JP6174718B2 - リトラクタ - Google Patents

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Description

本発明は、リトラクタに関し、より詳細には、管腔臓器の内壁または体腔内の臓器を圧排するために使用される3次元方向に展開可能なリトラクタに関する。
従来の開腹手術では、手術の妨げとなる臓器を手で開排することができるが、このような内視鏡下手術では、臓器の開排は容易ではなく、手術に最適な視野を確保するのが難しいことが知られている。例えば、視野と操作空間とを確保するため、体腔内に気体を注入する方法があるが、この方法は全身麻酔を必要とし、低侵襲性とはいえない。
視野の問題などを緩和し、内視鏡治療を容易にするために、治療対象臓器や治療中の視野の妨げとなる臓器などを圧排あるいは牽引するリトラクタと呼ばれる器具が開発されている。リトラクタには、基本的な機能として、これを体内へ挿入する際、挿入通路となるトロッカー(外套管)または小切開創のような小さな開口通路より器具が挿通できることが求められている。したがって、少なくとも挿入時は細径であり(例えば、トロッカーの場合10mm以下、小切開創の場合20mm以下が望ましい)かつ棒状の形態であることが必要であり、一方、体腔内挿入後は、対象物を幅広く安全に圧排するために、圧排部がある程度大きな面積を有する形状に変形可能であることが要求される。
上述の相反する要求に応じて、種々に工夫されたリトラクタが提案あるいは市販されている。例えば、圧排部が扇状に拡開するものがある(例えば、特許文献1)。これは、トロッカーの腹腔への挿入時には、扇状圧排部が畳まれて棒状管の内部に収容されており、体腔内で棒状管より押し出されて扇状に広がるものである。扇状圧排部を任意の大きさまで手元操作により拡げる構造のものや、圧排部と基部との角度が可変するものなどがあり、比較的幅広く臓器を圧排できる利点があることから肝臓や腸を圧排するのに好適となっている。なお、形状は扇型に限らず、菱形などの種々の形状のものが多数提案されている。
特に、臓器内をより効果的に圧排するとともに操作性に優れたリトラクタの開発が所望されている。
さらに、そのような操作性のうち、リトラクタを用いた各種手術が行われる際、展開したリトラクタとその他の手術デバイス(例えば、電子メス)とが不用意に接触し、術野でスパークを生じることが懸念される。このため、術者には当該接触を防ぐためのより慎重な作業が必要とされている。こうした作業は術者にとって長時間にわたる極度の緊張を強いる負担であり、長時間の手術は、患者にとっても肉体的負担を増幅させるおそれがある。
特開平6−154152号公報
本発明は上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、術野を広く確保し、展開したリトラクタとその他の手術デバイス(例えば、電子メス)との不用意な接触による術野でのスパーク発生を低減し、術者および患者の精神的かつ肉体的負担を軽減し得るリトラクタを提供することにある。
本発明は、管腔臓器の内壁または体腔内の臓器を圧排するためのリトラクタであって、
収納管と、
該収納管に対し、収容かつ延出可能な展開体と、
該収納管および該展開体のそれぞれ近位端と接続されたグリップと
を備え、
ここで、
該展開体が、
可動ワイヤおよび該可動ワイヤの周囲に配置された少なくとも3本の固定ワイヤから構成される圧排部;および
該圧排部に延設されており、かつ該可動ワイヤが貫通する、導入管;
を備え、そして
該圧排部において該可動ワイヤの遠位端と該固定ワイヤの遠位端とが接合されており、
該展開体が展開された際の該圧排部における、隣接する2つの該固定ワイヤの間で形成される展開角度のうち、1つの展開角度θ2が残りの展開角度θ1よりも大きく、かつ
該展開角度θ2が90°から240°である、リトラクタである。
1つの実施形態では、上記収納管は剛直な穿孔管である。
さらなる実施形態では、上記展開体が展開された際に、上記圧排部は上記穿孔管の軸方向に対して屈曲する。
1つの実施形態では、上記グリップは、遠位側から第1グリップ部、第2グリップ部および第3グリップ部を備え、
ここで、
上記収納管の近位端が該第1グリップ部に接続されており、
