JP6181537B2 - 燃料油基材、該燃料油基材を含む燃料油組成物、及びジェット燃料組成物 - Google Patents
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しかし、FAMEには、実用上の問題点が指摘されている。例えば、FAMEは、二重結合を有する。二重結合は、酸化安定性と低温流動性に影響する。二重結合の量が多いと酸化安定性が低下し、二重結合の量が少ないと低温流動性が悪化する。このため、酸化安定性と低温流動性とを両立するように、二重結合量を調整することは難しい。
また、FAMEは、一般的なディーゼル燃料よりも重質な成分が多いため、燃え切り性が悪く、燃費の悪化や燃焼時の未燃炭化水素の排出を増加させる懸念があった。更にまた、FAMEは、含酸素化合物であるため、燃焼機関に用いられる金属やゴムなどの部材を劣化させたり、燃焼時にアルデヒド類の排出を増加させたりする懸念があった。
バイオマス燃料としては、FAMEのほかに、トリグリセリド構造を有する動植物油脂を、脱酸素処理、異性化処理、及び水素化処理して得られる水素化処理軽油(HBD:Hydrogenated Biodiesel)が提案されている。
HBDもまた、いくつかの問題点が指摘されている。例えば、HBDは、一般的なディーゼル燃料よりも密度が小さいため、燃費が悪く、潤滑性も劣る。また、低温における流動性を確保するために、異性化処理などが必要になることから、ライフサイクル全体でみたとき、完全なカーボンニュートラルを達成することが難しい。
このように、バイオマス燃料を現行の燃料油の原料として使用できる比率が高まれば、二酸化炭素排出量の削減には、一層有益である。そこで、近年では、上述した問題点の一部の改良が進められている(特許文献1〜5参照)。
ところが、FAME、HBDなどの現行のバイオマス燃料には、依然として課題が多く残されているため、普及のためには、バイオマス燃料には更なる改善が求められている。
[1]テトラリン、ノルマルウンデカン、及びノルマルテトラデカンから選ばれる1以上の化合物を燃料油基材の全質量に対して80容量%以上含む燃料油基材、
[2] 前記燃料油基材のJIS K 2254(燃料油蒸留試験方法)に準拠して測定した蒸留性状において、10容量%留出温度が205℃以下であり、留出終点が300℃以下である[1]に記載の燃料油基材、
[3] 前記テトラリン、ノルマルウンデカン、及びノルマルテトラデカンのうち前記テトラリンが、燃料油基材の全容量に対して、10%容量%以上55容量%以下含まれる[1]又は[2]に記載の燃料油基材、
[4] 前記テトラリン、ノルマルウンデカン、及びノルマルテトラデカンのうち前記ノルマルウンデカンが、燃料油基材の全容量に対して30容量%以上70容量%以下含まれる[1]から[3]のいずれかに記載の燃料油基材、
[5] 前記ノルマルウンデカンと前記テトラリンとの比率が、0.5<ノルマルウンデカン(容量%)/テトラリン(容量%)<8である[1]〜[4]のいずれかに記載の燃料油基材、
[6] 前記燃料油基材の15℃における密度が0.810g/cm3以上0.860g/cm3以下で、析出点が−30.0℃以下である[1]〜[5]のいずれかに記載の燃料油基材、
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載の燃料油基材を、燃料油組成物全容量に対して1容量%以上40容量%以下含み、析出点が−47.0℃以下であり、アロマ分が25容量%以下である燃料油組成物、
[8] 燃料油基材がジェット燃料基材である[1]〜[6]のいずれかに記載の燃料油基材、
[9] 燃料油組成物がジェット燃料組成物である[7]に記載の燃料油組成物、
を提供する。
本発明の実施形態に係る燃料油基材は、テトラリン、ノルマルウンデカン、及びノルマルテトラデカンから選ばれる1以上の化合物を燃料油基材の全容量に対して80容量%以上含む。
燃料油基材におけるテトラリン、ノルマルウンデカン及びノルマルテトラデカンが80容量%未満であると、十分な発熱量が得られるような密度を得ることができず、十分な酸化安定性を得ることができない。上記観点から、テトラリン、ノルマルウンデカン及びノルマルテトラデカンの合計は、燃料油基材の全質量に対して90容量%以上であることが好ましい。
