以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。複数の図面中同一のものには
同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。
〔第1の実施形態〕
図1に、第1の実施形態の誘導システム100の機能構成例を示す。誘導システム100は、第1の地点にいる複数の人を第2の地点に誘導するための誘導システムである。第1の地点とは、例えば競技場である。第2の地点とは、第1の地点で競技が終了した後に複数の人が移動する先の例えば最寄の駅である。
第1の地点から第2の地点に至る移動経路は、第1の地点から第2の地点に至る間に、移動経路が3つの経路に分岐した後に、3つの経路が1つに集まり、その1つの経路が第2の地点まで続いている例で示す。
誘導システム100は、現象選択装置10と現象発生装置21とを備える。現象選択装置10は、混雑度取得部12と現象選択部13とを具備する。混雑度取得部12は、移動経路上に配置される検出器11を含む。
本実施形態は、現象選択装置10を4つの検出器11a〜11dを備える例で説明する。なお、検出器11は1つであってもよい。検出器11aは分岐後のAコースに、検出器11bは分岐後のBコースに、検出器11cは分岐後のCコースに、検出器11dは分岐後の経路が1つになった後のD地点に、それぞれ配置される。
本実施形態は、4つの現象発生装置21a〜21dを備える例で説明する。現象発生装置21aは分岐後のAコース上に、現象発生装置21bは分岐後のBコース上に、現象発生装置21cは分岐後のCコース上に、現象発生装置21dは、D地点よりも第1の地点寄りの位置に、それぞれ配置される。なお、現象発生装置21は1つであってもよい。
図1と、図2に示す誘導システム100の動作フローを参照して、その動作を説明する。現象選択装置10は、混雑度取得部12と、現象選択部13と、を具備する。混雑度取得部12は、移動経路上の混雑度を取得する(ステップS10)。現象選択部13は、現象発生装置21により発生すべき現象を、混雑度に基づいて選択する(ステップS11)。ここで、現象選択装置10が選択するものは、現象発生装置21に発生させる現象を、特定するデータ(情報)である。
現象発生装置21は、現象選択装置10が選択した現象を発生させる(ステップS20)。現象とは、人の視覚、又は、人の力覚、又は、人の臭覚、又は、人の聴覚、に作用して人に知覚を生じさせるものである。現象について詳しくは後述する。
混雑度取得部12は、移動経路上に配置された検出器11a〜11dからの検出データを入力として、移動経路上の混雑度を取得する。検出器11a〜11dは、例えばディジタルカメラである。検出器11a〜11dで撮影された移動経路上のカメラ画像は、混雑度取得部12に入力される。
混雑度取得部12は、各カメラ画像を画像解析して混雑度を取得する。混雑度は、例えば、カメラ画像を解析して得られる人数である。又は、所定時間ごとに画像を撮影して人数の変化から人数の変化量(流量)を求め、当該流量を混雑度としてもよい。例えば、1分間隔のカメラ画像からは人数/分の流量を求めることができる。また、人数と流量の両方を、混雑度として用いてもよい。
検出器11a〜11dは、ディジタルカメラ以外でも実現することができる。例えばマルチレーザスキャナを用いて人数を計測することも可能である。マルチレーザスキャナを用いた人数の計測方法は、例えば参考文献1(中村克行、外5名、「マルチレーザスキャナを用いた通行人数の自動計測」、2004年、第3回情報科学技術フォーラム(FIT2004))に記載されている。このように、検出器11を移動経路上に配置することで、配置した場所の混雑度を容易に求めることができる。
また、他の方法を用いて混雑度を求めることも可能である。例えば、今では殆どの人が携帯するようになった携帯電話を用いて、移動経路上の混雑度を求めることもできる。例えば、参考文献2(中野 隆介、外1名、「無線LANアクセスポイントへの検索要求を利用した鉄道車内混雑度推定」、2012年、DEIM Forum 2012)に記載されているように、携帯電話に装備されている無線LANを用い、携帯電話からの無線LANアクセスポイントへの検索要求数から混雑度を取得することもできる。また、携帯電話の基地局の情報を用いて混雑度を取得することも可能である。
