JP6304657B2 - 乾式研磨法による生体薄片試料の作製方法及び該試料を用いた観察・分析方法 - Google Patents

乾式研磨法による生体薄片試料の作製方法及び該試料を用いた観察・分析方法 Download PDF

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Description

本発明は、生体の硬組織(歯や骨)又は体内にて形成される結石などの硬い石灰化物を含有する試料において、薄片としての光学顕微鏡観察用試料のみならず、走査型電子顕微鏡や電子線マイクロアナライザーなどの分析電子顕微鏡用の試料として用いることが可能な高度な平滑化表面を有する薄片試料の作製法、及び該試料を用いた観察・分析方法に関するものである。
一般的な歯および骨等の硬組織の観察試料としては、脱灰標本あるいは非脱灰標本が用いられている。脱灰標本は、生体硬組織からカルシウム塩を溶出させ軟化させた後、液体浸透性の樹脂により硬化させ、ミクロトームにて厚さ10μm程度に薄く切断することにより、組織の観察に適した試料としたものである。一方、非脱灰標本は、厚さ100μm程度の、表面を研磨した試料とすることにより、無機塩類の分布や石灰化度の違いなどの観察に適した試料としたものである。
硬組織の脱灰標本を製造する方法として、特許文献1には、硬組織の外形および内部構造をそのままにホルムアルデヒドなどの固定処理液へ浸漬して固定化し、その後エタノール等により脱水処理、液体浸透性樹脂を用いての予備浸漬に続き、さらに重合開始剤と液体浸透性樹脂により本浸漬を行い、組織を包埋し、その後、蟻酸水溶液、硝酸水溶液、EDTA水溶液などを用いて脱灰処理を行い、脱灰処理後に再度包埋して、ミクロトームで薄く切り顕微鏡試料に供する試料の製造方法が示されている。この方法により硬組織の微細構造を保持しながら、脱灰標本を製造することが可能となったが、脱灰標本であるため同一試料において、無機塩類の分布や石灰化度などを調べることはできないという問題を持ち合わせていた。
一方、硬組織の非脱灰標本を作製する方法として、特許文献2では、従来の包埋に用いる樹脂に代えて、MMA樹脂などエチレン系不飽和単量体と、これに低温重合し得るアゾ系重合開始剤を用いて非脱灰硬組織を包埋することにより、2〜5μmの厚さに薄く切ることができるため、薄い硬組織の試料の作製が可能であるとしている。
しかし、特許文献2の方法では、薄く切る際に組織が硬いため微細構造が破壊される恐れがあること、また治療後の金属冠を含むような著しく生体硬組織と硬度が違う試料においては薄く切断することができない恐れがあること、そして硬組織を切断するため表面の平滑性に乏しく、電子顕微鏡での組成分析などにおいて精度の高い分析ができないという問題を有していた。
また硬組織の非脱灰標本を作製する別の方法として、特許文献3では、カルボキシメチルセルロース等の水溶液中に硬組織を浸漬した後、凍結することにより包埋した試料を、凍結薄切装置に固定し、その固定した試料の所定面に粘着剤を塗布した薄いプラスチックフィルムを貼り付け、粘着プラスチックフィルムが貼り付いた試料を2〜10μmの所定の厚さに切ることにより、薄い硬組織の試料の作製を可能にしている。
しかし、特許文献3の方法においても、薄く切る際に組織が硬いため微細構造が破壊される恐れがあること、また治療後の金属冠を含むような著しく生体硬組織と硬度が違う試料においては薄く切断することができない恐れがあること、そして硬組織を切断するため、表面の平滑性に乏しく、電子顕微鏡での組成分析などにおいて精度の高い分析ができないという特許文献2の方法と同等の問題を有していた。
