JP6282820B2 - ダイヤモンドマイクロ電極を用いた生体内pH測定装置及び方法 - Google Patents
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Description
[1] 作用電極として、ホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、及びケイ素(Si)からなる群より選択される不純物がドープされた導電性ダイヤモンドが蒸着した微小電極を有し、
参照電極として、塩化物イオン(Cl-)存在下で酸処理され電極表面にAg/AgClの層を有する銀電極を有し、
対電極を有し、
該作用電極は対電極との間に一定の電流を印加することができるものである、
in vitro又はin vivoでのpH測定のための電気化学的測定用センサー。
[2] [1]に記載のセンサーを有し、一定の電流を印加してクロノポテンシオメトリー測定を行う手段を備えた、in vitro又はin vivoでのpH測定のための電気化学的測定装置。
[3] 不純物がホウ素(B)である、[1]に記載のセンサー又は[2]に記載の装置。
[4] ダイヤモンド微小電極が印加する電流が-10〜-100nAである、[1]若しくは[3]に記載のセンサー又は[2]若しくは[3]に記載の装置。
[5] 一定の電流を印加してクロノポテンシオメトリー測定を行う電気化学的測定方法であって、
作用電極として、ホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、及びケイ素(Si)からなる群より選択される不純物がドープされた導電性ダイヤモンドが蒸着した微小電極を用い、
参照電極として、塩化物イオン(Cl-)存在下で酸処理され電極表面にAg/AgClの層を有する銀電極を用い、
前記作用電極、前記参照電極、及び対電極を被測定対象に接触させ、
該作用電極と対電極との間に一定の電流を印加し、
所定時間経過後の前記作用電極と前記参照電極間の電位値を測定し、得られた電位値から前記被測定対象のpHを算出することを含む、
in vitro又はin vivoでpHを測定する前記方法。
[6] in vivoで行う、[5]に記載の方法。
[7] 不純物がホウ素(B)である、[5]又は[6]に記載の方法。
[8] ダイヤモンド微小電極が印加する電流が-10〜-100nAである、[5]〜[7]のいずれかに記載の方法。
本発明の電気化学的分析・測定装置は、作用電極、参照電極(基準電極ともいう)及び対電極を備えたセンサー部を有する。また本発明の装置は、該センサー部並びに電流印加部、電位測定部、及び任意に記録手段(レコーダー)、電流を一定に制御する手段(ガルバノスタット、アンペロスタットともいう)を備えている。作用電極、参照電極、及び対電極はそれぞれ電極部を有する。電極部は電極のうち、実際に電気化学的反応がその表面(界面)で進行しうる部分をいう。
従来、参照電極として使用されてきた銀−塩化銀電極は、塩化物イオン(Cl-)を含む水溶液中にAgClコーティングされた銀線(Ag/AgCl)を浸した構成を有する。すなわち従来型のAg/AgCl参照電極は必須の構成としてKCl液を有する。KCl液が電極の一部を構成するため、このように従来のAg/AgCl参照電極は小型化することができず、生体内での電極電位測定には不向きである。市販されている参照電極は、例示すれば長さ90mm×直径6mmの電極、長さ51mm×直径10mmの電極、長さ50mm×4.5mmの電極、長さ80mm×直径6mmの電極等である。これに対し本発明の参照電極は、表面に塩化銀(AgCl)の層を有する銀線(Ag)のみで足り、KCl液を電極の構成として有しない。そして本発明の参照電極は、KCl液を電極の一部として必要としないため、小型化、微少化することができる。本発明のAg/AgCl参照電極は、作用電極(BDD電極)より表面積が大きければ、特に限定されるものではない。銀線は例えば直径0.01〜0.7mmとすることができる。また、長さ等を合わせた寸法としては、例えばBDD微小電極の作業領域(面積)を約6.3・10-4cm2とする場合、参照電極の表面積はこれと同等又はこれ以上、例えば6.3・10-4cm2以上であればよい。
