本発明では,所望の水位計測精度を満たすように水面に対し直交する方向を軸として軸の回りに巻回された光ファイバをセンシング部とし,そのセンシング部の一部が水中に浸けられた状態で,光ファイバ内にパルス光を入射し,その光ファイバの各位置から反射されたラマン散乱光のうちストークス光とアンチストークス光の強度比に基づいて,空中部に位置する箇所の温度と水中部に位置する箇所の温度とを識別し,空中部と水中部との境界位置を認識して水位を計測する。ここで,入射光周波数よりも低周波側がストークス光であり,高周波側がアンチストークス光である。これにより,水面に対し鉛直方向におけるそれぞれの位置の温度を精度よく計測することができるようになり,時々刻々変化する水位を精度よく計測することができる。
また,光ファイバを,断熱材の外周部に設定された第一のセンシング部と断熱材の内周部に設定された第二のセンシング部にそれぞれ巻回し,温度分布計測部によって第一のセンシング部の高さ方向の温度分布と第二のセンシング部の高さ方向の温度分布を計測する。そして,水位測定部において,温度分布計測部で計測した第二のセンシング部の高さ方向の温度分布の時間変化から水位を検出することで,時々刻々と変化する水位に対し,空中部と水中部の温度が同等になった場合でも水位を計測できるようにした。
以下,図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]
図1は,本発明の光ファイバ水位計測装置の全体構成例を示す模式図である。本実施例の光ファイバ水位計測装置は,温度分布計測装置110,光ファイバ120,光ファイバ水位計130,水位測定部140を備えている。光ファイバ水位計測装置は,光ファイバ120にパルス光を入射し,光ファイバ120の各位置から後方散乱されたラマン散乱光のストークス光とアンチストークス光の強度比,又はラマン散乱光のアンチストークス光とレーリー散乱光の強度比に基づいて光ファイバ120の長手方向の温度分布を計測する方法を用い,水中部に位置する光ファイバの温度と空中部に位置する光ファイバの温度を識別して下水道管渠内や河川等の水位を計測するものである。
温度分布計測装置110は,光源111,パルス発生器112,光強度変調器113,光分岐部114,波長分離フィルタ115,受信器116,周波数成分強度比演算回路117,温度演算回路118,光帰還時間演算回路119を備えている。
測定用光源111は,例えば1550nmの波長光を出射する半導体レーザである。レーザ出射光はパルス発生器112でパルス光に変調され,また,光強度変調器113により強度変調される。
光分岐部114は,光源111から出射されたパルス光を光ファイバ120側へ通過させるとともに,光ファイバ120からの後方散乱光を波長分離フィルタ115側に伝搬する。図2は,波長分離フィルタによってラマン散乱光のストークス光とアンチストークス光を分光する方法を示す模式図である。図2に示すように,波長分離フィルタ115は,光分岐部114を通過した光ファイバ120からの後方散乱光を,例えばダイクロックミラー141を用いて,ストークス光とアンチストークス光に分光する。受信器116は,分光された後方散乱光を受信する。
周波数成分強度比演算回路117は,受信器116によって受信された後方散乱光のうち,例えば,ラマン散乱光のストークス光とアンチストークス光の強度比を求め,温度データを得る。ストークス光とアンチストークス光の強度比は[式1]で表され,光源111の波長(λ=c/ν0)と石英ガラス組成(前記パルス光からのシフト波数)が決まれば,理論的に温度だけに依存する。
ここでIa,Isはストークス光とアンチストークス光の強度であり,ν0,νは入射光波数,格子振動波数である。h,c,kB,Tはそれぞれプランク定数,光ファイバ120中での光速,ボルツマン係数,絶対温度を示す。従って,後方散乱光のうちラマン散乱光の2成分を分光した後,その強度を測定し,比をとることにより温度を知ることができる。
なお,光ファイバ120の長手方向の各位置は,後方散乱光の帰還時間から演算で求められる。例えば,石英光ファイバ120にパルス光を入射すると,パルス光は真空中よりやや遅い約2×108m/sの速度vcで光ファイバ(屈折率n=1.5)中を伝搬する。光ファイバ120内で発生した散乱光の一部は,後方散乱光として再び約2×108m/sの速度で入射端に戻ってくるので,パルス光が光ファイバ120に入射してから後方散乱光が戻ってくるまでの遅延時間tから,[式2]によりその後方散乱光の発生位置xを特定することができる。これにより光ファイバの各々の位置における温度分布を計測することができる。
光ファイバ水位計130において,光ファイバ120が例えば,円筒状の断熱材に巻回される部分がセンシング部となる。ここで,センシング部に断熱材を用いる理由は,空中部と水中部の温度が変化する界面を明確にするためである。温度伝導率の高い金属などをセンシング部に用いると,空中部と水中部の界面位置を正確に識別できなくなり,その結果,水位を正確に計測することが困難となる。
円筒状の断熱材は水面に対して軸を直交させて配置され,光ファイバ120はその円筒状断熱材に巻回された状態とされて水中に浸けられるようになっている,なお,センシング部における光ファイバは,螺旋状に巻回された状態でもよい。
そのセンシング部において,光ファイバ120は,所望の水位計測精度を実現するため,円筒状の断熱材の外周部及び内周部に,水面に対し直交する軸の回りに螺旋状に,所望の水位測定精度範囲内に空間分解能以上の長さが巻回されている。
ここで,空間分解能とは,正確な温度を測定するために必要な光ファイバ長を表す。ラマン散乱光のストークス光とアンチストークス光の強度比から温度を算出する光ファイバ120の温度分布計測装置110においては,光ファイバ120中を伝搬するレーザパルス光が温度計の感温部に相当するため,温度測定値は当該測定点前後の温度平均値となる。従って,空間分解能は,光ファイバ120の一部にステップ的な温度差を与えたときの温度分布から評価できる。ここで,空間分解能は,ステップ状の実温度分布に対して測定値が10%から90%応答するまでの距離と定義した。
図3は,分布型光ファイバ温度計測装置の空間分解能の一例を示す模式図である。空間分解能は被測定対象物の温度を正確に測定するために必要な光ファイバの長さである。測定精度にもよるが,例えば,出射光のパルス幅が20nsで受信器116のサンプリング周波数が100MHz(サンプリング周期10ns)の仕様の温度分布計測装置110に対し,光ファイバ120の一部に約15℃の温度差を与えた場合,図3に示す通り,温度分布に対して測定値が10%から90%応答するまでの距離は約1.8mであった。すなわち,正確な温度を計測するためには一地点について1.8mの光ファイバ120が必要である。
