以下、実施形態に係るエアバッグ装置について説明する。図1及び図2はステアリングホイール10及びエアバッグ装置30を示す分解斜視図である。
<1.ステアリングホイール10とエアバッグ装置30との全体構成>
このエアバッグ装置30は、車両におけるステアリングホイール10に取付可能に構成されている。以下に、ステアリングホイール10及びエアバッグ装置30の全体構成について概略的に説明する。
<1−1.ステアリングホイール>
ステアリングホイール10は、車両の操舵を行うためのものであり、ホイール本体12とスポーク14と中央部材16とを備えている。ホイール本体12は、リング状に形成されており、人による操舵力を受ける部分である。中央部材16は、運転手から遠ざかる方向に延出するステアリングシャフトの先端部に連結可能に構成されている。スポーク14は、ホイール本体12の内周部分からその中央に向けて延びており、当該中央において中央部材16に連結されている。ここでは、スポーク14は、3つ設けられているが、2つ等であってもよい。そして、ステアリングホイール10を回転させると、その回転運動がスポーク14及び中央部材16を介してステアリングシャフトに伝達されるようになっている。
上記中央部材16には、エアバッグ装置30とステアリングホイール10とを固定するための取付構造が設けられる。例えば中央部材16には、取付突部162と取付凹部164とが設けられる。取付突部162は運転手側に突出している。また取付突部162はその先端側で爪部を有しており、エアバッグ装置30に設けられた係止体60(図2参照)と係止する。再び図1を参照して、取付凹部164は中央部材16に凹設されており、運転手側に開口している。取付凹部164には、エアバッグ装置30と固定される取付挿入部材25が挿入され、取付凹部164と取付挿入部材25とが互いに固定される。係止体60および取付挿入部材25については後にも述べる。
また中央部材16にはホーン接点166が設けられている。このホーン接点166は、いわゆるホーンを鳴らすためのものである。エアバッグ装置30は、運転手側からプッシュ可能にステアリングホイール10に固定されており、運転手がエアバッグ装置30を押し込むことで、ホーン接点166が、エアバッグ装置30に設けられるホーン接点72に当接し、この当接によってホーンが鳴る。
<1−2.エアバッグ装置>
エアバッグ装置30は、エアバッグ32と、インフレータ34と、カバー36と、取付プレート40と、係止体60と、ホーン用導体70とを備えている。
エアバッグ32は、布等で袋状に形成されており、カバー36内に収容可能なように折畳まれている。
インフレータ34は、エアバッグ32を膨張展開させる装置である。ここでは、インフレータ34は、短円柱状のインフレータ本体部34aと、インフレータ本体部34aの外周に形成された取付フランジ34bとを有している。インフレータ本体部34aには、点火装置及びガス発生剤等が組込まれている。そして、車両衝突時に衝撃検知部等からの検知信号等を受けると、当該点火装置がガス発生剤を点火する。これにより、ガス発生剤が燃焼し、この燃焼によって発生するガスがエアバッグ32内に供給される。これにより、エアバッグ32が運転手に向けて膨張展開する。取付フランジ34bは、外周縁が方形状をなすように延出する板状に形成され、その4つの角部分に固定孔34cが形成されている。
カバー36は、樹脂等により形成された部材であり、カバー本体部37と立壁38とを有している。カバー本体部37は、エアバッグ装置30がステアリングホイール10に取付固定された状態で、操舵装置(エアバッグ付きステアリングホイール)の前面を形成する部分である。このカバー本体部37は、折り畳まれたエアバッグ32を一方側(ステアリングホイール10とは反対側)から覆う。立壁38は、カバー本体部37の内面側で折畳まれたエアバッグ32の周りを囲うように、カバー本体部37に突設されている。ここでは、立壁38は、角筒状に形成されているが、その他、円筒状、或は、エアバッグ32の周りを部分的に囲う形状に形成されていてもよい。そして、折畳まれたエアバッグ32が、カバー本体部37及び立壁38で囲まれる空間内に収容される。なお、カバー本体部37には、エアバッグ32の膨張展開力を受けて破断するティアラインが形成されている。
取付プレート40は、上記インフレータ34が取付けられた状態で、立壁38の開口を塞ぐようにエアバッグ32に取付けられる。
取付プレート40は、例えば立壁38の外周に沿った形状を有する板状部材に形成されている。ここでは、取付プレート40は、立壁38の開口と同じ形状の周縁を有する板部42と、板部42の外周囲に形成された周壁48とを有している。周壁48は立壁38に外嵌めされる。