また、燃料油基材には、テトラリン、ノルマルウンデカン、及びノルマルテトラデカンのうちノルマルウンデカンが、燃料油基材の全容量に対して、30容量%以上70容量%以下含まれることが好ましい。ノルマルウンデカンの配合量がこの範囲であると、煙点が良好となる。70容量%を超えると、煙点が高くなり、発熱量が低下する。この観点から、より好ましくは、35容量%以上65容量%以下である。
さらに、ノルマルウンデカンとテトラリンとの比率は、0.5<ノルマルウンデカン(容量%)/テトラリン(容量%)<8となることが好ましい。この範囲ならば、発熱量、酸化安定性、低温性能、煙点のバランスがよくなる。
また、燃料油基材には、テトラリン、ノルマルウンデカン及びノルマルテトラデカンの残部として、テトラリン、ノルマルウンデカン及びノルマルテトラデカン以外の成分が含まれていてもよい。
なお、15℃における密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される値である。
また、真発熱量は、JIS K 2279「原油及び石油製品―発熱量試験方法及び計算による推定方法」により測定または算出される値である。
真発熱量は、34.2MJ/L以上であることが好ましく、35.0MJ/L以上であることがより好ましい。
燃料油基材の析出点は、−30.0℃以下であることが好ましい。また、燃料油基材のアロマ分は、60容量%以下であることが好ましい。
なお、析出点は、JIS K 2276 「析出点試験方法(航空燃料油)」に準拠して測定される値である。また、アロマ分は、JIS K 2536 「燃料油炭化水素成分試験法(けい光指示薬吸着法)」に準拠して測定される値である。
本発明の燃料油基材は、カシューナッツ殻から抽出された油分(カシューナットシェルオイルという)を原料油として、この原料油を水素化処理触媒によって水素化処理することにより製造することができる。
カシューナットシェルオイルには、アナカルド酸、カルドール、及びカルダノールから選ばれる少なくとも1つの化合物が含まれる。カシューナットシェルオイルは、事前に熱処理を施すことにより、アナカルド酸を分解することが好ましい。この熱処理したカシューナットシェルオイルには、カシューナットシェルオイル全質量に対して、アナカルド酸0質量%以上10.0質量%以下、カルドール0質量%以上25.0質量%以下、及びカルダノール65.0質量%以上100質量%以下が含まれることが好ましい。
また、カシューナットシェルオイルに限らず、炭素数15以上のアルキル基が結合したアルキルベンゼン化合物、あるいは炭素数15以上のアルキル基が結合したフェノール化合物を40質量%以上含むバイオマスであれば本発明の燃料油基材を得るのに有利である。
水素化処理触媒を構成する担体を構成する混合物としては、アルミナを含有する多孔質無機酸化物が使用できる。
水素化処理触媒を構成する活性成分としては、周期表第6族の金属元素から選ばれた少なくとも1種、周期表第9族の金属元素から選ばれた少なくとも1種、及び第10族の金属元素から選ばれた少なくとも1種のうちから選ばれた活性金属が挙げられる。
周期表第6族の活性成分としては、好ましくは、モリブデン、タングステンである。これら活性成分を担体上に担持するモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム等が好ましく、タングステン化合物としては、三酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム等が好ましい。
周期表第9族及び10族の活性成分としては、コバルト、ニッケルである。これら活性成分を担体上に担持する有効なコバルト化合物としては、炭酸コバルト、塩基性炭酸コバルト、硝酸コバルト等が好ましく、ニッケル化合物としては、炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、硝酸ニッケル等が好ましい。第9族と第10族の金属元素の担持量は、酸化物換算で該水素化処理触媒の全質量比で2%以上5%以下であることが好ましい。
