JP6221246B2 - R−t−b系焼結磁石およびその製造方法 - Google Patents

R−t−b系焼結磁石およびその製造方法 Download PDF

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本発明は、R−T−B系焼結磁石(希土類系焼結磁石)およびその製造方法、とりわけ希土類元素としてネオジムとプラセオジムとを含むR−T−B系焼結磁石およびその製造方法に関する。
14B型化合物を主相とし、主相結晶粒の結晶粒界にRリッチ相(希土類リッチ相)を有するR−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素(イットリウム(Y)を含む概念)の少なくとも1種でネオジム(Nd)を必ず含み、Tは鉄(Fe)または鉄とコバルト(Co)、Bはホウ素を意味する)は、高い残留磁束密度B(以下、単に「B」という場合がある)と高い固有保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)とを有し、これまでに知られている各種磁石の中でも最も高い磁気エネルギー積を示すという利点に加えて、比較的安価であるという利点も有している。
このため、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ、ハイブリッド自動車用モータ、電気自動車用モータ等の各種モータならびに家電製品等など多種多様な用途に用いられている。
例えばハイブリッド自動車用モータ、電気自動車用モータ等の各種モータ等に用いる場合、例えば140℃〜180℃のような高温下に曝される。
R−T−B系焼結磁石は、高温になるとHcJが低下し、不可逆熱減磁が起こるという問題がある。
このため、例えば特許文献1〜3に示すようにR−T−B系焼結磁石の表面から内部にジスプロシウム(Dy)またはテルビウム(Tb)を拡散させて主相結晶粒の粒界近傍(主相結晶粒の外殻部)にジスプロシウム(Dy)またはテルビウム(Tb)を濃化させて高温でも高いHcJを得る方法が採られている。
また、特許文献4〜6には、ジスプロシウム(Dy)またはテルビウム(Tb)のような重希土類元素以外に、プラセオジム(Pr)のような軽希土類元素を表面から内部に拡散させることが記載されている。
WO2007/102391号公報 WO2011/007758号公報 WO2006/043348号公報 特開2005−11973号公報 特開2007−287875号公報 特開2008−263179号公報
特許文献1〜3に記載の方法は、DyまたはTbを使用することが必須となる。しかし、DyおよびTbは、産出地が限定されている等のために、入手が困難になるまたは価格が高騰するといった問題を有している。
一方、特許文献4〜6が開示する方法については、従来、Nd原子の一部をPr原子に置換することにより、室温ではHcJ向上の効果があると想像されるが、しかし高温(140℃〜180℃)でのHcJ向上の効果はほとんどないと考えられていた。
これは、例えばRFe14BのRがPrの場合とNdの場合とで異方性磁界(この値が大きいほどHcJが大きくなる)の温度依存性を比べた実験結果(例えば、文献名:J.Appl.Phys.,Vol.59,No.3、P.873(1986)に示されるグラフ)からも理解できる。すなわち、室温(300K)ではRがPrの場合の方が、RがNdの場合より高い異方性磁界の値を示すが、例えば160℃(433K)のような高温では、RがNdの場合の方が、RがPrの場合より高い異方性磁界の値を示している。
このため、高温におけるHcJを向上させることを目的にPrを添加することは好ましくないと考えられていた。
この結果、表面から内部にDyまたはTbを拡散させて主相結晶粒の粒界近傍にDyまたはTbを濃化させる方法が上述の問題を有するにかかわらず、R−T−B系焼結磁石において高温でより高いHcJを確保できる実用的な数少ない方法であった。
そこで、本発明は、DyおよびTbを使用しなくても高温で高いHcJを発現することができるR−T−B系焼結磁石およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の態様1は、ネオジム(Nd)およびプラセオジム(Pr)を含む希土類元素と、鉄(Fe)と、ホウ素(B)とを含み、下記一般式で表される金属間化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石(希土類系焼結磁石)であって、前記金属間化合物の結晶粒を10個〜100個含む断面における分光法による濃度測定において、プラセオジム(Pr)の濃度が前記R−T−B系焼結磁石の中央部よりも高くなっている表層部を有し、該表層部の少なくとも一部分において、前記結晶粒の粒界多重点に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が75%以下であり、かつ前記金属相に隣接する前記結晶粒が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率よりも20パーセントポイント以上高い表層部を有することを特徴とするR−T−B系焼結磁石である。
一般式: R14
(ここで、Rはネオジム(Nd)が質量比で50%以上である1種類以上の希土類元素であり、Tは鉄(Fe)または鉄とコバルト(Co)。)
本発明の態様2は、前記表層部において前記金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が60%以下であることを特徴とする態様1に記載のR−T−B系焼結磁石である。
本発明の態様3は、結晶粒を10個〜100個含む断面における分光法による濃度測定において、プラセオジム(Pr)の濃度が中央部よりも高くなっている前記表層部の全体に亘り、前記結晶粒の粒界多重点に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が75%以下であり、かつ前記金属相に隣接する前記結晶粒が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率よりも20パーセントポイント以上高いことを特徴とする態様1または2に記載のR−T−B系焼結磁石である。
本発明の態様4は、1)ネオジム(Nd)を含む希土類元素と、鉄(Fe)と、ホウ素(B)とを含み、下記一般式で表される金属間化合物を主相とする焼結体を形成する工程と、 2)プラセオジム(Pr)を含むプラセオジム供給源と、前記焼結体とを容器内に配置し、該プラセオジム供給源と該焼結体とを加熱し、該プラセオジム供給源から該焼結体にプラセオジム(Pr)を拡散させることにより、前記金属間化合物の結晶粒を10個〜100個含む断面における分光法による濃度測定において、プラセオジム(Pr)の濃度がR−T−B系焼結磁石の中央部よりも高くなっている表層部を形成し、該表層部の少なくとも一部分において、前記結晶粒の粒界多重点に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が75%以下で且つ前記金属相に隣接する前記結晶粒が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率よりも20パーセントポイント以上高くなるようにする工程と、を含むことを特徴とするR−T−B系焼結磁石の製造方法である。
一般式: R14
(ここで、Rはネオジム(Nd)が質量比で50%以上である1種類以上の希土類元素であり、Tは鉄(Fe)または鉄とコバルト(Co)。)
本発明の態様5は、前記表層部において前記金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が60%以下である態様4に記載の製造方法である。
本発明の態様6は、前記結晶粒を10個〜100個含む断面における分光法による濃度測定において、プラセオジム(Pr)の濃度が中央部よりも高くなっている前記表層部の全体に亘り、前記結晶粒の粒界多重点に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が、75%以下であり、かつ前記金属相に隣接する前記結晶粒が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率よりも20パーセントポイント以上高くすることを特徴とする態様4または5に記載の製造方法である。
本発明の態様7は、前記工程2)において、前記焼結体のプラセオジム(Pr)含有量が質量比で0.3パーセントポイント〜1.5パーセントポイント増加することを特徴とする態様4〜6のいずれかに記載の製造方法である。
