JP6176741B2 - 乳腺疾患の検査方法 - Google Patents

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Description

関連出願の相互参照
本出願は、2012年7月12日出願の日本特願2012−156163号の優先権を主張し、その全記載は、ここに開示として援用される。
本発明は、被験体の乳房または乳分房における乳房炎などの乳腺疾患を検査する方法に関する。
ウシの乳房は、厚い中央提靱帯により左右および薄い隔壁により前後に分けられ、独立した分房となっている。ウシの乳房は多数の乳腺胞から成り、乳腺胞の乳腺側には単層の乳腺上皮細胞が配列する。健康な乳牛の乳腺上皮細胞は、タイトジャンクション等の細胞間接着因子で強固に結合している。乳腺上皮細胞は層を形成し、乳腺の内外を隔てる物理的なバリア機能を果たす。乳腺上皮細胞層があるために、血液から乳へ、または乳から血液へといった、物質の乳−血液間の相互流入は妨げられる。
乳腺上皮細胞は、主として、(1)乳汁タンパク質および乳糖を合成し、これらを腺胞腔側から分泌する機能、(2)脂肪滴を腺胞腔側へ移送し、および腺胞腔に突出させることにより、乳脂肪の分泌を誘導する機能、および(3)血清アルブミンや免疫グロブリンを血中から乳へと移送する機能を担う。
一般に、生体内への病原微生物などの異物の侵入を防ぐ防御機構について、皮膚や粘膜上皮細胞が関与している。上皮細胞は病原体の侵入を物理的に防ぐことのみならず、上皮細胞が産生する乳酸、ムチン、リゾチーム、抗菌ペプチドなどにより、化学的に病原微生物の侵入や増殖を阻害する。これらの物理的または化学的バリアに加え、上皮細胞は様々なサイトカインを産生することによって、早期免疫反応の誘導にも関与している。
乳腺上皮細胞や乳汁における白血球の出現の変動は、乾乳期では抗体産生を誘導するCD4T細胞が体勢を占めるが、泌乳期には細胞障害性のγδT細胞およびCD8T細胞が主となる。それに対して、液性免疫に携わるB細胞や抗体産生細胞はほとんど存在しない(下記の非特許文献1〜3を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。感染した上皮細胞を除去する機構には、マクロファージ(Mφ)、樹状細胞(DC)および顆粒球などが関与している。これらの貪食細胞に加えて、γδT細胞、CD8T細胞が関与した細胞性免疫が、泌乳期に主体的に機能するという報告がある(下記の非特許文献4を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。したがって、B細胞によるIgA産生が直ちに行われる腸管などの粘膜免疫とは異なり、乳腺上皮の免疫機構については自然免疫が着目されている(下記の非特許文献5および6を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。
乳房炎は、乳房内に病原体が侵入して起こる炎症性の疾病である。乳頭孔から細菌、カビ、酵母などの微生物が侵入することにより、乳腺内で炎症が生じ乳房炎が発生する。乳房炎を発症した乳分房は、正常乳分房と比較すると、全体的に肥大し組織が破壊されている。乳房炎の症状として、(1)免疫細胞の動員による乳汁中の体細胞数の増加、および(2)間質肥大や乳腺胞の萎縮に伴う乳量および乳質の低下がある。乳房炎に罹患した個体は、これらに加えて、食欲不振や下痢などの全身症状を起こし、死に至ることさえある。
乳房炎は、臨床型乳房炎と、臨床症状を示さずに乳汁中体細胞数などが増加する潜在性乳房炎とに大別される。乳房炎被害額の約8割を潜在性乳房炎が占めるとされている。グラム陰性菌である大腸菌は重篤な炎症を引き起こして臨床型乳房炎を招くが、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性細菌はしばしば潜在性乳房炎を引き起こす。潜在性乳房炎は、臨床の発現化の頻度が比較的小さいことから発見・治療が困難であり、気付かないうちに個体群に広がるという問題がある。また症状が進行し、臨床化する場合もある。
乳房炎の主な治療方法は抗生剤の投与である。しかし、黄色ブドウ球菌による乳房炎は、一部の黄色ブドウ球菌は抗生物質に対して耐性があり、乳腺内に微小膿瘍を形成することから、一般的に抗生剤による治癒が困難であるとされている。
抗生剤は、感染を防ぐ上では治療上有効である。しかし、抗生剤の投与は対処療法であることから、乳腺組織の損傷を直接防ぐことはできない。その他の乳房炎の治療法としては、サイトカイン(GM−CSF、CXCL8、hIFN−α)などの生理活性物質や抗菌作用のもつ天然物質(ステビア抽出発酵エキス、ディフェンシン、ビムロン)を使用した治療法が試みられている。
乳房炎の診断方法には、乳汁中の白血球数による凝集および変性によりもたらされるpHと粘性の変化を指標としたPLテストが採用されている。また、乳腺内に進入した病原菌に対して乳汁中に放出される免疫細胞数を指標とする体細胞数検査法がある。さらに、体細胞数検査法を応用して、体細胞が活動するときに現れる微弱な電位を光として検知して指標にする方法、すなわち化学発光能(Chemical Luminescence:CL能)測定法が知られている(下記の非特許文献14を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。CL能測定法は、好中球の活性酸素放出量を化学発光により測定することを測定原理とする。また、乳房炎では、乳汁中の細菌に反応したリンパ球などの免疫細胞が乳汁中に浸潤することに起因する、乳汁中のリンパ球サブセットの変動の事例がいくつか報告されている(下記の非特許文献8および9を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。
炎症の免疫応答において、白血球遊走や供給は、炎症において宿主の免疫学的監視において重要な役割を担う。白血球遊走とは、炎症時に分泌されるケモカイン、サイトカイン、生理活性脂質などの遊走因子の刺激を受けた白血球が、血管内から組織内に浸潤し、炎症部位へ移動および集積する現象をいう。白血球遊走の制御因子としては種々のものが知られており、主として走行因子サイトカインファミリーであるケモカインが知られている。その他の因子として、走行性因子の一つであるシクロフィリンがある。シクロフィリンは原核生物および真核生物を含むあらゆる生物の全ての細胞内で発現している。シクロフィリンは一般的に細胞内タンパク質であり、タンパク質のフォールディングに関与する因子であるペプチジル−プロリル・シス−トランス・イソメラーゼ活性を有し、FK−506結合型タンパク質として知られている。シクロフィリンは主に2つあり、18kDaのシクロフィリンA(CyPA)および21kDaのシクロフィリンB(CyPB)である。シクロフィリンAはシグナル配列を持たない細胞質タンパク質であり、シクロフィリンBはN末端シグナル配列で小胞体と繋がっている(下記の非特許文献10を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。
CyPAは最も存在量の多いシクロフィリンで、総細胞内タンパク質の約0.1〜0.4%の量を占めるとされており、免疫抑制剤であるシクロスポリンAの細胞内結合因子に属するタンパク質群の一員として知られている(下記の非特許文献11および12を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。また、炎症発症中では、CyPAは死細胞および生細胞から放出および分泌され、細胞外でも機能する(下記の非特許文献13〜16を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。特に細胞外に分泌されたCyPAは、単球、好酸球、好中球およびT−リンパ球などの白血球サブセットの遊走を起こす(下記の非特許文献13、17および18を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。敗血症、リウマチ、関節炎、肺炎、動脈瘤などの疾患において、CyPAの上昇が報告されている(下記の非特許文献19および20を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。リウマチでは、CyPA量と好中球数との間に相関性があるという報告がある(下記の非特許文献21を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。同様に、肺炎や動脈瘤などにおいては肺上皮細胞や血管内皮細胞においてCyPAが発現し、分泌されている。細胞外CyPAは、ヒトの単球、好中球、好酸球およびT細胞に対する強力な走行性因子であるという報告もある(下記の非特許文献21を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。CyPAは、生体内に細菌などが侵入する際、好中球の動員などの急性炎症反応により放出されることから、炎症を誘起する可能性があるという報告がある(下記の非特許文献11を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。
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家畜の乳房炎、特に乳牛の乳房炎は経済的損失が大きい。乳量の低下や抗生物質などの治療費の増大のみならず、乳房炎の進行に伴う感染牛の廃用や死亡などが要因となる。乳房炎は世界的に共通して家畜の最難治疾病の一つとされており、乳房炎に起因する経済的損失は日本では年間800億円、アメリカでは年間18億ドルを超えるとされている。さらに、乳房炎の治療の多くが抗生剤を用いた治療を中心に行われているところ、乳房炎の感染牛の生乳や食肉からメンシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されており、MRSAが食肉や牛乳を介してヒトに伝播していく可能性があるという問題がある。
したがって、乳房炎による経済的損失を最小限に抑えるためには、乳房炎の早期発見および早期治療が肝要であると考えられる。このうち、乳房炎の早期治療方法としては、抗生物質に代替してサイトカインや抗菌物質を含む天然物質を投与する方法が試みられている。しかし、これらは未だ研究段階にあり、臨床には活かされていない。さらに、乳房炎の早期治療を成し遂げるためには、乳腺における免疫応答の分子メカニズムの解明が必要である。しかし、その分子メカニズムは、未だ不明な部分が多い。したがって、乳腺における免疫応答の分子メカニズムが明らかにされていないことから、乳房炎の早期治療を成し遂げる障壁は非常に大きい。そこで、乳房炎の早期発見方法が望まれる。
しかし、現在の標準的な乳房炎の検出方法であるPLテストは、すでに変性が見られるような乳房炎の中後期の段階にある乳汁を検体として実施するものであることから、乳房炎の早期発見のための感度が欠けている。そこで、乳房炎の早期発見方法としては、CL能測定法が有望とされている。しかし、CL能の測定には特殊な装置が必要であることから、CL能測定法は、経済性および困難性の観点から、各乳業農家が日常的に実施する方法としては適していない。したがって、これまでに各乳業農家が日常的に実施可能である程度の簡便かつ迅速な乳房炎の早期発見法については知られていない。
シクロフィリンAは総細胞内タンパク質の約0.1〜0.4%の量を占めるとされており、肺炎や動脈瘤などの炎症においては肺上皮細胞や血管内皮細胞における発現が報告されている。しかし、シクロフィリンAが炎症部位を特定するためのバイオマーカーとして使用されたという報告はない。
そこで、本発明は、従前の方法と比べて、簡便かつ迅速に乳房炎を早期に発見することに資する方法やバイオマーカーを提供することを、発明が解決しようとする課題とした。また、本発明は、該方法を使用するためのキット、該キットの成分および該成分の製造に供し得る物を提供することを、発明が解決しようとする課題とした。
本発明者らは、乳房炎の早期発見や早期治療を目指して、乳腺における免疫応答の分子メカニズムについて鋭意研究を進めた。その際に、種々の細胞および生体物質について着目しては棄却することを繰り返して試行錯誤した。たとえば、いくつかのケモカインやサイトカインに着目したが、乳房炎の早期発見や早期治療に結びつくものではなかった。本発明者らは、やがてシクロフィリンA(CyPA)に着目するに至った。