上述した活性成分のなかでは、ニッケルとモリブデンとを組み合わせたニッケルモリブデン系触媒が好ましい。また、上述の水素化処理触媒を、水素雰囲気下で、300〜400℃で、1〜36時間、水素還元処理して使用することが好ましい。
上述した水素化処理触媒を用いて、原料油を水素化処理する際の反応条件としては、処理温度:300〜420℃、原料油流量(LHSV):0.5〜2.0h-1、水素/原料油比:500〜2400NL/Lとすることが好ましい。
この水素化処理条件により、原料油であるカシューナットシェルオイルに含まれるアナカルド酸、カルドール、及びカルダノールなどの化合物から、テトラリン、ノルマルウンデカン及びノルマルテトラデカンが得られる。また、水素化処理後、必要に応じて蒸留することにより、必要とする燃料油基材を得ることができる。
本発明の実施形態に係る燃料油組成物は、上述した燃料油基材に、必要に応じて、石油系留分を適宜比率で添加して製造される。燃料油基材は、燃料油組成物全容量に対して1容量%以上40容量%以下含まれ、燃料油組成物の析出点は、−47.0℃以下であり、アロマ分が25容量%以下である。
燃料油基材は、好ましくは3容量%以上40容量%以下含まれ、さらに好ましくは5容量%以上30容量%以下含まれる。残部には、石油系留分、燃料油組成物に適用可能な添加剤などが含まれていてもよい。
なお、15℃における密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される値である。
上述した性状を満足する燃料油組成物は、特にジェット燃料組成物として有用である。
[評価方法]
原料油(カシューナッツ殻から抽出された油分)から燃料油基材を生成した。続いて、生成された燃料油基材を用いて燃料油組成物を調製した。得られた燃料油組成物の性状を次の方法により評価した。
<15℃における密度>
燃料油基材及び燃料油組成物の15℃における密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度である。
<析出点>
JIS K 2276 「析出点試験方法(航空燃料油)」に準拠して測定した。
<煙点>
JIS K 2537に準拠して測定した。
<引火点>
(1)JIS K 2265の1(タグ密閉式)
(2)JIS K 2265の3(ペンスキーマルテンス密閉式引火点試験方法)
60℃以下は試験法(1)に従って測定し、60℃以上は試験法(2)に従って測定した。
<蒸留性状>
蒸留試験:JIS K 2254(燃料油蒸留試験方法)に準拠して測定した。
<テトラリン、ノルマルウンデカン、及びノルマルテトラデカンの同定及び定量>
テトラリン、ノルマルウンデカン、及びノルマルテトラデカンは、7890A GC System(Agilent Technologies)を用い、下記条件にて同定(GC−MS)及び定量(GC−FID)を行った。
カラム:VF−5ms(Agilent Technologies)GC−MS測定
注入口温度:300℃
オーブン温度:300℃(40℃から6℃/minで昇温)
キャリアガス:He
注入量:0.1μl
<アロマ分>
JIS K 2536 「燃料油炭化水素成分試験法(けい光指示薬吸着法)」に準拠して測定した。
<酸化安定度>
燃料油基材及び燃料油組成物の酸化安定度は、PetroOXY試験により測定される誘導期間で表した。誘導期間とは、試料5mlに所定量の酸素を封入し、140℃まで上昇させて、初期圧力が10%低下するまでの時間である。80分以上であれば、良好、80分未満は不可とした。
<真発熱量>
真発熱量は、JIS K 2279「原油及び石油製品―発熱量試験方法及び計算による推定方法」により測定または算出される値である。
真発熱量35.0MJ/L以上を「優」、34.2MJ/L以上34.9MJ/L以下を「良」、34.2MJ/L未満を「不可」とした。
<製造例1>
高圧固定床流通式のベンチスケール反応器(全長500mm)の中央部分に5ccの水素化処理触媒を充填し、入口側と出口側とを石英ウールで挟み、触媒が充填された部分以外をセラミックボールで満たし、開口端に石英ウールを配置し、A〜Dの反応管を形成した。