板部42の中央部には、開口42hが形成され、この開口42h内にインフレータ34が配設される。
また、板部42のうち開口42hの周りには、ネジ挿通孔42cが形成されており、このネジ挿通孔42cを利用して、インフレータ34及びエアバッグ32が次のようにして取付けられる。まず上記エアバッグ32に挟込ブラケット50が取り付けられる。図1,2ではエアバッグ32と挟込ブラケット50とを分離して示しているものの、実際にはエアバッグ32の開口辺縁部が、挟込ブラケット50の周縁部をステアリングホイール10側から覆っている。つまり、挟込ブラケット50はエアバッグ32の内部に配設される。
挟込ブラケット50は、金属板等で形成された部材であり、ここでは、板形状に形成されている。挟込ブラケット50の中央部には、インフレータ34を配設可能な開口50hが形成されている。また、挟込ブラケット50の各角部にネジ部51が突設されている(図2参照)。各ネジ部51はエアバッグ32の開口辺縁部に形成された孔32cを通ってエアバッグ32外に突出する。ネジ部51が開口辺縁部を貫通することにより、エアバッグ32が挟込ブラケット50に対して固定される。
また、カバー36の立壁38には爪部381が形成されており、この爪部381、エアバッグ32によって覆われた挟込ブラケット50の周縁に対して、エアバッグ32の外側から係止される。これにより、カバー36が挟込ブラケット50に固定される。
取付プレート40には、ネジ部51に対応する位置にネジ挿通孔42cが形成される。取付プレート40は、ネジ部51がネジ挿通孔42cを貫通した状態で、ネジ部51にナット52(図1参照)を螺合締結することで、挟込ブラケット50に取り付けることができる。
ただしここでは、ネジ部51とナット52とを用いて、インフレータ34とホーン用導体70をも取り付ける。
ホーン用導体70は例えば板状の金属部材である。このホーン用導体70には、ステアリングホイール10のホーン接点166と対応する位置にホーン接点72が形成されるとともに、ネジ挿通孔42cと対応する位置で固定孔70cが形成されている。
このホーン用導体70は、固定孔70cをネジ挿通孔42cと同じ位置に配設した状態で、取付プレート40に重ねて配置される。
また、インフレータ本体部34aが取付プレート40の開口42h内に配設されると共に、取付フランジ34bが、その固定孔34cをネジ挿通孔42cと同じ位置に配設した状態で、取付プレート40(或いはホーン用導体70)のステアリングホイール10側に重ねて配設される。
この状態で、各ネジ部51がネジ挿通孔42c及び固定孔34c,70cを通って取付プレート40から突出するように、挟込ブラケット50が取付プレート40に重ね合される。そして、取付プレート40から突出する各ネジ部51に、ナット52を螺合締結する。これにより、インフレータ34およびホーン用導体70が取付プレート40に取付固定されると共に、カバー36及びエアバッグ32が取付プレート40に取付固定される。この状態では、インフレータ34の少なくとも一部はエアバッグ32内に配設されている。
また、取付プレート40には、エアバッグ装置30をステアリングホイール10に取付固定するための取付構造が設けられる。ここでは、取付挿入部材25と係止体60とを用いてエアバッグ装置30がステアリングホイール10に取付けられる。
取付挿入部材25は、コイルスプリング251を介して取付プレート40(より詳細には板部42)に固定される。このコイルスプリング251は取付挿入部材25の筒状部に外嵌めされており、筒状部に形成されたフランジ部に当接する。一方で、板部42には、一対の柱部422が突設されており、一対の柱部422の先端には爪部が設けられている。この柱部422は、例えば取付挿入部材25の筒状部とコイルスプリングとの間を通って、取付挿入部材25に設けられた係止部の縁部に引っ掛かる。これによって、取付挿入部材25が取付プレート40に取付けられる。またコイルスプリング251は、板部24にも当接しており、取付挿入部材25と板部42とが互いに離れる方向に付勢する。
取付挿入部材25は、外力を受けて板部42に近づくことができる。このときコイルスプリング251は外力によって縮む。また外力が消失すると、取付挿入部材25はコイルスプリング251の付勢力によって元の位置に戻る。
また取付挿入部材25はステアリングホイール10の取付凹部164と固定される。たとえば取付挿入部材25は、筒状部の先端(フランジ部よりもステアリングホイール10側の端部)に設けられる鍔部を有している。一方で、取付凹部164の底部周縁には溝部が形成されている。そして、取付挿入部材25が取付凹部164に挿入された状態で、この鍔部が溝部に嵌って係止される。これにより、取付挿入部材25が取付凹部164に固定される。