乳房炎を発症した乳腺上皮細胞におけるCyPAの発現やその可能性について、これまでに知られていなかった。しかし、本発明者らは、生体内の組織によっては、CyPAを産生する細胞が炎症発生時に白血球遊走因子としてCyPAを細胞外へ放出し、炎症部位へ免疫細胞を動員する役割を担い得ることに着目して、乳房炎とCyPAとの関係を調べれば、乳房炎の早期発見の手がかりになるのではないかと考えた。そこで、本発明者らは、まず免疫組織化学的手法を用いて、乳房炎を発症した乳腺組織においてCyPAの発現量を調べた。そして、驚くべきことに、乳房炎の発症の程度によって、CyPAの発現量が異なるという結果を得ることに成功した。次いで、本発明者らは、ウェスタンブロット法を用いて、乳房炎を発症した乳分房由来の乳汁におけるCyPAタンパク質の発現量を調べた。さらに驚くべきことに、乳汁中においても、乳房炎の発症の程度によって、CyPAの発現量が異なるという結果を得ることに成功した。これらの結果は、乳腺組織内や乳汁中におけるCyPAを測定すれば、乳房炎を発症している乳分房を特定することができることを示すものである。さらに、従前の乳房炎の乳分房を特定する方法であったPL法やCL能測定法との並行実験を実施することにより、これらの方法では特定し得ない乳房炎の初期段階にある乳分房を、乳房炎を発症した乳分房、または乳房炎を発症する可能性がある乳分房として特定することに成功した。本発明は、これらの知見や成功例に基づき、完成された発明である。
したがって、本発明によれば、乳腺または乳汁におけるシクロフィリンA量を指標とした、乳腺疾患の検査方法が提供される。
本発明の別の側面によれば、下記(1)および(2)の工程を含む、乳腺疾患の検査方法が提供される。
(1)被験体の乳房または乳分房から採取された乳汁におけるシクロフィリンAを検出することにより乳汁中のシクロフィリンA量を得る工程
(2)前記乳汁中のシクロフィリンA量に基づいて、被験体の乳房または乳分房における乳腺疾患の発症または乳腺疾患の発症可能性を判定する工程
好ましくは、本発明の方法において、前記工程(2)は、前記乳汁中のシクロフィリンA量が、健常な乳房または乳分房から採取した乳汁中のシクロフィリンA量よりも大きい場合に、被験体の乳房または乳分房において乳腺疾患が発症している、または乳腺疾患が発症する可能性があると判定する工程である。
好ましくは、本発明の方法において、前記工程(2)が、前記乳汁中のシクロフィリンA量が、健常な乳房または乳分房から採取した乳汁中のシクロフィリンA量の2倍以上である場合に、被験体の乳房または乳分房において乳腺疾患が発症している、または乳腺疾患が発症する可能性があると判定する工程である。
本発明の別の側面によれば、下記(1’)および(2’)の工程を含む、乳腺疾患の検査方法が提供される。
(1’)被験体の乳房または乳分房から採取された乳腺におけるシクロフィリンAを検出することにより乳腺中のシクロフィリンA量を得る工程
(2’)前記乳腺中のシクロフィリンA量に基づいて、被験体の乳房または乳分房における乳腺疾患の発症または乳腺疾患の発症可能性を判定する工程
好ましくは、本発明の方法において、前記工程(2’)は、前記乳腺中のシクロフィリンA量が、健常な乳房または乳分房から採取した乳腺組織中のシクロフィリンA量よりも大きい場合に、被験体の乳房または乳分房において乳腺疾患が発症している、または乳腺疾患が発症する可能性があると判定する工程である。
好ましくは、本発明の方法において、前記乳腺疾患が、感染性の乳腺疾患である。
好ましくは、本発明の方法において、前記乳腺疾患が、乳房炎である。
好ましくは、本発明の方法において、前記被験体が、ヒトまたは非ヒト動物である。
好ましくは、本発明の方法において、前記非ヒト動物が、ウシ、ヤギ、スイギュウ、ヤク、ヒツジ、ウマおよびラクダからなる群から選ばれる。
好ましくは、本発明の方法において、前記シクロフィリンAの検出が、ウェスタンブロット法、酵素結合免疫吸着測定法、酵素免疫測定法(EIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光偏光免疫測定法、化学発光免疫測定法、化学発光酵素免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、ELISPOT法、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、凝集イムノアッセイ、ラテックス凝集法およびクロマトグ
ラフィー法からなる群から選択される手法により実施される。
本発明の別の側面によれば、抗シクロフィリンA抗体からなる、乳腺疾患検査用試薬が提供される。
好ましくは、本発明の試薬において、前記抗シクロフィリンA抗体が、不溶性担体に固相化されている抗シクロフィリンA抗体である。
好ましくは、本発明の試薬において、前記不溶性担体が、ビーズ、プレートまたは薄膜である。
好ましくは、本発明の試薬において、前記乳腺疾患が、感染性の乳腺疾患である。
好ましくは、本発明の試薬において、前記乳腺疾患が、乳房炎である。
本発明の別の側面によれば、本発明の試薬を含む、乳腺疾患検査用キットが提供される。
本発明の別の側面によれば、抗シクロフィリンA抗体を産生する能力を有するハイブリドーマが提供される。
本発明の別の側面によれば、本発明のハイブリドーマによって生産される抗シクロフィリンA抗体が提供される。
本発明の別の側面によれば、シクロフィリンAからなる、乳腺疾患検出用マーカーが提供される。
好ましくは、本発明のマーカーにおいて、前記乳腺疾患が、感染性の乳腺疾患である。
好ましくは、本発明のマーカーにおいて、前記乳腺疾患が、乳房炎である。
本発明の方法によれば、乳汁または乳腺組織中のシクロフィリンAの発現量を指標とすることにより、従前の方法と比べて簡便かつ迅速に被験体における乳腺疾患の罹患部位を特定することができる。本発明の方法は、特に乳房炎の発症初期段階にある乳房または乳分房の特定に有用である。また本発明の方法は、非浸襲的方法であることから、乳房炎の予防にも応用できる可能性がある。
本発明の方法は、簡便かつ迅速に実施できる方法であることから、酪農場での実地測定が可能である。乳房炎は、早い時期に罹患判定ができれば、早期の搾乳停止、少量の抗生剤による治療開始、罹患期間の短縮、早期の搾乳再開などが可能となり、治療経費の抑制、搾乳量低下による収入の減少などの酪農家における経済的損失を最小限に抑えることができる。
乳牛は出産後1カ月時点が最も乳房炎に罹患し易く、その罹患率は約10%といわれている。乳牛における乳房炎の発症またはその可能性を早期に検出できれば、早期治療を開始できるばかりではなく、より迅速な廃用を検討でき、いずれにしても経済的損失を最小限に抑えることができる。よって、本発明の方法は、酪農産業全体の経済的損失を減少させることに資する方法である。
本発明のキットは本発明の方法を実施するためのキットであることから、本発明のキットを用いれば、被験体から採取した乳汁を遠心分離して得た乳清中のシクロフィリンAの存在量を抗原抗体反応により簡便かつ迅速に測定することができる。本発明のハイブリドーマおよび本発明の抗体は、本発明の方法や本発明のキットにおいて供される抗シクロフィリンA抗体を作製するためのもの、またはそれ自体のものである。したがって、本発明のハイブリドーマおよび本発明の抗体は、本発明の方法や本発明のキットを通じて、乳房炎の簡便かつ迅速な早期発見に資することができる。本発明のマーカーは、乳房炎の早期予測に優れたバイオマーカーである。
SEC投与実験的乳房炎区の正常なウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて、免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、ウシ正常乳腺組織では、乳腺胞が大きく間質は少ないことを示す。バーは、500μmである。 SEC投与実験的乳房炎区の正常なウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて、免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、乳腺胞は広く、乳腺上皮細胞は扁平であり、全てCyPAの発現が認められることを示す。バーは、100μmである。 SEC投与実験的乳房炎区の正常なウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて、免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、乳腺上皮細胞から乳汁を合成している細胞で、CyPA発現が弱く認められることを示す。バーは、100μmである。 SEC投与実験的乳房炎区の乳房炎が認められるウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、炎症が起きると、間質が肥大し免疫細胞の浸潤が多くなることを示す。バーは、500μmである。 SEC投与実験的乳房炎区の乳房炎が認められるウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、乳腺胞の萎縮に伴い異形の乳腺上皮細胞となり、CyPA発現が高いことを示す。バーは、100μmである。 SEC投与実験的乳房炎区の乳房炎が認められるウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、強い免疫細胞浸潤部位でCyPA発現がさらに高まること、および乳腺胞内乳汁中にCyPAが大量に分泌されていることを示す。バーは、100μmである。 S.A投与実験的乳房炎区の正常なウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、支持組織の肥大はあるが、免疫細胞浸潤部位が無いことを示す。バーは、500μmである。 S.A投与実験的乳房炎区の正常なウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、乳腺胞は広く,乳腺上皮細胞は扁平であることを示す。バーは、500μmである。 S.A投与実験的乳房炎区の正常なウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、乳腺上皮細胞の大部分がCyPAを発現し、分泌される乳汁でわずかにCyPA発現があることを示す。バーは、100μmである。 S.A投与実験的乳房炎区の乳房炎が認められるウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、炎症乳腺では支持組織の肥大および一部乳腺胞の萎縮があることを示す。バーは、500μmである。 S.A投与実験的乳房炎区の乳房炎が認められるウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、CyPA発現が確認される部位およびCyPA発現が少ない部位があることを示す。バーは、500μmである。 S.A投与実験的乳房炎区の乳房炎が認められるウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、CyPAが確認される部位では、乳腺上皮細胞、乳汁および免疫細胞浸潤部位でCyPAが発現していることを示す。バーは、100μmである。 S.A投与実験的乳房炎区の乳房炎が認められるウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、CyPA発現が少ない部位では、間質が肥大し乳腺胞の萎縮が確認されたこと、および乳腺上皮でわずかにCyPAが発現があることを示す。バーは、100μmである。 Lf投与による潜在性乳房炎区の正常なウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、間質が少なく乳腺胞は広いが、免疫細胞浸潤部位があることを示す。バーは、500μmである。 Lf投与による潜在性乳房炎区の正常なウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、扁平な乳腺上皮細胞ではCyPA発現が少なく、免疫細胞浸潤部位および浸潤細胞が見られる腺胞の乳腺上皮細胞でCyPA発現が高いことを示す。バーは、100μmである。 乳酸菌産生ペプチド投与した正常なウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、乳腺胞で萎縮している部位および萎縮していない部位があることを示す。バーは、500μmである。 乳酸菌産生ペプチド投与した正常なウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、乳腺胞が広く間質が少ない部位ではCyPAが発現していることを示す。