従って,気温と水温に差がある場合,水面に対し直交する方向に沿って光ファイバ120を,例えば,所望の水位測定精度範囲内に螺旋状に空間分解能分巻回させることによって,光ファイバ120が温度変化を正確に識別できる長さを確保できるので,水面に対し直交する方向に対し,各位置における温度を正確に測定することができる。従って,水位測定部140において,空中部と水中部で温度が変化する境界面の位置を正確に識別し,水位を正確に計測できる。
なお,センシング部は,空中部の位置と水中部の位置を明確に識別するため,最大水深時でも水面から例えば,最小センシング長を1.8mとした場合,長さ1.8m以上の光ファイバ120を空中に出しておくことが望ましい。
しかし,気温と水温の差ΔTが無い場合,断熱材の外周部に巻回された光ファイバのみでは,空中部と水中部の境界面識別が難しく,その結果,水位の正確な計測が困難となる。図4は,この課題に対して用いられる光ファイバ水位計の構造例を示す図であり,(a)は外観図,(b)は横断面を示す模式図,(c)は縦断面を示す模式図である。この光ファイバ水位計は,円筒状断熱材410の外周部に巻回された光ファイバ120aに加え,円筒状断熱材140の内周部に巻回された光ファイバ120bを有する。円筒状断熱材410の外周部は第一のセンシング部を構成し,円筒状断熱材140の内周部は第二のセンシング部を構成する。なお,円筒状断熱材410の内部にも断熱材420が配置されている。本構造の光ファイバ水位計においては,第二のセンシング部で計測される温度分布は第一のセンシング部で計測される温度分布に対し時間遅延が生じる。第二のセンシング部で計測された温度分布の時間変化は断熱材の周囲の媒質に依存する。従って,気温と水温の差ΔTが無く気温と水温が同等の状態で水位が上下した場合でも,温度分布の時間遅延及び温度分布変化をモニタリングすることで,水位を適切に把握できる。
図5は,本実施例の水位測定部140の構成例を示す模式図である。本実施例の水位測定部は,第二のセンシング部の高さ方向の温度分布を記録する第1のメモリを有し,第1のメモリに記録された温度分布の所定周期に対する変化を計測し,当該温度分布の変化の変化点から水位を検出する。更には,水と空気に対する温度ごとの温度伝導率を記憶した第2のメモリと,第2のメモリに記憶された温度伝導率を用いて第二のセンシング部の周囲の媒質に変化がない場合及び周囲の媒質が変化した場合の温度分布の所定周期に対する変化を算出する微分係数算出器と,計測された温度分布の変化と微分係数算出器によって算出された前記温度分布の変化を比較する比較部を有する。
温度分布計測装置110から送られた温度情報と位置情報に基づいて構成される温度分布データは,円筒状断熱材の外周部の温度分布データ501と内周部の温度分布データ502に分類される。先述したとおり,断熱材外周部の温度分布において,空中部と水中部で温度が変化する界面の位置を識別した場合,そのデータに基づき水位計測回路509により水位が算出され出力される。
一方,空中部と水中部の温度が同等の場合,すなわち第一のセンシング部の温度が装置の温度分解能の範囲で高さ方向に分布を示さず一定温度を示す場合には,まずは,周りの媒質及び断熱材外周部の温度情報からROMやRAM等のメモリ503に記憶されている温度伝導率を参照し,その温度伝導率に基づいて微分係数算出器504によって所定周期に対する断熱材内周部の温度分布変化を算出する。すなわち,水中部のままの箇所の断熱材内周部の温度変化,水位上昇により空中部から水中部に変化した箇所の断熱材内周部の温度変化,水位低下により水中部から空中部に変化した箇所の断熱材内周部の温度変化,空中部のままの箇所の断熱材内周部の温度変化を算出する。
同時に,メモリ505では断熱材内周部で実測した温度分布を記憶し,微分係数算出器506において所定周期に対する温度分布変化を計測する。このとき,所定周期は温度分布の変化を正確に把握できる程度が好ましく,例えば,10秒周期でも時間に対する温度分布の変化は計測可能である。計測したデータは更新器507に送られ,例えば,10秒間隔で新しいデータに上書きされる。更新器507のデータは時間に対する温度分布としてプロットされ,このプロットデータと微分係数算出器504で算出した値を微分係数比較回路508において比較する。これにより,センシング部の周りの媒質が水の場合と空気の場合とで,断熱材内周部の温度分布の時間的変化が異なるので,所定周期に対する温度分布変化から水位を計測することが可能である。また,微分係数算出器504により算出された値を参考にすることで,環境起因や測定ばらつきによる計測データばらつきを無視することができるので,結果的に水位測定エラーを回避できる効果もある。
図6は,本実施例の光ファイバ水位計測装置における水位計測の手順を示すフローチャートである。まず,図1に示すように,光源111から出射された例えば1550nmの波長光がパルス発生器112によりパルス変調された後,光ファイバ120の入射端に入射される(S11)。その後,光ファイバ120の長手方向における各位置から入射端に帰還した後方散乱光が光分岐部114を介して波長分離フィルタ115に伝搬され,後方散乱光のうちラマン散乱光のストークス光(約1650nm)とアンチストークス光(約1450nm)が抽出されて受信器116により受信される(S12)。周波数成分強度比演算回路117においてストークス光とアンチストークス光の強度比が検出され(S13),光帰還時間演算回路119においてその強度比に対応する光ファイバ120の位置情報が得られる(S14)。また,強度比に基づき温度演算回路118において温度データが得られる(S15)。
円筒状断熱材の外周部に巻回された光ファイバ120によって取得した温度分布の温度の異なる領域,すなわち水温と気温の情報から両者の温度差の有無を確認し(S16),温度差があると判断された場合は,[式3]で算出される温度と温度分布データの交点から水位を特定する(S17)。ここで,Tmaxは温度分布における最高温度,Tminは最低温度である。
一方,ステップS16において気温と水温の差(ΔT)が所定値未満と判断された場合は,断熱材外周部及び断熱材内周部の温度分布を計測し(S18),それらのデータに基づき周囲の媒質と温度に対応した温度伝導率をメモリ503から参照し,所定周期に対する温度分布変化を算出する(S19)。このとき,ステップS16の判定における所定値は装置の温度分解能とする。ここで,温度分解能は,被測定光ファイバ数十mを一定温度に設定された恒温槽に入れ,統計処理により算出した標準偏差σと定義する。さらに信頼性を向上させるため,例えば所定値は95%信頼区間を満たす2σとしてもよい。95%信頼区間とは,100回の温度測定のうち95回はある範囲に母平均が存在する幅のことである。更に,信頼性を向上させるため,例えば所定値に99%信頼区間を満たす3σを用いると良い。同時に,断熱材内周部の温度を計測し,所定周期に対する温度分布変化を計測する(S20)。ステップS19とステップS20のデータを比較し,光ファイバ水位計130の空中部の位置と水中部の位置を明確に識別して水位を特定する(S21)。このように,センシング部の周りの媒質が水の場合と空気の場合とで断熱材内周部の所定時間に対する温度分布の変化が異なることを利用し,水位を計測する。
