本発明において細胞接着性とは、細胞が接着すること、または細胞が接着しやすい性質を意味する。細胞接着阻害性とは、細胞が接着しにくいことまたは細胞が接着しない性質を意味する。従って、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とがパターン化された基板上に細胞を添加すると、細胞接着性領域には細胞が接着するが、細胞接着阻害性領域には細胞が接着しないため、基板表面には細胞がパターン状に配列されることになる。基板を避けた位置とは、例えば、基板の側面又は背面である。
本発明の細胞試験具における、細胞接着性領域及び細胞接着阻害性領域の構造としては、例えば、以下の2つの形態が挙げられる。
第一の形態は、細胞接着性領域が、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜に酸化処理及び/又は分解処理を施して細胞接着性とした領域である形態である。この形態では、電極上に炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜を形成し、次いで、細胞の接着が望まれる領域に対して酸化処理及び/又は分解処理を施すことにより当該領域に細胞接着性を付与して細胞接着性領域に改変する。前記処理を施さない部分は細胞接着阻害性領域である。
第二の形態は、細胞接着性領域が、炭素酸素結合を有する有機化合物を低密度で含む親水性膜で形成されている形態である。この形態は、炭素酸素結合を有する有機化合物を高密度で含む親水性膜が細胞接着阻害性を有するのに対して、前記化合物を低密度で含む親水性膜は細胞接着性を有することを利用したものである。電極上に前記化合物が結合しやすい第一領域と結合しにくい第二領域とを設け、該電極上に前記化合物の膜を形成すると、第一領域は細胞接着阻害性領域となり、第二領域は細胞接着性領域となる。
さらに、本発明の細胞試験用具においては、電極上の細胞接着阻害性領域が、電圧印加、好ましくは凹部底面の電極への正電圧の印加によって細胞接着性に変化する。電圧の印加によって細胞接着性に変化した領域は、上記のように炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜に酸化処理及び/又は分解処理を施して得られる細胞接着性領域とは、詳細な表面性状が異なる場合がある。
以下、本発明の実施の形態による電極付き細胞試験容器について図面を参照しながら説明を行う。
図1から図3までは、電圧印加による細胞接着阻害物質(例えばポリエチレングリコール、PEG)の脱離を利用した、細胞パターンの可変技術の一例を示す図である。図1は、本発明の実施の形態による電極付き細胞試験具の一例である試験容器に用いられる基板構造の製造方法の一例を示す図である。図1に示すように、ガラス基板1上に、例えばCVD法などの公知の技術により、酸化インジウム錫(ITO)等の導電性材料からなるITO膜3を形成する。この積層構造を基板Sとする。
次いで、その上に、エポキシシラン層5と、ポリエチレングリコール(PEG: Ployethlene glycol)層7aとを形成して細胞接着阻害性の表面とする(図1(a))。次いで、例えば公知のフォトリソグラフィ技術を利用して図1(b)に示すように、クロムを含むフォトマスク11を表面の一部領域上に形成する。フォトマスク11を形成した状態で紫外線を照射すると、フォトマスク11がないエリアでは紫外線が透過するため、下の層のポリエチレングリコール層7aが分解するが、クロムがあるエリアでは紫外線が透過しないため、下の層が変化しない。次いで、フォトマスク11を除去すると、図1(c)に示すように、フォトマスクが形成されていた領域においてエポキシシラン層5a/ポリエチレングリコール層7aを残して、フォトマスクが形成されていなかった領域におけるエポキシシラン層5a/ポリエチレングリコール層7aを除去することで、細胞接着性領域AR1と細胞接着阻害性領域AR2とが連続した表面構造を形成する(図1(c))。
尚、上記の説明では、紫外線を照射した領域では、分解によってポリエチレングリコール層7aが削れるが、照射条件等に依存してポリエチレングリコール層7aが全て分解する場合や、一部が残る場合がある。また、エポキシシラン層5aについても同様である。図1では、エポキシシラン層5a/ポリエチレングリコール層7aが全て削れた例を示したが、実際には、種々のエポキシシラン層5a/ポリエチレングリコール層7aの変化には種々の状況がありうる。