本発明の装置のセンサー部の形状は、作用電極、対電極、参照電極がいずれも測定対象と同時に接触可能に配置されていれば特に限定されないが、例示すると、3つの電極の間を絶縁体で隔てた形状が挙げられる。また、好ましくは参照電極の表面積(参照電極の電極部の面積)は、作用電極のそれと同等であるかこれよりも大きい。本発明の装置のセンサー部の形状としては、例えば測定対象に接触する側の面、側面、及び装置側の面を有する形状が挙げられる。測定対象接触面、側面、及び装置側の面は任意に、円形、楕円形、多角形等であり得る。例えば測定対象接触面と装置側面が共に円形であり、側面が連続した一連の長方形を湾曲させた形状であればこれは円柱となる。測定対象接触面と装置側面の円の大きさが異なる場合、これは円錐の頂点を切断したような形状となる。測定対象接触面と装置側面を共に多角形とすればこれは多角柱となる。多角柱は直角柱、斜角柱、正角柱を含む。他にも反角柱、星形の柱、球体又は球をを任意に切断した形状などが想定される。また、上記形状の一部を空洞や中空にしたような形状も想定される。例えば円柱の内側を中空にした円筒や中空型多角形、リング状などである。またこうした形状を任意に切断したものも想定され、例えば円柱を長手方向に切断したかまぼこ型の半円柱が挙げられる。またこれらの形状において円は正円、楕円又は卵形等の任意にゆがんだ円形であってもよく、多角形はn角形(n=3,4,5,...)であってもよく、例えば多角形に含まれる四角形は正方形、長方形、台形、平行四辺形、等任意の四角形でありうる。他の多角形についても同様である。しかしながら本発明のセンサー部の形状は、必ずしも上記のような測定対象接触面、側面、及び装置側の面を有していなければならないわけではなく、これらはあくまで説明のための便宜的なものに過ぎない。例えば測定対象接触面、側面、及び装置側が任意に連続になった形状、例えばチューブ状やカテーテル状、針状といった形状も想定される。さらに、双角錐など、いずれの面が装置側の面でいずれの面が側面か規定しがたい形状もあり得る。本発明のセンサー部の形状は上記の任意の組合せであってもよい。
本発明の装置及び方法を用いて、生体内pHモニタリングを行うことにより胃酸に関連する症状の診断、評価を行うことができる。ここでいう胃酸に関連する症状は、胃酸が原因となって引き起こされる症状、及び何らかの要因によって胃酸分泌が異常となる症状を含む。胃酸に関連する症状としては、胃癌、逆流性食道炎、胃酸過多、ヘリコバクターピロリ菌感染症等が挙げられるがこれに限られない。例えば胃のpHは健常者では約1.5前後であるが、胃癌患者ではpHが4〜5に上昇することがある。そのため患者の胃のpHを直接測定することにより胃癌の診断に役立てることができる。他の症状についても同様である。また本発明の装置及び方法を用いて、胃酸抑制剤や胃酸分泌促進剤の薬効を評価したり、特定の条件下で患者の胃内部pHが実際にどのようになっているか測定することができる。また同一患者の胃内部でも、部位による局所的なpH変化の測定も可能である。例えば、胃内の食道付近、噴門付近、胃体部、前庭部、幽門付近でのpHを測定することが想定される。場合によっては食道や十二指腸の測定も可能である。このように、本発明の装置及びこれを用いた測定方法は診断、評価又はそれらの補助を目的とすることができる。
本発明の装置を用いた測定では、一般に、作用電極と対電極及び参照電極を被検試料(溶液を含む)に接触又は浸漬させ、前記作用電極(導電性ダイヤモンド電極)と対電極との間に電流を流す。このとき参照電極は抵抗を高く設定しているため、作用電極と参照電極との間には電流は流れない。導電性ダイヤモンド電極に電流を印加すると、測定対象物質(水素イオンH+)が電極表面で電気化学的に酸化され(このときH2が発生する)、対電極との間に電流が流れる。このとき、作用電極と参照電極との間の電位が被験試料に含まれる測定対象物質(水素イオン)の濃度に比例するため、電気化学的酸化反応を起こさせる電流値を一定にして、その印加電流値での電位値と測定対象物質(H+)の濃度との関係を予め求めておけば、その関係から、得られた電流値に対応する被検溶液中の測定対象物質(H+)の濃度、すなわちpHを知ることができる。
FIXANAL(登録商標)バッファー(pH 1〜6)はFluka Analytical社より購入した。リン酸水素二ナトリウム12水和物、リン酸水素二ナトリウム2水和物、HCl、アセトン及び硫酸はいずれも和光社から購入した。in vivo実験はすべてCLEA Japan社より購入したC57BL/6Jマウスを用いて行った。パントプラゾールはシグマアルドリッチジャパン社から購入し、水に溶解させて用いた。化合物、化学薬品はさらに精製することなく使用した。当業者であれば、本発明の精神から逸脱することなく、記載する手順を改変することができる。
