血管平滑筋細胞は増殖を開始し、血管狭窄が惹起された。処置後4週間程度で血管狭窄の病理像は完成するとされるが、実際には、図3に示すように、処置2週間後にマウスをソムノペンチル麻酔下で灌流固定し、処置部の大腿動脈を核出し、同部をパラフィン包埋して薄切切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施したところ、すでに明らかな血管平滑筋層の肥厚が観察され、血管狭窄は顕在化していることが判明した。
なお灌流固定は、あらかじめヘパリン含有PBSを左心室から投与し、右心房を切開して脱血しながら、合計50mlのPBS灌流を行なった後に、100μlの4 % paraformaldehyde液を左心室内に投与することで実施した。
2)ヒトSeV-iPSdECの基材への包埋
BJ細胞から作製されたSeV-hiPS細胞株(SeV-hiPS(BJ))から、実施例5に記載の方法で血管内皮細胞(SeV-hiPS(BJ)dEC)を作製した。1x106個のSeV-hiPS(BJ)dEC(継代数13)を、滅菌した1.5 mlチューブに入れて氷上に置いた。また別の1.5 mlの滅菌チューブを氷冷し、20μlのBDマトリゲル 基底膜マトリックス(BD社製)を入れて氷上に置いた。移植する直前に、SeV-iPSdECの培養上清を除去し、200μlのピペットチップを用いて、上記のBDマトリゲル 基底膜マトリックスと混合した。(注:混合後は速やかに、次項3)の処置に用いた)。
3)ヒトSeV-hiPSdECのPVVT移植
あらかじめ、300μgの抗アシアロGM1抗体(和光純薬工業株式会社製)を尾静脈したICR系統マウスを用いて、実施例6の1)の記載の方法でwire injury処置を行なった。この際、wire injury処置における深大腿動脈分枝部の縫合の直後に、大腿動脈壁の上面に、2)で作製した「ヒトSeV-iPSdECマトリゲル包埋体」を200μlのピペットチップから押し出して載せ、大腿動脈の上面で体温によりゲル化させた。その後は、実施例6の1)に記載の方法で、皮下を縫合した。以後は、一週間に2回、300μgの抗アシアロGM1抗体を投与した。なお、抗アシアロGM1抗体は、NK細胞の機能を阻害することで、ヒト由来細胞の生着を促進する目的で投与した。
1週間後にマウスを灌流固定した後で大腿動脈を核出してパラフィン包埋し、薄切切片を作製してヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行なった。結果は、図4に示すように、未処置の大腿動脈では、一層の血管内皮細胞(左図、矢印)が観察された。また、血管平滑筋層は17μm程度であった(左図、中カッコ)。これに対して、wire injury処置を行なったマウスでは、血管内皮細胞は検出されず、血管内腔面にはフィブリン塊が観察され(中央図、矢頭)、血管平滑筋層も30μmに肥厚していた(中央図、中カッコ)。一方、SeV-iPSdECのPVVT移植を行なったマウスでは、一層の血管内皮細胞(右図、矢印)が血管内腔面を被覆しており、血管平滑筋層の厚さも15 μm程度と未処置のマウスと同等またはそれ以下であり、血管平滑筋層の肥厚は完全に抑制されていることが判明した(左図、中カッコ)。
またPVVT移植を行なったマウスの大腿動脈内腔で検出された血管内皮細胞(図4の右図、矢印)が、確かに移植したヒトSeV-iPSdECに由来することは、ヒトの血管内皮細胞のみを認識し、マウスの血管内皮細胞を認識しない「ヒトPECAM1特異的抗体」(Santa Cruz社製、sc-8306)による免疫染色により確認された。即ち、未処置マウスの大腿動脈血管内皮細胞は、この抗体を用いた免疫染色では陰性であったが(図5上図)、ヒトSeV-iPSdECのPVVT移植を行なったマウスの大腿動脈血管内皮細胞は、この抗体を用いた免疫染色で陽性であった(図5下図、矢印)。
以上、ヒトSeV-iPSdECのPVVT移植により、血管内皮細胞の欠損による血管狭窄の惹起は完全に防止された。
[実施例7] 血管内皮細胞の悪玉化遺伝子RGS5の同定
(1)ヒト血管内皮細胞に関するマイクロアレイ解析による「悪玉血管内皮細胞選択的遺伝子RGS5」の抽出