上記圧排部の上記導入管の近位端が該第2グリップ部に接続されており、そして
該圧排部の上記可動ワイヤの近位端が該第3グリップ部に接続されている。
1つの実施形態では、上記可動ワイヤの断面は略円形を有する。
1つの実施形態では、上記第1グリップ部に対して、上記第2グリップ部および上記第3グリップ部の少なくとも1つを押し引きすることにより、上記圧排部における上記固定ワイヤの湾曲を制御可能である。
1つの実施形態では、上記収納管は可撓性を有する長軸管である。
本発明によれば、自在に臓器を圧排することが可能なリトラクタを提供することができる。本発明のリトラクタは、展開体を展開した際、圧排部の1つの固定ワイヤと隣接する他の固定ワイヤとの間に形成される展開角度θ2が他の展開角度θ1よりも大きいため、展開角度θ2によって構成される展開空間が、展開角度θ1によって構成される展開空間よりも広くなり、術者の作業性が向上したより広範な術野を得ることができる。その結果、電子メスなどのエネルギー素子を含む手術デバイスとの併用の際、当該デバイスが固定ワイヤに誤って接触することによる所望でないスパークが生じる確率を著しく低減させることができる。
本発明のリトラクタの一例を模式的に表す図であって、展開体が展開した状態を示す当該リトラクタの斜視図である。 図1に示す本発明のリトラクタを表す図であって、(a)は、剛直な穿孔管内に展開体を収容した状態を示す当該リトラクタの模式図であり、(b)は、展開体の圧排部においてコクーン形状の展開を行うために、穿孔管から当該展開体を延出した状態を示す当該リトラクタの模式図であり、そして(c)は、穿孔管から延出した展開体の圧排部においてコクーン形状の構造物を展開した状態を示す当該リトラクタの模式図である。 本発明のリトラクタを構成する展開体の一例を模式的に表す図であって、(a)は穿孔管内に展開体が収容された状態の表す本発明のリトラクタの遠位端部分の長軸方向における断面図であり、そして(b)は穿孔管から延出され、かつコクーン形状が展開された展開体を表す本発明のリトラクタの遠位端部分の一部切欠断面図である。 本発明のリトラクタを構成する展開体の長軸に直交する方向における圧排部の断面図(可動ワイヤおよび固定ワイヤの断面図)の例をそれぞれ模式的に表す図であって、(a)は可動ワイヤが略円形の断面を有し、当該可動ワイヤの周囲の一部に略同様の断面形状を有する固定ワイヤが配置され、かつ展開されていない圧排部の断面図であり、(b)は可動ワイヤが円弧と弦とを組み合わせた形状からなる断面を有し、かつ展開されていない圧排部の断面図であり、(c)は可動ワイヤが円弧と弦とを組合せた形状のうち当該弦の一部に凸部を有する形状の断面を有し、かつ展開されていない圧排部の断面図であり、そして(d)は、可動ワイヤが略円形の断面を有し、当該可動ワイヤの周囲の一部に略同様の断面形状を有する固定ワイヤが配置され、かつ展開されていない圧排部の断面図であって、可動ワイヤの周囲に配置された固定ワイヤの数が上記(a)よりも多い場合の圧排部の断面図ある。 本発明を構成する展開体の固定ワイヤの断面の例を模式的に表す当該ワイヤの断面図である。 本発明のリトラクタを構成する展開体の他の例を模式的に表す図であって、穿孔管から延出され、かつコクーン形状が展開された展開体を表す本発明のリトラクタの遠位端部分の一部切欠断面図である。 本発明のリトラクタにおいて、穿孔管から展開体を延出し、かつ展開した際の、当該リトラクタの遠位端先端部の例を模式的に表す図であって、(a)は5本の固定ワイヤで構成され、展開角度θ1が略45°でありかつ展開角度θ2が略180°である場合の当該遠位端先端部の一例を表す図であり、そして(b)は6本の固定ワイヤで構成され、展開角度θ1が略45°でありかつ展開角度θ2が略135°である場合の当該遠位端先端部の一例を表す図である。 本発明のリトラクタの一例を示す当該リトラクタの模式断面図であって、(a)は、穿孔管内に展開体が収容された際の、第1グリップ部と第2グリップ部および第3グリップ部との間が隔離されている状態にあることを示す図であり、(b)は、穿孔管から展開体が延出され、第1グリップ部および第2グリップ部と、第2グリップ部および第3グリップ部とがそれぞれ接触している状態を示す図であり、そして(c)は、穿孔管から展開体が延出され、第1グリップと第2グリップ部および第3グリップ部との間が隔離されている状態にあることを示す図である。 本発明のリトラクタの他の例を表す図であって、可撓性を有する長軸管の遠位端にて展開体を備える当該リトラクタの模式図である。