本実施の形態の細胞培養用基板に用いられる基材としては、導電性領域と絶縁性領域とを形成可能な材料で形成されたものであれば特に制限されない。
図2(a)は、細胞接着性領域AR1と細胞接着阻害性領域AR2とが形成された表面構造に、細胞培養液21を接触させた状態を示す図であり、細胞接着性領域AR1に細胞を培養した状態では、細胞接着阻害性領域AR2には、細胞は接着しない。ここで、図3に示すような電圧印加機構Dにより、電圧を印加する。図3において、電圧印加機構からの2本の配線の先に設けられたクリップCL1、CL2を、ITO膜3と細胞培養液21内とにそれぞれPt電極からなる取り出し配線31、35を挟み、ITO膜3と細胞培養液21との間に電圧を印加することで、図2(b)に示すように、エポキシシラン層5a/ポリエチレングリコール層7aを改変することができる。
例えば、電圧として正電圧を印加することにより、細胞接着阻害性領域AR2を効果的に細胞接着性の領域に改変できるとともに、特に電極がITO膜3からなる場合に黒変するのを防止することができ、細胞遊走の観察等を良好に実施できる。なお、図2(b)では、電圧を印加したことによる変化を明確に表現するために細胞接着阻害性領域AR2が消失したように表現してあるが、実際には親水性膜の分解物等が残存していると推定される。また、図2(a)における細胞接着性領域においても、上述のように、親水性膜の酸化処理及び/又は分解処理等により生じる分解物等が残存しているものと推定される。
例えば、細胞接着阻害性領域AR2上のエポキシシラン層5a/ポリエチレングリコール層7aを除去することでその領域に、細胞接着性領域AR1上の細胞が遊走したり、共培養細胞を堆積したりする。このような実験を行うことで、細胞遊走実験やパターン化共培養実験を行うことができる。
以下、本発明の実施の形態について、具体的には、35mm径のディッシュと、マイクロプレートと、を例にして、その電極付き細胞試験容器と、その接続装置の詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図4A,B、図5は、本発明の第1の実施の形態による電極付き細胞試験用容器とそれを取り付けることができる接続装置の一構成例を示す図である。ここでは、電極付き細胞試験用容器として35mm径のディッシュ形状の培養容器を取り付ける場合を例にして説明する。図4Aは、符号101で示す電極付き細胞試験用容器を示した図であり、左上図が上面図、左下図が断面図である。図5は、電極付き細胞試験用容器101の接続装置200の一例を示す図である。
図4Aに示すように、電極付き細胞試験用容器101は、底板111bに円形の穴Hが形成され、側壁111aが円筒状に形成されている穴空きのディッシュ又は筐体111と、穴空きのディッシュ111の裏面から穴Hを塞ぐように、穴Hよりも外周側の作用電極115と底板111bとの間に配置された接着材119により接着された、底面基材113と作用電極115との積層構造を有する基板Sと、を有している。積層構造を有する基板Sは、図2に示すような、細胞接着性領域AR1とエポキシシラン層5a/ポリエチレングリコール層7aからなるマスク117を形成した細胞接着阻害性領域AR2とが連続した表面構造を有する基板Sを構成している。
例えば、底板111bの端部から起立する側壁111aには、作用電極115と対向するように配置され細胞培養液内に浸される対向電極141が取り付け可能である。作用電極115と対向電極141との間に電圧を印加することで、PEGのマスク117を除去することができる。
基板Sは透明であることが好ましく、この基板Sを介して裏面側から顕微鏡などにより基板S上の細胞等を観測できるようになっている透過観察型の試験具を構成している。以下では、試験具として、容器構造のものを例に説明するが、容器構造のものに限定するものではなく、平板などの基板状の試験具であっても良い。
尚、容器としては、ディッシュ形状やマイクロプレート形状、ボトル形状、大量培養に適したセルスタック、その他細胞培養等に用いる容器であっても良い。他に、培養バッグのような袋形状であっても良い。マイクロ流体デバイス、マイクロ流路チップといった形状であっても良い。