バーは、100μmである。 乳酸菌産生ペプチド投与したウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、乳腺胞が萎縮し間質が肥大している部位ではCyPA発現は少ないこと、およびCyPAが間質にいる免疫細胞にて強く発現していることを示す。バーは、100μmである。 潜在性乳房炎にLfを投与したウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、間質が少なく乳腺胞は広いが免疫細胞浸潤部位が多く見られることを示す。バーは、500μmである。 潜在性乳房炎にLfを投与したウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、間質肥大があり、免疫細胞浸潤部位および浸潤していない部位でCyPA発現に違いがあることを示す。バーは、100μmである。 潜在性乳房炎にLfを投与したウシ乳腺について、乳腺実質部の乳腺組織の切片を作製し、抗CyPA(2H5−F3抗体)を用いて免疫染色を行うことによりCyPA発現の局在を示した図である。図は、免疫細胞の浸潤部位がある乳腺上皮細胞や異形上皮細胞(←)でCyPA発現が強いことを示す。バーは、100μmである。 還元処理の有無による表1における牛体番号81の乳清中タンパク質のCBB染色結果を示した図である。左部は、非還元処理による乳汁中タンパク質の解析結果を示し、右部は還元処理した乳汁中タンパク質の解析結果を示す。60kDa付近の矢印(→)は、炎症分房乳である解析番号9において、160kDaのEgGが還元処理により還元された様相を示す。50kDa付近の矢印(→)は、タンパク質を還元処理してもバンドの発現があることを示す。 表1における牛体番号81の試料を用いて、還元処理の有無による乳清中CyPAタンパク質についてウェスタンブロット法を用いて解析した結果を示した図である。図は、抗CyPA抗体を用いないときに還元処理に関係なく、2次抗体による非特異な反応が無いことを示す。 表1における牛体番号81の試料を用いて、還元処理の有無による乳清中CyPAタンパク質についてウェスタンブロット法を用いて解析した結果を示した図である。図は、非還元処理において炎症分房乳である解析番号9のみにCyPAを検出することができ、還元処理において大部分の乳汁中にCyPAを検出するが炎症分房乳である解析番号9はCyPA含量が非常に高いことを示す。 解析番号1〜48(盲乳検体19を含む)の乳汁を還元処理した後に、ウェスタンブロット法を用いて乳汁中CyPAのタンパク質解析を行った結果を示した図である。図は、健常牛分房乳(解析番号33〜48)においてCyPAの発現が確認できたことを示す。 解析番号1〜48(盲乳検体19を含む)の乳汁を還元処理した後に、ウェスタンブロット法を用いて乳汁中CyPAのタンパク質解析を行った結果を示した図である。図は、図10Aの健常牛分房乳(解析番号33〜48)におけるCyPAの発現量と比べて、乳房炎発症分房乳におけるCyPA発現量が大きいことを示す。 解析番号1〜48(盲乳検体19を含む)の乳汁を還元処理した後に、ウェスタンブロット法を用いて乳汁中CyPAのタンパク質解析を行った結果を示した図である。図は、図10Aの健常牛分房乳(解析番号33〜48)におけるCyPAの発現量と比べて、乳房炎発症分房乳におけるCyPA発現量が大きいことを示す。 乳汁における化学発光能とCyPA発現量との相関関係を示した図である。具体的には、図10A〜Cの解析結果を用いて、解析番号42の発現量を基準として求めた乳汁中のCyPAの発現強度とCL能とを対比させた図である。図は、乳汁におけるCL能とCyPA発現量との間において相関関係があることを示す(p<0.0001)。図中の記号について、数値は解析番号、○はPLが陰性であり、かつ、CL<1×10cpm/mlであったサンプル、●はPLが陽性であり、かつ、CL≦50×10cpm/mlであったサンプル、□はPLが陰性であり、かつ、1×10cpm/ml≦CL<50×10cpm/mlであったサンプルをそれぞれ示す。
以下、本発明の詳細について説明する。
1.乳腺疾患の検査方法
本発明の方法は、乳腺または乳汁におけるシクロフィリンA量を指標とした、乳腺疾患の検査方法である。
本発明の方法における検査対象は乳腺疾患である。乳腺疾患は、乳房や乳分房内にある乳腺に異常を来す病態の総称である。乳腺疾患としては、たとえば、細菌などの外来異物に起因する感染性の乳腺疾患や、乳癌や線維腺腫などの腫瘍性の乳腺疾患などが挙げられる。本発明の方法における乳腺疾患は特に限定されないが、乳房炎を発症した乳腺組織および乳汁においてシクロフィリンA量の増大が認められたことから、感染性の乳腺疾患であることが好ましく、乳房炎であることがより好ましい。
乳房炎は乳房内に病原体が侵入して起こる炎症性の疾病である。乳房炎は、(1)乳頭孔から黄色ブドウ球菌(S.aureus)や大腸菌(E.coli)などの細菌、カビ、酵母などの微生物が侵入することにより乳腺内で炎症が生じること、および/または(2)上記微生物などが産生するLPSやSEsなどの細菌毒素、コアグラーゼおよびその他のタンパク質が乳腺上皮細胞に定着することにより炎症反応が生じることにより発症すると推測されている。
乳房炎は臨床型乳房炎と潜在性乳房炎とに大別される。臨床型乳房炎は、乳房において腫れや熱などの症状が見られる、または乳汁においてブツや粘性などの変性が見られることにより、乳房や乳汁を肉眼で観察することにより判定し得るものである。潜在性乳房炎は、上記のような異常が見られないものであり、乳汁検査をすることによって判定できるものである。乳汁検査としては、従前では、乳汁における病原菌を検出する検査法、乳汁中の体細胞数(Somatic Cell Count:SCC)の増加や乳汁のpHの変化に基づくPLテスト(CMT変法)、乳汁中の化学発光能(Chemical Luminescence:CL能)を測定するCL能測定法により実施されてきた。本発明の方法は、乳汁検査の際に実施されてきた従前の方法に代替して、またはこれらと並行して実施される方法であることが想定されることから、本発明の方法における乳腺疾患として、さらに好ましいのは潜在性乳房炎である。
本発明の方法は、乳房炎を含む乳腺疾患の発症の判定に加えて、乳腺疾患の発症リスク予測や早期予測を含む、乳腺疾患の発症可能性の判定に利用することできる。
本発明の方法において、検体試料である乳腺は、当業者が通常使用する意味のものであれば特に限定はなく、通常は乳房の内部にある乳汁を分泌する機能を有する分泌腺をいう。乳腺において、単層の乳腺上皮細胞が乳腺胞の腔側に配列し、内外を隔てるバリア機能を有する。乳腺上皮細胞はサイトカインや抗菌ペプチドを産生することが知られている。また、乳腺には、乳腺上皮細胞間リンパ球(mammarial Intraepithelial Lymphocyte:mIEL)が存在している。検体試料である乳腺は、乳腺組織そのものに加えて、乳腺上皮細胞などの乳腺組織を構成する部位であってもよい。本発明の方法における乳汁は、当業者が通常使用する意味のものであれば特に限定されず、通常は乳腺から分泌される液性物質をいう。
シクロフィリンA(CyPA)は、タンパク質のフォールディングに関与する因子であるペプチジル−プロリル・シス−トランス・イソメラーゼ(peptidyl−prolyl cis−trans isomerase)活性を有するタンパク質である。CyPAの分子量は約18kDaである。CyPAのアミノ酸配列は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)の公共のデータベースであるGenBankに登録されているものによれば、ウシ由来のものはACCESSION:DAA30468であり、ヒツジ由来のものはACCESSION:AAP03083であり、マウス由来のものはACCESSION:AAD50966であり、アカゲザル由来のものはACCESSION:NP_001027981であり、チンパンジー由来のものはACCESSION:ABB77876であり、ラット由来のものはACCESSION:NP_058797であり、オランウータン由来のものはACCESSION:NP_001126060であり、およびヒト由来のものはACCESSION:NP_066953 NP_001008741であり、これらはそれぞれ配列表の配列番号1〜8として示される。また、ヤギとウマに関する遺伝子情報は現在までに登録されていない。本発明の方法では、これらのシクロフィリンAのうち、検査対象となる被験体に由来するシクロフィリンAを検出することが好ましい。
本発明の方法におけるシクロフィリンA量(CyPA)とは、CyPAの存在量であれば特に限定されない。CyPA量は、絶対値および/または相対値で表してもよく、物理学的、化学的および/または生物学的に決定してもよい。したがって、本発明の方法は、特定の工程に制限されることなく、乳腺または乳汁におけるCyPA量を指標とすることにより実施される。ただし、本発明の方法では、生体中に存在するCyPA量を指標とするのではなく、生体から採取した乳腺または乳汁中のCyPA量を指標とする。したがって、後述する本発明のマーカーは、生体から採取した乳腺または乳汁から分離されたCyPAを乳房炎検出用マーカーとしたものである。
本発明の方法の一態様は、下記(1)および(2)の工程を含む、乳腺疾患の検査方法である。
(1)被験体の乳房または乳分房から採取された乳汁におけるシクロフィリンAを検出することにより乳汁中のシクロフィリンA量を得る工程
(2)前記乳汁中のシクロフィリンA量に基づいて、被験体の乳房または乳分房における乳腺疾患の発症または乳腺疾患の発症可能性を判定する工程
本発明の方法における被験体は特に限定されず、ヒトであっても非ヒト動物であってもよいが、潜在性乳房炎の発症可能性の判定が困難である非ヒト動物であることが好ましく、日常的に搾乳されている家畜動物であるウシ、ヤギ、スイギュウ、ヤク、ヒツジ、ウマおよびラクダなどがより好ましく、ウシがさらに好ましい。
乳房は乳腺の塊である乳腺葉を内包し、乳腺葉にある乳腺胞で生産された乳汁は乳管を経由して乳頭から体外へ分泌される。乳房は、上記構造を基本としつつも、動物種により異なった構造を採る。たとえば、ヒトは左右1対の独立した乳房を有するが、ウシは厚い中央提靱帯により左右に別けられ、さらに薄い隔壁により前後に分けられた、4つの独立した乳分房を有する。本発明の方法において、乳房および乳分房は当業者により通常知られる意味のものをそれぞれ指すが、具体例として、ヒトの乳房はヒトが有する左右1対のいずれかの乳房をいい、ウシの乳分房はウシが有する4つの独立したもののうちのいずれかの乳分房をいう。
被験体の乳房または乳分房から乳汁を採取する方法は特に限定されず、室温で乳房を圧搾することなどの当業者が通常使用する手段を採用することができる。採取する乳汁の量はCyPAを検出し得る程度の量であれば特に限定されず、CyPAを検出する手段によって適宜変更できる。
乳汁は採取する時期(タイミング)は特に限定されないが、乳房炎を発症した乳分房から得られた乳汁において高感度でCyPA量が上昇したという事実や乳房炎の疑いのある乳分房から得られた乳汁においてCyPA量の上昇が認められたという事実を鑑みれば、被験体の乳房または乳分房における乳腺疾患の発症可能性を判定する場合は、現に搾乳している、または搾乳する可能性のある乳房または乳分房から継続的または定期的に乳汁を採取することが好ましい。搾乳開始前または搾乳開始から早い段階で採取した乳汁を用いることにより、乳腺疾患の発症を早期に予測できる。また、乳腺疾患の早期予測の観点からいえば、いずれかの乳房または乳分房において乳房炎を発症している被験体に加えて、いずれの乳房または乳分房においても乳房炎の発症が認められていない被験体を対象にすることが好ましい。
CyPAを検出する手法は特に限定されず、当業者により知られている特定のタンパク質もしくはポリペプチドまたはmRNAを検出する手法を応用して実施できる。本明細書において「シクロフィリンAを検出する」とは、CyPA量を測定することと同義である。CyPAの検出は、CyPA量を厳密に定量することが好ましいが、CyPA量を半定量的に測定してもよい。すなわち、比較すべき基準量と比較できる程度の量について、CyPA量を検出できればよい。CyPAを検出する手法は、たとえば、CyPAを分離する段階と分離したCyPA量を得る段階とを別けて実施する手法でもよく、これらを一段階で実施する手法でもよい。