本発明を、図面を用いて詳述する。
図1は、本発明のリトラクタの一例を模式的に表す図であって、展開体が展開した状態を示す当該リトラクタの斜視図である。
本発明のリトラクタ100は、展開体120と、展開体120を収容かつ延出可能な収納管の一例である剛直あるいは硬質な穿孔管110と、穿孔管110および展開体120のそれぞれ近位端と接続されたグリップ160とを備える。
図2は、図1に示す本発明のリトラクタ100の側面図である。図2の(a)に示すように、本発明のリトラクタ100は、例えば、使用直前においては、穿孔管110内に展開体が完全に収容されている。また、穿孔管110の近位端はグリップ160の第1グリップ部162と接続されている。
ここで、本明細書中に用いられる用語「リトラクタ」とは、医療分野における対象物(例えば、臓器)あるいは視野を妨げるものを圧排、開排、牽引、または挙上するための医療器具をいい、例えば、トロッカーおよび外套管を包含し、圧排、開排、牽引、または挙上の操作をまとめて「リトラクション」または「リトラクト」という場合がある。なお、単に本明細書中において「圧排」という場合は、圧排の操作のみでなく、開排、牽引、または挙上する操作を包含する(すなわち、リトラクションを意味する)場合がある。リトラクタは、例えば、後述するように圧排部を有し、体内へ挿入後、圧排部がある程度の大きさに変形可能であることが要求される。
さらに、本明細書に用いられる用語「遠位」とは、リトラクタを操作する者から遠い位置をいい、そして用語「近位」とは、「遠位」と比較してリトラクタを操作する者から近い位置をいう。このため、用語「遠位端」とは、本発明のリトラクタを操作する際に、操作する者から最も遠い(すなわち、遠位にある)端部を表し、用語「近位端」とは、当該操作する者から最も近い(すなわち、近位にある)端部を表す。
再び図2の(a)を参照すると、1つの実施形態では、穿孔管110は、例えば、遠位端側が鋭い尖った形状となるように切断されたストレートな管から構成されている。穿孔管110の遠位端先端部の角度は特に限定されないが、体内への穿孔が容易となる角度(例えば、20°〜50°)に加工されている。穿孔管110の外径は、好ましくは1.7mm〜3.5mmであり、より好ましくは2.2mm〜3mmである。さらに、穿孔管100の内径は、上記外径に対し、好ましくは1.5mm〜3mm、より好ましくは1.6mm〜2.2mmの範囲から選択され得る。なお、本発明において穿孔管110の遠位端先端部の形状は、必ずしも上記に限定されず、例えば、医療分野における外套管またはトロッカーに採用され得る任意の形状を有していてもよい。
このような穿孔管110は、剛直な材料、例えば、ステンレス、タンタル、コバルト合金、ナイチノール(ニッケル−チタン合金)などの金属から構成されていることが好ましい。ステンレスとしては、例えば、SUS304、SUS316、SUS316Lが挙げられる。本発明のリトラクタ100はまた、収納管としてこのような剛直な材料で構成される穿孔管110を用いることにより、当該穿孔管の撓み、曲がり、折れなどを懸念することなく、所望の位置(例えば、腹腔)に確実に穿孔することができる。さらに、当該穿孔管110が剛直であることにより、後述する圧排部でのコクーン形状の展開やリトラクトの際にも充分な強度を保持することができる。
グリップ160は、遠位端側から順に上記第1グリップ162部、第2グリップ部164および第3グリップ部166の3つに分割されている。グリップ160を構成する材料の種類は特に限定されない。グリップ160は、例えば、ABS樹脂、ポリカードネート樹脂、アクリル樹脂などの樹脂や、ステンレス鋼、アルミニウムなどの金属およびこれらの組合せから構成されている。
図2の(b)は、本発明のリトラクタ100の一例を模式的に表した図であって、展開体の圧排部において部分的コクーン形状の展開を行うために、穿孔管110から当該展開体120を延出した状態を示す当該リトラクタ100の模式図である。