ここでは、混雑度取得部12が、例えば各検出器11a〜11dで撮影された画像データから求められた人数を、そのまま混雑度として現象選択部13に出力するものとして説明する。この場合、混雑度取得部12は、検出器11a〜11dで撮影された画像データに対応する4つの混雑度を現象選択部13に出力する。
現象選択部13は、混雑度に基づいて、移動経路上の人の移動のし方を当該人の知覚で制御するために生じさせるべき現象を選択する。例えば、Bコース上の人数が他のAコース及びCコース上の人数よりも20%程度多かった場合、また、D地点の人数が、予め定められた閾値よりも多い場合を想定する。
現象選択部13は、その場合例えば、Aコース上の人数を10%増加、Bコース上の人数を20%減少、Cコース上の人数を10%増加、といった具合に、人の移動を人の知覚で制御するために生じさせる現象を選択する。なお、現象の種別は、現象発生装置21が発生する現象の種別と一致している。
図3に、現象発生装置21の具体例を示す。現象発生装置21は、本実施形態では例えば、スクリーンにプロジェクタで現象(映像)を発生させて、人に知覚を生じさせるものである。現象発生装置21aは、プロジェクタ22aとスクリーン23aとで構成される。同様に、プロジェクタ22bとスクリーン23bとで現象発生装置21bが、プロジェクタ22cとスクリーン23cとで現象発生装置21cが、プロジェクタ22dとスクリーン23dとで現象発生装置21dが、それぞれ構成される。
プロジェクタ22aは、Aコース上に配置されたスクリーン23aに、人の視覚に作用する映像を投影する。同様に、ブロジェクタ22bはBコース上に配置されたスクリーン23bに、プロジェクタ22cはCコース上に配置されたスクリーン23cに、プロジェクタ22dは移動経路上のD地点よりも第1の地点寄りに配置されたスクリーン23dに、それぞれ映像を投影する。
図4と図5に、現象発生装置21をより具体的にした構成例を示す。図4は、移動経路上の分岐に配置される現象発生装置21a〜21cの例を示す。図5は、現象発生装置21dの例を示す。
上記の混雑度を想定した場合、現象選択部13は、Bコース上の人数を20%減少させる現象として、例えば、水溜りの映像を選択する。Aコース上の人数を10%増加させる現象として進行する意味を表す「>」マークを進行方向に掃引する映像を選択する。Cコース上の人数を10%増加させる現象としてAコースと同様に、「>」マークを掃引する映像を選択する。ここでは便宜上、映像を選択するとしているが、正しくは、現象発生装置21bに投影させる水溜りの画像データを選択している。以降の同様の記載も同じことを意味している。
この現象を、視覚を通して知覚した人は、Bコースへの進入に抵抗を感じ、Aコース又はCコースに移動経路を変更する。よって、Bコースの流量は抑制され、AコースとCコースの流量は促進される。その結果、混雑していたBコース上の人の数を抑制することができる。なお、水溜りの映像によって、Bコース上の人数が即座に20%減少する場合もあれば、そこまで減少しない場合もある。また、逆に20%以上減少してしまう場合もある。移動経路上の混雑度が、所望の値に変化しない場合は、ステップS10〜ステップS20の処理を繰り返して行えばよい。繰り返し制御に関して詳しくは後述する。
検出器11dが配置されたD地点の人数が、予め定められた閾値よりも多い場合、現象選択部13は、現象選択装置10のD地点よりも第1の地点側に配置されたスクリーン23dに、移動する人を当該地点に留まらせる、或いは、減速させる知覚を生じさせる現象を選択する。
現象発生装置21は、その現象を、プロジェクタ22dによってスクリーン23dに投影する。移動する人を当該地点に留まらせる、或いは、減速させる知覚を生じさせる現象として、映像が利用できることが知られている。例えば非特許文献1には、提示するコンテンツの種類によって、通行人を3秒以上注視させられることが実験的に示されている。このことは、コンテンツの提示によって移動中の人を滞留させ、移動速度を変化させることができることを示している。
一般的に好まれる映像を固定位置に表示することで、移動経路上の人を固定位置に留まらせる、或いは、減速させることができる。この結果、スクリーン23dが配置された地点での人の滞留数が増加するので、検出器11dが配置された地点の人数を減少させることができる。なお、夜間であれば、映像に替えて単純に明暗を現象として選択するようにしてもよい。一般的に明るい道の方が安全なので人に好まれる。よって、上記の例であれば、Bコース上の照度を、他のコースよりも暗くする。また、足元が見難くなるような照度にすることで、歩行速度を低下させることもできる。