各種のヒト血管内皮細胞(善玉・悪玉)からRNAを回収して、マイクロアレイ(GeneChipTM Human Gene ST Array、Affimetrix社製)を行なった。マイクロアレイはまず最初に、「善玉」としては、「血管平滑筋増殖抑制作用」が確認された「継代数7のヒトEPC由来内皮細胞(ドナー1)」を用いた(非特許文献2)。また悪玉としては、図6のパネル1に示すように、ヒト初代血管内皮細胞として、HUVEC、ヒト大動脈内皮細胞(HAEC)(Lonza Group Ltd., Basel, Switzerland)、ヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)(Dainippon Sumitomo Pharma Co., Ltd., Osaka Japan)を用いた(特許文献1、非特許文献2)(図6のパネル1)。しかし、群間比較で特徴的な発現様式を示す遺伝子が数百以上も見いだされ、絞り込みは困難であった。Bioinformatics(蛋白機能や局在に関する情報等)を加味してさらに候補の絞り込みを試みたが、real time PCRにおいてアレイの結果が再現されなかったり、後述のcDNA導入実験やshRNA導入実験で予想された作用が確認できなかったりしたため、最終的にはすべての遺伝子が候補から外れた。
そこで、さらに悪玉として、図6のパネル2に示すように、「継代数12のヒトEPC由来内皮細胞(ドナー1)」「継代数7のヒトEPC由来内皮細胞(ドナー2)」「継代数7のヒト臍帯EPC由来内皮細胞」を追加的に使用した(非特許文献2)。この際、同一ドナーにおいて継代数を変えたものを追加することで(EPC1dEC[P7]とEPC1dEC[P12])、比較精度を向上させることに成功した。さらに本発明者らは、個体発生の際は平滑筋細胞が活溌に増殖し内皮細胞も平滑筋細胞増殖促進性の形質を呈しており、「胎児EPC由来内皮細胞は全て悪玉である」ことを同定し、悪玉EPCとして成人ドナー以外に、上記の通り「胎児ドナー」を加えることで、さらにサンプルを増やすことに成功した。
結果、パネル1の候補の絞り込みに成功し、この2つのパネルで共通に、「善玉」「悪玉」を特徴づける発現様式を示す遺伝子RGS5を同定することができた。RGS5の発現は、「悪玉」は「善玉」に対してパネル1では10.47〜14.01倍、パネル2では2.73〜3.73倍のシグナル値の上昇を示した。
以上より、悪玉で選択的に発現上昇している遺伝子としてRGS5が同定された。
(2)血管内皮細胞の悪玉化遺伝子RGS5の同定
前項の(1)において、唯一、抽出されたRGS5遺伝子に関して、血管内皮細胞の悪玉化への関与を検証した。
まず、悪玉内皮細胞であるHUVECに、RGS5を標的としたshRNAの発現ベクター(ORIGENE社製)をリポフェクション法で導入してRGS5発現をノックダウンさせ、特許文献1に記載の方法に則って、血管平滑筋細胞の増殖に与える影響を定量的に評価した。結果は、図7に示すように、RGS5を標的とした shRNAの導入により、HUVECにおけるRGS5 mRNAレベルは6割程度に減少し(図7左)、かつ血管平滑筋増殖促進作用は7割強に減少した(図7右)。
次に、「スーパー善玉内皮細胞」であるSeV-iPS由来内皮細胞に、RGS5のcDNA(独立行政法人 製品評価技術基盤機構製(AK315357.1;配列番号:1)をもとに、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)を用いて、第一コドン(ATG)のAから数えて238番目のGをAに、315番めのTをCに置換することで、RGS5 transcript varient 1(NM_003617.3)と塩基配列を同一にしたもの(配列番号:1)を用いた)が挿入された発現ベクターをリポフェクション法で導入し、特許文献1に記載の方法に則って、血管平滑筋細胞の増殖に与える影響を定量的に評価した。結果は、図8に示すように、RGS5発現ベクターの導入によりRGS5 mRNA発現は陽性になり(図8左)、かつSeV-hiPS由来内皮細胞の血管平滑筋増殖抑制作用は約半分に減少した(図8右)。
以上、血管平滑筋増殖促進作用(=悪玉作用)はRGS5のノックダウンにより減少し、血管平滑筋増殖抑制作用(=善玉作用)はRGS5の過剰発現により減少したことから、RGS5は悪玉血管内皮細胞の単なるマーカーではなく、血管内皮細胞の悪玉化そのものに関与している「悪玉化遺伝子」であることが明らかとなった。