また生体硬組織よりも硬い岩石・鉱物の薄片作製においては、通常試料切断時および研磨時に水や油を用いた、湿式による薄片作製法が用いられているが、水や油によって膨潤してしまう脆弱試料では、薄片作製工程において水や油を用いると、膨潤により試料が破壊されてしまうという問題があった。また、崩れやすい脆弱な試料においては試料の硬度を高める為に一般的にエポキシ系かアクリル系の樹脂で包埋するが、熱硬化型樹脂は加熱によって硬化し、冷間硬化型樹脂の一部は自然発熱することによって硬化するため、試料が100℃程度の高温にさらされる。その為、軽石(アロフェン・イモゴライトを含む)・粘土・珪藻土・マンガンノジュール・未石化の化石・イオウや鉄分を含む鉱物など、水分を多く含む脆弱試料では、上記のような一般的な試料硬化に用いられる樹脂により包埋すると、加熱により含有していた水蒸気が蒸発することによりひび割れが生じたり、溶解したりすることにより、未硬化部分が残り、切断または研磨時に試料が破壊されてしまうという問題があった。
上記のように、加熱によりひび割れや破壊が生じたり、水・油などにより膨潤し破壊されてしまう脆弱試料については、高温加熱の必要がなく、発熱も50℃以下となるメタクリル酸メチルモノマーとアゾビス系重合開始剤V-601からなる包埋樹脂キット(和光純薬工業株式会社製、オステオレジン(登録商標))を用いた、乾式法による薄片作製法が開発された(非特許文献1)。この樹脂は、常温硬化型であって、高温加熱の必要がないため、樹脂による固化の際に試料が破壊されず、透過顕微鏡観察用の薄片試料を作製することが可能となった。
また非特許文献の開発では、最終研磨の段階で、メノウ板上で灯油を潤滑剤とした白色溶融アルミナ(ホワイトアランダム)での研磨や、さらなる薄片表面の平滑化が求められる走査型電子顕微鏡・エネルギー分散X線分光法・電子線マイクロアナライザー・反射顕微鏡等に用いられる薄片作製の場合には、可変式自動研磨台の回転台にダイヤモンドペーストを塗布して最終研磨を行うことが試みられた。
特開2006−126176号公報 特開2000−346770号公報 特開2002−31586号公報 粘土科学第50巻第2号p63〜68(2011)
しかしながら、透過顕微鏡用薄片の作製が可能になったとはいうものの、生体の硬組織、又は体内にて形成される石灰化試料に適用するには、以下のとおり、いくつかの問題点があった。
すなわち、薄片を研磨していく工程において、試料を包埋した樹脂は、試料チップの周囲から削れていき平面性を保ちにくいという欠点を持ち合わせていた。
また、鉱物の場合、薄片の厚さ調整については、通常、偏光顕微鏡観察における鉱物の干渉色によって判断を行っていたが、例えば、生体硬組織、又は石灰化試料を、樹脂に包埋した場合など、石英などの標準鉱物が含まれていない試料においては、薄片の厚さを識別する手段がないという致命的な問題点も含まれていた。
また、最終研磨の段階において、メノウ板上で切削油を潤滑液とし研磨剤での研磨を行った場合には、潤滑液により試料が膨潤し破壊されるため、研磨段階においても乾式法による研磨が求められていた。
さらに、樹脂に包理された試料において、より薄片表面を平滑にするため、ダイヤモンドペーストを用いて研磨を行った場合、ペーストに含有されている液体によって試料が膨潤することや、試料中の空隙にダイヤモンドペーストが入り込むと、超音波洗浄でしか取り除けないため、超音波洗浄で用いられる液体によって試料が破壊されるという問題があった。またダイヤモンドペーストに含まれるダイヤモンド粒子の硬度は高く切削角があり、試料表面に切削傷が生じることも課題として残されていた。さらに回転式の可変式自動研磨機に装着した研磨クロス上にダイヤモンドペーストを塗布しても均一に塗り広げることが出来ず、ダイヤモンドペーストが塗布されたクロス上を通過する厚片試料の研磨速度が一定の速度に安定しないため軟弱な部分が削れすぎ薄片作製に支障をきたしていた。そして通常のダイヤモンドペーストを使用して行う研磨では、可変式自動研磨機で冷却剤を滴下しながら回転盤を高速回転させ、1時間以上の研磨を行うため、従来の方法では樹脂が熱により変形し、脆弱な試料は、その回転による摩擦熱と冷却剤になる液体によって破壊されてしまうという欠点を有していた。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、生体の歯や骨等の硬組織、又は体内にて形成される結石などの硬い石灰化物を含む試料に対し、光学顕微鏡などを用いた組織観察を行なうことができ、かつ高度な薄片表面の平滑化が求められる走査型電子顕微鏡・エネルギー分散X線分光法・電子線マイクロアナライザーなどの高精度な分析に用いることが可能な薄片の作製方法を提供することを目的とするものである。