CyPAの検出に際して、CyPAを含む検体試料を還元処理することが好ましい。CyPAを含む検体試料を還元処理する方法は特に限定されず、当業者により知られている還元処理手法を用いることができるが、たとえば、アスコルビン酸、β−メルカプトエタノール、ジチオスレイトールなどの還元性物質を用いた還元処理を挙げることができ、このうちβ−メルカプトエタノールを用いた還元処理が好ましい。
本発明の方法において、CyPAの検出は、たとえば、ウェスタンブロット法、サンドイッチ法や競合法などの免疫学的手法に加えて、CyPAのプロファイルを事前に取得することにより高速液体クロマトグラフィー法やゲル濾過クロマトグラフィー法などのクロマトグラフィーを原理とする分析化学的手法により実施できる。CyPAの検出に採用できる手法は、たとえば、ウェスタンブロット法、酵素結合免疫吸着測定法、酵素免疫測定法(EIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光偏光免疫測定法、化学発光免疫測定法、化学発光酵素免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、ELISPOT法、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、凝集イムノアッセイ、ラテックス凝集法およびクロマトグラフィー法などが挙げられる。
CyPAを検出する手段として、好ましくは免疫学的手法を利用する。免疫学的手法の中には迅速、簡便および高感度にCyPA量を測定できる手法がある。免疫学的手法によるCyPA量の検出には、抗CyPA抗体などのCyPAに特異的親和性を有する物質が使用される。ただし、抗CyPA抗体に限らず、CyPAに特異的親和性を有し、かつ、CyPAへの結合量を測定可能な物質であれば種々のものを用いることができる。CyPAの検出には、検体中のCyPAを標識化抗体で直接検出する手法に加えて、抗原の補足と検出といった各種段階を設けた手法を採用してもよい。
CyPAを検出する手法の一例として、ウェスタンブロット法がある。ウェスタンブロット法は、目的タンパク質の分離と定量とを別けて実施する手法の一つである。CyPAを検出するためのウェスタンブロット法は特に限定されないが、その一例として、たとえば、次の方法が採用できる。まず、乳汁を遠心分離して得た乳清サンプルについて、SDS−PAGE法によってCyPAとその他のタンパク質とを分離する。次いで、ゲル上のバンド(タンパク質)をメンブランへ転写する。次いで、メンブランに抗CyPA抗体を供する。次いで、メンブランに標識化した抗CyPA抗体に対する抗体を供する。次いで、メンブラン上のCyPAに相当するバンドの標識物質の量や活性を測定する。
CyPAを検出するためのウェスタンブロット法は上記した方法に制限されることはなく、たとえば、標識化した抗CyPA抗体に対する抗体としては、酵素標識したものでもよく、蛍光標識したものでもよい。各種手順や条件は、当業者に知られる方法により適宜改変できる。
迅速、簡便および高感度にCyPA量を測定できる免疫学的手法としては、FIA法およびEIA法を挙げることができる。FIA法では蛍光標識した抗体を用い、蛍光をシグナル(標識)として抗原−抗体複合体(免疫複合体)を検出する。EIA法では酵素標識した抗体を用い、酵素反応に基づく発色ないし発光をシグナルとして免疫複合体を検出する。
EIA法の一つとして、ELISA法がある。ELISA法は、検出感度が高いこと、特異性が高いこと、定量性に優れること、操作が簡便であること、多検体の同時処理に適することなど、多くの利点を有する。ELISA法には競合法、サンドイッチ法、直接吸着法などがある。
競合法は、検体とともに抗原を添加して、免疫複合体の形成を競合させることを原理とする手法である。サンドイッチ法では、通常、エピトープの異なる2種類の抗体(捕捉用抗体である1次抗体および検出用抗体である2次抗体)を用いる。これらについて以下に手順の概要を説明するが、これらの手法は以下の手順に限定されるものではない
競合法では、乳清サンプル中のCyPAタンパク質と標識化CyPAタンパク質とを抗CyPA抗体に対して競合的に反応させ、次いで未反応の標識化CyPA(F)と、抗体と結合した標識化CyPA(B)とを分離し(B/F分離)、次いでB、Fいずれかの標識量を測定することにより、乳清サンプル中のCyPAタンパク質を定量する。競合法には、抗体として可溶性抗体を用いて、ポリエチレングリコールや抗CyPA抗体(1次抗体)に対する2次抗体などを用いてB/F分離を行う液相法、1次抗体として固相化抗体を用いる直接固相化法、1次抗体は可溶性のものを用い、2次抗体として固相化抗体を用いる間接固相化法などが用いられるが、格別な制限はない。
サンドイッチ法では、担体に固定化した第1の抗CyPA抗体に乳清サンプルを反応させ(1次反応)、次いで第1の抗CyPA抗体とは異なるエピトープを認識し、かつ、標識化されている第2の抗CyPA抗体を反応させ(2次反応)、次いで担体上の標識剤の量もしくは活性を測定する。サンドイッチ法について、たとえば、1次反応および2次反応は逆の順序で行ってもよく、さらに同時に行ってもよいし、時間をずらして行ってもよい。また、標識剤は当業者により適宜選択できるし、担体に固定化した抗体または標識化抗体については、測定感度を向上させるなどの目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
ELISA法を利用する場合の具体的な操作法の一例を次のとおりである。まず、抗CyPA抗体を不溶性担体に固定化する。具体的には例えばマイクロプレートの表面を抗CyPA抗体(1次抗体)で感作する(コートする)。このように固相化した抗体に対して乳汁や乳腺上皮細胞破砕物を遠心分離して得た検体試料を接触させる。この操作の結果、固相化した抗CyPA抗体に対する抗原(CyPA)が検体試料中に存在していれば免疫複合体が形成される。洗浄操作によって非特異的結合成分を除去した後、酵素を結合させた抗体(2次抗体)を添加することで免疫複合体を標識し、次いで酵素の基質を反応させて発色させる。そして、発色量を指標として免疫複合体を検出する。ELISA法の詳細については数多くの成書や論文に記載されており、各方法の実験手順や実験条件を設定する際にはそれらを参考にできる。
上記のCyPAを検出する手法を本発明の方法に適用するにあたって、現在の技術水準を上回るような特定の条件、操作などの設定事項は特に必要とされない。各手法における通常の条件、操作に、当業者が有する通常の技術的配慮を加えることによって、CyPAタンパク質の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
たとえば、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「統ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」Vol.70(Immunochemical Techniques(Part A))、同書Vol.73(Immunochemical Techniques(Part B))、同書Vol.74(Immunochemical Techniques(Part C))、同書Vol.84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、同書Vol.92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書Vol.121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる(該文献の記載はここに開示として援用される)。
本発明の方法では、工程(2)として、乳汁におけるシクロフィリンAを検出することにより得た乳汁中のシクロフィリンA量(測定CyPA量)に基づいて、被験体の乳房または乳分房における乳腺疾患の発症または乳腺疾患の発症可能性を判定する。乳腺疾患の発症または乳腺疾患の発症可能性の判定は定性的、定量的のいずれであってもよい。定性的判定と定量的判定の例を以下に示す。ただし、以下に示す判定は、その判定基準から明らかな通り、当業者の判断によらずとも、プログラム的、自動的または機械的に行うことができる。
定性的判定の一例としては、測定CyPA量が基準値よりもが大きい場合に「乳腺疾患が発症している、または乳腺疾患の発症可能性が高い」と判定し、測定CyPA量が基準値よりも小さい場合に「乳腺疾患は発症していない、または乳腺疾患の発症可能性が低い」と判定する。定性的判定の別の一例としては、測定CyPA量の増加が認められる「陽性」である場合に「乳腺疾患が発症している、または乳腺疾患の発症可能性が高い」と判定し、測定CyPA量の増加が認められない「陰性」である場合に「乳腺疾患が発症していない、または乳腺疾患の発症可能性が低い」と判定する。
定量的判定の一例としては、以下に示すように測定CyPA量の範囲毎に乳腺疾患の発症可能性(%)を予め設定しておき、測定CyPA量から乳腺疾患の発症可能性(%)を判定する:測定CyPA量がa〜bである場合、乳腺疾患の発症可能性は10%以下である;測定CyPA量がb〜cである場合、乳腺疾患の発症可能性は10%〜30%である;測定CyPA量がc〜dである場合、乳腺疾患の発症可能性は30%〜50%である;測定CyPA量がd〜eである場合、乳腺疾患の発症可能性は50%〜70%である;測定CyPA量がe〜fである場合、乳腺疾患の発症可能性は70%〜90%である;測定CyPA量がfより大きい場合、乳腺疾患を発症している。
乳腺疾患の発症または乳腺疾患の発症可能性の判定に際して、CyPAに加えて、他の乳腺疾患を判定する指標(PLテストやCL能など)を利用することができる。たとえば、CyPA量とCL能とによって乳腺疾患の発症または乳腺疾患の発症可能性を判定する場合、まず測定CyPA量に基づいて乳腺疾患の発症またはその発症可能性を判定し、乳腺疾患の発症可能性が高いとの判定結果が出たときに、CL能の検出を追加的に実施し、測定CyPA量とCL能の検出結果とを総合的に判断することにより、乳腺疾患の発症可能性について最終的に判定する。すなわち、測定CyPA量を一次的な判定に利用し、CL能の検出結果を二次的な判定または最終的な判定に利用する。これとは逆に、CL能などの他の乳腺疾患を判定する指標の検出結果を一次的な判定に利用してもよい。
本発明の方法における工程(2)の好ましい一態様は、測定CyPA量が、健常な乳房または乳分房から採取した乳汁中のシクロフィリンA量(基準CyPA量)よりも大きい場合に、被験体の乳房または乳分房において乳腺疾患が発症している、または乳腺疾患が発症する可能性があると判定する工程である。
本発明の方法において、健常な乳房または乳分房とは、現在乳腺疾患を発症していない、または乳腺疾患の発症可能性がない乳房もしくは乳分房であれば特に限定されないが、誤判定を導かないためにも、従前に乳腺疾患を発症していない、または従前に乳腺疾患の発症可能性が認めらていない乳房もしくは乳分房が好ましい。過去に乳腺疾患の発症または乳腺疾患の発症可能性が認められた乳房もしくは乳分房については、その後の適切な処置により現在乳腺疾患を発症していない、または乳腺疾患の発症可能性がない乳房もしくは乳分房と認められれば、健常な乳房または乳分房として使用できるが、その見極めは慎重に期することが望ましい。
健常な乳房または乳分房からの乳汁の採取について、その方法や実施時期などは特に限定されず、たとえば、被験体の乳房または乳分房からの乳汁を採取する方法と同一の方法により、同時または異時に実施することができる。また、健常な乳房または乳分房から採取した乳汁中のシクロフィリンA量の検出について、その方法や実施時期などは特に限定されず、たとえば、被験体の乳房または乳分房から採取された乳汁におけるシクロフィリンAを検出する方法と同一の方法により、同時または異時に実施することができる。
後述する実施例において、健常な乳房または乳分房から採取した乳汁としては、解析番号42の乳汁を用いている。また、本発明の方法において、解析番号42の乳汁と同じように、被験体の同一個体の各分房から採取された乳汁(分房乳)が、それぞれ(1)PLテストが陰性であること、(2)CL能が1×10cpm/mL未満であること、および(3)乳質の異常(ブツ、粘性)がないことといった要件を満たしている場合の各分房乳を「健常な乳房または乳分房から採取した乳汁」としてもよい。すなわち、後述する実施例において、解析番号42の乳汁を含めて、解析番号41〜44の各乳汁を「健常な乳房または乳分房から採取した乳汁」として採用できる。
