JP6207063B2 - 能動型防振装置及び能動型防振方法 - Google Patents
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Description
《センサレス化》
電磁気アクチュエータを用いたセンサレス化手法に関する従来研究から、本研究が関連するセンサレス化の原理について簡便に説明する。図1は電磁気アクチュエータの機械的モデルを示し、図2はその電気等価回路を示す。図1に示すように、本例の能動型防振装置は、制振対象構造物1の振動を電磁気アクチュエータ2により抑制するものであり、電磁気アクチュエータ2は、図示する上下方向に振動する慣性マス21と、慣性マス21に対して固定されたコイル22と、制振対象構造物1に設けられたマグネット(永久磁石)23とを備える。ちなみに、図1に示す本例の能動型防振装置は本発明の一例であり、たとえばコイル22が制振対象構造物1側に固定され、マグネット23が慣性マス21側に固定された、コイル22とマグネット23が逆の構成の電磁気アクチュエータなど、種々の電磁気アクチュエータ2にも適用することができる。
本例の能動型防振装置では、モデルフリー制御を実現するため、アクチュエータモデルのみを用いたカルマンフィルタを設計し、状態量を推定する。つまり、制振対象構造物のモデルを用いることなく、アクチュエータモデルのみを用いたモデルフリーの制御方法を採用する。これにより制振対象構造物が変わる度に構造解析やシステム同定等をするための負荷が軽減される。
制振対象構造物に関してモデルフリーの振動抑制を実現させるためのLQR制御則(評価関数に2次形式を用いて線形な状態フィードバックを導き、状態を原点に戻す閉ループ系を構成する制御則)の設計を行う。このとき、上述したカルマンフィルタのモデルを用いて設計することが考えられるが、モデルフリー制御において対象構造物の自由度を考えておらず、式7と式8より、アクチュエータの対象構造物への取り付け点に制御入力が作用しないため、このまま適用すると制御不能になる。
本実施形態では、センサレス・モデルフリーであって、且つ広範囲でロバスト安定性を有する制振制御を実現するために、上述したとおりカルマンフィルタを導入するとともに、上述したとおりLQR制御則を導出した。これらを用いて制御系を構成すると図5のようになる。図5は、本発明の実施形態に係る制御系を示すブロック図である。同図において、P(s)は任意の制振対象構造物、zは評価応答で制振対象構造物の変位、yは観測出力で制振対象構造物に対するアクチュエータの相対速度、uはアクチュエータ2からの制御入力、wは外乱入力、KはLQR制御則によって得られた状態フィードバックゲインである。これにより、センサレス・モデルフリーのLQR制御が実現できる。
次に、1自由度系モデルの対象構造物にアクチュエータ2を取り付けたシステムに対し本手法を適用し、仮想構造物の導入による制振効果およびロバスト性との関係をシミュレーションにより評価する。シミュレーションに用いるモデルを図6、制振対象構造物およびアクチュエータの各パラメータを表1に示す。このシミュレーションでは図5に示す制御系を用いるが、上記《センサレス化》の項で説明したセルフセンシング手法の処理は行わず、アクチュエータとアクチュエータの制振対象構造物への取り付け点の相対速度をそのまま観測出力yに用いた。図6において、m1は制振対象構造物の質量,k1は制振対象構造物の剛性,c1は制振対象構造物の減衰係数,x1は制振対象構造物の変位をそれぞれ表す。また,wは質量m1に作用する外乱である。なお、上述したカルマンフィルタで精度の高い状態量推定を行うためには、アクチュエータの固有振動数は制振対象構造物のそれよりも十分に低くする必要があるため、この条件を満たすようにパラメータを設定した。