本発明者等は、上記目的を達成すべく、生体の硬組織、又は体内にて形成される結石等の硬い石灰化物を含む試料を樹脂により包埋固化した後、成形切断した試料に対し、その薄片の厚さを判断しながら研磨可能な方法、ダイヤモンドペーストを用いずに高度な薄片表面の平滑化が可能な研磨法の検討を行った。そしてさらに鋭意検討を重ねた結果、試料を切断した後、板状の台座上の少なくとも2辺に、鉱物又は岩石からなる柱状片を貼り付け、該台座の中央に切断後の試料を接着して研磨すること、前記鉱物又は岩石の干渉色を用いて薄片試料の厚さ調整を行うこと、及びアルミナ粉末を含侵させたシルククロスによる研磨を行うことにより、高度な表面の平滑性を有する生体の硬組織又は体内にて形成された結石などの硬い石灰化物を含む試料の薄片を供給することのできる本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
[1]生体硬組織、又は体内に形成された石灰化物を含む試料を、樹脂により包埋固化し、包埋固化した試料を直方体に成形切断した後、試料面を研磨して薄片とする薄片試料の作製方法において、
板状の台座上の少なくとも対向する2辺に、鉱物又は岩石からなり、前記直方体成形物の高さを超える高さを有する柱状片を貼り付け、該台座上の柱状片で囲まれた領域に前記直方体成形物を接着して、研磨を行うことを特徴とする薄片試料の作製方法。
[2]さらに、前記試料及び前記柱状片の研磨面を他の基材に接着した後、該試料及び該柱状片を所定厚さに切断し、該切断面を研磨する工程を有することを特徴とする[1]に記載の薄片試料の作製方法。
[3]前記鉱物又は岩石の干渉色を、偏光顕微鏡を用いて観察することにより、研磨する試料の厚さ調製を行うことを特徴とする[1]又は[2]に記載の薄片試料の作製方法。
[4]アルミナ粉末を含浸させたシルククロスを用いた研磨を行うことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の薄片試料の作製方法。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の方法で作製された薄片試料を用いて、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、エネルギー分散X線分光法、電子線マイクロアナライザー、又は反射顕微鏡による観察・分析を行うことを特徴とする生体硬組織、又は体内に形成された石灰化物を含む試料の観察・分析方法。
本発明の、生体硬組織又は生体内の石灰化物試料の薄片試料作製方法によれば、1枚の同一試料において、光学顕微鏡などを用いた組織観察を行なうことができ、かつ高度な薄片表面の平滑化が求められる走査型電子顕微鏡・エネルギー分散X線分光法・電子線マイクロアナライザーなどの高度な分析に用いることが可能になるという利点を有するものである。
また、本発明の生体硬組織又は生体内の石灰化物試料の薄片試料作製方法によれば、歯の治療後の金属冠と生体硬組織など、同一試料中に相対的に硬いおよび柔らかいものが混在していても、壊れたり脱落したりすることなく、均一な薄片表面を作ることが可能であるという利点を有する。
台座に柱状片(チップ)を貼り付けた際の写真 図1のチップを貼り付けた台座の中央に試料を貼り付けた際の写真 アルミナ粉末を含浸させたシルククロスの写真 生体硬組織(歯)の、高度な平滑面を有する薄片試料の写真