図11は、PLテストが陽性であった乳汁(解析番号2、7、8、9、13,15、23,27、28、32)の測定CyPA量は、健常な乳房または乳分房から採取した乳汁(解析番号41〜44)の基準CyPA量よりも大きかったという事実が示されている。この事実に鑑みて、本発明の方法における工程(2)の好ましい一態様では、測定CyPA量が、基準CyPA量よりも大きいか否かを判定基準とする。すなわち、測定CyPA量が基準CyPA量よりも大きい場合に、被験体の乳房または乳分房において乳腺疾患が発症している、または乳腺疾患が発症する可能性があると判定する。
また、図11におけるPLテストが陽性であった乳汁の測定CyPA量の最小値(4.043;解析番号8)は、基準CyPA値の最大値(1.419;解析番号44)の2.8倍であり、基準CyPA値の平均値(1.065)の3.8倍であった。したがって、これらの結果に基づけば、本発明の方法における工程(2)の好ましい一態様において、より好ましくは測定CyPA量が基準CyPA量の2倍以上である場合に、さらに好ましくは測定CyPA量が基準CyPA量の2.8倍以上である場合に、なおさらに好ましくは測定CyPA量が基準CyPA量の3.3倍以上である場合に、特に好ましくは測定CyPA量が基準CyPA量の3.8倍以上である場合に、被験体の乳房または乳分房において乳腺疾患が発症している、または乳腺疾患が発症する可能性があると判定する。
本発明の方法の別の一態様は、下記(1’)および(2’)の工程を含む、乳腺疾患の検査方法である。
(1’)被験体の乳房または乳分房から採取された乳腺におけるシクロフィリンAを検出することにより乳腺中のシクロフィリンA量を得る工程
(2’)前記乳腺中のシクロフィリンA量に基づいて、被験体の乳房または乳分房における乳腺疾患の発症または乳腺疾患の発症可能性を判定する工程
本発明の方法における工程(1’)は、本発明の方法における工程(1)を応用して実施できる。被験体の乳房または乳分房から乳腺を採取する方法は特に限定されず、たとえば、乳房に注射針を刺して、乳腺上皮細胞を吸引することにより乳腺の一部を採取する穿刺吸引法や乳腺組織の一部を切除して採取する方法などの当業者が通常使用する手段を採用することができる。乳腺におけるCyPAを検出する手法は特に限定されず、細胞や組織などから特定のタンパク質、ポリペプチドまたはmRNAを検出する手段であればよい。
本発明の方法における工程(1’)の一例としては、次の手順が挙げられる。すなわち、被験体の乳分房に注射針を刺して、乳腺上皮細胞を吸引する。次いで、吸引して得た乳腺上皮細胞に標識化抗CyPA抗体を供する。次いで、標識化CyPA抗体の標識化物質を指標として、蛍光顕微鏡観察法あるいはフローサイトメトリー法などによりCyPA量の絶対量または細胞あたりのCyPA量を検出する。
本発明の方法における工程(1’)の別の例としては、採取した乳腺組織について免疫組織化学的手法によってCyPA量を検出してもよく、採取した乳腺上皮細胞などの破砕物から乳汁中のCyPA量の検出と同様の手法によりCyPA量を検出してもよい。乳腺の採取やCyPA量の検出は、検出されるべきCyPA量が対比すべき基準量と比較できる程度の量であれば特に限定されない。
本発明の方法における工程(2’)は、本発明の方法における工程(2)を応用して実施できる。本発明の方法における工程(2’)の好ましい一態様は、乳腺中のシクロフィリンA量が、健常な乳房または乳分房から採取した乳腺組織中のシクロフィリンA量よりも大きい場合に、被験体の乳房または乳分房において乳腺疾患が発症している、または乳腺疾患が発症する可能性があると判定する工程である。
本発明の方法において、最終的に被験体の乳房または乳分房における乳腺疾患の発症または乳腺疾患の発症可能性を判定することができれば、上記した工程以外の工程を採用することができる。すなわち、上記工程(1)と(2)との間、または工程(1’)と(2’)との間に別の工程を設けてもよい。本発明の方法は、当業者が技術水準から想到し得る程度において種々の改変が可能である。
本発明の方法は種々の目的のために利用可能であり、たとえば、乳腺疾患の予後を確認する方法、乳腺疾患の治療の経過を確認する方法、乳腺疾患の治療の適格性を確認する方法、乳腺疾患の治療効果の確認方法、乳腺疾患の治療剤をスクリーニングする方法などとしても利用可能である。
具体例として、乳腺疾患治療剤が投与された被験体の乳房または乳分房から採取された乳汁におけるシクロフィリンAを検出することにより乳汁中または乳腺中のシクロフィリンA量を得る工程と、乳汁中または乳腺中のシクロフィリンA量、たとえば、健常な乳房または乳分房から採取した乳汁中または乳腺中のシクロフィリンA量や経時、経日、経週、経月または経年的に観察した乳汁中または乳腺中のシクロフィリンA量に基づいて、被験体の乳房または乳分房における乳腺疾患の治療の経過、適格性もしくは効果を確認または判定する工程とを含む方法が挙げられる。また、化合物、タンパク質、抗体などの被験物質が投与された被験体の乳房または乳分房から採取された乳汁におけるシクロフィリンAを検出することにより乳汁中または乳腺中のシクロフィリンA量を得る工程と、乳汁中または乳腺中のシクロフィリンA量に基づいて、乳腺疾患の治療および/または予防の効果を評価する工程と、治療効果・予防が高いと評価される被験物質を乳腺疾患治療剤として判定する工程とを含む方法が挙げられる。
2.乳腺疾患検査用試薬
本発明の乳腺疾患検査用試薬は、抗シクロフィリンA抗体(抗CyPA抗体)からなる。抗CyPA抗体は、CyPAに対する特異的親和性を有する限り、その種類や由来などは特に限定されない。また、抗CyPA抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよい。ポリクローナル抗体としては、免疫動物から採取した抗血清由来のIgG画分のほか、抗血清からCyPAを抗原とするアフィニティー精製して得た抗体を使用できる。また、市販されている抗体、たとえば、abcam(登録商標) rabbit−anti human CyPA(ポリクローナル抗体)を使用できる。なお、上記市販抗体は、ヒトCyPA抗体を認識する抗体ではあるが、ウシの乳汁中のCyPAに特異的に結合することができる。このように、抗CyPA抗体としては、抗原認識部位が異種のものであっても、被験体におけるCyPAに特異的に結合することができれば、使用することができる。
抗CyPA抗体は、CyPAに対して特異的親和性を有する限り、その構造は特に限定されない。抗CyPA抗体のグロブリンタイプは特に限定されず、たとえば、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDなどであり得る。また、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、dsFv抗体などの断片化抗体であってもよい。
抗CyPA抗体は、免疫学的手法、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法などを利用して調製することができる。免疫学的手法によるモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体は、以下の記載を参照して作製することができるが、これらに限定されるものではない。
モノクローナル抗体の作製として、まず、CyPAまたはその部分ペプチドの抗原を、哺乳動物の抗体産生が可能な部位に、それ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与する。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。
抗原を入手する方法は特に限定されないが、乳腺上皮細胞などの生体試料から分離精製することや配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列の情報などに基づいて遺伝子工学的に作製した組換え体として入手することができる。組換え体は、たとえば、抗原をコードする遺伝子またはその一部を適当なベクターに導入し、次いで組換えベクターを適当な宿主に導入し、得られた形質転換体においてCyPAまたはその一部を発現させることにより作製することができる。
抗原の哺乳動物への投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。用いられる哺乳動物としては、たとえば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギなどが挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。
次いで抗原で免疫された哺乳動物から抗体価の認められた個体を選択する。次いで最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取して、抗体産生細胞を得る。抗体産生細胞として好ましいのは脾臓細胞である。得られた抗体産生細胞を、たとえば、同種または異種動物の骨髄腫細胞などと融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製することができる。融合操作は、既知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法(ネイチャー(Nature)、256、495(1975))に従い実施することができる。融合促進剤は特に限定されないが、たとえば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどを挙げることができ、好ましくはPEGが用いられる。
骨髄腫細胞は特に限定されないが、たとえば、NS−1、P3U1、SP2/0、AP−1などの哺乳動物の骨髄腫細胞を挙げることができ、SP2/0が好ましく用いられる。抗体産生細胞(好ましくは脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は、1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくはPEG1000〜PEG6000、より好ましくはPEG4000)が10〜80%程度の濃度で添加され、20〜40℃、好ましくは30〜37℃で2分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
ハイブリドーマの培養は、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地を用いて実施することができる。たとえば、1〜20%、好ましくは10〜20%のウシ胎仔血清を含むRPMI−1640培地、1〜10%のウシ胎仔血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))、ハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常4日〜2週間、好ましくは1週間程度である。培養は、通常5%炭酸ガスの存在下で行うことができる。
ハイブリドーマはモノクローナル化した後、CyPAに対して高い特異性を有する抗CyPA抗体を産生するクローンを選択する。選択されたクローンの培養液を精製することによって目的のモノクローナル抗CyPA抗体が得られる。また、ハイブリドーマを所定数以上に増殖させた後、これを哺乳動物(マウスなど)の腹腔内に移植し、腹水内で増殖させて腹水を精製することにより目的のモノクローナル抗CyPA抗体を取得することもできる。
培養液の精製または腹水の精製には、モノクローナルIgM精製用のアフィニティークロマトカラムやプロテインG、プロテインAなどを用いたアフィニティクロマトグラフィーなどが用いられる。また、抗原であるCyPAを固相化したアフィニティクロマトグラフィーを用いることもできる。さらには、モノクローナル抗体は、自体公知の方法、たとえば、当業者により免疫グロブリンの分離精製法として知られている、塩析法、硫安分画、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、DEAEなどのイオン交換体による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相またはプロテインAもしくはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法などを採用して分離精製することができる。これらの方法は単独または任意に組み合わされて用いられる。