かかる構造により、エアバッグ装置30は運転手からの外力を受けてステアリングホイール10側へと移動することができる。そしてエアバッグ装置30のホーン接点72がステアリングホイール10のホーン接点166に当接することにより、ホーンが鳴る。また外力が消失すれば、コイルスプリング251の付勢力によってエアバッグ装置30が元の位置に戻る。
また、上記取付構造とは別の構造(係止体60)が取付プレート40に設けられる。これは例えば次の事態に備えるためである。すなわち、エアバッグ32が膨張展開するときには、大きな衝突力またはエアバッグの膨張展開力が生じる。これにより、取付挿入部材25と取付凹部164との固定、または、取付挿入部材25と板部24との固定部が破損する事態が生じ得る。そこで、このような事態が生じても他の構造によってエアバッグ装置30とステアリングホイール10との固定を維持するのである。
係止体60は弾性変形可能な線状体であり、例えば金属ワイヤである。係止体60は、取付プレート40に支持されており、取付突部162と係止される。なお係止体60は、取付突部162と常時当接して係止されている必要はない。係止体60は、取付挿入部材25による固定部が破損したときに取付突部162に当接して、エアバッグ装置30とステアリングホイール10との固定を維持すればよい。
本実施の形態では、カバー36と、折り畳まれたエアバッグ32を覆う包装材(後述)について、より詳細に説明する。
<2−1.カバー36の構造>
<2−1−1.エンブレム>
図3は、運転手側から見たときのカバー36の概念的な構成の一例を示す平面図であり、図4は、ステアリングホイール10側から見たときのカバー36の概念的な構成の一例を示す平面図である。図5は、カバー36の一部の断面図を示している。
以下では、説明の便宜上、互いに直交する前後方向(前方、後方)、上下方向(上方、下方)および左右方向(右、左)を設定する。ここでは、前後方向は取付プレート40の主面の法線(板部42の法線)に沿う方向であり、上下方向および左右方向は運転手がエアバッグ装置30を見たときの上下方向および左右方向である。
図3に示すように、カバー本体部37の運転手側の表面には、例えばエンブレム80が取り付けられている。エンブレム80は例えば樹脂により形成されており、運転手側から見て、所定の図案を形成する。ただし、図3では、図面を見やすくするために、この図案については省略し、エンブレム80を模式的に円で示している。また図3では、このエンブレム80は、カバー本体部37の略中央に設けられているものの、その位置および大きさは適宜に変更することができる。
図4,5に示すように、このエンブレム80の裏面には、取付部82が突設されている。この取付部82の個数および配置位置は適宜に設定できるものの、図4の例示においては、7個の取付部82が設けられており、これらは、仮想的な正六角形の頂点と、その正六角形の中央部とに設けられている。取付部82は、カバー本体部37に形成される貫通孔を貫通して、カバー本体部37の裏面側(ステアリングホイール10側)に飛び出している。エンブレム80は、この取付部82を介してカバー本体部37に固定される。例えば図5に示すように、取付部82は、その先端が幅広となるリベット形状を有しており、カバー本体部37の裏面に係止することができる。
この取付構造は、例えば次のようにして実現できる。例えば柱状の取付部82をカバー本体部37の貫通孔に貫通させた上で、その取付部82の先端部を変形させて、リベット形状を形成する。或いは、組み立て前のカバー本体部37に形成される貫通孔が、リベット形状を有する取付部82の先端の断面よりも大きく、取付部82を遊挿可能である。カバー本体部37には、ステアリングホイール側に突出する樹脂突起部が当該貫通孔の周縁に沿って設けられている。取付部82はこの筒状の樹脂突起部の内周側に配置されることになる。そして、この状態で、この樹脂突起部の少なくとも一部の樹脂を溶かし、当該樹脂によって、取付部82とカバー本体部37との間に生じる隙間を埋める。これにより、取付部82がカバー本体部37に係止される取付構造を実現することができる。
なお、本実施の形態においては、エンブレム80は必須要件ではなく、設けられていなくても良い。
<2−1−2.ティアライン>
図3,4に示すように、カバー本体部37には、ティアライン群84が形成される。カバー本体部37は、ティアライン群84において、他の部分よりも破断しやすい構造を有しており、例えばティアライン群84は、カバー本体部37のうち他の部分の厚みより薄い部分(即ち溝)として形成される。
