以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。
まず、本実施形態に係る変位拡大ピエゾアクチュエータ1の動作について説明する。
図1は、変位拡大ピエゾアクチュエータ1の動作を説明する概念図である。本実施形態に係る変位拡大ピエゾアクチュエータ1は、座屈現象を利用した非線形変位拡大機構を有する座屈式ピエゾアクチュエータである。
変位拡大ピエゾアクチュエータ1は、一対のピエゾ素子10L、10R、一対のピエゾ素子10L、10Rそれぞれに対応するサイドブロック12L、12R、出力部14等から構成される。
一対のピエゾ素子10L、10Rは、それぞれの一端(それぞれの中央)で出力部14と接続する。また、一対のピエゾ素子10L、10Rは、2つの剛壁としてのサイドブロック12L、12Rの間に配置され、それぞれの他端で、サイドブロック12L、12Rと接続する。なお、ピエゾ素子10L、10Rは、出力部14との接続点を中心とした回転動作が可能な態様で、出力部14と接続される。また、ピエゾ素子10L、10Rは、それぞれ、サイドブロック12L、12Rとの接続点を中心とした回転動作が可能な態様で、サイドブロック12L、12Rと接続される。また、2つのサイドブロック12L、12Rは、ベース構造を介して互いに剛結合される。
2つのピエゾ素子10L、10Rの双方に電圧が印加されるとそれらは伸張する。そのため、変位拡大ピエゾアクチュエータ1は、一直線上に並ぶ一対のピエゾ素子10L、10Rの長手方向に垂直な出力軸D1の方向(y方向)に座屈する。この座屈による変位は、ピエゾ素子10L、10Rによりもたらされる変位よりも二桁のオーダーで大きい。
また、座屈式ピエゾアクチュエータとしての変位拡大ピエゾアクチュエータ1は、適切な機構を用いることにより、特異点の両側(図の上下方向)に向かう動作(双極性動作)を生み出すことができ、それによって変位(ストローク)を倍増することができる。
従って、本実施形態に係る変位拡大ピエゾアクチュエータ1は、ピエゾ素子単体の変位の100倍以上の変位を実現することが可能である。
次に、本実施形態に係る変位拡大ピエゾアクチュエータ1の変位拡大機構、特に、転がりジョイントの構成、作用について説明する。
図2は、本実施形態に係る変位拡大ピエゾアクチュエータ1の概略図である。
本実施形態に係る変位拡大ピエゾアクチュエータ1では、ピエゾ素子10L、10Rとサイドブロック12L、12R、及び、ピエゾ素子10L、10Rと出力部14の回転案内要素として、転がりジョイントが用いられる。
具体的には、ピエゾ素子10L、及び、ピエゾ素子10Rのそれぞれの両端は、半径Rの円筒形状(円形断面)を有する。また、サイドブロック12L、12Rのそれぞれの接触面、及び、出力部14における2つの接触面のそれぞれは、半径rの円筒形状(円形断面)を有する。また、中央にある出力部14は、回転することなく、垂直方向(図の上下方向)のみに移動可能となるように拘束される。
図2(a)に示すように、電圧が印加されないときに2つのピエゾ素子10L、10Rが中心線CL上に完全に一直線に並ぶ場合を想定する。この配置において、ピエゾ素子10L、10Rの双方に高電圧が印加されると、図2(b)に示すように、ピエゾ素子10L、10Rは、それぞれ、Δxだけ伸張し、出力部14を垂直方向(図の上方)に押し、出力軸D1に沿った出力変位Δyを発生させる配置に至る。なお、図中の距離zは、点Aと点Bとの距離であり、点A、Bは、それぞれ、ピエゾ素子10Lの両端に設けられる円形断面が描く曲率円の曲率中心である。
図2(b)に示すように、垂直方向における出力ノード(出力部14)で外力Floadが作用すると、4つの接触部分としてのキャップCP1〜CP4のそれぞれで内力(接触力)Fi1〜Fi4が生成される。