このようにして得られた温度データや所定周期に対する温度分布変化のデータをもとに,下水道管渠内や河川等の水位が計測される。
図6の手順に従い,実際に本実施例の光ファイバ水位計測装置を用い,断熱材外周部の空中部の位置と水中部の位置に温度差がある場合と,無い場合の両方に対し水位を計測した。具体的には,空間分解能1.8m,サンプリング周波数100MHzの分布型温度計測装置を用いた場合,水位計測精度10mm以下を実現するため,直径80mmの円筒状の断熱材,例えばプラスチック材料,に光ファイバ120を最小巻きピッチ0.9mmで螺旋状に巻回させた。また,円筒状の断熱材内部の温度分布を計測するため,断熱材の直径40mmの箇所に光ファイバ120を最小巻きピッチ0.9mmで螺旋状に巻回した。
まずは,気温と水温に例えば0.5℃の温度差がある場合,水位を所望の値に設定し,光ファイバ水位計のセンシング部に巻かれた光ファイバ120にパルス光を入射してセンシング部の高さ方向に対する温度分布を計測した。水位は断熱材外周部の空中部と水中部で温度が変化する境界面の位置から算出した。
図7(a)は,設定水位が50mmのときのセンシング部の高さ方向に対する温度分布を示す図である。断熱材外周部の空中部と水中部の温度差が0.5℃の場合,[式3]より算出される値と温度分布の交点から,水位は50mmと算出された。算出値は設定値と一致した。また,図7(b)は,設定水位値と測定結果の比較を示す図である。断熱材外周部の空中部と水中部の温度差を0.5℃に設定し,水位を0mmから100mmまで10mm刻みで変化させた。各水位に対し10回測定した結果,測定平均値は偏りがなく設定水位値とほぼ一致した。従って,断熱材外周部の空中部と水中部に温度差がある場合は高精度に水位を計測できることを実証した。
次に,断熱材外周部の空中部と水中部に温度差がない場合に,センシング部に巻かれた光ファイバ120にパルス光を入射し,断熱材の外周部の温度及び断熱材の内周部の温度分布を計測した。ここで,測定条件として,図8に示すように,気温及び水温は時々刻々と変化する24時間周期の正弦波であると仮定した。光ファイバ水位計の断熱材外周部で計測した気温及び水温は実線で表される。一方,断熱材内部で計測した気温及び水温は点線で表示される。本実施例の効果を実証するため,気温と温度が同等になる時刻において,水位を上昇又は下降させた。
所定周期に対する断熱材内周部の温度分布変化は,光ファイバ水位計のセンシング部の周りの媒質の温度伝導率と断熱材内周部の初期温度分布を用いて算出される。ここで,各媒質の温度伝導率aは[式4]に示すように,比熱c,密度ρ,熱伝導率λの関数であり,光ファイバ水位計測装置に備わっている水位測定部140のメモリ503に記憶されている。具体的には,センシング部の周りの媒質は空気又は水であり,気温と水温に応じた温度伝導率がメモリ503に記憶されている。
今回,測定装置の仕様を考慮し,所定周期は10秒と設定した。断熱材内周部の所定時間に対する温度分布変化は,[式5]の非定常熱伝導方程式を時間微分に関して前進差分近似,空間微分に関して中心差分近似により離散化して算出した。ここで,T,x,yはそれぞれ温度,横方向,高さ方向の単位長さを示す。
一方,所定周期に対する温度分布変化の測定方法は,所定時間(ここでは10秒とした)毎に断熱材内周部の温度分布が計測されメモリ505に記憶される。メモリ505には,ある時間における断熱材内周部の温度分布(Tn)とその直前に計測された断熱材内周部の温度分布(Tn-1)が保存されており,微分係数算出器506において,[式6]により所定周期に対する温度分布変化を計測した。
算出値と実測値を比較するにあたり,まずは,メモリ503に記憶されている温度伝導率と[式5]を用いて,微分係数算出器504で各高さ位置に対する温度変化率が算出される。算出値は微分係数比較回路508に送られて,断熱材内周部の所定周期に対する温度変化率としてプロットされる。断熱材内周部の所定周期に対する温度変化率が算出されると同時に,実測側では微分係数算出器506の値が更新器507に送られ時間に対する温度分布としてプロットされる。実測結果は微分係数比較回路508で算出値と比較され,断熱材内周部の所定周期に対する温度分布変化のプロットにおいて,局所的に周囲より大きいまたは小さい温度変化率を検知し,水位計測回路509で水位変化を計測する。
本実施例において,温度が同等な場合における水位変化は,断熱材内周部の所定周期に対する温度分布変化をプロットし,局所的に周囲より大きいまたは小さい温度変化率を示す高さ範囲を検知することで,計測される。このとき,断熱材内部の初期温度差が空中部と水中部で大きい場合は,温度変化率に優位な差があるため,実測値だけからでも水位計測は可能である。しかし,断熱材内部の初期温度差が空中部と水中部で小さい場合では,所定計測時間内において装置の光量ばらつきや光源の揺らぎにより,実測値にばらつきが生じる可能性があり,実測値だけからでは水位の位置を正確に特定できない恐れがある。そのため,断熱材内部の初期温度と断熱材外周の温度から算出された計算結果を用いることで,実測値が実際の温度変化率を示しているか,または,装置の光量ばらつきや光源の揺らぎによる見せかけの温度変化率なのかを判別することができる。従って,温度変化率の算出値と実測値を比較することで,結果的に水位計測の正確性が増す。
図9は,所定周期に対する温度分布変化の算出値と実測値を比較した結果の例を示す図である。図9(a)は,気温と水温が同等になった瞬間に水位が50mmから80mmに上昇したときの光ファイバ水位計の高さ方向に対する,温度分布の時間変化を示す図である。このとき,断熱材には比熱c=1930J/(kg・K),密度ρ=900kg/m3,熱伝導率λ=0.125W/(m・K)のプラスチック材料を使用した。外周部の光ファイバ120で測定した気温及び水温は29℃で,空気にさらされた断熱材内周部の初期温度は29.5℃,一方,水にさらされた断熱材内周部の初期温度は29.2℃であった。温度29℃における空気の温度伝導率は約2.25×10-8m2/s,水の温度伝導率は約1.54×10-7m2/sである。これらの値に基づき微分係数算出器504により算出された所定周期に対する温度分布は,例えば,気温と水温が同等になった瞬間から10秒後の温度は,媒質が空気から水に変わった箇所(高さ50mmから80mm)では,断熱材内周部の温度が29.5℃から29.3℃となった。一方,媒質が空気のままの箇所(高さ80mm以上)では断熱材内周部の温度は29.5℃から29.37℃に温度が低下した。従って,時間に対する温度変化の絶対値は,空気から水に変わった箇所では0.02℃/sで,空気のままの箇所では0.012℃/sと算出された。実測値は測定ばらつきが僅かに存在しているが,算出値と一致していることがわかった。