本発明の態様8は、前記プラセオジム供給源は、プラセオジム(Pr)を30質量%以上含有していることを特徴とする請求項4〜7に記載の製造方法である。
本発明の態様9は、前記プラセオジム供給源は、Pr−Fe合金であることを特徴とする請求項4〜8に記載の製造方法である。
本発明の態様10は、前記プラセオジム供給源は、Pr−Al合金であることを特徴とする請求項4〜8に記載の製造方法である。
本発明により、DyおよびTbを使用しなくても高温で高いHcJを発現するR−T−B系焼結磁石およびその製造方法を提供することができる。
図1は、希土類焼結磁石の表層部における透過電子顕微鏡観察結果(DF−STEM像)を示す写真である。 図2は、TEM−EDXによる元素マッピング像を示す写真である。 図3は、金属相と酸化物相の領域を示すDF−STEM像である。
本発明者らは鋭意検討した結果、Ndを含む希土類元素と、Feと、Bとを含み、一般式: R14B で表される金属間化合物を主相とする焼結体を形成した後に、該焼結体の表面から内部にPrを拡散させる拡散処理を適正な条件で行うことで、得られたR−T−B系焼結磁石は、例えば140℃のような高温でもHcJの向上効果(高いHcJ)が得られることを見出した。
すなわち、焼結体に拡散処理を実施して得たR−T−B系焼結磁石は、Prの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有し、主相の結晶粒(以下、単に「結晶粒」という場合、および「主相結晶粒」という場合がある。)の粒界多重点に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下である表層部を有している。
さらに、この本発明の製造方法は、上述の拡散処理を行う焼結体が、実質的にPrを含まない(不純物として0.1質量%程度までのPrを含む場合がある)場合、および例えばNdとPrとを含むジジム合金(Nd−Pr)を用いて製造した焼結体のような、Prを含む(Prを添加した)場合の何れであっても、得られた焼結磁石は、140℃のような高温でもHcJの向上効果を得ることができる。
Ndを主な希土類元素とするR−T−B系焼結磁石においてPrを添加すると、従来は、上述のように高温で高いHcJ向上効果を得ることは困難と考えられていた。焼結体の表面からPrを粒界拡散させ、焼結体の表層部における粒界の金属相にPrを適切な範囲に含有させることで、高温でのHcJが向上するという本発明は従来の常識を覆すものである。
このような特徴を有する本発明に係る製造方法で得たR−T−B系焼結磁石が高温で高いHcJを有するメカニズムについては、未だ不明な点もある。現在までに得られている知見を基に本願発明者らが考えるメカニズムについて以下に説明する。以下のメカニズムについての説明は本発明の技術的範囲を制限することを目的とするものではないことに留意されたい。
R−T−B系焼結磁石では、その磁化方向と反対方向の外部磁場を受けて磁化が反転する場合、磁化の反転は主相結晶粒内で起こる。磁化反転の過程で、ある主相結晶粒内で磁化が反転し、それが隣接する主相結晶粒に伝搬していくことが磁石全体の磁化反転の一要因となる。つまり、主相結晶粒間の磁気的結合がHcJを決定する一因となる。そして、このような隣接する主相結晶粒への伝搬を、Prを所定量含有する金属相が結晶粒界に存在することにより抑制させることができると考えられる。その結果、磁石全体のHcJを高めることができると考えられる。
しかし、その一方で、結晶粒界にPrの高い濃化領域を形成するように多量のPrを焼結体表面から内部に拡散させると、その一部は結晶粒界に留まることができずに結晶粒内に入り、結晶粒の外殻部(結晶粒内にPrの濃度が高い領域を広範囲に亘り形成すると考えられる。
そして、上述したように高温においては、RFe14B化合物のRがNdの場合の方が、RがPrの場合より高い異方性磁界の値を示している(HcJが高い)ことからも判るように結晶粒の外殻部にPrの濃度が高い領域が広範囲に亘り形成されることにより、磁石表面からPrを拡散させても高温でのHcJの向上が認められないという広く知られた事象が現れると考えられる。
すなわち、磁石表面から焼結体内部に拡散させたPr量、とりわけ結晶粒界に拡散させたPr量が適正な範囲にある場合のみ、結晶粒界に濃化したPrの効果を引き出すことができると考えられる。そしてこの適正な範囲が、焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、かつ金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下である。
表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて20パーセントポイント未満だけ高いと、結晶粒界に十分な量のPrを濃化させることができず十分な効果が得られない。一方、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超えると、結晶粒界に十分な量のPrが濃化するが、結晶粒内(とりわけ結晶粒の外殻部)にPrの高濃度領域が広範囲に亘り形成され、結晶粒界に濃化したPrによる高温でのHcJ向上の効果は、結晶粒の外殻部におけるPrの高濃度領域により損なわれる。その結果、高温でのHcJ向上効果が低下してしまう。
なお、本明細書における用語「表層部」は、文字「層」を含んでいるが、層状となった組織を有することを規定するものではなく(層状の組織を必須とするものではなく)、断面において、表面およびその近傍を意味する(「表面部」または「表面近傍部」と言い換えることができる)。得ようとするR−T−B系焼結磁石の寸法および詳細を後述するPr拡散処理の条件や拡散処理後の磁石研削量等にもよるが、多くの場合、本発明のR−T−B系焼結磁石は表面から100μmの間に、より確実に上述した特徴を有する本発明に係る表層部を形成する傾向がある。
以下に本発明に係るR−T−B系焼結磁石の製造方法およびR−T−B系焼結磁石の詳細を説明する。
1.製造方法
1−1.焼結体の作製
(1)焼結体の組成
焼結体は、Ndを含む希土類元素と、Feと、Bとを含むR−T−B系焼結磁石として知られている任意の組成であってよい。以下に好ましいR−T−B系焼結磁石の組成を示す。
Rは、希土類元素であり、Ndが必須であり、Rのうち質量比で50%以上をNdとする。Prを質量比で50%以上含有すると、高温のHcJが大きく低下するため、本発明の効果を得られない恐れがある。また、NdおよびPr以外の希土類金属を含んでよい。
焼結体全体でNdと他の希土類元素を合計して25質量%以上35質量%以下であることが好ましい。25質量%未満では焼結ができない場合があり、35質量%を超えるとBが著しく低下する場合があるためである。
Nd以外の希土類元素は、例えば、ミッシュメタルおよび/またはジジム合金(Nd−Pr合金)を用いることにより含まれる。例えば、ジジム合金を用いると、焼結体はPrを含む。この場合、焼結体がPrを含んだ状態で後述する拡散処理を行うこととなる。
Tは、鉄を含み、質量比率でその50%以下をCoで置換してもよい。Coは温度特性の向上、耐食性の向上に有効であり、焼結体は10質量%以下のCoを含んでよい。
Tの含有量は、RとBあるいはRとBと後述するMとの残部を占めてよい。
Bの含有量についても公知の含有量で差し支えなく、例えば、0.9質量%〜1.2質量%が好ましい範囲である。0.9質量%未満では高いHcJが得られない場合があり、1.2質量%を超えるとBが低下する場合がある。なお、Bの一部はC(炭素)で置換することができる。Cによる置換は磁石の耐食性を向上させることができる場合がある。B+Cとした場合(BとCの両方含む場合)の合計含有量は、Cの置換原子数をBの原子数で換算し、上記のB濃度の範囲内に設定されることが好ましい。
上記元素に加え、HcJ向上のためにM元素を添加することができる。M元素は、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Hf、TaおよびWからなる群から選択される一種以上である。M元素の添加量は2.0質量%以下が好ましい。また、不可避的不純物も許容することができる。
(2)合金粉末の作製
上述の焼結体の組成と実質的に同じ組成を有する合金粉末を作製する。
合金粉末は、例えば、溶解法により、所望の組成を有するR−T−B系焼結磁石用原料合金のインゴットまたはフレークを作製し、この合金インゴットおよびフレークに水素を吸収(吸蔵)させて水素粉砕を行い、粗粉砕粉を得る。
そして、粗粉砕粉をジェットミル等により更に粉砕して微粉細粉(合金粉末)を得ることができる。
R−T−B系焼結磁石用原料合金の製造方法を例示する。