ここで、接着材119のさらに外周側に設けられ、作用電極115と電気的に接続する位置から、少なくとも上記積層構造を有する基板Sの外側まで引き出された、取り出し配線121が設けられている。ここでは、取り出し配線121は、側壁111a内の領域で、底板111bの下面を這うように形成され、その裏面と後述する容器接続端子211aとが接続されるようになっている。取り出し配線121は、作用電極115に電気的に接続されていれば良く、底板111bに接着材などで固定されていても良く、或いは、底板111bの下面と積層構造を有する基板Sの上面との間に形成されているスペース内に配置されて面接触により半固定されていても良い。
このように、取り出し配線121が、細胞試験用容器の外枠を形成し、底板111bの端部から垂直方向に立ち上がる側壁111aよりは内側であって、積層構造を有する基板Sを形成する底面基材113の端部よりは外周側まで伸ばされて配置されていることにより、容器の外形は定型から変化させずに、かつ、透過型の観察を阻害しないように細胞試験用容器下方側から垂直方向に電気的接続が可能となっている。
加えて、細胞試験容器内容物への電気印加や電気計測を行うために、細胞試験容器に電極が形成されていても、通常の容器と同様の装置、例えば顕微鏡により下方から容器内を観察する際に、観察に必要な領域である穴Hが形成される領域よりは内周側に取り出し配線121が形成されないため透過型の観察が阻害されず、かつ、電極付き細胞試験容器101のサイズを標準的なサイズから変更せずに、取り出しのための配線(電極)を設置することができる。
さらに、作用電極115と対向する対向電極141が設けられている。図4Aにおいては、2点鎖線で構造を省略して示している。
対向電極141は、例えば、図2(b)のPt電極31のように、細胞培養液21内に挿入することにより形成するものでも良いし、例えば、図4Aに示す位置に、作用電極115と対向するように配置することができる。この場合、対向電極141としては、平板状の電極を配置し、側壁111aにおいて、この平板状の対向電極141を固定するようにしても良い。
上記のような構造において、作用電極115と対向電極141との間に電圧を印加することで、マスク117を除去等して、細胞接着性に改変することができる。
図4Bは、対向電極の別の構成例を簡単に示す図である。図4Bでは、作用電極115、対向電極141及び底面基材113のみを示しており、その他の構成は、図4Aに示すものと同様で良い(符号も援用する)。
この構造では、底面基材113上で作用電極を、絶縁部を介して電気的に独立した2つ以上の電極が形成されるようにパターニングすることで、一方の電極を作用電極115、もう一方の電極を対向電極141として利用することができる。3つ以上の電極を設ける場合には、その目的に応じて、作用電極や対向電極を2つ以上設けるようにしても良い。この場合には、作用電極115と対向電極141の両方に対し、それぞれ容器接続端子211a,212aを設け、電極配線211,212を介して外部接続端子211b,212bを設ける。
尚、2つ以上の電極を設ける場合は、底面基材113上において接着材より外側の領域にまで、それぞれ独立した電極が引き出され、それぞれの電極に対して独立に取り出し配線121が設けられるようにしても良いし、取り出し配線121が複数の電極を含むように構成しても良い。
尚、取り出し配線121の厚みは、接着材119の高さ以下であり、例えば1mm以下であることが好ましい。又、取り出し配線121は、引き回しの自由度が高いことから例えばFPCにより形成されていても良い。また、取り出し配線121が、細胞試験容器の底板111b(図4A)との間で接着材により接着されていても良い。さらに、作用電極115と取り出し配線121との間に電気的接続用の部材として、ACF(Anisotropic Conductive Film)、すなわち、フィルム状の絶縁樹脂材料の中に、微細な導電性粒子を分散させた素材で圧力と温度を加えることにより、接着と同時に、電極間に挟まれた荷電粒子を介して電気的接続、横方向には絶縁の機能をもつ部材を利用することもできる。その他、接着用に、一般的な、はんだ、導電接着剤を用いても良い。PEGの脱離が目的の場合、容器内に多数のウェルがあっても一様な条件で電圧を印加すれば良いため、ウェル数に依存せず電極の本数が数本程度までと少ない場合にも適している。