なお、本明細書において、用語「コクーン形状」とは、展開体の圧排部において、後述する複数の固定ワイヤの湾曲によって生じた形状であって、例えば、繭状または楕円球体(ラグビーボール等)状の形状を包含して言い、後述する「部分的コクーン形状」と区別するために「完全コクーン形状」と言うこともある。さらに、本明細書において、用語「部分的コクーン形状」とは、上記完全コクーン形状の長軸と平行な方向に沿って、当該コクーン形状の一部が切除されたものを包含して言う。
本発明のリトラクタ100は、グリップ160における第2グリップ部164および第3グリップ部166の少なくとも1つを第1グリップ部162に対して押し引きすることにより、穿孔管110内に収容されている展開体120を出し入れすることができる。展開体120は、穿孔管110内に収容されている際(後述するような展開がなされていない状態)において、好ましくは、1.5mm〜3mm、より好ましくは1.6mm〜2mmの外径を有し、かつ穿孔管110内を自由にスライドし得る大きさに設計されている。本発明のリトラクタの全長は、必ずしも限定されないが、例えば、穿孔管110の遠位端から近位端までの距離(すなわち、穿孔管110の遠位端から第1グリップ部162の遠位端までの距離)は、好ましくは100mm〜300mmである。
図2の(c)は、本発明のリトラクタ100の一例を模式的に表した図であって、穿孔管110から延出した展開体120の圧排部122において部分的コクーン形状の構造物を展開した状態を示す当該リトラクタ100の模式図である。
本発明のリトラクタ100は、グリップ160における第2グリップ部164および第3グリップ部166の少なくとも1つを第1グリップ部162に対してさらに押し引きすることにより、展開体120を展開することができる。展開体120は、圧排部122と当該圧排部122に延設された導入管130を備え、そして圧排部122は、可動ワイヤ124および該可動ワイヤ124の周囲に配置された少なくとも3本の固定ワイヤ126から構成されている。さらに、導入管130は管状であり、その内部には可動ワイヤ124がスライド可能に貫通している。可動ワイヤ124の周囲に配置される固定ワイヤ126の数は、特に限定されないが、例えば、3本〜9本、好ましくは4本〜7本である。
導入管130、可動ワイヤ124および固定ワイヤ126を構成する材料の例としては、それぞれ独立して、SUS304などのステンレス、ポリアミド、PTFEなどの樹脂、樹脂をコーティングしたステンレスなどが挙げられる。特に可動ワイヤ124は、圧排時に荷重に耐え得る充分な線強度、例えば、1850MPa以上、好ましくは2100MPa以上の線強度を有していることが好ましい。
圧排部122を構成する可動ワイヤ124および固定ワイヤ126、ならびに導入管130は、臓器の損傷を防ぐために平滑な表面を有していることが好ましい。さらに、手術中の他の手術デバイスとの間のスパークの発生を防止するために、これらの表面に電気絶縁性を有するコーティング材料が付与されていてもよい。このようなコーティング材料には、医療器具のコーティングに通常用いられる素材が用いられ得る。例えば、多孔質ポリ四フッ化エチレン(ePTFE)膜、シリコーン膜、ポリウレタン膜、ポリエチレンテレフタラート(ダクロン(登録商標))膜などが挙げられる。コーティング材料により構成されるコーティング層の厚みは、特に限定されないが、例えば、4μm〜16μm、好ましくは8μm〜12μmである。
穿孔管110内に収容された(展開されていない)圧排部122の長さは、設計するリトラクタの大きさ等によって変動するため、必ずしも限定されない。1つの実施形態においては、当該穿孔管110内に収容された圧排部の長さは、例えば、40mm〜120mm、好ましくは50mm〜80mmである。さらに、1つの実施形態においては、当該穿孔管110内に収容された圧排部122の外径の大きさは、例えば、1.5mm〜3mm、好ましくは1.6mm〜2mmである。
さらに、圧排部122の最も展開した際の長さおよび圧排部122の固定ワイヤ126を展開して形成される部分的コクーン形状の最大直径(部分的コクーン形状の切除部分が補われて完全コクーン形状を有していると仮定した場合の最大直径)等は、設計するリトラクタの大きさ等によって変動するため、必ずしも限定されない。1つの実施形態においては、当該圧排部の長さは、例えば、35mm〜80mm、好ましくは45mm〜65mmである。さらに、1つの実施形態では、当該部分的コクーン形状の最大直径は、例えば、20mm〜80mm、好ましくは35mm〜60mmである。