CyPAまたはその部分ペプチドの抗原に対するポリクローナル抗体は、自体公知の方法に従って製造することができる。たとえば、免疫する抗原自体または抗原とキャリアータンパク質との複合体を作製し、次いで上記のモノクローナル抗体の作製法と同様に哺乳動物に免疫を行い、次いで適度に抗体価が上昇した時点で、得られた免疫動物から抗CyPA抗体含有物を採取し、次いで抗体の分離精製を行うことによりCyPAに対するポリクローナル抗体を得ることができる。
抗原は、免疫抗原とキャリアータンパク質との複合体を用いてもよい。キャリアータンパク質としては、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)、BSA(Bovine Serum Albumin)、OVA(Ovalbumin)などが使用できる。キャリアータンパク質の結合にはカルボジイミド法、グルタルアルデヒド法、ジアゾ縮合法、マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド法などを使用できる。さらに、ヒスチジン(His)タグなどとの融合タンパク質のように、構造が一部改変された抗原を用いることもできる。融合タンパク質などの改変抗原は、当業者により知られる汎用的な方法により作製および精製することができる。
キャリアータンパク質の種類およびキャリアーとハプテンとの混合比は、キャリアーに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば特に限定されないが、たとえば、ウシ血清アルブミンやウシサイログロブリン、ヘモシアニンなどを重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカプリングさせる方法が用いられる。
ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤、たとえば、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬などが用いられる。
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された哺乳動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。免疫動物から得た血液を遠心分離することなどによって得た抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、たとえば、酵素や蛍光などの標識剤で標識化した標識化CyPAと抗血清とを反応させた後、抗体に結合した標識剤の量や活性を測定することにより行うことができる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行うことができる。たとえば、抗血清をアフィニティー精製して、ポリクローナル抗体とすることができる。
さらに、抗CyPA抗体は、遺伝子工学的手法や分子生物学的手法によって作製することができる。たとえば、ウシなどの被験体に由来するCyPAを認識する抗体における抗原認識部位を解析し、該抗原認識部位を有し、かつ、それ以外の部分が被験体由来である組換え抗体をコードする核酸を得ることによって作製することができる。また、ウシなどの被験体の抗体産生に関わる遺伝子を他の動物種、たとえば、マウスの胚やマウス由来の抗体産生細胞に移入し、このようにして得られるマウスやマウス抗体産生細胞と、抗原としてウシ由来のCyPAとを用いることにより、完全ウシ化抗体を得ることができる。これらの方法に用いられる遺伝子工学的手法や分子生物学的手法は、これらまでに知られている方法を制限なく用いることができ、例えば、Molecular Cloning:A laboratory Manual,2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY.,1989やCurrent Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,John Wiley&Sons(1987−1997)などに記載されている方法を参照することができる(該文献の記載はここに開示として援用される)。
抗CyPA抗体は、CyPAへの特異的親和性を保持することを条件として、種々の改変が施されたものであってもよい。このような改変抗体もまた、本発明の試薬として用いることができる。
抗CyPA抗体として標識化抗体を使用すれば、標識剤を指標に結合抗体量を直接的に検出することが可能である。したがって、抗CyPA抗体の一態様は、標識化抗CyPA抗体である。
標識剤は特に限定されないが、ペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリンホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼおよびグルコース−6−リン酸脱水素酵素などの酵素;フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、ユーロピウム、フィコエリトリン(PE)、Cy2、Cy3およびCy5などの蛍光物質;ルミノール、イソルミノールおよびアクリジニウム誘導体などの化学発光物質;NADなどの補酵素;ビオチンなどの特定のタンパク質;131Iおよび125Iなどの放射性物質などが挙げられる。
たとえば、標識剤としてペルオキシダーゼを用いる場合、発色基質としては、DAB(3,3’−Diaminobenzidinetetra hydrochloride)やOPD(o−Phenylenediamine hydrochloride)などが利用可能である。その他の例としては、標識剤としてアルカリンホスファターゼを用いる場合、発色基質としては、Bromochoro indole phosphate/nitro blue tetrazoliumやNPP(p−Nitrophenyl phosphate disodiumsalt hexahydrate)などが使用可能である。
本発明の試薬は、その用途に合わせて不溶性担体に固相化されていてもよい。固相化に用いる不溶性担体は特に限定されないが、たとえば、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ナイロン樹脂、フッ素樹脂などの樹脂;ビーズ、プレート、薄膜などのガラス系材料;不織布、濾紙などの多孔性材料などの水に不溶性の不溶性担体を用いることができる。不溶性担体へ抗体を担持する方法は特に限定されず、当業者において通常知られている物理吸着または化学吸着に基づく手法によって実施することができる。
3.乳腺疾患検査用キット
本発明のキットは、主要構成要素として本発明の試薬を含む。乳腺疾患の検査法を実施する際に使用するその他の試薬(緩衝液、ブロッキング用試薬、酵素の基質、発色試薬など)に加えて、器具や装置(容器、反応装置、蛍光リーダーなど)などをキットに含めてもよい。また、標準試料としてCyPAをキットに含めることが好ましい。さらには、CyPAの検出以外の乳腺疾患の検査法に用いるための試薬、器具、装置などをキットに含めることも可能である。たとえば、乳腺疾患の判定精度を高めるために、PLテスト用の試薬、器具および/または装置をキットに含めることができる。本発明のキットには、通常の市販されているキットと同様に、取り扱い説明書が添付されることが好ましい。
本発明のキットにおいて、抗CyPA抗体は標識化されていてもよい。ただし、抗原と結合する1次抗体である抗CyPA抗体を標識化する場合、抗原の検出感度が低くなるという問題が生じ得る。そこで、標識剤を結合させた2次抗体を利用する方法、2次抗体と標識剤とを結合させた担体を利用する方法などといった、間接的検出方法を利用することが好ましい。2次抗体は、抗CyPA抗体に対して特異的親和性を有する抗体であれば特に限定されないが、たとえば、ウサギ抗体として抗CyPA抗体を調製した場合には、抗ウサギIgG抗体を使用できる。ウサギ、ヤギ、マウスなどの様々な種の抗体に対して使用可能な標識化2次抗体が、たとえば、タカラバイオ株式会社やコスモ・バイオ株式会社などにおいて市販されているので、本発明の試薬に応じて適切なものを適宜選択して、本発明のキットに含めることができる。
本発明のキットの好ましい一態様は、本発明の試薬である抗CyPA抗体(1次抗体)と抗CyPA抗体に対する標識化抗体(2次抗体)とを含むキットである。本発明の試薬である抗CyPA抗体が固相化されている場合は、2次抗体は1次抗体とは異なるエピトープを認識する抗原認識部位を有するものであることが好ましい。本発明の好ましい一態様では、標識剤の種類に応じて、発色基質や発色試薬などの免疫複合体を検出する試薬が含まれていることがなお好ましい。本発明のキットの別の好ましい一態様は、検体を適用する部位A、標識化抗体を含有した部位Bおよび抗原検出部位Cを含む多孔性担体からなるキットである。標識化抗体を含有した部位Bには、湿潤状態において移動可能なCyPAに対する標識化抗体を含有せしめている。抗原検出部位Cには、標識化抗体とは別の部位を認識するCyPAに対する抗CyPA抗体を固相化せしめている。抗CyPA抗体は、CyPAを結合した標識化抗体とCyPAを介してサンドイッチ状で複合体(標識化抗体−CyPA−抗CyPA抗体)を形成する。検体適用部位Aと標識化抗体部位Bとを同一部位に位置させてもよい。本態様では、液性検体内にCyPAが存在する場合、液性検体を検体適用部位Aに適用すると、標識化抗体含有部位BにおいてCyPAと標識化抗体が結合し、次いでこの結合物が抗原検出部位Cに移動すると、固相化された抗CyPA抗体と複合体を形成することにより捕集される。そこで、着色ラテックス、染料ゾル、金コロイドなどの肉眼により可視化できる標識物質が使用される場合、抗原検出部位Cにおける標識の有無により、検体中のCyPAの存在および/または量が確認できる。
4.抗CyPA抗体産生ハイブリドーマおよび抗CyPA抗体
本発明のハイブリドーマは、抗シクロフィリンA抗体を産生する能力を有する。本発明の抗体は、本発明のハイブリドーマによって生産される抗シクロフィリンA抗体である。本発明のハイブリドーマは抗CyPA抗体を産生する能力を有する抗体産生細胞と骨髄腫細胞などの腫瘍細胞または不死化細胞とを融合させて得られる融合細胞であれば特に限定されない。本発明の抗体は、CyPAに対して特異的親和性を有する抗体であれば特に限定されない。本発明のハイブリドーマや抗体の構造および機能、確認方法、製造方法ならびに使用方法については、上記した抗CyPA抗体や抗CyPA抗体を産生するハイブリドーマに関する記載を参照できる。
本発明のハイブリドーマおよび抗体を得る方法としては、上記した方法以外にも、後述する実施例に記載があるような、ウシ腸管上皮細胞株(BIE細胞)に由来するM−BIE細胞に特異的なモノクローナル抗体をスクリーニングすることにより得ることができる。すなわち、M−BIE細胞を哺乳動物(たとえば、マウス)に免疫し、次いで免疫動物から抗体産生細胞を摘出する。次いで抗体産生細胞と免疫動物と同種の動物(マウス)のミエローマ細胞とを細胞融合させて、HAT培地を用いた培養によりハイブリドーマを得る。次いで、免疫組織化学染色法を用いることによって、ウシ腸管上皮においてFAEを特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマを選抜し、クローニングする。次いでクローン化細胞をマウスの腹腔に投与し、免疫マウスの腹水由来のモノクローナル抗体(2H5−F3)を精製分離する。次いで、2H5−F3モノクローナル抗体とM−BIE細胞の細胞質画分および細胞膜画分から回収したタンパク質とを混合し、免疫沈降に供する。次いで、免疫沈降により得られたタンパク質溶解液をSDS−PAGEで分離し、バンドを染色する。次いで、2H5−F3モノクローナル抗体に特異的なバントについて解析すると、2H5−F3モノクローナル抗体が特異的に認識する抗原はCyPAであることが判明し、もって2H5−F3モノクローナル抗体が抗CyPA抗体であると同定される。
5.乳腺疾患検出用マーカー
本発明のマーカーは、シクロフィリンAからなる、乳腺疾患検出用マーカーである。本発明のマーカーは、乳腺疾患、特に感染性の乳腺疾患である乳房炎の発症またはその発症可能性の指標となる生体分子のことをいう。本発明のマーカーは、生体中に存在するシクロフィリンAそのものではなく、生体から採取された乳腺や乳汁から分離されたシクロフィリンAが本発明のマーカーとして利用される。本発明のマーカーは、乳房炎の早期検出に特に有用である。