従って,気温と水温が同等のときに光ファイバ水位計の断熱材内周部の所定周期に対する温度分布変化をプロットしたとき,局所的に周囲より大きな温度変化率を示す高さ範囲があったとき,その高さ範囲は水位上昇により断熱材への接触媒質が空気から水に変わった箇所であると判断することができる。そして,この大きな温度変化率を示す高さ範囲のうち最大の高さ位置を現在の水位と推定することができる。また,時間に対する温度変化の絶対値は,気温<水温の場合でも,気温>水温の場合と同様に,図9(a)のパターンは同等になる。
一方,図9(b)は,気温と水温が同等になった瞬間に水位が80mmから50mmに低下したときの光ファイバ水位計の高さ方向に対する,温度分布の時間変化を示す図である。断熱材は前述のプラスチックと同一である。外周部の光ファイバ120で測定した気温及び水温は29℃で,空気にさらされた断熱材内周部の初期温度は29.5℃,一方,水にさらされた断熱材内周部の初期温度は29.2℃であった。29℃における空気及び水の温度伝導率は前述の通りであり,これらの値に基づき微分係数算出器504により算出された所定周期に対する温度分布は,例えば,気温と水温が同等になった瞬間から10秒後の温度は,媒質が水から空気に変わった箇所(高さ50mmから80mm)では,断熱材内部の温度が29.2℃から29.15℃になった。一方,媒質が空気のままの箇所(高さ80mm以上)では断熱材内周部の温度が29.5℃から29.37℃に温度が低下した。従って,時間に対する温度変化の絶対値は,水から空気に変わった箇所では0.005℃/sで,空気のままの箇所では0.012℃/sと算出された。本実測においても,算出値と実測値がほぼ一致することを確認した。
従って,気温と水温が同等のときに光ファイバ水位計の断熱材内周部の所定周期に対する温度分布変化をプロットしたとき,局所的に周囲より小さな温度変化率を示す高さ範囲があったとき,その高さ範囲は水位低下により断熱材への接触媒質が水から空気に変わった箇所であると判断することができる。そして,この小さな温度変化率を示す高さ範囲のうち最小の高さ位置を現在の水位と推定することができる。また,時間に対する温度変化の絶対値は,気温<水温の場合でも,気温>水温の場合と同様に,図9(b)のパターンは同等になる。
以上より,光ファイバ水位計の外周部に巻回された光ファイバ120によって空中部と水中部における温度差から境界検出が困難な場合においても,断熱材内周部の所定周期に対する温度分布変化を計測することで水位を特定できることを実証した。
また,図9において実測値に外部環境要因による測定ばらつきが見られるが,所定周期に対する温度分布変化の算出値と実測値を比較することで,水位を正確に検出することができる。
また,図9(c)は,気温と水温が同等で,水位(50mm)に変化がないときの光ファイバ水位計の高さ方向に対する,温度分布の時間変化を示す図である。外周部の光ファイバ120で測定した気温及び水温は29℃で,空気にさらされた断熱材内周部の初期温度は29.5℃,一方,水にさらされた断熱材内周部の初期温度は29.2℃であった。29℃における空気及び水の温度伝導率は前述の通りであり,これらの値に基づき微分係数算出器504により算出された所定周期に対する温度分布は,例えば,気温と水温が同等になった瞬間から10秒後の温度は,媒質が水のままの箇所(高さ0mmから50mm)では,断熱材内部の温度が29.2℃から29.12℃になった。一方,媒質が空気のままの箇所(高さ50mm以上)では断熱材内周部の温度が29.5℃から29.37℃に温度が低下した。従って,時間に対する温度変化の絶対値は,水のままの箇所では0.007℃/sで,空気のままの箇所では0.012℃/sと算出された。
従って,気温と水温が同等の場合に光ファイバ水位計の断熱材内周部の所定周期に対する温度分布変化をプロットしたとき,局所的に周囲より大小の温度変化率を示す高さ範囲が存在しない場合は,水位が変化しなかったと判断することができる。
以上,円筒状断熱材の外周部の空中部と水中部に温度差がある場合には,当該外周部に巻回された光ファイバ120で計測した温度から水位を計測し,一方,空中部と水中部に温度差が無い場合には,円筒状断熱材の内周部に巻回された光ファイバ120で計測した所定周期に対する温度分布変化から水位を正確に計測できることを実証した。
なお,光ファイバ自身の破断等による断線故障の検出は,時間分割方式を用い,検査光発生部から光ファイバに光を入射した時にフレネル反射光が検出されることで行う。ここで,フレネル反射とは,接続点等での急激な屈折率の変化により生じる反射のことであり,光ファイバが破断した場合,ファイバの屈折率と空気の屈折率が異なることで発生する。この場合,光源の入射からフレネル反射光の受光までの経過時間によって光ファイバ断線位置を概略特定できるので,例えば流木等によって切断された光ファイバ120の切断箇所を容易に発見でき,補修作業時間等を短縮できる。また,例えば経時劣化により断線した光ファイバの断線箇所をも容易に発見できるため,破断箇所の状態により癒着による修繕か又は新しい光ファイバを敷設するか等の判断を迅速に行うことができる。このように,この光監視システムを用いることで,随時,検査光発生部から出射される光による光ファイバの光試験を行うことで,光伝送系に係る故障の監視を行うことができる。また,本実施例の光ファイバ水位計測装置は,フレネル反射光が検出された場合に,光ファイバが断線した等の状況を警報でユーザーに知らせる機能を搭載している。
また,本実施例では光ファイバ水位計130が単体の場合を一例として示したが,光ファイバ水位計130の個数は1つに限定されるものではなく,1本の光ファイバ120を用いて複数の光ファイバ水位計130を複数作製し,所定間隔で設置しても良い。また,光ファイバ120の本数も1本に限定されるものではなく,光分岐部114と光ファイバ120の間に光スイッチを介することで,光ファイバ120の本数を増やすことができる。これにより,光ファイバ水位計130の個数も増やすことが可能となる。