誘導システム100によれば、混雑度に基づいて複数の人の移動を人の知覚で制御するために生じさせる現象を選択し、当該現象を発生させて知覚を人に生じさせることで人の移動を制御することが可能である。人の移動の制御は、移動経路の変更と、移動速度の変更と、の両方で可能である。
なお、移動経路の変更に「水溜り」と「>」マークを掃引する映像と、移動速度の変更に「好まれる映像」と、を現象の一例として説明を行ったが、現象は種別を含めて上記の例に限定されない。一般的に人に好まれる現象と、一般的に人に嫌われる現象と、を用いることで人の移動を制御することが可能である(表1)。
例えば、一般的に人気の高いコンテンツなどは、人の関心を引くので固定位置表示することで人の移動速度を減速させる現象として用いることができる。また、害虫やゴミ等の映像は、生理的に好ましくない現象(刺激)からは距離を置きたいと思う人間の性質から、固定位置表示することで人の移動速度を加速させる現象として用いることができる。
なお、人気の高いコンテンツを移動速度を減速させる現象、害虫やゴミ等の映像を移動速度を加速させる現象として説明したが、使い方によってはこれらの現象から逆の結果を得ることができる。人気の高いコンテンツを、人が移動時に進行方向前方で知覚することができる位置に表示することで、人の移動速度を速めることができる。また、害虫やゴミ等の映像を、人が移動時に進行方向前方で知覚することができる位置に表示することで、人の移動速度を減速させ、或いは、上記のように移動経路を変更させることもできる。
人気の高いコンテンツは動画であってもよい。一定方向からしか見えない指向性ディスプレイを移動経路に沿って配置し、一定の速度で移動しないと動画(パラパラ漫画)が見えない環境を構築して移動速度を制御する方法も考えられる。指向性ディスプレイの動画の表示方法によって、移動速度の加速及び減速を制御することが可能である。また、人が錯覚する映像を積極的に利用してもよい。例えば、移動経路の幅が狭く見えるような映像は、移動速度を減少させる現象である。また、移動経路の幅が広く見えるような映像は、移動速度を加速させる現象である。錯覚する映像は、人の移動方向の制御に用いることも可能である。
なお、本実施形態では、人の移動を制御する知覚を生じさせる現象として映像を例に説明を行ったが、他の種別の現象を用いて人の移動を制御することも可能である。以降、他の種別の現象を用いた他の実施形態について説明する。
〔第2の実施形態〕
第2の実施形態として、人の力覚に作用する現象を用いた誘導システムについて説明する。力覚とは、力の強さの感覚であり、広義の触覚の一部である。
人の力覚に作用する現象を用いた誘導システムの機能構成は、誘導システム100と同じである。よって、便宜的に同一の参照符号を用いて説明する。
現象選択装置10の現象選択部13は、人の力覚に作用して知覚させる現象を選択する。また現象発生装置21は、人の力覚に作用する現象を発生させる。
人の力覚に作用する現象としては、風圧を利用する方法が、例えば参考文献3(鈴木由里子、外1名、「風圧によるUntethered力覚提示インターフェース:3次元オブジェクトの表現」、2003年7月、電子情報通信学会信学技報、TECHNICAL REPORT OF IFICE,103(207),p.71-76)に記載されている。参考文献3は、VR(Virtual Reality)技術に力覚を適用させるものであるが、ここで示された力覚は、誘導システムに利用することができる。
図6に、力覚によって人の移動方向を制御する様子を示す。歩行者60の頭上には、ゲート220が設けられ、歩行者60と対向するゲート220の天井にはエアーノズルが縦横にメッシュ状に配置されている。
歩行者60を、ゲート220の開口部を正面方向から見て左方向に誘導したい場合、圧縮空気を、歩行者60の進行方向前方と右側のエアーノズルから噴射する。すると、歩行者60は風圧を感じ、髪の毛が乱れるのを嫌って、圧縮空気の噴射のない左方向に移動する。あるいは、突然の刺激に驚きその場に停止する、あるいは、風圧が十分に強い場合は風圧によって前進しにくくなり、歩行速度を落とす。図6では、圧縮空気を噴射しているエアーノズルを●で表している。また、圧縮空気を矢印(→)で表記している。