本発明について更に詳細に説明する。
本発明の薄片試料作製法は、生体硬組織、又は体内に形成された石灰化物を含む試料を、樹脂により包埋固化し、包埋固化した試料を直方体に成形切断した後、試料面を研磨して薄片とする、薄片試料の作製方法において、板状の台座上の少なくとも2辺に、鉱物又は岩石からなり、前記直方体成形物の高さを超える高さを有する柱状片を貼り付け、該台座上の柱状片で囲まれた領域に直方体成形物を接着して試料面の研磨を行うことを特徴とするものであり、平面性を保ちつつかつ試料の厚さを判断しながら研磨が可能で、さらには高度な表面の平滑性を有する生体硬組織および石灰化物試料の薄片を可能とする研磨方法により、高度な薄片表面の平滑化が求められる走査型電子顕微鏡・エネルギー分散X線分光法・電子線マイクロアナライザー等の高度な分析に用いることが可能な薄片の作製方法を提供することができるものである。
なお、本発明において、「生体硬組織、又は体内に形成された石灰化物を含む試料」とは、生体の歯や骨などの硬組織、又は体内にて形成される結石などの硬い石灰化物を含む(以下、単に「石灰化試料」ということもある。)を示す。
本発明において、生体硬組織又は石灰化物試料の樹脂による包埋固化にあたっては、常温あるいは低温で硬化が可能でかつ固化時間が短い樹脂を用いることが好ましく、市販の種々の樹脂について検討を重ねた結果、樹脂には、メタクリル酸メチルモノマー、メタクリル酸メチルポリマー、及び重合促進剤(過酸化ベンゾイルBPO)とからなる包埋樹脂キット((株)マルトー製、MMA樹脂)、又はビスフェノールAエポキシ樹脂と7−ジメチルオクタン酸からなる樹脂(ストルアス社製、カルドフィックス)を用いて固化を行った。硬化時間は、前記MMA樹脂を用いることにより2ヵ月以内、カルドフィックスでは一週間程度と、オステオレジンと比較して大きな時間短縮が図られるとともに、揮発による目減りが少ないため試料の露出がなく、全体に均質に含浸させることが可能となった。
またMMA樹脂およびカルドフィックスには撥水性があり、切断時に使用する冷却液による膨潤を避けることが出来る。さらにこれらの樹脂は、切断が容易であるため、切断時間の短縮ができ、カッター歯の摩擦による加熱が抑制される効果を有している。
本発明において、生体硬組織および石灰化物試料の固化剤としては、MMA樹脂やカルドフィクスが好ましく用いられるが、生体硬組織および石灰化物試料の固化剤としては、試料への浸透性や透明度に優れ、固結時の発熱が高温にならない樹脂あればよく、上記の固化剤に限定されるものではなく、それらと同効のものであれば同様に使用することができる。
本発明においては、樹脂により包埋固化後に試料を成形切断した後、平面性を保ちつつかつ試料の厚さを判断しながら研磨を可能とする方法として、特定の台座の上に鉱物あるいは岩石からなる柱状片を貼りつけたものを用いることを特徴とするものである。
すなわち、板状の台座上の少なくとも対向する2辺に、鉱物又は岩石からなり、切断された直方体成形物の高さを超える高さを有する柱状片を貼り付け、該台座上の柱状片で囲まれた領域の中央に直方体成形物を接着して、試料面の研磨を行うものである。
切断成形後の試料は、該台座上の前記柱状片で囲まれた領域に接着されているので、研磨の際、試料面は該柱状片とともに研磨されるため、試料中に複数の硬度の異なるものが含まれていても一様に研磨され、試料の歪みや、研磨の際の試料の角の欠落を防止することができるとともに、一部が削れ過ぎることを抑制できるという利点を有する。さらに、台座に貼り付けた岩石あるいは鉱物によって、研磨材によるコンタミネーションを防ぐこともできる。
本発明において、板状の台座上に貼り付ける岩石あるいは鉱物としては、その干渉色などにより試料厚を判断できる鉱物又は該鉱物を含む岩石を用いることにより薄片の厚さを判断できるものがよく、具体的には石英が好ましく、石英を多く含む花崗岩や長石を含む花崗閃緑岩等が硬度的にも好適なものとして挙げられる。本発明に用いるこれらの鉱物又は岩石は、上記の岩石あるいは鉱物に限定されるものではなく、それらと同効のものであれば同様に使用することができる。