BDD微小電極は、マイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)装置(ASTeX社)を用いて作製した。炭素源としてアセトンを使用し、ホウ素源としてB(OCH3)3を使用した。ドープするB(OCH3)3の原料に占める濃度は0.1%w/wであった。表面形態と結晶構造は走査型電子顕微鏡を用いて特徴付けした。図4にBDD微小電極の走査型電子顕微鏡(SEM)イメージを示す。MPCVDチャンバー内で2.5kWにて、高純度水素を担体ガスとして使用し、ホウ素ドープダイヤモンドを、タングステン針(直径20μm)に堆積させた。ガラス毛管を用いて針の一部を分離し処理表面領域を規定した。これにより約0.5〜1mmが毛管で被われない状態のままとなった。薄膜の品質はラマン分光法により確認した。BDD微小電極は、2-プロパノール中で約10分間超音波で予備処理し、次いで高純度の水で洗浄することにより、MPCVDチャンバー内での堆積後にBDD薄膜内に残存した可能性のある有機不純物を除去した。このようにして作製したBDD微小電極を以下の実験に用いた。
すべての電気化学的測定は、AUTOLAB PGSTATポテンシオスタットを用いて37℃で行った。参照電極は銀製の針(鍼)(直径50μm)であり、これを1分間、1M HCl中でアノード処理し(2V vs 銀/塩化銀 sat.)、針の表面にAgClを形成させた。対電極は未処理の別の銀製の針であり、作用電極はBDD微小電極であった。タングステン針を円筒形とすると、作業する幾何学的領域(面積)は約6.3・10-4cm2であった。本明細書に記載する電圧はすべて、特に断らない限りAg/AgCl参照電極に対する電圧である(0.2V vs SHE)。
生きた臓器で本発明のBDD電極がpH変化を感知することができることを確認するために、健常なマウスの胃で予備的実験を行った。測定の間、電圧を測定しながら、シリンジを用いて胃内部に少量の0.1M リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を注入した。生体内(in vivo)でpHを測定するために、BDD電極と2つの銀製の針(HCl処理されたものと未処理のもの)を分析する胃に2〜3mmの深さに挿入した。パントプラゾール実験については、パントプラゾールを5日間にわたりマウスに40mg/kgにて投与した。この5日間の後、マウスから胃を摘出し、BDD微小電極を用いてpHを測定した。同様の実験を5匹のコントロールマウスについても行い、パントプラゾールの効果を評価した。すべての動物実験は慶応大学倫理委員会により承認されたプロトコルに従って行った。
図1Aに、pH 1〜6のFIXANAL(登録商標)バッファー中でBDD微小電極を用いて記録したクロノポテンシオメトリー測定の結果を示す。これらの実験については、所望の電流ステップ(図1Aでは0から-50nA)を実施する前に、0 Aを10秒間印可した。参照電極がHCl中でアノード処理した銀製の針であるにもかかわらず、図1Aは開回路電位が市販のAg/AgCl飽和参照電極と類似していることを示す(0.15〜0.2 V)。また、これらの実験はin vivo実験の条件を模倣するために37℃で行った。図1Aは、50nAの負の電流ステップに続いて記録された電位が、pH値の増大とともに低下したことを示す。実際に、負の電流ステップは、電極表面での水からの水素ガスの発生を誘発する。この反応は次のように表される。
2H+ + 2e- → H2 (1)
図1に示されるin vitro測定の結果は、本発明の装置及び方法が生体内でのpH測定に使用可能であることを保証するように思われる。しかしながら本発明者らは、本発明の装置及び方法を用いて、胃のような生きた臓器内で進行するpH変化を検出できるか確認することとした。そのためには、健常なマウスの胃内でクロノポテンシオメトリー測定を行った。その際、50nA電流ステップに続き電位を記録する間に、シリンジを用いて胃内に少量の0.1M PBSを注入した。図2にこの実験の結果を示す。PBS注入に続く電位変化を明確に観察することができる。100秒時点でのPBS注入の前では測定された電位はある値に向かって安定化するようであった。この値は図1のキャリブレーションに基づくと酸性pHに対応する。しかしながらPBS注入の直後にこの傾向は変化し、電位は、よりアルカリ性のpHに対応する電位値へと低下し始める。したがって、この測定はBDD電極が生きた臓器でのpH変化をも感知できることを証明するものである。このとき、i=0 Aで記録された電位はやはり0.15Vに非常に近く、このことは、HCl中でアノード処理した銀製の針が、生体内の条件下でも、Ag/AgCl参照電極と同様に効果的に機能することを意味することに注目されたい。針の表面におけるAgCl層はまた、生きた組織(臓器)に存在するCl-アニオンにより再生されている可能性がある。こうした理由から、銀製の針の参照電極及び対電極としての使用は、狭い空間での生体内電気化学的実験に適当であるといえる。さらに、信頼性の低い参照電極を用いると、正確なクロノポテンシオメトリー測定を行うことは困難である。