尚、取り出し配線の構成は、任意性が高いため、コスト面で有利な配線方法を選択することが容易にできる。例えば、取り出し配線を少ない本数で構成することで、安価な配線が可能であるという利点がある。
一方、図4及び図5に示すように、接続装置200は、例えば平板状の容器設置台201と、標準的なサイズの電極付き細胞試験用容器101を設置する容器設置部202と、容器設置部202に電極付き細胞試験用容器101を設置した場合に、電極付き細胞試験用容器101の取り出し配線121と電気的に接続する位置に設けられた容器接続端子211aから、電圧印加機構Dの電圧印加用端子の一端側と接続可能な位置に設けられた外部接続端子211bまで引き出された電極配線211と、電極付き細胞試験用容器101を上から押さえつけて固定する取り付け具221と、を有している。図5においては、電極配線211の構成は省略している。
取り付け具221は、回転中心部223を中心に回転するとともに、容器設置台201側に付勢されており、電極付き細胞試験用容器101を固定するとともに、その出し入れが容易になっている。
容器設置部202を構成するために、電極付き細胞試験用容器101を収容できる程度の大きさの窪みを形成していても良い。この窪みには、観察のための容器設置部202を貫通する穴203を設けると良い。穴203により、透明な基板S上の細胞を顕微鏡で観察できる透視部が形成される。穴203の深さは、1mm以下であることが好ましい。
透視部を、容器設置部202に形成された薄肉状の透明部としても良い。この場合、透明部の厚さは、1mm以下であることが好ましい。1mm以下の場合には、対物レンズの合焦位置が試験基板表面にくる。
電極付き細胞試験用容器101の円筒状の側壁111aが、この窪み内に嵌め込まれるようになっていると、取り付け具221による上からの押さえつけ力とともに電極付き細胞試験用容器101の固定を助けることができる。容器設置台201に取り付ける電極付き細胞試験容器101としては、取り出し配線121が符号121aで示すように、基板Sの裏面側に露出している場合には、電極付き細胞試験容器101を取り付けした場合に、取り出し配線121の下方側の露出面と例えば面接触する位置に容器接続端子211aが設けられている。窪みは必須ではないが、窪みがある方が、容器の平面内での位置決めが正確にできるという利点がある。
上記構造において、外部接続端子211bに電圧を印加することで、作用電極115と対向電極141との間に所定の電圧を印加することができる。
図4Aの下図に示す構成では、電極付き細胞試験用容器101に設けられた取り出し配線121bが、基板Sの右端部の上面/側面/下面を覆うように形成されている。この場合でも、図4Aの下図では、取り出し配線121bの基板Sの右端部の下面の露出面と面接触する位置に容器接続端子211aが設けられているため、同様に作用電極115と対向電極141との間に電圧を印加することができる。
尚、下図の場合には、取り出し配線121bの基板Sの右端部の下面の露出面と容器接続端子211aとが接触するように構成されているが、取り出し配線121bの基板Sの右端部の側面に接触する位置に容器接続端子211aを設けても良いし、下面と側面との両方に接触する位置に容器接続端子211aを設けても良い。容器接続端子211aを両方に設けることで、側面又は底面のいずれかに露出面を設けた容器に対応することができる。
また、容器接続端子211cは、垂直方向にバネ性を有するようにして、取り付け具221の上からの付勢力とあいまって、電極付き細胞試験用容器101の固定を強めるようにしても良い。特に、窪みがない場合でも、電極付き細胞試験用容器101を強く固定することができる。
既存の顕微鏡を用いて、接続装置200に設置された電極付き細胞試験用容器101内の細胞を観察する際には、例えば、顕微鏡の対物レンズや照明は、接続装置200のそれぞれ観察台の上下方向の近くの位置まで寄せる必要がある。従って、透視部を構成する穴203の厚みには制限が生じる場合がある。例えば、厚みは、1mm程度とすることが好ましい。また、上方向から顕微鏡や照明を近づける場合には、側壁111aの高さ、例えば1mm以下にすることが好ましい。
尚、バネの高さは、1mm以下であることが好ましい。