また、板状の台座は、台座に貼り付ける前記の岩石又は鉱物と同じものであってもよいが、必ずしも同じでなくともよい。
また、台座上に貼り付ける鉱物又は岩石からなる片は、所定の高さを有する柱状片であればよく、数、配置においても、あるいは試料の形状や特性によって異なり、決まった形に限定されない。
例えば、柱状片は、台座に接着される直方体成形物を囲むように、台座上の少なくとも対向する2辺に貼り付けられていればよく、柱状片は、台座に接着される直方体成形物と密着するように配置されていても、あるいは、台座に接着される直方体成形物と隙間を設けて配置されてもよい。
また、例えば、柱状片を、直方体成形物を囲むように、台座上の4辺に貼り付ける場合であれば、片同士が連結されていても、或いは、研磨の際に研磨材を外に排出できるように端部に隙間をあけて配置されていてもよい。また、より均一な研磨を可能とするために、直方体成形物を囲む4辺以外の箇所に、三角柱、四角柱等をさらに貼り付けても良い。
本発明は、仕上げの研磨作業工程にて、耐水研磨紙の番砥を320番→500番→800番→1200番の順で、試料の厚さが約40ミクロンになるまで研磨する。各研磨工程での試料の厚さの目安は、320番で100μm、500番で80μm、800番で60μm、1200番で40μmとする。さらに2000番と4000番を経て、ラッピングフィルム6000番で31μmとし、最終研磨としてアルミナ粉末を用いて30μmになるまで研磨を行う。この研磨の工程における各厚さについては、柱状片中の石英における干渉色によって判断する。
さらに、本発明は、高度な表面の平滑性を有する生体硬組織および石灰化物試料の薄片を可能とする研磨方法として、アルミナ粉末を含浸させたシルククロスを用いる研磨を提供するものである。
アルミナ粉末は、ダイヤモンド粒子と異なり、硬度が低く粒子が丸いため切削傷がつかないことに加え、アルミナ粒子はダイヤモンドペーストに比べ安価でコストの削減が可能な上、容易に入手が可能であるという利点を有している。またアルミナ粒子をシルククロスに含浸させるため、均一に粒子が分散し研磨速度に変化がないこと、含浸時の溶媒は揮発させるため液体成分が残らないこと、そしてアルミナ粉末含浸のシルククロス研磨では、試料が均一に早く削れるため、50rpm以下の回転で、10分程度の研磨でよく、研磨時間がダイヤモンドペースト使用時の1/5〜1/10程度と短時間で済み、必須となる冷却、潤滑液(ルーブリカント)を使用しないため、試料の膨潤や摩擦熱の発生が抑制できるため試料研磨に対する悪影響が少ないという利点を有している。
本発明において、シルククロスに含浸させる研磨材としてアルミナ粉末が好適なものとして挙げられる。これらの研磨材は、上記の研磨材に限定されるものではなく、それらと同効のものであれば同様に使用することができる。
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
<実施例:歯の薄片作製>
<歯および周辺組織の脱脂>
生体硬組織又は石灰化物試料の場合には、通常十分乾燥してから樹脂で補強するが、周辺組織などは乾燥すると収縮・変形してしまうため、乾燥以前の試料を樹脂によって包埋し固結処埋を行う必要がある。試料に水分及び油脂分が含有した状態では、樹脂の硬化が薄片作製に必要な強度にまで達しないため、後の作業工程となる切断や研磨の際に試料の破損や損傷が生じる。
そのため、以下の1)〜4)のエタノールによる歯の脱脂を必要とする。
1)試料を容器に入れ、密閉状態にて約10時間エタノールに浸す。
2)試料を容器から取り出し、試料の乾燥を避けながら、塵が発生し難い紙・布等によって試料に含まれるエタノールを吸収させた後、再度、新たなエタノールに浸し、さらに10時間程放置する。