最終的に必要な組成となるように事前に調整した金属を溶解し、鋳型にいれるインゴット鋳造法により合金インゴットを得ることができる。
また、溶湯を単ロール、双ロール、回転ディスクまたは回転円筒鋳型等に接触させて急冷し、インゴット法で作られた合金よりも薄い凝固合金を作製するストリップキャスト法または遠心鋳造法に代表される急冷法により合金フレークを製造することができる。
本発明においては、インゴット法と急冷法のどちらの方法により製造された材料も使用可能であるが、急冷法により製造されるものが好ましい。
急冷法によって作製したR−T−B系焼結磁石用原料合金(急冷合金)の厚さは、通常0.01mm〜3mmの範囲にあり、フレーク形状である。合金溶湯は冷却ロールの接触した面(ロール接触面)から凝固し始め、ロール接触面から厚さ方向に結晶が柱状に成長してゆく。急冷合金は、従来のインゴット鋳造法(金型鋳造法)によって作製された合金(インゴット合金)に比較して、短時間で凝固されているため、組織が微細化され、結晶粒径が小さい。急冷合金を水素粉砕することで、水素粉砕粉(粗粉砕粉)のサイズを例えば1.0mm以下とすることができる。
このようにして得た粗粉砕粉をジェットミル等により粉砕することで、例えば気流分散式レーザー解析法によるD50粒径で3〜7μmの合金粉末を得ることができる。
ジェットミルは、(a)酸素含有量が実質的に0%の窒素ガスおよび/またはアルゴンガス(Arガス)からなる雰囲気中、または(b)酸素含有量が0.005〜3%の窒素ガスおよび/またはArガスからなる雰囲気中で行うのが好ましい。
得られた合金粉末は、乾燥したまま回収してもよく、また油等の分散媒中に分散させてスラリーとして回収してもよい。
また、粗粉砕粉、ジェットミル粉砕中及びジェットミル粉砕後の微粉砕粉に助剤として公知の潤滑剤を使用してもよい。
(3)プレス成形
得られた合金粉末を用いて磁界中プレス成形を行い、成形体を得る。磁界中プレス成形は、磁界を印加した金型のキャビティー内に乾燥した合金粉末を挿入しプレスする乾式法、および金型のキャビティー内にスラリーを挿入し、スラリーの分散媒を排出しながらプレスする湿式法を含む既知の任意の方法を用いてよい。
なお、湿式法により得た成形体は、焼結を行う前に成形体中に残存する分散媒(油等)を除去する脱油処理を施すことが好ましい。脱油処理は、好ましくは50〜500℃、より好ましくは50〜250℃でかつ圧力13.3Pa(10−1Torr)以下の条件で30分以上保持して行う。成形体に残留する分散媒を充分に除去することができるからである。
(4)焼結
成形体を焼結することにより焼結体を得る。
成形体の焼結は、公知のR−T−B系焼結磁石の製造方法と同様の方法を用いることができる。なお、焼結による酸化を防止するために、雰囲気ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより置換しておくことが好ましい。
焼結体は、Ndを含む希土類元素と、Feと、Bとを含み、下記(1)式で表される金属間化合物を主相とする。
そして、主相結晶粒は、焼結体の断面観察において、50%(体積比または断面の面積比)以上、好ましくは70%(体積比または断面の面積比)以上存在している。

14B (1)
ここで、RはNdを質量比で50%以上含有する1種類以上の希土類元素であり(すなわち、R全体の50質量%以上がNd)、TはFeまたはFeとCoである。
1−2.拡散処理
次に得られた焼結体に拡散処理を施す。焼結体の表面から内部にPrを供給し、焼結磁石の表層部において、粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を、当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高くし、かつ表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を75%以下にする。また、好ましくは表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を60%以下にする。高温におけるHcJ向上効果をより一層高くできるからである。
さらに、焼結体に拡散処理を実施して得たR−T−B系焼結磁石は、焼結体の表面からPrを供給するために、Prの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有することになる。
拡散処理は、Prを含むプラセオジム供給源と焼結体とを容器内(本発明における容器とは、容器が炉であってもよいし、炉の中に容器を入れてもよい。)に配置し、プラセオジム供給源と焼結体とを加熱し、プラセオジム供給源から焼結体にPrを拡散させることができる限り任意の拡散処理を行ってよい。
このような拡散処理を行うことで、当然ながら焼結磁石全体でもPrの含有量は増加する。焼結磁石全体としてPr含有量がどの程度増加するかは、焼結磁石の体積等の要因によって異なる。しかし、例えば、縦、横および高さのうちの最小寸法が10mm以下の一般的な形態のR−T−B系焼結磁石であれば、本発明に係る拡散処理を行うことにより、多くの場合、焼結磁石全体でPr含有量が0.3質量%〜1.5質量%増加する(すなわち、拡散処理後のPr含有量が拡散処理前と比べて、質量比で0.3〜1.5パーセントポイント増加する。)。
以下に拡散処理の詳細を説明する。
(1)プラセオジム供給源
プラセオジム供給源として、Prを含む固体、スラリーなどの任意の形態のプラセオジム供給源を用いてよい。
好ましいプラセオジム供給源は、PrメタルまたはPrを含む合金である。合金を用いる場合、Prが30質量%以上含まれていることが好ましい。
プラセオジム供給源として用いることができる合金としてPr−Fe合金、Pr−Al合金を例示できる。
プラセオジム供給源の形状、サイズは拡散処理方法によって適宜選定すればよく、薄膜や粉末などでもよい。
(2)拡散処理方法
拡散処理は、加熱中にプラセオジム供給源と焼結体とを接触させてプラセオジム供給源から焼結体にPrを粒界拡散させる方法が好ましい。
プラセオジム供給源は、任意の形状を有してよいが、好ましくは球状や粒子状(粉末状)である。プラセオジム供給源と焼結体との接触面積を増やすことができるからである。粒子状の場合、好ましい粒子径は100μm以下、より好ましくは10μm以下である。より確実に接触面積を増やすことができるからである。ただし、微粒子の場合は、酸化し易いため、酸化を抑制する分散媒などを用いることが好ましい。
粒子状のプラセオジム供給源を用いる場合、プラセオジム供給源をそのまま焼結体表面に散布または吹き付けることによりプラセオジム供給源と焼結体とを接触させてもよく、またプラセオジム供給源を分散媒中に分散させたスラリーを焼結体表面に塗布した後、分散媒を蒸発させてプラセオジム供給源と焼結体とを接触させてもよい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、アルデヒド、ケトンを例示できる。
プラセオジム供給源と焼結体の温度は、500℃〜1000℃、好ましくは600℃〜800℃に加熱する。1000℃より高い温度に加熱するとPrの主相結晶粒内への拡散を進行させてしまう可能性が高まるからであり、一方、温度が500℃未満だとPrが十分に粒界拡散せず、本発明に係る表層部を形成しない場合があるからである。
また、処理容器内(すなわち拡散処理を行う)雰囲気ガスの圧力は、不活性ガス雰囲気(例えば、アルゴン(Ar)などの希ガス)ならば特に問わず、真空圧でも大気圧以上でもよい。
なお、焼結体の表層部において、粒界多重点に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高くし、表層部に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を75%以下とするためには、焼結体の大きさおよび用いるプラセオジム供給源の種類等に応じて、焼結体の温度、プラセオジム供給源の温度、プラセオジム供給源の量、粒子径(プラセオジム供給源が粒子状の場合)、処理時間等の各種条件を調整してよい。これらのなかでも、焼結体の温度、プラセオジム供給源の温度、プラセオジム供給源の量または処理時間を調整することにより比較的容易にPrの導入量(増加量)を制御できる。
念のために言及するが、本明細書において、「20パーセントポイント以上高い」とは、パーセント(質量%)で示される含有量において、その値が20以上大きいことを意味する。例えば、対象物AのR中のPrの含有量が40質量%であり、対象物BのPrの含有量が対象物Aより20パーセントポイント以上高いとは、対象物BのR中のPrの含有量が60質量%以上であることを意味する。