なお、圧縮空気を人に向けて選択的に噴射するためには、ゲート220の下を通過する人の位置を検出する必要がある。人の検出には、例えばカメラ、超音波センサ、赤外線センサ、移動経路上に轢いたシートに埋め込んだ圧力センサ、などを用いることで容易に検出することが可能である。また、そのようにして検出した人に対して選択的に圧縮空気を噴射することは、電磁バルブをコンピュータ制御することで容易に実現できる。
よって、図6では、空気を圧縮するコンプレッサーや、電磁バルブ、電磁バルブを制御するコントローラの表記は省略している。圧縮空気の選択噴射については、既存技術の組合せで容易に実現できるので詳しい説明は省略する。
図7に、噴射される圧縮空気(現象)によって歩行者60に力覚を知覚させて、移動経路を誘導する様子を例示する。図7は、ゲート220の下を通過する歩行者60(図6)を、上から見た図である。黒丸は、圧縮空気を噴射しているエアーノズルを表している。歩行者60は、選択的に噴射される圧縮空気(現象)によって力覚を知覚する。歩行者60は、噴射される圧縮空気が不快なので、圧縮空気が噴射されていない左前方の方向に進むことになる。
このように人の力覚に作用する現象を発生させて、人の移動経路を制御することが可能である。図7では、圧縮空気を人に選択的に噴射する例を説明したが、本実施形態の現象選択部13は、より単純な現象を選択する。
図8に、力覚に作用する現象を発生させるようにした第2の実施形態の現象発生装置21の外観を示す。第1の実施形態で説明した現象発生装置21のスクリーン23a〜23cは、第2の実施形態の現象発生装置21では移動経路上の分岐を覆う例えば上記のゲート220である。ゲート220の下を通過する人は、選択的に噴射される圧縮空気(現象)によって力覚を知覚する。
例えば、上記のように、Aコース上の人数を10%増加、Bコース上の人数を20%減少、Cコース上の人数を10%増加、させたい場合を仮定する。その場合、現象選択部13は、Bコース上の人数を20%減少させる現象として、Bコースの移動経路上に対向する部分で圧縮空気を噴射するための、圧縮空気の噴射有り(図8の●)を選択する。Aコース上の人数を10%増加させる現象として、Aコースの移動経路上に対向する部分の圧縮空気の噴射なしを選択する。Cコース上の人数を10%増加させる現象としてAコースと同様に、Cコースの移動経路上に対向する部分の圧縮空気の噴射なしを選択する。
その選択された現象に対応するデータが入力される現象発生装置21は、Bコースの移動経路上にのみ圧縮空気(矢印(→))を噴射する。そうすると、Bコースの移動経路に進もうとしていた人は、圧縮空気が不快なので、Bコース又はCコースに移動方向を変える。
このように、移動経路上の分岐において、人の力覚に作用する現象を発生させることで、人の移動方向を制御することができる。同様に、力覚に作用する現象によって人の移動速度を制御することもできる。
第1の実施形態の移動経路上のD地点の近くで現象を発生させる現象発生装置21dは、第2の実施形態では、例えば大型の扇風機(送風機)21dに置き換える。大型の扇風機21dは、歩行者60に対して逆風や横風を吹きつけることで、歩行者60の移動速度を抑制する。また、歩行者60に対して追い風を発生させることで、移動速度を加速させる。
現象選択部13は、検出器11dで検出されたD地点の混雑度が、予め定められた閾値よりも大きい場合、D地点よりも第1の地点側に配置された大型の扇風機21d に発生させる現象として逆風を選択する。逆風によってD地点よりも第1の地点側の人の移動速度が遅くなるので、検出器11dが配置された地点の人数を減少させることができる。また、D地点の混雑度が閾値よりも小さい場合、現象選択部13は大型の扇風機21dに発生させる現象として追い風を選択する。追い風によってD地点よりも第1の地点側の人の速度が速くなるので、検出器11dが配置された地点の人数を増加させることができる。
この大型の扇風機を用いる考えは、移動経路上の分岐部分に適用することもできる。その場合、誘導システム100の分岐したコース上に配置されたスクリーン23a,23b,23cは、それぞれ大型の扇風機に置き換えられる。