以上に説明したように、本実施の形態による接続装置では、電極付き細胞試験用容器101を観察可能な位置に固定した際に、電極付き細胞試験用容器101の取り出し配線121と、電圧印加機構Dの電圧印加用端子の一端側と接続可能な位置に設けられた外部接続端子211bとを、電極配線211により接続することで、電圧の印加に伴う細胞の観察を行うことができるという利点がある。
尚、本発明は、上記表面構造を避けた位置まで延びる取り出し配線を有することを特徴とする細胞試験装置の接続装置である。さらに、基板Sを取り付けて、基板Sを底部として容器を形成する筐体を有し、取り出し配線は、前記筐体の前記底部側に露出する露出面に引き出されているようにしても良い。この筐体は、少なくとも基板Sを取り付けた場合に基板Sから垂直方向に延びる側板部を有し、取り出し配線は、側板部の底面又は側板部と基板Sとを繋ぐ底板部の下面まで引き出されていても良い。取り出し配線は、側板部にインモールド成形されて露出面を形成しているようにすると、容器の寸法を変更しなくて良い。
この際、図4に示すように接続装置200の外部接続端子は、容器を入れた際に作用電極115からの取り出し配線と対向電極141からの取り出し配線とにそれぞれ接続する第1の容器接続端子211aと第2の容器接続端子212aとを有している。
このように、作用電極115と対向電極141とに対して、それぞれ、独立した容器接続端子を設けることで、外部電源等から電圧を印加しやすいようにしつつ、外部観察もしやすい構造を有する電極付き細胞試験具に適した接続装置を提供することができる。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態による接続装置について説明を行う。図6は、電極付き細胞試験用容器が、マイクロプレート形状の培養容器である場合を例にして示した図である。
図6に断面図で示される、マイクロプレート形状の電極付き細胞試験用容器151は、図6では、左側の2つの収容部162のみが示されているが、さらに複数の収容部が図の右側及び奥側等に設けられていても良い。
図6に示すように、電極付き細胞試験用容器151は、例えば、それぞれの収容部162の底面に穴Hが形成され、収容部162を形成する側壁161aが設けられて、穴空きプレート161が形成されている。穴空きプレート161の外周には、例えば、蓋を嵌め込むための窪みを有する外周側壁161bと、それに続く最外周の部分161eとを有している。この外周部分を、接続装置250に取り付けることができる。
さらに、穴空きプレート161の収容部162に形成された穴Hを裏面から塞ぐように、穴Hよりも外周側の作用電極165と穴空きプレート161の底面との間に配置された接着材167により接着され、底面基材163と作用電極165との積層構造(163/165)からなる基板Sを有している。この積層構造(163/165)からなる基板Sは、図2に示すような、細胞接着性領域とエポキシシラン層5a/ポリエチレングリコール層7aからなるマスク169を形成した細胞接着阻害性領域とが連続した表面構造を有している。
例えば、側壁161aには、作用電極165と対向するように配置され細胞培養液内に浸される対向電極181が取り付け可能である。作用電極165と対向電極181との間に電圧を印加することで、PEGのマスク169を除去することができる。
ここで、接着材167のさらに外周側に設けられ、作用電極165と電気的に接続する位置から、少なくとも上記積層構造を有する基板Sの外側まで引き出された、取り出し配線171が設けられている。ここでは、取り出し配線171は電極付き細胞試験用容器151を接続装置250内の容器設置部251内に入れた時にその裏面が容器接続端子261aと接続するように構成されている。隣接する収容部162は、この容器を設置する基板Sに設けられた配線により接続されていても良い。
このように、取り出し配線171が、電極付き細胞試験用容器151の外枠を形成する外周側壁161bの外周面よりは内側であって、積層構造を有する基板Sにより形成される底面基材の外壁よりは外周側まで伸ばされて配置されていることにより、電極付き細胞試験用容器151の下方側から垂直方向に接触可能となっている。