[実施例8] RGS5発現の検討による血管内皮細胞の品質評価
(1)Real time RT-PCR法によるRGS5 mRNA発現量の測定による血管内皮細胞(善玉・悪玉)の品質評価
各種のヒト血管内皮細胞、即ち、「善玉」である「ドナー1のEPC由来血管内皮細胞(継代数6)」、「悪玉」である市販ヒト初代血管内皮細胞(HUVEC, HAEC, HMVEC, HCAEC)、および「スーパー善玉」である「SeV-hiPS(BJ)由来血管内皮細胞(継代数9)」と「SeV-hiPS(HU)由来血管内皮細胞(継代数10)」に関して、Applied Biosystem社製のStep One Plus Real-Time PCR Systemを使用して、RGS5 mRNA発現量を測定した。なおプライマーは、(Fw: GGAGGCTCCTAAAGAGGTGA(配列番号:13), Rv: GGGAAGGTTCCACCAGGTTC(配列番号:14))を用いた。またmRNA発現量のNormalizationにはGAPDH(Fw: CCACTCCTCCACCTTTGAC(配列番号:15), Rv:ACCCTGTTGCTGTAGCCA(配列番号:16))を使用した。
結果は図9に示すように、「善玉」および「スーパー善玉」ではRGS5 mRNA発現は低値であり、「悪玉」ではRGS5 mRNA発現が高値であることが判明した。ここで縦軸は対数表示であり、「悪玉」のうちEPCに由来する血管内皮細胞では、RSG5 mRNAの発現が「善玉」の10倍程度に、「悪玉」のうちヒト初代血管内皮細胞(市販)ではRSG5 mRNAの発現が「善玉」の100倍程度に増大していることが解った。
また、与えられた血管内皮細胞が「善玉」であるかどうかの判断は、「善玉」の中で最もRGS5発現値が高かった「SeV-hiPS(BJ)由来血管内皮細胞(継代数9)」と比較し、RGS5メッセージmRNAの発現量が同等(またはそれ以下)であることを検証するか、あるいは、入手が最も容易であるHUVEC等の市販のヒト初代培養血管内皮細胞と比較し、RGS5メッセージ発現量が100分の1程度(またはそれ以下)であるかを検証することで、判断が可能である。
(2)RT-PCRによるRGS5 mRNA発現検討による血管内皮細胞(善玉・悪玉)の品質評価
「善玉」である「ヒトES細胞(KhES-5株)由来血管内皮細胞(継代数3)」、ならびに「スーパー善玉」である「SeV-hiPS(BJ)由来血管内皮細胞(継代数8)」と「SeV-hiPS(HU)由来血管内皮細胞(継代数11)」に対して、強力な酸化ストレスを賦与する過酸化水素(H2O2)の処理を行い、RNAを抽出して、RT-PCRを行なった。RTはSuperscript III First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Life Technologies,Inc.)を用いて行った。PCRはGeneAmpRTM PCR System 9700を用いて、変性(94℃で5分)、増幅(94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒、28サイクル)、後伸張(72℃で10分)の各ステップを行った。用いたプライマーは、(Fw: CTGGATTGCCTGTGAGGATT(配列番号:17), Rv: TCAGGGCATGGATTCTTTTC(配列番号:18)である。なお、RGS5 mRNA発現量を評価するためのインターナル・コントロールは、βアクチン(Fw: GCAGGAGATGGCCACGGCGGC(配列番号:19), Rv: TCTCCTTCTGCATCCTGTCAGC(配列番号:20))を使用した。またRGS5陽性コントロール細胞としてHUVEC(悪玉血管内皮細胞)を用いた。
結果、図10に示すように、通常レベルの「善玉」であるヒトES細胞由来血管内皮細胞ではH2O2処理により細胞形態が変性するとともに、RGS5 mRNAが誘導されて「悪玉」となることが判明した。一方、「スーパー善玉」であるヒトSeV-iPS細胞由来血管内皮細胞ではH2O2処理によっても細胞形態は変化せず、かつRGS5 mRNAは誘導されずに「善玉」の状態を維持することが判明した。