図3,4の例示では、ティアライン群84として、ティアライン842が形成されている。このティアライン842は、両端842a,842bを有しており(図3参照)、この両端842a,842bから、カバー本体部37の一部(例えばエンブレム80が設けられる部分)を囲むように延在している。展開部862は、後に詳述するように、エアバッグ32の膨張展開の際に、この両端842a,842bの間の部分をヒンジ部として開く(図6も参照)。
図3の例示では、両端842a,842bは、カバー本体部37の上方側において、左右方向に離間している。このティアライン842は、例えば、3つのティアライン8422,8424,8426によって構成されている。ティアライン8422は、端842aから下方側に延在し、ティアライン8426は、端842bから下方側に延在している。これらのティアライン8422,8426は、エンブレム80に対して互いに反対側に位置している。ティアライン8424は、エンブレム80よりも下方側においてティアライン8422,8426を繋いでおり、例えば、下方に向かって膨らむように弧状に形成されている。
また、図3,4の例示では、カバー本体部37には、ティアライン群84として、ティアライン843〜848も形成される。ティアライン843は、ティアライン8422のうち端842a側の一部分から、外周側(図3の例示では左側)へと延在し、ティアライン844は、ティアライン8426のうち端842b側の一部分から、外周側(図3の例示では右側)へと延在している。ティアライン845は、ティアライン8422,8424との交点から外周側(図3の例示では左下側)へと延在し、ティアライン846は、ティアライン8426,8424の交点から外周側(図3の例示では右下側)へと延在する。ティアライン847は、ティアライン8424の中点から外周側(図3の例示では下方側)へと延在し、ティアライン848は、自身の中点でティアライン847の一端(ティアライン8424とは反対側の一端)と交差して、左右方向に延在している。
カバー本体部37は、ティアライン群84において、エアバッグ32の膨張展開により破断(開裂)する。これにより、ティアライン群84の各々で囲まれた展開部が、図6に示すように開く。例えばティアライン842によって区画される展開部862は、上方側へと開く。
また、図3,6も参照して、ティアライン843,845,8422によって区画される展開部863は、ティアライン843の端843aとティアライン845の端845aとを繋ぐ部分をヒンジ部として、左側に開く。ティアライン845,8424,847,848によって区画される展開部864は、ティアライン845の端845aとティアライン848の端848aとを繋ぐ部分をヒンジ部として、左下側に開く。ティアライン8424,846,847,848によって区画される展開部865、および、ティアライン846,8426,844によって区画される展開部866も、同様にして開くので、ここでは繰り返しの説明を避ける。
なお、図3,4のように、複数の展開部を形成すれば、各展開部のヒンジ部の長さを低減できるので、各展開部を開くのに要する力を低減することができる。
また、図3,4の例示では、ティアライン群84は左右対称となるように形成されているので、各展開部862〜866も左右対称に開いている(図6)。そして、各展開部862〜866が開くことにより、カバー本体部37には、エアバッグ32を運転手側に膨張展開させるための開口部376が形成される(図6)。
また、展開部862〜866が開くことにより、カバー本体部37には、非展開部882,884,886が形成される。ここでいう非展開部とは、エアバッグ32の膨張展開の際に、展開部862〜866と比べて開きにくい部分であり、実質的には開かない部分である。
このような非展開部の周縁部はティアラインによって形成される。図3の例示では、非展開部882は、展開部862,863を形成するためのティアライン843,8422によって形成されており、展開部862,863と隣接している。非展開部884は、展開部862,866を形成するためのティアライン844,8426によって形成されており、展開部862,866と隣接している。これらの非展開部882,884は、展開部862の両側に形成されている。