そして、例えばAコース上の人数を10%増加、Bコース上の人数を20%減少、Cコース上の人数を10%増加させたい場合を仮定すると、現象選択部13は、Bコース上に発生させる現象として逆風を選択する。AコースとCコース上に発生させる現象として追い風を選択する。AコースとCコースに発生させる現象としては、無風を選択してもよい。また、逆風と追い風の、それぞれの風の強さを変化させるようにしてもよい。また、D地点よりも第1の地点側に配置された大型の扇風機21dは、図6〜図8で説明した圧縮空気を噴射する現象発生装置21に置き換えてもよい。
第2の実施形態では、人の力覚に作用する現象として風圧を用いる例で説明を行ったが、
この他にも、移動経路上の路面上に凸凹を生じさせるような床面を用意して置き、凹凸を大きくしたり小さくしたりする現象を発生させることで、人の力覚に作用して知覚を生じさせる方法も考えられる。また、移動経路上の路面の一部区間を動く歩道とし、その速度を変えることで、人の力覚に作用する方法も考えられる。
〔第3の実施形態〕
第3の実施形態として、人の臭覚に作用する現象を用いた誘導システムについて説明する。人の臭覚に作用する現象を用いた誘導システムの機能構成は、誘導システム100と同じである。よって、便宜的に同一の参照符号を用いて説明する。
現象選択装置10の現象選択部13は、人の臭覚に作用して知覚させる現象を選択する。また現象発生装置21は、人の臭覚に作用する現象を発生させる。
人の臭覚に作用する現象を発生させる方法が、例えば、参考文献4(Yasuyuki Yanagida, Shinjiro Kawato, Haruo Noma, Akira Tomono, and Nobuji Tetsutani: Projection-Based Olfactory Display with Nose Tracking, Proceedings of IEEE Virtual Reality 2004, pp. 43-50, Chicago, U.S.A., March 2004.)に記載されている。
図9に、参考文献4に記載された匂いを局所的に発生させる方法を示す。空気砲310は、カメラ311を備え、空気砲310の内部の図示しない臭気発生部で発生させた臭いを、渦巻きリング状にして発射するものである。臭気発生部は、例えばジュール熱で液体を蒸発させて臭気を発生させる。臭気は、人が生理的に好む臭いと、嫌う臭いと、の2種類を発生させることができる。
渦巻きリングの発射方向は、水平方向と仰角方向にコンピュータで制御される。空気砲310を、30cm×20cm×20cmの大きさとして5〜10m先の局所に向けて渦巻きリングが発射できる(参考文献4)。ここで示された局所的に臭いを発生させる方法は、誘導システムに利用することができる。
第3の実施形態の現象発生装置21では、誘導システム100のスクリーン23a〜23dが、例えば、それぞれ空気砲21a〜21bに置き換わる。空気砲21a〜21bは、上記の空気砲310と同じものである。
上記のようにAコース上の人数を10%増加、Bコース上の人数を20%減少、Cコース上の人数を10%増加させたい場合を仮定すると、現象選択部13は、Bコース上に発生させる現象として人が生理的に嫌う臭いを選択する。AコースとCコース上に発生させる現象として人が生理的に好む臭いを選択する。
現象発生装置21のBコース上に配置された空気砲21bは、人が生理的に嫌う臭いを発生させるので、Bコースに進入しようとしていた人は、A又はCコ−スに経路を変更する。AコースとCコース上には、空気砲21aと21cとによって、人が生理的に好む臭いが発生しているので、そのままA又はCコースに進むことになる。
このように人を移動させたい経路の空気砲からは人が生理的に好む臭いの渦巻きリングを、人を移動させたくない経路の空気砲からは人が生理的に嫌う臭いの渦巻きリングを、それぞれ発射させる。その結果、人を移動させたい経路には、多くの人が進み、人を移動させたくない経路に進む人の数は減少することになる。このように、人の臭覚に作用する現象を用いて人の移動する方向を制御することが可能である。
現象選択部13は、検出器11dで検出されたD地点の混雑度が、予め定められた閾値よりも大きい場合、人が生理的に嫌う臭いの渦巻きリングを、当該歩行者の歩行速度よりも早く進行方向前方に移動させながら発射する現象を選択する。空気砲21dは、生理的に好ましくない現象(嫌う臭いの渦巻きリング)を人が進行方向前方で知覚することができる位置に表示(発射)するので、その臭いを嗅ぎたくない歩行者の歩行速度は減速することになる。D地点よりも第1の地点側の人の移動速度が遅くなるので、検出器11dが配置された地点の人数を減少させることができる。