図3は、本発明のリトラクタを構成する展開体120の一例を模式的に表す図である。
図3の(a)に示されるように、展開体120は、圧排部122における遠位端の先端部に配置されたキャップ132で可動ワイヤ124の遠位端と固定ワイヤ126のそれぞれの遠位端とが接合されている。一方、固定ワイヤ126のそれぞれの近位端は導入管130とも固定されており、導入管130内を可動ワイヤ124が貫通する。展開体120が穿孔管110内に収容されている場合は、例えば、SUS304で構成されている玉状のキャップ132に対し、導入管130の遠位端が最も離れた位置(すなわち、リトラクタ100においてより近位側)にあり、固定ワイヤ126は真っ直ぐに延びた状態を保持する。これにより、展開体120は、穿孔管110の軸方向において最も萎んだ形状となり、穿孔管110内を自由にスライドさせることができる。
一方、図3の(b)に示されるように、展開体120を穿孔管110から延出することにより部分的コクーン形状の構造物を複数本の固定ワイヤ126によって展開することができる。この状態において、可動ワイヤ124および固定ワイヤ126の各遠位端はキャップ132に固定されたままであるのに対し、当該キャップ132と導入管130の遠位端とがより接近することにより、固定ワイヤ126のそれぞれは可動ワイヤ124の軸周りから離れた方向(半径方向)に撓みを生じ、圧排部122として複数本の固定ワイヤ126の全体による部分的コクーン形状の構造物を構築することができる。そして、当該部分的コクーン形状の構造物が、管腔臓器の内壁または体腔内の臓器を圧排し、管腔または体腔内に所定の空間を形成することができる。
図4は、本発明のリトラクタ100を構成する展開体120の長軸に直交する方向における圧排部122の断面図(可動ワイヤ124および固定ワイヤ126の断面図)の例をそれぞれ模式的に表す図である。図4の(a)〜(c)はいずれも圧排部122が展開されていない(すなわち収容状態にある)場合の当該圧排部の断面図を示す。
可動ワイヤ124は、図4の(a)に示すように略円形の断面を有していてもよく、図4の(b)に示すように円弧と弦とを組み合わせた形状(例えば、弦月形状)からなる断面を有していてもよく、あるいは図4の(c)に示すように円弧と弦とを組合せた形状のうち当該弦の一部に凸部を有する形状の断面を有していてもよい。その他の断面形状として、正多角形(正方形、正六角形、正八角形など)などの形状を有していてもよい。なお、可動ワイヤ124の周囲には、一部を除き、略同一の断面形状を有する複数の固定ワイヤ126が配置されている。各固定ワイヤ126が可動ワイヤ124と接する面は、当該可動ワイヤ124の外径に略一致するような形状を有していることが好ましい。固定ワイヤ126と可動ワイヤ124との間に無用な空間が形成されることを避けて、収容時における圧排部122の全体容積を可能な限り小さくすることができるからである。
より具体的には、固定ワイヤ126の断面は、例えば、図5の(a)〜(c)に示すような該断面の一部が上記可動ワイヤ124の断面外周の一部にほぼ一致する部分円環形を有している。すなわち、固定ワイヤ126の断面は、図5の(a)に示すような円環から、円弧の一部をそのまま切り出したような形状を有していてもよく、図5の(b)に示すような、例えば、圧排の差異に周囲の組織の損傷を低減するために、上記(a)に示す部分円環形状のうち四隅に丸みを帯びさせた鈍い形状を有していてもよく、そして図5の(c)に示すように、固定ワイヤ126のうち、圧排部の外縁側に相当する部分をさらに丸みを帯びさせた鈍い形状とすることにより、それぞれの断面が三日月状(crescent)である形状を有していてもよい。複数の固定ワイヤ126の断面は、均一な展開を行うために互いに同一のものを用いることが好ましい。
ここで、再び図4の(a)を参照すると、可動ワイヤ124の直径Aおよび固定ワイヤ126の厚みBについては、固定ワイヤ126の展開のし易さと、各ワイヤ124、126に充分な強度を提供する目的の点から、長さの比(A/B)が、例えば、2〜10、好ましくは3〜7を満たしていることが好ましい。1つの実施形態では、上記Aが1.2mmであり、上記Bが0.25mmである(この場合A/Bは4.8である)。