非展開部882,884,886の周縁部は、各展開部862〜866のヒンジ部とともに、開口部376の輪郭を形成する。よって、エアバッグ32は、ティアラインの破断面に形成される凹凸(非展開部882,884,886の周縁部の側面)に接触しえる。それにより、エアバッグ32と非展開部882,884,886の周縁部の側面との間に大きな抵抗が発生し、エアバッグ32の展開する勢いが損なわれるおそれがある。
特に、非展開部882,884の周縁部は角部を形成している。図3の例示では、ティアライン8422,843が略直交しており、展開部862,866が異なる方向に開く。これにより、非展開部882に角部が形成される。非展開部884の周縁部にも同様にして角部が形成される。そこで、本実施の形態では、非展開部882,884に形成される角部によるエアバッグ32の損傷を防止することを企図しているのである。なお、角部の角度は直角である必要はなく、鋭角であっても鈍角であっても良い。また角部には、適宜に面取り、丸みなどが設けられても良い。
以下では、角部を有する非展開部882,884とエアバッグ32との直接的な接触を抑制することを考える。
なお、ティアラインは必ずしも図3,4の態様で形成される必要はなく、各展開部の位置、大きさ、形状、および、開く方向は、適宜に変更することができる。ただし、本エアバッグ装置は、ティアラインの破断面を周縁部とし、角部を有する非展開部が形成されることを前提とする。
また図3では、図示を容易にすべく、両端842a,842bが、カバー本体部37のうち、運転手と対向する部分に設けられている。しかるに図7に示すように、カバー本体部37が、その上方側の周縁において後方側(ステアリングホイール10側)に伸びる延設部378を有しており、両端842a,842bがこの延設部378に設けられても良い。これにより、展開部862をより大きく開くことができ、ひいては開口部376をより広くすることができる。これは、エアバッグ32をより広く膨張展開させるという観点で好適である。以下では、まず、両端842a,842bが延設部378に設けられる場合について述べる。
<2−2.エアバッグ32の構造>
エアバッグ32は、折り畳まれた状態で、カバー36に収納される。この折り畳み状態を維持すべく、エアバッグ32は、所定の包装材(以下、ラッピングクロスと呼ぶ)によって覆われる。図8は、ラッピングクロス35の概念的な構成の一例を示す平面図であり、運転手側から見た図である。図9は、ラッピングクロス35を展開したときの平面図である。なお図9の例示では、エアバッグ32と挟込ブラケット50とについても模式的に示している。
このラッピングクロス35は、例えば1枚の布製シートによって形成されている。図9に例示するように、ラッピングクロス35は展開された状態において、例えば略十字状の形状を有しており、中央部354と、この中央部の4方に設けられる羽部356とを有している。この羽部356の外周側端部には、貫通孔358が形成されている。そして、この4つの羽部356がエアバッグ32の側部に沿うように、ラッピングクロス35をエアバッグ32に被せつつ、この4つの羽部356の外周側端部を、エアバッグ32に覆われた挟込ブラケット50の裏面側まで伸ばして、貫通孔358にネジ部51を貫通させる。これにより、ラッピングクロス35が挟込ブラケット50に固定されつつ、エアバッグ32を覆う。このラッピングクロス35は、エアバッグ32の折り畳み形状を維持することができる。
また、ラッピングクロス35には、破断予定線352が形成される。ラッピングクロス35は、エアバッグ32の膨張展開の際に、破断予定線352において破断(開裂)する。この破断予定線352は、例えば複数の切れ目によって形成されている。これらの複数の切れ目は、互いにわずかな間隔を空けて形成され、全体として線を形成している。そして、このわずかな間隔が連結部として機能しており、エアバッグ32の膨張展開の際に、この連結部がエアバッグ32からの力を受けて破断することで、ラッピングクロス35が開裂する。
この破断予定線352により、ラッピングクロス35には、開放片353,359が形成される。開放片359は対で設けられており、開放片353に対して左右方向において互いに反対側に形成される。これらの開放片353,359は、エアバッグ32の膨張展開により、開く。開放片359は、左右方向において外側に開く。
図7,9を参照して、破断予定線352は、例えば、ラッピングクロス35のうち、延設部378と対向する側部となる部分において、両端352a,352bを有している。破断予定線352は、両端352a,352bから、中央部354へ延在する。
この破断予定線352によって区画される開放片353は、両端352a,352bの間の部分で折曲がって開くことができる。なお、開放片353は布製であるので、任意の位置で折り曲がることができるものの、両端352a,352bから開いたときに、最も大きく開くことができる。