焼結体をプラセオジム供給源から離間させて容器内に配置する方法を用いる場合、すなわち、一旦Prの蒸気(気相)を形成し、この気相が焼結体表面に達し、焼結体表面から内部にPrを拡散させる場合は、Prが気化しにくいため、プラセオジム供給源を高真空中(10−3〜10−4)で1100℃〜1200℃に加熱することが好ましい。この場合においても、焼結体の温度は上述した理由により、500℃〜1000℃(より好ましくは600℃〜800℃)に保持することが好ましいため、焼結体とプラセオジム供給源とを別々の温度で制御することが好ましい。
結晶粒界の多重点(粒界多重点)は、いわゆるRリッチ相(希土類元素リッチ相)となっており、希土類元素を含有する金属相を有している。
なお、粒界多重点は、例えば実施例に係る透過電子顕微鏡(TEM)観察結果である図1に示すようにR−T−B系焼結磁石の断面観察において結晶粒に囲まれた領域として観察できる。そして、この粒界多重点に位置する金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率および金属相と隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、例えば透過電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分光法(TEM−EDX)を用いて組成分析を行うことで求めることができる。
なお、原料としてジジム合金(Nd−Pr合金)を用いて得た焼結体は、例えば5〜7質量%程度のPrを含有している。そして、拡散処理を行う前でも、結晶粒内よりも粒界多重点を含む結晶粒界の方が、含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が高くなる傾向がある。しかし、それでも結晶粒の粒界多重点に位置する金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と金属相と隣接する当該結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率との差は20パーセントポイントよりも遙かに小さい。
以上に示した拡散処理を行うことにより、通常は、得られたR−T−B系焼結磁石の表面全体(または表面直下部全体)に本発明に係る表層部、すなわち、Prの濃度が中央部よりも高く、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、かつ金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下である表層部を形成できる。
しかし、本発明はこれに限定されるものでなく、例えば、焼結体の一部をマスクすることにより、および/または焼結体の一部を冷却し他の部分より温度を低くする等により、得られたR−T−B系焼結磁石の表面の一部分(または表面直下部の一部)にのみ本発明に係る表層部を形成する実施形態も含む。
例えば、Prの濃度が中央部よりも高い表層部が、R−T−B系焼結磁石の表面の全体ではなく、一部分(または表面直下部の一部)に形成される実施形態、およびPrの濃度が中央部よりも高い表層部の全てではなく、一部分のみにおいて結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下である実施形態も本発明に含まれる。
また、Coを含有する焼結磁石では、Coを含む金属相も存在するが、本発明の効果は、Coを含まない金属相において規定したPr濃度範囲で得られるものである。
プラセオジム供給源をそのまま焼結体表面に散布または吹き付ける方法等、拡散処理の方法によっては拡散処理後の焼結磁石の表面が粗面化される場合がある。また、拡散処理時にPrと相互拡散したNdなどが焼結磁石表面に染み出し、固化して酸化し易い状態になっていることが多い。このような場合、表面を切削、研磨等の機械加工(面出し加工)を行うことが好ましい。
(3)熱処理
得られた焼結磁石は、磁気特性を向上させることを目的とした熱処理を行うのが好ましい。熱処理温度、熱処理時間などの熱処理条件は、R−T−B系焼結磁石の焼結後の熱処理条件として公知の条件(例えば、500℃で3時間)を採用することができる。なお、最終的な磁石寸法の調整を研削などの機械加工等により行ってもよい。
この場合、熱処理の前に行っても、後に行ってもよい。
2.得られたR−T−B系焼結磁石の特徴
上述の製造方法により得たR−T−B系焼結磁石は、いくつかの特徴を示す。
2−1.拡散処理前の焼結体がPrを実質的に含有しない場合
拡散処理前の焼結体は、Prを含有しないため、拡散処理により増加したPr量がそのまま得られたR−T−B系焼結磁石のPr含有量となる。Prを焼結体の表面から内部に拡散させたことから、得られたR−T−B系焼結磁石は中央部よりPrの濃度が高くなっている表層部を有する。中央部および表層部のPr濃度は、例えば、電子線マイクロアナライザ(EPMA)等の分光法により、結晶粒を10個〜100個含む(結晶粒を含む)断面の濃度測定を行うことで求めることができる。この場合、「結晶粒を10個〜100個」は、断面上に表れた結晶粒を意味し、断面に表れた結晶粒の下(深さ方向)に別の結晶粒があり、喩え、EPMA分析に当該別の結晶粒が寄与したとしてもこの結晶粒は「結晶粒を10個〜100個」のなかに含まない。
そして、このPr濃度の高い表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下となる。これは、拡散処理により粒界多重点の金属相にPrの濃化領域が形成されていることに対応する。
2−2.拡散処理前の焼結体が意図的に添加されたPrを含有する場合
拡散処理前の焼結体について、例えば、そのR(希土類元素)がジジム合金により供給された場合、もともと結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は20%程度である。
そして、拡散処理では、Prは焼結体の表面から主として粒界に拡散し、結晶粒内にはあまり拡散しない。 すなわち、拡散処理前の焼結体がPrを実質的に含有しない場合と同様に、Prを焼結体の表面から内部に拡散させることにより、得られるR−T−B系焼結磁石は中央部よりPrの濃度が高くなっている表層部を有し、当該表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下となる。
一方、このような場合においても金属相と隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、20%程度と拡散処理の前とほとんど変わらない。
なお、拡散処理前の焼結体がPrを実質的に含有しない場合および拡散処理前の焼結体が意図的に添加されたPrを含有する場合のどちらであっても、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は上述のようにTEM−EDXを用いることで求めることができる。
また、このどちらの場合も、焼結体全体の組成はNdがPrで置換されただけであるから、Pr以外の元素の濃度について、その好ましい範囲は上述の焼結体について示した好ましい範囲の数値を用いても実用上問題ない。
1.実施例1
ストリップキャスト法により、R−T−B系焼結磁石用原料合金のフレークを作製し、このフレークに水素を吸収(吸蔵)させて水素粉砕を行い、粗粉砕粉し、この粗粉砕粉をジェットミルにより更に粉砕して微粉砕粉(合金粉末)を得た。
そして、この合金粉末から乾式法により成形体を作製し、これを真空炉により1020℃で4時間の焼結を行い、長さ21.0mm×幅16.0mm×厚さ3.4mmの焼結体を得た。
焼結体の組成は、Nd:31.7質量%、B:0.95質量%、Co:0.9質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.1質量%、Ga:0.1質量%、Fe:残部であり、焼結体に含まれる酸素、窒素、炭素濃度は、それぞれ、酸素:5000ppm、窒素:300ppm、炭素:700ppmであった。
この焼結体を用いて拡散処理を行い、拡散処理後の焼結磁石に対し、21.0mm×16.0mmの両面(2つの面)を0.2mmずつ機械加工を施し(厚さ0.2mmずつ機械加工により除去し)、長さ21.0mm×幅16.0mm×厚さ3.0mmの寸法にした。
拡散処理は、処理容器内に焼結体を載置し、21.0mm×16.0mmの両面にプラセオジム供給源としてPrメタルの粉末を散布した。散布したPrメタルの粒径は篩い目で100μm以下であった。