原料油としてカシューナッツ殻から抽出され熱処理された油分(カシューナットシェルオイル、カシュー株式会社製、商品名「CX−1000」)を用いた。触媒には、市販の水素化処理触媒を用いて、16〜32メッシュに整粒し、水素雰囲気中にて、360℃、24時間の水素還元処理を施したものを用いた。水素化処理は、以下の反応条件で実施し、沸点190〜250℃の留分を蒸留にて分離し、燃料油基材を得た。
(水素化処理反応条件)
・処理温度:400℃
・原料油流量(LHSV):0.5h-1
・水素/原料油比:2200NL/L
製造例1により製造された燃料基材に、石油系ジェット燃料を調合して、実施例2〜3の燃料油組成物を製造した。実施例1の燃料油基材は、製造例1により製造された燃料油基材100容量%であり、実施例2の燃料油組成物は、石油系ジェット燃料を90容量%、製造例1により製造された燃料油基材を10容量%含み、実施例3の燃料油組成物は、石油系ジェット燃料を80容量%、燃料油基材を20容量%含む。なお、参考例1は、汎用の石油系ジェット燃料である。
実施例1〜3,比較例1〜7の組成物を上述の評価方法により特性を評価した。評価結果を第1表に示す。
*1:石油系ジェット燃料(ASTMD−1655 JetA−1)
*2:製造例1で製造した燃料油基材
この燃料油基材は、カシューナットシェルオイルを水素化処理して得たものであり、この燃料油基材全容量に対して、テトラリン39容量%、ノルマルウンデカン51容量%、ノルマルテトラデカン10容量%が含まれるものである。
*3:水素化バイオディーゼル油
*4:脂肪酸メチルエステル油
*5:合成燃料(GTL)
比較例1、3は、酸化安定度は良好であるが発熱量が低い。比較例2は、発熱量は高いが酸化安定度が低い。これに対して、実施例1は、酸化安定度が良好で、発熱量も高い燃料油基材であり、特にジェット燃料基材として有用であるといえる。
(燃料油組成物について)
比較例5、7は、酸化安定度は良好であるが発熱量が低い。比較例6は、発熱量は良好であるが酸化安定度がやや劣る。比較例4は、酸化安定度及び発熱量がともに優れているがアロマ分が25容量%を超えている。これに対して、実施例2,3の燃料油組成物は、酸化度及び発熱量ともに優れており、特にジェット燃料組成物として有用であることがわかる。
以上より、本発明に係る燃料油基材は、酸化安定性及び発熱量に優れる燃料油基材、特にジェット燃料基材として有用であるといえる。
Claims (8)
- テトラリン、ノルマルウンデカン、及びノルマルテトラデカンから選ばれる1以上の化合物を燃料油基材の全容量に対して80容量%以上含み、
前記ノルマルウンデカンと前記テトラリンとの比率が、0.5<ノルマルウンデカン(容量%)/テトラリン(容量%)<8である、燃料油基材。 - 前記燃料油基材のJIS K 2254(燃料油蒸留試験方法)に準拠して測定した蒸留性状において、10容量%留出温度が205℃以下であり、留出終点が300℃以下である請求項1に記載の燃料油基材。
- 前記テトラリン、ノルマルウンデカン、及びノルマルテトラデカンのうち前記テトラリンが、燃料油基材の全容量に対して、10%容量%以上55容量%以下含まれる請求項1又は2に記載の燃料油基材。
- 前記テトラリン、ノルマルウンデカン、及びノルマルテトラデカンのうち前記ノルマルウンデカンが、燃料油基材の全容量に対して30容量%以上70容量%以下含まれる請求項1〜3のいずれかに記載の燃料油基材。
- 前記燃料油基材の15℃における密度が0.810g/cm3以上0.860g/cm3以下、析出点が−30.0℃以下である請求項1〜4のいずれかに記載の燃料油基材。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の燃料油基材を、燃料油組成物全容量に対して1容量%以上40容量%以下含み、析出点が−47.0℃以下であり、アロマ分が25容量%以下である燃料油組成物。
- 燃料油基材がジェット燃料基材である請求項1〜5のいずれかに記載の燃料油基材。
- 燃料油組成物がジェット燃料組成物である請求項6に記載の燃料油組成物。
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