この際、図2(b)に示すように、z=0の場合、4つの接触部分(キャップCP1〜CP4)のそれぞれで摩擦力が完全に消失する。即ち、ピエゾ素子10Lの両端の2つの円形断面の円(半径R)が同心であれば、接触力Fi1、Fi2の方向は、関連する2つの接触部分としてのキャップCP1、CP2を結ぶ線分の方向(接触面に垂直な方向)と一致する。そのため、接線力、即ち、摩擦力は、接触部分としてのキャップCP1、CP2では発生しない。また、ピエゾ素子10Rに関する接触部分としてのキャップCP3、CP4についても同様である。従って、より大きな出力をピエゾ素子10L、10Rから取り出すことができる。
なお、図2(c)に示すように、z≠0の場合は、摩擦角μが生じ、接触力Fi1〜Fi4の接線成分として摩擦力が生じる。この場合、距離zが小さくても、後述する予荷重が大きいため、出力が大きく減少する。
次に、ピエゾ素子10L、10Rに付与される予荷重について説明をする。
ピエゾ素子10L、10Rに対して、予荷重(圧縮力)を付与した場合、ピエゾ素子10L、10Rは、圧縮反力と引張反力の双方を生成することが可能となる。そのため、変位拡大ピエゾアクチュエータ1から取り出すことが可能な出力仕事を増大させることができる。
具体的には、ピエゾ素子10L、10Rに予荷重が与えられている場合、ピエゾ素子10L、10Rは、電圧が印加されると、自然長を超えて伸張し、印加電圧が消失すると自然長より短い長さに戻る(圧縮される)。なお、ピエゾ素子10Lの自然長とは、ピエゾ素子10Lに電圧が印加されておらず、かつ、ピエゾ素子10Lの構造全体が軸力を受けない力学的平衡状態にある仮定条件におけるピエゾ素子10Lの長さを意味する。ピエゾ素子10Rの自然長についても同様である。
その結果、ピエゾ素子10L、10Rは、見かけ上、電圧が印加されたときに伸張力を発生させ、印加電圧が消失したときに復元力(圧縮力)を発生させることができる。そして、ピエゾ素子10L、10Rが発生させる力と予荷重の大きさが同じであれば、ピエゾ素子10L、10Rは、伸張力と同じ大きさの復元力を発生させることができる。また、予荷重(圧縮力)を利用する構成では、ピエゾ素子10L、10Rに対して引っ張り力が実際に適用されることはない。そのため、圧電セラミックス及び電極の薄い層の積み重ねにより形成される一般的な積層型ピエゾ素子を適用する場合においても、構造に悪影響を及ぼすことはない。
図3は、変位拡大ピエゾアクチュエータ1(座屈式ピエゾアクチュエータ)に予荷重を掛けるための標準的な機構を示す。図3において、変位拡大ピエゾアクチュエータ1(座屈式ピエゾアクチュエータ)のサイドブロック12L、12Rの一方(本図では、サイドブロック12R)に、ピエゾ素子10L、10Rが発生可能な最大の力以上の予荷重を掛けるために押込まれる。なお、この間、ピエゾ素子10L、10Rの電圧は、0Vに保持される。
ここで、予荷重は、図中に示す特異姿勢(特異点)において適用されるので座屈を引き起こし、出力部14を垂直方向(出力軸D1の方向)のいずれかの向きに変位させる。その結果、予荷重は減少してしまう。この予荷重の減少を防止するため、弾性部材としての安定化ばね18が出力部14に取り付けられる。
予荷重は、電圧を印加するのと同様にピエゾ素子の圧縮抵抗力を引き起こすので、図中に示す特異姿勢(特異点)において、出力部14が出力軸D1の方向に不安定である。
これに対して、安定化ばね18は、出力部14を中心(特異点)に戻す傾向を有する復元力を生成する。そのため、安定化ばね18を用いる構成により、実用上の領域において、予荷重を略一定に維持させることが可能となる。
次に、上述した特徴を有する変位拡大ピエゾアクチュエータ1(座屈式ピエゾアクチュエータ)の具体的な構成について説明をする。
図4は、変位拡大ピエゾアクチュエータ1(座屈式ピエゾアクチュエータ)の構成の一例を示す外観図である。また、図5は、図4に示す変位拡大ピエゾアクチュエータ(座屈式ピエゾアクチュエータ)の断面図である。
図4、図5に示す変位拡大ピエゾアクチュエータ1は、図1〜図3を用いて説明したものと同様、ピエゾ素子10L、10Rの変位を座屈現象を用いて拡大し、出力部14から取り出す座屈式ピエゾアクチュエータである。具体的には、電動モータの回転を減速させるブレーキに適用され、図4、図5において、出力部14の上端にパッド(不図示)が取り付けられ、出力部14の上方移動により電動モータの出力端に設けられたディスクにパッドが押し付けられ電動モータの回転が減速される。