図10は,下水道管渠内に複数の光ファイバ水位計を設置した光ファイバ水位測定システムの一例を示す模式図である。システムはコントロール施設1010,光ファイバ120,光ファイバ収容箱1011,及び下水道管渠1013内の複数の監視箇所に設置された光ファイバ水位計1012を備える。コントロール施設1010は有人施設であり,図1に示した温度分布計測装置110が設置されている。温度分布計測装置110内の光源から出射された光は光ファイバ120に入射され,光ファイバ収容箱1011を介して各々の光ファイバ水位計1012に伝搬される。伝搬された光は光ファイバ内の長手方向各位置で散乱され,そのうち後方ラマン散乱光のストークス光とアンチストークス光が光ファイバ内を伝搬し,コントロール施設1010に設置されている温度分布計測装置110で受光される。受光されたラマン光の強度比から各光ファイバ水位計1012の高さ方向の温度分布が算出される。算出された温度分布に基づき,コントロール施設1010のモニターに各々の箇所の水位が表示される。こうして,遠隔地にあるコントロール施設1010から下水道管渠内の各箇所の水位を常時監視できる。
図11は,下水道環境における光ファイバ水位計の設置例を示す模式図である。下水道には大小様々な物体,例えば流木等,が流れており,保護カバーなしに光ファイバ水位計を設置してしまうと,光ファイバが切断され,水位計測に支障が生じる恐れがある。そのため,図11に示すように,光ファイバ断線防止を目的とした金属製の保護カバー1101で光ファイバ水位計1012を保護する。保護カバー1101はネジ等の固定具によって下水道のコンクリート壁1103に固定され,光ファイバ水位計1012は水位計固定器具1102によって保護カバー1101に固定され,保護カバー1101と光ファイバ水位計1012の間,光ファイバ水位計1012とコンクリート壁1103の間には空間が確保されている。保護カバー1101の下部にはフィルタ付きの開口部1104が設けられており,水のみが光ファイバ水位計側,すなわち保護カバー1101の内側の光ファイバ水位計1012の周囲の空間に流れ込む仕組みとなっている。こうすることで,光ファイバ水位計1012に巻回されている光ファイバに下水道を流れている水が直接触れるので,光ファイバ水位計1012の空中部と水中部の温度差を利用して下水道内の水位を計測できるようになる。
[実施例2]
本発明による光ファイバ水位計測装置の別の実施例について説明する。本実施例は,実施例1と同様に,所望の水位計測精度を満たすように水面に対し直交する軸の回りに巻回された光ファイバをセンシング部とする光ファイバ水位計を用いる。光ファイバ水位計のセンシング部の一部が水中に浸けられた状態で,光ファイバ内にパルス光を入射し,光ファイバの各位置から散乱されたラマン散乱光のうちストークス光とアンチストークス光の強度比に基づいて,空中部に位置する箇所の温度と水中部に位置する箇所の温度を識別し,空中部と水中部の境界位置を認識して水位を計測する。こうして,水面に対し鉛直方向におけるそれぞれの位置の温度を計測し,時々刻々変化する水位を精度よく計測するまでの手順は,実施例1とほぼ同等である。
ただし,断熱材外周部の空中部と水中部に温度差がない場合における水位計測において,断熱材内周部の時間に対する温度変化量を記憶したメモリを参照し,断熱材内周部の各高さ位置の温度の時間的変化から水位を計測するという点では実施例1と異なる。以下では,断熱材内部各高さ位置の時間に対する温度変化量を記憶したメモリを参照し,温度変化から水位を計測する方法について説明する。
図12は,本実施例による水位測定部140の構成例を示す模式図である。なお,図5に示した部品と同じものには同一の符号を付し,その詳細な説明を省略する。光ファイバ温度分布計測装置110は,実施例1と同様の構造のものを用いた。本実施例の水位測定部は,第二のセンシング部の高さ方向の温度分布を所定周期で記録する第1のメモリを有し,第1のメモリに記録された温度分布から導出された高さごとの温度の時間変化を比較することにより水位を検出する。更に,水と空気の温度ごとの温度伝導率を記憶した第2のメモリと,第2のメモリに記憶された温度伝導率を用いて第二のセンシング部の周囲の媒質に変化がない場合及び周囲の媒質が変化した場合の温度の時間変化を算出する温度変化算出部と,計測に基づく高さごとの温度の時間変化と温度変化算出部によって算出された温度の時間変化を比較する比較部を有する。
温度分布計測装置110から送られた温度分布情報はそれぞれ円筒状断熱材の外周部の温度分布データ501と内周部の温度分布502に分類される。実施例1と同様,外周部の温度分布データから空中部と水中部で温度が変化する界面の位置を識別できた場合には,そのデータに基づき水位計測回路509により水位が算出され出力される。
一方,断熱材外周部において空中部と水中部の温度が同等の場合,第一のセンシング部の温度が装置の温度分解能の範囲で高さ方向に分布を示さず一定温度を示す場合には,まずは,メモリ503において周りの媒質及び温度情報から温度伝導率を参照し,その温度伝導率に基づいて温度変化算出回路1201によって断熱材内部の時間に対する温度変化量を算出する。同時に,メモリ1202において断熱材内部の高さ方向の温度分布を随時記憶する。このとき,メモリ1202にデータを記憶させる時間間隔は温度分布変化量を正確に把握できる程度が好ましい。メモリ1202の計測データは随時,プロット部1203において高さ位置毎にプロットされ,このプロットデータと温度変化算出回路1201で算出したデータを比較回路1204において比較する。これにより,センシング部の周りの媒質が水の場合と空気の場合で,断熱材内周部の温度分布の時間的変化が異なるので,時間に対する温度分布変化量から水位を計測することが可能である。
図13は,本実施例の光ファイバ水位計測装置における水位計測の手順を示すフローチャートである。図13において,ステップS11からステップS18までの工程は,実施例1の図6と同様である。こうして,光ファイバ水位計の円筒状断熱材の外周部に巻回された光ファイバ120から気温と水温に温度差があると判断された場合(S16)には,実施例1と同様に,[式3]で算出される温度と温度分布データの交点から水位を特定する(S17)。