上述したとおり、仮想構造物を導入したLQR制御則を用いるためには、仮想構造物がシステムの動特性に大きな影響を与えないこと、制振対象構造物と仮想構造物の状態量がほぼ等価であることを満たす必要がある。よって、図7に示すモデルを考え、仮想構造物のパラメータを表2に示すものとしたとき、上記要件が共に満たされているかを確認した。まず、図7に示す仮想構造物を導入したLQR制御則による実施例と、図6に示す仮想構造物を導入しない比較例のアクチュエータと制振対象構造物のコンプライアンス(振動伝達レベル[dB]及び位相[deg])をそれぞれ図8(アクチュエータのコンプライアンス)および図9(制振対象構造物のコンプライアンス)に示す。また、仮想構造物を導入したLQR制御則による実施例の、仮想構造物と対象構造物のコンプライアンス(振動伝達レベル[dB]及び位相[deg])を図10に示す。なお、図8及び図9には、実施例を実線で比較例を点線で示すようにしたが、結果的に両者は重なり合ったものとなった。また図10には仮想構造物を実線で制振対象物を点線で示すようにしたが、これについても結果的に両者は重なり合ったものとなった。
次に、表3のパラメータを用いてカルマンフィルタ及びLQR制御則による制御系を設計した。このときの制振対象構造物のコンプライアンスを図11に示し、カルマンフィルタにより推定された制振対象構造物のコンプライアンスを図12に示す。図11において、w/o controlの点線はアクチュエータを作動させない場合の振動伝達レベル(dB)を示し、with controlの実線はアクチュエータを作動させた場合の振動伝達レベル(dB)を示す。また図12において、Controlled responseの点線は計算値、estimated controlled responseの実線はカルマンフィルタによる推定値をそれぞれ示す。
ロバスト安定性評価として、制御系設計に用いるアクチュエータパラメータおよび観測出力に対し、それぞれの誤差が−100%〜+1000%となる範囲で独立に変動を与えたときの安定性を調べ、従来技術の疑似DVFB制御則を適用した場合との比較を行った。この評価を行うため、表4に示すパラメータを用いて制御系の設計を行った。このパラメータは、図13に示すように、LQR制御則と疑似DVFB制御則による制振効果がほぼ同一のものとなるように設定したものである。なお図13において、LQR制御則による制振効果を実線で示し、疑似DVFB制御則による制振効果を点線で示すようにしたが、結果的に両者は重なり合ったものとなった。また図13において一点鎖線はアクチュエータを作動させない場合の振動伝達レベル(dB)を示す。
有限要素モデルに対し本制御手法を適用する。有限要素モデルの解析にはANSYS14.0を使用した。制振対象構造物は、図14に示すような幅200mm×厚さ20mm×長さ300mmの平板とし、拘束条件は片端固定、要素タイプはSOLID186、メッシュサイズは10mmとした。そして、物性値はヤング率70GPa,ポアソン比0.3,質量密度2680kg/m3とした。対象構造物のメッシュ分割図を図15に示す。シミュレーションにおいて、アクチュエータの取り付け点、加振点、応答点を全て図14中の点Pとし、採用モード数を6,全モードのモード減衰比を0.5%とした。なお、このシミュレーションにおいてアクチュエータはy方向にのみ力を発生するものとする。
以上のとおり、本例のLQG制御則に基づくセルフセンシング・モデルフリー振動制御手法の有効性は、シミュレーションによって確認できた。すなわち、セルフセンシングかつ制振制御対象に関してモデルフリーの振動抑制を実現するために、制振対象構造物のモデルを用いずに、アクチュエータシステムに対するカルマンフィルタおよびLQR制御則を設計し、制御系を構築した。そして、1自由度系に対し本制御手法を適用し、有効な制振効果が得られることを確認した。次に、LQR制御則を用いた場合と疑似DVFB制御則を用いた場合とでロバスト性の比較を行い、LQR制御則のロバスト性の高さを確認した。最後に、FEMにより作成した多自由度系モデルに対し本制御手法を適用し、同様に有効な制振効果が得られることを確認した。
2…アクチュエータ
21…慣性マス
22…コイル
23…マグネット
Claims (9)
- 慣性マスを含むアクチュエータと、