図4を参照するに、図2で説明したとおり、サイドブロック12L、12Rは、一対のフレーム16により剛結合される。これにより、サイドブロック12L、12Rによる一定の予荷重が付与された状態で、ピエゾ素子10L、10Rの外端の動作を規制し、座屈現象による出力部14の大変位を発生させることができる。
フレーム16のコンプライアンスは、ピエゾ素子10L、10Rから出力部14へのエネルギー伝達効率を低減させるため、高い剛性の材料の使用が好ましい。例えば、鋼鉄製であってもよいし、予荷重及びピエゾ素子から発生する力により作用する荷重方向は、一方向に限られるため、当該方向にのみ高い剛性を有する材料(炭素繊維強化プラスチック等)が適用されてもよい。
図5を参照するに、ピエゾ素子10L、10Rに付与された予荷重による出力部14の特異点における出力方向への不安定動作を安定化させるため、サイドブロック12L、12Rと出力部14とを結ぶ板バネとして安定化ばね18が設けられる。
なお、ピエゾ素子10L、10Rは、図3に示したものと同様、サイドブロック12L、12Rの一方を押込む(サイドブロック12L、12R間の距離を縮める)ことにより、予荷重が付与されている。その結果、ピエゾ素子10L、10Rは、自然長よりも短い状態で実装されている。
また、本例における変位拡大ピエゾアクチュエータ1は、図2に示したように、ピエゾ素子10L、10Rの両端が、転がりジョイントにより回転動作が案内される構造になっている。具体的には、ピエゾ素子10L、及び、ピエゾ素子10Rのそれぞれの両端には、半径Rの円筒面を有するキャップCP1、CP2、及びキャップCP3、CP4が設けられる。また、サイドブロック12L、12Rのそれぞれの接触面、及び、出力部14における2つの接触面のそれぞれは、半径rの円筒面を有する。
また、図2(b)と同様、ピエゾ素子10Lの両端に設けられるキャップCP1、CP2の2つの円筒面(円形断面)の円(半径R)が同心となっており、ピエゾ素子10Rの両端に設けられるキャップCP3、CP4に関しても同様である。そのため、上述したとおり、特段の乱れがない限り、キャップCP1〜CP4に法線方向の力(摩擦力)が発生せず、変位拡大ピエゾアクチュエータ1は、ピエゾ素子10L、10Rからより大きな出力を取り出すことができる。
本例において、サイドブロック12Lの接触面とキャップCP1、サイドブロック12Rの接触面とキャップCP4、又は、出力部14の両端の接触面とキャップCP2、CP3で構成される転がりジョイントの接触面では、予荷重により静的に圧縮力が付与され、摩擦力が発生して滑りの発生が抑制される。しかしながら、本例の変位拡大ピエゾアクチュエータ1のように、出力部14から負荷(電動モータからの入力荷重)が入力されうる構成では、想定外の大きな入力が出力部14にあった場合、各転がりジョイントの接触面に作用する圧縮力が低下することで、摩擦力が低下し、滑り(ずれ)が生じる可能性がある。また、各転がりジョイントにおける滑り量(ずれ量)が微小であっても、繰り返して滑りが発生することによる蓄積で、大きなずれに発展する可能性もある。
そこで、本実施例に係る変位拡大ピエゾアクチュエータ1では、転がりジョイントに噛み合い可能な歯車形状(一対の歯車面)を付加することにより、転がりジョイントにおける接触面同士のずれ(滑り)を抑制する。
図5に示すように、ピエゾ素子10Lの外側の端面における転がりジョイントを構成するCP1とサイドブロック12Lの各接触面(各円筒面)の上下に隣接して、一対の歯車部CP1a、12La、及び、一対の歯車部CP1b、12Lbが設けられる。また、ピエゾ素子10Lの内側の端面における転がりジョイントを構成するCP2と出力部14の各接触面(各円筒面)の上下に隣接して、一対の歯車部CP2a、14La、及び、一対の歯車部CP2b、14Lbが設けられる。また、ピエゾ素子10Rの内側の端面における転がりジョイントを構成するCP3と出力部14の各接触面(各円筒面)の上下に隣接して、一対の歯車部CP3a、14Ra、及び、一対の歯車部CP3b、14Rbが設けられる。また、ピエゾ素子10Rの外側の端面とサイドブロック12Rの内側の端面における転がりジョイントを構成するCP4と出力部14の各接触面(各円筒面)の上下に隣接して、一対の歯車部CP4a、12Ra、及び、一対の歯車部CP4b、12Rbが設けられる。以下、各転がりジョイントに設けられた一対の歯車部に含まれる歯車形状について、図6を用いて具体的に説明をする。