ここでは、両端352a,352bは左右方向において離間しており、開放片353は、上方へと開く(図8,14参照)。
<2−3.ティアラインと、スリットとの位置関係>
図10は、カバー36と、ラッピングクロス35のカバー36側の面と、を示す平面図であり、ステアリングホイール10側から見た図である。ただし、ラッピングクロス35を透明で示している。図14の例示では、実際は展開部862〜866と開放片353,359が展開するところ、非展開部882,884の周縁部と開放片359との位置関係を模式的に示すために、展開部862〜866と開放片353のみが展開している。
図10,14を参照して、開放片359(請求項1の周縁部カバー片に相当)は、ステアリングホイール10側(カバー36とは反対側、より詳細にはカバー本体部37とは反対側)から見て、それぞれ対応する非展開部882,884の角部を覆っている。言い換えれば、開放片359は、非展開部882,884の角部に対して、カバー本体部37の外周側から内周側にはみ出ている。
これらの開放片359は、開放片353エアバッグ32の膨張展開により破断予定線352が破断して、開放片353の先端側に隣り合う開放片359は、展開部863,866側へと開き、開放片353の付け根側に隣り合う開放片359は、それぞれ対応する非展開部882,884側へと開く。一方で、非展開部882,884はほとんど開かないので、開放片359はそれぞれ非展開部882,884に接触して、その角部を覆う。図11は、非展開部882,884近傍を模式的に示す断面図(図6または後述する図14におけるA−A断面)であり、エアバッグ32が膨張展開する様子を示している。
図11に示すように、エアバッグ32と非展開部882,884の角部との間には開放片359が介在するので、エアバッグ32が非展開部882,884の角部に直接に接触することを回避することができる。換言すれば、開放片359は、非展開部882,884の角部からエアバッグ32を保護することができる。
なお、開放片359は、必ずしも、図8,9に示す態様で形成される必要はなく、要するに、エアバッグ32の膨張展開の際に、非展開部の角部を覆うように形成されていればよい。
また、ここでは一例として、開放片359が全体的に展開しているが、その一部のみが展開し、当該一部が非展開部882,884とエアバッグ32との間に介在しても良い。例えば図14において、開放片359のうち、開放片353の幅が狭くなる部分に対応して突出する部分3591のみが展開してもよい。この場合、部分3591を周縁部カバー片として理解することもできる。
<3.開放片359の形状>
図12は、カバー36と、ラッピングクロス35のカバー36側の面と、を示す平面図であり、ステアリングホイール10側から見た図である。ただし、ラッピングクロス35を透明で示している。図12の例示では、非展開部882を覆う開放片359の、非展開部882側の周縁部が、非展開部882の周縁部の一部と略相似した(略並行した)形状を有している。図12の例示では、開放片359の、非展開部882側の周縁部は、破断予定線3521,3522によって形成されており、破断予定線3521は、非展開部882の周縁部の一部を形成するティアライン8422と略平行に延在し、破断予定線3522は、非展開部882の周縁部の一部を形成するティアライン843と略平行に延在している。これにより、開放片359の、非展開部882側の周縁部が、非展開部882の周縁部の一部と略相似した(略並行した)形状を有することになる。非展開部884を覆う開放片359についても同様である。
これによれば、無駄なく非展開部882の角部を覆うことができる。言い換えれば、開放片359を不要に広げない。よって、ラッピングクロス35のうち、開放片359以外に使用される部分(例えば開放片353)の面積を増大できる。
また、図12の例示では、開放片353の先端部を形成する破断予定線3524が、ティアライン8424,848との間に形成されている。この破断予定線3524は、ティアライン8424と略並行して延在している。そして、開放片353の両側部を形成する破断予定線3523が、破断予定線3524よりも下方側にまで延在している。これにより、ラッピングクロスには、開放片353と隣接して開放片357が形成される。
一方で、カバー本体部37には、展開部864,865の展開によって、ティアライン848を周縁部とする非展開部886が形成される。この非展開部886の周縁部は、非展開部882,884とは違って角部を有していない。