処理温度(プラセオジム供給源と焼結体の温度)と、処理時間と、焼結体に散布したプラセオジム供給源の量であるPr散布量と、拡散処理前後のサンプルについてICP発光分析を行い求めた。Pr増加量と、ICP発光分析により求めた拡散処理後の総希土類量(=Nd+Pr質量%)とを表1に示す。ここで、Pr増加量とは、Prを拡散処理した後の焼結磁石に含まれるPr量からPrを拡散処理する前の焼結体に含まれるPr量を差し引いた量である。
Figure 0006221246
得られたそれぞれのサンプル(ICP発光分析を行ったのと別のサンプル)について、500℃で3時間熱処理し磁石サンプルを得た。
さらに比較のため、溶解法によりR−T−B系焼結磁石用原料合金のフレークを作製する際の溶解時にPrを添加したサンプルを作製し、上述の実施例サンプルと同じ方法により、焼結体を作製した。得られた焼結体の組成を表2に示す。表2の試料No.8〜10の比較例サンプルは、実施例サンプルが拡散処理により含有することとなったPr、および総希土類と同じ程度の量を拡散処理をせずに含有させた焼結体である。
Figure 0006221246
これらの焼結体についても試料No.1〜7と同じ熱処理を施して磁石サンプルを得た。
次に、TEM観察を行った結果を示す。
図1は、試料No.3のR−T−B系焼結磁石の表層部(表面から深さ50μm)を観察したDF−STEM像を示す。図1の黒味がかった灰色の部分が粒界多重点であり、白い灰色の部分が結晶粒である。図1から明らかなように、3つの結晶粒の粒界多重点を観察することができる。さらに図1の元素マッピング像を図2に示す。図2から明らかなように、粒界多重点には、酸素(O)が多く存在する酸化物相(薄い灰色の部分)と、酸素(O)の存在量がほとんどない金属相(図1における粒界多重点から酸化物相を除いた部分)が存在する。さらに図2のPrマッピング像から明らかなように、Prは、粒界多重点に濃化していると考えられる(Prマッピング像における白い灰色の部分)。ただし、ここでは酸化物相の中央部(酸化物相の黒色の部分)は、Prがほとんどない存在していない。参考までに、図3に図2における金属相と酸化物相の位置を示す。
図1〜図3に示すように、R−T−B系焼結磁石には、粒界多重点が存在する領域があり、さらに粒界多重点には、金属相と酸化物相が存在し、これらを識別できる。
図2に示すように金属相内のA点においてTEM−EDXにより組成分析を行い、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、A点を含む金属相に隣接する結晶粒内のB点における希土類元素に占めるPrの質量比率を求めた。ここで、金属相は、粒界多重点においてCoを含む金属相と含まない金属相の存在が確認されたが、Coを含まない金属相を測定した。測定した試料No.3の結果と同様にして、試料No.1、2、4〜10についても上述の定量分析を行った。結果を表3に示す。
Figure 0006221246
表3に示すように、拡散処理によりPrを0.3〜2.0質量%導入させた(すなわち、Pr含有量が質量比で0.3〜2.0パーセントポイント増加した)試料No.1〜6は、Pr増加量が増加すると、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が上昇する傾向がある(20%→81%)。さらに、試料No.1〜6は、いずれも金属相(A点)が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、当該金属相に隣接する結晶粒(B点)における希土類元素に占めるPrの質量比率(試料No.1〜6は、いずれも検出されず)よりも20パーセントポイント以上高い。
溶解時にPrを添加した試料No.8〜10は、Pr増加量が増加すると、結晶粒、金属相共に希土類元素に占めるPrの質量比率が上昇している。さらに、試料No.8〜10は、いずれも金属相(A点)が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、当該金属相に隣接する結晶粒(B点)における希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて高いが、大きな差はなく20パーセントポイント未満高いだけである。
得られた磁石の磁気特性測定結果を表4に示す。表4における「140℃HcJ」、「160℃HcJ」、「180℃HcJ」、「室温HcJ」、「室温B」は、サンプルをそれぞれ21.0mm×16.0mmの面の中心部から7mm×7mm×3.0mmに加工し、140℃、160℃、180℃、室温(23℃)でBHトレーサにより磁気特性(B、HcJ)を測定した結果である。また、表中の「−」の部分は、測定を行わなかったことを意味している。
Figure 0006221246
表4に示すように、Prを拡散処理により、R−T−B系焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高くし、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下にした本発明である試料No.1〜4は、Prを含有していない磁石(試料No.7)と比べて140℃におけるHcJが向上している。試料No.5は、試料No.4と同様にPrを1.5質量%(1.5パーセントポイント)拡散処理により導入させているが、140℃におけるHcJ向上効果が得られていない。これは、試料No.5は、Pr散布量が多いため拡散時にPrが多量に焼結体内へ拡散されてしまい、焼結体の表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超え、その結果、結晶粒界から結晶粒内(とりわけ、結晶粒の外殻部)にPrの濃度が高い領域が広範囲に亘り形成されてしまい、高温での主相の異方性磁界が低下し、高温である140℃におけるHcJ向上効果が得られなかったと考えられる。
試料No.6は、Pr拡散処理により、焼結体の表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超えているため、Prを含有していない磁石(試料No.7)と比べて、140℃におけるHcJ向上効果が得られていない。また、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が、当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて20パーセントポイント未満高いだけである、溶解時にPrを添加した試料No.8〜10は、Prを含有していない磁石(試料No.7)と比べて140℃におけるHcJが低下している。さらに、試料No.9、10は、160℃、180℃においてHcJが顕著に低下している。
これに対し、表4に示すように、本発明の試料はは、160℃、180℃といった更なる高温においても、Prを含有していない磁石(試料No.7)と比べて、同様のHcJ向上効果が得られている。
また、表4に示すように、本発明の試料No.1〜4は、Prを含有していない試料No.7と比べて、Bの低下なくHcJを向上させている。一方、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%より高い、試料No.5、6および溶解時にPrを添加した試料No.8〜10は、Prを含有していない試料No.7と比べてBは0.01T低下している。
さらに、Prを拡散によって導入した試料No.1、3、4と溶解時にPrを添加した試料No.8〜10の焼結体の表層部と中央部におけるPrの濃度(質量%)をそれぞれ測定した。濃度測定は、EPMAを用い電子ビーム径を50μmにして、断面内で結晶粒を10個〜100個含む範囲を測定した。結果を表5に示す。
Figure 0006221246
表5に示すように、拡散処理によりPrを増加させた試料No.1、3、4は、いずれもPrの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有している。一方、溶解時にPrを添加した試料No.8〜10は、いずれもPrの濃度は、中央部と表層部で差異はない。これは、拡散処理によりPrを増加させた本発明の場合は、磁石表面からPrが導入されるため、Prの濃度は中央部よりも表層部が高くなる。一方、溶解時にPrを添加した比較例の場合は、Prの濃度は、焼結体全体でほぼ均一の濃度になるためであると考えられる。