なお、本発明のリトラクタ100では、上記のように可動ワイヤ124の周囲の一部にのみ固定ワイヤ126が配置され、残りの周囲には当該ワイヤが配置されていない。このため、可動ワイヤ124の直径、材質、断面形状等を変動させることにより、展開体120を開いた際に、可動ワイヤ124の周囲のうち固定ワイヤ126が配置されていない部分に曲がる力が作用して、可動ワイヤ124は、穿孔管110の軸方向に沿って(より具体的には、可動ワイヤ124のうち圧排部122に相当する部分の全体にわたって)自ら撓んだ形状を構築することができる(図6)。さらにこのような撓みによって、圧排部122の近位側(すなわち、導入管130の遠位端近傍)にて圧排部122が穿孔管110の軸方向に対して屈曲する。このような可動ワイヤ124の撓みおよび圧排部122の屈曲は、さらにリトラクションの規模(実質的な容積)を拡大することとなり、リトラクタの操作性を一層高めることができる。このような圧排部122が穿孔管110の軸方向に対して屈曲することのできるリトラクタは、例えば、図4の(a)および(d)に示すような可動ワイヤの断面形状および固定ワイヤの配置を選択することによって、容易に製造することができる。
本発明においては、圧排部122の屈曲角度θ0は、例えば、5°〜45°、好ましくは10°〜30°である。このような圧排部122の屈曲角度θ0の調整は、例えば、可動ワイヤ124を、固定ワイヤ126よりも低い強度を有するか、あるいは弾性を有するものを選択することにより実現可能である。より具体的な例としては:
(1)可動ワイヤ124に撚り線を使用する;
(2)可動ワイヤ124の断面を、例えば図4の(b)に示すような異形に加工する(例えば、圧排部122の屈曲を所望する方向を平線に加工する);
(3)可動ワイヤ124の断面積を固定ワイヤ126の断面積に対して小さく設定する(可動ワイヤ124に細いワイヤを使用する);ならびに
(4)可動ワイヤ124にNi−Ti合金などの低ヤング率の材料を使用する;
(5)圧排部122にて可動ワイヤ124が予め撓んだ線を使用する
(6)上記(1)〜(5)のうちの複数の組合せ;
が挙げられる。
あるいは、このような圧排部122の屈曲を回避するためには、例えば、図4の(c)に示すような断面の一部に凸部を有する形状で構成されるワイヤを加工することにより、可動ワイヤ124の周囲のうち固定ワイヤ126が配置されていない部分への当該可動ワイヤ124の撓みを防止または低減させることもできる。
さらに、本発明においては、展開体が展開された際の圧排部における、隣接する2つの固定ワイヤの間で形成される展開角度のうち、1つの展開角度θ2が残りの展開角度θ1よりも大きく、かつ該展開角度θ2が所定の角度を有するように、可動ワイヤ124に対して固定ワイヤ126の数および配置が選択される。
ここで、本明細書中に用いる用語「展開角度」とは、リトラクタの展開体を展開した際の圧排部を、リトラクタの遠位端側から見た際に、1つの固定ワイヤとその隣の固定ワイヤとの間で形成される角度を表して言う。
本発明のリトラクタにおいて、このような展開角度θ2は90°〜240°、好ましくは120°〜240°、さらに好ましくは120°〜180°である。残りの展開角度(θ1)については、当該残りの展開角度θ1のすべて当該展開角度θ2よりも小さい角度である限り、それらの角度が互いに略同一に設定されていてもよく、あるいは互いに異なる角度に設定されていてもよい。
複数の固定ワイヤ126と展開角度θ1およびθ2との関係について、より具体的な例を用いて説明する。
図7は、本発明のリトラクタ100において、穿孔管110から展開体120を延出し、かつ展開した際の、当該リトラクタの遠位端先端部の例を模式的に表す図である。
図7の(a)に示す例では、本発明のリトラクタを構成する圧排部122の固定ワイヤ124は5本の固定ワイヤで構成されている。ここで、隣接する2つの固定ワイヤの間で形成される展開角度のうち、1つの展開角度θ2は略180°であり、かつ残りの展開角度θ1は略45°である。図7の(b)に示す例では、本発明のリトラクタを構成する圧排部122の固定ワイヤ124は6本の固定ワイヤで構成されている。ここで、隣接する2つの固定ワイヤの間で形成される展開角度のうち、1つの展開角度θ2は略135°であり、かつ残りの展開角度θ1は略45°である。