本発明のマーカーが乳房炎の早期検出に有用であることは、乳房炎の発症およびその現象を注意深く観察することによって、正常乳腺組織と比べると、乳房炎を発症した乳腺組織におけるウシ乳腺上皮細胞や免疫細胞浸潤部位、さらには乳汁においてCyPA発現量の増大が認められという本発明者らによって初めて見出された事実から類推することができる。特に、本発明者らは、従前からの乳房炎の検査法であるPLテストおよびCL能を用いて、乳房炎を発症していると判定された分房乳において、CyPAが比較的高濃度であったという事象を確認した。この事象を鑑みれば、本発明のマーカーは、臨床型乳房炎に加えて、潜在性乳房炎の発症の判定に用いられるマーカーである。
さらに、本発明者らは、PLテストが陰性であり、かつ、CL能が低い乳汁において、乳タンパク質の構成変化は認められないが、CyPA量の増大が確認されたものを見出した。さらに本発明者らは、これらの乳汁を採取した乳分房のうちいくつかは乳房炎の発症を認めたという事実を得た。この事実に従えば、本発明のマーカーは、CyPAを指標にすれば、乳房炎の早期検出に加えて、PLテストやCL能によっては判断することが難しい、乳房炎の発症可能性を高感度に検出できるマーカーである。すなわち、本発明のマーカーを用いれば、乳房炎の初期段階にある部位を特定することが可能である。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。
第1 乳腺組織におけるシクロフィリンAの局在
1.材料および方法
(1)試料
乳房炎発症乳腺組織として、下記A〜Cに示す三種の実験区のホルスタイン泌乳牛のうち、実験的乳房炎または潜在性乳房炎の発症が認められた乳房から採取した乳腺組織を用いた。乳腺組織は、ウシを屠殺した後直ちに採取し、すみやかにPLP固定液またはリン酸緩衝ホルマリン固定液を用いて、4℃で一晩固定した。固定後70%エタノール、80%エタノール、90%エタノール、95%エタノールにそれぞれ12時間浸し、さらに100%エタノールに24時間組織を浸し、段階的に脱水を行った。脱水後、トルエン、パラフィンにそれぞれ6時間浸した後、パラフィンに包埋した。また、各実験区のホルスタイン泌乳牛のうち、PBSを投与して処理した乳房から採取した乳腺組織を対照正常乳腺組織として用いた(Toshinobu Kuroishiら、Clin Diagn Lab Immunol.2003;10:1011−1018;Kai Kら、J Vet Med Sci.2002;64:873−8を参照、該文献の記載はここに開示として援用される)。乳酸菌産生ペプチドは、カワイらの文献(Kawai Yら,Biosci Biotechnol Biochem.1997;61:179−82、該文献の記載はここに開示として援用される)に記載の方法にしたがって精製した。
A.SEC投与実験区
Staphylococcal Endotoxins C(SEC)をPBS 10mLに溶かした0.1μg/μl SEC溶液を乳頭よりホルスタイン泌乳牛の乳分房へ投与して乳房炎を発症させた実験的乳房炎(PLP固定パラフィン包埋乳腺組織;ホルスタイン泌乳牛;分娩後日数 約300日)をSEC投与実験区とした。
B.S.A投与実験区
Staphylococcas aureus(S.A)をPBS 10mLに溶かした154cfu/ml S.A溶液を乳頭よりホルスタイン泌乳牛の乳分房へ投与して乳房炎を発症させた実験的乳房炎(リン酸緩衝ホルマリン固定パラフィン包埋乳腺組織およびバイオプシーより得た乳腺組織;ホルスタイン泌乳牛;分娩後日数 約60日)をS.A投与実験区とした。
C.Lf投与実験区
ラクトフェリン(Lf)または乳酸菌産生ペプチドをPBS 10mLに溶かした10mg/mLまたは20mg/mL Lf溶液を乳頭よりホルスタイン泌乳牛の乳分房へ投与した潜在性乳房炎(PLP固定パラフィン包埋乳腺組織;ホルスタイン泌乳牛;分娩後日数 約305日:乾乳導入5日)をLf投与実験区とした。
(2)試薬
本発明者らが作製した抗CyPA抗体(2H5−F3抗体)を用いて、免疫組織化学染色により、乳腺組織におけるCyPAの局在を確認した。2H5−F3抗体は以下[i]および[ii]の手順により作製した。
[i]in vitro M細胞特異的なモノクローナル抗体の作製
本発明者らは、ウシ腸管上皮細胞株(BIE細胞)の樹立とそのin vitro M細胞(M−BIE細胞)への分化誘導法を確立している。(Characterization of newly established bovine intestinal epithelial cell line,K.Miyazawa,Histochem Cell Biol (2010)vol.133,p125−134、該文献の記載はここに開示として援用される)。M−BIE細胞を2.7×10cells/ml−PBSの濃度に調整し、BALB/cマウスの腹腔内に0.5mlを免疫した。14日後、4.0×10cells/ml−PBSに調整したM−BIE細胞の0.3mlを同一マウスの尾静脈から投与し、追加免疫した。その5日後に、免疫したマウスより脾細胞を採取し、50%(w/v) ポリエチレングリコール(PEG4000)を用いて、SP2/0−ag14−K13マウスミエローマ細胞と融合した。融合したハイブリドーマは、HAT培地 (2mM glutamate,0.2% glucose,10% FBS,100μM hypoxanthine,0.4μM aminopterine,16μM thymidineを含むRPMI−1640)を用いて選抜した。選抜したハイブリドーマから、下記の免疫組織化学染色によってウシ腸管上皮においてFAEを特異的に認識する抗体を産生するウェルを選抜し、限界希釈法によって更なるクローニングを行った。クローニングにより最終的に得られたクローン化細胞をBALB/cマウスの腹腔に投与した。BALB/cマウスの腹水由来のモノクローナル抗体は、HiTrap IgM Purification HP(GE Healthcare Bio−Science AB,Uppsala,Sweden)を用いて精製した。抗体のサブクラスはmouse monoclonal antibody isotyping kit(Dainippon Sumitomo Pharma)で決定し、2H5−F3モノクローナル抗体とした。
[ii]作製した抗体が認識する抗原の同定
Transmembrane Protein Extraction Kit(Novagen)を用いてM−BIE細胞の細胞質画分および細胞膜画分、それぞれのタンパク質を回収した。抽出した細胞膜画分のタンパク質を60μl(2.0μg/μl)と2H5−F3モノクローナル抗体1.0μl(2.45μg/μl)を混合し、4℃で一晩静置した。次にμMACS protein G(Milteny Biotech)50μlと混合し、4℃で1時間静置した後、免疫沈降を行った。免疫沈降で得られたタンパク質溶解液をSDS−PAGEで分離し、Silver Stain MS Kit(Wako)で染色した。2H5−F3モノクローナル抗体特異的なバントを抽出し、LC−MS/MS解析を行った。また、免疫沈降で得られたタンパク質をウェスタンブロッティングして、2H5−F3モノクローナル抗体との反応性を解析した。その結果、2H5−F3抗体の認識する抗原はシクロフィリンAであることを同定した。
(3)免疫組織化学染色およびCyPAの局在の確認方法
各実験区のパラフィン包埋乳腺組織から厚さ4μmの切片を作製し、以下の手順でCyPAについて免疫組織化学染色を行った。
A.1日目
切片を脱パラフィン化して得た乳腺組織を5分間水洗し、次いでTarget Retrieval Solution Low pH(Dako)を用いて121℃で5分間の抗原賦活化処理に供した。処理後の乳腺組織を、PBSで3分間洗浄し、これを3回繰り返した。洗浄後の乳腺組織を、3% 正常ヤギ血清/PBSを用いて20分間のブロッキング処理に供した。処理後の乳腺組織を、抗CyPA抗体2,000倍希釈/PBSを用いて、4℃で14時間の一次抗体反応に供した。
B.2日目
反応後の乳腺組織を、PBSで3分間洗浄し、これを3回繰り返した。洗浄後の乳腺組織を、Histofine Simplestain MAX−PO(M)(Nichirei)を用いて室温で20分間の二次抗体反応に供した。反応後の乳腺組織を、PBSで3分間洗浄し、これを3回繰り返した。洗浄後の乳腺組織を、0.0025% 3.3’−diaminobenzidine(同仁、熊本、日本)+0.006% H/0.05M Tris−HCl(pH 7.5)を用いて、室温で1分間のDAB発色反応に供した。反応後の乳腺組織を蒸留水(DW)で数秒間洗浄した。洗浄後の乳腺組織を、室温にて20秒間のヘマトキシリン対比染色に供した。染色後の乳腺組織を、60分間、流水により洗浄した。洗浄後の乳腺組織を、脱水および透徹し、マリノール(武藤化学)を用いて封入した。
上記の免疫組織化学染色を終えた乳腺組織の標本について、光学顕微鏡(Ax70,オリンパス)を用いて観察した。
2.結果
(1)SEC投与実験区の乳腺組織の観察
ウシ乳腺におけるCyPAの発現を免疫組織化学染色により観察した。SEC投与実験区の対照正常乳腺組織において、CyPAは乳腺胞に局在していた(図1A)。乳腺胞の乳腺上皮細胞で均一にCyPAが発現していた(図1B)。微量であるが乳腺胞内にある乳汁でCyPAが弱く発現していた(図1C)。
SEC投与実験区の乳房炎発症乳腺組織におけるCyPAの発現は、対照正常乳腺組織と同様に、乳腺上皮細胞で認められた(図2A)。しかし、対照正常乳腺組織と比較すると、乳房炎発症乳腺組織における乳腺上皮細胞、乳汁および細胞浸潤部位では、より強くCyPAが発現していた(図2B、2C)。
(2)S.A投与実験区の乳腺組織の観察
ウシ乳腺におけるCyPAの発現を免疫組織化学染色により観察した。S.A投与実験区の対照正常乳腺組織において、SEC投与実験区の対照正常乳腺組織と同様に、乳腺胞の乳腺上皮細胞でCyPAが均一に発現していたこと、および乳汁で微量にCyPAが発現していたことが確認された(図3A〜3C)。
乳房炎発症乳腺組織では、SEC投与実験区の乳房炎発症乳腺組織と同様に、乳腺上皮細胞、乳汁および免疫細胞浸潤部位にて対照正常乳腺組織より強度のCyPA発現が確認された(図4A〜C)。また、S.A投与実験区における乳房炎発症乳腺組織の中では、間質が肥大かつ萎縮した乳腺胞および乳腺上皮細胞が認められた(図4A)。これはS.A投与実験区のウシが搾乳最後期であったことに起因すると推測される。S.A投与実験区における乳房炎発症乳腺組織のうち、間質が肥大することにより萎縮した乳腺胞および乳腺上皮細胞におけるCyPAの発現量は、萎縮していない乳腺胞および乳腺上皮細胞と比べて、それぞれ減少していた(図4D)。
(3)Lf投与実験区の乳腺組織の観察
ウシ乳腺におけるCyPAの発現を免疫組織化学染色により観察した。治療のためにラクトフェリンを投与したLf投与実験区の対照正常乳腺組織において、SECおよびS.A投与実験区のPBS投与乳腺組織(対照正常乳腺組織)と同様に、乳腺上皮細胞および乳汁でCyPAの発現が確認された(図5A〜B、図6A〜C)。間質が肥大し萎縮した乳腺胞および乳腺上皮細胞のCyPA発現は、SA投与実験区の乳房炎発症乳腺と同様に、萎縮していない乳腺胞および乳腺上皮細胞と比べて減少していた(図6C)。また潜在性乳房炎発症した乳腺組織では、上記の実験的乳房炎組織と同様に、正常乳腺組織と比較すると、乳腺上皮細胞、乳汁および免疫細胞浸潤部位でCyPAが高発現していた。(図7A〜C)。
3.小括
上記の結果から、正常な乳房から採取した乳腺組織において、CyPAが細胞内タンパク質として乳腺上皮細胞および乳汁に存在することが確認された。また、細菌毒素であるSECおよび細菌であるS.Aを投与して乳房炎を発症させた乳房から採取した乳腺組織においても、同様にCyPAが発現した。特に、正常乳腺組織と比べて、乳房炎発症乳腺組織における乳腺上皮細胞、乳汁および免疫細胞浸潤部位のCyPA発現は強かった。搾乳最後期などに見られる間質が肥大化することにより萎縮した乳腺胞および乳腺上皮細胞では、萎縮していない乳腺胞や乳腺上皮細胞と比較すると、それぞれCyPAの発現量が低下した。
第2 乳房炎発症乳分房由来の乳汁中におけるシクロフィリンAの発現解析
1.材料および方法
(1)試料
供試牛として宮城県畜産試験場で飼育されたホルスタイン泌乳牛を用いた。PLテスターおよびCL能の結果より乳房炎を発症していると診断されたホルスタイン泌乳牛8頭および罹患歴がない健常ホルスタイン泌乳牛4頭の合計12頭の供試牛を用いた。乳汁サンプルとして全分房乳、計48サンプル(内1分房は盲乳処置中)を使用した。表1に、試験で使用した乳汁サンプルのデータを示した。
(2)試薬