一方,ステップS16の判定において気温と水温の差ΔTが所定値未満と判断された場合には,断熱材外周部及び断熱材内周部の温度分布を計測し(S18),それらのデータに基づき周囲の媒質と温度に対応した温度伝導率をメモリ503から参照し,時間に対する温度分布変化量を算出する(S31)。このとき,ステップS16の判定に用いられる所定値は装置の温度分解能とし,装置の温度分解能の定義は実施例1と同様である。同時に,断熱材内周部の温度を計測し,メモリ1202に計測データを記憶し,プロット部1203へデータを随時送信し,高さ位置毎に時間に対する温度分布変化量をプロットする(S32)。ステップS31とステップS32のデータを比較し,光ファイバ水位計の空中部の位置と水中部の位置を明確に識別することで水位を計測する(S33)。このように,センシング部の周りの媒質が水と空気の場合で断熱材内部における時間に対する温度分布変化量が異なることを利用し,水位を計測する。このようにして得られた温度データや所定周期に対する温度分布変化のデータをもとに,下水道管渠内や河川等の水位が計測される。
図13に示した手順に従い,実際に本実施例の光ファイバ水位計測装置を用い,断熱材外周部の空中部の位置と水中部の位置に温度差がない場合に水位を計測した。具体的には,空間分解能1.8m,サンプリング周波数100MHzの分布型温度計測装置を用いた場合,水位計測精度10mm以下を実現するため,直径80mmの円筒状の断熱材,例えばプラスチック材料,に光ファイバ120を最小巻きピッチ0.9mmで螺旋状に巻回させた。また,円筒状の断熱材内部の温度分布を計測するため,内周直径40mmの箇所に光ファイバ120を最小巻きピッチ0.9mmで螺旋状に巻回した。なお,外周部の温度に対する内周部の温度遅延量は断熱材の厚みで調整できる。
水位計測にあたり,まずは,センシング部に巻かれた光ファイバ120にパルス光を入射し,断熱材の外周部の温度及び断熱材の内周部の温度分布を計測した。ここで,測定条件として,実施例1同様,図8に示すように,気温及び水温は24時間周期の正弦波であると仮定した。また,気温と温度が同等になった時点で,水位を変化させた。空中部と水中部の境界線は,時間に対する温度分布変化の算出値と実測値を比較することで識別した。
時間に対する温度分布変化量の算出方法は,センシング部の周りの媒質の温度伝導率と断熱材内周部の初期温度分布を用いて算出される。ここで,各媒質の温度伝導率aは[式4]で示すように,比熱c,密度ρ,熱伝導率λの関数であり,光ファイバ水位計測装置に備わっている水位測定部140のメモリ503に記憶されている。具体的には,センシング部の周りの媒質は空気又は水であり,気温と水温に応じた温度伝導率がメモリ503に記憶されている。また,断熱材内部の時間に対する温度分布変化量は[式5]の非定常熱伝導方程式を時間微分に関して前進差分近似,空間微分に関して中心差分近似により離散化して算出し,温度変化算出回路1201でプロットした。
一方,時間に対する温度分布変化量は,所定時間(ここでは25秒とした)毎に断熱材内部の温度分布が計測され,メモリ1202に記憶される。メモリ1202には,ある時間におけるセンシング部の各位置の温度が記憶されており,このデータは計測間隔毎にプロット部1203に送られ,プロットされる。
算出値と実測値を比較するにあたり,まずは,メモリ503に記憶されている温度伝導率と[式5]を用いて,温度変化算出回路1201で時間に対する温度変化量が算出される。算出値は比較回路1204に送られて,断熱材内周部の時間に対する温度変化量としてプロットされる。断熱材内周部の所定周期に対する温度変化率が算出されると同時に,実測側では各時刻における断熱材内部の温度分布がメモリ1202に記憶され,プロット部1203に送られて時間に対する温度変化量としてプロットされる。実測結果は比較回路1204で算出値と比較され,断熱材内周部の時間に対する温度変化量のプロットにおいて,温度変化量の差を検知し,水位計測回路509で水位変化を計測する。
本実施例において,温度が同等な場合における水位変化は,断熱材内周部の時間に対する温度分布変化量をプロットしたとき,その温度分布変化量の違いを検知することで,計測される。このとき,断熱材内部の初期温度差が空中部と水中部で大きい場合は,温度分布変化量に優位な差があるため,実測値だけからでも水位計測は可能である。しかし,断熱材内部の初期温度差が空中部と水中部で小さい場合では,所定計測時間内において装置の光量ばらつきや光源の揺らぎにより,実測値にばらつきが生じる可能性があり,実測値だけからでは水位の位置を正確に特定できない恐れがある。そのため,断熱材内部の初期温度と断熱材外周の温度から算出された計算結果を用いることで,実測値が実際の温度変化量を示しているか,または,光量ばらつきや光源の揺らぎによる見せかけの温度変化量なのかを判別することができる。従って,温度変化量の算出値と実測値を比較することで,結果的に水位計測の正確性が増す。
図14は,時間に対する温度分布変化量の算出値と実測値を比較した結果を示す図である。図14(a)は,気温と水温が同等になった瞬間に水位が50mmから80mmに上昇した場合の時間に対する計測温度を表す図である。このとき,断熱材には比熱c=1930J/(kg・K),密度ρ=900kg/m3,熱伝導率λ=0.125W/(m・K)のプラスチック材料を使用した。断熱材外周部の光ファイバ120で測定した気温及び水温は29℃で,空気にさらされた断熱材内部の初期温度は29.5℃,一方,水にさらされた部分の断熱材内部の初期温度は29.2℃であった。29℃における空気及び水の温度伝導率はそれぞれ約2.25×10-8m2/sと約1.54×10-7m2/sである。実測値と算出値は一致しており,媒質が水のままの箇所(高さ0mmから50mm),空気から水に媒質が変化した箇所(高さ50mmから80mm),及び媒質が空気のままの箇所(高さ80mm以上)で時間に対する温度分布変化量が明らかに異なっている。
従って,気温と水温が同等のときに光ファイバ水位計の断熱材内周部の各高さ位置における温度変化をプロットしたとき,初期温度が空中部と同じであって時間経過とともに空中部の温度から所定の温度に近づくような変化において,空中部のままの温度変化よりも温度変化が急な変化を示した高さ位置があると,その高さ位置は水位上昇により断熱材への接触媒質が空気から水に変わった高さ位置であると判断することができる。そして,そのような変化を示す高さ位置のうち最大の高さ位置を現在の水位と推定することができる。また,時間に対する温度変化のプロットは,気温<水温の場合でも,気温>水温の場合と同様に,図14(a)のパターンは同等で断熱材への接触媒質が水と空気とで異なる。
一方,図14(b)は,気温と水温が同等になった瞬間に水位が80mmから50mmに低下したときの時間に対する計測温度の変化を表す図である。断熱材は前述のプラスチックと同一のものを使用した。外周部の光ファイバ120で測定した気温及び水温は29℃で,空気にさらされた断熱材内周部の初期温度は29.5℃,一方,水にさらされた断熱材内周部の初期温度は29.2℃であった。29℃における空気及び水の温度伝導率はそれぞれ約2.25×10-8m2/sと約1.54×10-7m2/sである。媒質が水のままの箇所(高さ0mmから50mm),水から空気に媒質が変化した箇所(高さ50mmから80mm),及び媒質が空気のままの箇所(高さ80mm以上)で時間に対する温度分布変化量が明らかに異なっている。