以上、例えば、上記RT-PCRの条件において、RGS5 mRNAのバンドが検出されたものは「悪玉」、検出されなかったものは「善玉」と判断できる。
(3)免疫染色によるRGS5蛋白発現検討による血管内皮細胞(善玉・悪玉)の品質評価
各種のヒト血管内皮細胞、即ち、「善玉」として「ドナー1のEPC由来血管内皮細胞(継代数7)」、「ヒトES細胞(KhES-1株)由来血管内皮細胞(継代数2)」、「悪玉」として「ドナー1のEPC由来血管内皮細胞(継代数12)」、「ドナー2のEPC由来血管内皮細胞(継代数7)」、「ヒトES細胞(KhES-1株)由来血管内皮細胞(継代数4)」、「市販ヒト初代血管内皮細胞(HUVEC, HAEC, HMVEC)」、および「スーパー善玉」として「SeV-hiPS(BJ)由来血管内皮細胞(継代数9)」と「SeV-hiPS(HU)由来血管内皮細胞(継代数11)」を選択し、これらに関して、RGS5に関する免疫染色を行なった。なお一次抗体反応は、抗RGS5抗体(ポリクローナル)(Abcam社、 ab14265) を200倍希釈で用いて行なった。また二次抗体反応は、Alexa Fluor 594 goat anti-chicken IgG (A11042) (Invitrogen社製)を1000倍希釈で用いて行なった。またカウンター染色として、DAPIにより細胞核を染色した。
結果、図11に示すように、「善玉」および「スーパー善玉」ではRGS5免疫染色は陰性であり、「悪玉」はRGS5免疫染色が陽性であった。
以上、好ましい一態様においては、抗RGS5抗体を用いた免疫染色において、陰性のものは「善玉」、陽性のものは「悪玉」と判断できる。
(4)Western blot法よるRGS5蛋白発現検討による血管内皮細胞(善玉・悪玉)の品質評価
「善玉」として「ドナー1のEPC由来血管内皮細胞(継代数6)」、「悪玉」として「ドナー1のEPC由来血管内皮細胞(継代数13)」、「ドナー2のEPC由来血管内皮細胞(継代数8)」を選択し、これらに関して、RGS5に関するWestern blot法を行なった。なお一次抗体反応は、抗RGS5抗体(Abcam社製、 ab83230) を1000倍希釈で用いて行なった。また二次抗体反応は、Anti-rabbit IgG HRP-linked antibody (Cell Signaling社 #7074S) を2000倍希釈で用いて行なった。なお、RGS5蛋白量の発現を評価するインターナル・コントロールはβ-tubulinを適用し、この際の一次抗体反応は、抗β-tubulin 抗体(Santa Cruz社製、sc-9104)を1000倍希釈で用い、二次抗体反応はAnti-rabbit IgG HRP-linked antibody (Cell Signaling社 #7074S) を2000倍希釈で用いて行なった。
結果は、図12に示すように、「善玉」ではRGS5蛋白のバンドは検出されず、「悪玉」はRGS5蛋白のバンドが検出された。
以上、好ましい一態様においては、抗RGS5抗体を用いたWestern blot法において、陰性のものは「善玉」、陽性のものは「悪玉」と判断できる。
[実施例9] 臨床標本を用いた血管内皮細胞(善玉・悪玉)の品質評価
(1)免疫染色法によるRGS5蛋白発現検討による血管内皮細胞(善玉・悪玉)の品質評価
正常人の動脈(USbio社製)、高血圧症例の動脈(BioChain社製)、動脈硬化症例の動脈(BioChain社製)、全身性エリテマトーデス(SLE)症例、の各動脈の凍結固定標本の薄切切片を購入して、実施例8の(3)に記載の方法でRGS5の免疫染色を行なった。なお、血管内皮細胞の同定のために、RGS5とPECAM1との二重染色を行なった。なお免疫染色は、RGS5染色に関しては実施例8の(3)に記載の方法で行い、PECAM1染色に関しては、一次抗体はrabbit poly IgG (Santa Cruz社製、sc-8306) を 50倍希釈で用い、二次抗体はAlexa Fluor 488 goat anti-rabbit IgG (Invitrogen社製、A11008)を1000倍希釈で用いた。またカウンター染色としてDAPIで細胞核を染色した。