この場合にも、取り出し配線171の厚みは、接着材167の高さ以下であり、例えば1mm以下であることが好ましい。又、取り出し配線171は、引き回しの自由度が高いことから例えばFPC(Flexible printed circuits)により形成されていても良い。また、取り出し配線171が、細胞試験容器の底面161dとの間で接着材により接着されていても良い。さらに、作用電極165と取り出し配線171との間に電気的接続用の部材として、ACF(Anisotropic Conductive Film)、すなわち、フィルム状の絶縁樹脂材料の中に、微細な導電性粒子を分散させた素材で圧力と温度を加えることにより、接着と同時に、電極間に挟まれた家電粒子を介して電気的接続、横方向には絶縁の機能をもつ部材を利用することもできる。その他、接着用に、一般的な、はんだ、導電接着剤を用いても良い。
一方、接続装置250は、例えば平板状の容器設置台201と、標準的なサイズのマイクロプレート形状の電極付き細胞試験用容器151を設置する容器設置部251と、容器設置部251に電極付き細胞試験用容器151を設置した場合に、電極付き細胞試験用容器151の取り出し配線171と電気的に接続する位置に設けられた容器接続端子261aから、電圧印加機構Dの電圧印加用端子の一端側と接続可能な位置に設けられた外部接続端子261bまで引き出された電極配線261と、電極付き細胞試験用容器151を収容する窪み255と、細胞を観察するための貫通口253と、を有している。細胞を観察するための貫通口253が、透明な基板Sを介して基板S上の細胞を観察できる透視部を形成している。また、第1の実施の形態と同様に、マイクロプレート形状の電極付き細胞試験用容器151を上から押さえるような取り付け具を設けても良い。
容器設置部251を構成するために、電極付き細胞試験用容器151を収容できる程度の大きさの窪み255を形成していても良い。この窪みには、観察のための貫通口253を設けると良い。
電極付き細胞試験用容器151の円筒状の側壁161aが、この窪み255内に嵌め込まれるようになっている。容器設置部251に取り付ける電極付き細胞試験容器151としては、取り出し配線171が基板Sの裏面側に露出しているため、電極付き細胞試験容器151を取り付けた場合に、取り出し配線171の露出面と例えば面接触する位置に容器接続端子261aが設けられている。窪みは必須ではないが、窪みがある方が、容器の平面内での位置決めが正確にできるという利点がある。
上記構造において、外部接続端子261bに電圧を印加することで、作用電極163と対向電極181との間に所定の電圧を印加することができる。
図6の下図(図6(c))に示す構成では、電極付き細胞試験用容器151に設けられた取り出し配線171bが、基板Sの右端部の上面/側面/下面を覆うように形成されている。この場合でも、図4Aの下図では、取り出し配線171bの基板Sの右端部の下面の露出面と面接触する位置に容器接続端子261cが設けられているため、同様に電圧を印加することができる。尚、下図の場合には、取り出し配線171bの基板Sの右端部の下面の露出面と容器接続端子261cとが接触するように構成されているが、取り出し配線171bの基板Sの右端部の側面に接触する位置に容器接続端子261cを設けても良いし、下面と側面との両方に接触する位置に容器接続端子261cを設けても良い。容器接続端子261cを両方に設けることで、側面又は底面のいずれかに露出面を設けた容器に対応することができる。
また、容器接続端子261cは、垂直方向にバネ性を有するようにして、電極付き細胞試験用容器151の固定を強めるようにしても良い。特に、窪みがない場合でも、電極付き細胞試験用容器151を強く固定することができる。
以上に説明したように、本実施の形態による接続装置では、電極付き細胞試験用容器151を観察可能な位置に固定した際に、電極付き細胞試験用容器151の取り出し配線171と、電圧印加機構Dの電圧印加用端子の一端側と接続可能な位置に設けられた外部接続端子261bとを、電極配線261により接続することで、電圧の印加に伴う細胞の観察を行うことができるという利点がある。
図7は、本発明の第3の実施の形態による電極付き細胞試験用容器151aが、マイクロプレート形状の培養容器である場合を例にして示した図である。マイクロプレート形状の電極付き細胞試験用容器151aは、取り出し配線121が、電極付き細胞試験用容器151a内にインモールド成形により形成されており、外周側壁161bの外面に露出している。