図6は、変位拡大ピエゾアクチュエータ1の転がりジョイント部分を拡大して示した断面図であり、具体的には、ピエゾ素子10Lの外側の端面における転がりジョイント部分を拡大して示した断面図である。
当該転がりジョイントは、キャップCP1とサイドブロック12Lの各接触面CP1F、12LFにおける線接触により実現される。
キャップCP1には、接触面CP1Fの上側に隣接して凹部としての歯車部CP1a(凹歯車部)が設けられ、接触面CP1Fの下側に隣接して凹部としての歯車部CP1b(凹歯車部)が設けられる。また、これらに対応して、サイドブロック12Lには、接触面12LFの上側に隣接して凸部としての歯車部12La(凸歯車部)が設けられ、接触面12LFの下側に隣接して凸部としての歯車部12Lb(凸歯車部)が設けられる。歯車部CP1a、12Laは、一対の歯車部を構成し、歯車部CP1aの凹みに凸部としての歯車部12Laの少なくとも一部が含まれるように配置される。同様に、歯車部CP1b、12Lbは、一対の歯車部を構成し、歯車部CP1bの凹みに凸部としての歯車部12Lbの少なくとも一部が含まれるように配置される。
凹部としての歯車部CP1aの外縁を構成する面のうち、接触面CP1Fと隣接しない側(上側)の側面に歯車形状を有する歯車面CP1aF(図中太線)が設けられる。これに対応して、凸部としての歯車部12Laの外縁を構成する面のうち、接触面12LFに隣接しない側(上側)の側面に歯車形状を有する歯車面12LaF(図中太線)が設けられる。当該一対の歯車面CP1aF、12LaFは、接触面12LFに対して、キャップCP1が接触面CP1Fの周方向(接線方向)下方に滑りを生じた場合に、噛み合い可能な態様で上下に近接して設けられている。
同様に、凹部としての歯車部CP1bの外縁を構成する面のうち、接触面CP1Fと隣接しない側(下側)の側面に歯車形状を有する歯車面CP1bF(図中太線)が設けられる。これに対応して、凸部としての歯車部12Lbの外縁を構成する面のうち、接触面12LFに隣接しない側(下側)の側面に歯車形状を有する歯車面12LbF(図中太線)が設けられる。当該一対の歯車面CP1bF、12LbFは、接触面12LFに対して、キャップCP1が接触面CP1Fの周方向(接線方向)上方に滑りを生じた場合に、噛み合い可能な態様で上下に近接して設けられている。
即ち、接触面CP1F、12LFの上側に隣接して設けられた一対の歯車部CP1a、12Laには、接触面12LFに対して接触面CP1Fが周方向下方に滑りを生じた場合に噛み合い可能な一対の歯車面CP1aF、12LaFが設けられる。また、接触面CP1F、12LFの下方に隣接して設けられた一対の歯車部CP1b、12Lbには、接触面12LFに対して接触面CP1Fが周方向上方に滑りを生じた場合に噛み合い可能な一対の歯車面CP1bF、12LbFが設けられる。各歯車面を構成する歯車形状は、例えば、インボリュート曲線、サイクロイド曲線等によるものであってよい。
図5に示す他の転がりジョイント(出力部14とキャップCP2、出力部14とキャップCP3、及び、サイドブロック12RとキャップCP4)においても、同様に、一対の歯車面が設けられる。そして、一対の歯車面の噛み合いにより同様の作用・効果が得られる。
このように、転がりジョイントに噛み合い可能な歯車形状(一対の歯車面)を付加することにより、転がりジョイントの接触部における摩擦力が低下した場合に、接触面同士の滑りを、歯車面(歯車形状)同士の噛み合いにより防止することができる。