結果は、図13に示すように、正常動脈では、血管内腔面に一層の血管内皮細胞が「PECAM1陽性(緑色蛍光陽性)かつRGS5陰性(赤色蛍光陰性)」として検出された。一方、SLE症例では、血管平滑筋層の軽度な肥厚が見られ、かつ血管内腔面に一層の血管内皮細胞が「PECAM1陽性(緑色蛍光陽性)かつRGS5陽性(赤色蛍光陽性)」として検出された。また高血圧症例では、血管平滑筋層の中等度の肥厚が見られ、かつ血管内腔面に一層の血管内皮細胞が「PECAM1陽性(緑色蛍光陽性)かつRGS5強陽性(赤色蛍光陽性)」として検出された。さらに、動脈硬化症例では、血管平滑筋層の高度な肥厚が見られるとともに、血管内腔面に一層の血管内皮細胞が「PECAM1陽性(緑色蛍光陽性)かつRGS5強陽性(赤色蛍光陽性)」として検出され、さらに新生内膜においてもRGS5強陽性細胞が多数検出された。後者に関しては、新生内膜の中に黒く抜けてみえる「vasa vasorum」の周囲に検出されたことから、vasa vasorumを構成する血管内皮細胞(未熟血管内皮細胞であるためPECAM1は陰性である)であると判断された。
以上、臨床検体においても、「善玉」の血管内皮細胞はRGS5陰性、「悪玉」の血管内皮細胞はRSG5陽性、と判断ができる。
本発明者らは、世界の死因の第1位である心血管障害、ならびに第2位である脳血管障害などの虚血性疾患の原因となる「血管狭窄」に対して、現在、広く施行されているPCI療法において問題となっている「術後の再狭窄」および「術後のステント血栓症」の防止策を提供する目的で、これらの合併症の原因となっている「PCI処置そのものが惹起する血管内皮細胞剥脱」という有害事象に対し、その直接的な解決策である「圧力の高い脈流が流れる動脈内腔面への血管内皮細胞補充するPVVT移植」の技術を提供することで、血管内皮細胞が欠損する「傷害血管」を修復することを可能とした。さらにPVVT移植を含む血管内皮細胞の移植において用いる「善玉血管内皮細胞」の品質管理に関して、従来4日以上を要していた共培養技術(特許文献1)に代わり、半日以内に遂行が可能な「迅速評価」の技術を提供した。
上記技術は、血管狭窄のPCI施術後の合併症(再狭窄、ステント血栓症等)を防止するものであり、現行のPCI療法が抱える問題点を克服した、画期的かつ根本的治療を可能とする新しい治療技術である。
本発明は、血管平滑筋細胞の過剰増殖に起因する諸疾患における血管狭窄性病変に対して有効であり、例えば、PCI施術後の再狭窄、閉塞性動脈硬化症、虚血性脳血管障害、虚血性心疾患、閉塞末梢動脈疾患、血管炎の血管狭窄性病変に対して有効である。
虚血性疾患は、現在、世界の主要な死亡原因として位置づけられているが、新興国におけるメタボリック症候群の罹患者数の急激な増大を鑑みると、今後の患者数は世界的に爆発的に増大するものと推測される。虚血性疾患の本体である血管狭窄病変に対する根治療法がまだ確立されていない中で、虚血性疾患の根本的治療を可能とする本発明は、医療産業的観点から世界的マーケットを持つ巨大ビジネスとなることは必至である。
本発明のPVVT移植は、動脈壁の外側部に、善玉血管内皮細胞を包埋した基材を局所注射するという簡便な処置であるため、外来でも施行が可能である。このため、先進国はもちろん、新興国や途上国の市中病院等でも実施は可能である。
また本発明の「血管内皮細胞の品質管理(善玉・悪玉)」に関する迅速評価技術は、細胞培養設備は不要であり、mRNA、または蛋白質の発現を調べるだけの簡便な技術であるため、先進国はもちろん、新興国や途上国の市中病院等や市中検査施設(検査会社)等でも実施は可能である。
また本発明の「血管狭窄予防・治療薬スクリーニング・ツール」としての「インディケータ遺伝子ノックイン血管内皮細胞」は凍結融解が可能であるため、世界のあらゆる国と地域の研究機関および製薬企業等への輸送・販売が可能である。
以上、本発明は、その使用に関して世界のあらゆる国と地域において大きな需要がある。
また本発明の「血管狭窄予防・治療薬スクリーニング・ツール」を適用することで、「血管狭窄予防・治療薬」の開発のみならず、血管平滑筋増殖抑制に寄与する「『善玉血管内皮細胞』と『血管平滑筋細胞』の細胞間相互作用」を伝達する因子の作用を増強するモノクローナル抗体の作製、または血管平滑筋増殖促進に寄与する「『悪玉血管内皮細胞』と『血管平滑筋細胞』の細胞間相互作用」を伝達する因子の作用を阻止するモノクローナル抗体の作製を通じて、「血管狭窄に対する抗体療法の開発」等が可能となる。