開放片357は、ステアリングホイール10側から見て、非展開部886の周縁部を覆っている。そして、開放片357は、エアバッグ32の膨張展開の際に、非展開部886側へと開いてその周縁部に接触し、エアバッグ32が非展開部886の周縁部と直接に接触することを回避する。換言すれば、開放片357は、凹凸が形成された非展開部886の周縁部の破断面とエアバッグ32との間に抵抗が発生すること抑制する。
<4.エンブレム付き展開部と、これに対応する開放片>
以下で説明する内容では、エンブレム80の取付部82が展開部862を貫通しており(図4参照)、この取付部82を介してエンブレム80が設けられることが前提である。図10の例示では、開放片353は、ステアリングホイール10側から見て、展開部862に取り付けられる取付部82を覆っている。しかも、開放片353(請求項3の保護開放片に相当)と、エンブレム80が取り付けられた展開部862とは、エアバッグ32が膨張展開し始めてから膨張展開し終わるまで、開放片353が取付部82を覆いながら展開部862に重なった状態で開く。ここでは、展開部862と開放片353とは、いずれも、運転手から見て上方へと開く(図14参照)。
図13は、エアバッグ装置30の一部の断面を示しており、またエアバッグ32が膨張展開するときの様子を示している。開放片353と展開部862とが、膨張展開するエアバッグ32からの力を受けて、互いに同じ方向に開いている。よって、エアバッグ32が膨張展開している期間においても、取付部82が開放片353に覆われ、エアバッグ32が取付部82に直接に当たることを、抑制できる。換言すれば、エアバッグ32が膨張展開し終わるまで、開放片353がエアバッグ32から取付部82を保護することができる。したがって、エアバッグ32と取付部82との間にエアバッグ32の展開による摩擦が発生することを防止でき、ひいては、取付部82が破損することを防止できる。
また、本実施の形態では、ラッピングクロス35を介して取付部82とエアバッグ32とが衝突するため、ラッピングクロス35は保護布としての機能を果たすので、取付部82によるエアバッグ32への損傷を防止することができる。
なお、本実施の形態とは異なって、開放片353と展開部862とが例えば互いに反対方向に開く場合、エアバッグ32が膨張展開する期間の初期には、開放片353が取付部82を覆うことができる。しかしながら、展開部862と開放片353とが開くにつれて、取付部82と開放片353とが互いに離れるので、取付部82が露出することになる。
一方で、本実施の形態では、開放片353と展開部862とが互いに同じ方向に開くので、エアバッグ32が膨張展開する期間のうち、比較的長い期間において、開放片353が取付部82を覆い続ける。つまり、比較的長い期間にわたってエアバッグ32を保護できるのである。
なお、開放片353は、エアバッグ32が膨張展開し始めてから膨張展開し終わるまでの期間に渡って、取付部82を完全に覆っていればよく、その限りにおいて、開放片353の形状、大きさおよび位置を、適宜に変更することができる。なお、ここでいう「取付部82を完全に覆う」とは、次の状態を言う。即ち、例えば一つの取付部82が設けられるときには、開放片353は、その一部ではなく全体を覆い、複数の取付部82が設けられるときには、開放片353は、複数の取付部82の全てを全体的に覆う。
<5−1.展開部のヒンジ部と、開放片のヒンジ部の位置関係A>
図7の例示では、展開部862のヒンジ部862aは延設部378に設けられている。なお、図7の例示では、ヒンジ部862aを二点差線で示している。開放片353を形成する破断予定線352の両端352a,352bは、ラッピングクロス35のうち、当該延設部378に対向する側部に設けられている。そして、この両端352a,352bは、ヒンジ部862aよりもステアリングホイール10側(紙面下側)に位置している。
これは、展開部862のヒンジ部862a側の部分に対して、エアバッグ32からの力を作用させるという点で望ましい。即ち、図13に示すように、開放片353が展開部862よりもステアリングホイール10側(紙面下方側)から開くことができるので、開放片353が展開部862のヒンジ部862a側の部分にも当たることができる。したがって、この部分にもエアバッグ32からの力を適切に作用させることができ、ひいては、展開部862を適切に開かせることができる。
<5−2.展開部のヒンジ部と、開放片のヒンジ部の位置関係B>