ウェスタンブロット法でのCyPAの解析には、市販のポリクローナル抗体である抗CyPA抗体(rabbit−anti human CyPA;Abcam(登録商標))を用いた。
(3)ウェスタンブロット法による乳清中CyPAタンパク質の検出法
A.乳汁サンプル中の乳清タンパク質の抽出およびタンパク定量
次の手順で乳汁サンプル中の乳清タンパク質を抽出および定量した。乳汁サンプルを1,100G、4℃、20分間の遠心処理に供した。処理後の乳汁サンプルから乳脂肪および沈殿物を除去し、乳清を採取した。採取した乳清をPierce(登録商標)BCA Protein Assay Kit(Thermo Sientific)を用いて、37℃で30分間インキュベートした。インキュベート後の乳清について、DS PHARMA BIOMEDICALを用いてタンパク濃度を測定したところ、14μg/μlとの定量結果を得た。
B.ウェスタンブロット法
タンパク定量した後の乳清サンプルを用いて、以下の手順でCyPAタンパク質の解析を行った。
(A)メルカプトエタノール(2ME)を添加しない方法;非還元処理
1日目として、タンパク定量した後の乳清サンプル中のタンパク質を、PAGEL(ATTO;E−T520L)を用いて、タンパク質濃度が21μg/laneになるようにSDS−PAGEによって分離した。分離したタンパク質をImmobion−P Transfer membrames(Millipore)のメンブランとセラミドライシステム(Bio−Rad)を用いて、60分間、1.2mA/cmで該メンブランへ転写した。転写後のメンブランをTBS−Tweenで、10分間を3回繰り返すことにより洗浄(0.1%Tween20/TBS;TBS−T)した。洗浄後のメンブランを、60分間のブロッキング処理(3% normal goat serum/TBS−T)に供した。処理後のメンブランを、TBS−Tweenにて、10分間を3回繰り返すことにより洗浄した。洗浄後のメンブランを、4℃で14時間の一次抗体反応(抗CyPA抗体1,000倍希釈/TBS−T)に供した。
2日目として、反応後のメンブランを、TBS−Tweenを用いて10分間を3回繰り返すことにより洗浄した。洗浄後のメンブランを、アルカリリン酸化酵素結合goat−anti rabbit IgG(ZYMED)を用いて、室温で60分間の二次抗体反応に供した。反応後のメンブランをTBS−Tweenを用いて10分間を3回繰り返すことにより洗浄した。洗浄後のメンブランをさらにTBSを用いて5分間洗浄した。洗浄後のメンブランを、ECF substrate dilution buffer(BD Healthcare)を用いて、室温で5分間発色させた。発色後のメンブランから、Molecular Imager FX(BioRad)を用いることによって、バンドを検出した。
(B)2MEを添加した方法;還元処理
1日目として、5% 2MEを加えたタンパク定量後の乳清サンプル中のタンパク質を、PAGEL(ATTO;E−T520L)を用いて、タンパク質濃度が21μg/laneになるように、SDS−PAGEによって分離した。分離したタンパク質をImmobion−P Transfer membrames(Millipore)のメンブランとセラミドライシステム(Bio−Rad)を用いて、60分間、1.2mA/cmでメンブランへ転写した。転写後のメンブランをTBS−Tween(0.1%Tween20/TBS;TBS−T)で10分間を3回繰り返すことにより洗浄した。洗浄後のメンブランを、60分間のブロッキング処理(3% normal goat serum/TBS−T)に供した。TBS−Tweenを用いて10分間を3回繰り返すことにより洗浄した。洗浄後のメンブランを4℃で14時間の一次抗体反応(抗CyPA抗体1,000倍希釈/TBS−T)に供した。
2日目として、TBS−Tweenを用いて10分間を3回繰り返すことにより洗浄した。洗浄後のメンブランをアルカリリン酸化酵素結合goat−anti rabbit IgG(ZYMED)を用いて、室温で60分間の二次抗体反応に供した。反応後のメンブランをTBS−Tweenを用いて10分間を3回繰り返すことにより洗浄した。洗浄したメンブランを、TBSを用いて5分間洗浄した。洗浄後のメンブランを、ECF substrate dilution buffer(BD Healthcare)を用いて室温で5分間発色させた。発色後のメンブランから、Molecular Imager FX(BioRad)を用いることによって、バンドを検出した。
C.Commassie Brilliant Blue(CBB)染色
タンパク定量した乳清サンプルを用いて、次の手順で乳清中のタンパク質の解析を行った。乳清サンプル中のタンパク質を、PAGEL(ATTO;E−T520L)を用いてタンパク質濃度が21μg/laneになるようにSDS−PAGEによって分離した。分離後のゲルを、5分間のMQ洗浄を3回繰り返した。洗浄後のゲルを、ULTRA−FAST Coomassie Stain(NRV,USA)を用いて、室温で20分間の発色処理に供した。処理後のゲルにおけるバンドを確認した。
(4)CyPA発現強度測定
上記(3)B(B)の手順で、乳清サンプル中のタンパク質を分離した。分離後のゲルから、Molecular Imager FXを用いてバンドを検出および撮影した。撮影して得たイメージファイルを、Photshop 5.0 LE.を用いてグレースケールにより白黒反転させた。白黒反転させて得たイメージファイルを、NIHイメージ(NIH imager Ver.1.62,USA)のgel plotting Macrosを用いて解析し、バンド強度を測定した。バンド強度を測定して得たCyPAの濃度は、表1の牛体番号108の右後分房の乳汁サンプル(解析番号42)を基準として数値化した。また、得られたCyPA濃度とCL値との相関関係を解析した。
2.結果
(1)乳汁中CyPAの検出方法の確立
牛体番号81の分房別乳汁サンプル(解析番号9−12)を用いて、タンパク質解析を行った。Coomassie Brilliant Blue(CBB)染色を行った結果、還元処理した非感染分房乳汁サンプル(解析番号10−12)および乳房炎発症分房乳汁サンプル(解析番号9)の解析結果として、65kDa付近にてバンドが検出された(図8)。これは本来160kDa程度のIgGが還元されて得たものと推測される。また、非還元処理で見られた50kDa付近のタンパク質は、還元処理後には検出されなかった。
ウェスタンブロット法を用いてタンパク解析を行った。非還元処理および還元処理に関係なく、二次抗体による乳汁サンプル中のCyPAへの非特異的な反応は見られなかった。非還元処理において、乳房炎発症分房乳汁サンプル(解析番号9)においてCyPAが検出された(図9A〜B)。しかし、他の非感染分房乳汁サンプル(解析番号10−12)においてCyPAは検出されなかった。一方、還元処理した非感染分房乳汁サンプルおよび乳房炎発症分房乳汁サンプルにおいてCyPAが検出され、乳房炎発症分房乳汁サンプル(解析番号9)のバンド強度は相対的に非常に高かった。したがって、還元処理を行うことで、乳汁サンプル中のCyPAを検出することが可能であることが判明した。
(2)乳汁サンプル中のCyPA発現解析
上記(1)から、乳房炎に罹患している泌乳牛に由来する乳汁サンプル中にCyPAタンパク質が検出されたことから、全乳汁サンプル(解析番号1−48、ただし解析番号19は盲乳処置中)について還元処理を行い、得られた乳清サンプル中のCyPAタンパク質を解析した。健常牛分房乳汁サンプル(解析番号33−48)および乳房炎発症乳汁サンプル(解析番号1−32)を用いた解析では、CyPAタンパク質が検出された(図10A〜C)。健常牛分房乳は乳房炎発症分房乳と比べ、CyPAタンパク質が少なかった。一方、乳房炎発症乳の非感染分房乳(解析番号1,3−6,10−12,14,16,18−22,24−26,29)は、乳房炎発症分房乳(解析番号2,7−9,13,15,17,23,27,28,30−32)より、CyPAタンパク質が少なかった。
(3)乳汁サンプル中のCyPAとCL能との相関関係
健常牛の分房乳汁サンプルで乳性状、PLテストおよびCL能が低かった牛体番号108の解析番号42の乳汁サンプルを標準として、全乳汁サンプルのCyPA発現強度を測定した。解析番号1−48(ただし解析番号19は盲乳処置中)のCyPA発現の相対値を算出した(表2)。CL能とCyPA発現強度には相関関係が見られた(p<0.0001)(図11)。CL能の上昇に伴い、CyPA発現強度も増加することが明らかになった。
3.小括
非還元処理した乳清サンプルのウェスタンブロットでは、非感染分房乳汁サンプルにおいてCyPAは検出されなかった。しかし、高いCL能を示す乳房炎発症分房乳汁サンプルからは、CyPAを大量に検出した。一方、乳清タンパク質の還元処理を行ったところ、健常牛由来乳汁サンプルおよび乳房炎発症牛由来乳汁サンプルの乳清中にCyPAが検出された。
還元処理をした全乳汁サンプルからウェスタンブロット法によりCyPAの発現解析を行った結果、乳房炎の罹患歴の無い健常牛分房乳汁サンプル(解析番号33−48)、乳房炎を発症した牛の非感染分房乳汁サンプル(解析番号1,3−6,10−12,14,16,18−22,24−26,29)および乳房炎発症分房乳汁サンプル(解析番号2,8,9,13,15,18,27,28,32)において、CyPAタンパク質が検出された。健常牛分房乳汁サンプルは、乳房炎発症牛の非感染分房乳汁サンプルおよび乳房炎発症分房乳汁サンプルに比べて、CyPAタンパク質の量が少なかった。乳房炎発症牛の非感染分房乳汁サンプルは、乳房炎発症分房乳汁サンプルと比べて、CyPAタンパク質の量が少なかった。またPLテスト陽性およびCL能が高い分房乳汁サンプル(解析番号2,8,9,13,15,18,27,28,32)のCyPAタンパク質の量は非常に多かった。このことは、正常乳腺組織および乳房炎発症乳腺組織における乳腺上皮細胞および乳腺胞内のCyPA発現強度の傾向と一致している。
CL能の上昇に伴い、乳汁サンプル中のCyPAタンパク質の量が増すことが示された。乳房炎とCyPA発現増加に相関関係があるという結果が得られた。回帰直線からCL値が1×10cpm/ml時のCyPA発現強度は、5.5であった(図11)。CL能は1×10cpm/ml以上が乳房炎と規定されている。CL能が1×10cpm/ml未満であり、かつ、CyPA発現強度が5.5以上にある分房乳汁サンプル(解析番号1,3,12,16,18,20−22,26)が存在した。これらの分房乳のCyPA発現強度は健常牛より高かった。さらに乳汁サンプル(解析番号1,3,12,16,18,20−22,26)のCL値は、PLテスト結果により乳房炎発症と診断された分房乳汁サンプル(解析番号8,27)より高かったことから、これらの分房乳汁サンプルは乳房炎の初期症状にある蓋然性がある。実際に、解析番号26の乳汁サンプルを採取した乳分房では、その後乳房炎の発症が確認された。

Claims (8)

  1. 乳腺または乳汁におけるシクロフィリンA量を指標とした、乳房炎の検査方法。
  2. 下記(1)および(2)の工程を含む、乳房炎の検査方法。
    (1)被験体の乳房または乳分房から採取された乳汁におけるシクロフィリンAを検出することにより乳汁中のシクロフィリンA量を得る工程
    (2)前記乳汁中のシクロフィリンA量に基づいて、被験体の乳房または乳分房における乳房炎の発症または乳房炎の発症可能性を判定するためのデータを提供する工程
  3. 前記工程(2)は、前記乳汁中のシクロフィリンA量が、健常な乳房または乳分房から採取した乳汁中のシクロフィリンA量よりも大きい場合に、被験体の乳房または乳分房において乳房炎が発症している、または乳房炎が発症する可能性があると判定するためのデータを提供する工程である、請求項2に記載の方法。
  4. 前記工程(2)は、前記乳汁中のシクロフィリンA量が、健常な乳房または乳分房から採取した乳汁中のシクロフィリンA量の2倍以上である場合に、被験体の乳房または乳分房において乳房炎が発症している、または乳房炎が発症する可能性があると判定するためのデータを提供する工程である、請求項2に記載の方法。
  5. 抗シクロフィリンA抗体からなる、乳房炎検査用試薬。
  6. 前記抗シクロフィリンA抗体が、不溶性担体に固相化されている抗シクロフィリンA抗体である、請求項に記載の試薬。
  7. 請求項5〜6のいずれか1項に記載の試薬を含む、乳房炎検査用キット。
  8. シクロフィリンAからなる、乳房炎検出用マーカー。
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