Claims (11)
- 作用電極として、ホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、及びケイ素(Si)からなる群より選択される不純物がドープされた導電性ダイヤモンドが蒸着した微小電極を有し、
参照電極として、塩化物イオン(Cl-)存在下で酸処理され電極表面にAg/AgClの層を有する銀電極を有し、
対電極を有し、
該作用電極は対電極との間に一定の電流を印加することができるものであり、
該作用電極、該参照電極、及び該対電極は、生体由来の塩化物イオン(Cl-)存在下で、生物学的試料である被測定対象に接触させて該一定の電流を印加するためのものである、in vitro又はin vivoでの生物学的試料のpH測定のための電気化学的測定用センサー。 - 請求項1に記載のセンサーを有し、一定の電流を印加してクロノポテンシオメトリー測定を行う手段を備えた、in vitro又はin vivoでのpH測定のための電気化学的測定装置。
- 不純物がホウ素(B)である、請求項1に記載のセンサー又は請求項2に記載の装置。
- ダイヤモンド微小電極が印加する電流が-10〜-100nAである、請求項1若しくは3に記載のセンサー又は請求項2若しくは3に記載の装置。
- 一定の電流を印加してクロノポテンシオメトリー測定を行う電気化学的測定方法であって、
作用電極として、ホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、及びケイ素(Si)からなる群より選択される不純物がドープされた導電性ダイヤモンドが蒸着した微小電極を用い、
参照電極として、塩化物イオン(Cl-)存在下で酸処理され電極表面にAg/AgClの層を有する銀電極を用い、
前記作用電極、前記参照電極、及び対電極を、生体由来の塩化物イオン(Cl-)存在下で、生物学的試料である被測定対象に接触させ、
生体由来の塩化物イオン(Cl-)存在下で、該作用電極と対電極との間に一定の電流を印加し、このとき、参照電極の電極表面のAg/AgCl層に、前記生体由来の塩化物イオン(Cl-)が供給され、
所定時間経過後の前記作用電極と前記参照電極間の電位値を測定し、得られた電位値から前記生物学的試料である被測定対象のpHを算出することを含む、
in vitroで生物学的試料のpHを測定する前記方法。 - 不純物がホウ素(B)である、請求項5に記載の方法。
- ダイヤモンド微小電極が印加する電流が-10〜-100nAである、請求項5又は6に記載の方法。
- 一定の電流を印加してクロノポテンシオメトリー測定を行う電気化学的測定方法であって、
作用電極として、ホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、及びケイ素(Si)からなる群より選択される不純物がドープされた導電性ダイヤモンドが蒸着した微小電極を用い、
参照電極として、塩化物イオン(Cl-)存在下で酸処理され電極表面にAg/AgClの層を有する銀電極を用い、
前記作用電極、前記参照電極、及び対電極を、生体由来の塩化物イオン(Cl-)存在下で、生物学的試料である被測定対象に接触させ、
生体由来の塩化物イオン(Cl-)存在下で、該作用電極と対電極との間に一定の電流を印加し、このとき、参照電極の電極表面のAg/AgCl層に、前記生体由来の塩化物イオン(Cl-)が供給され、
所定時間経過後の前記作用電極と前記参照電極間の電位値を測定し、得られた電位値から前記生物学的試料である被測定対象のpHを算出することを含む、
in vitro又はin vivoで生物学的試料のpHを測定する前記方法のための装置、
ここで該装置は、
作用電極として、ホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、及びケイ素(Si)からなる群より選択される不純物がドープされた導電性ダイヤモンドが蒸着した微小電極、
参照電極として、塩化物イオン(Cl-)存在下で酸処理され電極表面にAg/AgClの層を有する銀電極、並びに
対電極を有し、
一定の電流を印加してクロノポテンシオメトリー測定を行う手段を備えてなり、
該作用電極は対電極との間に一定の電流を印加することができるものである、前記装置。 - pH測定をin vivoで行うためのものである、請求項8に記載の装置。
- 不純物がホウ素(B)である、請求項8又は9に記載の装置。
- ダイヤモンド微小電極が印加する電流が-10〜-100nAである、請求項8〜10のいずれか1項に記載の装置。
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