上述の例では、展開部862のヒンジ部862aは、カバー本体部37の延設部378に設けられ、開放片353を形成する破断予定線352の両端352a,352bは、ラッピングクロス35の側部に設けられている。ただし、これに限らず、展開部862のヒンジ部862aが、カバー本体部37のうち、運転手と対面する表面部に設けられ(図3参照)、開放片353を形成する破断予定線352の両端352a,352bが、ラッピングクロス35のうち、当該表面部と対面する中央部354に設けられていても良い。この場合、図14に示すように、開放片353を形成する破断予定線352の両端352a,352bは、展開部862のヒンジ部862aよりも、展開部862と反対側に位置することが望ましい。言い換えれば、展開部862のヒンジ部862aよりも、カバー本体部37の外周側に位置することが望ましい。
これにより、エアバッグ32の膨張展開の際に、開放片353が、展開部862のヒンジ部862a側の部分にも当ることができるので、エアバッグ32からの力を、展開部862のヒンジ部862a側の部分まで適切に作用させることができる。これにより、展開部862を適切に開くことができる。
<6.開放片の形状>
図3,7の例示では、上述のように、非展開部882は、展開部862,863を形成するためのティアライン843,8422によって形成されており、展開部862,863と隣接している。非展開部884は、展開部862,866を形成するためのティアライン844,8426によって形成されており、展開部862,866と隣接している。これらの非展開部882,884は、展開部862の両側に形成されている。
図14に示すように、展開部862および開放片353が開いた状態において、開放片353のうち、非展開部882,884の間に位置する第1部分の幅W1は、非展開部882,884の間の間隔(即ち、展開部862の幅)W2よりも狭い。これにより、エアバッグ32の膨張展開の際に、開放片353が非展開部882,884に引っ掛かること、或いは、非展開部882,884の周縁部に当接することを、回避できる。仮に、開放片353が非展開部882,884に引っ掛かったり、非展開部882,884の周縁部に当接すると、摩擦等により、展開部862に作用するエアバッグ32からの力を低減させるところ、このような低減を回避することができるのである。言い換えれば、エアバッグ32からの力を効率よく展開部862に作用させることができる。
一方で、開放片353のうち、取付部82と当接する部分(以下、先端側部分とも呼ぶ)の幅W3は、幅W1よりも広くても構わない。これにより、取付部82を覆いやすく、より確実に取付部82からエアバッグ32を保護することができる。
なお、図14の例示とは異なって図15に示すように、開放片353の先端側部分の幅W3は、展開部862のうち取付部82が設けられた部分の幅W2よりも広くても構わない。これにより、エアバッグ32の膨張展開の際に、開放片353が若干ずれたとしても、取付部82を覆うことができる。
また、図10の例示では、展開部862の両側には展開部863,866が存在するので、仮に、開放片353の先端側部分の幅が、展開部862の幅よりも多少広くても、展開部863,866に引っ掛かったり、当接したりしない。ここで、図10の例示とは異なって、展開部863,866に相当する部分が、非展開部である場合についても考慮する。図15は、エアバッグ32が膨張展開したときの、カバー36と開放片353の一例を模式的に示している。
図15では、開放片353の幅W1が展開部862の幅W2よりも狭く、その一方で、開放片353の先端側部分の幅W3は、展開部862の幅W2よりも広い。しかるに、図15に示すように、開放片353の先端側部分は非展開部の間を通り抜けることができる。つまり、この先端側部分が非展開部の間を通り抜けるときに、非展開部の周縁部に接触して摩擦の影響があるものの、常にこの非展開部に当接し続けるわけではない。よって、問題になりにくい。他方、図15の例示とは異なって、開放片353の幅W1が展開部862の幅W2よりも広いと、開放片353の第1部分が非展開部の周縁部に接触し続ける。よってここでは、幅W1を幅W2よりも狭くし、開放片353が展開部862と一緒に展開することができ、エアバッグからの力を効率的に展開部862へと作用させることができる。
また図15の例示では、少なくとも取付部82側において、開放片353が展開部862を覆っている。言い換えれば、少なくとも取付部82側において、破断予定線352は、ティアライン842よりも外方に位置している。これにより、エアバッグ32の膨張展開の際に、開放片353が若干ずれたとしても、取付部82を覆うことができる。
以上のようにこの発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。