また、D地点の混雑度が閾値よりも小さい場合、現象選択部13は、人が生理的に好む臭いの渦巻きリングを、当該歩行者の歩行速度よりも早く進行方向前方に移動させながら発射する現象を選択する。空気砲21dは、好まれる現象(好む臭いの渦巻きリング)を人が進行方向前方で知覚することができる位置に表示(発射)するので、その臭いを嗅ぎたい歩行者の歩行速度は加速することになる。D地点よりも第1の地点側の人の移動速度が速くなるので、検出器11dが配置された地点の人数を増加させることができる。
使い方によって、これらの現象から逆の結果を得ることができるのは、上記の人の視覚に作用する現象である映像の場合と同じである。歩行者の後方に、人が生理的に好む臭いの渦巻きリング(現象)を発射することで、歩行者の歩行速度を減速させることができる。また、嫌われる臭いの渦巻きリングを歩行者の後方に発射することで、歩行者の歩行速度を加速させることができる。
〔第4の実施形態〕
第4の実施形態として、人の聴覚に作用する現象を発生させる誘導システムについて説明する。人の聴覚に作用する現象を用いた誘導システムの機能構成は、誘導システム100と同じである。よって、便宜的に同一の参照符号を用いて説明する。
音を局所的に再生する方法が、例えば参考文献5(植松尚、外2名、「エリア内の再生特性を考慮した音の局所再生」、2006年、日本音響学会誌、62巻、2号、p.89-97)に記載されている。図10に、境界音場制御を応用したエリア再生方法の原理を示す。エリア再生方法は、M個のスピーカ4101〜410Mと、各々のスピーカにそれぞれ接続されるフィルタ4201〜420Mとによって構成できる。この方法は、N個の制御点A1〜ANの音圧を0、音圧傾度を0になるようにフィルタ4201〜420Mのフィルタ係数H1〜HMを設定することで、エリア内に限定した音の再生を行う方法である。
このエリア再生方法は、誘導システムに利用することができる。第4の実施形態の誘導システムの現象発生装置21は、例えば第2の実施形態で説明した現象発生装置21の外観と同じゲート(図8)とする。そして、現象発生装置21のマトリックス状に配置されたエアーノズルを、M個のスピーカに置き換える。そのように構成された現象発生装置21は、限られた範囲に限定した音の再生が可能である。
そして、現象選択装置10は、混雑情報に基づいて、人が生理的に好む音、又は、人が生理的に嫌う音、を選択する。上記のようにBコースへの人の進入を抑制したい場合、現象選択装置10は、Bコースの移動経路上に対向する部分のみに、人が生理的に嫌う音を再生する現象を選択する。
現象発生装置21は、第2の実施形態の現象発生装置21と同様に、Bコース上の限られたエリアのみに人が生理的に嫌う音を再生する。人が生理的に嫌う音は、例えば、黒板に爪を立てて発生させた様な音である。その結果、Bコースへの人の進入が抑制される。AコースとCコースとに進入する人の数は増加する。
第4の実施形態では、第1の実施形態のスクリーン23d、第2の実施形態の大型の扇風機21d、第3の実施形態の空気砲21d、であったものが、エリア再生方法を用いた再生装置21dに変更になる。再生装置21dは、1つの移動経路上を覆う、ゲート220を小型化したものである。
現象選択部13は、検出器11dで検出されたD地点の混雑度が、予め定められた閾値よりも大きい場合、人が生理的に嫌う音を、当該歩行者の歩行速度よりも早く進行方向前方に移動させながら再生させる現象を選択する。再生装置21dは、人が生理的に嫌う音(現象)を、当該歩行者の歩行速度よりも早く進行方向前方に移動させながら再生するので、その音を聞きたくない歩行者の歩行速度は減速することになる。D地点よりも第1の地点側の人の移動速度が遅くなるので、検出器11dが配置された地点の人数を減少させることができる。
D地点の混雑度が閾値よりも小さい場合、及び、使い方によって同じ現象から逆の結果が得られる点は、第3の実施形態で説明したのと同じである。
〔第5の実施形態〕