本発明においては、展開角度θ2と他の展開角度θ1とが上記のような関係を満たすことにより、圧排部122のうち、展開角度θ2を有する2本の固定ワイヤの間で作業性の向上したリトラクションの領域を形成することができる。
本発明のリトラクタにおいて、収納管からの展開体の延出、当該展開体の収納管への収納、および展開体における圧排部の展開または収納は、リトラクタの近位端側に設けられたグリップによって制御される。
図8は、本発明のリトラクタ100の一例を示す当該リトラクタの模式断面図である。
図8の(a)に示すように、本発明において、穿孔管(収容管)110の近位端が第1グリップ部162に接続されており、圧排部122の導入管130の近位端が第2グリップ部164に接続されており、そして圧排部122の可動ワイヤ124の近位端が第3グリップ部166に接続されている。ここで、本発明のリトラクタ100において、展開体120が穿孔管110内に収容されている場合は、図8の(a)に示すように、グリップ160のうち、第1グリップ部162と第2グリップ部164および第3グリップ部166とは隔離されている。この状態で本発明のリトラクタ100は、穿孔管110の遠位端の先端部から切開創を通じてまたは直接穿孔することにより管腔臓器の内壁または体腔内の臓器に挿入される。
次いで、第1グリップ162に対し、第2グリップ部164および第3グリップ部166がそれぞれ遠位端側、すなわち第1グリップ部162側に押し込まれる。これにより、第2グリップ部164および第3グリップ部166にそれぞれ接続された導入管130および可動ワイヤ124がそれぞれ遠位側に押し出され、穿孔管110から展開体120が延出される。
その後、当該展開体120における圧排部122から固定ワイヤ126の展開が行われる。なお、この圧排部122からの固定ワイヤ126の展開は、例えば、穿孔管110の長さに対する導入管130および可動ワイヤ124のそれぞれの長さ、穿孔管110から展開体120が延出した際の第1グリップ部162に対する第2グリップ部164および第3グリップ部166の位置関係等によって、例えば、以下のようにして行われる。
すなわち、図8の(b)に示すように、展開体120が穿孔管110から延出した状態において、第1グリップ部162の近位端が第2グリップ部164の遠位端と接触しているか、または略接触しているような場合は、当該第1グリップ部162および第2グリップ部164に対して、第3グリップ部166のみを近位側(手元側)に引き出すことにより、穿孔管110に対して導入管130は固定したまま、可動ワイヤ124のみが近位側にスライドする。これにより、キャップ132の部分で可動ワイヤ124と接合された固定ワイヤ126の遠位端も近位側にスライドする。一方、固定ワイヤ126の近位端は導入管130の遠位端と接合されており、かつ固定された状態にあるため、固定ワイヤ126は外側に向けて湾曲する。結果として、圧排部122において複数の固定ワイヤ126が展開し、部分的コクーン形状が発現する。そしてこの部分的コクーン形状の発現によって、挿入された管腔臓器または体腔内の圧排が達成される。
あるいは、図8の(c)に示すように、展開体120が穿孔管100から延出した状態において、第1グリップ部162と、第2グリップ部164とが離れているような場合は、当該第1グリップ部162および第3グリップ部166に対して、第2グリップ部164のみを遠位側に押し出すことにより、穿孔管110および可動ワイヤ124に対して導入管130のみが遠位側にスライドする。これにより、キャップ132部分における可動ワイヤ124および固定ワイヤ124の位置関係は保持されたまま、導入管130の遠位端に接合された固定ワイヤ126の近位端のみが遠位側にスライドし、固定ワイヤ126は外側に向けて湾曲する。結果として、圧排部122において複数の固定ワイヤ126が展開し、部分的コクーン形状の構造物が発現する。そしてこの部分的コクーン形状の発現によって、挿入された管腔臓器または体腔内の圧排が達成される。