図7(a)は、接続装置250の他の例を示す図である。図7(a)に示す接続装置250は、図6に示すものと同様であるが、外周側壁161bにおいてインモールド成形により形成されて外面への露出部を形成し、図7(b)に示すように、これに容器接続端子271aの貫通口253側が取り出し配線121aの露出部に当接しており、かつ、当接部が、バネ形状などで露出面を水平方向に押圧するように構成されている。尚、バネの高さは、1mm以下であることが好ましい。
この構造により、作用電極165と、電圧印加機構に繋がる外部接続端子271bとが電極配線271により接続されている。このようにすると、電極付き細胞試験用容器151aが接続容器250にしっかりと固定され、位置決めされる。
以上に説明したように、本実施の形態による接続装置では、電極付き細胞試験用容器151aを観察可能な位置に固定した際に、電極付き細胞試験用容器151aの取り出し配線121aと、電圧印加機構Dの電圧印加用端子の一端側と接続可能な位置に設けられた外部接続端子271bとを、電極配線271により接続することで、電圧の印加に伴う細胞の観察を行うことができるという利点がある。
尚、取り出し配線の構成は、任意性が高いため、コスト面で有利な配線方法を選択することが容易にできる。例えば、取り出し配線を少ない本数で構成することで、安価な配線が可能であるという利点がある。
以上に説明したように、本発明の上記の各実施の形態による電極付き細胞試験用容器用の接続装置においては、外部電源等から電圧を印加しやすいように透過型の観察が可能な試験具の側面又は背面に電極を引き出することで電圧の印加がしやすく、かつ、外部観察もしやすい構造をもつ容器に取り付けるだけで、電圧印加用の端子をさらに外部まで引き出して、電圧印加機構に接続することを容易にすることができるため、試験を行う際に有用である。
尚、細胞培養用底面基材としては、導電性領域と絶縁性領域とを形成可能な材料で形成されたものであれば特に制限されない。また、導電性領域を構成する導電性材料の膜として、金属膜または金属酸化物膜、金属微粒子や金属ナノファイバーが絶縁体に分散された膜、導電性の有機材料からなる膜などが挙げられる。透明な膜であることが好ましく、例えば、ITO膜、IZO膜、導電性高分子のポリエチレンジオキシチオフェン膜などが挙げられる。導電性材料の膜の厚さは、通常、単分子膜〜100μm程度であり、好ましくは2nm〜1μm、より好ましくは5nm〜500nmである。
また、細胞接着阻害性領域は、好ましくは、炭素酸素結合を有する有機化合物により形成される親水性膜により形成される。当該親水性膜は、水溶性や水膨潤性を有する、炭素酸素結合を有する有機化合物を主原料とする薄膜であり、酸化される前は細胞接着阻害性を有し、酸化および/または分解された後は細胞接着性を有しているものであれば特に限定されない。
細胞は、培養容器などの支持体表面に接着した状態で増殖する。使用する装置や処理条件などは、通常の単層培養法などに準じて行う。細胞が接着して増殖する支持体表面の材料として、ポリリシン、ポリエチレンイミン、コラーゲンおよびゼラチン等の細胞の接着や増殖が良好に行われる材料を選択したり、ガラスシャーレ、プラスチックシャーレ、スライドガラス、カバーガラス、プラスチックシートおよびプラスチックフィルム等の支持体表面に、細胞の接着や増殖が良好に行われる化学物質、いわゆる細胞接着因子を塗布しておくことも行われる。
電極付き細胞試験用容器の筐体は、プラスチックなどの樹脂性などの絶縁材料を用いると良い。接続装置も樹脂で形成することができる。また、細胞培養液等は、電極付き細胞試験用容器内に満たされるようにしても良いし、接続容器に細胞培養液を満たすようにして、基板S上の細胞に接するようにしても良い。
また、取り出し配線は、金属薄膜などを筐体に貼り付ける方法などにより形成することができる。或いは、フォトリソグラフィ技術を用いて形成しても良い。
上記の実施の形態において、添付図面に図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。上記細胞観察方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、当該プログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体であっても良い。