従って,気温と水温が同等のとき光ファイバ水位計の断熱材内周部の各高さ位置における温度変化をプロットしたとき,初期温度が水中部と同じであって時間経過とともに水中部の温度から所定の温度に近づくような変化において,空中部のままの温度変化よりも温度変化が緩やかな変化を示した高さ位置があると,その高さ位置は水位低下により断熱材への接触媒質が水から空気に変わった高さ位置であると判断することができる。そして,そのような変化を示す高さ位置のうち最小の高さ位置を現在の水位と推定することができる。また,時間に対する温度変化のプロットは,気温<水温の場合でも,気温>水温の場合と同様に,図14(b)のパターンは同等で断熱材への接触媒質が水と空気とで異なる。
以上より,外周部の光ファイバ120において空中部と水中部における温度差から境界検出が困難な場合においても,断熱材の内部温度分布の時間に対する温度分布変化量を計測することで水位を特定できることを実証した。
また,図14(c)は,気温と水温が同等で,水位(50mm)に変化がないときの時間に対する計測温度の変化を表す図である。外周部の光ファイバ120で測定した気温及び水温は29℃で,空気にさらされた断熱材内周部の初期温度は29.5℃,一方,水にさらされた断熱材内周部の初期温度は29.2℃であった。29℃における空気及び水の温度伝導率は前述の通りである。媒質が水のままの箇所(高さ0mmから50mm),及び媒質が空気のままの箇所(高さ50mm以上)で時間に対する温度分布変化量が明らかに異なっている。
従って,気温と水温が同等のとき光ファイバ水位計の断熱材内周部の各高さ位置における温度変化をプロットしたとき,初期温度がそれぞれ水中部および空中部と同じであったとき,時間経過とともにそれぞれ水中部および空中部の温度が所定温度に近づくような変化において,時間に対する温度変化がスプリットしなかった場合は,水位が変化しなかったと判断することができる。
以上,光ファイバ水位計の断熱材外周部の空中部と水中部に温度差がある場合は,実施例1と同様,円筒状断熱材の外周部に巻回された光ファイバ120で計測した温度から水位を計測し,一方,光ファイバ水位計の断熱材外周部の空中部と水中部に温度差がない場合には,円筒状断熱材の内周部に巻回された光ファイバ120で計測した時間に対する温度分布変化量から水位を正確に計測できることを証明した。
このように,水位計測手段として断熱材内部の時間に対する温度分布変化量を計測することで,断熱材外周部の空中部と水中部の温度が同等の場合でも,正確に水位を計測することができるため,実施例1同様,高精度な光ファイバ水位計測装置を提供することができる。
[実施例3]
本実施例は,光ファイバ水位計のセンシング部の構造が異なる場合の例である。実施例1,2から変更していない部分に関しては実施例1,2と同等であるため,その詳細な説明を省略する。実施例1,2では,センシング部に用いられる断熱材は円筒状であって,第一のセンシング部は,その円筒状断熱材の外周部であり,第二のセンシング部は同一断熱材の内周部であった。
本実施例の光ファイバ水位計では,第一のセンシング部を第一の断熱材の外周部とし,第二のセンシング部を第一の断熱材とは別の断熱材の内周部とした。図15は,センシング部が複数の断熱材に対して設定されている本実施例による光ファイバ水位計の一例を示す模式図である。図示の例では,センシング部は第一の円筒状断熱材1501の外周部に加え,それとは別の第二の円筒状断熱材1502の内周部に設定されている。第一の円筒状断熱材1501の外周部に巻回された光ファイバ120aと,第二の円筒状断熱材1502の内周部に巻回された光ファイバ120bは光コネクタ1503を介して接続されている。第一の円筒状断熱材1501と第二の円筒状断熱材1502は,水位が変動した時,空中部と水中部の境界位置が同じように変化する場所に設置される。なお,図示の例では,第一の断熱材は円柱状であってもよい。
本実施例においても,光ファイバ120内にパルス光を入射し,光ファイバの各位置から後方散乱されたラマン散乱光のうちストークス光とアンチストークス光の強度比に基づいて,光ファイバ長手方向の各位置における温度,すなわち円筒状断熱材の軸方向高さ位置における温度を計測する。空中部と水中部に温度差がある場合は,第一の円筒状断熱材1501の外周部に巻かれた光ファイバ120aによって空中部と水中部の境界位置を認識して水位を計測する。一方,空中部と水中部に温度差がない場合には,第一の円筒状断熱材1501とは別の第二の円筒状断熱材1502の内周部に巻回された光ファイバ120bによって断熱材内周部の温度を計測することで,実施例1と同様に所定周期に対する温度分布変化や,実施例2と同様に時間に対する温度分布変化量を計測する。その結果,実施例1,2と同様に,水位を正確に計測できるようになる。
センシング部が第一の円筒状断熱材1501の外周部に加え,第一の円筒状断熱材1501とは別の第二の円筒状断熱材1502である場合は,光コネクタ1503を介してそれぞれを接続できるので,どちらか一方が断線などで故障した場合でも,その故障したセンシング部のみを交換できるという利点を有している。
[実施例4]
本実施例は,光ファイバ水位計のセンシング部の構造が異なる場合の例である。変更していない部分に関しては実施例1〜3と同様であるため,その詳細な説明を省略する。
図16は,本実施例による光ファイバ水位計の例を示す模式図である。本実施例の光ファイバ水位計は,図16に示すように,断熱材からなる同一筺体1701の外周に素線光ファイバ1702と断熱材で被膜された被膜光ファイバ1703をそれぞれ螺旋状に巻回してセンシング部を構成した。換言すると,本実施例の光ファイバ水位計の第二のセンシング部は第一のセンシング部と同じ箇所に設定され,第二のセンシング部に巻回された光ファイバは断熱材で被覆されている。被膜光ファイバ1703は,一例として,例えば直径10mmのプラスチック材料からなる断熱材1704の中心に直径0.9mmのテフロン被膜済み光ファイバ1705を埋め込んだものを用いた。
本実施例においても,光ファイバ内にパルス光を入射し,その光ファイバの各位置から後方散乱されたラマン散乱光のうちストークス光とアンチストークス光の強度比に基づいて,各位置における温度を計測する。光ファイバ水位計の空中部と水中部に温度差がある場合は,素線光ファイバ1702の温度分布から空中部と水中部の境界位置を認識して水位を計測する。一方,空中部と水中部に温度差がない場合には,被膜光ファイバ1703の温度分布を計測することで,実施例1と同様に所定周期に対する温度分布変化や,実施例2と同様に時間に対する温度分布変化量を計測する。その結果,他の実施例と同様に水位を正確に計測できるようになる。本実施形態では同一筺体の外周部を使用することができるため,光ファイバ水位計の作製が容易であるという利点を有している。