なお、図8の(b)および(c)において、第3グリップ部164および/または第2グリップ部124の引き出しまたは押し出しする長さを変動させることにより、圧排部122において発現される部分的コクーン形状の構造物の大きさを自由に変化させることができる。
なお、本発明のリトラクタは、上記のような穿孔管を備えたトロッカーまたは外套管に必ずしも限定されない。
図9は、本発明のリトラクタの他の例を表す模式図である。
図9において、本発明のリトラクタ200は、展開体120と、展開体120を収容かつ延出可能な収納管の他の例である可撓性を有する長軸管210と、長軸管210および展開体120のそれぞれ近位端と接続されたグリップ260とを備える。
図9に示すリトラクタ200は、長軸管210が可撓性を有することにより、いわゆるスネークリトラクタとして機能し、例えば、管腔内を自在に通過させることができる。上記穿孔管の代わりに長軸管210を用いることを除き、展開体120およびグリップ260の具体的な構成は、上記本発明のリトラクタ100と同様である。
本発明のリトラクタは、胃、小腸、大腸、膣などの管腔臓器、ならびに肝臓、膵臓、腎臓、胆嚢、脾臓、子宮、肺などの他の臓器における種々の手術における圧排を行うために用いられる。
例えば、胃や食道の手術において、術野に干渉する肝左葉の下面に本発明のリトラクタを差し入れて腹側へ挙上させることにより、術野への干渉がなくなり当該手術をより安全かつ効率良く遂行することができる。同様に、骨盤底での操作において、本発明のリトラクタを用いて子宮を開排することにより直腸周囲の術操作を効率良く行うこともできる。
本発明によれば、自在に臓器を圧排することが可能なリトラクタを提供することができる。さらに、本発明によれば、体腔内に気体を注入しなくとも視野と操作空間とが確保できるので、例えば、ガスレス手術が可能となる点でも有用である。
100,200 リトラクタ
110 穿孔管
120 展開体
122 圧排部
124 可動ワイヤ
126 固定ワイヤ
130 導入管
132 キャップ
160,260 グリップ
162 第1グリップ部
164 第2グリップ部
166 第3グリップ部
210 可撓性を有する長軸管

Claims (6)

  1. 管腔臓器の内壁または体腔内の臓器を圧排するためのリトラクタであって、
    収納管と、
    該収納管に対し、収容かつ延出可能な展開体と、
    該収納管および該展開体のそれぞれ近位端と接続されたグリップと
    を備え、
    ここで、
    該展開体が、
    可動ワイヤおよび該可動ワイヤの周囲に配置された少なくとも3本の固定ワイヤから構成される圧排部;および
    該圧排部に延設されており、かつ該可動ワイヤが貫通する、導入管;
    を備え、そして
    該圧排部において該可動ワイヤの遠位端と該固定ワイヤの遠位端とが接合されており、
    該展開体が展開された際の該圧排部における、隣接する2つの該固定ワイヤの間で形成される展開角度のうち、1つの展開角度θ2が残りの展開角度θ1よりも大きく、かつ
    該展開角度θ2が90°から240°であって、
    該展開体が展開された際に、該圧排部が該収納管の軸方向に対して屈曲する、
    リトラクタ。
  2. 前記収納管が剛直な穿孔管である、請求項1に記載のリトラクタ。
  3. 前記グリップが、遠位側から第1グリップ部、第2グリップ部および第3グリップ部を備え、
    ここで、
    前記収納管の近位端が該第1グリップ部に接続されており、
    前記圧排部の前記導入管の近位端が該第2グリップ部に接続されており、そして
    該圧排部の前記可動ワイヤの近位端が該第3グリップ部に接続されている、請求項1又は2に記載のリトラクタ。
  4. 前記第1グリップ部に対して、前記第2グリップ部および前記第3グリップ部の少なくとも1つを押し引きすることにより、前記圧排部における前記固定ワイヤの湾曲を制御可能である、請求項に記載のリトラクタ。
  5. 前記可動ワイヤの断面が略円形を有する、請求項1から4のいずれかに記載のリトラクタ。
  6. 前記収納管が可撓性を有する長軸管である、請求項1に記載のリトラクタ。
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