図11に、第5の実施形態の誘導システム500の機能構成例を示す。誘導システム500は、2個の現象選択装置10a,10bと、2個の現象発生装置21e,21fとで、誘導システムを構成したものである。第1の実施形態〜第4の実施形態の現象選択装置10は、移動経路上の複数の検出器11a〜11dで検出した情報を統合して混雑度を取得するものであった。複数の検出器11a〜11dで検出した情報を、統合して扱わなくもよい。
現象発生装置21eは、移動経路上の混雑度を取得する現象選択装置10aの検出器11eの位置よりも第1の地点寄りに配置されている。現象発生装置21fは、現象選択装置10bの検出器11fの位置よりも第2の地点寄りに配置されている。
図12に示す現象選択装置10aの動作フローを参照してその動作を説明する。現象選択装置10aは、検出器11eで検出したカメラ画像等から混雑度を取得(ステップS50)し、当該混雑度が予め定められた閾値よりも大きい場合(ステップS51のNO)には、現象発生装置21eが配置された地点の人の移動速度を遅くするための現象を選択する(ステップS52)。又は、人の進行意欲を減退させる現象を選択する。その結果、検出器11eの地点での人を減少せることができる。
また、当該混雑度が予め定められた閾値以下の場合(ステップS51のYES)には、現象発生装置21eが配置された地点の人の移動速度を速くするための現象を選択する(ステップS53)。又は、人の進行意欲を増進させる現象を選択する。その結果、検出器11eの地点での人を増加させることができる。
図13に示す現象選択装置10bの動作フローを参照してその動作を説明する。現象選択装置10bは、検出器11fで検出したカメラ画像等から混雑度を取得(ステップS54)し、当該混雑度が予め定められた閾値よりも大きい場合(ステップS55のNO)には、現象発生装置21fが配置された地点の人の移動速度を速くするための現象を選択する(ステップS56)。その結果、検出器11fの地点での人を減少せることができる。
また、当該混雑度が予め定められた閾値以下の場合(ステップS55のYES)には、現象発生装置21fが配置された地点の人の移動速度を遅くするための現象を選択する(ステップS57)。その結果、検出器11fの地点での人を増加させることができる。
このように、誘導システムは、複数(2個以上)の現象選択装置と複数(2個以上)の現象発生装置とで構成してもよい。誘導システム500によれば、現象選択装置の検出器を配置した移動経路上の混雑度を、当該混雑度取得部を配置した場所の上流(第1の地点側)又は下流(第2の地点側)で制御することができる。
以上説明したように 第1〜第4実施形態の誘導システムは、移動経路上の混雑度に基づいて、人の知覚に作用する現象を選択して発生させることで、移動経路上の複数の人を誘導する。第1の実施形態の誘導システムは、人の視覚に作用する現象を選択して発生させて、人の移動を制御する。第2の実施形態の誘導システムは、人の力覚に作用する現象を選択して発生させて、人の移動を制御する。第3の実施形態の誘導システムは、人の臭覚に作用する現象を選択して発生させて、人の移動を制御する。第4の実施形態の誘導システムは、人の聴覚に作用する現象を選択して発生させて、人の移動を制御する。
このように、第1〜第4の実施形態によれば、第1の地点から第2の地点への人の移動を知覚で制御することで、人のスムーズな移動を可能にする誘導システムとその方法を提供することができる。また、第5の実施形態で説明したように誘導システムは、複数(2個以上)の現象選択装置と複数(2個以上)の現象発生装置とで構成してもよい。現象選択装置と現象発生装置との組で、混雑度取得部の検出器を配置した移動経路上の混雑度を、当該検出器を配置した位置の上流又は下流で制御することができる。
また、第1〜第4の実施形態では、発生させる現象の種別を、それぞれ一種類とする例で説明を行ったが、複数の種別の現象を組み合わせて発生させるようにしてもよい。例えば、視覚と力覚に作用する現象を組み合わせて発生させてもよい。例えば、映像で目の前に崖が有るように見せかけ、更に、人の移動方向の下方から圧縮空気を、人に対して斜め方向に噴射することで、崖の下から強い風が吹いているような知覚を生じさせることができる。同様に、視覚と臭覚、視覚と聴覚、に作用する現象を組み合わせて発生させるようにしてもよい。