[実施例5]
本実施例は,光ファイバ水位計のセンシング部の構造が異なる場合の例である。変更していない部分に関しては実施例1〜4と同様であるため,その詳細な説明を省略する。本実施例の光ファイバ水位計は,実施例1,2と同様に,センシング部に用いられる断熱材は円筒状であって,第一のセンシング部はその円筒状の外周部であり,第二のセンシング部は同一断熱材の内周部である。ただし,本実施例においては,第一のセンシング部及び第二のセンシング部の2つのセンシング部を有する高さ範囲が,光ファイバ水位計の上部領域のみに限定されている。換言すると,本実施例の光ファイバ水位計では,第二のセンシング部は断熱材の上部領域にのみ設定されている。
図17は,本実施例による光ファイバ水位計の例を示す模式図であり,(a)は外観を表す模式図,(b)は横断面を表す模式図,(c)は縦断面を表す模式図である。図示した例の光ファイバ水位計は,円柱状断熱材1801の全体の外周部に光ファイバ120を巻回し,更に上部領域Aについて,すでに巻回されている光ファイバの上に更に断熱材1802を形成し,その断熱材1802の外周部に光ファイバを巻回して製造した。光ファイバ120は,光ファイバ水位計の上部領域Aには外周部と内周部に二重に巻回され,下部領域Bには一重に巻回されている。光ファイバ水位計の上部領域Aの外周部と下部領域Bが第一のセンシング部を構成し,上部領域Aの内周部が第二のセンシング部を構成する。
本実施例においても,光ファイバ120内にパルス光を入射し,光ファイバの各位置から後方散乱されたラマン散乱光のうちストークス光とアンチストークス光の強度比に基づいて,各位置における温度を計測する。空中部と水中部に温度差がある場合は,外周部に巻かれた空中部と水中部の境界位置を認識して水位を計測する。一方,空中部と水中部の温度差が所定値未満の場合には,光ファイバ水位計の下部領域では境界位置を認識するのは困難であるが,上部領域では第一のセンシング部と第二のセンシング部の温度分布を計測することで,実施例1と同様に所定周期に対する温度分布変化や,実施例2と同様に時間に対する温度分布変化量を計測する。その結果,水位が上部領域Aにある場合には,実施例1〜4と同様に水位を正確に計測できるようになる。
本実例では,第一のセンシングと第二のセンシング部を有する箇所は光ファイバ水位計の上部領域のみではあるが,確実に危険水位を計測できる。ここで,危険水位とは,例えば河川の氾濫基準水位であり,ユーザーや設置環境により異なる。また,第一のセンシングと第二のセンシング部を光ファイバ水位計の上部領域のみに設けるため,断熱材を節約することができ,光ファイバ水位計のコストも抑制できる。
[実施例6]
本実施例は,光ファイバ水位計のセンシング部の構造が異なる場合の例である。変更していない部分に関しては実施例1〜5と同様であるため,その詳細な説明を省略する。本実施例の光ファイバ水位計は,実施例1,2と同様に,センシング部に用いられる断熱材は円筒状であって,第一のセンシング部はその円筒状の外周部であり,第二のセンシング部は同一断熱材の内周部である。ただし,本実施例においては,第一のセンシング部及び第二のセンシングを有する部分を光ファイバ水位計の任意の高さに分散して設置できる構造となっている。
図18は,本実施例による光ファイバ水位計の例を示す模式図であり,(a)は外観を示す模式図,(b)は縦断面を示す模式図である。本実施例の光ファイバ水位計は,円柱状の断熱材1901の外表面に断熱材からなる環状部材1902が複数嵌められた構造を有する。環状部材1902の外周部と内周部に光ファイバが巻回されており,外周部が第一のセンシング部となり,内周部が第二のセンシング部となる。換言すると,本実施例の光ファイバ水位計において,光ファイバは,円柱状断熱材を取り巻く環状断熱材の外周部に設定された第一のセンシング部と当該環状断熱材の内周部に設定された第二のセンシング部にそれぞれ巻回され,複数の環状断熱材が円柱状断熱材の複数の高さ位置に互いに離間して配置されている。本実施例において環状部材を設ける間隔,すなわち第一のセンシング部及び第二のセンシング部を設ける間隔dは,例えば目標水位計測精度程度としても良く,ユーザーが任意に決定しても良い。
本実施例の光ファイバ水位計では,水位が2つの環状部材1902の間に位置するときには,隣接する2つの環状部材1902の間に水位があることは分かるもののその正確な位置を知ることはできない。従って,本実施例の光ファイバ水位計の水位測定精度は環状部材1902の間隔dに依存することになるが,精密な測定精度が要求されないような場面では十分な実用性を有する。
本実施例においても,光ファイバ内にパルス光を入射し,その光ファイバの各位置から後方散乱されたラマン散乱光のうちストークス光とアンチストークス光の強度比に基づいて,各位置における温度を計測する。空中部と水中部に温度差がある場合は,外周部に巻かれた光ファイバ120aにより空中部と水中部の境界位置を認識して水位を計測する。一方,空中部と水中部の温度差が所定値未満の場合は,外周部に巻かれた光ファイバ120aと内周部に巻かれた光ファイバ120bによって第一のセンシング部と第二のセンシング部の温度分布を計測することで,実施例1と同様に所定周期に対する温度分布変化や,実施例2と同様に時間に対する温度分布変化量を計測する。その結果,実施例1〜5と同様に,水位を正確に計測できるようになる。本実施例では,第一のセンシングと第二のセンシング部を任意の箇所のみに設けるため,断熱材を節約することができ,光ファイバ水位計のコストも抑制できる。
なお,本発明は上記した実施例に限定されるものではなく,様々な変形例が含まれる。例えば,上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり,必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また,ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり,また,ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また,各実施例の構成の一部について,他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。