3)試料を容器から取り出し、試料に含まれるエタノールを紙や布によって吸収させ、再度密閉状態で新たなエタノールに2時間程浸す。
4)3)の工程を繰り返し行い、試料全体にエタノールが十分浸透するまで数時間常温にて放置する。
<樹脂包埋>
5)4)にてエタノールを浸透させた試料を、ビスフェノールAエポキシ樹脂と7−ジメチルオクタン酸からなる包埋樹脂(ストルアス社製、カルドフィクス)に浸す。この際、試料が乾燥しないように注意する。
6)真空含浸装置にて、包埋樹脂が試料の空隙部分へ浸透するように真空含浸を行う。この際、真空含浸中に大量に発生する気泡により、試料表面が破壊されることを避けるため、真空含浸の途中で外気を送り込み気泡の発生を最小限に抑えることが必要である。
7)真空含浸後、未硬化状態の包埋樹脂を含む試料をポリプロピレン・ビニール等の上に放置し出来る限りエタノールの混入した包埋樹脂を取り除く。
8)新たな包埋樹脂を使用して6)・7)の工程をくり返し行い、エタノールの混入しない包埋樹脂へと置換する。
9)真空含浸装置から試料と包埋樹脂の入った容器ごと取り出し固結させるが、硬化時に発生する気泡を抑えるため、冷蔵庫等で低温状態により硬化させる。
<試料の成形と研磨準備>
10)包埋硬化した試料を刃にダイヤモンドを使用したバンドソーにて乾式切断する。周辺組織を含む歯の試料はカバーガラスのサイズに合わせて約24mm×32mm、厚さ10mmになるよう、樹脂部分を切断成形する。
11)研磨した厚さ5mm程度の板状の石英を含む花崗岩からなる台座上に、同材料からなるチップ(同じ大きさの柱状あるいは三角柱状に切り出し研磨したもの)を貼り付ける。
図1は、台座にチップを貼り付けた際の写真である。貼り付けるチップの数と位置は試料によって異なる。柱状のものを上下のみに貼り付けたもの(図1の、左上、右上、及び左下参照)、柱状のものを上下左右に貼り付けたもの(図1、中央下参照)、柱状のものを上下左右に貼りつける際に隙間をあけ研磨の際に研磨材を外に排出できるようにしたもの(図1、中央上参照)、或いは、柱状のものを上下左右に貼り付けた上にさらに四隅に三角柱状のものを貼り付けたもの(図1、右下参照)などがある。
12)成形した試料を粗研磨し、台座の中央に貼り付ける。
図2は、図1に示す、チップを貼り付けた台座の中央に試料を貼り付けた際の写真である。
<接着面の研磨>
13)可変式自動研磨機の盤上に粘着シートを貼り、精密研磨専用の円形耐水研磨紙を粘着シートの上に貼る。耐水研磨紙の番砥については、180番→200番→320番→500番→800番→1200番→2000番→4000番の順に使用するが、使用前に番砥粒子の大きさを均等にするため、同番砥またはそれよりも粒子の細かい番砥の研磨紙によるすり合わせを行い、その後洗浄し乾燥させる。
14)12)で作製した、台座に接着した試料を、該台座が上になるように耐水研磨紙の中央に置き、円盤を低速回転(40〜50回転/分程度)させ、研磨紙の中心から外へまたは外から中心へ、試料が一度通過した研磨紙の上を繰り返し通過することが無いように研磨を行う。細かい番砥の研磨紙を用いた際には、試料の研磨面に残っている磨き屑を風圧にて吹き飛ばす。また研磨面に試料の脱落が見られる場合には、シアノアクリレート系接着材を滴下して補強を行う。
研磨の工程においては、研磨面や周囲に前の段階の研磨剤の磨き屑が残らないようにブラッシングと風圧によるクリーニング作業を施すこと、試料の縁だけが減りすぎて起こる“縁だれ”が生じないようにすること、さらには硬さの異なる生体硬組織や石灰化物試料および樹脂の境界に段差が生じないように平滑に研磨することに注意する。
<試料のスライドグラスへの接着と2次切断>
15)エポキシ系常温硬化型の2液混合接着剤(セメダインスーパー60分硬化型)を用いて、14)で研磨した面にスライドガラスを貼り付ける。スライドガラスについては、29mm×49mm、厚さ1.3mmを用いる。