また、人の集団の属性を考慮した現象を選択するようにしてもよい。例えば子供連れの家族に対しては、子供に人気のあるキャラクタなどを投影すると、高い確率で足止めできると考えられる。他の属性の集団に対しては、例えばカップル向けのデートスポット映像や大人向けのクラシックコンサートの音楽を再生するなど、それぞれの集団の属性を考慮した現象を選択してもよい。
また、第1〜第4の実施形態では、現象発生装置21を、移動経路上に配置する例で説明したが、現象発生装置21は移動経路上に無くてもよい。視覚に作用する現象として、例えば打ち上げ花火を利用する方法も考えられる。その場合、現象発生装置21である花火の打ち上げ装置は、移動経路上に無くてもよい。また、現象発生装置21として、人が保持するモバイル端末(携帯電話、スマートフォン、警報発生器など)を利用する方法も考えられる。モバイル端末に、警報音や映像コンテンツを提示することで、その場に立ち止まらせたり減速させたりしてもよい。このように、現象発生装置21は、必ずしも移動経路上に配置されていなくてもよい。
また、移動経路は、第1の地点から第2の地点に至る間に、3つの経路に分岐してその後、1つの経路になるもので説明を行ったが、移動経路の形はどのような形状であってもよい。移動経路の形状がどのような場合であっても、現象選択装置10と、現象発生装置21と、の組み合わせで、第1の地点から第2の地点までの複数の人のスムーズな移動を可能にする誘導システムとその方法を提供することができる。このように、本発明は、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
なお、現象発生装置で発生させられた現象によって、生じる知覚は人によって異なる。したがって、一度の現象の提示では、移動経路上の混雑度が、所望の値に変化しない場合が考えられる。その場合は、上記のようにステップS10〜ステップS20(図2)の処理を繰り返して行えばよい。
図14に、繰り返し処理を行う誘導システムの動作フローを示す。繰り返し処理が有る場合(ステップS140のYES)、現象選択装置10は、現象発生装置21で現象を発生させた後の混雑度である提示後混雑度も収集する(ステップS10)。現象選択装置10は、当該提示後混雑度に基づいて、選択する現象を変更する(ステップS11)。
例えば、Bコースへの人の進入量が所望の量に抑制されない場合、現象選択装置10は、より強い印象を与える現象を選択する。例えば、水溜りの映像を投影した後には、例えば腰の位置まで水中に浸かった人が歩行する姿の映像など、また、逆風であればその風の強度を強くするなどの、より強い印象を与える現象を選択する。
逆に、所望の量よりも大きく抑制された場合は、より弱い印象を与える現象を選択する。このように現象を繰り返して選択して発生させることで、所望の混雑度に制御することが可能である。
なお、上記の現象選択装置10は、検出器11と混雑度取得部12と現象選択部13と、を具備するものとして説明したが、第1の実施形態〜第5の実施形態はこの機能構成に限定されない。例えば、図15に示すように、検出器11と混雑度取得部12とで混雑度取得装置120を構成し、現象選択部13を一つの現象選択装置130として構成してもよい。この場合、誘導システム100′は、混雑度取得装置120と現象選択装置130と現象発生装置21とで構成する。
現象選択装置10は、例えばROM、RAM、CPU等で構成されるコンピュータに所定のプログラムが読み込まれて、CPUがそのプログラムを実行することで実現されるものである。現象選択装置130も同様である。これらの装置における処理部をコンピュータによって実現する場合、各装置が有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムをコンピュータで実行することにより、各装置における処理部がコンピュータ上で実現される。
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD−ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記録装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
また、各手段は、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより構成することにしてもよいし、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。