以上、本発明の「PVVT治療技術」、「PVVT治療に用いる善玉血管内皮細胞」、「善玉血管内皮細胞の迅速品質評価システム」、ならびに、「血管狭窄予防・治療薬スクリーニング・ツール」の製造・販売は、将来的に世界各国に支店をもつ巨大プラント産業に展開できる。

Claims (13)

  1. 血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する細胞を検出する方法であって、血管内皮細胞におけるRGS5(Regulator of G-protein signaling 5)の発現を検出する工程、および該発現を、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性の低下および/または血管平滑筋細胞の増殖を促進する活性の上昇の指標とする工程を含む方法。
  2. RGS5 mRNAを検出する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  3. RT-PCRまたはリアルタイムRT-PCRによりRGS5 mRNAを検出する工程を含む、請求項2に記載の方法。
  4. RGS5蛋白質を検出する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  5. 免疫染色、エライザ(ELISA)、またはウェスタンブロット法によりRGS5蛋白質を検出する工程を含む、請求項4に記載の方法。
  6. 血管内皮細胞が誘導多能性幹細胞(iPS)から生成された細胞である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
  7. 誘導多能性幹細胞がセンダイウイルスベクターを用いて多能性が誘導された細胞である、請求項6に記載の方法。
  8. 血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む細胞集団を製造する方法であって、請求項1から7のいずれかの方法により該細胞を検出する工程、および該細胞を回収する工程を含む方法。
  9. 血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を含む細胞集団を製造する方法であって、血管内皮細胞を含む1または複数の細胞集団を製造する工程、該細胞集団において、請求項1から7のいずれかの方法により血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する細胞を検出する工程、および、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する細胞が検出された細胞集団を選択する工程を含む方法。
  10. RGS5の発現を検出するプライマーまたはプローブ、あるいはRGS5蛋白質に結合する抗体を含む、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を検出するための試薬。
  11. 血管内皮細胞におけるRGS5遺伝子の発現を阻害する工程を含む、血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性を有する血管内皮細胞を製造する方法。
  12. RGS5遺伝子のプロモータの下流にインディケータ遺伝子が挿入されたノックイン血管内皮細胞の、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞の増殖を抑制する活性のマーカーとしての使用。
  13. 血管内皮細胞および/または血管内皮前駆細胞(EPC)におけるRGS5の発現、あるいはRGS5遺伝子のプロモータの下流にインディケータ遺伝子が挿入されたノックイン血管内皮細胞におけるインディケータ遺伝子の発現を検出し、該発現を低下または上昇させる化合物または培養条件を選択する工程を含む、血管内皮細胞の血管平滑筋細胞増殖抑制活性をそれぞれ上昇または低下させる化合物または培養条件のスクリーニング方法。
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