前記アクチュエータと制振対象構造物との間の相対振動を検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段により検出される相対振動と前記アクチュエータへの出力値とが入力され、前記アクチュエータと前記制振対象構造物との取り付け点の状態量を推定するカルマンフィルタと、当該カルマンフィルタの出力値が入力される線形2次レギュレータとを含む制御手段と、を備える能動型防振装置において、
前記制御手段は、
前記アクチュエータと前記制振対象構造物との取り付け点に、前記アクチュエータの振動に影響を与えない演算上の、質量mν,剛性kν,減衰係数cνを有する仮想構造物が存在するものとして前記線形2次レギュレータを設計し、前記カルマンフィルタで推定された状態量を、仮想構造物への取り付け点を含めたアクチュエータの状態量とし、前記線形2次レギュレータ制御則により算出された制御力をアクチュエータで発生させる能動型防振装置。 - 前記仮想構造物の質量mν、剛性kν、減衰係数cνは、対象とする周波数帯域において前記仮想構造物の変位xνと前記アクチュエータの制振対象構造物への取り付け点の変位x1がほぼ等しくなるように設定される請求項1に記載の能動型防振装置。
- 前記アクチュエータは電磁気アクチュエータからなり、
前記振動検出手段は、前記電磁気アクチュエータのコイルとマグネットとの間の相対振動を、前記電磁気アクチュエータに加わる電圧と、前記電磁気アクチュエータに流れる電流と、前記コイルのインピーダンスとから検出し、この相対振動を前記アクチュエータと制振対象構造物との間の相対振動として出力する請求項1又は2に記載の能動型防振装置。 - 前記仮想構造物の共振周波数は、制振対象とする周波数領域に存在しない請求項1〜3のいずれか一項に記載の能動型防振装置。
- 前記仮想構造物の質量mν,剛性kν,減衰係数cνは、前記アクチュエータの振動特性が前記仮想構造物の有無に拘わらず一致する値に設定される請求項1〜4のいずれか一項に記載の能動型防振装置。
- 前記仮想構造物の質量mνは、前記アクチュエータの質量m0及び前記制振対象構造物の質量m1に対して小さい値に設定される請求項1〜5のいずれか一項に記載の能動型防振装置。
- 前記仮想構造物の剛性kνは、前記アクチュエータの剛性k0及び前記制振対象構造物の剛性k1に対して大きい値に設定される請求項1〜6のいずれか一項に記載の能動型防振装置。
- 前記仮想構造物の減衰係数cνは、前記アクチュエータの減衰係数c0及び前記制振対象構造物の減衰係数c1に対して小さい値に設定される請求項1〜7のいずれか一項に記載の能動型防振装置。
- 電磁アクチュエータのコイルとマグネットとの間の相対振動を、前記電磁気アクチュエータに加わる電圧と、前記電磁気アクチュエータに流れる電流と、前記コイルのインピーダンスとから検出するアクチュエータのセルフセンシング機能と、
アクチュエータモデルのみで構築されたカルマンフィルタと、を用いて制振対象構造物への取り付け点を含めたアクチュエータの状態量を推定するステップと、
前記ステップで推定された状態量を用いて線形2次レギュレータ制御則により算出した制御力をアクチュエータから制振対象構造物に作用させるステップと、を有する能動型防振方法において、
前記アクチュエータと前記制振対象構造物との取り付け点に、質量mν,剛性kν,減衰係数cνを有する演算上の仮想構造物が存在するものとし、
この場合のアクチュエータの振動特性が、実際のアクチュエータの振動特性に対して、対象とする周波数帯域において前記仮想構造物の変位xνと前記アクチュエータの制振対象構造物への取り付け点の変位x1がほぼ等しくなるような前記質量mν,剛性kν,減衰係数cνの値を用いて前記線形2次レギュレータを設計し、
前記カルマンフィルタで推定された状態量を、仮想構造物への取り付け点を含めたアクチュエータの状態量とし、前記線形2次レギュレータ制御則により前記制御力を算出する能動型防振方法。
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