以上のように、本発明のR−T−B系焼結磁石は、Prの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有し、当該表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、また表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は75%以下となる。これに対し、Prの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有しておらず、表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する前記結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて20パーセントポイント未満だけ高い試料No.8〜10や表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超えている試料No.5、6は、例えば140℃の高温におけるHcJを向上させることができない。
2.実施例2
焼結体の厚さを3.4mmから5.4mmにした以外は、実施例1と同じ条件で焼結体を準備した。
この焼結体を用いて拡散処理を行い、拡散処理後の焼結磁石に対し、21.0mm×16.0mmの両面を0.2mmずつ機械加工を施し(厚さ0.2mmずつ機械加工により除去し)、長さ21.0mm×幅16.0mm×厚さ5.0mmの寸法にした。
拡散処理は、処理容器内に焼結体を載置し、21.0mm×16.0mmの両面にプラセオジム供給源としてPrメタルを散布した。散布したPrメタルの粒径は篩い目で100μm以下であった。
処理温度(プラセオジム供給源と焼結体の温度)と、処理時間と、焼結体に散布したプラセオジム供給源の量であるPr散布量と、拡散処理前後のサンプルについてICP発光分析を行い求めたPr増加量と、ICP発光分析により求めた拡散処理後の総希土類量(=Nd+Pr質量%)とを表6に示す。
Figure 0006221246
得られたそれぞれのサンプルについて、500℃で3時間熱処理し磁石サンプルを得た。
さらに比較のため、溶解法により、R−T−B系焼結磁石用原料合金のフレークを作製する際の溶解時にPrを添加したサンプルを作製し、上述の実施例サンプルと同じ方法により、焼結体を作製した。得られた焼結体の組成を表7に示す。表7の試料No.18〜20の比較例サンプルは、実施例サンプルが拡散処理により含有することとなったPr、および総希土類と同じ程度の量を拡散処理をせずに含有させた焼結体である。
Figure 0006221246
これらの焼結体についても試料No.12〜17と同じ熱処理を施して磁石サンプルを得た。
次に、試料No.12〜20について、上述した実施例1と同様に、焼結体の表層部における、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒の質量比率をTEM−EDX分析により求めた。結果を表8に示す。
Figure 0006221246
表8に示すように、拡散処理によりPrを0.3〜2.0質量%導入させた(すなわち、Pr含有量が質量比で0.3〜2.0パーセントポイント増加した)試料No.12〜16は、Pr増加量が増加すると、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が上昇している(28%→82%)。さらに、試料No.12〜16は、いずれも金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、当該金属相に隣接する結晶粒における希土類元素に占めるPrの質量比率(試料No.12〜17は、いずれも検出されず)よりも20パーセントポイント以上高い。
溶解時にPrを添加した試料No.18〜20は、Pr増加量が増加すると、結晶粒および金属相共に希土類元素に占めるPrの質量比率が増加している。さらに、試料No.18〜20は、いずれも金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、当該金属相に隣接する結晶粒における希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて20パーセントポイント未満高いだけである。
得られた磁石の磁気特性測定結果を表9に示す。表9における「140℃HcJ」、「160℃HcJ」、「180℃HcJ」、「室温HcJ」、「室温B」は、サンプルをそれぞれ21.0mm×16.0mmの面の中心部から7mm×7mm×5.0mmに加工し、140℃、160℃、180℃、室温(23℃)でBHトレーサにより磁気特性(B、HcJ)を測定した結果である。また、表中の「−」の部分は、測定を行わなかったことを意味している。
Figure 0006221246
表9に示すように、Pr拡散処理により、焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高くし、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下にした本発明である試料No.12〜15は、Prを含有していない磁石(試料No.17)と比べて140℃におけるHcJが向上している。一方、試料No.16は、Pr拡散処理により、焼結磁石の表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超えているため、Prを含有していない磁石(試料No.17)と比べて、140℃におけるHcJ向上効果がほとんど得られていない。さらに、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて20パーセントポイント未満高いだけである、溶解時にPrを添加した試料No.18〜20は、Prを含有していない磁石(試料No.17)と比べて140℃におけるHcJが低下している。さらに、試料No.19、20は、160℃、180℃においてHcJが顕著に低下している。
これに対し、表9に示すように、本発明の試料は、160℃および180℃とより高温においても、Prを含有していない磁石(試料No.17)と比べて、同様のHcJ向上効果が得られている。
また、表9に示すように、本発明の試料No.12〜15は、Prを含有していない試料No.17と比べて、Bの低下なくHcJ向上効果が得られている。一方、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%より高い試料No.16、および溶解時にPrを添加した試料No.18〜20は、Prを含有していない試料No.17と比べてBは0.01T低下している。
さらに、Prを拡散によって導入させた試料No.12、14、15と溶解時にPrを添加した試料No.18〜20の焼結体の表層部と中央部におけるPrの濃度(質量%)をそれぞれ測定した。濃度測定は、EPMAを用い電子ビーム径を50μmにして、断面内で結晶粒を10個〜100個含む範囲を測定した。結果を表10に示す。
Figure 0006221246
表10に示すように、拡散処理によりPrを増加させた試料No.12、14、15は、いずれもPrの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有している。一方、溶解時にPrを添加した試料No.18〜20では、いずれもPrの濃度は、中央部と表層部で差異はない。これは、拡散処理によりPrを増加させた本発明の場合は、磁石表面からPrが導入されるため、Prの濃度は中央部よりも表層部が高くなり、一方、溶解時にPrを添加した比較例の場合は、Prの濃度は、焼結体全体でほぼ均一の濃度になるためであると考えられる。
3.実施例3
原料にジジム合金を用いストリップキャスト法により、R−T−B系焼結磁石用原料合金のフレークを作製し、このフレークに水素を吸収(吸蔵)させて水素粉砕を行い、粗粉砕粉し、この粗粉砕粉をジェットミルにより更に粉砕して微粉砕粉(合金粉末)を得た。得られた微粉砕粉を油に分散させてスラリーを作製した。そして、このスラリーから湿式法により成形体を作製し、脱油処理を行った後、真空炉により1020℃で4時間の焼結を行い、長さ21.0mm×幅16.0mm×厚さ3.4mmの焼結体を得た。焼結体の組成は、Nd:22.5質量%、Pr:6.3質量%、Dy:0.6質量%、B:0.94質量%、Co:2.0質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.1質量%、Ga:0.1質量%、Fe:残部であり、焼結体に含まれる酸素、窒素、炭素濃度はそれぞれ、酸素:800ppm、窒素:300ppm、炭素:1100ppmであった。
この焼結体を用いて拡散処理を行い、拡散処理後の焼結磁石に対し、21.0mm×16.0mmの両面を0.2mmずつ機械加工を施す(厚さ0.2mmずつ機械加工により除去する)ことにより、長さ21.0mm×幅16.0mm×厚さ3.0mmにした。