また、本例では、キャップCP1側の歯車面CP1aF、CP1bFは、キャップCP1の接触面としての円筒面の断面円(半径R)をピッチ円とする。また、サイドブロック12L側の歯車面12LaF、12LbFは、サイドブロック12Lの接触面としての円筒面の断面円(半径r)をピッチ円とする。そのため、キャップCP1とサイドブロック12Lの各円筒面上で滑りが生じうる条件下において、一対の歯車面CP1aF、12LaF、又は、CP1bF、12LbFがスムーズに噛み合い、円筒面上での滑りを確実に抑制することができる。
図5に示す他の転がりジョイントについても同様に、ピエゾ素子10L、10Rの端面に設けられたキャップCP2〜CP4側に凹歯車部が設けられ、出力部14、或いは、サイドブロック12R側に凸歯車部が設けられる。また、キャップCP2〜CP4側に設けられた凹歯車部に含まれる歯車面は、それぞれ、キャップCP2〜CP4の接触面としての円筒面の断面円(半径R)をピッチ円とする。また、出力部14、或いは、サイドブロック12R側に設けられた凸歯車部に含まれる歯車面は、それぞれ、出力部14、或いは、サイドブロック12Rの接触面としての円筒面の断面円(半径r)をピッチ円とする。そのため、他の転がりジョイントについても同様に、接触面としての各円筒面に滑りが生じうる条件下において、接触面の上下に隣接して設けられた一対の歯車面の一方がスムーズに噛み合い、円筒面上での滑りを確実に抑制することができる。
また、変位拡大ピエゾアクチュエータ1の通常動作時において、上述した各一対の歯車面は、各転がりジョイントの転がり動作を干渉しない。具体的には、一対の歯車面CP1aF、12LaFは、転がりジョイントの接触面同士に滑りが生じていない動作状態では、接触していないことが好ましく、接触している場合であっても、転がり動作による歯車面同士の力の伝達が無視できるほどに小さければよい。一対の歯車面CP1bF、12LbF、及び、他の転がりジョイントに設けられる各一対の歯車面についても同様である。これにより、歯車形状が付加されることによる出力部14からの出力の低下を避けることができる。
また、上述した各一対の歯車面のそれぞれは、各転がりジョイントにおける接触面(各円筒面)の幅内に少なくともその一部が含まれるように配置される。特に、本実施例では、一対の歯車面のそれぞれが、各転がりジョイントにおける接触面の幅内に収まるように配置される。これにより、変位拡大ピエゾアクチュエータ1の幅を維持しつつ、上述の歯車形状(一対の歯車面)を付加し、転がりジョイントの接触面同士の滑りを抑制することができる。
なお、転がりジョイントの接触面同士に滑りが発生する場合に、凸歯車部と凹歯車部のぞれぞれに設けられた歯車面が噛み合うことで滑りが抑制されればよく、転がりジョイントの接触面を構成する構成要素のいずれの側に凸歯車部、又は、凹歯車部を配置するかについては、任意であってよい。
また、本例では、転がりジョイントの接触面に隣接して、一対の歯車部を上下に2つ設けたが、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。即ち、接触面の周方向(法線方向)上方、及び、下方への滑りを噛み合いにより抑制可能な歯車形状が含まれれば、転がりジョイントの接触面に隣接して設けられる一対の歯車部の数は、任意に設定されてよい。
このように、本実施形態に係る変位拡大ピエゾアクチュエータ1では、ピエゾ素子10L、10Rの回転動作を案内する転がりジョイントに噛み合い可能な歯車形状(一対の歯車面)が付加される。具体的には、転がりジョイントの各接触面の上下(回動方向)に隣接して噛み合い可能な一対の歯車面を含む一対の歯車部(一方の接触面側に凸歯車部、他方の接触面側に凹歯車部)が設けられる。これにより、出力部14に想定外の大きな外力が作用することで、各転がりジョイントの摩擦力が低下して、接触面同士の滑りが発生する状況下であっても、それぞれの一対の歯車面同士が噛み合うことで、各転がりジョイントにおける滑りを抑制することができる。また、接触面同士の滑りを抑制するために、予荷重を必要以上に高める必要がないため、出力部14からの出力特性を悪化させることもない。即ち、出力特性に対して最適化した予荷重を設定することができ、変位拡大ピエゾアクチュエータ1から取り出すことが可能な出力を減少させることなく、転がりジョイントの接線方向における接触部同士の接触位置のずれを防止することができる。