16)試料とスライドガラスの間にある接着剤に気泡が残らないように厚さを均一にして接着した後、接着専用ジグで固定し、50度以下のホットプレート上で硬化させる。
17)接着硬化後の試料を、専用のチャックホルダーに固定し、10)で使用したバンドソーを使用し、スライドガラスに接着された切断後の試料の厚さが約0.8mmとなるように、柱状チップおよび試料を、乾式切断によって、台座とともに切り離す。
18)切断面の試料の脱落を防ぐために、シアノアクリレート系接着剤にて試料表面を固結させる。
<仕上げ研磨>
19)13)・14)での乾式法による接着面の研磨作業工程と同様に、40〜50回転にてスライドガラスを指先で押さえながら試料を擦り減らす。耐水研磨紙の番砥は、320番→500番→800番→1200番の順で、試料の厚さが約40ミクロンになるまで研磨する。その後にアルミナ粒子が蒸着されたラッピングフィルム6000番(1.5μm)で研磨する。
各研磨工程での試料の厚さの目安は、320番で100μm、500番で80μm、800番で60μm、1200番で40μm、2000番と4000番を経て、ラッピングフィルム6000番で31μmとする。必要であれば320番で研磨を終え100μm厚となった時点でシアノアクリレート系接着剤による試料面の固結を図る。
この研磨の工程における各厚さについては、チップ(柱状片)に用いた花崗岩中に含まれる石英の干渉色によって判断する。
20)最終研磨として、アルミナ粉末(φ1μm)にエチルアルコールを加え、ペースト状にした後、可変型自動研磨装置の回転盤に取り付けたシルククロス円盤上に、回転盤を回転させながらアルミナのペーストを平らに塗布する。図3は、アルミナ粉末を含浸させたシルククロスの写真である。回転台の回転数をあげ、アルコールを蒸発させる。その後、スライドガラスを保持具に取り付け、50回転にて30μmになるまで研磨する。
図4は、実施例で得られた、治療後の金属冠を含む歯の高度な平滑面を有する薄片試料の写真である。

Claims (5)

  1. 生体硬組織、又は体内に形成された石灰化物を含む試料を、樹脂により包埋固化し、包埋固化した試料を直方体に成形切断した後、試料面を研磨して薄片とする薄片試料の作製方法において、
    板状の台座上の少なくとも対向する2辺に、鉱物又は岩石からなり、前記直方体成形物の高さを超える高さを有する柱状片を貼り付け、該台座上の柱状片で囲まれた領域に前記直方体成形物を接着して、研磨を行うことを特徴とする薄片試料の作製方法。
  2. さらに、前記試料及び前記柱状片の研磨面を他の基材に接着した後、該試料及び該柱状片を所定厚さに切断し、該切断面を研磨する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の薄片試料の作製方法。
  3. 前記鉱物又は岩石の干渉色を、偏光顕微鏡を用いて観察することにより、研磨する試料の厚さ調製を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の薄片試料の作製方法。
  4. アルミナ粉末を含浸させたシルククロスを用いた研磨を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄片試料の作製方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で作製された薄片試料を用いて、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、エネルギー分散X線分光法、電子線マイクロアナライザー、又は反射顕微鏡による観察・分析を行うことを特徴とする生体硬組織、又は体内に形成された石灰化物を含む試料の観察・分析方法。
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