拡散処理は、処理容器内に焼結体を載置し、厚さ方向の両面(長さ21.0mm×幅16.0mmの2つの面)にプラセオジム供給源としてPrメタルの粉末を散布した。散布したPrメタルの粒径は篩い目で100μm以下であった。
処理温度(プラセオジム供給源と焼結体の温度)と、処理時間と、焼結体に散布したプラセオジム供給源の量であるPr散布量と、拡散処理前後のサンプルについてICP発光分析を行い求めたPr増加量と、ICP発光分析により求めた拡散処理後の総希土類量(=Nd+Pr質量%)とを表11に示す。
Figure 0006221246
得られたそれぞれのサンプルについて、500℃で3時間熱処理し磁石サンプルを得た。
次に、試料No.21〜26について、上述した実施例1と同様に、焼結磁石の表層部における、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒の質量比率をTEM−EDX分析により求めた。結果を表12に示す。
Figure 0006221246
表12に示すように、拡散処理によりPrを0.3〜2.0質量%導入させた(すなわち、Pr含有量が質量比で0.3〜2.0パーセントポイント増加した)試料No.21〜25は、Pr増加量が増加すると、結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は同じ(22%)で変わらず、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が上昇している(質量47%→82%)。さらに、試料No.21〜25は、いずれも金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、当該金属相に隣接する結晶粒における希土類元素に占めるPrの質量比率(いずれも22%)よりも20パーセントポイント以上高く、一方、溶解時にPrを添加した試料No.26は、わずかに11パーセントポイント(20パーセントポイント未満)高いだけである。
得られた磁石の磁気特性測定結果を表13に示す。表13における「140℃HcJ」、「160℃HcJ」、「180℃HcJ」、「室温HcJ」、「室温B」は、サンプルをそれぞれ21.0mm×16.0mmの面の中心部から7mm×7mm×3.0mmに加工し、140℃、160℃、180℃、室温(23℃)でBHトレーサにより磁気特性(B、HcJ)を測定した結果である。また、表中の「−」の部分は、測定を行わなかったことを意味している。
Figure 0006221246
表13に示すように、Pr拡散処理により、焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高くし、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下にした本発明である試料No.21〜24は、Prを拡散処理していない磁石(試料No.26)と比べて140℃におけるHcJが向上している。一方、試料No.25は、Pr拡散処理により、焼結磁石の表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超えているため、Prを拡散処理していない磁石(試料No.26)と比べて、140℃におけるHcJ向上効果が得られていない。
さらに、表13に示すように、本発明は、160℃および180℃のさらなる高温においても、Prを拡散処理していない磁石(試料No.26)と比べて、同様のHcJ向上効果が得られている。
また、表13に示すように、本発明の試料No.21〜24は、Prを拡散処理していない試料No.26と比べて、Bの低下なくHcJを向上させている。一方、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%より高い、試料No.25は、Prを拡散処理していない試料No.26と比べて、Bは0.01T低下している。
さらに、Prを拡散によって導入した試料No.21〜25と溶解時にPrを添加した試料No.26の焼結体の表層部と中央部におけるPrの濃度(質量%)をそれぞれ測定した。濃度測定は、EPMAを用い電子ビーム径を50μmにして、断面内で結晶粒を10個〜100個含む範囲を測定した。結果を表14に示す。
Figure 0006221246
表14に示すように、拡散処理によりPrを増加させた試料No.21〜25は、いずれもPrの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有している。一方、溶解時にPrを添加した試料No.26のPr濃度は、中央部と表層部で差異はない。これは、拡散処理によりPrを増加させた本発明の場合は、焼結磁石表面からPrが導入されるため、Prの濃度は中央部よりも表層部が高くなる。一方、溶解時にPrを添加した比較例の場合は、Pr濃度は、焼結体全体でほぼ均一の濃度になるためであると考えられる。
以上のように、本発明は、拡散処理する前の焼結体にPrを含む場合であっても、Prの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有し、当該表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下であれば、高温におけるHcJ向上効果を得ることができる。
4.実施例4
表15に示す組成(ICPにより測定した組成)および酸素、窒素、炭素濃度を含有する焼結体を準備した。
そして、表16の条件でPrメタル粉末を用いPr拡散処理を行った。さらに460℃〜560℃で3時間熱処理を行い、得られた焼結磁石の140℃におけるHcJを測定した。また、表15に示す組成および酸素、窒素、炭素濃度を含有する焼結体を別に用意してPr拡散処理を行わずに460℃〜560℃で3時間熱処理を行い、得られた焼結体の140℃におけるHcJを測定した。なお、焼結体の寸法、磁気特性測定サンプルの寸法および磁気特性測定方法は実施例1と同じにした。測定結果を表17に示す。
Figure 0006221246
Figure 0006221246
Figure 0006221246
表17に示すように、何れの焼結磁石についても高温におけるHcJが向上していることが分かる。また、試料No.31〜40に示したPr拡散処理した焼結磁石の表層部における、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジウム(Pr)の質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒の質量比率をTEM−EDX分析により求めた。その結果、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より25〜37パーセントポイント高く、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、46%〜58%であり、上述した本発明の範囲内であった。
5.実施例5
Prメタルと電解Feを用いて急冷法によりPr−Fe合金薄帯を作製し、スタンプミルで粉砕してPr−Fe合金の粉末を得た。実施例1で用いた組成の焼結体(試料No.7)に対して、得られたPr−Fe粉末を80mg散布し、700℃で4時間熱処理することで、Pr拡散処理を行い、試料No,41〜43を得た。散布したPr−Fe合金粉末の粒径は篩い目で150μm以下であった。試料No,41〜44に対し500℃で3時間熱処理を行った後、室温(23℃)および140℃のHcJを測定した。用いたPr−Fe合金の組成とPr増加量および室温(23℃)、140℃のHcJを表18に示す。なお、焼結体の寸法、磁気特性測定サンプルの寸法および磁気特性測定方法は実施例1と同様に行った。また、試料No.41〜43について、上述した実施例1と同様に、焼結磁石の表層部における、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒の質量比率をTEM−EDX分析により求めた。結果を表19に示す。
Figure 0006221246
Figure 0006221246
表18に示すように、Pr−Fe合金をPr供給源として用いた場合でも、拡散処理前後で磁石のPr含有量が増加していることから、Prの拡散が認められ、それに伴い、140℃のHcJが向上していることが分かる。さらに表19に示すように、Pr−Fe合金をPr供給源として用いた場合でも、焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、かつ表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下となる。
6.実施例6