また、本実施形態にかかる変位拡大ピエゾアクチュエータ1では、転がりジョイントに付加された歯車形状(一対の歯車面)が、転がりジョイントの接触面としての円筒面の断面円をピッチ円とする。即ち、転がりジョイントを構成する一方の接触面側に隣接して設けられる歯車面は、当該一方の接触面(円筒面)の断面円をピッチ円とし、他方の接触面側に隣接して設けられる歯車面は、当該他方の接触面(円筒面)の断面円をピッチ円とする。これにより、転がりジョイントの各円筒面に滑りが生じうる条件下において、一対の歯車面がスムーズに噛み合い、円筒面上での滑りを確実に抑制することができる。
また、本実施形態に係る変位拡大ピエゾアクチュエータ1では、転がりジョイントに付加された歯車形状(歯車面)が、転がりジョイントの接触面の幅内に少なくとも一部が含まれる。これにより、変位拡大ピエゾアクチュエータ1の幅を維持しつつ、上述の歯車形状(一対の歯車面)を付加することができる。
また、本実施形態に係る変位拡大ピエゾアクチュエータ1では、転がりジョイントに付加された噛み合い可能な歯車形状が、転がりジョイントの転がり動作を干渉しない。具体的には、一対の歯車面を構成する、一方の接触面側に設けられる歯車面と他方の接触面側に設けられる歯車面とが、接触面同士に滑りが生じていない動作状態で、接触していないことが好ましい。また、接触している場合であっても、転がり動作による歯車面同士の力の伝達が無視できるほどに小さければよい。これにより、歯車形状が付加されることによる出力部14からの出力の低下を避けることができる。
以上、本発明を実施するための形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、上述した実施形態において、転がりジョイントは、円筒面同士の接触により回転動作を実現するものであったが、互いに転がり接触を実現できる接触面を構成することが可能な態様であれば、円筒面以外の形状を有していてもよい。例えば、転がり接触する2つの構成要素の一方の接触面は、平坦面であってよい。この場合、接触面として平坦面を有する構成要素側に設けられる歯車形状(歯車面)は、ラック形状であってよい。これにより、上述の実施形態と同様、接触面としての円筒面を有する構成要素側に設けられる歯車形状(例えば、インボリュート曲線等)とラック形状との噛み合いにより接触面同士の滑りを抑制することができる。また、転がりジョイントの一方の接触面は、転がり接触が可能な凸曲面であってよく、他方の接触面は、凹曲面であってもよい。
また、上述の実施形態において、ピエゾ素子の回転動作を案内する転がりジョイントに歯車形状を付加する構成に関して、座屈式ピエゾアクチュエータを用いて説明したが、本構成は、座屈式ピエゾアクチュエータへの適用に限定されることはない。例えば、ピエゾ素子の変位を撓み機構により拡大して取り出すピエゾアクチュエータ等、ピエゾ素子の回転動作を案内する転がりジョイントを有する任意の変位拡大ピエゾアクチュエータに対して、歯車形状が付加されてよく、上述した実施形態と同様の作用、効果を奏する。即ち、転がりジョイントの接触部の摩擦力の低下等による接触面同士の滑り(ずれ)を抑制することができる。
また、上述の実施形態において、変位拡大ピエゾアクチュエータ(座屈式ピエゾアクチュエータ)は、電動モータのブレーキに適用されるものであったが、上述した変位拡大ピエゾアクチュエータの適用が電動モータのブレーキに限定されることはない。例えば、上述した変位拡大ピエゾアクチュエータを複数用いて、直動モータや回転モータにおける動作を実現してもよい。直動モータや回転モータの場合についても、外部からの入力荷重を考慮する必要があり、想定外の外部入力により、変位拡大ピエゾアクチュエータの転がりジョイントの接触部の摩擦力が低下する可能性がある。そのため、上述した実施形態のように、転がりジョイントに歯車形状を付加することにより、転がりジョイントの接触部の摩擦力の低下等による接触面同士の滑り(ずれ)を抑制することができる。