組成がNd:30.0質量%、Dy:1.0質量%、B:0.95質量%、Co:2.0質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.1質量%、Ga:0.1質量%、Fe:残部からなる焼結体が得られるように原料合金を準備した。原料合金はストリップキャスト法で作製した0.3mm〜0.4mmの鋳片で、これを水素粉砕により大きさ約500μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルによる微粉砕を行い、粉末の平均粒径が約4.0μmの微粉末を作製した。
得られた微粉末を油中に回収してスラリー化し、このスラリーから湿式法により成形体を作成した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮成形を行った。そして、脱油処理を行った後、真空炉により1000℃で4時間の条件で焼結して、上記の組成を有する焼結体を得た。焼結体に含まれる酸素、窒素、炭素濃度は、それぞれ、酸素:1000ppm、窒素:400ppm、炭素:1000ppmであった。この焼結体を研削加工して、4.0×10×10(単位はmm)の焼結体を用意した。
次にPrメタルとAlメタルとを用いて高周波溶解炉で溶解した後、ロール表面速度が20m/秒で回転する銅製の水冷ロールに前記溶湯を接触させ急冷凝固合金薄帯を作製した。次いで、これらをボールミルで粉砕し、Pr−Al合金の粉末を得た。これら合金粉末の組成は、Pr:98質量%、Al:2質量%(試料No.44用)およびPr:90質量%、Al:10質量%(試料No.45用)であり、いずれも篩い目で200メッシュ(75μm)以下であった。
用意した焼結体をバインダーとなるヒドロキシプロピルセルロース2%水溶液中にディッピングした後、試料No.44用の合金粉末を40mg、試料No.45用の合金粉末を25mgそれぞれの焼結体表面に付着させた。これらを680℃で4時間加熱することで、Prの拡散処理を行った。ここで比較例として、合金粉末を用いずに680℃で4時間の加熱を施したものを試料No.46とする。いずれの試料も磁石特性向上を目的として行う熱処理を施した後、それぞれの焼結体を0.5mmづつ研削し、3.0mm×9mm×9mmの焼結磁石を得た。これら焼結体のPr増加量および140℃のHcJの結果を表20に示す。また、上述した実施例1と同様に、焼結磁石の表層部における、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒の質量比率をTEM−EDX分析により求めた。結果を表21に示す。
Figure 0006221246
Figure 0006221246
表20に示すように、Pr−Al合金をPr供給源として用いた場合でも、磁石のPr含有量が増加していることから、Prの拡散が認められ、それに伴い、140℃のHcJが向上していることが分かる。さらに表21に示すように、Pr−Al合金をPr供給源として用いた場合でも、焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、かつ表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下となる。

Claims (10)

  1. ネオジム(Nd)およびプラセオジム(Pr)を含む希土類元素と、鉄(Fe)と、ホウ素(B)とを含み、下記一般式で表される金属間化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石であって、
    前記金属間化合物の結晶粒を10個〜100個含む断面における分光法による濃度測定において、プラセオジム(Pr)の濃度が前記R−T−B系焼結磁石の中央部よりも高くなっている表層部を有し、
    該表層部の少なくとも一部分において、前記結晶粒の粒界多重点に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が75%以下であり、かつ前記金属相に隣接する前記結晶粒が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率よりも20パーセントポイント以上高いことを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
    一般式: R14
    (ここで、Rはネオジム(Nd)が質量比で50%以上である1種類以上の希土類元素であり、Tは鉄(Fe)または鉄とコバルト(Co)。)
  2. 前記表層部において前記金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が60%以下であることを特徴とする請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石。
  3. 前記結晶粒を10個〜100個含む断面における分光法による濃度測定において、プラセオジム(Pr)の濃度が中央部よりも高くなっている前記表層部の全体に亘り、前記結晶粒の粒界多重点に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が75%以下であり、かつ前記金属相に隣接する前記結晶粒が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率よりも20パーセントポイント以上高いことを特徴とする請求項1または2に記載のR−T−B系焼結磁石。
  4. 1)ネオジム(Nd)を含む希土類元素と、鉄(Fe)と、ホウ素(B)とを含み、下記一般式で表される金属間化合物を主相とする焼結体を形成する工程と、
    2)プラセオジム(Pr)を含むプラセオジム供給源と、前記焼結体とを容器内に配置し、該プラセオジム供給源と該焼結体とを加熱し、該プラセオジム供給源から該焼結体にプラセオジム(Pr)を拡散させることにより、前記金属間化合物の結晶粒を10個〜100個含む断面における分光法による濃度測定において、プラセオジム(Pr)の濃度がR−T−B系焼結磁石の中央部よりも高くなっている表層部を形成し、該表層部の少なくとも一部分において、前記結晶粒の粒界多重点に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が75%以下で且つ前記金属相に隣接する前記結晶粒が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率よりも20パーセントポイント以上高くなるようにする工程と、
    を含むことを特徴とするR−T−B系焼結磁石の製造方法。
    一般式: R14
    (ここで、Rはネオジム(Nd)が質量比で50%以上である1種類以上の希土類元素であり、Tは鉄(Fe)または鉄(Fe)とコバルト(Co)。)
  5. 前記表層部において前記金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が60%以下である請求項4に記載の製造方法。
  6. 前記結晶粒を10個〜100個含む断面における分光法による濃度測定において、プラセオジム(Pr)の濃度が中央部よりも高くなっている前記表層部の全体に亘り、前記結晶粒の粒界多重点に存在する金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率が75%以下であり、かつ前記金属相に隣接する前記結晶粒が含有する希土類元素に占めるプラセオジム(Pr)の質量比率よりも20パーセントポイント以上高くすることを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。
  7. 前記工程2)において、前記焼結体のプラセオジム(Pr)含有量が質量比で0.3パーセントポイント〜1.5パーセントポイント増加することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
  8. 前記プラセオジム供給源は、プラセオジム(Pr)を30質量%以上含有していることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. 前記プラセオジム供給源は、Pr−Fe合金であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
  10. 前記プラセオジム供給源は、Pr−Al合金であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
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